二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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お試し逃走中!〜世界崩壊への序曲〜※完結
日時: 2017/04/13 16:05
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FpNTyiBw)

いつものように神の提案で唐突に始まる逃走中。
 しかし、これが世界の終焉に繋がるなど、逃走者達は、まだ知らない…。


4/13 更新


《必ずお読みください》
・諸注意 >>1 ※2/2 追加

《基本情報・データベース》
・予告 >>2
・逃走フィールド >>3
・逃走者名簿 >>10
・各地方の施設と立ち入り許可、不可区域 >>37


《本編》
★序章:終わりを語る語り部
 ・ツイソウ-end layer- >>13-14
 ・トウソウ-prelude- >>17-19

★一章:波乱の始まり
 ・シドウ-introduction- >>22-28
 ・ヘンドウ-calm before the storm- >>31-36
 ・ドウヨウ-a betrayer- >>41-46

★二章:ミッション1『逃走エリアを拡大せよ』
 ・ガイショウ-omame get daze!- >>49-51
 ・キコウ-liberty and freedom- >>52-55
 ・バイヨウ-gift of god- >>58-62
 ・コウドウ-black suspicion- >>65-70

★三章:ミッション2『ハンター放出を阻止せよ』
 ・カイホウ-imitation- >>73-76
 ・ヒトウ-miracle spa- >>79-82
 ・ゼツボウ-Beginning of the end- >>87-93

★四章:ミッション3『ゲームオーバーを阻止せよ』
 ・セントウ-encounter- >>96-100
 ・セントウ-vier- >>103-110
 ・セントウ-drei- >>115-119
 ・セントウ-zwei- >>124-129
 ・セントウ-eins- >>132-137
 ・セントウ-null- >>141-149

★五章:裏切りの理由
 ・コウドウ-red maneuver- >>153-157
 ・コウドウ-green maneuver- >>167-171
 ・コウドウ-blue maneuver- >>172-176

★六章:ミッション4『無限に湧き出るハンターから逃げきれ』
 ・シュウリョウ-acta est fabula- >>177-182
 ・シュウリョウ-continue?- >>183-192

★終章:閉ざされた未来
 ・ゲンソウ-forced termination- >>164

★真終章:“絶望”の幕引き
 ・ヒショウ-fear of brave- >>193-196
 ・ヒショウ-fly to next chance- >>197-200

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セントウ-drei- ( No.115 )
日時: 2016/01/29 22:06
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 9cTKwbSo)

完二はみんなと離れ、一人声を圧し殺して泣いていた。
鈴花の訃報がいまだに信じられなくて、ただ、泣くことしかできなかった。

『…。』

そんな完二を、鈴花は見つめることしかできない。本当は慰めたい。触れたい。だけど今の自分では、触れることでさえも、言葉を交わすことさえもできない。
それが、とても歯がゆく、悔しく思うのか、ずっと完二から離れようとはしなかった。

「…鈴花ちゃん。」
『!』

突然かけられた声に、鈴花は振り向く。そこには、唯一自分が見える生きた存在、葉月がいた。

「あ、センパイ…。」

完二も葉月に気がつき、涙を拭って振り向いた。だが葉月はいまだに、完二ではない誰かを…鈴花を見ていた。

「…私ね、霊感が強いだけじゃなくて、ちょっと“憑かれやすい”んだ。」
『…。』
「だから、鈴花ちゃんの最期の言葉、私を介してなら完二君に届けられるよ。」

葉月の提案に、鈴花も完二も驚く。
自分に鈴花の魂を宿し、彼女を介して最期の言葉を伝えさせようとしているのだ。

「…要らぬお節介かもしれない。でも…想いを伝えずにして逝くのは、難しいと思う。」
『…。』
「どうするかは、鈴花ちゃんに任せる。私のことなら、心配しないでいいから。」

葉月はそう言って、近くの切り株に腰かけた。鈴花が答えを出すのを、待っているのだろう。

セントウ-drei- ( No.116 )
日時: 2016/02/07 20:44
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: Jc47MYOM)

ユルヤナ地方・祈祷衣の洞窟
七海と理乃は、奥に進んでいく。まるで何事もなかったかのように進む。烈と鈴花の訃報は、洞窟内には届かなかったようだ。

「ねぇ、何で私をこんなとこに呼び出したのよ。」

先程から黙って奥に進んでいく七海に、理乃は後ろから声をかけた。

「…ねぇ、理乃。何で“裏切り者”に名乗りをあげたの?」
「質問を質問で返さないでちょうだ…え?」

疑問を投げ掛けてるのに、疑問で返されたことに理乃は仲間の口癖で応対しそうだったが、質問の内容を理解した時、思わず驚いた。

「な、何で“裏切り者”だって…。」
「正直、勘だった。なんとなく、そう思った。でも、ここを潜れたってことは、そうなんだと確信した。」
「どう言うこと?」
「…ここなら、バレないのかな? メール、見てくれる?」

七海はポケットから、自分の端末を取り出した。
理乃は手慣れた操作で、メールボックスを開く。

「…そう。ここに時空の羅針盤があるのね。そして取りに行くためには、裏切り者と一緒に入らなければならない、と。」
「うん。正直、外れてほしかったけど…。それに、罠の可能性もあるしさ…。」
「…多分、何か仕掛けてきてもおかしくないわね。だって本来ならここ、立ち入り禁止区域だった筈だから。」

何か心当たりがあるのか、理乃は油断なく身構えた。
そして二人はしばらく、奥へと進む。

「…私がみんなを“裏切った”理由についてね。」
「え?」
「聞きたかったんでしょ? さっきの私からの質問を答えてくれたから、答えてあげるの。あと…多分、七海にはわかってほしいんだと思う。」

そう言って、理乃は自分の端末を取りだし、七海に渡す。
その中の一通のメールを見た時、七海は首を傾げた。


「えー、理乃。何て読むの?」

どうやら、難しい漢字ばかりが使われていたようで、七海は目を点にしながら、理乃に訊ねた。無論理乃は目を死なせて、でも何故か安堵しながら答えた。

「(うん、いつも通りで安心した。)『逃走中は既に我らの手に落ちた。我らの思惑通りになるならば、カルディスラに無惨な死体の山が築かれるだろう。』…裏切り者募集の時に、私に送られてきたメールよ。そして添付された写真も見て。…ちょっと、衝撃強いけど。」

言われた通り、七海は添付されていた写真を見た。

「ちょっ…!? な、何これ!?」

そこに写っていたもの。それは、運営本部にいる筈の昴達の、無惨な姿だった。

「そのメールが送られて少しした後、『運営は、これより未来へと送られる。お前が裏切り者になるならば、お前の通報した仲間達を未来へと送ろう。ミッション3開始前まで、せいぜい足掻くがいい。』ってメールが来たの。…こんなメールが届いちゃ、裏切るしかないでしょ。…一緒にいた花村さんとリングアベルさんがこれを見て、自分の端末にコピーして、仲間を集めてくれたの。辛いだろうからって言われて、私はずっとこのユルヤナ地方で隠れてたわ。」
「…じゃあ、理乃は金目当てでの裏切り者じゃ、なかったんだ。」
「当たり前よ。金欲しさに仲間を売るなんて、いくら公式のルールであるからと言えど、そこまで落ちぶれたくないわ。…って、何泣いてんのよ。」

突然涙を零し始めた親友を見て、理乃はぎょっとした。

「だ、だって、まさか理乃が、って思った時から、不安だったんだもん…! 理乃が、金欲しさに裏切るような奴に、変わっちゃったのかもって…! でも、でも、理乃は私が知ってる理乃のままだったから…!」
「…心配かけて悪かったわね。(…信じてくれて、ありがとう。)」

どうやら、自分の知る存在から変わり果ててしまったのだろうと心配したが、それはいらぬ心配だったことに安心し、涙が出てきてしまったようだ。
理乃はそんな親友に心配をかけさせてしまったお詫びと、心の奥で心配してくれた礼を述べた。

セントウ-drei- ( No.117 )
日時: 2016/01/29 22:16
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 9cTKwbSo)

時を遡り、烈達の訃報の、少し前。フロウエル・水のクリスタル前。

「はぁ、はぁ…!」

氷海は、何度も矢を射るも、氷の矢はルサルカに吸収され、効果はなかった。

「どうやら奴は氷は効かないようですね。」
「でも、普通の矢は持ってきてないわ。どうしようかしら…。」

近接戦闘に切り替える手もあるが、ルサルカに物理が通用するか判断しかねた。

「氷海ちゃん!」
「氷海殿!」

不意に、ドアの外から二人の声と、馬のような足音が鳴り響いた。

「その声…! アヤメさん! クーさん!」
「皇帝陛下から直接言われて来たんだけど、本当に結界が…!?」
「アヤメ殿! 結界を決壊させてくだされ!」
「ええ、わかってる! でも、これは恐らく魔法じゃないと駄目だと思うから、クーはオミノスを呼んできて! この島にいるって陛下が言ってたから!」
「分かりました! 氷海殿、もう少しの辛抱です!」
「…それと、クー。こんな時にそんなくだらないこと言わないで。」
「申し訳ありませんアヤメ殿! そのような心算では!」

どうやら、ウィザードのアスタリスク所持者であるアヤメと、チャリオットのアスタリスク所持者でアヤメの従者である人馬クー・フーリンが救援を受けてやってきたようだ。今はアヤメが一人残り、クー・フーリンは近くにいる黒魔道士のアスタリスク所持者のオミノスを呼びに行くようだ。

「助かった…! アヤメさんなら、すぐに…!」

そんな安堵の間に、メールが鳴り響いた。

「もうっ、何!?」

こんな時に、と悪態をつきながらも、ルサルカは余裕なのか、のんびりたたずんでいるので、メールを見た。

「…え…。」

一瞬、だった。
メールを見た瞬間、氷海の中で、何かが崩れた。


『赤羽烈、黄木鈴花。死亡による強制失格。』


そう、烈と鈴花の、訃報を知らせるメール。

「ひ、氷海…!? ど、どうしたの!?」

様子が様変わりした氷海に、セシルは声をかける。

「…烈が…死んだ…?」
「えっ…!?」

セシルは、すぐに氷海のポケットから飛び出し、メールを見る。

「そ、そんな…!? あの二人が、死んだ…!?」

到底信じる事の出来ないその内容に、セシルはただただ、驚くばかりだった。
一方の氷海は、その受け入れがたい事実に…烈の、死亡通告に、ただただ、首を緩く振るばかり。

「嘘よ…。烈が、烈が、死んだなんて…! こんなの、こんなのっ、絶対に嘘よ!」

嘘であってほしい。今まで通り、この逃走中が終わったら、自分に微笑んでほしい。そして他愛ない話をして、いつも通りに振る舞ってほしい。そんな事を考えながら、氷海はその通達から必死に目を背けた。

「ひ、氷海ちゃん!? 何があったの!?」

氷海の様子が変わった事に気付いたのか、アヤメがドアの外から声をかけるが、氷海は答えなかった。

「…そんな訳ない。」

ふと、氷海はぽつりと呟いた。まるで自分に言い聞かせるように、ぽつりぽつりと呟く。

「そうよ。死ぬなんてありえないわ。だって、私は仲間を信じてるもの。烈も鈴花も、私を置いて死ぬなんて、万が一にもないわ。」
「ひ、氷海…?」

様子がおかしい氷海に気付いたのか、セシルは心配そうに声をかけた。

「さっ、目の前の敵に集中しなきゃ。早く倒して、みんなと合流しないとね。」
「え、ええ…。(一瞬、様子が変だったような気がしたけれど…。でも、早くに決着をつけなければ、氷海は安心できませんわね。あのメールの真偽も確かめないと…。)」

嫌な予感は拭えないが、セシルは氷海を信じてポケットに戻った。
立ち向かってくると判断したのか、ルサルカは氷海を挑発するように、ゆらゆらと揺れた。自分に矢が効かない事がわかっている上での、余裕なのだろう。

「あの動き、イライラするわね。私は早くみんなの許へ行きたいの。どいて頂戴。」

氷海は弓を捨て、ルサルカに一発蹴りをお見舞いした。
だが、主な成分は水なのか、感触がしない。

「やはり駄目…!」
「アヤメさん達を待った方がいいわ、氷海。今は、何とかこの場を耐えた方が…。」
「嫌よ。こいつを倒さなければ、みんなの許へ行けない。絶対にね。」
(目先の敵に集中するのはいいけれど、意識が他に向いている…! いけない、このままじゃ…!)

氷海はどうしても、みんなの側に行きたいのか、ルサルカへの集中が途切れ、意識が別の方に向いてしまっている。これでは、不意打ちが来たらひとたまりもない。
そんな中で、ルサルカは【嬌声】を上げた。艶めかしい女性の声に聞こえる、鳴き声。それは、氷海の心を現実から攫っていった。

「あら…? まぁ、素敵な女神様…!」
「えっ…!?」

突然、氷海は恍惚とした表情でルサルカを見つめる。その姿に、セシルは驚き、ルサルカと氷海を交互に見た。
だが、目の前にいるのはルサルカ。氷海の言うように、素敵な女神様なんてどこにもいなかった。

「氷海! 女神様なんていませんわ! 正気に戻って!」

何か、術をかけられたと睨んだセシルは氷海に正気に戻るよう言うが、氷海はふらふらと、ルサルカに近づく。

(駄目! このままじゃ、氷海は…!)

恍惚とした表情で近づく氷海。その先に待ち構える、ルサルカ。二人の距離は、すぐに縮まった。
このままでは氷海は、ルサルカに呑み込まれて、窒息してしまう。

「…。」

そう考えたセシルは、氷海の体がルサルカに呑み込まれる直前、ポケットから飛び出し、そして…。

「ごめんなさい、氷海。」

その鳩尾を、思い切り蹴った。

「! ぐっ!」

あまりの衝撃に、氷海の意識は現実に引き戻された。
同時に、射程範囲にいたセシルの体は、ルサルカに引きずり込まれ、体内に呑み込まれた。

(やはり、水の塊…! 苦しい…! 息がっ…!)

何とか出ようともがくも、まるで粘着性の液体をかけられたかのように、体の自由が奪われる。

(ジョーカー様…。氷海…。わたくしはここまでのようですわ。)

死期を悟ったのか、抵抗をやめ、未だに鳩尾付近を押さえている氷海を見る。
その脳裏には、絶えず氷海と過ごした日々が、まるでループ再生をするかのように流れる。

(…ここに、貴方を置いていくことは心苦しいけれど…。でも、もう、時間です…。)
「セ…シル…!」

氷海の意識が、自分へと向けられた瞬間、セシルの意識は、深い闇に落ちていった。

(さようなら、わたくしの大切な義妹。…もっともっとそばにいたかったけれど…。貴方は、この世界で生きて…。)
「い、や…! セシル…! セシルッ!! いやあぁぁぁぁぁっ!!」

ルサルカの中でぐったりと息絶えるセシルを見て、氷海は頭の中で、彼女が事切れたと悟った。だが、認めたくなかった。
信頼する仲間を、愛する者を失ったばかりか、大切な義姉も、自分のせいで失ってしまった事を…。











セシルの死と時を同じくして、ナダラケス・風の神殿前。

「あ…あ、あ…!」

風雅は、地面にへたり込んで、ガタガタと震えていた。

「…フラン、シス…!」

そんな彼の目の前にいた、大きな火傷と凍傷を負ったフランシスは、どこか、満足そうに微笑みながら、眠っていた。

セントウ-drei- ( No.118 )
日時: 2016/01/29 22:29
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 9cTKwbSo)

時を戻し、ナダラケス・風のクリスタル前。

「うわっ!」

突如片方の首が持つ口から、炎が吐き出された。

「さっきのは氷。もう一つは炎。どうやら双頭で役割が違うみたいだな。」
「こういうのって、RPGのセオリー通りだと、弱点属性も真逆なこと多いよね。まったく厄介だよ。」

溜息をつく風雅とフランシス。

「くっ…! やはり私だけの力では…!」
「ニコライ!」

扉を壊そうと一人頑張るニコライの後ろから、声がかけられた。

「ニコライのおっさん! 連れてきたぜ!」
「ありがたい、ジャッカル殿!」
「何だ、この禍々しい結界は…!」
「よ、余もこれは予想外であーる! ムムム、だが、余がやらねば誰がやると言うのかね!」

どうやら、ジャッカルがひとっ走り行ってきたようで、魔法剣士のアスタリスク所持者であるナジットと、時魔道士のアスタリスク所持者である元ラクリーカ国王マヌマットが加わった。

「どうやら、救援が来たようだな。」
「よかった…!」
「風雅、油断するな。…ん?」

ピピピ、と端末が鳴る。それに嫌な予感を感じた風雅は、そっとメールを覗き見た。

「…え…う、嘘だ…! そんな…!」
「どうした! 風雅!」

端末を握りしめた風雅の手が震えているのが、フランシスにもよくわかった。
嫌な予感が拭えぬフランシスは、風雅の手に握られた端末を見た。

「なっ…! う、嘘だろう…!?」

そう、烈と鈴花の訃報を知らせるメールだ。
フランシスは信じられないといった表情で、そのメールを見ていた。

「…本当、だと思う。」
「風雅?」
「あはは、理乃先輩に色々と鍛えてもらったおかげかな。…遠くの気配がわかるんだ。今、烈と鈴花の気配を探ってみたけど、二人の気配がしないんだ。」
「なっ…! じゃあ、リリィとローズは…!」

烈と鈴花が事切れたという事は、今、彼らと一緒にいたリリィとローズは一人で敵と戦っているという事である。フランシスはとても心配した。

(あの二人はそうそう簡単にやられるとは思えない…! だが…!)

二匹が懐いていた大切な存在の喪失。それが、冷静さを欠き、油断につながると考えたフランシスは、すぐにでも向かいたかった。
だが、扉がどうにもならない以上、それは難しい事だ。

「…?」

ふと、風が変わった気がしたフランシスは、前を向いた。

(何だ? 風が、変わった…?)

まるで、台風のように渦を巻くように吹く風。フランシスは嫌な予感がして、風の中心を探した。

(…!)
「許さない…! お前は…! お前達は…!」

中心にいた風雅は、突如、消えた。
その後すぐに、オルトロスの体が大きく吹き飛ばされた。

「!?」

突然の攻撃に、反応しきれなかったオルトロスは驚くも、すぐに自分を蹴り飛ばした犯人…風雅を睨みつけ、唸る。

「絶対許さない!!」











風雅が戦いを始めたと同じくして、エタルニア・不死の塔運営支部…。

「…。」

風花は、突如キーボードを叩くのをやめ、ぐっと拳を強く握った。

「…烈君…。鈴花ちゃん…!」

烈と鈴花の訃報は、ここ運営でもわかっていた。特に風花は、そのペルソナ能力のお陰で、すぐにそれが察知できた。

「…風花ちゃん、泣いてる場合じゃないよ。」
「スバルさ…。」
「…今は一刻も早く権限を取り戻して、みんなに逃走中の中止を促し、何とか未来に行く方法を考えないといけない。…あの結界を破壊してもらうのを、信じるしかない。」

スバルはそう、冷たく言い放った。
だが、風花にはわかっていた。いや、ここにいる全員、わかっていた。
声がわずかに上ずっており、涙をこらえながらも、心を鬼にし、最善の策を告げたことを。だから、全員彼女に何も言わなかった。いや、言えなかった。

「…わかりました。なら、私は私ができる事をするだけです!」

烈と鈴花がいなくなったショックは拭えない。だが、ここで現状の打破をしなければ、もっと多くの犠牲が出る。

(悲しむのは、後でもできる。今は、前に進まなきゃ。)

風花は再び、パソコンへと向き直った。

セントウ-drei- ( No.119 )
日時: 2016/02/03 23:04
名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: Lswa/LrZ)

ナダラケス・風のクリスタル前…。

「うあぁぁぁぁぁっ!!」

風雅は幾度となく、オルトロスへ向けてがむしゃらに攻撃を繰り返していた。
その体は無茶をした反動と、オルトロスからの攻撃で傷つき、ボロボロだ。

「風雅! 落ち着け!」
「許さない…! 許さない許さない許さない許さない!」

完全に頭に血が上っているのか、フランシスの言葉には耳を傾けず、がむしゃらに攻撃を繰り返すばかりだ。

(駄目だ…! このままでは、奴の思う壺だ!)

恨みを乗せた風は、敵と自分に暴力を振るう。まだ見ぬ仇を己が理性もろとも破壊する意思は、すぐ傍にいる友の声から耳を塞ぐ。

(あの馬鹿、あれほど戦いの時は冷静になれと理乃が何度も注意していたはずだろう!)

フランシスはまったく聞く耳を持っていない風雅に悪態をつくも、同時に、無理もない事だとわかってはいた。

「(だが、烈と鈴花は、風雅にとっては“日常”の一部…。失いたくない“今”を創る、一部…。無理もないのはわかっているが…!)風雅! いったん冷静になれ!」

何度呼び掛けても風雅は答えない。止まらない。恨みに囚われ、まるで理性を失った獣のように、オルトロスに襲い掛かる。

「…!?」

フランシスはそこで気付いた。
オルトロスの双頭の首が、風雅へと向いている事に。そして、その口に炎と氷、二つのエネルギーが集まっている事に。

「風雅!」

フランシスは呼びかける。だが、今の風雅ではそれに気付く事さえできなかった。

「チィッ!」

次の瞬間、フランシスは四枚の刃を携え、動いた。
ほぼ、同時に、オルトロスの口からエネルギーが放たれる。

「! あ…!」

風雅がそれに気が付いた時、もう、射程範囲内に入っていた。

(僕も…ここで、終わるんだ…。ごめん、フランシス…。)

自らの死を覚悟し、目を閉じてその時を待つ風雅。
そんな時、不意に、風を感じた。

「…?」

攻撃が来たと思ったのだが、自分に全くの衝撃が来ない。恐る恐る目を開け、前を見た。
そこにあったのは、自分を守るように突き刺さった、四枚の刃。

「フランシス…?」

すぐに、フランシスがやったのだと想像がついた。だが、その本人の姿が見当たらない。
どこに行ったのだろうと思いながら、ふと、下を見る。

「あ…あ、あ…!」

その、視線の先にあるものを見て、信じられないとばかりに、首を横に振り、へなへなと地面にへたり込む。

「…フラン、シス…!」

フランシスは、刃の外側…丁度、オルトロスと刃の間にいた。
彼が無我夢中で、この刃を操り、自分を守る盾にし、そして、事切れたのだと、風雅が理解するのは早かった。

「フランシス…! フランシス! うあぁぁぁぁぁっ!!」

風雅の泣き叫ぶ声が、風のクリスタルがある空間に響き渡った。

「…嘘、だろ…! あのチッコイクマが…!」
「…っ、くっ、うぅ…!」
「あ、あわわ、あわわわわ…!」

その会話で、中の事情を大体把握したのか、ジャッカルは愕然とし、ニコライはむせび泣いた。マヌマットも、あまりのショックで狼狽えている。

「…風雅!」

ナジットは、風雅に声をかける。

「敵はまだ、眼前にいるだろう! お前も、フランシスのようになりたくないならば、立て!」
「せ、センセイ! 何を」
「フランシスの仇を討ちたいならば、立て! それが今お前にできる、唯一の事だろう!」

まるで兵達に鼓舞するように、ナジットは風雅に、ドア越しに叫ぶ。その声を聞き届けた風雅は、ゆらりと立ち上がった。

「泣くことはいつでもできる。だが、現状を打破するのは、今しかできない! 死にたくなければ、立て!」
「…うん、ありがとう、ナジットさん。」

そして、一つ深呼吸をし、ヨーヨーを持つ。

「…戦うよ。フランシスの仇を討つ為に。…この逃走中に何が起こっているか、確かめるために!」

その言葉の後、風雅は地を蹴った。
静かに眩い灯をその目に宿し、全てを奪った犯人を突き止めるために…。


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