二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- お試し逃走中!〜世界崩壊への序曲〜※完結
- 日時: 2017/04/13 16:05
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: FpNTyiBw)
いつものように神の提案で唐突に始まる逃走中。
しかし、これが世界の終焉に繋がるなど、逃走者達は、まだ知らない…。
4/13 更新
《必ずお読みください》
・諸注意 >>1 ※2/2 追加
《基本情報・データベース》
・予告 >>2
・逃走フィールド >>3
・逃走者名簿 >>10
・各地方の施設と立ち入り許可、不可区域 >>37
《本編》
★序章:終わりを語る語り部
・ツイソウ-end layer- >>13-14
・トウソウ-prelude- >>17-19
★一章:波乱の始まり
・シドウ-introduction- >>22-28
・ヘンドウ-calm before the storm- >>31-36
・ドウヨウ-a betrayer- >>41-46
★二章:ミッション1『逃走エリアを拡大せよ』
・ガイショウ-omame get daze!- >>49-51
・キコウ-liberty and freedom- >>52-55
・バイヨウ-gift of god- >>58-62
・コウドウ-black suspicion- >>65-70
★三章:ミッション2『ハンター放出を阻止せよ』
・カイホウ-imitation- >>73-76
・ヒトウ-miracle spa- >>79-82
・ゼツボウ-Beginning of the end- >>87-93
★四章:ミッション3『ゲームオーバーを阻止せよ』
・セントウ-encounter- >>96-100
・セントウ-vier- >>103-110
・セントウ-drei- >>115-119
・セントウ-zwei- >>124-129
・セントウ-eins- >>132-137
・セントウ-null- >>141-149
★五章:裏切りの理由
・コウドウ-red maneuver- >>153-157
・コウドウ-green maneuver- >>167-171
・コウドウ-blue maneuver- >>172-176
★六章:ミッション4『無限に湧き出るハンターから逃げきれ』
・シュウリョウ-acta est fabula- >>177-182
・シュウリョウ-continue?- >>183-192
★終章:閉ざされた未来
・ゲンソウ-forced termination- >>164
★真終章:“絶望”の幕引き
・ヒショウ-fear of brave- >>193-196
・ヒショウ-fly to next chance- >>197-200
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- コウドウ-green maneuver- ( No.170 )
- 日時: 2017/04/11 21:19
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
一方、リングアベルがエイゼンでガッカリを出していた頃、陽介はフロウエルまで来て散策していた。
(多分、リングアベルさんもうまくやれているだろうし、俺も誰かを見つけて…。)
「んぁー? あそこにいるのは…ヨースケー!」
「フブォッ!」
考え事をしながら歩いていると、突然腹部に強い衝撃を感じた。
自分をヨースケなんて呼ぶ人物は、一人しかいない。
「ごほっ、ごほっ…。く、クマ、朝に食ったラーメン、ひゅるって出そうだったから腹はやめい…。」
「上からのリバースは勘弁してよヨースケー。というより油断してるヨースケが悪いんだよー。」
自分の弟みたいな存在である、クマだ。中身の状態で腹目掛けて頭突きしてきたらしい。
「嫌なら腹目掛けての頭突きはやめろ! まったく…。」
「ヨースケ、ヨースケは裏切り者やってないクマよね?」
「聞けよ! つかまず謝れよ!」
完全に話をすり替えられ、陽介はもう突っ込みしかできない。が、話をすり替えられたまま謝罪をしないと見てわかった陽介は、話を続けることにした。
「…裏切り者はやってねぇよ。」
「よかったー。ヨースケが裏切り者なんかしてたら、今度ベッドの下にあるナースさんの本をごっそりチエチャンの部屋に置いてくるトコだったクマ。」
「ちょっ、待て! 里中と同室は理乃ちゃんなんだぞ! それはまずいっつーの!」
どうやら、陽介が仮に裏切り者だとしたら、酷い仕打ちをしようとしたらしい。が、その方法は千枝に大いに迷惑がかかるし、確実に由梨からも電撃技を一発食らう。
「つかお前だって実行班として由梨ちゃんに電撃食らうぞ!」
「はっ! 考えてなかったクマ! ビリビリはいやクマー!」
しばらく騒いでいると…。
「そもそもヨースケがナースさんなんかに興味を抱くからイカンクマ!」
「いやいやいやいや! 論点すり替えんなし! つかナースは男のロマンだろ!?」
「なーす?」
突如、第三者の声が聞こえた。嫌な予感がして、二人は振り向く。
そこにいたのは、元リーダーと同じ声をした、同じ名前の、奴とは違って純粋組である…ユウ。
「なーすって何ですか? そのなーすさんが男のロマンなんですか?」
「フッ、よくぞ聞いてくれた、ユウ。ナースこそ、看護師…いや、看護婦さんこそ男のロマンだ!」
(何言っちゃってるクマヨースケ! ユウユウはナルカミと違ってピュアピュアクマよ!? パニクっておかしくなったクマ!? というかこんな話をしたって知ったらジャンに殺されるクマよ!!)
突然、何かを語り出す陽介。クマはそんな陽介を、驚きの後に冷めた視線で見つめた。
しばらく、ナースさんに対して熱弁を振るう陽介。誰か突っ込んで! 純粋な子にちょっとR18なナースさんを語るガッカリに突っ込みいれて!
「わ、わわわ…! こ、この世界の看護婦さんはそんなことするんですか!? ま、まさか氷海さんや雪花さんや由梨さんもそんなことするんですか!?」
(なんか変な誤解が生まれチッタクマよ!? ヒーチャンやセッチャンやユリチャンまでとばっちりクマ!?)
赤面しつつも、明らか変な方に理解しているユウ。クマ、それは声に出して! このままだと陽介はジャンだけでなく氷海と雪花と由梨にも殺されるぞ! 特に由梨は陽介と相性の悪い雷属性持ちだから!
「どうだ! ナースさんこそ、男のロマンだ!」
「お、おおお男のロマンはそんな不埒なものにはありませんよ! 男のロマンは、メカにあるんです!」
その後、ユウは純粋に、変形メカや合体メカについて熱弁を振るう。
かなり熱弁なので、クマも次第に納得してしまう。
(ユウユウは純粋に、オトコノコとしてオトコのロマンを語ってるクマねー。それに比べてこのケダモノは…。後でカンケイシャ全員に殺されればいいクマ。)
「そういうわけで、男のロマンはメカにあります!」
「いいや、ナースさんだ!」
「メカです!」
「ナースさんだ!」
水を掛け合うが如く、不毛な言い合い。そこへ…。
「いい加減にしなよ!」
「ふぐおっ!」
突然、陽介のド頭に、杖がめり込んだ。
「まったく、何なんだい、この低レベルすぎる醜い争いは…。クマ、アンタもさっさとコレ止めときな。」
「あ、ホーリーさん!」
彼のド頭に杖を降り下ろしたのは、ホーリーだった。会話を聞き、彼女の武器を遠慮なく降り下ろしたのだろう。
「ふぎゃっ!」
「ユウ、アンタもこんな不健全野郎に張り合って熱弁しなくていいんだよ。女のアタシにはメカの良さはあまりわかんないけど、少なくともこの不健全な野郎よりいいと思うよ。」
ホーリーは最初の一撃で伸びた陽介を椅子にすると、ユウにそう告げる。流石物理的ドS。椅子にすべき相手に対して容赦ない。
「は、はい! やっぱり男のロマンはメカですよね!」
「そうクマそうクマ。ところで、ヨースケそのままでいいクマか?」
「しばらく反省させとくよ。まぁ、一応、頭に打撲傷がないか調べとくから、病院には連れていこうかねぇ。」
(頭に一撃与えたの、ホリチャンクマよね? ありー? これ、気にしちゃダメなヤツクマ?)
「エタルニアの病院ですね! 行きましょう!」
何だかんだで不毛な争いは終結し、三人はエタルニアまで向かった。陽介を引きずって。
- コウドウ-green maneuver- ( No.171 )
- 日時: 2017/04/11 21:28
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
何だかんだで、エタルニアの病院までやって来た…いや、連れてこられた陽介は、ホーリーにより手当てを受けていた。
「うん、まぁ、打ち所悪くないからコブができたぐらいで大丈夫だね。打ち所悪かったら大変だったよ。」
「殴った本人が言いますかそれ!」
「殴られる原因作ったアンタが何言ってんのかねぇ?」
「スミマセンデシタ!」
陽介は土下座で、杖を弄ぶホーリーに謝罪した。
その後、ユウとクマが待っている病院入口へと出る。
「あ、あの、さっき聞き忘れましたけど…お二人は、あ、ホーリーさんも、裏切り者じゃないですよね?」
揃ったのを確認すると、ユウはおずおずと訊ねる。疑いたくはないのだが、どうしても聞いておかねば不安だったのだ。
「ああ、ここの奴等は裏切り者じゃねぇよ。裏切り者は、理乃ちゃんだからな。」
「そうだよ、裏切り者は理乃…って、ナ、ナンダッテー!」
乗り突っ込みをするホーリー。お約束な驚き方は、三人に総スルーされた。
仕方なくホーリーも(突っ込めよ!)と思いつつ、通常に戻った。
「よ、ヨースケ、何言ってるクマ! リノチャンが裏切り者な訳」
「いや、クマ、悪いが事実だ。俺は彼女が裏切り者になった瞬間を見ていたからな。」
陽介の衝撃の言葉に、三人は動揺する。二人よりも理乃とは長くいるクマが陽介に言うも、彼はすぐに否定した。
「裏切り者になる瞬間を見ていて、何だって止めなかったんだい?」
「止めなかったんじゃない。“止められなかった”んだ。こんなもんを見ちまったからな。」
ポケットから端末を取り出した陽介は、三人にあるメールを見せた。
「な、なにこれ、クマ…?」
「っ…!」
「あぁ…そうだね。コレじゃあ…“止められない”ね…。」
最初のメールと、添付されていた写真に、陽介が何故、彼女を止めなかったか、完全に理解できた。仮に自分が陽介の立場だったら止めることはできないし、理乃の立場だったら裏切るだろうという考えに思い至った。
「リングアベルさんは、これは事が起こった“後”だって言っていた。だから多分、まだみんなは無事だと思う。」
「いつ事が起こるかわからないから不安ですね…。」
その場にいた全員、沈み込む。ホーリーはその時、難しい顔をしていた。それにユウもクマも、少しだけ不安を覚えた。
やがて、ホーリーが頭をポリポリと掻きながら溜息をついた。
「…成程ね。アンタの話はよーく分かった。」
陽介に向かって、ホーリーは言い放つ。ユウもクマも、陽介に向かう。
「“逃走中の悲劇”は…もう起こってたんだね。」
まだ事が起こってないのに、ホーリーはそう言い放った。
「え、でもまだ何かは起こってないってリングアベルさんが…。」
「裏切り者が出ちまった時点で、些細な疑いが生まれただろ? その些細な疑いは後に疑心、疑惑になって、しまいにゃ誰も信じられなくなっちまう。アタシらは話を聞いたからそうだって分かった。けど、話をされてない奴等は?」
「あ…! そ、そうです! 下手をすると誰も信じられなくなって、仲間がバラバラになってしまいます!」
「特にイデアなんかはリングアベルが捕まったから、今頃逆上してるだろうよ。正しいことをしている理乃を、疑いの目でしか見られない。牢獄じゃなくて未来に飛ばすって点でも、危うくなると思うんだよ。だって、自分よりも前に捕まった恋人が牢獄に帰ってなかったらなんて思う? 裏切り者を疑わないかい? 今は元帥としての自覚からか丸くなったけど、あの白黒つけたがる性格のアイツに正しい判断ができるとは思えないんだよ。」
ホーリーの言い分は、確かにもっともだった。自分よりも早くに捕まった大切な人が牢獄にいなかったら、通報した裏切り者を疑うのが普通だ。裏切り者が金を得るために、仲間をどこかに連れ去ったと考えるのが筋だろう。
疑心は更なる疑心を生み、次第に仲間が分裂する。そんな想像ができた陽介は、そこまで気づかなかった自分に怒りと呆れを覚えた。
仲間の内部分裂という悲劇は、理乃が裏切り者に名乗りをあげた時点で、既に始まっていたのだ。
「けど、裏切り者に名乗りをあげなかったら、更なる悲劇が舞い込むのも確かです。」
「ああ、そうだね。確かにそれも正しかった。別に理乃に名乗りをあげるなって言ってるんじゃないよ。…ただ、黒幕は最初からアタシらをはめようとしている、アタシらを手のひらの上で転がして、嘲り笑ってんだよ。」
ホーリーがそう話すと、全員、腹立たしさを覚えた。
最初から黒幕が仕組んだ罠に気づかなかった自分への怒り。そして、楽しみにしていた逃走中をこんな風に乗っとり、仲間の絆を引き裂こうとしていた黒幕への怒り。
「…陽介。アタシを未来に飛ばしな。」
「陽介さん。オレもお願いします。」
「ヨースケ、クマもお願いクマ。」
ただならぬ感情を込めた声色で、ホーリーとユウとクマはそう告げた。
「目が血走ってるぞ、お前ら。あと飛ばす権限は理乃ちゃんしかないから。ちなみに聞いとくが、理由は?」
一応、そう尋ねる陽介。
「黒幕ぶん殴って(くる/きます/くるクマ)。」
(うわー、いい笑顔で杖持ってるなホーリーさん。後で椅子にする気満々だな。ユウもモンクになって殴る気満々じゃねぇか。ジャンやマグノリアちゃんが見たら泣くぞ。クマ、お前トゲトゲグローブ磨くな。艶出しに由梨ちゃん調合のハブの毒塗るな。)
既に準備万端な三人に、陽介は本人達には口に出して突っ込まずに、理乃へと連絡した。
「あー、理乃ちゃん。ホーリーさんとユウとクマを未来に飛ばしてくれ。大至急。」
『何故、大至急飛ばして欲しいかはもう何も突っ込まずにスルーしたいのですが、構いませんか? あと、何だか恐らくそのお三方の殺気がひしひしと伝わるのは気のせいですか?』
「うん、多分触れちゃダメなヤツ。俺はもう少し誰かに声をかけてみるから、通報しないでくれ。今俺達がいるのは、エタルニアの病院だ。」
『わかりました。三人にそこから動かぬよう言っておいてください。すぐに通報します。』
その言葉を最後に、理乃との通話を終えた陽介は、ポケットに端末をしまった。
「じゃあ、すぐハンターが来ると思うから、そのままそこを動くなと。」
「了解。」
完全に目が血走っているが笑顔の三人を見て、陽介は目を死なせたままそそくさとその場を後にした。
■
ユルヤナ地方・カプカプの里。
(…何故だろう。花村さんと話していただけなのに、凄い殺気を感じた。あれ絶対今花村さんが言ったホーリーさん達三人のだ。というかあのユウさんまでああなるって何があったの!?)
通報のために端末を持った右手が震える。端末越しに感じた謎の殺気に、流石の理乃も怖かったようだ。しかも、元々勝ち気な姉御肌であるホーリーや、仲間に許せない無礼を働かれてキレたであろうクマはまだわかるが、普段は温厚で涙もろく、敵に対しても、敵対していた親友に対しても情けをかけるようなユウもああなった理由が不思議で仕方がなかった。
「ほ…ホーリー・ホワイト、ユウ・ゼネオルシア、クマがエタルニアの病院にいます。…ふぅ。こ、怖かった…。」
そして、端末を下ろす。下ろしながら、思う。
(黒幕、死んだわね。)
もしあの三人の目の前に現れたら確実にフルボッコされるであろう黒幕に、思わず合掌をした。
■
程なくして、やって来たハンターに確保された三人。
消える寸前に放った言葉は…。
「黒幕、ぶっ潰す。」
だったそうな…。
81.11
(裏切り者の通報により)ホーリー・ホワイト、ユウ・ゼネオルシア、クマ 確保
残り16人
- コウドウ-blue maneuver- ( No.172 )
- 日時: 2017/04/11 21:40
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
時が進み、ミッション2が発動された。
だが、グラープ砦付近にいたガイストはミッションへと行こうとは思わなかった。
(きな臭いな…。そもそもクリスタルは、巫女でなければ干渉できないはず…。)
ガイストは元正教の悪魔払い師—エクソシストだ。元司祭であったブレイブのように、クリスタルについて何か聞いていてもおかしくはない。
本当にこれが昴達が作りたかった逃走中ではないならば、このミッションは行かない方がいいと判断したのだ。
(さて、リングアベルから見せてもらったメールでは、刻限はミッション3前まで。リングアベルとティズが捕まった以上、それまでにまた誰かに私から声をかけねば。仲間は多いに越したことはな…ん?)
ふと、ガイストは視界に誰かの姿を捉える。
「…。」
(あれは、ヴィーナス三姉妹の…アルテミアか。何をしているのだ?)
それは、アルテミアだった。彼女はじぃっ、と遠くを見ている。しかも手には弓を持ち、なんか引き絞ろうとしている状態で。
彼女の視線の先を見ると、そこには遠くてよくわからないが、黒い何かが立ち止まってキョロキョロと辺りを見回しているのが見えた。…十中八九、ハンターだろう。
(まさか、アレを狩ろうとしているのか?)
嫌な予感を感じたガイストは、アルテミアに近付いた。
「何してるんだお前は。」
「!」
アルテミアは叩かれて驚いたのか、弓を引き絞って今にもガイストを射抜こうとしていた。
「ハンターに攻撃したら強制失格とお前の姉達から散々言われていただろう、アルテミア。」
「あいつ、いなくなる。お姉様達、捕まらなくなる。ガイスト、邪魔するな。」
完全に獲物を狩る狩人の目をしたアルテミアは、どうあろうともハンターを射抜こうとしているようだ。
「いや、やめておけ。あいつ一人射抜いた所で、昴がまた新しいハンターを投入するだろう。(…まぁ、今は昴が出すかはわからぬがな。)」
「むぅ…。」
新たにハンターを投入されるなら、こうしてあのハンターを射抜いても無意味だろう。そう判断したアルテミアは戦えなかった不満なのか、不服そうに得物を下ろした。
「ガイスト、何故ここにいる?」
「…同じ戦闘狂でもできれば由梨と会いたかったが、仕方ない。アルテミア、少し話を聞いてくれ。」
ガイストはやや呆れながらも、話し始める。え、できれば由梨に会いたかった理由? まだ彼女の方が理性的だから。
「この逃走中は、既に昴がやろうとしていた逃走中ではない。誰かが意図的にシナリオを書き換えたのだ。」
「?」
あ、アルテミアが完全に首を傾げている。どうやらわかっていなかったようだ。
「…どう、説明したものだろうか…。」
流石のガイストも困り顔で悩んだ。
簡単な言葉に置き換えたり、喩えを交えながら、ガイストは苦戦しつつも説明した。(他者に通じる話し方が、こんなにも難しいものであったとは。)と思いながら、根気よく話す。
「…。」
アルテミアはわからないなりにも、黙って話を聞いていた。ガイストの真摯な眼差しに応え、途中で寝る事もなく、黙って真剣に聞いていた。
「アルテミア、難しいこと、わからない。」
(失礼だろうが、だろうなと思った。)
確かに失礼な事だが、学のないアルテミアには無理難題だった。でも、アルテミアでもわかる部分はあったようだ。
「でも、アルテミアの力、役立てる。それだけは、わかった。」
この悪意に立ち向かうには、自分の力が大いに役立てるだろうということ。今は、その時だということ。それから…。
「それと…。」
「それと?」
「裏切り者、裏切ってない。誰も、裏切ってない。裏切り者、言葉、違う。」
裏切り者は金の為に裏切ったわけではなく、本当は裏切りたくて裏切ったわけではないこと。
自分と全く同じ事を言うアルテミアに、ガイストは思わず笑みを見せた。救済者と名付けた、理乃のことを思いながら。
「ああ。裏切り者など、最初からいなかった。」
そう、裏切り者など、最初からいなかった。裏切り者の真実の姿は、最悪の未来を見せられ、その結末を変えるために仲間を集める、救済者だった。
そして本当に恨まなければならない相手は、未だに連絡の取れない昴達でも、裏切り者の理乃でもない。こうなった、全ての元凶…彼女達を未来へと飛ばし、その絶望の写真を理乃に送り付け、今この瞬間にもどこかであざ笑っている…黒幕だ。
「この逃走中に渦巻く真の悪意、それが、私達が本来相手にすべき元凶だ。」
「逃走中、してる場合じゃない。ガイスト、何故、中止にならない?」
その黒幕を倒さなければならないのはわかっている。だが、それならば一度このゲームを中止し、一丸となって立ち向かわなければならないのではないか。アルテミアはそう訴えたが、ガイストが首を横に振る。
「恐らくだが、既に運営は真の悪意に乗っ取られていると見ていいだろう。私達は気づかぬうちに、奴らの手の内に転がされているのだ。」
「…アルテミア、悪意に縛られる、嫌だ。」
「ああ。だからこそ、私達は…!」
ガイストとアルテミアは、互いに頷きあった。
黒幕との戦いを決意し、早速行こうというのだ。
「…そうと決まれば、理乃に連絡をしよう。」
ガイストは不慣れながらも、端末を操作して理乃を呼び出そうとしたが…。
「あ、違う。これじゃない。」
開いたのはメール画面。どうやら押し間違えたらしい。
「つ、次こそは…ぐぬぬ…。」
次に開いたのは地図アプリ。ご丁寧に現在地が表示された。
「…。」
何とか閉じて次こそは通話機能を取り出そうとするも、またもメール画面を開いてしまったようだ。
「ガイスト、理乃からかけてもらう。時間、かかる。」
「そうしよう…。」
今度、詳しい人に操作を聞いておこうと思っていたガイストは、開きっぱなしのメール画面から理乃のアドレスを呼び出してメールを打っていた。かなり手つきが遅い。
「えーっと…“ぱ・ぱ・で・す・。・れ・ん・ら・く・く・だ・さ・い”、っと…。」
「ガイスト、それ、誰に送る?」
どう考えても文面が息子のレヴナント宛てである。しかも声に出して文字を打つとかどれだけ機械音痴の父親なのガイスト。
「む、確かにレヴに送る文面だな。いつもの癖が出てしまったようだ。消して…あ。」
なんと、文面を消そうとしたら、誤って送ってしまったようだ。取り消そうとしてももう遅い。理乃はこの文面を受け取ってしまったに違いない。
「…。」
「目で訴えても、困る。アルテミア、知らない。」
何か悲しげな表情でアルテミアを見ると、つっけんどんに返された。
程なくして、ガイストの端末に電話がかかってくる。勿論理乃からだ。
「む、理乃から来たな。では…。」
ガイストは端末を操作し、耳に当てる。
「理乃、私だ。」
『…。』
通話口からは、何も聞こえない。
「む、聞こえんな。」
「…アルテミア、出る。きっと、もう一度、かかってくる。ガイスト、間違えて、切った。」
「なっ…! ぐっ、くぅっ…!」
声を絞りだすようにして唸るも、確かに自分が間違えて切ってしまったのは事実だ。自分より年下の子供に指摘され、ガイストはちょっと悔しいらしい。
程なくして、再びガイストの端末に電話がかかってきた。次こそはと意気込むガイストだが、アルテミアに端末をすかさず奪われた。
「理乃、来た。」
『あ、アルテミアさん…。まさかとは思いますが、ガイストさん、先程間違えて切ってませんでした?』
「ガイスト、切ってた。」
『まぁ、メールの文とかも併せてそうだろうと思っていました…。アルテミアさん、ガイストさんから事情は』
「理乃、早く、未来、飛ばす。アルテミア、強い奴、戦う、ガオ!」
早くも目をギラギラさせて興奮状態のアルテミアに、理乃は恐らく通話口の奥で呆れてるに違いない。
『(あー、どっかの戦闘狂もこんな感じだったわねー。)は、はい。では、現在地を』
「早く、早く連れてけ! 強い敵、戦いたい! 狩りたい!」
『わ、わかりましたから場所を』
「ガウーッ!」
このままでは埒が明かない。アルテミアは場所を言わずにただ連れてけ連れてけと連呼するばかりで、彼女らの場所がわからない理乃には通報しようがない。
「…エイゼンのグラープ砦だ。」
ガイストはアルテミアの頭を殴りつけ、端末を取り戻してからそう言った。
『わ、わかりました…。では、今から通報を。』
「ああ、頼む。それから…お前は、裏切り者ではない。それは侮蔑を現す言葉だ。だから…“救済者”、と私は呼びたいのだが、構わないか?」
『…ありがとうございます、ガイストさん。そう言われると、気が楽になります。では、すぐに通報しますので、お二人はその場で待機をお願いします。特にアルテミアさんをおとなしくさせておいてください。興奮のあまりハンターにとびかかって攻撃し、強制失格となってしまっては元も子もないので。』
「…一応、私の拳骨で大人しくさせておいた。今のうちに通報してくれるとありがたい。」
『では即座に通報させていただきます。』
理乃との通話は、そこで終わった。
「ガイスト、痛い!」
「お前はもう少し落ち着け。あまり理乃を困らせるな。」
「強い敵、目の前! 落ち着く、無理!」
「狩人の本質はどうした。」
ガイストはもう、何も突っ込まない事に決めた。
■
ユルヤナ地方・カプカプの里。
「(さて、早くアルテミアさんを通報しないとハンターを攻撃しかねない。)あ、またカプカプが来た。」
そこにあったカプカプ工場を見ていた理乃は、端末を持ちながらしばらく眺めていた。やがて相手が出たのを確認すると、一つ呼吸を整えた。
「…アルテミア・ヴィーナス、ガイスト・グレイス。エイゼン地方、グラープ砦前にいます。」
そう、静かに告げて、空を見た。未来へと飛ばすこの行為。皆も同意してくれるこの行為に、わずかながらも感じる罪悪感。それが、その瞳を濡らした。
「…アルテミアさん、ガイストさん…。未来を…お願いします…!」
その願いを、一陣の風に乗せて運んでから…すぐに、カプカプ工場へと目を移した。
(うわぁ、あのギンカプ凄い筆遣いがうまいわね。あっちのキンカプも中々のモノね。って、あの、どう考えても色が変なカプカプがいるんだけど。あのカラバリ…くすんだ白と…赤?)
くすんだ白と、そこに染み付いた赤のコントラストが不気味で、理乃は何だか追及するのが怖くなった。
■
しばらくして、二人の目の前にハンターが現れる。
「ガウーッ! はやく、早く連れてけー!」
「お前は落ち着け! 敵を目の前にして興奮するな! そこのハンター! 早く私達を捕まえてくれえぇぇぇぇぇぇっ!!」
『…。』
残っていたNAGIプログラムが働いているのか、ハンターは暴れるアルテミアを抑え込むガイストの肩に手を乗せるのを躊躇っていた。
『…。』
(あれ? 何だか物凄くこのハンターに同情された気がした。)
ガイストは、その静かに置かれた手に何だか、同情されているような気がしたが、すぐにアルテミア共々転送されてしまったので、言及はできなかった。
57.23
(裏切り者の通報により)アルテミア・ヴィーナス、ガイスト・グレイス 確保
残り12人
- コウドウ-blue maneuver- ( No.173 )
- 日時: 2017/04/11 21:54
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
仲間を求めてエイゼン地方までやってきた陽介は、誰かいないかと探し回りながら、グラープ砦までやってきた。
(さっき、リングアベルさんがこっち周っていたから、もう仲間はいないと思うけど…。)
リングアベルがある程度の人間に話していると思い、陽介はここでの仲間確保は見込めないと踏んでいた。
ミッション2の制限時間は、あと少し。駄目そうなら自分一人でも未来へと飛ぼうと考えていた。
(あと一人、誰か腕の立つ奴が見つかれば…ん?)
ゆらりと、しなやかな黒髪が見えた気がして、陽介はそちらに駆け寄る。
見間違いではないなら、その黒髪を持つのは…。
「…あ、由梨ちゃん!」
理乃の仲間である、由梨だった。彼女は陽介の姿を見つけるなり、ちょっと驚いたような表情を浮かべた。
「ん? 陽介?」
「こんなところにいたのか。」
「ああ、ずっとこの辺りに隠れてたよ。陽介、ミッションは行かないのか?」
由梨がそう訊ねると、陽介は首を縦に振る。自分も本来ミッションに行きたいが、事態が事態なので向かえない、と言った方が正しいだろうが、ここで話してしまっては混乱を招きそうなのでやめた。
だが、由梨もめんどくさいとか言いつつもミッションへと行きそうな存在である。それがここに隠れていたなんて、おかしいと思った陽介は訊ねてみる。
「由梨ちゃんこそ、ミッションは行かないのか? ミッション1の時から名前見なかったけど。」
「ん、ああ…。まぁ、ミッションやって楽しんで逃げたかったんだけどさ…。」
由梨は腕を組み、考え込むような仕草をしていた。
「何か、この逃走中…初めからきな臭い匂いがプンプンしてな。」
「え…。」
陽介はここで確信を持った。彼女も、理乃と同じように目には見えぬ“悪意”を感じ取っているのだろうと。
「色んな世界旅してきたからか、何かそういう悪意に対しては色々と感じ取れるっつーか、そっち方面で割と勘は冴えてるっつーか。まぁ、早い話が…これは本当に昴さん達の作り上げた舞台なのか疑問に思ったから、動かずに調べてみようと思ったわけ。」
同じだ、と陽介は思った。改めて、同じ歳の彼女達と自分達の差を、大きく感じ取った。
「すげぇよ、由梨ちゃん達。やっぱ由梨ちゃん達はみんな、何かを感じてんだろうな。」
陽介のその言葉に、由梨は陽介が何か知っていると確信を持った。まずはその正体を見定めなければ。そう思い、陽介に聞くことにした。
「何か知ってるな、陽介。話せ。まぁ、恐らくはこの逃走中…。」
「ああ。この逃走中は“昴さんとMZDが作り上げたものじゃない”。既に“誰かにぶっ壊されてる”んだよ。」
そう言いながら、陽介はポケットから端末を取り出した。
由梨はその端末を軽く操作し、あるメールと写真を見て、溜息をついた。
「成程な。確かにこれはもう、あの二人が作ったものじゃない。」
それは、最初に届けられた宣言と、悲惨な添付写真。由梨はこれを見た瞬間、何が起こっているかが大体察しがついた。
「リングアベルさんは、これが事後の写真だって言ってたから、多分まだあの人達は無事だ。」
「リングアベルもかなりの猛者だ。信用はできそうだな。」
由梨はリングアベルを信用し、まだ昴達が無事である事に安堵を覚えた。
「だが…何かを起こすとしたら、何だ? 何故ここじゃなくて未来に飛ばしたんだろう。」
「そこまではわからねぇけど、何とかして仲間を集めねぇとこの写真の通りになるって危惧してたんだ。その…裏切り者、が。」
「気を使わなくっていいっつーの。正体はわかってる。どーせまた無茶していそうだと思ったよ。自分から汚名被って人を助けるの、前にもあったし。」
その言葉で、由梨は誰が裏切り者かを察しているのがよくわかった。ある意味これも、度を経て培った仲間同士の信頼と呼べるものか。
「…考えても仕方がない。未来に行く。」
「ああ。もう時間だし、俺も今行こうと思ったんだ。由梨ちゃん、彼女に連絡、いいか?」
「構わないって。話もしたかったしな。」
由梨は自分の端末を操作し、そっと耳に当てた。
『…はい。』
「よっすー。“救済者”さん。」
『…。』
「陽介から全部聞いた。まさか“救済者”に“協力者”がいるとは思わなかったぞ。」
裏切り者、いや、“救済者”がいるのはわかるが、それに加担する存在は予想だにしなかったのだろう。由梨はちょっと笑いながらそう話す。
『協力者がいないと成功しない事例だったからね。二人が快く引き受けてくれなかったら、今頃…。』
「へへっ、嬉しい事言ってくれんじゃねぇか、“救済者”さん!」
陽介は突然由梨の横に来て、通話口に向かってそう話す。由梨は話したい事があると察し、陽介に端末を渡した。
「一人で背負い込むなんて辛いだろ? それに、一緒にあのメールを見た以上、俺も協力しなきゃって思った。リングアベルさんもそうだと思うんだ。そして、リングアベルさんに事情を聞いたガイストさんも…。」
『…。』
「逃走中が乗っ取られている以上、陽介から見せられた“それ”も、もしかしたら本当なんだろうと思う。だから…アタシも、手伝うよ。陽介もそろそろ時間切れだろうから、一緒に行くってさ。アタシと陽介がいる場所は…さっきアルテミア達が捕まった、グラープ砦前だ。」
『うん、わかった。…二人共、未来を、お願い。』
「有事の際は世界を頼むって頼まれてるから当たり前だ。…お前も無理すんなよ、“裏切り者”…いや、“救済者”の桜坂理乃さん。」
今頃、この通話口の奥で理乃が笑ってるんだろうなと思いながら、由梨は告げる。実際、笑っていたわけだが、今の彼女達は知らない。
『そっちも…死なないでね。』
「当たり前だ。」
その言葉を最後に、二人は同時に通話を切った。
■
ユルヤナ地方・カプカプの里。
「…野上由梨、花村陽介。…エイゼン、グラープ砦前にいます。」
恐らく、これが最後の通報になるだろう。そう察していた理乃は、静かに告げる。
そして、自分が通報した存在達を思い出していた。
「…ティズさん、リングアベルさん、ユウさん、ホーリーさん、クマさん、アルテミアさん、ガイストさん、花村さん。…由梨。」
未来を託し、自分が送り届けた存在。
彼らの大切な存在である、アニエス、イデア、マグノリア、ベアリング、メフィリアとエインフェリア、レヴナント、千枝が、自分が裏切り者だと知ったら何というだろうか。恋人や家族を死地に向かわせた自分を見て、何と言うだろうか。ふと、それがよぎった。
だが、後悔はしていない。それが未来へと消えた昴達が、唯一助かる方法なのだから。
「未来を託せるのは、貴方達だけ…。お願い、どうか、この未来を…この世界を…!」
祈りの言葉は、風に乗って緩やかに消え去った。
■
そして、グラープ砦…。
「奴等が…いや、単体かもしれないけど、黒幕が何をしてくるかわからない以上、用心した方がいいな。」
ハンターが来るまでの間、二人は話し込んでいた。
「ああ、だな。…。」
陽介の体が、わずかに震える。
「怖いのか?」
「そりゃ…正直、怖ぇよ。どんな実力かもわからねぇ、どんな相手なのかもわからねぇ敵と戦争をおっぱじめに行くんだからさ…。下手をすれば、死ぬって時…だし。由梨ちゃんは怖くねぇの?」
「…怖いさ、そりゃ。」
そういった由梨は、陽介の手を取る。その手がわずかに振動しているのに気が付いた陽介は、驚いてた。
「…人をバケモノかなんかだと思ってねぇ? アタシだって怖いものは怖いさ。」
そこまで言った由梨は、陽介の手を放した。
「…死地に行く恐怖。何度味わっても、やっぱり怖いさ。強がって虚勢張ってるけど、それでもやっぱり、震えが止まらないんだよ。」
「…だよな。」
足音がする。どうやら時間切れのようだ。
程なくして、ハンターがやってくる。運命の刻限と言わんばかりに、こちらに向かって、ひたすら走ってくる。
「…陽介。」
「ん?」
「生きて帰るぞ。」
「おう!」
互いに生きて帰る約束をした二人は、ハンターに手を置かれ、同時に消え去った。
53.56
(裏切り者の通報により)花村陽介、野上由梨 確保
残り10人
- コウドウ-blue maneuver- ( No.174 )
- 日時: 2017/04/11 22:09
- 名前: 奏月 昴 ◆Dh/xEZWmVM (ID: 2QWuZ1bi)
現在、ユルヤナ地方・ユルヤナの仕立て屋…。
—…これが、裏切りの真相。
全てを語り終えたスバルは、静かに告げた。
—見てわかる通り、彼女は決して金ほしさに裏切ったんじゃない。ただ、最悪の未来を変えるために、みんなを欺かざるを得なかったの。
「…なるほどのぅ。それを知るのは、ミッション3の時点で残っているのは自分自身のみ。黒幕は捕まった後の内部分裂を狙い、こうして彼女の親友を利用し、二人を殺害した…。」
「…ゲスい黒幕だね。」
ユルヤナが呟いた、理乃の殺害動機を知った葉月は、怒りに荒ぶる心を押さえ、静かに言い放った。
「…。」
「アニエスちゃん? どうしたんじゃ? 微笑んで。」
「あ、いえ、リングアベルやティズらしいなと思いまして…。」
お節介焼きの二人らしい協力の申し出に、アニエスは思わず微笑んでしまったのだ。
「…私、話してきます。最初の協力者の、大切な人達に。」
「それがええじゃろう。」
アニエスはユルヤナの言葉に頷いてから、手帳を持ってパタパタと走っていった。
「…。」
「不安かの、葉月ちゃん。」
「ちょっとね…。黒幕がどんな奴なのかは大体わかったけど、このままこれで終わるわけない、そう思って。それに…あのディアマンテっていうの、本当に未来に飛ばしてよかったのかな。」
「どういうことかの?」
葉月の言葉に、ユルヤナが怪訝そうな顔を浮かべる。
「…嫌な予感がするの。さっきのミッション…本当に、クリアしてよかったのかな?」
「…! ま、まさか、葉月ちゃん…!」
何かに思い至ったユルヤナに、葉月は頷く。
「昴さん達が飛ばされたのも“未来”。理乃が昴さん達を助けるために飛ばしたのも“未来”。…そして、ディアマンテを飛ばしたのも“未来”。全部どこの“未来”かはわからないけど…もし、この予感が当たっていたら、恐らくこのミッションは」
「ふざけないでください!」
葉月が言おうとした言葉を遮るかのように、怒声が響いた。アニエスだ。
「ふざけてなんかないじゃん! あたしはただ、そんな話を信じられないだけ! リングアベルが裏切りに加担したなんて、絶対に信じない!」
「イデア、信じるか信じないかは別として、これは紛れもない事実なのです! 最悪の結末を…恐らく、エンドレイヤーのような結末を避けるために、理乃さんを助けようとしたリングアベルの思いを踏みにじるつもりですか!」
「信じないったら信じない! 裏切りなんて真っ黒なこと、あいつがする訳ない!」
「イデア、“裏切り”という言葉に惑わされないで下さい! 言葉がどうあれ、リングアベルが私達の為に行動したことに変わりはないのです!」
どうやら、アニエスが理乃の裏切りの経緯を説明したはいいが、肝心のイデアが全く信じてくれない事に腹を立てたようだ。
「アニエスだって忘れたわけじゃないでしょ! あたし達が経験した、あの裏切り! あんな目に遭いたくないのはあいつも重々承知してるはずだよ!」
「ですが、これは事実なのです!」
「だったらその証拠を見せてよ! 理乃が裏切った時に来たっていうメール!」
「そ、それは…!」
「いい加減にせんか!」
証拠を出せと言われて困った時に、また別の方角から怒声が聞こえて、全員鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いた。
声を発したのは、意外にも、ユルヤナだった。
「お主ら、これが、この内部分裂こそが黒幕の狙いだとわからんのか! 今もこの姿を見て、黒幕は嘲り笑っておるのじゃぞ!」
「だ、だけど…!」
「…。」
ユルヤナの剣幕に、イデアは反論する言葉を飲み込んだ。
黙り込んだイデアを見て、ユルヤナは千枝とレヴナントに歩み寄った。
「千枝ちゃん、レヴナント。お主らの力で、試してみたい事がある。」
「え? う、うん、いいよ。レヴ君もいい?」
「だいじょーぶだよ? それで、ローシさま、なにすればいいの?」
「レヴナントは千枝ちゃんに【憑依】を。お主の力を上乗せした千枝ちゃんの最大物理攻撃で壊せんか、試してみたい。それでも駄目ならば、皆で少しこの結界について調べてみようと思う。」
「あ、そっか! その手があった! 千枝、早速いっくよー!」
(え、オバケに取り憑かれるって…! い、いや、でも今は緊急事態だし、相手はレヴ君だし、大丈夫、大丈夫…!)
オバケ嫌いの千枝が、レヴナントに取り憑かれることを想像しただけで一瞬震えるも、そんな場合ではない上に、子供のレヴナントに怯える必要もないと悟ったのか、すぐに受け入れ態勢を取った。
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