二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
日時: 2017/01/26 02:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
 また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
 以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。

 基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
 前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。

 ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。

 それでは、白黒の物語が再び始まります——



目次

プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3

シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28 
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36

クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76


登場人物目録
>>32

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



第18話 行先確認 ( No.25 )
日時: 2017/01/08 14:10
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 イチジクからジムバッジを受け取ったフィア。
 これがフィアにとって初めての、一つ目のジムバッジとなる。
 それを手に入れたのはいいが、問題はその後だった。
「これ、どうすればいいんですか?」
 バッジを貰っても、どうすればいいのかわからない。一応ピンはついているようだが、どこかに付ければいいのだろうか。
「フィアさんは、バッジケースを持っていないのですか?」
「バッジケース……?」
「兄ちゃん。この様子だと、バッジケース自体知らないっぽいぜ」
「そっかぁ。まあ、バッジケースって言っても、ただの入れ物だからねぇ……でも、入れ物がないと、管理が大変なんだよねぇ」
 話を聞く限り、バッジは基本的に、バッジケースという入れ物に入れて保管するのが一般的らしい。
 しかしフィアは、そのバッジケースを持っていない。博士も、ジム巡りを勧めたものの、そんなものはくれなかった。
「入れ物を持ってないのなら、これを使うといいよぅ」
 と言って、イチジクはさっきまでバッジが入っていた小箱の底に敷いてある布を取り払って、フィアに手渡した。
「この箱、バッジケースだったのかー。知らなかったよ」
「バッジを保管するには最適だからねぇ。それに、実はリーグからたくさんもらってて、邪魔なんだよねぇ」
 サラリと不用品を押し付けられていた。
 とはいえ、それほどかさばる物でもなく、これに保管するのが最適というのであれば、ありがたく使わせてもらう。
「ところで、フィア君たちは、これからどうするのぉ?」
「このシコタン島には、シュンセイジム以外のジムはありません。観光名所や、ポケモンの生息地は多いですが……」
「でも、ジム巡りだろー。連絡船が来るタイミングも限られてるし、早く島を出た方がいいぜ」
 三人が口々に言う。正直、なにも考えていなかった。
 しかし、ひとまずの指針がジム巡り。そして、この島に他のジムがないのであれば、
「オレは次の島に行く予定だよ」
「じゃあ、僕らもそうしようかな……フロルはどう?」
「わたしも、それでいいと思うよ」
 彼らが言うように、イオンと同じように、他の島に移るべきだろう。
「次の連絡船って、いつ来るんですかー?」
「んー、次の連絡船はねぇ……えぇっとぉ……トウガキぃ」
「まったく、兄さんは……次の連絡船は明日の昼、イトゥルフ島行きの船が出港する予定です」
「港があるのは、ここから北に進んだところにある町、ハルサメタウンだぜ。ほとんど一本道だから、まず迷わず行けるだろ」
 一番早くに行ける島は、そのイトゥルフ島なのだろう。特にこの島に用があるわけでもなく、次の島はどこでも構わないフィアにとっては、次の目的地はそこでいいのだが、
「げ、イトゥルフ島か……」
「イオン君……?」
 なにやら渋い表情を見せるイオン。イトゥルフ島とやらに、なにがあるというのだろうか。
 また、その島の名前に渋さを表していたのは、イオンだけではなかった。
「うーん、イトゥルフ島かぁ……」
「イチジクさんも……その島に、なにかあるんですか?」
「まぁねぇ。ぼくもジムリーダーとして、他の島のジムリーダーの人たちとバトルしたり、顔を合わせたりする機会があるんだけどぉ……あの島のジムリーダーって、みぃんな個性的なんだよねぇ」
 あなたが言いますか、と心中でツッコむが、流石に口には出さないただ、両隣のトウガキとバンガキのじっとりとした視線が、兄に向けられている。件の兄はまるで気づいていないようだが。
「それに、すっごく強い。たぶん、今のフィア君じゃぁ太刀打ちできないんじゃないかなぁ?」
「…………」
 フィアは黙り込んだ。
 結果的にフィアはバッジを手に入れたものの、イチジクを倒したのはイオンだ。どころか、バンガキとトウガキの二人を倒したのもイオン。フロルやフィアが事前にポケモンの体力を削るなどをしていたとはいえ、今回のジム戦は、ほぼすべてイオンの力によって突破したようなものだ。
 フィア個人として、ジムリーダーに打ち勝ったわけではない。
 まだ自分は、弱いのだと実感する。
 イチジクを倒せないフィアが、彼が強いと言わしめるジムリーダーたちとのジム戦を突破できるはずもない。
「ど、どんな人たちなんですか? そのジムリーダーって……」
「イトゥルフには多くのジムがあるけどよ、その中でも四人。とりわけて強いのがいる」
「ホッポウ地方最大の軍隊を率いるムゲツシティのジムリーダー、トクサ。四天王ルフルの妹にしてツチフルシティのジムリーダー、ルベリ。死神という異名で恐れられるヨイヤミシティのジムリーダー、リンネ」
「んで極めつけは、あの男だな」
 列挙されていくジムリーダーたち。その断片的な情報だけではいまいちピンとこないが、最後の一人だけは、格が違った。

「現時点で公式戦記録無敗。彼がジムリーダーとして就任してから、いまだかつて誰も彼を倒すことはできていない。リッカシティのジムリーダー——ハッカ」

「誰も倒したことがない、ジムリーダー……!」
 まだこの世界に疎いフィアでも、それがどれほど凄いことであるかは、なんとなく想像がつく。
 今まで一度も負けたことがないという無敗記録。それはどのような世界であっても、そう簡単に打ち立てられるものではない。
「……話だけなら、ちょーっと聞いたことあるかな。リッカシティのジムリーダーは、規格外だって」
 イオンも穏やかでない表情だ。それほどに、ハッカというジムリーダーは、強いのだろうか。
「この四人は四天王候補筆頭って囁かれてるくらいには強いんだよねぇ。ぼくもバトルしたことあるけどさぁ」
「めちゃくちゃボコボコにされてたよな、兄ちゃん」
「ぼくも本気だったんだけどねぇ」
 まるであのジム戦では本気ではなかったかのように言い分だが、イチジクは終始余裕のある立ち振る舞いをしていたので、もしかしたらそうなのかもしれない。
「というわけだからぁ、イトゥルフ島はまだちょっとやめておいた方がいいんじゃないかなぁ?」
「そ、そうみたいですね……」
「オレもオレも。イトゥルフ島はやめとこやめとこ」
 話を聞くだけでも恐ろしい。ここは素直にイチジクの忠告を聞きいれることにした。
「幸い、明後日には同じ港から、クナシル島へと向かう船が来ます。それに乗っては如何でしょうか」
「それにぃ、明日はハルサメタウンでバトル大会があるからねぇ」
「バトル大会?」
「ポケモンバトルの大会だよぅ」
「いえ、それはわかるんですが……」
「この地方は、色々事情が特殊でしてね……比較的寒冷な気候や、新種のポケモンがいないなどの理由から、観光客にもあまり見向き去れないのです」
「だから俺たち劇団みたいな団体が色んなところで活動して、この地方の良さも一緒に触れ回ってんだ」
「その観光客を増やす取り組みの一環が、港で行われるバトル大会です。ジム巡りなどの旅をするトレーナーの交流や腕試し、レベルアップを図る催しでもあり、かなり活気のある大会ですよ」
「大会……でも、僕みたいなのが出ても、すぐ負けちゃうんじゃ……」
「敗北も経験ですよ、フィア君。失敗を恐れないでください」
「そーだぜ。それに、大会はバッジの個数——つまり、トレーナーのレベルに合わせてレギュレーションが分かれてるから、同じくらいのレベルのトレーナーとバトルできる。心配するこたぁねーよ」
 さらにハルサメタウンの大会は、比較的小規模。ジムが一つしかない島であるため、参加人数が少なく、駆け出しのトレーナーが多いらしい。
「ちなみにねぇ、その大会の解説にはぼくも呼ばれてるんだよねぇ」
「あ、だから大会のこと知ってたんですね」
「大会には優勝賞金、賞品も出るし、出る価値はあると思うよぅ」
 実利的な面でも、大会参加を勧めるイチジク。
 自分が解説として赴くからなのか、やけに推してくる。
「とはいえ、私たちに無理強いはできません。お節介な先人からのアドバイスと思ってください」
「はぁ……」
 トウガキがフォローを入れる。
 しかし、イチジクの言うことにも一理ある。
 フィアは結局、ジムリーダーに勝てていない。まだまだ未熟なのだ。
 もっとバトルをして、経験を積んで、フィア自身がレベルアップしなければ、この先のジムリーダーを倒すことはできない。
「……どうしよう」
「オレは出てもいいかな、バトル大会。優勝賞金とかはあんま興味ないけど、どーせ船が来るのは明後日で、明日はずっと暇だし? だったら大会に出て腕試しするのが有意義じゃん?」
「……フロルは?」
「んー、わたしも、出てみようかなって、思ってる」
 二人とも乗り気だ。
 うじうじと考えているのは自分だけだったようだ。二人に便乗するつもりはないが、二人も出るならどこか安心だ。
「じゃあ、僕も出ようかな……」
「やったぁ。いやぁ、大会参加者が少ないから、運営の人に呼びかけしてくださいって言われてたんだけどぉ、劇の練習ですっかり忘れちゃってたんだよねぇ。人数が足りなくて大会が中止になっちゃったら、ぼくのお仕事もなかったことになっちゃうしぃ、三人も集まったよぅ。いやぁ、よかったよかったぁ」
 それが本音か。
 抜けているようで、案外ちゃっかりしているイチジクだった。
 バッジは受け取り、今後の方針も決まった。三人は今一度礼を言ってから、ジムを出る。
「やー、大変だったけど、なんとかジムバッジゲットできたねー」
「ほとんどイオン君のお陰だけどね……」
「まーまー、フィア君たちも頑張ったよ。王子を目覚めさせるきっかけとか、トウガキさんとイチジクさんのポケモンを消耗させたりとかしてくれて、オレもすっげー戦いやすかったし」
 恐らく本音もあるのだろうが、フィアたちをフォローするイオン。
 彼も彼で、人の好い少年だ。
 さて、ジム戦も終わり、大会は明日。時間は昼過ぎ。
 まずはポケモンセンターに戻って昼食を摂り、それからどうしようかと思っていたところで、どこからか甲高い声が聞こえる。

「——泥棒!」



あとがき。我ながら、ジム戦後の雑談が長すぎないかと思います。こんなんで4000字ほど使っておりますよ。シナリオ自体に大きな変更はないんですけど、テンポは凄く悪くなっている気がします。ここでジムリーダーの名前が一気に明らかに。特に大きな意味はないというか、ほとんどハッカのための名前出しです。とにもかくにも、文章量は増えてもシナリオはあまり変わらず。次回もこのまま行きます。お楽しみに。

第19話 砂礫洞穴 ( No.26 )
日時: 2017/01/07 23:46
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「——泥棒!」

 甲高い声が聞こえた直後、二つの黒い影がフィアたちのすぐそばを横切った。
「え?」
「わわっ」
「え、なになにー? なんなの?」
 なにが起こったのか、いまいち把握できていない。先ほどの叫び声もあり、ぞろぞろと人が集まり、何事かと騒ぎ立てている。
 ざわめきから聞こえてくるのは、なんだなんだ、という動揺の声。
 そこから聞こえてきた一つの言葉——ポケモン泥棒。
「ポケモン泥棒……?」
「……行くよフィア君! さっきの連中を追いかけよう!」
「え? イ、イオン君!? ちょ——!」
「フロルちゃんは警察に連絡! よろしく!」
「ふぇ?」
 いきなりイオンに腕を引っ張られ、引きずるように連れ去れてしまう。フロルもなにを言われたのか、きちんと理解しているのか怪しいところだ。
 しかしイオンの疾駆は止まることなく、フィアはイオンの手によって、あっという間にその場から消え去った。



「イ、イオン君! 急にどうしたの?」
 途中でなんとか腕を振り払ったフィアは、イオンと並んで走っている。どこへ向かっていて、なんのために走っているのかは、自分でもよくわからない。
 確か、泥棒とか、追うとか、なんとか。そんな言葉だけが頭の中に残っている。
 それらを繋げて現状を整理すると、街中で盗みが発生し、その犯人を追いかけているということなのだろうが、
「流石に目の前で泥棒なんて見せつけられたら、追わないわけにはいかないじゃん?」
「そうかなぁ……」
 フィアの常識では、犯罪者は警察に一任すべきだと思うのだが、この世界では違うのだろうか。
 それとも、イオンの考えでは、そうなっているのか。
「……それに、こーゆーのって、ちょっと許せないんだよね」
「……? イオン君……?」
「とにかくだ」
 一瞬、どこかイオンの雰囲気が変わったように感じたが、見ればイオンはいつもの彼だ。
「もっと急いだ方がいいかもね」
「ところで、どこに向かってるの? 泥棒の姿は見えないけど……」
「姿は見えなくても、考えればどこに行くかは推測できるよ」
 イオンは言った。
「チラッと見えたけど、あの泥棒たちはたぶん、グリモワールだ」
「ぐりも……? って、なに?」
「グリモワール。オレも詳しいことはよくわかんないけど、なんか最近、犯罪者を刑務所から解放して回ってるって噂の、犯罪者集団だよ。今も各地で色々悪さしてるって話」
「なんだか、危なそうな人たちだね……」
 犯罪者集団。その言葉だけで恐ろしい。
 フィアが元いた世界では、そうそう聞くことのない言葉だけに、この世界とのギャップを今更ながら感じる。
「そーゆー連中がポケモンを盗む理由は、売りさばくか、自分たちで使うかってところだと思うんだよね。あの場での盗みだったらほとんどひったくりだし、そうなると、この近くに一時的な隠れ家を用意していると考えられるよね」
「う、うん……そうかもしれないね」
 推理としては筋が通っている。ここまで数分とない時間で、そこまで考えていたのか。ずっとパニックになっていたフィアとは大違いだ。
 バトルが強いだけでなく、イオンは観察眼に優れ、頭の回転も早いのかもしれない。
「そのまま走っていった方向から、大雑把に向かった方角はわかる。んで、この方向にある隠れられそうな場所と言えば——」
 そこで一旦、言葉を止めるイオン。
 同時に、足も止めた。つられてフィアも立ち止まる。
 そして、息を飲んだ。目の前に広がっている、“それ”に。

「——ここ、砂礫の穴しかないっしょ」

 そこには、深淵まで続く巨大な洞穴が、開かれていた——



 砂礫の穴、というらしい。
 その名の通り、穴——洞窟の中は土ではなく大量の砂や礫が地面を覆っている。
 こんな場所はすぐに崩れてしまうのではないかとフィアは思ったが、イオンが言うには、この穴は元々ポケモンが巣穴で、壁が崩れないようポケモンが岩などで硬くコーティングし、それが長い年月を経て固まったため、今のような地形になったという。
 分かったような分からないような説明だが、フィアの常識ではこの世界は測れないようなので、無理やり納得した。
「オレも特訓するために何度かこの穴に入ったけど、かなり広くて奥まで行けなかったんだよねー。だからこそ、逃げ込むならここと思ったわけ」
「でもそれ、どっちにしても探すの大変じゃない……?」
 取り逃がすよりはマシだろうが、それだけ広いなら探すのも難しいだろう。
 そう思っていたら、前方から話し声が聞こえてきた。
「なぁ、さっきここを走ってった二人、なんだったんだ?」
「さーな。なんかモンスターボール持ってたし、どっかで戦力補給でもしてたんじゃねーの?」
「え? でも確か強奪しての戦力補給って、非推奨行為じゃ……」
「バーカ、そんなの律儀に守ってる奴なんざいるわけねーだろ。その辺で捕まえた野生のポケモンより、トレーナーが育てたポケモンの方が強いんだから、他のトレーナーからぶんどるのが効率いいに決まってんだろ。推奨はされてないが、禁止にもされてないしな」
「はぁん、そんなもんか」
 下っ端と思しき二人組の会話。その内容から、この奥にポケモンを奪ったというグリモワールがいることはほぼ当確だ。
「イオン君、あれがグリモワール?」
「たぶんねー」
 ボールを取り出し、イオンはフィアに目配せする。このまま進んでもあの二人に止められるので、無理やり突破するつもりのようだ。
 回復は、ジム戦後にイチジクらの厚意で済ませている。フィアもボールを握り、イオンと共に飛び出した。
「っ、誰だ!」
「止まれ!」
 こちらの存在に気付いた下っ端たちは、慌ててボールを取り出しながらこちらに向かって叫ぶ。
「行くよ、サンダース!」
「出て来て、イーブイ!」
 イオンとフィアは同時にサンダースとイーブイを繰り出した。それに合わせて、下っ端もボールを放り投げた。
「よく分からんが、ここは通すなと言われているんだ! 行け、メグロコ!」
「出て来い、スコルピ!」
 下っ端が繰り出したのは、黒い縞模様のあるの鰐のようなポケモンと、薄紫色の蠍のようなポケモンだ。

『Information
 メグロコ 砂漠鰐ポケモン
 砂漠に生息するポケモン。
 体温を低下させないために
 日中は砂の中に潜って生活する。』

『Information
 スコルピ ポケモン
 長い期間、なにも食べなくても
 生きていけるため、砂漠などの
 乾いた土地にも生息している。』

「地面イプのメグロコに、虫タイプのスコルピか」
 スコルピはともかく、メグロコは電気技が通じず、逆に地面技で弱点を突かれてしまうため、相性では不利だ。
 だがイオンの表情に焦りは見えない。むしろ余裕の笑みを浮かべていた。
「フィア君、援護をお願い」
「う、うん、分かった。イーブイ、手助け」
 イオンの言葉で彼の言わんとしてることを察し、フィアはイーブイに指示を出す。
 イーブイは淡い光を発し、それをサンダースに纏わせる。やがて光は消えていったが、サンダースは見るからに力に満ちていた。
「よし、じゃあ速攻で決めようか。サンダース、二度蹴り!」
 サンダースは持ち前のスピードでメグロコに急接近し、一撃目の前蹴りで空中に蹴り上げ、二撃目で跳び上がりメグロコを蹴り落とした。
 たったそれだけの攻撃だが、手助けで強化し、弱点を突く連撃だ。二度蹴りだけでメグロコは戦闘不能になってしまう。
「な……っ!?」
「こいつ……!」
「イーブイ、僕らもやろう。目覚めるパワー!」
 イーブイも赤く燃える球体を発射し、スコルピを燃やす。炎タイプの目覚めるパワーは虫タイプのスコルピには効果抜群だ。
「とどめっ、サンダース、電光石火!」
 大きく削られたスコルピにサンダースの電光石火が直撃。スコルピは吹っ飛ばされ、戦闘不能となった。
「なっ、俺のメグロコが……!」
「まさか、こんなに早く……!」
 下っ端たちはあまりに早く倒されたためか、目を見開いて驚愕している。
「んじゃ、さっさと先に行こうか」
「あ、イオン君! 待って!」
 その隙に、イオンとフィアは下っ端の脇を通り過ぎて砂礫の穴の奥へと進んでいった。



あとがき。リメイク前と変わらない展開です。ポケモンシリーズ恒例の、悪の組織によるポケモン泥棒。これ、現実の世界にたとえたら、犬猫を盗むようなものなのか、それともひったくりとか置き引きみたいなものなのか、どう考えたらいいんでしょうね。ポケモンという存在が、ポケモンの世界観においてどのような位置づけになっているのか。それは現実の基準で測るのが難しいです。それはそれとして、下っ端の片割れの手持ちが、ツチニンからスコルピに変わっていたりしますが、あまり意味はありません。次回はグリモワール追跡の続きです。お楽しみに。

第20話 流砂捕縛 ( No.27 )
日時: 2017/01/08 08:43
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 砂礫の穴の奥には、下っ端と思われるグリモワールの団員が二人いた。二人とも走って来たために息を切らしているが、脇に抱えたモンスターボールの入った袋はしっかりと持っている。
「なぁ、今更ながら聞くが、誰か追って来てなかったか?」
「さあな。でも流石にここまで来れば大丈夫だろ」
「そうか、そうだな。いざとなればサタン様もいるし、大丈夫か」
「そうそう、大丈夫大丈夫、追っ手なんかここまで来たりは——」
 と下っ端の一人が今さっき走ってきた穴を見ると、奥から二つの人影が飛び出した。
「見つけたっ、グリモワール!」
 飛び出したのはフィアとイオンだ。足元にはイーブイとサンダースもいる。
「……おい、なにが大丈夫だ! いるじゃねぇか追っ手!」
 二人の姿を確認するや否や、下っ端の一人がもう一人に向かって叫ぶ。もう片方の下っ端は冷や汗を垂らし、焦ったような表情を見せたが、すぐに気を取り直し、
「だ、大丈夫だ! 所詮は子供のトレーナー、二人がかりでやれば返り討ちにできるはずだ!」
 と言い返す。
 その言い分で下っ端二人は納得したようで、共にボールを構える。
「よし、じゃあ行くぞ! サンド!」
「こんなガキども、蹴散らしてしまえ! サボネア!」
 下っ端が繰り出したのは、砂のような体色のポケモンと、全身が棘で覆われたサボテンのようなポケモンだ。

『Information
 サンド 鼠ポケモン
 乾燥した土地に好んで住みつく。
 岩のように硬くなった皮膚は、
 丸くなることでどんな攻撃も弾く。』

『Information
 サボネア サボテンポケモン
 雨が降らない砂漠を住処にする。
 三十日間、水を飲まずに生きる
 ことができ、過酷な環境にも屈しない。』

「連戦で相性も悪いけど、時間が惜しい。さっさと決めちゃうかー。フィア君!」
「うん、分かった。イーブイ、サンダースに手助けだ」
 イーブイは淡い光を発し、サンダースに力を与える。そしてサンダースは一気にサンドへと接近し、
「先手必勝! 二度蹴り!」
 勢いよく足を突き出し、強烈な前蹴りを繰り出したが、
「サンド、丸くなるだ!」

ガィンッ!

 と、鈍い音が鳴り響く。
「い……っ?」
 文字通り、サンドは身体を丸めて防御の体勢を取った。そこにサンダースの蹴りが炸裂したのだが、サンドは全く動じず、逆にサンダースの二度蹴りを弾き返してしまったのだ。
「かってー……丸くなるか。これは参ったなー……」
 丸くなる。シュンセイジムでイチジクのネッコアラも使っていた技だ。
 その効果はポケモンの防御力を上げるだけの基本的な技だが、サンドがこの技を使えば、硬い表皮で覆われた背中で相手の攻撃を防ぐ盾となる。
 図鑑説明にもあるように、サンドの皮膚は岩のように硬い。生半可な物理攻撃では、突破はできない。
「電気ショックは効かないし、オレのポケモン、覚えてる技は物理技ばっかなんだよねー……こりゃまずい」
 今まで余裕の表情だったイオンの顔に冷や汗が浮かぶ。浮かべている笑みも、苦笑いだ。
 それを見て、下っ端たちは調子づく。
「これは、行けるんじゃねぇのか?」
「そうだな。サボネア、ミサイル針!」
「っ、躱して!」
 サボネアが全身の棘を射出して攻撃。サンダースは大きくバックステップして、それらの攻撃をすべて回避する。
「うーん、サボネアが懸念ではあるけども、流石に相性悪すぎ。ここは交代だ。サンダース、戻——」
 相性が悪いと見て、イオンはサンダースをボールに戻そうとするが、
「させるか! サンド、砂地獄!」
「うぇ!?」
 次の瞬間、サンダースの足元に流砂が発生し、サンダースの動きを止めてしまう。さらにボールから発せられた光も、砂地獄は打ち消してしまった。
 砂地獄は威力は低いが、相手に継続してダメージを与え、なおかつ交代を封じる技。今のサンダースには非常に厄介な技だ。
「こんなタイミングで砂地獄はきついよー……」
「イーブイ、サンダースを助けよう。サンドに目覚めるパワー!」
「させるか! サボネア、騙し討ち!」
 イーブイは燃えるエネルギー弾を放ってサンドを攻撃しようとするが、いつの間にか接近していたサボネアに殴り飛ばされ、それも敵わない。
「サンダース、ミサイル針だ!」
「サボネア、こっちもミサイル針!」
 サンダースとサボネア。両者のミサイル針が互いにぶつかり合い、相殺し合う。
 いや、僅かにサボネアの方が威力も数も上回っている。サボネアのミサイル針が、サンダースに突き刺さった。
「連続切りだ!」
 さらに、その隙に接近していたサンドが、鋭い爪でサンダースを切り裂き、
「ニードルアーム!」
 今度はサボネアが太い腕を振り回し、サンダースに殴りつける。
 下っ端たちはイオンとサンダースの方が強いと見てか、明らかにサンダースを狙い撃ちにしていた。
「まずい、このままじゃサンダースが……!」
 サンダースは砂地獄のせいで、強みの機動力を失っている。おまけに交代もできず、いい的だ。
 フィアとイーブイで、この状況をなんとかしたいところだが、
「サンド、スピードスター!」
 星形のエネルギー弾がイーブイとサンダースに降り注ぐ。
「くっ……!」
「うわぁっ!」
 イーブイ一体では、サンドとサボネアに太刀打ちできない。
(……また、負けるの……?)
 シュンセイジムの時のように。
 イチジクとバトルした時のように。
「サンダース、ミサイル針!」
「サボネア、こっちもミサイル針だ!」
「サンド、スピードスター!」
 動けないサンダースが放てる技は、電気ショックとミサイル針のみ。電気ショックはほとんど効果がなく、ミサイル針もパワーで負ける。
 相手のミサイル針のスピードスターの二重攻撃で、どんどんこちらの体力も削られているが、特にサンダースは砂地獄のダメージもある。消耗はイーブイよりもずっと激しい。
「こいつもくれてやる! サボネア、宿木の種!」
 サボネアが、なにかの種子をサンダースに飛ばす。それ自体でサンダースがダメージを受けることはなかったが、種がサンダースに触れると、即座に割れ、中から急成長した蔓がサンダースに絡み付いた。
「宿木の種……そんな技まで……」
「これでじわじわ体力も奪い取ってやるぜ。サボネア、ミサイル針!」
「サンド、スピードスターだ!」
 グリモワールの攻撃は止まらない。相手の攻撃に押され、イーブイも、サンダースも、なにもできない。
 なにもできない、自分自身も。
(ジム戦は、負けても後があった……でも)
 このバトルに、後はない。
 負けたらどうなるかわからない。相手は、犯罪者の集団なのだ。
 無事でいられる保証なんて、どこにもない。
「ニードルアーム!」
「砂地獄!」
「ぐぅ。ここはなんとか耐えて、サンダース……!」
 次々と繰り出される攻撃を、必死で耐え凌ぐサンダース。足が奪われ、避けることもできないので、ひたすら耐える。
(……そうだ、負けられないんだ)
 負けては、いけないのだ。
 それに、
(ジム戦の時は、イオン君が助けてくれた。だから)
 今度は、自分が助ける番だ。
 そう、奮い立たせるが、
「イーブイ、電光石火!」
「! サンド、丸くなる!」
 丸まったサンドの硬い皮膚は、イーブイの攻撃などものともしない。
 そして、
「えぇい鬱陶しい! サボネア、ニードルアーム」
「イーブイ!」
 サボネアの刺々しい腕が叩きつけられ、吹っ飛ばされる。
 イーブイだけでは、やはりあの二体には勝てない。
(なにか、なにか手はないの……?)
 辺りを見回す。だが、いくら見ても、そこにあるのは砂礫だけ。
(僕のイーブイは砂地獄を受けてないし、ミズゴロウに交代する? サンドなら倒せそうだし……でも、サボネアが……)
 ミズゴロウはサンドに強いが、サボネアには非常に弱い。
(あ、ミズゴロウがダメでも、ダイケンキなら……いや、ダメだ。今は凄いピンチだし、あのダイケンキを出しても、博士は許してくれそうだけど……)
 今手元にダイケンキはいない。ジム戦に際して、ポケモンセンターに置いて来たのだった。
 戦えるのは、イーブイとミズゴロウだけ。ミズゴロウの交代には、不安が付きまとう。
 しかしこのままではジリ貧。ならば一か八かとイーブイのボールを取り出したところで、
「サンド、砂地獄だ!」
「あ……っ」
 イーブイも、砂地獄に囚われてしまった。
 まずい、とフィアの焦りがさらに募る。
「スピードスター!」
 サンドの追撃が伸び、焦燥が加速していく。
 このままでは、本当にどちらもやられてしまう。
(イーブイは交代できないし、ダイケンキもいない……ん? ダイケンキ……)
 なにか、引っかかった。
 ダイケンキだけではない。確か、他にも大事なものがあったような——

 ——それと、そっちの石は炎の石っつーアイテムだ。そっちも、やべぇ時にイーブイに触れさせてみろ。まぁやばくない時でもいいが、使うかどうかはお前次第だ——

「!」
 そうだ、と思い出した。
 フィアがあの日、博士から受け取ったもの。それは、ポケモン図鑑という便利なアイテム。ミズゴロウという新しい仲間。ダイケンキという大事なポケモン。そして、
「炎の、石……!」
 燃えるように熱い、この石だ。
 この石がどのような意味を持つのか、フィアにはわからない。しかし、これがこの状況を打開するなにかになると、信じた。
 それは祈り。ただの願望であったが。
 もうこれしかないと、フィアは熱く燃え滾るその石を握る。
「イーブイ!」
 フィアは叫び、手にした炎の石を放物線を描くように投げつける。イーブイは砂地獄に囚われつつも、振り返って放られた石を見据える。
 イーブイは精一杯、身体を伸ばす。投げられた石は吸い寄せられるようにイーブイへと向かっていく。
 そして——

 ——イーブイは、光に包まれた。



あとがきになります。今回はグリモワール下っ端戦その2。下っ端でもたまに強い。モブトレーナーだって、たまに強いのがいるように、下っ端だってたまには強い奴もいるんです。ちなみに下っ端の手持ちは、リメイク前と変わってます。非公式のコゴボーは当然として、モグリューが変わっているのは、ちょっとばかし意味があります。コゴボーがなんでサボネアなんだよ、というのは……まあ、特に深い理由はないです。ただ、乾燥地に住むポケモンで固めたら面白いんじゃないかと思っただけです。前話のスコルピも大体そんな理由。どうでもいいですけど、こいつらの図鑑説明を見ると、乾燥しているところに住む、という説明がやたら多くてびっくり。では次回。リメイク前にこの作品を書き始めたきっかけが登場です。お楽しみに。

第21話 火炎進化 ( No.28 )
日時: 2017/01/08 13:21
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「っ、これは……!」
「なっ、なんだ!?」
「何が起こっている!」
 驚きの表情を見せるイオンや下っ端たち。そんな中、イーブイは炎の石の力により、光の中でその姿を変化させていく。
「イーブイ……!」
 光が収まると、そこにいたのはもうイーブイではなかった。
 赤い体色に、頭部や首回り、尻尾を覆う体毛。その姿は、あたかも炎を纏っているかのようだ。

『Information
 ブースター 炎ポケモン
 炎袋で溜めた炎は900℃以上
 にもなる。非常に力が強く、鉄骨
 を軽々と吹き飛ばすパワーを持つ。』

「ブースター……イーブイの、進化系……?」
 図鑑を開き、フィアはイチジクの言葉を思い出した。色々な進化の可能性を秘めているとは、こういうことだったのだ。
 となると、このブースターが、フィアにとっての自分らしい進化の形なのだろうか。
「ブースター……」
 ブースターはフィアを目を合わせ、すぐにサンドとサボネアに向き直る。そして刹那、炎が噴出し、ブースターを縛り付ける砂地獄を吹き飛ばしてしまった。
「す、凄い……! これが、進化したポケモンの力……!」
「フィア君!」
 突然イオンが大声を上げ、フィアはビクッと体を震わせた。
「っ、イオン君……」
「ブースターの技を見るんだ。ポケモンは進化すると新しい技を覚えることが多い。もしかしたら、この場を切り抜ける技を覚えているかもしれない」
「そ、そうなんだ。わかった」
 言われてフィアは、図鑑でブースターの技を調べる。確かにブースターの技はガラリと変わっていた。
「えーっと、まずは……これかな。ブースター!」
 フィアは図鑑に表示された技名を指でなぞり、ブースターに指示を出す。
「ニトロチャージ!」
 ブースターは全身に炎を纏い、駆け出す。そして勢いよくサボネアに突撃し、吹っ飛ばした。
「なっ!? サボネア!」
 たった一撃でサボネアは目を回し、戦闘不能となってしまった。弱点を突いたとはいえ、その一撃でブースターの攻撃力はかなり高いことが分かる。
「強い、なんてパワーだ……!」
 イーブイの時とは比べ物にならない圧倒的な攻撃力。その姿、そのバトルに、フィアは思わず見入っていた。
「くそっ! サンド、スピードスター!」
「! 火炎放射!」
 サンドが放つ星形のエネルギー弾を、放射状の炎で焼き払う。
「ニトロチャージ!」
 そして、即座に突貫。炎を纏ってサンドを突き飛ばす。
「速い……!」
「ニトロチャージは攻撃と同時に素早さを上げる技なんだ。サンド程度の素早さじゃ、もうブースターには追いつけないだろうね」
 驚くフィアに、イオンが解説をする。ブースターはパワーだけでなく、スピードも手に入れたようだ。
「凄いよ、ブースター!」
 フィアが称えると、ブースターは嬉しそうに鳴く。
 そして、その称賛に応えようと、炎を吹き出して高まる気概を見せた。
「よし、行くよ。アイアンテール!」
「畜生が! 丸くなる!」
 鋼鉄のように硬化させた尻尾が、サンドを打ち据える。サンドは丸くなるで防御力を上げるものの、ブースターのパワーの前ではダメージを殺しきれず、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。
「今だブースター! 起死回生!」
 そしてサンドが立ち上がったところで、全身全霊の力を込め、突撃する。
 丸くなる隙も与えず、その一撃が叩き込まれ、サンドはバタリと倒れた。
「っ、サンド!」
 サボネア同様、サンドは完全に目を回している。
 戦闘不能だ。



「さーて、観念してもらおうかな?」
 下っ端二人を撃破したフィアとイオン。下っ端たちはもうポケモンを持っていないらしく、唸りながら少しずつ後退していく。
「ま、まずいぞ……どうする?」
「どうするもこうするも、どうしようもないぞ、これは……」
 焦る下っ端たち。フィアとイオンはポケモンと共にジリジリと下っ端に詰め寄っていき、圧力をかけていく。
 その時だった。

「騒がしいな……何をしている?」

 砂礫の穴のさらに奥から声が響く。
 フィアたちが声のする方向に目を向けると、そこには大柄な一人の男がいた。
 逆立った赤黒い髪。なにかに怒っているかのような、厳めしい眼光。
 服装は、素肌の上から特攻服のように改造されたグリモワールの制服を直接羽織っており、フィアの第一印象は“不良”か“ヤンキ−”だった。
「サ、サタン様……!」
 その男の姿を見るや否や、下っ端たちはビシッと姿勢を正す。どうやらこの男は下っ端の上司にあたる人間のようだ。
 サタンと呼ばれた男は下っ端たち、フィアとイオン、そして盗まれたボールにそれぞれ目を向け、
「……成程な。何があったのかは大体察した。てめえらはいつもいつも、くだらねえことばっかしてんな」
 ドスの利いた声で、サタンは下っ端たちを叱咤する。
「強くなりてえと思うことは悪かねえが、ほいほいポケモンを持ってきたところで強くなれるわけがねえだろうが。んな小手先で勝てるってんなら、世の中マモンみてえな泥棒まみれだっつう話だ。ちったあ考えやがれ馬鹿野郎どもが」
「し、しかしサタン様……」
「あぁん?」
「ひっ……」
 サタンが凄むと、それだけで下っ端は黙り込んでしまった。
「それと、てめえらもだ」
 サタンは今度はフィアたちの方を向き、睨むように目を向ける。
「大方、この馬鹿どもが馬鹿なことしたのを見てここまで来たんだろうが、場合が場合ならそれは無謀ってもんだ。ベルフェじゃねえが、てめえらとの戦闘は任務外だから今回は見逃してやる。だが、他の連中が相手なら、無事じゃ済まねえだろうよ」
 言ってサタンはフィアたちの脇を通過し、
「あんまり俺たちみてえなのに首を突っ込まねえ方が身のためだ。覚えとけ、ガキ共」
 それだけ言い残すと、出口へと歩いて行った。下っ端たちも急いでそれを追い、やがてこの場にはフィアとイオンだけになった。
「……?」
 ふとフィアは振り返り、サタンの後姿を見る。すると彼の背に描かれた、グリモワールのシンボル——アルファベットのGを円形に記号化したもの——が目に入った。
 それは今まで下っ端たちの制服にも描かれていたのだが、サタンの背にはそれだけでなく、シンボルマークに斜めの線が引かれていた。
「あれは……?」
 その斜線は、まるでグリモワールという存在を、否定するかのようだった。


 その後。
 フロルが通報したことで警察が砂礫の穴までやってきて、グリモワールの捜索が行われたが、中にグリモワールは一人も残っていなかったという。
 砂礫の穴は入口が複数あるので、フィアたちの侵入を機に、逃げ出してしまったのではないかと、警官の一人は推理していた。そのことには責任を感じるが、警察側は特に咎めるようなことはしない。なにより、盗まれたポケモンを取り返したということを讃えられた。
 グリモワールがなぜこの穴にいたのか、なにが目的だったのかはわからない。ポケモン泥棒も下っ端の独断行動だったようで、連中がここにいた理由は闇の中だ。
「なーんか釈然としないねー」
「うん……」
 一応、規則ということで警察からの取り調べを受けたフィアとイオンは、それらが終わり、ポケモンセンターに帰る途中だった。
 グリモワール。下っ端たちを倒し、ポケモンも取り返した。それだけでフィアたちの目的は達したのだが。
 サタンと呼ばれるあの男。その存在が、どこか引っかかる。
「ま、考えてもしゃーないかなー。それより今は、明日のことだね」
「明日……?」
「もー、忘れないでよフィア君。明日はバトル大会っしょ?」
「あ、そうだったね」
 ジム戦にポケモン泥棒と、一日のうちに色々なことが起こりすぎたため、すっかり忘れていた。
「小さい大会みたいだし、フィア君と当たることもあるかもだけど、手は抜かないからねー」
「う、うん……」
 思えば、イオンと初めて出会って、バトルしたのはつい昨日の出来事だ。
 こんなにすぐに、リベンジの機会が訪れた。
 次は勝ちたいと思う。勝てるかもしれないと、思える。
 フィアの経験こそまだ浅いが、進化したブースターなら……
 そんなことを考えながら、フィアは明日の大会に思いを馳せる——



あとがき。イーブイ進化の回です。作者はブラッキーやリーフィアみたいな受け気味のブイズが好きなんですが、ブースターもかなり好きな部類です。(リメイク前の)この作品を書き始めた時の方針も、唯一王の革命、と称してブースターを活躍させる予定でした。この地方でしか覚えない技云々という設定も、ブースターにフレアドライブを習得させて読者を驚かせるサプライズに持っていくつもりだったんですが……覚えちゃったんですよね、フレアドライブ。それ自体は嬉しいんですが、なんというか、そこはかとなくやられたという感があります。まあ、それはそれとして、なんとか書いていくつもりなので、よろしくお願いします。次回はハルサメタウン、バトル大会。シナリオはやはりリメイク前通りですが、次回もお楽しみに。

第22話 大会開催 ( No.29 )
日時: 2017/01/08 19:03
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ホッポウ地方は三つの島と一つの諸島からなる地方。そのため各島には多くの港町が存在し、そこでは観光客のため、また旅するポケモントレーナーのため、定期的にバトル大会などの催し物が開かれている。
 そして今日もまた、シコタン島の北端に位置する港町、ハルサメタウンにてバトル大会が催されていた。
「使用ポケモンは各試合一体ずつで、三回勝てば優勝か……本当に小さい大会なんだね。トウガキさんの言ってた通りだ」
 フィアはP・ターミナルに送信された大会の要項を読み上げる。
 バトルのルールは、一対一のポケモンバトル。出場ポケモンの制限なし、など様々なことが書かれていたが、フィアには理解できない説明も多々あった。
 また、優勝賞品はポケモンのタマゴ。賞金は五万円らしい。
 ポケモンはどうやって繁殖するのだろうと思ったが、普通にタマゴが存在するらしい。
 要項を一通り読み終えると、P・ターミナルを閉じる。フィアとフロル、そしてイオンは既にエントリーを終えており、今は組み合わせの発表待ちだ。
「わたし、こういう大会に出たの初めてだよ。緊張するなぁ」
「それを行ったら僕もそうだよ。なんというか、こういうのの勝手がよく分からない……」
「ま、それで言ったら、オレも大会ってのは初めてだし、結局はポケモンバトルなんだから、気負いすぎない方がいいよー? へいじょーしんへいじょーしん」
「あはは……そうだね」
 イオンの気楽さが羨ましいと思いつつ、P・ターミナルにトーナメント表が送られてきた。
「お? トーナメント表、できたんだ。どれどれー?」
「僕はの相手は……ノニって人か。フロルとイオン君は——」
 表を指でなぞっていき、フロルとイオンの対戦相手の名前を見て、フィアは息を飲む。
「イオくん……」
「いきなりだねー、フロルちゃん。ま、よろしく」
 フロルとイオンは、初戦でお互いが対戦相手となっていた。
 小さい大会だから、三人がそれぞれ当たることもあるだろうと思っていたが、いきなりだ。
「えっと、二人とも、頑張ってね」
「う、うん。がんばる」
「フィア君もねー。対戦カード的に、フィア君が勝てば、オレかフロルちゃんのどっちかと当たるし」
「あ、本当だ……」
 決勝で戦うというありがちな展開は、最初から望めないようになっていた。
 なにはともあれ。
 ホッポウ地方港町恒例のバトル大会、ハルサメタウン大会。
 フィアにとって初めての大会戦が、始まる。



『さあ、いよいよ始まりました、ハルサメタウンバトル大会。今回は特別に、解説としてシュンセイシティのジムリーダー、イチジクさんに来ていただきました。イチジクさん、今日はよろしくお願いします』
『うん、よろしくねぇ』
 放送席では、アナウンサーと解説役として呼ばれたらしいイチジクが軽く挨拶を交わしていた。
 格好は公演中の時とは違う。黄色い三本線の入った寝巻のようなTシャツとジャージを着ており、その上からは、毛皮だろうか、少しくすんだ水色のコートを羽織っていた。
『それでは今大会の一回戦、第一試合、フィア選手とノニ選手の出場です』
 小さな町にしては立派なフィールドに立つフィア。観客も少なからずいるので、かなり緊張する。
 相手はフィアよりも幼いように見える、小柄な少年だ。ムスッとした顔で口をつぐんでボールを構えている。
「よ、よろしくお願いします……」
「……どうも、よろしく」
 少年——ノニはぶっきらぼうに返す。どこか機嫌が悪そうに見えるが、そういう性分なのかもしれない。
 フィアはノニと同じように、ボールを取り出し、構えた。
 それぞれボールを構えたのを確認すると、審判は旗を構える。
「両者ポケモンを出してください」
「は、はい。えと、まずはお願いね、ミズゴロウ!」
「出て来い、サンド!」
 フィアの初手はミズゴロウ。対するノニのポケモンは、昨日のグリモワールも使用していたポケモン、鼠ポケモンのサンドだ。
 ——と、思ったが、少し違う。
「……? 白い……? 色が違う?」
 そのサンドは、昨日見たサンドとは、明らかに違う体色だった。
 昨日のサンドは砂のような黄土色だったが、今目の前にいるサンドは、透き通るように白い。
 その白さは、まるで雪か、氷のような色だ。
『おっと、ノニ選手のサンド、色が違いますね。色違いの個体でしょうか?』
『んー……? ぼくはルベリちゃんと違って地面タイプの専門家じゃないし、よくわかんないけどぉ、なぁんか違う気がするねぇ』
 色違い。ポケモンにはそんな個体もあるのか、とフィアの知識がまた一つ増えた。
 フィアは今一度、図鑑でサンドを調べる。しかし出て来るのは、昨日のサンドばかり。白いサンドはどこにも載っていない。
 誰も見たことがない色のサンドに、会場もざわついている。やはり、珍しい個体なのだろうか。
 両者のポケモンがそれぞれフィールドに立ち、バトルの準備は完了した。
「それでは——始めっ!」
 審判の一声で、バトルが開始される。
 先に仕掛けたのは、フィアだった。
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 口から水流を発射するフィア。イオンに倣って、先手必勝の先制攻撃だが、
「サンド、高速スピン!」
 サンドはその場で丸まり、高速回転する。
 ミズゴロウが発射した水流はすべて、その回転で弾かれてしまった。
「! 水鉄砲が……!」
「今度はこっちからだ。メタルクロー!」
 サンドは両手の爪を振るい、ミズゴロウを引き裂く。鋼鉄のように硬い爪。ミズゴロウには効果いまひとつだが、パワーはなかなかだ。
「ミズゴロウ、負けないで! 岩砕き!」
「! かわせ!」
 メタルクローを耐え、ミズゴロウは岩をも砕く勢いで突撃するが、直線的な突撃は簡単に躱されてしまう。
 一度ミズゴロウから距離を取ったサンド。この距離なら、ミズゴロウの水鉄砲で有利な攻撃ができる。
 そう思って、水鉄砲の標準を定めようとしていると、
「氷柱針!」
「え!?」
 サンドは細く小さな、氷でできた氷柱のような針を無数に発射する。
 針はミズゴロウに突き刺さり、ミズゴロウは悲鳴を上げた。
「ミズゴロウ、大丈夫!?」
「もう一度、氷柱針!」
「水鉄砲だ! 撃ち落として!」
 再び放たれる氷柱針を、水鉄砲で撃ち落とそうとするミズゴロウだが、すべては落としきれず、何発か喰らってしまう。しかし効果いまひとつなこともあり、ダメージは小さい。
 それよりも、フィアは困惑していた。この不可解な技に。
「今の、氷タイプの技……?」
 サンドは本来、砂漠などの乾燥している土地を好む。
 氷は固体だが、元は水だ。その状態は不安定で、いつでも液体になり得る。
 そんなタイプの技を、地面タイプのサンドが覚えられるとは思えない。
 ひょっとすると、そう思っているのはフィアだけで、実はこれが普通なのかと思ったが、
『ノニ選手のサンド、なんと氷柱針を放った! 普通のサンドは氷柱針を覚えられないどころか、氷タイプは苦手なはずですが……これはどういうことでしょうか?』
 どうやら、そういうわけでもないようだ。
 アナウンサーや、観客までも疑念の声を上げている。
『……まさかねぇ』
 その中で、イチジクだけが、意味深に呟いていた。
「まだだ! 氷柱針!」
「っ、ミズゴロウ! 耐えて水鉄砲!」
 放たれる無数の氷の針。決して素早くないミズゴロウでは、あの数の攻撃を避けきることは難しい。
 ならばと、相手の攻撃をあえてすべて受け切り、反撃に出る。元々効果いまひとつなのだ。それに、来るとわかっている攻撃なら、耐えられる。
 反撃の水鉄砲もサンドに直撃。地面タイプに水タイプの技は効果抜群なので、大ダメージになるはず。
 だが、しかし、
「え!? き、効いてない……!?」
「いや、流石に効いたぞ。“おれが思ったよりも”、だけどな。高速スピン!」
 サンドは身体を丸めて高速回転。今度は、そのまま突っ込み、ミズゴロウを遠心力で撥ね飛ばした。
「ミズゴロウ!」
「手を休めるな! 乱れ引っかき!」
 回転を止めると、鋭い爪で何度もミズゴロウを引っかく。
 打たれ強いミズゴロウだが、こう何度も攻撃を喰らっていれば、体力的にも厳しい。
「反撃だよ、ミズゴロウ! 体当たり!」
「受け止めろ!」
 乱れ引っかきが止まったところで、ミズゴロウは全体重を乗せた体当たりを見舞うが、サンドに容易く受け止められてしまう。
「体当たりも効かないなんて……!」
「メタルクロー!」
 体当たりを受け切ったところで、サンドは鋼鉄の爪でミズゴロウを引き裂く。
 その一撃で、ミズゴロウはよろよろとよろめいてしまう。
「逃がすか! 乱れ引っかき!」
 サンドは攻撃の手を緩めない。追撃に爪による連続攻撃で、ミズゴロウを攻撃し続ける。
「ミ、ミズゴロウ……!」
 まずい。
 流石のミズゴロウでも、このままでは体力がもたない。
 それに、図鑑の情報と合致しない、相手のサンド。不可解な耐性と攻撃技。
 終始混乱してばかりだ。無知が動揺を生み、攪乱される。
 たたらを踏んでいれば、あっという間に落とされてしまう。
(……そういえば、シュンセイジム戦でも、こんなことあったな)
 あの時も、ミズゴロウだった。穴を掘るで攻撃を躱しながら攻撃するノコッチ。その攻略にも、ミズゴロウが頑張ってくれた。
 あの時はミズゴロウが自らの能力を駆使してくれたが、今回はミズゴロウの能力に頼ってばかりではいられない。
 自分で、考えなくてはならない。
(このバトルに勝つためにも、そして、僕自身のためにも……!)


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