二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
- 日時: 2017/01/26 02:02
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。
基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。
ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。
それでは、白黒の物語が再び始まります——
目次
プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3
シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36
クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76
登場人物目録
>>32
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
- 第30話 電撃少年 ( No.60 )
- 日時: 2017/01/18 00:18
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ポケモンの紛失事件。
事件という言葉から感じる、明らかに危険なにおい。
それと同時に違和感の残る言葉選びに、フィアは首を傾げる。
「紛失? 失踪、じゃなくてですか?」
「今のところ、なくなってるのはモンスターボールごとだから、紛失が正しいと思うよ。ポケモンがひとりでにどこかに行ったってわけじゃないからね。そのせいで、バトルができなくて、大会参加を辞退するトレーナーが結構出てるみたい」
「それって……」
フィアの一回戦の相手も、同じだ。
ポケモンがいなくなっていて、バトルができない。そう言っていた。
「大会に影響が出ているとはいえ、大会参加者のポケモンだけがいなくなっているわけじゃないみたいで、大会と直接関係ないっぽいし、大会そのものの運営に支障をきたすから、まだ公にされてはいないんだけど……たぶんこれ、窃盗事件だよ」
「せ、窃盗って……ポケモン泥棒、ってことですか?」
「うん。普通に考えたら、大会参加者を辞退させて、自分が有利に勝ち抜くためだろうけど、それにしては狙ってる相手がバラバラすぎるんだよね……」
困り気な表情を見せるルゥナ。
ここまで口振りからして、彼女はポケモンが紛失したトレーナーと、それによって大会を辞退したトレーナーを把握している。彼女もあくまで大会の一参加者なはず。にもかかわらず、そんなことを把握しているということは、
「ルゥ先輩は、その犯人を追ってるんですか?」
以前、アシッド機関という組織で働いているとも言っていた。もしかしたら、その仕事の一環なのかとも思ったが、
「追ってるってほどでもないけど、ちょっと気になるから個人的に調べてるの。本部にちょっとお願いして、名簿を見せてもらってね。トーナメント表と大会参加者の名簿を見比べて、犯人っぽい人の目星をつけようとしたんだけど、不戦敗になった人の規則性が見いだせなくて、ちょっとお手上げ状態かな」
どうやらフィアの考えすぎだったらしい。
大会を辞退させて勝ち抜くつもりなら、少ない対戦回数で勝ち抜いている人物がいるはず。しかしルゥナが言うには、二回連続で不戦勝になっている選手はいない。どころか、バトルするはずの二人ともが辞退するという対戦カードもあるらしい。
捜査を攪乱させるためという線も考えられるが、ポケモンの窃盗はあまりにもリスクが高い。大会参加者以外のポケモンもいなくなっているとのことだが、攪乱させるためだけに、わざわざここまでするだろうか。
「いまいち犯人の意図も目星もつかないんだけど、逆に言えば、今回の事件が窃盗であれば、無差別に行われているとも考えられるからね。むしろ、現時点の情報から推理すれば、その可能性の方が高い。だから、どんな人でも被害者になり得る……とにかくフィア君も気をつけて。ポケモンは、トレーナーにとって大事なパートナー。ポケモンを守ることも、トレーナーの義務だよ」
「は、はい……気をつけます」
ポケモンがいなくなって、バトルができない。そんなことには絶対になりたくなかった。
この世界に来てから日が浅いフィアだが、ポケモンとの関係がどれくらい大事なものかは、少しくらいは理解しているつもりだ。ポケモンがいなくては旅を続けられないという、実利的な考えなんて関係ない。今いるポケモンたちに、いなくなって欲しくはない。
フィアは、ギュッとベルトのボールを一つ、握り締めた。
「っと、ごめんね。脅かすつもりはなかったんだけど……とりあえず、ボールの管理はしっかりね。それから次の対戦相手の人の、対戦映像を見るといいよ。そこから攻略のヒントを、自分なりに考えてみて」
「は、はい……」
「それじゃあ今度こそ。またねフィア君……決勝で会おう」
そう言ってルゥナは、手を振りながら小走りに去ってしまった。少し急いでいる様子だったが、まだ事件について調べている途中なのだろう。彼女にも次の試合がある。大変だろうに、と思う。
しかし、それでも彼女は、間違いなく大会で勝ち上がってくる。
なぜなら、
「……決勝で会おう、か」
確かにそう言った。
彼女は、決勝まで勝ち進むつもりなのだ。
それが自分と戦うため、だなんて自惚れた考えはできないけども。
「……僕も、頑張ろう」
そう思えるだけの、力は湧いてきた。
『さぁ! サミダレタウンバトル大会ビギナーカップ! 準々決勝の三回戦! いよいよ開幕だぁー!』
二回戦の時にも聞いた、やたらテンションの高い実況の声。
次は三回戦、準々決勝。
ここが今大会の折り返し地点。ここを突破すれば、半分を過ぎる。
『三回戦からは実況の他、解説としてジムリーダーをお呼びしています! 今回の試合の解説をしてくれるのは、テンロウ学園で教鞭を振るい、テンロウシティのジムリーダーも務めるウルシさんです!』
『ウルシです。観客の皆さんにもわかりやすいような解説ができるよう、尽力いたす所存です。よろしくお願いします』
『Information
ジムリーダー ウルシ
専門:鋼タイプ
異名:導きの学徒
担当科目:ポケモン学 歴史』
実況者席の隣に、今まではいなかった人物が座っていると思ったら、三回戦からはジムリーダーによる解説があるらしい。ますます緊張してきた。
『はい! よろしくお願いします! それではウルシさん。対戦前に、今大会の見どころなどはありますでしょうか?』
『そうですね。サミダレタウンはレギュレーションごとに連日大会を催していますが、今回はその一日目。バッジを持たない、または一、二個しかバッジを持たない初心者向けの大会です。なので、ハイレベルなバトルよりは、奇抜で斬新なバトルを見せ、ホッポウに新たな風を吹き込んでくれるようなトレーナーが見れたらいいと思っています……見どころではなく、僕の願望になってしまいましたね。すいません』
『いえいえ! なにも問題はありませんとも!』
『それはどうも……ではもう一つ。教師としての立場から言わせて頂くのであれば、型に嵌らないバトルを見せてくれるトレーナーへの期待と、新人トレーナーの公式戦を先駆けて見られること、でしょうか。ここから大物になるトレーナーが出たりすれば、嬉しいと思います』
『ありがとうございます! それではそろそろ、選手入場の時間です! 両選手、入場ッ!』
実況者の声に応じて、係員が入場を促してくる。
フィアはボールを握り締めると、控え室から、陽光の射すバトルフィールドへと歩み出した。
『サミダレタウンバトル大会ビギナーカップ三回戦! その対戦カードは……フィア選手vsテイル選手です!』
バトルフィールドは、今までの試合と同じ。ただしフィアが経験してきたような土のフィールドではなく、石製で正方形のタイルを敷き詰めたようなフィールドだった。特殊なコーティングと接合方法で敷かれているらしく、激しい動きをしてもなかなか壊れない丈夫なフィールドだ。
トレーナーの立つ所定の位置まで移動すると、対戦相手を見遣る。
少年だ。フィアが歳のわりに童顔で小柄なのもあるが、自分よりも年上に見える。茶髪のトレーナー姿。ルゥナのように派手な髪色でもなく、イオンのように豪奢な格好でもなく、フロルのように異様なファッションでもない。正直、あまり目立つ容姿ではなかった。
しかしただ一つ、フィアが気になるものがあった。彼に肩に引っ付いている、生物。
おもむろに図鑑を取り出すと、“それに”かざす。
『Information
エモンガ モモンガポケモン
マントのように広げた膜の内側
から電気を放電させて滑空する
ため、滑空中に触れると感電する。』
「肩にポケモンを乗せてる……」
テイルと言うらしい少年の肩には、黒いモモンガのようなポケモンが乗っていた。図鑑によるとエモンガというらしい。飛び立つと電気を纏うので、常に感電と隣り合わせで大丈夫なのだろうか、と思わなくもない。
しかし彼とエモンガは、試合直前にもかかわらず、じゃれあったりするなど、非常に仲がよさそうで、緊張している素振りも一切見せていない。
(イオン君とサンダースも、あんな感じだったなぁ……)
トレーナーとポケモンの信頼関係、というのだろうか。
ポケモンは大事だが、それはフィアがそう思っているだけで、お互いにどんな気持ちなのかはわからない。
いつか、わかる時が来るのだろうか。
『えー、では審判が準備中なので、その間に両選手について軽く紹介を。フィア選手は、現在バッジ一つですね。シュンセイジムのアドベントバッジを所持しているそうです』
『おや、イチジク君のジムですね。珍しいです。ひょっとして、シコタン島の出身でしょうか?』
『珍しいのですか?』
『あのジムはかなり特異な性質なこともあり、あまり挑戦者がいないのですよ。シコタン島自体、ジムが一つしかないので、あまりトレーナーの足が向かない島ですしね』
『よくご存じですね』
『ちょっと酒の席で、お互いのジムについて語り合う——もとい愚痴り合う機会がありましてね……まあ彼の場合は、ジム戦がない分はお芝居と睡眠の時間に充てられると言って、挑戦者の少なさには不満はないようでしたけど』
少し小声になるウルシ。酒、愚痴、というワードが、体面的にあまりよくないのだろう。
しかし、シュンセイジムがどのくらい特殊なのかはわからないが、そんな評価を受けているとは思わなかった。
さらにフィアは、あのジムを一人で突破したわけではない。イオンの力があって、彼のお陰でバッジを手に入れたのだ。ウルシの期待には沿えそうになかった。
『話が逸れましたね。なんにせよ、彼の特殊なジムを攻略したその実力は、気になるところです』
『はい、ありがとうございます! 長くなりましたが、次いでテイル選手。こちらはバッジゼロのようですね』
『まだ駆け出しなのか、それともジム巡りをしていないのか……実力は不明ですが、未知数ゆえに、そのバトルが観測できるというのは楽しみです』
目の前の相手、テイルはまだバッジを持っていないようだ。
しかしだからと言って安心できない。ウルシも言うように、ジム巡りをしていないだけで強者という可能性もあるし、イオンのようにバッジが少なくても強いトレーナーはいる。油断はできなかった。
審判の準備も終わり、そろそろ対戦が始まりそうだ。
一応、礼儀としてフィアは軽く頭を下げる。
「……よろしくお願いします」
「おう、よろしくな!」
年上と思って敬語で、生来の性格から控え目に言うフィアに対し、テイルは気さくに応じた。
さらに、
「お前、フィアだっけ? 二回戦のバトル見たぜ。すげー逆転だったな! 見てるこっちもビリビリ来たぜ!」
「え? あ、はい、どうも、ありがとうございます……」
フィアの二回戦のバトルを称賛する。
まさか自分のバトルを褒められるとは思わなかったので、面食らってしまうが、同時に一つ、わかったことがある。
(この人、僕のバトルを見てるんだ……)
フィアがルゥナのアドバイスを受けて、彼の一回戦、二回戦のバトルビデオを見たように、彼もフィアのバトルを見て、研究している。
ルゥナのアドバイスは本当に重要だった。もしもあの助言がなければ、今ここで、既に情報という面でアドバンテージに差がついていたのだから。お互いに対戦を見て、多少の知識があるからこそ、同じ土俵に立てる。
そんな点からも相手の強さを感じつつ、実況の声が響く。
バトル開始の、宣言が。
『それでは、三回戦! フィア選手vsテイル選手! バトル——スタートッ!』
あとがき。なんとか前口上のところまではこぎつけましたが、逆に対戦前のあれやこれやが長すぎました。色々盛ってしまった結果です。ここでタクさんのオリキャラ、テイルの登場です。シナリオそのものは特に変えてません。あぁ、でも街の名前は変えましたね。ウルシは元々オボロシティという街のジムリーダーでしたが、リメイクしてテンロウシティに変わりました。あまり大きな意味はないので、特に気にすることもないですけど。では次回、フィアvsテイルのバトル。お楽しみに。
- 第31話 一撃離脱 ( No.61 )
- 日時: 2017/01/18 01:12
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
『三回戦! フィア選手vsテイル選手! バトルスタートッ!』
その言葉を皮切りに、お互いにポケモンを繰り出す。
フィアは握り締めたボールを放ち、テイルはバッと腕を伸ばした。
「このバトルは君だよ。お願い、ブースター!」
「痺れるバトルにしようぜ! 行け、エモンガ!」
フィアが繰り出すのはブースター。このチョイスも、テイルのバトルを結果だ。
(あの人のポケモンは、一回戦も二回戦も電気タイプのポケモンだった……ミズゴロウは電気タイプ相手じゃ、不利だからね)
対するテイルのポケモンは、ずっと肩に乗せていたエモンガ。ボールを介さず、そのまま出したきた。
電気と飛行タイプのエモンガ。
映像を見る限り、およそ滑空しているだけとは思えない動きで、空中を自在に飛び回っていた。あの身軽さとスピードが、恐らくこのポケモンの武器だ。
思考を働かせながら、同時にフィアは、自分に言い聞かせる。
(自分で考えるんだ。どうすれば有利に戦えるのか。どうすれば勝てるのか……!)
そのために、ルゥナの助言を受け、ちゃんと今までの対戦の映像を見て予習してきたのだ。
「ブースター、まずは火炎放射!」
「エモンガ、上昇だ!」
ブースターはその場から動かず、口から放射状の炎を放つ。
しかしエモンガは素早く空中に飛び上がり、放たれる炎を回避する。
「エアスラッシュ!」
「う……っ」
そしてそのまま、膜を翼を羽ばたかせるようにあおぎ、無数の空気の刃を放った。
ブースターは避けることもできず、それらの刃に切り刻まれる。
「大丈夫? ブースター」
弾の数は多いが、一発一発の威力はそれほど高くない。ブースターはぶんぶんと頭を振って、大きく咆えるように鳴く。まだまだ戦えそうだ。
「よし。もう一度、火炎放射!」
「躱してエアスラッシュだ!」
ブースターは再び炎を放つも、エモンガには当たらない。エモンガは滑空しながら空気の刃を飛ばし、ブースターを切り裂く。
「遠くから攻撃……だったら、突っ込むよ! ニトロチャージ!」
三次元的に動けるエモンガに、火炎放射はなかなか当たらない。ここはブースターの得意な接近戦に持ち込もうと、炎を纏ってエモンガに突っ込むが、
「影分身だ!」
突如、エモンガが分裂した。
「!? 増えた!?」
まったく同じ姿のエモンガが何体もいる。そのうちの一体にニトロチャージが炸裂したが、手応えはなく、すぐに消えてしまう。
二回戦では見せていなかった技。初めて見る技に、フィアは戸惑いを隠せない。
「影分身を知らないのか? 残像の分身を生み出して、回避率を上げる技だぜ。本体以外は全部偽物だから、攻撃力はない。けれど、どれが本物か、見分けられないだろ?」
テイルの言う通りだ。四方八方で滑空する無数のエモンガ。攻撃力があるのは本体だけでも、肝心の本体がわからない。
フィアとブースターが、キョロキョロと目まぐるしく動くエモンガに注視していると、スッとブースターに接近する影が一つ。
「ほら、後ろががら空きだぜ! スパーク!」
接近してきた影は、本物のエモンガ。電気を帯びた身体で突っ込んでくる。
電気をスパークさせた突撃は、確かにブースターの背中に直撃したが、
「っ、ブースター! アイアンテールだ!」
ブースターは身を捻ってエモンガを振り払い、捻った際の勢いをそのままに、鋼鉄の尻尾をエモンガに叩きつけた。
「うぉっ! 大丈夫か、エモンガ!」
まともに尻尾の一撃を食らい、空中に吹っ飛ばされるエモンガ。しかし、膜を広げ、空中で体勢を立て直す。
「あっぶねぇ。効果いまひとつじゃなかったら、ちょっとヤバかったかもな。しかしスパークの直撃を喰らってあの切り替えしとは、なかなかのガッツじゃねえの、そのブースター!」
「え、あ……ど、どうも……」
思ってもみなかった称賛に、フィアは戸惑う。勝負中に褒められるという発想がなく、虚を突かれて困惑してしまう。
だが、ブースターの反撃が上手く決まったのも確かだ。ようやくエモンガに攻撃を当てられた。この一撃は小さくない。
「一発もらっちまったが、落ち着いて行くぞ、エモンガ。エアスラッシュだ!」
「ブースター、躱して! ニトロチャージだよ!」
放たれる空気の刃を躱しつつ、その合間を縫うように跳躍し、炎を纏うブースターだが、
「上昇! エアスラッシュ!」
エモンガはさらに上へ上へと上っていき、ブースターのニトロチャージを回避。高い位置から空気の刃を飛ばす。
しかし、
「追いかけて! ニトロチャージ!」
一度地に足を着けたブースターは、一際強く地面を蹴った。こちらに向けて放たれるエアスラッシュもものともせず、炎を纏い、捨て身で突撃を仕掛ける。
身体中が空気の刃で切り裂かれるも、それはブースターのニトロチャージを止めるには至らない。そのまま、エモンガへと突っ込んでいく。
「躱しきれるか……いや、スパークだ!」
かなり接近を許してしまったが、テイルは直撃を喰らう気は毛頭ない。
エモンガは膜を広げて帯電し、空中を滑るように自身もブースターへと突撃。ただし、真正面からぶつかりあうようなことはせず、軌道を少しずらして、ブースターの真横ギリギリを、ブースターの体表を撫でるようにしてすり抜ける。
『上手ないなし方ですね。スパークで帯電させた電気を盾にして、ニトロチャージの炎を相殺。突撃は正面衝突を避け、横に衝撃を流して回避。ダメージを上手く逃がしています』
接触はしたものの、突撃のダメージはほとんどなく、エモンガはブースターの捨て身のニトロチャージを流してしまった。
「うぅ、上手くいくと思ったのに……」
「いーや、今のは少しヒヤッとしたぜ。実際、上手くいくかどうかわかんなかったしな。ま、成功したからよしだ」
結果よければすべてよし、とテイルは笑う。
しかし、
「……完全に躱しきれなかったのが、少し悔やまれるけどな」
ぼそりと、小さく呟いた。
その意味は、すぐに現れる。
「次こそは当てるよ、ブースター。ニトロチャージだ!」
ブースターは炎を纏い、跳躍するようにエモンガへと突撃する。今までと同じ攻撃だ。
しかし、そのスピードは、今までよりも速い。
「ニトロチャージはこれが強いんだよな! 躱してエアスラッシュ!」
エモンガは旋回してニトロチャージを回避。空気の刃を飛ばそうとするも、それよりも早くブースターが反応した。
「火炎放射だよ!」
「っ、影分身だ!」
空中で身を捻り、逃げるエモンガに炎を噴射する。
咄嗟にエアスラッシュを止め、影分身に技を切り替えて攻撃を透かすが、ギリギリだ。
これがニトロチャージの強さ。直線的な攻撃だが、一度でも攻撃を当てれば素早さが上がる。スピードで攪乱するエモンガにとって、相手にスピードアップされると、持ち前のスピードが生かしづらくなってしまう。
しかもブースターにはパワーがあるのだ。そこにスピードが足されるとなると、純粋に強い。そうなると、エモンガにとっては苦しい戦いとなってしまうことは、容易に予想できる。
「となると、どっかで仕掛けるしかないな……」
影分身でブースターを攪乱するエモンガ。無数の分身が縦横無尽に飛び回るフィールド。使うのは二回目だが、駆け出しトレーナーが一度や二度で見切れるような技ではない。
現に、フィアもどれが本物か分からず、飛び回るエモンガを見回して混乱している。
「横だ! スパーク!」
「! 来るよ! アイアンテール!」
テイルの指示を合図に、エモンガは横から電気を纏って突っ込む。
フィアも多数のエモンガのうちの一体に動きが見られたのを確認すると、すぐさまブースターに指示を出す。
エモンガのスパークがブースターの脇腹にヒットしたが、ブースターもしっかりと耐えきって鋼鉄の尻尾をスイングして反撃。カウンターのアイアンテールは当たった感触があったが、あまり手応えはない。
再びエモンガはブースターとの距離を取る。
「少し掠ったか。けど、こんくらいなら大したことないな。エアスラッシュ!」
「火炎……いや。やっぱりニトロチャージ!」
遠距離からの攻撃を再開するエモンガは、空気の刃を射出。
対するフィアは、指示に一瞬迷ったが、火炎放射ではなくニトロチャージを選択。ブースターは炎を纏って突貫する。
捨て身のニトロチャージだ。
「また我が身を省みずに突っ込んでくるかよ! 仕方ない。中断だ! 上がれ!」
ブースターのタフネスに驚きつつ、ニトロチャージの直撃は受ける訳にはいかないと判断し、テイルはエモンガを下がらせる。攻撃は中断し、上昇してニトロチャージを躱すが、
「火炎放射!」
「っ!」
ブースターでは届かない上空で舞うエモンガに、ブースターは炎を噴射する。安全圏だと思っていたために回避が間に合わず、エモンガは火炎放射に飲まれてしまう。
「エモンガ! 大丈夫か?」
直撃を喰らったので、ダメージは決して小さくない。下降してくるエモンガの身体は、所々が焦げている。
しかし、ブースターは攻撃力の高いポケモン。特攻は低くないものの、そこまで高いわけでもない。大ダメージというわけでもなく、まだまだ戦えそうだ。
「とはいえあのタフさは予想外だな。デカい一発をもらうと即KO、捨て身で突っ込まれると危ない橋になるし、ニトロチャージもある……うっし」
ここらへんでやるか、とテイルはなにかを決めたように、バシンッ! と拳と掌を合わせる。
フィアでもわかる。なにか仕掛けてくるつもりだ。
「エモンガ、スパークだ!」
「来るよ、ブースター」
エモンガは帯電してブースターに突っ込んでくる。今までのヒット&アウェイを捨てたかのような、真正面からの突撃だ。
死角から狙われるのは辛いが、真正面から来るならブースターでも対応できる。フィアはエモンガが突っ込むタイミングを計り、そして。
「アイアンテール!」
ブースターに指示を飛ばす。
鋼鉄の尻尾を振るい、突っ込んでくるエモンガを打ち返すように攻撃を繰り出すが、
「影分身!」
技が当たる直前。
エモンガは分裂した。
「っ! ここで影分身……!?」
エモンガの接近を許した状態での影分身。数こそ少ないが、すぐ目の前に何体ものエモンガがおり、大きな圧力となる。
攻撃を透かされ、影分身で翻弄され、面食らうフィアの視界に、一匹の影が映る。ブースターの背後に、エモンガが一体、飛び出した。
「! 後ろ!」
「悪いがこっちが速いぜ! 食らいな!」
フィアの指示からブースターが動くよりも速く、エモンガの技が繰り出される。
しかしそれは、攻撃ではない。
エモンガは、指先をスッとブースターに向ける。
そして、それは放たれた。
「電磁波!」
あとがきです。フィアvsテイル。リメイク前とはバトルするポケモンが違います。完全書き下ろしです。書き切るのに少々苦労しましたが、わりと自信作。とはいえ、あまりヒット&アウェイしてる感じないですけど。それでも楽しく書けましたね。なんやかんや、互いのエース対決ですし。では次回、フィアvsテイル、決着……するといいですね。お楽しみに。
- 第32話 状態異状 ( No.62 )
- 日時: 2017/01/18 09:43
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
『——フロル選手の勝利となります!』
なにもせずに勝ってしまった。
フィールドに立つフロルは、試合時間になっても会場に現れない相手を待っていたら、そのうち審判からそのように告げられた。
不戦勝。フィアの一回戦もそうだと言っていた。
バトルをしないというのは寂しい気がするが、しかし勝ちは勝ちだ。フィアと準決勝でバトルする約束がある。フロルはその勝利をラッキーだと捉えて、ロビーに戻った。
今までならフロルが戻った時には既にフィアがそこにいたのだが、今回はいなかった。自分は不戦勝だったので、当然と言えば当然だが、キョロキョロと見回す。すると、備え付けのモニターが目に入った。
『ブースター! 後ろ!』
『悪いがこっちが速いぜ! 喰らいな、電磁波!』
ちょうどそこには、フィアのバトル風景が映し出されていた。見れば、まだバトルをしているようだ。
『おぉーっと! テイル選手のエモンガ、電磁波だぁ!』
パッと見ではフィアが不利な状況にあるようだった。モニターには、身体が痙攣しているブースターがアップで映し出されている。
「フィア……だいじょうぶかな……」
モニターをジッと見つめるフロル。ずっとそちらを注視していると、その不注意が祟って、どんっ、と人とぶつかった。
「あっ……ごめん、なさい……」
「おー。気を付けろー」
フロルは咄嗟に申し訳なさそうに頭を下げたが、相手——若い女だ——は特に気にした風もなく、そのまま歩き去ってしまった。
「……?」
その一瞬でフロルは漠然と違和感を覚えたが、漠然とし過ぎていて、よくわからなかった。
『ブースター! アイアンテール!』
「あ……フィア……」
モニターに再びフィアとブースターが映し出される。
再びそちらに注意が行き、曖昧な違和感は雲散霧消してしまった。
そしてフロルは、そのままずっと、モニターを見つめ続けていた。
「エモンガ、電磁波!」
バチバチッ! と電気が弾ける音が響き渡る。
すると、ブースターはガクッと膝を折って地に伏してしまった。
「ブースター!」
ブースターの身体は、ピクピクと痙攣している。なんとか立ち上がるが、上手く身体が動かせないようだった。
『おぉーっと! テイル選手のエモンガ、電磁波だぁ! フィア選手のブースター! 麻痺状態にされてしまったぞぉー!』
「どうだ? 俺のエモンガの電磁波は。ビリビリ痺れるだろ?」
麻痺状態。確か、ポケモンの状態異常の一つだと記憶している。
毒、麻痺、火傷、眠り、凍り——主にこの五つが、基本的な状態異常とされるらしい。
その中でも麻痺は、身体が痺れて動けなくなってしまうことのある状態異常。さらに、素早さも落ちるらしい。
『フィア選手のブースター、せっかくニトロチャージで上げた素早さを、麻痺で打ち消されてしまいました!』
『テイル選手は、今大会でもたびたび電磁波を用いていますね、手持ちに電気タイプが多いようですが、麻痺で動きを鈍らせる戦術は、電気タイプの常套手段です。クリさんがいれば、もっといい解説ができたのですが』
『ウルシさんもよくやってくれてますよー。それで、この麻痺はどうなのでしょう?』
『……テイル選手のエモンガは、持ち前のスピードを生かした、ヒット&アウェイ戦法。最初よりも素早さを落とされたうえに、麻痺で動きが止まる可能性もあるブースターは、もうエモンガのスピードには追いつけません』
テイルの狙いは、ズバリそこだった。
ニトロチャージでエモンガに追いついて来ようとするブースターを、減速させたのだ。動きを止め、素早さを落とし、エモンガの戦いやすい状況を作り出したのだ。
『エモンガの戦術は、これでより確固としたものとなったでしょうね』
『となると、状況はエモンガが圧倒的に有利だと?』
『圧倒的というほどではありませんが……フィア選手のブースターに、手数の差を巻き返すだけの手段があるかどうかですね。ブースターはまだ、四つ目の技も見せていませんし』
解説のウルシはそう言うが、ブースターの最後の技は起死回生。体力が減ってきている今なら威力は大きいが、格闘タイプの技なので、飛行タイプのエモンガには効果いまひとつだ。
ブースターを麻痺状態にさせられ、一気に不利がのしかかるフィアだが
「麻痺……動きを鈍らせる状態異常……」
この技は、知っている。
いつか使ってくることも、予想していた。
「……ブースター、火炎放射だよ!」
フィアはそう指示を出すが、身体が痺れてブースターは動けず、攻撃も放たれない。
「麻痺が上手く効いてるな! エモンガ、エアスラッシュだ!」
その隙に、空気の刃がブースターを切り刻む。
無数のエアスラッシュを耐え切り、今度こそ、ブースターは反撃に出る。
「火炎放射!」
攻撃が止まった瞬間、ブースターは口から炎を噴射する。
しかし、その攻撃はエモンガには届かない。というより、攻撃が目的の技ではないように思えた。炎はやや下向きに放たれており、そこから炎上して、まるで壁のようにブースターとエモンガの視界を塞いでいた。
(炎を盾に、また突っ込んでくるつもりか? エアスラッシュを誘ってんのか……だが、流石に何度も同じ手には引っかからないぜ)
炎で目をくらませ、炎を切り裂くエアスラッシュを誘い、また捨て身のニトロチャージで突っ込んでくるのだと、テイルは考える。実際問題、ブースターの攻撃で怖いのはそれだ。麻痺で動きを鈍らせたとはいえ、上昇した素早さをなかったことにしたわけではないのだ。またニトロチャージで素早さを上げられると、麻痺させた意味もなくなってしまう。
(接近すれば、ニトロチャージはトップスピードで攻撃できない。火炎放射ならそのまま突っ込めるし、効果いまひとつのアイアンテールなら耐えられるはず……四つ目の技が怖いが、ここまでで見せてないってことは、エモンガに効果がない技と見た。穴を掘るとかだろ、たぶん。それなら行ける!)
ブースターがニトロチャージで突っ込んでくる前に、接近して勝負を決める。
結論が出てから、テイルの指示は早かった。
「エモンガ、急降下! サイドを狙え!」
エモンガはテイルの指示を受け、炎の壁と平行になるように下降。そのままブースターの右横へと飛び出す。
「そこだ! スパーク!」
そして、膜の内側に放電させた電気で全身を包み、そのまま突っ込む。
しかし、
「来た……! ブースター!」
それは、それこそが、フィアの誘導だった。
「アイアンテール!」
炎の噴射を止めたブースターは、尻尾を立て、鋼鉄のように硬化させる。
そして、向かってくるエモンガに、渾身の力でフルスイングする——
「! まずいっ、上がれ!」
——が、エモンガは無理やり攻撃を止めて滑空の軌道を修正。急上昇して、アイアンテールは直撃しない。尻尾の先端が、少し掠めた程度だ。
しかし、たったそれだけにもかかわらず、エモンガは、大きく弾き飛ばされた。
「エモンガ!」
空中に吹っ飛ばされたため、膜を広げて体勢を立て直すことができたエモンガ。
それでも、今のアイアンテールの威力は、テイルの予想を遥かに上回るものだった。
「っ、なんだ今のアイアンテールは……!」
バッとブースターの方へと向き直ると、テイルは思わず息を飲む。
麻痺状態で身体が痺れているはずのブースター。体力も残り僅かで、状態異常と相まってかなり消耗しているはずなのに、その佇まいには、鬼気迫るものがあった。
凄まじい覇気。肌で、感覚で伝わるほどの、恐ろしいと思えるほどの闘志が、解き放たれていた。
「これは……!」
「まだまだ、ここからが本番だよ、ブースター……!」
フィアの声に応え、ブースターは咆哮と相違ない声で鳴く。
赤い炎の獣は、燃え盛る星の如く、灼熱の意志を持って彼らの前に佇んでいた——
あとがきなんです。フィアvsテイル、思ったより長かったので、三分割にしました。いや、実は挿入したいシーンがあったので、それを抜けばギリギリ収まりそうだったんですが、カットするのも都合がよくないですし、別にまとめちゃうとそれはそれで字数が余るので、こっちを分割するという形になりました。なので次回こそは、テイル戦を決着させたいです。流石に次回には決着できるはずです。お楽しみに。
- 第33話 根性発動 ( No.63 )
- 日時: 2017/01/19 08:45
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
『な、なんだぁ!? ブースターの気迫が、とんでもないぞぉー!?』
ブースターの凄まじい気迫に、テイル、会場、実況や解説席までもがどよめいている。
そんな中で、ウルシの一声が、零れ落ちた。
『……恐らく、ブースターの特性ですね』
『ブースターの特性? えぇっと、ちょっと待ってくださいね……』
実況がなにやらペラペラと紙を捲っている。今大会の資料かなにかだろうか。
『あ、あった。ブースターの特性は……貰い火、ですか。炎技を受けても、吸収する特性のはずですが……?』
『えぇ、それが普通のブースターの特性です。しかし、あのブースターは違う』
『違う……隠れ特性、というやつですか』
『そうです。ブースターでは稀にしか見られない、根性の個体でしょう』
『根性って……えぇっと、またちょっと待ってくださいね……なになに? 状態異常の時に、攻撃力が跳ね上がる特性、ですか』
『ただでさえ攻撃力の高いブースターです。さらに火力が上がれば、耐久の低いエモンガでは、かなり手痛いダメージとなるでしょう』
状態異常の時に攻撃力が跳ね上がる特性、根性。
フィアのブースターは、正にその特性なのだ。ゆえに麻痺状態の今、攻撃力が大きく上昇している。
「あっぶねぇ。三度目の危機一髪だ。そのブースター、根性だったのかよ」
胸を撫で下ろすテイル。鬼気迫るブースターのアイアンテールから、直感的にそれを読み取ることができなければ、今頃エモンガは戦闘不能なっていたかもしれない。
根性が発動しているとなれば、一撃でもまともに食らえば戦闘不能必至と思っていい。迂闊に接近するのは危険だろう。
「下手に勝負を急がない方がいいな。ここはお前の得意なヒット&アウェイを貫いて、近寄らずに攻めるぞ、エモンガ! エアスラッシュ!」
あからさまにブースターと距離を取って、エモンガは空気の刃を飛ばし、ブースターを切り裂く。
根性で上がるのは攻撃のみ。先ほどの誘導には引っかかってしまったが、近づきさえしなければ、大ダメージを受けることもない。なので、徹底的にロングレンジから攻める。
「うっ……火炎放射!」
満身創痍のブースターだが、エアスラッシュの連打を耐え抜き、炎を放つ。
放たれた炎はやはりエモンガには届かないが、両者の視界を遮る壁となる。
「また炎を盾に……だが、根性があると分かった以上、近づくわけにはいかないな。そのままエアスラ——」
「起死回生!」
刹那。
炎の壁から飛び出したなにかが、エモンガの顔面を打ち据えた。
「エ、エモンガ!?」
予想だにしない不意の一撃。まさかブースターが飛び込んできたわけではあるまい。なにが飛んできたのだと、それを見たテイルは目を見開いた。
「タ、タイル……っ!?」
それは、正方形の薄い物体——このフィールドの地面に張り巡らされた、タイルの一枚だった。ブースターの足元には、ちょうど一枚分の“欠け”が見える。
「こいつ、タイルを、剥がして……!?」
仮にもポケモンバトルのためのバトルフィールドだ。タイル一枚と言えど、そう簡単に剥がせるものではない。
しかしブースターは、根性で強化され、残り僅かな体力で放つ起死回生によって、強引に削り取り、炎の壁をめくらましに、それをエモンガへと投げるように放ったのだ。
「お願い、動いて……! ニトロチャージ!」
タイルの直撃を喰らったエモンガは、当然ながら体勢を大きく崩している。隙だらけもいいところだ。
そこに、ブースターが炎を纏い、突撃してくる。
「か、躱せ!」
まともに反撃などできるはずもなく、回避だって間に合うかわからない。しかし、ブースターの攻撃を受けられない以上、そう指示を出すしかなかった。
跳躍し、エモンガへと一直線に突っ込むブースター。エモンガは大きく身体を逸らして、ブースターの真下を滑るように受け流そうとする。
「ギ、ギリギリ……!」
エモンガのすぐ真上を、ブースターが通過するような形で、紙一重の回避に成功するエモンガ。ニトロチャージは、これで避けられる。
そう、ニトロチャージは、だ。
「逃がさない! ブースター!」
ブースターはエモンガのちょうど真上に位置した瞬間、くるっと空中で転回した。
エモンガが逃げられないこの千載一遇のチャンス。この一瞬を、逃しはしない。
鋼の一筋が、一閃——
「——アイアンテール!」
硬化させた尻尾を、エモンガへと振り下ろす。
「エモンガ!」
流石にこの攻撃は避けられず、脳天にアイアンテールを叩き込まれたエモンガは、フィールドに叩きつけられる。
あれだけ警戒していた、根性で強化された一撃。効果いまひとつとはいえ直撃だ。その一撃で、エモンガは戦闘不能となってしまった。
『エモンガ戦闘不能! ブースターの勝ち! よって勝者、フィア選手!』
わぁっ! と歓声が沸き上がる。
はぁはぁと息を切らして、フィアの意識はふっと現実に戻った。意識が戻って初めて気づいた。自分が今まで、どれほどバトルに集中していたのか。
周囲へ意識が向いたことで、この大きな歓声に気付く。そして、目の前の光景も理解する。
タイル敷きのフィールドを歪めてしまうほどの勢いで叩きつけられたエモンガ。そしてその傍らに、ボロボロになりながらも、最後まで立っているブースター。
ブースターは、立っているのだ。
「勝った……勝ったんだ……!」
嬉しさが込み上げてくる。
なぜだろう。二回戦も接戦で勝ったはずなのに、今のバトルは特に嬉しいと思える。
「あと少しだったんだが、負けちまったな……ありがとな、エモンガ。ビリビリ痺れる、いいバトルだったぜ」
テイルはフィールドで目を回しているエモンガを労い、抱きかかえる。
「やるな、お前。根性だって知らなかったとはいえ、警戒しなかったのはこっちの落ち度……だが、それを差し引いても強かったぜ、そのブースター」
フィアの足元にすり寄ってくるブースターを指さして、テイルは言う。
「根性が発動してなくても、最後のアイアンテールは躱せなかったし、耐えられなかったと思う。俺たちもまだまだ、だな」
「い、いえ、そんなことは……根性が発動しないと、起死回生でタイルは剥がせなかったと思いますし、電磁波を使ってくれたのはラッキーだったっていうか、エモンガのスピードには振り回されっぱなしでしたし……」
「そんな諸々を含めて、お前の勝ちなんだ。もっと誇ってもいいんだぜ?」
負けたというのに、笑顔を見せるテイル。彼の表情は、清々しかった。
だというのに、勝者である自分がうじうじしているのは、おかしいと感じてきた。
誇る気にはなれないが、少し前向きになるくらいなら。そう思ったら、フィアの口元が綻ぶ。
「次は準決勝だな。俺に勝ったんだから、絶対に勝てよ!」
「……はい! ありがとうございました!」
こうして、フィアのサミダレタウン大会、三回戦が終了したのだった。
「フロルも準決勝まで上がったんだ、良かった……」
ロビーに戻る道中。
フィアはトーナメント表を確認し、フロルも三回戦を勝ち上がったのを確認する。
準決勝ともなれば、それなりの実力がなくては勝ち上がれない。お互いにそこまでの力があるか不安だったが、無事に準決勝でバトルする約束が果たせて、本当に良かった——
「フィアっ!」
——と思いながらフィアがロビーに出た瞬間、フロルが飛び出してきた。
「っ、フロル……? どうしたの?」
フロルの勢いに圧倒されながらも、フィアはそう尋ねる。というより、尋ねざるを得ない。
なぜならフロルの表情は悲愴に満ちており、目尻には涙を浮かべ、今にも泣き出してしまいそうだ。
いつものほほんとしていて、ぽけーっとしている彼女が、初めて見せる泣き顔。
一体、どうしたというのだろうか。
「なにがあったの、フロル?」
「フィア……」
鼻を啜りながら涙目でフィアを見上げるフロルの顔は、ほぼ半泣き。もうすぐで泣き喚いてしまいそうだ。
それでもフロルは、なんとか踏みとどまって、フィアに伝える。
自分自身に、起こったことを。
「わたしのポケモン、盗まれちゃった——」
あとがき。三回戦テイル戦、やっと決着です。三話かけてようやく終わりました。思ったより長引いちゃいましたね。リメイク前だとテイル戦は二回戦でもうちょっとサラッと終わって、ルゥ戦でだらだらしてる隙に騒動が起こるシナリオだったんですけど、色々あって色々変更しましたね。というわけで、三回戦が終了して、フロルが泣きついてきます。ちまちま伏線張ってたポケモンの失踪騒動。そろそろ回収いたします。次回をお楽しみに。
- Re: ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】 ( No.64 )
- 日時: 2017/01/21 10:44
- 名前: 大光 ◆qywHv.OLwI (ID: Uo0cT3TP)
大光です。
閲覧の1000の突破おめでとうございます。開始日と返信数と他の人の投稿を比較すると、やはり白黒さんの閲覧数の伸びは、早いほうだと思われます。白黒(モノクロ)の名はカキコ内では有名で実績のあることが感じられます。文字だけの内容が苦手な自分でも読もうとする気持ちが起こるくらい白黒さんの作品を良いと自分は思っています。
白黒さんは学生なので忙しい時期があったり、趣味を優先するために更新ができないことが多くなったりするかもしれませんが、白黒さんの作品が多くの人の目に入ることを願います。
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