二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
- 日時: 2017/01/26 02:02
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。
基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。
ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。
それでは、白黒の物語が再び始まります——
目次
プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3
シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36
クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76
登場人物目録
>>32
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
- 第38話 準決開始 ( No.70 )
- 日時: 2017/01/22 22:19
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
サミダレ大会ビギナーカップ準決勝。
準決勝からは天井のドームを開いた吹き抜けの状態で戦う、開放感溢れるフィールドだ。
本来ならビギナー同士のバトルでも熱狂する観客たちなのだが、今はそうではない。むしろ皆、シーンと静まり返っている。
『準決勝戦開始まで残り三分を切りました! しかしフィア選手、一向に現れません! 一体どうしてしまったのか!?』
『試合開始までに片方の選手がフィールドに来なければ、もう片方の選手が不戦勝になるというルールでしたね。今大会はやけに不戦勝、不戦敗が多いですが……流石に準決勝戦にもなると観客たちの期待も大きいですから、これが不戦勝などという結果に終わってしまうのは、残念極まりないでしょう』
現在フィールドに立っているのはフロル一人。最初はフィアが来ないうちにフィールドに向かうことを渋っていたのだが、フィアが戻って来ると信じてフィールドに立つよう、ルゥナに押し出されたのだ。
(フィア……)
物憂げな表情で、ただひたすらに、フロルはフィアを待っていた。
「どどど、どうしよう、このままじゃ間に合わない……!」
試合開始まで、残り時間はおよそ三分。しかし現在フィアがいる波止場からでは、どんなに急いで走っても試合会場まで五分はかかる。物理的にはどう足掻いても間に合わない。
フロルと約束したのだ。準決勝でバトルしようと。そのために、こうしてグリモワールに立ち向かい、ポケモンを取り返したのだ。
せっかくポケモンを取り返したのに、バトルができないだなんて。自分のしたことは、なんだったのか。
「と、とにかく、急がなきゃ……!」
「待って! 走っても間に合わないよ!」
「で、でも!」
「あと少しだけ待って! もうすぐ……来た!」
焦燥に駆られるフィアを宥めるミキは、波止場の入口を指さした。
そこには、一つの影——人影だ——があった。
男だ。歳はわりと若く見えるが、顔立ちが整っているからだろうか。
長い金髪——いや、色味からして、黄色に近い髪色だ——を後ろで一本に縛っている。
黒い背広にネクタイ、手袋まで付けており、きっちりとした印象を与える男性だった。
「おや? この状況……もしや、すべて終わってしまいましたか?」
「そのもしやです! 遅いですよアッサムさん!」
「それは申し訳ありません。少々連絡に手間取ってしまいまして……何分、今の彼は一介のトレーナーでは連絡を取ることすらも困難でして……」
「だから事実確認は後回しって言ったじゃないですか!」
さっきまでの落ち着きが嘘のように、捲し立てるミキ。しかし険悪さは感じられず、アッサムと呼ばれた男はどうやら、彼女と親しい仲のようだ。
「あ、あの、あなたは……?」
「おっと、これは失礼いたしました。申し遅れましたが、私の名はアッサム。PDOというイッシュ地方自警組織の統率補佐を務めて——」
「そういう説明はいいですから!」
アッサムの自己紹介を断ち切るミキ。
穏やかそうなアッサムだったが、流石に見かねてか、不満げな視線をミキに向ける。
「……ミキさん。ここ最近、貴女は落ち着きがなくなりましたね……貴女の師匠が泣きますよ」
「師匠の話は今はいいから! 時間がないんです!」
「わかりましたよ。今の私は貴女には逆らえませんからね……して、如何様に処理すればよろしいでしょうか」
「飛べるポケモンを用意してください。大至急!」
「成程、そういうことですか……了解いたしました。場所はどこまで?」
「会場まで!」
完全に置いてけぼりを喰らっているフィア。自分のために動いてくれているようなのだが、なにがどうなっているのか、さっぱりわからない。
「承知いたしました。では、参りましょう」
と、アッサムはフィアの手を引く。
そして、いつの間にか握られていたボールから呼び出される、一体のポケモン。
「飛翔の時間です——トロピウス」
『もう残り時間は三十秒です! フィア選手まだ現れません! 本当に何があったのか!?』
モニターには試合開始までの残り時間が表示され、カウントダウンを始める。刻一刻と時間が進み、試合開始までの時が迫っていく。
観客たちはもう冷めきってしまい、観客席から出ようとするものまで出て来る始末。もうフィアは現れず、フロルの不戦勝で準決勝が終わる。そして、不完全な決勝戦を迎えて、ビギナーカップは終了する。
所詮は初心者のための大会。期待するほどのバトルなんて幻想だ。誰もがそう思っていた。
その時。
緑色の巨体が、フィールドの中央に突撃した。
『な、なんだ——!? 突如、ポケモンがフィールドに降ってきた——!』
『いや、飛んできた、の間違いでしょう……しかし』
砂煙が濛々と舞い、そのポケモンの姿は見えない。だがやがてその砂煙も晴れていき、ポケモンの姿が露わになる。
『Information
トロピウス フルーツポケモン
好物のフルーツを食べすぎるあまり、
首回りに生えてきた。しかし自分
では口が首まで届かないので食べられない。』
フィールドに突っ込んできたのはトロピウス——だけではなかった。その背には、三人の人影がある。
「ふぅ……ギリギリ、間に合ったね」
「死ぬかと思った……」
「トロピウス、ご苦労様でした」
モニターの残り時間を見つめる少女と、ふらふらになってトロピウスから降りる少年。
降りて来たのは、フィアだ。
「私はまだやることがあるから、ここで失礼しますが……応援してるよ。頑張ってね」
「はい、ありがとうございました!」
「アッサムさん、お願い」
「再び承知いたしました。トロピウス、飛んでください」
手を振って、ミキとアッサムはトロピウスに乗ったまま、飛び去ってしまう。今思えば、彼女らにはかなり助けられた。七罪人を退けるにも、この場所に来るにも、二人がいなければどうしようもなくなっていた。
思えば、なぜ二人はこうも自分を助けてくれたのか、少しばかりの謎が残らないこともないが——
「フィア!」
とその時、フロルが叫ぶ。
フィアはフロルの方を向くと、ゆっくりとポケットからボールを取り出し、
「フロル。ポケモン、取り返して来たよ!」
——今はこちらだ。
フィアは取り出したボールを、ギュッとフロルに握らせる。
「フィア……ありがとう」
フロルは込み上げる喜びを、柔らかい微笑みで表した。
とそこで、アナウンサーが割り込んで来る。
『なにやら選手二人の間でいい空気が流れていますが、なにはともあれ、サミダレ大会ビギナーカップ、準決勝戦! 戦うのは、試合開始まで残り七秒というところで空から滑り込んできたフィア選手! お前はどこのヒーローだ——!』
いつになくテンションの高いアナウンサー。そして狙ったわけでもないがギリギリで滑り込んできたという登場の仕方に、観客たちも意気揚々と沸き上がる。
『そしてそのフィア選手の相手は、紙一重の試合をギリギリのところで勝利していったフロル選手! 逆転勝利を得意とするフィア選手に、その力はどこまで通用するのか!』
フィアはそんなアナウンサーの声を聞きつつ、フロルとは反対側のフィールドの端、トレーナーの定位置へと移動する。そして、ボールを構えた。
(そう言えば、フロルとバトルしたことってなかったな)
シュンセイシティでバトルする予定があったが、イオンとのバトルを優先してしまい、結局戦わずじまい。
連絡船でも相手をしてもらおうと思っていたが、彼女は寝ていたのでそれも叶わず。
ここまでの道中、共に支え合ってきた仲だが、バトルをするのはこれが初。そう思うと、妙な気分だ。
『さぁ、いよいよ戦いの銅鑼が鳴り響きます! サミダレタウンバトル大会ビギナーカップ準決勝戦! 試合——』
マイクを握り締めたアナウンサーは大きく間を空け、
『——スタート!』
待ちに待った準決勝戦が、開始された。
あとがき。ようやっと準決勝戦までこぎつけました。ギリギリのところで試合に間に合うフィアですが、リメイク前はミキのバルジですっ飛んで行ったんですよね。リメイクに際して、新キャラのアッサムを加え、トロピウスになりましたけども。このアッサムですが、昔の白黒を知っている人なら、たぶん誰だかわかると思うんですよね……懐かしい名前とかも出しましたし。本当、昔の作品を漁ると、なんだか感慨深くなってしまっていけませんね……もう何年前だろうという感じです。どういう感じなのか、言語化が難しいです。えっと、では次回ですね。ようやく約束の一戦、サミダレタウン大会準決勝、フィアvsフロルです。お楽しみに。
- 第39話 草花進化 ( No.71 )
- 日時: 2017/01/22 22:17
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
サミダレタウン大会、準決勝戦。
フィアとフロルのバトル。お互い同時に、この一戦のためのポケモンを、繰り出す。
「頼んだよ、ブースター!」
「お願いっ、リーフィア!」
フィアが繰り出すのはブースター。そもそもミズゴロウがマモンとのバトルで戦闘不能、そこからここまで来るのに回復させる余裕などなかったため、必然的にブースターを出すことになる。そのブースターも、下っ端との戦闘で、少しばかり負傷しているのだが。
しかしそんなことなど関係なく、フィアは最初からこのバトルで、ブースターを出すつもりだった。
そしてフロルのポケモンは、クリーム色のスマートな肢体。体の各所からは草が生え、緑色の耳や尻尾には葉脈のような模様や切れ込みがある。
『Information
リーフィア 新緑ポケモン
細胞が植物に似ているため、
光合成が行える。尻尾の葉っぱは
大木を両断するほどの切れ味を誇る。』
「リーフィア……このポケモンも、イーブイの進化系なんだ……」
「うん……わたしが、イーくんからもらったイーブイを進化させたポケモン……わたしのはじめてのポケモンだよ」
初めて手に入れ、始めて進化させた、思い出のポケモン。
フィアのブースターも同じだ。フロルほど、いい思い出ではないが。
しかし二人の共通点。そこに、なにか運命的なものを感じる。
だとすればこの対戦も、その運命の導きによるものなのだろうか。
不思議な感覚に包まれながら、両者は動き出す。
「リーフィア、リーフブレード!」
先に動いたのはリーフィアだ。
葉っぱのような尻尾をピンッと屹立させ、鋭利な刃物のように振るう。
「ブースター、ニトロチャージ!」
対するブースターも、炎を纏って駆け出す。
リーフィアのリーフブレードにブースターのニトロチャージ。両者の攻撃が激しくぶつかり合った。
しかしパワーはブースターの方が上。ブースターがリーフィアを突き飛ばした。
「うぅ、パワーじゃ負けちゃう……でも」
パワーではブースターが上。単純な殴り合いなると、タイプでも不利なリーフィアが押されてしまう。
しかし、フロルには策があった。
「リーフィア、剣の舞!」
「!」
リーフィアは攻撃せず、その場で剣のように鋭く舞い踊る。
猛々しく、気高く、それでいて美しく。力強さの中にしなやかさのある、不思議な舞だった。
『フロル選手のリーフィア、剣の舞で攻撃力を上げてきました! 力でブースターに打ち勝つつもりだぁ!』
『相性的にリーフィアはブースターに弱い。しかも覚える技もさほど多くないですから、攻撃力を上げて対抗するつもりなんでしょうね』
剣の舞は攻撃力を大きく上げる技。
こうなると、いくら草技が効果いまひとつのブースターといえど、軽々しくリーフィアの攻撃を受けられない。
「リーフィア、リーフブレード!」
リーフィアは太陽の光に葉っぱのような尻尾を煌めかせ、一直線にブースターに向けて走り出す。
フロルは本気、そして全力だ。ならばフィアとブースター、こちらも全力で迎え撃つのが礼儀だ。
「ブースター、ニトロチャージ!」
ブースターは全身に炎を纏い、地面を蹴って駆け出した。
リーフィアのリーフブレードと、ブースターのニトロチャージが再びぶつかり合い、交錯する。
しばし激しく競り合うと、互いに身を退いた。
「ニトロチャージをぶつけてこれか……だったら、火炎放射!」
その後すぐに切り返したのはブースターだ。口から燃え盛る炎を噴射し、リーフィアを攻撃する。
「リーフィア、かわして電光石火!」
リーフィアは襲い掛かる炎を横に跳んで回避し、そのままブースターへと突っ込んだ。剣の舞で攻撃力が上がっているため、ダメージは小さくない。
「アイアンテールだ!」
「リーフブレード!」
ブースターは反撃に鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るい、リーフィアも鋭い尻尾で斬りかかる。
双方の攻撃がまたしてもぶつかり合うが、結果は僅かにブースターが強い。剣の舞で攻撃力を上げても、まだブースターには届かない。
「ブースター、攻めるよ。ニトロチャージ!」
大きく後退するリーフィアに、ブースターは炎を纏って追いかけるように駆け出す。
「かわして!」
リーフィアはまた横に跳んでニトロチャージを回避するが、
「まだまだ! 火炎放射!」
すぐさまブースターは火炎放射で追撃。
リーフィアはなんとか身を捻って躱そうとするが、避けきれず炎を少し掠めてしまう。
「リーフィア、こっちも負けてられないよ。秘密の力!」
リーフィアは一度態勢を整えると、勢いよくブースターに飛び掛かり、前足で突き飛ばした。
「くっ、ブースター、火炎放射だ!」
反撃にブースターは火炎放射を放つが、
「かわしてリーフブレードだよ!」
跳躍して炎を躱し、、リーフィアはブースターとの距離を一気に詰める。そして、袈裟懸けのように尻尾で切り裂いた。効果はいまひとつだが、剣の舞によって攻撃力が大きく上がっているため、このダメージも馬鹿にならない。
「もう一度リーフブレード!」
「アイアンテールで押し返すんだ!」
リーフィアは返す刀で追撃を試みるが、ブースターも鋼鉄の尻尾で素早く切り返し、リーフィアを押し返す。リーフィアは宙を舞った。
「ニトロチャージ!」
そして炎を纏って突進。リーフィアが地面に着地した瞬間に攻撃が当たる、絶妙なタイミングだが、
「リーフブレードだよ!」
リーフィアは空中で身を捻って態勢を変え、尻尾を振り下ろすようにしながら落下。そのままブースターとぶつかり合う。
ブースターの勢いを逆利用し、跳ね返る力で大きく後退した。直撃も受けておらず、ダメージはほとんどない。
しばし競り合っていた二体は互いに飛び退き、睨み合う。
(フロル、こんなに強かったんだ……これならシュンセイジムやイオン君にも、負けないような気がするけど……)
そんなことを思うフィアだったが、今はバトル中だ。雑念を振り払い、頭を切り替えてバトルに集中する。
「ブースター、アイアンテール!」
「リーフィア、電光石火!」
ブースターは尻尾を鋼鉄のように硬化させてリーフィアへと突っ込むが、それよりもリーフィアの方が速い。高速の突撃がブースターの脇腹へと繰り出される。
しかし、その攻撃を受け止め、ブースターは尻尾を振るい、大きく吹っ飛ばした。リーフィアは地面に叩きつけられる。
「よしっ」
手応えのある一撃。まともに入ったので、リーフィアには大ダメージだと思いきや、
「リーフブレード!」
砂煙の中からリーフィアが飛び出し、ブースターを切り裂いた。その動きは、あまり大ダメージを受けたようには見えない。
「リーフィアは防御力が高いポケモンだよ。そうは見えないかもしれないけど……だからブースターの攻撃でも、簡単には負けないよっ」
攻撃特化のブースターに防御特化のリーフィア。相性ではブースターが有利だが、リーフィアには剣の舞がある。
この勝負、いよいよどちらが勝つのか分からなくなってきた……が、その危うく保たれていた均衡が、崩れた。
「リーフィア、電光石火だよ!」
遠くから攻撃する手段のないリーフィアは、とにかく前に出る。素早い動きでブースターに接近し、突撃。さらに、
「秘密の力!」
前足を突き出して、ブースターを押し飛ばす。剣の舞で強化された攻撃だ。この連撃はかなり堪えた。
しかも、ブースターはガクリと膝を着いてしまう。ピクピクと痙攣しており、明らかに身体が痺れていた。
「やった、麻痺の追加効果っ」
秘密の力は、フィールドの状態、環境によって技のタイプや性能、効果が変わる技。人工的なバトルフィールドでは、力任せに攻撃し、麻痺の追加効果が発生する。
麻痺状態になってしまったブースター。これで素早さが下がり、動きも阻害される。
『おぉっと! フィア選手のブースター、麻痺状態になってしまったぞぉ!』
『剣の舞で火力を上げ、麻痺状態で足まで奪う……さらにリーフィア自身の高い防御力。走攻守の三拍子が揃った状態が構築されましたが……』
観客たちが沸き上がっている。状態異状でフロルが優勢となった、観客の多くはそう思っていたが、それはAブロックのバトルを見ていない者たちだ。
Aブロック二回戦の試合を見ていた観客は、そんな者たちとは違う意味で沸き上がっていた。
ブースターが状態異状になるということは——
「来た……!」
——ブースターの特性、根性が発動するということなのだから。
ブースターは大きく轟くように咆哮し、観客を黙らせる。
そして、好戦的で情熱的な、力強い眼差しでリーフィアを睨みつける。
『来ました! ブースターの特性、根性が発動だぁー! これで攻撃力が超アップ! ブースターはリーフィアの防御を突破できるのかぁー!?』
『リーフィアはタイプ相性と根性発動で、持ち前の防御が生かせない。ブースターは剣の舞で高火力の技を受けてしまう上に、麻痺で動きが鈍い。互いに防御が意味をなさない状況……如何にして必殺の一撃を叩き込めるかが肝要になりますね』
火力はお互いに十分。だがその条件であれば、スピードで負けているブースターの方が不利だ。
だというのに、なぜだろうか。
(僕、凄いドキドキしてる……身体の内側が、熱くなってるみたいな……)
この感覚は、なんだろうか。
テイルとのバトルでも、似たような状態になっていた気がする。あの時は熱中しすぎて意識が半分飛んでいたが、今は集中していても、自分の意志をハッキリと感じる。
追い詰められても楽しい。追い込まれても昂ぶる。
まだ準決勝。先がある。ルゥナとのバトルが残っている。
それでもこのバトルが、最高に楽しいと感じられた。
「ブースター、ニトロチャージ!」
しかし、ブースターは身体が痺れて動けない。
その隙に、リーフィアが接近してくる。
「リーフブレード!」
「っ! アイアンテール!」
寸でのところで鋼鉄の尻尾を振るい、リーフィアを押し返す。根性でパワーアップしたブースターの攻撃は競り合うこともなく、一瞬でリーフィアを吹き飛ばした。
「すごいパワー……だったら、剣の舞!」
リーフィアは再び鋭く舞う。攻撃力をさらに高めてきた。
「電光石火だよ!」
「近づけないで! 火炎放射だ!」
リーフィアは超高速で突っ込むものの、ブースターが放つ火炎放射に阻まれ、足を止めてしまう。
「むぅ……だったら、とんで! 秘密の力!」
「叩き落として! アイアンテール!」
リーフィアは跳躍して、上からのしかかるようにブースターへと仕掛けるが、打ち上げるようにして繰り出されるアイアンテールに弾き返されてしまう。
二度の剣の舞を使用しても、パワーではまだブースターに敵わないようだ。
「むー……だったらもう一度だよっ! 剣の——」
「させない! 火炎放射!」
リーフィアが再び踊ろうとするが、ブースターが炎を放ち、舞を止める。
「起死回生だ!」
「!」
さらに飛び掛かって、前足で起死回生の一撃を叩き込もうとするが、
「っ、しまった、麻痺が……!」
攻撃の途中で身体が痺れてしまい、ブースターの動きが止まる。
リーフィアはその隙を逃さなかった。
「今だよ! リーフブレード!」
「う、く、起死回生!」
尻尾の葉っぱを刃のように振るうリーフィア。ブースターも直前で起死回生を繰り出す。リーフィアの刃を押し切り、そのまま吹っ飛ばした。
「リーフィア!」
ドテッ、とフィールドに落ちるリーフィア。防御の高いリーフィアでも、今の攻撃はかなり効いたようだ。
しかしそれはブースターとて同じ。幾度と繰り返された交錯、連撃でかなり消耗している。
リーフィアは立ち上がり、尻尾を構えて駆け出す。ブースターもそれに合わせ、走り出した。
これが、最後の一撃だ。
「リーフィア、リーフブレード!」
「ブースター、ニトロチャージ!」
バトル開始の交錯と全く同じ技での、再三にわたるぶつかり合い。
しかしもう既に、勝敗は決していた。
根性で攻撃力が底上げされたブースターのニトロチャージは、葉っぱの刃を突き破り、そのままリーフィアを突き飛ばした。
「リーフィア!」
壁まで吹き飛ばされたリーフィアは、そのまま地面に伏し、ぐったりとして動かない。完全に戦闘不能となっている。
つまり、
『決まったあぁぁぁぁぁ! フィア選手のブースター、一進一退の攻防を、特性の根性で打破! フロル選手のリーフィアを倒し、決勝戦進出だあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
アナウンサーの叫びと同調するかのように、ワァッと観客たちの歓声が今まで以上に大きくなる。
『……準決勝戦、それも駆け出しトレーナー同士とは思えない、ハイレベルなバトルを見せて頂きました。もし彼や彼女と戦う機会があるなら、是非とも手合せしたいところですね』
ウルシもそう言ってまとめる。
お互いにポケモンをボールに戻す。
勝った嬉しさよりも、このバトルを戦いきったことの満足感が大きい。たぶん、負けてもこの高揚した気分はそのままだ。
フロルの方を見る。負けて落ち込んでいる——そんなことはありえない。
このバトルで戦い合った仲だ。そうであることは、すぐに感じ取れた。
彼女は笑っていた。フィアと同じく、やり切った、というように。そして、すべてが満たされたような笑顔。
その笑顔のまま、彼女は言った。
「フィア……ありがとう」
あとがき。無理やり一話に収めたフロルとの準決勝戦。凄い熱いバトルにするつもりが、テイル戦よりも短くなってしまった。まあ、これはこれで楽しく書けたのでいいんですけど。個人的に、ポケモンバトルは負けられないバトルより、全力で楽しいバトルが好きです。伝わるかな? 悪の組織戦より、ライバルバトルの方が好きってことなんですけど。一番好きなポケモンBGMは、BW2のチャンピオン戦ですしね。さて、文字数もギリギリそうなので、あとがきはこの辺で。次回は決勝、ルゥナ戦です。お楽しみに。
- Re: ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】 ( No.72 )
- 日時: 2017/01/24 01:42
- 名前: 大光 ◆qywHv.OLwI (ID: Uo0cT3TP)
どうも感想を書くのが下手くそな大光です。
グリモワールの七罪人との初バトルですが、ウソドロの代わりはレパルダスでしたか。自分はほっかむりした泥棒をモチーフにしている思われるアローラコラッタの進化のアローララッタが来ると予想してました。生態的にも強欲そうですし。まあ太ってるので暴食の方が似合いそうですけどね。でもマモンがスリを得意としているので、スマートなレパルダスが似合いますね。
マモンの異形の手は他作品で説明すると、デュエマのバサラのクリーチャー化した右手みたいな感じですかね?
フィアを助けてくれた女性ミキと、試合会場まで送ってくれたアッサム。ミキは……まあ説明不要ですね。フィアの旅の目的の1つの人物と切っても切れない関係者ですね。アッサムは手持ちポケモンを出すまで確信できませんでした。あと「アッサム」というのは紅茶の種類の1つのようですね。キャラのイメージとあっていますね。ハッサムとは関係ない……とは言い切れないですねぇ……。
しかし、前作のある7人は今作のリメイク前とリメイク後の現時点で判明している中では、少なくとも5人は無事に更正できたんですね。1人は更正しようにもできませんが。自分もオリキャラを前作に関連されたかったりしましたが、リメイク前は募集の時点では前作から何年経っているか不明だったので断念しましたが、リメイクしたうえでまた募集かあったので、今度は過去作に関連させました。勝手ですみません。
- Re: ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】 ( No.73 )
- 日時: 2017/01/24 22:32
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
>>72
大光さん
読者の言葉をいただけるだけで嬉しい作者です。コメントありがとうございます。
結構悩んだんですけどね。悪タイプのポケモンにしようとは思ってましたが、ゾロアークとかマニューラとか、色々悩みました。結局、レパルダスのスマートさを優先させましたが。
アローラッタって泥棒モチーフなんですか……知らなかった。個人的には暴食のイメージでした。
ただ、今作だと基本的に、リージョンフォームは出さないと思います。なにかしらの設定がない限り。あれって環境によって生態が変わるというものですし、ハワイと北方領土、アローラとホッポウの環境はまるで違いますからね。自然発生はまずあり得ない、という設定です。
だから、リージョンフォームを出すためのキャラとして、ノニ君を出したりしたんですけど。
マモンの右手は、だいたいそんな認識でいいかと。ただ、バサラよりもだいぶおとなしいです。右手の掌の一部分だけです。
アッサムはリメイクしての新キャラですね。名前の由来は、仰るとおり紅茶の種類のアッサム茶ですが、茶自体、チャノキという植物の葉っぱで、アッサムはアッサムチャという独立種があり、そこが由来ですね。なので堂々と植物由来と名乗れます。
前作のイメージから紅茶の名前にしましたけど、使用ポケモンともかぶってて、なんか妙にマッチングしてしまいました。すべて偶然です。
前作からの経過年数はあまり考えてませんでしたが、おおよそ七年です。七年もあれば、まあ、どうしようもない奴もある程度はマシになるでしょう。タブンネ。
オリキャラ……あぁ、彼ですか。成程。言われて気づきました。
今作は物語的にはあまり前作との接点はなく、基本的にキャラを流用しているだけですので、そこさえ留意しておいてくだされば、特に問題はないと思います。
- 第40話 炎矛月盾 ( No.74 )
- 日時: 2017/01/25 00:50
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「いいバトルでしたね。トロピウスを飛ばした甲斐がありました」
「会場に無事送り届けるまでが依頼内容だったからね」
「その依頼も、非常に突発的でしたがね……いきなり素性の知れぬ女性から連絡が来たうえに、あろうことか旧友の部下を名乗り始めた時は新手の詐欺師かと思いましたよ……しかし、グリモワール、ですか」
「なにか思うところでもありますか?」
「えぇ、まあ少し……彼も似たようなことを仰っていました。私は直接的に戦を交えていませんし、どこの地方にも、あの手の輩はいるものですが……」
「危険ですよね」
「まだ、なんとも言い切れませんけどね」
「ところで、連絡をしてくれた子……ルゥナさん? に報告はしなくていいの?」
「旧友がその役を担ってくれていると思いますし、問題ないでしょう。私たちは、私たちのすべきことがあります。そちらを優先しましょう」
「そうですね……でも、ちょっと手がかり、掴めたかも」
「?」
「彼のレベルに見合わないダイケンキ……師匠のにおいがした」
「ほぅ、英雄の……となると、彼が鍵だと?」
「わかりませんが……意識しておいた方がいいかもしれないね」
「私の旧友に、ルゥナさん、そして彼とラインが繋がっています。いざとなれば彼とはまた会い見えることもあるでしょう」
「それならそっちは泳がせといて、先に面倒な方から処理、ですね。じゃ、私たちも三番ポートに急ぎましょうか」
「御意に」
準決勝を終え、ロビーに戻るフィア。
次は決勝戦、ルゥナとのバトルだ。
サミダレタウンに向かう連絡船で出会い、線上でも、この大会でも、フィアを指導してくれた彼女。
出会ってからまだ数日。たった短い間だが、その中でフィアは彼女から、トレーナーとして強くなるために必要なことを、たくさん学んだ。
なぜ彼女がここまで自分に親身になってくれるのかはわからない。しかし彼女の性格からして、裏があるとか、貸しを作ろうとか、そういうことではないと思う。たった数日の付き合いではあるが、彼女はそんな人間ではないと、感じた。
フィアがここまで勝ち上がって来れたのは、ひとえに彼女の指導のお陰だ。彼女がいなくては、フィアはテイルとのバトル——いや、二回戦で既に負けていたかもしれない。
どうすれば彼女にこの恩を返せるのか。フィアから彼女にできることと言えば、全力でバトルに臨むことだけだ。
それが恩返しになるとは思えないが、せめて、彼女から教えてもらったすべてを出し切って勝負したい。フィアはそう思っていた。
「もうすぐか……」
サミダレ大会、ビギナーカップは、一日のスケジュールで全行程が行われる。しかし参加者の数は少ないとはいえず、時間はかかる。そのため、もうだいぶ日も落ちてきた。あと数刻もすれば、月も出て、完全に夜となる。
決勝戦のための会場準備もじきに終わり、入場しなければならないだろう。
最後のバトルで出すポケモンは決まっている。体力も回復させた。準備は万全だ。
そろそろ移動しようとフィアが立ち上がったその時、スッと背後に何者かの気配を感じる。
「フィア」
「っ、フロル……」
不意に声をかけられて驚くが、振り返れば、そこにはフロルが立っていた。
「どうしたの?」
「んっと、えっと……あのね、フィア」
「な、なに?」
「……がんばって」
応援された。
そんなことを伝えに、わざわざ来たのだろうか。
彼女らしいといえば、らしい。
言葉が足りてないが、なにかを必死で伝えようとして、その気持ちだけが伝わってくる。
「うん……頑張るよ。ありがとう」
「それじゃあ、えぇっと……」
「まだなにかあるの?」
「そう、うん。えっとね、フィア」
どこか踏ん切りがつかないように、言葉がつんのめっているフロル。
彼女はわりと言葉足らずで、こういうことがよくあるが、いつもと少し違う。
いつもは、言葉にしたいことをどう表現したらいいか分からず、言葉選びに迷っている感じだが、今は言葉にすること、それそのものに迷っているような、そんな感じだ。
しばらくそんな風にもごもごとしていたが、やがて、彼女は言葉を紡いだ。
「決勝戦が終わったら、一番ポートにきて……待ってるから」
「え……?」
そうして彼女は、たったかと小走りに去ってしまった。
「……待ってる? 六番ポートで、決勝戦後に……」
確かに彼女はそう言った。
待ち合わせ。なんのためなのか、わからない。
決勝戦直前に、妙なもやもやを抱えるフィア。
そのもやもやを抱いたまま、決勝の舞台へと、上っていく。
『さぁ遂に始まりました! これで終わり! サミダレタウン大会ビギナーカップ、決・勝・戦! 白熱したビギナー同士のバトルの締めということで、観客も湧き上がっております!』
決勝戦のフィールドは、基本的に今までと変わらないが、暗くなってきたために照明が灯されている。フィアは、野球のナイターみたいだな、と思った。野球観戦などまともにしたことはないが。
『ではでは、ファイナルバトルの対戦カードは、この二人! まずは準決勝で超絶ハイレベルなバトルを見せた、逆転勝利の申し子、フィア選手!』
アナウンサーの言葉に合わせて、フィアは誘導されるままに、フィールドへと歩む。今まであまり気にしないようにしていたが、これだけの観客に見られているところに出るだなんて、かなり緊張する。しかも逆転勝利の申し子などと言われるのも恥ずかしい。単にギリギリで勝ってきただけだというだけだと思う。
『対するは、的確な技のチョイスから、絶妙なコンビネーションを見せるルゥナ選手! こんなナリだが17歳だぞ!』
「なんか失礼なこと言われたよっ!?」
ルゥナも、同じように入場してくる。
お互いにフィールドの所定位置に立つ。すると、ルゥナの方から声をかけてきた。
「やっぱり来たね、フィア君」
「ルゥ先輩……」
「準決勝戦、すごかったよ。あんなバトル見せられちゃったら、ハードル上がっちゃうな……あれ以上の凄いバトルなんて、私には見せられそうにないや」
「そ、そんなことは……僕は先輩と、いいバトルを——」
「フィア君」
ルゥナは、フィアの言葉を遮った。
そして、紡ぐ。彼女の言葉を。
「確かに、ポケモンバトルはコミュニケーション。人と人、ポケモンとポケモン、そして人とポケモンが繋がる“遊戯”の側面がある。でも、こんな風に大会があったり、ジムが用意されているように、“競技”としての一面も持ってるんだよ。悪い人とバトルしたことのある君ならわかると思うけど、負けちゃいけないバトルもある。泥臭くても、卑怯でも汚くても、勝つためになんだってしなきゃいけない時があるんだよ」
「ルゥ先輩……?」
「連絡船や大会中に、私はフィア君に色々なことを教えた。君にはたくさん甘い蜜を吸わせてあげたよ……だから今度は、苦い汁を味わわせてあげる。現実は、綺麗なままで終わるばかりじゃないんだよ」
そう言って彼女はボールを構える。
今までと少し違う彼女の雰囲気に圧倒されるも、フィアも同じようにボールを握る。
『両者、準備が整ったようです! それではサミダレタウン大会ビギナーカップ、決勝戦——スタート!』
「今度こそ、勝ってみせる……! お願い、ブースター!」
「悪いけど、後輩に負けてあげるほど、私は優しくないよっ! 行って、ブラッキー!」
フィアが繰り出すのはブースター。
対するルゥナは、ブラッキーだ。
偶然か必然か、連絡船でのバトルが、またここで再現された。
『フィア選手は三回戦から連続してブースター! 対するルゥナ選手は、今大会初めて繰り出すブラッキーだ!』
『ブースターの攻撃力も凄まじいですが、ブラッキーは耐久力に優れるポケモン……攻撃と防御。矛と盾、どちらが勝るかの勝負になりそうですね』
ウルシはそのように評するが、フィアはそんな単純な構図ではないと知っている。むしろ、厳しいのはフィアの方だ。
ブラッキーは耐久力に優れるポケモン。連絡船では、ブースターの猛攻をも耐えきったほどだ。ブースターの攻撃を受け切ってしまう、最強の盾。
がむしゃらに攻めているだけでは、前回の二の舞だ。どう攻めるべきかを考えながら、相手の出方を窺うフィア。
そうしていると、不意にブラッキーが前に出た。
「隙だらけだよっ! ブラッキー、毒々!」
「え……?」
素早くブースターとの距離を詰めたブラッキーは、じわりと身体の表面から毒素を分泌する。
そして、分泌した毒素を、ブースターへと放つ。
毒素を受けたブースターは、苦しそうに呻く。毒々の効果で、毒状態になってしまったのだ。
しかし、それだけでは終わらない。
ブースターは息を荒げながらも、自らの不調を力に変え、勇ましく咆える。
『おぉっとブースター! 早くも特性、根性が発動だぁー! 三回戦、準決勝を制したそのパワーが、この決勝戦でも解き放たれるぞぉー!』
『……妙ですね。フィア選手のブースターについて知らなかったわけでもないでしょうし、ここで毒々とは……』
根性発動に沸き立つアナウンサーと会場だが、ウルシは疑念の表情を見せていた。
ウルシだけではない。フィアもまた、ルゥナの行動に首を傾げる。
「自分からブースターを毒状態にした……? 先輩、僕のブースターの特性は……」
「知ってるよ。フィア君に特性のことを教えたのは私なんだから」
やはり、知ったうえで毒々を放ったようだ。
なぜわざわざ、ブースターが有利になるような行動を取ったのか。フィアには理解できなかった。
しかしルゥナは、そんなフィアに、ピシャリと言い放つ。
「自惚れないでほしいな」
鋭い言葉だった。
どことなく冷たさを感じる声。
今まで、優しく、丁寧にフィアに指導してきたルゥナだが、ここに来て彼女は、厳しい言葉を浴びせる。
「根性があるといっても、状態異常で君のブースターが蝕まれていることに変わりはない。体力は常に削られる。持久戦に持ち込めば、こっちが有利なんだよ」
「でも、根性で攻撃が上がってるし、持久戦になんて……」
「そこが君の自惚れ。三回戦と準決勝では、根性で押し切ったみたいだけど、私のブラッキーをその程度のパワーアップで倒せると思わないで」
その程度。
根性による強化、その強さは、ここまでのバトルで実感しているし、相応の結果を出している。
それはルゥナもわかっているはずだ。それでも彼女は、根性の強化を、その程度と評する。
それだけ、ルゥナはブラッキーの防御力に、自身があるということなのだろうか。
「それと、勘違いしちゃいけないよ。毒々は相手を毒状態じゃなくて、“猛毒”状態にする技。時間が経つにつれて、体力の消耗どんどん激しくなっていくからね」
それに、とルゥナは続ける。
「今は夜。照明がちょっと邪魔だけど、夜はブラッキーのフィールド……この子の力が最大限に発揮される時だよ」
つまり今のブラッキーは、連絡船の時よりも強いということ。
「っ……!」
月光を浴びてフィールドに立つブラッキー。
その姿は神秘的で、神々しく、それでいて強大であった。
まるで魔神の如く、彼女と彼女のポケモンは、月夜の地の上で、フィアの前に立ちはだかる——
あとがき。サミダレ大会決勝戦です。正直、テイル戦が一番長く書いて、フロル戦が一番気合入れて書いて、マモン戦まで挟みましたけど、決勝戦はルゥナです。ここまで友好的に接して、フィアに色々レクチャーしてくれたルゥナですが、今回は厳しめモード。飴と鞭です。まあ、負かすって意味ではフィアは結構負けてるんですけど。でも、ただ負けるんじゃなくて、嫌な負け方、嫌な勝ち方、嫌な戦術ってものがありますからね、ポケモンには。作者は受けルが苦手です。TODとかもってのほかです。絶対零度スイクンはトラウマです。まともに殴り合わないポケモンバトルって、やっぱ敬遠されちゃいますよね。そんなバトルをフィアに教えつつ、描けたらいいかなと思ってます。というわけで次回、サミダレ大会決勝ルゥナ戦後編、お楽しみに。
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