二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
- 日時: 2017/01/26 02:02
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。
基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。
ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。
それでは、白黒の物語が再び始まります——
目次
プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3
シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36
クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76
登場人物目録
>>32
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
- 第47話 暗所恐怖 ( No.85 )
- 日時: 2017/01/30 20:02
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
フィアがエレベーターリフトの扉を開くと、中には白衣を着た女性がいた。
正確には、緩くウェーブのかかった白いショートヘアーを邪魔にならないよう右側で括り、クリーム色のワンピースの上から黄緑色のカーディガンを羽織り、さらにその上から白衣を羽織った女性が——蹲っていた。
しかも、
「う、うぅ……暗いよぅ、にぃさん……」
泣いていた。
「……えっと」
わりと人見知りで、人と話すのが苦手なフィアは、特に女性と話すのが苦手だ。さらに言えば泣いている女性などフィアの手におえるものではない。
本音を言えば今すぐ回れ右で帰りたいところだが、残念ながらそういうわけにもいかない。
フィアは相手を落ちつけようと、できるだけ静かな声で語りかけるように女性に声をかける。
「あ、あの、大丈夫——」
「っ、ひ、人ですかっ? っていうか、明かりピカッとしてますっ?」
フィアが最後まで言う前に、女性の方がフィアの存在に気付き、銀縁の眼鏡を掛けた顔がぱぁっと明るくなる。
「よ、よかったぁ。このままのまっくらな場所に一生閉じ込められちゃうのかと思いました……ありがとうございます」
「い、いえ……」
まだ目尻に涙を浮かべているものの、女性はもう泣き止んでいた。フィアとしては好都合というか、良い展開だ。
「予備電源が作動したので発電所の様子を見に行こうとしたのですが、途中で電源がプツッてなっちゃいまして、閉じ込められてしまったんです。私、暗いところがダメダメで……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね」
顔を少し赤らめながら微笑む女性。さっきまで啜り泣いていたのが嘘のような笑みだ。
(つまり暗いところが苦手だから、泣いてたんだね……)
いわゆる暗所恐怖症というものだ。恐怖症の中では高所恐怖症や閉所恐怖症となどと同列に語られるくらいにメジャーなものだろう。
「あ、自己紹介、しないとですね。私はクリです。今はナルカミ研究所とテンロウ大学の講師として勤務していて、このナルカミ発電所の管理人の一人です」
「えと……僕はフィアです。その、旅の途中でこの街に立ち寄った、トレーナーです」
女性——クリの後に続き、フィアはすぐに自分も名乗る。
研究員、大学講師、さらには管理人と、随分と兼業しているのだと、少しばかり驚いた。
「フィアさんですね。ところで助けてもらってこんなことを問うのも失礼ですが、フィアさんはなぜここに?」
「それは、えぇっと……」
フィアはお世辞にも説明が上手い人間ではないが、たどたどしくも、なんとかクリに現状とフィアがここに来た理由を説明する。
クリはフィアの拙い説明にも口を挟むことなく、時折頷いたりしながら、じっくりと耳を傾ける。
そして、一通り話を聞き終えると、すぐに納得し、状況を理解したようだった。
「そうでしたか。この街のことなのに、旅の途中のトレーナーさんにバタバタさせてしまって申し訳ないです……ここからは私一人でも大丈夫です。危険ですし、フィアさんは街に戻られた方がよいかと」
「いや、そういうわけには……」
「しかし一般人を、街のゴタゴタに巻き込めません」
「でも……」
と、その時。
フィアのP・ターミナルに着信が入った。
「あ……」
「どうぞ、出てください」
「すいません……テイルさんからだ。どうしましたか?」
『フィア! そろそろ俺のポケモンたちも限界で、一度休ませたいんだが、そっちはどうなってる?』
「あ、忘れてた……」
今こうしてエレベーターが稼働しているのは、テイルのポケモンが電気を供給してくれているからだ。
ポケモンの電気は有限だ。エレベーターひとつといえど、動かすには膨大な電気が必要。ポケモンの力だけで、ずっと電気を供給し続けられるわけではない。
すぐに移動しなければ。
「あの、クリさん。今は僕の仲間がこのエレベーターを動かしてて……えぇと、とにかく、時間があまりないですし、早くエレベーターで先に進まないと……」
「……わかりました。そのお仲間さんともしもしできるのも、フィアさんだけのようですし、一刻を争う事態です。急ぎましょう」
フィアの同行に反対していたクリだが、テイルの存在を認知し、その重要性を理解すると、フィアの同行を認めた。
クリはパネルを素早く操作すると、エレベーターに戻る。そしてエレベーターの扉が閉ざされ、動き始めた。
「テイルさん。エレベーター、動きました。管理人さんもいました。無事です」
『そうか、それは良かった』
「僕は管理人さんと一緒に、メイン発電室に向かいます。到着したら連絡するので、もう少しだけ、お願いできますか?」
『了解だ! みんな、もう少しだけ頼むぜ!』
P・ターミナル越しに、テイルがポケモンに発破をかける声が聞こえる。
一旦、フィアは通話を切った。エレベーターの稼働音だけが、狭い室内に響く。
フィアもクリもしばらく黙っていたのだが、ふと、クリが口を開く。
「ところで、今回の件とはまるっと関係のないことなのですが、どうしても気になったので、聞いてもよろしいでしょうか」
「? なんですか?」
前置きをしてから、クリはフィアの頭の上に乗っているピチューを指差しながら言う。
「そのピチュー、見たところフィアさんのポケモンではないようなのですが……」
「分かるんですか?」
「ええ、まあ。職業柄、そういうのは見抜けるようになっていますので」
研究者、大学講師、発電所の管理人——これらの職業から人とポケモンの関係性をどう見抜くのかと疑問に思ったが、彼女の言うことは正しく、確かにこのピチューは野生にポケモンだ。
フィアはこのピチューと出会った経緯を、クリに説明する。
「実はこのピチュー、さっきエレベーターのカードキーを盗んだんですよ。見ての通りカードキーすぐに取り返せたんですけど、取り返したと思ったら、今度は僕について来て……離れようともしませんし、なにが目的でなにを考えてるのか、さっぱりなんです」
事実をそのまま言うと、クリは目をぱちくりさせてフィアを見つめる。「こいつはなにを言っているんだ?」とでも言うような目だ。
「えぇっと、あの、フィアさん。まさか、本当に気付いてないんですか……?」
「? なにがですか?」
クリはここで初めて落胆したような溜息を吐く。やれやれ、と言いたげな溜息だった。
「フィアさん、たぶんそのピチュー、フィアさんのことが好きなんだと思いますよ?」
「えぇ!?」
「なんでそんなに驚くんですか……」
またしても、クリは溜息を吐く。
「でも、このピチューとはさっき会ったばかりで……それに、カードキーを盗まれましたよ?」
「フィアさんが気づいていないだけで、ピチューは前からフィアさんのことを知っていたのかもしれませんよ。ピチューはちっちゃなポケモンなので、僅かな隙間もスルッと通ってしまいます。フィアさんのバトルをどこかで見たのかもしれません」
「僕のバトルを……あ!」
思い出した。
ポケモンセンターに入ってきたルクシオ。あのルクシオとのバトルの最中、どこからか電気の球が飛んできた。
てっきりテイルが影から応戦してくれたのかと思ったが、あれはピチューのエレキボールだったのかもしれない。
ピチューはその時から、フィアのことを見ていたのだろうか。
「それに、おいたして相手を気を引こうとするのは人間だけじゃないんですよ? むしろ脳の構造的に、ポケモンの方がそういう悪戯っ子的な行動を取ることが多いんです。身体で自分の意思を表現するのが、ほとんどのポケモンですからね」
「は、はぁ……そうなんですか」
「それ以前に、今こうしてフィアさんにピッタリついて来ているということは、それだけフィアさんが魅力的なトレーナーだからでしょう」
魅力的なトレーナー。
そうなのだろうか。自分がそうであると思ったことはなく、そうである自信もない。
しかしこうしてピチューがフィアについて来た事実は、確かなものだ。それが意味することを、フィアは考えなくてはならない。
「ピチュー……」
頭に乗せたピチューを降ろし、ジッとその目を見つめる。フィアは至極真剣な眼差しだが、ピチューは物欲しそうな目で微笑、フィアを見つめている。
「ゲット、してあげたらどうですか?」
「…………」
クリが、そう口を添える。
ゲットしてもいいのだろうか。このピチューには、もっと他に良いトレーナーがいるのではないか。それよりも、野生の方が生きやすいのではないか。
自分はこのピチューを、しっかりと育てることができるのか、ちゃんと一緒に戦えるのか。
そんな不安が、急激に込み上げてくる。
「大丈夫ですよ、フィアさん。トレーナーがポケモンに愛情を持って接すれば、ポケモンもトレーナーに尽くしてくれます」
「クリさん……」
「それに、トレーナーの考えも大事ですけど、ポケモンの気持ちを汲み取ってあげるのも、良いトレーナーの条件です」
「…………」
ポケモンの気持ちを汲み取る。
ピチューの気持ち。クリが言うにはフィアを好いていると言うが、本当なのか、フィアにはわかりかねる。
なんとなく、ピチューの頭を軽く撫でてやった。意外と柔らかい。ピチューは気持ちよさそうに目を閉じている。
そんな様子を見ていると、なんとなく嬉しくなる。本当に、このポケモンは自分を好いてくれていると、そう思えた。
すると、
バチッ
「痛っ……」
電気が、弾けた。
フィアは思わず手を離してしまう。
ビリビリと、少し痺れる手を見つめて、ぽつりと呟く。
「……やっぱり、嫌われてるんですよ。カードキー、盗まれましたし」
爆ぜた電気は拒絶。フィアの手を弾いた事実が、それを意味している。
フィアはそう解釈したが、クリはそれを否定する。
「いいえ、そんなことはありません」
「でも……」
「ピチューは、電気袋が未発達なんです。感情が昂ぶると、すぐに電気をパチパチさせてしまいます」
クリはそう説明する。そういえば、図鑑にもそのような書かれていた。
「感情の昂ぶりは、様々な形があります。めらめら燃えていたり、わくわく楽しかったり……どきどきする恋心もまた、感情の昂ぶりです」
「こ、恋心……?」
「ふふっ。そこまでかどうかはわかりませんけど、誰かが好きっていう、どきどきする心だって、感情なんです」
確かに、その通りだ。
ドキドキする心。それが、ピチューの心情なのか。
「それに、ピチューのその表情を見てください。嫌がっているように見えますか?」
クリに促されて、再びピチューに視線を向ける。
ピチューはやはり、物欲しそうな目で、フィアを見つめていた。もっとして欲しい。撫でてほしいと言っているかのように。
「ピチューの放電は、嬉しすぎて、はしゃいじゃってるだけなんです。可愛いじゃないですか」
「…………」
「ほら、フィアさん。ピチューの気持ちに、応えてあげてください」
「……はい」
フィアは、博士から貰った空のボールを一つ、取り出した。
「じゃあ、ピチュー……行くよ」
出来るだけ優しく、力を入れずにフィアはボールのスイッチをピチューの額に押し付ける。
するとピチューはボールの中に吸い込まれていき、地面に落ちる。そして何度か揺れた後、カチッという音が鳴った。
「ピチュー、ゲットですね」
「はい……その、クリさん。ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず。甘酸っぱいトレーナーとポケモンの繋がりが見れて、私もどきどきしちゃいました。むしろ、ごちそうさまです」
えへへ、と子供っぽく笑うクリ。
女性とはいうものの、フィアよりも小柄で、顔つきも童顔な彼女の笑う姿は、本当に子供のようだった。
ゲットしたピチューのボールを仕舞うと、ちょうどエレベーターが止まった。目的地に——メイン発電室に、到着したのだ。
「テイルさん。エレベーター、到着しました。電気はもう大丈夫です」
『おう、了解だ』
「さっきも言いましたが、僕は管理人さんとメイン発電室に向かいます」
『わかった。帰りの時はまた連絡くれよ。それと、くれぐれも無茶だけはするな』
「了解です」
そして、テイルとの通話も切る。
「では、急ぎましょうか。あまりゆっくりしている時間はないと思うので」
「そうですね……」
ピチューをゲットした感動に浸っている暇はない。
フィアとクリは、急ぎ足で発電所の最奥部——メイン発電室へと向かう。
あとがき。ちょっと長々しましたが、ピチューゲット回です。パチリスをピチューに変えた理由の一つは、非公式をなくしたことでパチリスが進化しなくなったことが一点。純粋に作者が好きだからというのが一点です。意外ですか? 実は最近、ピカチュウやライチュウが好きになって来たんですよね。アロライの影響とかなんとかで。SMストーリーでも、旅パにアロライは連れてました。ピカチュウってアニポケの影響で、ポケモンではお馴染みの看板キャラですけど、その系統を主人公側に使わせたことって今までなかった気がするので、なんか新鮮な気持ちです。それでは次回、発電所深部へゴーします。お楽しみに。
- 第48話 電気蜘蛛 ( No.86 )
- 日時: 2017/02/01 07:37
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「うわ……」
「これは……」
ナルカミ発電所。その最奥にして最深部である、メイン発電室。街全体に電力を供給するための莫大な電気を生成している巨大発電機のある部屋には、とんでもない光景が広がっていた。
部屋を覆い尽くすほどにはびこっている、大量の黄色い蜘蛛のようなポケモン。
ほとんどは非常に小さな蜘蛛だが、ちらほらと巨大な蜘蛛の姿も見られる。
『Information
バチュル くっ付きポケモン
自ら発電が出来ないため、野生の
バチュル他のポケモンや機械から
電気を吸い取る術を体得している。』
『Information
デンチュラ 電気蜘蛛ポケモン
電気を帯びた糸で相手を拘束する。
デンチュラの巣は常に帯電している
ので、通行の妨げになることもある。』
「バチュルとデンチュラ……納得です。このポケモンたちが停電を起こした主犯格ですか」
図鑑の説明を見て、フィアも頷く。
バチュルとデンチュラは、電気を主食とするポケモン。一匹あたりが食べる電気量は小さいかもしれないが、このおびただしい数を見てしまえば、納得もいくというものだ。
「パッと見の概算ですけど、バチュルの数、千や二千ではきかなさそうですね……寄って集って、メイン発電室をこんなにしちゃって……」
発電室には、大量のバチュルとデンチュラが電気を食べているだけでなく、縦横無尽に白い糸が放射状に張り巡らされている。蜘蛛の巣だ。
メイン発電室全体が、バチュルとデンチュラの巨大な巣にされてしまっているのだ。
「どうしましょう、これ……」
「たぶんデンチュラが主導で電気をぱくぱくしていると思うので、リーダーを倒せば、文字通り蜘蛛の子を散らすようにパーッと散るとは思うんですが……」
陰りのある表情で考え込むクリ。そして彼女は、小さく呟いた。
「今回のこのざわざわ、どうにも裏でなにかある気がするんですよね……」
「クリさん……?」
「あ、すいません。とりあえず、原因は想像以上に単純明快ですし、このポケモンたちをぱっぱと追い払うという手段を試してみるとしましょう」
要するに実力行使。
クリは白衣のポケットから、ボールを一つ取り出した。フィアも同じように、ボールを握る。
「相手は虫タイプ。なら……頼んだよ、ブースター!」
「実験スタートです、ロトム!」
フィアは虫タイプに有利なブースターを、クリはテイルも所持していたロトムを繰り出す。
「ではロトム。あつあつなフォルムでお願いします」
そう言ってクリは、白衣のポケットから四角いルービックキューブのような物体を取り出す。
するとキューブはガシャガシャと音を立てて形を変え、瞬く間にまったく別のものへと変化した。
「な……それって……電子レンジ?」
変化したそれは、直方体で前面に取っ手のついた機械。フィアが知るものと比べてかなり小型だが、フォルムは同じだ。
あまりにこの場に似つかわしくないと思われる物体。食品などを温めるための、レンジだった。
「なんでそんなものを……」
「これはただの電子レンジではありませんよ。必要なものなんですよ、ロトムにとっては」
そう言ってクリは、小型レンジと化したそれを、高く掲げ、叫んだ。
「ロトム! フォルムチェンジ! モデルヒート!」
ロトムはプラズマの色や形を変えていく。いや、プラズマだけではない。自身の体の形さえも、変形していく。
やがてロトムは完全に姿を変えてしまう。元の面影は残っているものの、プラズマは水色から赤色になり、形も稲妻ではなくまるでミトンのようになっている。オレンジ色の体は突起こそ同じだが、電子レンジのような丸みを帯びた四角形をしている。
「これは……?」
「フォルムチェンジです」
フィアが思わず声を漏らすと、すかさずクリが説明を入れる。
「フォルムチェンジとは、一部のポケモンがなんらかの条件を満たすことで自身の姿を変えることです。進化などとは違い、あくまで姿を変えるだけですが、姿を変えると同時に違う力を顕現することも多いんです」
「フォルムチェンジ……」
進化ではない、ポケモンが姿を変える現象。
また一つ、フィアは新しいことを学んだ。
「ロトムは五つの姿にフォルムチェンジができます。これはそのうちの一つ、ヒートロトムです」
ヒート、つまりは熱。だから赤色で電子レンジなのかとフィアは一人納得する。
「それでは行きますよ。ロトム、オーバーヒートです!」
ロトムはプラズマ状の両手に熱を集め、それらを大気中で発火させて膨大な爆炎を発生させる。
爆炎は凄まじい勢いでバチュルの群れに襲い掛かり、近くのバチュルを焼き尽くしてしまった。
「凄い……!」
その凄まじい炎に圧倒されるフィア。今の一撃でバチュルはほとんどやられてしまったのではないだろうか。あまりの火力の高さで、熱気だけで倒れてしまうバチュルもいる。
「ブースター、僕たちも。火炎放射!」
ロトムのオーバーヒートと比べると、あまりに貧弱な炎だったが、それはあくまで比較した場合。ブースターの火炎放射も、普通にバチュルを焼き払う程度の力はあった。
バチュルばかり焼いているが、この場にはバチュルしかいないわけではない。巨大な蜘蛛——デンチュラが、フィアたちの存在を危険視してか、のしのしと近づいてくる。
「ブースター、ニトロチャージ!」
炎を纏い、デンチュラへと突っ込むブースター。まっすぐすぎるその攻撃は、容易くデンチュラに躱されてしまうが、
「オーバーヒートです!」
続けて放たれるロトムの大火力の前に、デンチュラが一匹、焼け落ちた。
すると別のデンチュラが、バチュルを引き連れて襲ってくるが、ブースターがニトロチャージで吹っ飛ばした。
「このデンチュラでもないですか……どれがボスなのか、ちんぷんかんぷんです」
「困りましたね……」
「仕方ないといえば仕方のないことです。ロトム、一度フォルムチェンジ解除です」
クリがそう指示を出すと、ロトムはモーターから抜け出して、元の姿に戻る。
そのすぐ後、カシャカシャ、とキューブ型のモーターが再び鳴動し、レンジ型だったそれは姿を変化させた。
今度もまた、直方体だ。しかし今度は縦に長く、前面に観音開きの扉がある。
「れ、冷蔵庫……?」
「はい、冷蔵庫です。ロトム、モデルチェンジ! モデルフロスト!」
クリの声に呼応して、ロトムは小型冷蔵庫へと侵入。またしても、姿を変える。
身体を覆うプラズマが紫色になっており、電子レンジの姿よりもゴツい。
とはいえ冷蔵庫にしては、かなり小さくはあるが。
「これもフォルムチェンジ……!」
「その通りです。ひんやりしてくださいね、吹雪!」
冷蔵庫のロトムは、観音開きになった扉を開け放ち、中から凍てつく吹雪を放つ。
オーバーヒートのように効果抜群ではないものの、あちらよりも広範囲に放たれる吹雪は、多くのバチュルたちを吹き飛ばし、凍りつかせてしまった。
バチュルの数はまだ減らす、デンチュラも何体か倒したが、今だ収まる気配はない。
そもそも、ボスを倒せば収まるという考えが間違っていたのだろうか。
「! クリさん、上!」
「っ!」
思考する暇はなかった。
気づけば、デンチュラが天井に張り付き、こちらを狙っている。
「ブースター、火炎放射!」
「ロトム、吹雪です!」
二方向から放たれる、炎と氷の同時攻撃。片や弱点タイプの攻撃で、片や単純な高火力の攻撃。簡単には防げず、また、まともに食らえば落とされてしまうだろう双撃。
しかし、デンチュラはさざめくような音を発すると、火炎放射と吹雪、両方の攻撃を一瞬で消し飛ばしてしまった。
「!? そ、そんな……!」
「このデンチュラ、他の個体よりもずっと強いです……!」
ということは、このデンチュラがボスなのだろうか。
デンチュラはスタッと天井から下りると、高電圧の電撃をこちらへ放ってくる。
「! ロトム、吹雪です!」
フィアたちの壁になるように、ロトムは前に出ると、猛吹雪を放つ。
だがこの吹雪でも電撃を止められず、そのまま突き抜けてロトムの身体に電流を走らせる。
「なんてパワー……フィアさん、お願いがあります」
「な、なんですか?」
「ロトムをヒートロトムに戻します。ですが、そこに一瞬の隙が生まれてしまうんです。その間だけでいいので、デンチュラの相手をしてください」
「わかりました……やってみます」
たった一瞬。しかしその一瞬でも気を緩めれば、やられてしまう。
そう思わせるほど、このデンチュラは強い。そう感じさせた。
「では、くるっと交代です! ロトム、戻ってください!」
「ブースター、行って! 火炎放射!」
ロトムと入れ替わり、ブースターが前に出る。
ブースターはすぐさま炎を噴射して攻撃するが、デンチュラの反応も早い。さざめく音波で打ち消してしまう。
「ロトム、フォルムチェンジ解除。次のフォルムに移行します」
ロトムが抜け出したモーターが、再三カシャカシャと変形する。
「ブースター、ニトロチャージ!」
その間、ブースターはデンチュラと戦う。炎を纏い、デンチュラへと突撃していく。
だがその攻撃は、避けるまでもなく止められてしまう。デンチュラが放つ電撃によって、纏う炎を貫かれ、身体に直接電撃をぶつけられてしまった。
そして、その一撃で、ブースターは倒れてしまう。
あとがきです。今回は特に語ることはないんですけど。クリさんのフォルムチェンジの仕様がちょっと変わってるくらいですね。あと、作者はデンチュラ好きです。電気・虫の複合タイプがデジモンっぽいのと、眼がクリクリしてて可愛い。充実した技と高いスピード、優秀な特性で、新しい同タイプのクワガノンにも負けませんよ。スペックが違いすぎて差別化は容易ですけどね。それでは次回、長かった停電騒動もそろそろ終わりだと思います。お楽しみに。
- 第49話 停電収束 ( No.87 )
- 日時: 2017/02/01 15:02
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「ブ、ブースター……そんな、一撃で……!」
まさかここまで強いとは思わなかった。タイプ相性ではこちらが有利。倒せずとも、それなりに戦えるはずだと思っていたが、予想以上の強さだ。
稼げた時間は、本当に一瞬だった。しかしその一瞬だけでも、なんとかなる。
なぜなら、
「フォルムチェンジ、モデルヒート! お願いします、ロトム!」
その一瞬で、ロトムはヒートロトムへのフォルムチェンジを完了させていたのだから。
「それでは、あつあつな炎で、ぼぉっと焼いちゃいますよ! ロトム、オーバーヒート!」
ロトムは両手に熱を溜め込む。体内で発生した熱を溜め、凝縮し、肥大化させる。
そしてロトムは、激しい爆炎を解き放った。巨大な炎の塊には逃げ場もなく、大口を開けてデンチュラを飲み込まんとする。
回避不能なのはデンチュラも察したのか、さざめく音波を放って相殺を試みるが、流石に火力が高すぎる。タイプ相性もあり、削り切れていない。
やがて、炎がデンチュラを覆い尽くした。
「やった……んですか?」
「わかりませんが、効果は抜群です。ぴんぴんでいられるはずはありません」
めらめらと燃える炎。デンチュラの姿は見えない。動いている気配も感じられない。
流石に倒したか、と思った、次の瞬間。
炎の中から電撃が放たれ、ロトムを吹っ飛ばした。
「! ロトム!」
奇襲を受け、倒れたロトム。効果いまひとつの攻撃だが、凄まじい威力だ。ロトムの体力を大きく削ぎ落している。
流石のクリも驚きを隠せない。
目の前には、炎を振り払い、ジッとこちらを見据えるデンチュラの姿。身体のいたるところが焦げてはいるが、戦闘不能になる予兆は一切感じられないほど、ピンピンしている。
ロトムにこれだけの傷を与えるパワーもそうだが、デンチュラとしては相当なタフネス。虫のさざめきで威力を減衰させたのかもしれないが、それにしても、効いてなさすぎる。
「そんな、ロトムまで……!」
「なんということでしょう。このパワー、スタミナ……強すぎます」
クリも険しい表情を見せている。
彼女も、このデンチュラの強さは、予想外だったのだろう。
「この能力の高さ。デンチュラとしても異様ですが、およそ野生のポケモンとは思えません……」
「……野生のポケモン?」
とは思えない。
彼女はそう言った。
人の育てたポケモンの方が、野生のポケモンより強いというのは、トレーナーの間では常識だ。野生のポケモンが自律的に成長する強さには限界がある。その成長限界を超えさせるのが、トレーナーの役目なのだ。
なので、トレーナー二人がかりでまったく太刀打ちできないような野生のポケモンは、少々おかしい。ここまで強い野生の個体は、珍しいどころか、異常ですらある。
「もしかしたら、トレーナーがぽいぽい手放したポケモンかも……」
「手放したポケモン……トレーナーが……」
フィアの中で、なにかが結びつく。
トレーナーが手放したポケモン。トレーナーの手元から離れたポケモン。
フィアは知っている。そんなポケモンを。
「……まさか。いや、もしかしたら……!」
根拠はない。しかし、なにかが囁きかけている気がする。
一か八か。それに、このままではどうしようもない。
一縷の望みにかけて、フィアは鞄の中に仕舞っているボールを、取り出した。
そしてそれを、投げ放つ。
「お願い、力を貸して——ダイケンキ!」
ボールから出るのは、ダイケンキ。
このポケモンも、トレーナーの手元から離れているポケモン。フィアのポケモンではない上、相手は相性の悪い電気タイプ。
相性では不利がつくポケモンだが、そんな言葉では推し量れない、言うなれば運命的な結びつきが、そこにはあった。
「ダイケンキ……」
ダイケンキはジッとデンチュラを睨み付けていた。貫禄ある眼光が、電気蜘蛛を射抜くように見据える。
デンチュラはその眼光に怯えているように身を竦ませ、動かない。
「……? デンチュラの動きが止まった? フィアさんのダイケンキを見て……? どうして……?」
疑問符を浮かべて困惑しているクリ。フィアも、この状況を理解しているとは言えない。
しばらくダイケンキとデンチュラの間で無言のやり取りがあった後、デンチュラはのしのしとフィアの所まで歩み寄って来る。
「な、なに……っ?」
突然デンチュラが接近してきたため狼狽えるフィア。デンチュラの腕が、スッとフィアの手に触れる。
刹那、フィアの中に何かが流れ込んできた。
(……!? これって……!)
真っ暗な空間。そこにいるのは一人の青年と、デンチュラの姿。青年とデンチュラが向かい合っているのは、巨大な渦巻く影——
「フィアさん?」
「っ……! あ、はい、なんですか?」
「いえ、さっきからボーっとして……大丈夫ですか?」
「えと、はい……」
それよりフィアは、さっき頭の中に流れ込んできた映像を思い返す。
(さっき見えた人って、あの人だよね……ていうことは)
フィアはまだ混乱から脱し切れていない頭で考えを巡らせ、ずっと大人しくしているデンチュラに、語りかける。
「デンチュラ、君もあの人——このダイケンキのトレーナーのポケモンなの?」
デンチュラはコクコクと頷く。肯定、ということだろう。
「そっか……」
フィアは考える。このデンチュラがあの青年のポケモンだというのなら、青年を探す手掛かりになるかもしれない。
自分の旅の目的の一つ。その欠片が、ここにいる。
そう思い、フィアはまた空のボールを取り出した。
「デンチュラ、僕は君のトレーナーに恩があるんだ。あの人を探してお礼が言いたい、ダイケンキも返したい。君があの人から離れてしまったのなら、君とあの人を引き合わせたい。僕があの人に出来るのはそれくらいだけど、とにかくあの人を探してお礼がしたいんだ」
自分で言ってまとまってないと思うが、それでも思うまま、フィアは続ける。
「だからデンチュラ、今だけ僕と一緒に来てくれないかな。皆で一緒に、あの人を見つけよう……その間、ちょっと僕に力を貸してほしいんだけど、いいかな?」
フィアの言葉に、デンチュラはコクリと頷いた。
「ありがとう、デンチュラ」
フィアはふっと微笑み、デンチュラをボールの中へと入れる。ボールは地面に落ち、しばらく揺れ、やがてカチッという音を響かせる。
「なんだかよくわかりませんし、状況が飲み込めなくてちんぷんかんぷんですが……」
本当にボスだったらしいデンチュラがいなくなり、バチュルや他のデンチュラは、文字通り蜘蛛の子を散らすようにして逃げて行った。
こうして、ナルカミシティの停電騒ぎは収束したのだった。
あとがき。これにてナルカミシティの停電騒ぎは終了です。どうでもいいですけど、クリさんの口調が書きづらい。昔はもっとすらすらかけていたんですけど、最近はなんだか難しいです。意外と擬音語、擬態語、幼児語で表現するのって難しいんですね。考えるほどに困難になるっていうのは、小説を書く上での面白いところですが、同時に嫌なところでもあるので、なかなか難儀です、物書きって。それでは次回。本命のジム戦……に、行けるかは微妙です。たぶん一回くらいワンクッション置きますが、お楽しみに。
- 第50話 現代天使 ( No.88 )
- 日時: 2017/02/02 03:04
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
停電からの復旧は、フィアが想像していたよりも遥かに早かった。
というのも、この街のジムリーダーが、島の発電施設に事情を説明して給電を頼んだり、提携機関からの応援を要請したりするなど、まるで事件現場を見ていたかのような迅速に対応したために、すぐに街は電気を取り戻した。
街中にはびこっていたポケモンは、デンチュラがまとめて引き連れて、街の外に送り返した。バチュルたちだけでなく、街中のポケモンのボスだったらしく、すべてのポケモンがデンチュラの先導に素直に従っていた。そのため、人間とポケモンの争いもなく、すべてが平和的に解決したのだった。
それでも、停電から三日間。ジムは閉鎖しており、フィアもデンチュラと共にポケモンを送り返していたので、ジム戦が出来ずじまいだった。
今日からジムも開き、ポケモンもすべて送り返したので、ジムに挑戦できる。
特訓らしい特訓はできなかったが、新しい仲間、ピチューもいる。
ポケモンセンターで準備をしていると、不意に声をかけられた。
「あの、フィアさん、ですか?」
「え? あ、はい……そうですけど」
ポケモンセンターの女医——ジョーイさんだ。
ポケモン回復の際にいつもお世話になっている人だが、向こうから声をかけられることはほとんどなかったので、少し驚く。
「フィアさんはこの後、なのかご予定がおありでしょうか?」
「えっと、はい。一応。ジムに挑戦しようかと思っていますけど……」
「ああ、それはよかったわ。この街のジムリーダーが、あなたを呼んでいるの」
「え、僕を? なぜですか?」
「詳しくは私にはわからないけれど、なんでも、停電騒ぎを解決した立役者に、ジムへ一番最初に挑戦する権利を授ける、って言ってたわ」
停電騒ぎを解決した立役者。なぜジムリーダーがそのことを知っているのか、フィアにはわからなかった。どこかで話を聞いたのだろうか。
(というか、なんで僕がジム巡りをしてるトレーナーだって知ってるんだろう……)
ここのジムリーダーは予知能力者かなにかなのだろうか、とフィアは少し恐ろしくなった。
とはいえ、一番最初にジムに挑戦できるというのは、悪いことではない。ジョーイさんに礼を言って、フィアはポケモンセンターを出た。
すると、
「おーい、フィア!」
「あ、テイルさん」
後ろから、テイルが追いかけるようにしてポケモンセンターから出て来た。
「フィア、この後ジム戦か?」
「はい。そのつもりです……なんだか、ジムリーダーに呼ばれているみたいで……」
「お前もか」
「へ?」
「実は俺もなんだ。停電騒ぎの影の功労者とかなんとか……よくわからないが、一番最初にジムに挑戦する権利を与える、みたいな」
内容はまったくフィアと同じだった。確かにテイルも、影で電力供給をしてくれ、フィアたちはそれに助けられたのだが、なぜそこまで詳しいのか。
やはりフィアにはわからなかった。
「……でも、一番が二人って、どういうことでしょう?」
「この街のジムは複数人で挑めるらしいからな。俺たち一緒に挑めばいいんじゃないか?」
「テイルさんは、それでいいんですか?」
「おう! 全然構わないぜ!」
シュンセイジムでも、複数人で挑むことで、攻略の糸口を掴めた。
ナルカミシティのジムがどのようなルールなのかはわからないが、フィアとしても、実力者であるテイルがいてくれるのは心強い。
二人は並び、ナルカミジムへと向かう。
ナルカミジムの外装は、一言で言って“研究所”だ。
白塗りの巨大建築物。縦に長いと言うよりは、面積が広い。窓は小さく、外から中の様子はまるで窺えない。
そんなある種、不気味な雰囲気のあるナルカミジムの入口前。フィアたちより先に、人影が見える。
「あれ、ジムの前に誰かいる……」
挑戦者だろうか。フィアよりも小柄な少年が、ジムの前に立っていた。
黄色いアロハシャツに茶色いハーフパンツ。寒冷なホッポウでは寒そうな格好だが、上から白いコートを羽織っている。
陽気な服装に似つかわしくない、鋭い相貌。やや浅黒い肌に、色素が抜けかけた茶髪。
その姿が明らかになるにつれてフィアは、彼のことを思い出した。
「あれ、君は確か……」
フィアの声に、向こうもこちらに気付いたようで、フィアたちの方を向き直る。
「……久しぶり、ってほどでもない気がするな。ハルサメの大会以来か」
そこにいたのは、ハルサメのバトル大会一回戦で、フィアとバトルした少年——ノニだった。
向こうもこちらのことを覚えていたようだ。互いにすぐに認識できた。
「えっと、ノニさん? ノニ君?」
「呼び捨てでいいぞ。たぶん、おれの方が年下だしな」
ぶっきらぼうに答えるノニ。
フィアに向けていた視線を、今度はテイルに向ける。
「あんたは知らないな。誰だ?」
「俺はテイルっていうんだ。よろしくな」
「……おれはノニだ」
自ら年下と称するノニだが、その態度は明らかに年長への敬意を払ったそれではない。
ある意味マイペースというべきか。ノニは自分の尖った口調を変えぬまま、口を開く。
「あんたらもジム戦か?」
「そうだけど、ノニ君も?」
「あぁ、まあ。一応な」
「じゃあなんでこんなとこで突っ立ってるんだ? 早く入ればいいだろ」
「予約している挑戦者がいるから無理だと断られた。予約制だなんて聞いていない」
そうだった。
予約したつもりはないが、今日一番のジム戦は、フィアたちが行うという取り決めを、ジムリーダーがしたのだった。
「……ひょっとして、その予約してるトレーナーってのは、あんたらなのか?」
「それが、僕らにもよくわからないんだけど……たぶん、そうだと思う……」
「たぶん? はっきりしないな」
顔をしかめ、フィアの顔を覗き込むように視線を向けるノニ。目つきが厳しいので、睨まれているような気分だ。
ジム戦の順番に関しては、フィアとしてもどう説明したらいいものかよくわからないが、そこでテイルからの助け舟が出た。
「俺たちにも色々あったんだよ。数日前に停電があっただろ? 知ってるか?」
「おれは昨日この街に着いた。騒ぎのことは知っているが、実際には見ていない」
「そうか。まあとにかく停電があってだな、俺たちはその騒動にちょっと首を突っ込んだんだ」
「そうしたら、ジムリーダーの人が、一番に挑戦する権利を与えるって……」
「……概ね理解した。事件解決の恩賞というわけか」
「そんなつもりじゃなかったんだけどな」
「ご、ごめんね……」
「……まあいい。理由がわかれば納得だ。早く終わらせてくれ」
言葉こそ悪いが、思いのほかノニはすぐに引き下がる。案外、割り切る性格なのかもしれない。
一歩身を引いて、ジムへの道を開けるノニ。
フィアは開かれた道を通ろうとする、その時。ノニに向き直る。
そして、
「あの……よかったら、ノニ君も一緒にジムに挑戦しない?」
「……おれもか? いいのか?」
「うん。実際にジムに早く着いたのはノニ君だし、僕らのために待たせちゃうのも申し訳ないし……テイルさん、いいですか?」
「俺は構わないぜ」
「……助かる」
目は合わせず、そっぽを向きながらも、ノニは短くそう言った。
自分たちのために待たせてしまうのは申し訳ないし、人数が多くて悪いことはない。
フィア自身、ノニと実際にバトルして、彼の実力が決して低くないことは知っている。テイル同様、心強い仲間だ。
「それじゃ、行くか。ジム戦!」
「は、はいっ」
「あぁ」
フィア、テイル、ノニ。
大会が繋いだ、偶然の産物。奇妙な組み合わせの三人組は、白塗りのジムへと、入っていく。
ジムの内装は、シュンセイジムとはまるで違っていた。
中はだたっぴろい空間が広がっており、様々な機械やデスクが置かれていたり、コードが壁や床に縦横無尽に伸びている。
部屋全体は金属製。証明に照らされて銀色に光っていた。
まるで研究室だ。機械、デスク、コード。他にも、ジムではなく事務備品、書類の山、パソコンなどが散見され、バトルフィールドらしきものは存在しない。
しかし、バトルフィールドはなくとも、ここはジム。その管理者の姿は、はっきりしている。
フィアたち三人を迎える、一人の女性。もしもジムリーダーがこの部屋にいるのであれば、彼女こそがジムリーダーであろう。
だがその女性は、フィアの見知った顔であった。
「え……? クリ、さん……?」
その人物は、ウェーブのかかった白いショートヘアーに、銀縁眼鏡、白衣を羽織った女性。
先日、共に停電騒動の収束に努めた、ナルカミ研究所の研究員にして、テンロウ大学の講師であり、ナルカミ発電所の管理人の一人——クリだった。
「はい。先日は本当にありがとうございました、フィアさん。そして、影で支えてくださったテイルさん。あなた方がいなければ、ナルカミシティに今のような平穏はなかったでしょう。ジムリーダーとして、お礼を申し上げます」
クリはぺこりと頭を下げ、にっこりと天使のように微笑む。
すると彼女は、邪魔にならないよう髪を括っていたゴムと眼鏡を外し、白衣の胸ポケットに収める。そして今度はポケットに挟んでいた水色で稲妻型のヘアピンを手に取り、前髪を留める。
先ほどまでとまるで印象の違う彼女は、研究員でも講師でも管理人でもない、もう一つの役割として、名乗る。
「改めて自己紹介させて頂きますね。私はクリ——」
ナルカミ研究所の研究員にして、テンロウ大学の講師を務め、ナルカミ発電所管理人の一人であり、そして、
「——ナルカミシティのジムリーダー、クリです!」
『Information
ジムリーダー クリ
専門:電気タイプ
異名:現代に舞い降りた天使
提携:アシッド機関』
あとがきです。まあ、ジム戦までは行けませんでしたけど、クリの正体を明かすところまでは行けました。あまり隠せていなかったと思いますが。それと、ハルサメタウン大会でバトルしたノニ君が、ここで再登場、テイルもつれ、一緒にジム戦です。今回はオリキャラの使い方もしっかりと考えましたよ。大会時にテイルのバッジ個数をゼロにしたのは伏線だったのですよ、ふふふ。それと、ノニ君の再登場は読めない人が多かったのではないでしょうか。彼は単なる一発キャラではなく、本作品で、それなりに大事な役割を担っているのですよ。物語的に、というわけではないですが。それでは次回、ナルカミジム戦です。結構複雑なので、説明だけで終わっちゃいそうですけど……お楽しみに。
- 第51話 実験開始 ( No.89 )
- 日時: 2017/02/03 02:20
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ナルカミジム。その中で待ち構えていたのは、発電所で出会った女性、クリ。
ジムリーダーと名乗る彼女に、フィアは吃驚の眼差しを向ける。
「クリさんが、ジムリーダーだったんですか……!?」
「本当に気付いていらっしゃらなかったのですね……でも、フィアさんのそういう抜けてるところ、ちょっと可愛いです」
くすりと笑うクリ。眼鏡をかけていた時は、知的な印象があった。しかし今は、あどけなさの残る顔が完全に出ており、その笑顔は天使のようだった。
「ただ、あの時はちょっといじわるしちゃいましたね。フィアさんがトレーナーだということはすぐわかったので、あえてジムリーダーとしての身分は隠しました。ごめんなさい」
「は、はぁ。はい……」
笑顔のまま謝罪された。
ピチューではないが、それこそ悪戯っ子のような仕草で、しかもあまりにストレートに言われ、フィアは戸惑ってまともに言葉を返せない。
からかわれているのか。どのように対応すればいいのか。混乱していた。
クリは今度は、ノニの方へと向き直った。
「それと、ノニさん、でしたよね。先ほどは申し訳ありません。来ていただいたのに、追い返してしまって」
「いや……事情は理解したんで、もういいです」
「この様子を見るからに、お二人のお知り合いでしょうか。三人でジム戦を行う、ということでよろしいですか?」
「あぁ。ホッポウのジムは一人で挑むのは厳しいらしいからな」
「うふふ、そうですね。イチジクさんのように、人数に応じて内容を切り替えられるジムは少ないですからね。どうしても個人でやって来るチャレンジャーには、厳しくなってしまうところが多くなりがちです。ウルシさんみたいに、不特定多数のチャレンジャーを一括管理できるといいんですけど、あれはテンロウジムの規模だからこそできることですしねぇ」
滔々と語るクリ。次から次へと言葉が紡がれる。意外とお喋りなのかもしれない。
「おっと、おしゃべりがすぎましたね。では、着いてきてください。ジム戦の舞台にお連れします」
そう言ってクリは、手招きする。やはりここがジム戦の場所ではないようだ。
クリに先導されて三人がやって来たのは、外——に見えるが、よく見ると違う。
壁や天井に空や住宅街の映像を映し出しているだけだ。
そして目の前には、大きな一戸建ての家が一軒、建っている。
「なんだ、ここは……?」
「すっげー! ジムの中に家が建ってるぜ!」
不審な目を向けるノニ。それとは対照的に、目を輝かせているテイル。
フィアも、室内に家屋があるという奇怪な光景に、感嘆の吐息を漏らす。
「ここはジム戦用第三実験室——その名も『3番地の私の家(マイハウス№3)』」
「マ、マイハウス……?」
「住宅街にある一軒家を再現した実験室です。床は、道路部分がアスファルト、家の敷地は人工芝となっています。空調も、気温、湿度、風向などを、外界のように再現しているんですよ」
確かに、肌に感じる微妙な感覚は、室外のそれだ。風、匂い、湿り気——様々な感覚が、外界そのものだ。
クリは家の門の前、そしてフィアたち三人の前に立つ。
そして、
「それではこれより、ナルカミジム、ジム戦のルールを説明します」
そう、告げた。
その言葉で三人は、ピシッと背筋が伸びる。
三人をぐるりと見回すと、クリはジム戦のルール説明に入った。
「私はこの家の最上階——三階のとある一室で待っています」
「そこに行けば、クリさんとバトルできるってことか?」
「その通りです。ですが、私の部屋には簡単には入れませんよ?」
不敵な笑みを浮かべながら、クリは指を二本立てて見せる。
「私の部屋は二重のロックが掛けられています。一つ目のロックは、この家のあらゆる箇所に設置されている“パラボラ”から放たれる妨害電波。これにより、まず開錠システムが麻痺します」
指を一本折ると、クリは続けた。
「次に暗号ロック。とある二つの単語を入力しなければ、私の部屋には入れません」
「二重の鍵で守られた部屋に入ることが目的か……それだけなのか?」
「勿論、私の部屋に入ったら、私とバトルしてもらいますよ。私に勝たなければ、ジムバッジはお渡しできません」
そこは大前提。ジムリーダーに辿り着くまで、どうするのか。どのようにしてジムリーダーとのバトルまで持ち込むか。
その点に限れば、シュンセイジムと同じだ。
「基本ルールは以上です」
「基本がってことは、まだなにかありますよね?」
「そうですね。次は、それぞれの鍵の突破方法をお教えします」
クリは指を一本立てる。
「まずは第一の鍵。妨害電波ですが、これは単純です。パラボラをベキッと壊してしまえばいいのです」
「意外とバイオレンス……」
「精密機械なので、電磁波などの電気技や、熱、冷気、強い衝撃でも壊せますが、それなりに頑丈なので、人間の腕力では無理ですよ? ポケモンの技で壊してくださいね」
「パラボラを探して壊すだけなのか?」
「えぇ、そうです。ただし、パラボラの数は各エリアに一つずつで、計七つ。さらに、各エリアにはパラボラを守るポケモンたちと、そのエリアの守護者、エリアマスターが存在します」
「エリア?」
「リビングとか、キッチンとか。部屋割りだと思ってくだされば結構です。各エリアのポケモンは、パラボラを破壊するか、エリアマスターを倒せばバタバタ暴れることもなくなって、シンと大人しくなりますよ」
七つのパラボラに、それを守るポケモン。そして、各部屋ごとに配置された守護者、エリアマスター。
エリアマスターは他のポケモンよりも強力らしい。さしずめ、パラボラを守る番人といったところか。
「次に第二の鍵、暗号ロック。こちらは、この家の中に五つの家電製品があって、そこに暗号のヒントが隠されているので、それらを見つけ出して暗号を推理してください」
「答えがあるんじゃないんですか?」
「さて、それはどうでしょう? うふふ」
意味深に、わざとっぽく笑うクリ。成人女性ではあると思うのだが、先日に比べて、いちいち動作が子供っぽい。
ジムリーダーとしての彼女は、こういうキャラなのだろうか。
「鍵の突破方法は以上になります。次の前提、使用ポケモンについてですが、家の攻略に使用ポケモン数の制限はありません。ですが、私とのバトルはその限りではありませんので、ご注意くださいね」
エリアマスターたちが護る七つのパラボラを破壊して、なおかつ暗号を推理する。そのうえで、クリとのバトルに勝たなくてはならない。
やるべきことが多く、体力、知力、適応力。様々な力が問われるジム戦。
ナルカミジムも、一筋縄ではいかなさそうだ。
「制限時間は二時間。二時間以内に私の部屋に到達できなければ、皆さん失格です」
「このジムにも制限時間があるのか……」
シュンセイジムよりもずっと長いが、逆に言えば、それほどに時間のかかるジムということだ。
やはり道のりは険しそうだ。
「あぁ、それと」
「まだなにか?」
「この家のポケモンはすべて、ジム所有のもので、私個人のポケモンではないのですが……一体だけ、私のポケモンを紛れ込ませています」
「クリさんのポケモンを?」
「はい。各エリアのポケモンは、エリアマスターも含め、そのエリアから出ることはありません。でも、私のポケモンだけは、色んなエリアにひょいひょい移動して、遊撃的に妨害するので、注意してくださいね」
さらにジム戦の難易度が上がっていく。
エリアマスターに、遊撃隊。障害となる壁は多そうだ。
「次に、お三方。P・ターミナルを拝借させていただきたいのですが」
「? いいですけど……」
クリに促されるままに、三人はそれぞれP・ターミナルを渡す。
するとクリは、白衣のポケットからよくわからない機械を取り出して、それをP・ターミナルと接続。なにやら画面を操作している。
「ちょっと待ってくださいね……ここをピコピコして、ぐるっとまわして下からバーンすれば……」
「……なにやってんすか?」
「はい、できました! インストール完了です!」
晴れやかにそう言って、クリは三人のP・ターミナルをそれぞれ返す。
「今回のジム戦用のナビゲーションシステムをインストールさせていただきました。私の部屋のマイクスピーカーと繋がっているので、なにかあった音声でやり取りできますよ」
「ナビゲーション……」
そんなものが必要なほど、大変なジム戦なのか。
フィアの不安はますます募るばかりだ。
「では最後に、これを渡しておきましょう」
「これは……ボール?」
「モンスターボールではないな」
最後と言ってクリが渡したのは、ボール状の物体。
モンスターボールよりも一回り小さめで、カラフルな模様がついている。
「はい。それはイヤイヤボールという特殊な煙玉です。衝撃を与えるとボカンと炸裂して、ポケモンが嫌がる煙を発します。一人三つずつお渡ししますので、本当に困った時は使ってみてください」
二重ロック。パラボラ。暗号。エリアマスター。遊撃隊。制限時間。ナビゲーション。イヤイヤボール——様々な要素が複雑に絡み合い、化学変化を起こしそうなナルカミジム戦。
すべての準備は整った。
「それでは、ナルカミジム、ジム戦——実験、スタート!」
あとがきです。やっぱり説明だけで終わりました。ナルカミジム戦、内容は非常に複雑となっております。クリと戦うためには、初代ポケモンのマチスの部屋のように、二重のロックを潜り抜けなければなりません。そのロックも、ゴミ箱を漁ればいいなんてものではなく、一軒家を模したフィールドで、七つのパラボラを破壊。さらに、フィールドに隠された暗号のヒントから、部屋を開けるためのパスワードを推理し、入力しなければならないという面倒な仕様です。パラボラを守るのはエリアマスターとその他のポケモン。エリアマスターは、まあ、ボスですね。こいつを倒せば、そのエリアは制圧ってことです。パラボラを破壊しても同じ。遊撃隊については……ま、予想されてそうですし、実際に見た方がはやいですね。それと、作中で出たイヤイヤボールですが、これは第一世代の頃に発売していた、『ポケモンスナップ』という、今では化石のようなゲームに出て来るアイテムです。ちなみにハードは64。ポケモンの写真を撮るゲームで、作者は結構好きでしたよ。今ではWiiUのVCでできるらしいですね。機会があればまたやりたいです。あぁ、VCといえばピカ版かった話もしたい感じなんですが、流石にあとがきが長くなり過ぎるのでこの辺で。ピカ版については、雑談板で語ろうかな? とさりげなく予告しつつ、次回。遂にナルカミジム戦始動です。お楽しみに。
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