二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
- 日時: 2017/01/26 02:02
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。
基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。
ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。
それでは、白黒の物語が再び始まります——
目次
プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3
シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36
クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76
登場人物目録
>>32
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
- 参照1000ごとに書く短編 第一回「無才の緑花」 ( No.80 )
- 日時: 2017/01/28 20:11
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
オニシズクモと相対するイーブイ。
両者がしばし睨み合っていると、先んじてイーブイが動き出した。
「イーブイ、目覚めるパワー!」
イーブイは緑色のエネルギー弾を放つ。
まっすぐに放たれたそれは、オニシズクモの顔面に直撃するが、
「っ!」
攻撃を受けたオニシズクモの身体が光り、膜のようなものに覆われる。
そして、その光が収束すると、そのままイーブイへと放たれた。
「イーブイ!」
光の直撃を受けたイーブイは吹っ飛ばされた。
「今の技って……なんだろう」
わからなかった。
ただ、こちらの攻撃に対して、カウンターするような攻撃に見えた。
「相手の攻撃を跳ね返す技もあるって、イーくんは言ってたけど……そういう技なのかな?」
となると、攻撃の際には気をつけなければならない。
イーブイは立ち上がる。頭を振って意識を覚醒させ、まだまだ戦えるという意志を見せる。
「じゃあ、次は……電光石火!」
高速で駆けるイーブイ。その突撃が、オニシズクモの顔面に直撃した。
電光石火と言えど、真正面から喰らったオニシズクモのダメージは小さくないだろう。
しかし、顔面というのが、まずかった。
オニシズクモは口から泡状の光線を放ち、イーブイを引き剥がした。
「イーブイ!」
続けてオニシズクモは、連続で光線を放つ。イーブイはそれを躱そうとするが、何発か喰らってしまう。
「え、えっと、こういうときは……願い事だよ、イーブイ!」
少女の指示を受け、イーブイは目を閉じて、祈るように空を仰ぐ。
その直後、泡の光線がイーブイを吹き飛ばした。
「イーブイ! 目覚めるパワー!」
イーブイも緑色のエネルギー弾で応戦するが、今度は光の膜を張り、反射するように集約した光を解き放ち、反撃される。
「うぅ、電光石火!」
距離が離れていてはまずいと判断した少女は、電光石火を指示。イーブイは再び高速で駆け、オニシズクモに突撃する。
しかし、オニシズクモは倒れない。
オニシズクモは前足を前に突きだし、ひっくり返すようにイーブイの足元をすくい上げる。
そして宙を舞ったイーブイに、泡状の光線を吹き付けた。
「あぁ、イーブイ!」
光線に吹き飛ばされたイーブイは、苔むした岩に叩きつけられる。
オニシズクモの連続攻撃で、イーブイの体力は限界だ。もはや立ち上がる気力もない。
「ま、まずいよ……イーブイ、もうバトルはできなさそうだし……とりあえず……」
これ以上は戦えない。
そう判断した少女は、モンスターボールを取り出した。そして、それをイーブイへと向ける。
だがその刹那、オニシズクモがイーブイに糸を吹き付けた。ただの糸ではない。放射状に広がり、幾重にも重なりあっている。
他のポケモンたちを捕えたものと同じ、蜘蛛の巣だ。
蜘蛛の巣は苔むした岩に張り付き、イーブイを拘束する。
少女は慌ててボールのスイッチを押すが、
「あ、あれ? 戻らない……!?」
カチ、カチ、と乾いた音を鳴らすだけで、ボールは反応を示さない。
蜘蛛の巣は、ポケモンの交代を封じる技。イーブイは戦闘不能になるまで、もうボールに戻ることはできない。
オニシズクモは動けないイーブイに近づくと、ガブリ、と牙を突き立てた。
「イーブイ!」
ジュルルルル、と汁を啜るような嫌な音が響く。
それと同時に、オニシズクモの傷が癒えていくのが見えた。
イーブイは満身創痍。オニシズクモは傷を癒し、どう考えても勝てる状況ではない。
少女はイーブイ以外のポケモンを持っておらず、イーブイも少女も、もう戦えない。
オニシズクモの吸血が続く。体液を啜り上げる不快音が響き続ける。少女はそれを、見つめることしかできなかった。
どうすればいいのかわからない。なにをすればいいのかわからない。
呆然と、立ち尽くすだけだった。
と、その時だ。
オニシズクモの動きが止まる。
オニシズクモはイーブイから口を離し、振り返る。見ればオニシズクモの足の一本に、白い糸が巻き付いていた。オニシズクモの糸ではない。その糸の先にいるのは——キャタピーだった。
「キャタピー……」
イーブイを助けようとしてくれているのだろうか。
糸を吐くで、オニシズクモの動きは止まった。
しかし、
「! キャタピー!」
オニシズクモが放つ泡状の光線によって、キャタピーは吹っ飛ばされた。
木の幹に叩きつけられ、キャタピーはぐったりと倒れ込む。
キャタピーを下したオニシズクモは、再びイーブイへと近寄る。
ゴボッ、と頭部を覆う泡の中に、イーブイの頭を巻き込ませた。
「え、な、なに……!?」
ゴボゴボッ、と水泡の中で、イーブイが苦しそうにあぶくを吐き出している。
あの泡の中は、水で満たされている。イーブイは今、頭だけだが、水中にいるのと同じ状態なのだ。
このままでは、イーブイは呼吸できなくなり、溺れてしまう。
「イ、イーブイ……!」
苦しそうに水泡の中でもがくイーブイだが、蜘蛛の巣に捕えられている状態では、脱出も出来ない。
少女もこの状況から脱する方法が分からず、呆然と、手も足も出せず、成り行きを見ているしかできない。
やはり、バトルを挑むべきではなかったのだろうか。自分の身の丈に合わない勝負だったのか。少女の中で、後悔の念が渦巻き始める。
イーブイが水泡から逃れようとして、体を後ろに反らす。その拍子に、背後の岩にこびりついた苔が取れ、イーブイの頭に付着する。
刹那。
イーブイが光に包まれた。
「え……?」
一瞬のうちに、光が収まる。
すると、その刹那。緑色の風が吹いた。
風は蜘蛛の巣を切り裂き、オニシズクモの顔面に大きな裂傷を与えていた。
「イーブイ、なの……?」
否。それはイーブイではなかった。
クリーム色の、しなやかな肢体。その身体のいたるところから、草が生えている。そして、両耳、額、尻尾は緑色になり、葉っぱのような組織を見せている。
その姿はどう見てもイーブイではない。初めて見るポケモンだ。
しかし、少女はこのポケモンを知っている。彼から教えてもらった、イーブイの進化系の一種——
「リーフィア……進化、できたんだ……!」
遂に進化したイーブイ。進化によって得た力ならば、オニシズクモに勝てるかもしれない。
そんな希望が、湧き上がってきた。
同時に、リーフィアの身体にできた傷が、じわり、じわりと消えていく。
「願い事……叶った……!」
これで、まだまだ戦える。
オニシズクモの攻撃で受けた傷の多くが治癒され、リーフィアは巨大な水蜘蛛の前に立つ。
敵の変化を目の当たりにしたオニシズクモは、しかし動じることなく、泡状の光線を放つ。
光線はリーフィアに直撃。しかし、リーフィアは軽く身体を震わせて水気を飛ばすだけで、まるで堪えていない。
リーフィアは草タイプ。水タイプのバブル光線は、効果いまひとつなのだ。
オニシズクモは、続けて牙を剥いてリーフィアに飛び掛かるが、
「かわしてっ!」
オニシズクモの動きは鈍い。何度も突っ込んでくるが、軽くリーフィアにいなされてしまう。
リーフィアの素早さが高いというのもあるが、オニシズクモの動きは明らかに遅すぎる。元々鈍重なポケモンであるとしてもだ。
その理由は、オニシズクモの脚にあった。
「糸……」
オニシズクモの脚に、白い糸が絡まっている。
キャタピーの糸だ。キャタピーの吐いた糸が、オニシズクモの素早さを落としているのだ。
「キャタピー天…ありがとう……」
リーフィアはオニシズクモの攻撃を躱し続ける。あまりに鈍いオニシズクモに、リーフィアは余裕を見せていた。
余裕のあまり、踊ってさえいる。しなやかに、リズムに合わせてステップを踏み、鋭く、それでいて力強く、舞い踊る——
「っ、これって……」
その踊りは、ただの舞ではない。
剣のように切れ味冴えわたる、この舞踊は——
「剣の舞……!」
オニシズクモの攻撃を躱しながら、リーフィアは剣の舞を踊っていた。
攻撃力を大きく高めたリーフィアは、一度オニシズクモから距離を取る。
「リーフィア、秘密の力だよ!」
リーフィアは大きく鳴く。すると、周囲の木々が、草花がその鳴き声に共鳴した。
わさわさとざわめく草や葉が舞い上がり、オニシズクモへと放たれ、その身を切り裂く。
森林などの草木が多い地形で放たれる秘密の力は、植物を利用した攻撃。その効果は、植物に含まれる成分、とりわけ鎮静作用のある成分の影響を強く受ける。
つまり、意識を鎮め、眠り状態にする効果だ。
「今だよ、リーフィア!」
眠り効果のある秘密の力を受け、うとうとし始めるオニシズクモ。リーフィアはその隙に、大きく取った距離を、一気に詰めた。
そして、尻尾の葉っぱを、刃のように振りかざし——
「リーフブレード!」
——巨大な水蜘蛛を、切り裂いた。
「イーくんイーくん! 見て見て!」
「うぉっ!? どうしたんだよお前、珍しくテンション高いな……」
研究所の扉を開け放ち、少女は勝手知ったる彼の家に突撃する。
中では、長い茶髪をポニーテールにした少女——のような姿をした男——が、驚いた顔で少女に視線を向けている。
少女はそんな彼のことを気にすることもなく、腕に抱えたポケモンを見せつける。
「見てよイーくん! イーくんがくれたイーブイ、進化したんだよ!」
「お、おぉ? マジだ……リーフィアに進化してやがる……」
抱きかかえられたリーフィアは、下半身がぶらぶらと無防備に垂れ下がっており、非常に間抜けな状態であったが、それは身体が大きくなった証左であり、ある意味ではそれも進化の証明と言えた。
「わたしやったよ、イーくん」
「おう、そうだな。よく頑張ったぜ」
無邪気に笑う少女。男は、そんな少女の頭を撫でる。
とにかく嬉しかった。努力が報われたこと。森のポケモンを守れたこと。すべてが、喜びだった。
たった一つの、気がかりを除けば。
(あのオニシズクモ、なんだったんだろう……)
今まで見たことのないポケモン。あのオニシズクモは、どうして、どこから現れたのか。
その点は気になるところであったが、
(また今度、森に見にいってみよう)
今はひとまず、忘れておこう。
この喜びを噛みしめるために——
念願の進化を遂げた翌週。
森で感じた異変を探るべく、ハルビタウンの外に出た少女は、それ以上の異変を発見する。
それが、一人の少女と、異世界より来訪した一人の少年との、邂逅だった——
あとがきだよ。思いつきなだけあって、書き切るのは早かったです。話の内容考えたの、今日なんですけどね。なので内容のクオリティはあんまり保証できません。リーフィアの進化はこんな感じだったんだよ、程度の意味にとらえてくだされば。とりあえずこの短編シリーズは、作中の進行度によって内容を考えつつ、参照が1000超えるごとに投下していく方針で行きます。よろしくお願いします。では次回こそ、ナルカミシティ編やります。お楽しみに。
- 第43話 鳴神都市 ( No.81 )
- 日時: 2017/01/29 08:15
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
サミダレタウンを後にしたフィアが向かう次の街は、ナルカミシティだ。
ナルカミシティはテンロウシティと並ぶ、ホッポウ地方有数の学術都市である。
テンロウシティが教育に重きを置いた街なのに対し、ナルカミシティは研究、開発に重きを置いた産業の中心地。トレーナー研究機関、アシッド機関との結びつきも強く、日夜多くの研究者たちが、それぞれの研究分野において頭を悩ませている。
この街は研究所や工場といった施設が多く存在するが、それ以外の特徴として、発電所が挙げられる。ホッポウ地方は各島に大きな発電施設が一、二ヵ所あり、そこから各街へ電力が供給される、というシステムになっているらしい。
しかし聞くところによるとナルカミシティは、その昔、研究や工場を稼働させるために使用する電力が膨大になりすぎて、島の発電施設だけでは電気の供給が足りなくなってしまったらしい。しかも、厚かましくも過剰に電力を要求したことによって、島の発電所から電力の供給を断ち切られてしまったという。
そこで、ナルカミシティは発電施設を造り、この街だけの独立した電力供給体制を取ることにした、とのことだ。
初めて聞いた時は、とんでもない歴史だと思った。必要に駆られれば、人間はなんでもするということを、思い知らされた気がする。
なぜフィアがこんな話を聞いたのかというと、ジムリーダーのことを聞きまわっていたからだ。
シュンセイジムは非常に特殊なルールだった。ただ単純にバトルをするのではなく、ジムリーダーとバトルするまでに、数々の障害を乗り越えなければいけない。人数も、一人ではなく、複数人で挑戦する形式すらあった。
なにも情報がなくジムに挑めば、シュンセイジムの時のような失態を犯すだけだ。
情報の大切さは、ルゥナが教えてくれた。それはトレーナーそのものだけでなく、ジムという括りの中でも、同じなはずだ。
どんなジムかがわかれば、それだけ対策も立てやすい。はずである。
しかし対人スキルが非常に低いフィアは、自分から知らないトレーナーに話しかけるというハードルすら超えるのに四苦八苦しており、あまり有益な情報は得られなかった。
分かったことと言えば、ナルカミジムは複数人でも挑めるということ。使用ポケモンは何体でもいいこと。ジムリーダーは電気タイプの使い手だということ。
そして、
「えっ? ジムリーダーの人、いないんですか?」
現在、ジムリーダーはジム戦ができないということだ。
話を聞くところによると、ジムリーダーは研究者と兼任しており、ここ最近は学会の発表やらその準備やらで、ジム戦ができないらしい。
イチジクは劇団員、ウルシは教師と兼任していたが、ジムリーダーは意外と他の職業と兼業している者が多いのだろうか。
ナルカミシティのジムリーダーも、研究者としての活動が忙しく、今はジムを受け付けていないという。
「だけどその学会も今日らしいから、明日になればジムも開くと思うぞー。私は次の街に行くけどなー」
「はぁ……色々、ありがとうございました……」
「おー。まー頑張れやー」
情報提供者は、そう言って去っていった。
兎にも角にも、少なくとも今日はジム戦ができない。ジムが開く日時は正確にはわからないが、早くとも明日以降。
フィアとしては多少日程が前後しても支障はないが、出鼻を挫かれた感はあった。
現時刻は、正午を少し過ぎた程度。ポケモンセンターのロビーのソファに座って、今後の方針を決めていく。
「どうしようかな……シュンセイジムではなにも準備せずに挑んで負けちゃったから、今度はちゃんと準備しなきゃいけないけど、なにをすればいいのか……地下で誰かとバトルして特訓? いや、それとも新しいポケモンを探そうかな……」
ふと思い立つ、新しいポケモンの捕獲。
サミダレのバトル大会——厳密にはマモンとのバトル——で気付いたのが、自分の手持ちの少なさ。
主力はミズゴロウとブースターのみ。どちらも非常に頼りになるフィアの仲間だが、数的不利というものは必ず存在する。
サミダレタウンでグリモワールと対峙した時は、フロルとのバトルで出す予定だったブースターを消耗させてしまった。フィアの技量不足もあるだろうが、他に戦えるポケモンがいれば、ブースターが消耗することもなかったかもしれない。
シュンセイジムでは、相手の使用ポケモンが少なかった。
バトル大会では、一対一のバトルばかりだった。
今までポケモンの少なさがネックになることはあまりなかったが、これから旅するうえでは、より多くのポケモンを手持ちに加えていた方がいいはず。
手持ちが多ければ、それだけ相手のポケモンに対する選択肢が増え、有利なポケモンを繰り出しやすい。手持ちとして持ち歩けるポケモンの数は最大六体らしいので、とりあえずそれを目指す。
「ジム戦に備えるって意味でも、新しいポケモンを捕まえることには意味があるはずだし……よし。ちょっと怖いけど、一度街の外に出て、ポケモンを捕まえに行こう」
と、新しいポケモンを求めて立ち上がるが、そこでフィアはまたしても出鼻を挫かれる。
ガクンッ
という音と共に、ポケモンセンター内は闇に包まれた。
「っ……停電?」
今の音と、この状況から考えれば……というより日常生活で急に室内が暗くなる現象と言えば、それくらいしか思いつかない。
だが停電なら騒ぐこともない、そのうちブレーカーが上がって元に戻るはず。そう思っていたが、ポケモンセンターの中は一向に闇に閉ざされたままだ。
「……? 何で……?」
センターの奥では、ジョーイさんたちが慌ただしく走り、なにか話している。なにかトラブルでも起こったのかもしれない。
と、フィアがそう思った時だった。
外から何かがポケモンセンターへと飛び込んできた。
「な、何……っ?」
それはポケモンだ。大きな猫のような姿をしており、青い体に黒いたてがみがある。
『Information
ルクシオ 電光ポケモン
爪から高圧の電流を流すことが
できる。この電流は攻撃だけでなく
仲間内での意思表示にも用いられる。』
ルクシオはポケモンセンターの中に入るなり、電気を放って攻撃し始めた。かなり興奮しているようだ。
その電撃が、フィアの方へも飛ぶ。
「っ、流石に止めないとまずいかな……ブースター!」
フィアはブースターを出し、応戦する。
「ブースター、火炎放射!」
ブースターは口から灼熱の炎を吐き出すが、ルクシオも周囲に電撃を撒き散らし、炎を相殺する。
「だったら、ニトロチャージ!」
今度は炎を纏って突撃するブースター。ルクシオも電気を纏って突っ込んで来る。
両者の攻撃が激しくぶつかり合うが、攻撃力ならブースターの方が断然高い。ルクシオは軽く突き飛ばされてしまった。
「アイアンテールだ!」
そこにブースターの鋼鉄の尻尾が追撃をかけるが、ルクシオは横に跳んでその攻撃を躱す。
そして、電気を帯びた牙を剥き、ブースターへと飛び掛かった
「まずい……ブースター!」
アイアンテールを繰り出した直後で、ブースターはすぐに切り返せない。ルクシオの攻撃を、躱せない。
雷の牙を受ける覚悟を決めなくてはならない。そう思った時、暗闇からバチバチと弾ける電気玉が飛んできた。
電気玉はルクシオに直撃し、ルクシオは体勢を崩してしまう。
「! 今だブースター! アイアンテール!」
その隙に、ブースターは鋼鉄の尻尾を叩きつける。その一撃でルクシオは外に押し飛ばされた。
「よし、いいぞブースター。外なら被害も少なく済む。火炎放射!」
室内では威力を控えていたが、屋外なら話は別。ブースターはフィアと共に外に出て、フルパワーで燃え盛る火炎を噴射する。
ルクシオも電撃で対抗するが、相殺しきれず突っ切られ、炎を浴びてしまう。
興奮が冷めたのか、ルクシオはこれ以上戦っても勝てないと判断したようで、踵を返してどこかへと走り去ってしまう。あれだけのダメージだ。もう暴れる気力は残っていないだろう。
「でも、なんでポケモンが急に……?」
街中にポケモンが現れること自体は、珍しくない。餌や住処を求めて、街に降りて来て、住みつくポケモンは少なくないらしい。街もそれを受け入れており、ポケモンと共生している。それがこの世界だ。
しかし今のルクシオは、とてもそうには見えなかった。人間に敵意を持っている、という風でもなく、ただただ有り余った自分の力のやり場を求めていたような。
むしゃくしゃして暴れたかった。そんな感じだった。
それに、暗闇から放たれた攻撃。あれは一体なんだったのか。
「……? あれ?」
と、その時、気づいた。
やけに街が暗い。
真昼なのでそんなはずはないのだが、どことなく翳りを感じる。
それに、奇妙なほど静かだ。
周囲を見回してみれば、あらゆる建物から光が消えている。
ディスプレイ、電光掲示板も消えていた。
停電しているのは、ポケモンセンターだけではない。
その異常は、もっと広い範囲で発生している。
それが、思わずフィアの口から漏れ出た。
「街中が、停電してる……?」
あとがき。短編挟みましたが、ナルカミシティ編です。リメイク前はライカシティという名前でしたが……まあ、大きな意味はないです。ナルカミは雷のことです、はい。では次回、停電騒動解決に向けて、動かしていきますよ。あのキャラも早くも再登場予定です。お楽しみに。
- 第44話 停電騒動 ( No.82 )
- 日時: 2017/01/29 08:26
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
街中が、停電している。
そんなことがあるのだろうか。
この街は、もう長いこと自給自足で電気を供給している。それが衰えている打なんて話は聞いていない。今ここで、急にその供給が途絶えてしまうだなんて、あり得るのか。
可能性としてはないとは言い切れない。しかし、フィア程度の知識と思考力でも、それがそう簡単にあり得ることでないわかる。
なにかがおかしいのだ。
そのおかしさの原因があるとすれば、この街の電気の供給減——発電所だ。
「発電所で、なにかトラブルが起こってる……?」
「そう考えるのが自然だよな」
「っ!?」
不意に、声をかけられた。
熟考していたせいで周囲に人がいることにまるで気づかなかった。慌てて向き直るフィアは、その人物を見るや否や、その目を見開く。
「え、あ、あなたは……テイル、さん……!?」
「よっ。久し振り……でもないか。サミダレ以来だから、三日ぶりくらいか?」
そこに立っていたのは、サミダレタウンの大会でバトルをしたことのある少年、テイルだった。
「そういや言い忘れてたが、サミダレの大会、準優勝おめでとな! 準決勝とか、すげービリビリくるいいバトルだったぜ!」
「は、はぁ、どうも……」
そうテイルに称賛されるも、決勝戦ではルゥナにボコボコに負けているので、素直に喜べない。その決勝戦について触れないのは、彼なりの優しさだろうか。
「それとさっきのルクシオとのバトル。あの判断もよかったな。電気タイプの技は周りに被害が出やすい。精密機器の塊であるポケモンセンターだと、特にな。外に追い払って正解だぜ」
「そ、そうなんですか……」
たまたま外に吹っ飛んでいっただけというのは、黙っておく。
そういえば先ほどの攻撃。あれは電気タイプの技だったが、ひょっとして、テイルが影から応戦してくれたのだろうか。
「テイルさんは、どうしてここに?」
「この街にって意味なら、ジム戦のためだぜ。最初のジムは絶対ここって決めてたんだが、どうやらジムリーダー、今はいないらしくてな。どうやって暇を潰そうか考えてたら、この騒ぎだ」
つまり、フィアと同じということか。
自分と同じような思考の人がいて、少し安心したのは秘密だ。
「街中が停電するなんて、この街じゃありえねぇ……発電所でなにかあったと考えるのが自然だ」
「それ、さっき僕も言いました……」
「とにかくだ! これは緊急事態だ。早急に解決しなくてはならないのはわかるな?」
「えぇ、まあ……」
「よし! なら行くぞ、ナルカミ発電所に!」
「はい……え? 僕もですか!?」
「なにがあるか分からないし、人手が多いに越したことはないからな」
「で、でも、危険なんじゃ……」
「だからって放っておけるかよ!」
声を荒げるテイル。
その剣幕に、フィアはたじろぐ。
「発電所の異常ってことは、電気タイプのポケモンに異常の影響が出る。お前も、さっきのルクシオを見ただろ」
先ほどのルクシオは、妙に興奮していた。明らかに、普通ではなかったのだ。
普通ではない。異常だ。
異常はあらゆるものを狂わせる。肉体や、感情や、生態そのもの、人生までも。
それは、フィア自身も身を持って知っていた。
「で、でも、ポケモンの仕業ってことも考えられるんじゃ……」
「確かに、お前の言う通りだ。この騒ぎは電気タイプのポケモンの仕業——具体的には、電気タイプのポケモンが発電所の電気を喰った——かもしれねぇ。だが、ポケモンが無意味にこんなデカいトラブルを起こしたりはしない。電気タイプのポケモンは、ちゃんと自分の電気を供給できる場所を持ってるからな」
そうなのか、とフィアは心中で納得した。
電気が必要と聞いて、ポケモンはどうやって電気を供給しているのか気になっていた。街に降りて来るのは、実はそういう理由だったのかと思っていたが、野生の中でそのような生きる術があるのであれば、わざわざ街に来る必要はない。
つまり、やはりこのような事態は、普通であればあり得ないのだ。
「だから、ポケモンの仕業でもそうなる原因がある。それを突きとめるにも、やっぱ原因の中心地である発電所に行く必要があるだろ」
「……そうですね」
テイルの話を聞いて、今の状況がどれだけ異常で、尋常でないかは理解した。
フィアはゆっくりと頷く。
「でも、テイルさんって詳しいんですね。ポケモンの生態とか」
「勉強だけは無駄にさせられたからな。特に、電気タイプのことならなんでも知ってるつもりだぜ」
「電気タイプなら……」
そういえば、サミダレの大会でも、電気タイプばかりを使っていた。
電気タイプが好きなのだろうか。
などと思っていると、ガシッと手を掴まれた。
「とにかくだ。発電所に行くぞ、フィア!」
「え? あ、ちょっと、待ってくださ——」
と、最後まで言い切る前に、フィアはテイルに引きずられていったのだった。
ナルカミ発電所。
その名の通り、ナルカミシティの中心にある、巨大な発電施設だ。この発電所で生み出される電気が、この街の生命線である。
発電所に辿り着いたフィアとテイル。入口は固く閉ざされており、警備員などは見当たらない。
このままでは中へ入ることができず、いきなり立往生を喰らってしまった。
「ど、どうしましょう……?」
「うーむ……ちょっと違法な気がするが、非常事態だし、仕方ない。裏技で突破するぞ」
そう言ってテイルは、電子ロックのかけられた扉に近づくと、ボールを一つ取り出した。
「出て来い、ロトム!」
『Information
ロトム プラズマポケモン
特殊なモーターにプラズマの体で
侵入して姿を変える。五つの姿が
確認されているが、他にもあるらしい。』
テイルのボールから現れたのは、小さなポケモンだった。オレンジ色の体で頭がアンテナのように突き出ており、本体は水色のプラズマに覆われている。そのプラズマは、腕のような二本の稲妻が飛び出ていた。
図鑑を確認する限り、ロトム、というポケモンらしい。
テイルはロックのカバーを外す。中には配線がごちゃごちゃしていた。彼はそのごちゃごちゃした中身を指さすと、ロトムに指示を出す。
「ロトム、この中に入ってロックを解除してくれ。できるか?」
指示を受けたロトムは、ケタケタ笑いながら配線の中へ吸い込まれるようにして消える。
すると一分としないうちに、ピー、というロックが解除される音と共に、扉が開かれた。
「よし、開いたぞ」
「す、凄い……ポケモンって、こんなことできるんですね……」
「ロトムは電気が通ってる場所なら、どこでも侵入できる特殊なポケモンなんだ」
フィアは本体とそれを覆うプラズマで構成されたポケモンだと思っていたが、ロトムは身体すべてがプラズマでできているらしく、電流に乗って電子機器も操れるという。
ポケモンの力には驚かされるばかりのフィアだったが、この特異体質については驚愕といっていいほ思ってほど驚かされた。
なにはともあれ、道は開けた。
扉を潜ると、ロビーのような広間に出る。
そこで二人は、とんでもない光景を目にしていた。
「うわ……」
「これは凄いな……」
ロビーには大量のポケモンがはびこっていた。小型のポケモンばかりで、暴れる様子は見られないが、これは衝撃的だ。
「凄い数ですけど、このポケモンたちは、どこから来たんでしょう……?」
「たぶん、ナルカミ山道だ」
「ナルカミ山道?」
「ナルカミシティとテンロウシティを結ぶ山道だ。俺も通ったことはないんだが、大きな磁場が常に発生していて、山道の至る所に電気が発生するポイントがあるという。電気石も多くあるから、山道には電気タイプのポケモンが多く生息し、その電気を主食としている……らしい」
「らしい……」
「俺も聞いた話で、自分の目で見たわけじゃないんだよ」
しかしその話が本当であれば、ますます電気タイプのポケモンが街に降りて来る理由はない。
事態の異常性を、フィアはますます理解していく。
「ここにいるのは電気タイプばかりだな。やっぱ、発電所の異常が山道のポケモンに影響を与えてるのか、山道のポケモンが発電所に異常をもたらしてるのか……どっちかっぽいな」
どちらにせよ、先に進まなければそれはわからない。
フィアとテイルは、ポケモンたちを刺激しないように、慎重にロビーを抜ける。
「まずは、ここの職員を探すぞ。流石に全員、ポケモンに驚いて逃げだしたってこともないだろ……もしそうなら、街にそれらしい人がいたはずだしな」
「ここの扉、鍵穴とかないですけど……全部、電子ロックなんでしょうか?」
「たぶんな。無理やり突き破った痕も見えるが、こっちはポケモンの仕業だろう。だが、とんでもないパワーだな。発電所の扉だぜ? どんだけ頑丈にできてると思ってんだよ……だが逆に、どんなポケモンかバリバリ気になるぜ」
「鋼鉄の扉を破壊するようなポケモンに出会いたくないですよ……恐ろしい……」
廊下を歩きつつ、大破したいくつかの扉を見て、テイルは言う。
研究所の中はかなり広く、ポケモンたちが駆け回っている。まだこの辺りのポケモンは人に危害を加えるようなことをしていないのだが、奥の発電施設まで行くと、それなりに凶暴なポケモンがいるのではないかとテイルは予想していた。
というのも、電気を取り合うのにも縄張り争いのようなものがあり、それは自然界でも、この発電所という突発的な状況でも同じ。弱小なポケモンは追いやられ、強大で独占欲の強いポケモンが、電気を独占しようとするものだ。
ゆえに、奥に行けば、縄張り意識が強いポケモンが出て来ると思われるので、すぐに攻撃してくるだろう、ということだった。
電気タイプに関することばかりだったが、彼の知識はフィアの知識欲を大いに満たしてくれた。それに、この街のジムリーダーは電気タイプの使い手。かなり良い勉強になった。
確認できるロックがかかった扉を、ロトムの力で開錠しながら職員を探すフィアとテイル。
「次はここか」
テイルは足を止める。そこは一つの扉の前。扉の横には『整備室』と書かれていた。
あとがきです。思ったよりも文字数がかさんで、区切るタイミングがずれて苦しんでいます。直接スレにかかず、メモ帳に一度書いたものをコピペしてるので、スクリプトの中止などによるデータ吹っ飛びの恐怖は99%カット(ごくまれにメモ帳のデータも消える)され、のびのびかけるのですが、字数がわからないのが難点ですね。かといってwordは重いので使う気がおきません。まあ仕方ないのですけど。とりあえず、今回はサミダレ大会でポケモンを交えたテイルの再登場です。停電騒動という電気タイプ絡みの事件なので、まあ、彼が適役かなと。リメイク前だと全然ン違うキャラだったんですけど、今考えるとこれほどはまり役はないのではと思います。あ、他のオリキャラの登場タイミングはほぼ考えているので、ご安心ください。この展開はたまたまです。では次回、停電騒動続きです。お楽しみに。
- 第45話 役割分担 ( No.83 )
- 日時: 2017/01/29 13:18
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
『整備室』と書かれた扉の前で、フィアとテイルは立ち止まる。
「誰かいるかはわからんが、とりあえず確認しておくか」
「ここもロックかかってますね」
「だな。ロトム、頼む」
何度目になるか、ロトムは電子ロックのコンピュータ内に侵入して、解錠する。
この解錠方法は、いわゆるハッキングにかなり近い形で、法的には犯罪、つまり罪に問われる行為らしいのだが、非常事態とはいえテイルはまるで気にすることなく使いまくっていた。
図太さというべきか、向う見ずというべきか、はたまた正義感と言うべきなのかは判断しかねたが、迷わず違法な手段でも用いる潔良さにはある種の関心を覚えた。
正直、フィアは事が収まった後に警察に捕まりやしないかと心配でならなかったが、悪用ではない大丈夫……であると信じたかった。
なにはともあれ、整備室の扉も開く。
すると中には、幾人かの人間がいた。作業着を着ている者ばかりで、恐らくこの発電所の職員だろう。
フィアたちの登場に、安堵と歓喜の声を上げる職員たち。
話を聞くに、いつの間にか電気タイプのポケモンが発電所に侵入していて、発電所に貯蓄してある電気を食い荒らしているらしい。その弊害として、街や発電所自体の電源がすべて落ちてしまったという。
ここまではフィアたちの予想通りだ。
しかし、予想外のことがひとつあった。
「奥に人が?」
「あぁ。一応ここの従業員というか、管理人の一人なんだが、街が停電した時に駆けつけて、原因究明のためと一人で奥に行ってしまったんだ」
「電子ロックがかかっているのにですか?」
「発電所内だけ、予備電源を一時的に作動させていたんだ。どうやらそれも、すぐ電気ポケモンにやられてしまったようだがね。お陰で、完全に電気の供給はストップしている」
つまり、その管理人は億で一人、身動きが取れない状態にあるかもしれない、ということだった。
「流石に放っておけないな。どのみち奥には行かなきゃいけないわけだし、その人もついでに救出するか」
「ついで……」
「ところで、君たちはどうやって電子ロックを突破したんだ」
「あ、それはこいつの力です」
テイルはロトムを指差す。すると、職員は納得したように頷いた。
「成程、ロトムか」
「違法ってのはわかってるんですけど、非常事態なので……すいません」
「いや、構わんよ。非常事態だからな。それより、ロトムだけでは、発電所の奥までは行けないぞ」
「? どういうことですか?」
「発電所の奥には、メイン発電室に唯一繋がるエレベーターがあるんだが、発電室は最も重要な部屋だ。そのエレベーターだけは、ロックシステムを厳重にしている。わかりやすく言えば、ロトムで侵入してハッキングするのは無理なんだ」
そもそも侵入できないような構造になっているとのことで、今まで電子ロックを突破したようには行かないらしい。
ならば、どうすれば発電所の奥に行けるのかと頭を抱えそうになるが、職員がスッと、一枚のカードを手渡す。
「これは?」
「この発電所のカードキーだ。電子ロックや、エレベーターを動かすことができる」
「でも、電気が通ってないんじゃ……」
「サブ発電室を動かすことさえできれば、発電所内の電気系統は復旧できるはずだ。そうすればエレベーターも、稼働するはず」
この発電所は、街に電気を供給するメイン発電室と、発電所自体を動かすための電気を賄ったり、予備の電気を貯蓄するためのサブ発電室があるらしい。
つまり、発電所内の設備を動かすためには、まずサブ発電室を動かす必要がある。
「でも、発電機能はほとんど麻痺してるんじゃないんですか……?」
「その通りだ。だが、発電機はそのまま各電気系統の配線と直結している。電気を流すことさえできれば、設備は一時的でも復旧するはずだ」
「だったら俺の出番だな」
そう言って、テイルは名乗り出る。
「やるべきことは決まった。フィア、お前は奥のメイン発電室に向かってくれ」
「ぼ、僕がですか?」
「俺は電気タイプのポケモンを持ってる。サブ発電室に電気を流せるのは俺だけだ。俺が電気を流すから、その間にエレベーターを使って奥に進んでくれ」
確かに、フィアは電気タイプのポケモンを所持していない。電気を流すことは不可能だ。
つまりは役割分担だ。テイルは電気を流して設備を復旧させ、フィアは奥に進んで管理人を救出し、あわよくば停電の原因を究明する。
お互いにできることを、できないことを考えると、この配役しかない。
「俺のP・ターミナルのアドレスを教える。エレベーターに到着したら連絡をくれ」
テイルは自身のP・ターミナルを取り出し、アドレスをフィアに教えつつ、カードキーも渡す。
管理人の救出だけならともかく、単身で発電所の原因を探りに行くのは、フィアには荷が重かった。
しかしテイルがサブ発電室で電気を流さなくては動けないし、そのため彼は身動きができない。
職員たちは外に救援を求めるようで、増援を待つことも考えたが、大量のポケモンが侵入していること、管理人のことも考えると、悠長にはしていられない。
結果的にフィアは、了承せざるを得なかった。
正直な話、不安しかない。そんなフィアを慮ってか、テイルは別れ際に言った。
「いいか、無茶はするなよ。もし手におえないと思ったら戻ってきてもいい。危険を感じたらすぐに逃げろよ。なにかあったらすぐにP・ターミナルで連絡してくれ。急いで駆けつける」
「わ、わかりました……」
そう言われるだけで、少しだけ、フィアの気が軽くなったような気がした。
方針を固めると、二人はそれぞれの目的地へと向かう。
「じゃ、そっちは頼んだぜ」
「はい……テイルさんも気をつけて」
あとがき。文字数制限のせいで前話と繋げる予定だったのを無理やりぶった切ったのでだいぶ短いです。そして喋ることもないです。強いて言うなら、ここでテイルを同行人に選んだ理由ができましたね。では、語ることのないあとがきはこの辺にして、次回。リメイク前と大筋は変えてませんあのお話。しかし、一点明確な違いがあります。お楽しみに。
- 第46話 悪戯子鼠 ( No.84 )
- 日時: 2017/01/29 13:53
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
発電所内部は相当な広さがあり、迷いそうだったが、職員から貰った発電所の地図のお陰で、フィアはなんとか迷わず発電所の中を移動できていた。
「ここを右に曲がって、そのまま直進っと」
分かれ道になっている通路を右折し、歩を進める。
メイン発電室に向かうためにはエレベーターに乗らなくてはならない。そしてそのエレベーターは、研究所の奥に一つだけ。街の核たるメイン発電室に、容易に侵入できないようするための防衛策の一つだ。
職員はそのように言っていたが、フィアには疑問が残っていた。
「ここまで大きな発電所だし、他にも対策はしてるはず。にも関わらず今回の騒動……普通じゃないよね」
ただの野生のポケモンが、発電所の警備を掻い潜って最奥部まで来れるのだろうか。職員は、いつの間にか侵入されていたと言っていたが、まさか発電所の警備がそれほどザルであったわけでもないだろう。
胸騒ぎがする。
不安や恐れは当然あるが、それだけではない。形容しがたい、摩訶不思議で妙な感覚が、胸の奥につっかえている。
「まあ、危険を感じたら逃げてもいいってテイルさんは言ってたし、いざとなればその通りに……っ!」
独り言を呟きながら歩いていると、不意に後ろからフィアの横を何かが通り過ぎる。
「な、なに……っ?」
途中からここまでポケモンと遭遇していなかったために警戒心が緩み切ったフィアは、慌てて後ろを向くが、後ろから前方に向けて通り過ぎたのだから当然そこにはなにもいない。
そのことに気付いて再び前方を向くと、今度こそ、そのなにかを認識する。
それはポケモンだ。非常に小さな黄色い身体。耳の縁や尻尾が黒く、鼠のような、ハムスターのような、小動物的な容姿をしている。
『Information
ピチュー 子鼠ポケモン
電気袋が十分に発達しておらず
電気を溜めるのが下手。感情が
昂ぶると、すぐに放電してしまう』
一見すればピチューはただフィアの横を通り過ぎただけに見える。しかしピチューが咥えているものを見れば、そうではないということが分かった。
「あっ……カードキー!」
ピチューが口に咥えているのは、エレベーターを稼働させるためのカードキーだ。
ピチューはそれを、通り間際にフィアからスリ取ったようだ。
しかもピチューはカードキーを咥えたまま、とっとこ廊下を走って行ってしまう。
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
カードキーがなくては困るフィアは、当然ピチューの後を追う。しかしピチューは非常にすばしっこく、フィアが走っても追いつけそうにない。
「仕方ない……ブースター!」
フィアはボールからブースターを繰り出し、ピチューを追いかけさせる。
ブースターは元々それほど速くはないが、それでもフィアよりはずっと素早く動ける。廊下を走るピチューを追跡し、もう少しで追いつく距離まで肉薄した。
「よしっ、そのままピチューを押さえつけるんだ!」
この距離なら飛びかかって押さえつければピチューの動きを止められる。ブースターは後ろ足で地面を蹴り、前方に飛び込むようにジャンプするが、
「っ!? ブースター!?」
直後、ブースターの目の前で何かが弾け、ブースターは軌道をずれて顔面から床にダイブしてしまう。
しかもピチューはその光景を見て、悪戯っぽく、くすくすと笑っている。
「困ったポケモンだなぁ……仕方ない、相性は悪いけど君も協力してくれ。ミズゴロウ!」
フィアは電気タイプと相性が悪いが、数で攻めるためミズゴロウを繰り出す。ブースターもサッとピチューの背後に回ったため、挟み撃ちの陣形となった。
「ブースター、アイアンテール! ミズゴロウ、岩砕き!」
ブースターは鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るい、ミズゴロウは岩を砕く勢いで突進。両者の攻撃がピチューと迫るが、ピチューはこともなげに跳躍して二体の挟撃を躱してしまう。
ブースターとミズゴロウは互いに攻撃が当たりそうになり、無理やり軌道をずらすが、そこで隙が出来てしまう。その隙にピチューは電気を凝縮した球体を作り出し、尻尾を振るって二体に向けて飛ばした。
「っ! ブースター! ミズゴロウ!」
ピチューの攻撃の直撃を喰らう二体。ブースターはともかく、ミズゴロウは効果抜群なので大ダメージだ。
「本当にすばしっこいな……」
ブースターもミズゴロウもあまり素早くないポケモンなため、ピチューのようにちょこまかと動き回る相手は苦手なのだ。ブースターには素早さを上げるニトロチャージがあるが、攻撃が当たらなければ意味がない。
「しかもカードキーが燃えたら困るから炎技は使えないし……ミズゴロウ、水鉄砲!」
ミズゴロウはピチューに向けて水を噴射するが、サッと回避される。そしてピチューは再び廊下を駆けていった。
「また逃げるの!? ブースター、追って! ミズゴロウはこっち!」
ブースターにはピチューをそのまま追わせ、フィアは鈍重なミズゴロウを抱えて走る。ミズゴロウは思ったより重かったが、抱えて走れないほどではない。
「ブースター、起死回生!」
ある意味ピンチなこの状況だが、ダメージを受けていないため起死回生の威力は出ない。しかし攻撃が目的ではなく、ピチューを捕える、またはカードキーを手放せさせればいい。そのためにブースターはピチューへと突っ込むが、ピチューは軽く横へ飛び、ブースターの突撃を回避した。
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
パッとフィアはミズゴロウから手を離し、ミズゴロウも同時に水を噴射する。それなりに素早く行われた連携攻撃だが、これもピチューには当たらない。
ピチューは三角跳びのように壁を蹴って跳躍し、ミズゴロウの攻撃を躱したが、
「っ、ここ……!」
上へ跳んだ、つまり空中に身を投げ出したということは、それ以降の動きが出来ないということ。ピチューの着地点を予測したフィアはその場所に立ち、落下してくるピチューを待つ。
そして、
「よっと」
ぽすんと、ピチューはフィアの腕の中に収まった。そして、また逃げ出さないよう、少し強めに押さえつける。
「ちょっと乱暴でごめんね。でも、これがないと僕らは困るんだ。だから、返してもらうよ」
そう言いつつ、フィアはカードキーを引き抜く。少しビリビリしたが、特に反抗されることもなくカードキーを取り返せた。
もう誰にも取られないようブレザーの内ポケットの奥に仕舞い込みつつ、前方を見ると、そこには一つのエレベーターがあった。
「走り回っているうちに、着いちゃったよ……」
フィアは言いながらピチューを逃がそうとするが、ピチューは床に降りず、むしろフィアの頭まで上ってきた。
「なにさ、もう……」
ミズゴロウよりずっと軽いのだが、それでも重心をずらされるので歩き難い。だがピチューはしっかりとフィアの頭にしがみついており、離れる様子はない。フィアは逃がすことを一旦諦め、溜息を吐いてエレベーターへと近付く。
(ピチューを逃がすのは、ほとぼりが冷めてからでも大丈夫だよね)
などと思いつつ、フィアはP・ターミナルを取り出し、テイルへと発信する。
ややあって、テイルに繋がる。
「テイルさん。エレベーターに着きました」
『了解だ。んじゃ、こっちも電気を流すぞ』
P・ターミナルを通話状態のままにして、フィアはエレベーターの前に立ち、テイルの動きがあるまで待つ。
エレベーターというと、上下に移動するイメージがあったが、これは水平移動するタイプのようだ。
そんなどうでもいいことを考えていると、エレベーターの操作パネルに光が灯る。
『動かしたぞ。そっちはどうだ?』
「動いてるようです。ありがとうございます、テイルさん」
『おうよ。だが、流石にずっとは流し続けられないから、手早く頼むな』
「わかりました」
一度通話を切って、フィアは操作パネルにカードキーを差し込む。
パネルには指示表示があったので、それに従い操作すると、エレベーターの扉が開いた。
あとがきです。リメイク前を知っている人なら、恐らくそれ相応の反応をすると思うのですが、ピチューです。はい、ピチューです。作者は金銀時代のピチューブラザーズが好きです。リメイク前だとこのポジにはパチリスがいましたが、リメイクにあたってピチューに変更です。理由は単純なんですが、まあ、詳しくは次回のあとがきにでも書きます。というわけで次回ですね。次回はあの人が出ます。お楽しみに。
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