二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
日時: 2017/01/26 02:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
 また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
 以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。

 基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
 前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。

 ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。

 それでは、白黒の物語が再び始まります——



目次

プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3

シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28 
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36

クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76


登場人物目録
>>32

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



プロローグ 転移世界 ( No.1 )
日時: 2017/01/02 20:00
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 わけが分からなかった。一体全体、この世界はどうしてしまったのだろうか。自分の目を疑うというか、目の前の現実を受け入れられない。
 ついさっきまで、普通に帰宅をしていたはずだ。学校へ行き、授業をこなし、部活を終えて、すっかり日も暮れた帰路に着く。ここまでは何もおかしなことはない。いつものローテーションをこなしているだけだ。なのに、
「何、これ……!?」
 見たこともない生き物が視界を埋め尽くさんばかりにはびこっていた。犬猫でも驚くが、そこに存在しているのはただの犬や猫ではない。火を吹いたり、パチパチと火花を散らしたり、体が凍りついているものまでいる。およそ現実ではありえない生物、そして現象だ。
 空にも同じように奇怪な生物がいる。鳥のようなもの、虫のようなもの、挙句の果てには金属の板やUFO染みたものまで浮いていた。
「一体、何が……」
 視界いっぱいに広がる未知の生物に、今までにない恐怖を感じた。今まで何度も思ってきたが、今以上に怖いと思ったことはない。
「と、とにかく逃げないと……」
 そう思って振り返るが、さっきまでは何もなかった道には、同じように謎の生物がはびこっていた。気付けば、囲まれていた。
 この生き物たちはまだ、襲ってくる気配はない。が、いつ飛びかかって来るかは分からない。
「ど、どうしよう……」
 一本道なので前後を塞がれると身動きが取れない。そうしてもたもたしていると、生き物たちの一匹がこちらを向いた。
 全体的に黒色の犬か狼に似た生き物だ。頭部には髑髏のような模様か何かがあり、目つきは鋭い。
 その犬のような生き物は唸り声をあげてこちらを睨んでいる。今にも飛びかかってきそうな気配を放っており、姿勢を少し屈め——飛びかかってきた。
「うわぁ!」
 咄嗟に鞄を盾にして九死に一生を得たが、相手はまだこちらに敵意を向けており、再び襲い掛かってきそうだ。鞄は引き裂かれてしまったので次は避けるしがないが、足が震えて上手く動けない。
 それに周りの生き物にしたっていつ襲ってくるかは分からない。この犬のような生き物さえなんとかすればいいというわけではないのだ。
(もう、ダメか……)
 唐突に訪れた意味不明な状況で絶望する。自分の人生はどこで間違ってしまったのかと、自問自答する。しかし、その時だった。

 背後から草を含む竜巻のようなものが飛んできて、犬のような生き物を吹っ飛ばした。

「!?」
 ほぼ反射的に竜巻が飛んできた方向に振り返る。するとそこには、自分がよく見知った顔があった。
「部長!」
「や。大丈夫?」
 女性にしてはやや高めの背。自分ほどではないが若干色の濃い赤毛を二つに結ったその人物は、自分が所属する部活の部長その人だった。
「な、何でここに? いや、それよりもその生き物……」
 彼女の足元の生き物を指差す。先ほどの犬と同じ、見たこともない生物。胴体とほぼ一体化した四足。頭からは、大きな葉っぱが生えている。植物に擬態したり、植物を利用して巣作りなどをする生物は知っているが、植物が生えている生物など、見たことがなかった。
 それに、その生物は、まるで彼女が使役しているかのように見えた。
「意味が分かんないって顔してるわね。大丈夫、一つずつ教えてあげるから」
 彼女は一歩一歩こちらに歩み寄って来る。それと合わせて、頭にはっぱをつけた生物も歩を進める。
「まずはこの生き物たち。この子たちはね、ポケモンっていうのよ。私たちが知っている動物とよく似た生き物なの」
「ポケモン……?」
「そう。そんでもって、この子はチコリータっていうの。覚えておいてね」
 チコリータは挨拶をするように鳴く。人間の言葉が分かるのだろうか。
「あ、あの、それでこれは一体……」
「状況の説明は後。とにかく今は、あそこを目指すわよ」
「あそこ?」
 彼女が指差したのは、この街の少し小高い丘の上。いつもは何もないただの原っぱだが、今は黒い瘴気のようなものが渦巻いている……ように見える。
「はい、これ」
 突然、彼女は何かを手渡してきた。赤と白のボールのようなものだ。継ぎ目の中央部にはボタンが付いている。手触りからして、何かの機械っぽい。
「それはモンスターボール。中にあなたのポケモンが眠っているわ」
「ぼ、僕の、ポケモン……?」
 受け取ったモンスターボールをじっと見据える。するとどういうわけか、安心感が湧き、心が少し安らいだ。
「真ん中のボタンを押せば、ポケモンが出て来る。さあ、やってみて」
「えっと……こう、ですか?」
 言われたとおりに中央の白いボタンをプッシュする。するとボールは半分に割れるようにして開き、白い光と共に中からなにか——ポケモンが飛び出す。

 ブイッ!

 そんな威勢のいい鳴き声を発しながら現れたのは、茶色い体毛に覆われたポケモン。体つきは猫のようだが、耳が長いので兎にも見える。首回りは白くふさふさした毛で覆われており、30cmほどの小さな体躯だ。
「進化ポケモン、イーブイ。あなたの最初のポケモンよ。さあ、早くあの丘に向かいましょうか」
「あ、ちょっと……部長!」
 ダッと駆けだす彼女を追い、自分も駆けだした。思えばこの時が、前に踏み出した最初の一歩だったのかもしれない。自分の世界が変わる、最初の一歩だったのかもしれない——



ひとまず、プロローグです。わかる人はわかるかもしれませんが、正直に言うと、ほとんどリメイク前の文章をコピペしてるだけです。部長のポケモンがバジールからチコリータに差し替えられてる、くらいの違いしかないですね。しばらくはこんな感じなので、それなりに早く書きあげられると思います。それでは次回をお楽しみに。

1話 世界暗転 ( No.2 )
日時: 2017/01/02 20:54
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 彼女に教えられたことによると、ポケモンという生き物は、技と呼ばれる攻撃を四つまで覚えることができるようだ。さっきの犬のようなポケモン——デルビルというらしい——を倒したのは、チコリータのグラスミキサーという技。その技にも物理技や特殊技などがあり、ポケモンによって物理技が得意なポケモンや特殊技が得意なポケモンが存在しているらしい。
 他にもポケモンにはタイプと呼ばれる属性のようなものがあったり、特性と呼ばれる特殊な性質があったりと、色々教えられたが、あまり頭には入らなかった。それよりももっと重要なこと。訊きたいことがある。
「あの、部長」
「ん? なに?」
 草の竜巻、グラスミキサーで正面のポケモンたちを一掃する彼女は、気楽な調子で振り返った。何故こんな状況でそんな気楽なのかと言いたくなるが、ぐっと堪える。
「どうなっているんですか、これ。今、この街——この世界に何が起こっているんですか?」
 ポケモンなんて生物は寡聞して聞いた事がないし、そんなものが急に現れたのもおかしい。彼女はポケモンについて知識があるようだが、それならこの状況、今の世界がどうなっているのかも知っているかもしれない。そう思って尋ねると、彼女は人差し指を顎に当て、
「んー、この世界じゃあないな。変化してるのは、君の世界よ」
 と答えた。まったく答えになっていない。
「そんなことよりほら。君も少しは戦っておきなさい。部長命令よ」
 彼女は背中を押して前に出させた。目の前には団子状になった黄土色の体が繋がった、芋虫のようなポケモンがいた。頭には一本の針がある。
「毛虫ポケモン、ビードル。まあ腕試しにはちょうどいいんじゃない?」
「いや、毛生えてないですけど……」
 ともかく、自分はこのビードルというポケモンと戦わなければいけないようだ。
「イーブイの憶えてる技は、電光石火、噛みつく、目覚めるパワー、手助けの四つよ。じゃ、頑張って」
 投げやりとも取れる言動だが、彼女はこういう性格であることを自分は知っている。今更どうこう言うつもりはない。
 しかしいきなり戦えと言われてもどうすればいいのか分からない。とりあえず、さっきまで彼女がそうしていたように、技を指示してみる。
「えっと、じゃあイーブイ、電光石火」
 するとイーブイは目のも止まらぬスピードでビードルに突っ込んでいき、体をぶつけて吹っ飛ばした。
「凄い……!」
 イーブイのスピードに感嘆の溜息を吐くが、ビードルはまだやられていなかった。頭から無数の針を飛ばして来たのだ。
 イーブイはその針を避けられず、体に針が刺さってしまう。
「今のは毒針よ。ポケモンを毒状態することがある技で、毒状態になると体力が少しずつ減っていくわ。気を付けて」
「は、はい」
 思わず答えてしまう。うっかり順応しかけている自分に、少しだけ落ち込んだ。
 幸い、イーブイは毒状態にならなかったようだ。だが、ビードルはまた毒針を発射してきた。
「避けて!」
 イーブイは機敏な動きで毒針をかわす。軌道が直線的なので、避けるのは簡単だ。
「えっと、じゃあ次は……噛みつく!」
 指示を出すと、イーブイは駆け出し、ビードルの体に噛みついた。ビードルは小さく悲鳴を上げ、ぐったりと動かなくなる。彼女が言っていた、戦闘不能、瀕死状態というもう戦えない状態になったのだろう。ビードルは身体を力なく這わせて、いずこかへと行ってしまう。
「うん。まあ、最初のバトルにしてはまあまあね」
「え、えっと、ありがとうございます……」
 つい反射で礼を言うが、彼女はそんなことなど気にせず、すたすたと歩き出してしまう。自分も置いてかれまいと、慌ててその後に続いた。



 しばらく歩き、丘まであと少しというところで新たなポケモンが道を阻む。
「うーん、どうも邪魔なのよねぇ……」
 現れたのは、黒い平坦な体を持つ、一つの目のポケモン。一体ではなく、群れを成し、大量に浮いている。よく見れば、その形は一体一体違い、それぞれアルファベットに似ているような気がしなくもない。
「アンノーン、か。ぶっちゃけ雑魚だけど、この数は面倒ね……チコリータ、グラスミキサー」
 バジールは草を含む竜巻を発生させ、アンノーンをまとめて吹っ飛ばす——はずだった。
 結果、アンノーンは吹っ飛んだが、また次々と、どこからか湧い出て来る。
「倒しきれないわね。数が多すぎる……時間もないのに……」
 ぶつぶつと何かを呟きながら、彼女は辺りを見回す。が、アンノーンは襲い掛かってくる。
 アンノーンはエネルギーの塊を発射し、イーブイやチコリータを攻撃してきた。
「ぶ、部長! どうするんですか? こんなに数が多いんじゃ……」
「ちょっと待ってて、もう少しで何か閃きそうなのよねー……」
「そんなの待ってたらやられちゃいますよ!」
 アンノームは激しく攻めたてる。ポケモンたちが力尽きるのも、時間の問題だろう。
「確かにこれは急いだ方が……お?」
 彼女は何かを見つけたらしい。同じように自分も同じ方向を見ると、そこにはガスボンベを運搬する車が停車していた。
「よし、あれで行こうかしら。チコリータ、こっち」
 彼女はツタージャを近くに引き寄せる。何かを指示しているようだ。
「チコリータ、ちょっと力いるけど、頑張ってね。蔓のムチ!」
 チコリータは首周りから植物の蔓伸ばす。一体どんな原理なのか皆目見当がつかない、摩訶不思議な体構造に驚きを隠せなかった。
 それに、あの小さな体で、いくつものガスボンベをまとめて持ち上げている。凄い力だ。
「それじゃ、君も準備して」
「え? なにをですか?」
「私が合図したら、ボンベ目掛けて、イーブイに目覚めるパワーを指示するのよ。いい?」
「はっ、はい……」
「よろしい。それじゃあチコリータ、そっちはどう?」
 彼女が呼び掛けると、チコリータは鳴き声をあげた。大丈夫、と言っているのだろうか。
「それじゃあチコリータ! やっちゃって! グラスミキサー!」
 彼女の指示でチコリータはガスボンベを投げ飛ばすと、竜巻を発生させ、吹き飛ばした。その方向は、アンノーンのいる方向だ。
「今よ!」
「は、はいっ! イーブイ、目覚めるパワーだ!」
 イーブイは空中にばら撒かれたガスボンベに向けて、何発も小さな球体を発射する。何が起こるのかと期待半分でその後を眺めていると、突然、球体が発火した。
「……え?」
 唖然とする。ガスが大量に入った容器に火を点けたりすれば、発火して大爆発を引き起こしてしまうではないか。
「目覚めるパワーはタイプがいろいろあってね。あなたのイーブイは炎タイプよ」
「そういうのは先に言ってくださいよ!」
 それを先に言ってくれれば、決して目覚めるパワーなんて技を指示しなかっただろう。
 ともあれ、小さな球体はすべて炎が灯り、吹き飛ばされたガスボンベにほぼ全弾命中。そして、

ズッガアァァァァァァァァンッ!

「う、ぅ、うわ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 予想通り、大爆発を引き起こした。
 ガス爆発が生み出した凄まじい爆風は、アンノーンだけでなく、彼女や自分をも吹き飛ばした。
 初めて感じる宙を舞う感覚、浮遊感。そして視界に移るのは轟々と燃え盛る爆炎。そして、丘の頂上の、黒い瘴気——
(あれ……なんだろう。影が、近づいてる……?)
 丘に見える不気味な影。それが、自分たちに近づいているように思えた。いや、思えたではない。実際近づいているのだ、あの影は。
 影は大きくなり、渦巻いていく。その背後には、巨大な何かが見えたような気がした。自分たちは、渦の中に、巻き込まれて、行く——
「え……?」
 そこで、意識は途絶えた。



しばらくはそれなりのスピードを保ちたい。あとがきです。リメイク前はURL欄に煽り文とかを入れていたんですけど、なんだか今は、URL欄を弄るとエラーが出て投稿できないんですよね。なので仕方なく、今はURL欄未使用でやっていきます。今回も、リメイク前とほぼ同じなので、特に語ることはなく。楽しみになる要素が薄い気がしますが、次回もお楽しみに。

第2話 暗黒遺跡 ( No.3 )
日時: 2017/01/05 13:47
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「……ここは?」
 目覚めた時、我が目を疑った。そこはさっきまでポケモンがはびこっていた街ではなく、薄暗い石造りの建物だった。
 所々ボロボロで、地面は抉れ、壁は崩れ、柱は折れているが、どこか神秘的な雰囲気がある。
「僕はさっきまで街にいたはずじゃ……いや、それよりも。部長! どこにいるんですか!?」
 叫んでみるが、虚しくこだまするだけだった。彼女の声はどこからも聞こえてこない。
「まさかあの爆発で……いや、そんなことは……っ!?」
 その時、何かを踏んだ。慌てて足をどけると、そこには茶色くて毛むくじゃらの生き物が——
「って、イーブイか」
 爆発に巻き込まれ、一緒にここまで来たようだ。イーブイは尻尾を踏まれて怒ったような顔をしている。
「ご、ごめん。暗くて、よく見えなかったんだ」
 慌てて弁明するが、イーブイはそっぽを向いてしまう。
「ほ、本当にごめん……」
 平謝りしつつ、イーブイを抱きかかえる。薄暗い神殿は肌寒く、イーブイの温もりがあるだけで体温だけでなく心も安らぐ。
「とにかく、部長を探さないと」
 辺りを見回すが、前も後ろも闇がひしめいており、先が見えない。不安が押し寄せてくるが、イーブイを抱きしめつつ、歩んでいく。



 どれくらい歩いただろうか。ずっと一本道の通路を歩き続けていると、不安感も増してくる。もしかしたらこのまま、ここから出られないのではないか。彼女も見つけられないのではないか。そう思えてしまう。
 しかしその時、少し先の通路の脇に入口らしき穴が見えた。そこからは、微かだが光が漏れている。
「……もしかしたら、部長かも。行ってみよう、イーブイ」
 そうして小走りに通路を抜け、穴を通過する。
 穴の先は広間のようだった。先が見えないほど広く、どこまで続くのかわからないほど高い高い天井。その中央には誰か人がいるようで、パチパチと火を焚いている。
「あれは……部長じゃない、かな……?」
 見たところ男性のようだ。
 彼女でないのは残念だが、それでも人と出会えたのは幸運だ。とりあえず話を聞いてみようと足を踏み出すが、崩れた石の破片を踏みつけ、滑って転んでしまった。
 ドテッ、と間抜けた音が部屋の中に響く。
「! 誰だ!」
「わっ! い、いや、別に怪しい者じゃ……」
 転んだ音に反応して男性は立ち上がり、こちらへと駆け寄って来る。
 近付いて分かったが、かなり若い。男性というより青年といった方がしっくりくる。
 青年はこちらの存在に気付くと、表情を緩める。利発そうな顔立ちだ。今度は不思議そうな顔で疑問符を浮かべる。
「君はどうしてここに? 普通のトレーナーはここには来れないはずだけど」
「と、とれーなー?」
 聞かない言葉だった。いや、聞いた事はあるが、こんな状況で使う言葉だったかと疑問に思う。
 それを察してか、青年は手招きして焚火の側へと誘導した。落ち着けということだろうか。
 とりあえず誘導されるままに焚火の側に腰を下ろし、青年と向かい合った。
「まず名前を聞こうか。君、名前は?」
「あ、えっと……フィア、です」
 促されるままに、自分の名前——祖国のものから外れたその名前を、名乗る。
 青年は名前を聞くや否や、考え込むように顎に手を当てた。
「フィア? うーん……?」
「あ、あの、変な名前ですよね! これは母親が外国人でこうなったものでして……」
「いや、別に普通だよ。この世界ではね。それよりフィア君は、トレーナーを知らないのかい?」
 青年はそんな問いかけをする。フィアは自分が知るトレーナーの知識を語ったのだが、青年の反応は芳しくなかった。
「うーん、なんだろう。僕らと違う文化なのかな? 流石にポケモンは知ってるよね。イーブイ連れてるし」
「あ、はい。いやでも、まだ知らないことだらけですけど……」
 とりあえず、フィアは今までの経緯を説明した。突然自分たちの街にポケモンという生き物が現れたこと。黒い影のようなものに飲み込まれたこと。フィアが部長と呼ぶ彼女を探していること。
 フィアはお世辞にも説明が上手とは言えなかったが、それでも青年は黙って聞き、相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれた。そして、
「そうか。やっぱり君が……ってことは、君は“あれ”連れてこられたのか。なら、その部長って人は……」
 また青年はぶつぶつ呟き始めた。
「あ、あの……」
 フィアが声をかけると、青年は顔を上げた。
「ああごめん。僕はその部長って人がどこにいるのかは知らないけど、この遺跡の出口なら知ってるから、案内しようか」
「いいんですか?」
「うん。なんにせよ、ここは安全な場所とは言えないからね。今はまだ大丈夫だと思うけど、そのうち“奴”が来る」
 青年はスクッと立ち上がった。それに合わせてフィアも立ち上がるが 、
「っ? うわっ!」
 なにかがフィアの足にぶつかってきた。なのでフィアはバランスを崩し、その場にしりもちをついてしまう。
「大丈夫かい? って、ダンバルか。珍しいポケモンだね」
「ダ、ダンバル……?」
 引き起こしてもらいながら足元を見ると、確かにそこには、ポケモンと思しき生き物がいた。
 青い鋼鉄の体。三本の爪に、頭部は球状で赤い眼玉が一つある。足らしき部位はなく、浮いていた。
「フィア君は、イーブイ以外にポケモン持ってるの?」
「あ、いえ。持ってないです」
「ならちょうどいいし、捕まえておきなよ。野生のダンバルなんて滅多に見れるものじゃないよ。それにこのポケモンは、育てるとかなり強いしね。僕も苦戦したことがあるよ」
「はぁ……」
 だが捕まえろと言われても、どう捕まえればいいのか分からない。確かイーブイは、モンスターボールという球体に入っていたが。
「ん? ああそうか。ボールがないんだね。はいこれ」
「あ、ありがとうございます……」
 フィアは青年からモンスターボールを受け取る。
「白いボタンの部分をポケモンに当てればいいんだよ。そうすれば捕まる……かもしれない」
「かもしれないって……」
「とにかくやってみなよ。ポケモンを捕まえるには……」
「えっと、こうですか?」
「あ、ちょっと」
 言われた通りフィアはボールのボタンをダンバルに押し付けた。するとボールが開き、ダンバルがその中に吸い込まれていく。
 ボールはフィアの手の中から抜け出して地面に落ちる。するとカチカチと何度か揺れ、カチッと最後に音が鳴ったきり動かなくなった。
「…………」
「これでいいんですか?」
「……あ、うん」
 どうにもリアクションが微妙だった。
「凄いね。ダンバルはかなり捕まえにくいポケモンなのに、ダメージも与えず一発捕獲なんて」
「ダメージ?」
 聞いてみると、ポケモンは捕獲の際、ダメージを与えたり、状態異状にすると捕まえやすくなるらしい。なので捕獲の際は、ダメージを与えてからボールを投げるのがセオリーなんだとか。
 捕まえたダンバルをボールから出す。するとフィアの足にすり寄ってきた。
「随分と気に入られてるね。フィア君にはトーレなーの才能があるのかもしれない」
「そ、そうですか?」
 トレーナーの才能と言われても、いまいちピンとこない。しかし、褒められているようで、なんだが照れ臭かった。
 ポケモンの捕獲以外にも、青年は色々なことを教えてくれた。彼女は断片的かつ端的な説明しかしなかったが、青年は丁寧で分かりやすく教えてくれたので、フィアでも概ね理解できた。
「よく知ってるんですね」
「まあね。幼馴染がトレーナーズスクールっていう、トレーナーの学校で先生をしてて、その繋がりで。そんなことより、変なところで寄り道しちゃったね。早くここから出よう——」
 と、青年が一歩踏み出したところで、ぞわりと、嫌な感覚が全身を襲った。
「っ!」
「……!」
 二人は自然と同じ方向を向く。
 すると、そこにはフィアが吸い込まれたものと同じ、黒い渦があった。あの時よりもよりはっきりと見える。その背後にある、禍々しい影も。
 影は膨張し、拡大する。

 そして影は、暗い世界の扉を開いた。

「な、ま、また……!?」
「こいつは……くっ、なんでこんなに早く……!」
 渦はどんどん大きくなっていく。フィアたちを取り囲むように広がり、真っ暗な空間が延々と続いている。
「な、なに、これ……!」
 街で味わった時以上の恐怖を感じる。四方八方は暗黒が広がるばかりで、逃げ道はない。
 それだけでなく、空間からはなにかが飛び出してくる。ポケモンなのだろうか。どれもこれも、異形の姿だ。街で見たポケモンとはどこか違う雰囲気がある。
「こいつらは……! くそ、よりによってなんて奴らを呼ぶんだよ」
 青年は素早くボールを取り出した。そして、
「出て来いダイケンキ! 吹雪!」
 青年のボール出て来たのは、頭部に一本の立派な角を持つ海獣のようなポケモン。ダイケンキというようだ。
 ダイケンキは口から猛吹雪を放ち、扉から現れた影たちを攻撃していく。大抵はそれだけで吹っ飛ばされていった。
「す、凄い……」
 あっという間に消し飛んだ。どれも凶悪そうだが、青年のダイケンキがいればどうにかなるのではないか。
 そのあまりの強さに、フィアが圧倒されていると、不意に影が差す。
「……え?」
 サッと振り返り、その存在に気付くが、遅かった。
 そこには、うねうねと動く存在。
「あ、ぅ……」
「! フィア君!」
 青年が叫ぶ。同時に、ダイケンキになにか指示を出した。
 フィアに差した影は、腕なのか触手なのかわからない、コードのような黒く長い身体を伸ばす。
 それは、ダンバルに絡み付いた。
「ダンバル!」
 一瞬だった。
 ピカッ、と眩い閃光がフラッシュすると、バチバチバチッ! と電気がスパークした。
「その手を離せ!」
 直後、ダイケンキの角が、黒い影の身体に突き刺さり、吹き飛ばす。ダンバルに絡み付いていたものは解かれたが、プスプスと黒い煙が立ち、ダンバルの身体も焦げている。
「ダ、ダンバル……!」
「フィア君! 早くダンバルを戻すんだ! このままだと取り返しにつかないことになる!」
 青年の言葉でフィアは我に変える。さっきダンバルを捕まえたボールを不慣れな手つきで手に取って、ダンバルをボールに戻そうとする、が
「っ、うわぁ!」
 さっきの黒い影がまたやって来る。
 それは再び黒い触手を伸ばしてダンバルに絡み付くが、今度は電撃を発しない。締め上げるように巻き付く。
 早くボールに戻さなくてはと、急いでボールのスイッチを押すが、いくら押してもダンバルがボールに入らない。光はダンバルに当たっているのだが、そこで霧散する。
「な、なんで……!?」
「巻きつくか。面倒な技を……! ダイケンキ、シェルブレード!」
 ダイケンキは前足の鎧から剣を抜刀。触手を断ち切るように、ダンバルに巻き付く脅威を取り払った。
「さあ早く! ダンバルを戻すんだ!」
「は、はい……っ!」
 さっきと同じようにボールを操作し、今度こそダンバルをボールに戻す。戻す前の傷は、酷過ぎて見ていられなかった。
「早く手当てしないと、ボールの中とはいえダンバルもやばいかもな……でもそれにはまず、こいつらをなんとかしないと……」
 気が付けば、周囲は完全にポケモンに包囲されていた。もう逃げることはできなさそうだ。
「フィア君、イーブイもボールに戻して」
「わ、分かりました。戻って、イーブイ」
 言われた通りフィアはイーブイをボールに戻す。
「さて、どうするか……」
 青年が厳しい面持ちで包囲網を睨むと、一斉に飛びかかってきた。
「う、うわあぁっ!」
「くっ! ダイケンキ、フィア君を守るんだ!」
 ダイケンキはフィアの側に寄り添い、襲い掛かって来るポケモンを薙ぎ払う。
 その時だ。
「っ! 来たか……!」
 青年の言葉と同時に、フィアは顔を上げる。
 黒い渦。それがかなり大きくなっており、その裏側の影も、比例して大きくなっている。

 キルキル ギギガギギゴル ガルギルギキュギュギュ ギャギャキキルルキルキンギキキギグルキグル

 影からおぞましい呻き声が聞こえる。発音が奇怪すぎて何と言っているのか全く分からないが、声も大きくなっていき、やがて、叫び声へと変貌する——

 ギギュ ギギギギガガギガ ギルルルギュルギグルルギ ギギルギグギュル ギルルルルルッ! 

 次の瞬間、黒い渦はさらに大きくなり、フィアたちを吸い込む。

「う、うわぁ!?」
 見えない力に引っ張られ、フィアは態勢を崩す。咄嗟にダイケンキに掴まったが、渦はダイケンキ諸共吸い込む。
「フィア君! ダイケンキ! くっ……!」
 青年の方にも、フィアを吸い込もうとするものとは違う渦が存在していた。あちらも吸い込まれないように体を支えている。
 しかし、それもすぐに限界が来た。渦はさらに吸い込む力を増大させ、フィアも、ダイケンキも、青年も、すべてを吸い寄せる。

 ギギャラギルララ ギルルルルルグ ギラララ ギギギギガガガギルルル ギガルラララギガララ ギガルルルルルルルル———————ッ!

「う、う、うわ、うわあぁぁぁぁぁっ!?」

 そしてフィアは、再び闇の渦に飲み込まれた——



あとがきです。読者の方々には申し訳ないのですが、最初に投稿されていた2話の後に来る予定だった一話分が抜けていたため、2話に統合させていただきました。大変申し訳ありませんでした。

第3話 多元世界 ( No.4 )
日時: 2017/01/02 23:21
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 音が聞こえてくる。なにかが匂ってくる。
 水のせせらぐ音、草の匂い。今までこのような感覚はあまり感じたことはなかったが、いざこうして感じてみると、意外と分かるものだった。
「……ね……て……ぇ……っ……ば……」
 せせらぎの他に、違う音……いや、声が聞こえてくる。
「だい……ぶ……ね……きて……ってば……」
 重い体を転がし、仰向けになった。光りが眩しい。うっすらとしか目を開けられない。
「あ、生きて……かった……。……じょうぶ?」
 聞こえてくるのは少女の声だ。そして、目に映るのも、少女だった。
「ぶ、ちょう……?」
「え? なに?」
 やっと光に目が慣れてきた。普通に目を開くと、まだ目ヤニで霞んでいるが、少女の姿をはっきりと捉えた。
 小柄な少女だ。かなり幼い顔立ちで、少々癖のある黄緑色の髪をポニーテールにしている。
「黄緑……?」
 フィアは驚きを隠せない。自分の髪の色も大概だが、まさか現実でこんな色の髪を見るとは夢にも思わなかった。それとも、これは夢なのだろうか。
「きみ、だいじょうぶ? ケガとかない?」
 少女は覗き込むようにしてフィアに問いかけてくる。フィアはゆっくりと起き上がった。
「怪我は……ない、と思う……」
「よかったぁ……こんなところに倒れてるから、どうしたのかと思ったよ」
 少女はほっと胸を撫で下ろす。そして気付いたが、この少女、髪色だけでなく格好も奇妙だった。
 藍色のプリーツスカートに白いキャミソールのような上衣と、かなり薄着だ。しかもその上にやたら年季の入ったダッフルコートを着ているものだから、ますます奇妙である。コートはトグルが全て外れていて、前は全開だ。その様子は、まるで浮浪者である。
「……服、ボロボロ……」
「あ、ひどい! ちがうよ、これはすっごく大事なもので、こういうファッションなの! かっこよくない?」
「いや、別に……」
 少女の若干ずれたファッションセンスに同意することなく、フィアは軽く返した。
「そんなことよりも、ここは……?」
 周りを見渡すが、そこはさっきまでいた遺跡ではない。小さな原っぱで、少し先には建物が見える。
「ここ? ここはハルビタウンだよ?」
「春日……?」
 少女はさも当然というようにそう言うが、フィアの感覚からすれば当然でもなんでもない。そんな町の名前は寡聞して知らない。
 そんなフィアの態度に、少女は疑問符を浮かべる。
「知らないの? シコタン島の南にある町だよ。ポケモン研究所があるから、結構有名だと思ったんだけど……正式な研究所じゃないからかな?」
「えっと……」
 よく分からないが、フィアの常識と少女の常識がずれていることは理解できた。いやさ、常識などという観念的な尺度ではなく、もっと根本的なところが違う。常識ではなく、世界観。今目の前にある現実の受け止め方、自分の生きる世界に対する感覚が、圧倒的にずれている。
 そして少女がポケモンと言ったということは、この場所も、彼女やあの青年となにか関係があるのかもしれない。
「それよりも、このポケモンはきみの?」
「え?」
 少女が視線を向けた先には、フィアを守り、傷だらけになったダイケンキの姿があった。どうやら一緒に飛ばされて来たらしい。先の戦いで、身体も傷だらけのボロボロだ。
「ダイケンキ……!」
「さっきイーくん——博士を呼んだから、だいじょうぶだよ。たぶんそろそろ来ると……あ、来た!」
 少女が声をあげ、フィアはまた視線を移動させる。そこには、一人の小柄な人物。
「よーぅ、フロル。倒れている男ってのは、こいつか?」
 粗雑で荒っぽい口調とは裏腹に、可憐な容姿。少女と同じ年頃に見える幼い顔立ちと、低い背丈。長いこげ茶の髪を一つに括っており、白衣を羽織っている。さっき博士と呼ばれていたのは、この白衣があるからだろうか。
 博士はしゃがみ込んでフィアと目線を合わせ、ペチペチと頬を叩いてくる。そしてスクッと立ち上がると、
「ま、大丈夫だわな。見たところ怪我はなさそうだし、唾でもつけときゃ治るぜ」
「えー……」
 かなり適当な発言だったが、確かにフィアはどこかを怪我しているわけでも痛めているわけでもないので、不服ながらもその診断は正しい。
「それと……こっちがダイケンキか。懐かしいぜ。俺の息子の相棒もダイケンキだったなぁ……いつかぜってーリベンジしてやる」
 などと言いながらダイケンキに歩み寄る博士。息子などとよく分からない単語が飛び出た気がするが、フィアは聞こえないことにした。
「どう、イーくん? そのダイケンキ」
「俺のことは博士と呼べ……ふむ、大丈夫だと思うぜ。このダイケンキ、よく鍛えられてる。並みのトレーナーじゃここまで鍛え抜くのは難しいくらいだ……つーかこのダイケンキ、どっかで見たことあるような……」
 博士はしばらく、ぐったりしているダイケンキの診察を続けた。その表情は、時間が経つごとに険しくなっていく。
「イーくん……じゃなくて、博士? どうしたの、顔が怖いよ……?」
 少女の言葉を無視し、博士はフィアの方を向いた。
「こいつぁ……おい、お前」
「えっ、はい……」
「このダイケンキ、どこで見つけた。いや、このダイケンキのトレーナーを、どこで見た?」
「えっと、その……」
 フィアにもまだ状況がよく分かっていないので、説明が難しい。なにより今のフィアは、落ち着いて説明ができるような状態ではない。
 博士はそんなフィアの心情を察したのか、
「……とりあえず、このダイケンキを運ぶか。話は研究所でゆっくりたっぷり聞かせてもらうぜ」
 そう言って、博士は少女、そしてフィアを連れて、草原の先へと歩む。
 ポケモン研究所へと。



あとがきです。そう言えば言い忘れてましたが、リメイク前と違って、今作のサブタイトルは漢字四文字です。四字熟語とかではないです。ここまでが実質的なプロローグ、物語のスタート地点はここです。というわけで、次回もお楽しみに。


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