二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
日時: 2017/01/26 02:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
 また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
 以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。

 基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
 前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。

 ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。

 それでは、白黒の物語が再び始まります——



目次

プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3

シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28 
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36

クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76


登場人物目録
>>32

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



第4話 北方地方 ( No.5 )
日時: 2017/01/03 13:47
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「……成程な。つまりお前は、その部長とかいう女に連れられて、この世界に来た。言っちまえば、異世界の人間、ってわけか」
「えっと……はい、たぶん……」
 ダイケンキを運び、フィアは博士と少女と共に、ポケモン研究所なる場所を訪れていた。
 研究所と言っても、外装は普通の家とあまり変わらない。ログハウスのような木造の家屋で、中にはよくわからない機械がたくさん置いてあるものの、テーブルに椅子、ソファ、カーペットといった家具、エアコン、冷蔵庫といった家電に、シンクや水洗トイレといった設備に至るまで、フィアの知るそれとほぼ同じだ。出された飲み物も、ごくごく一般的なコーヒーである。
 自分の知識内のものに安心しながら、フィアは今までの経緯をすべて、博士と少女に話した。
 博士はフィアの話を、神妙に聞いていた。その表情には、信じられない、と言わんばかりの驚きも混じっている。少女も少し困惑していたが、彼女の場合は、そもそもあまり理解できていない様子だった。
 とはいえ、こんな荒唐無稽な話、とても信じてもらえはしないだろうと、フィアは思っていた。今の自分は、あったことをそのまま伝えることしかできないが、自分で話していて、冷静に考えてみると、あまりに非現実すぎる。頭が狂ったと言われても仕方ないような、おかしなことを口走っていると、自分でも感じるほどだ。
 しかし博士は、頷いて納得の仕草を見せた。
「とでもねぇ話だが、この世界は超常現象の塊みてぇなもんだしな。異世界から野郎が来たところで、そこまで驚きはしねぇ」
 その返しにフィアとしては驚きなのだが。
 しかし超常現象の塊というのがどんな世界なのか、フィアには想像しがたいものだったが、ついさっき自分が経験したことが頻発する世界だとしたら、おぞましいの一言に尽きる。流石に、博士の冗談だとは思うが。
 フィアの話を飲み込むと、今度は博士の方から切り出した。
「さて、そんじゃあ異世界からやって来たお前に、かるーくこの地方について説明してやる。ここはホウエン、ジョウト、カントーのずっと先、シンオウ地方のすぐ北にある、三つの島と一つの諸島からなる地方。ホッポウ地方だ。そんでここは三つの島で最小の島、シコタン島の南に位置する町、ハルビタウン」
 なんとか地方についてはまだ気にしなくていいと付け足し、博士は続ける。
「この地方の特徴は、各島の性質、風土に合わせて多種多様なポケモン生息していること。そして、それらの環境の中で育まれたことで、他の地方では覚えない技を覚えること。だがそれと相反するように、この地方で発祥したポケモンが存在しないことだ」
「発祥したポケモンがいない……?」
「ああ。ホッポウには、この地方にはを原点とするポケモンが存在しない。いやさ昔はいたらしいんだが、今は絶滅しちまったって話だが、ま、そんなことはどうでもいい」
 少なくとも今のお前にとってはな、と博士は言った。
「重要なのは、お前がこの世界に飛ばされたことだ。恐らく伝説のポケモンが絡んでるんだろうな。可能性としてありそうなのは、シンオウ地方の神話で伝えられている、パルキアが怪しいか。ここはシンオウから近いし、なにせ空間を司るポケモンだ、次元の壁を超えることくらい造作もないだろう」
「え、ポケモンってそんなことまでできるんですか……?」
「まぁな。つっても伝説のポケモンだからこその力だが」
 となると、フィアや彼女、あの青年を飲み込んだ渦の裏側にいた影も、伝説のポケモンなのだろうか。
「……ま、こんなとこでそんなこと言い合っててもしょうがねぇ。今は行動あるのみだ……なぁ、お前」
「はい……?」
「お前、元の世界の戻りたいか?」
 勿論、と即答したかったが、フィアの性格上、それは無理だった。しかし。
「と、当然です。一刻も早く戻りたいですよ」
 元の世界に戻りたい、という気持ちは、今のフィアの大部分を占めている。なので、彼にしてははっきりと、そう言った。
「よっしゃ、なら決まりだ。フィア、お前にはホッポウ地方を旅してもらう」
「え……?」
 あまりにも唐突だったので、フィアは呆然とする。しかし博士は構わず続けた。
「正式に資格を持ってるわけじゃぁねぇが、俺も研究者の端くれだ、お前がなんでこの世界に飛ばされたのか興味がある。だが、それを知るはあまりにも情報が少なすぎるんでな。お前には俺の研究の手伝いをしてもらいつつ、元の世界に戻るための手掛かりを探す。どうだ、一石二鳥だろ?」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。旅なんて僕には無理ですよ!」
 フィアの常識では、未成年の一人旅なんてありえない。危険だし、なによりフィアはその手の技術や知識がない。
 だが博士は、そんなフィアの主張を否定する。
「んなこたねぇ。この世界じゃ、10歳になればトレーナーになって旅に出られるんだ。逆に言えば、それくらいこの世界は旅人に対して親切になってるってこった。俺の息子も13ぐらいの時に旅立ったしな。それだって、一般的なトレーナーの旅立ちとしては遅いくらいだぜ?」
 博士はそう言うものの、フィアからすれば不安ばかりだった。フィアの感覚では、旅とは生死を賭けるような所業。生半可な覚悟では到底不可能なことである。
「覚悟がいんのはなにするにしても同じだ。それに安心しろ、付き人も用意してやる。なぁフロル」
「えっ? わたし!?」
 急に話を振られて慌てる少女。今の今まで名前も聞かなかったが、フロルというらしい。そういえば、博士の名前も聞いていない。彼女からは、イーくん、などと呼ばれていたが。
「たりめーだ。お前もそろそろ旅立ってもいい歳だろ。俺が前に渡したポケモンだって、きっちり進化させたじゃねぇか」
「で、でも……」
「大丈夫だ、自信を持て。お前よりフィアの方が、この世界では初心者なんだぜ? お前がサポートしてやってくれや」
「う、うん。イーくんがそう言うなら……」
「うっし! じゃあ決定だ!」
 博士はポニーテールを跳ね上げるように勢いよく立ち上がった。
「とりあえず今日はもう休め。そんでもって明日また研究所に来い。その時が、お前らの旅の始まりだ」



 ……こうして、半ば強引にフィアとフロルの旅は始まった。フィアは元の世界に帰る手掛かりを探すため、フロルはフィアのサポートと、ポケモントレーナーとして己を鍛えるために——



 夜。
 フィアは、明日の準備と言って部屋にこもっている博士の下を訪れた。
「あの、博士……」
「なんだよ、こんな夜中に。明日は早い。さっさと寝ろ」
「その……少し、お話が……」
「……なんだよ。言ってみろ」
 博士は手を止めて、フィアの方へと向く。
 彼の手には、一つのボールが握られていた——



あとがきコーナー。今回はちょっと短め。ここで初めて明かされましたが、今作の舞台はホッポウ地方。モデルは北方領土です。作中の島の名前も、それに属する島の名前をもじっています。確か北方領土って、シンオウ地方のポケモンリーグあたりの一部だった気がしますが、気にしません。いやさ、気にはします。そのうち説明します。タブンネ。次回はフィアとフロルの旅立ちです。研究所では通例のイベントが行われる……予定です。次回もお楽しみに。

第5話 旅立開始 ( No.6 )
日時: 2017/01/03 17:25
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 フィアは博士の自宅兼研究所に一泊させてもらい、翌日、フロルと共に博士の前に立っていた。
「さて、お前たち二人には今から旅立ってもらうわけだが、ある程度は指針がないと、旅立つにしても難しいだろう。元の世界に帰るための手掛かりなんて、どう探せっつー話だ。なぁ、フィア?」
「えっ? えっと、はい。そうですね……」
 確かにその通りだ。ここはフィアからすればまったく別の世界で、手掛かりなんてどう探せばいいのか分からない。
「フロルもトレーナーとして修行するにしても、どうすればいいのか分からねぇよな。だからとりあえずお前ら、各地のジムを巡れ。そんで、ジムリーダーをぶっ飛ばしてこい」
「ジムリーダー?」
 またしても聞き慣れぬ言葉に、フィアは首を傾げる。
「ジムリーダーってのは、ポケモンジムを管理する者だ。ポケモンジムは多くの街にあり、一つの街に一つある。ジムリーダーも突き詰めればポケモントレーナーの一種なんだが、そんじょそこらのトレーナーとはわけが違う。そうだな、トレーナーを試すトレーナーとでも言うのか。大雑把に言っちまえば、強ぇトレーナーだ。で、そのジムリーダーに勝つとジムバッジなるものが貰え、これを八つ集めるとポケモンリーグに挑戦できる」
「ポケモンリーグ?」
 またまた聞かない言葉に、再び首を傾げるフィア。それに対して博士は説明を続ける。
「ポケモンリーグっつーのは、ポケモントレーナーの最高峰、多くのポケモントレーナーが目指す頂点だ。四天王とチャンピオントレーナーの五人で構成され、こいつらを全員倒すと、その地方で最強のポケモントレーナーだということが証明されるんだ」
 まあ今はあんまり気にしなくてもいいがな、と博士は言う。確かに、フロルはともかく、フィアはトレーナーとして強くなることが目的ではない。
 しかし、強くなくてはならないと、思うことはある。
「とりあえずお前らには、これをやろう」
 言って博士が手渡して来たのは、二つの機械だった。一つは赤く、縦に長い薄型の長方形の機械。もう一つモノクロカラーで、こちらは横に長い薄型の長方形をした機械だった。
「赤いのはポケモン図鑑。それにポケモンの情報を登録していけば、ポケモンの詳細な情報が分かる優れもんだ」
「図鑑……? これが?」
「おうよ。いやはや、正式な博士じゃないってんで、取り寄せるのが大変だったんだぜ? 本当はフロルが旅立つ時のために一個、予備でもう一個手配してたんだが、どうせ予備は予備だ。お前にもくれてやるよ」
「あ、ありがとうございます」
「イーくん、こっちは?」
 胸を張る博士をスルーして、フロルはもう一つの機械を掲げた。
「……そっちはP・ターミナル。最近ホッポウを拠点に活動し始めたアシッド機関が開発したもんで、ホッポウ地方の全トレーナーに無料配布してんだよ。メールやテレビ電話みてぇな通信が主な使い方だが、それ以外にもいろいろ機能がある。インストールして機能を追加することもできるぜ」
 若干ふて腐れたような態度で説明する博士。急にどうしたのだろうか。
「さて、そんじゃあ次はこの中から一匹、ポケモンを選べ。俺からの餞別だ」
 そう言って博士が取り出した箱の中には、モンスターボールが三つ入っていた。
「イーくん——博士、わたしたちにポケモンくれるの?」
「おうよ。だが中身は見せねぇぞ。見せたら面白くねぇからな」
 ぐいぐいとボールの入った箱を押し付けてくる博士。妙に急かしてくる。
 どっちから先にとっても良かったのだが、フィアはフロルに先を譲った。
「じゃあわたしこっち。フィアはどれにするの?」
「うーん……じゃあ、これで……」
 中身がなんなのかまるでわからないので、選ぶにしても基準がない。適当に残っているボールを取った。
「博士、ポケモン見てもいい?」
「ああ、構わねぇ。念のためにポケモン図鑑も異常がねぇかチェックしとけ。ついでだ」
 博士の言葉を半分ほど聞き流し、フロルは爛々とした目つきでボールの中央ボタンを押す。すると、中から光りと共に一匹のポケモンが現れた。
 オレンジ色の体色に小さな体。頭からは三本の毛が跳ねており、小さな嘴があるところを見ると鳥型のポケモンなのだろう。非常に愛くるしい容姿をしている。

『Information
 アチャモ ひよこポケモン
 体内の炎袋で炎を燃やしているため、
 抱きしめると暖かい。最初に見た
 トレーナーの後を付いて行く習性がある。』

 図鑑を開くと、そんな説明文が載っていた。
「とりあえず図鑑の調子は大丈夫か。フィア、お前もポケモン出せよ」
「あ、はい。えっと、こうだっけ……」
 図鑑を仕舞い、フィアも博士から貰ったボールの中央ボタンをプッシュする。すると中から、光と共にポケモンが出て来た。
 水色の丸っこい体躯。頭には直立したヒレがあり、頬にはオレンジ色のエラが付いたポケモン。

『Information
 ミズゴロウ 沼魚ポケモン
 頭のヒレは周りの様子を察知する
 敏感なレーダー。餌を求めて川底
 の岩も粉々にするほどのパワーがある。』

 どうやらこのポケモンはミズゴロウというらしい。図鑑を見る限りパワーのあるポケモンのようなので、頼りになる。
 フロルはアチャモを抱きしめ、フィアはミズゴロウのヒレやエラを弄り、しばらくポケモンとじゃれていると、見かねたのか博士がパンパンと手を叩いた。注目、ということなのだろう。
「ほら、こっち向け。今から近くの街を教えてやっから。ポケモンとじゃれ合うのはいつでもできるだろ」
「あぅ、ごめん……」
「すいません……」
 博士に咎められ、二人は平謝り。
「とりあえずこっから一番近いのはシュンセイシティだな。あそこにはジムもあるし、まずはそこを目指せ。ちぃっとばかし癖のあるジムリーダーが、面倒見がいいし、悪い奴じゃない。問題はないだろう。それに、なにか分からないことがあれば、いつでも俺に連絡を寄越せばいい」
「は、はいっ」
「うん、わかったよ」
 そしてフィアとフロルの二人は研究所を後にし、シュンセイシティへと向かう——
「あ、そうだ。フィア、ちょっと待て」
 ——直前に、呼び止められた。
「こいつを持ってけ」
 振り返ったフィアに向けて博士は二つの物体を投げつけ、フィアは辛うじてそれらをキャッチした。それは、一つのモンスターボールと、熱を帯びた暖色の石だった。
「これは……?」
「モンスターボールの中にはダイケンキが入ってる。ジム戦やトレーナー戦での使用は禁止するが、マジでやべぇ時には出してもいいぞ」
 真剣な眼差しで、博士は言う。もはや睨み付けるような目になっているのでフィアは怯んでしまう。
 だが怯んだのはそれだけではない。
「僕に、ダイケンキを持たせるんですか? でもこのダイケンキは——」
 ダイケンキはあの青年のポケモンだ。フィアを救ってくれた青年の。恩人の大事なポケモンを、自分のような者が持っていていいのだろうか。そんな疑念がフィアの中にはあった。しかし博士は、それを否定する。
「分かってる。このダイケンキはお前のポケモンじゃねぇ。だがな、お前を助けたトレーナーだって、お前にとっては手掛かりだろ。だったらそいつのポケモンを持ってた方がいいに決まってるし、なにより助けられたんなら、自分でその恩を返せ。お前がこいつを、持ち主に届けるんだ」
「……はい。分かりました」
「それと、そっちの石は炎の石っつーアイテムだ。そっちも、やべぇ時にイーブイに触れさせてみろ。まぁやばくない時でもいいが、使うかどうかはお前次第だ」
 分かったらもう言っていいぞ、と博士は追い払うように手を振る。引き留めておきながらそれはないんじゃないかと思うが、こうして旅立つための助力をしてもらっているので、邪険にはできない。
「よし……それじゃあ、行こうか。シュンセイシティに」
「うん!」
 かくして、フィアとフロルの旅は始まった。最初の目的地は、シコタン島唯一のジムがある街、シュンセイシティだ。



あとがきの時間です。やっとこさ旅立ちですね。シンオウ地方を引き合いに出しておきながら、御三家はホウエンです。まあ、好きなんですよね、ホウエン御三家。ホウエン縛りとかでパーティー組んでたりもしましたし。それに、ORASでメガシンカ貰ったり、ちょっと前まではホットな話題でしたし。この作品を最初に書いたのは、だいぶと前ですけども。第六世代より前ですね。今回はリメイク前とあまり変えていませんので、特に言うこともなく。というか、ここまででリメイク前と変わったところなんて、ポケモンくらいです。次は最初の街、シュンセイシティです。お楽しみに。

6話 春星街路 ( No.7 )
日時: 2017/01/03 18:32
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 シュンセイシティはハルビタウンから歩いて小一時間ほどの場所にある街で、特に名産や名所があるわけでもない、普通の街だった。
 道路はアスファルト、家は木造。特徴的なものは何一つとしてない。
 ここまで個性を放棄した街というのも逆に珍しいんじゃないというくらいに無個性な街だったが、フィアは道すがら貰ったチラシに目を留める。
「劇団布団座? の、公演があるんだって。しかも明日だ」
「お芝居するの?」
「そういうことじゃないかなぁ?」
 演目は寡聞にして聞いたことがないものだ。オリジナルなのかもしれないが、“シキミの傑作が劇場で解き放たれる!”と触れこまれているので、なにかの名作を演劇にしたようだ。
「楽しそうだね、お芝居」
「だけど、僕らは劇を見に来たんじゃないよ。ジムに行かなくちゃ」
「むー、ちょっとくらい寄り道しても、イーくんは許してくれると思うけどなぁ……」
 ムスッと唇を尖らせるフロル。
 フィアもこの世界の演劇に興味がないわけでもなかったが、今はそれだけの余裕もない。早く元の世界に戻る手がかりを掴みたい気持ちでいっぱいだった。
 演劇はひとまず置いておいて、とりあえず、二人はポケモンセンターを目指すことにする。



 ポケモンセンターという施設は、この世界ではほぼすべての街に配備されている。
 傷ついたポケモンの回復が主な業務で、ポケモンバトルを主に行うトレーナー御用達の施設となっているようだ。
 ポケモン同士を戦わせるだなんて野蛮だと思ったが、どうやらこの世界ではそれが普通らしい。そもそも、ポケモンには戦う本能があるようなので、ポケモンどうしのバトルは自然なものなんだとか。それは、道中で襲ってきた野生のポケモンとのバトルで、なんとなく感じた。
 余談だが、フィアは最初に話を聞いた時、ポケモンセンターは病院のような施設だと考えていたが、それは間違いで、この世界にも病院は病院で別に存在するらしい。
 ポケモンセンターが病院と違う点に、ポケモンセンターはトレーナーのサポートをするというものがある。これが意味することは多々あるが、その一つは、ポケモントレーナー用の宿泊施設があること。
 トレーナーカードを見せれば、無料で宿泊できるらしい。宿泊費も食費もすべてタダ。フィアはこれで、10歳になったら旅立つという文化に、半分ほど納得した。
 P・ターミナルに内蔵されているトレーナーカードデータを受け付けに見せて、部屋を取る。演劇が近いため人が多く来るそうで、フィアとフロルで一部屋となった。
「有名なのかな、この劇団」
「あ、この名前、テレビで見たことある」
「テレビに出るほどか……凄いな」
「前に見たときは、すっごくおもしろかったよ。ハクシンのエンギだった!」
「へぇ……」
 どのくらいの凄さなのかはさっぱり伝わらなかったが、それなりに規模の大きな劇団だということは理解した。
「今日はどうしようか……ジム戦に行きたいけど、ちょっと疲れたな」
 ここまでの道中、大きな出来事こそなかったが、フィアにとっては驚きの連続だ。
 まず、街と街の間の道端——この世界では基本的に道路と呼ぶらしい——にポケモンが出て来る。野生のポケモンだ。
 ポケモンに備わっている闘争本能が剥き出しになったポケモンは、道を通るトレーナーに襲い掛かってくることが多い。襲うと言っても、感覚としてはバトルを申し込まれるようなものらしいが。
 そこで何戦か、野生のポケモンとのバトルを経験し、ポケモンバトルの感覚は掴めたが、初めてのバトルは緊張した。お陰で疲労も溜まっている。
(いや、厳密には、初めてじゃないけども……)
 まだ“あっち”の世界にいた頃、彼女の誘導でバトルをさせられたことがある。
(部長……どこにいるんだろう)
 そもそも彼女は、この世界にいるのだろうか。
 早く、なにかしらの手掛かりを掴みたいのだが——
「フィア?」
「っ、ごめん。考え事してた……なに?」
「せっかくだし、特訓しようよ」
「特訓……?」
「うん。ほら、ジムリーダーって、すっごく強いトレーナーでしょ? だったら、ポケモンと特訓して、強くならなくちゃ」
「あぁ……」
 フロルの提案に、成程、と納得した。
 どこか抜けていて、ぽけぽけした娘だと思ったが、しっかりと自分のすべきことは考えているようだ。
 いくら年下でも、抜けていても、自分よりもこの世界に長く住んでいるのだ。自分より、彼女の方がしっかりしているのかもしれない。
「でも、特訓っていっても、どうするの?」
「ポケモンセンターの地下に、バトルフィールドがあるって、さっきジョーイさんが言ってたよ」
「ジョーイさん……受付のお姉さんか」
 受付というより、ポケモンセンターで働く女性は皆、ジョーイと呼ばれている。職業名らしい。フィアの感覚では「お医者さん」と言っているようなものだろう。
「地下にバトルフィールドか。そこで、どうするの?」
「バトルだよ。わたしと、フィアで」
「僕とフロルで?」
「うんっ」
 対戦相手がいないのだから、自動的にそうなるだろう。
 特に反対する理由もなかったので、フィアは受付で回復してもらったポケモンを受け取り、二人で地下へ続く階段を下る。
 階段を下り切り、扉を開けて部屋へと入ろうとした、その時。
 ドンッ、と誰かとぶつかった。
「おっと、ごめんごめん」
「あ、いえ、こちらこそすいません……」
 反射的に頭を下げるフィア。
 頭を上げると、相手の人物の姿が視界に入ってくる。
 歳はフィアと同じくらいだろう。細身の少年が、そこにいた。
 全体的に白や黄色を基調とした服装で、目を引くのは、つばのないふんわりとした大きな帽子。首には長く黄色いマフラーを巻き、黄色いTシャツの上から、白く袖の広い半纏のようなものを羽織っている。
 彼もトレーナーだろうか、と思っていると、向こうから声をかけてきた。
「ねぇ君」
「あ、はい……」
「ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな?」
 いきなりだった。
 あまりに唐突な要求で困惑しながらも「な、なんでしょう……?」と恐る恐る聞き返す。
「大したことじゃないよ。オレさ、ずっとここでバトルしてくれるトレーナーが来るの待ってたんだけど、だーれも来ないんだよねー。だからもう諦めて帰ろうとしたんだよ、今」
「はぁ……」
 それって、つまり、
「いやー、いいところに来てくれた! オレとバトル、付き合ってくれない?」
 そういうことだった。
 フィアは背後のフロルに目配せする。フロルは「いいよ」と言ってくれた。
「わかりました。バトル、します」
 フロルとのバトルはとりあえずお預け。フィアは、少年とのバトルを受けた。
「おー。よかったよかった。無駄足にならずに済んだよ。あ、君、名前は?」
「あ、えっと、僕はフィアです……」
「フィア君ね。オレはイオン。よろしくー」
「よ、よろしくお願いします……」
「敬語なんていいよいいよー、同い年っぽいし? 気ぃ楽にしていこう」
 イオンと名乗った少年は、晴れやかな笑顔でバトルフィールドに立つ。どれだけ待っていたのだろうか。
「そんじゃー始めよっかー。あ、そうだ。フィア君。ポケモン、何体いる?」
「えっと、ちょっと待って」
 フィアは自分の手持ちポケモンを指折り数え、
「さ……二体、だよ」
 と答えた。
「二体かー。三対三がよかったんだけど、しょうがないか。じゃあ二対二のバトルでいい?」
「うん、いいよ」
 了承し、対戦のルールを決定する。
 バトルフィールドに立って、今からバトルが始まる。
 そういえば、とフィアは思った。

(野生じゃないポケモンとバトルするのって、これが初めてだ——)



あとがき。シュンセイシティ編開始です。街の名前はリメイク前と変えておらず、命名法則は季語です。シュンセイは春星、春の星ですね。おぼろげな空に浮かぶ淡い星です。ちなみにハルビタウンは、フィアも言っていた春日です。カスガじゃないですよ。今回は、前半部分をリメイク前と結構変えてます。基本的なシナリオは変わっていませんけどね。次回はフィアvsイオン戦。フィア初のトレーナー戦です。お楽しみに。

7話 初対人戦 ( No.8 )
日時: 2017/01/03 20:13
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 互いにフィールドを挟んで向かい側に立ち、それぞれボールを握る。
 先にポケモンを繰り出したのは、イオンだ。
「よーし。じゃ、オレからポケモン出すよ。行くよ、キモリ!」
 イオンの一番手は、グリーンカラーのトカゲのようなポケモンだ。

『Information
 キモリ 森トカゲポケモン
 足の裏に棘があるので壁を垂直に
 登ることができる。木の枝や花
 などを咥えてると力が出るらしい。』

 図鑑によると、キモリというポケモンらしい。しかしイオンのキモリは図鑑にあるような木の枝や花は咥えていない。
「えーっと、しゃあ僕は——」
 今回のバトルはポケモンに経験を積ませるためなので、まだ戦闘経験の少ないポケモンをバトルに出したい。となると、
「——ミズゴロウ、出て来て」
 フィアの初手は、ミズゴロウだった。
「え……?」
 そのチョイスに対し、イオンは驚いたような表情をする。
「草タイプのキモリに対して水タイプのミズゴロウって……なにかの作戦? オレを誘ってる?」
「……? タイプ?」
 フィアが首を傾げるとイオンは、あーと納得したような声を出す。
「フィア君、まだ初心者なのかー。えーっと、タイプっていうのはポケモンバトルで重要な要素で、このタイプによって有利に戦えたり不利に戦えたりするんだよ。例えば、草タイプは水タイプに弱く、炎タイプは水タイプに弱く、水タイプは草タイプに弱い、みたいにねー。攻撃側のタイプが受ける側のタイプの弱点を突くと、ダメージが跳ね上がるんだ。逆に、苦手なタイプで攻撃したら、ダメージは落ちる。基本だよ?」
「そ、そうなんだ……」
 つまりキモリは草タイプで、ミズゴロウは水タイプ。相性ではミズゴロウが不利なのだ。
「P・ターミナルでも調べられるから、あとで見てみれば? あと、ここのジムリーダーはタイプの相性分かってないと、倒すの難しいんだよー」
「え? イオン君、この街のジムリーダー倒したの?」
「んー、いーやー? 話に聞いてるだけなんだよねー。ま、オレ天才だし、よゆーでサクっと倒す予定だけど!」
 気の抜けた感じだが自慢げなイオン。しかしジム戦前に有益な情報を得ることが出来た。どうやらシュンセイジムのジムリーダーは、タイプ相性を重視しているようだ。
「ま、とりあえず始めようか。キモリ、タネマシンガン!」
 最初に動いたのはキモリだ。キモリは口から無数の種を発射し、ミズゴロウを攻撃。
 草タイプは、攻防共に水タイプに強い。タネマシンガンは草タイプの技。水タイプのミズゴロウには効果抜群なので、ダメージは大きい。
「ミズゴロウ、反撃だよ。水鉄砲!」
 ミズゴロウも負けじと水流を発射するが、こちらは対照的に、キモリへのダメージは少ない。
「そのくらいじゃ効かないねー! キモリ、電光石火!」
 水鉄砲を受けきったキモリが高速で突っ込み、ミズゴロウを攻撃。今度は弱点を突かれなかったので、ダメージはさっきより大きくない。
「ミズゴロウ、体当たりだ!」
「遅いって! アクロバット!」
 ミズゴロウはキモリに向かって体当たりをしようとするが、キモリは俊敏に動き回り、ミズゴロウを尻尾で攻撃する。かなりすばしっこい。
「だったら、泥かけ!」
 視界を悪くさせようと、ミズゴロウは地面を蹴って泥を飛ばす。しかし、
「当たんない当たんない! 電光石火!」
 キモリは既に攻撃に移っており、ミズゴロウは弾き飛ばされてしまう。
「どんどん行くよー、キモリ。アクロバットだ!」
 瞬時にキモリはミズゴロウの背後に回ると、尻尾を叩きつけてミズゴロウを攻撃。さらにキモリの猛攻は止まらず、
「ローキック!」
 今度はミズゴロウの足を払って転ばせ、ダメージを与える。さらに、体勢も崩されてしまった。
「アクロバット!」
 休む間もなくキモリは攻撃を続け、ミズゴロウを押し飛ばした。
 これほどのスピードで攻撃できるキモリも凄いが、そのキモリの猛攻を耐えているミズゴロウの耐久力も相当なものだった。しかしそれももうすぐ限界、ミズゴロウの体力は残り僅かだ。
「うぅ……全然攻撃できない。ミズゴロウ、岩砕き!」
 岩を砕く勢いで突っ込むミズゴロウだが、単調な攻撃では簡単にキモリに躱されてしまい、隙を作るだけだった。
「とどめ! キモリ、タネマシンガンだ!」
 キモリは無数の種を発射してミズゴロウを攻撃。その弱点を突く連撃で、ミズゴロウはその場に倒れ込んだ。
「あ……ミズゴロウ!」
 ミズゴロウは完全に目を回しており、もう戦える状態ではない。戦闘不能だ。
「ありがとう、ミズゴロウ。戻って休んで」
 フィアはミズゴロウをボールに戻す。結局、キモリは効果いまひとつの水鉄砲一発しかダメージを与えられなかった。
「あと一体か……今度は相性も大丈夫なはず。出て来て、イーブイ!」
 フィアの二体目はイーブイだ。
「へー、ノーマルタイプかー。でもキモリは格闘タイプ技のローキックがあるから、こっちの方が有利って感じ? キモリ、ローキック!」
 キモリは相変わらずのスピードでイーブイに接近し、足払いを仕掛けるが、
「イーブイ、躱して目覚めるパワーだ!」
 イーブイはジャンプしてけたぐりを躱すと、赤い球体を発射する。球体はキモリに直撃すると、メラメラと燃え上がった。
「えっ? キモリ!」
 キモリはその一撃で戦闘不能。スピードはあっても耐久力は低いようだ。
「あっちゃー、炎タイプの目覚めるパワーかー……戻れ、キモリ」
 イオンはキモリを戻し、次のボールを手に取る。これでお互い、ポケモンは一体ずつだ。
「よーし。そんじゃ、次行ってみますかー」
 そして、イオンの次のポケモンが繰り出される——



あとがき。そういえば前回、あとがきでイオンについてまったく触れていませんでしたね。ごめんねイオン君。リメイク作品なので、なんか勝手にイオンのことはわかっているみたいに思い込んでいましたが、リメイク前の執筆時期も考えると、普通に新規の読者の方が多いはずなのに。とんだ失態でした。申し訳ない。

8話 電気進化 ( No.9 )
日時: 2017/01/03 22:29
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「行くよ、サンダース!」
 イオンの二番手は、四足歩行の黄色い毛並を持つ獣型ポケモン。首回りだけは白く、パチパチと電気が弾ける音を鳴らしている。

『Information
 サンダース 雷ポケモン
 針のような体毛の隙間には
 マイナスイオンが発生する。
 バチバチと火花が散るのは威嚇の合図。』

 サンダースはイーブイを見ると、一瞬にして鋭い目つきに変わり、全身の体毛も針のように尖らせた。同時にパチパチという音はバチバチと強い音になる。
「サンダースは……イーブイの進化系か」
 ポケモン図鑑でサンダースについて調べると、イーブイの進化系、という表示が目に留まる。
 フィアにはまだ進化というものがよく分からないのだが、いずれイーブイもあのようになるのだろうと解釈した。
 なにはともあれ、今はバトルだ。サンダースはイーブイを威嚇しており、やる気満々だ。
「オレのサンダースは強いよー。本気でかかってこないと一瞬で終わっちゃうから、覚悟してねー?」
 確かにイオンの言う通り、サンダースは見るからに強そうだ。それはフィアにも分かる。
「う、うん。行くよイーブイ。電光石火だ!」
 イーブイは力強く鳴き、地面を蹴ってサンダースへと突っ込むが、
「サンダース、こっちも電光石火!」
 サンダースも同時に動き出し、イーブイよりもずっと速いスピードで突撃。イーブイを吹っ飛ばした。
「ミサイル針だ!」
 続けて針のように鋭く尖った体毛を無数に発射し、イーブイに突き刺す。ダメージはそこまで多くないが、かなり痛そうだ。
「イーブイ、大丈夫?」
 イーブイは起き上がり、体を小刻みに震わせて針を振り落す。そしてサンダースをキッと睨み付けた。まだまだやる気のようだ。
「よし、じゃあ目覚めるパワーだ!」
 イーブイは赤く燃える球体をサンダース目掛けて発射するが、その時、既にサンダースはそこにはいなかった。
「え……?」
「二度蹴り!」
 そして気付いた時には、サンダースはイーブイの正面まで接近し、二連続で蹴りを繰り出す。二度蹴りは格闘タイプの技なので、ノーマルタイプのイーブイには効果抜群だ。
「まだまだ行くよ、サンダース。電気ショック!」
 間髪入れずにサンダースは電撃を発射し、イーブイに追撃をかける。態勢の整っていないイーブイは、電撃の直撃を喰らう。
「あ、う……イーブイ、噛みつくだ!」
「遅い遅い、ミサイル針!」
 イーブイが牙を剥きサンダースに向かって駆けだす直前、サンダースは鋭い体毛を発射して地面に突き刺し、イーブイの動きを止める。
「今だ、二度蹴り!」
 そしてイーブイが動きを止めた一瞬で距離を詰め、二連続の蹴りを放ち、イーブイを上空へと蹴り上げた。
「しまった……イーブイ!」
 空中に放り出され、身動きの取れないイーブイ。このままではいい的だ。
「これでとどめ! サンダース、電気ショック!」
 案の定サンダースは高速で電撃を射出。空中にいるイーブイへと直撃させた。
「イーブイ!」
 ドサッと、地面に落ちたイーブイは目を回し、戦闘不能となっていた。



「勝った勝った。お疲れ、サンダース。よく頑張った」
 イオンがそう言って労うと、サンダースは彼に飛びついて、嬉しそうに頬ずりし、顔を舐めている。褒められてはしゃいでいるのだろうか。
「ははは、俺も嬉しいけど、体毛がバチバチしてすっげー痛いんだけどなー……」
 バチバチどころか、鋭い体毛がグサグサ刺さっているようにも見える。確かに痛そうだ。
「凄い甘えっぷり……」
「まーねー。小さい時からずっと一緒のポケモンだし? 俺ら、もう一心同体みたいな?」
 口調こそ軽いが、バトルでは獰猛だったサンダースが、彼にここまで甘えているということは、それだけ心を開いている証拠だ。イオンも、サンダースが純粋に甘えているとわかっているからこそ、いくら体毛が弾けたり刺さったりしても、その痛みも受け入れている。
 この世界に来て間もなく、ポケモンという存在も理解しきっていないフィアでも、この二人には確かな信頼関係がある。それだけはわかった。
「ほらサンダース、離れて離れて。ご褒美のシュカの実、あげるからさー」
 イオンはポケットから、手のひらサイズの黄色い木の実を取り出すと、ひょいっと放り投げる。サンダースは放られたそれを、犬のようにジャンプして食らいつき、そのままもしゃもしゃと咀嚼した。
「今のは……?」
「シュカの実。ポケモン用の木の実だよ」
「ポケモン用……?」
「あー、そこも知らないんだ」
 この世界に来たばかりだから、とはとても言えなかったが、イオンはフィアの無知も気にする様子なく、説明してくれる。
「木の実はね、俺ら人間が食べるものもあるけど、ものによってはポケモンに色んな効果をもたらすものがあるんだよ。たとえば、さっきあげたシュカの実は、電気タイプの弱点である、地面タイプの技の威力を下げてくれるんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「他にも、体力を回復したり、状態異常を直したり、種類はたくさんあるよ。オレンの実とかモモンの実とか、聞いたことくらいはあるでしょ?」
 ありません、とは言えなかった。
「ポケモンに持たせておけば、必要な時にすぐ食べて使ってくれるから、覚えておいた方がいいよー」
「そうなんだ……ありがとう」
「でも、イオくん、ごほうびって言ってたよ?」
 今まで黙っていたフロルが口を開く。若干舌足らずで、イオンの名前をちゃんと発音できていない。
 しかしそれも気にせず、イオンは続けた。
「ポケモンにとっては、木の実は普通に食料だからねー。それに、ポケモンにも味の好みってのがあって、好きな食べ物、好きな味があるんだよ。俺のサンダースは、大の甘党でね。甘い木の実が好きなんだ」
 さっきのシュカの実というのは、甘い木の実なのか。とてもそうは見えなかったが。
「木の実は加工してお菓子にしたりもするよ。元はシンオウ地方の発祥だけど、この地方にもポフィンっていうポケモン専用のお菓子が流通してるし、ちゃんと調理すれば人間でも食べられる。うまいよー、モモンの実のケーキ。すっげー甘いの。オレの好物なんだよねー」
「そ、そうなんだ……それにしても、イオン君って詳しいね」
「まあねー。旅に出る前に、すっげー勉強させられたし」
 させられた、という言葉の響きに少し引っかかるものを覚えたが、そこを指摘することもできず、イオンはボールを取り出して、開閉スイッチを押していた。
「んじゃサンダース、ごくろーさま。もう戻ってねー」
 そしてサンダースをボールに戻す。
 そういえば、さっきまでバトルをしていた、ということを今になって思い出した。バトルをした感覚が、今更体に巡ってくる。
「にしても、なかなかいいバトルだったなー。いい経験値になったよ」
「そうかな、全然敵わなかったけど……強いんだね、イオン君」
「いや、それほどでもあるかなー。ま、オレ天才だし?」
 かなり自信家というか、自信過剰ともとれる発言だったが、実際イオンは強かった。フィアが初心者であることを差し引いても、ポケモンが技を繰り出す前後にほとんど隙がなく、動きも機敏。指示も素早く的確だったので、才能を感じるものはあった。
「でも、フィア君もけっこー強かったよ? キモリにミズゴロウを出してきたときは、正直、キモリ一体で勝てると思ったし?」
「あはは……そうかな」
 褒められるのは純粋に嬉しかったが、キモリだけで終わらせるという発言には、流石にフィアも若干へこむ。そこまで甘く見られていたのだろうか。
 イオンはチラッと壁に掛けられた時計を一瞥する。
「うーん、今日はもう寝ようかなー。オレもポケモンも疲れたし……あ、フィア君って、明日ジムに行ったりする?」
「う、うん。そのつもりだよ」
「だったら一緒に行かない? ジム戦攻略の仲間ってことで」
「ジム戦攻略……?」
「あと、そっちの子も。いくら初心者でも、三人いればジム戦でも戦えるっしょ」
「え? ジムって、三人いないとダメなの?」
 初耳だった。旅するトレーナーの指標となることから、一人旅のトレーナーが目指すものと考え、勝手に一人でも挑戦できると思い込んでいた。実は違ったのか。
 などというフィアの不安は、すぐに解消された。
「いやいや、そんなことはないよー? 一人でもジムは挑戦できる……つーか、そのへんはジムによっていろいろだねー。条件とかルールとかは、ジムによって違う。この街のジムは一人でも挑戦できるけど、複数人でも挑戦できるんだってさ」
「複数で挑むと、なにかあるの?」
「単純に仲間が多い方が、ジム戦でも戦いやすいってことじゃない? まあ、人数が多ければ多いほど、レベルもそれ相応に上がるらしいけど?」
 レベル。それは、ポケモンそのもののことだろうか。
 それともイオンの言う、攻略するうえでの難易度だろうか。
 ないしは、どちらも、か。
「で、どう? 一緒に挑戦しない?」
「そうだなぁ……」
 正直、この申し出はありがたい。
 この世界に来て右も左もわからないフィアにとって、ジム戦というものがどういうものなのか、まったくわからない。なので、先導してくれる者がいるのは助かる。
 イオンは実際にバトルして、実力者であることは感じ取れた。そしてここまで披露してくれた知識の数々。彼が博識であることも窺え、一緒にジム戦をしてくれるというのなら、非常に心強い。
 フィアはフロルの方をちらりと見る。フロルはコクコクと頷いていた。
 彼女も、異論はないらしい。
「じゃあ、お願いしてもいいかな……?」
「オッケー、これで決まり! んじゃ、明日の朝十時、ポケセンのロビーで集合ねー」
 きっちりと集合時間と場所も指定してから、イオンはボールを仕舞い、鞄を背負う。
「そんじゃ、とっとと部屋に戻って休むとするかなー。今のバトルで、大体の調整は終わりってことにしとこ。フィア君らも、今日は早く寝た方がいいと思うよ」
「うん、そうする。今日はありがとう」
「いやいや、こちらこそー。そんじゃー、また明日ー」
 イオンは手をひらひらと振ると、ひゅぅっと消えていった。
 フィアたちもその後に続くように、地下から出て、自室に戻る。
 これで、フィアの一日は終了した。
 そして明日は、フィアにとって初めてのジム戦だ。



今回はちょっと長め。リメイク前と比べて、バトル後の描写を増やしました。サンダース可愛いですよね。作者が好きなのはリーフィアやブラッキー、唯一王ですけど、サンダースも結構好きです。それでは次回、シュンセイジム戦です。文字数が収まるか不安ですが、お楽しみに。


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