二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
日時: 2017/01/26 02:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
 また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
 以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。

 基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
 前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。

 ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。

 それでは、白黒の物語が再び始まります——



目次

プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3

シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28 
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36

クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76


登場人物目録
>>32

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



Re: ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】 ( No.65 )
日時: 2017/01/21 13:53
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

>>64

大光さん

 白黒です。
 ありがとうございます。言われて初めて気づきましたが、確かに参照1000突破してますね……自分自身、参照ってあまり気にしないというか、あくまで指標くらいにしか考えてないのですが……、いや、勿論、嬉しいんですけどね。これだけの人が自分の作品に興味を持ってくれていることは。
 しかし、名前に関してはどうなんでしょうね。まず白黒なのかモノクロなのかどっちだよ! って感じで申し訳ないですし(お陰でツイッターでは「もの黒」とか中途半端になっちゃってますし)、あんまりたくさんの人と交流があるわけでもないので、本当にどうなんだろう、って感じです。
 それでも、自分の文章を読んで、良いと言ってくださるのは純粋に嬉しいです。自分の書き方、作風についてはまだまだ模索中でありますので、これからも精進したいと思います。
 高校生の時と、学生の今と、どっちが忙しいのかもうよくわからないのですが、趣味と言えばこれが趣味なので(この作品に関しては、けじめという意味でやや義務的なところもなくはないですが)、なにも執筆せずにいることはまずないと思います。ただ、以前よりも、自分が見た、自分の文章、物語の展開に対する目が厳しくなったので、試行錯誤するという点では更新は遅くなりそうですね。
 あとは体力か……本当に体力ないんですよね、自分。夜に更新しようとして、できなかったことが今までで幾度となくあったりします。
 ともあれ、なんとか自分と色々折り合い付けながらやっていこうと思います。ありがとうございました。

第34話 窃盗騒動 ( No.66 )
日時: 2017/01/21 14:44
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 サミダレタウン、バトル大会、会場。
 その中をフィアは疾駆する。
 行き交う人々を掻き分け、人込み、雑踏、群集——すべてを振り切って駆け抜ける。
 なぜ自分は走っているのか。元々、走るのは苦手だ。運動が苦手だ。それなのに、なぜ。
 ——思い出した。
 自分は、誰かのために走っている。
 それは誰なのか。ぼぅっと、頭の中に浮かび上がる幼い顔。
 思い出して、踏み出す足に力が入る。
(フロル……!)



 ポケモンを盗まれたと言うフロル。フィアはとりあえず泣きじゃくるフロルをロビーに残し、偶然近くを通りがかったルゥナに彼女を任せ、一人で飛び出した。
 フロルはボールを、あのボロボロになったコートのポケットに入れていたらしい。その中にあるボールがすべて、いつの間にかなくなっていた。
 コート自体はボロボロでも、ポケットはしっかりと修繕しているようで、穴が空いて落ちたということもない。ポケット自体の底も深く、そもそも蓋がついているため、溢れて落ちるようなこともない。
 となるとやはり、盗まれたと考えるしかない。フロルの言うように。
 それに、フィアはルゥナから、この大会で起こっている窃盗事件かもしれない事案を知っている。ただの紛失や、失踪とは思えなかった。
 犯人は誰なのか。とにかく疾走していると、不意にポケットが振動した。
 ハッと我に返り、フィアは足を止める。バトル直後なこともあり、全力疾走の反動でドッと疲労が押し寄せてきた。肩で大きく呼吸しながら、振動の発生源に手を突っ込む。
「P・ターミナル……? 着信は……フロル!?」
 P・ターミナルに着信が入っていた。しかもその発信は、フロルからだ。
 フィアは慌てて通話画面を開いた。
「フロル!? どうした——」
『フィア君!』
 最後まで言い切る前に、怒号が飛び込んできた。
 しかも、明らかにフロルの声ではない。この声は、
「ル、ルゥ先輩……」
 ルゥナだ。
 画面越しでもわかる。わかりやすく怒っている。
 ルゥナはさらにまくしたてるように、怒声を放つ。
『もうっ! いきなり泣いてる女の子を見せて「この子、先輩に任せます」とか言って自分だけどっか行っちゃうんだから! わけわかんないよっ!』
「ご、ごめんなさい……」
 フロルを任せたといっても、フィアからはなにも説明せず、そのまま飛び出してしまったので、彼女も困ったのだろう。
 思い返せば確かに自分が悪かったと、フィアは素直に謝る。ルゥナもそこまで本気で怒っていたわけではなく、その謝罪一つですぐに怒りを収めた。
 そして、そこからは努めて冷静に言葉を紡いでいく。
『一応、フロルちゃんから話は聞いたよ。私、フィア君のアドレス持ってないから、今フロルちゃんのP・ターミナルを借りてるの』
「そうみたいですね……それで、どうかしたんですか?」
『フィア君、盗まれたポケモンを取り返したいんでしょ?』
 ストレートな詰問だった。
 あまりにストレートすぎて……いや、そもそも自分の目的すらも見失いかけていたので、その言葉で再認識して、フィアは答える。
「……はい。大事なポケモンなんです。フロルにとっては」
『そうだよね。ポケモンはトレーナーのパートナーだもん……でも、どこにいるか、わかる?』
「あ、えっと……」
 そういえば知らない。
 なにも考えずに飛び出したとはいえ、流石に考えなさすぎだ。そんな自分が恥ずかしかった。
『だと思ったよ。どう考えても勢いに任せて突っ走っちゃってたもん』
「面目ないです……」
『ううん、いいよ。フィア君、おどおどしてて頼りなさそうだったけど、そうやって熱くなれる一面があるんだなって。ちょっとビックリしちゃったけど……そういう人は好きだよ』
「え……?」
『引っ込み思案なばかりじゃないって知って、先輩として安心しました』
「あぁ……はい」
 こっちもなにか安心した。
 無鉄砲に熱くなってしまったが、そろそろ落ち着いてきた。
『とにかく、だよ。私もあの後、いろいろ調べたんだ。そしたら、ちょっとわかったこと……というか、気になることがあったの』
「気になること?」
『たぶん、今回のポケモン“窃盗”事件に、関係あること』
 ルゥナは、そう言った。
 確かに、言った。
 “窃盗”、と。
 今まで断言を避けて、紛失、失踪の可能性も示唆していた彼女が、明確に窃盗と言ったのだ。となれば、そうと言える証拠かなにかを掴んだのだろう。
『フィア君、グリモワールって知ってる?』
「! グリモワール……!」
 その名を聞いてハッとする。
 そう言えば、シコタン島、シュンセイシティでもポケモン泥棒があった。その時の実行犯が、グリモワール。
 今回は、引ったくりや強奪ではなく、すり取るように盗んではいるが、それでも窃盗は窃盗だ。やっていることは同じ。
 そこに繋がりがあった。
『その様子だと、知ってるみたいだね。その構成員らしき人物の目撃情報が、サミダレタウンの複数個所であったんだ』
 不自然な形でね、とルゥナは付け足して、さらに続ける。
『目撃情報の数、位置を私なりに分析して、聞き込めただけの被害者の話も総合すると、間違いないと思う。犯人はグリモワールだよ。それも、この手口からして下級構成員じゃなくて、もっと上の構成員……幹部クラスかも』
 具体的な情報は、説明すると長くなるからと言ってカットしつつ、フィアに持てる情報を離すルゥナ。
 バトルの合間を縫って、犯人の目星をつけるまで調べ上げた彼女の努力は、称賛するに値する。
 それに、その情報は、今のフィアにとってはこの上なく必要なものなのだ。
『でも、残念ながら確証がないし、誰が、っていうのも目撃情報だけなんだよね。これっていうわかりやすい証拠もない……一応、大会の運営委員会とか、町長さんとかにも連絡はしたんだけど、確たる証拠がないから動いてくれるかはわからない。だから私自身で証拠を掴みに行くつもりだったんだけど——』
「先輩は、グリモワールが潜伏している場所を知っているんですね?」
 ルゥナの言葉を遮って、フィアは問う。
 ほんの少しの沈黙の後、ルゥナは呆れたように溜息を吐く。
『……せっかちだなぁ』
「やっぱり知ってるんですね? なら、早くその場所を教えてください!」
『あ、慌てないでよ……君一人で行くのは、危険だよ』
「でも!」
 その後の言葉は続かなかった。時間がない、フロルのためにも、急がないと——様々な言葉がぐるぐると渦巻いて、声に乗せられない。
 ただ、フィアの言わんとすることを察したのか、仕方ない、と言うように、ルゥナはまた呆れ気味な息を吐いた。
『……わかったよ。時間がないのも確かだし、場所は教えるよ。でも、無理だけはしないでね。少しでも危険を感じたら、すぐに引き返すんだよ』
「先輩……ありがとうございます」



「意外と向う見ずなんだなぁ、フィア君って」
 ルゥナの知る情報——グリモワールの潜伏場所をフィアに伝えると、ルゥナは通話を切った。
 するとそのタイミングを見計らってか、ただの偶然か、隣に座る少女——フロルが、涙目のまま、覗きこんでくる。
「あの……フィアは……?」
「……大丈夫だよ。フィア君なら任せられる。信じよう」
「……うん」
 自分のポケモンがいなくなったというのに、彼の心配。意外と二人は似たもの同士なのかもしれない。
 他人のために向う見ずになる彼と、自分のことを棚上げして他人の身を案じる彼女。
 少し、笑ってしまいそうだった。
 しかし、フロルにはああ言ったものの、本当に大丈夫かどうか。
 ルゥナが情報提供を渋ったのは、フィアが事の危険性をどれほど理解しているのか、その点に疑問を持ったためだ。
 ルゥナはフィアがグリモワールのことをどれほど知っているのか、知らない。ただ、今の彼の無鉄砲さを考えると、あまり理解していないように感じた。そこに、不安が残る。
 しかし彼の熱意、フロルのために、劇場の赴くままに突っ走っていった、その衝動は認めたかった。
 人もポケモンも、頭や理屈だけで動くわけではない。心が、感情がある生命体なのだ。
 冷静であることは残酷でもあり、打算的であることは悪意に繋がりかねない。
 思考とは欺瞞である。考えを重ねた行動は、虚偽というメッキで塗り固められる。冷静に考えられた行動ほど、嘘が混入しているものだ。
 だからこそ、思考もなにもなく、感情のままに起こした行動は、その個人の“素”が表現される。それは知的生命体の本性とも言える。感情を曝け出して取った行動こそが、その個体の本当の姿だ。
 勿論、感情を曝け出すことが必ずしも良いこととは限らないし、思考を重ねることは悪いことではない。感情を抑制しなければ世界は混沌としてしまうし、冷静に思考するからこそ、正しく、そして効率的な結果を得られる。
 今の世界において重視されるのは、どちらかと言えば思考と効率、そして正しい結果を選び取る力だ。機関に所属してから、それは嫌というほど思い知った。そのために、感情を抑える方が良いという風潮すらできていることも、悟った。
 人が感情を爆発させるのは、本当に稀な時。そして、その人の真実の姿が見られる瞬間。
 彼は一人の少女のために、感情を曝け出し、行動に出た。
 即ち、それが彼の本当の姿。
 誰かのために、純粋な誠意を持って、動くことができる人間。
 逆に珍しいくらいいまっすぐだ。普段はおどおどしているというのに。
 だからこそ、評価したくなるし、好きになれる。
 弱さの裏に隠れた、彼の本当の強さを目の当たりにしてしまえば。
「……でも、私の評価と現実の危険は別問題だからね。ちょっと、予防線を張っておこうかな……フロルちゃん、ちょっと待っててね」
 一言そう言ってから、ルゥナは足早にその場を離れる。人気のないところに移動すると、P・ターミナルを起動し、素早くとある回線に繋ぐ。手続きが煩雑だ。緊急回線を使いたいところだが、私的利用は厳禁。機関に直接かかわる案件でないだけに、緊急回線は使えなかった。
 一通りのセキュリティを抜けて、ルゥナは繋がった先の相手に、告げる。
「——代表。ちょっと、相談したいことが……」
 まだ自分の中でもあまりまとまっていないが、とりあえず知りうる情報をすべて渡して、彼のことも伝える。幸い、頭だけは切れるし、回転も凄まじく速い相手だ。多少断片的でも、こちらの話した内容でほとんど理解したようだった。
 そのうえで用件を伝える。いくつかのやり取りを交わした。
「はい……え? この近くに? はい。じゃあ、連絡先を—」



あとがき。ちょっと終わり方が中途半端ですが、とにかく窃盗騒動。やっぱりシナリオは変わってないんですけど、リメイク前ならここでもうグリモワールの潜伏場所に突っ込んでいますからね。リメイク版で、ルゥナの情報が追加された程度です。ただ、個人的にはこれで整合性のある展開になったかなと思います。では次回、グリモワール戦……になるはずです。お楽しみに。

第35話 盗人猛々 ( No.67 )
日時: 2017/01/22 06:21
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ルゥナから教えられた、グリモワールの潜伏場所と思しき場所。それは街の中ではなく、街の端。それも、複数個所存在する場所——波止場だ。
 サミダレタウンは街の端にいくつもの港が存在しており、会場の近くにもある。
 ルゥナが割り出したグリモワールの潜伏場所、七番ポート。
 少々入り組んだ街の中を駆け抜け、フィアは主に貨物船が停泊する七番ポートまで辿りつく。するとそこには、案の定、グリモワールと思しき制服を着た者たちが何人かいた。
「やっぱりグリモワール……!」
 ルゥナの言う通りだ。
 数は多くない。外から目立たないようになのか、船から降りてくる気配もなかった。
 とうなると、やはり乗り込むしかない。ルゥナからは危険だと言われたが、
「ブースター、出て来て」
 ここまで来て、たたらを踏むわけにはいかない。
 ブースターを出して、二人で船へと続く渡し橋へと疾駆する。
「! 侵入者だ!」
 橋に近づいたことで、気づかれてしまった。しかし関係ない。
 そのまま突っ込む。
「船に入れるな! 出て来いバニプッチ!」
「クヌギダマ!」
「ズバット!」

『Information
 バニプッチ 新雪ポケモン
 朝日を浴びた氷柱から生まれた
 と言われるポケモン。口から吐く
 吐息はマイナス50度にも及ぶ。』

『Information
 クヌギダマ 蓑虫ポケモン
 木の枝にぶら下がって餌が来るのを
 待つ。木の皮を重ねすぎて身体が
 重いため、なかなか餌にありつけない。』

『Information
 ズバット 蝙蝠ポケモン
 目は完全に退化しており、なにも
 見えない。口から出す超音波で、
 周囲の様子を探って行動する。』

 下っ端らしき者どもは、フィアたちを近づかせないよう、それぞれポケモンを繰り出すが、
「ブースター! ニトロチャージ!」
 繰り出されたポケモンは、下っ端諸共ブースターのニトロチャージでまとめて吹っ飛ばされた。
 ブースターがこじ開けた突破口。フィアも一緒に駆け抜けて、船へと乗り込む。
 侵入者たるフィアの存在には既に気づいている。下っ端たちは皆、ボールを構えてこちらを警戒していた。
 そのうちの一人が、声を荒げる。
「なんだお前は! なにしに来た!」
「フロルの……盗んだポケモンはどこだ!」
 フィアも負けじと怒声を放つ。
 その勢いに尻込みしたように後ずさる者もいるが、侵入者を排除することも、彼らの役目。下っ端たちは再びポケモンを繰り出してくる。
「出て来い、グライガー!」
「お前もだ、ウリムー!」
「サイホーン、侵入者をぶちのめせ!」

『Information
 グライガー 飛び蠍ポケモン
 不意を突いて顔面に飛びつく。
 獲物が驚いている隙に毒針を
 突き刺すが毒素はあまり強くない。』

『Information
 ウリムー 猪豚ポケモン
 非常に嗅覚が優れているポケモン。
 分厚い氷の下に埋もれたキノコや、
 温泉までも探し当ててしまう。』

『Information
 サイホーン 棘々ポケモン
 頭が非常に悪いと言われているが
 ある地方では調教してレースをする
 ため、その考えも見直されている。』

「数が多い……ミズゴロウ、君も戦ってくれ」
 フィアはミズゴロウも同時に出して応戦する。相手は三体だ。こちらが二体を使っても悪くないはず。
「グライガー! メタルクロー!」
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 鋏を硬化させて突っ込むグライガーに、ミズゴロウが水鉄砲を浴びせて押し戻すす。
「角で突くだ!」
「右から来るよ、ブースター! アイアンテール!」
 角を突き出して突っ込んでくるサイホーンに、今度はブースターがアイアンテールで迎え撃ち、吹っ飛ばす。
「ウリムー、突進!」
「火炎放射!」
 突進してくるウリムーには、そのまま炎を放ち、丸焼きにする。
 繰り出される下っ端のポケモンを次々と薙ぎ払っていくフィア。
 多勢に無勢。取り囲んで一網打尽にするはずが、一人のトレーナーと二体のポケモンに押されている下っ端たち。
 彼らの表情には、どんどん余裕がなくなっていく。
「な、なんなんだこいつ。わけわかんねぇし、強いぞ……!」
「なぁ、これはマモン様を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだな……ここは七罪人に任せるが得策だ」
 口々にそんなことを囁き合う下っ端たち。
 その時、船の奥から誰かが出て来た。
「んー……なんだよなんだよ、騒がしいなぁ。昼寝くらいゆっくりさせろってんだ」
「! マ、マモン様!」
 マモンと呼ばれたのは、若い女だ。二十歳を超えているかどうかというくらいだろう。
 背は高めで、後ろ髪が跳ねた黒いショートカット。作業服のような格好をしており、両手には軍手。上着は腰に巻き、腰の辺りでカットした長袖のTシャツを着ている。
 なにより目につくのは、グリモワールのシンボルマークを象ったワッペンを付けていることだ。
 この下っ端とは明らかに違う意匠、雰囲気。
 この人物が、ルゥナの言っていた、幹部クラスのグリモワール、なのだろうか。
「なんだよ、侵入者? まった面倒なの出て来たなー」
 ガシガシと後ろ髪を掻くマモン。本当に、面倒くさいと言いたげな仕草だ。
 目元を擦って大きく欠伸をすると、マモンはフィアに向き直る。
「で、お前なにしに来たの?」
「盗んだポケモンを……フロルのポケモンを返せ」
 率直過ぎるマモンの言葉に、フィアもストレートに要求を突き付ける。
 マモンはフィアの言葉の意味を考えるように少し悩んだが、やがて思い出したように手を叩き。
「あー、フロルってあの子か。なんかトーナメント表に名前あったな。可愛かったなー、あの子。なんか貧相なカッコしてたし、本人を持ち帰ってアスと着せ替え人形にして遊ぼうかと思ってたけど、作戦中だし、流石にそれは自重して、ポケモンを貰ったんだった。あんまり隙だらけだったから、ついついスっちゃったぜぃ」
 と言いつつ、マモンは作業着のポケットから、いくつかのボールを取り出す。
「ほら、これじゃね? 一個か二個だけスる予定だったんだが、全部盗られるのは、流石に無防備すぎるよなぁ。女の子としても心配しちゃうね」
「……!」
 マモンは取り出したボールを、近くの積み荷の上に置いた。
「あれが、フロルのポケモン……!」
「ま、スったのはあの子だけじゃねーけど」
 マモンは、作業着の内側からなにかを落とす。コン、コンコン、といくつものボールが甲板の上に転がった。
「そのボールは……! ってことは、やっぱり大会中にポケモンを盗んでいたのは……」
「あたしだなぁ。潜れないあたしは見張り役だったんだが、流石に暇で暇でしゃーなくてなぁ。暇潰しに観光がてら、いろいろスったわ」
 それに、とマモンは続ける。
「頭数を増やしてもポケモンが足りねーのさ、うちはよ。あたしゃサタと違って、他人のモンぶんどって力にすんのには賛成なのさ。ま、それで強くなれるかは知らんがね」
 頭数、というのはイオンの言っていた、刑務所から解放した犯罪者たちのことだろう。
 犯罪者を解放して組織に取り込んでいるという話も、本当だったのだと、フィアはこの時に確信する。
「あー、ちーっと喋りすぎちまったかも。お喋りなのがいけねぇなぁ、あたしは。ま、それもこれも、すべては暇なんが悪い」
「なんでもいいよ。盗んだポケモンを返してくれ!」
「はんっ、泥棒が返せと言われてほいほいものを返したりするかよ。返して欲しけりゃ——」
 などと、盗人猛々しく自らを泥棒と称しながら、マモンは作業着のポケットからボールを一つ取り出し、

「——力づくで奪い返してみろ!」

 それを、投げ放った。



あとがきです。今回は主に下っ端戦。そして、グリモワール幹部、マモンの登場です。まあ正確には幹部という呼称は、意味としても正しくないのですが、グリモワール内で特別な地位にあることだけは確かです。ちなみに下っ端の使用ポケモンがばらばらなのは、その辺から奪ってきたポケモンを雑に分配しているから、という設定です。なので下っ端の強さもまちまちですが、トレーナーとしての技量が追いついていないので、基本的には弱いです。この辺は作中でふれたとおりですね。しかしマモン、盗人猛々しいという言葉を体現したような性格に、レズっぽさまで出してしまって、何キャラにしたいのかわからないですね。昔の自分の考えが分かりません。では次回、マモン戦ですね。ウソドロがいなくなった彼女の手持ちはどうなってしまうのか。お楽しみに。

第36話 強欲罪人 ( No.68 )
日時: 2017/01/22 13:23
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「レパルダス、参上!」

『Information
 レパルダス 冷酷ポケモン
 神出鬼没で不意に現れるポケモン。
 美しい毛並とスタイルで惑わし、
 その隙に相手の持ち物を掠め取る。』

 マモンが繰り出すのは、紫と黄色の体毛を持つ、豹のようなポケモン。
 猫っぽさもあるが、しなやかな身体に浮かぶ模様は豹柄に近いように感じた。
 そしてなにより、図鑑の説明文だ。
「ポケモンまで泥棒……グリモワールは泥棒しかすることがないの?」
「んなこたないに決まってら。つってもあたしや、あたしのポケモンは人モン奪うのが生き甲斐だけどな。なんせ——」
 シュッと右手の軍手を外し、マモンはその掌を見せつける。
 それは異形だった。
 まず、色がおかしい。毒々しい暗い緑色。遠目から見るだけでもわかるほど、異常な質感。女性どころか、人間としてもおかしい、ゴツゴツした肌。
 まるでこの世ならざるものが憑りついているかの如く、彼女の掌は異質であった。
 この異様なものを見せられ、フィアも息を飲む。
 しかし彼女は気にする風もなく、声高に宣言した。
「——あたしは強欲の七罪人だかんな」
「……七罪人?」
 先ほど下っ端たちも言っていたが、それがグリモワールの幹部に対する呼称なのだろうか。
「ていうことは、この前のサタンっていう人も、七罪人……?」
 何気なくフィアが呟くと、マモンは軍手を嵌めつつ耳聡く反応した。
「あ? サタ? お前、サタに会ったのか?」
 急に不審な、というより怒りが混じったような表情を見せる。
「あいつ、まった報告サボったな。ったく、ひっでぇ態度だぜ。大将はなんであんな奴を野放しにしてんだか……」
 しかも愚痴のようなことまで言い出した。よく分からないが、あのサタンという男とこのマモンという女は、あまり仲が良くないようだ。
「——ま、こんなことをここで言っててもしゃーねぇ。とっとと始めっぞ」
「……戻って、ブースター」
 マモンが好戦的な眼差しを向ける中、フィアはブースターをボールに戻し、腰のベルトに直す。そして、
「ミズゴロウ、頼んだよ!」
 ミズゴロウで戦うことを選択した。
「ミズゴロウ、水鉄砲!」
「躱せ、レパルダス」
 先手必勝。先んじてミズゴロウは水鉄砲を放つが、スッと、半身になって、レパルダスは水鉄砲を回避する。非常に無駄の少ない動きだ。
「はんっ、あたしに向かって水鉄砲程度の技なんて、舐めてんのか? そんな技、盗む価値もねー。速攻で決めてやる、レパルダス!」
 マモンの声と共にレパルダスは素早い動きで駆け出し、ミズゴロウの脇を通り過ぎていく。
「わっ!」
 そしてフィアのすぐ側も過ぎ去り、フィアの背後でカーブ。またミズゴロウの側を過ぎようとするその時、
「辻斬り!」
 鋭い爪を振り、通り過ぎる間際にミズゴロウを切り裂いた。
「ミズゴロウ!」
 レパルダスはシュタッとマモンの足元に戻ってくる。
 そして、その一撃でミズゴロウは戦闘不能になっていた。
「そ、そんな……!」
 フィアの足元まで転がってきたミズゴロウをボールに戻し、フィアは歯噛みする。
「打たれ強いミズゴロウが、一撃で……」
「ま、とーぜんだわな。辻斬りは急所を狙う技だ。いくら防御が高くても、ダメージが跳ね上がる急所を攻撃されたらひとたまりもねーよ。ま、それ以前に——」
 手に持っているボールを、お手玉のようにポンポンと放りながら、マモンは一言、告げる。

「——それがお前とあたしの実力差、ってことだ」

「ぐ……っ!」
 この前であったサタンという人物も強者のオーラのようなものを発していたが、このマモンという女も十分強い。グリモワールの幹部は皆このように強いのだろうか。
 ともあれ、ミズゴロウは戦闘不能だ。フィアは致し方なく、ブースターの入ったボールを手に取ろうとするが、
「……? あれ?」
 ボールをセットしてあるベルトに手を伸ばしても、空振りする。何にも触れなかった。
「ボールが、ない……!?」
 まさかこんな大事な時に落としたのかと思ったが、それはまずない。ブースターを戻したのはマモンと戦う直前。その後フィアは大きな動きを見せていないので、ボールが落ちるようなことはないはずだ。
 そう思っていたら、マモンはさっきまでお手玉していたモンスターボールを掲げた。
「ひょっとして、お探しものはこれか?」
「っ……それって、僕のボール!?」
 さっきは気にしなかったが、注視すれば一目で分かる。それは、フィアのボールだ。マモンはそのボールを近くの積み荷に置きつつ、
「隙だらけ過ぎるっつーの。あたしはただの泥棒じゃないんだぞ? 強盗だって怪盗だって、スリだってする。勿論、レパルダスもな」
 つまり、さっきレパルダスがミズゴロウを倒した辻斬り。本来なら通り間際に引き裂くだけでいいはずなのに、わざわざ大きく回って後ろから斬りつけたのは、フィアのボールを奪うためだったようだ。
「言ったろ? 速攻で決めるってな。お前もうポケモン持ってねーだろ」
「あ、う……」
 まさかポケモンを奪うなんて方法でこちらの動きを封じるだなんて思いもしなかった。しかもこれはポケモンを人質に取られたようなもの。フィアも迂闊に動けないし、どちらにせよ戦力がなくては動く意味もない。
 圧倒的な実力差に加え、卑怯汚いなどという言葉を鼻で笑う番外戦術。
 ふと、砂礫の穴で出会ったグリモワール、サタンの言葉が思い浮かぶ。

 ——この馬鹿どもが馬鹿なことしたのを見てここまで来たんだろうが、場合が場合ならそれは無謀ってもんだ——

 ——他の連中が相手なら、無事じゃ済まねえだろうよ——

 自分のやったことは、無謀だったのだろうか。
 一人でこんなところに来て、なにもできずに負ける。
 自分はここに、来るべきではなかったのか。
「さーて、リヴが戻ってくるまでもうちっとだし、いたいけな少年ひん剥いて小銭でも稼ぐかな。追剥やるのは久しぶりだ」
 ポキポキと指を鳴らし、口元に嫌らしい笑みを浮かべるマモン。発言の内容からしても窮地に陥ってしまったフィア。
 だが、幸運というのは、訪れるべくして訪れるものだ。

 突如、海から大波が押し寄せ、レパルダスを飲み込んだ。

「んだぁ!?」
 いきなりの攻撃に声を荒げるマモン。フィアもキョトンとしている。
 波が引くと、まだ戦闘不能ではないレパルダスが起き上がる。そして、波が押し寄せたのとは逆方向——即ち波止場から船へと上がってくる者が、一人。
「大人が子供相手にそんな真似して、恥ずかしくないのかな。いや、恥を恥とも思わないのかもしれないけど」
 振り返ると、そこにいたのは一人の女性——いや、少女と言ってもいいかもしれない。
 まだ幼さが残る顔立ちをしているが、歳はフィアよりも少し上くらいだろうか。鮮やかなピンク色の髪を低い位置で長いツインテールにしている。
 服装は、セーラー服に似た白いブラウス。青いプリーツスカートと、学校の制服を思わせる意匠。
「案ずることはないよ、君。『勇敢と蛮勇は違う、されど蛮勇も勇気の一片であり、立ち向かうことに意義があるのだ』——私の師匠が綴った言葉だよ。君の行いは、正しい。でも——」
 スッと隣に立つポケモンを撫でながら、彼女は言った。

「——流石にちょっと見かねる光景だから、横入り、させてもらいますね」



あとがきですね。フィアとマモンのバトル。大筋はやっぱり変えてませんけど、リメイク前のマモンのポケモンはザ・泥棒ポケモンのウソドロでしたが、ベガポケなので今回は使えず、代わりにレパルダスを使わせています。レパルダスは確か、公式で明確な泥棒設定はなかった気がしますが、なんか泥棒しそうに見えるんですよね。あと、七罪人の証明である焼印も、変えましたね。より異質に、よりグロテスクに、おどろおどろしくしましたが、これにはこれでちゃんと意味があります。しかし最近思いますが、こういうのなかなか楽しいですね。リメイクすることになったのは自分の落ち度で、責任なので、こういうとリメイク前に読んでくださっていた方々に申し訳ないですが……なんというか、リメイクの楽しさを感じています。リメイク前よりも、あるシーンはよりボリューミーにしたり、ある設定を変更したり、大筋を変えないことが多いですが、細かいシーンの描写を増やしたり、設定を変えたり、ポケモンや技を変えたり、リメイク前との相違点を比較しながら見ていると、面白く感じます。リメイク作品を作る時の感覚って、こんな感じなんでしょうかね。本当ならリメイク前の作品も貼り付けたいくらいですが、そもそも完結できていないい上に、今の自分はURLを貼り付けられない状態にあり、しかも一応ネタバレになってしまうのですよね。タイトルはそのままで過去ログ(紙ほか板)にあるので、興味のある方だけ閲覧してもらうことにしましょう、今のうちは。本当なら今話は前話と繋げて投稿するはずだったので、あとがきをかなりボリュームアップさせたところで、次回。七罪人マモンに追い詰められるフィアを助けた、謎の美少女の正体が明らかに……自分で言うのもなんですが、謎の美少女ってあまりに月並みですね。ともあれお楽しみに。

第37話 借受海獣 ( No.69 )
日時: 2017/01/22 15:58
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 突然この場に現れた少女。
 まだ幼さが残る顔立ちをしているが、歳はフィアよりも少し上くらいだろうか。鮮やかなピンク色の髪を低い位置で括り、長いツインテールにしている。
 服装は、セーラー服に似た白いブラウス。同色のプリーツスカートと、学校の制服を思わせる意匠。
 少女はゆっくりとフィアの隣まで歩む。
 同時に、角にピンク色の花を咲かせた鹿のようなポケモンも歩を進める。さっきレパルダスを攻撃したのは、このポケモンだろうか。
 そう思いつつ、フィアは図鑑を開くが、

『no information』

「……? 情報がない?」
 砂嵐を背景にそんな一文が表示されるだけで、このポケモンに関する情報が一切開示されない。
「このポケモンは季節ポケモン、メブキジカ。四季の存在する地方にだけ生息するポケモン」
 フィアが首を傾げていると、少女が端的にそう教えてくれた。
「あの、あなたは……?」
 礼より先に、フィアからはそんな言葉が飛び出す。味方のようだが、素性が分からなくては不安だ。
 そんなフィアの心情を察したのか、少女は嫌な顔一つせず名乗りを上げた。
「私はミキだよ。わけあってホッポウ地方を旅してます。君は?」
「フィアです……」
「フィア君だね。うん、覚えました」
 少女——ミキはフィアの名前を復唱し、視線を動かす。その先にいるのは、マモンだ。
 穏やかで明るい眼差しが、キッと鋭くなる。
「さて、それじゃあここからは、彼に代わって私が戦うよ。覚悟はいいかな?」
「うーん……あんま可愛い女の子を泣かせたくはないんだけどな。ま、しゃーねーってことで」
 ミキのメブキジカとマモンのレパルダスも構え、火花を散らしている。互いにしばらく睨みを合いを続け、
「レパルダス、辻斬り!」
「メブキジカ、ウッドホーン!」
 共に駆け出す。
 レパルダスの爪とメブキジカの角が交錯し、互いに傷を負わせる。
「自然の力!」
 振り返り、メブキジカは大きく声を上げる。すると海に波が立ち、その波はどんどん巨大化し、大波となってレパルダスに襲い掛かる。
「やっぱりさっきの波は自然の力か! レパルダス、ジャンプ!」
 レパルダスは一息で空高くジャンプし、凄まじい跳躍力で大波を回避する。さらに、
「猫の手!」
 前足を掲げると、その手が光り始める。
「! まずいかも……飛び蹴り!」
 メブキジカも跳躍し、強烈な前蹴りを繰り出そうとするが、レパルダスの手から渦状の炎が放たれ、メブキジカを飲み込んだ。
「メブキジカ!」
「やりぃ! マジカルフレイムだ!」
 ガッツポーズを決めているマモン。
 図鑑で調べると、猫の手は味方の技をランダムで使用する技のようだ。見たところ今のは炎タイプの技。マモンは炎タイプも持っているようだ。
「んじゃ、今のうちに厄介なモンは奪っちまおうか! レパルダス、泥棒!」
「っ!」
 弱点を突かれて転げるメブキジカに、レパルダスは急接近。鋭い爪で掠め取るような一撃を見舞う。
「くぅ、メブキジカ、ウッドホーン!」
「うぉっ! 下がれ!」
 メブキジカは角を思い切り突き上げ、レパルダスを引き剥がす。
 レパルダスはギリギリのところで後ろに跳躍し、その攻撃を回避した。
「ちぃっとヒヤッとしたな。レパルダス、アイアンテール!」
「メブキジカ、飛び蹴り!」
 レパルダスが、尻尾を鋼鉄のように硬化させて飛び掛かる。
 一方、メブキジカも跳躍して、強烈な前蹴りを放つはずだが、
「! メブキジカ!」
 メブキジカの攻撃が繰り出される前に、レパルダスのアイアンテールが脳天に直撃。メブキジカはよろめいてしまう。
 しかし、今のメブキジカの動きは、少しおかしい。
「なに、今の……技が出せなかった……?」
「考えてる暇はやらねーかんな! 辻斬り!」
「っ、ウッドホーン!」
 レパルダスの爪と、メブキジカの角が、鍔迫り合いのようにせめぎ合う。
 単純なパワー勝負ならメブキジカに分があるが、メブキジカは俊敏なレパルダスに翻弄されている。
 素早い動き。ランダムに技が放たれる猫の手。繰り出せない飛び蹴り。
 なにか異常な力を感じつつも、確実にこの場では、メブキジカが劣勢だった。
「どうしよう、このまま見てるだけなんて……」
 そんな中、戦えないフィアはそう呟く。
(そう言えば、前もこんなことあったっけ)
 それはこの世界に来る前、闇に閉ざされた遺跡で青年が黒い渦から出て来たポケモンと戦っている時だった。
 あの時も、自分の未熟さと無知ゆえに、ポケモンを傷つけてしまった。しかし、今は違う。
(そうだ、今は……こんな時だからこそ、力を借りるしかない)
 思い出したフィアは、鞄の中から一つのボールを取り出す。
「ごめんなさい、あなたのポケモンの力、少しだけ貸してください……!」
 どこにいるかも分からぬ彼にそう断ってから、フィアは手にしたボールを放る。

「力を貸して、ダイケンキ!」

 現れたのは、一体の海獣。法螺貝のような立派な角に、屈強な青い肢体。蓄えた白髭と、非常に貫禄のあるポケモンだ。

『Information
 ダイケンキ 貫禄ポケモン
 鎧に仕込まれたアシガタナで
 敵を切り裂く。刀を抜いて戻す
 居合の動作は、視認すら難しい。』

「っ、今度はなんだ!?」
「! 師匠……?」
 また声を荒げるマモンと、呆然とダイケンキを見据えるミキ。そんな二人のことなど気にも留めず、フィアとダイケンキは二人の戦いに斬り込んでいく。
「ダイケンキ、シェルブレード!」
 ダイケンキは前足の鎧から仕込み刀——アシガタナを抜刀し、その巨躯からは考えられないスピードでレパルダスに斬りかかる。
 レパルダスもダイケンキの登場に驚いていたのか、その場から動かず、なすがままにシェルブレードを喰らい、返す刀でさらに切り裂かれ、その場に倒れ込む。
「なっ……レパルダス!」
 メブキジカの攻撃を受けたとはいえ、レパルダスがたった二回の攻撃で戦闘不能になった事に対し驚愕するマモン。いや、それだけではない。
「なんなんだよ、あのガキとダイケンキは……! あんな奴が、あれほどのダイケンキを使いこなせるわけがねーだろうが……!」
 俗に言う、レベルが高いポケモンは、ある程度の強さを持ったトレーナーでないと命令を聞かないものだ。トレーナーの強さの目安はジムバッジなのだが、フィアの持つバッジは現在一つ。ウソドロをシェルブレード二回で倒すようなダイケンキに命令して、素直に聞き入れてもらえるほどの力はないはず。マモンはそう思っており、実際にはその通りだ。
「なんだよ、なんなんだよ、あのダイケンキ……あっちの女の子も怖いし、こりゃまずいわ。どうすっか……」
 追い詰められ、弱ったような表情を見せるマモン。順当に行けば、このままフィアたちの勝利だ。
 だが幸運とは平等なもの。フィアにミキという幸運が訪れたように、マモンにも、幸運が訪れた。

「マモ……何してるの……?」

 どこからか声が聞こえる。しかし辺りを見回しても、それらしい人影はない。
 だがマモンだけはその声の主がどこにいるのか分かったようで、甲板の手すりに乗り出した。
「おぉ、リヴ! 良いとこに来てくれた!」
 などと歓喜の声を上げながら、マモンは手すりを越えて海へとダイブした。その行動に目を見開くフィアとミキも、手すりから目下の海面を見下ろす。
 するとそこには、マモンと、一人の少女。
 全く手入れをしていないような痛んだ黒髪で、片目が隠れるほど左右非対称に前髪が伸びている。服装は傷だらけのグリモワールの制服をエプロンドレス——いわゆるメイド服のように改造しているが、俗に言うコスプレなどのために見栄えをよくしたものではなく、もっと質素で地味な機能性を重視した服装に見える。
 さらにその下。マモンと少女を乗せている一匹のポケモン。長魚のような姿をしており、一言で言えば非常に美しいポケモンだ。

『Information
 ミロカロス 慈しみポケモン
 世界で最も美しいと言われている
 ポケモン。荒んだ心を癒す波動を
 放ち、争いを収める力があるらしい。』

「いやー、助かったー。あいつらマジでやべーって」
「……?」
 リヴと呼ばれた少女は首を傾げるだけで、状況がまだ飲み込めていないようだ。しかしマモンは構わず、
「とにかくサッサと逃げんぞ。戻って来たってことは、終わったんだろ?」
 少女は静かにコクリと頷く。そしてミロカロスに何か囁くと、次の瞬間、ミロカロスは薄い泡のような膜に包まれた。
「んじゃ、ここはとんずらさせてもらう。ポケモンはそのへんに置いてあっから、好きに持って帰んな」
 マモンは最後にそう言い残し、少女、ミロカロスと共に海へと沈んでいってしまった。
「っ、待て——」
「待つのは君だよ」
 フィアが身を乗り出そうとするのを、ミキは手で制した。
「あれはダイビングっていう、潜水する技。もう追いかけられない。それに、君の目的は別のものでしょ?」
 言われてフィアは思い出した。確かに、自分の最初の目的はフロルのポケモンを取り返すことだ。頭に血が上って忘れてしまっていた。
 フィアはさっきマモンがボールを置いた積荷へと走り、そこで自分のボール、そしてフロルのボールを手に取る。
「良かった……!」
 安堵の溜息を吐くフィア。ミキは辺りを見回しつつ、フィアに歩み寄って来る。
「下っ端たちはいつの間にか逃げちゃったか」
「他の人のボールは、どうしよう……」
「じゃあ、それは責任を持って私が請け負います……ところでフィア君?」
「はい、なんですか?」
 ミキが少し不安そうな、焦ったような空気を醸し出しながら訪ねてくる。
 そして、その質問の内容は、フィアにとっても重大なことだった。

「確認なんだけど……君、サミダレ大会の準決勝がありません?」

「……あ」
 こちらも、完全に忘れていた。
 フィアは慌ててP・ターミナルを取り出し、現在の時間を確認する。するとフィアの顔は真っ青になっていく。
「しまった……!」
 決勝戦が始まるまでの残り時間は、三分を切っていた。



あとがき。正直、リメイクなので本当にほとんど手を入れていないところは、なにも言うことないんですよね……今回はもう一人のグリモワール幹部、リヴが登場ですね。ゆってこれは本名ではなく愛称なんですけど。リヴも、マモンのことをマモと呼んだり、サタンをサタと呼んだり、グリモワール七罪人のほとんどは、お互いを頭二文字の愛称で呼び合っています。あ、そういえばミキの口調をちょっと変えましたね。違和感のない程度に。語るのはそれくらいでしょうか……では次回もお楽しみに。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



この掲示板は過去ログ化されています。