二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ポケットモンスター 七つの星と罪【リメイク版】
日時: 2017/01/26 02:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 どうも、初めましての人は初めまして、白黒です。
 知っている人はしっているかもしれませんが、過去に同じ作品を投稿していたことがあります。その時は、読者の方々にはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
 諸事情あって、一度は更新を止めてしまっていましたが、色々思うところがあり、また更新を再開……というか、リメイク。書き直したいと思います。
 また、大変申し訳ありませんが、リメイクにあたって募集したオリキャラは一度リセットさせていただきます。ただ、またオリキャラ募集をする予定です。詳細はその時にまた説明します。
 以前までのような更新速度は保てないと思いますが、どうかよろしくお願いします。

 基本的にはリメイク前と同じシナリオ、キャラクター、設定で進める予定ですが、少し変更点があります。
 前提となる変更点としては、非公式ポケモンと、非公式技の廃止。そして、第六世代、第七世代のポケモン、システムの導入です。基本的なシステム、タイプ相性などは最新の第七世代準拠とします。
 なお本作品内では、ポケモンバトルにおいて超常的な現象が起きます。また、覚えられる技の設定がゲームと少し違います。その設定に関しては、従来通りのままにするつもりです。

 ちなみに、カキコ内でモノクロという名前を見つけたら、それはこのスレの白黒とほぼ同一人物と思っていいです。気軽にお声かけください。

 それでは、白黒の物語が再び始まります——



目次

プロローグ
>>1
序章
[転移する世界] ——■■■■■——
>>2 >>3

シコタン島編
[異世界の旅立] ——ハルビタウン——
>>4 >>5 >>6
[劇場型戦闘] ——シュンセイシティ——
>>7 >>8 >>9 >>10 >>11 >>17 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25
[罪の足音] ——砂礫の穴——
>>26 >>27 >>28 
[バトル大会Ⅰ] ——ハルサメタウン——
>>29 >>30 >>31
[特質TSA] ——連絡船ハルサメ号——
>>34 >>35 >>36

クナシル島
[バトル大会Ⅱ]——サミダレタウン——
>>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>74 >>75 >>76


登場人物目録
>>32

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19



14話 曖昧模糊 ( No.20 )
日時: 2017/01/06 14:45
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 それは、フィアとフロルが旅立った日のことだった。
「はー、はー……つ、疲れたし、緊張する……ポケモンバトルって、結構、大変なんだね……!」
 シュンセイシティに向かう途中の道路。道中には野生のポケモンも出現するそこで、フィアはポケモントレーナーとしての経験を積むため、野生のポケモンとバトルをしていた。
 ここまでで四、五戦ほど。野生のポケモンはあまり強くなく、途中で逃げられたりもしたが、今のところ負けはない。案外、彼はトレーナーとしての筋はいいのかもしれない。
 ここまで連戦で、流石に体力がもたないので、少し休憩することにした。フロル息を切らしたフィアに、水筒の水を渡す。
「おつかれ、フィア」
「ありがとう……フロルは、ずっとこういうことしてたの?」
「こういうこと?」
「ポケモンバトルだよ。こっちの世界だと、ポケモンどうしを戦わせるのって、普通のことみたいだけど……」
「うーん……どうかな」
「どうかなって……」
 小首を傾げるフロル。なぜそこで疑問なのかと、フィアの方が疑問を感じる。
 戸惑うフィアの隣に、フロルは隣に腰掛け、さらに言葉を紡ぐ。
「ポケモンを戦わせない人も、たくさんいるよ。わたしのお母さんとお父さんは、結婚してからバトルしなくなったみたいだし、向かいに住んでるおばさんもバトルはしたことないって言ってた」
「えっと、じゃあフロルはどうなの?」
「わたしは……よくわかんない」
 わからない。
 それが、今のフロルが出した答えだった。
「わたしが10歳になったとき、イーくんはわたしにポケモンをくれたの。わたしのはじめてのポケモン。もらったときは、すっごいうれしかった。ずっといっしょに遊んでいたいって、思ってたんだけど」
「けど?」
「イーくんは、バトルして進化させてみろって言ったよ。イーくんがつきっきり、バトルのことを教えてくれて……一ヶ月くらい前に、ようやく進化したんだ」
 それが、フロルにとっての初めてのバトルで、フロルの経験したポケモンバトルのすべてだった。
「ポケモンといっしょにいるだけで楽しいし、いっしょに遊んだり、ごはん食べたり、寝たりするのも楽しい。バトルするのも、わたしはいいことだと思ってる」
 だけど、とフロルは続けた。
「わたしにとっての“一番”がどれなのかは、まだよくわかんない。バトルだって、イーくんに教えてもらってたときにしかやってないし」
「だから、よくわからない、か」
「うん」
 ずっとやっていた、というほど積極的ではない。
 かといって、ポケモンが傷つくのが嫌だとか、ポケモンバトルなんて野蛮だとか、そんな否定的な考えもない。
 ただ、不明なだけ。
 自分にとってポケモンバトルがどの位置にあるのか。なにがどれくらいの割合を占めているのか。
 なにが、自分にとって最も大事なことなのか。
「どこに比重を置けばいいのかわからない、ってことなのかな……」
 それは、フロルの様子を見る限り、それほど深刻な問題というほどでもないのだろう。
 彼女の中にしかない、彼女だけが持っている、彼女の小さな悩み。
 そこは、真っ暗ではない。もやもやとした曖昧模糊なくらやみが広がっている。
「イーくんがわたしに新しいポケモンをくれたのも、わたしに旅に出るよう言ったのも、たぶん、もっといろんなことを知った方がいいから、だと思う…………もっといろんなポケモンといっしょに旅すれば、わたしにとっての大切なことも、見つかるかもしれない、って」
 フロルが求めるものも、厳密には強さではない。見聞だ。
 世界を、そして自分を知るために。
 強さはその過程でしかない。
「でも、やっぱり強くならないと、先には進めないよね……イーくんも言ってた。強くなるからこそ、自分と向き合えるんだって」
 そう言ってフロルはボールを出す。スイッチを押して出て来たのは、アチャモ。
 フィアと共に、研究所で博士から貰ったポケモンだ。
「わたしの二匹目のポケモン。それに、はじめての旅でもらったポケモン。この子も、特別」
「僕のミズゴロウと同じだね」
 どちらも、旅立ちに際して博士から貰ったポケモン。
 厳密には、フィアはフロルとでは少々事情が違うのだが。
「ポケモンの数だけ強くなれる……これもイーくんが言ってた。わたしがわたしを知るために、わたしもこの子たちと、強くならなくちゃ」
 彼女の眼には、柔らかな意志の芽吹きがある。
 強固な意志ではない。しかし、その柔らかさこそが、彼女の本質……なのかもしれない。
 フロルと出会って、まだ二日。彼女のことも、フィアにはよくわからなかった。
 ふとフィアは、アチャモに視線を向ける。よちよちと、どこか頼りない足取りで歩いており、時折、口から火の粉をぽふぽふと吹いている。
「……? なんか、アチャモの様子、変じゃない?」
 しかし、その火の粉の吹き方が、少しおかしい。
 フィアもこの道中で、フロルとアチャモのバトルを何度か見ている。なので、火の粉がどのような技かは大体わかっているが、これは今まで見た火の粉とは少し違う。
「技を出してるのかな? でも、これって火の粉じゃないよね?」
「……新しい技かも」
「新しい、技?」
「ポケモンは強くなると、新しい技を覚えることがあるって、イーくんは言ってた。ここまで、アチャモも何度かバトルしてるから、もしかしたら……」
 これは、その予兆かもしれない。
「でもこれ、なんの技?」
「んー……わかんない。でも、どこかでこんな感じの技を、見たことあるような——」



 アチャモ目掛けて、こちらに突撃してくるシシコ。
 奮い立てるで強化された頭突きの勢いは、火の粉では止められないだろう。もっと、大きな火力が必要だ。
「……アチャモ」
 やるしかない。
 自分の知らない世界へと踏み出すための一歩。ここを乗り切らなければ、その一歩も到達できない。
 まだ上手くいっていない。自分の考えも間違っているかもしれない。しかしそれでも、、一か八か。やってみるしかなかった。
 フロルは意を決して、アチャモに指示を出す。

「——焼き尽くす!」

 ゴォッ! と、アチャモ口から炎が放たれる。
 火の粉などとは比べ物にならない、れっきとした熱の塊だ。
 炎はすべてを焼き尽くさんばかりに解き放たれ、突っ込んでくるシシコも飲み込んだ。
「なに……っ? シシコ!」
 思いがけない火力の炎に、驚いて足を止めてしまうシシコ。しかし勢いは止められない。下手に足を止めたせいでつんのめってしまい、派手に転げた。
「今だよ! つつく!」
 その隙にアチャモは接近し、嘴でシシコをつつく。
 鋭い一撃に、今度はシシコが悲鳴を上げた。
「出せた……やっぱり、あの技だったんだ」
 焼き尽くす。あまりメジャーな技ではないが、一度だけ、テレビでやっていたポケモンバトルで見たことがある。
 挙動がそれっぽかったので、未完の時点ではそうかもしれないというだけの、あやふやな状態だったが、結果的にフロルの予想が当たっていた。
 ほんの少しだけ、世界が開けた気がする。
「なかなかいいタイミングの技だったぞ。不意打ちとしては申し分ない。火力も、シシコの火の粉を上回っている」
 焼き尽くすの元々の技の威力は、火の粉よりも高い。その差分が、火の粉のパワーを打ち破った。
 だが、とトウガキは続け。
 そしてそれは、技の指示へと繋がる。
「シシコ、奮い立てる!」
「!」
「忘れるな。奮い立てるは、強化の限界か、技の枯渇が訪れるまで、何度でも使用することができる。半永久的に、シシコは火力を上げ続けることができるのだ」
 それはつまり、焼き尽くすの火力があっても、奮い立てるで強化ができるシシコの火力を上回ることはできないということ。
「さぁ、バトルの続きを、始めるぞ」
「うぅ……」
 苦しい状況は打開されないまま。フロルとトウガキのバトルは続く。



あとがきの時間。フロルの回想回。咲という麻雀作品だと、自分の過去を回想したら、その直後に活躍してそれっきり勝てなくなるというジンクスがあり、俗にそれを回想権(または回想券)などと呼ばれていますが、この作品ではそんなことはありません。むしろこれは、先々への布石です。リメイク前は、あんまり各キャラの掘り下げ——特にフロルは設定的に最初からいるのに、あまり生かせていなかったので、ここでちょっと種をまいておきます。この種がいつ、どのように芽吹くかは、今後の展開次第です。フロルとトウガキさんのバトルは、フロルが劣勢のまま続きますが、ジム攻略においては動きます。次回もお楽しみに。

第15話 王子覚醒 ( No.21 )
日時: 2017/01/06 17:57
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「フロル、せっかくアチャモが新しい技を覚えたのに……!」
 二人のバトル。フロルのアチャモが焼き尽くすで、トウガキのシシコを圧倒したと思ったが、すぐに巻き返されてしまった。
「ま、仕方ないよねー。単純にもっと高火力の技を覚えてれば話は変わるけどさ、焼き尽くすは状況を選ぶ技だし」
「? どういうこと?」
 フィアが問うと、イオンは焼きつくという技について、説明してくれた。
「焼き尽くすはね、まず攻撃範囲が広いんだよ。一度にたくさんの相手を攻撃できるから、ダブル・トリプルバトルとか、群れで襲ってくる野生のポケモンには効果的な反面、こーゆートレーナーどうしのシングルバトルだと、微妙な技になっちゃうこともよくあるんだよねー」
 ダブル・トリプルバトルというのがどういうものかはよくわからないが、このジム戦で焼き尽くすという技が効果的でないことは理解できた。
「あと、追加効果ね。焼き尽くすは、相手の持ち物——木の実とか——を、文字通り焼き尽くす技。それはそれで強いんだけど、相手が木の実を持ってないと意味ないからねー」
「木の実……」
 焼き尽くすには、木の実などの一部の持ち物を焼く効果がある。
 それを聞き、ふと思いついた。
「……イオン君」
「ん? なーにー?」
「木の実ってさ、自然の中になってるものなんだよね?」
「まー、そうだねー。栽培してる人も多いけど、基本的には森とかに木の実のなる木があって、そこになってるよねー。それがどしたの?」
「いや、自然からの恩恵って、もしかして……!」
 バッと、フィアは振り返って視線を彷徨わせる。
 その先には、セットの木々。ただの舞台背景だと思っていたが、もしかすると——
「イオン君! ポケモンの状態に確か、眠り状態ってあったよね?」
「あるねー。眠らされるとまったく動けないから、困っちゃうよね」
「あと、ポケモンを回復させたり、状態異常を治す木の実もあるって」
「言った言った」
「じゃあ、眠りを治す木の実って、ある?」
 呑気に言葉を返していたイオンだが、流石にここで、フィアの言わんとしていることの意味を理解したようだ。
 へらへらとした笑顔をやめて、それなりに真面目な面持ちでフィアに向き合う。
「……もしかしてフィア君、木の実で王子様を目覚めさせる気?」
「あの森のセット、ただの背景とも思えないんだ……ただ、ポケモン用の木の実が、人間に効くかはわからないけど……」
「んー、や、効くかも。オレ、薬とかそーゆーのはよくわかんないけどさ、木の実の成分を抽出して、薬を作ることもあるって聞いたことがある。だから、もしかしたら効くかもしれないよ」
 少なくとも、試す価値はある。
 今はフロルがトウガキとのバトルで頑張っているのだ。自分たちが指をくわえてただ待っているだけというのは、具合が悪い。
 それに、制限時間も残り十分ほどだ。フロルがトウガキに勝てる保証もない。できる限り、可能性を広げておきたい。
(もしかして、バンガキの言ってた分岐ルートって、このこと……?)
 トウガキを倒して呪いを解く。もしくは、そのヒントを得る。
 しかし、トウガキを倒さずとも、目覚めさせる方法は他にもあるのかもしれない。また、その鍵を得るのに、必ずしもトウガキを倒すという過程を挟む必要もないのかもしれない。
 その一つのルートが、自分たちで眠気を覚ますもの——木の実を手に入れることだと、フィアは考えた。この考えが、シナリオを進めることのできるルートとなるかは、わからないが。
「鍵はあるから棺桶は開けられる。試してみよう! イオン君、眠り状態を治す木の実は?」
「カゴの実かラムの実だね。カゴの実は青いカサのついた木の実。青くて目立つし、そこそこデカいからすぐ見つかると思う。ラムの実は緑色で小さいから、すぐには見つからないかも」
「とりあえずどっちかを探してみよう」
 そうして、二人はセットの森へと入っていく。
 作りものかと思ったが、背は低いものの、どうやら本物の樹木のようだ。木の幹の質感、葉っぱの感触。どれも自然のものだ。
 やはりこれは、舞台背景ではなく、れっきとした舞台装置。このセットにも、存在する意味がある。
 そして、木にはいくつかの実がなっている。これがポケモン用の木の実なのだろう。
 二人は手分けして目的の木の実を探し、ガサゴソと漁る。そして、
「……ん、あった! カゴの実だ!」
 イオンが目的の木の実を見つけたようだ。
 彼の手には、青いカサの木の実が握られている。
「じゃあ、それを王子様に……」
 と、その時に。
 舞台手前。フロルとトウガキのバトルが視界に入る。
「シシコ、奮い立てる!」
「あぅ、これ以上強くなっちゃったら、耐えられないよ……」
 押されているアチャモ。苦しそうな表情のフロル。
「フロル……」
「……オレ、フロルちゃんとこ行くよ。あっちヤバそうだし」
「僕たちが参戦して、いいのかな……?」
「わっかんないけど、心配だし、一応ね。フィア君は王子様の方をよろしく!」
「あ……イオン君!」
 そう言って、イオンはフロルの下へと駆けていく。
 またしてもフィアは一人残されたが、今は棒立ちしている場合ではない。
 急いで棺桶まで駆け寄り、鍵穴に鍵を差し込む。そして、力を込めてぐるりと回す。
「開いた……!」
 ガチャリ、と手応えを感じた。そのまま観音開きの棺桶の蓋を開ける。
 トウガキが言っていたように、中には人がいた。この人物が王子——即ち、ジムリーダーだろう。
 王子とは言うからには男性なのだが、顔つきはどこか幼さを残しており、中性的だ。ピンク色の髪も相まって、フィアは一目見た時、女性と見間違えそうになった。
(でもよく考えたら、女性でも男の役はやるよね……)
 ジムリーダーの性別はともかく。
 なんにせよこの人物こそが王子役であることには変わりないはず。ならば、この人物を目覚めさせることが、ジム戦攻略の大きな一歩となる。
 フィアはイオンに渡されたカゴの実を握る。
「これ、食べさせればいいのかな……?」
 これが本来のシナリオ通りの動きなのかはわからないが、フロルやイオンがトウガキとのバトルにあたっている。なら自分は、自分が今できることをするしかない。
 フィアはカゴの実を、ゆっくりと王子の口元に近づける。反応はない。失礼を承知で、唇に触れさせてみると、ピクッ、と動いた。
「……ごめんなさい」
 先に謝りつつ、少しだけ力を込めて、木の実を捻じ込むように王子の口の中に入れると、カリッ、と小さく木の実をかじる音が聞こえた。
 その瞬間だ。
 パチッと、王子の目が見開く。
「んー……ふわぁ……あぁ、よく寝たなぁ……」
 王子は半身を起こし、グッと伸びをする。今まで本当に寝ていたのかと思わせる仕草だが、流石にジム戦と公演中にそんなことはないと思いたい。
「あ、あなたが、ジムリーダー……?」
「うん、そうだよぅ」
 緩やかな口振りで、王子は頷く。
 そのまま立ち上がり、棺桶から出て来る。背はあまり高くない。フィアと同じくらいだろうか。
 服装は如何にも王子といったもので、西洋風の豪奢な衣装だ。
「ぼくがシュンセイ王国の王子……シュンセイジムのジムリーダー、イチジクだよぅ」

『Information
 ジムリーダー イチジク
 専門:ノーマルタイプ
 異名:眠れる森の王子スリーピィプリンス
 趣味:昼寝、うたた寝、二度寝、演劇鑑賞』

 王子役であり、ジムリーダー——イチジクは、半開きの眠たげな眼でこちらを見据え、そう名乗った。
 なんというべきか。想像していたジムリーダーとは、かなり違う。
 リーダーというからには、もっとしっかりした人物なのだと思っていたが、目の前のイチジクは、とてもそうは見えない。しっかり者かどうかは見た目で判ずるものではないが、彼は非常に気の抜けた雰囲気を醸し出しており、少々間抜けっぽい。現に、棺桶で寝ていたせいか、髪はぼさぼさで寝癖が付いており、頭頂部からはピコンと一本だけ大きく髪が跳ねている。
 これなら、トウガキの方がよほどリーダーっぽいと感じるが、ジムリーダーとは一般的なリーダーとは違うのだろうか。
 しかし穏やかな人物ではありそうだ。怖い人が出てきたらどうしよう、というフィアが密かに抱いていた不安は払拭された。
「ぼくを目覚めさせてくれたのは……君、かなぁ?」
「は、はい。そうです……」
「そっかぁ、じゃあ——」
 イチジクの目が、スッと鋭くなる。

「——君がぼくらの敵だねぇ」

「え!?」
 吃驚に声を上げるフィア。敵、とはどういうことか。設定上、彼は国の王子で、自分たちは王子を助けに来たはずだ。
「言っただろう、“呪い”をかけたと」
 フィアの驚きに、トウガキが答える。見れば、彼のシシコの足元には、戦闘不能になったアチャモが転がっていた。
「私の呪いは王子を眠らせるもの——ではない。昏倒はあくまで副次的な作用にすぎない。私の呪いの本質は、王子の洗脳だ」
「せん、のう……?」
「要するに、今の王子は我々の配下だ。呪いを解きたくば、呪いを解く道具を使うか、私を倒すか、もしくは——」
 劇の流れになぞりつつ、攻略のヒントを提示するトウガキ。その最後の一つが、このシュンセイジムの本質、目的を、言い表していた。

「——王子自身を倒すことだな」

「王子を、倒す……?」
 王子、即ちジムリーダー。
 ジムとは、ジムリーダーと戦うことに意義がある。
 ここまでの劇のシナリオはすべて、その結果に誘導するためだったのだ。
「そういうわけだからぁ、覚悟してねぇ」
 イチジクは相変わらず間の抜けた声だ。とても洗脳されているようには見えない。
 もっとも洗脳というのも設定で、実際にはジムリーダーとして戦う、ということに他ならないのだろうが。
「さて、次は少年。貴様が相手か?」
「……フィア君、そっちのジムリーダーは、任せていい?」
「え?」
「いやねー、この状況じゃ、オレの相手はこっちの悪魔っぽいしさ。フィア君がそっちにいるなら、フィア君に任せるよ」
 フロルを倒したトウガキは、既に標的をイオンに定めている。ちょうど、イオンが客席側、イチジクが一番奥。その間にそれぞれトウガキとフィアが立ち、お互いの相手と向かい合っている構図だ。
 フィアがイチジクに背を向ければ、トウガキと戦うことができるが、イオンはトウガキが壁となり、トウガキを倒さなければ先に進めない状態となっている。
 確かにこの状況では、イオンとトウガキがバトルをして、残るフィアとイチジクでバトルするしかない。
「う、うん……わかったよ」
 正直、ジムリーダーとのバトルに自信はまるでないが、やるしかない。
 イオンもフロルも、ここまで戦ってきたのだ。自分だけ戦わないという選択肢は、あり得ない。
「よっし。んーじゃ、連戦できついけど、よろしくサンダース!」
「シシコ、こちらも続けて行くぞ!」
 舞台手前では、イオンとトウガキのバトルが始まる。
 そしてこちら、舞台奥。
 こちらには、ジムリーダーがいる。
「えぇと、君……フィア君だっけ?」
「あ、はい」
 急に呼びかけられる。相手が芝居がかっているように見えないので、つい素で答えてしまった。
 しかし、すぐに気を引き締める。
 なぜなら、、イチジクの手には、既にボールが握られていたから。
「ぼくらも、始めようかぁ」
「……はい」
 対するフィアも、腰にセットしたボールに触れる。
 これがフィアにとって初めてのジム戦。
 その緊張を感じながら、フィアはジムリーダー、イチジクと相対する。



あとがき。やっとジムリーダーが登場です。ジムリーダーはリメイク前と変わらずイチジク。ちょっと設定が追加されているのと、異名が眠れる森の王子になっています。元ネタは、たぶん誰もが知ってるだろう童話、茨姫です。スリーピー・ビューティーって言った方が伝わるかな? 劇中の設定が込みですが、次回こそは遂にジムリーダー、ノーマルタイプ使いのイチジク戦です。お楽しみに。

第15話 地中探知 ( No.22 )
日時: 2017/01/06 21:18
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 今まさに、フィアとイチジクのバトルが始まろうとする、その時。

 ——これより、ジムリーダー戦を開始します——

「ここでナレーション!?」
 急にナレーションが割り込んできた。
 ジムリーダーとのバトルが始まるから、ちゃんとしたルールの説明があるらしい。

 ——使用ポケモンは二体。チャレンジャー、もしくはジムリーダー、どちらかのポケモン二体がすべて戦闘不能になった時点で、バトル終了です。また、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます——

 バンガキやトウガキは一体しかポケモンを使わなかったようだが、ジムリーダーは二体。こちらも、一度に使用できるポケモンは二体だけらしい。もっとも、フィアのバトルメンバーは現時点では二体なので、なにも問題はないが。
 そして、交代はチャレンジャー——つまりフィアのみ。ジムリーダーが行えないのは、ハンデということだろうか。
「シュンセイジムはノーマルタイプのジム……何物にも染まらず、それでいて何色にも染まる、幅広い芸を見せてあげるねぇ」
 イチジクはゆらゆらした動きでボールを構えると、それを山なりに放り投げた。
「ノコッチ、頼んだよぅ」
 イチジクが繰り出したのは、尻尾がドリル状で背中に小さな羽が生えた蛇のようポケモンだ。

『Information
 ノコッチ 土蛇ポケモン
 人に見られると穴を掘って逃げ出して
 しまう。巣も地中深く迷路のように
 なっているので見つけるのは困難。』

「ノコッチ……ノーマルタイプのポケモンか。確かノーマルタイプは、格闘タイプに弱いんだったよね……」
 フィアは昨夜、ターミナルで調べた知識を引っ張り出し、ボールを取り出す。
「じゃあ最初は任せたよ、ミズゴロウ!」
 フィアの一番手はミズゴロウだ。格闘技の岩砕きがあるので、ノコッチの弱点を突ける。
「ミズゴロウかぁ、いいポケモンだねぇ。なかなか強そう……じゃ、こっちからいくよぅ」
 やんわりとした目でこちらを見据え、ノコッチは動き出す。
「ノコッチ、頭突きだよぅ」
 ノコッチはグッと首を引っ込めるような動作の後、勢いよく突っ込んでミズゴロウに衝突した。
「ミズゴロウ!」
 ミズゴロウは吹っ飛ばされ、地面を転がる。直撃なので、ダメージはそれなりに通っているだろう。
「まだまだだよぅ、チャージビーム」
 さらにノコッチは、溜めこんだ電気を光線のように発射し、ミズゴロウを追撃した。
「えっ……電気タイプの技!?」
 そう、ノコッチが繰り出したのは電気タイプ技だ。そのため、威力は低くともミズゴロウには効果抜群で、大ダメージになる可能性が高い。
 そしてノコッチが電気技を使用するとは露ほども思っていなかったフィアは、驚愕の表情を見せる。
「言ったよぅ。ノーマルタイプは何物にも染まらない……それゆえに、何者にも染まるタイプ。幅広い芸が特徴なんだぁ。だから、いろんなタイプの技が使えるんだよねぇ」
 ノーマルタイプの特徴は、特定の性質、特徴、属性を持たない点。だからこそ、様々なタイプの技を覚えるのだ。例外や程度差はあるが、他のタイプ以上に技の制限が緩い。なので、先ほどのイチジクのように、思いもよらない技で奇襲ができる。
「もう一度チャージビームだよぅ」
「か、躱して、ミズゴロウ!」
 再び発射される光線を、ミズゴロウは転がるようにして回避する。
「よし。そのまま岩砕きだ!」
 そして起き上がると、ノコッチに向かって突撃。岩を砕くような体当たりをかます。
「おぉ、格闘タイプの技を覚えてたんだねぇ。だったら接近戦はまずいかも……ノコッチ、風起こし」
 ノコッチは小さな羽を羽ばたかせ、強めの風を起こす。それによってミズゴロウは少しずつ後退し始めた。
「チャージビームは攻撃と同時に特攻も上がるからねぇ、威力の低い風起こしもそこそこ効くよぅ。続いて頭突き」
 ノコッチは羽ばたくをのを止め、頭を突き出してミズゴロウに突っ込む。
「っ、水鉄砲!」
 ミズゴロウも風が止むなり態勢を整え、水を噴射してノコッチを押し返す。
「よし、いいぞ。続けて岩砕きだ!」
 そして岩を砕くような一撃で、ノコッチに追撃をかけようとするが、

「ノコッチ、穴を掘る」

 ノコッチは異常なスピードで穴を掘り、身を隠してしまった。そのため岩砕きも空振りに終わる。
「ど、どこから……?」
 きょろきょろと辺りを見回すが、当然ながらノコッチの姿はない。フィアが視線をミズゴロウに戻した、その時だった。
「あっ……ミズゴロウ!」
 ミズゴロウの背後の地面からノコッチが飛び出し、尻尾をミズゴロウに叩き付けた。
「ノコッチの穴掘りの強さは、バンガキのホルビーにも負けないよぅ。次はチャージビーム」
 ノコッチは電気を集めた光線を発射してミズゴロウに追い打ちをかける。効果抜群のうえ特攻も上がっているので、ダメージは大きい。
「頭突き」
「ミズゴロウ、泥かけ!」
 さらにノコッチは頭突きを繰り出してくるが、ミズゴロウが振り向き様に地面を濡らして出来た泥を飛ばし、ノコッチの顔面にかけて動きを止めた。
「今だ! 岩砕き!」
 急に泥をかけられて驚いているノコッチにミズゴロウは岩砕きを炸裂させる。こちらも効果抜群、それに防御力ダウンの効果もあり、それなりのダメージが通っているはずだ。
「水鉄砲!」
 ミズゴロウは勢いよく水を噴射し、軽く吹っ飛んだノコッチを追撃しようとするが、
「穴を掘るでかわしてねぇ」
 ノコッチは素早く後ろ向きに穴を掘り、地中に身を潜めてしまう。こうなってしまえば技は当たらないし、なによりいつ、どこから出て来るかが分からないため、回避も防御も満足にできない。
「せめて、出て来るタイミングか、どこから出て来るかが分かればいいんだけど……」
 少なくとも今のフィアには分からない。
 そうこうしているうちにノコッチがミズゴロウの右の地面から飛び出し、尻尾で攻撃してきた。
「せめて反撃だけでも……体当たり!」
「穴を掘るかなぁ」
 反撃にとミズゴロウは体当たりを繰り出すが、ノコッチも着地と同時に穴を掘って地中に潜ってしまう。
「ミズゴロウ、どうにかして躱せないかな……?」
 ダメ元でそんな事を言うフィア。普通なら嘲笑を受けるような弱気な発言だが、ミズゴロウは何も言わず、ゆっくりと目を閉じた。
 そして数秒後、ミズゴロウの背後から、ノコッチが飛び出し——

 ——ミズゴロウは横へと逸れ、攻撃を回避した。

「えぇ……?」
 ここで初めて、イチジクの顔が驚きに変化した。だが驚いているのはフィアも同じ。しかしフィアはすぐに気を取り直し、
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 攻撃が空振って隙だらけのノコッチに水を噴射して吹っ飛ばす。
「ノコッチ、大丈夫かなぁ?」
 ノコッチはなんとか身を起こすが明らかに疲弊しており、体力はもう残り僅かなようだ。
「よし、ミズゴロウ、もう一度水鉄砲!」
 それを見てミズゴロウは一気に攻め込もうと、水鉄砲を発射する。しかし、
「風起こしで跳ね返してぇ」
 チャージビームで威力の上がった風起こしにより、水鉄砲はミズゴロウに跳ね返されてしまう。ダメージは少ないが、体力が僅かなのはミズゴロウも同じこと。小さなダメージも馬鹿にはならない。
「もう一度、風起こし」
 ノコッチは再び羽を羽ばたかせ、強風を起こす。最初よりも強い風に、ミズゴロウの体はずんずん後退していく。
「うぅ……ミズゴロウ、なんとか踏ん張って!」
 ミズゴロウは必死に前に足を出し、吹き飛ばされまいと踏ん張る。そしてしばらくすると、疲れたのか、ノコッチが羽ばたかなくなり、風も止んだ。
「今だ! 岩砕き!」
 その隙を狙い、ミズゴロウは勢いよく飛び出してノコッチに突っ込む。
「ノコッチ、穴を掘る」
 イチジクは慌てたように指示を出し、ノコッチも素早く穴を掘ってミズゴロウの攻撃を回避する。
 しかし、それがまずかった。
「ミズゴロウ、ノコッチの位置を探るんだ」
 ミズゴロウは目を閉じ、じっと動かず辺りの様子を探る。それに連動するように、頭のヒレがぴこぴこと揺れていた。このヒレこそが、ミズゴロウがノコッチの位置を察知した正体だ。
 ミズゴロウのヒレはとても敏感で、温度、湿度、空気の振動などを正確にキャッチする機能がある。その機能を活用すれば、地中にいるノコッチの動きを探ることなど造作もない。
 そして数十秒後、ミズゴロウは左を向く。
 直後、ミズゴロウが向いた方向と同じ方向の地面から、ノコッチが飛び出した。
「水鉄砲!」
 そしてミズゴロウは水鉄砲を発射する。その勢いは今までのものよりもずっと強く、激しいものだった。
 水鉄砲の直撃を喰らい、ノコッチは吹っ飛ばされて地に落ちる。それっきりノコッチは動かなくなり、戦闘不能となった。
「あぁ、負けちゃったかぁ。戻ってねぇ、ノコッチ」
 イチジクはノコッチをボールに戻す。辛勝ではあるが、先に勝ち星をあげられたのは、フィアにとっては大きなプラスだ。
「ノコッチはやられちゃったけど、ぼくのポケモンは残ってるし、まだまだこれからだよぅ」
 そう言って、イチジクは最後のボールを構える。
 先に一体倒したとはいえ、こちらも手負い。フィアの初のジム戦は、ここからが正念場だ。



あとがきコーナー。やっとイチジク戦ですが、正直、リメイク前と内容はほとんど変わってません。ジム戦開始からここまで完全書き下ろし(と言っていいのか)だったところで、急に手抜きになりましたが、ノコッチの攻略はそれなりに自信があった回なので、そのままにしています。次回はイチジク戦続き。次は新規書き下ろしです。お楽しみに。

第16話 絶対睡眠 ( No.23 )
日時: 2017/01/06 23:42
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「これが最後だよぅ。ネッコアラ、でてきてねぇ」
 出て来たのは、コアラのようなポケモン。丸太を抱きかかえており、目は閉じている。

『Information
 ネッコアラ 夢現ポケモン
 生まれてから死ぬまで寝て過ごす。
 見ている夢の寝相で体を動かすが、
 どんな夢を見ているのかはわからない。』

「……寝てる?」
「うん、そうだよぅ。ネッコアラはずーっと寝てるんだぁ。絶対眠りの特性だからねぇ」
「絶対眠り、特性……?」
 なんのことだ、と疑問符が浮かび上がる。
 しかし、今はジム戦。それに時間もない。フィアは急いでミズゴロウに指示を出す。
「眠っているなら、むしろ好都合だよ。ミズゴロウ、水鉄砲!」
 ミズゴロウは口から水流を噴射。水流はネッコアラにまっすぐ飛んでいくが、
「防御だよぅ」
 ネッコアラは抱えている丸太を盾のようにして、水鉄砲を防いでしまう。
「な……っ!?」
「叩きつけるだよぅ」
「あ、えっと、躱してっ!」
 さらに、今度は丸太を片手で掴み、大きく跳躍して丸太を叩きつける。
 ギリギリ回避できたが、床が大きくへこんでいた。丸太には傷一つついていない。
「思ったより硬い……力もあるんだ……」
「まぁねぇ。ネッコアラ自慢の枕木だからねぇ……もう一度、叩きつける」
「躱して!」
 再びネッコアラが丸太を振り回し、床に叩きつける。ミズゴロウは決して俊敏ではないが、ネッコアラの動きも早くない。よく動きを見れば、躱せない攻撃ではない
「岩砕き!」
 そして、ネッコアラが丸太を叩きつけた瞬間を狙って、ミズゴロウは突撃するが、
「丸くなるだよぅ」
 ネッコアラは丸太を引き抜かず、むしろ自分から丸太に飛びついて、丸まってしまう。
 ミズゴロウの攻撃は直撃し、吹っ飛んだが、達磨のようにすぐに起き上がる。効果抜群にしてはダメージが小さい。
「そのまま転がる攻撃だねぇ」
「っ、躱して!」
 ネッコアラは丸太に抱き着いたまま、ゴロゴロと床を転がる。ミズゴロウはジャンプで躱そうとするが、タイミングが合わず、吹っ飛ばされる。
「ミズゴロウ、大丈夫?」
 足元はおぼつかないが、なんとか立ち上がる。ミズゴロウは、まだ戦う意志を見せていた。
「よし、もう一度岩砕きだ!」
 転がってくるネッコアラに対して、ミズゴロウは力を込めた突撃で迎え撃つ。
 どちらのパワーもかなりのもので、しばらく競り合ったものの、やがてミズゴロウが吹っ飛ばされた。
「っ、パワー負けした……!」
「転がるは丸くなった後に使うと威力が上がるし、転がれば転がるほど威力が増すからねぇ……はやく止めないと、このまま閉演しちゃうかもよぅ」
 いまだにゴロゴロと転がり続けるネッコアラ。確かに、よく見れば転がるスピードも勢いも、増しているように見える。
 このままだと、イチジクの言う通り、転がり続けるだけで負けてしまいかねない。
(でも、どうやって止めれば……)
 先ほどの岩砕きの結果から、真正面から力ずくで止めることはできない。
(回転を止める方法……もしくは、ネッコアラの動きだけでも止められれば……)
 なにか手はないかと辺りを見回すと、ふと“それ”が視界に入る。
「……上手くいくかはわからないけど、やってみよう。ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
 転がってくるネッコアラに対し、ミズゴロウは水流を発射する。
 しかし、ネッコアラの転がる勢いは、緩まる様子がまるでない。
「もっと強く!」
 フィアの指示で、さらにミズゴロウの水流が強くなるが、それでも止まらない。少しばかり勢いは弱まったかもしれないが、転がるを中断するには至らない。
 やがてネッコアラがミズゴロウへと接近し、撥ね飛ばさんと転がってくる。
「右に跳んで!」
「追いかけてねぇ」
 ミズゴロウは寸でのところで右に跳躍するが、ネッコアラもそれを逃がしはしない。ゴロゴロと大きくカーブを描いて、ミズゴロウを追いかける。
「そうだ、こっちだよ……」
 転がりながら追いかけてくるネッコアラ。ミズゴロウは少しずつ後退して、タイミングを計る。
 再び、ネッコアラがミズゴロウに接近した、その時。
「今だ! ジャンプ!」
 ミズゴロウは真上に跳んだ。
 それでネッコアラの転がる攻撃を躱したことになるが、それだけではない。
「おぉ?」
 ネッコアラがミズゴロウの真下を通過した直後、ネッコアラの動きが止まった。しかし、回転は続けている。ただ、前に進まないのだ。
 見てみると、そこは床板が破壊され、地面が抉れた床。ネッコアラが、叩きつけるで破壊した個所だった。
 自分で抉った穴に、嵌ってしまったのだ。
「あぁ、はまっちゃったぁ」
 やがて、ネッコアラの回転が止まる。転がるが中断されたのだ。
 その隙に、ミズゴロウはネッコアラに近づき、
「今だよミズゴロウ! 岩砕き!」
 岩をも砕く勢いで、無防備なネッコアラに突撃する。格闘タイプの技なので、効果は抜群だ。
 だが、しかし、
「んぅぅ、しっぺ返し」
 次の瞬間。
 ネッコアラの丸太が、ミズゴロウを打ち据えていた。
「ミズゴロウ!」
 ノコッチとのバトルでも蓄積されていたダメージが、ここで一気に臨界点まで達する。
 ここまで耐えていたミズゴロウも、この一撃には耐え切れず、目を回して戦闘不能となってしまった。
「ありがとう、ミズゴロウ……よく頑張ったね」
 倒れたミズゴロウをボールに戻す。
 かなり奮闘してくれたが、やはりノコッチとのバトルで受けたダメージが大きかったのだろう。
「凄い威力だったな、今の技……」
「しっぺ返しはねぇ、後から攻撃すると威力が上がる技なんだよねぇ」
 つまり、反撃に向いた技ということか。
 ネッコアラは積極的に攻撃を仕掛け、攻撃を受ける際にも、丸太で防御するか、丸くなるかだったので、反撃はあまり想定していなかった。
 なんにせよ、これでフィアの手持ちは残り一体だ。ネッコアラ攻略の糸口はまだつかめていないが、倒せるのだろうか。
「……イーブイ、出て来て!」
 フィアの最後のポケモンはイーブイ。ミズゴロウのように格闘タイプの技を覚えているわけではないので、特別な有利不利はない。
 ただ単純な力の差だ。それゆえに、不安が募る。
(タイプ相性が大事って、こういうことなのかな……)
 強力な攻撃技と、防御にも転用できる枕木。ネッコアラの単体スペックは非常に高い。
 それゆえに、タイプの上で有利を取れなければ、非常に厳しいバトルとなる。
「イーブイかぁ。色んな進化の可能性を秘めた、いいポケモンだねぇ」
「……? 色んな……?」
 フィアが見たイーブイの進化系は、イオンのサンダースだ。進化するとしたらそうなるのだろうと思っており、彼の言葉がいまいちよくわからなかった。
 しかし今はジム戦。あまり余計なことを考えている余裕はなかった。
「よし、やるぞ……イーブイ、電光石火!」
「防御だよぅ」
 イオンにならって、先手必勝で攻め込むが、イーブイの突撃は丸太できっちり防御されてしまった。
 やはり、攻防共に使用できるあの丸太が、非常に厄介だ。
「噛みつく!」
「次も防御してねぇ」
 横に跳んでから、反復横跳びのように動いて、ネッコアラのサイドに移動するイーブイ。そしてそのまま歯牙を向いて飛び掛かるも、今度も攻撃は丸太によってきっちり防がれてしまった。
 そして、
「叩きつけるだよぅ」
 そのまま丸太に噛り付いたイーブイを床に叩きつけた。床板が砕け散り、剥き出しの地面にイーブイは転がっていく。
「イーブイ!」
「もう一度、叩きつける」
 再び丸太を振りかざして打ち据えるネッコアラ。しかしイーブイは、フィアの指示を待たずしてゴロゴロと転がり、間一髪でその攻撃を躱す。
「あ、危なかった……」
「でもぉ、気を緩めちゃぁダメだよねぇ。転がるだよぅ」
「躱して目覚めるパワー!」
 丸まって転がってくるネッコアラを避けつつ、イーブイは球状のエネルギー弾を放つ。
 弾はネッコアラに着弾すると、そのまま燃え上がるが、ネッコアラは気にせず転がり続けている。
「効いてない……!?」
「効いてるよぅ。ぼくのネッコアラは、ちょっとにぶちんさんなだけ……叩きつける」
 転がっているうちに炎も鎮火してしまった。鎮火したタイミングで転がるを中止すると、ネッコアラは丸太を振り下ろして攻撃してくる。
「躱して電光石火!」
「しっぺ返しだよぅ」
 叩きつけるの威力は凄まじい。あの攻撃だけは、受けてはいけない。
 そう思って必死で回避し、その隙に電光石火で急接近しつつ攻撃するが、反撃のしっぺ返しでカウンターされてしまう。
「頑張ってイーブイ! 噛みつく!」
「丸くなる、だよぅ」
 今度は歯牙を剥き出して突き立てるも、丸くなるで防御を上げたネッコアラには、大きなダメージを与えられない。
 目覚めるパワー、電光石火、噛みつく……どの攻撃も、ネッコアラには通用しない。あの手この手で防がれてしまう。
「ふわぁ……眠くなってきちゃった。そろそろ、終わりにしよっかぁ」
 イチジクは大きく欠伸をすると、ネッコアラに指示を飛ばす。
「ネッコアラ、転がる」
 丸くなった状態で、回転を始めるネッコアラ。
 噛みついていたイーブイはすぐに離れることができず、転がるネッコアラに撥ね飛ばされてしまった。
「イーブイ!」
 吹っ飛ばされて床に落下。イーブイはミズゴロウのように打たれ強くない。体力も、そろそろ限界だろう。
 とにかく攻撃を避けて、隙を見て攻撃を……とフィアが考えているその時、イーブイに影が差した。
 顔を上げると、そこには丸太を振り上げたネッコアラの姿。
「叩きつける、だよぅ」
 ぐしゃり、と。
 容赦なく、ネッコアラは丸太を振り下ろし、イーブイに叩きつけた。
「イ、イーブイ……!」
 丸太を退けると、そこには倒れたイーブイの姿がある。
 完全に目を回しており、誤審の余地が生じるまでもなく、戦闘不能だ。
 つまり、それは——

 ——イーブイ戦闘不能! チャレンジャーの手持ち二体がすべて戦闘不能になったため、ジムリーダー、イチジクの勝利です!——

 ——フィアの敗北を、意味していた。



あとがき。フィアvsイチジク、終了です。のっけからフィアがやられていますが、まあ、当然っちゃ当然なのかもしれません。トレーナーになって数日。経験も浅いフィアが、簡単にジムリーダーを倒せるはずもない、というのが当然の論理、結果かなと。あと、これはあまり関係ないですけど、ネッコアラってA115もあるんですね。意外とパワフルでビックリ。まあ、コアラは力が強いっていいますし、これもまた当然なのかな。というわけで次回。フィアが負けてしまいましたが、シュンセイジム戦はどうなるのか、ですね。お楽しみに。

第17話 第一制覇 ( No.24 )
日時: 2017/01/07 06:16
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ——ジムリーダー、イチジクの勝利です!——

 会場内に、そんなアナウンスが響き渡る。
 負けた。負けたのだ。
 フィアのジム戦は、これで終わってしまった。
 虚無感、というのだろうか。
 空っぽな空洞に、冷たいなにかが響いている。
 バトルが終わるや否や、イオンとフロルが、フィアの下へと駆け寄ってきた。
「フィアっ」
「フィア君!」
「ご、ごめん、フロル、イオン君……僕、負けちゃった……」
 自分でもわかるくらいに、声が震えている。
 このバトルは、自分一人のバトルではなかった。フィアと、フロルと、イオン。三人分の重みがあるジム戦だったのだ。
 それなのに、負けてしまった。
 重苦しいほどの責任感が、フィアを押し潰さんとばかりに、襲い掛かってくる。
「だいじょうぶだよ、フィア。わたしも、トウガキさんに負けちゃったし……」
「そうそう、いいっていいって。気にしない気にしなーい」
「でも、僕が負けたせいで、三人全員が負け——」
「なーに言ってんの」
 フィアの言葉を遮るイオン。
 彼の表情は、笑っていた。
 そして、告げる。

「まだジム戦は終わってないっしょ?」

「え?」
 素っ頓狂な声を上げるフィア。
 その意味を理解することができない。まだ終わっていない。どういうことだろうか。ジムリーダーとのバトルは、先ほど自分がまけて終わったはずでは——
「思い出して。このジム戦のルールは、時間内にジムリーダーを倒せなければ負け、っていうルールでしょ」
「う、うん。でも、僕はイチジクさんに負けて……」
「それはそうだけどさ。でも、一人勝った全員勝ちでも、“一人負けたら全員負け”ではないんだよ」
「!」
 確かに、敗北条件は制限時間しか設けられていなかった。
 それはつまり、
「時間内であれば、何度でもジムリーダーに挑戦できるはず。そうでしょ、トウガキさん」
「……確かに、公演時間はまだ残っているな。それまで幕は下りないし、王子の呪いもそのままだ」
 その言葉は肯定と同義だった。
 時間の続く限り、ジムリーダーに挑戦できる。フィアのポケモンはもう残っていないが、イオンとフロルには、まだ戦えるポケモンがいる。
 だが、問題もあった。
「時間はだいじょうぶなの……?」
「……あと三分しかない」
「よゆーよゆー。フィア君がジムリーダーのポケモン一体倒してくれたし、エースっぽいネッコアラも削ってくれた。超速攻で決めてくるから」
 ひらひらと手を振るイオン。彼の言うように余裕の表情だが、本当に大丈夫なのだろうか。
 そうしてイオンは、イチジクの前に立った。
「次の相手は……君かなぁ?」
「はい」
「そっかぁ。トウガキに勝つくらいだし、強いんだろうねぇ……二人のバトルはちゃんと見れなかったけど、どんな風に戦うのかなぁ」
「悪いけど、観察する暇もないくらいにちゃっちゃと決めちゃいますからね。友達が待ってるんで」

 ——それではこれより、ジムリーダー戦を開始します。使用ポケモンは二体。チャレンジャー、もしくはジムリーダー、どちらかのポケモンがすべて戦闘不能になった時点で、バトル終了です。また、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます——

 先ほどと同じアナウンスが流れる。
 使用ポケモンは二体だが、イチジクは既に一体ポケモンを失っているので、実質的に二対一だ。
「ネッコアラ、続けてお願いねぇ」
「サンダース、速攻で終わらせるよー!」
 イチジクはネッコアラ、イオンはサンダースを続投。どちらも連戦だが、サンダースの方がバンガキ、トウガキと続けて三連戦。かなり疲労も溜まっているはずだが、体毛を逆立ててバチバチと威嚇し、微塵も疲労を感じさせない。
「ネッコアラ、叩きつける」
「遅い遅い! 電光石火!」
 丸太を掴み、振りかざすネッコアラ。しかしそれを振り下ろす前に、サンダースが突撃していた。
「二度蹴りだ!」
 間髪入れずに連続で蹴りが放たれ、ネッコアラは倒れ込んでしまう。丸太で防御する隙すらない。
「おぉっとぉ……? 速いねぇ……」
「こっちも時間がないんで! ミサイル針!」
「枕木で防いでねぇ」
 射出される鋭い体毛を、ネッコアラは丸太で防ぐ。
 やはり並大抵の攻撃は、すべて丸太が受け切ってしまう。
「そのまま転がる攻撃だよぅ」
「躱して電気ショック!」
 丸太に刺さった針を振り落すと、丸太を抱きかかえるようにして丸まり、回転して突貫してくるネッコアラ。
 しかしネッコアラの攻撃はサンダースには当たらず、俊敏な動きで回避されると、すぐさま電撃を浴びせられてしまう。
「速すぎて捉えられないなぁ……叩きつける」
「二度蹴り!」
 丸太を振り上げるネッコアラに、サンダースは素早く蹴りを放った。
 一度目の蹴りで、動きを止める。そして、二度目の蹴りで、体勢を崩す。
「もう一発、二度蹴り! 邪魔な丸太を蹴り飛ばせ!」
 さらに三度目の蹴りで、ネッコアラの手から丸太を離させ、四度目の蹴りでその丸太を遠くまで蹴り飛ばした。
「うぁ……枕木がぁ……」
 ネッコアラは丸太がなくなったことで、攻撃のための武器と同時に、攻撃を防御する盾すらも失ってしまう。丸太がなくては丸まることもできないため、転がるも、丸くなるも封じられた。
 丸太がなければネッコアラはなにもできない。
 これでほぼ、勝負は決した。
「とどめだ! 電気ショック!」
 サンダースはネッコアラに電撃を浴びせる。
 丸太で防御することもできず、ネッコアラは電撃の直撃を喰らった。
 ゴロンと倒れ込み、目を回している。

 ——ネッコアラ戦闘不能! ジムリーダーの手持ち二体がすべて戦闘不能になったため、チャレンジャーの勝利です!——



 その後、王子の呪いは解け、国に戻り、物語はハッピーエンドを迎えた。それによって、劇は公演終了となり、同時にジム戦も終了した。
 緞帳が降ろされ、セットだけが残された舞台。照明だけが照らすこの舞台の上で、フィたち三人は、今回のキャストたちと向かい合っていた。
 トウガキ、バンガキ。そしてイチジク。シュンセイジムのキャスト三人。
 こうして向かい合っているのは、ジム戦が終わったことで、最後に慣例の儀礼があるそうだ。
 ただ、その時に少しばかり談笑したのだが、
「えぇ!? 三人は兄弟だったんですか!?」
「うん、そうだよぅ」
 トウガキとバンガキは、名前も容姿も似ているところがあるからそうだと思ったが、イチジクまで兄弟だとは思わなかった。
「私とバンガキが双子で、二人の間では私が兄にあたりますが」
「イチジク兄ちゃんが長男なんだぜ」
 かなり驚きだ。三人兄弟というのも驚きで、トウガキとバンガキが双子というのも驚きだが、長男がトウガキではなくイチジクということが一番の驚きだった。
「でも、イチジクさんってジムリーダーなのに、座長じゃないんですねー」
「ジムリーダーは、ポケモンリーグ連盟からスカウトされて引き受けただけだからねぇ。本職は劇団員なんだぁ……それにほら、ぼくっていろいろ抜けてるからさぁ。座長なんて人を取り仕切る大事な役職は、トウガキの方がしっかりやってくれるからねぇ」
「トウガキ兄ちゃんになら、劇団を任せられるからな!」
「二人とも、まったく……私にばかり頼ってないで、二人ももっとしっかりしてくれよ」
 呆れ半分、嬉しさ半分といった面持ちのトウガキ。
 イチジクも自分が抜けている自覚はあるらしい。それに、トウガキの方がまとめ役として優れていると、兄の立場からもしっかり評価している。
 確かに抜けているところはあるが、なんだかんだでいい兄なのかもしれない。
「兄さん。私たちについて語るのは構わないが、大事なことを忘れないでくれ」
「あぁ、そうだったねぇ。ごめんごめん……えーっと、じゃあバンガキ。あれ、持って来てくれたよねぇ」
「おう。これだろ」
 イチジクに促されてバンガキは、手にした三つの小箱を見せる。一つは自分で持ち、残り二つをそれぞれイチジク、トウガキに一つずつ渡した。
 三人は同時に箱を開ける。中には、小さな金属片が入っていた。
 材質はわからないが、金色だ。形も変わっていて、アルファベットのAと十字架が組み合わさったような形状をしている。
「これはポケモンリーグ公認のジムバッジ。そのジムでジムリーダーが、チャレンジャーの実力を認めた時に渡す証です」
「そん中でこれは、ここ、シュンセイジムを制覇した証だ。その名も——」
 トウガキ、バンガキと続き、最後にイチジクが一歩前に出る。
 フィアの前に立っている彼は、箱に入れられたそれを、こちらに差し出した。

「——アドベントバッジ、だよぅ。受け取ってねぇ」

 これが、フィアにとっての初めてのジム戦。
 そして、初めてのジムバッジとなるのだった。



あとがきになります。最後の方が流す感じになってしまったのは、文字数の関係です。元より、フィアとイチジクのバトルの方が大事なので。ケリをつけたのはイオンですけど。なんにせよ、どのような形にせよ、これでシュンセイジム戦は終了。フィアたちはジムバッジをゲットできました。バッジの名称は変わらずアドベントバッジです。形状も同じくそのまま。アドベントは、キリストの到来を待ち望む期間のことです。イチジクの名前や、演劇を絡めた設定は、聖書などその辺もちょっと関係していたり。やっと最初のジム戦が終わって、次回。なにをするかはあまり具体的には言えませんけど、リメイク前と大体同じシナリオになると思います。では、お楽しみに。


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