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ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
日時: 2015/07/18 08:39
名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)

 はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。

 今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
 この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。

 主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
 吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
 まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。

 各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪

 ではでは、次のレスから始めていきますよー!

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Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame-【第二章 開始】 ( No.45 )
日時: 2015/07/07 12:23
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 第一章 乙女たちの日常


 1


 朝。
 気持ちよく眠っていた夏樹を叩き起こしたのは、騒がしい妹でも、世話の焼ける母でもなく、家族よりも自分に優しくしてくれる少女の大きな声だった。
「なーつーきーくーんっ! もう朝だよ! 早く起きて起きて!」
 真っ赤な髪を持つ小柄な美少女、赤宮真冬は夏樹から布団を引き剥がそうと布団を引っ張るが、夏樹が布団を押えてそれを阻止する。
 寝ぼけていても真冬より力は強いようで、真冬が本気で布団を引っ張っているのが分かる。
「お・き・て! もう朝だってば……!」
 布団を引っ張りながら力んだ声で真冬が言う。
 夏樹も必死に布団を押え、抵抗しながら言う。
「……頼む、あと十分でいいから……!」
 真冬は布団から手を放し、ベッドの上で寝ている夏樹の上に馬乗りになる。彼女の乗っている位置が微妙に危ないが、ここで意識して気付かれたら気まずくなる。夏樹はどうにか抑えて気にしないようにした。
 馬乗りになった真冬はお手本のように制服をきちんと着こなしていた。見慣れた制服姿だが、いつ見ても可愛いと思ってしまう。
「もう八時だよ! いつもなら起きて学校に行ってる時間なのに……なんで今日の夏樹くんはお寝坊さんなの? 遅刻しちゃうよ?」
 弟に叱るような口調で言う真冬お姉ちゃん。
 本当は一人の妹がいる夏樹お兄ちゃんとしては新鮮な気分だったが、制服姿の真冬を見上げて、夏樹は呟くような声で問いかける。
「……遅刻するって何に?」
 途端、真冬が絶望した表情を浮かべた。
 それも無理はない。
 今日は水曜日。どこの学生にも学校へ行く、という当たり前すぎるイベントにもならない出来事と呼べるかどうかも分からないことがあるのだ。
 夏樹だって昨日普通に学校に通っていた、母の冴子によれば風邪や病気でも無い限り夏樹は学校を休まないし、中学三年間は皆勤だったらしい。
 そんな少年が平日に『何に遅刻するか分からない』など言うだろうか。学校でも一緒にいた真冬は、夏樹が事故に遭ったわけではないことを知っていた。昨日の六時間目は体育だったが、夏樹が危険な目に遭ったという話も聞いていないし、家でも変わらず普通だった。
 真冬は涙目になりながら、下にいる夏樹に叫ぶ。
「何言ってるの夏樹くん! 学校だよ!? まさか……わたしたちとの学校での記憶が消えちゃったの? そんなの……そんなの悲しすぎるよ! 思い出してよ夏樹くん!」
 がばっと夏樹に抱きつく真冬。
 夏樹は言いにくそうにあー、と小さく声を漏らしてから、
「……お前、昨日の終礼ちゃんと聞いてなかったのか? 今日は創立記念日だ。だから休みだよ」
「……へ?」
 夏樹の言葉に真冬が素っ頓狂な声を上げた。
 間近にある夏樹を顔をじっと見合わせてから、焦った様子で自分の携帯電話を取り出した。前までガラパゴス携帯だったが、冴子が『可愛い真冬ちゃんにガラケーはダサい!』ということでスマートホンを買ってもらっていたのだ。
 真冬は慣れない手つきで画面をタッチ操作すると、ある人物に電話を掛けた。
 しばらくのコール音の後、真冬が最も聞いていて安心する声が返ってくる。
『もしもし、真冬ちゃん? こんな朝にどうかしたの?』
 電話の相手は同じクラスの永原結花。真冬のクラスメートでおしとやかな印象の少女だ。彼女はクラスメートである金城真咲、戸崎比奈の三人で美少女トリオ『キューティーズ』というハードルの高い名前のチームで活動している(これといって活動らしいことは何もしていない)。
 真冬が知る人物の中で一番常識人なので、真冬もかなりの信頼を寄せている。
「結花ちゃん! 今日って創立記念日なの? 学校休みなの!?」
『あー、やっぱり昨日の終礼聞いてなかったかー』
 結花の声に真冬は頭の中に『?』を浮かべた。
『ほら、昨日の六時間目、ちょっと時間割が変わっちゃって体育だったでしょ? 真冬ちゃんバレーで大活躍してたから、終礼はぐったりしてたじゃん』
 そういえば終礼の記憶がほとんどない。
 気が付けば夏樹と薫に起こされていたような気がする。知らない間に寝ちゃってたのか、と思って一瞬焦ったが、教室にまだちらほらと生徒が残っていたので、安心したのを憶えている。
「……えっと、つまり……」
『創立記念日ってのは本当だよ。もしかして学校行った? さすがにそれはないよねー!』
 じゃあまたねー、という結花の声を聞いて真冬は通話を切った。
 それから夏樹と顔を見合わせると、
「今日って創立記念日だったの!?」
「ちょっとは俺の言葉を信用しろよ!」

 真冬は制服から私服に着替えて夏樹の部屋にちょこんと座っていた。
 ちなみに今彼女が来ている服は冴子が買った物で、真冬にぴったりの可愛らしいデザインの服だ。冴子は本気で真冬を気に入ったらしい。
 夏樹も真冬が着替えに部屋に戻っている間に着替えを済ませていたため、今は彼も私服姿だ。
「ってことは、今日わたしたちずっと暇?」
「言い方悪いけどそうなるな。特に宿題とかもなかったし」
 二人は部屋で特に何をするわけでもなく座って話をしていた。
 梨王は学校、冴子は仕事で今家にいるのは夏樹と真冬だけだ。そう思うと二人とも意識してしまって、上手く会話の糸口が見つけられない。考えてみれば、真冬と二人きりになる機会は多かったものの、会話は割と続いていた。今会話を続けられないのは、彼女のことを知って聞くことがなくなったからだろうか。
 夏樹は真冬に視線を向けた。
 未だに彼は信じられなかった。
 目の前にいる小柄な可愛らしい少女が、『ヴァンパイア』という悪魔を滅する存在だなんて。だが、彼女がそんな存在であるからこそ、夏樹は今生きていられている。彼は、真冬に命を救われている。しかも二度も。
 その恩返しというわけではないが、夏樹は今真冬に戦うための血を分け与えている。右手の中指に嵌められた指輪がその証拠だ。
「夏樹くん、わたしまた街に行きたい!」
 突然名前を呼ばれて夏樹はびくっとしたが、それを悟られないようにすぐさま平静を装って真冬の言葉に返答する。
「……街?」
「うん! この前は薫ちゃんと合流しちゃってあんまり回れなかったし……今日はゆっくり回りたいな! ちなみに、創立記念日って薫ちゃんは何をやってるの?」
「アイツはどうせゲームだろうな。中学の頃に『明日学校ないよね! だったらうちに遊びに来なよ!』って言われて行った結果、ずっとギャルゲーさせられたからな」
 夏樹の表情から生気が抜けていく。結構きつかったらしい。一度経験している真冬としては、ギャルゲーをプレイするのはとても楽しかったため、また遊びに行きたいものだが、どうせなら夏樹と一緒に行きたいのだ。
「そっか」
「まあ休日に俺も薫と会って疲れるの嫌だし……そっちのが好都合かな」
 真冬は出来れば薫に会って言わなければいけないことがあるのだ。
 色々あってまだ言えていないが、いつかは言わなければいけない。それも近いうちに。そうしなければ、薫の気持ちも変わってしまうかもしれない。
「そうだな。今日なら薫と出くわす可能性も低いだろうし行くか。家にいてもやることないしな」
「うん! じゃあ決定だね!」
 夏樹は真冬と一緒に出掛けることにした。

 ——これも一種のデートというやつだろうか。

 いいや、そういうことを考えるのはよそう。
 今は真冬と一緒に過ごせているだけで楽しいんだし、そういうことを考えているのがバレて、今の最も近い友人という菅家が崩れるのも嫌だった。
 夏樹は財布と携帯電話を持って、真冬と一緒に家を出た。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame-【第二章 開始】 ( No.46 )
日時: 2014/11/21 00:43
名前: 竜野翔太 (ID: Uj9lR0Ik)


 2


 汐王寺刹那の高校生活は一瞬にして変わった。
 彼女の人生が変わったのは、一年前のある出来事がきっかけである。
 始業式の日、彼女はまだ普通の女子高生になりたての少女だった。これから始まるであろう華々しい生活に心が躍っていた。たくさんの友達に囲まれ、コイバナに花を咲かせ、いつかは誰かと恋人になる……そんな女の子らしいことだって考えていたのだ。
 実家から出て一人暮らしを始めた彼女は、親の仕送りとバイト代でなんとか生計を立てるつもりだった。それなりに暮らしは厳しくなるだろうが、やがてする一人暮らしの予行演習と思えば力がみなぎっていた。父親からは反対されたが、自分の意思を貫き通し頑固な父親を納得させるに至ったのだ。
 どんな生活が待っているんだろう、と思ったその時に事件は起きた。
 金髪の大柄な男と青色の髪のこちらも大柄な男が喧嘩をしていた。
 どうやら間違った高校デビューをした結果なのだろう。金髪はいいとしても青色はないなと刹那は思った。
 二人は殴り合いにこそ発展していないが、今にもそれが始まってしまいそうだった。どちらかが言葉を間違えば殴り合いが始まるだろう。罵詈雑言の応酬ではあるが、手を出していない分、まだマシだと考えていい。
 周りの生徒も野次馬と化し、誰も止めに入ろうという者はいなかった。もし止めに入って彼らの怒りの矛先が自分に向けられるのが怖いのだろう。喧嘩中の二人はそんな雰囲気さえあった。
 刹那はそんな野次馬と喧嘩中の二人に溜息をついた。
 喧嘩をしている二人の間に割って入る。止める声もあったが、そんなのは今の刹那の耳に届かない。
 急にやって来た刹那に喧嘩中の二人はいきない暴言を吐いてきた。
 刹那はそんな男たちをひと睨みすると、その場に正座させ説教をした。最初は反抗的な態度を見せていた二人だが、刹那が睨めば一瞬で畏縮していた。自分の睨みはそれほど怖いのか、とショックを受けていたが、教師が到着した頃には、刹那の説教も終わり、二人の喧嘩も終わっていた。
 それからだ。
 それから高校生活が変わった。
 翌日から金髪と青色の髪の大柄の二人の男はスキンヘッドにし、刹那の家へと迎えに来ていた。別に頼んだ憶えはない。しかも親しみを込めて『姐さん』とまで呼んでいる。いや一人っ子だし、と心の中でツッコミを入れる。
 どうやら不良であった二人は刹那の勇気に感服し、刹那の舎弟になったようだ。二人が刹那の舎弟になってから、ぞろぞろと刹那の下に不良がやって来た。やって来ては刹那の美貌に膝を折っていった。
 そうして不良グループリーダー、汐王寺刹那は完成した。
 今では周りの男を怖がってか同性の友達が全く出来ない。一年経っても舎弟の数は減るどころか増える一方だ。いつの間にか不良じゃない普通の男子も男らしくなりたい、という理由で傘下に加わるほどだ。
 刹那は元の生活に戻りたかった。
 今では女子にも話を掛けられないし、こちらから行けばちょっと怖がられている。どうしたものか、と後ろに数十人の不良を引き連れながら歩く刹那に、元は金髪だったスキンヘッドが声を掛けてきた。
「姐さん、そろそろ決戦っすね」
「あ? 決戦?」
 ぶっきらぼうに聞き返した。
 もちろん喋り方も不良につきまとわれてから変えたものだ。元の彼女の口調はどこぞのお嬢様も顔負けする程の丁寧なものだ。
「前回の目標は六〇点でしたが、今回はどうしますか?」
 男の言葉を聞いて刹那は思い出した。
 そろそろテストだ。この男はテストを決戦という。刹那はテスト時に目標点数を提示し、勉強を疎かにしないように、そしてさせないようにしている。不良たちは相当キツイらしいが、一生懸命教えてくれたり、難しいところをプリントにしてまとめてくれたりしている刹那に恩を感じ、勉強に励んでいるらしい。
「……そうだな。今回はちょっとレベルアップしてみるか」
 刹那は後ろの不良たちに向き直る。
「今回のテストの目標点数は七〇点だ。お前ら、しっかり勉強しろよ」
 それを聞いた不良たちは『えぇ!?』と声を上げると、口々に刹那に申し出る。
「そ、そりゃ無理っすよ姐さん!」
「七〇点なんて……いくらなんでも……」
「そんな高得点取れません!」
 不良たちがそう言うと、刹那は腰に挿してあった木刀を引き抜き、地面に叩きつける。バァン!! という強烈な音に怯えた不良たちが黙る。
「自分の限界を勝手に決めるな! いつも言ってるだろうが! 中学の頃、ボロボロの点数だった奴が、この前はちゃんと点数取れたろ?」
「そ、それは姐さんが教えてくれたから……」
「今回だって私はちゃんと勉強に付き合ってやる。分からないところがあれば分かるまで教えてやる。私は、お前たちを見限ったりしない!」
 刹那は睨みから一転、優しい表情を浮かべると、
「お前らの努力の成果を、また私に見せてくれ。出来るな?」
 ほぼ全員が刹那の表情に頬を染めて、背筋を伸ばし『はい!』と行儀よく返事をした。
「じゃあ一週間前から猛特訓だ。それまでもちゃんと復習とかしとけよ? 一日一時間でもいいから。また昼休みに集合だ」
 刹那がそう言うと不良たちはそれぞれの教室に向かうために校舎へと向かって行く。
 刹那が溜息をつくと、五〇代くらいの教師が駆け寄ってくる。
「おーい、汐王寺」
「ん? どうしたんですか、先生?」
 いつもの口調に戻って教師の応対をする刹那。教師の手にはたくさんの学校の資料があった。
「これ、お前に頼まれてたものだ。奨学金が受けられる大学だな。他にも入学金免除、交通費負担の大学もあるから、いろいろと見てみるといい」
「本当ですか!? こんなにたくさん……ありがとうございます!」
 刹那はぱあっと表情を明るくすると、受け取った資料を食い入るように眺める。その様子に教師は感心したように、
「いや、すごいな汐王寺は。まだ二年生なのに、大学のことをこんなにも一生懸命に考えるなんて」
「あとになって慌てたくないんです。大体の目標は決めておきたくて……あ、この大学校舎綺麗だな……」
 教師は用事が済んだのか、いつでも相談においで、と刹那に手を振って校舎へと戻っていく。刹那も手を振り返して、資料を鞄の中に詰める。家に帰ったらゆっくり見よう、と決めて教室に向かおうとすると、
「あ、あの……っ、汐王寺先輩!」
 一年生の女子から声を掛けられた。
 その少女はどこか緊張しているようでもじもじしていた。その様子がとても可愛らしく見えた刹那は、あまり恐怖を与えないように、優しい表情と口調で声を掛ける。
「どうしたの?」
「あの……、これ……っ!」
 すっと一年生の少女は手紙を差し出した。刹那がそれを受け取ると、少女はぴゅーっと足早に去って行ってしまった。
 刹那が呼び止めるも、少女には聞こえていないようで、すぐに姿が見えなくなってしまう。刹那は受け取った手紙を読むと、疲れ切った溜息をついた。
 手紙には『放課後、体育館裏で待ってます』と可愛らしい字で書かれていた。ラブレターというやつだろう。同性からこれをもらうのも、今が初めてじゃない。
 別に嬉しくないわけじゃない。同性からでも、結構嬉しいものなのだ。ただなんだろう……出来れば異性からもらいたいかな。
 刹那はラブレターをポケットにしまうと、空を見上げる。見上げてふと、ある少年のことを思い出した。
「そういや……アイツ元気かな」
 中学時代に仲が良かった後輩。不良として恐れられていたが、話してみれば案外優しくて、それなりに話も弾んだ。こっちの話にも嫌な顔一つせずずっと聞いてくれていた。
 違う高校に入ったようだが、彼の不良伝説を聞かなくなった。
「……まあ不良やめたならそれはそれでいいけどさ」
 そんな刹那の耳に学校のチャイムが届いた。周りを見れば急いで教室に向かって行く生徒の姿があった。今のは始業開始五分前の予鈴だ。
「おっと、早く教室に行かないと」
 刹那も周りの生徒と同じように、駆け足で教室へと向かって行く。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.47 )
日時: 2014/11/07 23:56
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 3


 夏樹と真冬は並んで街を歩いていた。
 創立記念日が今日という学校はあまりないのか、周りに高校生ぐらいの生徒は全然見かけない。慌てて走っている制服の少年は、おそらく遅刻で急いで学校に向かっているのだろう。
 二人は傍から見ればただのカップルのように見えてしまう。しかし、普通より少しカッコいい程度の容姿である夏樹と、十人中十人が『可愛い』と答えるであろう真冬が歩ていると、夏樹に嫉妬じみた視線が向けられる。
 仲良く話しながら会話をしている二人。だが、二人の会話の内容は——
「えっ、悪魔って人型とかいんの?」
「うん。下級、中級、上級って分かれててね。下級は夏樹くんも一回見たと思うけど、生物っぽいフォルムだけど知能はほとんどないの。言葉も話せないしんだよ。中級は見た目は下級と変わらないものが多いけど、ちゃんと言葉が話せるの。上級はもう人と見分けがつかないんだよ。だから、今すれ違っても分かんないかも」
 とてもカップルらしい話ではなかった。
 それもそうだ。二人はカップルではなく、真冬は『ヴァンパイア』で夏樹は彼女に力を与える契血者(バディー)なのだから。
 おそらく養成学校で習った知識を披露する真冬。夏樹は真冬の説明を聞きながら、引きつった表情を浮かべた。
「……なんか大変なんだな。今改めて思ったよ」
「大丈夫だよ。夏樹くんはわたしが守るから」
 照れもせずにいつも通り優しい笑みを浮かべながら宣言する真冬。その表情にドキッとしてしまう夏樹。そろそろこの感覚にも慣れないとなー、と思うが、どうにも夏樹には美少女に対する耐性がないようだ。
「そういや、お前と契約した後、気付いたら指輪が嵌めてあったけど……これって契約と関係あるのか?」
「あ、説明してなかったね」
 夏樹は右手の中指に嵌められている指輪を見ながら聞いた。真ん中に赤い小さな水晶が埋め込まれているシンプルなデザインの指輪。真冬の中指にも同じものがある。
 真冬も思い出したように、
「それは『契りの輪』っていってね、『ヴァンパイア』と契約した時に出てくるんだよ。それは契約の証。『ヴァンパイア』と悪魔、それと契約した人間にしか見えないんだよ」
 それを聞いた夏樹はふーん、と納得したような声を上げた。
「なるほど。だから薫にもひやかされなかったし、クラスの連中にも気付かれなかったのか」
「……それはそうと、夏樹くん。その、怪我大丈夫……?」
 真冬が心配そうな表情で尋ねる。彼女のいう怪我とは『アサシン』という強襲部隊との戦いで負った怪我のことだ。当時は問題は怪我ではなく体内に侵入した毒をどうするか、というものだったが、よく考えてみればそれなりの重傷だった。
 夏樹は胸の中心に手を当てる。
「ああ。もう完治してるよ。ただ、朧月の親父さんがいうには痕は残るかもって。でも、だんだん薄れていくから、気にならない程度にはなるらしい」
「……そっか」
 夏樹はなんでもないように答えたが、真冬は自分を責めてしまう。あの時、自分がしっかりしていれば、怪我の痕も残らずに済んだだろう。一度怪我の痕を見たことがあるが、まだはっきりと三本の切り裂かれたような痕が痛々しく残っていた。
 真冬の暗い表情を見てしまった夏樹は、急に慌てて辺りを見回す。どうにか話題を変えなければ、と思ったところで、

 きゅぅぅ、という可愛らしい音が鳴った。

「……なんだ、今の音? 赤宮、お前も聞こえたか——」
 夏樹は真冬に視線を向ける。が、当の真冬本人は顔を両手で覆いながら座り込んでしまっていた。
「……お、おい……赤宮?」
「……うぅ……聞こえたんだ今の……。恥ずかしいぃ……」
 その言葉で夏樹は今の音の正体を察した。
 どうやら真冬のお腹の音だったらしい。朝ごはんは食べたものの、真冬はお腹が減ったようだ。そういえば、会って間もない頃、真冬が前日に食べた量を聞いて驚いた記憶がある。彼女は意外と大食いキャラだった。
 夏樹は近くの喫茶店にに視線を向ける。
「赤宮。そこの喫茶店、入るか?」
 こくり、と真冬は頷いた。

 喫茶店の中はまだ人が少なかった。
 今は十一時。昼にはまだ少し早い。いても両手の指で足りるほどだ。夏樹と真冬は席に通され向かい合うようにして座った。座ってすぐに、真冬はメニューを手に取りじっくりと見始めた。
 そしてすぐに悩ましい表情を浮かべる。何を頼むか悩んでいるようだ。
 夏樹は後でゆっくり決めよう、とスマートホンの電源をつけると同時に、
「おっまちー! こちら当店おすすめのスイートパフェでーす!」
 目の前に生クリームとフルーツがふんだんに使われた女の子が好きであろうパフェが目の前に置かれた。真冬は目を輝かせたが、夏樹と顔を見合わせて明らかにおかしいことに気が付く。
 夏樹と真冬はまだ注文していない。真冬は口惜しそうな表情をしたが、店員に間違いであることを伝える。
「すいません、わたしたちまだ頼んで——って、えっ!?」
 店員を見た夏樹と真冬は驚いた。
 黒髪のショートカットを後ろで短く束ねている活発なイメージを与える顔をした少女が、メイドっぽいウェイトレスの服でそこに立っていた。
 夏樹と真冬は彼女を知っている。
 同じクラスの美少女トリオ、通称『キューティーズ』のたいちょーこと金城真咲である。
「真咲ちゃん!? どうしてここに!?」
「どうしてって……ここあたしのバイト先だし。創立記念日だからシフト入れてもらったの。そのパフェはサービスだから食べな食べな」
 真咲はにこっと笑う。
 真冬はぱあっと表情を明るくしてお礼を言うとパフェを一口食べる。幸せそうな表情を浮かべながら、どんどんと頬張っていく。
「そういや、赤宮と金城って仲良かったな」
「おや桐澤くん。あたしの名前憶えてくれてたの? 嬉しいねぇ」
「なんでだよ。同じクラスだし、当然だろ」
「いやあ、あたしと桐澤くんってほとんど喋んないから、知らないのかと……」
 真咲は照れくさそうに笑った。名前を覚えてもらっていたのが純粋に嬉しいようだ。
「にしても、真咲ちゃん。その制服可愛いね! すっごく似合ってるよ!」
「んふふ、そお? 今ならポーズとっちゃうよ?」
 制服は似合っているのだが、服装とはあまりにもミスマッチな、グラビアアイドルがとるようなセクシーポーズを決めていく真咲。なんだか薫に近いものを、夏樹は彼女に感じた。
「んで、二人は何してたの? さっきの反応見る限り、あたしのバイト先に遊びに来たわけじゃなさそーだけど」
 真咲の質問に夏樹と真冬は言い淀む。
 クラスでの二人の認知は仲が良い男女だ。決して付き合っているわけではない。そんな二人が一緒にいたらそれは怪しまれるだろう。夏樹は当初のお出掛けの理由を思い出し、
「赤宮に街を案内してるんだよ。この前、家にないものがあったのに気付いて、でも店が何処にあるか分からないっていうから、店を教えるついでに」
「そっか。なんならあたしたちに頼めばいいのに。真冬っちも『キューティーズ』の一員なんだし」
 真咲は案外すんなりと納得してくれた。もしかしたらデートだとかからかわれるかと思っていたが、夏樹はほっと一安心した。
「ありがと。またの機会にお願いしようかな」
 真冬も夏樹に合わせるために笑みを浮かべるが、少し引きつっている。そして真冬は先ほど真咲がさらっと言った『キューティーズ』の一員という言葉に、今知りましたよ的な反応を見せた。
「しかし金城ってこういう接客業向いてそうだよな。天職だと思うぞ?」
「うん。真咲ちゃんと話してるとすごく楽しいし……お客さん受けもいいんじゃない?」
 二人から褒められた真咲はえへへー、と嬉しそうに笑うと、
「実は元々お姉ちゃんがここで働いててさ、あたしがバイト先を探し始めたらここで雇ってもらうよう店長に交渉してもらったの。数日様子を見てって感じだったらしいけど、あたしのあまりの仕事ぶりに店長から、働かないかと聞かれたよ」
 自信満々に語る真咲。この辺りも薫にそっくりだなあ、と夏樹は感じてしまう。
「あ、そーだ! お姉ちゃん桐澤くんと真冬っちのこと話したら会ってみたいって言ってたよ? ちょっと呼んでくるねー!」
 お姉ちゃーん! と大声で呼ぶ真咲。
 するとカウンターの奥の厨房から真咲と同じ制服を来た二十代前半であろう女性が出て来た。
 肩くらいのこげ茶色の髪に、顔には少しあどけなさが残っているため、美人というよりは可愛いと形容されるだろう。背は真咲より少し高めで、真咲より胸が大きい。
 済んだ瞳で夏樹と真冬を交互に見遣ると、にこっと笑みを浮かべて、
「はじめまして。真咲の姉の金城真桜(かねぎまお)ですっ!」
 意外と可愛らしい声で自己紹介をしてくれた。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.48 )
日時: 2014/11/09 14:36
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 4


「あ、おはよー」
 永原結花は家のドアを開けた。
 その先に立っていたのは茶髪のボブカットに無表情の少女、美少女トリオ『キューティーズ』の一員であるボブ子こと戸崎比奈だ。
 比奈は相変わらずの無表情で、結花に対する挨拶のつもりなのか、右手を軽く上げた。結花はそんな彼女を笑顔で迎え、家の中に入れた。
 二人は結花の部屋に入ると、ベッドの上に腰掛ける。
「で、出来たの?」
「うん。でもまだ未完成。これからゆーたすの意見を入れて加筆したり修正したり」
「見せて見せて!」
 結花に促されると比奈は持ってきていた鞄から十数枚の紙束を取り出した。それを結花に手渡すと、結花は嬉しそうな表情で紙束を一枚ずつじっくりと目を通していく。
「うん! すごく面白い! けど……」
「……けど?」
「……ちょっと細かい指摘になるけど、いい?」
「……かもーん」
 二人は妙に真剣な面持ちで言った。
 今比奈が結花に見せたのは、比奈が自分で書いている小説である。
 彼女の将来の夢は小説家になることで、今から自作の小説を書き始めている。そのことを偶然知った結花を読者に選び、話が進んでいくごとに友人である結花に読んでもらい、たびたび意見やアイデアを取り入れているのだ。
 彼女のテストの成績は中の下程度だが、国語の点数だけは毎回高得点である。そのせいか、彼女の文才や語彙は相当なものだ。中には結花が読めなかったり、意味が分からない言葉も出てきている。
 比奈が書く小説のジャンルは様々だが、今書いているのはファンタジー系のストーリーである。
「……でさ、この妖精ちゃんの口調なんだけどさ」
「特徴を持たせようと。四字熟語をたくさん使うキャラにしました」
「うん。それはいいんだけど……この金科玉条(きんかぎょくじょう)ってどういう意味?」
「……その人が最も大切にしている信条。ここでは主人公の不殺を指している」
「うーん……ボブ子の小説面白いんだけど……ボブ子なしじゃよく分からない言葉があるんだよなあ。金科玉条なんて初めて聞いたよ?」
 言われ、比奈が無表情のまま顎に手を添え考え込む。語彙があるというのも悩みものだな、とどうすべきか思っているのだろう。
 比奈が小説を書いているのを知っているのは結花の他に真咲がいる。結花の先に真咲に知られ、真咲からも読ませてと言われ読ませたところ、難しいと一刀両断されてしまった。
 だからこそ、真咲よりも読書量が多い結花を読者に選んだのだ。
「たしかに、小説で難しい言葉はたくさん使われるけど……」
「もうちょっと一般的なものを使え、と?」
 こく、と結花が頷いた。
 いつも無表情な比奈が難しい顔を作る。
「そうだ。今度真冬ちゃんにも読んでもらえば?」
「ふゆたんに?」
 結花の提案に眉間のしわを消し、比奈が首を傾げた。
「うん。前から思ってたんだけど、わたしの意見だけじゃお話が偏っちゃうと思うの。もう少し客観的な意見を取り入れた方がいんじゃないかな?」
「客観的な……じゃあふゆたんだけじゃなく、桐澤くんや奏崎さんにも頼もうかな」
「お、いいじゃんいいじゃん! ボブ子がそんな積極的になるなんて、わたしは感動だよ!」
 真冬や夏樹ならきっと読んでくれるだろうし、頼られるとでれっとする薫。比奈の人選は見事なものだ。見ていないようで、案外人を見ているのが戸崎比奈の怖いところである。
「でも、私桐澤くんと奏崎さんの連絡先知らない」
「それもついでに聞いて、小説読んでもらえば? ほら、ボブ子前から桐澤くんのこと気になってたじゃん!」
「えっ!? そ、そんなことは……!」
 いつも無表情な比奈が顔を赤くし、あきらかに動揺した。こんな比奈を見るのは初めてで、結花は不覚にも可愛く思ってしまった。まさかボブ子にこんな感情を抱くとは、とギャップにドキッとしてしまっている。
「いいなあ、真冬ちゃんもボブ子も。恋をしていて」
「だ、だから私はそういうのじゃ——!」
「……わたしも恋、してみたいなあ……」
「『キューティーズ』一のモテ女が何を言う」
 言われた結花は『うっ』と図星を疲れたように、声を上げた。
 比奈の言う通り、結花は『キューティーズ』の中で一番モテる。お馬鹿な内面を知らない男子どもから告白されたことだってあるらしく、中学三年生の一年間で、十人以上の男子から告白された経験だってある。
「その気になれば、彼氏の一人や二人くらい」
「付き合う人だから真剣に選びたいの! あー、どこかに素敵な人いないかなー」
「……桐澤くん、とか?」
「……真っ先に思い浮かぶあたり、やっぱりボブ子……」
「な、なしなし! 今のなし! 取り消し! 訂正! 前言撤回!」
 柄にもなく慌てる新鮮な比奈を見て、結花はくすくすと笑った。
 そんな心の中では、比奈に言われたことを少し考えてもいた。
 ——桐澤くん、かあ。
 実際、結花もノーマークだったわけではない。自分の落とし物に遅くまで付き合ってくれた時に、少し意識するようになり、それ以降話す機会に恵まれなかったものの、いいなあ、と思うくらいにはなっていた。
 しかし、以前からいた奏崎薫という存在、さらには赤宮真冬というライバルの出現に加え、友人である戸崎比奈の想い人でもあるため、無意識に夏樹を対象から外していたのかもしれない。
「——ねえ、ボブ子」
 結花は自分でも知らずの内に言葉を発していた。
「……なに?」
 まだわずかに顔を赤くしたボブ子が聞いてくる。
「……もし……確定した話じゃなく、まだ仮の、たとえばなんだけど……」
 真剣な話をする空気を感じ取ったのか、比奈は結花に向き直っていつもの無表情に戻った。
「……わたしが、桐澤くんのこと好きなったら、どうする……?」
「………………え?」
 比奈の心がズキン、と痛んだ。
 思い切り動揺した様子が表情に出てしまったのか、結花は真剣な表情から、すぐに口元を緩めると、
「なーんてね! 大丈夫大丈夫! ボブ子の好きな子とったりしないって! トイレ行くついでに飲み物淹れてくる! オレンジジュースでいいよね」
 そう言って結花は部屋を出て行った。
 一人残された比奈はそのままベッドに仰向けに倒れ込むと、さっきの結花の言葉を思い出していた。
「……むりだよぅ……」
 比奈が普段は出さないような高く可愛らしい声で呟いた。
「……ふゆたんに奏崎さんに……そこにゆーたすまで出てきたら……私は勝てないよぉ……」

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.49 )
日時: 2014/11/10 13:30
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 5


 喫茶店のテーブル席に四人の人間が座っていた。
 傍から見ればそれは少しおかしな組み合わせだろう。二人は普通に客として来ているのだろうが、もう二人はメイド風の服を着た、店の従業員だ。
 夏樹と真冬は並んで座り、目の前に金城姉妹が並んで座る。
 こうやって並んでみると真咲と真桜は似ている。真咲によると真桜とは八つ違うそうだから、二十代前半だろう。だが、まだ高校生といっても通じるくらい若く、それでいて大人の雰囲気もちゃんと併せ持っている。
 目の前の女性に真冬は羨望の眼差しを向けていた。二十代にも関わらず、とても若く見えるし、何より魅力的だ。整った顔立ちもそうだが、胸が大きい。スレンダーなだけで胸にはあまり自信がない真冬にとって、真桜は女性としての理想像といっても遜色ないだろう。
 真冬が真桜との女性としての魅力の差に溜息をつくと、真桜が口を開いた。
「いやー、真咲から聞いてるよ。クラスにすごく優しい男子と、目を疑うくらい可愛い転校生が来たって。一度会ってみたかったんだよねー。真咲の友達といえば、あたしはゆーたすとボブ子しかしらないから」
 あははー、と笑いながら話す真桜。
 真咲と似て、いや真咲が彼女に似たというべきか、同じように明るく快活な喋り方だった。それよりも少し楽しそうに見えるのは、妹の友達を目の前にしたからだろう。まるで息子か娘が恋人を連れて来たようなテンションだ。
 真桜は目の前の夏樹と真冬を交互に見遣って、
「……んん? えーっと……」
 急に真桜が困り顔を作った。
 なにか自分たちにおかしなところでもあるのだろうか、と夏樹と真冬はお互いの顔を見合わせるが、別になにかついているわけでもなく、いたって普通だ。
 真桜が夏樹、真冬の順番で見つめていく。
「……えーっと、君が桐澤夏樹……くん? それともちゃん? ちょっと待って、どっちが桐澤夏樹さん!?」
 どうやら、どちらが『夏樹』という名前の人物か分からなかったらしい。
 真桜は真咲の話を聞いていたものの、『すごく優しい男子』と『目を疑うくらい可愛い転校生』のどっちが夏樹でどっちが真冬かはあまり聞いていなかった。
 『夏樹』という名前は本来女子っぽい名前だし。男子にも使えることは使えるだろう。『真冬』にしても同じことが言える。
 真桜が困っているのを見兼ねて、夏樹がため息交じりに片手を低く挙げた。
「あー、俺が桐澤夏樹っす」
 女子っぽい名前のせいでこういう思いをするのは何度目だろうか。一階だけではない。小学校や中学校、高校に入りたての頃に名前を呼ばれるとき、男子で自分だけさん付けで呼ばれる。
 この記憶とともに、『なっちー』という忌々しいあだ名も蘇ってきた。
 夏樹と同じように真冬も自分の名前を名乗る。
「わたしが赤宮真冬です。よろしくお願いします」
 ぺこっと小さくお辞儀をする真冬。
 そんな真冬を見た真桜はテンションが上がる。
「すっごい可愛いんだけど! ねえ真咲、なにこの子! 超可愛い! 娘にしたい! いろいろ服を買ってあげたい!」
「ねーねー、可愛いよね! あたしも妹に欲しいもん! 一目見た時に天使が舞い降りたと思ったよ!」
 真冬の可愛さに感動する姉とそれに同意する妹。言われている真冬本人は顔を真っ赤にして、二人の意見を否定しているが、二人の興奮は止まらない。どころか、むしろ熱を増している。
 止めても無駄だと判断したのか、真冬は諦めていたが、その間も姉妹の真冬を愛でるタイムは続いた。
 ようやく落ち着いたのか、二人が乱れた呼吸を整えていた。そこまで盛り上がっていたのか、と話し合いで息を切らしたことのない夏樹は少々呆れたが、薫がギャルゲーのキャラについて語っている時に息が荒くなるのと同じようなものか、と納得した。
 真冬について一通り話しきった真桜は夏樹をじっと見つめる。次の彼女の注目は夏樹になったのだ。
 年上の女性に見つめられる、ということがなかったため、動揺してしまう夏樹。それも真桜という美人な女性ならさらに緊張してしまう。
 真桜がだんだん身を乗り出し、顔を夏樹に近づけていく。そのせいでテーブルに胸が押し付けられ、彼女の豊満な胸が強調されてしまっている。それが視界に入ってしまい、夏樹は余計に動揺してしまう。
 むふふー、とにんまりとした笑みを真桜が浮かべた。
「桐澤くん……中々カッコいいねぇ。ねえ、彼女とかいる?」
「……へ? いや、今はまだ……」
「じゃあさ、年上のお姉さんはどうかな? キミの知らないこと、いっぱい教えてあげるよ?」
 真桜が夏樹の頬から顎へ指を這わせていく。大人の妖艶さと魅力を使ったお色気攻撃。夏樹が籠絡寸前のところで、

「ダメーーー!!」

 真冬と真咲の両方から止めが入った。真冬は夏樹に、真咲は真桜にしがみついて二人を止める。別に夏樹を止める必要はなかったのだが、真冬は自然と身体が動いてしまったのだろう。
 いいところを邪魔された真桜は口を尖らせて真咲を見つめる。
「ダメだよ、お姉ちゃん。桐澤くんは真冬っちのなんだから、取っちゃダメだよ」
「あーそっか、いっけね」
「なっ……!?」
 真咲のいきなりの発言に真冬が顔を真っ赤にする。
「そ、そんなんなじゃないよ! 夏樹くんは、ただの友達だもん!」
 真っ赤な顔で必死に否定する真冬。
 一方の夏樹は、自分は真冬にそういう見方しかされていないのか、と少し悲しい気分になる。(仕方がなかったとはいえ)真冬と二度もキスしたのだから、もうちょっといい評価でもいいんじゃないだろうかと思うが、真咲や真桜に『ヴァンパイア』のことを話すわけにもいかないし、ここはこういうしかなかったのだろう。
 それでも今のが真冬の本心のような気がして、やはり夏樹の心はどこか寂しかった。


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