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- ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
- 日時: 2015/07/18 08:39
- 名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)
はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。
今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。
主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。
各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪
ではでは、次のレスから始めていきますよー!
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- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.15 )
- 日時: 2014/04/20 20:20
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
8
とりあえず校舎から出た夏樹と真冬は言葉を交わそうとはしなかった。
真冬は何を言えばいいのか分からず、時折夏樹に声を掛けようとしたが、あんなことがあった後で、何を言っていいか迷い、結局話しかけずにいた。
夏樹も夏樹で、『「ヴァンパイア」のことは話したい時に話せばいい』と言ってしまったため、中々聞きだすことが出来ずにいた。
校門まで歩いて行くと、遂に夏樹は勇気を振り絞って真冬に声を掛けた。
「あ、赤宮……家の近くまで送ろうか?」
声を掛けられた真冬は思わず驚いてしまい、『ふぇ!?』などという間の抜けた声を出してしまった。
「え、えっと……じ、じゃあ……お願いします」
真冬は恐る恐るといった調子で頭を下げて来た。
なんだか勘違いしてしまいそうな答え方に、夏樹は思わずドキッとしてしまうが、それを何とか表に出さず、いたって冷静を装って真冬とともに歩いて行く。
その途中も二人とも無言で、どちらからともなく声をかけようとはしなかった。
このままではいけない、と思いながらも二人とも声は出なかった。
話す内容がない、というのももちろん理由の一つではあるが、先ほどの学校での謎の男の襲来もあって、とても話す気になれないというのもあった。
あの男が何者なのか、ということが気になる夏樹だが、話したくない真冬に聞くのも悪いかと思い、彼女が話すまでは一応待っておくことにした。
真冬はこのまま黙っておくことも悪いと思い、意を決して夏樹に声を掛ける。
「ねえ、夏樹くん」
「どうした?」
声を掛けられて僅かに驚いたような表情をする夏樹に、真冬はどう言ったものか、と躊躇ったような様子を見せたが、話すことは決まっていたので手短に答える。
「……その、話すよ。さっきの人のことと……私のこと」
「え……」
真冬の言葉に夏樹は驚いた。
確かに彼女に話してもらうのは望んでいた結果ではあるのだが、あまりにも早過ぎる。夏樹としては、これを理由に彼女と徐々に距離を縮めて仲良くなっていこう、と思っていたためここで接点が一つ消えてしまうと、これ以上仲が進展しないという不安があった。
しかし、このままではもやもやしてどうも落ち着かないので、少し残念な気もするが話を聞くことにした。
「分かった。……話せるなら、話してくれ」
真冬が頷いて話し始めようとした瞬間、二人は何かに見られているような気がした。
視線は先の曲がり角から感じ、二人はゆっくりとそちらへと視線を向けていく。
角から現れたものに息を呑んだ。
四足歩行の生き物だった。だが犬や猫に比べて明らかに大きい。高さは大体人と同じくらいで、身体は全身黒色に彩られている。四つの足はどこか昆虫に似たもので、その上にある胴体であろう部分は、楕円形になっており、先端にはぎょろぎょろと動く丸い瞳がつけられていた。
一言で言うならば異形、という言葉が一番似合う化け物だった。
その異形の生物は夏樹と真冬を見つめたまま、動こうとしない。夏樹と真冬もその異形の生物を見たまま、硬直している。
夏樹は小さい言葉で真冬に聞いた。
「……なあ、アレの正体も……お前知ってるのか?」
「……知ってる、けど……。説明は後にしていい? あれは……」
かさ、という昆虫が動き出しそうな音ともに、異形の生物が一歩踏み出したところで、二人は戦慄した。
五〇メートルほど離れたところから、ものすごい速度で迫ってくる。
「めちゃくちゃ速いからっ!」
「それを早く言えっ!」
夏樹と真冬は異形の生物が追いかけると同時、一目散に走り出した。
異形の生物はスピードを緩めるところなく、出来るだけ曲がり角を利用して逃げる夏樹と真冬を追跡する。確かに真冬の言う通り四足歩行の生物は早かった。
「あー、もう! あんなのどうすりゃいいんだよ!? 赤宮、お前吸血鬼だろ? 何とか出来ねーのか?」
「吸血鬼じゃなくて『ヴァンパイア』!」
「どっちでもいいわ! 何とか出来るのか、出来ないのか言ってくれ!」
「……出来るけど、なるべくこの手は使いたくないし、夏樹くんにも迷惑かけちゃうし……」
真冬が悩んでいる間にも異形の生物は徐々に距離を縮めてくる。残り距離は三〇メートルあるかないかだ。このままではいつか追い付かれて、あの生物に何をされるか分かったもんじゃない。
だが、今ここで助かるなら迷惑なんていくらでも被ってやる覚悟は夏樹には出来ていた。今は迷惑より、命を守る方が先決だ。
「別にいいよ、迷惑ぐらい! とりあえず助かるんだろ!?」
「……うん」
「じゃあその手を使え! どんな迷惑だっていいから!」
分かった、と夏樹の覚悟を受け取った真冬は力強く頷くと、その場で急に走る足を止めた。
それに驚いた夏樹も少し進んだところで、思わず足を止めてしまう。
「な、なにしてんだよ! 追い付かれるぞ!」
化け物との距離は残り二〇メートルもないだろう。あの化け物の速度を考えれば、あってないようなものだ。真冬は夏樹に向かって、余裕が無いような調子で叫ぶ。
「夏樹くん、お願い! 目を閉じてて! 出来れば、やっている時の行為は見られたくないから……」
「は?」
意味が分からなかった夏樹だが、戦っている時の様子を見られたくない、という意味と受け取ったのか真冬の言う通り目を閉じると、不意に自分の胸に真冬の手が添えられた。
「——ちょっとだけ、我慢してね」
言われ、疑問を口にする前に、
夏樹のうなじに鋭い痛みが走った。
思わず目を開くと、目の前に真冬の首筋があった。さらには真冬の女の子特有の甘い香りまで漂ってくる。
だが今はそれどころじゃなかった。真冬の顔を確認しようと視線を巡らすと真冬は自分のうなじに噛みついていた、痛みの原因はどうやらこれだったらしい。
夏樹はこれが『ヴァンパイア』の吸血行為だと理解するのに、少し時間がかかった。
異形の生物が残り数メートルまで近づいてきたことを夏樹が伝えようと口を開きかけた瞬間に、
目の前から真冬の姿がかき消えた。
すると急に異形の生物の動きが止まり、その直後に身体が真っ二つに割れ、次々と身体が裂けていった。
バラバラになった身体から赤い炎が噴き出し、周りも赤い炎に包まれた。
夏樹はこの光景にデジャヴを感じていた。そうだ。今日の朝に夢に見た、あの光景と同じだ。
あとはあの女がいれば、長い赤い髪を持った少女がいれば、あの夢の通りだ。しかし、あの少女がここにいるのならば、その少女は彼女以外考えられないことになる。
途端に上空から一人の人物が着地した。
腰まで伸びる赤い髪に、燃えるような赤い瞳を持ちながら、どこか冷酷な色を帯びていた。
「……お前、まさか……」
その少女は夏樹へと振り返りながら、悲しそうな表情をした。
「目を、開けてしまったのか……」
「……赤宮、真冬なのか?」
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.16 )
- 日時: 2015/07/07 11:53
- 名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)
第二章 ヴァンパイア
1
目が覚めた。
桐澤夏樹はベッドの上で意識を覚醒させた。
目を覚ましたからといってすぐに起き上がるわけではない。夏樹はぼーっと移ろげな表情で、自分の部屋の天井を見上げている。
「……夢か」
どうも意識がはっきりしていない。
意識を失う前のことははっきり覚えている。
確か自分のクラスに可愛い転校生がやって来て。席が隣で少し話して。自販機の前でいきなり倒れたから保健室に運んで。その時のお礼と称して掃除を手伝ってもらって。窓から侵入してきた変な男に追い掛け回されて。美術室の地下に逃げ込んで助かって。帰る途中に説明不能な生き物にまた追い掛け回されて。それから助かるために——。
そこからの記憶がない。
僅かに首筋とお腹辺りに痛みが残っている。表面ではなく、身体の芯に痛みが存在しているような感覚だ。
「……夢か?」
先ほどとは違うイントネーションで夏樹は呟く。
そうだ。自分の記憶にあるのは全部壮大な夢だったのだ。夢から目が覚めた、ということは自分は夢の中で死んだのだろうか、という腑に落ちない点もあるが、それはまあいいとしよう。
そうだ。今日はまだ平日だ。夢の中で夢を見たという夢を見た夏樹は、今から始まるであろう妹様の早口言葉を待ちながら、身体を起こし携帯電話に手を伸ばそうとしたところで——。
ベッドの横に何かが横たわっていることに気が付いた。
見てみればそれは人ではないか。
夏樹は、てっきり梨王が寝ぼけてここにやって来たのか、と思いながらその人物を起こそうと声をかけようとしたが、そこで動きが止まる。
あらかじめ言っておくが、夏樹の妹である桐澤梨王は、可愛いが美少女と呼ばれるほどの容姿かどうかは分からない。
まず、彼女の髪は赤くない。茶髪のツインテールだったはずだ。
そして、夏樹と同じ学校の制服を着ているはずはない。彼女はまだ中学生だ。
最後に、もう一度言うが美少女ではない。
——そう。
夢の中で出会ったような、赤い髪の美少女——赤宮真冬などではないはずだ。
「……なんで、赤宮が俺の部屋に……?」
夏樹は状況が理解できず冷や汗を滝のように流した。
もしやここは自分の部屋じゃないのでは、と辺りを見回すが完膚なきまでに自分の部屋だった。見慣れた、特に特徴のない部屋だった。
夏樹は携帯電話を手にして、日付を確認する。
土曜日だ。夏樹のクラスに真冬が転校してきた翌日の日付となっている。
ということは、あれは現実だったのだ。
変な男や怪物に追い回されたのは、紛れもない現実に起こったことなのである。
自分が覚えてない以上、あれからどうなったのか、真冬に問いたださねばならない。
しかし、気持ちよさそうに寝てる真冬を起こしていいものか、夏樹の良心がその行動を思い留まらせる。
真冬は制服のまま眠っていて、その寝顔はとても愛らしいものだった。真冬の性格を知らずとも、この表情だけで恋に落ちてしまいそうだ。
夏樹は顔から下へと、真冬を見つめていくと、そこで異常事態が起きていることに気が付いてしまった。
横になって寝ている真冬のスカートが、微妙にめくれ上がって、中の下着が見えそうになってしまっている。
健全な男子高校生である夏樹に、この光景は刺激的だった。
同い年の女の子の、太腿が惜しげもなく晒されている。とても魅力的で、思わず言葉にしてはいけないことをしてしまいそうになるが、そこはどうにか理性を保たせる。
そこで、夏樹はこのスカートをどうするか悩んだ。
選択肢は二つしかない。
一つ。そっと直してあげるか。
二つ。見なかったことにするか。
以上のどちらかである。
二つ目のリスクは五分五分だ。今の体勢のまま真冬が目を覚ませば確実に下着が見えることなく、セーフとなるが、ここで寝返りをうたれたら、もしかしたらめくれ上がって、中が見えてしまうかもしれない。
一つ目のはリスクが低めだ。
今の真冬はどうやら熟睡している。だったらスカートをちょちょいと直すくらいで起きはしないだろう。すぐに直してしまえば問題ない。だが、直している途中に起きられたら地獄を見る。
夏樹が腕を組んで真剣に悩んでいると、真冬は僅かに息を漏らして、身体を少し動かした。
オーマイガッ! そのせいでさらにめくれ上がって、もう位置を移動すれば見える状態だ。
夏樹は意を決して、一つ目の選択肢を実行するため、ベッドから降りて、スカートを直すため、手を伸ばす。
真冬の脚は凄く綺麗で、肌もすべすべで気持ちいい感触がありそうだ、と思ったが、余計な煩悩を振り払って、真冬のスカートの裾をつまんだ。
これであとは下げればミッション完了。
夏樹はそーっとスカートの裾をさげていく——。
「……ん」
真冬は目を覚ました。
だがまだ意識ははっきりとせず、自分が何処にいるのか分からなかった。
真冬は寝転がったまま、まずは場所を把握するため、身体を起こそうと腕に力を込めて、上体を起こす。
すると、彼女の目に飛び込んできたのは桐澤夏樹の姿だった。
彼は何やら真剣な表情をしているが、何をしているかはいまいち分からなかった。真冬は目に映った人物を、小さい声で呼んでみる。
「……夏樹くん……?」
すると彼はびくっと大きく肩を揺らした。
真冬は辺りを見回して、自分が見たことのない光景に戸惑いながら、彼に問いかける。
「えっと……ここって一体……」
真冬は、そこで夏樹の動きが止まっていることに気が付いた。
真冬が彼を全身を認識すると、彼が自分のスカートの裾をつまんでいることが分かった。
真冬はスカート、夏樹、部屋という順番で見るのを数回繰り返してから、意識がはっきりしてきたのか、徐々に目の焦点が合ってくる。
そして、微妙にめくれ上がったスカート、夏樹の手の位置、見知らぬ部屋——真冬もようやく状況が理解できてきたようで、これらのキーワードから導き出せる答えを、真冬は掴んだ。
——微妙にめくれ上がっているスカートの裾を、夏樹がつまんでいるということは——。
ボッ!! と真冬は自分の顔が赤くなるのを感じた。
おそらく今は耳まで真っ赤だ。涙目になっているかもしれない。
状況を理解した夏樹(はんにん)は裾から手を放して、手を顔の前でぶんぶんと振りながら言い訳を述べる。
「ま、待て赤宮! 違うんだ! こ、これは……!」
「……夏樹くんの……!」
真冬はぎゅっと小さい手で拳を握りしめる。
そのまま思い切り振りかぶって狙いを定める。
「……夏樹くんの、お馬鹿さぁーん!!」
真冬の拳が思い切り夏樹の頬にめり込んだ。
こんな力強かったっけ、と思うほどの威力があった。
夏樹は全ての音が遠ざかり、消えゆく意識の中、三つ目の選択肢を今更ながら見つけた。
三つ。そのまま布団を掛けてあげる。
ああ、一番リスクがなくて平和的な解決方法だ……。
安心した夏樹は、そのまま頭をベッドの角にぶつけてしまい……。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.17 )
- 日時: 2014/05/26 18:41
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
2
「ほんっっっとに、ごめんなさいっ!!」
ゴン!! と額を床にぶつけながら土下座の体勢で真冬は夏樹に謝罪している。
「いや、いいよ。俺も勘違いさせたわけだし……布団かけてあげればいいだけだしな」
夏樹は頬にはたかれた痕を残しながら、懸命に謝る真冬に声を掛ける。
しかし真冬は、親切でしてもらったことなのに、自分の勘違いで平手打ちを食らわせたことを心底申し訳なく思っているのか、一向に顔を上げる様子がない。
「でも、でも……」
夏樹はどうしたものか、と考える。
ここまでへこんでしまった女子の慰め方を夏樹は全く知らない。妹の梨王も幼馴染の薫もここまで落ち込むことがないからだ。その二人を除くと同年代との女子との関わりがない夏樹にとって、これは初めての事態だった。
夏樹がどうしようかと悩んでいると、真冬は申し訳なさそうな表情を浮かべながら顔を上げる。
「……夏樹くん、その、わたしが自分をどうしても許せないから……いつか、夏樹くんが困った時に声をかけて! 何でもするからっ!」
真冬にすごい勢いで言われてしまい、何故か夏樹は戸惑ってしまった。
僅か十数センチまで、真冬との顔の距離が縮まる。
真冬はそれに気づいていないようで、夏樹は僅かに顔を赤くしながら目を逸らす。
「……赤宮、近い……」
「えっ!? あ、ごめん……」
真冬も顔を赤くして、夏樹に近づけていた顔を離す。
二人は数秒黙ってしまい、静寂が重くなってくる。
そこで、夏樹は思い出したように声を上げた。
「赤宮、聞いていいか? 吸血鬼のこと。この前……っていうか、昨日になるのか。速くてキモイ化け物に追い回されて聞けなかったし」
「うん、いいよ。でもね夏樹くん、吸血鬼じゃなくて『ヴァンパイア』だって……」
「それはどうでもいいだろ? 同じじゃねーのか?」
「同じじゃないよ! 気分が違うもん!」
「和風か洋風の違いだ!」
その議論は後々改めて行うとして、夏樹は説明を真冬に促した。
真冬は正座をして、軽く咳払いをしてから話し始める。
「えっと、まず夏樹くんはどこまで覚えてる?」
夏樹は自分の記憶を辿ってみる。
鮮明に残ってるのは速くてキモイ化け物に追い掛け回されたところまで。そこから記憶が曖昧だ。何故自分が部屋にいたのかさえも思い出せない。
「……悪い、いまいち思い出せない。追いかけられたのは覚えてるんだけど……」
「そっか。分かった。どこまで知ってるか知るには……」
突然、周りの空気が変わったような気がした。
この感覚は知っている。夢の中で一度、現実の中でも一度体感している。優しい炎に包まれるような、そんな感覚。
「見せた方が、早いよね」
すると、真冬を中心として炎の渦が巻き起こる。
だが部屋が焼けたり燃えたりすることはない。炎独特の焦げるような匂いもないし、触れても熱くなさそうな気さえする。
炎の勢いが弱まっていき、中にいる真冬が徐々に姿を現してくる。
その姿は、炎の渦に囲まれる前とだいぶ違っていた。
腰まで伸びる赤く長い髪は、床にまで達しており、さっきと全く同じ姿勢と身長のはずなのに、まとう落ち着いた雰囲気からより綺麗な姿勢で身長も高く感じられる。
閉じられていた瞳が開くと、赤色の瞳からは色とは対照的な冷たい印象を感じさせる。
夏樹はその姿を十数秒もの時間をかけてじっくりと見た。
目の前にいる少女も夏樹に視線を合わせている。
夏樹は少女をしっかりと見据えながら、ゆっくりと口を開いた。
「……お前は……やっぱり、赤宮なのか……?」
夏樹の問いかけに少女は眉ひとつ動かさなかった。だが、ゆっくりと目を閉じて考え込むような沈黙を数秒続けてから、目を開く。
「そうだ」
夏樹の知っている真冬の喋り方じゃなかった。
だがそれを気にする風もなく、目の前にいる赤宮真冬は説明をしようと、再び口を動かした。
「……この姿に、見覚えはあるようだな。何回だ?」
「……二回」
そうか、と真冬が短く返事をする。
「なら話が早いな。じゃあまずは、私のこの姿から説明した方がいいかな」
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.18 )
- 日時: 2014/05/31 15:40
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
3
「幾度も言っているが私は『ヴァンパイア』だ。吸血鬼でも間違いじゃないが……出来れば『ヴァンパイア』と言ってほしい」
真冬はそんな風に切り出した。
髪の短い真冬よりもしっかりとした口調で話す、髪の長い真冬はこほんと咳払いをして説明を続ける。
「私たちはこの世界の住人ではない。私たちの住む世界は『天界』と呼ばれている」
「……天界? 天国ってことか?」
夏樹の質問に真冬は首を横に振った。
「平たく言えば異世界。死者が辿り着くような場所じゃない。人間界と似ているが、唯一違う点があるとすれば魔族がいるところだな」
真冬はそう言った。
魔族という言葉に夏樹が首を捻っていると、真冬が小さく息を吐いて説明を始めた。
「魔族というのは人の姿にある超常的な能力を宿した者のことだ。そうだな……分かりやすいものといえば、オオカミ男とかか? あとは人魚とか……」
「お前らの世界には人魚がいるのか」
「いる、らしい。見たことはないが。そんなことはおいといて、説明を続けるぞ」
真冬は魔族についての話を適当に終えて、説明を再開する。
「『天界』の人口のおよそ六割が魔族で占められていて、その四割が私たち『ヴァンパイア』となる。私たちはそんな世界で元は暮らしていた。しかし最近ある問題が発生した」
「問題?」
真冬がこくりと頷く。
鋭い瞳で夏樹を真っ直ぐに見つめながら長髪の真冬が口を開く。
「『天界』にたびたび蔓延っていた悪魔たちが、最近になってこの人間界に侵入を始めたのだ。『天界』には悪魔を討伐する組織があるとはいえ、こちらばかりに人員を割くわけにもいかん。だからこそ、戦闘能力を持つ私たちが派遣されてきた」
昨日見た、四足歩行の高速で追いかけてきたあれもおそらくは悪魔だろう。あんなものは生まれて初めて見たが、今まで目撃しなかったのは、『天界』にある悪魔討伐組織が迅速に処理していたからに違いない。
真冬は正座をしたまま続ける。
「……しかし、私たちは『ヴァンパイア』だ。血を吸わなければ力を得られない。そのために必要なのが血を吸う対象……つまりお前たち人間が必要だ」
「『ヴァンパイア』同士じゃ無理なのか?」
「さあな出来るかもしらんが、それに辿り着けるかだ」
夏樹が首を傾げる。
「派遣された『ヴァンパイア』が一体どれだけいると思っているんだ。大して多くはない。別の『ヴァンパイア』と運よく巡り合えるかどうか」
真冬の話だと送られてきたの『ヴァンパイア』はおよそ百人。しかし、その全員が同じ場所に固まっているのではなく、方々に飛ばされているのだ。都道府県一つ約二人程度の割合になるので、見つけるのは相当困難だろう。
「『ヴァンパイア』は基本的に老若男女関係なく血を吸うことが出来るが、契約を交わした相手でないと、血を吸っても力に変換される値が少ない。私たちが必要としているのはただ単に血だけではなく、私たちと契約を交わしてくれる人間なんだ」
『ヴァンパイア』の力の源となる血。
真冬が言うには昨日四足の悪魔を倒した時に周りで揺らめいていた炎。あれは血液を体の中で魔力に変えて発生させたものなのだという。つまり、真冬たちは血を吸えなければ悪魔を倒すことはおろか、『ヴァンパイア』としての力を発揮することもできないのだ。
真冬は真っ直ぐと夏樹を見据えて彼に言う。
「頼む夏樹。……私の血を吸う相手に……契血者(バディー)になってくれ!」
「……な、なってくれって……」
夏樹は動揺する。
真冬の頼みを断る理由はなかった。彼女が困っているのは確かだし、実際に悪魔に襲われたのを助けてくれたりもした。そしてこれからもそんな危険が起こるかもしれないことを考えると、真冬と英訳を交わして彼女に守ってもらった方がいいのは確かだ。
だが、夏樹はだからこそ素直に首を縦に振ることが出来なかった。
夏樹はただの高校生である。
中学生時代こそ少しやんちゃをしていたけれど、それでも一般の人より少し喧嘩が出来るだけであって、悪魔などという未知の生物を目の前にすれば手も足も出ない。校内で襲ってきた大爪の男相手にも逃げることしか出来なかったのだから。
自分が傍にいることで、足を引っ張って真冬が危険な目に遭ってしまうのではないか、ということを夏樹は危惧していた。
夏樹が答えるのを躊躇っていると、真冬は短く息を吐いた。
「……今すぐ答えてくれなくていい。それもそうだ。大事な、問題だしな」
真冬がゆっくりと目を閉じると、身体が僅かに赤い光を帯び、彼女の髪が短く変化していく。
元の、夏樹の良く知る真冬に戻ったのだ。
時間経過で戻るのか、もしくは自分の意志で変えたのか。よく分からないが、真冬の姿が元に戻り夏樹は小さく息を吐く。
「……でももし、夏樹くんが……わたしと契約してもいいって思った時は……言ってね」
「ああ。それは約束するよ」
夏樹の言葉に真冬はにっこりと笑った。
そこで、夏樹はふと疑問に思ったのか、それを口にする。
「なあ。契約って具体的に何をするんだ?」
「えっ!?」
真冬の顔が急に真っ赤に染まる。
真冬があたふたし始める。当然夏樹にはその意味は分からない。
「……え、えーと……」
真冬は俯き加減に小さな声で言う。
「……け、契約の時に言うよ……」
「そうか?」
結局、夏樹には真冬が恥ずかしがっている様子は分からなかった。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.19 )
- 日時: 2014/06/10 02:21
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
4
夏樹と真冬は部屋から出て、下の階に下りてみたが家の中には誰もいなかった。母親は仕事だろうし、梨王も友達と遊びに行っているのか、二人の靴も置いてなかった。
時間を確認してみると十一時に差し掛かるところだった。
朝に何も食べていないため、夏樹も真冬も腹を空かしていた。夏樹は私服に着替えて、出掛ける準備をしていたが、
「……な、夏樹くん……わたし、どうしよう……?」
昼ご飯のついでに街を案内しようと思っていたのだが、真冬は制服しか今は手元にない。他の服は彼女の家だろうし、取りに行くのも面倒だ。
夏樹は女子が着ても平気そうな服を探そうとタンスの中を漁っていると、
「……これじゃダメか?」
夏樹はある物を見つけた。
それは衣替えの際に、梨王が『これあたしの衣装ケースに入らないから入れといて!』と言われて渡されたものだ。普段使用されることはなく、夏樹としてもタンスの中にあるだけ邪魔なものなので、奥の方にしまっていたのだが、タンスの中を漁っている内に見つかったらしい。
夏樹が出したのは淡い水色のシンプルなデザインのワンピースだ。スカートの裾にフリルが付いてあって女の子らしいものである。
別に真冬に似合わないこともないだろうと思うのだが、着る以前にもう一つ大きな問題があった。
サイズだ。
真冬は高校生、梨王は中学生だ。いくら真冬が小柄だからといって、中学生の服を何の問題もなしに着られるとは思えなかった。夏樹は一旦部屋から出て、真冬の着替えが終わるのを待つ。
しばらくすると、部屋の中から控えめなノック音が響いてくる。
夏樹が恐る恐る部屋の扉を開けると、中学生の女子が着るワンピースを何の問題もなしに着こなせて項垂れている真冬の姿がった。
「……着れたのか」
「……着れた」
真冬のショックは大きかったようだが、二人の腹の音によりそのショックはかき消され、早く空腹を何とかしたいと思い、家を出た。
夏樹と真冬は色々なお店が立ち並ぶ街の歩道を歩いていた。
洒落た喫茶店に、よく見る看板のファーストフード店、ファミリーレストランに、服屋や電化製品の専門店、さらには大きなショッピングモールまである。
歩いていると、真冬が急にぎこちなくなる。
夏樹は問うまでもなくそれの理由が分かっていた。
真冬はかなりの美少女である。そんな子が普通に街を歩ていたら、そりゃ振り返られるだろう。夏樹だって彼女と無関係の男子だったら振り返っていないという保証はない。
「夏樹くん……なんか、見られてない……?」
真冬も視線が気になったのか、小声でそう問いかけてくる。
彼女の頬はほんのりと赤く染まっていて、注目されていることが恥ずかしいようだった。
夏樹はどうとも答えることが出来ずに、ああ、と短く声を発して、
「……気のせいだって。あんま気にしてると、意識から離れなくなるぞ」
「……そうだけど……」
二人がそう言いながら話していると急に背後から、
「いやー、そこのお二人さん。お昼のご予定はお決まりですかな?」
女の子の声で紳士のような聞かれ方をされた。
どんなジャンルの店だと思って振り返ると、夏樹は勧誘の人物の姿を見て心底嫌そうな顔をした。
ヒゲメガネを装着した女の子がそこに立っていた。服装は普通の女の子の恰好だったが、問題はその突飛な恰好ではない。そこに立っていた人物が、夏樹の幼馴染の女の子だったのが問題だった。
夏樹は嫌そうな表情をしたまま、眉ひとつ動かさず、ヒゲメガネという可哀想な恰好をしている幼馴染に問いかける。
「……お前、なにしてんだ……?」
「えへへー、びっくりした?」
てへっと笑いながらヒゲメガネの装備を解除する幼馴染、奏崎薫。
それでようやく真冬は薫だと分かったのか、『奏崎さん!?』と驚いたような声を上げていた。
「色んな意味でびっくりした。で、なにしてんだ?」
「あーそうそう、それがさ聞いてよー。実は昨日さ、新作のギャルゲーが出るのをすっかり忘れてて、学校から帰ったら即効で買いに行ったの。そりゃもー、誰もが驚くほどのソッコーで。でもね、予約はしてあったから急ぐ必要はなかったの。でもわたしは急いだ。なんでかっていうともう早くやりたかったから。可愛いヒロインがわたしを呼んでいたから。でもね、お店に着いて予約の時にもらう紙あるじゃん? あれ見せて気付いたんだけど、お金入ってなかったの。そっからもっかい家に引き返してお金取りに行ったの! そんでまた戻ってゲーム買ってプレイしてたらさ、いつの間にか朝になってるし。結局徹夜で五人中二人のエンディングまで辿り着いたんだけどまだまだスクリーンショットが集まってないの。んで時間見たらお昼前だったからさ、テキトーにお昼食べようと思ったらなんも置いてなかった! だから家から出てどこかでテイクアウトしようかと歩いてたら見覚えのある後姿が二つ見えたから何故か鞄の中に入ってあったヒゲメガネを装着して声を掛けて——」
「長いッ! 長いしくどいしつまんねーし! 結局ゲームやりすぎて昼飯買いに行ったら俺たちと会った! そういうことだな?」
夏樹は薫の口を塞いだ。
このままマシンガントークに付き合わされるのはごめんだ。
「で、二人はどーして一緒にいるの?」
「えっ!?」
聞かれて真冬はドキッとした。
朝起きたら夏樹の部屋にいた、なんてクラスメートに、それも夏樹の幼馴染の女子に言えるはずもない。真冬がどう言おうか困っていると、
「街を案内してたんだよ。昨日頼まれてな。あんまり知らないから教えてくれって」
「ほほう。それならわたしも呼んでくれたらよかったのにぃ」
「お前がいたら変なとこばっか案内するだろ」
夏樹のフォローで真冬はほっと安堵の溜息をこぼした。
「二人お昼まだ? まだっだったら一緒にどうよ?」
「……俺はいいけど、赤宮は?」
夏樹に問われる真冬。
真冬は薫のことをあまり知らないが、夏樹がいれば安心だと解釈しこくりと頷いた。
「わたしもいいよ。奏崎さんとお話ししたいし」
「よし、んじゃ行こうか!」
薫は二人の手を引いていきなり走り出した。
夏樹と真冬は、まさか走り出すとは思ってなかったのか、その場に転んでしまい、薫も二人に手を引かれる形で転んでしまった。
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