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- ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
- 日時: 2015/07/18 08:39
- 名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)
はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。
今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。
主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。
各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪
ではでは、次のレスから始めていきますよー!
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- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.10 )
- 日時: 2014/04/20 22:57
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
5
「ちくしょう、薫の奴め……!」
放課後の教室でただ一人、夏樹はほうきを掃きながら独り言を呟いた。
今教室に残っているのは夏樹一人だ。幽霊でも見えない限り何を言っても独り言になってしまうのだが、この際そういうことはどうでもいい。
何故夏樹が今一人で教室に残ってほうきを掃いているのか、それは掃除当番だったからだ。
いや、それならば薫も夏樹と同じく掃除当番だったのだが、何やら適当な理由をつけて逃げられてしまった。埋め合わせはする、と言い必ずそれを守ってくれることに関してはいいのだが、どうせなら埋め合わせはいらないから、この場を手伝ってほしい。出来ないことはないが、一人でちりとりを持ちながら、ほうきを掃くのも面倒なのだ。
「……そういや、午後の授業中やけに赤宮の視線を感じたな……」
夏樹はふと、午後の授業中の真冬の様子を思い出した。
午後の授業も変わらず教科書を見せていたのだが、どうも彼女の視線が自分に集中していることに気付いたのだ。いや、席が隣だから気付かないのは無理がある。
何か言いたそうな表情に見えたが、結局放課後になって終礼が終わっても視線を向けてくるだけで何もなかった。
あれは一体なんだったんだろう?
「まあいっか。言わなかったってことは、大したことでもないんだろうし」
言いながらも、夏樹は少し悲しいと思ってしまった。
あるいは彼女と話したい、とでも思っていたのだろうか。自分から話す勇気がないから、きっかけがないから彼女からきっかけを作ってくれるのを待っていたのだろうか。
なんだ、そういうことか。
——俺は、赤宮ともっと話したかったのか。
それも席替えが行われるまで……いや、それよりも彼女が教科書を購入する方が早いか。
それまでに自分からもきっかけを作っていかないと。
なんにしても、自分から話すというのも大事だ。今まで薫としか家族以外の女子と話したことがない夏樹としては少々ハードルが高いが、出来ないということはないだろう。
そこへ、
「な、夏樹くんっ!」
不意に声を掛けられ、声がした教室のドアの方へと視線を向ける。
そこにいたのは赤宮真冬だった。てっきり帰ったのかと思っていたのだが、まだ校内に残っていたということは、先生と何か話でもあったのだろうか。
さっきまで真冬のことを考えていた夏樹の目の前に真冬が現れたことによって、顔が赤くなるのを感じる。だが、鼓動が早くなる自分の心臓を落ち着けるように深呼吸をしてから、真冬に声を掛ける。
「お、おう……赤宮か。どうしたんだ? 帰ったんじゃなかったのか?」
「あ、うん……ちょっと用事があって」
やっぱりそうか。
期待していたわけではないが、本当に違うとなると少し虚しい。なら何故教室に戻ってきたのか。今真冬の手には鞄があるし、忘れ物というわけでもないようだ。
「……その、手伝おうか? お掃除」
「え……いいのか?」
「うん。今日は夏樹くんにお世話になりまくっちゃったし、そのお礼ってことで」
にっこりと、真冬は天使のように眩しい笑顔を夏樹に向ける。
——だからその笑顔は反則だ。
心の中でそう呟きながら、夏樹は真冬の申し出に甘えることにした。
「ありがとうね」
二人でほうきを掃いていると、不意に真冬がそんなことを口にした。
むしろ今お礼を言うべきなのは自分だろう、と思い首を傾げた夏樹は、教科書を見せたことに対してか、と解釈し小さく笑いながら言葉を返す。
「ああ、教科書のことなら心配すんな。転校してきたばっかなんだし、仕方ないだろ? 何なら共有じゃなくって、お前だけが使ってもいいんだし」
「あ、そっちじゃなくて……」
真冬は頬を少しだけ紅潮させながら首を横に振った。
それから言いにくそうに視線を彷徨わせてから、上目遣いのような視線を向けながら、
「教科書の方もだけど……さっきのお礼は昼休みの時のだよ」
「……昼休み?」
何かあったっけかな、と首を傾げていると真冬が答えを伝えてくれた。
「わたしが倒れちゃった時、保健室まで運んでくれたの夏樹くんでしょ? 金城さ……真咲ちゃんから聞いたよ」
「……ああ、あれのことか」
そりゃ倒れた女の子をそのまま放置しておくわけにもいかないし、それに運ぼうと持ち上げた時すごい軽かったし。これなら全然苦にならないなー、と思いながら保健室に運んで行ったことを思い出す。
当然二つ目の理由は心の中だけに押しとどめ、最初の理由だけ真冬に伝える。
それだけでも真冬は嬉しかったのか、もう一度、今度は深く頭を下げてお礼を言ってくる。
「本当にありがとう! その、重くなかった……?」
顔を真っ赤にしながら訊ねてくる。
夏樹はどう答えたものか、と数秒思考を巡らせてから出来るだけ彼女を傷つけないように言葉を選んだ。そもそも重かった、などと答えるわけでもないので、慎重に選ぶ必要性があるとも言えないが。
「……全然平気だよ。むしろちゃんと食ってんのか心配になるくらい軽かったぞ?」
「そうかな……ちゃんと食べてるんだけどなぁ……休日とかは特に」
「……参考までに聞くけど、どれくらい食べてんの?」
夏樹の質問に真冬は考えるような仕草をする。
「えっと、この前の日曜日は……朝起きてマフィン三個と、その後にトーストを一枚、バターロールを三つにココアを飲んでから、小腹が空いてたからポテトチップスを一袋。それでお昼にドーナツ四つとハンバーガー二個にカップラーメンでしょ? あとおやつに……」
「めちゃくちゃ食ってんな。安心したよ」
運ぶ時の心配が消え去ったのか、夏樹は笑うこともできず淡々と告げた。
大体教室全体を掃き終わり、真冬にちりとりを持ってもらって、最後の仕上げに取り掛かった。集めたごみをゴミ箱に捨て、ほうきとちりとりをあった場所に戻し、夏樹は自分の机の上に置いてあった鞄を持つ。
「悪いな赤宮。手伝わせることになっちまって」
「気にしなくていいってば。お礼だって言ったでしょ?」
夏樹と真冬が教室から出てドアを閉めようとした、まさにその瞬間だった。
バリィン!! と窓が外から突き破られた。
「何だ!?」
夏樹は腕を出し、真冬を庇うような体勢を取る。外で部活しているボールか何かが飛んできたのだろうか? だがおかしい。もしそうなら、グラウンドの逆方向から飛んでくるわけがない。
それに飛び込んできたものはボールよりも何十倍も大きいものだ。
黒い影は丸い形から細長く変わっていく。シルエットは人そのものだ。まさか、人が窓を突き破って飛んできたというのか? ここは三階だぞ?
「……ああァ、なんでこんな面倒な手ェ使わなきゃいけねェんだっつの。マジダリィけどいっか」
人影の姿が露わになって来る。
背は夏樹より少し高いくらいだが、不健康と思えるくらいに細身だ。紫色に染まった髪はオールバックにしており、その下の切れ長の瞳が夏樹と真冬を睨み付けている。口には黒いマスクをしており、服装も黒一色だ。見た目は忍者が来ている服装にも似ている。
中でも一番目を引くのが右手に装着されている巨大な鉄製の爪だ。
腰の位置まで下がっている手首から装着されており、脛の中心まで大きさがある。
一目で分かる。普通の奴じゃない。
「……見つけたぜ、赤宮ァ……!」
真冬を知っている?
奴のことを尋ねようと夏樹が口を開くより早く、真冬が唇を震わせながら言葉を紡ぐ。
「……どうして、あなたがここに……?」
それを理解するより早く、敵の右腕が持ち上がった。
危険を察知した夏樹は真冬の腕を掴み、叫ぶように彼女に言う。
「走れ、逃げるぞ!」
「……うん!」
真冬は力強く頷き、夏樹に腕を引かれながら走ってゆく。
「……へェ、中々度胸があるじゃん……」
紫色の髪を持った男は、舌なめずりをしながら楽しそうな表情で呟く。
「——逃がすかよ」
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.11 )
- 日時: 2014/03/18 12:53
- 名前: にゃは (ID: ztDxVDAP)
どうもにゃはともうします(*‾∇‾*)
題名がかっこよすぎて凄く面白そうだなと思い、引き寄せられたしだいです。
期待通りというか以上の作品と出会ってしまったです。
ごひまがあれば私の小説もご観覧ください!
では、更新頑張ってください!!
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.12 )
- 日時: 2014/03/18 20:16
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
>>にゃはさん
はじめまして、コメントありがとうございます。
題名はまあ……中二病全開というか、決めた時はこれでよかった、と思っていても実際後になってくると恥ずかしくなりますね。お褒めいただきありがとうございます。
これからその期待に添えるよう、いや。良い意味で裏切る勢いでいきたいと思います。
はい、ぜひ覗かせていただきます。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.13 )
- 日時: 2014/07/08 20:22
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
6
夏樹は真冬の手を引きながら廊下を必死に走る。
こんなところを教師にでも見つかったら叱られてしまうだろうが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。今はあの黒装束の男から逃げるのが先だ。
学校の大体の構造を夏樹は把握しているため、少なくともあの男よりはうまく立ち回れる。外まで逃げれば後は何とか出来るだろう。
夏樹は走りながら真冬に声を掛ける。
「赤宮! お前はアイツを知ってんのか? 一体アイツは何者なんだよ!?」
「えっと……」
真冬は体力に自信がないのか、息を切らしながら言葉を選んでいるようだった。僅かな逡巡の後、戸惑ったような口調で真冬が聞き返してくる。
「長くなっちゃうけど、いい?」
「……出来れば短く簡潔に済ませてほしいが……この際いい。話してくれ」
分かった、という真冬の返答があった。
真冬はどこから話したものか、と少し考えるような間を作ってから、言いにくそうに口を開いた。
「えっと、信じてもらえないかもしれないけど……わたしは普通の人間じゃないの」
「はあ!?」
どういうことだよ、という質問は夏樹の口から出ることはなかった。
突如目の前の曲がり角から黒装束の男が飛び出してきたからだ。
「なっ……」
「見ィつけたァ」
夏樹は急いで踵を返し、逆方向に走り出す。半ば身体を振り回されるようになってしまった真冬は驚いたような声を上げ、体勢を崩しかけたが、なんとか立て直して再び走り出す。
そんな二人を眺めていた黒装束の男は甲高い笑い声を上げながら夏樹と真冬に告げる。
「キハハハハ! 中々いい逃げっぷりじゃねェか、ええ? いいぜ、俺がお前らを発見してから二十秒だけ待つチャンスを三度くれてやる! 今のが一回目だ! あと二回、せいぜい幸運に縋りつけ!」
夏樹はそれをしっかりと覚えてから走るのを続けるが、相手の速度が分からない。しかし、校内の構図を理解していないであろう相手が、こんなに早く自分達を見つけられるとも考えにくい。ということは、それなりに早く動いているだろう。
そんな相手に二十秒などあってないようなものだ。
夏樹は走りながら、さっきの真冬の説明の続きを聞こうと、確認のように問う。
「えっと、お前は人間じゃないんだって? ってことは、アンドロイドとかロボットとか、そういうオチか?」
言いながらそれはあり得ないと思っていた。
実際今握っている相手の手はしっかりと体温を感じるし、まずロボットだったら息を切らさないだろう。振り返り様にちらっと見た真冬の顔には、僅かに汗が浮かんでいた。とても作り物だとは思わない。
真冬もその言葉は首を横に振って否定する。
「ううん、そういう科学的なものじゃなくって……」
ここで三階から二階に下りる階段で黒装束とのエンカウントが起こる。夏樹は仕方なく別の階段から下りることを決め、走る方向を変えて廊下の端にある階段へと走っていく。
「……科学的なものじゃない? それってどういうことだよ?」
「……わたしは、ヴァンパイアなの」
夏樹の思考が停止する。
ヴァンパイア? ヴァンパイアってあれか? 黒いマントを靡かせて塔の上とかに立って高笑いを上げているようなあれか? そもそも夏樹の想像自体が正しいのかどうかは分からないが、真冬は構わず続ける。
「……えっと、ヴァンパイアで分かる? 吸血鬼なんだけど……」
「それくらい分かるわ! 馬鹿にしてんのか!?」
夏樹は思わず叫んでしまった。
吸血鬼、ということは夏樹の想像で大体合っているだろう。
しかし、夏樹の想像とはだいぶ違っている。
夏樹の想像だと黒いマントを着ていて、歯が尖っており、女性の血を吸う美男子のイメージがあるが、どの要素も今の目の前にいる自称ヴァンパイアは持っていない。まず、性別が違う。歯も尖っていないだろうし、服装はまあ仕方ないだろう。
「お前がヴァンパイア? って言われても、いまいち信憑性が……」
「うん。信じてもらえないのは分かってるけど真実なの」
夏樹は真冬を見てみる。
彼女の純粋な瞳は嘘をついているようには見えない。むしろ、真実だけを告げているような目だ。
夏樹としても信じたいのだが、どうも信じることが出来ない。
二階から一階に下りようとしたところで、後ろから黒装束の男に接近される。これで二十秒のタイムハンデは終了だ。次からは追い付かれたら即アウト。あの大きな爪で引き裂かれるだろう。
「さあ逃げ惑え! お前らのラスト二十秒だ!」
夏樹は走りながら逃げるのを諦め、身をひそめてやり過ごすことを考える。その場所を決めようと左右にある教室を走りながら眺める。ここで見つけないと自分だけじゃなく、真冬も殺されてしまうかもしれない。
廊下の端までやってきて、夏樹は美術室を見つける。隠れられるのはロッカーの中くらいだが、
「いや、たしか美術室は……」
「はい、二十秒! 覚悟はできたかァ!?」
男の声が夏樹と真冬の耳に届く。
真冬が心配そうな目で夏樹を見つめる。彼女も、そして自分も守るためには僅かな可能性に賭けるしかない。
「こっちだ、赤宮!」
夏樹は真冬の腕を引きながら、美術室の中へと逃げ込んだ。
「ンン?」
後ろから追ってきていた男は廊下の端で足を止めた。
外に通じる扉は鍵が掛かっている。外へ出たならば内側から鍵が掛かっているのは可笑しいし、あの二人のどちらかが鍵を持っているとも考えられない。
だとしたらどこかの教室に逃げ込んだのだろうが、端にあるこの美術室と他の部屋との相違点を男は見抜いていた。
「……ここだけ、ビミョーにドアが開いてるぜ?」
男は美術室のドアを開けて中へと侵入する。足を踏み入れた瞬間に、僅かに絵の具の匂いがするが、それを無視して男はあたりを見回す。
六人用と思しき席が六つ設置されており、机の上に椅子が逆さ向けで置かれている。絵の具のパレットや筆などが奥の方に置かれているものの、どれも古くなってしまったもので使えそうにない。
前に置かれているひときわ大きな机の上には無造作に彫刻刀や絵の具などがあり、いかにもここが美術室だと分かる風景だ。
男はこの部屋で隠れられそうな場所に見当をつける。
机の下はまずない。
こんなところに隠れようものならそいつは頭が可笑しいとしか思えない。
他にはまず身体を隠せそうな大きな物が置かれていないため、必然的に教室の隅っこに置かれていたロッカーのみとなる。
「オイオイ、まさかこれで幕引きかァ!? しょうがねェな。見つけた後はあと五秒だけ待ってやるから、無様に尻尾巻いて逃げ惑えよ!!」
男がロッカーを開け放つと同時、中の様子を見て驚愕した。
別に中で夏樹と真冬が変なことをしてたとか、一人だけしか入っていなかったとか、そういう意味で驚いたわけではない。
誰もいなかったのだ。
代わりに『ばーか』と書かれた貼り紙が貼られているだけだった。
「馬鹿な……!」
男は思わずといった調子で、呟いた。
美術室に逃げ込んだのは間違いないだろう。だが、机の下にもいないし、試しに準備室の方も覗いてみたが、二人は見つからなかった。
そこで男はあることを発見する。
窓が一つ開いている。
答えは簡単だった。ここに二人がいないということは、窓から逃げたということだろう。
「分かりやすいヒントを残しやがって……」
男は獰猛に笑いながら、窓から飛び出していった。
外だろうが構わない。見つけ出してこの爪で切り裂いてやる、と言わんばかりに男の表情は、今までにない最上の獲物を見つけたかのように輝いていた。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.14 )
- 日時: 2014/03/30 00:33
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
7
「……行ったか?」
「……多分」
誰もいなくなったはずの美術室で、男女二人の囁くような声が聞こえた。
教室の床の一部が開き、穴の中から夏樹と真冬が姿を現した。
二人は美術室に逃げ込んだ後、とりあえずロッカーに隠れようとも思ったが、ロッカーじゃ必ずバレる。しかし夏樹は美術室の地下に小さな空間があることを思い出し、そこに身を隠したのだ。ついでにからかうような貼り紙をロッカーに残して。
中から脱出した真冬はぺたん、と床に座り込んでしまい、長く息を吐いた。
「それにしても、よくこんな場所知ってたね」
真冬は隣で同じように座り込んでいた夏樹にそう言った。
夏樹はまあな、と言って、
「うちの美術の先生、授業とは別に自分の趣味で作品作ってんだよ。その部屋が美術室の床の下にあるっていうのは、結構有名な話でな。俺達生徒でも知ってるやつがほとんどだ。赤宮は知らなくても当然だけど」
「……そうなんだ。すごいね、その先生」
「不純異性交遊は校則以外でも禁止ですよー」
唐突に聞こえた言葉に、夏樹と真冬は大きく肩をびくっと震わせた。
教室の扉からちょうど誰かが入ってきたのか、そちらへと視線を向けると細い隙間からこちらをじーっと見つめている視線と目が合った。
夏樹は呆れたような溜息をついて、
「……驚かすのやめてもらっていいですか? それ見るの初めての奴もいるんで」
夏樹の言葉を聞くと、あらそう? と返して普通に教室の中に入ってきた。
長い黒髪をポニーテールにしており、化粧っ気も全くなく、ジャージに白衣といったあまりにも不釣り合いな服装をした女性だ。眠たいのか、瞼が重いのか、目が半開き状態になっている。
彼女がこの学校の美術の教師らしく、生徒にも気さくな態度でいるため、周りからは割と慕われている。
「まー、放課後にこんなところで何やってるのかは興味ないし聞く気もないけどー、あの窓の説明だけはしてほしいかなー」
美術教師は割れた窓を指さす。
そういえばあの爪の男が出て行く時、窓が割れる音が聞こえたような気がしたが、気のせいではなかったらしい。
夏樹はどうにか適当に話を取り繕った。もともと細かいことを気にするような性格でもないので、怪しい表情も疑う様子もなくただただ頷いて話を聞いてくれた。
どっかから飛んできたボールのせい、と言っておいたため窓の弁償は免れた。それに本当の理由も夏樹と真冬のせいでもないため、もともと弁償する必要もないのだが。
「しかし桐澤、お前はいいなー」
「……何が?」
「いやだって、そんな可愛い子と一緒にいられるんだから。しかも転校生だろー? いいね、青春って、謳歌してるねー」
美術教師がなんともいえない無表情で親指をぐっと立てる。
本当にいいと思っているのか、無表情だから伝わらない。
あのな、と夏樹はどう言い訳したものかと悩む。夏樹が助けを借りようと真冬をちらっと見ると、彼女は頬を赤くして満更でもないような表情をしていた。
結構好意的に接してくれてはいたが、そこまでか、と夏樹は困惑する。真冬の態度に美術教師はさらに面白そうな表情をして、にんまりと笑っている。
「うん? うんうんうんうんうん? おんやおやぁ? あらぁ、転校生ちゃん? なーに顔を赤くしちゃってるのかなぁ?」
美術教師が真冬に詰め寄り問い詰める。
それでさらに困ったような表情を浮かべながら、真冬は教師から目を逸らす。しかし教師はそれでも止まらない。
「答えなきゃ先生分かんないよー? ほらほらぁ、早く答えないと先生が間違った解釈を学校中に広めて——」
「いい加減やめてやってください。泣きますよ?」
美術教師の襟を引っ張って夏樹が彼女の暴走を止める。
夏樹の言葉に納得したのか美術教師も小さく息を吐いて、
「……わかったよー。先生もそこまでサディスティックな性格してないしー。どちらかというとマゾヒストだし」
「いらん情報どうも」
「というか早く帰れよー。転校生は知らんが、桐澤はあんまり帰りが遅いと妹ちゃんが心配するぞー。さっき職員室にも電話あったし」
は? と夏樹が目を点にする
美術室の掛け時計を見ると、時刻は六時を回っていた。
「携帯にも出ないから心配なんだとさ。まあ友達と寄り道して帰るらしいって言って誤魔化しておいたからー」
そう言い残して美術教師は美術室から出て行った。
結局何をしに美術室に来たのか分からないまま彼女はいなくなってしまった。もしかしたら誰もいない美術室で何かするとか思われたのだろうか。
夏樹がスマートフォンを確かめてみると二〇件もの着信が入っていた。発信者は全て妹の梨王からだ。きっと怒っているに違いない。
「悪いな、あの先生ちょっと意地が悪くてよ。でも悪い人じゃないから気にすんな」
「……あ、うん……」
「……まあ、別に俺は間違った解釈が広まっても……いや、なんでもな——」
「……全然いいけど」
夏樹が言いかけた言葉を否定しようとしたところで、真冬のそんな言葉が遮った。
さっきの夏樹のいいかけた言葉と繋げると、真冬は別に夏樹と恋人として見られてもいいという事になる。
夏樹が目を見開いて真冬を見つめていると、真冬の顔が急に真っ赤に染まる。
「え、あ、いや……なんでもないよ!? さっきもしかして、そう言おうとしたのかなーっと思っただけで。わたしは全然そんなの思ってないし!」
「……ですよね。はは……いや、俺もそういうやましいことは思ってないぜ?」
全然思ってない、という言葉にかなりのショックを受けてしまったが、どうにか平静を装って言葉を返す。
「そろそろ帰らないとな」
「うん……ねぇ、夏樹くん……。その、わたしのこと……」
真冬は言いにくそうにしているが、夏樹は彼女が言いかけている言葉で何を言いたいのか理解した。
「……ああ、いいよ。そこまで言いにくいことなんだろ? お前が反したいときに、話してくれればいいから」
そう言って夏樹は教室の扉に向けて歩いて行く。
真冬はそんな彼の優しさにちょっとだけ頬を赤くしながら、
「……うん」
控えめに頷いて彼の後について行く。
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