コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
- 日時: 2015/07/18 08:39
- 名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)
はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。
今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。
主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。
各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪
ではでは、次のレスから始めていきますよー!
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- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.20 )
- 日時: 2014/07/22 13:37
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
5
薫に手を引かれること数分。夏樹と真冬は彼女の家の前に辿り着いた。
家は二階建てで、見た目から出も立派な様子が見て取れる。周りの家と比べれば、立派すぎて浮いて見えるくらいだ。
薫は家の扉を開けると、玄関に夏樹と真冬を招き入れた。
「さあさあ入って入って! 遠慮しなくていいよー!」
夏樹と真冬は促されるまま玄関に入る。
玄関には靴が全く置かれていない状況だった。薫は靴を脱いで家の中に入ると、思い出したように『あ』と声を洩らした。
「ちょっと部屋の中散らかってるから片付けてくるね! そこで待ってて! 仲良くご歓談でも!」
言うと玄関の前にある階段を上っていき自分の部屋があるであろう二階へと上がって行く。
しばらくすると、上の階からドッタンバッタンと落ち着かない音が聞こえてくる。本当に片付けてる音かと気になってしまう。
そんな音が鳴り響く中、真冬は夏樹に問いかける。
「……ねえ夏樹くん」
「ん? どうした?」
「……奏崎さんの、ご両親って今日はお仕事なのかな?」
どうやら休日に誰もいないことが気になったらしい。
夏樹は言うかどうか迷ったような仕草を見せてから、智痛く息を吐くと、
「……薫には知らない素振りをしとけよ」
そう一言置いてから話し始める。
「アイツの両親は仕事がうまくいっててな、中々家に帰ってこないんだ。帰っても本当に顔を合わせる程度で、家でゆっくり話す時間なんてない。だからアイツは、自分は親から愛されてない、と思ってて、親のことは大嫌いなんだよ。だから小学生くらいまでは、俺の家で過ごしてたし……アイツの前でアイツの家族の話はタブーだから、やめとけよ?」
うん、と真冬は小さく頷いた。
すると玄関にある靴箱の上に写真立てが伏せてあるのに気付く。真冬は裏向けるまでもなく、この写真がどういう写真か気付いた。
おそらくこれは薫とその両親が写っているんだろう。写真でさえも見るのが嫌なくらい、薫は両親のことを嫌っているんだと思うと、真冬は少し寂しい気分になってしまう。
会いたくても、会えない人だっているのに。
真冬が寂しそうな顔だ写真立てを見つめていると、二階の方から薫の呼ぶ声が聞こえてくる。
「うおーい! 片付け終わったよー! 来てもいいよー!」
気付くと騒がしかった片付けているのか疑わしい派手な音は止んでいた。夏樹は真冬と一緒に靴を脱いで二階の薫の部屋へと向かって行く。二階に上がると自分の部屋の前で腕を組んで仁王立ちしている薫がいた。
「……お前、なにしてんだ?」
「ふっふっふっ。いやあ、真冬ちゃんは初めてじゃん? だから最初に言っておきたいことがあってね!」
「……え、わたしに……?」
真冬は僅かに困惑する。
一体部屋に入る前に何を言いたいのか。
もしかしたら、薫は意外と綺麗好きなのかもしれない。部屋を汚さないように、という注意かも——と思ったが、部屋を片付けに行った時点でそれはないな、と可能性をばっさり切り捨てる。
だとしたら一体何を言いたいのだろう、と首を傾げていると薫は力強く宣言した。
「ずばり! わたしの部屋は、女子力高いぞ!」
ふふん、と自信満々に鼻を鳴らす薫。真冬はそうなの、とでも言いたげに夏樹を見つめるが、夏樹は溜息をついて部屋の前に立っている薫の頭にチョップを食らわせる。
「何が女子力だ。無意味にハードル上げるなよ」
「ふん、高いもん! 少なくとも夏樹部屋よりは女子力高いもん!」
「俺の部屋より女子力低かったらそりゃ女子として終わってるな」
そんなことを言いながら薫はドアノブを回し部屋の扉を開ける。
「ここがわたしの女子力部屋だぁー!」
開け放たれた空間を見て、真冬は絶句した。
ピンク色の絨毯が部屋に敷かれていた。
部屋の隅にある机の上にはピンク色のクロスが敷かれてあり、その上に学校で使うであろう教科書やノートなどが整頓されて置かれおり、ピック色のノートパソコンも見受けられる。椅子にはピンク色の座布団があった。本棚には巻数順に並べられている漫画や、フィギュアなどが置かれている。
さらに部屋の壁と密接して置かれているベッドの枕も布団もピンク色だった。窓に掛かっているカーテンもピンク色で、壁もピンク色だった。
一番びっくりしたのは部屋に置かれていたテレビだった。
テレビがあることに驚いたのではなく、そのテレビの色がションキングピンクだったことだ。テレビ下にある台の中にはゲーム機やゲームソフトが入れられている。
一面がピンクで統一された空間。
真冬は数秒と立たずに、気分が悪くなったのか、その場に膝から崩れ落ちる。
「おい、赤宮!?」
「どうしたの、気分でも悪いの!?」
「当たり前だろ! こんなピンクだらけの部屋にいたら気分悪いわ!」
これがいわゆる薫の女子力が高い部屋なのだ。
彼女はおそらく、女の子らしいものを揃えていれば女子力が高いと勘違いしているらしい。つまりそれがピンク色の物=女子らしいとなってしまい、部屋がこんな有様になってしまったのだ。
何度か来たことがある夏樹だが、そんな彼でも少し気分が悪くなるほどだ。
「まあまあすぐに慣れるって!」
薫はそう笑い飛ばしていたが、そういう問題ではない。この部屋の改装が必要なほど、この問題は深刻だ。
「んじゃあ早速——」
薫はテレビの下にある台からゲーム機を取り出して、
「ギャルゲーやろうぜ!」
「昼飯じゃなかったのか!?」
薫の部屋で一旦落ち着いた夏樹たちは、そのまま外に出て昼飯を買いにハンバーガーが売っている店へと向かって行った。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.21 )
- 日時: 2014/08/19 19:50
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
6
空腹を満たした夏樹たちは、薫の提案で薫の部屋にあるギャルゲーをプレイすることになった。
夏樹は全力で阻止していたのだが、薫の押しが思っていた以上に強く、最終的には真冬も薫の圧に負けて『やってみたいし』という嘘丸出しの言葉で、夏樹も渋々承諾したのだった。
薫はテレビに接続されっぱなしのゲーム機にプレイするゲームのディスクをセットしてゲームを起動させる。
「ところで薫。一体どんなのをやらせる気だ? まさかきわどいモンじゃねーだろーな?」
それをコントローラーをしっかりと握ったまま聞いた薫は、ふふんとどこか得意げな笑みを浮かべた。どこにそんな表情をする要素があるのか分からないが、薫は夏樹の質問に答える。
「見くびってもらっちゃ困るぜ夏樹」
「口調変わってるぞ、大丈夫か?」
夏樹の言葉、もといツッコミを無視して薫は続ける。
「わたしはちゃーんと素人がプレイするのに最適なものを知ってるのさ! お色気シーンがあんまりないようなものを選んだから、純粋な真冬ちゃんでも十分楽しめると思うよ」
そもそも女子がギャルゲーを楽しめるか、というのが夏樹の疑問なのだが、薫はそこら辺は気にしていないらしい。多分『わたしが楽しめたから、同性の真冬ちゃんも楽しめるよ!』とか思っているに違いない。
薫がゲームのパッケージを見せてきたので、それに目を通すと夏樹はそのイラストに見覚えがあった。
黒髪から赤色、青色、銀髪など色とりどりの髪の色をした美少女たちが六人ほど描かれている。
「……これって……」
「見覚えあるでしょ? 夏樹がこの前プレイしたやつだよ」
言われて夏樹はその時の記憶を思い出した。
そういえば休日に薫にいきなり呼び出されて、いきなりゲームショップに連行されて、いきなり彼女の家でゲームをすることになったのだった。
その時にプレイしたのがこのゲームだ。タイトルは『ふぁんたじあ☆すくーる!』といういかにもなタイトルだった。
プレイ済みの夏樹からすれば、たしかにお色気シーンは少なかった気がする。主人公の定番イベントのラッキースケベや、ヒロインの定番イベントのパンチラもほとんどなかった気がする。
薫はそこを悔やんでいたが、ストーリー性が良かったのか満足はしていたようだった。
「まあ、これなら平気か……」
「真冬ちゃんはどういう女の子がタイプなのかなあ……」
「……俺、ちょっとお前が怖くなってきた」
なんで? という表情をしながら首を傾げる薫。
夏樹は薫が女の子好きの趣味があるんじゃないか、と本気で心配しているのだ。近くにいる女子が、本当に危なく思えてくる。
二人がそんな会話をしていると、ゲームが起動し画面にタイトルが映し出される。薫はコントローラーを操作し、ニューゲームを開始する。薫はそこでコントローラーの操作を真冬にバトンタッチする。
真冬も動かし方は分かるだろう、身体が強張っているがそこはただ慣れていないだけだろうと解釈する。
ニューゲームを開始すると、まずは主人公の名前を決めるところから始まった。
「さあ真冬ちゃん、名前をつけるんだ! カッコいい名前にしといた方がいいよ! 適当な名前だとエンディングの時に醒めちゃうからね」
「う、うん……。分かった、やってみる!」
真冬は慣れない手つきながらもコントローラーを操作していく。真剣な表情で彼女が設定した名前を見て、夏樹と薫は驚愕の表情を浮かべた。
彼女が設定した名前は『朱雀原焔二郎(すざくばらえんじろう)』。なんともいえないネーミングセンスだった。
「どう!? カッコいいでしょ!?」
キラキラした眩しい表情で二人に意見を伺う真冬に、夏樹と薫は真意を告げることに罪悪感を憶えそうだった。
「……オイオイ、赤宮ってこんな壊滅的なネーミングセンスだったのか……?」
「……壊滅的どころじゃないよ、中二病だよこれ……。カッコいい通り越して逆に痛々しい名前だよ」
二人はやんわりとなるべく真冬を傷つけないように名前の変更を促した。出来るだけ現実にいそうなカッコいい名前と薫がギャルゲーをプレイする時に使用する名前を参考にして、改めて設定された名前は『榊原剣(さかきばらつるぎ)』。
まだ若干中二病っぽいが、夏樹と薫もこれでいくことにした。
真冬は緊張しながらも、ギャルゲーを進めていく。プレイしていくと真冬の攻略キャラクターはパッケージのど真ん中にいる茶髪のメインヒロインの子となった。
薫曰く『一番簡単だった』らしく、夏樹が最初に攻略した青髪のヒロインが一番難しいらしい。夏樹も何度かバッドエンドになった。
プレイを進めていくと感動的なシーンに突入していく。もう終盤といったところだろう。夏樹がふと薫を見ると、ティッシュで涙を拭っていた。真冬も瞳が潤んでいる。
こうして真冬の初のギャルゲーは無事ハッピーエンドで幕を閉じた。
「いやー、感動したね! こんなにストーリーに深みがあるとは思わなかったよ!」
「でしょでしょー!? こう感動するものが多いんだって! ほれ、夏樹も!」
「俺はいいよ! もう一回やってるし!」
夏樹がふと携帯電話で時間を確認すると、もう七時に回ろうとしていた。
薫の提案で今日は家に泊まることになった。明日は日曜日なので、朝早く起きる必要もない。薫はいつの間にかお風呂を沸かしていたようで、八時ごろに風呂が沸いた。
「なっつきぃー、先に入ってきていいよー! パジャマはわたしが後で持って行くから!」
夏樹は短く返事をして風呂場へと戻っていく。
「……なんで薫ちゃんの家に夏樹くんの着替えがあるの?」
「泊まることが多いからね。念のためって夏樹のお母さんが。そうだ、わたし真冬ちゃんと色々話したいことがあるんだ!」
え? と真冬が言葉を発するよりも早く、薫は真冬に向き直り真剣な表情で口を開いた。
「……真冬ちゃんは……夏樹のこと、どう思ってる……?」
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.22 )
- 日時: 2014/08/25 22:26
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
7
薫の突然の質問に真冬は困惑してしまった。
質問の意味が分からなかったわけではない。何故そんな質問をするのか。薫の真意が分からなかったためだ。
転校してきたばかりの女子がクラスメートの、ましてや異性の生徒と一緒にいるからだろうか。だったら、『どう思っている』という質問より『どういう関係』という聞き方の方が知りたいことをいっぺんに聞けるんじゃないだろうか。
「……えっと……どう思ってるって……」
「……ごめんね。どうしてそんなことを聞くんだろうって思ってるよね……。でもね、これは絶対に聞いておきたいんだ」
薫が困ったような笑みを浮かべながらそう言った。
そんなことを気にするということはそういうことだろうか。真冬は薫が夏樹の幼馴染という話を聞いている。もしかしたら、薫は夏樹のことを——。
だったら先ほどの質問も納得がいく。
単刀直入に関係を聞く勇気がなかっただけかもしれない。
だが、真冬としても答えづらい質問ではあった。
なにせまだ会って一日しか経っていないのだ。ともに危機的状況を体験し潜り抜けたとはいえ、それでどうこうなるものではない。むしろ、急接近しすぎてよく分からない。
もちろん嫌いではない。倒れた際には保健室まで運んでくれたようだし、教科書だって快く見せてくれた。しかも明らかに殺意がある男に襲われた時だって、見捨てずに一緒に逃げてくれた。
真冬が答えかねていると、薫が唐突に立ち上がって窓の外の景色に視線を向ける。外の景色は真っ暗だ。星が光っているんだろうが、今は全く見えない。
「わたしと夏樹が幼馴染って……真冬ちゃん知ってたっけ?」
「あ、うん……」
そっか、と薫が答えると窓の外を眺めながら言葉を続ける。
「なんであんな質問したのか答えてあげる。ただ知りたかっただけなんだ。真冬ちゃんが夏樹のこと好きなのか嫌いなのか」
「……それって、薫ちゃんが夏樹くんのこと好きだから?」
真冬は言ってからしまった、という感じで口を手で覆うがすでに遅かった。もう言葉として発してしまったからだ。
薫は真冬の言葉にくすっと笑うと首を横に振った。
「違うよ。好きとかそういうのじゃない。わたしはね、アイツのことが好きな人がいたら……もしくはアイツに好きな人が出来たら応援したいだけだよ」
薫は窓側から自分の机の椅子に座って、
「わたしね、小さいときアイツに助けられたんだ」
その時のことを話してあげる、といって薫は当時のことを思い出すようにして話し始めた。
——話は夏樹と薫が小学三年生の頃の話だ。
薫の両親は仕事の関係で家に帰ることがほとんどなかった。父か母か、どちらかが家にいればいいのだが、二人の勤め先は、薫の父も母も仕事をするには欠けてはならない人物で、家に帰れない状況だった。
そのせいか、生活は全く苦しくなかったが、薫の心には寂しさが募る一方だった。
だから薫の両親は、当時一番仲が良かった桐澤家に薫を預けたのだ。
夏樹の母・冴子、妹の梨王は薫を歓迎し、夏樹も優しく薫を迎えてくれた。
だが、小学校のクラスメートは薫が夏樹の家にいることを知ると、悪戯だろうが薫に散々酷い言葉を浴びせた。
何故両親がいないのか、という言葉は様々に形を変えて、『両親に捨てられた』『可愛そうな奴』という類の言葉になっていった。
小学生の薫は当然耐え切れず、学校に通うたびに涙で頬を濡らしていた。
そんな薫を救ったのは、同じく小学生の夏樹だった。
彼は言った。『薫が俺の家に住んでて何が悪い』と。
夏樹は大切な幼馴染を守るために、クラスメート全員に向かってそう言ったのだ。『女の子をよってたかって苛める奴の方がよっぽど可愛そうだ』と言ったのだ。
夏樹がクラスメートにそう言うと、隣のクラスで正義の味方を名乗っていた当時の『美少女トリオ』である真咲、結花、比奈の三人も駆け付けた。
「——だから、わたしはその時の恩をアイツに返したい。もちろん、真咲ちゃんや結花ちゃん、比奈ちゃんにもね」
あの四人のことだから、おそらくそんなことは憶えていないのだろう。もし憶えていたとして、思い出したとしてもそんなのどうだっていいと言われるに違いない。
だが、薫は四人に救われたのだ。だからこそ、今の元気な自分がいる。
「アイツに好きな人が出来たら、その子にアイツの良さをアピールしまくるし、いいシチュエーションのお膳立てだってするよ。逆だってアイツを好きになった子をアピールしまくってお膳立てをする」
それで恩返しになるか分からないけど、と薫は付け足す。
「だから真冬ちゃんに聞いたんだよ。真冬ちゃんがアイツのこと好きだったら精一杯応援するって!」
薫はにこっと笑って真冬に言う。
「でも、薫ちゃんはそれでいいの?」
「いいんだよ。アイツが幸せならそれで。わたしはアイツは大好きだけど、それはあくまで幼馴染としてだと思うの。玉に見せる優しさや行動にドキッとするけど、乙女的な反応とかって片付けられるしね」
薫は真冬の両手を自分の両手で包み込むように握る。
「だから、夏樹のこと好きになったら教えて。その時は精一杯お手伝いさせてもらいますよー?」
薫の言葉に真冬は笑顔を返す。
「じゃあわたしも。もし、薫ちゃんが夏樹くんのこと好きになったらお手伝いする。わたしも、夏樹くんにお世話になってるし」
「……でも、わたしが夏樹を好きなるって確証が……」
「それはわたしも同じだよ。それに、好きにならない確証もないでしょ?」
真冬の言葉に薫は苦笑いを返す。
「……まあ、それもそうなんですけどねぇ……」
二人は数秒視線を合わせる。先に口を開いたのは薫だった。
「じゃあ、もしお互い夏樹を好きになっちゃったら、ライバルってことになるね」
「うん。その時は負けないから!」
「しっしっしっ。ギャルゲー先生に勝てると思うなよぉ?」
二人は男が友情を誓い合うように、拳を突き合わせた。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.23 )
- 日時: 2014/09/01 02:40
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
8
夏樹と真冬は薫の家で一泊し、翌日の昼頃には家に帰ることにした。
というのも、特に用事があったわけではない。ただ、夏樹の家を出る時真冬の制服をそのまま放ったらかしにするのは気が引けたため、洗濯機に入れて洗っておいたのだ。
夏樹たちは昼ご飯を買って家に戻るつもりだったのだが、予定を変更して薫の家に寄って行ったため現在真冬の制服は洗濯機の中だ。もしかしたら帰宅した冴子や梨王に見つかっているかもしれない。
真冬がいれば言い訳も簡単なのだが、真冬がいない状況での言い訳は夏樹の女装疑惑がかかってしまう。家族間でありもしないそんな疑惑を持たれたくない。
夏樹と真冬は揃って薫の家から出る。薫は二人の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていたようだ。
そんな姿を見ながら、夏樹は隣の真冬に声を掛ける。
「どうだ? 薫とは仲良くなれそうか?」
「うん! 話したらすごく気が合うし……薫ちゃんって楽しい娘なんだね」
「……ついでに騒がしいけどな」
夏樹は少しだけ笑いながら付け足した。
薫の家からおよそ十分。桐澤家に帰ってきたわけだが、何故だろう。ラスボスがいる城のように思えてならない。さすがに帰っていない、ということはないだろう。冴子は休みの日は大抵家にいる。
制服の件がバレていない可能性はほぼ一〇〇%ない。
夏樹は真冬と視線を交わすと、小さくこくりと頷いた。意を決してドアノブを握り捻りながらドアを開ける。
「た、ただいま……」
夏樹は誰にも聞こえないような小さな声で帰宅の挨拶をした。だが、玄関はおろか部屋のどこも明かりはついていないようだ。まさかまだ帰ってきていないのか、と思いながら夏樹は真冬に入るように合図をする。
玄関に冴子のものと思われる靴は見当たらない。まだ帰ってきていないのか、とほっと胸を撫で下ろす。
夏樹は真冬に先に部屋に行っているように合図を送って、夏樹は暗い家の中を歩き、洗濯機がある脱衣所へと向かう。
洗濯機を開けると幸いにも洗濯し終わっている真冬の制服があった。これを何処にどう乾かすかだが、それはあとでじっくり考えるとしよう。
夏樹は洗濯機から真冬の制服を取り出し、自分の部屋へと戻ろうとしたその時だった。
「なぁつぅきぃ……」
背後からお化けのような恐ろし形相をした女性が、自分をじっと見つめていた。
「え……」
夏樹は思いもよらない奇襲に、
「ぎゃああああああああああああああっ!?」
悲鳴を上げざるを得なかった。
「夏樹くん、どうしたの!?」
脱衣所へと走ってきた真冬が部屋の電気をつける。と、そこにいたのは酷くやつれた表情をした見覚えのある女性……母である桐澤冴子がいた。
しかも先ほど夏樹がいた場所の丁度背後だ。どうやらさっきの恐ろしいホラー映画のワンシーンを演じてくれたのは母である彼女らしい。もちろん、本人にその気はないのだろうが。
「……か、母さんかよ……びっくりさせやがって……」
「夏樹……お母さんは疲れたよ……」
「……だからどうしろと?」
冴子は恐怖で尻餅をついてしまっている夏樹の腹めがけてダイブしてきた。ただ抱きついてきただけなのだろうが、冴子は立っていたため高さの関係で夏樹の腹を強烈な衝撃が襲う。
「ごふぅっ!?」
夏樹は衝撃に肺の中の息をすべて吐き出してしまった。
青ざめた表情で冴子を睨み付けるが、当の冴子は涙目になりながら夏樹を見つめ、涙声で訴えてくる。
「お願い夏樹! ママになんかご飯作って! 昨日の夜から何も食べてないの!」
「分かった、分かったから離せ!」
二人のやり取りを見て、駆け付けた真冬は呆然としていた。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.24 )
- 日時: 2014/09/02 03:03
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
「いっやー、助かったー! さすが夏樹! うちの中で二番目にメシがウマい!」
やつれきった冴子のために夏樹は家に残っていた卵と鶏肉を使って親子丼を作ってやった。冴子はそれをほんの数分で腹の中へとかきこんでいき、二杯目まで要求して今さっき空腹を満たしたところだ。
冴子の前で向き合うように座っている夏樹は頬杖をついて、呆れ顔で冴子を見つめている。隣の真冬は自身の知っている夏樹とは似ても似つかない彼女を見てきょとんとしている。
「……二番目って……一番目は?」
「そりゃあもちろん、アタシだろ?」
当然と言いたげな表情で自身を指さす。夏樹は『だと思った』と呟くと小さく溜息をついた。
「つーか、なんで飯食ってなかったんだよ」
「そうだよ! なんでアンタ家にいなかったわけ? アタシ寂しかったんだから」
「……あー、連絡してなかったな。薫の家に行ってたんだよ。それと、アンタこそ家にいなかっただろ?」
聞くところによると金曜日に同僚に飲みに誘われたらしく、何件もハシゴした挙句近所にある同僚の家に泊めてもらったらしい。土曜の昼頃に目が覚めて急いで家に帰るも息子も娘もおらず、二人が帰ってくるのを晩御飯も食べずに待ってくれていたらしい。
それを聞いて夏樹はちょっと胸が痛んだが、なにも断食する必要はなかったんじゃ、とそこだけはツッコまずにはいられなかった。
「……えっと、夏樹くんのお母さんなんだよね……?」
今まで黙ってた真冬が口を開いた。
夏樹はこくりと頷くと、冴子を指さしながら真冬に紹介する。
「ああ、俺の母親の桐澤冴子。あとは妹が一人いるんだけど……それはいる時に紹介するわ」
「……お父さんは?」
「さあ。そういや俺の父親って何してんの?」
夏樹が冴子に問いかけると、冴子は何故か遠い目をして意味深に答えた。
「……ふっ、ロマンの旅……かな?」
「……ロマンの、旅……!」
少しだけ中二病患者である真冬にとって今の言葉は響いたらしく、興味ありげに冴子を見つめている。冴子はその視線を浴びながら、ただの麦茶を注いだただのグラスを、ワイングラスを持つような手つきで優雅に傾けている。
真に受けんなよ、と夏樹は小さくツッコむが真冬の耳には届いていない。
自己陶酔が終わった冴子は自分に厚い眼差しを向けている真冬を微笑ましい表情で見つめると、
「そういやその娘誰だっ!?」
「今更かよッ!!」
母親のあまりに遅い反応に、夏樹は渾身のツッコミを入れる。
「——というわけで、クラスメートの赤宮真冬っていいます。よろしくお願いします」
真冬は夏樹の補足を受けながら今に至る経緯を話した。
もちろん学校や外で変な奴に襲われたり、真冬が『ヴァンパイア』である説明は省いている。夏樹の家で真冬の制服を洗っているのはなんとか誤魔化しながら伝えた。元から細かいことを気にする正確ではないので、多少矛盾があっても気付かないだろう。
案の定で二人の説明を冴子は黙ってすべて聞き、『ほぉー』と感心したような声を上げた。
「そっかぁー、転校生かぁ。懐かしい響き……いや、アタシの学生時代は来なかったなぁ……」
冴子がどうでもいいことで悩み始める。
そんな冴子を眺めながら、真冬は隣にいる夏樹に小さい声で質問をする。
「……ねぇ、ホントに夏樹くんのお母さん? 性格とか似てる点全くないよ? しかもお姉さんに見えるし……」
「若いのは昔から。まあ……性格の方は梨王が似てるかな」
だとしたら未知である父親に夏樹は似ているんだろうか、と真冬は父親がどういう人物か少し興味を持つ。
「……なあ、『ヴァンパイア』ってこの世界での家とかどうしてんの?」
「……本来は契約した人と一緒に住むことになってるんだけど……わたしはまだ契約してないから……」
夏樹は真冬のその先の言葉が分かってしまった。
別に分かりたくなかったわけではないが、自分は甘いんだろうなあ、と夏樹は認識してしまう。
夏樹と真冬が言い淀んでいると、頬杖をついた冴子が陽気な口調で、
「なんならさ、真冬ちゃんしばらくうちにいる?」
思いもよらない誘いに、真冬だけでなく夏樹までもが驚き、
「……へ?」
間の抜けた声を出してしまった。
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