コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
- 日時: 2015/07/18 08:39
- 名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)
はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。
今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。
主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。
各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪
ではでは、次のレスから始めていきますよー!
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- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.5 )
- 日時: 2014/02/10 18:48
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
一階のリビングに下りると、四角いテーブルに四つ分の椅子、その椅子の一つに一人の人物が腰かけていた。
こげ茶色の長髪の後ろで一つにまとめた女性だ。夏樹や梨王とは似ても似つかぬ鋭い瞳に、女性にしては長身であろう一六〇センチ後半の身長、顔つきも若く、二〇代後半から三〇代前半のように見える。
その女性は足を組みながら新聞を広げており、時折ティーカップに注いだコーヒーを口にしながら難しい表情で紙面を眺めている。
夏樹はその女性と向かい合うように座ると、自分の席に置かれたトースト、サラダ、目玉焼きを眺めてから、マーガリンを手に取り、トーストに塗り始める。
そこでようやく夏樹の存在に気付いたのか、女性は顔を上げると先程までの難しい表情を一転させ、眉間に寄せていたしわも消し、穏やかな表情を浮かべる。
「おお、夏樹。やっと起きたか。梨王が心配してたぞー。『おにーちゃんが起きてこない、つまんないー』って」
「……つまんないってどういう意味だよ」
「あははは。まあいいじゃん、妹に愛されてるってことだろ?」
どうなのかね、と夏樹はトーストをかじりながら答える。
この女性は桐澤冴子(きりさわさえこ)。夏樹と梨王の姉……のように見えなくもないが、実際は母親である。若くして結婚し、夏樹と梨王を生んだ、とは聞いている。夏樹の記憶だと、一八には結婚して、翌年に夏樹を生んだということは、今は少なくとも三五歳にはなっているはずだ。そう見えないのは何故だろうか。小学校や中学校の頃、参観日に冴子が来ると、姉に間違われたことは珍しくない。
「そういや夏樹、最近聞いてなかったことがあるんだけどさ」
「……なんだよ急に」
唐突に話を切り出した冴子を、夏樹は不振に思いながらも彼女の言葉の続きを待つ。
冴子はにんまりとした笑みを浮かべながら、
「アンタさ、薫(かおる)ちゃんとはどうなってんの?」
「……はあ?」
夏樹は質問の意味が分からず、首を傾げる。
薫、というのは夏樹の幼馴染の女の子のことである。幼稚園の頃は家が隣同士で、よく遊んでいた。小学校の頃に引っ越しをしたのだが、向こうの両親がやたらと夏樹を信用していたのか、引っ越したにも関わらず家が近所のままで、ただ家に行くのに十秒から十分程度に変わっただけだ。
冴子は夏樹の反応など意にも介さず、悪戯っぽい笑みを浮かべたままどんどんと質問を繰り返してくる。
「手は繋いだ? キスとかした? もしかして、もうヤった? きゃー、そんな仲が進展してるの? こりゃもう結婚するしか……」
「人の話を聞けよ、アンタは」
夏樹は冴子の口を強引に塞ぎ、彼女の言葉を強引に終わらせる。
冴子は夏樹と薫を交際、果てには結婚させようとも思っているらしいが、当の本人達にその気は全くなく、夏樹と薫の関係は幼馴染で止まっている。ただ、今でも遊ぶことはあるし、たまに夏樹が薫の家に、薫が夏樹の家に泊まりに来ることがあるくらいだ。
冴子は薫を気に入っているし、梨王も薫のことを姉のように慕っている。二人からしたら、薫が泊まることは全然オッケーなんだろう。
ちなみに、薫の両親は仕事がうまく言っており、出張などが多いため泊まりに行っても文句は言われない。むしろ『夏樹クンなら大歓迎ダヨー、HAHAHA』などと言われそうだ。
夏樹は朝食を食べ終え、二階の自分の部屋に戻ってブレザーを着用し、鞄を持って一階に下りる。弁当をちゃんと鞄に入れてから、玄関に向かおうとしたところで後ろから、
「お、おお、おにーちゃぁーん! ちょっと待ってよぉー!」
梨王に呼び止められる。
振り返ると、靴下を履きながらこちらに寄って来る梨王の姿があった。カッターシャツにサマーセーターを上に着ており、膝上十センチとでも言いたそうなスカート丈に、ニ—ハイソックスを履こうとしている。二—ハイソックスは彼女のポリシーらしい。
歩きながら靴下履くとか器用な奴だな、と思いながら夏樹は溜息をつく。
「お前なぁ……中学生にもなって兄と一緒に登校しようとするなよ」
「いいじゃん別に。おにーちゃんだって嫌じゃないでしょ?」
「嫌じゃないけど……お前はなんでそうも一緒に行きたがるんだ?」
「……だって、一人じゃ寂しいじゃん」
照れる様子もなく真顔で言い放つ。彼女の表情には、ごく当然だという風にも見える。
仕方なく梨王と一緒に家を出て、途中まで一緒に登校することにした。別に嫌ではないが、高校生にもなって妹と一緒に学校に行くのは、少しむず痒い気がした。
「……来年からは一人で学校に行けよ」
「じゃああたし、おにーちゃんと一緒の高校に行く!」
「だったらもうちょっと成績良くないとな。うちは頭いいとこじゃないけど、それでもお前の成績じゃちょっと難しいぞ?」
言われて、言葉を詰まらせる梨王。
彼女の成績は、それほど成績が良くない夏樹が笑えるほど良くなく、中学最初のテストで数学と理科の点数が、両方とも三点だった時は、夏樹と冴子も言葉を失った。逆にどこを正解したのかを見つける作業が始まったのだ。
「べ、勉強するもん! 猛勉強して絶対に合格するもん!」
「はいはい。俺は応援しかしないからな」
しばらく一緒に歩いていると、夏樹と梨王が分かれる場所に着いた。
梨王はぶんぶんと大きく手を振って、駆け足で去っていく。夏樹はそんな妹の姿を、見えなくなるまで眺め、再び歩き出そうとしたところで、
「なぁーつきぃー!」
背後から自分を呼ぶ声と同時に放たれた、横腹を襲う衝撃にその場に倒れ込んでしまった。
それほど痛い衝撃ではなかったが、完全に気を抜いてしまっていたために、転ぶところまでいってしまった。
夏樹は身体を起こし、自分を襲った犯人を確認する。いや、確認するまでもなく、夏樹には犯人の正体に見当がついていた。
「……朝っぱらから何すんだよ、薫」
「いやぁー、ごめんごめん。ちょっと驚かそうとしただけなんだけど……許して、幼馴染のよしみでさ」
顔の前で手を合わせて許しを請う、薫という幼馴染である少女。
何度目のよしみだよ、と心の中で呟きながら夏樹は立ち上がる。
彼女が幼馴染の奏崎薫(かなでざきかおる)。
黒髪をツインテールにまとめており、梨王とは違い、腰のあたりまでまとめた髪が伸びている。顔も小さく可愛らしい顔をしているため、男子からは人気があり、同性の友人も多い。
しかし、彼女には夏樹や桐澤家しか知らない秘密がある。
別に薫がひた隠しにしているわけではないが、彼女の家に行くのが桐澤家の人間だけであるため、必然的に知ってしまったことがある。彼女が極度のゲーマーで、しかも数々の恋愛シュミレーションのゲームを所持していること。しかも、女性がプレイするのが前提の作品ではなく、男性がプレイすることが前提の、いわゆるギャルゲー好きだということだ。
彼女はネット上で『ゲクイ(ゲームクイーンの略称)』で崇められており、需要があるのか同課は不明であるが、彼女の可愛らしい見た目ゆえ、親衛隊なども作られている。
そんな少女と仲が良い夏樹は、一部では付き合っているという噂まで上がっており、名前も知らない生徒から目の敵にされている。
「……挨拶代りにどつくなよ。どこの体育会系だ」
「体育会系女子っていいよねー。凛とした表情にさらっさらの長髪をポニーテールにしててー、頬を染めて恥じらいながらデレてくるんだよー? もう可愛いったらないよねー!」
唐突に展開されるギャルゲーあるある話にに巻き込まれそうになった夏樹は、呆れたように今日何度目かわからない溜息をついて、
「先行くぞー」
と学校へ向かって行く。
置いて行かれそうになった薫は、『えぇっ!?』と驚きの声を上げて、
「ち、ちょっと待ってよ夏樹! 一緒に行こうよー!」
駆け足で夏樹を追いかけていく。
結局夏樹は、途中までであろうと、学校に行く時には必ずといっていいほどそばに誰かいるのだ。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.6 )
- 日時: 2014/02/14 19:58
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
2
「夏樹ぃー、そういや知ってたー?」
学校へ着くなり、下駄箱で靴を履き替えている途中に薫からそう問われる。
会話が唐突に始まるのはいつものことなので、特に咎めたり気を悪くしたりすることもないのだが、薫の話は回りくどい。
簡単に言うと、人に質問したりする時に例えば質問の内容が『朝食のメニュー』ということにしておこう。普通の人なら『朝何食べた?』とか『朝食なんだった?』とか聞くだろうが、薫の場合は『何だった?』となる。何がだ、と返すしかない。
彼女の質問において、一回聞かれただけで質問の内容を理解することは不可能である。
そのため夏樹も、質問をいちいち聞き返さなければならない。いくら付き合いが長い幼馴染といえど、唐突に始まる質問の内容の把握までは出来ない。
「……何がだよ?」
「転校生よ! 今日うちのクラスに来るんだって! 男子か女子かはまだ分かんないけど」
珍しい時期に転校生か。
今はまだ五月の中旬である。あと一五日程度過ごせば地獄のテスト週間だ。夏樹は勉強は普通ではあるが、決していい点を取っているわけではないので、憂鬱な期間である。
ちなみに、薫は勉強しなくてもそこそこいい点を取っているので、そこに妙に腹が立つ。テスト前日でも平気でギャルゲーをやっている奴だ。こんな奴が自分よりいい点を取っていると、誰だって腹が立つだろう。
何にしても五月の中旬といえば、テスト範囲も決まっている頃で、転校するにしては随分とタイミングが悪い。そういえば、隣のクラスの一人が、引っ越しとかの都合で四月の後半から学校に来た、という生徒もいたなー、と思っていると、薫が頬に手を当てながら何やら楽しそうに一人で呟いている。
「転校生といえば、まず席が隣同士が鉄板だよね! そして『まだ教科書がないから一緒に見せてほしいの!』なぁーんて言われちゃって! あー、でも私はちょっとクール系か内気な感じがいいなー! 『教科書。無いから見せて』とか『あの、よかったら見せてくれませんか?』とかの方が可愛いよね! デレの時のギャップを求めるならクール系がいいかな! 青髪でちょっとジト目な感じの! 照れながらも好意を示すその仕草がきっと可愛くってたまらないはず! そういう転校生が来ないかなー」
「先行くぞ」
夏樹は一人でギャルゲーの転校生について熱く語っている幼馴染を放って先に教室に向かうことにした。追って来る気配がないのを見ると、どうやら置いて行かれたことに気付いていないらしい。あとで文句言われるパターンだ。
だが知ったことではない。夏樹は一人で教室に着くと、自分の席に座り、鞄の中の教科書やノートを机の中に入れて行っていた。
薫がやって来たのはちょうどその時だ。
薫は教室に入るなり、自分の席がある方向とは逆方向の夏樹の席の前に立つ。
「なんで置いて行くのよ!」
「お前の話が長いからだ。置いて行かれたくないなら一人で勝手に妄想に浸るな」
言い返せないのか、薫は何か言いたそうな顔をしながら黙り込み、夏樹の隣の席に座った。
夏樹は溜息をつきながら、窓の外の景色に目をやる。
夏樹の席は窓際の列の一番後ろだ。このクラスは三一人いるため、夏樹の机だけ、後ろに飛び出ている状態になっている。席が三一しかないので、自分だけハブられた気になるのは仕方ない。
そう、だからおかしいのだ。
薫が夏樹の隣の席に。そもそも、夏樹の隣に席があることが。
「その机何だ!?」
「おわぁ!? ホントだ! 私も自然な感じで座っちゃったけど、なんだこりゃ!?」
当の薫も気付いていなかったらしい。
夏樹の隣に席があるということは、このクラスの席は三二ということになる。転校生が来るなら当然なのだろうが……。
「……よりによって隣かよ」
「いいじゃん! 美少女転校生かもしれないよ!? 期待に胸が膨らむね!」
「美少女だったらな。筋肉ムキムキのボディビルダーみたいな奴だったら最悪だぞ。そんな奴と教科書なんて共有したくねぇ」
「あっはっはっはっ! そん時は私が毎時間後の休み時間に癒しにいってあげるよ」
「……ああ。そん時はしっかりと癒してくれよ」
「……え、あ、うん……」
どうせまた、お前の癒しなんかいらねーよ、という返しが来るだろうと予想して冗談半分に言ったつもりだったのだが、意外と真に受けられて薫は頬を僅かに紅潮させて、少しよそよそしくなってしまう。
二人の間にしばしの沈黙が訪れた後、教室の扉が勢いよく開かれ、クラスでお調子者で有名な、髪を茶色に染めた男子が大きな声で叫んだ。
「みんなー! 転校生めっちゃ可愛いぞー! 赤っぽい髪色で、大人しそうな子だったー!」
その情報にわっと歓声が沸き起こる教室。
男子は心の底から歓喜の声を上げ、女子も男子ほどではないにしろ歓喜しているようだ。より転校生への期待が高まる中、夏樹はもたらされた情報に少し嫌な予感がしていた。
赤っぽい髪——。
夢で見た少女は、紅とでもいうべき赤い髪だった。もしかしたら、あれは正夢になるかもしれない。真っ赤な炎に包まれながら、その少女に馬乗りになられて——。
その先は覚えていないが、夢で死ぬと目が覚めるという。だとすると——。
いやいや、そんなはずはないと夏樹は首を横に振った。
あんな夢が現実にあってたまるか。そもそも、あの女の子は美少女ではあったが、可愛いといわれる類ではない。どちらかというと、綺麗だとか美人だとかいわれる容貌のはずだ。
だったらあの夢は一体何の暗示だったのか、もしくは前兆だったのかがかなり気になるが、それは記憶の隅に置いておくことにした。そもそも、会ったのは自分の夢だけで、彼女は何も知らないだろうから、気にしなくてもいいんだが。
夏樹は夢のことは忘れて、転校生がどんな子なのかと僅かに期待してみる。時を同じくして、朝のホームルームを開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.7 )
- 日時: 2014/02/17 00:11
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
チャイムが鳴ると同時に、担任の教師が教室に入って来た。
男性の教師である。
実年齢は三〇半ばなのに、雰囲気が四〇代だと思わせてしまう容姿だ。
手入れを全くしていないぼさぼさの髪に、眠そうな表情をよりいっそう引き立てる半開きの目、髭もきちんと剃っていないのか無精ひげが生えている。簡素なシャツに下はジャージを履いており、上から白衣を羽織っている。
担任教師の中原利邦(なかはらとしくに)は、教師の間では『ナカヤン』と呼ばれてはいるが、決して慕われているわけではない。この教師自体校則とか決まりに緩い性格なので、あだ名で呼ばれても全く気にしていないのだ。家庭訪問や三者面談などはきっちりとやるらしいが、まだそんな時期でもないので、夏樹としてはこの教師をいまいち信用できていない。
中原は名簿を教卓の上に置くと、大きな欠伸を一つこぼしてから、気だるげな口調で告げる。
「……えー、今日はこのクラスに転校生が来てまーす……。知ってる人は知ってると思うけど……んじゃ、入ってー」
中原が廊下で待っているであろう生徒に呼びかける。
はい、という可愛らしい言葉の後に教室の扉が開かれて、転校生が教室に入場してきた。
瞬間、時が止まったような錯覚に陥った。
夏樹が、薫が、教室の誰もがその転校生に釘付けになった。たった一秒。そんな短い時間でさえも、彼女を見つめていると、その時間が三秒、五秒のようにも感じた。
肩に触れるか触れないかくらいの赤い髪に、大きい瞳に桜色の唇。顔が小さいせいか、瞳が大きく見える。身体つきは小柄で華奢。少し押したらそのまま崩れてしまいそうな細い身体つきをしており、制服の袖や、スカートの裾から伸びている腕や脚は細い。
赤い髪の少女は、じっと見られていることに気付いたのか、頬を赤く染めながら目線を彷徨わせている。その仕草でさえも可愛らしい。
教室に沈黙が訪れ、転校生の少女は自己紹介しなければ、と思ったのか、途端に後ろに振り返りチョークを手に取ると、黒板に自分の名前を書きだす。
書き終わると再び生徒全員と向き合うように振り返り、顔に優しい笑みを浮かべながら自分の名前を口にした。
「転校生の赤宮真冬(あかみやまふゆ)です。よ、よろしくお願いします!」
ぺこっとお辞儀をすると、教室中から男女の完成の声が沸き上がった。
「か、可愛いー! 超可愛いー!」
「お人形さんみたーい! むぎゅーってしたい!」
「やべぇ、惚れた! 俺今日の放課後告白するわ!」
「待て早すぎる! まずは一つずつ課題をクリアしていって——」
「ちっちゃいけどスタイルいいー! いいなー、羨ましい!」
「ひゃほー! 美少女ばんざーい!」
最後に薫の声と思われるものが聞こえてきたが、夏樹は気に留めないように教室中に響き渡る転校生への歓声に静かに耳を塞いでいた。
転校生の真冬は、驚いたように慌てふためき、助けを求めるように中原を見た。中原は欠伸をしながら、あの席に座れ、と夏樹の隣の席を指さしてくる。
真冬は小さく頷き、夏樹の隣の席へ小走りでやって来た。
彼女の席の位置が知れると、クラスメート(主に男子)から強烈な殺意と嫉妬が混じった視線を向けられたが、気にしない。
……ついでに、薫からも同様の視線を向けられていたような気もするが気にしない。ここはツッコんじゃいけないところだ。
一時間目は数学の授業なので、中原はそのまま教室に残っている。数学なのに、何故白衣を着ているんだろう、というのが生徒の間の謎になっている。
「……え、と……」
転校生の真冬が困ったような表情を作りながら、夏樹をじっと見つめている。机の中から数学の教科書とノートを取り出している夏樹もそれに気付き、
「……ど、どうした?」
「……えっと、その……わたしまだ教科書もらってないから、よかったら、その……」
見せてほしいらしい。
夏樹としても、筋肉ムキムキのボディビルダーみたいな生徒じゃなく、それとはまったくの正反対に位置すると言っても過言じゃないほどの美少女と教科書を共有するのならばやぶさかではない。
「分かったよ。一緒に見ようぜ」
そう言うと、真冬が表情を明るくして席を近づけてきた。
それだけで再び強烈な視線がクラスの男子+薫から向けられ、全身に悪寒が走る。
自分から席を近づけるのももどかしいのだが、相手から来られるとそれもそれで困ってしまう。こんな美少女なら尚更だ。
真冬はまだ何か言いたげに夏樹を見つめている。
さすがにずっと見つめられているので、夏樹としても気付いていないわけがなかった。
夏樹は頬杖をつきながら、視線だけを真冬に向けて、
「……なに? なんか聞きたいことでもあるのか?」
「……えっと、その……キミ、は……」
そこで夏樹ははっとした。真冬が何を言いたいのか理解したのだ。
真冬は夏樹の名前を知りたがっているんだろう。席も隣だし、教科書を買うまで共有することだってある。だとしたら、相手の名前を呼ぶことも増えるわけで、『キミ』と呼ぶのは失礼だと感じたのだろう。
夏樹は溜息をついた。呆れたような、疲れたような溜息ではない。我が子を見て微笑ましく思うような、そういった溜息だ。
「俺は夏樹。桐澤夏樹。好きなように呼んでくれ」
「じゃあ……夏樹くんで」
初対面で名前で呼ぶ勇者は中々いないだろうと思っていたのだが、どうやら真冬はそういう勇者だったらしい。
夏樹は自分の名前があまり好きではない。妙に女っぽい名前だからだ。それとは反対に、妹の梨王は勇ましい名前を嫌がっている。どうせならお互いの名前を変えてほしい、と思っていたが、もう一五年経ったらどうでもよくなってしまう。
「……夏樹くんも、好きな風に呼んでいいから」
「……ああ、呼ぶ時まで考えとくよ」
今すぐ決めてほしかったのか、真冬は少しだけ不機嫌な表情をしていたがそれさえも可愛らしかった。
——直視すると本気で惚れてしまいそうだ。
そう直感した夏樹は、窓の外に目をやるふりをして、真冬から視線を外した。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.8 )
- 日時: 2014/03/02 23:25
- 名前: 竜野翔太 (ID: sLRBYAgN)
3
「いやぁ……真冬ちゃんってさ、エロ可愛いよねぇ」
「いきなり何言ってんだお前は」
幼馴染の血迷った発言に、夏樹は冷静にツッコミを入れて、同時に額にずびしっ! とチョップを叩き込む。頬杖を突きながら真冬を卑しい目で見つめていた薫は『ふにゃっ』という短い悲鳴を上げた。
薫はチョップを入れられた額を両手で押さえながら、
「何すんのさー。私はごく自然な意見を述べただけなのにー」
「その意見が犯罪だ。転校生をそんな目で見るんじゃねーよ」
ぷくー、と頬を膨らませながら抗議を訴えてくる薫。
しかし今のは俺は悪くない。むしろ俺が正しいはずだ、と自分に言い聞かせる夏樹。
「でもさ、エロを抜いたとしても可愛いよねぇ。あ、エロで抜くとか余計ヤラしい表現にむぐぐ!?」
言葉の途中で強引に夏樹に口を押えられる薫。
これ以上は本気で危ない。これは動くエロ広辞苑だ。こいつを自由にさせたら転校生の赤宮が妄想の被害者になってしまう。そうなってしまえばいくら夏樹でも彼女を擁護できない。
しかし、薫の可愛いという意見には夏樹も素直に賛成せざるを得なかった。というか、目の前のこの少女を可愛く思うな、と思う方が無理だろう。
綺麗な赤い髪に、ぱっちりとした大きい瞳、ぷるっとした桜色の唇、小柄で華奢な身体つき、どこか守ってあげたくなるような雰囲気さえ漂わせている。
「——エロい脚、白い肌によって映える黒のソックス……」
「お前は何変な感想入れてんだよ! もうエロはいいっつってんだろ」
途中から変な感想をねじ込んでくる薫。そんな幼馴染の両頬をひねり、ぐいぐいと引っ張っている。
薫は痛いのか離してほしいのかどっちか分からないが手をばたばたと動かしている。『うー! ああえー! いあいああいあー!』などと叫んでいるが、夏樹の耳は日本語として理解できないので、無視して引っ張り続けることにした。
「つーかお前さっきエロは抜くって言ってたろ。また話を戻す気か? 進まねぇじゃねぇか」
「……エロで、抜く?」
ゴン!! という鈍い音が教室中に響く。
転校生の真冬以外のクラスメートは、ああまたやってるよ、的な表情で夏樹と薫を見つめている。もはやこれはこのクラスの恒例のようなものだ。
薫に夏樹が拳骨をする。
「おお……今のは効いたぜ……」
その場にうずくまり頭を手で押さえる薫。若干涙目になってりうがそれもそのはず。夏樹は割と本気でやったのだ。酷い、と思われがちだが、これは殴られて然るべきだろう。
「夏樹、次は移動教室だよ……実験室に行こうぜぃ……」
よろよろとした動きで立ち上がり、教科書とノートを持って教室から出ようとする薫。夏樹も溜息をついて教科書とノートを用意し、教室から出る。
まだ教室に残っていた女子達も真冬を誘って実験室へと向かって行く。
昼休みになり、夏樹は校舎の外——食堂付近にある自動販売機に来ていた。飲み物を忘れていたので、ここで買おうとやって来たのだ。
夏樹は財布から小銭を取り出して投入口に入れようとした瞬間、不意に誰かと手がぶつかった。
細く白い指。明らかに女子だと分かったが、何故だか夏樹にはその人物もなんとなく予想できた。
横を見ると自分と同じように小銭を投入口へと持っていっている真冬の姿があった。
「……赤宮?」
「……夏樹くん……」
本当にその呼び方で通すつもりなのか、薫に呼ばれ慣れてはいるのだが、あまり呼ばれたくないことには違いない。夏樹は小さく溜息をついて、真冬に先を譲る。
ありがとう、と短くお礼を言って真冬は自動販売機から飲み物を選択した。選んだのはミルクティーだ。まあイメージ通りではある。
「びっくりしたよ。夏樹くん、気付くと教室から消えてるんだもん。それで飲み物買いに来たら……偶然だね」
にっこりと笑ってそう言う真冬。
本人に自覚はないのだろうが、彼女の笑顔はそれなりの破壊力が備わっている。教室でお自己紹介の時はクラスの全員に向けられていたが、今は自分だけに天使のような笑顔が向けられているのだ。いくら(女子が多い環境で育ったため)女子に慣れている夏樹でも、これは耐えられない。
夏樹は顔を逸らしながら、
「つーかよく自販機の場所分かったな」
「うん。クラスの子に教えてもらったの。って、本当は夏樹くんの姿が見えたから一人で行ってくる、て言ったんだけどね」
そんなこと言うな! 余計意識するだろうが!
……なんてことは言えず、夏樹は気にしないように小銭を入れて飲み物を選択する。
「……お前、それ口説いてるのか?」
夏樹は冗談交じりに訊く。
『そんなわけないじゃん』とか『からかっただけだよー』という反応を予想していたのだが——
真冬は僅かに頬を赤く染めながら、
「——そうだよって……言ったら?」
「……………………ッ!!」
思わず抱きしめそうになってしまった。今ここでやったら犯罪だ。真冬に叫ばれでもしたら明日からの学園生活は地獄になるだろう。
夏樹はなんとか本能を理性で抑えつけ、勝手に動こうとする身体を止める。
「……お前なぁ……!」
不意に夏樹の言葉が詰まる。
理由は簡単だ。真冬の様子がおかしい。
頬が赤い。さっきも赤かったが、異常はそれだけじゃない。身体が左右に僅かに揺れている。ふらふら、と危なっかしい感じだ。それに呼吸もちょっと荒い気がする。呼吸という簡単な行動でさえ、少し苦しそうだ。
「……お、おい……赤宮?」
「……あれ、おかしいな……さっきまで大丈夫だ、た……のに……」
急に真冬の身体が横に大きく揺れる。地面に打ち付けられそうになった彼女の身体を夏樹はすんでのところで抱きとめる。
「おい、赤宮? どうしたんだよ、赤宮!?」
揺すっても声を掛けても反応しない。
荒い呼吸を続けながら、真冬は固く目を閉じていた。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.9 )
- 日時: 2014/11/21 00:01
- 名前: 竜野翔太 (ID: y68rktPl)
4
真冬は目を覚ますと、白い天井が飛び込んできた。
意識がはっきりとせず、何処にいるのかは分からないが自分は寝かされているであろうことには気付いた。背中に柔らかいベッドの感触があるし、頭には枕に包まれている感覚がある。
真冬はどうして自分は寝かされているのであろう、と考えていた。
必死に自分の記憶を辿ってみる。たしか昼休みに自動販売機まで行ったはずだ。それは飲み物を忘れた、というドジっ娘みたいな理由ではなく、ただ純粋に自動販売機にある人物を発見したからだ。
それは隣の席に座る桐澤夏樹だ。彼と少しお話がしたかった真冬は急いで自動販売機まで走って行った。幸い彼は何を買おうか悩んでいたのか、三分ほど時間がかかったにもかかわらず、彼は自動販売機の前にいた。そこで彼と他愛ない話をしていたのは覚えているのだが……。
そこから記憶がない。
夏樹に『口説いているのか』と聞かれて『そうだと言ったら?』的な言葉を返したことは覚えている。今思えばなんてことを言ったんだろう、と耳が熱くなるのを感じた。
とりあえず自分は今どこにいるのかを把握するために真冬は身体を起こした。すると保健室であろう部屋に、三人ほどの女子がどたばたと暴れて——正しくは忙しなく走り回っているのだろうが、大きな声と音が見事に暴れているさまを見せてくれた。
「ねーねー、おでこに濡れタオルを乗せとくべきじゃないの?」
「いいや、風邪の場合は身体をあったかくしていっぱい汗をかかせるのが効果的なんだよ!」
「たいちょー! あったかそうな毛布見つけやした! 持ってる手が熱くなってきやす!」
「でかした! それをあの子に被せてやれーい!」
たいちょー、と呼ばれた女子が二人にあれこれ指示している。毛布を持ってきた茶髪でボブカットの少女が毛布を持って真冬の方に振り返った途端、ようやく真冬が目を覚ましていることに気付いたのか、毛布を床に落として、驚いたような表情で叫んだ。
「た、たたた、たいちょー! 彼女が、彼女が目を覚ましましたぁー!」
「なんだとー! うわ、ホントだ。大丈夫だった!?」
「もー、わたしたち心配したんだからぁー!」
たいちょーとボブカットの少女と深緑のロングヘアーの少女が一斉に真冬へと駆け寄って来る。
「え、え、えええぇぇぇ!?」
いきなり押し寄せてくる少女三人に、真冬は困惑の色を浮かべるしかなかった。
「では改めて自己紹介を! ってか、名前言ったことないから改めてもクソもないんだけど」
「たいちょー、女の子がクソとか言うのはどうかと思います」
「お黙り、ボブ子!」
どこかのマダムがいいそうなセリフを言いながら、たいちょーと呼ばれた少女はボブカットの少女、ボブ子の頬をつねる。
「あたしはこの三人の司令塔ですっ! 金城真咲(かねぎまさき)! みんなからはたいちょーと呼ばれてるから、真冬っちもそう呼んでいいよ!」
金城真咲、通称たいちょーはニッと笑ってそう言った。
黒髪のショートカットに右側の髪だけ三つ編みにしている。活発そうな雰囲気のある少女で、声も明るい。司令塔らしいかどうかはさておき、みんなをまとめることが得意そうな印象を受けた。
「わたしは永原結花(ながはらゆか)。この中ではゆーたすって呼ばれてるの。よろしくね、真冬ちゃん」
深緑のロングヘアーの少女が穏やかな笑みを浮かべながら自己紹介をしてきた。とても清楚なイメージがあり、黙っていれば『〜ですわ』という喋り方をしそうでもあるが、優等生っぽい見た目とは裏腹に成績は芳しくない様子。中学生の時に数学で一点という驚異的な点数を取って、採点間違いを探すより、何処を正解したのかを探す、ということをやっていたらしい。
「最後に私がボブ子です。本名戸崎比奈(とざきひな)。よろしくっす、ふゆたん」
茶髪のボブカットの少女が横ピースをしながら言ってきた。ポーズを可愛らしさを表現するものだが、やっている本人が無表情なため、本気でやっているのか、冗談でやっているのか分からない。三人の中では一番成績が良いらしいが、どんぐりの背比べくらいの差らしい。
「たいちょーこと真咲と、ゆーたすこと結花、ボブ子こと比奈の三人揃って一年二組の美少女トリオ、『キューティーズ』なのだ!」
真咲を中心に、それぞれのポーズを取る結花と比奈。結花はウインクをしながら横ピース、比奈は両腕を十字にクロスさせてどこかのでかいヒーローの必殺技みたいなポーズを取っている。
真冬はどう反応していいのか分からず、苦笑いを浮かべながら控えめな拍手を贈った。
それを受けた『キューティーズ』の三人は、がっくりと肩を落として、
「……どうしよう、ハンパなく滑った感じするんだけど。トリプルアクセルくらい出来る勢いなんだけど」
「……たいちょー、そのたとえ分かりにくい。せめて三回転トウループくらいにしとこうよ」
「余計分かりづらいわ! スケートの技名なんか知るかっての!」
「たいちょー、ここは間取ってイナバウアーにしましょうぜ」
「お黙り、ボブ子! メジャーな名前言えばいいてもんじゃないのよ! ってかあたしのトリプルアクセルが滑ったんだろ!? 遠慮するなよ、余計虚しくなるだろうが!」
何やら隅の方でごにょごにょと聞こえないように喋っているのらしいのだが、すべて筒抜けになっているので真冬としてもどうしていいか分からない。
しかし美少女トリオとは……またハードル上げたなぁ、という感想を真冬は抱いていた。どうでもいいけど、彼女たちには自分の名前の呼び方を統一してほしいなあ、と思っていたがそれは言わないでおくことにした。
そこで真冬は、自分がどうしてここにいるのかを三人に訊いてみることにした。ここにいて、おそらく三人は自分を介抱しようとしてくれていたのだろう。もしかしたら彼女たちが運んでくれたかもしれない。
そうだとしたらお礼を言わなければいけないし、もし違ったとしてもその相手に感謝を伝えねばいけないのだ。
「ねえ、金城さん……」
「たいちょーって呼んで! それか真咲ちゃんって呼んで!」
「じ、じゃあ真咲ちゃん……」
「たいちょーって呼んで!」
「真咲ちゃ」
「たいちょーって呼んで!」
「もういいや、永原さん!」
たいちょーと呼ばせることを強要しすぎたせいで、真冬から諦められ手を床について項垂れる真咲。そんな彼女の頭を撫でながら、比奈が無表情なまま慰めている。
呼ばれた結花は小さく首を傾げて、真冬の次の言葉を待っている。
「……えっと、わたしはどうしてここにいるの? ここって、保健室だよね?」
「あー、それは真冬ちゃんが突然気を失ったらしいの。それで奏崎さんがわたしたちに、真冬ちゃんが保健室にいるって教えてくれたの。ほら、わたしたち一緒にご飯食べてたからさ」
途中から記憶がないのは気を失ったからか。
そこで真冬は納得する。しかし、結花の話し方から察するに、真冬をここまで運んできてくれたのは真咲たち『キューティーズ』ではないようだ。しかも、奏崎さん……が誰なのかは今はまだ分からないけれど、彼女が運んでくれた、というわけでもなさそうだ。
だとしたら一体誰なのだろうか……。
いや、真冬は本当はもう気付いている。
多分運んでくれたのは……あの時一緒にいた彼だ。確証はないけれど、彼は目の前でいきなり人が倒れたら見捨てないような気がする。
「……その、運んでくれたのって……」
「うん、奏崎さんも電話で知ったみたいだから、桐澤くんだと思うよ? あの二人仲良いし」
やっぱり。
自分をここまで運んできてくれたのは桐澤夏樹だったのか。
外で倒れたら、普通固い地面に身体を打ち付けて痛いはずだ。それでも身体に全然痛みがないのは彼が地面に倒れる前に受け止めてくれたからだろう。
「意外とあれで優しいんだよねー、桐澤くん。この前あたしが先生に頼まれてクラス全員のノートを職員室に運びに行ってた時、三分の二くらい持ってくれたもん。女子にこんなに持たせられるかって。いやー、あの時は助かったね」
「わたしも一年生の時同じクラスだったんだけど、放課後の教室でピンを探してたら手伝ってくれたよ。まあピンはわたしの鞄の中にあったんだけど、その時も笑って許してくれて、見つかってよかったよって」
「……私も昨日、寝てて英語のノート取り忘れてたら『見るか?』って貸してくれたし」
誰にでも優しいんだ。
聞けば、仲の良い奏崎薫に取り忘れたノートを見せてあげたり、女子が重いものを運んでいると手伝ってあげたり、男子にも忘れた宿題を見せてあげたりとしているらしい。
自分を助けたのも、彼にとっては当然のことなのだろうが、その優しさが真冬にとっては嬉しかった。
「あとで桐澤くんにお礼言わないとね」
「……うん、そうだね」
真冬はそう答える。
自分がどういう表情をしていたのかは分からない。だが——、
「おやおやー、もしかして真冬っち、桐澤くんに惚れた?」
「頑張りなよー。結構彼狙ってる人多いかもよー?」
「最大のライバル、それは奏崎さん!」
「え、ちょっと!? 別にそんなこと言ってないじゃ——」
「あ、ヤベ! そろそろ昼休み終わっちゃうよ! 早く教室に戻らなきゃ!」
「あ、待ってよ! ちょっと、真咲ちゃん!? 永原さんに戸崎さんも!」
——そう言われるということは、そういう表情をしていたんだろう。
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