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ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
日時: 2015/07/18 08:39
名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)

 はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。

 今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
 この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。

 主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
 吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
 まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。

 各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪

 ではでは、次のレスから始めていきますよー!

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Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.50 )
日時: 2014/11/10 22:26
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 真桜はがっかりしている夏樹を見ると、気付かれないようにくすっと笑い、頭の後ろで指を組んだ。
「実はさ、あたし最近彼氏にフラれちゃってさ。ちょっと女としての自信を失くしちゃっててさ。で、どう? ドキッとした?」
「……え、ええ……まあ……」
 夏樹は未だ赤い顔のまま頷いた。
 真桜に迫られた時は確実にドキッとした。それが彼女の魅力によるものなのか、ただ単に慣れていないだけかは分からないが、夏樹は正直者だ。取り繕うことも出来ずに答えてしまう。
 その答えに真桜はにんまりと笑うと、
「しかしいいなぁー! 桐澤くんはこんな可愛い女の子と、赤宮さんはこんないい男とデートなんてさ」
「で、ででで、デート!?」
「ち、違うっ……! わたしたちは友達で……!」
 デートという単語に夏樹と真冬が反応し、顔を真っ赤にして否定する。別にお互いデートと言われるのが嫌ではないが、言われると照れくさくつい否定してしまう。
 真桜は何気ない口調で、
「……なに動揺してんのよ。付き合ってなくても、異性とお出掛けしたなら、そりゃもうデートでしょ」
「お姉ちゃん、察してあげなきゃダメだよ。あの二人は照れてるだけで実は——」
「ああ、そっかそっか。そりゃ悪いことしちゃったな」
「違いますっ!!」
 ひそひそと真咲が真桜に話していたが、明らかに聞こえるように言っていた。夏樹と真冬はたまらずテーブルをバン!! と叩いて立ち上がりながら否定した。
 だんだん二人が可哀相になってきたのか、真桜は苦笑しながら『冗談だって』と二人をなだめた。
「でもいいなあ。あたしも学生時代に戻って、素敵な恋愛がしたいよー!」
 真桜の声が店内に響き渡る。
 店員が騒ぐものじゃないだろう、と真咲が肘で真桜をつつくと、真桜はハッとした様子で手で口を覆った。なんか見ていくとたまに姉妹の立ち位置が逆転してしまうのが、この二人の面白いところかもしれない。
「じゃあ、金城さんは……学生時代に恋とかしなかったんですか?」
 真冬が問いかける。
 再び頬杖をついた真桜は、『真桜でいいって』と言いながら語り始めた。
「まあ、しなかった……ってわけじゃないけど、いいなあ、と思う人がいても、見ていくとちょっと冷めちゃっていったんだよね」
 彼女の口調はどこか懐かしむようだった。
 それでも彼女の恋の思い出はあるようで、懐かしむようにその思い出を話してくれた。
「あたしでもさ、告白されたことはあるんだよ。でも、たったの三回だし、おまけにうち二回は同じ人だったし」
「え、同じ人? そんな熱心な人からの交際を断ったんですか?」
 以外にも反応したのは夏樹だった。
 真桜は一瞬驚いたような反応を見せたが、それでもにっこりと笑ってこくり、と頷いた。
 彼女によると、その二回告白してきた男は、真桜が女友達と話している最中『やっぱり男は中身だよねー』という言葉を聞いていたらしい。前から真桜に好意を抱いていたその男は、真桜のその言葉に希望を持ち、告白に踏み切ったらしい。
 しかし、その男はクラスや学年でオタクと呼ばれている奴で、さすがの真桜も断ったらしい。二回目の告白の際に連絡先を交換し、今では悩みや相談に乗ってくれるいい友達らしい。
「彼はあたしのことまだ好きでいてくれてるみたいなんだよね。なんか高校卒業してから痩せて、カッコよくなったらしいけど」
「もう一人は?」
 真冬が聞くと、今度は真桜がげっそりとした。まるで嫌な思い出を思い返すような表情だ。
 いけないことでも聞いたかな、と思う真冬だったが、真桜の表情を見た真咲がもう一人の告白してきた相手のことを話し始める。
「……もう一人は、結構イケメンだったらしいんだけど、何股もかけてるって噂があって、飽きた女子は捨てるっていう最低な奴だったの。お姉ちゃんはもちろん断ったけど、その人が以外にも食い下がって抱きしめようとするもんだから、抵抗した時に偶然上げた足がその人の股間に当たっちゃってね」
 それを聞いた夏樹は表情を引きつらせた。男性にとって股間へのダメージは想像を絶する。それを知らない真冬は首を傾げていたが、深くは聞かないことにした。
「それから一週間ほどお姉ちゃんのあだ名が『股潰し』になったんだって。いやー、ウケるよね」
 今でも仲の良い友達からそのあだ名でからかわれることがあるらしい。その度に、あの男に迫られた時のことを思い出してしては、イライラするんだとか。
「でも、そいつこの前ギャンブルで大負けしたらしくてさ。付き合ってた女の人全員から愛想つかされて、多額の借金を抱えながら、借金取りから逃げ隠れする生活を送ってるらしいわよ」
 今となっては付き合うことにならなくてよかった、とさえ思っているらしい。
 その男には、股間を蹴った後全く声を掛けられなくなったらしい。忌々しいあだ名がついたが、そのお蔭で情けない男に目をつけられなくなって良くなった、とあの時の自分の行動をたまに褒めているらしい。
 真桜は真咲の頭をぽんぽんと撫でながら、
「だからね、あたしも真咲に言ってんのよ。顔が似てるから、そんな変な男に引っかからないようにしなって。でもね、全然言うこと聞かないのよ」
「だって、告白とかあたしには縁遠い話だし、心配しくてもあたしに告白してくる奴なんていないって!」
 撫でられてる時は嬉しそうな顔をしていたが、真桜の言葉は完全に否定する。少し嫌だが、自分がモテないっていうことは自覚しているようだ。
 真咲の言葉に反対したのは真冬だった。
「そんなことないよ! 真咲ちゃんはすっごく可愛いよ! 真咲ちゃんのこと好きな人だっているよ! ねえ、夏樹くん。夏樹くんもそう思うよね!」
「ありがと、真冬っち。その気持ちだけでも嬉しいから——」
「まあ確かに、金城は普通に可愛いと思うし、本当に好きな奴がいるかもな」

「——え?」

 夏樹の言葉に真咲が顔を赤くした。
 さっきまで真冬の言葉に少し照れくさそうにお礼を言っていた真咲だったが、夏樹の言葉は意外過ぎたのか、否定もお礼も言わず、ただただ本気で照れてしまった。
 真咲は女友達から可愛いと言われたことはあった。現に今も言われたし、今じゃなくても、今までで言われたことは確かにあった。だが、男友達がいなかった真咲は、男子から『可愛い』などと言われたことはなかった。
 そんな真咲が、クラスメイトの少ししか話したことがない男子とはいえ、可愛いと言われたら、照れないはずがない。恥ずかしくないわけがない。
「……え、えーっと……」
 真咲はあからさまに動揺する。泳ぎまくってる目で店内を見回しながら、ぎこちないロボットのような動作で、席から立ち上がった。
「……そ、そろそろ忙しくなる時間帯だー! お姉ちゃん、あたし……」
 ちらっと夏樹を見ると目が合った。すると余計に顔を赤くして、
「あたし、お仕事に戻るから—っ!!」
 ぴゅーっという効果音がつきそうな憩いで奥の方に戻っていく真咲。そんな彼女の背中を見送っていた夏樹は不思議そうな顔をしていたが、隣の真冬は『……夏樹くんの鈍感』と、隣の相手への不満を漏らし、真桜ににんまりと笑いながら『モテる男はつらいねぇ』と、それぞれ夏樹に聞こえないように呟いていた。
 真桜は夏樹と真冬と楽しそうに話す真咲を見て、
「……あの子さ、寂しがり屋なんだ」
 不意に呟いた。
 それを聞いた夏樹と真冬は真桜に向き直り、彼女の話を聞く態勢をとる。
「……一回さ、両親が仕事で、あたしが幼稚園行って、真咲が一人で留守番してる時……帰ってきたら、熊のぬいぐるみを抱きしめて泣きじゃくってた。あの時の泣き顔が、今も頭に残ってるの」
 あの時は本当に驚いたという。いつも笑っている彼女から、笑顔が消える瞬間を始めて見たらしく、それがとても悲しかったらしい。
 真桜としては、真咲が友達と楽しく話している時が一番安心するらしい。
「これは、ゆーたすとボブ子にも聞いたんだけど、これからもあの子の友達でいてくれるかな?」
 真桜が問いかける。
 夏樹と真冬は顔を見合わせる。確認するまでもなく二人の答えは決まっていた。軽く頷き合うと、再び真桜に顔を向ける。
「もちろんっすよ。金城はとてもいい奴だし」
「はい! というか、わたしからお願いしちゃいますよ。友達でいてくださいって!」
「……そっか」
 真桜は安心したような笑みを見せると席から立ち上がる。
「さて、そろそろ本当に混む時間だし、あたしも戻るね。ついでにオーダー聞いとこうか」
 夏樹と真冬はメニューを見て注文したいものを選んでいく。
 しかし、見た目に反して大食いな真冬は、この日合計で十三品の料理を平らげた。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.51 )
日時: 2015/07/07 12:34
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)

 

 6


「ふぅ〜、お腹いっぱい!」
 喫茶店から出た真冬はお腹を押えながら幸せそうな表情でそう言った。
 支払いを終えて夏樹も店から出る。彼はごっそりと減った財布の中を見て、苦笑いしか浮かべられなかった。
 割と良心的な価格設定と友達だから、という理由で、真咲も少し値段をまけてくれたのだが、それでも普通喫茶店で払わないような金額を支払い、今月はあまり無理できないな、と溜息をつく。
 夏樹は十三品を食べた後とは思えない真冬の体型を見て、
「しかし、あれだけ食ってよく太らないよな。他の女子からは羨ましがられるだろ」
「うん。まあ太りにくい体質なんだよね。そういえばお姉ちゃんと妹もあんまり太ってないかも」
 夏樹はそこである言葉に反応した。
「……ちょっと待て。赤宮って次女だったのか?」
 夏樹の問いかけに真冬は頷いた。
「そうだよ。二人ともわたしにあんまり似てないけど……」
 そういえば、家では梨王を実の妹のように可愛がっている。もしかしたら、真冬は『天界』の実の妹を梨王と重ねているのかもしれない。見ていれば真冬が姉っぽく見えることだってある。
 薫や真咲といった学校の友達といる時は、どう見ても姉から可愛がれている妹のように見えてしまうが。
 姉であり妹でもある真冬は、年上や年下から平等にすかれる理由がなんとなく分かった。
「なんか似てるんだよね、梨王ちゃんって」
「赤宮の妹にか?」
「うん。元気なところとか、明るいところとか。表情がころころ変わったりするのも、あの子を思い出しちゃって。いつか夏樹くんにも紹介するね」
「ああ。お前に似てない姉妹ってのも見てみたいしな」
 うん、と真冬はにっこりと笑った。
 その笑顔に夏樹はドキッとして思わず顔を逸らしてしまう。最近家でも真冬と一緒にいるため、彼女の笑顔を見慣れたつもりだったが、家族と話している時に見る笑顔と、自分に向けられる笑顔とではやはり破壊力が違った。
 顔を逸らしてしまった夏樹に、真冬はどうしたんだろう、と首を傾げる。
「そう思うと俺らの周りって、兄妹がいる人が結構いるんだな」
 夏樹は顔を背けながら、突然そう切り出した。
 言われて、真冬は少し考えながら、
「そうだね、わたしと夏樹くんだってそうだし……今日知ったけど、真咲ちゃんだってそうだったね。比奈ちゃんは弟が二人いるって聞いたし」
「戸崎もか? 意外だな。アイツは一人っ子だと思ってた」
「そういえば、昴くんはどうか知ってる?」
 彼の名前が出た時に夏樹の表情が不機嫌になったのは気のせいじゃないだろう。一回『アサシン』の件で共闘したとはいえ、相変わらず親しいとは呼べない仲なのだ。
「アイツは一人っ子だよ。アイツの親父さんは病院を継がせたいらしいけど、本人は全くその気はないみたいだがな」
 朧月昴の父親は大きな病院の院長だ。
 『アサシン』の件で、真冬たちが一回体勢を立て直せたのも昴の父親が病院を使わせてくれたおかげだ。夏樹だって、あの病院が無ければ今はもう死んでしまっていたかもしれない。そういう意味では、彼に感謝してもいいだろう。
「そういえば白波はどうなんだ? アイツも一人っ子っぽいけど」
「どうだったっけ? お姉ちゃんがいる、みたいなこと言ってたような気がする」
「……アイツ妹なのか」
 まあ確かに姉には見えない。根っからの末っ子気質だろう。あれが姉なら妹や弟に同情せざるを得ない。
 そんなことを話していると、真冬は遠くに、小さな女の子を見つけた。
 身長が一四〇センチもないくらいの小さな女の子だ。十三、四程度の年齢だろうか、肩辺りで切り揃えられている桃色の髪と、頭頂部から触角のように垂れ下がっている二本のアホ毛が特徴の、愛らしい容姿の少女だ。
 その少女は困ったような表情で辺りを見回している。近くに彼女の親らしい人も見当たらない。
 すると、真冬が一点をじっと見つめていることに気付いた夏樹が、
「どうした、赤宮?」
「夏樹くん。あの子、もしかして道に迷ってるんじゃないかな?」
 真冬は桃色の髪の少女を指差す。
 夏樹の目から見ても、少女の様子は迷子に見えた。あんな小さい子が迷子になっている、という状況を見てしまったからには、助けないわけにはいかない。夏樹は真冬と一緒にその少女に近づいて行く。
「ねえ、お嬢ちゃん」
 夏樹が声を掛けたらきっと周りの人から怪しまれるだろう、声を掛けるのは真冬に頼んだ。
 真冬が声を掛けると、少女は振り返る。
 少女の表情に戸惑いは無く、声を掛けられたからただ単純に振り返っただけ、という感じだった。
「どうかした? もしかして、迷子?」
 真冬が問いかけると幼い少女は首を傾げながら、
「まいご〜? というか、わたしは家を出ただけだよ?」
「家を出た!?」
 その言葉に夏樹と真冬は驚いた。
 まさか、今の時代はこんな小さい女の子さえも家出をするのか。これが、これが反抗期というやつなのか。せめて梨王にはこうなってほしくない、と夏樹は切に願う。
 少女は言葉を続ける。
「あのね、刹那がガッコーだからね、ひまだからお出掛けしようとおもって、でもちょっと歩いたら、家の方向わかんなくなっちゃった」
 少女はしょんぼりと俯いた。
 どうやら『家を出た』というのは『出掛けた』という意味らしい。家出じゃなくて良かった、と夏樹と真冬はほっと安堵の息を吐いた。
 刹那、というのは彼女の姉か誰かだろう。
「……でも待てよ、刹那? どっかで聞いたことあるような……」
 聞き覚えのあるような名前に、夏樹はぽつりと呟いた。その呟きに気付かず、真冬は少女の手を取る。
「じゃあ、おうちを捜そっか。どんなおうちか憶えてる?」
「うん!」
 少女はにっこりと笑って、
「あのね、おっきいの! おっきいけど、中は狭いんだよ? あとね……とびら! とびらがいっぱいあるの!」
「……大きいけど」
「……中は狭い?」
 少女の言葉に頭を悩ませる夏樹と真冬。
 一番謎だったのは、彼女が最後に出したヒントだった。
「……扉がいっぱい……?」
 そんな家は果たしてあるのか。あったとしてもどんな家だ。
 幼い女の子の記憶なので、あまりアテにしてはいなかったが、まさかここまでとは思っていなかった夏樹と真冬だった。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.52 )
日時: 2014/11/18 20:53
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 7


「芽瑠はね、刹那といっしょに住んでるんだよ!」
 桃色の髪の少女は、元気に自己紹介をし始めた。
 夏樹と真冬は少女の家のヒントが分からなかったので、少女が来た道を戻ることにした。それでも合っているのか、それも分からない状況だった。
 少女はどうやら茨芽瑠(いばらめる)というらしい。刹那、という人と一緒に住んでいるらしいが、姉妹というわけではなく、なんだかよく分からなかった。
「……ふぅん、じゃあ芽瑠ちゃんは、刹那さんと仲が良いんだね」
「うん!」
 真冬はそんな芽瑠とうまく接していた。
 当たり前だが、今の真冬はお姉さんに見える。芽瑠のことも『天界』にいる妹のように見えているのだろうか。一方で夏樹は上手く接することが出来ずにいた。梨王とは明らかに違う明るさに、戸惑ってしまう。
 今周りからは自分たちはどう見えているのだろう。
 街行く何人かが自分たちを二度見しているような気がする。まさかとは思うが、若い夫婦が子供を連れている、とでも思われているのだろうか。いや、そんなわけはない。自分も真冬も明らかに高校生だし、芽瑠だって控えめに言って小学生ぐらいには見えているだろう。
 明らかに高校生の二人が小学生の娘を連れているわけがない。何歳で生んだんだ、という話だ。
 いや、だがしかし、自分や真冬が若く見られている可能性もある。でもいくなんでも夫婦に見られているということはないだろう。そもそも自分と真冬じゃ釣り合わないだろうし、芽瑠は二人のどちらにも似ていない。
 ぐおー、と一人で苦悩している夏樹を見て、真冬が不思議そうに首を傾げている。
「……夏樹くん?」
「な、なんだっ、赤宮っ!?」
 急に声を掛けられたため声が裏返ってしまった。
 いつもと違う夏樹に、真冬がくすっと笑った。その笑顔も可愛らしくて、どきっとしてしまう。
「なんか今日の夏樹くん変だね。ねー、芽瑠ちゃん」
「うん! おにーちゃん、おかしー!」
 真冬はくすくすと、芽瑠はけたけたと、二人とも愛らしい笑みを浮かべている。
 二人の優しい笑顔に夏樹も思わず笑ってしまう。今まで悩んでいた自分が馬鹿らしく思えてきた。
「そういえば、さっきから二度見されてる気がするんだけど、なんでかな?」
 どうやら二度見されていることには真冬も気付いているようだった。注目されていれば、嫌でも視線を感じてしまう。よっぽど鈍い人間でもなければ気付くだろう。
「……こんな時間に学生が私服でいることに、怪しんでるのかな? 創立記念日なのに」
 勘違いをしてくれて助かった。
 これで夫婦に間違われている、などと思われしまったら真冬との会話が減って、重苦しい空気が支配する。
 夏樹がほっとしてると芽瑠が、
「たぶんねー、おにーちゃんとおねーちゃんがふーふに見えるんだよ! ふーふ!」
「えっ!?」
 真冬が顔を真っ赤にする。夏樹も顔を赤くしてしまう。
「……ふ、夫婦って……」
 男女二人と、小さい女の子が一人。有り得ないと思ってもそう思われてもおかしくないだろう。
「……そ、そんなわけないっ! ないよっ! わたしと夫婦なんて思われちゃ、夏樹くんだって迷惑だし……」
「いや、そんなことない……俺は全然平気だっ! むしろ、赤宮が困るんじゃないか?」
「わ、わたしも別に……!」
 変な空気が支配する。
 幼い少女の無邪気な発言は中々に怖いものだ。そんなことを二人は思い知らされていた。
 しばらく無言で芽瑠の家を探していると、突然芽瑠が声を上げた。
「あっ! おうちだー!」
 芽瑠が指を指した方向を見ると、アパートが見えた。『大きいが中は狭くて、とびらがいっぱいある』……なんだそういうことか、と夏樹と真冬は芽瑠の言っていたことを理解する。
 芽瑠は夏樹と真冬に向き直って、
「ありがとね! じゃーまたね、おにーちゃん、おねーちゃん!」
 芽瑠は手を大きく振ってアパートへと向かって行く。
「……なんか、静かだったね、夏樹くん」
「……まあ、梨王とは違うタイプだったからな……。俺は年下の女子は苦手かもしれん」
 夏樹はスマートホンで時刻を確認する。
 そろそろ三時半という時刻だった。この場所から家まで戻っていると、四時くらいになるだろう。
「そろそろ帰るか。梨王も学校終わるくらいだろ」
「あ、夏樹くん、先に帰ってていいよ。わたし、寄りたいところあるから」
「……別に付き合ってもいいぞ?」
「ううん、平気だよ」
 真冬は笑顔でそう言う。
 何処に行く気か気になり、真冬をじっと見つめる。視線で気付いたのか、真冬は行き先を告白した。
「……薫ちゃんの家。二人で話したいことがあって……」
「そっか」
 二人で話したい、とまで言うということは聞かれたくない、もしくは聞いてほしくないことなのだろう。夏樹は真冬の気持ちを考慮して、頷いた。
「分かった。でも、あんまり遅くなるなよ? アイツのペースに乗せられると、時間がかかりそうだし」
「分かってるよ、ありがと」
 真冬は優しく笑った。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.53 )
日時: 2014/11/23 00:28
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 8


 赤宮真冬はある家の前に立っていた。
 ここには前に一度だけ来たことがある。転校してきた翌日、夏樹に街を案内している際に、この家に住んでいる少女に招かれたのだ。
 ここは奏崎香の家である。
 相も変わらず立派で、他の家とは明らかに違うという事が一目見て分かる。
 真冬は大きく深呼吸をしてから、家のインターホンを押した。
 すると、インターホンのスピーカーから薫の声がした。
『ほいほーい。奏崎家の薫ちゃんでーっす!』
 まさか、誰が尋ねてきてもこうやって出るつもりなのだろうか。彼女をまったく知らない人は驚いてしまうだろうが、彼女と友達である真冬はそれほど驚きはしなかった。
 自分から常識が少しずつ欠落していっているような気がして、少し不安だったが、薫の声に返事をする。
「あ、薫ちゃん? えっと……」
『おお、真冬ちゃーん! どうしたの!? ちょっと待っててねー!』
 名乗る前に真冬だと分かった薫はいっそう元気な声を出した。
 しばらくすると家のドアが開いて、中から薫が出てくる。
「いやー、真冬ちゃんが来てくれるなんて! 学校が休みで、わたしに会いたくって来たのかい?」
 出て来た薫は幸せそうな表情を浮かべてそう言った。
 しかし、その薫は真冬の知る薫とは少し違っていた。髪はくくっておらず下ろしており、黒ぶちの眼鏡をかけている。なんだかいつもと違って知的なイメージを与える薫に、真冬は驚いた。
 何も言わず自分の顔をじっと見つめる真冬に、薫は首を傾げながら問いかける。
「……真冬ちゃん? どうかした?」
「え、あ、えっと……」
 聞かれてハッとした真冬は、どう答えようかしどろもどろしていると、薫がいつも真冬の見ている自分と違うことに気付き、
「ああ、そういやこの格好は初めてだっけ? わたし学校がお休みの時は家に引き籠りがちだから、髪とかくくらないんだよねー」
 あははー、と笑いながら言う薫。
「じゃあ、その眼鏡は?」
「これは作業中に集中力が高まるから付けてるの。だから度は入ってないんだよ」
 作業中? と首を傾げる真冬。
 薫はニッと笑って、
「どうせだから見ていく? 入りなよ」
 薫に促されて家に入る真冬。彼女は真っ先に薫の部屋へと案内された。
 相変わらずピンク一色の部屋で、一回目ほどではないが、長時間いると気分がまた悪くなってしまいそうだった。
 薫は自分の机の上にあるパソコンをいじりながら、
「今ねゲーム作ってるんだ」
「ゲーム? それって最初から!?」
「うん。といっても、お店とかで売られてるものとは比べものにならない程低レベルなものだけどね。動作も鈍いし、バグなんてしょっちゅう起こるし。いやぁー、中々上手くいかなくてねー」
 乾いた笑みを浮かべながら薫は言う。
 彼女の机にはゲームを作るための資料や本が大量に置かれていた。前に家に来た時は見当たらなかったが、普段はあまり見せないようにしているのだろう。
「……すごいんだね、薫ちゃんって……」
「そんなことないよ。まだまだ全然だし。完成には程遠いよ」
「ねえ、もし完成したらわたしに遊ばせてくれる?」
「もちろん! その時は夏樹も連れて来なよ! といっても、上手く出来るか分かんないけどね」
 真冬は薫の手を自分の両手で包み込む。
「大丈夫だよ、薫ちゃんなら出来る! わたしが保証する!」
「……そう言われちゃ、頑張らないわけにはいきませんなぁ」
 お互いに笑い合う。
 それから思い出したように、薫が口を開いた。
「そういや、真冬ちゃんは何しに来たの? もしかして、本当にただわたしに会いに!?」
「あ、そうじゃなくて……」
 否定された薫はがっくりと肩を落とした。
 何もそこまで落ち込まなくても、と思う真冬だが、薫はこういう人だった。おそらくこれも冗談の一つなのだろうが、半分くらいは本気で落ち込んでいるだろう。
「……えっと、夏樹くんのことで話が……」
 すると薫は笑みを作って、
「そっか。夏樹がいない時点でそうじゃないかと思ってた。好きなんだね、夏樹のことが」
 真冬は静かに頷いた。
 静寂が部屋を包む。どちらも口を開こうとしない。その沈黙を真冬はなんとか破ることにした。
「ご、ごめんなさいっ!!」
「へ?」
 いきなりの謝罪に思わず間の抜けた声を上げてしまう薫。
「ち、ちょっと待って! なんで真冬ちゃんが謝るのさ?」
「だって、その……わたしが好きだって気付いたの、つい最近のことじゃないの……。少し前からだから……言うのが遅くなっちゃって、本当にごめん!!」
 そう、真冬が夏樹に好意を抱き始めたのは『アサシン』の一件からだ。
 それがもう二週間ほど前のことで、それから何度も伝えようと思っていたのだが、中々切り出せずにいるうちにもう二週間も経ってしまったのだ。真冬はそのことを謝罪している。
 頭を下げたままの真冬の頭を薫はそっと、優しく撫でる。
「顔を上げて真冬ちゃん。わたし別に怒ってないよ? 伝えるのも勇気がいることだもんね。話してくれてありがとう」
「……薫ちゃん……」
 真冬が上げた顔はとても不安そうな表情をしていた。
 そんな真冬を元気づけるように、薫はにかっと明るく笑ってみせた。
「じゃあ、わたしは宣言通りに恋のキューピッド役に徹しますか!」
「……いいの? 薫ちゃんは、それで」
「……いいよ。わたしはアイツに幸せになってほしいし。それが恩返しだと思ってるから」
 その代わり、と真冬の両肩に薫は手を乗せた。
「わたしも、まだ好きにならないって決まったわけじゃないからね」
「……うん!」
 真冬は力強く頷いた。
 話したいことが話し終わった真冬は、帰ることにした。薫はすごく残念そうな表情をしていたが、明日には学校がある。今日は泊まってはいけない。
「じゃあまた明日ね、薫ちゃん! そんなに悲しまないで! 明日頭撫でてあげるから!」
「……うぅ……絶対だよ……?」
 真冬はこくりと頷くと、大きく手を振って帰っていった。
 真冬の背中が見えなくなるまで見送っていた薫は、振っていた手を下げながら、心の中にもやもやがわだかまっていることに気付く。
「……なんでだろう……」
 薫は胸に手を当てながら、夕暮れの空を見上げる。
「……真冬ちゃんが夏樹を好きになって嬉しいはずなのに……なんで、こんなもやもやするのさ」
 もしかして、自分も気付かないうちに夏樹のことを……と考えたが、頭をぶんぶんと振ってその考えを払拭する。
 そんなわけあるか、と薫は気合を入れ直して、
「よっし、ゲーム制作の続き! その前に気分転換でギャルゲーだ!」
 そう言いながら家の中に戻っていく薫。
 この日、ギャルゲーに夢中で、薫がゲーム制作を再開することはなかった。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.54 )
日時: 2014/11/29 22:34
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 9


 学校からの帰宅途中、刹那はぐったりとしていた。
 中学時代に学校で疲れることはほとんどと言っていいほどなかったのだが、高校生になってからは疲れることの方が多い。疲れないことなど両手の指で足りるくらいだろう。
 普段伸ばしている背筋を猫背のように曲げ、帰り道を一歩一歩ゆっくりと踏みしめていく。ポケットに手を突っ込んだ刹那は、ポケットの中に入れてあった物に気付く。
 取り出してみると、ルビーのような綺麗な石がついたネックレスだ。刹那の物ではない。これは芽瑠が出会った当初にポケットに入っていた物だ。
 出会った芽瑠はあちこち汚れていて、衰弱しきっていたのか段ボールの中に入ったままぐったりとしていたのだ。それを刹那が見つけ、自分の家に連れて帰り、汚れていた服を洗う際に見つけたものだ。あとで返そうと思っていたのだが、未だに返せていない。芽瑠もこのネックレスについては聞いてこないので、本人も持っていたことを忘れているのかもしれない。
 刹那は今日こそ返そうとポケットの中に戻すと、芽瑠と出会い、彼女と交わした言葉の内容を思い出していた。
 ——助けてくれて、ありがとう。
 小さい子供と触れ合う機会がなかったため、最初こそは彼女との会話に戸惑いはしたものの、彼女と話していると心が洗われる気がして、今では自分の癒しとなっている。
 ——芽瑠はね、『ヴァンパイア』なんだ。
 突然言われて驚きはしたが、疑いはしなかった。彼女を見つけた時に身体のあちこちに擦り傷や切り傷などを見つけたが、十数分後には跡形もなく消えていた。普通の人間じゃないことは明白だ。
 それから何故人間界に来たのかなど、色んなことを聞かされた。刹那はそんな芽瑠の力になりたくて、彼女の契血者(バディー)となることを決意したのだ。
 彼女が戦うべき悪魔という存在とはまだ出会ったことがないが、なにも芽瑠が戦うことはない。いざとなれば、芽瑠のために戦う覚悟だって出来ている。
 刹那が気合を入れ直すと、もう目の前は自宅のアパートだった。いつの間にか着いていたのか、と思いながら自分の部屋を見上げると、自分の部屋の扉の鍵を開けようとしている芽瑠の姿が見える。
「芽瑠」
 呼ばれると芽瑠は振り返る。自分を呼んだのか刹那だと分かると、芽瑠は一気に表情を明るくして、アパートの階段を下り一直線に刹那へと駆け寄る。
「おかえり刹那! ガッコーたのしかった?」
「……ま、まあ……疲れたけどね」
 苦笑いを浮かべながら刹那はそう答える。芽瑠の笑顔を見ると、とても楽しくなかったとは言えなかった。
「そーだ! きょうね、家を出て迷っちゃってたら、通りすがりのおにーちゃんとおねーちゃんが助けてくれたの! 芽瑠、すっごく嬉しかったんだ!」
「……迷っちゃってたって……迷子になったの!? 大丈夫だった!? なんか、変な人に声かけられたりしてない? 怪しい奴について来られたりしなかった?」
 急に顔を青くして、芽瑠の身を案じはじめる。学ランを着た美人がやっていると、とても違和感があって少し面白い光景となっていた。
「へーきだよ。すぐにおにーちゃんとおねーちゃんが助けてくれたから」
「……そっか。今度その二人にお礼を言わないとね、私からも」
 刹那は優しい笑みを浮かべると、芽瑠の手を握る。
「よし、じゃあ着替えたら買い物いこっか。今日の晩御飯は何がいい?」
 うーん、と腕を組みながら難しい表情を作る。
 やがて食べたいものが思い浮かんだのか、閃いたような表情を作った。
「じゃあ、カレーが食べたい!」
「うん。じゃあカレーにしようか」

「ちょっと昴! 遅いわよ、早く早く!」
 街で涙がそんな声を上げた。
 現在朧月昴と白波涙は学校の創立記念日をショッピングで楽しんでいたところだった。といっても、昴はほとんど涙の荷物持ちで、今も両手の大量の紙袋を持っている。
「……だったらちょっとぐらい持てよ。全部俺に押しつけやがって」
「男でしょ! 文句言わないの!」
 涙はショートカットの銀髪をサイドポニーテールでまとめており、黒と白のボーダーのシャツに白いパーカーを着ている。下は白いフリルのついた黒いミニスカートで、涙が歩いたり少し動いただけで中が見えそうになっている。その度に、街行くあらゆる男どもが、そちらに視線を向けているのが、同じ男である昴は気付いていた。
「涙、そのスカート短すぎないか?」
「何言ってのよ、これくらい普通よ。それともなあに? あたしのパンツを他の男に見られたくないとか?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべながら聞いてくる涙。正直言うとそんなことないわけもないが、そう聞かれると途端に頷きたくなくなる。
「大丈夫よ、これ中は短パンになってるから。下着は見えないわ」
「そうか。それなら良かった」
「ふふーん、あたしの下着をそんな安く見せるわけないでしょ? こんな美少女のパンツは五万くらい出してくれないと見せないわ」
 五万出したら見せるのかよ、と思ったが、二週間ほど前に紫々伊暗との一戦のハプニングで見られてたなー、と思い出してしまう。
「さあ、あともう一件いくわよ! 次は——」
 まだ行くのかよ、と途方に暮れたような声を昴が上げたが、涙は構わず辺りをきょろきょろと見回し、次に行く店を探す。
 すると遠くの方に高校生くらいの少女と、中学生くらいの女の子が手を繋いで歩いているのを発見した。
 姉妹ならば別に珍しくない光景だろうが、絶対に姉妹などではない。姉妹にしては似てなさすぎる。高校生くらいの方は金髪で長身が特徴的だ。中学生くらいの方は桃色のショートカットに、頭頂部から二本のアホ毛が垂れ下がっている愛らしい少女。
 普段なら見過ごしているだろうが、涙はその二人が普通の人間じゃない証拠を目撃してしまった。

 二人の右手の中指に嵌められた、瑠璃色の石が埋め込まれた指輪。

 涙は自分の右手の中指に嵌められた、石の色が違うだけの指輪を思い出して、
「……昴、今日は早めに帰りましょう」
「もう一件はいいのか?」
 気付けば昴は涙の隣に立ち、彼女と同じ方向を見ていた。どうやら昴もあの二人に気付いたらしい。
「ええ」
 昴の問いに涙は小さく頷いて、
「調べたいことが出来たわ」
 青色の瞳で、瑠璃色の指輪の二人を見つめた。


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