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ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
日時: 2015/07/18 08:39
名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)

 はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。

 今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
 この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。

 主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
 吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
 まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。

 各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪

 ではでは、次のレスから始めていきますよー!

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Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.80 )
日時: 2015/06/29 20:28
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)


「……落ち着け……。落ち着いてくれ、刹那さん……」
 泣きながら膝から崩れ落ちる刹那。
 そんな刹那に戦況を眺めながら、昴がゆっくりと説明を始める。
「あんたは今朝、ある『ヴァンパイア』と悪魔のコンビに誘拐された。あんたを誘拐した理由は一つ。その二人の敵が共通していたからだ」
 黒曜闇夜は、赤宮真冬と白波涙を。
 フルーレティは、その二人と茨芽瑠を。
 目的が違えど、共通の敵を見つけた二人はいつもは敵対している相手と結託した。刹那を攫ったのは敵である三人を一点に集めるためだ。
「黒曜闇夜は赤宮……赤い髪の女が撃退したが、問題はこっちだ」
 昴、涙、芽瑠の三人は黒曜闇夜の相手を真冬に任せ、先に誘拐された刹那を捜すために校舎へと侵入した。
 手分けして捜索を始めてから十分程度、芽瑠の悲鳴を聞きつけ昴と涙が駆けつけると、氷の十字架に磔にされた刹那と芽瑠を発見したのだ。
「あの十字架は一時間経つと全身を氷が覆い、氷の彫刻に成り果てる。涙は氷の侵攻が進んでいたあんたを先に救出したが、茨芽瑠の場合はそう簡単にいかねぇ」
 フルーレティらにとって、刹那は真冬たちを誘き出すためのただの餌に過ぎない。
 彼の目的は『ヴァンパイア』の掃討。要は刹那を手放しても、芽瑠を消せる可能性があるのなら問題はない。
 そしてフルーレティは真冬と涙も討つための最終段階に入っている。最初から手負いだった真冬はもちろん、ほぼ万全の状態で挑んでいた涙も打つ手がなく追い詰められている。
 残り三十分前後でフルーレティを倒すか、氷の十字架を破壊するかしないと、芽瑠は氷の彫刻になってしまう。
 彼女たちは、知り合ったばかりの少女を救うために、命を懸けて戦っているのだ。
「……だったら、私たちが助けに行けばいいじゃない……」
 フルーレティの狙いはあくまで『ヴァンパイア』だ。今でも夏樹たちに手を出す様子はない。
 だが、
「あの氷は人間じゃ壊せない。『ヴァンパイア』の炎を使わなきゃ無理なんだ」
 夏樹が悔しそうな表情で告げる。
 刹那が絶望したような顔で、氷の彫刻に近づいていく芽瑠を見つめる。
「……じゃあ、私たちはこのまま……指をくわえて見てるしかないの……? あの子が氷の彫刻になっていくさまを……。あの二人がやられていくのを……!」
 一番悔しいのは夏樹と昴だ。
 男でありながら。本来ならば女の子を守る立場である二人が、その女の子に頼るしか出来ない今の状況に一番悔しさを、無力感を感じている。
 真冬たちを助けることも、芽瑠を助けることも出来ない。ただ隅で邪魔にならないようにじっとしていることしか出来ない自分に、苛立ちも感じている。
 そんな時、涙が再び飛ばされた。
「涙!」
「あなた、大丈夫なの……?」
 涙は口から血を流し、意識を保つのもやっとという状況だった。沈痛な表情で涙を見つめる刹那は急いで駆け寄り、
「待ってて! 今すぐ手当を……!」
 刹那の言葉を涙が手を出して制した。
「……したって無意味よ。またすぐに怪我、するんだから……」
 涙は身体を震わせながらも立ち上がる。彼女の視線は今も一人でフルーレティに挑む真冬へと向けられている。
「……今も、あの子は戦ってる……。ダメージが大きいのは、あの子の方なのよ……あたしだけ、ここで休んでるわけには……っ!」
 真冬はここに来るまでに、黒曜闇夜と対戦しているそのダメージを全て回復しないままフルーレティ戦に臨んでいるのだ。
 彼女よりダメージが少ない涙が、一足先に休むわけにはいかないのだ。
「……でもこのままじゃ、あなたが死ーー」
 瞬間、涙が鋭い眼光を向け、刹那の口に銃を突っ込んだ。本気で殺しかねない、そんな瞳をしている。
「……それだけは言うなッ! 戦いの最中に、死ぬことなんて考えてないわよ……!」
 刹那の口から銃を引き抜き、自嘲気味な笑みを浮かべる涙。自分でも、このままじゃ死ぬことを理解している。
「……だからって諦めるわけにはいかないでしょーが。あんたの大事な人——茨芽瑠の命だって背負ってんだから」
 自分を奮いたてるように言う涙だが、もう限界はとっくに越えている。立ち上がるもよろめく涙を、刹那も立ち上がって支える。
 その時、刹那のポケットから何かが落ちた。
「……ん? 刹那さん、なんか落ちたぞ……」
 この状況でそんなことに気付けたことが、夏樹自身にも意外だった。刹那と涙が同時に視線を向ける。
 それは赤い水晶がついたネックレスだ。水晶はルビーのように輝き、見惚れるくらいに綺麗だった。
 しかし、涙はそのネックレスを見た瞬間に血相を変えた。
「……夏樹くん……それ、刹那さんのポケットから出てきたの……?」
「ああ。たしかに見たぞ」
 その光景は昴も見ていたようで、彼も静かに頷いた。
 涙は夏樹からネックレスを受け取り、それをまじまじと見つめる。
「……これは、どこで……?」
 涙が刹那に問いかける。
「芽瑠と会った時にあの子が持ってたの。そのまま預かって、返すの忘れてて……」
 芽瑠の所持品だと知った涙は目を細めて、そのネックレスをぎゅっと握りしめる。
「……いけるかも、しれない……」
 涙は呟いた。
 圧倒的な絶望の中で、一筋の光が差し込んでくる。
「——見つけた。僅かな勝機」

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.81 )
日時: 2015/06/29 21:25
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 5


 涙は床に腰を下ろして、手の平にルビーのような宝石がついたネックレスを載せ、契血者(バディー)三人に説明をする。
 ちゃちゃっと済ませてしまいたいが、そうもいかない。真冬の負担は減らしたいが、説明を疎かに出来ない。
「これは『天界』の道具の一つ。封玉(ふうぎょく)よ」
 名前の通り封印するための道具だ。
 作られた意図としては、機密文書や歴史的価値がある文献を完璧な状態で保管するために作られたらしい。
「これのすごいとこはね、なんでも封印出来ることなの。目に見える物から、空気とか水とかなんでもオッケー。さすがに人とか悪魔とか生き物は無理だけどね」
 封玉には有形無形問わず、中に封じ込めて封印出来る。しかも水や空気、食べ物などは封印したその時の新鮮さを保つので、非常用の食料庫にも使えるらしい。
「問題はこれに、今何が封印されてるかなんだけど——」
 涙はポケットから銃弾を一つ取り出した。なんの変哲もない、いたって普通なものだ。
 涙はその銃弾をネックレスに押し当てるが何も起こらない。そのことを確認したかったのか、涙は小さく頷いた。
「封玉は、封印出来るものの質量や数によって収納スペースが狭まるわ。鞄と一緒ね」
 小さい物を入れていけば、鞄にもより多く物を詰められるが、大きい物を入れるとすぐにいっぱいになってしまう。
 それと同じで、封印出来る容量があるらしい。
「さっきこんなちっぽけな弾を封印しようとしたけど、入らなかった。つまり、ここにはこれさえ入らないほどの物が既に入ってるのよ」
「弾が入らないほどって……一体何が入ってるんだよ?」
 涙は銃弾をしまいながら、
「あたしの推測だけど……おそらくこの中には、茨芽瑠の記憶と本来の力が入ってる」
 その言葉に夏樹たちが驚愕する。
「き、記憶と力!? そんなもんも入んのか!?」
 驚く昴に、いい反応が見れたと言わんばかりにニヤける涙。自慢げに話し出す。
「言ったでしょ? 生き物以外はいけるって」
「……でも、記憶と力ってどういうこと……? なんでその必要が?」
 困惑する刹那に、こればかりは涙も分からないようで首を左右に振った。
「さあ。真意は分からないけど……これで辻褄が合うわ」
「……茨と話してた時に感じた、違和感か」
 茨芽瑠が見た目の年齢の割に幼すぎる理由。
 『天界』で幾度となく襲ってきた黒曜闇夜を知らなかった理由。
 記憶を封じていたというのなら、その全てに納得がいく。
「……だが、それが勝機になるのか?」
「多分、ね。封じてる記憶の量にもよるけど、早々容量オーバーにゃなんないわよ」
 これを使って封印を解けば、フルーレティを倒さずして茨芽瑠を助けられるかもしれない。もしかしたら戦力にもなり得る可能性がある。
 勝機を見出すなら、これしかない。
「さて、一番の問題。封玉は茨芽瑠の側で解放しなきゃいけないんだけど……」
「その間、あれを誰が止めるか……か」
 四人がある場所へと視線を向けると、丁度その場から真冬が吹き飛ばされてきた。
「赤宮! 無事か!?」
 夏樹は思わず駆け寄ってしまう。
 瓦礫に埋れた真冬は弱々しい笑みを浮かべている。
「……面白い話をしているな、涙……。私も一枚、噛ませてもらおうか……」
 どうやら、先ほどの会話を聞いていたらしく、これに協力する気らしいが、今の真冬は一人で立つこともままならない。
 どう考えてもフルーレティを相手に出来る状況じゃない。
 涙は諦めたかのような息を吐くと、ネックレスを放り投げて真冬に託す。真冬がネックレスを手に取るのを確認すると二丁の銃を持ち立ち上がる。
「……涙……?」
 真冬がきょとんとした表情を浮かべ涙を見つめる。涙は口元に笑みを浮かべて、
「あたしがフルーレティを引きつける。アンタはその隙に、封玉を茨芽瑠に」
 それを聞いた真冬はすぐさま抗議する。
「む、無茶だ! 今のお前が……」
「それはお互い様でしょ。ダメージを考えると、前に一戦交えてないあたしが適任だわ」
 だが、と尚も食い下がろうとする真冬。
 涙がまともに相手を出来ないのは一目で分かる。一戦交えていようがいなかろうが、今となっては同じような状況だ。
 真冬は氷の十字架に磔にされている芽瑠を見遣る。
 彼女の身体は、もう八割から九割ほど凍っている。迷っている時間も、言い争っている時間もない。
 真冬が決意に満ちた瞳をすると、身体が不意に持ち上げられた。夏樹が肩を貸してくれたのだ。
「……夏樹」
「一人じゃ無理だろ。俺も行くよ。こんなことぐらいしか出来ないから、させてくれ」
 真冬は世話のかかる弟に対して向けるような笑みをこぼした。
「ああ……助かるよ」
 その時、涙の号令が飛んだ。
「いくわよ! 絶対に勝つために……最後の作戦、開始ッ!」
 涙が、真冬が、夏樹が。
 勝利に向かって動き出した。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.82 )
日時: 2015/06/29 21:24
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 6


 涙は最初に銃を前方に構え、突進するという行動を取った。
 もちろんただそれだけじゃない。白い炎を纏わせた銃弾を数発射出しながら、だ。
 一方のフルーレティは防御しようとも、回避しようともせずただ迫る銃弾を立ったまま待っている。彼の身体に命中した銃弾は分厚い氷の鎧を突き破ることは出来ず、凍って地面に落ちる代わりに、氷の鎧に弾かれ地面に転がった。
 涙は低く舌打ちをすると、銃弾では埒が明かないと判断した。彼女は手に持った二丁の銃に白い炎を纏わせる。汐王寺刹那を救出する際に使用した、白波涙ただ一つの近接戦闘方法だ。
 この攻撃の威力にはそれなりの自信がある涙は、
「おらああっ!!」
 乙女らしからぬ雄叫びとともに銃身をフルーレティの胴体に叩きつける。衝撃で腕が痺れる。だが、それでもフルーレティの氷の鎧に傷をつけることは敵わなかった。
 どころか、銃身に大きなひびが入る。
「嘘っ!? こっちが負けた!?」
 疲労で炎の威力が弱まっているとはいえ、こちらがダメージを受けることは予想していなかった。
 素顔を見ることは出来ないが、涙には今フルーレティがどういう表情を浮かべているか予想できた。おそらく不敵な笑みを浮かべているのだろう。勝ち誇ったような、何をしても無駄だと告げるようなそんな笑みを。
「愚かな。何をしても無駄だというのに……」
 呆れたような口調で呟くフルーレティ。
 鋭い爪が生えている彼の腕が振り上げられる。
「……だが、あなたを討てばくだらない目論見も終わる。ならば、ここで無駄な望みは消しておきましょうか」
「まず——っ!」
 今の涙は回避できるほどの機動力はない。無理に動こうとしてバランスを崩した。完全にかわせない。あの爪に切り裂かれるのを待つだけだ。涙が観念して目をきゅっと閉じると、
 
 急にぐいっと、後ろから強い力に引っ張られる。

 そのせいでフルーレティが振り下ろした腕は空を切った。
 涙は驚愕して後ろを振り返ると、昴が涙の身体を抱えるように持っていたことに気が付く。やられそうになった涙を、昴が咄嗟に助けたということだろう。
「……昴……。アンタ、なんで……?」
「全く理解に苦しみますね。隅で大人しくしていれば、あなたには危害を加えないでおこうと思っていたのに……どうなっても知りませんよ?」
 フルーレティの言葉は紛れもない真実だ。
 彼は今まで夏樹や昴に危害を加えようとしなかった。真冬たちを誘き寄せるためにも人質に取った刹那でさえ、再び捕えようと固執する姿勢は見せなかった。
 つまり、フルーレティにとって契血者(バディー)は利用価値しかない存在。生かそうが殺そうが、彼にとって大きな問題じゃない。
 フルーレティの言葉に昴は、無理して笑みを浮かべながら答える。
「……俺だってそうしたかったんだけどな。女が頑張ってるのに、男が隅で大人しくしてるわけにはいかねぇだろ。賢い人間に生まれたつもりだが、女を見捨てるような奴に生まれた憶えはないんでな」
 昴だって恐怖を感じていないわけではない。
 だが、それでも一緒に戦ってくれる。それだけで涙にとっては充分だった。本来ならば昴は刹那を連れてこの教室から逃がしているはずだ。だが、ここにいてくれて良かった。
 それだけで、身体の奥底から見えない力がみなぎってくる気がした。
「よく言った。じゃあそのまま傍にいてちょうだい!」

 夏樹は真冬に肩を貸しながら一歩ずつ、今にも凍りそうな芽瑠に近づいて行く。足取りは重くゆっくりだ。涙が崩れる前に辿り着かなければいけないことと、芽瑠が完全に凍り付いてしまう前に封玉が封印したものを解放しなければいけない、という二つのものが真冬を焦らせる。
 無理に速く動こうとしたことで、真冬はバランスを崩して倒れそうになる。
 それを支えたのは刹那だった。
「……刹那、さん……?」
 真冬が呆然と名前を呟く。
 刹那が笑みを浮かべた。
「そんな勇ましい姿でさん付けされるとちょっと照れるわね。これぐらいしか出来ないけど……これぐらいしか出来ないから、手助けくらいはさせてくれるでしょ?」
 真冬も思わず笑みを浮かべていた。
 夏樹といい、刹那といい。本当にお節介な二人だ。だが、心の支えには充分だ。やはり、傍に誰かいるというのは、無限大の力になる。
 三人は氷の十字架の前に辿り着き、身体のほとんどが凍ってしまっている芽瑠を見上げる。早くしないと手遅れになってしまう。真冬は手に握った封玉をじっと見つめている。
「……芽瑠……」
 心配そうな表情で芽瑠を見つめる刹那に、真冬は封玉を差し出した。
「……えっ? これは……」
「お前が助けてやれ。私では助けられるか不安だからな。彼女に一番会いたいのは……お前だろう?」
 刹那は真冬から封玉を受け取ると、それを胸に抱きながら芽瑠に優しく語り掛ける。
「芽瑠。今、あたなのために桐澤が、赤宮さんが、白波さんが、朧月くんが戦ってくれてる。助けてあげなきゃって思うでしょ? だったら助けなきゃ。あなた自身が。あなたにしか出来ないことなんだから!」
 刹那が封玉を芽瑠に差し出すように翳す。
 すると封玉が眩しく輝き始める。
 その輝きに気付き、涙たちもそちらに視線を向ける。封玉が放つ光は、
「……瑠璃色の光……。なんだろ、すごく優しい……」
 その光に呼応するように芽瑠を蝕んでいた氷を砕いていき、氷の十字架も大きな音を立てて壊れていく。
 重力に従って落ちていく芽瑠を抱きかかえるように腕を広げる刹那。
 その光景に視線を奪われていた涙と昴にトドメを刺そうとフルーレティが氷の塊を二人に向かって放つ。それにいち早く気付いたのは真冬だった。
「涙! 昴!」
 叫ぶがもう遅い。
 二人には回避できる時間はない。二人が覚悟した瞬間、刹那の視界から芽瑠が消える。
「……あれ?」
 きょとんとする刹那をよそに、涙と昴に迫っていた氷の塊が無数の欠片となって砕け散った。
「……なっ!?」
 その出来事に驚愕したのはその場にいる全員だ。
 全員が状況をよく呑み込めず呆然としている。そこで涙は気付いた。自分の目の前に一人の人物がいることに。その人物は小柄で背も低い。その体型に見合わない大きな三日月形の武器がとても不釣り合いに思えた。
 その少女は、辺りを見回して独り言のように呟き始める。
「……初めましてなのか、久し振りなのかよく分かんないや……昴くんは、思っていた以上に背が高そうだね。頭も良さそう。涙ちゃんはすごく可愛いんだね。スタイルもいいし。夏樹お兄ちゃんはやっぱり優しそうだね。見ただけで伝わってくる。真冬お姉ちゃん……だよね? 見た目が全然違うから最初は分かんなかったけど、間違いない」
 その人物は刹那に視線を向けると、優しい笑みを浮かべながら、
「……心配かけちゃってごめんなさい。ただいま、刹那」
 夏樹たちが知っている彼女より大人びた、可憐さもいっそう強く——。

 誰も知らない、本来の茨芽瑠がその場に降り立った。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.83 )
日時: 2015/07/05 01:18
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 7


 三日月形の大きな武器を携えた少女を見て、全員が絶句していた。
 一四〇センチ程度の身長に、肩辺りで切り揃えられた桃色の髪、頭頂部からは触角のように伸びる二本のアホ毛が垂れ下がっている。大きな瞳と小さな背が相まって幼く感じられる。
 が、今の彼女の表情に幼さは一切感じなかった。
 無邪気さが伝わってくる大きな瞳は、分厚い氷の鎧に覆われたフルーレティを強く睨みつけており、小さな身体は目に見えない闘気でみなぎっている。
 自分の知らない芽瑠を見て、刹那が呟くように訊ねる。
「……あなた……本当に芽瑠、なの……?」
 呼ばれて、普段とは違って少し大人びた雰囲気を纏った茨芽瑠が振り返る。芽瑠はフルーレティを睨みつけていた強い眼差しから一転、優しい笑みと瞳を刹那に向ける。
「……やっぱり、いきなりでびっくりするよね。でも、正真正銘私は茨芽瑠だよ。封玉に封じられてた力と記憶が戻っても——」
 芽瑠は刹那だけでなく、夏樹や真冬、昴と涙たちと一度視線を交わすと目を閉じ、自分で確認したかのように小さく頷いた。
 再び目を開けて刹那を真っ直ぐに見つめる。
「——みんなと過ごした記憶は消えていない。だから、今まで通り接してくれていいよ、刹那!」
 そう言って芽瑠はにっこりと笑った。
 今までと同じ、心の底からの無邪気な笑顔。それを見て刹那は小さく笑って、
「……分かった……。早く終わらせて帰ろう、芽瑠」
 こくりと頷いた芽瑠は再び強い瞳でフルーレティを睨み付ける。無意識に武器を握る手に力が入る。
 突如変貌した芽瑠に、フルーレティが堪え切れなくなったかのように吹き出した。
「ふっ、ははははははは!! 面白い! これは実に面白いぞ!」
 笑われても芽瑠の表情は変わらない。
 今も尚フルーレティを睨み付けており、武器を握る手には油断なく力が籠っている。芽瑠の武器に瑠璃色の炎が纏ったその時だった。フルーレティは真冬と涙を指差す。
「あなたがどれほどの力を持っているか分かりませんが、たった一人では私には勝てないでしょう。頼みの綱である二人はこのザマだ。どう足掻いたって、勝てるわけがない!」
 そう断言するフルーレティに、芽瑠は小さく頷いた。彼女自身が、フルーレティに勝てないと一番分かっている。封玉に封じられていた力と記憶が戻っても、それもたかが知れている。おそらく全快の真冬や涙を上回るほどの力はないだろう。
「そんなの分かってる。でも、勝てないとしても……刹那を酷い目に遭わせたり、真冬お姉ちゃんや涙ちゃんを傷つけたあなたを、私は許すことが出来ない!」
 気を失う直前、芽瑠は刹那が氷の十字架に磔にされているのを目撃している。そして気を取り戻したら、刹那が無事になっている代わりに真冬と涙が死にそうなくらい傷を負っている。
 言われるまでもなく、犯人は目の前にいる氷の怪物だと分かった。だったら芽瑠としては、大切な人を三人も傷つけたこの男を許すわけにはいかない。勝つ負ける以前の問題ではない。
 許せるか許せないか、だ。
 芽瑠の言葉を聞いた昴は思わず笑ってしまった。
「……そうだよなあ。あんな小さい子が頑張ってるんだ……。俺たちが何も出来ないからって、ぼーっとしてるわけにゃいかねぇよな」
 誰かにというわけではなく呟くと、昴は真冬に肩を貸している夏樹を呼んだ。
「桐澤! やるぞ」
 昴の短い合図を聞くと、夏樹は諦めたように溜息をついた。
 別に何か打ち合わせをしていたわけではない。だが、昴のその言葉で夏樹は彼が何をしようとしているのか、そして自分に何をするように言っているのかを理解した。
「……おい、夏樹……?」
「……ちょっと、昴……アンタ、何をする気なのよ……?」
 夏樹と昴は、それぞれ傍にいるお互いの契血者(バディー)である少女の目を真っ直ぐに見つめる。
 いきなり見つめられてしまった二人は、僅かに頬を赤くする。今はそんな場合ではない。だが、二人の女としての本能が、胸の鼓動を早くせずにはいられなかった。
 いつになく真剣な瞳で見つめる夏樹と昴。二人はそれぞれの契血者(バディー)に囁くように言った。
「赤宮——」
「涙——」
 真剣な眼差しをした二人の声が重なる。
「——じっとしてろ」
 次の瞬間、

 夏樹は真冬と、昴は塁と唇を重ねた。

「——ッ!?」
 突然のことに顔を真っ赤にする真冬と涙。『うわぁ』と小さな声を上げて、頬を染めながら手で顔を覆う芽瑠。だが、微妙に開けた指の隙間からしっかりと覗いている。刹那は顔を真っ赤にして狼狽えている。
 二人が唇を離すと、我に返った乙女二人が真っ赤な顔のままものすごい勢いで抗議の言葉を口にする。
「す、すすす昴ッ! アンタ、いきなり何してんのよ!? やるんなら事前に言いなさ——じゃない! 今はそんな場合じゃないでしょうが!!」
「そうだぞ夏樹! キスするならもっと別の時に——じゃなくて! 今はフルーレティを倒さなくちゃいけないんだ! こんなことをしてる場合じゃ——!」
 真冬の抗議の言葉を遮ったのは、夏樹の言葉だった。
「それだけ叫ぶことが出来りゃ、二人とも平気みたいだな」
 不意に真冬の言葉が止まる。
 今まで喋ることさえも苦痛だったのが、今は叫べるくらいに回復している。それに身体中の痛みも幾分か和らいだような気がするし、何より内側から力がみなぎってきているのを感じた。
 それは涙も同じらしく、自分の身体の調子を確かめるように腕をぶんぶんと振り回している。
「……昴、もしかして……」
「口からの吸血は他の場所より多いんだろ? まだ足りねぇか?」
「……もう一回やるのは嫌だからな、次はうなじ辺りにでもしといてくれ」
 そっぽを向きながら答える夏樹と昴に、真冬と涙はそれぞれ笑みを浮かべた。おそらくお互い同じことを考えているんだろうな、と思いながら二人の少女は最愛のパートナーから離れた。
 何故男子はこうも馬鹿で単純なのか。多くの血を吸わせるためにキスするのならそう言えばいいのに。どこまでも不器用で、単純で、馬鹿で——そしてどこまでも愛おしい。
 吸血のためのキスといえど、血を吸った以上に力がみなぎっているあたり、女子も単純で馬鹿なのかもしれない。
「……さて、と。最後の戦いだな」
「ええ。この戦い負けるわけにはいかないわねぇ」
 真冬と涙は芽瑠の両隣に立った。
「覚悟した方がいいぞフルーレティ。今の私たちは、誰にも負けない自信がある」
「そうよ。その氷の鎧とアンタのプライド、ズタズタにされたくなかったら土下座して帰りなさい」
 真冬は両手に赤い炎を纏わせ、涙は片手で銃を器用に回しながら、不敵な笑みを浮かべてみせた。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.84 )
日時: 2015/07/05 22:13
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 8


 フルーレティは自分の勝利を確信していた。
 茨芽瑠という人質がいなくなり、逆に戦力に加わったところで何も変わらない。赤宮真冬と白波涙の体力が回復したところで、何も変わりはしない。
 元々この三人とフルーレティの間には、埋めようのない大きな力の差がある。傷を負っていたとはいえ、この姿になった途端に真冬と涙が圧され始めたのがその証拠だ。
 何をしようともこの三人はフルーレティに勝てない。勝つことはあり得ない。
 フルーレティは腕を上に掲げ、大きな氷の塊を形成していく。
 氷の塊の膨張は止まらず教室の天井をも破壊し、まだその膨張は止まらない。
「……ねぇ、アイツ教室の面積とか知らないの? あのまま大きくしすぎたら教室ぶっ壊れるわよ?」
「そうだな。もしかしたらそれが目的かもしれん」
 涙と真冬が軽い口調で言い合っていると芽瑠が三日月形の武器を構えて、
「私がなんとかしてくる!」
 たんっ、と軽い調子で駆け出すと、僅か一歩で数メートルあるフルーレティまでの距離を詰めた。
「なにっ!?」
「あの子速くない!?」
 涙がそう叫んだ瞬間、真冬は芽瑠の足元に瑠璃色の炎が瞬くのを見た。
 芽瑠は真冬と涙の二人とは少々炎の使い方が違う。
 真冬と涙は主に攻撃にしか使わない。その他の用途といえば、真冬ならば翼を生やしたりなどの、直接攻撃に使う頻度が少ないものだ。
 だが、芽瑠は二人に比べて身体がまだ成長しきっていない。二人のように動き回ることが出来ず、体力の限界も早い彼女は、炎でそれを補っている。
 たとえば足元に炎を集中させて飛躍的に脚力を上げたり、武器に纏わせた炎そのものを鋭利な刃にも勝るほどに研ぎ澄ませたり。体力がないからこそ、彼女にしか出来ない戦い方を編み出したのだ。
「でやっ!!」
 芽瑠は掛け声とともに三日月形の武器を素早く振るう。二メートルほどの武器を軽々と操る彼女の姿に、人間である夏樹たち三人は絶句していた。
 芽瑠が武器を振るうと僅かな時間を置いて、フルーレティが形成していた巨大な氷の塊が無数の欠片に切り裂かれた。
「馬鹿な!」
 ガラガラ、と重力に従った氷の欠片が床に転がる。腕を上げたまま硬直していたフルーレティはすぐにハッとして懐に潜んでいる芽瑠目掛けて腕を振り下ろした。
 芽瑠はその様子を一瞥すると躍るように身を翻して、フルーレティの腕から逃れる。それだけに留まらず、芽瑠はフルーレティの腕目掛けて三日月形の武器で一閃した。
 真冬と涙では傷つけることさえ敵わなかった分厚い氷の鎧で覆われた腕が、瑠璃色の炎を纏った芽瑠の武器の攻撃が引き裂き、鎧ごと腕を切断した。
「……ッ、馬鹿な……!」
 自慢の氷の鎧を破壊されたフルーレティの表情が歪んだ。
 それに涙が驚いていると、真冬がそんな涙に小さな声で耳打ちする。
「何を驚いている。さっきまでの私たちじゃないんだぞ。私たちにも出来るはずだ」
 言われて涙はニッと笑い、銃を構えて突進する。
 あらかじめ打ち合わせでもしていたかのように、芽瑠は振り返ることなく、次は涙の番だというかのように後方へと飛び退いた。その時には涙はもうフルーレティの目の前に到達していた。
 涙とフルーレティの視線が交差する。
 涙はさっと素早い動作で銃口を残っているフルーレティの左腕に押し当てる。彼女の指は引き金に掛けられており、
「——涙ちゃんブラスト」
 などというふざけた技名を呟くと同時、涙が引き金を引いた。
 だが放たれた弾丸は一発だけではない。数十発もの弾丸が一斉に襲い掛かり、フルーレティの氷の鎧を粉砕し、腕も動かないほど負傷させる。
 だらんと力なくぶら下がる自身の腕を見て、フルーレティは怒り狂ったように口から氷の息吹を吐いた。
 涙はそれに反応するとバック転をしながらかわした。
 今の攻防で実感していた。さっきよりも身体が動く。むしろ負傷する前より身体が軽い。気分もノッてきている。
 戻ってきた涙は次は真冬の番だ、と彼女の背中を押して前に進ませた。
「……お前なぁ」
 真冬が呆れたような表情で涙を睨み付けるが、涙はウインクをしながら親指を立てている。おまけに芽瑠もこくこくと頷いてしまっているため引くに引けない状態になってしまった。
 大きな溜息をつくと、真冬は気持ちを落ち着かせて背中から真っ赤な翼を生やした。それと同時にフルーレティも兜を自ら割って口の中に冷気を纏ったエネルギーを収束する。
「でかい攻撃が来るわよ! 真冬!」
「私任せか!」
 真冬は力いっぴ地面を踏みしめるとフルーレティの元へと突っ込んでいく。そんな真冬に向けて涙が銃口を向けた。無論勝つために。
「真冬、あたしの炎も使いなさい!」
 涙は銃弾を放たずそのまま炎だけを射出した。その炎は真冬の左腕に収まり、この時だけ彼女の武器となった。
 涙は芽瑠と視線を合わせて頷き合うと、芽瑠も三日月形の武器に炎を纏わせて真冬に向けて炎を放った。
「真冬お姉ちゃん、私のも!」
 芽瑠の炎は真冬の左腕に纏わる。ここまで来ればあとは二人の炎をフルーレティに届かせるだけだ。真冬は自身の身体を真っ赤な炎で包み込む。『ヴァンパイア』の高等技術である『一身炎(いっしんえん)』。
 炎を纏った真冬とフルーレティの放った光線がぶつかり合う。激しい冷気と熱気で教室が包まれる。その衝撃で水蒸気が盛大に上がった。夏樹たちは顔を覆いながら、真冬に視線を送っている。
「私が……この私がお前らに負けるわけがないのだ……ッ! この、フルーレティ様が……!!」
「……そうか。それは残念だったな。私が一人ならお前に負けていたよ」
 真冬の炎とフルーレティの光線が相殺された。フルーレティは次の攻撃に移ろうとするが両の腕は使えない。最終手段として今まで隠していた氷の尾を生やす。これで貫けば終わりだ、と氷の尾で真冬を貫こうと動くが、それよりも真冬の方が早かった。
 彼女は新しい炎を生み出すまでもなく、既に炎が彼女の手の中にあった。仲間から受け取った二つの炎が。
「これは私の勝利じゃない。私たちの勝利だ」
 真冬は二つの炎を纏った拳をフルーレティの胴体に叩き込んだ。強烈な衝撃にフルーレティを覆っていた氷の鎧が全て砕け散る。露わになった彼の身体に炎の拳が直接叩きつけられる。
「ぐふぅ……!」
 フルーレティの口から苦悶の声と血が漏れる。
「……馬鹿な……! 私が、この私が……、貴様らなんかに負けるなど……! 認めてたまるかぁ!!」
 フルーレティは叫び声だけを残して白と瑠璃色の軌道を描きながら教室の窓を突き破り夜の街へと放り出された。教室を覆っていた冷気は一瞬にして消え去り、凍結されていた教室も元に戻ったようだ。
 それを全て確認すると涙が大きな声を上げた。
「勝ったぁー!!」
 その場にいた芽瑠に勢いよく抱きつく涙。それに加わる刹那。夏樹と昴は拳を突き合わせた。窓の外を呆然と見つめてた真冬の身体が、糸が切れたように急に倒れ込んだのはそれからすぐのことだった。
「おい、赤宮!?」
「真冬!」
「お姉ちゃん、大丈夫!?」
 倒れた真冬を夏樹が抱きかかえ。みんなが真冬を見つめる。真冬の状態を確認した夏樹は、小さな笑みを漏らしながら、こちらを見ているみんなを落ち着かせるように、
「……寝てるだけみたいだ」
 それに全員が安堵の息を吐いた。
 みんなを心配させた当の真冬本人は、最愛の人物の腕の中で気持ちよさそうに寝息を立てていた。


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