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ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
日時: 2015/07/18 08:39
名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)

 はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。

 今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
 この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。

 主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
 吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
 まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。

 各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪

 ではでは、次のレスから始めていきますよー!

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Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.35 )
日時: 2014/09/30 20:14
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 真冬の言葉が合図になったかのように、周りに構えていた『アサシン』幹部候補の精鋭が一気に襲い掛かる。
 近距離戦闘を得意とする真冬は敵の攻撃をかわしながら、あるいは受け止めながらダメージを避け、その隙に相手にも攻撃を加えていく。各個撃破しようとしても次から次へと襲い掛かってくるため、上手くいかない。
 一方の武器が銃である涙は言うまでもなく中距離戦闘が得意だ。敵から離れて攻撃する彼女にとってはこの手の戦いは相当厳しい。
 早く片付けて涙を助けてやらないと、と思っていた真冬が、驚愕するのはその直後だった。
「だらっしゃぁー!!」
 という雄叫びが聞き覚えのある少女の声で聞こえてきた。
 声の方向を振り返ってみると、襲い掛かってくる幹部候補に銃を叩きつけている。撃てなければ別の使い方をすればいい、と考えたのだろう、学業の方はいまいち芳しくない涙だが、戦闘での頭の回転の速さは真冬も驚かされるものがある。
「真冬—!」
 幹部候補の顔面に銃身を叩きつけながら涙が叫ぶ。相手は鼻血を流したら仰向けに倒れていく。相当痛そうだ。
「あたしの心配とか、余計なこと考えてないでしょうね!?」
「……涙」
「冗談じゃないわ! あたしはアンタに心配されるほど弱くない! あたしを心配するより——」
 敵の攻撃をかわし、今度は腹部に銃身を叩きつけた。
「紫々死暗に集中しなさい。夏樹くんと昴は任されたわ」
 涙の言葉により、真冬の頭から雑念が消え去った。
 背後から襲ってきた相手の顔を鷲掴みにし、そのまま地面へと叩きつける。
 ニッと獰猛な笑みを浮かべながら、紫々死暗へと視線を向ける。
「ああ、なら任せた。傷一つ負わせるんじゃないぞ!」
「……だから、そこまでハイスペックじゃないって」
 真冬は周りの敵を全く気にも留めず、紫々死暗へと突っ込んでいく。
 夏樹と昴は幹部候補と戦っているようだが、スペックに差がありすぎるのが、戦いというよりは足止めをされているような感じだった。あの状態が続けば夏樹と昴の命の危険もない。
 だったら安心して背中を任せられる。
 自分に突っ込んでくる真冬を見て、紫々死暗は退屈そうに息を吐きながら、
「はーあ……ったくよォ、けーっきょく俺がやる羽目になるんじゃねェか。決めた。お前ら全員クビだ」
 真冬の炎を纏った拳を死暗は右手に装着した大爪で受け止める。
 鍔迫り合い状態になりながら、二人は言葉を交わす。
「よォ、かつて倒した相手に追い込まれている今、どういう心境だァ?」
「いちいち鬱陶しい奴だ。そうまでして殴られたいのか?」
「キハッ! そうカリカリすんなよ。一つ忠告しといてやるぜ」
「……忠告だと?」
 真冬の冷たく赤い瞳が死暗を射抜くように見つめる。しかし、死暗は全くそれに動じない。
「俺の爪には今毒が塗られている。即効性は低いが、体内に侵入すると俺の持っている解毒薬でしか治せない、そういう特別性の毒だ」
「……それを私に教えて、お前は何がしたい?」
 死暗はニィと笑うと、
「気を付けろってことだよ!」
 真冬の拳を押し返し、爪で真冬を刺そうと腕を真っ直ぐに伸ばす。
 攻撃を押し返され体勢が崩れた真冬は、倒れるの覚悟で身体の重心を後ろに倒す。地面に身体を叩きつけ、僅かに口から息が漏れた。
 しかしその隙を死暗は見逃さない。さらに追い打ちを掛けるように倒れた真冬の腹を蹴る。真冬は数メートル飛び、途中で受け身を取って着地した。
 迫る死暗の爪に対し、今度はちゃんとかわして相手の腹に蹴りを叩き込む。
 死暗はその衝撃で、背後へと吹っ飛んでいく。自分が立っていた廃ビルの壁に身体をぶつけさせて、ようやく止まる。
「……厄介だな、お前のその爪は」
「キハハ、上手く戦いに集中出来ねェだろ」
 今の真冬の動きはかなり悪い。
 普段の真冬なら多少の怪我は厭わず、勇敢に敵に立ち向かって行く。例でいえば、芽衣歌との戦いがその証拠だ。彼女は人目を避けるために彼女の攻撃を受けながらも、公園に移動し彼女と戦った。
 だが、今の死暗にはそれが出来ない。
 あの爪に毒が塗られていう以上、下手に傷をつけられるわけにはいかない。もちろん戦いを有利に進めるための死暗の嘘という可能性もあるが、死暗の言葉が真実だという可能性も十分に考えられる。
 毒が塗られている、塗られていない以前に、今まで自分のやってきた無鉄砲な戦いが出来ないという方が、真冬の動きを限りなく制限している。
 これでは不利になる一方だ。
 そう考えた真冬は意を決し、死暗に特攻を仕掛けることを決める。だが、ただの特攻ではない。芽衣歌戦で見せた全身に炎を纏っての特攻だ。
 残りの炎の量を考えればギリギリ死暗を倒すことは出来るはずだ。
「行くぞ、紫々死暗!」
 真冬は全身に炎を纏い、死暗へと攻撃を仕掛ける。
 しかし、死暗はそれを読んでいたかのように、悠然と構えながら笑みを浮かべる。
「キハハ、高等技術の《一身炎(いっしんえん)》かよ。それ、俺使えねェんだよなァ。だがな、お前がそれを使うことはお見通しだ」
 死暗の大爪に紫色の炎が纏う。死暗が腕を横に薙ぐと紫色の頬な斬撃となって真冬に襲い掛かる。それを受け止めた真冬は、押し返すために炎の出力を上げて紫色の炎を押し返す。
「なっ……!?」
 狼狽える死暗に真冬は特攻を再開する。
 やけくそ気味に死暗が爪で斬りかかってくるが、真冬はそれを弾き死暗の身体に隙を作ろ。炎を消し、拳に炎を纏わせる。
「く……そがァ……!」
「終わりだ、紫々死暗!」
 叫びと同時に拳を突き出そうとした瞬間、

 ボッ!! という炎が消えるような音と同時に真冬の髪が元の長さに戻り、彼女の目も鋭さが消え、いつもの穏やかな目に戻っていた。
「……え?」
 当の本人である真冬は今の状況が理解できていない。
 が、夏樹、昴、涙の三人は一様にまずい、という表情を浮かべている。真冬の目の前にいる死暗も、凶悪な笑みを浮かべて、爪を装着している右腕を振り上げる。
 吸血鬼化のタイムリミットだ。
 自分の限界と死暗の笑みを見た瞬間、真冬は全てを悟った。
 全て死暗の思惑通りだったのだ。
 死暗は学校で夏樹と真冬を襲ってから今に至るまで、二人が契約していないことを知っていた。契約している者から吸血するのと、契約していない者から吸血するのとでは吸える量に違いがあり、もちろん契約していなければその量も少ない。
 だから死暗は真冬が炎を早く消費するであろう芽衣歌に、彼女が一番信頼しているであろう夏樹を襲わせ、真冬を芽衣歌と戦わせた。
 実際に真冬は芽衣歌戦で大技を二回使用し、炎の消費を多くした。
 自分が死暗の手の上で転がされていたことに悔しさを滲ませながら、同時にある人物への謝罪の言葉が浮かぶ。
 自分があの爪に切り裂かれる瞬間を静かに待ちながら、心の中で真冬は謝罪する。
 
 ——ごめん、夏樹くん——。
 ——わたし、負けちゃったよ——。

 無情にも死暗が右手を振り下ろし、ゾン!! という生々しい音が響く。
 だが、目を閉じた真冬にいつまで経っても痛みは来ない。
 真冬がそっと目を開けると、彼女は目の前の光景に表情を青くした。
 目の前にはある人物が立っている。真冬が良く知っている少年だ。その少年は両腕を広げ、真冬を庇うように立っている。
 それだけならば問題ではないが、真冬はその少年から血が流れていることに気付く。
 真冬は声を震わせながら、目の前の人物の名前を呟く。
「……な……なつき、くん……?」
 真冬を庇うように立った夏樹は、目の前の死暗に弱々しく笑って、
「……へっ……さまぁ見ろ、バーカ……」
 そう言いながら仰向けに倒れる。
 彼の身体には死暗の爪に切り裂かれた痕が生々しく残っており、そこから止めどなく血が流れている。
「……なつき、くん……」
 動かない少年の名前を呟きながら、真冬は瞳から涙を零す。
「……なつきくんっ……! なつきくんっ……!」
 涙を流しながら彼の名前を呼び続ける。
 それでも動かず、閉じた目を開こうとしない少年の名前を、真冬はいっそう力強く泣き叫ぶ。

「……なつきくんっ!!」

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.36 )
日時: 2015/07/07 12:13
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)


 
 第四章 絶望を突き抜けて


 1


 昴は病院の院長室から出ると、部屋の外で待機していた涙が、出て来たことに気付き昴の下へと駆け寄る。
「……どうだった?」
 深刻そうな表情で尋ねる涙に、昴は容赦なく現実を叩きつけた。
「どうもこうもない。一応止血は済んだが、解毒をしないことにはどうにもならん。『天界』の毒に対処できるモンがないんだと」
「……解毒薬を作るにしても、アイツが使った毒が分からない以上、あたしが『天界』に戻って材料を獲ることも出来ないしね」
 現在彼女たちがいるのは、昴の父親が院長を務める大きな病院だ。紫々死暗の爪で重傷を負わされた夏樹をここに運ぶため、涙たちは紫々死暗の前から一時的に撤退してきたのだ。
 紫々死暗らも深追いはせずに逃げて行く涙たちを眺めていたが、彼らはまた攻撃を仕掛けてくるだろう。今度はもっと多い人数で。
 昴の両親は涙の正体も知っており、昴と彼女の関係も理解している。重傷の夏樹が運び込まれた時は驚いていたが、昴の父親は院長らしく夏樹の手術に取りかかり、今は結果を聞いたところだった。
 一応止血は済み、これ以上出血することはないだろうが、問題は夏樹の体内に入り込んだ毒だ。人間界では『天界』の毒に対処できない。いくら院長であり、医術の知識に長けている昴の父親でもお手上げ状態だ。
 昴と涙は夏樹がいる病室に向かいながら、
「……あたしにも、責任があるよね……」
 ぽつりとつぶやいた涙に、昴が視線を向けた。
「あたしがもっと早く周りの雑魚を倒しておけば……真冬のサポートに回って、夏樹くんはこんなことにならなかったかもしれない……」
 あたしのせいだ、と涙が立ち止まる。いつも明るい彼女にしては珍しく、顔は俯かせ、ぎゅっと強く拳を握りしめている。小刻みに震える肩は、自分の無力さを痛感しての悔しさの表れだろう。
 昴は自責の念に駆られる涙の両肩にぽん、と優しく手を置き、彼女を落ち着かせるように言う。
「お前のせいじゃない。桐澤を止められなかった俺にも責任がある。これは誰のせいでもない、今すべきことは自分を責めることじゃない」
 昴の言葉を聞いた涙は頷きはしたが、顔はまだ俯かせたままだった。
 昴は辿り着いた夏樹の病室の扉を開ける。ベッドの上で横たわる夏樹の手をぎゅっと握る真冬の背中を見ながら、彼は言う。
「まあ……アイツはそう思ってないんだろうがな」
 涙も昴の言葉の後に真冬を見つめる。
「ねえ、夏樹くん……からかってるだけだよね……? わたしを驚かせたいだけだよね……? ホントは起きてるんでしょ……? 冗談はやめてよ……ねえ、目を……目を開けて……! お願い、目を開けてよ……!」
 普段の彼女からは考えられないくらい元気のない背中だった。ただでさえ小柄な彼女がより小さく見えるくらい、今の彼女からは元気がなかった。
 夏樹が傷つけられた、ということより、自分がいながら彼を危険な目に遭わせてしまった、という方が彼女の心を抉っているに違いない。『必ず守る』と言ったのに、結局は自分が守られてしまった。今の真冬には自責の念しかないだろう。
 彼女は呪文のように夏樹の名前を呟いている。
「……真冬」
「なあ涙。紫々死暗はまた攻めてくるんだろうな」
 昴の質問に涙は小さく頷いた。
「ええ、多分。でもそれはきっと夏樹くんが死んだ後。アイツの毒がいつ効き始めるか分からないけど、真冬の士気を完全に奪ってから攻撃に掛かるはず。真冬の戦意が無ければ、あたしだけを相手にするようなものだしね」
 真冬の戦う理由は夏樹を守るため、だった。
 ならば紫々死暗は攻めることを焦りはしないだろう。確実に真冬の戦う理由を奪ってからまた攻撃してくる。真冬が仇討ちに出る可能性もあるが、吸血しなければ戦えない彼女は、その行動に移っても全く相手にならない。
「紫々死暗だけなら、お前でもなんとか出来るんじゃないか? 赤宮と『天界』で倒したんだろ?」
 今回の紫々死暗の攻撃もその時の仕返しだったはずだ。
 だが、涙は首を横に振る。
「……多分無理。倒したっていっても、ほとんど真冬が突っ込んでただけだし、あたしは遠くから援護してたくらい。そもそも、近接戦闘向けのアイツとあたしじゃ相性が悪いわ」
 真冬と互角に渡り合えるくらい、紫々死暗の戦闘能力は高かった。それを考えれば、ほんの少し体術を使えるくらいの涙ではまともに相手にならないだろう。
「つまり、紫々死暗を倒すには赤宮の手助けが必要ってことか」
 昴は病室に入っていく。
 真冬の背後で立ち止まると、寂しげな真冬の背中に向かって声を掛ける。
「赤宮、紫々死暗を倒すためにはお前の力が必要だ。もう一回、戦ってくれないか?」
 真冬は答えない。ただ意識を失った夏樹の手を握るだけだ。
「……お前が今、どれくらい傷ついているかは分かる。だけど、桐澤を助けるには紫々死暗を倒さないといけないんだ。だから、もう一回立ち上がって——」
「犠牲が増えるだけだよ」
 昴の言葉を遮って真冬が口を開いた。
「……今のわたしが戦っても、涙ちゃんや昴くんの足を引っ張るだけ。今度は二人がこんな目に遭うかもしれない。嫌でしょ? 赤の他人のためにこんな傷負うの。大丈夫だよ。夏樹くんはきっと目を覚まして——」

「甘ったれんなッ!!」

 病室に駆けこむように入ってきた涙が、座っている真冬を強引に床に押し倒した。真冬の目は完全に怯えきっている。涙を見る時には決して向けない瞳だった。
 涙は真冬に馬乗りになって、彼女の胸倉を掴み上げる。
「いい加減に現実を見ろッ! これは夢じゃない! 幻じゃない! 紛れもない現実だ!! 今夏樹くんは紫々死暗に襲われて、重傷を負って、生死の境を彷徨っている! 救い出すのは今しかない!」
「で、でも……わたしじゃ、戦えない……。わたしじゃ、二人を危険な目に遭わせちゃう……。足を引っ張るくらいなら、わたしはここで……!」
「ここにいて何が出来る?」
 涙の言葉に真冬が肩をびくっと震わせた。
 射抜くような、それこそ敵を睨み付けるような視線を向けながら、近くにいる真冬を怒鳴りつける。
「手を握ってれば、夏樹くんの意識が回復するのか? 名前を呼び続ければ、夏樹くんが返事をしてくれるのか? 祈り続ければ、解毒が出来るのか? 違うでしょ? 今アンタがすべきことは、手を握ることでも、名前を呼び続けることでも、祈ることでも、ましてや戦わないことでもない! 覚悟を決めることだ! 助けたいんでしょ? だったら覚悟を決めろ! 毒が効いていない、今ならまだ助けられるんだから! 戦えなくても覚悟は決められる、夏樹くんがそうだったように!」
 真冬は意識のない夏樹を見つめる。
 彼は戦えないわけじゃない。ただ、真冬たちのような戦闘能力がないだけだ。だが、彼は真冬を守るために戦った。紫々死暗の目の前に立ちはだかり、真冬を守り切った。
 今度は自分がそれをすべき番だ、と涙はそう言っているのだ。
 涙は真冬の胸倉から手を離して立ち上がると、病室から出て行く。出て行く寸前に、吐き捨てるように言葉を残していく。
「……三〇分後、さっきの廃ビルの前で待ってる。来たければ来なさい。でも、覚悟がないと判断したら、あたしは迷わずアンタを撃ち抜く」
 行くわよ昴、と彼を呼びながら病室から出て行った。
 涙に逆らうと怖いことを知っている昴は、必要最低限の言葉を真冬にかけながら、病室から出て行く。
「まあ、なんだ……アイツは口下手なだけだから……信じてるぞ、お前が来ることを。俺たちは、信じている」
 俺たち、を強調して昴は病室を後にする。彼の言った『俺たち』には朧月昴ともう一人の少女の気持ちが籠っていることを、真冬は理解した。
 二人が出て行き、病室を静寂が包んでいた。
 真冬はゆっくりと立ち上がると、夏樹の手をきゅっと握って、彼に声を掛ける。決して届くはずのない言葉を。
「……えへへ、怒られちゃった……でも、当然だよね。悪いのは、わたしの方だもん……」
 なんであんなに弱気になってたんだろう、と自虐的に笑ってから、
「……ごめんね、夏樹くん……本当にごめん……。守るって言ったのに、一番危険な目に遭わせちゃって。足を引っ張っちゃって。でも、もうわたしは迷わない。立ち止まらないよ。苦しいだろうけど、辛いだろうけど、痛いだろうけど……もう少し、あとほんの少しだけ我慢してね……」
 真冬はゆっくりと目を閉じて、夏樹の顔に手を添える。
「絶対に助けるから。夏樹くんを……大好きな夏樹くんを、絶対に死なせはしないから」

 決意の言葉をともに、真冬は自分の唇を夏樹の唇に重ねる。
 真っ暗な病室を照らすように、赤い炎の翼が羽ばたいた。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.37 )
日時: 2014/10/07 03:17
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 2


 紫々死暗と対峙した廃ビルの前で、朧月昴と白波涙は赤宮真冬が来るのを待っていた。
 涙は腕を組みながら、落ち着かない様子でそわそわしている。
 一方の昴は冷静で、しきりに腕時計で時間を確認しながら、溜息交じりに涙に声を掛けた。
「涙、もう時間を過ぎている。早く行くぞ」
「待って! あと五分、いや三分!」
「……もうそれ何回目だよ……」
 先ほどから涙はこれを繰り返すばかりだった。
 夏樹の病室から出て行って、昴と涙はすぐにこの廃ビルに向かって行った。戦闘の準備などもここで行っていたのだ。真冬には『三〇分後にここで待つ』と言っておいたのだが、既に涙が設定した時間から二〇分近く経過している。
 さっきから五分おきに昴が声を掛けているのだが、涙は真冬が来るのを信じているため、一向に動こうとしない。
「……涙、俺たちにも時間があるわけじゃないんだぞ。桐澤の毒がいつ効きだすか分からない。なるべく急いだ方がいい。それはお前も分かるだろ?」
「……分かってる、分かってるけど……真冬は絶対来るもん。あいつが、こんなことで折れるわけないもん……!」
 涙はかたくなに動こうとしない。
 彼女と一緒に戦ったことがある涙にとっては、彼女が必ず来ると信じたいのだろう。
 涙一人では紫々死暗に太刀打ちできる可能性は低い。戦力としても、そしてなにより友人として彼女には絶対戦場に戻ってきてほしいのだ。
 だが、昴の言う通り彼女たちに時間はそれほど残されてはいない。
 むしろ今こうして来るかどうかも分からない真冬を待っているだけでも、時間は刻一刻と減っていく。紫々死暗の毒にやられた夏樹は、今でも危ない状況にあるのには変わりない。
 彼の容体を変えるには、紫々死暗を倒し、彼の持っている解毒薬を手に入れる以外はない。
「……涙、もう行こう。これだけ待っても来ないんだから、もう来ないさ。俺だって、アイツが来るのを信じていたよ」
「……昴……アンタは戻ってなさい。アンタを守れる自信がないわ。アンタになんかあったら、お父さんに顔向けできない」
「馬鹿か」
 俯いたまま弱気な言葉を言う涙に、昴は軽くチョップを食らわせる。
「このままお前を一人で行かせたら俺が親父に殺される。最後まで付き合うさ」
「……ありがと。出来るだけ頑張るよ——」
 その時だった。
 ざっ、という地面を踏みしめる音が背後から聞こえてきた。本来なら聞き逃してしまうような小さな音。それでも涙が気付けたのは、彼女が必ず来ると信じていたからだろう。
 涙が振り返った先にいたのは——。

 赤宮真冬だった。

「……真冬……」
 真冬が来たのを見て、昴はほっと安堵の息を吐いた。
 一瞬明るい表情を見せて彼女に駆け寄ろうとした涙だが、病室を出る前の自分の言葉を思い出して、キッと鋭い表情を作って、太腿のホルスターから銃を引き抜き、そのまま銃口を真冬へと向ける。
 銃を向けられた真冬は、一〇メートルくらい離れたところで足を止める。
 涙は鋭い射抜くような瞳を向けて、立ち止まっている真冬に問いかける。
「覚悟は? 出来てるの? もしかしたら、来ればいいとか思ってんじゃないんでしょうね? 言ったはずよ。覚悟がなければ迷わず撃ち抜くって」
 真冬は銃を向けられてもなお、怯むことなくもう一歩、足を踏み出した。
 ゆっくりと、一歩ずつ涙に近づいて行き、自分に向けられた銃口を左胸に押し当てる。
「なっ……?」
 真冬の行動に、涙だけでなく昴も驚いた。
 まさか、ここで撃ち抜け、とでもいうつもりなのだろうか。だが、放たれた言葉は涙の思っていたものとは微妙に違うものだった。
「撃ちたかったら撃っていいよ」
「は、はあ!?」
 真冬の言葉に驚き、困惑していると真冬がさらに言葉を紡ぐ。
「でも、涙ちゃんは撃たない。わたしには分かる」
「そ、そんなの分かんないでしょ!? あたしだって、その気になればアンタを撃つぐらい……!」
「ううん、撃たないよ」
 真冬は真っ直ぐ、赤い瞳で涙を見つめながら言う。
「わたしの目を見れば、涙ちゃんは撃たない。きっと……ううん、絶対に分かってくれるって、そう信じてるから」
 涙は青い瞳で真冬を赤い瞳を見つめる。
 二人が数秒見つめ合い、涙が口元にニッと笑みを浮かべた。
 彼女は銃を太腿のホルスターにしまい直し、どん、と真冬のお腹を軽く叩く。
「分かってるわよ、ちゃんと覚悟決めてきてんじゃない!」
 涙は真冬の腹を軽く叩いたはずだったが、真冬は表情を歪めて、お腹を押えながらその場にうずくまる。
「え、どうしたの真冬!?」
「涙ちゃん……殴るの強い……」
「確かに強かったな。軽くっていう音じゃなかったし」
 どん、という叩くといえない強い音を聞いていた昴は冷静にそう言った。
「んじゃ、紫々死暗を倒しに行くわよっ!!」
「ねえ、行くのはいいけど……何処にいるの? まだこっちにいるの?」
 真冬のその質問に昴と涙は、同時にニッと笑みを浮かべた。
 その笑みの意味を分からない真冬は、首を傾げた。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.38 )
日時: 2014/10/11 04:42
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



「あと少しかァ」
 紫々死暗は懐中時計を見つめながら、誰もいない真っ暗な部屋で呟いた。窓から僅かな光が差し込んできてはいるが、日の出にはまだ数時間ある。
 彼は今、桐澤夏樹の体内に入った毒が効くのを待っている途中だ。
 効き始めるのは午前三時。それから死に至らしめるまで一時間程度かかる。毒の効力が現れるまで残り四五分。その時を、紫々死暗は今か今かと待ちわびている。
 彼が今いるのは、三階建ての外観がホテルに見えるような建物だ。中はそんなことはなく、見た目だけをそう見せているだけの、『アサシン』の人間界での基地のようなものだ。
 実際紫々死暗自身も使用するのは初めてで、ここに入ると、基地の中にいた下っ端に最上階へと案内された。まともな設備があるのは最上階である三階の紫々死暗の部屋だけだ。後から徐々に各部屋も準備していくらしい。
 何せまだ出来て数カ月しか経っていない。一室だけでもまともに出来ていたことを褒めるべきだろう。
 この基地に撤退してから『天界』の方から『アサシン』の造園を要請し、既に増援部隊も到着している。元からいた下っ端の数と含めておよそ五〇〇人。桐澤夏樹が死んでから、赤宮真冬と白波涙、ついでに朧月昴を叩きのめすためだけにこの人数を揃えたのだ。
 攻めるのは桐澤夏樹が死んだ後だが、彼が死んでも赤宮真冬の戦意が消えていない可能性を考慮してのこの人数だ。これで確実に仕留められる。
 誰もいない部屋で、紫々死暗が高笑いをしようとしたまさにその瞬間、

 ズゥゥゥン!! という鈍い地響きとともにビル全体が大きく振動した。

 地震ではない。地震にしては一瞬すぎる。
 下の階にいる下っ端が暴れているのかとも思ったが、少々はしゃいだ位程度で揺れるほどヤワな建物じゃないし、そもそもその程度で地響きが起こるはずもない。
 なら一体何だったのか。
 紫々死暗は窓を開けて、外の様子を伺う。
「……あン? なんもねーじゃねーか」
 先ほどの地響きが嘘かのように周りは静まり返っていた。
 紫々死暗のように窓を開けて確認する家も見当たらない。どの家も明かりはついていない。ほぼ全員が眠っている時間帯だからだろう。
 今のは気のせいか、と思い窓を閉めようとしたが、ふと煙が立っているのを視認する。
 どこかで火事でも起きたのか。今のは発火の爆発音か。そう考えたが、紫々死暗は驚くべきことに気が付く。
 煙と自分の位置が相当近い。手を伸ばせば立ち上る煙に触れられるほどに距離が近い。
 紫々死暗は慌てて窓から一階を見下ろす。煙は一階から立ち上っていた。紫々死暗はそのまま窓から飛び降り、一階の中の様子を見るが、彼はその光景に絶句した。
 煙が晴れていき、一階の様子が窺えるようになる。紫々死暗の目に飛び込んできたのは五〇〇人程度の倒れている『アサシン』の下っ端。そして、五〇〇人を一瞬で殲滅したと思われる二人の少女の姿だった。
 一人は真紅の髪を腰まで伸ばしており、もう片方の少女は銀髪のショートカットだ。
 その二人を視界に捉え、紫々死暗は表情を歪めた。
「……赤宮真冬、白波涙……!」
 声に気付き、真冬と涙は振り返りながら、相手を嘲るような笑みを浮かべて応える。
「こんばんは。ご機嫌いかが?」
 この二人を倒すために集めた五〇〇人が、たった二人の襲撃で殲滅された。紫々死暗の計画はあっさりと崩れ落ちた。彼でも一対一の赤宮真冬に勝てるという自信はない。
「くそが……ッ!」
「ふふーん、調べておいてよかったわ」
 涙はスカートの中から街の地図を取り出した。一か所に赤いペンで丸印が記されている。その場所は今まさに彼女たちがいる場所だった。
「最近怪しい建物が出来たって噂があったからね。あたしと昴で、この建物近辺の監視カメラの映像を調べたのよ。管理会社のデータをハッキングしてね。もちろん痕跡は残してないわよ? 犯罪だからねぇ」
 涙は片手で地図をくしゃっと丸めて背後に放る。
「あたしにかかれば調べられない情報はないわ。なめんなよ?」
「さて紫々死暗。解毒薬を渡してもらおうか」
「……クソがァ!! オイ、いつまで見物決め込んでやがる、お前も協力すんだよ!!」
 紫々死暗が叫ぶとビルの屋上から人影がひょっこりと顔を出す。
 肩くらいまでの淡い紫色の髪に、どこかやる気のなさを感じる表情をした、真冬たちより一歳程度下くらいの少年だ。
「えぇー、マジで? ボク頭脳労働専門なんだけど」
「グダグダ言ってねぇで、アイツらの相手しとけ!」
 そう言い残し紫々死暗は逃走する。
 紫々死暗を追いたそうな表情を真冬は浮かべた。だが、あの無表情な少年がそれを許さないだろう。真冬は手っ取り早く目の前の敵を倒そうと構えると、涙が一歩前に出ながら言う。
「真冬。アンタは紫々死暗を追いなさい。どっちにしろアイツをとっ構えなきゃいけないんだし、もう一回逃げたアイツを調べ直す余裕なんかないでしょ?」
「だが……」
「この分からず屋」
 涙が純白の銃の銃身で真冬の額を軽く小突く。
「ここは任せろって言ってんのよ。その代わり、絶対解毒薬取って来なさいよ。あと、今度ケーキ奢ってね」
 笑みを見せながらそう言う涙。
 真冬は力強く頷くと背中から炎の翼を生やし、空高く飛翔する。
「ケーキは一個までだぞ」
「バーカ。三個までに決まってんでしょ」
 軽口を叩き合うと、真冬は紫々死暗めがけて飛んでいく。それを見た無表情の少年が真冬へと視線を向ける。
「行かせるわけ——」
 セリフを遮るように鳴る銃声。
 振り返ると涙が少年に向けて発砲していた。幸い銃弾は当たらなかったが、涙は余裕の笑みを見せながら、
「次は当てるから」
「……ちっ。先にこっち片付けるか」
 少年——紫々死暗の弟、紫々伊暗は舌打ちをしながら鎖を構えた。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.39 )
日時: 2015/07/07 12:18
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)


 3


 紫々死暗はしきりに後ろを振り返りながら、電柱の上に着地しては次の電柱へと飛び移って行った。
 彼が後ろを振り返る理由は一つだけだ。
 真っ赤な髪を夜風に靡かせながら、鋭い目つきでこちらを追いかけてきている赤宮真冬の進行速度を確かめるためだ。
 紫々死暗は逃げるのが早かったため今はまだ真冬に追いつかれていない。だが、明らかに距離は縮まっていっている。このままでは遅かれ早かれ追いつかれてしまう。
 死暗は電柱の上に着地すると、振り返って真冬がこちらに近づいてくるのを待った。
 真冬も意外そうな表情を一瞬見せたが、死暗が止まった電柱の一つ前にある電柱の上に立つと、鋭い視線を死暗に向ける。
「観念したか?」
「まさか」
 死暗はマスクの上から出も分かるくらいの笑みを浮かべながら答える。
「ただ解せねぇ。なんでお前は『天界』で戦った時と同じような速度が出せる? そんな大きな翼を出してたら……数時間前の二の舞になるぜ?」
 死暗は真冬を挑発するような笑みを浮かべて言う。
 数時間前——真冬が夏樹から吸った血を消費してしまい、戦えなくなった真冬を庇って夏樹が重傷を負ってしまった。死暗はそのことを言っているのだろう。
 真冬はゆっくりと目を閉じる。
 真冬の異常なスピードは、死暗も『天界』で彼女と戦った時に体験している。あのスピードが無ければ勝てた、というつもりはないが、少なくとも一方的にやられることもなかったはずだ。
 『ヴァンパイア』は自身の身体能力の強化にも血を必要とする。『同一型』の死暗は血を吸えなくてもそこそこ戦えるが、やはり血を吸った方が戦闘力は飛躍的に上がる。
 今の真冬も契血者(バディー)はいない。右手の中指を見れば分かることだ。まともに血を吸えない真冬にとって、血の消費を抑えておきたいところだが、今の彼女は炎の消費をものともしてないように見える。
 これでは再び血を使い切って戦えなくなる。今度は守る者もいない。
「死を覚悟したか? あの男の後でも追おうってのか?」
「……ああ。ほんの数分前の私ならそうしただろうな」
 真冬は目を閉じたまま自分の胸に手を当てる。
「だが、私は夏樹に助けられた。助けられた命を捨てるなど、夏樹に申し訳ない。だから私は決意したんだ。なにがあっても夏樹を救うと」
 真冬は背中から生やしていた炎の翼を消す。それと同時に目を開ける。
「知ってるか、死暗。契約していてもしていなくても、ある場所からの吸血は同じ量が吸えるらしい」
 その言葉を聞いた死暗はハッと目を見開き、苦渋の表情を浮かべた。
「……口からの、吸血……!」
「ああ。本当は眠っている相手に口付けなどしたくはなかったが……お前を倒すためだ。夏樹には後で謝っておくさ」
 さて、と真冬は一度言葉を区切った。
「構えろ、紫々死暗。おそらくこれからの私の攻撃は——」
 一瞬で、真冬の姿が消えた。
 次に死暗が気付いたときには、真冬は死暗の懐に潜り込んでいた。
「なっ……!?」
 速過ぎる。そう気付いても、死暗にかわすことはもう不可能だった。
「どれもノーガードで受けたら危ないぞ」
 真冬の赤い炎を纏った拳ががら空きの死暗の腹に叩き込まれる。死暗の身体はそのまま後方に吹っ飛んでいく。真冬はすかさず、死暗に追い打ちを掛けようと、吹っ飛んでいく死暗に突っ込んで行った。

 戦闘の音を聞きながら、死暗の弟である伊暗は相変わらず退屈そうな口調で死暗と真冬が向かった方へと視線を向けた。
「あーあ。向こうはもう始まっちゃったみたいだね。早くしないとあとであの脳筋兄貴にどやされる。だからさぁ……」
 伊暗はちらっと視線を自分の前の敵に向ける。
「早くしてくんない?」
 伊暗の目の前には、鎖に絡まってもがいている白波涙がいた。
「う、うっさいわね! 今から出てやるわよ!」
 じたばたともがいているがそれでは余計に鎖が絡まる。それに気付いていない涙はもがき続け、ついには転倒してしまう。その際に涙のパンツが見えた伊暗は思わず『ほう』と声を上げてしまった。
「……黒なんだ」
「あ! アンタ今パンツ見たでしょ!? 死刑! 死刑決定よ!」
 それでももがき続け鎖から逃れられない涙。うがーと叫ぶ涙に呆れた表情で昴が後ろから近寄ってくる。
「……お前何してんだよ」
「あ、昴! アイツ! あの男、あたしのパンツ見たの! リンチにするわよ!」
「無茶言うなよ。俺に『ヴァンパイア』の相手させようとするな」
 昴が言いながら涙に絡まっていた鎖を一つ一つ解いていく。身体の自由を取り戻した涙は銃口を伊暗に向けたが、以前までの無様な行動を見ていた伊暗からしてみれば、今更かっこつけられても全くかっこよく見えない。
「さあ、ウォーミングアップも済んだし、手っ取り早く三下にはご退場願うわ」
「……あのもがきはウォーミングアップだったのか。でも、君じゃボクには勝てないよ」
「あらぁ、随分と余裕じゃない。頭脳専門の弟クン! 何か策があるのかしらん?」
「まあね」
 にやりと笑って、伊暗足元まで丈があるマントをバッと翼のように広げると、何十本もの鎖がまるで槍のように涙と昴に殺到する。
「なっ!?」
 涙は昴の服の襟を掴んで、その場から横に跳んで鎖の槍を回避する。鎖の槍は虚空を貫くと、まるで意思があるかのように再びマントの中に消えていく。
「……何よ、今の手品」
「ボクの技だよ。全ての鎖にボクの炎を纏わせて貫通力を上げている。そのまま突っ立ってたら蜂の巣になってたのに……残念だね。でも次は当てるよ」
 伊暗は意趣返しのように涙に言う。
 涙は昴の服の襟から手を話し、太腿のホルスターから純白の銃を引き抜く。
「上等。何十本何百本の鎖が来ようと、あたしには当てられないってことを分からせてあげるわ」


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