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ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
日時: 2015/07/18 08:39
名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)

 はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。

 今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
 この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。

 主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
 吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
 まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。

 各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪

 ではでは、次のレスから始めていきますよー!

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Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.55 )
日時: 2015/07/07 12:35
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)



 第二章 真夜中の強襲


 1


「さむっ」
 ある暗い部屋に入った女性はそう呟きながら、両肩を抱いてぶるっと小さく身震いをした。
 部屋は何も見えないくらい真っ暗で、扉を開けた状態でいるにもかかわらず、光が全く入って来ていない。暗く寒い部屋を靴底の音を規則的に鳴らしながら、女性は奥へと進んでいく。
 純白に近い銀髪を腰まで伸ばし、端正な顔立ちをしている。見た目は二十代前半くらいに見えるが、彼女の放つ雰囲気が二十年程度で培われるものではなかった。
 端正な顔立ちに凛とした印象を持たせる紫色の瞳。彼女の来ている服は黒色のマントにも似たコートだった。スタイルもとてもよく、大抵の男なら一目で惚れてしまいそうな容姿を持つ彼女は、部屋の奥まで進むと、そこにいるであろう人物に声を掛けた。
「ねえ、寒いんだけど。寒いし暗いし。部屋に暖房でも設置したら?」
「相変わらず無茶なことをおっしゃる」
 部屋に明かりが灯る。部屋の中は閑散としていて、物が何もない。そのせいか部屋がうやたらと広く感じられる。部屋の壁や床は凍っており、天井からはつららまで出来ている。その部屋の奥に、一人で座っている人物がいる。
 銀色の髪を、右側だけ跳ねさせており、目はかなり鋭い。女性が着ているものと同じようなマントにも似た黒いコートを身に纏っている。女性と同じく二十代程度に思えるその男性は、またも見た目年齢に似つかわしくない雰囲気を持っていた。
「それで何の用かな、女帝殿?」
「その仰々しい呼び方はやめてちょうだい」
 男の呼び方に不満を持ったのか、女性は腕を組みながらそう言った。
「最近あなたの行動が怪しいって報告を受けてるんだけど……まさか独断で行動しようとか思ってないわよね?」
「滅相もない。あなたに隠れて行動できるものなら、是非ともやってみたいものですが」
 男は笑いながら答える。
 女性は部屋を見渡して、
「……そう? この部屋なら色々出来そうじゃない? さっきだって、外からの光を完全に遮断していたんだし」
「……」
 女性の指摘に男は何も言わない。お互い睨み合う状況が続き、数秒後女性は小さく息を吐くと背中を男に向けた。
「もし勝手なことをしたら私があなたを粛正するわ。やるんなら、せめてバレないようにやることね」
 女性は言いながら部屋を出ようと扉の方へと向かって行く。
 ああそうだ、と言い残したことでもあるのか、思い出したように扉の手前で足を止めた。
 女性は冷たい視線を男に向ける。
「『ヴァンパイア』を攻撃するなら用心なさい。彼女たちは、あなたが思ってるほど弱くないわよ」
 そう言い残して部屋を去って行った。
 女性が去ると、男は今まで無表情とも取れる表情を不愉快な思いでもしたかのように歪めた。
「ちっ、あの女……! 俺の行動に感づき始めやがった。これは少し急いだ方がいいかもしれんなあ」
 ふと脳裏にある言葉が蘇る。
 『彼女たちは、あなたが思ってるほど弱くないわよ』。
 その言葉を思い出した男は、歯をむき出しにして獰猛に笑った。
「俺があんな奴らに負けるとでも思っているのか、ならばお前に見せてやろう! 俺の、『地獄の副将』と謳われたこのフルーレティの力を!」

 ここは『天界』の真裏にある魔の世界、通称『魔界』。
 『ヴァンパイア』の討伐する魔物が存在する、魔のためだけの世界。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.56 )
日時: 2014/12/21 01:19
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)


 2


「おはー」
 創立記念日明けの学校。
 自分の席についた夏樹と真冬は、急に比奈に挨拶をされた。抑揚のない声で。
 比奈を含む『キューティーズ』の面々は真冬と仲が良いため真冬に挨拶をするのは可笑しくないが、今は明らかに夏樹にも言っている。ちなみに、夏樹としては比奈と話したのは、彼女がノートを取るのを忘れて慌てている時に『見せてやろうか?』と言って以来だ。
「おはよう、比奈ちゃん」
「……おう、おはよう……」
 いつものように笑顔で返す真冬と、少し戸惑いながら返事をする夏樹。
 比奈は半開きの瞳で夏樹をじっと見つめ首を傾げた。
「なんでそんなに警戒してるの?」
「……いや、戸崎から声かけられるの初めてだったから……ちょっと驚いただけだ、気にするな」
 そこで夏樹は比奈が紙束を抱えているのに気付く。ちらっと隣の真冬を見ると、彼女の視線も比奈が抱えている紙束に向いている。夏樹と同じく、紙束がなんなのか気になるらしい。
「気になったんだが、その紙束なんだ?」
「うん。ちょっとお願いがあって」
 言うと比奈は抱えていた紙束をすっと二人の前に差し出した。
「読んで。感想を聞かせて」
 夏樹は紙束を受け取ると、教科書を一緒に見るように真冬と一緒に紙束の内容を見ていく。
「……これって、小説か?」
「うん」
「えっ!? 比奈ちゃんって小説書いてるの!?」
 真冬が問うと、比奈は親指をぐっと立てた。相変わらず無表情だが、本人としてはドヤ顔を浮かべているのだろう。全くいつもと変わってないけど。
 それから比奈は手短に将来は小説家になりたい、ということや、いつもは結花に読んでもらっているが、たまには他の人の意見も聞きたい、という事情を説明した。
 それを小説を読みながら聞いていた真冬は、
「へー、比奈ちゃんって小説家になりたいんだ。どうして言ってくれなかったの?」
「……えと、言おうとしたんだけど……すっかり忘れてて。というか、ふゆたんが転校してきてから、あまり進められてなかったから、自分でも小説書いてるの忘れてたの」
 全ての休み時間、真冬は『キューティーズ』のメンバーと過ごしている。昼休みだけ、夏樹と薫と過ごすくらいだ。比奈としては新しい友達が出来て嬉しかったのか、小説が手つかずになっていたのだろう。
 最近少し落ち着いてきたため再開したはいいが、次にはテストが控えている。
「このヒロインの子可愛い—。ツンデレってやつだよねー!」
 小説を読みながら表情をころころと変える真冬。一方で夏樹は真冬が読み終わったものを読み、難しい表情を浮かべている。その表情は全く変わらない。
 夏樹の険しい表情に、比奈は少し不安になったのか、恐る恐る声を掛ける。
「……桐澤くん? その、面白くない……?」
「……ん? いや、そんなことはない」
 声を掛けられて夏樹は元の優しい表情に戻った。比奈はほっと息を吐くと、夏樹は再び難しい表情で原稿とにらめっこを開始する。
「なあ戸崎。この原稿、コピーしてもいいかな?」
「……へ? いいけど、どうして?」
 夏樹は視線を現行から比奈に向ける。偶然にも夏樹と見つめ合うような形になってしまった比奈は、思わず顔を赤くして目を逸らしかけるが、そこはぐっと堪えて夏樹の目を見つめる。
「正直、今ぱっと感想は言えないんだ。でも最初の部分だけでも面白いのは十分伝わってくるからさ。きちんとした感想を言いたいんだ」
 なるほど、と比奈は納得する。
 ほとんど話したことのない自分にも、ここまで親身になってくれるとは思っていなかった比奈は、夏樹の優しさに心がときめいていた。表情だけは無表情のままだったが。
「だから連絡先教えてくれ。思いついたらすぐに感想送るから」
「ふぇっ!? れ、連絡先!?」
 いきなりのことで思わず変な声を上げてしまった比奈。
 なにかおかしなことでも言ったかな、と比奈の慌てぶりに夏樹は少し戸惑う。
 確かに結花が提案したプランは、小説の感想をもらうついでに連絡先も聞いちゃいなよー、というものだったが、連絡先は自分が聞こうと思っていたため、不意を突かれて相手から連絡先の話を切り出されるとは思っていなかったのだ。
 比奈は自分の席に戻って、スマートホンを取り出すと再び駆け足で戻ってくる。
「……えっと、いいの? 本当に交換して……」
「……? なんでそんな怯えてるんだよ……?」
 二人は連絡先を交換しあった。
 比奈は念願の夏樹の連絡先を見つめながら、
「……もしかしたら、すごく暇だったら……意味もなく電話とかメールとかするかも……」
「分かったよ。そん時は相手してやる」
 夏樹の言葉に、比奈はスマートホンに隠れて笑みを浮かべた。
 夏樹と真冬はもちろん、長く彼女と一緒にいる『キューティーズ』の二人でさえも見たことがないような、とても幸せそうな笑みを。
 
「お、一歩前進か〜」
 三人が話している様子を教室の外から見ていた結花は、比奈の恋が一歩前進したことに対して笑みを浮かべていた。
 ——しかし、
「……比奈の恋が上手くいけばいいんだけど……なーんか、もやもやするなあ……」
 結花は教室の扉に身体を預けて、ぽつりと呟いた。
「……わたし、桐澤くんのこと好きなのかなあ……」
 ——でもわたしは比奈の恋を応援するんだ!
 そう決心して結花は教室の扉を開ける。さも扉を開けてから見かけた、という体を装って結花は夏樹たちのところへと駆け寄っていく。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.57 )
日時: 2015/07/07 12:41
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)


 3


 放課後。
 コンビニのコピー機で小説の原稿をコピーしながら、夏樹と比奈は普段はしないであろう会話をしていた。本来ならば二人が話すことさえもないので、見る人によればこのツーショットもおかしく感じるだろう。
「ごめんね。コピーに付き合わせちゃって」
「なんでお前が謝るんだよ。コピーしたいって言ったの俺だし」
 ピー、ガガガという機械音が二人の耳に届く。
 夏樹としては比奈は別に苦手なタイプでもなんでもない。ただ自分の周りの人間が割と自分から積極的に話すタイプなので、話題がないとすぐに無言になってしまう相手とはあまり接したことがなかった。
 比奈は無表情のまま、目線だけを夏樹に向けた。
「……桐澤くんって優しいよね」
「なんだよ、唐突に」
 急に言われて僅かに戸惑う夏樹。今までも色んな人からそう言われていたが、改めて言われるとやはり照れてしまう。それも今までまともに話したこともない相手に言われると、ちゃんと見てくれていたんだな、という安心感も込み上げてくる。
「だって桐澤くん、少し前に私が寝ちゃってノート取ってなかったら見せてくれたし。あの時は本当に助かったんだよ?」
「……ああ、あったな。そんなことも。よく覚えてたな」
「うん。ぶっちゃけあの時以来話してないし……声かけようかなと思ってたんだけど、私って無口だからさ。何言っていいのか分かんなくて、中々ね……」
 無表情で語りながら、淡々と原稿をコピーしていく。その動作には一切の無駄がなくまるで職人のようにも思えた。あまりに手際がよすぎるので、夏樹はほとんど何もすることがない。
「だから、こういう形でも話せる機会が出来て良かった」
「まあ、俺も話したくないと思ってたわけじゃないからな。戸崎って結構良く喋るんだな、びっくりしたよ」
 くすっと笑いながらそう言う夏樹。
 指摘された比奈は頬を赤く染めて、目を逸らしてしまう。彼女が目を逸らしたのは恥ずかしかったのと、夏樹の笑顔を直視できたなかったのと二つの理由がある。
 再び話題がなくなり、淡々と無言でコピーの作業を進めていく二人。もっと何か話さなければ、と思い比奈は口を開く。
「……桐澤くんの周りってさ、結構個性的な人が多いよね。そういう人を惹きつける何かがあるのかな?」
「俺を変人みたいに言わないでくれ。俺の周りなんて、割と常識人が多——」
 そこで、夏樹は自分の身近な人物の特徴を心の中で挙げていく。
 『ヴァンパイア』である真冬と涙。喧嘩ばかりしていたころの悪友である昴、ギャルゲー好きでオタク少女の薫、真咲、結花、比奈もこの四人に比べればまだ薄いが、個性的ではあるだろう。
「……いや、濃いな。十分に濃い」
「でしょ?」
 素直に頷く夏樹。
 彼らに比べて自分はまだマシな方なのかなー、と考えてしまうが、個性的な人間が無個性な人間に近づかないだろう、と思い溜息をつく。類は友を呼ぶというやつだ。
 コピーが一通り済み、二人はコンビニから出た。傍から見ればカップルのようにも見える。
「小説のアドバイスに協力してくれてありがと」
「ああ。なるべく早く感想送るよ」
「あ、急がなくていいよ。新人賞の応募にはまだ時間があるし」
 夏樹と過ごす束の間の幸せも終わりかー、などと少し悲しく思っていると急に、

「おにーちゃーん!」

 とやたらと明るく元気な声が夏樹と比奈の耳に届く。
 比奈は声の主を捜そうと辺りをきょろきょろと見渡すが、夏樹は声で誰か分かったのか盛大に溜息をついた。
 横断歩道を挟んで、反対側の歩道で手を振る少女。中学生くらいの見た目のその少女は、何処となく誰かに似ていた。そしてその少女は明らかに夏樹と比奈の方に手を振っている。
 信号が青に変わると、その少女は夏樹の懐に飛び込んだ。まるでお気に入りのぬいぐるみでも見つけたかのような勢いだった。
「たっだいまー、おにーちゃん!」
「おう、おかえり。つーかまだ家じゃねーぞ」
 二人のやり取りを見ていた比奈が首を傾げながら夏樹に問いかける。
「……えっと、その子は……?」
「ん、ああ。戸崎は知らないか。妹の梨王だ。ほれ、挨拶」
「あ、どうも。兄がお世話になってます、妹の桐澤梨王です」
 夏樹に言われてぺこっとお辞儀をする梨王。
 比奈も突然登場した妹に驚いたが、すぐにハッとするとこちらも名乗りながら頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそお世話になってます。クラスメイトの戸崎比奈です」
 比奈をじーっと見つめながら、梨王は隣にいる夏樹に声を掛けた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだよ。違うからな」
「まだ何も言ってないじゃん」
「どうせ彼女かどうか聞こうとしてるんだろ? 違うからな」
「ぶー、つまんないのー」
 口を尖らせながら梨王がぶーぶーと文句を垂れる。つまらないや文句をいわれても、比奈とはクラスメイトなのだから仕方がない。まともには話したのだって今日が初めてだ。
 二人のやり取りの最中、比奈は夏樹と梨王の顔を交互に見ると、
「……二人って似てないんだね」
 比奈の感想に、二人は『あー』と声を合わせた。
「よく言われますー」
「梨王は母さん似だからな」
 そうなんだ、と比奈は梨王の顔をじっと見る。
 彼女が母親似だということは、彼女を少しずつ大人化していくと……比奈の脳内イメージでは、かなりの美女が形成される。
「え、桐澤くんのお母さんってかなり美人じゃない?」
「……言っとくけど、父と母のどっちに似てるかって話だからな? 母さんに近いだけで、全く似てないからな」
 梨王はスマートホンをいじりながら、
「あ、あった! 去年の写真だけど……真ん中にいるのがお母さんです」
 どれどれ、と表示された写真を見て、比奈は固まった。
 どう見ても母親には見えない若々しい容姿の女性が、(画面から見切れている)夏樹と梨王に挟まれて写真に写っている。
「……え、これがお母さん……? お姉さんじゃなくて、お母さん……?」
 比奈の驚いた表情を見て、夏樹と梨王はいつものことのような表情で、こくこくと頷いていた。
「うわー、この感覚久し振りだ—」
「まあ母親を紹介する機会なんてないしなー」
 夏樹と梨王の母親の写真を比奈は凝視していたが、画面の端っこに表示されている時間をちらっと見ると、『あ』と声を漏らした。
「今日お使い頼まれてたんだった。早く帰らないと」
「よかったら送ろうか?」
 夏樹の提案に比奈は耳を疑った。
 夏樹が家まで送ってくれるのなら断る理由はない。むしろより長く夏樹と一緒にいれるのでお願いしたいくらいだ。
 だが、
「ううん、いいよ。私電車だし」
 今日は甘えすぎた。電車だと彼にも余計な出費をさせてしまうだろうし、と比奈は夏樹の提案を断った。
「一人で平気だよ。まだそんなに空も暗くないし」
「……そっか。また明日学校でな」
「うん、バイバイ」
 比奈は小さく手を振りながら夏樹と梨王の背中を見送る。最後だけ自然に笑えたような気がする。そんな気がした。
 二人の背中が見えなくなると、比奈は振り返り駅の方へと向かおうとした瞬間、
「お嬢さん、ちょっといい?」
 ふと隣から声を掛けられた。
 全く気配がなかったので、大きく体を震わせて驚いてしまった。
 腰まで伸びる長い黒髪に澄み渡った空のような青い瞳。白い肌が彼女の黒い髪を際立たせている。どこかの高校の制服だろうか、黒を基調としたブレザーを着ており、チェック柄のプリーツスカートの裾から伸びる脚は長く細かった。
 一見してスタイルのいい端正な顔立ちの少女だ。おそらく同い年くらいなのに『お嬢さん』と言われたのは、自分が見た目より幼く見える殻だろうか。自覚はしていたが、実際にそうなると少し悲しい。
「……なんでしょう?」
 こんな美少女が声を掛けるなんて一体どういうことだろうか、と話の内容を促すと黒髪の美少女は、夏樹と梨王が去って行った方向に目を向ける。
「……さっきの少年、あなたの彼氏ですか?」
「えっ!? なんでそんなことを……ち、違いますっ!」
 相手の質問の内容を怪しみながらも、否定をする比奈。
 黒髪の美少女はそうですか、と呟くと短くお礼を言ってから踵を返し、歩き去って行った。
 一体なんだったんだろう、と比奈は首を傾げるが、これ以上気にしないようにする。それより帰っておつかいをしなくては、と駅へと駆け足で向かう。

 一人で街を歩く黒髪の美少女は、街を歩きながらニィ、と笑みを浮かべていた。周りの人に気付かれないように俯きながら笑みを浮かべる。
「……あの男は赤い指輪をつけていた。アイツを調べれば、もしかしたら……」
 『ヴァンパイア』との契約時に出現する指輪。
 普通の人間ならば見ることが出来ないその指輪のことを呟きながら、少女は笑みを浮かべたまま街中を歩いて行く。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.58 )
日時: 2014/12/15 00:16
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 4


「真冬お姉ちゃーん、お風呂空いたよー!」
 風呂場の方からパジャマに着替え、タオルを頭に載せた梨王が元気よく出て来た。
 桐澤家では母である冴子、妹の梨王、最後に夏樹が風呂に入ることになっていたのだが、真冬が居候してからは、梨王と夏樹の間に真冬が入り込んでいた。
 真冬は居候の身で夏樹より先に入る、ということを拒否していたのだが、冴子のごり押しで真冬もしばしば納得した。夏樹としては順番はどうでもいい。とりあえず風呂に入れればそれでいい。
 梨王の言葉を聞いて、夜食のコッペパンを夢中で頬張っていた真冬は顔を上げる。
「うん。じゃあ夏樹くん、先に入るね」
「おう」
 言いながら真冬は二階の夏樹の部屋へと着替えの服を取りに戻る。
 彼女が居候してから、彼女の生活に必要な物は冴子が取り揃えていた。お陰で真冬の私服も充実しているが、冴子のセンスで選ばれた衣類は、真冬に似合うのだが、真冬自身が赤面してしまうような可愛らしいものばかりである。
 梨王は頭にタオルを載せたまま、冷蔵庫を開ける。中を見回すと『あれー?』という声を上げた。
「梨王ー、早く扉を閉めなさい」
「ねーねーお母さん。牛乳はー?」
 冴子の忠告を聞いていなかったのか、もしくは聞こえていないのか、梨王は冷蔵庫の扉を閉める様子を全く見せず冴子に問いかける。
「……あー、そういや忘れてた」
 梨王は毎日風呂上がりに牛乳を飲む習慣がある。
 小学三年生の時から欠かしておらず、身長を伸ばすために飲んでいるのだが効果はあまり表れていない。それでも最近では身長を伸ばすとかそういうのは関係なく飲んでいる。
 牛乳がないことを知った梨王は、暇そうにしている夏樹に視線を向けた。
「ねえお兄ちゃん」
「嫌だ」
「牛乳買って来て」
「嫌だって」
「いいじゃーん、行ってよー! 可愛い妹がさらに可愛くおねだりしてるのにー!」
「可愛い妹は自分で可愛いなんて言わねーよ」
 梨王は夏樹の服の袖をつまんで、ダダをこねるようにおねだりしている。が、シスコンでもなんでもない夏樹に対してはなんの意味もなさない行動である。これが真冬なら、夏樹も行ったかもしれないが。
「お願い! お願いだよお兄ちゃん!」
「嫌だって言ってんだろ」
「じゃあ……行ってくれたらあたしのおっぱい触らせてあげるから! 本当は恥ずかしいけど……お兄ちゃんになら、いいよ?」
「うわー、余計行きたくなくなった」
 芝居っぽく恥じらって頬を赤く染める梨王。おそらく行ったところで実際に触らせはしないだろう。もちろん梨王も、夏樹がそれでも行かないということを知って言っているのだが。
「言っとくけど、そんな行為はお母さん認めないからなー」
 冗談でもそういうことは言うなー、と梨王をやんわり注意する冴子。
 梨王のおねだり攻撃が続く中、ある言葉が三人の耳に届いた。

「じゃあ、わたしが行ってこようか?」

 その言葉は真冬のものだった。
 ピンク色のパジャマを抱えた真冬が、言ってしまった、みたいな表情で立っている。
 しかし、そんなことを全く気にしていない梨王は目を輝かせて、
「いいの!? うわーい、さっすが真冬お姉ちゃーん! お兄ちゃんとはちがーう!」
「随分嬉しそうだな、お前は。赤宮も行かなくていいんだぞ?」
「ううん、大丈夫だよ。わたしも買いたいのあるから」
「いや、お前が大丈夫でも……」
 真冬は夏樹の言葉を最後まで聞かず、脱衣所にパジャマを置いて財布を用意している冴子の傍に向かう。
「……あの、冴子さん……ちょっと小腹が空いちゃって……」
「ああ、やっぱコッペパンだけじゃ足りなかった? 仕方ないなあ」
 どうやら真冬の『買いたいもの』はさらなる夜食らしい。見た目によらず大食いな赤宮真冬は、カレーライス四杯とコッペパン二個じゃ、まだ足りないらしい。
 適当なお金を受け取って、真冬は外に出る。
 真冬が外に行ってしまったことで、夏樹はしばらく風呂に入れない。
「……なあ母さん」
「なに?」
「……先に風呂に入っちゃダメか?」
「だーめ」
 妙に可愛らしく言われたような気がしたが、気にしたくなかったのでノーコメントでこの場を乗り切った。

 外に出た真冬は夜道を歩きながら、何を買うか考えていた。
「何を買おうかなー! 悩むなー!」
 彼女の表情は何処か幸せそうな顔をしており、どう見ても悩んでいる人の顔じゃない。食べ物のことになると途端に嬉しそうな顔になるのが赤宮真冬という少女である。
 るんるん気分の真冬は、それ故に気付くのが遅れてしまった。
 背後から忍び寄っていた殺気が、もうすぐそこにまで来ている。背後の殺気が向けた鎌の刃が、真冬の喉を引き裂こうとすぐそこにまで近づいている。
「ッ!?」
 真冬は自分でもどんな動きをしてかわしたのか分からなかった。
 気付いたときには頬に一筋の傷痕が出来ており、そこから赤い液体がつー、と垂れている。
 真冬は漆黒の夜に溶け込んでいる人物へと鋭い視線を向ける。
「……誰?」
 その人物は街灯に照らされ姿が露わになる。
 腰まで伸びる黒い髪に、澄み渡った空のように青い瞳。服はどこかの高校の制服であろう黒を基調としたブレザーで、彼女の白い肌が黒さを一層引き立てている。
 スタイルがよく、端正な顔立ちをしている少女。だがその少女が普通の少女ではないことに、真冬はすぐに気付いた。
 彼女の右手には大きな鎌が握られていた。一六〇センチ程度ある彼女と、ほぼ同じくらいの長さの鎌だ。鎌の刃は、街灯の光を受けてギラギラと銀色に光っている。
「……ふぅん、かわすんだぁ」
 少女の怪しい声音が真冬の警戒心を強めた。
 そんな真冬を見つめて、黒い少女はくすっと怪しく、美しく笑ってみせた。
「そんなに怖がらなくてもいいのに。だって……」
 鎌を真冬の方へと向ける。
 青い瞳で真冬を見つめながら、怪しい笑みを浮かべながら少女は言う。
「今からあなたは死ぬんだから。ね?」
 彼女から放たれる黒く禍々しい殺気が、一気に真冬へと向けられる。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.59 )
日時: 2014/12/21 01:47
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 5


 暗い夜道に、こつこつと靴底の音が響く。
 辺りは寒気がするほど静かだ。家を出たのは多分十時くらい。まだ十分も経っていないはず。それなのに辺りの家から人の声は聞こえず、まるで世界には自分とゆっくりと距離を詰めてきている少女しかいないような錯覚に、真冬は陥る。
 意識を目の前の黒い少女に向けているため、頬の傷は気にならなくなっていた。そもそもそれほど重傷ではない。血が流れたものの、ほんの少しだけ。騒ぎ立てるような怪我じゃない。
 鎌の刃を向けられた真冬は動くことが出来ない。しかし、ルビーのような綺麗な赤い瞳は相手から決して逸らさない。真っ直ぐに彼女を見つめながら、真冬はもう一度質問を口にする。
「誰? 三度目は言わせないで」
 真冬の言葉に、黒い少女はくすっと笑みをこぼした。
「そのセリフは自分より弱いものへの忠告よ? 今あなたが使うべき言葉じゃないと思うけれど?」
 彼女の言う通りだ。
 今の真冬は戦える状況じゃない。真冬が戦うには契血者(バディー)となった相手から血を吸い、それを炎へと変換し、自身も血の力で覚醒状態へとならなければならない。
 覚醒状態になれないわけじゃない。
 以前の『アサシン』との戦い以降、悪魔の討伐は涙がやっていて、真冬は全然戦っていないのだ。覚醒状態になれるものの、『アサシン』戦で大分使ったのも事実である。たとえ戦ったとして、彼女を倒せるまで保つか分からない。
 見た感じだけだが、黒い少女は明らかに強者だ。紫々死暗などとは比べものにならないだろう。
「……赤い水晶の『契りの輪』……。あの人じゃないけれど、あの人の強さに近づけるなら、倒すくらいいっか……」
 黒少女は真冬の右手の中指に嵌められている指輪を見つめながら呟く。
 彼女の中指に嵌められている指輪は、『ヴァンパイア』が人間と契約する際に、契約した証として出現する『契りの輪』。『ヴァンパイア』の存在を知る者にしか見ることは出来ず、普通の人間には不可視の指輪である。
 それが見えている、ということは彼女は『ヴァンパイア』を知っている。そして真冬と同じ『赤い契りの輪』の人物を尊敬しているような発言をしているため、おそらく『ヴァンパイア』だろう。
 攻撃する様子をまったく見せない黒い少女から視線を逸らさず、真冬もこの状況をどう切り抜けるか考えていた。
 覚醒状態にはなれる。だが、彼女を倒す余裕がない。ならば、倒す必要はない。彼女の目の前から離脱できればそれでいい。とりあえずは、今この場から離脱することが先だ。
 真冬が行動を起こそうと、僅かに身を屈めた瞬間、

 十メートルほどの距離を一気に詰めてきた黒い少女が、鎌を振りかぶって襲い掛かってくる。

「速いッ!」
 すんでのところで、鎌の一閃を真冬はかわす。が、黒い少女の次への切り替えも早かった。攻撃をかわされた少女は、さらに一歩踏み出して真冬に肉薄する。彼女は鎌ではなく足で、真冬の腹を蹴り飛ばした。
「ぐぅ……!?」
 真冬はそのまま背中を電柱に叩きつけてしまい、苦悶の表情を浮かべながらお腹を押える。
 覚醒状態ではない真冬はただの女の子だ。身体も小柄だし、体型も華奢である。そんな少女の腹に手加減なしの蹴りが叩き込まれれば、こうなるであろうことは予想できる。
 真冬は何度か咳き込んでしまい、月明かりを背後に立つ少女を見上げる。少女は怪しい笑みを浮かべながら真冬を見下ろしている。
 真冬は直感する。手加減できない相手だと。ここで倒しておくべき相手だと。
 お腹を押えながら立ち上がる真冬。自分の足だけでは立てないのか、僅かに電融にもたれかかりながら、何とか立つことは出来た。
「へえ、今の蹴りでも平気なんだ。私、蹴りには結構自身あったんだけどなあ」
「……あなたは、危険だ」
「だったらどうするの? 蹴られただけで蹲るようなあなたが、私を倒すって言うの?」
 ふふん、と勝ち誇った笑みを見せる少女に対し、真冬はニッと笑みを浮かべてこくりと頷く。
「そうだよ。でも、あなたを倒すのは『わたし』じゃない」
 はあ? と少女が言うより早く、真冬の全身を紅の炎が包み込む。
 炎になぞられた髪が伸び、目も鋭く立ち方も凛としたものへと変わる。
 炎を払うように腕を振るう真冬。彼女にまとわりついていた炎が一瞬にして消え、細かい火の粉となって散った。
 覚醒状態となった真冬は、冷たい印象を与える真紅の瞳を黒い少女に向ける。
「——お前を倒すのは『わたし』じゃない。『私』だ」
 今度は真冬が、不敵な笑みを浮かべた。


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