コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
- 日時: 2015/07/18 08:39
- 名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)
はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。
今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。
主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。
各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪
ではでは、次のレスから始めていきますよー!
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.75 )
- 日時: 2015/07/07 12:56
- 名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)
第五章 瑠璃色の光
1
空はまだ真っ暗だ。
校舎の中の一つの教室にいる白波涙は、ふと視界に入った窓の外の景色を見て、小さく溜息をついた。
黒曜闇夜から宣戦布告を受け、茨芽瑠の契血者(バディー)である汐王寺刹那を捜しに校舎に突入したのが日付が変わった頃だった。
教室の天井近くに掛けられている丸い時計の時針は一時を指していない。
体感的にはもう何時間も経った気がしていたが、まだ数十分しか経っていない、という事実が涙の疲労を余計に蓄積させていった。
しかし嘆いていても何も始まらない。
今は目の前の障害をどうにかするのが先だ。涙は銃を真っ直ぐに構える。
彼女の目の前にいるのはスーツに似た装いの銀髪の男性だ。彼は銃を向けられても身じろぎ一つせず、真っ直ぐ涙を見据えている。
トリガーに指を添えたまま男を睨む涙に、銀髪の男性ーーフルーレティという名の悪魔は口を開いた。
「……撃たないのですか?」
銃を構えるだけでは威嚇にはなるかもしれないが、勝負にはならない。しかも『地獄の副将』などと恐れられている悪魔相手ならば威嚇にもならない。
教室の中なので銃で撃つに適切な間合いが取りにくいが、銃口から標的が近ければ当たる可能性は高い。
現に今もそれほど距離があるわけじゃない。
だから問いかけたのだ。撃たないのか、と。
その質問に対し、涙は長めの息を吐くと銃を下ろした。
「いつ撃とうがあたしの勝手でしょ。ただ当たらない攻撃をしても意味がないから、どうしようか考えてたのよ」
「当たらない? やってみなければ分からないでしょう?」
「やらなくても分かるわ。だって、いつ撃つのか気にしてたってことは、注意をしてたってことでしょ?」
フルーレティはやれやれ、といった調子で肩をすくめた。
「慎重ですねぇ。ですが、悠長にしている時間はないのでは?」
「……そうね」
涙はフルーレティの背後に視線を向ける。
彼の背後には氷で出来た二つの十字架が立っていた。その二つの十字架に磔にされている人物が二人ーー汐王寺刹那と茨芽瑠だ。
刹那を発見できたは良いものの、フルーレティにより芽瑠も捕らわれてしまった。昴と涙が駆けつけた時には、既に手遅れだったのた。
フルーレティによると、氷の十字架は徐々に身体を凍りつかせていくらしい。芽瑠はまだそれほど被害はないが、刹那は既に七割程度侵食されている。
完全に凍りついてしまうと、『ヴァンパイア』の炎でもどうすることも出来ない氷の彫刻となってしまうのだ。
だからこそ涙は考える。
まず最優先で助けるのは刹那だ。芽瑠はまだ時間的に余裕があるため、後回しにしてもいいだろう。
しかし仮に二人を、もしくは先に刹那を助けられたとしても、ここから逃げるのは可能だろうか。
刹那を先に助け、彼女を昴に預けたとしても、自分は芽瑠を助けて逃げるか、フルーレティを倒して芽瑠を助けるしかない。
今後のことを考えると後者の方法を取りたいが、芽瑠が無事な間にフルーレティを倒せる確証はない。
真冬がいれば話はまた別だが、彼女の応援を期待しても、まだ少しは掛かるだろう。
涙は真っ先にやるべきことと、そのための作戦を頭の中で素早く纏める。
青い瞳に決意の意志を宿し、素早く滑らかな動きで銃口をフルーレティに向ける。
まずは二発。
自分の攻撃に対し、相手の動きを見なければいけない。
しかし、フルーレティは動かずその身体に銃弾を浴びた。
「アイツ、避けようともしなかったぞ! 何考えてんだ!?」
「……いや。避ける必要がないらしいわ」
涙が引きつった笑みを浮かべて言う。
昴がどういう意味か聞く前に答えが視界に映る。
フルーレティの身体に着弾した涙の銃弾は彼の身体を貫かず体内に入る寸前で止まっている。
銃弾はフルーレティが身体に纏う、目には見えない氷の膜によって止められていた。やがて氷づけにされた銃弾が、軽い音を立てて教室の床に転がる。
フルーレティの不敵な笑みを見て、涙は冷や汗を浮かべながらも、なんとか笑みを浮かべることが出来た。
無理矢理でも笑えたならなんとかなる。
「……さーて、と。どうしましょうかねぇ」
そう言いながらも、涙の中でやるべきことは決まっていた。
作戦一を続行。汐王寺刹那の救出を最優先!
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.76 )
- 日時: 2015/06/14 14:28
- 名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)
2
白波涙はゆっくりと目を閉じた。
まずは頭の中で先程立てた作戦を思い出す。自分が、汐王寺刹那を確実に助けるために用意した作戦。それをひたすら心の中で言葉として繰り返し、手順を確認していく。
確認を終えると、閉じていた目を開けながら、よし、と小さく頷く。
作戦を実行する上で、涙は確認しなければいけないことがあった。その確認のために下げていた銃を水平に構える。しかし銃口は涙の目の前にいるフルーレティにではなく、どういうわけか教室にあった黒板に向いている。
涙は銃を前にではなく、自分の右側に向けたのだ。
いままで落ち着いた表情を見せていたフルーレティは驚いたようにきょとんとしたような表情を浮かべている。
視線だけはしっかりとフルーレティに向いている涙は、眉ひとつ動かさずにそのまま構わず引き金を二回引いた。言うまでもないことだが放たれた二発の銃弾は黒板に向かって飛んでいく。
フルーレティは短く息を吐いてかわすことも、ましてや防ぐ行動も取ろうとはしない。このまま銃弾は黒板に穴を穿って、無駄に樹弾を消費するだけだからだ。
しかし、銃弾が黒板に接触した瞬間、キン、という軽い音を立てて銃弾が跳ねる。跳ねた弾丸はフルーレティの肩へと軌道を変えた。
そこで、フルーレティの表情が変化した。
これは、今まで涙が使うことはおろか、習得するのさえも渋っていた跳弾だ。
涙は素直で純粋な性格なので、回りくどい頭脳戦は苦手なのだ。本来ならば今回のように作戦を立ててから動く、という戦法も使わない。自分の動きを決めてしまったら、いざという時の対処が難しいからだ。
『戦うなら真正面から!』が信条である彼女にとって、跳ねる方向までも計算しなければいけない跳弾などは、彼女の肌に最も合わないものだろう。
そんな彼女が跳弾を使った、否使えたのは、意地悪な彼女ならではの考えである。
素直で純粋、さらに意地悪といった素敵な性格の彼女は、相手の油断の隙を突ける跳弾をあくまで手段の一つ、として習得していたのだ。相手の裏をつく、というのは少し面白いかもしれない、とそう思ったのだ。
だから、まさかこんな場面で初お披露目になるとは思ってもいなかった。ましてや作戦を実行するうえでのただの『確認』のために。
吸い込まれるようにフルーレティの肩を狙う跳弾。しかし弾が跳ねたと分かってもフルーレティは動かない。弾丸は先ほどと同じようにフルーレティには当たらず、彼が身体の表面に展開した氷の膜によって阻まれてしまう。止まった銃弾は瞬時に凍り、重力に従って床に落ちていった。
これで涙は確信できた。
フルーレティの氷の膜は全身を覆うように展開されている。
前方からはもちろん、側面、後方、頭上、そして具体的な方法は思い浮かばないが下方からの攻撃でも、ただの銃弾などでは破れない。
それだけが分かれば充分だった。作戦の変更はない。逆に前方からの攻撃以外が有効だと判明して、無駄に視野を広めることにならなくて良かった。狭い視野の方が、作戦を立ててしまった今は動きやすい。
涙はニッと活発な笑みを浮かべながら銃を下げ、そのままフルーレティに向かって走り出した。
「ほう」
涙の行動にフルーレティが声を上げた。
少し予想外だったようで、興味深そうな視線を向けている。
涙は速度を緩めることなく、真っ直ぐフルーレティだけを見ている。一方のフルーレティは腰に腰に挿していた刀を鞘から引き抜くと、そのまま涙の首を狙って刀を横に一閃する。
しかしその行動を読んでいたかのように、涙は身を少し屈めて刀を回避する。フルーレティが振るった刀は、涙の頭上をかすめていく。
「っ!?」
「ビンゴ!」
元々小柄でその低めな涙は、首から上を狙った攻撃ならば、身を屈めれば大抵の場合は回避できる。コンプレックスでしかないこの身体も、こういう場合でしか活躍出来ないのならば、使えるだけ使うしかない。
驚いたフルーレティの表情を、楽しそうに眺める涙。涙は身を屈めると同時、緩めなかった速度を利用して懐に潜り込んだ。
片膝をついてようやく止まった涙はフルーレティの丁度後ろに位置する場所にいる。これも計算通りだ。涙は立ち上がることもせず、視線をフルーレティ——ではなく、目の前にある刹那が磔にされている氷の十字架に向ける。
涙は銃を両手で握り、銃身に自身のもう一つの武器である白い炎の纏わせる。そしてそのまま白いの炎を纏った銃身を十字架の念とへと思い切り叩きつけた。
強烈な一撃を受けた十字架は根元からへし折られ、磔にされていた刹那を侵食していた氷が砕けていく。意識のないまま倒れていく刹那を涙は片手で抱きとめる。
あとはここから離れるだけだが、もうフルーレティは態勢を立て直している。未だ足元で膝を折ったままの涙目掛けて、フルーレティは刀を振り下ろした。
だが涙はこれさえも読んでいた。
彼女は振り返り様に銃を構え、銃口を刀へと接触させる。そして接触のほんの一瞬のうちに銃弾を放つ。不意の衝撃にフルーレティの手から刀が弾き飛ばされ、あらぬ方向へと飛ばされた刀は床に突き刺さる。
油断したフルーレティの隙を突き、すばしっこい動きで一気に距離を取る涙。立ち尽くしたままの昴へと、涙は意識を失っている刹那を預ける。
「昴、この人をお願い。アンタは速くここから逃げなさい」
「お、おう……」
先ほどの高度な二人のやり取りを見ていた昴は、急に預けられた刹那を戸惑いながら抱きかかえる。
してやられた、という風な表情でこちらを眺めてくるフルーレティに、涙はウインクをしながら、
「作戦一は大成功! んじゃ次は作戦二——」
涙は再び銃を水平に構える。だがしかし、今度は銃口をしっかりとフルーレティに向けている。
「——フルーレティをぶっ飛ばす!」
彼女の笑みは、今までで一番生き生きとしていた。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.77 )
- 日時: 2015/06/23 00:52
- 名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)
刹那を助けだした涙は、誇らしげな表情でフルーレティを見つめる。
フルーレティもまさかあんなやり方で助けるとは思わなかったらしく、今まで余裕を保ち続けていた表情には、どこか悔しさを感じさせるものが見えた。
あとはフルーレティを倒し、茨芽瑠を助ければそれで解決だ。本気で戦うためには、一般人である昴や、気を失っている刹那がいては、少々やり辛い。
「ほら、いつまでぼーっとしてんのよ。早く刹那さん連れてここから逃げなさい」
振り返らず語る涙の背中に、昴の心配そうな声が掛けられた。
「……平気なのか?」
昴の心配はもっともだ。
今対峙しているフルーレティは、今まで涙が戦ってきた悪魔とは訳が違う。力も知能も何倍も上回っているだろう。
昴も涙から悪魔の特徴については聞かされている。人に姿が近いほど高い知能を持ち、戦闘能力も比べ物にならないと。
つまり涙にとっては、今回が初めてなのだ。人型の悪魔と戦うのは、これが最初となる。
だからこそ、油断も手加減も出来ない相手を前に昴は聞いたのだ。一人で大丈夫なのか、と。
涙はしばらく沈黙し、腰に手を当てると溜息をついた。
「……あたしを誰だと思ってんのよ。必ず生きて帰るから信じて待ちなさい」
涙は振り返って、ウインクをしながら言う。
「信じてもらうだけで、力になるからさ」
「……そうか」
涙の、自分が信頼する契血者(バディー)の言葉を聞き、昴は思わず笑ってしまった。
「じゃあ頼んだぞ」
昴が踵を返して教室の扉を開けようと、手を掛け横に引くが、扉は一向に開く気配がない。
がたがた、と動く様子もなく、まるで接着剤で止められているかのようにビクともしない。
「……扉が開かない……?」
「何ですって?」
予想外の出来事に困惑する二人。
そういえば、と昴があることを思い出す。
この教室に入った時、扉は開けなかった。開いている扉から光がこぼれており、駆け込むようにして入ったのだ。
中の異常な光景に目を奪われ、たしか扉を閉めてもいない。誰も扉には触れていないはずだ。
ならば一体どうなっているのかーー。
昴と涙は異常事態の犯人、フルーレティへと視線を向けた。
彼はさっきとは打って変わって笑みを浮かべていた。
「その扉は開きませんよ。『ヴァンパイア』の炎でも容易には壊せません。この教室は私が凍結させましたから。外部からの侵入も困難です」
「……凍結?」
涙が眉をひそめる。
フルーレティが教室を凍らせたというのなら、いつの間にか閉まっている扉や、開かない理由も分かる。
「けど、なら何で最初から教室を凍結させなかったのよ。最初から不可侵の領域にしていれば、大事な人質を取り返されずに済んだのに」
「私は人間には興味ありません。『ヴァンパイア』を誘き寄せる餌として利用したまで。だから彼らに危害を加えるつもりもありませんよ。隅で大人しくしてくれればいいのですが」
言いながらフルーレティは昴へと視線を向ける。
涙はフルーレティの言葉を聞き、
「昴、隅でじっとしてなさい」
そう指示した。
フルーレティの言葉を信じたのだ。
今思えば、涙を潰すために昴を狙う、という手段を使おうと思えば使えたはずだ。それをしなかったのは、彼の目的が本当に『ヴァンパイア』だけという言葉の裏付けになる。
だとしたら、フルーレティにとっては刹那がいなくなっても痛手にはならない。芽瑠がいれば、彼の目的は果たせるのだから。
涙は身体の三割程度が凍りついた芽瑠を見て、
「ちなみに、あの氷って完全に凍るまで大体どれくらいかかるか教えてもらえるのかしら」
「約一時間ですから、あと四十分ほどですか」
案外すんなり教えてくれたフルーレティに、
「あら、割と簡単に教えるのね」
「ええ。知ったところでどうにも出来ないでしょう?」
フルーレティの言葉に涙が目つきを鋭くした瞬間、
「涙ッ! 下だ!」
昴の叫ぶような声が響いた。
瞬間、涙の足元から巨大な氷柱が突き出し、涙の横を掠めていく。涙には当たらなかったものの、履いていた学校指定のスカートには深いスリットのような裂け目が刻まれた。
「……なっ……!?」
予想外の方向と攻撃に涙はどうやったのかを思案する。涙の視界に、弾き飛ばして床に刺さった刀が入ったのはすぐだった。
「あれか!」
涙は刀に弾を放ち、床から強引に抜いた。
「この中は私の世界」
フルーレティの冷たい声が響く。
絶望的な状況だ。
残り四十分ほどで、フルーレティという強力な悪魔を倒せる保証はない。この凍結空間から昴たちを逃がそうにも、フルーレティを無視していたら背後から攻撃される。
打開の手段が思い浮かばない涙に、救いの手が差し伸べられたのは直後だった。
バリィン、とフルーレティの背後にある窓ガラスが砕け散った。
フルーレティが何が起こったのかを確認する前に、顔に強い衝撃を受け黒板に叩きつけられた。
突如乱入してきた人物を見て、涙はまだ笑みを浮かべることが出来た。
「遅刻よ、この馬鹿」
「無茶を言うな」
長く赤い髪を靡かせた美少女は、一人の少年を抱えながら、
「助けてもらっただけでもありがたく思え」
赤宮真冬が、決戦の場に降り立った。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.78 )
- 日時: 2015/06/23 01:45
- 名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)
3
中々のいいタイミングで戦いに参入した真冬に、涙がかけた言葉は感謝でも労いの言葉でもなく、
「何してたのよ! 遅いじゃない、バカ真冬!」
説教だった。
窓ガラスを割って入るというカッコいい東城の後、誰だか分からなかったが敵っぽい奴を吹っ飛ばした。さらに最高にカッコいい決め台詞を言ったのに、まさかこんなことを言われるとは思っていなかった。
そんな真冬は、むすっとした表情を浮かべて、
「失礼な奴だな。黒曜闇夜という一つの障害を退けたんだぞ。もっと褒められてもいいと思うんだが?」
真冬は先ほどまで、涙たちが捕らわれた刹那を捜す時間を稼ぐために、黒曜闇夜と戦っていたのだ。最初はただの時間稼ぎのつもりだったが、闇夜が夏樹を狙ったことで、正面から倒さなければいけない事態になった。
その時、夏樹を庇ったせいで真冬は重傷を負った。戦後、ほとんど全てを失ってしまった自身の炎の源となる血を、夏樹から吸血したものの、体力の全てを回復するには至らなかった。
今現在は六割方回復してはいるが、全快状態に比べると、やはり身体が重いし、そのせいでうまく動けていない気がする。
それでも真冬はフルーレティが相手だと知って、休む暇もなく真っ先に駆けつけたのだ。それなのに、遅いなどと言われても改善のしようがない。むしろこれが最速だというのに。
「大体助けが必要とも思えんな。お前ほぼ無傷じゃないか」
真冬は自分に説教する友人をじっと眺めて不満そうに言う。
彼女を頭の先からつま先まで見つめたが、どこも傷を負っているようには見えない。口から血を吐いていたり、身体のどこかを苦しそうな表情をして抑えているのならまだしも、腰に手を当てて偉そうに説教しているあたり、まだまだ元気は有り余っているようだ。
「全然無傷じゃないわよ! 見なさいよ、ここ!」
涙は自身のスカートの側面を指さした。彼女の指の先にはスカートがスリットのように裂け、彼女の健康的な太腿が少し露わになっている。小柄で身体の凹凸が少なめだが、どことなく色気を感じる。
「苦戦してなきゃ美少女優等生であるあたしが、学校指定のスカートをこんな状態にするかっての!」
どうやら敵の攻撃によって受けたダメージらしい。が、彼女自身が無傷であることは変わりない。真冬は深く溜息をつくと、氷の十字架に磔にされている茨芽瑠へと視線を向けた。
「お前が美美少女優等生かどうかはさておいて、あれはなんだ?」
「フルーレティお手製の氷の十字架。あと四十分もしないうちに完全に凍って氷の彫刻になるらしいわ」
氷の十字架は一時間で、磔にしている相手を凍らせる、という情報を涙から受け取った真冬は、先ほど敵っぽい相手を吹っ飛ばした方向へと視線を変えた。先ほどの相手がフルーレティだと理解したようだ。
「……それって、ヤバいんじゃないのか……?」
今までの状況を、今ようやく理解した夏樹が焦ったような口調で聞いてくる。残り四十分もしない内に、茨芽瑠は動くことも喋ることもままならない、氷の彫刻になってしまう。
刹那だけを助けても無意味であり、フルーレティからしても何一つ不都合はない。
「あの十字架から解放するには、フルーレティを倒すか十字架を壊すか。あたしはアイツの隙を突いて助けられたけど、本来の目的である『ヴァンパイア』を助け出そうというのなら、そう簡単じゃないかもね」
ガラ、と積み上げた石の塔が崩れるような、鈍い音を夏樹たちは聞いた。
四人の視線は自然に黒板の方へと、正しくは真冬がフルーレティを吹っ飛ばした場所へと向けられる。
足元に散乱する瓦礫を蹴り飛ばしながらフルーレティは煙の中から姿を現した。多少服は汚れてしまっているものの、彼自身に目立った傷はない。やはり、あの程度では意味がないらしい。
「随分と長かったな。居眠りでもしていたのか?」
真冬がからかうような口調で尋ねる。
一方のフルーレティは怒ることなく、口元に僅かな笑みを浮かべた。
「いや、あなたたちの会話の切れ目を待っていたのですよ。ようやく終わったようですね」
つまりは、彼にはそれほどの余裕があるのだ。先ほどの隙を突くまでもない、と。そう言っているのだろう。
それに真冬たちが話している間にも、芽瑠を助けられる時間は刻一刻と減っている。長い間話していても、損するのは真冬たちだけだということだ。
「……夏樹。お前はさっきヤバい状況だと言ったな」
「え、ああ」
誰だってそう思うことだ。残り僅かな時間でフルーレティを倒すことも、芽瑠を助けることも確約されていない。
しかし真冬は拳を手の平に打ち付けると、
「……まあ涙だけなら、確かに絶望的な状況だったな」
「何ですって!?」
真冬の言葉に反応する涙。だが真冬はそれを無視し、言葉を続けた。
「二人なら、どうとでもなるさ」
涙は手の中で銃を器用に回し、
「言ってくれるじゃない。こりゃ、期待に応えないといけませんなぁ」
二人の自信に満ちた瞳がフルーレティに向けられる。
フルーレティは薄く笑い、
「……負ける気はないということですか。ならば……」
フルーレティは手の平を広げて、そのまま腕をゆっくりと上に上げていく。その行動に何か意味があるのを理解してはいたが、真冬たちはいまいち理解できない。
「——その自信、粉々に打ち砕きましょう」
突如、可視化された冷気がフルーレティの身体を覆うように渦を巻いた。その中心にいるフルーレティの姿はあっという間に見えなくなり、教室を強烈な冷気が包み込む。
「うおぁっ!? 寒ッ!!」
「涙ちゃん凍えちゃうーっ! 真冬、盾になって!」
「黙れ。そのまま凍えていろ」
「俺も盾にならないからな」
涙の言葉に冷たく言い返す真冬と昴。涙はさっと夏樹の後ろに隠れるが、教室中を寒気が覆っているため、全く意味がなかった。
やがて冷気が収まり、フルーレティを包んでいた冷気の渦も消えていく。しかし渦が消えたその中心にいたのは、さっきまでのフルーレティの面影を微塵も残していない異形の者だった。
身体は白い氷の鎧に覆われており、触れただけで凍らされてしまいそうな印象がある。鎧によって覆われた身体は、お腹辺りは普通の人間くらいに細いが、その上と下は通常の何倍にも膨れ上がっている。
肩から指の先にかけて分厚い氷に覆われており、爪はかぎ爪のように鋭い。足も分厚い鎧に覆われ、いくら押してもびくともしない安定感を感じさせる。
さらに顔を覆うものは、龍を模したような兜だ。顔全体を覆う兜からは、フルーレティの素顔を窺うことが出来ない。
今までのどの敵からも感じることがなかった、濃密な魔力と、本能から感じる恐怖を、真冬たちは肌で感じ取る。
そして真冬はほとんど本能で叫んでいた。
「夏樹! 昴! 隅にいろ! 決して前に出てくるなッ!!」
叫んだ瞬間、フルーレティの姿が消えた。
真冬と涙がその事実に驚愕した頃には、既にフルーレティの姿は真冬の背後にあった。
真冬が振り返るより先に、フルーレティの鋭い爪が真冬の背中を簡単に切りつけた。夏樹の真冬に敵の場所を告げる言葉より、先に再びフルーレティは姿を消した。
涙は反射的に銃を前に構えるが、それも遅い。フルーレティは涙の目の前に現れていた。
「……速過ぎでしょ……!」
フルーレティより速く出来たことが、涙のその発言だった。
分厚い氷の鎧に覆われた拳が涙の腹部に叩き込まれる。肺の中の空気とともに、血を口から吐き出し、涙はそのまま床に崩れ落ちる。
真冬も、涙も。成す術なく倒れる様を見つめながら、夏樹と昴は絶望的な表情を浮かべていた。
紫々死暗や黒曜闇夜など、比べるまでもなく強力で凶悪な存在。
夏樹たちは理解していなかったことを、今初めて理解した。
——人型の悪魔と戦う、というその危険性を。
- Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.79 )
- 日時: 2015/07/07 13:00
- 名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)
4
「……ん、うぅ……」
汐王子刹那はゆっくりと重たい瞼を持ち上げる。
意識がはっきりしないまま、今の状況を少しずつ把握していく。
まず最初に視界に入ってきたのは暗い天井だ。夏先の今の季節では有り得ない、薄い氷の膜のようなものが張っている。
それから、自分は寝かされているのではなく、抱きかかえられていることに気付く。しっかりとした腕に、背中を支えられ、肩に優しく手を添えてくれている。
刹那はどうにか目だけを動かして、一つでも多くの情報を得ようとする。
視界に男子が——自分を抱きかかえてくれている桐澤夏樹が移ったのは、その時だった。
「…………桐、澤…………? あなた、桐澤……なの……?」
今まで朦朧としていた意識が覚醒した刹那は、焦点が合わなかった視線を夏樹に向ける。
声に気付いた夏樹が刹那に視線を落とす。
「刹那さん? 目、覚めたのか……?」
安心したような、だがどこか困ったような表情を見せる。
それに気付かず、刹那は今の状況を夏樹に問いかける。
「どうしてあなたがここに? それよりここは何処? 暗いし寒いし……一体何がどうなって……?」
刹那が困惑するのも無理はない。
実際彼女には朝の記憶のほとんどがない。
普通に朝起きて、芽瑠がまだ眠っているのを確認してから、制服に着替えいつも通り朝食の準備に取りかかった。その瞬間、カーテンが不自然に揺れたかと思って振り返ってからの記憶がない。
刹那が考えているとガシャアン!! とテーブルの上の食器をまとめて落としたような音が背後から聞こえてきた。僅かに煙と埃が舞う。
「な、何!?」
刹那が振り返ると、そこにいたのは銀髪に青い瞳をした美少女がぐったりとしていた。
「……いっつ〜……もう、勝てっこないわよこんなの……」
見ればその少女は傷だらけだ。
額や頬、いたるところから出血しており、服もズタズタで、見ているだけで痛々しい。生きていることが不思議なくらいの重傷だ。
「……あなた、どうしたのその傷!?」
刹那の声を聞いて振り返った少女が、あちゃー、と声を上げた。明らかにまずい、というような表情だ。
「いやん、起きちゃった? 出来ればその前に片付けたかったんだけど……」
冗談めかす彼女の表情に余裕はない。
膝に手をついて立ち上がりながら、
「昴、夏樹くん。彼女に状況の説明お願い。あたしもしばらくは油断できないから!」
銃を構え駆ける少女。
刹那は夏樹に縋るような体勢で、今度は叫ぶように問う。
「桐澤! 何がどうなってるのよ!? なんであの子はあんな傷だらけなの? どうしてあなたは助けないの? 一体何がどうなって——!?」
分からないことが多すぎて刹那も混乱しているようで、同じ質問を何度も繰り返す。彼女の質問に答えたのは、静かに前を見続けている昴だった。
「あんたの質問全部に対する答えは——相手が悪魔だからだ」
「……悪魔……?」
何かの比喩表現だろうか、刹那が昴の見ている方向へと視線を向ける。
しかし彼女が見たのは比喩でもなんでもなく、紛れもない悪魔だった。
分厚い氷に覆われた、この世の生物とは思えない姿をしている怪物に立ち向かっている、赤く長い髪を持った少女と、先ほどの銀髪の少女。
二人とも満身創痍なのは明らかだ。
「……なによ、あれ……。私は、夢でも見てるの……?」
「夢でもなんでもねぇよ。あれが茨芽瑠が戦っている悪魔だ」
「……どうしてあなたが、芽瑠を知って……?」
その時、刹那が見てはいけないものを見てしまった。
氷の十字架に磔にされている小さな女の子。その少女が、自分が大切にしている大事な女の子だと分かったのだ。
「……める……?」
刹那が放心したような表情でゆらりと立ち上がる。一歩一歩と前に足を動かしていく。
「……芽瑠……、芽瑠! 芽瑠! 何で!? どうしてあの子がッ!?」
そんな彼女の腕を掴んで、夏樹が歩みを止める。振り払おうと刹那が足掻くが、男子の腕力に到底敵わない。
「離して!」
「行ってどうする!? 戦いに巻き込まれて死ぬぞ!?」
「だからって、だからってここでじっとしてろって言うの!? 冗談じゃないわ! 私はあの子を助けに行く! 死んだっていい!」
尚も前に進もうとするが、夏樹がそれを阻む。刹那は涙を流しながら息を切らして行こうとしている。
身体のほぼ半分が凍りついた、自分の妹を潤んだ視界に捉えながら。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
この掲示板は過去ログ化されています。