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ブラッド・フレイム-Blood Flame- 第三章開炎
日時: 2015/07/18 08:39
名前: 竜野翔太 (ID: SDJp1hu/)

 はじめまして、ドラゴンとか呼ばれたことないけど、ドラゴンこと竜野翔太です。苗字の読みは『たつの』ですよ〜。『りゅうの』じゃありませんからね。

 今回は閲覧いただきありがとうございまーす。
 この作品、『ブラッド・フレイム』でございますが、主人公は吸血鬼ちゃんでございます。いや、本当は別の掲示板で上げてたヤツに修正加えていって、いいものに昇華させてるやつなんですけどね。

 主人公は吸血鬼、敵は悪魔ということで、いかにも中二病な作者が好きそうな題材でございます。あー恥ずかしい。
 吸血鬼ちゃん、とちゃん付けで言ったということは、吸血鬼は女子ということです! ここ重要ですよ!
 まあ後々男の吸血鬼も出ますが、大体が女子ですよ。

 各キャラのプロフィールなどは、一つのストーリーが終わるごとに書いていきますので、それまでは色々と文章を読んで把握してくださいな♪

 ではでは、次のレスから始めていきますよー!

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Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.40 )
日時: 2014/10/24 23:28
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 4


 伊暗は気だるげな表情のまま涙をじっと睨みつけるように見ている。
 見たところ彼女には銃以外の武器はない。反応速度は中々のものだが、かわしたところで攻撃しないと勝ちはない。それに伊暗には鎖の槍を射出した後の隙を突かれても大丈夫のように策を用意してある。
 紫々死暗は数を揃えて叩くだけの力技の作戦だったが、伊暗は攻めと守りの両方の戦術を備えている。赤宮真冬相手には分が悪いが、白波涙相手ならば伊暗でも勝てる自信がある。
 あとは早々に彼女を倒して、おそらく一方的に赤宮真冬に叩かれているであろう愚兄を助けに行くだけだ。
 伊暗はすぅっと細い息を吐くと、相変わらずの気だるげな表情の中に、僅かに余裕の見える表情を涙に向けた。
「来なよ。君の言葉を真っ向から否定してあげるからさ」
「……それは無理だよ」
 涙は片手で器用に銃をくるくると回す。
 くるくると回しながら、
「あたしの言葉を否定できるのは、あたしだけだから!」
 ちゃっと銃口を伊暗に向け、人差し指を引き金にかける。
 しかし、涙が引き金を引くより速く伊暗のマントが開き、闇夜のように漆黒の空間から何十本もの鎖が涙めがけて飛んでくる。
 涙は低く舌打ちをすると、銃口を伊暗に向けたまま、伊暗の周りを回るように走る。その間に銃弾を放つが、伊暗が手を繰ると、握っていた鎖が涙の銃弾を阻む。
「その鎖、防御にも使えるんだ」
「そうだよ。これがボクの最強装備……鎖の矛盾(チェーン・パラドックス)。槍は矛となり盾にもなる。こんな便利な武器、中々ないよ」
 涙は再び円を描くように走りながら銃弾を放つ。
「無駄だって」
 その度に伊暗の身体に巻きつくように展開された鎖が弾を弾く。それでも構わず涙は銃弾を放ち続ける。
 無駄なやり取りに遂に伊暗が気だるげな表情から、不快な顔を作った。
「しつこいなあ。赤宮真冬の下へと向かわせないための時間稼ぎならやめときなよ。どうせ愚兄じゃ勝てないし……ボクは愚兄と赤宮真冬の戦いが終わったら退くつもりだよ。君は倒すけどね」
 涙が伊暗の周りを三周したくらいだろうか、涙は伊暗と向き合える場所で立ち止まった。息はあまり切れていないが、額にはうっすらと汗が浮かんでた。
「だと思ったよ。でもそれってさ『真冬には勝てないけど、あたしには勝てる』って言ってるように聞こえるんだけど?」
「君は馬鹿なのかな。そう言ってるんだけど」
 涙はニッと笑みを浮かべながら銃口を伊暗に向けた。
 まるで勝者が見せるような笑みで。
「じゃあそれはやっぱり不可能だ」
「銃弾よりボクの槍の方がはや——ッ」
 伊暗はマントを開いて鎖の槍を射出しようとするが、それは失敗に終わった。マントが開かない。理由は実に単純。銃弾から守るために自分の周りに展開した鎖の盾。それがマントが開くのを妨害している。
「なっ……!?」
 予想外の事態に伊暗が焦り、手を素早く繰る。だが冷静な判断が出来ずにいつものようにうまく鎖を操れない。いつの間にか鎖は複雑に絡み合い、涙と同じような状況に陥ってしまった。
「馬鹿な……! なんで、なんでこんなことに……!」
「あたしが何も考えずに走り回ってたと思う? あたしね、勉強は苦手だけど、こういうのは得意なんだ」
 涙が伊暗の傍にしゃがみ込み、銃口を伊暗の額に当てる。
「策士策に溺れる。……最強の盾は最強の矛を通さない……たしかに矛盾だわ」
「ま、待って! ボクはもう退くよ! 偉そうなことばかり言ってごめんなさい! 今までの非礼を全部詫びるよ! だから……!」
「あーはいはい。そんなに謝られて許さなかったらこっちが悪者じゃん。今日は見逃してあげるわよ」
 涙が立ち上がり、銃を太腿のホルスターにしまう。伊暗がほっと安堵の息をつくと涙が『あ』と思い出したように言う。
「ねえ、最後に一個だけいい?」
「はい! なんでしょう?」
 もはや逆らうこともせず素直に返事をする伊暗。彼の安心しきった表情を見ながら、涙は——。

 ゴッ!! と相手の顔面を思い切り蹴り上げた。
 伊暗の身体は数メートル吹っ飛び無様に転がったままピクピク動いて気を失った。

 涙は冷ややかな瞳で伊暗の睨みつけながら、
「パンツ見たことに対して謝ってもらってないんだけど」
 普段の涙からは想像できないほどの冷たい瞳と口調に昴が戦慄していると、いつも通りの明るい表情の涙が昴に勝利報告をしてきた。
「おーい昴ー! あたし勝ったよー!」
 いつも通りの涙に昴はほっと安心すると、
「涙……。俺はやっぱりいつものお前が好きだ……」
 さっきの冷たい涙は見たくない、というニュアンスで言ったのだが、涙は好きをストレートに受け止めてしまい、耳まで顔を真っ赤にすると、あからさまに照れて乙女らしい仕草を始める。
「す、好きって……もう、こんな時に何言ってんのよアンタは……。バカ……この、ばーかばーか!」
 罵られている理由が分かっていない昴は、首を傾げるが、真冬が行った方向に視線を向けると、涙とともに真剣な表情で言う。
「さて、最後の戦いだな」
「ええ。まあ真冬なら大丈夫でしょうけど」

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.41 )
日時: 2014/10/26 00:48
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 5


 深夜の街に赤い炎が瞬く。
 次の瞬間、一人の人物が息を切らしながら逃げてきたかのように地面に着地した。忍者のような服を着ている男は、額から血を流している。身体のあちこちにも傷があり、今まで誰かと戦っていたことは明確だ。
 男はそのまま逃げようとするが、追撃者がそれを許さなかった。男の前に着地した真紅の髪の少女は、冷たく赤い瞳で男を睨みつける。
「その傷じゃまともに戦えないだろう。早く解毒薬を渡せ。そうすれば見逃してやる」
 真冬の言葉に、紫々死暗はマスクの裏で笑みを作る。息を切らしながら、疲れきったことが分かる口調で言う。
「……そいつはお断りだ……。俺は、テメェらに復讐するために、戻ってきたんだからよォ……! ここで、ここで退いたら……情けねぇどころじゃねェだろォがよォ!!」
 紫々死暗の声が夜空に響き渡る。
 幸いにも民家が少ないところで、住民たちに今の声は届いていないだろう。この時間ならば眠っている者がほとんどだ。
 真冬は紫々死暗の叫びに、小さく息を吐いた。
「……自身のプライドのため、命を捨てるつもりか? それは勇気でもなんでもない。ただの無謀だ」
「構わねェさ! それでお前らへの復讐を果たせるならなァ!!」
 紫々死暗は『天界』で赤宮真冬、白波涙と戦った。彼の目的は『アサシン』の名を『天界』に知らしめ、泣く子も黙るような凶悪な集団を作り上げることだった。
 そのためにはリーダーの知名度が重要だ。
 彼が目をつけたのは『ヴァンパイア』の育成機関に所属していた赤宮真冬だ。彼女の名前は育成機関に所属している身でありながら優秀だ、と有名になっていた。
 そんな彼女を倒せば自分の名前も一気に知れ渡る。紫々死暗はすぐに作戦を実行に移した。
 奇襲を仕掛けた紫々死暗だが、かわされることは予想通りだった。だが、彼の誤算はもう一つあった。
 赤宮真冬と一緒にもう一人その場にいたのだ。それが白波涙である。
 相手は多い方が有名になる。そう考えた紫々死暗は二人に勝負を挑んだが、結果は惨敗。赤宮真冬に一方的にやられる形となってしまい、二体一どころか、一対一でも相手にならなかった。
 これが後に『天界』で有名になる『赤と白の紫破壊事件』である。
 紫々死暗はその雪辱を晴らすため、今回彼女たちを急襲した。赤宮真冬が大切に思っている男を凌寸前にまで追いやったそこまでは良かった。まさか、男を救うために奮い立って再び闘志をみなぎらせるのは予想外だった。
 紫々死暗は赤宮真冬が土下座でもして解毒薬を欲すると思っていたのだ。
「……クソが! クソがクソがクソがクソがァ!!」
 紫々死暗は叫ぶ。
 全て予想外だった。一度目の襲撃で『アサシン』幹部の三人を撃破され、圧倒的戦力で押しつぶすために用意した『アサシン』の隊員五〇〇人も一瞬のうちに殲滅された。
 紫々死暗と赤宮真冬の戦いは全て予想外の出来事が起こり、紫々死暗が敗北しているのだ。
「このまま……何もなせずに帰れるか! 絶対に、お前だけはぶっ飛ばしてやる!!」
 紫々死暗の大爪に巨大な紫色の炎が纏う。その炎はすぐに人の身体より大きくなり、街のビルや建物なども押し潰してしまうだろう。破壊の権化を右手に顕現させた紫々死暗は獰猛に笑う。
「キハハハハハ!! これで押し潰してやる! 終わりだァ!! 消し炭にしてやるよ!!」
 巨大な爪の形をした炎を見上げて、真冬はただ背中から赤い羽根を生やし、それを強く羽ばたかせた。
「上等だ。お前の自信を真っ向から打ち砕いてやる」
「ほざけ!!」
 紫々死暗が真冬を押し潰さんと掲げた右腕を振り下ろす。巨大な爪は真冬めがけて襲い掛かってくる。真冬は振り下ろされる爪に向かって飛翔し、右手に光輝く真っ赤な球体の炎を纏う。
「ハッ! んなちっぽけな炎で何ができるってんだよォ!!」
 真冬はその光輝く炎を紫色の巨大な爪へと叩きつける。大きさだけ見れば紫々死暗の勝利だが、どういうわけか二つの炎は拮抗し、鍔迫り合い状態になっている。
「なっ……!?」
 紫々死暗は驚愕に表情を歪めた。
 そんな紫々死暗に真冬が静かに告げる。
「お前の巨大な爪は見てくれだけだ。大きさに見合う破壊力が伴っていない。真に強い『ヴァンパイア』はお前みたいにこんなものは振り下ろさない。力が強大過ぎて……簡単に世界を破壊してしまうからだ。私たちは……強い『ヴァンパイア』は力を収束するのさ」
 やがて二つの炎の鍔迫り合いが終結を迎える。
 真冬の光輝く真っ赤な炎が紫々死暗の巨大な炎を打ち消し、真冬はそのまま紫々死暗の傍に着地した。
 紫々死暗はすかさず爪で真冬を迎撃しようとしたが、それを読んでいた真冬が紫々死暗の右手の爪を破壊する。
 砕け散る自身の武器を瞳に焼きつけながら、紫々死暗は心の中で呟いた。
 ——クソが、と。

 ゴッ!! と真冬の拳が紫々死暗の顎に叩き込まれ、死暗の身体は上空へと打ち上げられる。

 打ち上げられ、そのまま重力したがって地面に落ちていく紫々死暗を真冬は炎の翼を羽ばたかせながら上空で掴む。
「お前には落ちてもらっては困る。身体への攻撃は避けた。自分の手で壊してしまっては意味がないからな」
 真冬は地面に着地し、救った死暗を地面に寝転がし彼の服の中をまさぐる。彼が持っているある物が必要で、真冬は彼と戦っていたのだ。
 真冬は彼の服の中に試験間程度の細さの容器を見つける。中には透明な液体が入っており、英語で解毒薬と書かれたシールが貼ってある。
「……これか」
 真冬はそれをきゅっと胸元で大事そうに抱きしめてから、念願が叶ったような満ち足りた表情で夜空を見上げる。

「——今助けるからな、夏樹」

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame- ( No.42 )
日時: 2015/07/07 19:32
名前: 竜野翔太 (ID: 4/G.K5v4)


 終章


 病院の一室。
 朝の日差しが開け放たれた窓から入り込み、爽やかな風が白いカーテンを揺らしている。
 真冬はその一室で眠っていた。
 ベッドを借りて眠っていたわけではない。ある人物の看病をしている間、そのまま睡魔に負けて眠ってしまったのだ。
 静かに規則的な寝息を立てる真冬の頭をそっと撫でる手があった。
 それで目を覚ましたのか、真冬はうっすらと目を開けて身体を起こした。
「……あれ、わたし……寝ちゃってたのかな……」
 虚ろな瞳で辺りを見回していた真冬に、優しい声が掛けられた。
「悪い、起こしちまったか?」
 その声を聞いた真冬は、驚きのあまり目を見開いた。
 完全に意識を覚醒させた真冬はベッドの上の光景を見て言葉を失っていた。

 ベッドの上には目を覚ました桐澤夏樹が優しい笑みを浮かべていた。

「……夏樹、くん……?」
 名前を呟いた真冬に夏樹はくすっと笑った。
「なに泣きそうな顔してんだよ。俺がそんな簡単に死ぬか」
 真冬は瞳に溜めていた涙を一気に流し、怪我をしている夏樹にがばっと抱きついた。
「お、おい赤宮……!?」
 いきなりの出来事に思わず驚く夏樹。
 美少女である真冬に抱きつかれてしまえばドキドキしてしまうのも当然で、抱きついている真冬に心臓の音を聞かれているのだろう、という恥ずかしさが込み上げる。
 しかし、真冬はその心臓の音をドキドキの音とは思わずに、泣きながら声を震わせる。
「……動い、てる……ちゃんと、夏樹くんの心臓……ちゃんと、動いてるよ……!」
「……ああ」
 夏樹は抱きついている真冬の頭を優しく撫で続ける。
 泣いたまま真冬は言葉を続けた。
「……本当は、もうダメかと思ってた……。このまま死んじゃうんじゃないかって……すっごくすっごく、心配だった……」
 夏樹に頭を撫でられながら、真冬は涙を流しながら言葉を紡ぐ。
「……でも、でも良かった……! 生きててくれて……ありがとう……!!」
「……ああ」
 夏樹はふと真冬の頭を撫でる手を止めた。
「朧月と白波から聞いたよ。アイツから解毒薬を手に入れてくれたのってお前なんだろ。こっちこそありがとうな」
 真冬はううん、と首を横に振った。
 本当はもっともっと謝らなければいけない。死の危険にまで陥らせて、苦しい思いをさせて、今の今まで動くことも出来なかった。真冬は謝ろうとしたが、その謝罪の言葉が出て来ない。
 しかし夏樹は、そんな真冬の気持ちを知ってか知らずか、窓の外に目を向けながら言った。
「謝ろうとか思うんじゃねーぞ」
「……え?」
 真冬は顔を上げる。
「今回のことは俺のせいだ。俺が勝手に前に飛び出して、それで勝手に怪我を負った。お前の責任なんてどこにもねーだろ」
「で、でも! わたしが、わたしがもっとちゃんと戦ってれば……」
「それだってお前とちゃんと契約してなかった俺のせいだ。お前はちゃんと契約した奴から血を吸わないと本当の実力を発揮できねーんだろ?」
 『アサシン』襲来の際に、昴と一緒に涙のところへと向かっていた時に真冬から聞いた『覚醒型ヴァンパイア』の特徴だ。
「そ、それは……!」
 どうにか夏樹をフォローしようと真冬が言葉を探すが見当たらない。自分は悪くないと言われているのだが、なんだか言い負けた気がして真冬は居心地の悪そうな表情を浮かべる。
 夏樹はそんな真冬の頭に手を置いて、
「——だから赤宮。俺と契約するか?」
「……え?」
 いきなりの夏樹の言葉に真冬は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
 一瞬、夏樹が何を言っているか分からなかったのだ。夏樹の言葉をしっかりと把握した真冬は、
「い、いいの……? わたしと契約して……」
 真冬は今回のこともあるのか、俯きながら言う。
「わたしと一緒にいたら、また今回みたいなことになっちゃうかもしれないんだよ……? また死にかけちゃうかもしれないのに……」
 夏樹はそれでもいいんだよ、と言った。
「確かに今回は死にかけた。でも、それは全部俺のせいだ。だから今回は俺がお前の力になる。だからお前は……」
 涙を流しながら顔を上げた真冬に夏樹は優しく、

「だからお前は、俺に力を貸してくれ」

 夏樹の言葉に真冬はこくりと頷いた。涙を流しながら、それを拭うこともせず、ただ夏樹の言葉を聞いて、夏樹の言葉にしっかりと返事をした。
「……じゃあ成立だな。ところで、契約って何をすりゃいいんだ? 契約する時に言うって言ってたけど……」
「えっ!?」
 夏樹の問いに真冬は上擦った声を上げた。
 それから頬を赤く染めて、あからさまに目を逸らす。すごく話しづらそうな表情で、左右の人差し指をつつき合わせている。
「……どうした?」
 真冬の照れの理由が分からない夏樹は首を傾げる。
「そういや、朧月と白波が契約したって言った時お前も驚いてたけど……」
 真冬は言いづらそうに顔を赤くしながら、顔を俯かせて呟くように言った。
「……その、契約ってのはね……」
「儀式的なことをするのか?」
「……儀式的といえば、儀式的だけど……」
 その、えと、と言い淀みながらも、上目遣いで夏樹を見つめながら、
「……キス、するの……」
「……は?」
 真冬の契約の方法に夏樹はとぼけた声を上げた。
 顔を真っ赤にしながら、真冬は叫ぶように再び言う。
「だ、だからキスするの! わたしと……夏樹くんが……」
 言葉を理解した夏樹も顔を赤くして目を逸らす。
 気まずい空気が二人の病室を置い、長い沈黙が続く。
 この空気を払拭しようとしたのか、真冬は慌てた様子で目を泳がせまくりながら、
「で、でも……わたし、紫々死暗を倒すために、眠ってる夏樹くんから無理矢理血を吸っちゃってさ! それがまあ……口から、なんだけど……」
「な……!?」
「ああ、ごめんね! 本当にごめんなさい! でもその、言い訳になっちゃうけど……仕方がなかったっていうか……」
 焦り続ける真冬だが、夏樹はむしろ少し喜んでいた。
 眠っていたとはいえ、赤宮真冬という美少女とキスをしていたのだ。ファーストキスが眠っていた間に済ませてしまっていたことに悔しい気持ちはあるが、初めての相手が真冬であることは変わりない。
 夏樹は小さく息を吐いてから、
「……じゃあ、手っ取り早く済ませるぞ! 普通にするだけでいいんだよな?」
「えっ!? あ、うん……でも、本当にいいの……?」
 頬を紅潮させながら小首を傾げる真冬。
 だから可愛すぎるからその仕草はやめてほしい。キスした後に勢いでその先までしてしまいそうだから。
「一回も二回も変わりゃしねぇよ。お前こそ俺でいいのか?」
「……うん、いいよ。一回も二回も変わらないし。それに……わたしは夏樹くんじゃなきゃ嫌だよ」
 そう言いながら真冬は目を閉じる。キスを待っているようで、表情はどこか緊張しているようにも見える。
 夏樹が肩に手を置くと真冬の身体がびくっと震えた。真冬は胸元で両手をきゅっと握りしめている。
「……だからお前……」
 ——それ、口説いてるのかよ——

 その言葉は口には出さず心の奥に閉じ込めておく。
 その代り、夏樹は真冬の唇に自身の唇を重ねた。

 契約完了の証である赤い石が埋め込まれてある指輪が、二人の右の中指に現れた。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame-【第一章 完結】 ( No.43 )
日時: 2014/10/27 02:24
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 あとがき


 というわけで、『ブラッド・フレイム-Blood Flame-』第一章をお届けしました。サブタイトルは『赤き邂逅』で、赤宮真冬が主人公のストーリーだったのでこういうタイトルになりました。

 最初のストーリーだったのですがどうでしたでしょうか?
 この話を読んでいて、あれ主人公ってどっち? となった方も多いでしょうけど、主人公は一応夏樹くんです。ストーリーの終盤全く出番なかったクセに真冬と二回もキスしやがったあいつです。
 真冬は一応ヒロインという立場ですね。厳密に言えば主人公兼ヒロインですが。
 今回は最初のストーリーという事で、スポットは夏樹と真冬の二人に当てました。その思惑通りかどうかは分かりませんが、見事に真冬だけが活躍してましたね。
 でも夏樹くんだって活躍したし! 真冬ちゃんの盾になったり、それで重傷負っちゃったけどね!
 書きたいものを書かせてもらったので、作者的には満足しております。良い感じにバトルと日常の話を入れることができたなー、と思っていますが、読者的にはどうだったのか、という意見もくださるとうれしいです!

 さてさて、それでは次の話のことをちょろっと話させていただきます。
 次回は第二章! 主人公は新しい人間と『ヴァンパイア』のコンビ、つまり新キャラクターとなるわけです! 涙が出番だと思った? 彼女が主役の話もありますが、それはもうちょっと先ですかね。
 この二人が夏樹たちとどう関わっていくのか? そして第二章にして強敵出現! どうなる、夏樹? どうなる真冬? という感じです。全然伝わりませんね。

 ではでは、今回はこのあたりで。
 また次回でお会いしましょう!



 最初に言っていたキャラクターのプロフィール、こちらに載せておきますね。

プロフィール
桐澤 夏樹(きりさわ なつき)
誕生日/10月3日 身長/170㎝前後 体重/60㎏程度
・黒髪に特に特徴のない少年。モチーフは『ライトノベルの主人公』。
・勉強はこれといって得意分野がないが、体育は割といい成績。
・家族構成は母と妹。母親の冴子曰く『ウチで二番目に料理が上手い』。
・薫の幼馴染で、昔は苛められていた薫を庇うという正義感を持っていた。
・基本的に優しい性格で困っている人には手を差し伸べる。その性格ゆえか女子からは割と好感を抱かれている。が、頼まれると断れないタイプ。
・中学の頃は喧嘩をしており、喧嘩はきっぱりやめた今でも身体能力は高め。
・昴とは中学時代に知り合い『なっちー&ばるっち(薫命名)』の名で有名になってしまった。それ以来、昴とは犬猿の仲である。
・『アサシン』の一件後、赤宮真冬の契血者(バディー)となった。

赤宮 真冬(あかみや まふゆ)
誕生日/7月19日 身長/155㎝程度 体重/40kg前後
・赤い髪を持った愛らしい容姿の少女。モチーフは『正統派ヒロイン』。
・『天界』という意世界出身の『ヴァンパイア』で夏樹たちのクラスにやって来た転校生。
・『ヴァンパイア』の仲でも珍しい、戦うときに姿を変える『覚醒型』。
・『天界』ではかなり有名な存在であり、同時に強力な『ヴァンパイア』でもある。
・『ヴァンパイア』の中では極めて優秀で、高度な技術を扱うことが出来る。
・覚醒後とは性格や喋り方も真逆になる。
・見た目に寄らず大食い。学校の昼休みにはお弁当を食べ終わると購買に行く。
・クラスでは人気者で、夏樹や薫をはじめ、真咲、結花、比奈の『キューティーズ』とも仲が良い。
・『天界』に姉と妹がいる。
・友人を殺した『青のヴァンパイア』を探しており、彼女への復讐を目標としている。
・『アサシン』の一件後、桐澤夏樹と契血者(バディー)になる。

Re: ブラッド・フレイム-Blood Flame-【あとがき更新】 ( No.44 )
日時: 2014/10/28 00:02
名前: 竜野翔太 (ID: KCZsNao/)



 ブラッド・フレイム-Blood Flame-

 『瑠璃色の光編』

 序章


 あるアパートの一室。
 窓から差し込む光で一人の少女が目を覚ました。
 チュンチュン、という小鳥のさえずりを聞きながら、金髪の少女はゆっくりと目を開ける。
 むくりと上体を起こすと、自分に寄り添うように眠る一人の少女がいた。
 見た目十三、四歳程度の桃色の髪を肩辺りで切り揃えている愛らしい表情の少女だ。気持ちよさそうに寝息を立てている少女の頭を優しく撫で、金髪の少女は立ち上がり洗面台へと向かう。
 背中くらいまで伸びている金髪を櫛で丁寧に梳いていく。右目が前髪で隠れてしまうが、これはこれでしょうがない。そろそろ切り時か、などと思ってしまう。
 きりっとした瞳の少女は背が高く、一七〇センチ程度はあるだろう。また胸は大きめな割に体型はスレンダーで、学校の同級生の女子からは憧れられている。
 しかし、少女がその女子と関わることはない。
 ある出来事をきっかけに、少女の高校生活は変わってしまった。
 少女が髪を一つに束ね、朝食の準備をしていると、ピンポーン! と家のインターホンが鳴った。
 目玉焼きを焼いていたコンロの火を止め、玄関へと向かって行く。
 少女は気だるそうな表情のまま、扉を開けた。この時間、訪ねてくる相手が分かっているからだ。
「……んだよ」
 ぶきらっぼうな声で返事をする。
 立っていたのは学ランを着たスキンヘッドの男二人組。体型がしかりしていて、背の高い少女でも彼らの肩くらいの身長だ。スキンヘッドの二人組は九〇度の角度で腰を曲げ、少女に向かって一礼する。
「おはようございます、姐さん!!」
 二人の声は大きい。
 いつもの光景と行動に少女は深い溜息をついて、
「うるさい。近所迷惑だ。すぐに準備するから、下で待ってろ」
 了解しました! と再び大きな声で返事をすると、二人組は階段を降りていく。少女が部屋の中に戻ると、インターホンと二人組の声のせいか、今まで眠っていた少女が目を覚ましたようで、ゆっくりと上体をおこしているところだった。
 大きな欠伸をしながら辺りを見回し、金髪の少女を見つけると飛び上がって彼女に抱きついた。
「おはよう、刹那(せつな)!」
 抱きついてきた少女を抱きとめた刹那と呼ばれた少女は、彼女の頭を撫でながら優しい笑みを浮かべた。
「おはよう芽瑠(める)。もうすぐでご飯出来るから、もうちょっと待っててね」
 少女は芽瑠と呼んだ少女を小さなちゃぶ台の前に座らせてキッチンに戻る。
 刹那の部屋は二人で暮らすには少々狭く感じるが、不思議と窮屈な気持ちはない。きっと、傍にいる芽瑠が癒しとなっているからだろう。
 半熟の目玉焼きを同時進行で焼いていたトーストの上に載せ、温かいコーンスープと一緒に芽瑠の前に出す。
「いっただっきまーす!」
 芽瑠は元気よく言うと早速トーストにかじりつき、幸せそうな表情を浮かべる。
 その様子を微笑ましく眺めていると、下で二人を待たせていることに気付き、急いで学校へと行く支度を済ませる。前日の夜に鞄には必要な物を詰めたし、昼は頼んでもいないのに二人組のどっちかが買って来てくれている。
 あとは着替えか、と刹那はハンガーにかけているスカートへ手を伸ばそうとして——思い出したように隣にある学ランを手に取った。
 刹那が着替え始めたことに気付いた芽瑠が、寂しそうな表情で刹那に問いかける。
「……刹那……。もうガッコー行っちゃうの?」
「うん。大丈夫よ。終わったらすぐに帰ってくるから。一緒に晩御飯の買い物に行こう」
 頭を撫でられながら言われた芽瑠は、ぱあっと表情を明るくしてこくりと大きく頷いた。
「うん! じゃあ待ってるね!」
 刹那は鞄を持って、玄関へと向かって行く。靴だなに立てかけてあった竹刀をベルトに挟んで。
「じゃあ行ってくるから、出掛ける時は戸締りを忘れないようにね」
 いってらっしゃーい! という芽瑠の声を聞きながら、刹那は部屋を出た。下にいるスキンヘッドの二人を見下ろすと、鞄を担ぐように持ち、アパートの階段を降りていく。
 来たことに気付いた二人が刹那の両脇に立つ。
「姐さん! 今日もいい天気っすね!」
「そうだな」
「姐さん! 鞄持ちましょうか!」
「自分で持つ」
「姐さん! 今日もお綺麗っす!」
「あっそ」
 二人の言葉を素っ気なく返しながら刹那は学校へと向かって行く。二人組も刹那の両脇を固めながらついて歩く。
「さて、と。今日もかったるい一日の始まりだ。気合入れて行くぞ!」
「へい!!」
 二人組が大きな声で返事をする。

 これが、不良グループの女リーダーである汐王寺刹那(しのうじせつな)の憂鬱な一日の始まりだった。


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