コメディ・ライト小説(新)

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こひこひて
日時: 2018/01/29 22:18
名前: いろはうた (ID: hYCoik1d)

恋ひ恋ひて

後も逢はむと

慰もる

心しなくは

生きてあらめやも


万葉集 巻十二 2904 作者未詳






あなたに恋い焦がれ、
またきっと会えると、
強く己を慰める気持ちなしでは、
私はどうして生きていられるだろうか。
そんなことはできない。







綺宮 紫青

綺宮家の若き当主。
金髪青紫の目の超美青年。
鬼の呪いで、どんな女性でも虜にする。
そのため、愛を知らない。
自分の思い通りにならない梢にいらだち
彼女を無理やり婚約者から引き離し、自分と婚約させる。
目的のためには手段を択ばない合理的な思考の持ち主。



水無瀬 梢

綺宮家分家筋にあたる水無瀬家、次期当主の少女。
特殊能力を買われて水無瀬家の養子となる。
婚約者である崇人と相思相愛だったが、
紫青によって無理やり引き離され、無理やり紫青と婚約させられる。
しっかりとした自我をもった少女。

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Re: こひこひて ( No.21 )
日時: 2018/05/19 22:57
名前: いろはうた (ID: Rj4O5uNk)

ちくちく胸を刺す罪悪感のようなものに苛まれながら、足早に屋敷への道を急ぐ。
胸中ではぐるぐると複雑な感情がまじりあっている。
そのせいで、反応が遅れた。

「……っ!?」

視界の端に銀光がきらめいたのをとらえた瞬間、
右腕に鋭い痛みが走った。
斬られた、のか。
一瞬の出来事であったため、とっさには状況理解ができなかった。
とっさに右腕をを左手でおさえる。
傷口からじわりと血がにじむのを感じた。
はっとして、前後左右に視界を走らせるが、
そこには怪しげな人物の姿は見当たらない。

(また、あの時の刺客……?)

しかし、それらしき人影はどれだけ探してもやはり見当たらない。
人ごみの中立ち尽くす梢は邪魔以外の何物でもなく、
梢は、また足早に歩き出した。
いつまた第二陣が来るかもわからない。
周りを歩く人々も梢の異変に気付いた様子はない。
あまりにも自然で、目立たない攻撃。
だが、梢に致命傷を負わせていない。
これは、警告だ、と、悟った。
おそらく、紫青を狙う者からの、警告。
ぐっと唇をかみしめた。
せわしなく視線を動かしてあたりを警戒しながらも歩を進める。
歩き続ける間も、傷口は痛み、斬られた袖口が濡れていくのを感じる。
やがて屋敷が見えてきたときには、安堵のあまり吐息を漏らしてしまうほどに
梢の緊張は最大限に高まっていた。

(……一度自室に戻って着替えねば。)

ちらりと、紅にそまった衣を見て、前を向く。
そして固まった。
梢が向かっていたのは綺宮家の使用人が使う裏門だ。
そこに今日も麗しい綺宮家の若き当主、紫青がいた。
こんなところにいるはずのない人だ。
まさか梢を待っていたというのか。
不機嫌そうに青紫の瞳を細めている。
咄嗟に、紫青から見えないように、右腕を隠すようにして立った。

「……今、何を隠した。」
「気のせいでは。
 それよりも少し遅くなりました。
 申し訳ありません。」

ぐっと紫青の眉間にしわが寄った。
背中に冷汗が伝った。
変なところで目ざとい男だ。

「誤魔化すな。
 見せろ。」

後ずさる間もなく、紫青が大股で歩み寄ってきて
一瞬で二人の間に距離がなくなる。
無理やり右腕を掴まれ、傷口が紫青の眼前にさらされた。

「……っ。」

傷口が引き連れて痛み、顔を歪ませてしまう。
そのせいか、紫青はぱっと手を離した。
一方の紫青は、血に染まった切り裂かれた袖を見て、無言になっていた。

「……誰にやられた。
 あの女か。」

地を這うような低い声だった。
梢は、困惑して眉尻を下げた。
油断して手傷を負ったことに紫青は怒っているのだろうか。

「い、いえ、神司家の姫君ではありません。
 少し考え事をしていたところ、道端で切りつけられました。
 申し訳、ありません。」
「そんなこと、信じられるか。
 あの女を庇っているのだろう。」

紫青の声にはいらだちが混じっていた。
それにますます委縮してしまう。
その様子を見て、紫青が舌打ちをした。

「さっさと来い。
 手当をする。」

そう言って、紫青は戸口に向かって歩き出した。
何故だかとんでもなく不機嫌そうな主をこれ以上不機嫌にさせないために
梢をそのあとを追って歩き出した。
ちらりと左手を見る。
傷口を抑えていたせいで、それは真っ赤に染まっていた。

Re: こひこひて ( No.22 )
日時: 2018/05/21 00:22
名前: いろはうた (ID: Rj4O5uNk)

紫青の部屋で二人きり、沈黙の中もくもくと手当をされた。
紫青による手当は、驚くほど普通だった。
普通というよりも、想像していた以上に手際よく止血処置が行われた。
ぼんぼんのおぼっちゃまなりの、看病のお礼なのだろうと
内心甘く見ていた己を恥じた。
紫青は、思っていたよりもずっとしっかりしている。
自分でできることは他人に任せないし、
自分でやらなくてもいいようなことまで自分でできる。
第一印象の傲慢で冷酷な若当主から、
本当の紫青の姿がずれ始めているのを認めざるを得なかった。

「切りつけられたことは、本当のようだな。」
「……。」

どうあっても神司家の姫君の仕業と考える紫青に梢は無言になった。
このかたくなな態度に何か理由があるのかもしれない。
そう思ったのだ。

「……あの姫君が、ここで私を狙った時、その刃はまっすぐ私の心の臓を狙っていました。
 それが、この傷は腕を浅くかすっているだけです。
 あの姫君はお世辞にも剣の達人とは言えません。
 それが、私に致命傷を与えることなく、手加減して切りつけるなど
 彼女にはできません。」

梢の傷は思っていた以上に浅かった。
出血がひどかったため、傷が深く見えただけだったのだ。
傷の深さは手当てをした紫青もよくわかっているはずだ。
そのせいか、紫青は口を閉ざしている。

「……おまえも妙なやつだな。
 おれが決めてかかっているのだから、
 あの女のせいだとおれに泣いて縋ればいいだろう。」
「私はそのようなことをいたしません。」

憮然としてそう言うと鼻で笑われた。
前言撤回だ。
相変わらず鼻につく嫌な男である。
だが、梢の言うことに納得して
神司家の姫君のせいで手傷を負ったわけではないと認めたようだ。

「なら、誰にやられたと。」
「……おそらく、あの時の刺客の一味かと。
 しかも、あの時とは比べ物にならないほどの手練れです。」

じくり、と右腕が痛んだ。
これではしばらくは自由に利き腕が使えない。
それを含めて相手は右腕を狙ったのだろう。
ご丁寧に、出血だけ派手にするように浅く切りつけるだけにしている。

Re: こひこひて ( No.23 )
日時: 2018/05/22 00:18
名前: いろはうた (ID: Rj4O5uNk)

「……ほう。」

対する紫青はそれだけ言うと長いまつげを伏せた。
長い指を口元にあて考え込んでいる。
絵になるその姿に、不覚にも一瞬見とれてしまった。

「まぁ、いい。
 手を打っておくから、おまえはおれの護衛にのみ専念していろ。」

紫青は頭が切れる。
彼の言うとおりにすれば、ことはうまく運ぶ。
そう思えたが、梢は、あえて首を縦に振らなかった。

「いえ、できかねます。」
「は?」

紫青はぽかんとしている。
こんな無防備な表情は初めて見たので、
梢は珍しいものを見た、と内心少し驚いていた。
命令に正面から逆らったのが、よほど意外だったのだろう。

「何と言った。」
「できかねます、と申し上げました。」

しれっとそう言うと、みるみるうちに紫青の顔が険しくなった。
鋭い刃のような視線を梢は静かに受け止めた。

「おれに逆らうというのか。」

すごんで見せられても、以前のように委縮することはない。
高圧的で突き放す言葉の裏には
梢を不器用ながらに案じる紫青の気持ちがにじんでいると気づいたからだ。

「私は、護衛役としてここにおります。
 護衛主の身の安全を確保できなくて、どうして護衛役が務まりましょうか。」
「おれの近辺の護衛のみで良いと言っている。」

紫青はいらだったように声を荒げた。
梢が手傷を負って、より動揺しているのは
紫青の方なのかもしれない、とどこか冷静に梢は思った。
自分が直接狙われるよりも、
周囲の者が傷つくのをなすすべなく見るほうが精神的にこたえるのかもしれない。
何もできないもどかしさは知っている。
だからこそ、今、紫青の言葉に逆らっているのだ。

「何を言われようとも、意思を曲げるつもりはありませんので。」
「……ほう?」

紫青の空気が変わった。
まなざしが冷たいものへと変わる。

「これほどまでに反抗的であれば、
 おまえの家のことも考え直さねばならぬようだな。」
「……。」

今度は梢が顔をしかめる番だった。
養父と養母にまで被害が及ぶのは避けたい。
紫青は頭が切れる分、相手が最も嫌がることも熟知している。
梢の最大の弱みである家のことを持ち出すほど、
紫青は余程梢に勝手な行動をしてほしくないらしい。
本当に、不器用な人だ。
ただ一言、心配だから、勝手な行動は控えてくれ、と言えばいいのに。
だが、そんなことを言われたら、紫青の正気を疑ってしまうが。

(どうあっても、守らせてもらえない、ということでしょうか。)

そう考えてはっとする。
自分は、仕事や義務、などは抜きにして、
紫青を守りたい、と考えだしている。
ほだされて、しまったというのか。

「警護に戻りますゆえ、これにて失礼いたします。
 お手当、ありがとうございました。」

袖を戻すと、素早くその場を後にする。
まるで、自分らしくない想いは振り払うかのように早足で歩く。
背中には不満げな紫青の視線が突き刺さっていた。

Re: こひこひて ( No.24 )
日時: 2018/05/28 17:20
名前: いろはうた (ID: Rj4O5uNk)

無言のままその日の護衛の任を終えて、自室へと向かう。
ふわりと金木犀の匂いが鼻孔をくすぐった。
もうそんなにも月日が流れていたのかと少し驚く。
梢は、一瞬立ち止まったが、また伏し目がちに歩き出した。


『心から愛する者がいない娘は、簡単に篭絡されてしまう。』


神司家の姫君の言葉が脳裏を反芻している。
あの時、紫青の孤独さの一端を垣間見た気がした。
紫青は好きで女性をとっかえひっかえしているわけではない。
それどころか、女性たちを誰一人として傍に置かず
皆突き放しているのだと姫君は言った。
あの言葉に嘘はないだろう。

(なら、私は……?)

紫青に対して憐憫の情を感じることもある。
孤独で不器用な人なのだということも分かった。
家の中でくつろぐこともできず、
家臣も誰一人として信用していない様子を
間近で見続けてきたからだ。
それ以上の感情を抱いているのかと自分自身に問いかけてみる。
紫青の持つ呪いに影響を受けているのかと。

(……いいえ、これは恋情ではなく、憐憫。)

紫青の境遇を哀れに思っているだけだ。
まだ何も変わっていない。
そう自分に言い聞かせながら、自室の襖を開ける。
いつもと変わらぬ、地味で殺風景な部屋。
だが、文机の上に見慣れぬものを見つけて
部屋に足を踏み入れた梢は手を伸ばした。

「これは……?」

刺客の差し金か罠かとも疑ってしまったが、違うようだ。
文となにやら金属の棒状のものが見える。

「……かんざし?」

美しい銀細工の簪だった。
決して華美なものではないが、
薄い桃色の花飾りがなんとも可愛らしいものだった。
一目で高級なものだと分かった。
誰がこんなものを、と困惑してその場に立ちすくむ。
続けて文を開くと、ふわり、とたきしめられた優美な香がの匂いが広がった。


『梢様

 貴女にきっと似合うと思って贈りました。
 もし、気に入っていただけたなら受け取っていただきたい。

 貴女が何故、綺宮家に身を寄せているのか、
 ずっと調べておりましたが
 今日ようやく知ることができました。
 寂しく、苦しい思いをさせてしまい、申し訳ありません。
 貴女を迎えに行けるよう、今、手を尽くしております。
 もう少しの間だけ、辛抱させてしまうことを許してほしい。

 離れていても、いつも貴女のことを想って。

                     崇人』


梢は静かに文を閉じると簪を手に取った。
それらを胸にぎゅうっと抱きしめる。
温かな感情が心に広がるのが分かった。
街中で偶然出会ってしまった時は、
つれない態度を取ってしまったというのに
それでも梢を想ってくれているのがわかるひたむきな文面だった。
目を閉じる。
大丈夫だ。
崇人がいる限り、揺らいだりなど、しない。

Re: こひこひて ( No.25 )
日時: 2018/05/29 08:37
名前: 銀色の気まぐれ者 ◆MMJVxNkRYU (ID: 6..SoyUU)

初めまして。感想はここでよろしいのでしょうか?こういう小説だと、よく紫青さんの立場の人が梢さんの恋人になるパターンが多いですが、(あくまで僕が見た中で、です。)僕的には崇人さんと梢さんが結ばれてほしいな、なんて・・・・。あ、自己紹介を忘れておりました。銀色の気まぐれ者と申します。非常に面白く、表現もわかりやすいです。更新楽しみに待っております。


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