コメディ・ライト小説(新)
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- こひこひて
- 日時: 2018/01/29 22:18
- 名前: いろはうた (ID: hYCoik1d)
恋ひ恋ひて
後も逢はむと
慰もる
心しなくは
生きてあらめやも
万葉集 巻十二 2904 作者未詳
あなたに恋い焦がれ、
またきっと会えると、
強く己を慰める気持ちなしでは、
私はどうして生きていられるだろうか。
そんなことはできない。
綺宮 紫青
綺宮家の若き当主。
金髪青紫の目の超美青年。
鬼の呪いで、どんな女性でも虜にする。
そのため、愛を知らない。
自分の思い通りにならない梢にいらだち
彼女を無理やり婚約者から引き離し、自分と婚約させる。
目的のためには手段を択ばない合理的な思考の持ち主。
水無瀬 梢
綺宮家分家筋にあたる水無瀬家、次期当主の少女。
特殊能力を買われて水無瀬家の養子となる。
婚約者である崇人と相思相愛だったが、
紫青によって無理やり引き離され、無理やり紫青と婚約させられる。
しっかりとした自我をもった少女。
- Re: こひこひて ( No.1 )
- 日時: 2018/01/29 22:19
- 名前: いろはうた (ID: hYCoik1d)
「本日より短期間ではございますが、
本家にてお世話になります、水無瀬家の梢にございます」
完璧な所作で低く頭を下げたというのに、返ってきたのはフンという返事だけだ。
面をあげよ、という傲岸不遜な言葉に声の主を思わず睨みつけそうになりながら顔を上げた。
目の前で足を崩し、つまらなそうに頬杖をついてこちらを眺めているのは、綺宮家の若き当主、紫青だ。
猫のように細められた切れ長の瞳は、一見漆黒に見えるが、実は濃い青紫なのだとよく見ればわかる。
同じ人間とは思えぬほど美しい金糸のような髪を風に遊ばせて、彼は唇の端をかすかにつり上げた。
それだけでぞっとするほど彼の妖艶な魅力が増した。
「世話、な。
このおれがおまえの世話になる、の間違いではないのか」
嘲るような言葉に唇をきつく噛みしめた。
ここには紫青たちのほかにも、本家の重鎮や水無瀬家の者もいる。
分家である水無瀬家は、本家である綺宮家に逆らうことなど許されない。
ここでもめ事を起こすわけにもいかないゆえに、必死に己の感情を制御する。
梢が短期間とはいえ、大嫌いな本家に身を置くことになった原因の張本人は目の前の毒々しいまでに美しい男、紫青のせいだ。
しばらく紫青様の護衛をせよ、と本家より命令が下ったのだ。
「近頃、魑魅魍魎がはびこっておりますゆえ、
このようななりでも紫青様をお守りする盾くらいにはなるかと。」
「まこと。」
「さような。」
少し離れたところに控えている本家筋の者が口々にそう言うと声を潜めて嘲り笑う。
扇の下に隠れている口元はさぞ醜く歪んでいることだろう。
まるでこちらのことを人間と思っていないような口ぶりだった。
彼らにとってはもはや畜生にも等しい存在なのだから仕方がないことだった。
梢は分家筋で、しかも、もとは平民であった。
血を尊ぶ本家筋ものには、梢の存在が許せないのだ。
しかし、目の前でこうも堂々と言われると、目の前が真っ赤になるような思いだった。
紫青は今を時めく帝の親戚筋である由緒正しき陰陽師の血を引く綺宮家の若き当主だ。
その権威にあやかろうとすり寄る者達も多い。
しかし、梢をなじるような言葉に紫青はつまらなそうに横を向いているだけだった。
その様子を少し意外に思う。
紫青も一緒になってあざ笑うのかと思っていた。
だが、本家筋の者達を諫めてはいない。
この男も味方ではないのだ、と梢は目を伏せた。
しおらしくなって伏せたのではない。
怒りで氷のようにぎらついている目を見られたくなかっただけだ。
これほどまでに分かりやすく蔑まれて平気でいられるほどおとなしい性格ではなかった。
「もうよい。下がれ。」
平坦な声がざわめく空間をぴしりと打った。
しん、沈黙が落ち、戸惑いの声が上がる。
「聞こえなかったのか。
下がれと言った。」
相も変わらずつまらなそうな声だった。
やや不満そうな気配を残しながらも、本家筋ものが部屋をぞろぞろと出ていくのが視界の端に見えた。
やはり、当主の言葉には逆らえないらしい。
「何をしているおまえもだ。
さっさと出ていけ。」
ちらりと目線をあげると、冷たい瞳と視線がかち合う。
こちらに微塵も興味を持っていない顔だった。
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