コメディ・ライト小説(新)

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こひこひて
日時: 2018/01/29 22:18
名前: いろはうた (ID: hYCoik1d)

恋ひ恋ひて

後も逢はむと

慰もる

心しなくは

生きてあらめやも


万葉集 巻十二 2904 作者未詳






あなたに恋い焦がれ、
またきっと会えると、
強く己を慰める気持ちなしでは、
私はどうして生きていられるだろうか。
そんなことはできない。







綺宮 紫青

綺宮家の若き当主。
金髪青紫の目の超美青年。
鬼の呪いで、どんな女性でも虜にする。
そのため、愛を知らない。
自分の思い通りにならない梢にいらだち
彼女を無理やり婚約者から引き離し、自分と婚約させる。
目的のためには手段を択ばない合理的な思考の持ち主。



水無瀬 梢

綺宮家分家筋にあたる水無瀬家、次期当主の少女。
特殊能力を買われて水無瀬家の養子となる。
婚約者である崇人と相思相愛だったが、
紫青によって無理やり引き離され、無理やり紫青と婚約させられる。
しっかりとした自我をもった少女。

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Re: こひこひて ( No.61 )
日時: 2019/06/15 19:44
名前: いろはうた (ID: iruYO3tg)

紫青が去って行ったあと、ふたたび静けさが訪れる。
決意を秘めた目で梢は宙に手をかざした。
部屋の隅であり何もない空間であるはずのそこには、
なにか硬い存在がある。
その強固さはまるで梢を決して外には出すまい、という
紫青の強い意思を表しているかのようだった。
梢は、このような高度な式術の知識を持っていないため
どうすれば結界を解除できるのかわからない
先程の自分の必死な言葉も、紫青には届いていない気がした。
だが、それで諦めるわけにはいかない。
伏せていた目を上げる。
梢は自分の手に冷気を帯びさせた。
そして、目には見えない透明でいて堅固な壁に触れる。
ピシピシ、と水が凍るような硬質な音が、静かな部屋に小さく響き渡った。
冷たすぎる氷に長く触れているような痛みが
指先から徐々に手のひらへと広がっていく。
しかし、梢はやめなかった。
わずかに顔をしかめながらも、意識を指先へと集中させる。
やがて現れたのは可視化できるようになった
氷の結界だった。
一枚一枚が非常に分厚い氷の壁が幾重にも張り巡らされているのが見える。
梢の脳裏では目まぐるしく思考が巡っていた。

Re: こひこひて ( No.62 )
日時: 2019/06/15 21:40
名前: いろはうた (ID: iruYO3tg)

陰陽術などろくにわからない梢には、
目の前にある結界がどういう仕組みで作られているのかはわからない。
だが以前、紫青は言っていた。
梢の氷力は非常に高度な陰陽術なのだと。
どのような効果があるのかはわからないが、
何かしらの干渉を紫青の結界術にも及ぼせるはずだ。
とりあえず凍らせて、どのくらいの結界を張られているのか
目視で確認しようと思い、氷力を使ってみたものの
予想以上に厳重な結界のはりように唇を噛みしめる。
目を伏せて、冷たく悴んだ自分の手を見つめるとしゃらり、と
耳元で涼やかな音がした。
はっとして頭に手をやると、指先に伝わるのは冷たい金属の感触。

(嵩人様……。)

置かれの穏やかな優しい笑みが脳裏をよぎる。
すっ、とかんざしを引き抜くと軽く握りしめる。
もうこのかんざしを髪に差す資格は自分にはない。
許されないことだ。
婚約者を持つ身でありながら、別の人に想いを寄せるなど。
その婚約も、無理やり紫青に解消されてしまったが。
苦い笑みを唇に浮かべつつ、かんざしを膝の上に置くと
再び手に氷力を集める。
直接、氷の壁に触れると、今まであまりやってみたことのない
既にある氷の形の変形を試みた。
こういう時、紫青がいたら、あの不思議な炎の術で
この氷ですらあっさり溶かしてしまうのだろう。
ぐっと手に力を入れなおした。
はやくこの結界を破らねば。
きっと不器用なあの人は、一人ですべてを抱え込んでしまう。
そんなことはさせない。
絶対に一人になんかしない。
一層手に意識を集中させたその時、
ズキン、と指先が痛んだ。
小さくうめいて思わず手を壁から離す。
見れば、指先があまり見たことのない紫色に変色していた。
急いで自分の吐息を指先に吹きかけてみるが
血の気は戻ってこない。
あまりにも強い氷力を集中して使いすぎたのだろう。
だが、目の前の氷の壁にも小さな変化が表れていた。
ぐしゃりと飴細工のように変形し、
わずかながら穴が開いているのだ。
これをあと数度繰り返せば、いずれは外に出ることができる。
冷たさでかじかみ、感覚の消えた指先を再び壁に向ける。

「……梢様。」

ひそやかな声が、耳朶を打ち、梢は目を見開いた。
慣れ親しんだ声。
久しく聞いていたなかった声。
だけど、ここで聞こえるはずのない声だった。

「……崇人、様……?」

かすれた声が唇から洩れた。
ゆるゆると視線を動かして、声が聞こえた方に向ける。
ありえない。
ぼやけた氷の結界の向こうに、たしかに人影が見えた。
それは間違いなく梢の婚約者だった崇人の姿だった。
どうして彼がここいいるのか。
どうやって厳重な警備をかいくぐってここにいるのか。
疑問は泉のように溢れて、嵐のように脳裏を渦巻いている。
自分は白昼夢でも見ているのだろうか。

「梢様。」

彼はもう一度ひそやかな声音で名を呼んだ。
何度瞬きをしても、その姿は消えない。

「貴女様の、お迎えに上がりました。」

Re: こひこひて ( No.63 )
日時: 2019/06/25 18:27
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: exZtdiuL)

こんばんは。

唐突なコメント、失礼します。m(_ _)m

文章がとても美しいですね!
アート要素さえ感じられるような文、うっとりします。

これからも執筆楽しんで下さい!

Re: こひこひて ( No.64 )
日時: 2019/07/14 22:03
名前: いろはうた (ID: iruYO3tg)

四季様


お久しぶりです~!
また来てくださってとても嬉しいですー!!
最近リアルが立て込みすぎてて
全くカキコに手を出せていませんでした(白目)

これからもちょくちょくは顔を出すようにするので
また是非いらしてくださいな(^○^)

コメントありがとうございました!!

Re: こひこひて ( No.65 )
日時: 2019/07/20 21:26
名前: いろはうた (ID: iruYO3tg)

梢はゆっくりと瞬きを繰り返した。

「梢様、お離れください。」

少しくぐもった柔らかい声が氷越しに聞こえる。
言われた通り、ずりずりと少し後退した。
崇人は小さく何事か呟くと、
手のひらをこちらにかざした。
ピシピシと硬い音を立てて、
氷にヒビが入っていく。
目の前の光景が信じられない。
あれだけ分厚い氷を、
手をかざしただけでヒビを入れられるだなんて。
しかも氷に覆われた結界は幾重にも張り巡らせられている。
それら全てにヒビが入り、順番にガラス細工のごとく崩れていった。
この国随一の陰陽術の使い手、紫青の結界を
いとも容易く壊したのだ。
たしかに、梢の氷に覆われたおかげで、
可視化され、具現化されている。
壊しやすいことには違いないが、それでも。

「どうして…。」

つぶやきが漏れた。
胸に宿るのは安堵でも喜びでもない。
じわりじわりと染みる焦りと恐怖だ。
帝の崩御と第二皇子の訃報が脳裏をよぎる。
どちらも紫青の堅固な陰陽術の護りがあったはずなのに、
護りを破られてしまったのだ。

「梢様。」

柔らかい声で名を呼ばれ、
ゆるゆると視線を上に上げる。
安堵の表情を浮かべた崇人がそこにいた。

「さあ、お手を。」

体がこわばる。
この人は、本当にあの崇人なのか。
いや間違いない。
こんなに柔らかく、慈しんでくれていると
わかる声音を向けてくれるのは崇人だけだ。
動けない梢の手を見て、崇人の眉根が寄せられた。

「ひどくかじかんでいる。
氷力をたくさん使われたのですね。
私が遅くなってしまったばかりに。」

崇人はこちらに近づき膝をつくと
うやうやしく梢の手を取った。
思わずぴくっと肩を震わせてしまったが
崇人の手は離れなかった。
パキッと崇人の膝の下で氷が割れる音がした。
それにすら構わないほど、
崇人は熱心に梢の顔を覗き込んでいる。

「少し痩せられてしまった。
辛い思いをされたのですね。」

痛ましげな顔を、梢はちらりと見て目をそらした。
崇人の顔をまっすぐに見ることができない。
胸の中の焦りがゆらゆらと大きくなる。
心臓が痛いほど脈打っているのが分かる。
柔らかく包み込む手に、力が少しだけ込められた。

「さあ、参りましょう、梢様。」
「……どこへ?」

かすれた声が漏れた。

「……どこへ、参るのですか。」

思っていたよりも頼りない響きが空気を打つ。
まるで幼子のようだ。

「貴女様が、傷つけらぬ所です。
 決して、傷つけられぬ所。
 貴女様が本来いるべき所です。」

それでも、辛抱強く崇人は答えてくれた。
本来いるべき所……?
分家の水無月家のところだろうか……?
いや、違う気がする。
そして、崇人の様子がやはりいつもと違うと気付く。
何かおかしい。
結界は破られた。
いつ紫青が現れ、警備の兵を呼ばれるかわからないこの状況で
崇人はゆったりと構えている。
まるで、紫青が来るのを待っているかのように。
どくん、とひときわ強く心臓が脈打つ。

「……お供、致します。」

梢は口早に答えると、よろめきながら立ち上がった。
何故だかわからないが、
一刻も早く崇人をここから立ち去らせるべきだと思った。

チリッ

突如、うなじの毛がぞわりと逆立った。


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