コメディ・ライト小説(新)
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- こひこひて
- 日時: 2018/01/29 22:18
- 名前: いろはうた (ID: hYCoik1d)
恋ひ恋ひて
後も逢はむと
慰もる
心しなくは
生きてあらめやも
万葉集 巻十二 2904 作者未詳
あなたに恋い焦がれ、
またきっと会えると、
強く己を慰める気持ちなしでは、
私はどうして生きていられるだろうか。
そんなことはできない。
綺宮 紫青
綺宮家の若き当主。
金髪青紫の目の超美青年。
鬼の呪いで、どんな女性でも虜にする。
そのため、愛を知らない。
自分の思い通りにならない梢にいらだち
彼女を無理やり婚約者から引き離し、自分と婚約させる。
目的のためには手段を択ばない合理的な思考の持ち主。
水無瀬 梢
綺宮家分家筋にあたる水無瀬家、次期当主の少女。
特殊能力を買われて水無瀬家の養子となる。
婚約者である崇人と相思相愛だったが、
紫青によって無理やり引き離され、無理やり紫青と婚約させられる。
しっかりとした自我をもった少女。
- Re: こひこひて ( No.57 )
- 日時: 2018/11/30 21:17
- 名前: いろはうた (ID: 7TaqzNYJ)
- 参照: https://mypage.syosetu.com/485123/
りあむ様!!
そうなのです!!
今までの作品があまりにも糖尿病レベルの
お砂糖どばどばの恋愛ものが多かったので
今回は、何とか砂糖加減を調節しようと悪戦苦闘しています(笑)
この間、久しぶりに過去作品読んでみたら
あっまあまの、あっっまいのだったので
パソコン前にて突っ伏しました(ちーん)
うふふふふ(´∀`*)
よくぞ気づいてくださいました……!!
そう、おかしくなってきているのは
紫青さんもですが、梢もなのです……!!
崇人さんですか……?
そんなところにまで気づいてくださるなんて
もう、さすがとしか言いようがない……!!
彼も、裏で悪戦苦闘しているのですよ(;´・ω・)
じきに、わかると思われます(にやり)
というか、りあむ様のコメントが
物語の細部まっで読み込んでくださっていることが
すごくよくわかるので
作者としては、感謝感激の涙が止まらないです(´;ω;`)
コメントありがとうございます!!
- Re: こひこひて ( No.58 )
- 日時: 2018/12/01 16:00
- 名前: いろはうた (ID: 7TaqzNYJ)
- 参照: https://mypage.syosetu.com/485123/
やがて氷の鏡は空気中に溶けるように姿を消した。
いや、梢が自らの意思で鏡を消したのだ。
そのままフラフラと立ち上がると寝具に向かって歩き出す。
力なく布団に潜り込むと、梢は目を閉じた。
しかし、どんなに目を強く閉じても呪いのように
仲睦まじそうな二人の姿が脳裏に焼き付いて消えない。
もう流れないと思ったはずの雫が目じりから零れ落ちた。
胸が擦り傷のようにひりひりと痛んだ。
時が流れていくのをひどく遅く感じる。
今の自分とひどく似た気持ちを
詠んだ歌があるのをぼんやり思い出す。
恋ひ恋ひて
後も逢はむと
慰もる
心しなくは
生きてあらめやも
あの時は、哀しい歌だと思っただけだったが、
今となっては胸が軋むほどその気持ちがよくわかる。
(苦しい……。)
寝ても覚めてもこの調子では
いつか気が触れてしまう。
(崇人様……。)
今となっては痛いほどに思い知る。
自分が、崇人に抱いていたのは恋情などではない。
こんなに苦しくてやりきれない想いを
抱いたことなど一度もない。
あの淡い思いを胸に生きていた日々が
遠い昔のことのように思えた。
自室の棚にしまった崇人からの簪のことをちらりと思い出す。
あれを付ける資格がないように思えて
しばらくの間外していたのだ。
それも正しかったのかもしれない。
梢はうっすらと開けていた目を閉じた。
結局、その夜も紫青は来てくれなかった。
- Re: こひこひて ( No.59 )
- 日時: 2018/12/02 11:29
- 名前: いろはうた (ID: 7TaqzNYJ)
- 参照: https://mypage.syosetu.com/485123/
夢を見ていた。
かざされた小さな手の甲。
これは自分の手の甲だろうか。
やわらかい日の光に透けて薄く血の流れが見える。
その光景がひどく鮮明に見え
思わず現実のことだと思いそうになったが
己の手はこれほどまでに小さくはない。
これは夢だ、と強く思った瞬間、
風が吹き荒れるように情景が変わった。
視界に映るのは鮮烈な真紅。
熱い。
体が焦げ付きそうだ。
悲鳴が、怒号が、泣き叫ぶ声が聞こえる。
あたりは火の海に包まれていた。
(これ、は……!?)
夢だと思うにはあまりにも鮮烈な光景だった。
ふわりとかざした小さな己の手を、誰かの大きな手が包んだ。
大きな手の主を見たいのに、その人は背が高くて
顔がよく見えない。
『ああ、どうしてこんなことに……!!』
その人は焦りとも悲しみとも憎しみとも取れない
悲痛なつぶやきをこぼした。
その言葉と共に、その人は歩き出す。
相手が誰なのかわからないまま、
その人に手を引かれて梢もよたよたと走り出した。
足の長いその人に追いつくには、走るしかなかったのだ。
知らないはずのその人に、妙な親近感を覚える。
ずっと傍にいたような、なつかしさが胸を満たす。
迫りくる炎は、怖かったけれどこの人は怖くなかった。
『絶対に……許さない。』
高くも低くないその声は耳に心地いいものだったが
その声は呪うように憎しみの言葉を吐いていた。
誰に向けてのものかはわからない。
握られている手は少しだけ汗ばんでいて
でも絶対に離さないとでもいうように固く握られていた。
『いつか……必ず……。』
その声音からはあふれんばかりの憎しみを感じることができるのに
梢は一抹の哀しさと寂しさを覚える。
まるで、その人が泣いているように思えたのだ。
しかし、そこで意識が上昇してきてしまう。
夢とうつつの狭間で夢に戻りたいと必死に足掻いたが
それもむなしく、梢の意識は完全に覚醒してしまった。
(寝て、しまっていたのですね……。)
ぼんやりと目を開け隣を確認する。
やはりそこには誰もいなくて
ひどく落胆している自分がいた。
続いて襖を見やると、まだ明かりは弱く、
ようやく日が昇ったばかりなのだと知る。
寝られないことに疲れ果てて、
いつの間にか寝入ってしまったのだろう。
小さく吐息を吐くとゆっくりと起き上がる。
不思議と心は昨日よりも落ち着いていた。
昨日のような仲睦まじい二人の様子でも見ない限り
もう、ひどく取り乱したりはしないだろう。
- Re: こひこひて ( No.60 )
- 日時: 2019/01/18 12:39
- 名前: いろはうた (ID: dFWeZkVZ)
そう、思っていたはずなのに。
足音が近づいてくる。
梢は体をこわばらせた。
この部屋に近づく人などただ一人しか知らない。
期待と恐怖が胸の中で入り混じる。
紫青に会いたい。
だけど、こんなに醜くみじめな姿など見られたくない。
そんな彼女の葛藤をよそに、ふすまが開いた。
数日ぶりに見る長身。
美しい金髪は薄暗いせいか少しくすんで見える。
ふわりと鼻腔をかすめる雅やかな香の匂い。
紫青だ。
梢はただ目を見開いて恋しい人の姿を視界いっぱいにとらえていた。
昨日の女性との仲睦まじそうな姿が一瞬脳裏をよぎったが
それすらも霧散してしまう。
また来てくれた。
見捨てられてなどいなかった。
安堵とともに、ずるずると深淵へと堕ちていくような感覚に陥った。
この人に、己は確かに心を奪われているのだと
絶望的なまでに思い知らされる。
かすかに震えながらも、膝をついて立ち上がろうとする前に、
一瞬で距離を詰めた紫青に強く抱きしめられた。
一瞬何が起きたかわからず体を硬くしたが、
そこが紫青の腕の中だと悟ると梢は体の力を抜き、その身を預けた。
紫青の吐息がわずかに耳に触れ、体を震わす。
彼の胸からは、穏やかな鼓動の音が聞こえた。
梢はきつく目を閉じた。
あまりにも幸福でめまいすら覚えた。
これが夢ならば、永遠に醒めないでほしいとまで思った。
うたかたの逢瀬だとしても、こうしてもう一度会いに来てくれたのが
胸が引き連れてしまいそうなほど、嬉しくて、苦しい。
梢は顔を歪めた。
こんなの、気が狂ってしまう。
いや、己は既に気が触れているのかもしれない。
もう、きっと手遅れなのだ。
しかし、そこで違和感に気付いた。
なぜ、紫青が夜ではなく昼間に来てくれたのか。
そして、紫青の体がわずかだが震えていることに気付いた。
「……何か、あったのですか……?」
ようやく我に返って、声を絞り出した。
紫青は涙など流していない。
だけど、縋りつくように抱きしめてくる彼は幼子のようで
まるで泣いているかのようにすら思えた。
さらに体を抱きしめてくる大きな手に力がこもる。
痛みすら感じるほどに強く。
紫青は何も言わない。
だけど、その手はどこにも行くな、と言われているようだった。
「私は……あなたのおそばにおります。」
梢は震えている紫青の背にそっと腕を回し、軽く触れた。
大きな背中だ。
一体どれほどの重荷をこの背にこの人は背負っているのだろう。
ゆっくりと視界が鮮明になる。
そうだ。
何をしていたんだろう。
この寂しい人を、不器用なこの人を
支え、守りたいと、少しでもその苦しみを分かち合いたいと、そう思った。
そう思っていたのにも関わらず、
それを苦しいまでの恋情で愚かにも忘れかけていた。
(私が、守りたいと……そう願ったのに。)
「どこにも行きませぬ。
私は、ここにおります。」
「……兄上が、亡くなった……。」
かすれた声が降ってきた。
その低い声は張りがなく震えていた。
「お守りしたのはおれだ。
だが、おれの陰陽術をも破り、兄上は殺されてしまった……。」
梢は帝の葬儀で少しだけ会いまみえた第二皇子のことを思い出した。
怜悧な横顔が脳裏をよぎる。
梢は彼に対してあまりいい印象はなかったが、
紫青にとっては、大切な兄だったのだ。
「おれが、殺した……。
おれのせいだ……おれが、至らないばかりに、兄上は……。」
「ち、違います……!!」
梢ははっと目を見開いて、紫青の腕の中でもがいた。
ようやく、どうして紫青がここまで取り乱しているのかわかった。
兄二人を陰陽術で守り切れなかった紫青は、自分のことを責めているのだ。
「おそばについていながら、おれは……。」
「違う!!
貴方のせいばかりでは……!!」
もがき続けて、ようやく紫青の顔が見えた。
美しいかんばせは憔悴しきっていて、
はっきりと見て取れるほどやつれていた。
うつろな目は梢を見ているようで見ていない。
「紫青!!」
ぱしっ、と乾いた音を立てて、紫青の顔を両手で包み込んだ。
少し驚いたように見開かれた青紫の瞳には
自分の顔が映って見えた。
「貴方だけが悪いのではありません。
帝が倒れ、最大限に警戒を高められてなお
第二皇子を襲撃できた刺客が上手だったということなら
どうすることもできなかったでしょう。
この国随一の陰陽師であるあなたがついてなお襲撃できたなら
もう、どうしようもなかったのです。」
「し、かし、兄上は……。」
「貴方は誰ですか?」
梢は、紫青を見つめ続けた。
帝や第二皇子に対して不敬な態度をとってしまったことはわかっている。
だが、今、大事なのは、この人だ。
「貴方は、帝や第二皇子の弟でもあります。
ですがそれ以上に貴方は、この国の第三皇子なのです。
このままでは、国が乱れます。
貴方がここで屈っしてはいけないのです。」
うつろだった目に光がじわりと戻る。
美しい宝玉のような輝きが、少しだけではあるが瞳に宿っていた。
紫青は今ひどく傷ついている。
一歩間違えば、責任を取って自害すらしてしまいそうなほどに。
そんなことはさせない。
ゆるんだ紫青の腕の中から少し抜け出すと、
梢はふわりと彼の頭を抱きしめた。
「貴方は、一人ではありません。
私がおそばにおります。
絶対に、貴方を一人なんかにしない。」
「こ、ずえ……。」
ぎこちない動きで抱きしめていた腕を外されると
顔を覗き込まれた。
顔を歪めたのちに、紫青の大きな手が頬に触れた。
暖かな感触。
壊れ物にふれるかのような優しい手つきだった。
しかし、その大きな手はすぐに離れてしまった。
ぬくもりを失いひどく寂しさを覚える。
それどころか、紫青は何かを恐れるかのように、梢から身を離した。
梢が止める間もないほどの一瞬のことだった。
「……おまえまで……失うわけにはいかぬ。」
部屋に梢一人残して、紫青は苦しげな顔で部屋を出て行った。
そして、幾重にも結界が部屋に張り巡らされていくのが分かった。
- Re: こひこひて ( No.61 )
- 日時: 2019/06/15 19:44
- 名前: いろはうた (ID: iruYO3tg)
紫青が去って行ったあと、ふたたび静けさが訪れる。
決意を秘めた目で梢は宙に手をかざした。
部屋の隅であり何もない空間であるはずのそこには、
なにか硬い存在がある。
その強固さはまるで梢を決して外には出すまい、という
紫青の強い意思を表しているかのようだった。
梢は、このような高度な式術の知識を持っていないため
どうすれば結界を解除できるのかわからない
先程の自分の必死な言葉も、紫青には届いていない気がした。
だが、それで諦めるわけにはいかない。
伏せていた目を上げる。
梢は自分の手に冷気を帯びさせた。
そして、目には見えない透明でいて堅固な壁に触れる。
ピシピシ、と水が凍るような硬質な音が、静かな部屋に小さく響き渡った。
冷たすぎる氷に長く触れているような痛みが
指先から徐々に手のひらへと広がっていく。
しかし、梢はやめなかった。
わずかに顔をしかめながらも、意識を指先へと集中させる。
やがて現れたのは可視化できるようになった
氷の結界だった。
一枚一枚が非常に分厚い氷の壁が幾重にも張り巡らされているのが見える。
梢の脳裏では目まぐるしく思考が巡っていた。
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