コメディ・ライト小説(新)
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- それでも彼らは「愛」を知る。
- 日時: 2023/03/12 23:29
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: gb3QXpQ1)
こんにちは。猫まんまステーキです。
昔、主に社会系小説の方で「おかゆ」という名前でほそぼそと活動してました。
見たことあるなって方も初めましてな方もどうぞ楽しんでくれたら嬉しいなーと思っております。
それではごゆっくりどうぞ。
分かり合えないながらも、歩み寄ろうとする「愛」の物語です。
登場人物 >>1
Episode1『勇者と魔物とそれから、』 >>2 >>4 >>5 >>7
Episode2『勇者と弟』 >>9
Episode3『勇者と侍女とあの花と、』 >>11 >>12
Episode4『絆されて、解されて』 >>13 >>14
Episode5『忘れられた神』 >>15 >>16
Episode6『かつての泣き虫だった君へ』◇ルカside◇ >>19 >>20 >>21
Episode7『その病、予測不能につき』 >>22 >>23 >>24
Episode8『臆病者の防衛線』◇ミラside◇ >>25 >>26 >>27
Episode9『その感情に名前をつけるなら』◇宮司side◇ >>28 >>29 >>32 >>33
Episode10『雇われ勇者の一日(前編)』◇宮司side◇ >>39 >>41 >>42 >>44
Episode11『雇われ勇者の一日(後編)』 >>47
Episode12『いちばんきれいなひと』 >>48
Episode13『ギフトの日』 >>49 >>52
Episode14『とある男と友のうた』 >>53 >>54 >>55 >>56
Episode15『本音と建前と照れ隠しと』 >>57
Episode16『彼らなりのコミュニケーション』 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63
Episode17『勝負の行方と宵の秘め事』 >>64 >>65 >>66
Episode18『物体クッキー』 >>67
Episode19『星降る夜に』 >>69
Episode20『焦がれて、溺れて、すくわれて、』>>70 >>71
Episode21『そしてその恋心は届かない』>>72
Episode22『私たちの世界を変えたのは』>>73
Episode23『 再会 』>>75 >>76
Episode24『すべて気づいたその先に』>>77
Episode25『空と灰と、』>>78 >>81
<新キャラ紹介>>>87
Episode26『パーティ』>>88
Episode27『勇者、シュナ』>>91 >>92
Episode28『まっすぐで、不器用で、全力な 愛すべき馬鹿』 >>94 >>95 >>96
Episode29『あなたを救うエンディングを』 >>97 >>98
Episode30『世界でいちばん、愛してる』 >>99 >>100 >>104 >>105 >>106
◇◇おしらせ◇ >>74
◆2021年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>84 ◆
◇2021年冬 小説大会 銀賞受賞しました。ありがとうございます!>>93 ◇
◆2022年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>103 ◆
◆番外編◆
-ある日の勇者と宮司- 『ケーキ×ケーキ』 >>34
-ある夜のルカとミラ- 『真夜中最前線』 >>58
◇コメントありがとうございます。執筆の励みになります♪◇
友桃さん 雪林檎さん りゅさん
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.59 )
- 日時: 2020/07/06 20:05
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「あーーー!!!!疲れた!!俺は疲れたぞ!!」
ある昼下がり、千代さんやルカ達とのどかにお菓子を食べていると勢いよく扉があき、龍司が弱音を吐きながら入ってきた。
「お疲れ様です。龍司様」
「お仕事はおわりましたかっ?」
「んなもん休憩だ!!やってられるかー!」
相変わらず子どものように駄々をこねながら千代さんが作ったパウンドケーキを食べる。
「こういう時は気分転換に限る」
にやりと笑う龍司。あぁ、なんだ嫌な予感がしそうだ。
Episode16『彼らなりのコミュニケーション』
「オツカレサマデシタ、ヘヤニモドリマス」
「どこ行くんだー?勇者」
面倒ごとに巻き込まれたくないと急いで席を立つとまるで何とでもないというように龍司に襟元を引っ張られ「ぐあっ」と変な声が出てしまった。
「ちょっと遊ぼうぜ、勇者」
「遊ばない」
「どうせ暇だろ―?遊ぼうぜ!!」
「いや暇じゃ‥剣の稽古だってしたいし」
「ならちょうどいい。剣の稽古よりもお前が普段やっている体力づくりよりももっと楽しくて有効な遊びしようぜ」
「……はぁ?」
まったくこの魔王は何をしようとしているのか。
わけがわからないという顔をしていると今度は宮司が入ってきた。
「ここにいたのか‥兄さん仕事は終わったのか?」
「気分転換にアレをやろうかと思って」
「アレって‥‥まさか、」
「さすが弟!話が早いな!」
二人の会話を聞いて察したのか千代さんは「まぁ」と楽しそうな声をあげ、ルカとミラは心なしかやる気に満ちている。
「ほう、久しぶりにアレをやるのか。楽しくなりそうだ」
いつの間にやってきたのか、穂積が近くまで来て楽しそうに口角をあげていた。
「アレをやると兄さんの仕事がさらに遅くなるじゃないですか…」
「いいだろ久しぶりにさ!ちょっとだけ!」
さっきからアレ、アレと何かわからないこちらにとってはさっぱりだ。頼むから勝手に話を進めないでくれ。
つかんでいた襟元をはなされ、呼吸がしやすくなっていることに気づく。
「ふふ、ああは言っても宮司君も本当は少し楽しみなんじゃないかしら」
確かにたしなめようとしている風にみえるがそこまで強くいってない様子を見ると宮司も「アレ」をやりたいんだとわかる。
「アレっていうのはね、そんなに大層なものではないのよ。簡単なゲームみたいな」
なんて楽しそうに話す千代さんは少しだけやる気があるように見える。
「むしろやると仕事の効率も上がる気がする!よしやるぞー!俺はやるからな!」
「はぁ‥」
こうなった龍司は絶対折れない。それは長年いた宮司だけでなく気づいたら半年近くいたあたしにもわかることだった。
そう、ここの生活に半年近くもいてしまっていたのだ。
◇◇◇
「よし、集まったな!じゃあ始めるか」
やる気満々の皆とは裏腹に無理矢理参加させられ中庭に連れてこられたあたしはため息をつくしかなかった。
「お前らは分かっているのかもしれないがあたしは今から何をやるのか知らないんだけど‥」
少し嫌味っぽく言うが龍司がお構いなしだ。
「ああ、勇者は初めてなんでしたっけ?まぁ簡単に言えば点取りゲームのようなものです」
となりにいた宮司が話す。そして龍司が銀色の球体を魔法で作り出す。
「今兄さんが作り出した銀色の浮遊している球体が的です。アレを一人三個体の回りに浮遊させます。自分以外のもっている球体を壊して最後の一人になったら勝ちというシンプルなゲームです」
「ちなみにこれは素手でも簡単に壊せるぞ!」
そういうと龍司は浮かせていた球体をチョップしてみせた。
「だから私でも簡単に壊せるの」
ニコニコと千代さんは話す。
「今回はチーム対抗戦ではなく個々で行おうと思う!最後まで残っていた奴が今日の勝者だ!」
「ほう、それは燃えるな」
「勝者には何かあるのですかっ!」
「そうだなぁ‥じゃぁ」
勝ったやつは他の奴らに好きなことを命令できる。
おそらくその場で思いついた龍司の言葉を聞いた瞬間皆の空気が変わった。
「―――ほう、何でも、ねぇ」
「えーっ!えーっ!いいんですか!龍司様!」
「何お願いしよう‥」
「まぁ、楽しみね」
驚いた、皆もう自分が勝つ前提で話を進めている。
「――――ちなみに、どこまで?」
「んあ?」
「どこまで、やってもいいですか?」
一際違う空気を纏った宮司が静かに尋ねる。
「‥それはもちろん、殺さない程度なら」
「‥‥‥それは楽しめそうだ。前言撤回はなしですからね」
満足そうににっこり笑う宮司の笑顔に含みがあるのが怖い。
「あいつらは時折、ああやって力を発散させるんだ。一種の兄弟喧嘩のようなものだな」
まるで風物詩でも見るかのようにのんきに穂積は答える。
「日ごろのうっ憤をようやく張らせますね。さて、兄さんに何をお願いしようかな」
「わかっていると思うが他の力量差は考えろよー」
静かに燃える宮司とは相反してへらへらと龍司は話す。
「球はそれぞれ三つついてるかー?格闘剣魔法なんでもありだが力量差は考えろよー」
気付いたら龍司の魔法で作った球体がそれぞれの体に三つずつまとわりついていた。
「よし、じゃあ――検討を祈るぜ」
パン!!!!!!!!!
どこからか鳴った空砲のような音が庭中を響かせた。
瞬間、目の前から奴らが消えた。
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.60 )
- 日時: 2020/07/06 20:20
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「―――っ!?」
消えた?――いや、視界の端でとらえたあいつらは素早く四方に散ったのだ。それを消えたと錯覚してしまうほど、動作が早かったのだ。
―――ザシュッッ!!!!
「どうしたの勇者!早くしないと3つとも全部なくなっちゃうよ!」
あたしの所有する球すれすれを黒い影が鋭く通過する。
気づくと屋根の上からルカとミラがあたしをにこやかに見下ろしていた。不自然に伸びた影からおそらくミラの魔法だろう。
「もうゲームは始まってるの」
「そういうこと~」
「……ルカとミラめ」
「なんだとろくさいではないか勇者よ。いつもの威勢はどうしたんだ?」
今度は後ろから穂積の声。いつのまに背後に立っていたんだ‥?
「まさか初めてだからと言い訳をするわけではないだろう?」
――あぁ、こいつは分かっていてあたしを煽るんだな。
「……上等」
剣を抜き素早く後ろへ回すが予想していたのか穂積は宙を舞うように軽々とよけた。
「安い挑発に乗る癖、やめた方がいいぞ?」
「お前がっ!先に喧嘩を売ってきたんだろうがっ――!!」
距離を詰めていくがあと一歩で届かない。
「だが俺だけでいいのか?」
「‥‥どういうことだ?」
穂積が至極楽しそうな声色で話す。
「今お前は中庭のど真ん中にいる。これ以上ないくらいの的だと俺は思うが?」
「……」
「今ここで目立つお前が一番狙われやすいと――」
途中まで言いかけたところで穂積とあたしの間に鋭い光の線ができた。
「そういうことだ。的がわかりやすくて助かる」
気が付くとにやりと笑う龍司と目が合う。
「一気に二人駆れるなぁ‥だがあまり早すぎても面白みがない」
「――久しぶりにお前のその悪人のような顔を見た」
となりにいた穂積も笑っている……だが目が笑っていない。
「――さぁ勇者、稽古をつけてやるよ」
――――『どこまで、やってもいいですか?』
――――『‥それはもちろん、殺さない程度なら』
数分前に宮司と龍司の会話を思い出す。
息抜きと話していた龍司の姿を思い出し笑いながら再び剣を持ち直した。
「手加減してやった方がいいか?」
「まさか」
ガキン――――――ッ!!!!!
中庭に鈍い音が響く。連続で出てくる龍司の攻撃は剣でさばくのに精いっぱいだった。
「どうした勇者よ!これでへばっていたらいつまでたっても俺を倒すことはできないぞっ!!」
「――っ、誰がっ!へばってるって!?」
売り言葉に買い言葉、龍司の安い挑発にも乗ってしまうがそれでもお構いなしだ。だがそうも言ってられなくなってきた。
「くっ、」
一度距離を取り体制を立て直す。魔法がそこまで使えないあたしでは圧倒的に不利だ。ここはやはり不意打ちを狙いたいところだが――。
「おらおらおらおらーっ!お前が攻撃しないのならこっちからいってもいいんだぜーっ!」
ダメだ。脳筋のアイツは次から次へと攻撃をやめない。考えている時間も奪ってしまう。
龍司が右手を勢いよく掲げる。すると光のやりが一斉に降り注いだ。
「うわぁあああぁ!?」
とっさに防御魔法を自分の回りに作り防ぐがやりのようなものは一向に止まらない。
「お前の魔法が切れるのが先か俺のやりがその防御をくずすのが先かどっちだろうな」
そこにお前の魔力が切れるという選択肢はないのか!!?
「……随分余裕なこというじゃんか‥」
「ふふん」
そのどや顔が腹立つんだよ今すぐ殴ってやりてぇ……!!!
防御魔法は固めたまま勢いよく地面をける。この際魔法の弾が割れても割れなくてもいい。
「一発殴らせろ!!!!!」
「うおっ!?」
流石にあたしが走ってきたのが予想外だったのか龍司の体制が少し崩れる。
(今だ――――!!)
一瞬防御魔法を解いて右手を強く握り龍司の顔へめがけて――、
「――なんてな」
「っ!?」
龍司が何かをつぶやいたと思った瞬間、よろけた状態のまま体の軸を回転させてそのまま回し蹴りを繰り出した。
「うっ、」
パリン―!!
とっさに受け身をとり後ろへ下がるも球体は割れてしまった。
「よっしゃまずは1つ!」
嬉しそうな龍司の声。
「剣の筋は悪くない。だがお前はたまに慎重に動く癖がある。守りに徹してばかりだといつまでたっても球体なんて割れねぇぞ?」
愉快そうな龍司の声。ああもう腹が立つ。
「攻撃は最大の防御だ。攻撃を続けていれば相手は守りに入るから攻撃はされない」
「―――ほう、いいことを聞きました」
突然風が吹いたかと思うとまるで竜巻のようそれは大きくなってあたしと龍司の間を通過した。
「だから兄貴はいつも周りを見ず先読みしない攻撃ばかりを単調的に繰り返すのですね」
いつの間にか宮司がそこに立っていた。にっこりと笑っているがその目は笑っていない。
「だいたい兄貴は派手な技、仕事しかやろうとしない。この間の仕事だって面倒、地味だとかいってすべて俺に押し付けましたよね?あれ、結構引きずっているのですが」
「ああ、そうだっけか」
「……」
宮司が左手をかざすのと龍司の右頬が切れて血が流れるのはほぼ同時だった。
「―――攻撃が最大の防御、なんでしたっけ?」
「‥‥お前」
「まあまあ。仲良く兄弟喧嘩とやらでもしましょう」
「相変わらずお前も血の気が多い。返り討ちにされて泣くなよ?」
「ご冗談を」
ああ、二人の兄弟喧嘩が静かに行われようとしている中で、あたしはただそれをじっと見ていることしかできないのだった。
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.61 )
- 日時: 2020/07/27 02:45
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「なんだかんだ言ってっ、お前も俺に似ているからっ‥!動きが単調で読める時があんだよっ‥‥っと、どれだけ一緒にいると思ってんだ!」
「……」
どんな魔法が繰り出されるのかと期待半分興味半分でみてみると意外にも格闘技が繰り広げられていた。
「しゃべってばかりだと舌がなくなっても知りませんよ?っ、……あぁ、まぁ舌がなくなれば少しはこの屋敷も静かになりますかねっ……!」
宮司が回し蹴りを繰り出し、それを両手で龍司が受け止める。鈍い音が聞こえた気がしたがどちらも平気そうだ。
「おお怖い怖い」
「……っ、」
「よっ‥と!」
あぁ技が上手く決まらなくて心底ストレスが溜まっている顔をしているなぁ‥
「今は球とか関係なくあなたに一発入れられればそれでいいです」
「まぁまぁそうカリカリすんなよぉ」
龍司が右手を宮司の球めがけて振り上げる。
「一個もーらいっ」
「はぁ?寝言は寝てから言ってくださいよ」
心底小ばかにしたような声でその右手をいなした。
「‥やっぱり一筋縄ではいかないか」
「どれだけ一緒にいたと思っているのですか」
同じセリフを、口ずさむ。
「……お?」
龍司がかすかな違和感に気づく。龍司の目線に目をやると足元から徐々にツタのようなものが巻き付いていた。
「おおー」
ツタが体の半分ほどを覆い龍司が感嘆の声を漏らす。その一瞬で宮司は目の前まで迫っていた。
「―――っ、」
バシッ――!
わずかに自由がきいた左手で宮司の手を止め、そのまま下へ叩き潰した。
「グッ―――」
予想外だったのか肺から空気が無理矢理出されそのまま突っ伏す。その拍子で宮司の球の一つが割れていた。
「……クッ、ソ兄貴……!!!」
絞り出すような声で叫ぶが龍司にはまるで通じない。
「お前も口が悪くなることなんざ久しぶりに聞いた」
けらけらと笑う龍司をよそにフーとゆっくり息を吐いて整えていた。
「詰めが甘いんだよ」
「―――それは‥っ」
パリン―――ッ
「そっくりそのまま返しますよ、兄さん――!」
宮司が右手をあげ素早く龍司の両手をツタで縛り地面に縛り付けた。そして手首を軽く曲げると黒い刃物のようなものが地面から浮かび上がり龍司の球の一つを破壊した。
「ほう。油断した」
なんていう龍司の顔は少し嬉しそうで。
自分の球が相変わらず誰かに狙われているかもしれないというのに思わず見入ってしまってあわてて自分の現状を思い出した。
◇◇◇
「いやはや。久しぶりに面白いものがみれた」
あの兄弟が仲良く喧嘩している間に屋敷の中へ避難した俺はさて、と思考を巡らせる。あのままあそこにいたらいずれ俺も巻きもまれるやもしれん。あの魔族どものやり取りは見ていて飽きないが今はそう悠長なことは言ってはおれないな。
「……ほう」
室内では感じるはずのない風を感じて立ち止まる。二人で来るとはなんともまぁ、あいつららしいではないか。
「日ごろの恨みつらみをここではたすのにはちょうどいい機会だと思うのミラ」
「それはルカだけだと思うけど‥」
「おやおやこれはこれは」
思わず口角が上がる。では俺はこの侍女たちと仲良く喧嘩でもしようではないか。
「お手柔らかにな――」
すべて言い終わる前に黒い影が鋭く伸びる。ああこれはきっと、
「無理」
ゆっくり俺を見るミラの目が鋭く光る。
「絶対一泡吹かせてやる!」
ルカも同じくやる気に満ちている。両手をかざすと俺の足元に魔法陣が浮かび上がった。昔に比べると少しは腕を上げたようだ。
「だがまぁこの程度では」
なんの腹の足しにもなりはしないな。
「チッ」
盛大な舌打ちが聞こえてくる。近くにあった調度品にひらりと乗るとそれに傷はつけられないのか一瞬二人の動きが止まった。
「遅い」
これまた近くにあった飾ってある剣を拝借しルカとミラの球体を割る。
「――っ、」
「うわっ」
ああ。愉快だ。思わず笑みがこぼれてしまう。
「――っと、」
ふと、自分の回りを回っている球体の個数が一つ足りないことに気づく。
「――ほう、なるほど」
目線の先にはにやりと笑うミラ。
「自分の回りにも球がついていること、忘れないでね」
彼女の手から放たれた鋭い影が俺の球体を壊していた。―あぁ、忘れていたよ。球体の事も、お前たちが思ったより楽しめる相手だってことも。
「作戦を立て直そう」
「えっ!?うわっ!」
そういってルカを引っ張ると自らの影を大きく広げその中へ吸い込まれるように消えていった。
「――もう少しは楽しめそうだなぁ?」
なんて、中々に楽しんでいる自分に気づきながらゆっくりと歩みを進めた。
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.62 )
- 日時: 2020/10/05 01:48
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: Z6SnwTyI)
「ふう……」
本当はもう少しだけ見たいという気持ちをおさえながら屋敷の中に入る。きっとこの中にあの兄弟以外のやつらがいるのだろうと踏んでいるが――‥、
(普段の千代さんの一体どこにあんな身体能力が‥)
龍司が合図をした瞬間に姿を消した千代さんを思い出す。普段のおっとりした千代さんからは想像できないくらいの速さであたしの前から姿を消した。やはり曲がりなりにも鬼の血を引いているのは伊達じゃないということか。
「ゆーうしゃっ」
「えっ……うわあ!?」
なんとも情けない声が出ると同時に誰かに腕を引っ張られ近くにあった部屋の中に連れ込まれる。まずい、完全に油断した。
「私達だよ!大丈夫、球は割らないよ。今はね」
「……ルカとミラか」
いたずらっぽく笑うルカに少し疑うような目線を向ける。だがあまり気にしていないようだ。先ほどやったことをさては忘れているな‥?
「ねぇ勇者、私達と共闘、しない?」
ルカの目が鋭く光る。珍しく何か悪いことを考えているようだ。
「この屋敷、それもこの近くに多分穂積がうろついていると思うの。‥穂積の球の数は2つ。私達3人が協力すればもう1つは壊せるかもしれない‥ううん、うまくいけば2つ壊してゲームオーバーにだってできる」
「穂積を‥?」
「そ。だからね、勇者、少しの間共闘しない?」
もう一度、ゆっくり同じ質問を投げかける。――嘘をついているようには見えなかった。
「穂積を倒したらまたゆっくり、戦おうよ。それまでは仲間ってことで」
ルカの目的はあくまでも穂積か。そう自分の中で納得させると大きく深呼吸をした。いいだろう、乗ってやる。
「いいよ。で、具体的に何をやればいい?」
「やりぃっ!」
「まったくルカは。穂積の事になると本当に徹底的ね」
「だってムカつくじゃん!」
ミラがくすくす笑う横でルカが反論する。相変わらず危機感を感じさせない。彼女たちが本当に危機感を感じる時はどんな時だろうとぼんやり考える。
(――と、いけない。今は集中しなきゃ)
ゲームと言えど皆と手合わせできるなんてめったにないと自分を鼓舞しながら再び意識を集中させるのだった。
◇◇◇
「――じゃあ、私が合図を送ったらルカと勇者が挟み撃ちで穂積の球を狙う、いい?」
改めて最終確認をミラから聞かされ、ルカはやる気満々にうなずいた。
「じゃあ勇者、またあとで」
「ああ」
「おっけー」
ルカとミラが影に吸い込まれる。あたしはここで穂積を静かに待っていればいい。
「……といってもミラの合図がタイミングよくいくかどうか‥」
「ほう、誰の合図が?」
「いやだからミラの合図がさぁ―――え?」
「よう勇者。夕風が気持ちいいな」
ダンッッッ―――――――!!!
勢いよく扉をあけ、距離をとる。え、こいつ、なんで?どこから――、
「見張りをするときは背後に十分気をつけることだな」
まるで風に体を預けるかのように穂積の体は軽やかだ。一気に距離を詰められる。
「―――っ、ルカ!!ミラ!!!」
「うん」
「はいはーい」
ただならぬ様子を察したのかあたしの影からミラが。天井からルカが勢いよく飛び出してくる。
「ほう、やはりすばやい」
くるりと回転した穂積と目が合う。球は二つ。
穂積が着地した瞬間を狙って彼の影からミラが勢いよく飛び出し球を割ろうと手を伸ばす。
「よっ、と」
軽やかにそれをよけ距離を取るその姿はやはり彼がただの人ではないということをわからせるには十分で。
「――っ!」
どこから持ってきたのかこの屋敷にあったであろう調度品の一つをミラの球めがけて投げつけた。
「ミラ!!」
ルカが叫ぶ。悔しそうに穂積を見つめるミラの球はあと一つになっていた。
「くっ!」
素早くルカが手をかざすとミラの足元に魔法陣が現れそのまま穂積から離れていく。
「遅い」
ミラを穂積から離すので精一杯だったルカの目の前に一瞬で現れた穂積は右手で簡単にルカの球を一つ壊した。あぁ、やはり神と名乗るだけある。案外強いのだな。
「―――っ、勇者!!」
だがまぁ、それはあくまでも二人の時に限り、ってことだが。
―――ガキン!!!!
「っ、なに!?」
「途中からあたしがいたこと少し忘れていただろ、お前」
あの後ミラが影であたしの体を引き上げ、穂積の真上で待機するような形で状況を伺っていた。ルカの球を壊した一瞬の隙、彼女はその変化を見逃さなかった。ルカが叫ぶと同時にあたしの体は、剣は、すでに穂積の球を狙っていた。
「―――やはりなかなかやるではないか」
どことなく満足そうな顔をした穂積が笑う。
「よし!穂積に一泡吹かせたところでいったん撤退!」
「これは一泡吹かせたのか……?」
満足したのか、ルカが勢いよく窓を開ける。……――窓を開ける?
「ちょっと待てルカ!!!なぜ窓をあけるんだ!?」
「なぜって‥ここから飛び降りて逃げるためだよ、勇者!」
「いやいやいや!!ここから飛び降りたら死ぬだろう普通!?」
「でも勇者、昔サクラを守るために窓から飛び降りていたじゃない」
「いやあの時とは高さも状況も全然違うから!!」
「大丈夫だよ!」
全力で拒否するあたしとは裏腹に自信満々な笑顔。
「私たちがいるから!安心して飛び降りていいよ!」
「――、」
‥て、全然解決になっていない気がするんだが!?
「それにやってみないとわからないじゃない」
「ミラは最後の良心だと思っていたのに!!お前たち魔族や吸血鬼と人間のあたしではそもそものステータスが、」
「いっせーの‥でっ!!」
「えっ、ちょっと待‥うわあぁぁぁあああああぁぁぁ!?!!??」
勢いよく手を引かれあたしの体が一直線に落ちる。――て、待って待って待って!!!!受け身を取ってないから死んじゃう!!死んじゃうって!!?
「あははははっ!ドキドキするね!ミラ、勇者!」
「うわあああああ!?」
「全然聞こえてないみたいだよ、ルカ」
「ええ~?楽しいのに」
「ルカミラ!!手を!離せ!!」
「だいじょーぶっ!」
「大丈夫なわけあるか――!」
「勇者、信じて」
ミラの黒い瞳と視線がぶつかる。ああ、そんなことを言われても何の心の準備もしていないから心臓バクバクだし心なしか地面に落ちるまでの時間が長く感じる――‥ん?長く?
「ルカがいるから‥」
ミラがそういうのとほぼ同時だった。ルカが魔法を使ってあたしたちを浮かせていたのだ。
「し、心臓に悪い……」
頼むからそういう大切なことは前もって言ってくれないか。
ふわりと地面に着地すると二人はパッと手を離した。
「……ここからは別々に分かれた方がいいかも」
「お、おう‥」
「じゃっ、また後でねんっ」
まるで嵐のように去っていった二人を見送り、ゆっくりと呼吸を繰り返す。気づいたら日はもう落ち、月が見えていた。
「いつの間に日が落ちていったんだ‥」
「本当ですね。遊びすぎるとつい時間がたつのも忘れてしまう」
後ろから声が聞こえる。誰、と聞かなくても間違えるはずがなかった。
「こんばんは勇者。今日は月が綺麗ですね」
出始めた月を見上げにっこり笑う。そんな言葉を吐くのならその物騒な殺意を出すのはやめてくれ。
「―――ああ、そうだな。宮司」
随分前に落ち着いたはずなのに、興奮して脈打つのを全身で感じていた。
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.63 )
- 日時: 2020/11/17 01:06
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: vk7qW9BI)
カキン――――ッ!!!
心地よい金属の音が響く。先ほどとは打って変わって真剣な、それでいて少し楽しそうに笑う勇者と目が合った。
「――なんだ、お前とはまだまだ先だと思っていたんだがなっ―!!」
「生憎、まだ球は残っておりまして。ほら、こうやって――」
勇者の攻撃をかわし、その腕をつかむ。
「戯言をいっていると誤ってすべての球を壊しかねません」
「‥ほざけ」
またお互い距離を取り様子を伺う。
先ほどの様子からするにルカとミラは相変わらず共闘を選んだか‥これは想定内だ。
(問題は‥)
まさか勇者も一時的とはいえその中に入っていたとは。
(これは予想外でした)
「考え事をしている余裕があるみたいだな」
相変わらず接近戦で攻めてくる勇者をかわし、魔法を発動する。
「ええ、まあそうですね。相変わらず動きが単純だなと思っていました」
「なっ‥!?」
勇者の顔に青筋が浮かび上がってきそうだ。勢いに任せて魔法で剣を作り俺の方へはなっていく。
「おや、図星だからと言ってそこまで怒らなくてもいいじゃないですか」
「だっれが!!単純単調脳筋馬鹿だっ!」
「そこまでは言っていませんよ」
本当に兄さんといい勇者といい何故こうも単細胞ばかりがいるのか‥
(本当に、)
おもしろくて、騒がしくなりましたね、この屋敷も。
ガチャン――――!!!
俺の球と、勇者の球が壊れるのは、同時だった。
勇者が剣を放った時にできた隙を狙って球を壊そうとしたらどうやら俺にも隙ができてしまっていたようで。至近距離まで来た勇者とまた目が合う。ああ、案外綺麗な目をしているのですね。
「考え事ばかりしていると隙ができるぞ。こんな風にな」
「――ええ、覚えておきます」
素早くまた距離を取ったかと思えば一目散に勇者は逃げていった。
「体制を整えなおしに行ったか、あるいは――」
「なかなか面白いものを見せてもらった」
「……チッ」
声が聞こえた方に反射して魔法を発動する。そんなのでは相手はくたばらないことは分かってはいるが。
「おお相変わらず血気盛んだねぇ。二人の時間を邪魔したことを怒っておられるようで」
「その白々しい話し方をやめたらどうです?」
「なぁ宮司。お前、勇者のこと、好――――」
「何か?」
「‥おお、怖い」
手をひらひらさせて俺に近づいてくる様子を見る限りあまり怖いと思っていないだろうこの神は。
「でも気をつけた方がいい」
静かに話す穂積の顔はなぜか迫力があって。思わずたじろぎそうになる。
「あまり深入りはしない方が貴殿のためだと思うが」
わざとらしく丁寧に話す穂積に思わず手をあげてしまいそうだ。
「今ではかろうじてどちらも絆されて良好な関係が築けている――が、そこに恋心が入ると『もしも』のときにそれが邪魔をする」
昔からこいつのすべてを見透かしたような物言いが嫌いだ。
「ま、俺はそんな二人も見てみたいとは思う。もしかしたら、なんてこともあるかもしれないしな」
先ほどから核心を突かない言い方につい攻撃する手に力がこもる。
「いずれにせよ、中途半端はどちらのためにもならんぞ」
「……うるさいですね」
「お前が、勇者のことを好いているのなら、覚悟をしたほうがいい―――」
パリン―――!!!!
穂積の球が割れる。続きを聞くことはなかった。
「……いつからそんなにおせっかいになったのですか?」
「……」
ああ、俺も対外人の事なんて言えないですね。
「俺も、あいつに絆されてしまったのやもしれん」
クツクツと穂積は笑う。
「いやあ愉快、愉快」
球が全部なくなって負けたというのに全然悔しそうな顔一つしない。
「さて。負けたものはおとなしく観覧でもするとしようじゃないか」
この戦いに飽きたのかあるいは俺との話に飽きたのか、もしくはその両方か。穂積は満足そうに笑いながら俺の前から姿を消した。
まったく、自由奔放な神が周りにいると厄介だ。
◇◇◇
「まったく!何が単純単調脳筋馬鹿愚鈍だ!!言い過ぎにもほどがあるだろう!」
イライラしながら再び屋敷の城の中をうろつく。さっき宮司とやりあった時にちらりと穂積の姿がみえた。こちら側に参加するわけでもなくただ見ているだけだったが何か含みがあるような笑いに少し怖くなった‥わけではないが。決して。ここは一度体制を立て直そうと思って一度宮司のもとから離れた。
「でも相変わらず何を考えているのかわからない‥」
「あら?何の話かしら?」
「うわぁあ!?」
突然後ろから声が聞こえて反射的に距離を取る。
「……千代さんか」
「ふふ。随分疲れているように見えるけれど‥何戦か終えた後かしら?」
余裕そうに話す千代さんの回りにはまだ球が三つふわふわと浮いていた。
「‥千代さんはまだ誰とも戦っていないのか?」
「ええ。運がいいのか悪いのか。私もちょっとは体を動かしたいと思っているのだけれど――」
そういいながら手に持っていた薙刀のようなものを振り回した。
「だから勇者ちゃん、ちょうどよかった」
にこりと笑う千代さんの角についていた鈴がチリンと鳴る。ああ、今ほどその鈴の音が怖いと思ったことはないよ。
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