コメディ・ライト小説(新)
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- それでも彼らは「愛」を知る。
- 日時: 2023/03/12 23:29
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: gb3QXpQ1)
こんにちは。猫まんまステーキです。
昔、主に社会系小説の方で「おかゆ」という名前でほそぼそと活動してました。
見たことあるなって方も初めましてな方もどうぞ楽しんでくれたら嬉しいなーと思っております。
それではごゆっくりどうぞ。
分かり合えないながらも、歩み寄ろうとする「愛」の物語です。
登場人物 >>1
Episode1『勇者と魔物とそれから、』 >>2 >>4 >>5 >>7
Episode2『勇者と弟』 >>9
Episode3『勇者と侍女とあの花と、』 >>11 >>12
Episode4『絆されて、解されて』 >>13 >>14
Episode5『忘れられた神』 >>15 >>16
Episode6『かつての泣き虫だった君へ』◇ルカside◇ >>19 >>20 >>21
Episode7『その病、予測不能につき』 >>22 >>23 >>24
Episode8『臆病者の防衛線』◇ミラside◇ >>25 >>26 >>27
Episode9『その感情に名前をつけるなら』◇宮司side◇ >>28 >>29 >>32 >>33
Episode10『雇われ勇者の一日(前編)』◇宮司side◇ >>39 >>41 >>42 >>44
Episode11『雇われ勇者の一日(後編)』 >>47
Episode12『いちばんきれいなひと』 >>48
Episode13『ギフトの日』 >>49 >>52
Episode14『とある男と友のうた』 >>53 >>54 >>55 >>56
Episode15『本音と建前と照れ隠しと』 >>57
Episode16『彼らなりのコミュニケーション』 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63
Episode17『勝負の行方と宵の秘め事』 >>64 >>65 >>66
Episode18『物体クッキー』 >>67
Episode19『星降る夜に』 >>69
Episode20『焦がれて、溺れて、すくわれて、』>>70 >>71
Episode21『そしてその恋心は届かない』>>72
Episode22『私たちの世界を変えたのは』>>73
Episode23『 再会 』>>75 >>76
Episode24『すべて気づいたその先に』>>77
Episode25『空と灰と、』>>78 >>81
<新キャラ紹介>>>87
Episode26『パーティ』>>88
Episode27『勇者、シュナ』>>91 >>92
Episode28『まっすぐで、不器用で、全力な 愛すべき馬鹿』 >>94 >>95 >>96
Episode29『あなたを救うエンディングを』 >>97 >>98
Episode30『世界でいちばん、愛してる』 >>99 >>100 >>104 >>105 >>106
◇◇おしらせ◇ >>74
◆2021年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>84 ◆
◇2021年冬 小説大会 銀賞受賞しました。ありがとうございます!>>93 ◇
◆2022年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>103 ◆
◆番外編◆
-ある日の勇者と宮司- 『ケーキ×ケーキ』 >>34
-ある夜のルカとミラ- 『真夜中最前線』 >>58
◇コメントありがとうございます。執筆の励みになります♪◇
友桃さん 雪林檎さん りゅさん
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.24 )
- 日時: 2019/11/29 01:07
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「―――まったく。最後に油断しているからこんなことになるんですよ」
「‥それは返す言葉もない‥」
ことの顛末はこうだ。
あのあと、実はまだ戦意を喪失していなかった犯人にあたしはかなり油断していた。
ナイフだけだと思っていたその思考は、左ポケットから出された拳銃により覆されることになった。
一つ目の弾は反射的によけたが二つ目は運悪くあたしを引っ張って避けさせようとしてくれていた宮司の右頬をかすめてしまった。
「そういえば、一人で避ける事だってできたのに、なんであの時あたしの腕を引っ張ったんだ?」
「‥‥あなたがとろそうに見えたからですかね?」
「なんだと?」
犯人はあとから来た守衛の人に連れていかれ、荷物は無事持ち主のところへ戻った。
持ち主からは大層感謝をされ、お礼にとこの町一番といわれているケーキまでもらうことになった。
「ケーキまでもらったぞ宮司!これホールだから皆で食べることができるな!」
「はいはい」
宮司にてきとうに受け流されながらちらりと顔を見ると、まだ頬に少し血がにじんでいた。
「‥まだ、痛むか?」
「‥‥いえ。痛いというわけでは」
「‥ごめんな。あたしが油断したばかりに」
「‥‥‥」
「あの時、反射的にでもなんでも、あたしを守ろうとしてくれたのには感謝する‥ありがとう」
「――別に。あなたにもしものことがあると千代さんたちが悲しむと思ったからです」
呆れられながら返される返事に少し嬉しさを感じながら静かに笑った。
「あ、そうだ。宮司、ちょっと頬貸してよ」
「え?何でですか‥」
そういいながらも宮司は少しかがんでくれた。
「えっ、ちょっと、勇者?」
そのまま宮司の右頬にあたしの左手のひらをのせ、呪文を唱える。
すると手から白い光がはなたれ、傷はあっという間になくなった。
「はい!せめてものお詫びだ!あたしが使える数少ない魔法なんだけどな、このくらいの傷なら簡単に治すことができ――」
ここまで話した時、自分と宮司の距離が異常に近いことに気づく。
「‥る、んだ‥これで痛くもなんともないだろ‥」
「え、えぇ‥たまには役に立つ魔法も使えるんですね」
「ひっ、一言余計なんだよお前は相変わらず!」
「おや、さっきの勇者かい」
ちょうど最後の薬草を買う店で店主に声を掛けられた。
「さっきあたしも見ていたんだよ。いやぁすごかったよ!息もぴったりでさぁ!あんたたち、恋人同士で勇者のパーティ組んでいるのかい?」
けらけらと笑う店主に顔が熱くなるのを感じた。
「「違います!!」」
同時に否定するあたしたちをみてまた更に笑う店主がうらめしい‥。
◇◇◇
「ただいまぁ」
「ただいま帰りました」
「あらあら勇者ちゃん!宮司!お帰りなさい!!ありがとう!‥なんだかとても疲れているようにみえるけれど‥」
「ええ、まぁ‥」
「ちょっといろいろあって‥」
帰った先で出迎えてくれた千代さんを見ると二人してどっと疲れが出てきた。
「‥‥あら?二人とも、荷物はそれだけ?」
「えっ?」
千代さんがあたしたちを指さす。
「あれ?」
「えっ?」
そして宮司が乾いた笑いを漏らした。
「勇者‥‥あの、荷物は‥」
「‥‥えっ?‥あっ‥あーーーーーーーー!!!!!!!!!」
そして気づいてしまった。
あたしが持っていた荷物をすべて町の薬草売り場に置いて行ってしまったことを。
「うわぁぁぁぁあ!!えっ、どうしようどうしよう!もぉぉまた町に戻らないといけないよ!!!」
「―――――‥ふっ、アハハハハハハハハハハッ!!!!!」
焦って取り乱すあたしとは対照的に肩を震わせて盛大に笑っている宮司の姿がそこにはあった。
「――――‥宮司‥?」
「ハハッ‥あー、笑いました。失礼勇者。あなたがあまりにも‥フフッ‥まったく、仕方ない人ですね」
ひとしきり笑ったあと
「そうか、だからあなたは――、」
何かを納得したような、呆れたような、顔をした。
「ほら、何やっているんですか。さっさとあの薬草売り場に戻りますよ」
「えっ!?あっ、ついていってくれるの?」
「まぁ半分は俺の監督不行き届きのようなものですしね。ここまできたんです。どうせなら最後まで付き合いますよ」
相変わらず一言余計だ。
けれど不思議と嫌な感じは、しなかった。
「‥ということで、すみません、千代さん。もう少しかかります」
「えぇ、わかったわ。気をつけてね~」
「もう一回!いってくる!‥ってちょっと宮司!早いよなんでそんな早歩きで行くんだよ!!」
どうやら宮司との買い物はまだまだ続くようだ。
あぁ、でも少しだけ
「~~~~!!」
楽しくなっている自分がいる!
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.25 )
- 日時: 2019/12/28 01:43
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
あぁ、魔王様、魔王様、龍司様。
私を助けていただきありがとうございます。
Episode8『臆病者の防衛戦』
「―――、」
目が覚めた。体の気だるい感じはもうなくなったようだ。
「(龍司様や千代様、宮司様やルカに大変迷惑を掛けてしまった。さっそく今日からまた働かなければ‥それに―――)」
頭の中に浮かんだのは勇者の顔。
薬を持ってきてくださった千代様は宮司様と勇者が町まで言って薬草を買ってきてくれたのだと説明していた。
「‥勇者にも‥お礼いわなくちゃ‥」
正直、まだ勇者の事はよくわからない。
正真正銘ただの人間である勇者は龍司様を倒しに来たと言っていた。
けど。
「(あの人は、あの時のような人間ではない‥?)」
自分でもよくわからない。
吸血鬼だと理由で忌み嫌われ、後ろ指を指され、ひっそりと暮らしてきた。
吸血鬼だからと、嫌がらせを受けていた。
それらすべてが人間によって行われていたことだった。
それが――――、
「‥だめだ。これ以上考えても答えは出ない」
頭を振って考えるのをやめた。
支度をしてはやく龍司様達のところへ行かなければ。
「――ミラ?おはよう。調子はどう?」
ノックの音と共に勇者が入ってきた。
―――噂をすればなんとやら。
「‥勇者」
勇者と二人きりになるのは気まずい。
沈黙が流れる。ちらりと勇者をみると同じように勇者も気まずそうだ。
「‥あ、」
そういえば、と思う。
「‥薬‥」
「薬?」
「そう、薬。宮司様と一緒に薬草を買いに行ってくれたって千代様が‥」
ここまで言ったところで勇者はあぁ、と納得した顔をした。
「‥‥ありがとう、勇者。おかげでだいぶ軽くなったし早く治った‥と、思う」
「‥うん‥ミラが元気になったのなら‥よかった‥」
心なしか照れている勇者を見てこちらまで照れてしまいそうになる。
あぁ、こういう時にルカや千代様なら、
「(気まずい、なんて思う前にうまく話を切り出せるのだろう)」
そこまで考えてまた悪い癖が出たと自己嫌悪する。
気を抜くといつも考えてしまう。
口下手で人見知りな自分に嫌気がさす。
「千代さんがご飯ができたから呼んでくるようにって‥食べられそうか?」
「あ‥うん、大丈夫」
「そうか。ならあたしは先に行って千代さんに伝えてくる」
「うん‥‥ありがとう、勇者」
ゆっくりと締められた扉にかすかな優しさを感じた。
「―――、」
あぁ、わからない。
私はルカのように、考えることができない。
◇◇◇
「勇者ちゃんは今日も自主練に励むの?」
「ん?‥あぁ、まぁ」
「よくもまぁ飽きずに相変わらずなことで」
「その減らず口と小ばかにしたような態度は相変わらずだな宮司」
相変わらず勇者と宮司様は言い合いをしていて仲が悪い。
―――ようにみえるけど、なんだか心なしか雰囲気が柔らかくなったような気がしてならない。
「あらあら。あの一件があって以来仲良くなっちゃって」
「「なってないです!」」
「まぁ」
千代様とルカが顔を見合わせて笑った。
「俺が手合わせしましょうか?勇者」
「‥‥別にいい」
そっぽを向いた勇者にうっすらと宮司様が笑ったのは気のせいか。
「よーし勇者!じゃあ俺と、」
「龍司もいい!今日は一人でやる!」
「そんなガキみたいにすねんなよぉ」
そうつぶやく龍司様もどこか楽しそうだ。
「ミラ?」
「えっ?」
なんてことをぼんやり考えてたからか。ルカから呼ばれたことに反応するのが遅れた。
「大丈夫?やっぱりまだ体調、治ってない?」
「いや‥うん、大丈夫だよ。ありがとうルカ」
そういって残りのご飯を掛けこむようにして食べた。
◇◇◇
「はぁーそれにしても!最初はどうなるかなーって思っていたけど‥思った以上にここに馴染んじゃっているよね勇者!」
いつものように掃除をしていると突然ルカが窓の外を見ながら話しだした。
「‥‥意外。ルカもそんなこと思うんだ」
「まぁちょっとねー。だって始めは魔王を倒す~なんて意気込んでいたらそりゃちょっとは警戒するよぉ」
なんて笑いながら話す姿にもう警戒の色はなかった。
「でもさぁ、話していてちょっと違ったというか。あぁこの子は悪い人間じゃない‥って」
「‥‥それは、わかるかも‥」
「でしょ?」
それに、とルカはつぶやく。
「案外ミラが『吸血鬼』だって言っても受け入れてくれるんじゃない?勇者なら」
ニシシと笑うルカにやっぱり気づかれているなと笑った。
「そうかもね」
楽しそうに窓の外を眺めていたルカに何を見ているのかと自分も眺めてみたが
「―――ふふっ」
そこにはあれだけ渋っていたのに結局龍司様と手合わせをして何度も負けている勇者の姿があった。
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.26 )
- 日時: 2019/12/29 01:15
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「え?勇者ですか?」
仕事がひと段落した頃、たまたま同じく休憩中だという宮司様に出会った。
「はい。宮司様は勇者のこと、今はどう思っているのかなって‥」
普段あまり表情が変わらない宮司様。ちらりと千代様から聞いた話によると私の薬を買いに行ったあの日、声を出して笑っていた、らしい。
「――まぁ、今でも魔王を倒すと抜かしているのですからあまりいい気はしませんね。今はまだ実力なんて全然ですけど」
ただ、と思い出したようにつぶやく。
「何事にも馬鹿正直に全力なところはたまに見ていて清々しい」
呆れたように笑った。
「‥‥まぁ、よくあれだけ全力でいて疲れないものなのかとも思いますけどね」
そう付け加えた。
「あのお人よしの勇者は詰めが甘い。だが阿呆ではない」
「――随分見ているんですね。勇者のこと」
「‥‥‥そうですか?まぁでも敵の事は詳しく知っておいて損はないでしょう」
まるで何でもないように話した。
「――んん?何やら面白そうな話をしているな」
「‥穂積か」
「なぁなぁ何の話をしていたんだ?ん?」
まるで新しいおもちゃを見つけた子どものような顔をして近づいてきたのは穂積だった。
「‥‥勇者の話」
「ほう?勇者」
「そう‥ねぇ、穂積は勇者の事、どう思っているの?」
ここはついでだと穂積にも聞いてみた。
やはり魔族と忘れられたとは言え神とでは感じ方も違うのかもしれない。
「んー勇者、か」
彼はかすかに笑みを浮かべながら考える――フリをした。
「そうだなぁあいつは見ていて面白い」
「おもしろい?」
「そうだ。からかいがいがある」
そういって笑う穂積の顔は少し悪人顔だ。
「相変わらず悪趣味ですねぇ」
「宮司殿には負けるがな」
「今何と?」
「おや、聞こえていましたか」
「相変わらず白々しくて図太い神だ」
時折、宮司様と穂積の中で火花が散る。
「まぁでも、見込みがある人間だ」
何の、とは聞かなかった。
なぁ?と宮司様に同意を求めていた穂積だったが「俺に聞かないでください」と一蹴されていた。
「勇者がどういう人間かなんて、お前がその目で確かめればいい」
「ぐっ‥」
流石は忘れられても神というわけか。痛い所をついてくる。
「(それができたら始めからそうしてるっつーの)」
若干むっとした顔をおさえながら二人にお礼を言い、その場を離れた。
◇◇◇
「え~?勇者ちゃん?」
「はい、千代様は勇者のことをどう思っているのかなって‥」
昼下がり、ゆったりと紅茶を飲んでいる千代様にあったので千代様にも聞いてみることにした。
「おもしろい子だとは思うわねぇ。表情がころころ変わって、私が作った食べ物をおいしそうに食べて‥だからついついいろいろなものをあげたくなっちゃう」
そう笑顔で話しながら紅茶を一口飲む。
「でっ、でも‥あの人は魔王様を‥‥龍司様を倒そうとしていて‥私たちの生活を脅かすかもしれない存在じゃないですか‥」
つい、恐れている本音を吐き出す。
「――あの子は」
そんな私の姿を見たのか千代様はぽつりと話した。
「あの子は、どこかあの人に似ている」
あの人、とはきっと龍司様の事だろう。
「温かくて、温かくて、太陽のような――時折その存在に泣きそうになるけれど」
そう話す千代様は何を思い出したのだろう。
「だから私はきっと、勇者ちゃんの事が好きなんだわ」
そう笑う千代様にあなたも龍司様と似ていますよと思ったけれど、きっとそういうことではないんだろうなとぼんやりと考えていた。
「それにあの子はあなたたちの嫌いな人間とは違うって、本当はよくわかっているんじゃなぁい?」
「ぐっ、」
またしても痛い所を突く。
サクラを守ろうとしてくれた時も
私なんかのために宮司様と薬草を買いに行ってくれた時も
体調を心配してくれた時も
全部。
本当はわかっている。
彼女は、勇者は、かつて忌み嫌い嫌がらせをしていた人間たちと違うということも。
「‥‥そうかもしれませんね」
「ミラはルカと違って慎重派なところがあるものねぇ‥まぁそこがいい所でもあるけれど」
ニコニコと千代様が笑う。
「あなたは賢い子だから、自分で答えを見つけられるわよ」
そういって作ったクッキーを一つ、頂いたのだった。
「‥ありがとう、ございます‥」
あぁ、クッキーが甘くておいしい。
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.27 )
- 日時: 2022/10/16 22:32
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: qd1P8yNT)
「―――あぁ、ミラか」
少し日も傾いてきた頃、中庭で大の字になって寝転がっている勇者に会った。
「‥‥勇者、こんなところで何しているの?」
「いやなに、少し休憩していただけだ」
「‥‥また龍司様に負けたのね」
「うぐっ‥」
そろりと顔をそらされた。思わず笑ってしまう。
「なんなんだよあいつは!!強すぎるだろう!?反則級の強さを持っているくせにまだ本気の力の半分もだしてないなんて!」
「‥でも、半分近くの力を使わせてるってすごいと思うけどなぁ」
「このままじゃ魔王を倒すことなんて一生無理だよぉ‥」
私は別にそのままでもいいのに、と思う。
「‥‥、」
――「あなたは賢い子だから、自分で答えを見つけられるわよ」
さっき千代様から言われた言葉を頭の中で反芻する。
「ねぇ、勇者」
少しだけ、声が震えているのに気付いた。
「私が、もし吸血鬼だって言ったら、勇者はどう思う?」
心臓の音がやけに大きく聞こえる。あぁ、うるさいったら。
「――‥あぁ、でも、吸血鬼って生きている人間を襲って血を吸うって思われがちだけど私は‥‥少なくとも私たちの種族はそんなこと全然なくて‥そりゃ、飲めなくはないけど、でも、血を吸わなくても全然生きていけるし、たまに死んで放置されていた人間の血をいただいたことはあったんだけど、ええっと、だから――っ、」
やけに口数が多くなり支離滅裂な言葉がうまれる。あれ?なんで私はこうも勇者に嫌われたくないと感じているんだ?
「‥‥勇者は、私を嫌いになる?」
やっと出たのは情けない言葉。私、こんなにも弱かったっけ。
「―――吸血鬼‥」
勇者はそんな私を見て何を思うのだろう。
次の言葉が来るまでの時間がやけに長く感じた。喉の奥がきゅっと閉まるのを感じる。
「―――‥ってすごい!すごいかっこいいじゃんミラ!!」
「‥‥え?」
予想とはかなり違う言葉が出たことにまたしても情けない声が出てしまう。
「正直吸血鬼なんてよくわからないけどさ、響きとかかっこいいよなー!ミラは美人だから存在感が出ると思うし」
―――『お前吸血鬼なのか!いいじゃんかっこいいな!響きとか!』
いつか昔、
彼女と同じように肯定してくれた人を思い出した。
「(龍司様‥、)」
私をここへ連れて行ってくれた人。
私を受け入れてくれた人。
――「あの子は、どこかあの人に似ている」
千代様の言葉を思い出す。
「‥‥ふふっ‥あはははっ!!!」
「えっ、あれ?ごめん、あたし何かおかしいこといったか?」
あぁ、同じだ。
千代様が言っていたこと、少しわかった気がする。
この子はあの人と似ていて、そう思えたことに可笑しくて、可笑しくて、愛おしくて、
少し涙が出た。
「(私も彼女の事が、好きだ)」
なんだかいろいろ考えていた時間がバカみたいだ。
未だに笑っている私にはてなマークを浮かべている勇者という奇妙な状況に様子を見に来た龍司様が驚いていた。
「おーい勇者もう一回やるか‥‥ってあれ?ミラどうした?えっ?なんだこの状況」
「あっ龍司!それがあたしもよくわかんないんだなぜかミラが笑っている」
「なぜかってことはねぇだろー勇者がなんか言ったから笑ってるんじゃないのか?」
「それがよくわかんないんだってば」
なんて隣で会話しているのを横で聞きながらそれにまた救われたような気がした。
「龍司君ー勇者ちゃーん‥あっミラも!そろそろ夕食にしようと思うんだけど食べるー?」
窓を開けて部屋から千代様が私たちを呼んだ。
「「食べる!!」」
同時に声をあげたのはあの二人だった。それにまた笑ってしまう。
きっと同じことを思っているのだろう。千代様もそれを見て笑っていた。
「いこ!ミラ!」
「‥‥うん」
勇者に呼ばれ私も歩きだす。
「(‥‥あぁ、)」
あぁ、
――あぁ、なんて幸せなんだろう!
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.28 )
- 日時: 2020/02/10 22:41
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
――『好きだ。あんた、名前は?』
だなんて。
想像しただけで笑ってしまいますね。
Episode9『その感情に名前をつけるなら』
「は?勇者が告白?」
「そうなんですよぉ!!もう私初めて見たから興奮しちゃって!!」
少し日が落ちてきたという頃
何やらルカや千代さんが騒がしく話しているのが気になり聞いてみたら。
「‥それはどこの世界での話ですか?」
「いやいや!ここですよ!たった今さっき!町に買い物に行った時です!」
「‥‥冗談でしょう?」
いささか信じられない話だ。
話を聞くと、勇者とルカ、ミラは千代さんに頼まれて町へ買い物に出かけたらしい。
買い物を終わって帰ろうとする勇者たちの前にある一人の少年が目の前にいた。
そこで、
「――見つけた。好きだ。あんた、名前は?」
―――と、勇者に告白をしたというのだ。
「それは他の人、というわけではなく?」
「はい、正真正銘勇者に言っていました」
「からかっていたとかでは?」
「あの顔は真剣そのものでしたねぇ」
「酔っていて正常な判断ができなかったのでは?」
「私が見たところあの少年はお酒が飲める年齢ではないでしょう」
「‥‥世の中には物好きがいるものですねぇ」
「宮司くん、勇者ちゃんが告白されたこと認めたくなさすぎよぉ」
千代さんが笑いながらたしなめる。
「‥‥それで勇者はなんて?」
「びっくりして思わず逃げて帰ってきちゃいました。きっと勇者は今頃部屋にこもっています」
「案外ウブな反応をするんですね」
だからルカ達が帰ってきたのに姿が見えないわけか、と一人で納得する。
体力だけはある破天荒娘だ。買い物に行っただけで部屋にこもっているはずがない。
「ほう、それは面白い」
どこからかぎつけたのか、胡散臭い神がまたあれよあれよとやってきた。
「なぁ、お前もそう思わないか?宮司よ」
「――俺に聞かないでください」
「おや」
まるですべてを知っているとでもいう顔が腹立たしい。
「兎に角、逃げたというのならまだ返事はしていないのだろう?まずは勇者の気持ちをきかなければな」
そう言いながらひらひらと飛ぶようにして祠や窓の枠に乗る。
「確かに、私達だけで盛り上がっても肝心の勇者がいなければ‥」
「よしそうと決まればさっそく勇者のもとへ行くぞ!お前も行くだろう、宮司」
「えっ、俺は――てちょっと!」
「善は急げという言い伝えがあるが今まさにこのことをいうのであろう!」
「おいっ、待っ―――」
「いってらっしゃーい」
半ば強引に連れられ、ルカと穂積と3人で勇者のもとへ行くことになった。
――あぁ、笑顔で手を振らないでください、千代さん。
◇◇◇
「はぁ‥‥」
「なんだ勇者よ!考え事か?」
「どぅわっ!?うわぁぁ!!?びっくりしたぁ!?」
どうやら本当にびっくりしたらしい。窓の外を上の空で眺めている勇者がそこにいて。
いつもなら気づくはずの俺たちの気配に完全に気づかないようだった。
「‥‥なんだ穂積か。びっくりしたぞ‥で、何の用だ?」
「いやぁ勇者が珍しく考え事をしていたようだから何か面白そうなこと‥失礼、大変なことが起きているのかといささか心配になったもので」
「相変わらず白々しいやつだ‥」
ジトっと穂積を見つめた後、何かをあきらめたかのようにため息を一つ吐いた。
「‥‥その様子だとルカから聞いているだろう‥」
「まぁ、そういう噂もある」
「なんだよそれ‥」
そう呆れつつもポツリポツリと話し出した。
「‥‥‥初めてだったんだ。その‥好きっていう、好意をもらうのは‥だからその、少し戸惑っている‥」
耳が少し赤くなっているのに気付いたルカが「勇者かわいいー!」と更に興奮気味で話した。
「――そもそも、その少年が勇者の事を好きになった理由に何か心当たりは?」
「それはっ――!!」
と言いかけてあげた勇者の顔が真っ赤になっていることに気づき慌てて自分が顔をそらしそうになる――前に勇者がまた顔をそらした。
「‥‥それは、あの時‥‥の、泥棒事件の‥」
泥棒事件?と聞きなれない単語に少し考えたがもしかして、と思う。
「‥‥ミラの薬草を買いに行ったあの時ですか?」
「そう!それ!!‥あの時のひったくり犯を捕まえた様子をたまたまその少年が見ていたんだ。それでその様子を見ていた少年が‥」
「‥‥なるほど、そういうことですか」
「なんでも、ひったくり犯を捕まえる姿が格好良かったと。一目ぼれだそうですよ!」
口をもごもごさせている勇者の代わりにその場にいたルカが状況を説明した。
「で、勇者はどうするか決まったのか?」
「そんな楽しそうに聞かないでくれ穂積こっちは必死なんだよ‥決まったも何も、会ってすぐの人間を好きにはなれない」
「だが恋仲になって気持ちが変わる、ということもあるだろう」
「しかし今のあたしには魔王退治がある。他事に現を抜かしている場合では‥」
「まったくそういう時に対して杓子定規頭でっかち融通が利かない」
「なぁなんでそんなに悪口のオンパレードなんだ?」
「とにかく。もう一度会って少しは話してみるといい。かつて恋愛成就の神ともいわれていた俺が言うのだから間違いない」
「‥‥それ今とってつけた言葉じゃないのか?」
こんなに生き生きとしている穂積を見たのはいつぶりだろう。完全にからかって楽しんでいる彼を横目に少し同情の目を向けた。
「ふむ、ならばこうしよう。勇者一人が嫌だというのなら俺らが一緒に行くというのはどうだ?」
――‥ちょっと待て。
「‥‥穂積?俺ら、というのは誰の事を指していますか?」
「当然ここにいる俺と宮司、それにルカだ」
「お供しますよ!勇者!」
「はぁっ!?」
何を言い出すんだこの神は!?
「俺はいきませんよ!?それにあなたと違って暇じゃない」
「まぁいいじゃないか少しくらい。こんな面白いことめったにないぞ?」
ついにみとめやがったなこの神。
「‥‥それに、お前が危惧している勇者の弱点がわかる、かも」
「‥‥」
少し揺らいだ、などと。
「‥‥‥少しだけですからね」
「よし!じゃあ明日向かうぞ!」
「おー!」
「おいあたしはまだ何も言って‥」
勇者一人をおいて会話は進み、楽しそうな穂積とルカを横目に見ていた。
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