コメディ・ライト小説(新)
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- それでも彼らは「愛」を知る。
- 日時: 2023/03/12 23:29
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: gb3QXpQ1)
こんにちは。猫まんまステーキです。
昔、主に社会系小説の方で「おかゆ」という名前でほそぼそと活動してました。
見たことあるなって方も初めましてな方もどうぞ楽しんでくれたら嬉しいなーと思っております。
それではごゆっくりどうぞ。
分かり合えないながらも、歩み寄ろうとする「愛」の物語です。
登場人物 >>1
Episode1『勇者と魔物とそれから、』 >>2 >>4 >>5 >>7
Episode2『勇者と弟』 >>9
Episode3『勇者と侍女とあの花と、』 >>11 >>12
Episode4『絆されて、解されて』 >>13 >>14
Episode5『忘れられた神』 >>15 >>16
Episode6『かつての泣き虫だった君へ』◇ルカside◇ >>19 >>20 >>21
Episode7『その病、予測不能につき』 >>22 >>23 >>24
Episode8『臆病者の防衛線』◇ミラside◇ >>25 >>26 >>27
Episode9『その感情に名前をつけるなら』◇宮司side◇ >>28 >>29 >>32 >>33
Episode10『雇われ勇者の一日(前編)』◇宮司side◇ >>39 >>41 >>42 >>44
Episode11『雇われ勇者の一日(後編)』 >>47
Episode12『いちばんきれいなひと』 >>48
Episode13『ギフトの日』 >>49 >>52
Episode14『とある男と友のうた』 >>53 >>54 >>55 >>56
Episode15『本音と建前と照れ隠しと』 >>57
Episode16『彼らなりのコミュニケーション』 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63
Episode17『勝負の行方と宵の秘め事』 >>64 >>65 >>66
Episode18『物体クッキー』 >>67
Episode19『星降る夜に』 >>69
Episode20『焦がれて、溺れて、すくわれて、』>>70 >>71
Episode21『そしてその恋心は届かない』>>72
Episode22『私たちの世界を変えたのは』>>73
Episode23『 再会 』>>75 >>76
Episode24『すべて気づいたその先に』>>77
Episode25『空と灰と、』>>78 >>81
<新キャラ紹介>>>87
Episode26『パーティ』>>88
Episode27『勇者、シュナ』>>91 >>92
Episode28『まっすぐで、不器用で、全力な 愛すべき馬鹿』 >>94 >>95 >>96
Episode29『あなたを救うエンディングを』 >>97 >>98
Episode30『世界でいちばん、愛してる』 >>99 >>100 >>104 >>105 >>106
◇◇おしらせ◇ >>74
◆2021年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>84 ◆
◇2021年冬 小説大会 銀賞受賞しました。ありがとうございます!>>93 ◇
◆2022年夏 小説大会 金賞受賞しました。ありがとうございます!>>103 ◆
◆番外編◆
-ある日の勇者と宮司- 『ケーキ×ケーキ』 >>34
-ある夜のルカとミラ- 『真夜中最前線』 >>58
◇コメントありがとうございます。執筆の励みになります♪◇
友桃さん 雪林檎さん りゅさん
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.49 )
- 日時: 2020/06/14 13:13
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
―――愛しいと、思ったことはあるか。
Episode13『ギフトの日』
「ふんふんふ~ん」
「あれ?千代さん鼻歌なんか歌って‥何かいいことでもあったんですか?」
「あら?勇者ちゃん、おはよう。今日が何の日か知らないの?」
「ん?今日‥‥?」
何かあっただろうか。誰かの誕生日だとか、記念日だとか。それならあたしが知らないのにも納得はできるが。
「ああ、今日はあの日ですね」
「あの日?」
心なしか珍しく宮司も笑っている‥――気がする。
「今日はねぇ、ギフトの日なんだよ!」
「ギフト‥?」
「勇者の住んでいたところではギフトの日、なかったの?」
続けてミラとルカが訪ねてくる。
「‥いや、初めて聞く」
「ギフトの日っていうのはね、普段大切な人や好きな人に感謝や敬愛等の気持ちを込めて贈り物を渡す日の事よ」
首をかしげていると千代さんがあたしの方にきて説明してくれた。
「素敵でしょう?」
優しく聞く千代さんの角には先日龍司があげたリボンにくくられた鈴がチリンときれいな音でなった。
「面白そうだったから俺たちもやろうってなって気づいたらずっとやってるよな!」
「たまには人間も素敵なことを考えます」
「そうやってクールぶっているけどお前もちょっと楽しみにしてるもんな」
「ちょっと、何言ってるんですか」
龍司と宮司のやり取りにこれは毎年恒例のようなものですよねぇとルカがつぶやいた。
「――ということで。はい、勇者ちゃん」
「えっ?」
千代さんから渡されたのはきれいにラッピングされたクッキーだった。
「これは‥」
「私からのプレゼントよ」
なんのためらいもなく渡されたそれを思わず落としそうになる。
「えっ、そんな、あたし‥っ!?」
「言ったでしょう?大切な人や好きな人に渡すって。だから勇者ちゃんにもあげたいの」
にこりと綺麗に笑う千代さんに飲まれそうになる――じゃなくて、
「でもあたし、何も用意してなっ――」
「だったら、用意しに行けばよいではないか」
突然後ろから肩を回され、びっくりして声の主を見ると穂積が楽しそうに口元を緩ませていた。
「いやぁしかし本当に人間は面白いことを思いつくものだ。実に興味深いねぇ。そうだ勇者、もし千代嬢に何かお返しをしたいというなら‥付き合ってやってもいいぞ?」
「そういってあなたは街へ繰り出したいだけでしょう」
気づいたら反対方向から宮司の手が伸びてきて穂積の手をやんわりとほどいてくれた。
「まぁそれも否定はしない。なんせ今日はまるで祭りのようににぎやかだからな!勇者も興味が湧いてこないか?」
「あなた一人で行けばいいでしょう‥」
「まぁまぁそんな固いこと言わずに。さぁ、勇者。準備をして千代嬢が喜びそうなプレゼントを探そうではないか」
「えぇ‥?」
「‥俺も行きます」
「宮司も?」
「ほう?宮司殿も誰かに贈り物を渡したい相手がいる、と?」
「毎年俺もこのギフトの日には参加しているだろう‥まったく、そんなに街へ繰り出したいのなら一人で行けばいいだろう」
「おお怖い。相変わらず手厳しい」
両隣で軽く口論が始まりそうな中、逃げるようにして街へ行く準備をするのだった。
◇◇◇
「わあ‥!本当だ!本当に街全体がお祭りみたいだ!」
いつもとは違った街の色に思わず驚きを隠せずに声をあげると呆れたように宮司が笑った。
「まったく、子どもですかあなたは」
「だって!こんなに変わっているとは思わなかったんだよ!」
色とりどりの旗がなびき、そこら中で音楽が流れ、踊っている者、歌を歌う者、楽しそうに話している者から愛を語る者まで様々な人がいて面白い。
空に舞った紙吹雪ですら花が咲き乱れているように感じてますます心は踊るばかりだった。
「―――綺麗だ」
「そうだろうそうだろう。俺は毎年、この時期が好きなんだ」
フードを深くかぶった穂積がいたずらっぽく笑う。
「確かにこれだけあると目移りしてしまいそうですね」
宮司ですら珍しく周りを見渡していた。
「―――そこのお姉さんたち。よかったら見ていかない?」
凛とした声だった。
「あっ、えっと―」
「ギフトの日用のプレゼント、見に来たんだろ?うちはいろんなのがそろっているからよってきなよ」
人のよさそうな笑顔で話しかけてきたあたしと同じくらいの女性がいた。
「まぁ、せっかくだし‥少しみてみるのも――、」
ふと穂積の顔見ると、静かに驚いて息をのむ音が聞こえた。
「‥穂積?」
「……ん?ああ、そうだな」
そしてまたいつもの顔に戻った。
「今日は誰に?」
「えーっと‥いつもお世話になっている、人‥かな」
「なんで曖昧?」
口にするとその関係が自分の中で曖昧になっていたのは事実だ。少し目をそらすと彼女は「ふぅん」とこれ以上話を掘り下げる気はないといった口調で隣にいた宮司にも同じように聞いた。
「そっちの色男は?」
「――‥家族にです」
「おっ素敵だねぇ」
「そっちのフードの‥あんたは?」
「……ああ、俺か」
聞かれてはっとなったのか穂積が顔をあげる。どうも先ほどからどこか上の空だ。
「俺は――まぁ、この二人の付き添いといったところだ」
「そっか。まぁゆっくり見ていきなよ。あ、そうそう!もうすぐあそこのステージで出し物が行われるんだ!あたしもちょっと参加するからよかったら見てって!」
そういって笑顔で手を振ってまた人ごみに消えた。
「‥どこかの誰かさんをみているかのようなせわしない人でしたね」
「誰の事だ?」
「おや、自覚がない」
「はあ?」
宮司が相変わらず失礼なことを言っている。いつもならここに穂積も遠慮なく入ってくるが今日は様子がおかしい。
「……穂積?」
どうやらそれは宮司も気づいていたようで、首をかしげていた。
「――おお、すまんな二人とも。何でもない」
そういう穂積の顔は少し泣きそうな顔をしていて。明らかに「何でもない」という顔ではなかった。
「……どうしたんだよ。そんな顔して、」
「そんな顔?どんな顔を――」
ワァァァァアアアアアアアア―――――‥!!
その時、店の中央で一際大きな歓声が聞こえた。
- Re: それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.50 )
- 日時: 2020/05/20 09:42
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
またまた久しぶり、雪林檎だよ(*´ω`*)
新しい小説を書きました、、、キツい
魔王と千代ちゃんのラブラブさが暑すぎて……(/ω\)
宮司のやんわりとした独占欲(かな?)にニマニマしてしまいました。
勇者ちゃんの鈍感さがまた可愛い!
更新頑張ってね !(^^)!
- Re: それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.51 )
- 日時: 2020/05/24 02:17
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
雪林檎さん>コメントありがとうございます!
そうなんですよ~~~よく気付いてくれたやったー!!!!!!って感じです今!!!宮司は多分自分の気持ちに気づいたらあまり露骨な反応はしないけど他の男が触ったり近づいたりしたらむっとしちゃうタイプなんだろうな~って思ってる‥。一方龍司と千代はお互いがお互いを好きだってわかっているから多少の事ではやきもちとか嫉妬とか湧かないだろうなぁと少し対局気味でかけたらなぁって思ってます。。。
何本も新しい話を書けるのすごいなぁ私は今の話を書くのでいっぱいいっぱいだし‥(笑)でも同じ書き手としてお互い頑張ろうねー!
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.52 )
- 日時: 2020/06/09 22:10
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
「何でしょう。中央からですかね」
宮司が顔をあげて中央の方へ眼をやった。
「――あ、」
そこには先ほどの女性が音に合わせてひらひらと踊っている姿があった。
回るたびに揺れる布地のスリット部分から見える足が何とも艶めかしく色っぽい。彼女は優雅で、それでいてとても楽しそうに踊っていた。
「きれー‥」
「これは見事ですね」
思わず言葉を失ってみているとふとそんな彼女と目が合った、気がした。
いつの間にか目が合う距離まで近づいていたらしい。にっこりとほほ笑んだその顔がまた更に彼女の魅力を引き出している。時に歌い、踊り、楽器を奏でるその姿に彼女を見ないものはいなかった。
「――――、」
となりで愛おしそうに目を細めている穂積の口が、少し動いた気がするけれど、なんといったのかよく聞き取れなかった。
「穂――、」
声を掛けようとした瞬間、歓声があがり、ステージ上では彼女が笑顔でお辞儀をしていた。
「――終わったみたいだな」
「……うん」
「見事だった。いやあ実に見事だねぇ」
「――穂積はあの人の事、知ってるの?」
「ん?いや‥――彼女には初めて会うよ」
何でもないという風に話す彼にこれ以上は何も聞けなかった。
◇◇◇
「おっ、また会ったね」
ステージ衣装から着替えた彼女はあたしたちを見つけると手を振りながらやってきた。
「なかなかの身のこなしだった。見事だったよ」
「本当?嬉しい!ありがとう!」
穂積が褒めると素直に彼女は喜んだ。
「いいものは見つかった?」
「んーん。何を渡そうか考えたらなんだかどんどん迷っちゃって‥」
「だったらあたしが紹介してあげるよ!」
彼女はあたしの手を取り広い店内を案内して回った。
「王道なのはやっぱりクッキーかなぁ。ここには何種類かあるんだけど特におすすめなのはこれ!あとはネックレスとか花とか。あぁ、お酒なんかも売れているな」
「ほう、お酒ですか」
となりで見ていた宮司が食いついた。
「あとは好きな相手とか愛する人には指輪や髪飾り、ブローチを贈る人なんかもいるな‥」
「――‥これは?」
ふと、穂積が一つのブローチを手に取った。
「あぁ、それ、あたしが作ったんだ」
すこし照れ臭そうに彼女は笑う。穂積の手にはサクラをモチーフにしたであろうブローチがあった。
「サクラっていうんだけど‥この辺りじゃあまり見かけないかな。とても綺麗な花が咲くんだ。あたし、その花が大好きでさ。その花をモチーフにしたんだけど‥」
「あぁ‥、知っている」
ブローチを光に照らして愛おしいものを見るかのようにつぶやいた。
「いいな。これ」
「本当!?嬉しい!えっと‥」
彼女が名前を呼ぼうとしてまだお互い名乗っていないことに気づく。
「――穂積だ」
「ほづみ‥?」
一瞬きょとんとした顔をした後、「いい名前だね」と彼女はつぶやいた。
「そっちは?」
「シュナ!」
「‥宮司です」
「あたしはアンナ。ここで店員兼踊り子をやってる」
一通り自己紹介が終わると遠くでアンナを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、ちょっと行ってくるね!まだいるようならまた話そうよ!それまで好きに見てって!」
「うん。そうする」
あたしたちがうなずくと嬉しそうにその場を離れていった。
「――――さすがに『なんでもない』はもう通用しないと思いますよ」
「……」
アンナがいなくなった後、ぽつりと宮司がつぶやいた。
「アンナと過去に何かあったのか?」
「――別に何もない」
「あそこまで不自然で何もないはないでしょう‥まぁあなたが言いたくないのなら無理に詮索はしませんが」
「‥過去の友人に、少し似ているというだけの話だ」
「過去の友人ってあのサクラの人?」
「よく覚えているな‥そうだ。そいつに似ているが所謂“人違い”というやつだ」
そこまで言って彼はアンナを見つめた。
「なぁ、勇者と宮司よ。お前たちは『愛』について考えたことがあるか?」
「あい‥?」
「何を急に」
「俺はな、どこかで生きていてほしいと願うことが、俺の、俺自身の愛のかたちだと思う」
そして穂積は何かを決意したように一呼吸おいて話す。
「あいつは、かつての友だった人間だ」
- それでも彼らは「愛」を知る。 ( No.53 )
- 日時: 2020/06/22 20:58
- 名前: 猫まんまステーキ (ID: m9ehVpjx)
哀れなおとこの話をしよう。あまりにも皮肉で、滑稽な話だ。
Episode14『とある男と友のうた』
かつてその村のはずれには神がいた。
その神は子宝の神やら豊作の神やら恋愛の神やら―‥あぁ、病が治るようにと願っている奴もいたもんだ。
とにかくその神は人々から毎日祈願され、供物が置かれ、大切にされていた。
―――だがそれは、かつての話だ。
村は次第に廃れ、それを表すかのようにその男の祠も廃れ、供物を置く者も祈願する者も誰もいなくなってしまった。
それでも男は動じなかった。
祠の目の前には名も知らない綺麗な花が咲き、男はその花が咲くのを楽しみに毎日のらりくらりと過ごしていた。
男は人間が好きだった。いつも変わる様々な姿は見ていて飽きない。
だから、まぁ、その人間が毎日見れなくなるというのは、少しだけ寂しさを感じてしまうのだが。
不老ではあるが不死ではない男は、人から忘れられた時、自分もまた死んでしまうとぼんやりと理解はしていたが恐怖を感じることもなかった。
そんなある日。
「――よぉ、そこの若ぇ兄ちゃん。ちょっと話し相手になってくれないか」
「……はぁ?」
一人の人間が現れた。
「……っと、なんだ、お前なんだか独特な空気を纏っているな」
「当たり前だ。俺はこの祠の主だ」
「というとお前は神か何かか?」
「そうだ」
「アッハッハッハ!!おもしれぇ!」
その男は大口を開けて笑う。久しぶりに会う人間だというのに嬉しさよりも戸惑いが勝った。
「何の神だ」
「‥‥さぁな。人間たちからは子宝とか家内安全だとか‥恋愛成就や豊作、病状回復なんかも願われた。だが今は忘れ去られた概念だけの存在だ」
「ほう、なかなか面白い。では神よ、ここで一つ俺の話を聞いてくれないか」
「―――まぁ聞くだけならきいてやる」
「ところでお前、名前はあるのか」
「……穂積」
「ほづみ?」
「そうだ。稲穂が積めるほどの豊作を、という願いを込めた人間が勝手にそう名付けた。恩恵が施されますように、だそうだ」
「なんだか随分他人事のように話すんだなぁ」
「所詮人間が付けた名前だ。呼び名などどうでもよい」
「そういうものなのか」
「ああ、そうだとも。‥―俺の方こそ知りたい。なぜおまえはこうも俺に話しかける?」
「そこにお前がいたからさ」
「普通の人間には俺の事が見えない。もし見えたとしても俺を恐れ、畏怖の念すら抱く。とても話しかけようと思わないだろう」
「さあ、なんでだろうなぁ‥俺はただ、話し相手が欲しかっただけだ」
「さてはお前、ただの人間ではないな?」
「神にそう言ってもらえるなんて光栄だ。だがしかし残念ながら俺はただの人間だよ‥じゃあ少しだけ‘名も知らぬただの人間’の話に付き合ってくれよ」
男は祠の横にゆっくり腰掛け、ぽつりぽつりと話し出した。
「‥‥‥‥流行り病だった」
「……」
「妻と、子どもがいたんだ。愛していたんだ。だが村でな、病が流行って‥あっけなく死んでったよ」
「……」
「薬があればもしかしたら、なんて今でも考えてしまう」
「だが薬はなかったのだろう?」
「そうだな。うん、そうだ」
「俺のところにも毎日祈る者がいた。そいつもきっとその病とやらで死んでったのだろうが」
「病で人が次々と死んでいき、村からも人が離れ、あの村は時期になくなるだろう」
「――お前は?」
「俺は‥そうだなぁ、どうしようか。だが未だにあいつらが居た空間が愛おしくて、時間が愛おしくて、日々が愛おしくて、離れられない」
「……理解ができんな。俺は今まで何かに対して人間のいう『愛しい』という感情を抱いたことがない」
「それは寂しいなぁ。そんなお前の生き方も一興だとは思うが――つまらないとおもったことはないのか」
「ないな。毎日多種多様な人間の姿をみるのは楽しかった。強いてあげるなら人間は嫌いではない。むしろ好きだ。だが『愛おしい』と感じたことはない」
「それはおもしろい。愛を知らない神が恋愛成就も担っていたなんてな」
それが面白かったのか男は少し笑った。
それからその男は毎日のように現れた。
ある時は村で見つけた犬の話、またある時は村人の話をしていたその姿は見ていて飽きない。
音楽が好きだと話すその男は様々な楽器を持ってきては神に聞かせ、自らも歌って楽しんでいた。
「なぁ穂積よ。お前はサクラが好きなのか?」
ある日いつものように男が歌う歌に耳を傾けているとそんなことを口にした。
「――――‥サクラ?」
聞きなれない単語を口にすると男はああ、と指をさす。
「サクラ―――‥目の前にあるその木のことだ。なんだお前、知らないのか」
「‥知らない。気づいたらこの木は、この花はあった。名前も知らないし人間たちも口にしているのを見たことがない。ただ‥この花を見ている時の人間の顔はなかなか面白かった」
思わず足を止め、上を見上げ、はっと息をのむ。
その花に見とれている姿に自分の事を褒められているような気がして気分が良かった。まるで自分のものかのように感じたそれはいつの間にかその神の中で存在が大きくなっていたことも事実だ。
「その木を見ているお前の顔が、愛おしいものを見るかのような目をしていた」
「俺が……?」
「ああ。気づかなかったのか?」
男がいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「サクラ……、」
口にするとなぜか急に胸のあたりがじんわりと温かくなって、もう一度花を見上げる。
「サクラ、というのだな。この花は」
「そうだ。この時期に咲く、花だ。妻や子がこの花が好きだった。気づいたら俺も好きになっていた」
「……俺もこの花が好きだ」
花びらが舞い、他愛もない話を隣で聞きながら、男が奏でる楽器に耳を傾ける。
気づいたら友となっていたその関係に心地よさを感じながら、月日が流れた。
それはあまりにも幸福な時間だった。
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