ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- Gray Wolf 第2章
- 日時: 2011/04/04 11:55
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』
ただひたすらに雫を降らす闇の雲。
その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。
その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。
その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。
女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。
もう、死んでいる。
視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。
何故。
何故なんだ。
何故こんなにも冷たい。
何故死んだ。
何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。
少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。
「ちくしょお‥‥‥」
はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。
《作者コメント》 4月4日
pixivに登録して自分が描いたキャラクター絵がやっと載せられるようになった・・・・・・アナログだけど。
それから知っている方は知っていますが、グレウルはしばらくすると複雑ファジーに移動しています。
それがいつかは私も知りません。
今後とも、よろしくお願いします。
《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。
《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様から>>5を参考にキャラ画像を募集し続けます。
アキラ様より…シエラの絵>>79
作者の描いたキャラクター達>>133
キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>5
キャラクター紹介・二 >>132
グレウル用語集 >>12
《目次》
〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>39
【第2章:姫守りし騎士】 >>82
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- Re: Gray Wolf ( No.13 )
- 日時: 2010/11/07 17:04
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第 誕
8 生
話 日
水色のシーツのベッド。
その上で、白い掛け布団を身体に掛けて横たわるシエラがいる。
カーテンの隙間から差し込んだ光が閉じた瞼へ当たり、目を覚ます。
胴を起き上がらせ、そばに立てかけてあったシューズを履き、奥の壁へと向かう。
そこに掛けてあったカレンダーの第二月曜日である5月3日に丸印を付けた。
4日、5日と日にちを追っていき、金曜日、5月7日に目をやる。
そして浮かべたその笑みは、何かを楽しみに待つようで、鼻歌を歌いながらクローゼットへと向かった。
誕生日が来るのだ———————
シエラの、誕生日が——————
ハイスクールの中等部校舎へと向かい、階段を昇る。
そして、教室の扉を開くと気付いたリンが恒例のスキンシップをしてきた。
「シーエラちゃん!! おはよぉー!!」
「きゃっ! リンちゃんやめてよ‥‥‥」
いつもながらその勢いが強く、リンに見事に振り回される。
クラスの者達はその光景をいつもの事の様に捉えていて、最早日課と化している。
授業中のときも、お昼休みのときも、「誕生日」という単語が頭の中を駆け巡る。
だが、やがて次第にユーリの顔と名前が浮かび、その度に赤くなる。
更にはその赤面した顔をクラスメートに指摘され、耳まで赤くなってしまう。
今年の誕生日は両親が仕事の都合によりどうしても家に居ることができないらしい。
そのため、シエラと妹のアリスで誕生日会を開くこととなった。
が、今回はユーリが居るのだ。
親が居ないのは少し心残りだが、それでもユーリが居るだけで満足に近い。
ユーリは誕生日プレゼントを買ってくれるのだろうかと言う考えが終に頭を支配し、帰り道を別方向に進む。
『誕生日プレゼント? 女の子のなら当然用意してるって!!!』
とユーリが言いそうな気がする。
だが、それは流石に自意識過剰だと赤面しながら考えを否定した。
スイーツショップ「プリズム」——————
それがユーリの家だった。
というより2階と1階が外の階段でつながっているだけで干渉などは無く、1階はそのお店。
2階はそこの店主兼パティシエールの人から譲り受けてもらい、ユーリが一人暮らししている。
シエラは木製の階段を軋む音を聴きながらゆっくり上がる。
扉の前にたどり着き、その直ぐ横につけてあるインターホンのボタンを押す。
だが、出てくる気配も、スピーカーからノイズ交じりの声が聞こえるわけでもない。
留守なのだろうか———————————
諦めて帰ろうとしたが、その先の忙しい足音が聞こえ、モーションを止めた。
まさか、と思ったとおり、その足音の正体はユーリ。
「あれ、シエラ? どうしたんだい?」
「え、あ、あの、実は————————」
訊いてきておいて耳すら貸さずにユーリは素早く鍵を開け、ドアの中の闇へ吸い込まれていく。
そして少し経った後にまたバタバタと足音が近づき、扉が開いた。
「ごめんな! 今すげー忙しい時期でさ、デートならまた今度!!」
「ち、違うよ!!? そうじゃなくて——————」
また言い終わる前に走り去って行った。
階段の方へ歩き、その階段を降りて道の真ん中を駆けているユーリをシエラは呆然と見つめた。
何を期待していたんだろう——————————
心の中で込みあがっていた何かが一気に静まり、シエラはただそこで俯くだけであった。
誕
生
日
終
- Re: Gray Wolf ( No.14 )
- 日時: 2010/11/07 17:09
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第 9
5 月 7 日
話 の
不
運
とうとう迎えた5月7日。
だが、それにあまり喜びを感じないシエラは教室でクラスメートからの祝福を受けた。
結局今日までユーリとは一切会わず、電話をしても繋がらない。
無論メールをしたところで帰ってくるわけも無い。
自分は何か嫌われているのだろうか、という考えが頭に浮かんできた。
これだけ無視に近い事をされればそう思うだろう。
だが、ユーリに限ってそんな事があるのだろうか?、という考えも同時に浮かぶ。
ユーリは誰もが認める女好き、それなのに女性を無視するなどあるのか。
増してや幼馴染だというのにそんな事があるはずが無い。
だが現に自分は一度もユーリと言葉を交わしていない。
ユーリの気持ちが分からない。
シエラはユーリが何を考えているのか分からず、考え込む。
夜、妹のアリスに連れられ、シエラは大通りへと行く。
アリスはシエラを服屋へと連れて行き、シエラに合う服を選んでいる。
途中シエラの顔を何度か見たが、まったく笑いを見せる様子が無い。
否、確かに服を見せては笑ってはいるのだが、それは心底から笑っている物ではない。
そして選んだのは膝が見えるまで短い、胸より上の部分が露出した薄橙のドレスだった。
帰り道、アリスは何度もシエラに話しかけた。
だが、シエラの元気は戻る気配が無い。
「すごい似合うよ! お姉ちゃん!」
「うん‥‥‥」
「それならユーリさんも喜んでくれるね!」
最後の言葉にだけ、シエラは反応を見せた。
だが、無気力にまた俯く。
「喜ばないよ‥‥‥ユーリは…」
アリスが何か言葉を発しようとしたが、背後に何かを感じる。
振り向くと、人とは思えないほどの巨体。
否、人ですらない。
前にユーリに教えてもらった、多遺伝子生命体。 キメラ。
体毛が茶色く、かなり張った大胸筋、硬い感触がするであろう鬣。
ライオンのような顔つきをしているのに、ゴリラに見える胴体。
周りからは人々の悲鳴が聞こえる。
両親は居ない。
ユーリにも断られた。
更には、自らの命まで危険にさらされる。
生まれて一番の、運の無い誕生日だった。
5 月 7 日 の 不 運
終
- Re: Gray Wolf ( No.15 )
- 日時: 2010/11/07 17:15
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
10 プ レ ゼ ン ト
話
暗闇の大通りの中をシエラはアリスを引いて必死に駆け抜けた。
後ろからは妙な大型の獣が追いかけてくる。
前屈みの体勢で追いかけており、ちょっとスピードを緩めれば距離は縮まるだろう。
このままではアリスが巻き添えになるだろう。
だが何処に逃げ道があるのか。
ユーリなら迷わず戦い、倒すのかもしれない。
だがそんな戦闘能力も無いシエラに戦う事は無理だ。
————————どうすれば—————
シエラは先に見えた十字路を右折し、そのすぐ傍にあった建物と建物の隙間にアリスを多少乱暴だが身を隠させる。
「ここに隠れてて!!!」
「え‥‥‥ちょっと待ってお姉ちゃん!!!」
その言葉を聞き、シエラはまた走り出した。
当然先程の曲がり角からあの妙な獣が追いかける。
だが幸いにもアリスに気づくことなく、真っ直ぐ進んだ。
非常階段だろうか、金属質の階段が一軒の建物についている。
恐らく10階を祐に超しているであろう。
しかしそんな事など考えている余裕もなかったシエラはすぐにその非常階段を昇る。
ガンガンと金属を叩く音を響かせながらシエラは1階、2階を昇っていった。
巨大なキメラは律儀に階段は昇らず、手すりや床を使ってよじ登っていく。
無論その方が早いが、追いつかれるより先に何とか屋上まで辿り着くことができた。
‥‥‥‥‥‥‥
そこでシエラが悩んだのは、この後のことを考えていなかったことだ。
前には高い位置から見える空、後ろには巨大な化け物。
逃げ場など無い。 あるのは死へ近づく恐怖だけ。
食わんとばかりに巨大な口を開けるその獣はシエラの元へ掛けていく。
咄嗟に走り出したシエラは建物の縁まで走り出した。
自分が今いる場所を忘れて。
気づいたときにはもう遅い。
止まろうとして踏み込もうと前に出した足が縁の段差に引っ掛かり、勢いよく闇の中へ飛び込む。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
空を見上げながら下へ下へ落ちていく。
その叫び声も虚しく、空へ消え去った———————————————
————————————————事はなかった。
月の光に照らされ、黒い影がビルの屋上を高速で伝っている。
そして17階建てのビルへと飛び移り、後姿のキメラの頭上へ跳躍する。
頭を思いっきり踏み潰し、それを使って更に跳躍し、同じく遥下にある地面へと飛び降りた。
落ちていくシエラよりも早く落ちる人影は左腕で彼女を抱え、その左手で持っていた棒のような物から更に棒のような物を取り出す。
その取り出した棒は月明かりによって反射し、発光する、刃だった。
右手で持ったその刃をビルの側面へ振り下ろし、一気に削っている。
勢いは収まっていき、やがて止まる。
最初はあまりに突然の出来事で状況が分からなかったシエラも、徐々に顔を上げる。
地で立っているボサボサな金髪、見たことのある顔つき。
影の主は壁に刺した棒を鉄棒のように使い、逆上がりの勢いで壁に足をつける。
そして棒の正体である刀を引き抜き、壁を蹴って低い位置から地面へ飛び降り、シエラをおろす。
その正体、ユーリはいつものコートとは違う、外套にも似たスーツを着ている。
ユーリはシエラに後姿を見せながら口を開く。
それと同時に巨大な獣が上から飛び降りてきた。
「お待たせ、お姫様。 お迎えにあがりました!」
言い慣れた風な口調で敬語を使い、ユーリは刀を鞘を納める。
獣が走り出すと同時にユーリも駆け出す。
前に突き出した拳を屈んでかわし、上から鉄の装甲がしてあるグローブでアッパーを突き上げる。
流石に効いたのか、怯んで動きを遅くした。
そして腕を掴み、キメラを力一杯に振り回し、投げ飛ばす。
高く宙に浮いた体へ駆け、跳躍し、右足で蹴り飛ばす。
その影響で気絶したのか、ゴミ捨て場へ吹っ飛ばされた獣は動かなくなった。
シエラの家、豪華な食材が並ばれたテーブルがあるリビングでシエラはユーリの話を聞く。
「ええ!! サプライズ!!!?」
「そ、本当はこんなはずじゃなかったんだけどねぇ」
話によるとユーリとアリスが考案した物で、ユーリが今まで顔を合わせなかったのはじっくり誕生日プレゼントを買うためらしい。
そのための休みを作るために、依頼の予約をたくさん受付け、忙しかったのだ。
そしてドレス姿のシエラを後ろからスーツ姿のユーリが抱く————————の筈だった。
思いがけないアクシデント。
彼より先にキメラの方が後ろから接近してしまったらしい。
「あんな通行人(エキストラ)なんて呼んだ覚えが無いんだけどなー」
溜息を混じらせ、ユーリは俯く。
だが、すぐに顔を上げ、シエラの目の前まで顔を迫らせた。
「はいこれ」
という言葉と同時に、ユーリはポケットから赤いリボンに結ばれた箱をシエラに差し出す。
その中をゆっくり開けると、柔らかなクッションにおかれた銀色の腕輪がある。
シエラはそれをジッと見つめる。
その様子を楽しそうに見ていたユーリとアリスは更にクラッカーを取り出し、天井へ打ち上げる。
乾いた音が響き渡り、その音に我を取り戻したシエラに二人は口をそろえて言い放った。
「ハッピーバースデイ!!!!!!」
プ
レ
ゼ
ン
ト
終
- Re: Gray Wolf ( No.16 )
- 日時: 2010/11/08 17:40
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: ( ´・ω・`)<いや、呼んでないつーか
第 1 1 話 転 校 生
ハイスクール中等部————
シエラはユーリに買って貰った腕輪を右手首につけ、それを見る度微笑んでいる。
余程嬉しいのだろう。 理由がユーリから貰った物だからか、単に嬉しいだけかは分からない。
「はいはーい、皆さん席着いてー。 ホームルーム始めますよー」
スライドのドアが床をする音を出すと同時に担任教師の声が聞こえる。
その声に反応し、咄嗟に姿勢を直す。
「…それではまず皆さんに報告です。 転校生がやってくることになりました」
クラス内が何かの糸を切ったように騒がしくなる。
男子か、女子か。
そんな声がクラス中を飛び交い、先生は変わらず笑顔で女子と答える。
その騒がしい中、先生の合図と同時に入ってきたのは正に可憐とも言うべき少女。
肩に掛かるぐらいの左側に分けた茶髪。
ピンク色の服を着て、レースが重なる白いスカートをはいていた。
その立ち姿には上品な雰囲気を漂わせている。
その可憐さには男子は当然釘付けだ。
本人は気づいてすらいないほど無関心なのだが、シエラはその容姿からかなりの人気がある。
今まで、最初一年生のとき、先輩に5回告白されたほどの者だが、当然断っている。
だが教卓の近くに立っているその少女。
彼女はそれに匹敵する程、絶大に男子が騒いでいる。
だが、シエラはそんな事など微塵も気にしていない。
それどころか、彼女さえもその少女に見惚れている。
「レフィ・リホルンと言います。 家庭の事情でこんなハンパな時期に来ましたが、早くこのクラスに慣れたいと思います」
雰囲気通りの上品な声。
20人以上いるこの空間で全員に見られても緊張などまったくしていない様子。
礼儀正しく会釈し、先生の指示で指定された席へ行く。
全員に注目を浴びさせられながらも全然動じてなどいない。
静かに席を着席し、ゆっくりと座る。
そして僅かな沈黙が流れ、直後にホームルームの続きを知らせる先生の声が響いた。
ユーリの家——————
幼い顔立ちの軍服を着たものががソファーに座る。
向かい側にあるソファーにユーリが座り、ケーキを食べている。
軍人の方はそれに少し呆れながらも口を開いた。
「‥‥‥そして、ロートスシティの見張りが何とか倒したそうだが、数匹残っていたそうだ」
「ふうん。 おかげで一匹ウチの姫さん襲ったけどな、レインさんよ」
レイン、と呼ばれた少年の軍人は軽く謝ってから話を続ける。
「それに関連して君に頼みたいことがあって来たんだ」
ケーキを食べていることに夢中で、顔を俯けていたユーリが顔を上げる。
その顔はあまりにも深刻そうで、唇が重いかのようにしている。
こりゃ結構めんどくさそうだなぁ————————
その動作を見て、ユーリは次に来る言葉を覚悟した。
そして開いた口からレインの声が発せられる。
転
校
生
終
- Re: Gray Wolf ( No.17 )
- 日時: 2011/01/22 09:53
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
- 参照: ( ´・ω・`)<いや、呼んでないつーか
第
フ ェ ル ト
1 2
シ テ ィ
話
ヴェルゲンズ中央区フェルトシティ———————————
ユーリはそこの軍用ホテルの一室で休む。
ベッドの上に横たわり、天井を見つめる。
—————————レインの話ではこうだった。
ここ最近キメラの襲撃がヴェルゲンズ、世界中で頻繁らしい。
それで、軍地位で大将に当たる軍の要人が仕切っている街の防衛を頼みたいそうだ。
街の名はフェルトシティ。
そこの近くの森はキメラ達が多数いるらしく、いつ襲ってもおかしくないと。
さらにはその街は例え大将が居ようとも、兵力が少ない。
そのため、レインや、ユーリが軍大総統から直々に防衛に行くよう命令されたのだ。
レインは弱冠18歳の身でありながら、陸軍大佐の地位におり、第14師団師団長を任命されている。
更にはヴェルゲンズ司令塔南方支部の支部長補佐まで任されているのだ。
つまりは期待の星。
大総統から直々に命令されても可笑しくないだろう。
兎にも角にも、ユーリはフェルトシティの防衛のための傭兵としてここに呼ばれた。
それはいい。 それはいいのだが———————————————
ユーリは暇つぶしに外に出ようと扉を開ける。
(もしも可愛い娘見つけたらナンパでもするか‥‥‥)
頭の中で実際のそのときの光景を浮かべる。
だが、その妄想は隣から聞こえるドアを開ける音によって消された。
桃色のポニーテールを揺らし、ドアから出るシエラの姿があった。
それを見て、ユーリは今更ながら連れてきた事を後悔する。
実は、こないだ持って行った本を返しに家に来たのだ。
しかし、運悪くもその時丁度フェルトシティでの作戦を話していた時で、聞いてしまったのである。
本人は中央区は良い服が多いからとか、色々言っていたが、恐らく今回の防衛作戦の野次だろう。
だが、確かにシエラは召喚術を使うことが出来るのは事実だ。
戦力にはなるだろう。
そういった事も考慮し、女性の意思は尊重しようだなんだとの口実でレインを説得したのだ。
が———————
「ねえ‥‥‥今からでも帰らない‥‥?」
ユーリが少し気弱な口調でシエラに言う。
だが、不服そうな顔を浮かべ、廊下を歩き去る。
「ううん。 もう来ちゃった事だし‥‥‥ショッピングに行くね…」
少し寂しそうに聞こえた言葉。
きっと何か役に立ちたいのだろう。
だから召喚術の本を借りたいといってきたのだ。
ユーリは仕方がないと頭に響かせ、歩き出した。
くるりと背中を向けた背中にユーリが後へ続く。
不思議そうにユーリを見てきたシエラに、彼はいつもの調子で笑顔になってみせる。
「都会の街に女の子一人歩いてると危ないよー。 一緒についてくよ」
強く彼女の手を引っ張る。
その大きな手は暖かく感じられ、彼女の顔に無意識に笑顔を作らせるほどだった。
廊下の奥の闇を照らすように二人は走り出した。
フ
ェ
ル
ト
シ
テ
ィ
終
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