ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- Gray Wolf 第2章
- 日時: 2011/04/04 11:55
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』
ただひたすらに雫を降らす闇の雲。
その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。
その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。
その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。
女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。
もう、死んでいる。
視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。
何故。
何故なんだ。
何故こんなにも冷たい。
何故死んだ。
何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。
少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。
「ちくしょお‥‥‥」
はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。
《作者コメント》 4月4日
pixivに登録して自分が描いたキャラクター絵がやっと載せられるようになった・・・・・・アナログだけど。
それから知っている方は知っていますが、グレウルはしばらくすると複雑ファジーに移動しています。
それがいつかは私も知りません。
今後とも、よろしくお願いします。
《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。
《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様から>>5を参考にキャラ画像を募集し続けます。
アキラ様より…シエラの絵>>79
作者の描いたキャラクター達>>133
キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>5
キャラクター紹介・二 >>132
グレウル用語集 >>12
《目次》
〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>39
【第2章:姫守りし騎士】 >>82
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- Re: Gray Wolf ( No.3 )
- 日時: 2010/11/04 23:15
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
街灯よりも強く、赤い光が輝く。
幸い火移りしそうな物は近くになく、直ぐに消えるのでそれについてはまだ良い。
問題なのはその炎から出てくる大きな人影であった。
周りには水蒸気が立ちこみ、水がレンガ製の道に吸い込まれて黒ずませている。
だが、相手はそれほど余裕はない。
何故奴は魔術が使えた?
柄? 鍔? 鞘?
一体どこに魔方陣を隠し持っている?
否、そもそもあれは魔術と考えられる威力なのか?
溜息をつきながら、ユーリは刀を肩に乗せる。
「貴様‥‥‥。 魔方陣は何処に!!!! その刀の刃か!!!!!?」
「はっ! 意外とそんな知らねえんだな。 いいぜ、教えてやるよ」
魔方陣無しに魔術を使う、不可思議な現象に焦りを隠せないバルスにユーリは笑い捨てた。
魔術とは魔方陣無しには発動は不可能である。
だが例外———というより、゛現実空間でなければ゛それは可能となる。
魔術という呼称は全般的に言う意味と、゛一般の゛魔術という意味もある。
一般の魔術というのは基本的な、バルスが使うような物も含めてそう言う。
魔術には発展というものがあり、それは大きく7つの分野に分かれるのだ。
その中の一つに魔方陣を用いず、魔術を使うことが出来る唯一の分野がある。
それは「魔神術」———————
自身を魔方陣とし、魔術を行使できるもの。
魔術と違う特徴は個人によって威力が違い、また術者の力が増大すると共にその魔方陣に刻まれた能力も上昇するものである。
ユーリが先程放ったのも魔神術である。
ここまで話し終えたが、バルスはあまり納得できていないようだった。
しわを寄せた眉間と力んだ拳で分かる。
だが、口から息を吐き出すと、落ち着いた目になってユーリを見つめる。
「いいだろう。 その魔神術とやら、どれだけのものなのか見せてもらおう!!!!!!」
氷柱が三本飛ばされる。
左手の拳と鞘で全て弾くが、また更に飛んできた。
硬い音は十何回も鳴り響き、その最後の音が響いたと同時にバルスはユーリの目の前まで迫った。
冷気を纏わせた両手を振り回し、次々避けていくユーリを凍らせんとする。
8回目に来た手の平はユーリの放った拳を受け止め、大きくずり下がる。
ユーリは氷のついたグローブを刀の柄頭に打ちつけ、振り回す。
パラパラと凍りはガラスが割れたような音を立て、地面へ落ちていった。
「ったく。 冷てーな」
ユーリは自分の拳を見つめながらとぼけた声で文句を言った。
だが、バルスは更に攻め込み、ユーリを圧倒していく。
このままかわすだけでは意味がないと判断したユーリは舌打ちしながら、後ろへ下がった。
バルスは少し驚愕しながらも、冷気を出し、手を構える。
ユーリが刀を抜いた。
ゆっくりと金属が摩擦する音を立てながら抜くことに用心することはない。
だが、彼がここまで追い詰められるまで抜かなかったのには何か理由があると考え、警戒しているのだ。
そのバルスの考えを見透かしたかのようにユーリは言い放った。
「買い被ってもらっちゃ困るぜ。 別に刀に何もしちゃいねえからよ」
「ただ‥‥‥」という言葉を残し、一気に攻め込んできた。
上方から上げた刀を振り下ろすのを予知し、バルスは前方に盾を模る氷を前方に構えた手へ造りだす。
当然予想通りユーリは一気に振り下ろし、そして止められる。
だが、これで終わりではなかった。
ユーリは俯いた顔を少し上げ、バルスを上目で睨み付けて言葉の続きを言う。
「鞘抜くとさっきのよりも危ねえからよ」
ユーリの刀から炎が噴出する。
三日月の刃は、一瞬にして氷は砕け、バルスの右肩を焼き斬り裂いた。
一直線に進んだ軌跡は上空へ行き、虚空へ消え去る。
悔しそうな顔で倒れるバルス。
ユーリは垂れた汗を腕でふき取り、彼に言った。
「この刀は俺の魔方陣を媒体にした物。 それを鞘という封印で封じ込め、力を抑えていた」
「そして今のが、俺の魔神術の一つ、『炎牙斬』だ」
- Re: Gray Wolf ( No.4 )
- 日時: 2010/11/04 23:16
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
ゆっくり倒れたバルスが血を流している。
ユーリはその姿を見て一つ溜息をつくと直ぐにバルスの傍へと駆け寄った。
うつ伏せで気絶しているバルスを片手で起き上がらせ、腰に携えてあったポーチから包帯を取り出した。
力の抜けた人間を持ち上げながら包帯で止血するのは困難であったが、取りあえずは出来た。
「ユーリ‥‥死んだの‥‥‥?」
シエラがゆっくりユーリに近づく。
少し震えた声で自分の名を呼んだ時点でシエラに気づき、振り向いたユーリは笑ってみせる。
「大丈夫。 死んでたら止血する必要ないよ。 それに、女の子に人の死体を見せるわけには行かないし」
おとぼけな態度のユーリに少し安心感を覚え、シエラは笑った。
だが、何故ユーリが彼と戦ったのかは依然として分からない。
「あの‥‥‥ユーリ。 …なんであの人とユーリが戦ったの?」
あまり訊きたくはない事だったが、少しだけ思い切って言う。
ユーリはそのシエラを見て微笑しながら言った。
バルスは元々軍人だったが、10日前キメラと呼ばれる複数の動物遺伝子を持つ生物の駆除任務のとき、行方不明になったという。
だがその数日後に数箇所の街中でバルスが兵士を襲うという事件を起こし、このロートスシティに逃げたという報告を受けたらしい。
そしてそれを捕らえるには、軍だけでは無理だと判断したので、ユーリが派遣されたらしい。
ユーリは軍に一目置かれているが、本人はあまり軍を良く思っては居ない。
だが、可能な限りの仕事を受ける何でも屋としては、断ることも出来なかった。
そうしてユーリはバルスと戦闘を繰り広げていたのである。
ユーリは立ち上がり、バルスを更に持ち上げた。
するとユーリは何かを思い出すように声を漏らし、シエラに振り向く。
「そういや何でこんな街中歩いてんだ? 夜の街は年頃の娘にゃ、ちょい危険だぜ」
シエラはいきなり聞いてきたユーリに驚きながらも、持っていたビニール袋を見せつける。
「こないだユーリが『あんま稼げてない』って言ってたよね? だからちょっとご飯作ってあげよっかなーって」
瞬間、ユーリは握力をなくし、持ち上げていたバルスを落とす。
瞳は好奇心溢れる子どものように光らせていた。
「ありがとお!! いや大歓迎!! どうぞどうぞ家へいらっしゃい!」
少しだけびっくりはしたが、本当に喜んでいるユーリを見てシエラもたまらず嬉しくなった。
いけね、と声を出し、自分で落としたバルスをもう一度持ち上げる。
腕を首にかけ、肩で身体を支えた。
自分よりも重いであろうその人間を軽々と持ち上げるのはすごい。
「んじゃこいつ届けたら行こうぜ」
片目だけ見える位にユーリは振り向く。
そして、街灯の光を浴びながら、シエラと共に歩き出した。
「いやでもホント嬉しいよ。 女の子にご飯作ってもらえるなんてどれだけ良い事か‥‥‥」
また笑い出すユーリに、シエラは微笑む。
だが、また更に言葉を足す。
「それにあの台詞、何か恋人が言うみたいで嬉しかったし」
わざといたずらに言ったユーリの言葉に、シエラは耳まで赤くなる。
恥ずかしそうに顔を手で覆い隠し、しゃがむシエラに、ユーリは謝りながら笑った。
指の隙間からその姿を見ていたシエラは、密かに微笑んだ。
闇の魔術師
終
- Re: Gray Wolf ( No.5 )
- 日時: 2011/03/29 13:57
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
キャラクター紹介・一
このキャラクター紹介・一は物語におく、主人公及び主要キャラクター、どの話でも活躍する、または活躍しないが一応キャラとしているキャラクターなどが紹介される。
[主要キャラクター]
【ユーリ・ディライバル】 Yuri Diriball
誕生日4月16日
年齢:18歳 身長:175cm 体重:61kg
《服装・見た目》
○後ろで束ねた金色の長髪で、寝癖のように自然に立った髪。
○少し濃い金眼。
○ブレザーの裾を長くしたような右だけ袖のないロングコートを羽織っている。
○中には黒よりの紺色の袖無しシャツを着ている。
○黒い長ズボンをはき、ブーツを履いている。
《性格》
○基本的にはとぼけた態度だが、物事をはっきり判断する。
○魔術の知識に長けており、特に魔神術については学者も顔負けである。
○女好き。
○まれに変態。
《イメージボイス(裏設定)》
鳥海浩輔
《能力》
○真っ直ぐに伸びた直刀の太刀を使う。
○ただし普段は鞘に収め、その鞘で殴るか格闘術を使っている。
○天才的な身体能力を持っている。
○魔神術が使える。
・炎牙斬(斬撃の形をした切れ味を持つ炎を飛ばす)
・シルドフラッド(刃から水の結界を噴き出させ、ガードする)
《好き嫌い》
好き:甘いもの、辛いもの。
嫌い:無い(強いて言うなら食べ物でない物)。
《その他》
本作の主人公。
シエラの幼馴染だが、学校には通っていない。
何でも屋を経営しており、力仕事などを主に頼まれやすい。
また、一人暮らししているため、料理は非常に上手い。
特にスイーツは一番得意。
ちなみに彼の名前は作者の名前から。
【シエラ・ハーティア】 Shear Heartir
誕生日:5月7日
年齢:15歳 身長:160cm 体重:46kg
《服装・見た目》
○ピンク色の髪をリボンでポニーテールのようにしている。
○緑のかかった碧眼。
○首に紐をたらし、その紐に真珠のような玉を繋げている。
○袖のない白いセーラー服を着ている。
○その上に薄橙のベストを着ている。
○太股の半分が見える位のミニスカート。
○ニーソックスを履いている。
《性格》
○おとなしい性格。
○恥ずかしがり屋。
《イメージボイス(裏設定)》
戸松遥
《能力》
○召喚術が扱える。
・コンク(緑色の狐。 風を操る)
《好き嫌い》
好き:甘いもの。
嫌い:脂っこいもの。
《その他》
作者の趣味全開のヒロイン。
ユーリの幼馴染で、一応学生。
学校内トップといわれるほどの美少女。
学校に入学してから、同学年や先輩などに合計5回は告白されているが、その度に断っている。
セーラー服はお気に入りで、同じセットを何セットも持っている。
危険な仕事も請け負う何でも屋のユーリの身をいつも案じている。
【レン・ウォン】 Ren Whong 御 蓮
誕生日:8月11日
年齢:19歳 身長:173cm 体重:60kg
《服装・見た目》
○黒く短い髪。
○黒い瞳。
○薄橙のカンフー服。
○黄色い和風の上着をカンフー服の上に着ている。
○グレーのズボン。
《性格》
○結構ボケている。
○戦闘のときは真面目。
《イメージボイス(裏設定)》
鈴村健一
《能力》
○軽い柳葉刀(下から上にかけて刀身の幅が広くなる刀。中国刀の一種)を扱う。
○退魔秘術を使う。
○魔神術を使う。
・壱刃華・弟切斬(相手に対する怨念が強いほど威力が増す)
《好き嫌い》
好き:ラーメン、チャーハン。
嫌い:生魚。
《その他》
現実で言う中国人がまさかの登場。
傭兵団「エンパラ」に幹部として所属している。
【レフィ・リホルン】 Lefy Reholune
誕生日12月8日
年齢:14歳 身長:156cm 体重43kg
《服装・見た目》
○前髪を左から分けた茶色のショート。
○鮮やかな碧眼。
○胴の部分と袖が別れた、肩が露出した青を基調とする服(ガーディアンの制服)
○青い、腿の半分が見える短いスカート(ガーディアンの制服)
《性格》
○融通は利かなく、固い。
○稀に口調が乱暴になることがある。
《能力》
○魔術が使える。
○風土術が使える。
《イメージボイス(裏設定)》
平野綾
《その他》
ガーディアンの第28警護班班員。
何故かシエラの学校に登校している。
結構学校での人気は高い。
龍型キメラから助けられてから、ユーリに好意を抱き、日々ストレートにユーリにアタックしている(当の本人は軽く受け入れている)。
普段は固い口調で話すが、レンやシエラ、クラスメートには普通の口調で、ユーリには甘えるような態度で軽い敬語を使う。
[その他キャラ]
【アリス・ハーティア】 Arise Heartir
誕生日:4月2日
年齢:14歳 身長:157cm 体重:43kg
《服装・見た目》
○桃色の肩に掛かるか掛からないかのショートヘアー。
○お気に入りの服はオレンジ色の短いワンピース。
《性格》
○シスコン、というよりお姉ちゃんっ子、
○シエラに似て温厚で誰にでも明るく接する。
○結構積極的な面も。
《イメージボイス(裏設定)》
米澤円
《好き嫌い》
好き:ハンバーグ。
嫌い:豆類。
《その他》
シエラの一つ下の妹で、姉である彼女を尊敬している。
料理が得意で、両親が仕事で不在のハーティア家では家事全般担当。
ユーリのことも尊敬しており、ユーリとシエラが恋人になることを望んでいる。
密かにユーリの事をいつか「お兄ちゃん」と呼べる日(=ユーリ、シエラが結婚する日)を待っている。
【レイン】 Lain
誕生日:???
年齢:18歳 身長:??? 体重:???
《服装・見た目》
○淡い金髪のショート。
○濃い碧眼。
○国旗のマークが施された青いブレザー(国軍の制服)
○青い長ズボン、ブーツ(国軍の制服)
《性格》
○基本的に固い。
○常に他人行儀。
《イメージボイス(裏設定)》
未定
《その他》
ユーリ、シエラの幼馴染。
若干18歳で陸軍大佐、第14師団師団長、司令塔南方支部の支部長補佐。
大総統からかなり目をかけられており、部下からの信頼は厚い。
【リン】
年齢:15歳 身長:シエラよりちょっと上。
《服装、見た目》
○茶色い髪。
○水色のTシャツの上に白い上着。
○紺色のデニム。
《性格》
○活発。
○人懐っこい。
《イメージボイス(裏設定)》
高垣彩陽
《その他》
シエラの親友。
常にシエラへのスキンシップを行っている。
- Re: Gray Wolf ( No.6 )
- 日時: 2010/11/08 16:58
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
2 も う 一 人
話
ロートスシティ設立ハイスクール中等部——————
チャイムの音が校舎中に響き、6限目の終わりを告げる。
そして直ぐに起きたわずかな沈黙の後に各教室内はざわめいた。
帰り前のホームルームも終わり、それぞれの生徒は帰宅の準備をする
「シーエラちゃん! 帰ろ!」
「え? あ、リンちゃん。 うん」
自分の頭に手を置き、軽く撫で、後ろからする声の正体にシエラは反応する。
茶色い髪で、白い上着に水色のTシャツ。
紺色のデニムを履いている。
活発で懐っこく接するその少女は天真爛漫とも言うべき笑顔を見せ、シエラに強く抱きつく。
いつもの事ながら、あまりに突然来るそれは、シエラの口から悲鳴の声を漏らす。
重心をこちらへ掛けてきたものだから思わず体勢を崩しそうになるが、何とか持ち堪えた。
帰り道、日はまだ西のかなたには沈まず、街中を照らし続けている。
「あ、そうそう」
リンは携帯電話をいじりながらシエラに話しかける。
指の動きからしてメールでも打っているのだろうか。
気になったが、無断で見るわけにも行かず、だからといってわざわざ「見せて」と言ってまで見る必要性も無いので止める。
「明日の日曜日にね、クラスで遊園地行こうだって。 来れる人で来てって話だけど…行く?」
今度は画面を閉じ、振り向いて話しかける。
少し間を空けて考えたが、何もないだろうと悟ると、声に出しながら頷く。
それを聞いて嬉しかったのか、また笑いながら抱きついてきた。
流石に街中なので、これは抵抗したが、離れそうにない。
街の人達は普通に通り過ぎていたが、時々見る人がいて、羞恥心を煽らせる。
周りの人からどんな風に見えているのだろうか。
それを考ええるだけで恥ずかしくなり、顔の表面が熱く感じた。
翌日———————
ユーリはあくびをしながらベットから起き上がる。
直ぐ近くにあった長方形の木製テーブルには魔術に関する本が散乱していた。
もう一度あくびをしながら頭を指でかき、傍にあったブーツを履いてテーブルまで近づいた。
(昨日疲れて眠ったんだっけ‥‥‥)
半分目を開けた状態で書物を見つめると、めんどくせと呟き、手に取る。
関連した書物をそれぞれ分けて積み重ね、やがて疑問が浮かぶ。
あれ、と呟いてまだ散乱している書物の山をもう一度かき回した。
ない、ない、ない、ない、ない。
何処にもない。
確かに昨日はあった筈の物がない。
召喚術についての記述がしてある本が無い。
あれ、とまた呟いてユーリは手を頭に回す。
ロートスシティ遊園地——————
あれ、とシエラが呟いた。
バッグの中に見慣れない本が入っている。
赤く、背表紙にはヴェルゲンズ語で「召喚術」と書いてある。
「どうしたのー? シエラちゃん、もう行くよー?」
リンの呼ぶ声が聞こえる。
顔を上げるとリンやクラスメートがいた。
大半は既に歩いていたが、リンと後3人がこっちを向いて呼んでいた。
特にリンは満面の笑みで手を振り、早く早くと急かしている。 クラスメートとこうして遊ぶのが嬉しいのか、それともただ単にシエラと遊びたいだけか。
どちらにせよ、直ぐに行かないと怒るだろう。
シエラは乱暴にファスナーを閉め、向かった。
その時、昨日の出来事をまるでフラッシュバックの如く、鮮明に思い出し始める。
——————
日も西の向こうの山へ落ち始め、昼の時間も終わりを告げ始めている。
「ユーリ? もう帰るね」
「ええ? そんな時間? もうちょっと居てもいいのに‥‥‥送ってこっか?」
「ううん。 大丈夫。 そんなに暗くはないから」
ドアを開けながら言うシエラにソファーに腰掛けていたユーリは答える。
心配されるのは悪いことではなかったが、迷惑をかけるわけにはいくまいと思い、断る。
その時、シエラは気付かずに持っていた本を無意識にバッグの中にしまった。
——————
(あ、あの時だ)
シエラは走りながら昨日起こったことを思い出した。
だがもう遊園地にいるのだから、返すのは遊んだ後でも良いと思い、直ぐに頭の中から姿を消す。
も う 一 人 終
- Re: Gray Wolf ( No.7 )
- 日時: 2010/11/05 17:37
- 名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
第
3 騒 動
話
ユーリは頭をかきながら辺りを見回す。
心当たりのある場所は全てさがした。
無いとすれば、それは人によるものだと頭の中で推理し始める。
とは言っても、家に上がる程の知り合いなどかなり限られる。
ユーリは取り合えずシエラについて記憶の中を探った。
こないだ飯を作りに来てくれて、昨日何か遊びに来て—————
溜息をついた。
多分その時だ。
あの時自分の本棚から何か取り出していたし、それを間違って持っていくのもおかしくない。
ユーリはいつものロングコートを羽織り、ベットの傍に立てかけてあった刀を手に取る。
それを腰のベルトについていた紐に装着し、ドアの方角へと歩いた。
つい先程、ローラーコースターで恐ろしい目にあっていたシエラは、気力の無い顔で歩く。
レールの上で走る車に振り回され、重心が安定せず、若干ふらふらした様子だった。
「おーつかれーっ!! どう? 楽しかった?」
「‥‥‥恐かった」
向かった方向にあったベンチで、白いソフトクリームを舐めているリンと話す。
脳で判断するのも追いつけない、あの容赦ない、隙の無い恐ろしさを作った人は異端だろう。
だが、矛盾にもそれで若干楽しんでいる自分も居る。
この後は特に何もない。 恐らくまあまた何処かのアトラクションで楽しむだろう。
それからは他愛も無い話をしながら、一緒に遊ぶ————筈だった——————
ユーリはシエラの家の前まで来て、インターホンを鳴らした。
聞き慣れた電子音の後に女の子の声が聞こえ、数秒後にはドアが開いた。
シエラに良く似ているが、肩までしか伸びていない髪や、シエラよりか幼い雰囲気を漂わせているなど、違いはあった。
「やっほ、アリスちゃん」
「あ、ユーリさん。 どうしたんですか?」
見る者を和ませるシエラに似た笑顔と、彼女より少し高い声。
自分の近くまで来て、少しだけ照れるが、終に本題を述べ始めた。
——————————
事情を聞き、納得したアリスは軽く頷いてから口を開く。
「それなら、お姉ちゃんは今留守なんで、部屋に行って来るのでどういうのか教えてください」
「えーっと…。 こんぐらいのサイズで、赤いやつで、『召喚術』って書いてある物」
ユーリは手でA4サイズぐらいの長方形を描き、アリスに教える。
分かりました、と一言言うと、振り返ってドアの方へ行き、強い音と共にドアが閉まる。
大きな爆発音と、それに反応する人々の悲鳴が、シエラ達を驚かす。
入り口方面に黙々と煙が上がっており、上空へ上がってやがて消え去る。
サイレンの音が耳を劈き、避難アナウンスが遊園地中で響いた。
『ロートスパークで不審人物が大勢発見されました! 園内の人々は管理人の指示に従って避難してください! 繰り返します————————』
アナウンスの途中から管理人と思わしき人物が多数こちらへやってくる。
だが、彼らは悲鳴と共に血を吹きながら横に倒れていった。
スーツを着た男達が遠くからライフルであろうその長銃を構えて次々と撃っている。
それに恐れをなしたシエラたちは、叫び声を上げながら別々の方角へと逃げていく。
背後からは多数の銃声、怒鳴り声、悲鳴が順番もタイミングもバラバラに響き続けていた。
「すいません‥‥‥」
「やっぱか‥‥‥」
ユーリは頭をかいて溜息をついた。
今日何度この仕草をしただろう。
ユーリはアリスにお礼を言うとウエストポーチから携帯を取り出す。
今すぐ電話してシエラが何処へいるか訊くか——————
その瞬間だった。
突然持っていた携帯が鳴り出す。
画面を開いていたから丁度良いが、それどころではない。
「あー、はいもしもし? なんでござんしょう」
ユーリは少しイラついた声で電話の奥にいる人物に話しかける。 恐らくその態度は電話越しでも分かるだろう。
だがその奥の人物は気づいていながら、変わらない口調、早さ、大きさで言う。
『あ、ユーリ。 大至急向かって欲しい所がある』
「なんだよ。 早く言ってくれ」
段々イラつきを増してきたユーリは思わず強い口調で言った。
若干聞こえるノイズ混じりで、若い声の主は説明しだす。
『実は我が軍の中将、君も見たことがあるライド中将がロートスパークにプライベートで行っている』
「あーそれで?」
『彼狙いのテロリストがロートスパークに襲撃したという報告が入った。 直ぐに向かってくれないか』
「‥‥‥了解了解。 報酬は覚悟しとけ」
ユーリは最後に舌打ちをして、電話を切る。
訂正。
こっちの方が余程大事だ。
あーあ、と嘆きながら
ユーリは凄まじいスピードでレンガの地面を駆けた。
騒 動
終
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