ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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Gray Wolf 第2章
日時: 2011/04/04 11:55
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)

『君みたいなのが弟になってくれて、とっても嬉しかったよ』



ただひたすらに雫を降らす闇の雲。

その雫を受け止めている灰色のレンガで出来た道が紅く染まっていく。

その正体は、荒れた桃色の髪の女性が胸から出している「血」であった。

その女性にまたがる様に四つん這いになり、顔を見つめている金髪の少年の姿も見られる。

女性の身体からは温もりなど感じない。
むしろ雨で冷えた少年の身体よりも冷たかった。

もう、死んでいる。


視界が一瞬霞み、雨粒よりも生暖かい液体が頬を伝っていく。


何故。

何故なんだ。

何故こんなにも冷たい。

何故死んだ。

何故こんなにもこの人は満足な顔を、幸せな顔をしているのだ。



少年は自らの拳を力いっぱい握り締め、それを地面に目掛けて振り下ろす。
鈍い音が少年の耳にも聞こえ、指を見ると擦り傷の跡がはっきり表れている。







「ちくしょお‥‥‥」









はい!どうも!
yuriと申す者です!!!
クリックありがとうございます!!
この小説はとある掲示板で書いたものの、板違いという事に気づき、移させた物です。


《作者コメント》 4月4日
pixivに登録して自分が描いたキャラクター絵がやっと載せられるようになった・・・・・・アナログだけど。
それから知っている方は知っていますが、グレウルはしばらくすると複雑ファジーに移動しています。
それがいつかは私も知りません。
今後とも、よろしくお願いします。

《※注意※》
1:この小説は多少のパクリはありますが、オリジナル中心です。
2:中傷だけは勘弁してください。 デリケートな作者の心がブレイクします。
3:ファンタジーと恋愛とギャグとを5:3:2の割合で書きます。が、全体的にはシリアスものです。
4:まれに描写が色々な意味でやばかったりします。苦手な人は戻ってください。
5:この小説は長編となっていますがこのわたくしめの精神が頑丈だとおよそ100話以上に到達するものです。それに付いて来られる人だけ読んで下さい。


《キャラ画像》
実はこの作者、知っている方もいると思いですがこの小説は元は作者の暇つぶしに描いていた漫画を原作にしているのです。
前までは出来なかったのですが、アナログでなら投稿が可能になりました
ですが、皆様から>>5を参考にキャラ画像を募集し続けます。

アキラ様より…シエラの絵>>79
作者の描いたキャラクター達>>133

キャラ紹介
キャラクター紹介・一 >>5
キャラクター紹介・二 >>132


グレウル用語集 >>12

《目次》

〔本編〕
【第1章:闇に舞う獣】 >>39
【第2章:姫守りし騎士】 >>82

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Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.113 )
日時: 2011/03/05 12:09
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 皆久しぶり!!

>>112
お久しぶりです。
第2章もいって、とうとう本格的になりつつあるのは良いんですが‥‥‥
エアっちゃん(Aerithちゃん略)がファジー小説に行くと聞いて、ちょっと相談したいことがあるんですよ。

このグレウルは勿論の事ファンタジー小説です。
しかし自称ながらもファンタジー:恋愛:ギャグ=5:3:2ということで。
つまりはダーク要素とライト要素が半分半分なんですね。
だからダーク&ライト半々! のファジーにこの小説を移転しようかと。

どうでしょう?

Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.114 )
日時: 2011/03/05 17:47
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 皆久しぶり!!



「な‥‥‥!!!」
絶句。 それ以上の言葉はなく。
何しろ絶傷刀はユーリの持つ長刀を折らなかった、否、折れなかったのだから。



 3
  6
   話
               決着は呆気なく


この硬直した雰囲気の中。
いまいち状況を飲み込めずにいながら、否、飲み込めない故にユーリはその隙を突いた。
力任せに剣を押し、鎌を弾く。
それを持った右手は吹き飛ばされ、振り戻す事ができない。
ユーリは左肩を使ってタックルし、それで怯んだ隙に右の拳で胸にアッパー。
そして左足で蹴り上げ、三段攻撃を全て命中させる。 余りの威力にルリは少し吹き飛んだ。

「な‥‥っ、なんだ‥‥‥その、剣はぁ‥‥‥‥‥‥っ!!!」
半ば四つん這いに近い状態でしゃがんでいるルリはユーリに尋ねる。
途切れ途切れ、搾り出されたような低く小さい声だが、それでも十分にユーリの耳に届く。
「んあ? ああ、『狼将刃』か?」
『狼将刃』とはユーリが左手で指差した物——————ユーリの持つ直刀にして長刀の得物だった。
ちなみに絶傷刀の一撃を受けて全く刃こぼれしていない。
「別に訊かれても俺にも分からねえんだけどな。 だってこれ、家の倉庫から勝手に取ったもんだから」
————————そして名前は俺が勝手につけたけど
最後は言おうと思ったが、余り長話になるのも困るので、やっぱり止めた。

「そうか‥‥‥」

ルリは少しよろめきながらも立ち上がり、絶傷刀を構える。
「と、いう事は、生半可なスピードではお前を倒せないわけかっ!!!」
よろめいて倒れたかと思えば、重心を前にして、初速を速めてのダッシュ。
ユーリの懐に向かわんと、彼は走り、絶傷刀を構える。
そして、ユーリから見て右から左に斬撃。
彼はそれを避け、その次に来た左から右の斬撃もかわす。
やはりこの刀では避けられてしまうと確信したルリは、ユーリから距離をとり、その刀を投げつける。
それを剣で弾いたユーリはもう一度彼を見る。
すると、構えていたのは拳銃。
“銃連刀”
銃身に刃がつき、グリップは普通の拳銃より若干ながら銃身と真っ直ぐになっている。
回転式連発銃、すなわち、ダブルアクションのリボルバー。
で、ありながら、オートマチック系の銃のように銃身が広い、奇妙な形。

そして、銃口をユーリに向けトリガーを引く。
乾いた大きな音放たれると同時に先端が尖った金色に近い色をした筒が飛び出す。
次に二発目、三発目、四発目、と撃っていく。
普通の拳銃では出せないスピードでユーリへ向かい、勿論の事、それすらも彼はかわす。



銃弾がユーリの許にやってきたのはこれで20発目。
ここで、ユーリは彼の持つ拳銃————ではなく刀、そしてその扱いを大体分析した。
まず、銃連刀は一般の拳銃と同じで六発が最大装填数。
次に、ハンドガン用マグナム弾でもないのにライフル並みのスピード。 かわすのもやっとのところである。
そして、再装填する時間が非常に短く、隙が少ない。
弾は何もない空間から取り出しているのであろうが、指使いが非常に優れている。
弾倉を開き、なくなった弾を補充し、それを装填する。 この間の時間、長くても3秒。
器用などというレベルではないだろう。
速い上に隙が少ないのでは近づくも何もあった物ではない。
「くっそ‥‥‥」
ユーリはある一つの覚悟を決めて、走り出し、次々撃ってくる銃弾をかわす。
逃げたのではなく、ルリを中心に円を描くように走り出す。
かと思えば、今度は彼に向かって一直線に走り出した。
そして刀を上空に投げ、先程より身軽となった彼は獣のような速さで右往左往しながらルリへと近づく。
瞬間、ある一発がユーリ左肩を掠めた。
呻き声を上げながらも、決してスピードは緩ませず、走り続ける。
「だあああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
狼が咆哮する様に、ユーリは叫び声を上げる。





ルリの、目の前にいた。
誰が? 何が? ユーリが。
いつ? 今。
何処で? ここで。
何故? 近づいたから。
どうやって? 走って。
普通なら答えられる5W1H、すなわち今この現状も、ルリにとっては理解するのに手間取った。
というより理解する暇がない。
ルリは反射で後ろに大きく退け、ユーリの斬撃をかわす。
殺意が1/1も出ているルリと違い、彼は本気で殺すつもりはなく、浅い一撃を放っていた。
故に、胸の傷は致命傷にならず、大きな掠り傷が出来たかのようだった。
ルリは銃連刀を投げ捨て、ユーリを見つめる。
よく見れば、左肩意外にも、その二の腕が貫通されている。
他にも、右頬にも掠り傷、右肩も貫通。
とは言え、未だに剣を振れるというのは腱などの筋が切れていない証拠。
それに、それほどの怪我を負って叫び声も上げないとは相当精神力がある。


————————敵ながらあっぱれ、というやつか
ルリは戦闘中であるにもかかわらず、微笑し、右手を腰の左の部分に持っていく。
そして、急に出てきた柄のような物を握る。 よく見れば、その柄からは薄鋭刀と同じ位の長さの刃が付いている。
更に、握った柄をゆっくり引いたその先は、鍔、そして刃。
その刃を全て引き抜くと、1mを祐に越えた、長い刃渡りだった。
片方には長い刃、片方には短い刃。 双方に刃が取り付いた刀。
「最早これを使わなければならないとは‥‥‥中々恐ろしい奴だ」
それを最後の言葉に、ルリはその長刀を構える。
ユーリもまた、それに応じるように刀を固く握り締めた。
一筋の風が流れ、緊迫感は細い糸の如く張り詰める。


だが、それを解き放たず、緩めさせたのは、自分達を囲む銃口だった。
気がつけば、ユーリとルリは青の制服を着た軍人達に囲まれ、一人一人が持つマシンガンの銃口を向けられている。
そして、その軍人の中から一人の少年が出てきた。

それは、レイン。



「これ以上、この街で騒ぎを起こすのは止めてもらおう。 私達と一緒に来てもらいます」





    終          決  着  は  呆  気  な  く

Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.115 )
日時: 2011/03/10 22:53
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 皆久しぶり!!

  第


 3   7        3  日  後


   話



———————止めろ


止めろ、来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな


来ないでくれ


もう—————————



「来るなぁ!!!!!!!!!!!」
ベッドからユーリは飛び起きる。
朝の筈だが、日差しが目に入らない。

当然であろう。 目の前にシエラがいるのだから。
勿論比喩ではなく、10cmもない距離にある。
無表情のまま、動く様子がないが、段々顔が赤く染まり、あわあわと口を開いている。



「きゃああああああああああああ!!!」




「ご、ごめんね。 突然大きな声出しちゃって。 びっくりしちゃったから‥‥‥」
シエラが未だに赤いその顔を隠すようにそっぽを向き、謝る。
「いや、別にいいけどよ」
ベッドに座り続けるユーリもその謝罪を軽く受け止めて許す。
だが、心中では、
(あれってもう少し近づけばキスできたよな‥‥‥。 ちっ、惜しいな)
などと如何わしいにも程があることを考えていた。


「でも何でうなされてたの? 汗びっしょりだし」
シエラに言われて気づく。
額にも、頬にも、タンクトップの服の中にも、汗に塗れており、びしょびしょの状態だった。
ユーリは彼女の指摘に、顔を俯けて、低い声で言う。
「聞きたいか?」
「え? 別に、そんな無理していう事じゃないよ。 ちょっと気になっただけだったし」
「いや、聞いとけ聞いとけ。 こんな事、誰かにぶちまけねえと」
気になっているのに聞くのを躊躇うシエラをユーリは教えようとする。
一呼吸置いて、ユーリはゆっくり口を動かし始めた。

「白い砂浜、夕焼けが水平線に沈みかけた赤い海。 そこで俺は、」


ビキニ姿の美女百人に追いかけられていた


思わず疑問の声を出すシエラ。
まあ、思っても思わなくてもこれは疑問しか出ないのだが。
「そこまでは良いんだ。 ただ、その娘達の顔や体付きが変わり始めて、筋肉の塊みたいなマッチョに一人残らず変わって、俺を追いかけ続けるんだ」


‥‥‥


「あんな悪夢があるもんか‥‥‥!! 多分、いや絶対人生最大の悪夢だ‥‥‥」
「そ、そうなんだ‥‥‥」
(もっと暗い話しかと思ってたけど‥‥‥)
ユーリは頭を抱え、今にも泣きそうな顔で俯く。
だが、先程から左手に感じる温もりに気づいて、自分のそれを見る。
そこには、しっかり握っているシエラの腕があった。
間違いない。 彼女の頭から、首に掛け、肩、二の腕、肘と辿り、その先の物はユーリの腕を握っている。
ユーリの目線によって自分のしてる事に気付いたシエラはまたもや赤面し、何も言えずただ恥ずかしさのあまり冷や汗を出している。
しかしユーリは彼女の手を放さず、右手を添えて包む。
「ちゃんと看ててくれたんだな。 ありがとな」



「‥‥‥‥‥‥」



その時、殺気を感じた。
この殺気は、言うなれば、妬み、嫉妬の炎の如きオーラを纏った———————


「‥‥‥何それ」
レフィ、だった。
と、その隣に彼女を宥めようとするレン。
ユーリ達を見る彼の目は、助けを求める目であった。


Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.116 )
日時: 2011/03/29 12:21
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 皆久しぶり!!

この前の騒動から3日経ち、怪我を負ったユーリとレン。
レンは肋骨一本ひびが入った感覚がしたが、あまりの衝撃にどうやら他の骨にも影響が出たらしい。
とりあえず、2週間以上は安静が必要ではあるが、そのレンに今のレフィを抑えつけるのは酷な話だ。
ユーリもまた、切り傷も深く、致命傷でなかったものの、出血も酷く、放って置けば命に関わる程の物だった。
勿論それも一命を取り留め、無事ではあった。
そして、シエラやレフィ、そして一応歩きだけなら出来るレンは、合鍵を借り、ユーリの家に見舞いに来ている。
それは良いのだが————————


「来ねえな。 連絡」
「うん‥‥‥」
ユーリは部屋の隅にある電話を見つめて言い、シエラが同調する。


————————

南区中心街サウスセントラルへ護送され、取調べを受けたユーリ。
と言っても、その手の事は日常茶飯事であり、いつも諸注意だけで釈放されている。
それは、ユーリのやっている事はほぼ正当防衛というか、公共的に利益なので、それについては軍も咎められない。
キメラがいるこの世で、あまり厳しく銃刀法を定める事もできない。
また、ユーリの所業については、上層部は懐広く受け入れているため、後ろ盾があるわけである。

「‥‥‥全く」
腕組みをして、取調室に入るレイン。
彼の視界の真ん中には、チョコパフェはのほほんと食べているユーリ。 既に病院での治療は終わらせている。
2回目の取調べで、「極東の国じゃ取調べに『カツ丼』を出すのが常識なんだよ!!」と冗談混じりで言った所、まだ彼についてよく知らない新人が『Katsudon』とやらの代わりにパフェを出してしまったらしい。
以来、彼が取調べを受ける際はギャグという事でパフェを出している。
———————南方軍(ウチ)は本当に大丈夫か?
毎度の事ながら、心配してしまう。
ユーリの向かい側、机越しにある椅子に座り、向き合う。
「さて、君と戦っていた彼だけど‥‥‥」
「ああ、そうそう。 あいつどうしたんだ?」
スプーンをレインに向け、口元にクリームをつけているのも気にせず言う。
「‥‥‥釈放された」
「何ぃ!?」
変わらない口調で普通のように言ったレインの言葉に、ユーリは驚く。
それから口元のクリームを舌で舐めとって、彼の話を聞く。
「どうやら彼の追いかけた者達はマフィアらしい。 どうやら、裏切った仲間を殺そうとしたところを止めたそうだが、そしたら今度は彼の方を襲ったそうだ」
ふーん、といまいち納得が難しい様にユーリは返事をする。
しかし、同時にあることに思い至った。
———————すると、シエラ達は?
「それと、シエラさんとロートスシティ担当のガーディアンだが‥‥‥」
丁度良いタイミングでその話になるとは思わなかったのか、ユーリは思わず声が出そうになる。
「一応追いかけているうちに発砲された様だけど、大丈夫、上手く避けて当たらなかったらしい」
発砲された、と言う言葉に酷く敏感に反応したユーリの様子を見て、大丈夫と付け加える。
「しかし、どうやら逃がされてしまったようだ。 今後の捜索は我々が担当しよう」
軽く握り締めた拳を胸の中心に当て、自信を持った口調で答える。



———————

「————————とか何とか言ってやがったくせに」
ハァ、と溜息を一つ。

「私がシエラに助けられた、っていうのも納得できませんし‥‥‥」
低い声で呟きながら落ち込むレフィ。
追いかける最中にシエラに追い越されたり、銃から発砲される瞬間に抱えられて建物の陰まで一瞬で連れて行かれたりしたあの時の光景が蘇る。
正式で本格的な訓練を積んだガーディアンが、一般人に護られたのでは世話ないだろう。
「え? そんなに運動神経あったの? 知らなかった‥‥‥」
レンが驚き、その言葉を口にする。
シエラがその回答に困ると、ユーリがその代弁をする。
「ああ、シエラはな、護身術を一応会得してんだよ」
俺直伝のな、とつけたし、微笑を浮かべる。
その最後の言葉にだけ耳が反応したレフィは、段々彼の話に耳を傾け始める。
「シエラは小さい頃から俺と一緒に行動してたし、俺が一度この街出て、戻ってきた15歳の時から17までの2年間、頼まれて教えてやったんだよ」
だからシエラは運動神経がよく、体育は得意教科でもある。
それに、誕生日の時に襲われたキメラから長時間逃げ続けられたのもそれ故。
自分の隣にいる人が段々赤い炎に包まれ始めるのを感じたのはレンだけである。


「シエラ。 あそこの左の本棚の‥‥‥上から2番目、左から4番目の赤い背表紙の本、取ってくれないか?」
「え、あ、うん」
ユーリが指差した方向を辿り、見つめながらその場所に行く。
彼の本棚は色々な本が積まれている。 魔術学、漫画、漫画雑誌、好きな俳優や、グラビアアイドルの写真集。
シエラはその中から指示された通りの本を取り、また戻って行く。
そして、それをユーリに渡す。

「何だそれ?」
「‥‥‥キシンキュウトウリュウ、それはもしかしてあの鬼神九刀流かと思ってな」
覗き込むレンの質問には直接的に答えず、パラパラとページをめくる。


その本の題名には「Yaduki Asana」と書かれていた。



     3


     日  後


     終

Re: Gray Wolf 第2章 更新が再開しやした。 ( No.117 )
日時: 2011/03/13 15:51
名前: yuri ◆F3yWwB7rk6 (ID: DOGZrvXb)
参照: 皆久しぶり!!



「キシンキュウトウリュウ?」
言葉の意味が分からず、シエラは片言のようにユーリの言葉を繰り返す。
「なんだそりゃ」
続いて、レン。 肩を竦めて本を捲り続けるユーリを見る。

そして、彼はあるページで捲る動作を止め、微笑を浮かべる。
「あった」

   話   8   3   第

         鬼   神   九   刀   流

           の   の   の   の   れ


そこにはそう書いてある。
「あ、阿修羅の九本の刀?」
ヴェルゲンズ語で書いてあったそれをそのままシエラは読み上げた。
余りに物騒な名前に、少し言うのを躊躇ったが。
だが、ユーリの答えは少し違う。
「意味はそうだが‥‥‥正確には『阿修羅九刀』って呼ばれてる」
「ア、アシュラキュウトウ?」
またもや訳の分からない発音で訳の分からない単語を言われ、更に困惑した。
それを余所に置き、ユーリは更に補足する。
「またの名を『鬼神九刀』とも言うけどな」


シエラもレフィも訳が分からず、混乱ともいえる表情を浮かべている。
レンは何か引っ掛かるのか、慌てる様子も無くただ落ち着いている。
「鬼神九刀流はこの国の言葉で『鬼の神の九の刀の流れ』っていう。 まあ、これは日天でいう剣術流儀だよ」
「剣術流儀、ですか?」
レフィが繰り返して言う事に特に意味は無い。
が、ユーリは「そ」と親指を立てた。

日天とは東の国の中でも、文化の個性が強い国の一つ。
国土面積は他の国に比べて非常に小さい島国だが、世界規模で言えば技術的にかなり発達している。
料理をはじめ、様々な観点の文化において世界中からの人気は高い。
あまり聞かないのだが、ユーリの持つ直刀、『狼将刃』も日天の技術で作られた物だという。

日天は1000年も前から『〜流』という剣術流儀が多く存在し、『鬼神九刀流』もその一つ。


「結構日天に詳しいんだな。 まさか日天語も知ってたりするのか?」
レンが素直な驚きの感想を述べる。
腕組みしてて素直に言うのは少しおかしいが。
だがそうならユーリの「狼将刃」や「炎牙斬」と言う名前にも納得がいく。
そして期待通りの答えと、少しの補足をする。
「ん、まあな。 魔術について調べる内に賢者達の故郷を訪れて、現地調査しようと思ってな。 退魔秘術だって、わざわざ中国まで行ったんだぜ。 日天だって—————」
そこでユーリは一呼吸置く。
焦らす様に、ゆっくりと。
「空間術を調べる過程で、な」


空間術——————
初代行使者、つまり伝えた賢者は『ヤヅキ・アサナ』
空間術は、生体反応の無い物体、生物でないものを閉次元に閉じ込めたり、操る事ができる術。


ここまでが空間術。
ユーリはどんなに勉強が嫌いでも、魔術だけは興味を持っていた。
そこで彼は、現地調査を行っている内に、あることが判明したのだった。
日天歴史上で一時最強の剣士と呼ばれた者である。
これの何が魔術に関係あるのかといえば、それは名前。

  『朝奈 夜月』

日天はフルネームを苗字・下の名の順番で呼ぶ。
だから外国で言えば『夜月 朝奈』、『ヤヅキ・アサナ』
しかも、その者の使う剣技は『鬼神九刀流』と呼ばれていた。

この点を全て線として繋げばこうであった。
朝奈夜月は賢者にして最強を称した剣士。
夜月は姿を暗ましたらしく、消息は不明となったらしい。
年表で言えば、賢者ヤヅキ・アサナが登場したのはその直後。
歴史学者も同一人物と見て間違いないという。

「うーん。 まあ、大体は分かったけどよ。 それがどうしたって話だよな」
必死に考え込んだレンはとうとうその答えをだす。
ユーリははあ、と溜息をつき、呆れた顔で彼を見つめた。
「お前なぁ‥‥‥。 あいつが言ってたろ、『鬼神九刀流』って。 もしあいつの使うのがそれなら、鬼神九刀流は空間術の応用編じゃねえかってな」
「は?」
レンは声を上げて解せず、という顔を浮かべている。
シエラとレフィも同じだった。
「俺に言わせりゃあ、鬼神九刀流自体が空間術の研究成果だっつー事だよ」


三人の理解を待たず、ユーリは右のページを一枚捲る。
その見開きには、ルリが使っていたあの刀が絵として描かれていた。

阿修羅九刀にはそれぞれに固有利点がある。
それは一つに絞られて作られた物。
まずは、

崩鋸刀
固有利点は「重さ」
相当な腕力が無ければ持ち上げられないが、それから出る破壊力は凄まじい。

薄鋭刀
固有利点は「軽さ」
余りに軽く、故に速く、柔軟な斬撃を生み出せる。
だが、軽さ故に攻撃も弾かれ易い。

絶傷刀
固有利点は「切れ味」
その切れ味は比喩を超えて厚いダイヤモンドでも切り裂く程。
それだけに、扱いはかなり難しい。

矛槍刀
固有利点は「貫通力」
同じく、比喩を超えて厚いダイヤモンドを貫き壊す、絶対の矛。

硬純刀
固有利点は「防御力」
盾その物の防御力と、持ち主への防御力が高い、どんなものも受け止める絶対の盾。
なお、絶傷刀と矛槍刀を照らし合わせると、相当なスピードで連続して攻撃を受ければ硬純刀の方が耐え切れないが、そうでないならどんなに攻撃を受けても壊れない。

弓狙刀
固有利点は「射撃範囲」
これによって打たれた矢は100mを超えても勢いを保つ。

夢幻刀
固有利点は「変則性」
氷点下百何度の冷気で小さな氷の刃を無限に作り続ける。
それによって受け太刀もせず、鞭の様な変則性を持つ。

銃連刀
固有利点は「速さ」
放たれた弾丸はライフルを超えたスピードを持つ。
威力もライフル並なので、簡単には防げない。


「と…まあ、こんな感じか」
長々と説明され、大体は分かった。
別に刀の詳細等知らなくても問題は無いが、これからの説明で必要な知識なら、知っておくに越した事は無い。
だが、一つ解せない事があった。
「なぁ、阿修羅九刀って言ったくせになんで八本しかないんだ? それなら阿修羅八刀でもいいんじゃ‥‥‥」
ピンポーン
そんな簡単な音によってレンの言葉は止められる。
少し苛立ちを覚えながらも、ユーリはベッドから降り、刀を手に取った。
「大丈夫? でも、誰だろう‥‥‥」
シエラの声も気にもせず、玄関の扉まで近づいた。
緊張という言葉だけで表せるこの沈黙の状況、ユーリは迷わず扉を引いた。



瞬間、ユーリの首に鋭利を持つ物体、否、刀が飛んできた。








      鬼の神の九の刀の流れ

          終


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