ダーク・ファンタジー小説
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- ゆめたがい物語
- 日時: 2017/06/03 23:50
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: ZpTcs73J)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=10136
お久しぶりの方はいらっしゃるのでしょうか。
社会人になり、二年目になってやっと余裕が出始めました。
物語の事はずっと頭から離れず、書きたい書きたいと思い続けてやっと手を出す事ができました。
ほとんどの方が初めましてだと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
描写を省きつつ、大切な事はしっかり書いて、一つの文章で、後々に繋がる描写がいくつできるか、精進していきたい今日のこの頃。
と言うわけで、構成ぐちゃぐちゃ、文章ボロボロ、誤字脱字がザックザク……と、まあ、相変わらずそんな感じですが、よろしくお願いします。
二部開始
芙蓉と三笠、兄妹水入らずの旅行。一方で動き出す福井中佐と西郷隆。そしてシベルからは修学旅行でボリスが訪れていて……
——春の夜の、儚い夢も、いつの日か、願いとなって、色を持つ。色は互いに、集まって、悪夢を違える、力となる。
アドバイス、コメント等、大募集中です!
お客様(ありがたや、ありがたや^^
風猫さん
春風来朝さん
夕暮れ宿さん
沙由さん
梅雨前線さん
ヒントさん
彼岸さん
夢羊さん
- Re: ゆめたがい物語 ( No.22 )
- 日時: 2012/03/11 23:50
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: Pc9/eeea)
「さて、と。わたくし、これでお暇しようかしら。今日は東郷少尉と福井中佐にお会いできたから、こんな教理にそぐわない教会だけど、わざわざ来てあげた価値はあったってものね」
紗江は倒れた福井中佐に流し目をくれると、彼を投げた際に少々崩れた着物の帯を、てきぱきと直していった。
袖が揺れるたびに、三笠の表情に緊張が走る。分が悪すぎた。
こちらは三笠と半人前の“チカラ”を持つ嵐、さらに意識のない福井中佐。それに対して、相手は国防軍が目の敵にしている“王志会”の大幹部。しかも、国防軍随一の兵士、福井中佐が手も足も出なかった。
捕らえることができなくても、せめて、意識のない先輩だけでも守ろう。そう思いながら、三笠は中佐をかばうように、銃を美女に向ける。
できれば、このまま何もせずに去っていって欲しい。そんな三笠の願いは、予想外の展開により虚しく砕かれた。
「逃がすか!」
嵐が、手から炎を出しながら突っ込んでいったのだ。紗江の行動に意識を集中させていた三笠は、止めることができなかった。
歴戦の国防軍人、福井竹丸ですら軽くあしらわれた相手である。実力も経験もない嵐が、勝てる相手でも、それどころか傷を負わせられる相手でもない。
「あの、馬鹿」
三笠は悔しそうに歯軋りをするが、動けなかった。民間人を守るのは国防軍人の最優先課題であるが、三笠にとっては嵐よりも、付き合いが長く親しい福井中佐のほうが、守るべき人物であったのだ。
案の定、嵐の炎は紗江が手を振ると消えてしまった。ろうそくの火を消すより軽い動作であった。
美女は嵐に微笑みかけると、一瞬にしてその懐に入り、腕と胸元を掴んだ。三笠は、彼女がやろうとしていることを正確に理解した。嵐の体が宙に浮く。それは、見事な柔道の背負い投げだった。
「学習しない人間は嫌いよ。このまま何もしないのだったら、わたくしも何もせずに帰ってよかったのだけれど」
紗江は床にたたきつけられた嵐の足元に立って、見下すような視線を送った。意識はあるが、痛みと衝撃で少年は動くことができない。
「やはり、こういう手合いはお仕置きしないと」
不意に、紗江はそのほっそりとした右腕をまっすぐに上げた。窓から入る夏の強い日差しの中、その指先がまばゆく輝きだした。
指先が、嵐に向く。三笠も、また当の本人である嵐も、彼女が何をしようとしているのか、おぼろげながら予測できた。だが、二人とも動けなかった。
今まさに指先から何かが放たれんとした時、三笠の視界は白昼夢にでも襲われたかのように、突然違うものに変わった。
様々な声や風景が、洪水のように目の前を過ぎていく。全て、三笠が今まで見てきた記憶だ。幸も不幸も、流れては目の前を去っていった。
——秋山嵐、十一歳、小学六年生です。
意識が元の部屋に戻ってくると、時間は白昼夢前から全く経っていないようだった。床に倒れて、恐怖で引きつった顔をする小学六年生。それが、三笠の視界いっぱいに広がった。
白昼夢中の、記憶が蘇る。すると、ある記憶の一場面が再び現れた。
その時、三笠の頭の中に、福井中佐のことはなかったのだろう。
何かを叫ぶと、三笠は地面を蹴って走り出した。嵐の目が彼のほうを向く。美女はそれを見て、またもやあの蠱惑的な微笑を浮かべたかと思うと、そのまま嵐に向かって指先から何かを放った。
放たれた指三本分くらいの太さの光線。放たれた先には小学六年生の少年。
だが、それは少年の腹すれすれのところで止まっていた。服こそ焼かれたが、肌には傷一つない。
「守銭、奴……」
嵐の目の前には、金にしか執着しないはずだった、高校生国防軍人が立っていた。いつかの占領事件と同じく、背を向けたまま。
しかし、あの時と違うことがある。あったはずの絶対的防御は役を果たしていない。彼の腹は紗江の光線で斜めに打ち抜かれ、とめどなく血が出ていた。
「何で……」
嵐のかすれた声。それに三笠が答えることはなかった。ただ、目の前の微笑を浮かべる美女を睨む。乱れた息の中、痛みで意識が飛びそうになっても、決して膝を付けることはない。
「チカラが破られたのは初めて? 東郷少尉」
紗江は三笠の腹部を刺したまま、ゆっくりと近づいた。芳しい香の匂いが漂う。甘い誘惑。それでも、三笠は膝を付けまいと、ほとんど残っていない気力を振り絞って体を支えていた。
そんな様子を見て、紗江はくすりと笑った。
「わたくし、思いの強さなら、誰にも負けませんの」
三笠の耳元で、透き通った声が囁かれた。背丈はあまり変わらない。それにも拘らず、はるかな高みから投げかけられたかのような、圧倒的な差が感じられた。
美女はかろうじて意識を繋げている三笠、それからすでに意識のない福井中佐に対してそれぞれ深々と礼をすると、日光の入ってくる窓の前に立った。
「それでは、またお会いいたしましょう。わたくしもあなた方が好きですよ、福井中佐、東郷少尉」
紗江は光の中に溶けて、跡形もなく消えてしまった。立っていたところは、相変わらず明るく照らされているだけである。
三笠の意識も、そこまでしか続かなかった。足の力が抜ける。紗江が消えた瞬間、張っていた緊張が解けて、徐々にその視界は闇の中へと沈んでいった。
- Re: ゆめたがい物語 ( No.23 )
- 日時: 2014/02/07 13:59
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: QYeP9kqD)
薬品の臭いが鼻をつく。
辺りでは指示を飛ばす声やそれに答える声、また誰かのうめき声や布を裂く音など、様々な音が入り混じっている。そのため、そこがどこであるかを理解するのは難しかった。
意識が覚醒しかけ、不意に明るい光が瞼の裏側までも突き刺す。
作戦本部三階の救護室。
東郷三笠は、まぶしさから目を逸らすように寝返りを打とうとした。だが、突然腹部に激痛を感じ、目を大きく開けて思わず獣のような呻き声を上げる。
「あー、もう、動くな、馬鹿野郎。ほら、せっかく塞ぎかかってたのにまた開いた」
不機嫌そうなシベル語が降ってきた。三笠は聞きなれたその声に、現実へと引き戻される。
「イヴァン?」
「珍しく派手にやったじゃないか。急所は外してもらったとはいえ、俺がいなかったら長引いたぞ、これは」
イヴァンはそう言いながら、横向きの三笠を強引に仰向けにさせて、再び傷口に人差し指と中指を置いた。光線で打ち抜かれたときとは違い、傷は貫通しておらず、出血量もだいぶ押さえられている。
イヴァンの指先が淡い光を放ちだした。紗江と同じように指先から出ているが、彼女のものとは違い、それには温かみと柔らかさがあった。光は傷の中に入っていき、少しずつだが、三笠の傷は塞がっていく。
これは、イヴァンの持つチカラである。
癒しのチカラ。イヴァンの体力と、それから患者の体力や血などを利用して、傷の修復をしていく能力である。世界中を探しても、このようなチカラを持つ人間は、五人といない。それ故に、イヴァンはこの業界で神の如く崇められているのだ。
「竹丸先輩は?」
「あれはチカラを使うまでもない。もう意識は戻って、お前が庇った秋山ジュニアを慰めてる」
イヴァンはそう言うと、周りにいたほかの軍医に、別の患者に対しての指示を飛ばし始めた。イヴァンはまだ二十一歳という若さだが、その経験、実力から、世界中の軍医から一目置かれている。国防軍の軍医達も指示通りにてきぱきと動き始めた。
周りに手の空いている軍医がいなくなると、青年はまた三笠にシベル語で話しかけた。
「お前にしちゃ、偉かったな。分かってただろ? 清原紗江だっけか。彼女に自分のチカラは通じず、絶対の防御も、何も意味を持たないこと。それでも、命をかけてでも秋山ジュニアを庇うとは」
三笠の能力、瞬身と絶対的防御。
彼の願いに対しては全くの役立たずであるが、これは何より三笠が生き延びるための能力ではないか、とイヴァンは思っている。何が何でも生き抜かないといけない理由を、彼は知っているのだ。
それなのに、三笠はこの日、身を挺して人を庇った。普段ならありえないことであった。
その時、三笠の傷口からの出血量が少し増えた。イヴァンは表情を変えずに光を微調整する。三笠の顔は悔しそうにゆがみ、泣き出しそうであった。
「違う、違う! 俺は、俺が守りたいのは……」
「……分かってる、分かってるさ、三笠。うん、せっかくの機会だ、数日間、ゆっくり休めよ」
イヴァン相手に、三笠の言葉は大和語に戻っていた。心が不安定になっている証拠だ。こうなってしまっては、彼を落ち着かせるのが先決だろう。
イヴァンは自分の配慮のなさを後悔しつつ、治療の力加減を少し変えた。三笠の血などを、治療に少し多めにまわしたのだ。その分、傷は速く塞がるが、使った分だけ当然三笠の意識は遠のいていく。少なくとも二、三日はおとなしく寝ざるを得ないだろう。今の三笠には良い休息になるはずだ。
だんだんと、作戦本部三階の救護室も、外の事後処理隊と同じように静かになっていく。夕日も沈みかけ、紺色の空が迫ってきた。
イヴァンは三笠の治療を終えると、手近な窓の外を見つめた。畑があった場所では、寝袋のようなものがいくつも並んでいる。この戦いで死んだ教会側の人達だ。
イヴァンは、懐から手にすっぽりと収まるくらいの玉を取り出した。木製で、一体の女神が彫られている。
「主、わが命の主宰よ、あなたを信仰し、あなたの名の下に戦い、命を落とした子らに、安寧をお与えください」
イヴァンはシベル語でそうつぶやくと、玉をかざして複雑な印を結んだ。そして、最後に膝をつき、玉に口づけすると、立ち上がって深々と礼をした。
「さすが、シベル人。完璧な作法だな」
「弟から習っただけだよ。俺が知ってるのは葬送の礼だけだ」
知らない間に、イヴァンの背後には福井竹丸中佐が立っていた。頭にはぐるぐると白い包帯を巻き、額のところではわずかに血がにじんでいる。
「過激組織への見せしめだか、国民に対する軍事力のパフォーマンスだか知らないが、よくもまあ、ここまでムイ教徒なり味方なりを傷つけたもんだ」
竹丸の方を向かずに、ただ徐々に暗闇へと沈んでいくムイ教徒たちの遺体が入った黒い布袋を目に映しながら、若いエリート軍医は吐いて捨てるように言った。
踏み荒らされた畑に一台のトラックが入ってくる。おそらく、遺体を積んで処分するためだろう。
親友の後ろに立ったまま、名目上の責任者は一言も言葉を発しない。白い包帯ににじんだ血が少し多くなった。
「まあ、お前も上からの指示でどうしようもなかったんだろうけど、俺はな、こういう戦いが、何よりも一番嫌いなんだ! お前の頼みじゃなきゃ、絶対に参加しなかったよ」
一度コンクリートの硬い壁を強く蹴りつけると、イヴァンは女神の彫られた玉を懐にしまう。ぽつりと忌々しげにつぶやく。「シベルの立場上断れなくてもな」と。
玉をしまった同じ場所から、次は携帯電話を取り出した。等間隔で光っている。どうやら着信があったらしいが、仕事中につき全く気付かなかった。
メールボックスを開くと、つい先程だったらしい。シベル人の名前があった。
「ボリスが……来るってな。竹丸の家に泊めさせて……もらうことにしただ? いつそんな」
「ああ、さっき電話で。お前の弟、お前とは似ても似つかない良い子だな。めちゃくちゃ礼儀正しいし、素直だし」
竹丸はニヤニヤ笑いながら、件の“弟とは似ても似つかない”兄の横に立った。
イヴァンは今回の件について、別に竹丸を責めているわけではない。さらに、彼には愚痴を言うだけ言ったらすぐに吹っ切る潔さがある。
それが分かっているからこそ、竹丸は笑って、軽くおどけることができたのだ。
一方で、イヴァンが親友の嫌味に反論することはなかった。というより、できなかったのだ。弟については全くその通りであり、素直でない兄は面倒くさそうに顔をしかめると、大きな欠伸をした。
「……じゃ、俺はもう寝るぞ。竹丸、作戦の責任者として、俺が起きたらあのたこ焼き腹いっぱい食わせろよ。まさか、三笠まで治療する、破目になる、とは思わなかっ、た」
イヴァンは立ったまま、突然力が抜けたように倒れこんだ。
すかさず竹丸は意識のない親友を支える。イヴァンのチカラは、三笠や竹丸とは比べ物にならないほど体力や精神力を使うのだ。こうなっては丸一日寝たままである。
竹丸はイヴァンを近くのベッドに寝かせると、先程の親友と同じように、窓の外を眺めた。駆け足のように、空は暗くなっていく。
見よう見まねで親友が行っていた葬送の礼をしようとするが、うまくできずに、ただ手を宙でかき混ぜるだけになってしまった。
どこかで、カラスの声が通り過ぎていった。
- Re: ゆめたがい物語 ( No.24 )
- 日時: 2012/09/12 00:27
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: B/p47WjD)
第六話 ムイ教徒と異国の病院
大和国、首都である東城。その水の区と呼ばれる場所は、『大都会に隣接していながら緑と水を楽しめるオアシス』という謳い文句の下、ベッドタウンとして着実に発展を遂げている地域だ。
特に、ここ五年間の人口の増え方は際立っている。大型ショッピングモールもでき、また全国的にも上位に位置する進学校、国立秋込高校移転先の誘致にも数年前に成功した。
それゆえか、首都東城以外の地方からも転居希望者が殺到している。
「次は、海岸病院、海岸病院でございます、お降りの方は、お近くの——」
そんな水の区、強い夏の日差しにきらめく海の横を走る空いた路線バスに、この辺りでは見かけないような少年が乗っていた。
渋い茶色のかばんを肩から掛け、服装はこの暑い中、学生服でもないのに長袖長ズボン。優先席に座っている老婦人たちは、まるで動物園のパンダを見るかのように、好奇の視線を向けている。
年のころは、十代前半といったところだろうか。大和国で言うと、中学生くらいだ。
そう、大和国で言うと。
真っ青な目に、黄緑色の短髪。そして、高い鼻に、真っ白な肌。少年は、どこから見ても大和人ではなかった。
しかも、老婦人達の知る限り、ずっと立っているのだ。乗客は十人に満たない。席はどうぞ座ってくださいとばかりに空いている。それなのに、青い目の少年は、背筋をしゃんと伸ばして、バスの前方にあるつり革につかまっていた。
「それでは、トメさん、カメさん、あたしはここで」
老婦人は自分より何歳か若い友人達に声をかけると、バスがまだ止まっていないのはお構いなしに、近くの金属の手すりにつかまりながら、よろよろと立ち上がった。しかも、その手には大きなかばん。
その時、バスが信号に差し掛かり、急ブレーキをかけた。立った老婦人はその衝撃に耐え切れず、かばんは手から離れ、自分は前のめりに倒れこむ。
周りの友人達が何もできずに声を上げる中、彼女を救ったのは、先程の少年だった。
急ブレーキにも拘らず、つり革を放して体勢を低くし、老婦人の倒れこむ場所に先回りすると、そのまま彼女を片手で抱きとめた。ついでに飛んできたかばんも、もう片方の手で難なくキャッチ。相当の運動能力がないとできない技だ。
老婦人が顔を上げると、少年は青い目を細めてにっこりと笑った。先程まではものめずらしくて、誰もまともに彼の顔を見ていなかったが、よくよく眺めると将来が楽しみな端正な顔立ちをしている。
「ありがとうね、お若い人」
老婦人は手すりにつかまりなおすと、少年にそういって頭を下げた。彼もまた、つり革につかまる。だが、今度はバスの前方ではなく、優先席の前のつり革だ。
大きなかばんは、まだ少年が持ったままだった。
「パジャールスタ」
少年は老婦人の言葉に、少し考えるような顔つきになってから、再び微笑むと、聞きなれない外国語を口にした。おそらく、大和語で言うと“どういたしまして”の意味なのだろう。
バスが再び止まった。今度は信号ではなく、停留所だ。海岸病院。そう電光板には映し出されている。少年はポケットからメモ用紙を取り出し、もう一度電光板の“海岸病院”という文字を確認した。
老婦人は少年にお辞儀をすると、かばんを彼から受け取ろうとする。だが、少年は顔の前で手を横に振り、出口を指差した。どうやら、バスを降りるまで持ってくれるらしい。
「ありがとうね」
「パジャールスタ」
今度は、何も考えることなく、少年は笑顔で言った。
バスから降りるときも、まず彼が先行し、老婦人に手を貸しながら、停留所の黒く光るアスファルトを踏んだ。どこまでも紳士的。外見だけではなく、内面的にも数年後にはどんな好青年に成長するかと、万人に思わせてしまう魅力を持った少年であった。
停留所は、大きな総合病院の目の前に位置する。老婦人はこの施設に用があったのだ。そのほかには、徒歩五分圏内に商店街や、植物園、海浜公園などがあり、病院を中心として開発が進んでいる地域であった。
少年も、きっと植物園などを見に来たのだろう。病院に用事があるとも思えない。そんな風に老婦人は思っていたが、意外な展開、彼がしきりに見直しているメモ用紙をのぞくと、そこにははっきりと漢字で“海岸病院”の文字が確認できた。
「あんた、海岸病院に行くのかい?」
老婦人は驚いて、思わず大和語でそう聞いてしまった。少年は大和語を解さないようだが、一生懸命に今言われたことの意味を考えている。
そこで、老婦人は病院とメモ用紙を順番に指差した。すると、何とか意味が通じたようで、「ダー」と少年は微笑みながら答えた。この言葉の意味は彼女も知っている。シベル語で“はい”という意味だ。
「あたしもだよ、奇遇だね」
自分を指差しながら、老婦人はカッカッカと笑った。次はすぐに意味が通じたようで、少年は本当にうれしそうな顔をすると、彼女の荷物を持ったまま病院へと歩き出した。
- Re: ゆめたがい物語 ( No.25 )
- 日時: 2012/03/22 18:50
- 名前: 夕暮れ宿 (ID: blFCHlg4)
実は以前から読んでいました。一人称小説も好きですが三人称小説は入りやすくて読みやすいです。これがゲーム化されたらいいなんてふと思いました。清原紗江、美女はやっぱり怖いです(笑)。
- Re: ゆめたがい物語 ( No.26 )
- 日時: 2012/03/23 23:59
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: Gv0sVNBw)
お客様だ! 本物だ! 夢じゃな(略
はじめまして、こんばんは、紫です
以前から……もう、感動で感動で、外の雨は紫の涙です
とぎどき、ゲームしながらふと考えるんですよね、これ、小説じゃなくてゲームだったらどうなるんだろうと……だいたいカオスです。
美女は、怖いですね。絵的にも和服の優雅な美女って、何か威圧感を感じます
そんなこんなで、ここのところ引っ越しとか入学準備だとかでワタワタしていて、更新速度も落ちそうな紫ですが、これからもこの物語におつき合いいただければ幸いです^^
それでは、コメントありがとうございました!
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