ダーク・ファンタジー小説
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- ゆめたがい物語
- 日時: 2017/06/03 23:50
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: ZpTcs73J)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=10136
お久しぶりの方はいらっしゃるのでしょうか。
社会人になり、二年目になってやっと余裕が出始めました。
物語の事はずっと頭から離れず、書きたい書きたいと思い続けてやっと手を出す事ができました。
ほとんどの方が初めましてだと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
描写を省きつつ、大切な事はしっかり書いて、一つの文章で、後々に繋がる描写がいくつできるか、精進していきたい今日のこの頃。
と言うわけで、構成ぐちゃぐちゃ、文章ボロボロ、誤字脱字がザックザク……と、まあ、相変わらずそんな感じですが、よろしくお願いします。
二部開始
芙蓉と三笠、兄妹水入らずの旅行。一方で動き出す福井中佐と西郷隆。そしてシベルからは修学旅行でボリスが訪れていて……
——春の夜の、儚い夢も、いつの日か、願いとなって、色を持つ。色は互いに、集まって、悪夢を違える、力となる。
アドバイス、コメント等、大募集中です!
お客様(ありがたや、ありがたや^^
風猫さん
春風来朝さん
夕暮れ宿さん
沙由さん
梅雨前線さん
ヒントさん
彼岸さん
夢羊さん
- Re: ゆめたがい物語 ( No.72 )
- 日時: 2014/02/20 19:34
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: SsRumGYI)
かの大樹の根元の隙間に、兄弟で身を落としていくと、その出口では老婆が待っていたかのように胡座をかいていた。語らずとも全てを見透かしているようなたたずまいに、初めて会うボリスは思わず姿勢を正して、緊張した面持ちで見つめた。
「世の中は奇怪じゃ、誠に、奇怪。しかし、その奇怪こそが、母なる女神がお与えになった運命であり、チカラ、というもの」
老婆はそう言うと、木製の古びた玉を取り出して、軽く口づけをした。ボリスやイヴァンの持っているものと似ているが、そこに女神は彫られていなかった。
「お下がり、イヴァン=ボルフスキー。わしはお前の弟に話がある」
無造作に束ねた白髪。その赤いリボンが異様に目立つ。老婆が冷えた口調でイヴァンに言うと、兄は一部だけ編み込んだ髪をゆらし、来た道を再び黙ったまま戻ってしまった。
そして、妖しげで薄暗い部屋の中は、老女と少年の二人きりになる。木を流れる水の音が、あちらこちらで反復していた。
「わしのチカラはお前の兄とは違い、誰かの治したいという思いによって成り立つ。それこそ、命すらも捨てられる程の、強い願いじゃ」
老婆はそう言うと、ボリスの鼻先までぐいっとにじり寄る。濁った両眼が、少年の透き通った碧眼と合わさる。目を背ける事は、しなかった。ボリスも、精一杯の力を持って、見つめ返す。
「良い目じゃな、流石ボルフスキーの弟。だが、ボリス、お前に、その少女のために命を捨てる覚悟はあるかえ?」
濁った眼は、優しさと悲しみの両方をそれぞれの瞳に宿していた。
いったい、どれだけの経験をすれば、このような表情をすることができるのだろう。仮にも軍に身を置き、様々な人と関わってきたボリスでさえ、見た事のない顔だった。
「覚悟……?」
「そうじゃ、お前の思いの強さを示せということ」
ボリスの問いに、老婆は答えながら立ち上がり、散乱した机の上で何かを探し始めた。
雫が数滴、少年の額に落ちてくる。
「どうやって」
「簡単じゃ。ほれ、このナイフで、自分で急所を一突き、そうすれば、お前の思いは伝わり、少女は助かる」
老婆は、さも当然という風に、ボリスにナイフを投げた。
乾いた音を立てて、ナイフは少年の膝元に落ち、そこから動く事はない。美しい造りの、名剣であった。
ボリスはナイフを拾い、唇を震わせながら、その刃を見つめる。無数の燭台に照らされ、名剣は鈍く光った。その刃には、少年の碧眼が映る。老婆の言った事、単刀直入に言えば、それは自害しろ、ということだった。
「元々、死ぬ運命だった子だ。家族はそれこそ人生、命を投げ打ってその子をここまで生かした。運命を変えるってのは、容易い事じゃないんだよ。さあ、早く決めな、お前が死んでその子が生きるか、その子が死んでお前が生きるか」
まるで、どうでも良いとでも言うような口調だった。
老婆が兄を遠ざけた理由が、やっと分かった。イヴァンがここにいれば、決してこんな事認めなかっただろう。命を捨てようとしたところで、自分のチカラで助けてしまった事だろう。
死にたくはなかった。
だが、死にものぐるいで前線に志願して、自分に助けを求めてきた哀れな少女を救う方法を探していた時は、それこそ、命などどうでも良かった。
死にたくないのは事実だった。
だが、女神からチカラを授けられた以上、その願いのために最善を尽くすのが、何より正しいのではないかという、そんな思いが強かった。女神がそのために、あの少女を救うためのチカラを与え、この機会を与えたのならば、その運命に従う事が、ムイ教徒として正しい事なのではないだろうか。
あの子に、死んでほしくなかった。
初めて自分に助けを求めてきた声が、頭の中で響く。眠りについている間、楽しい事は何一つなかっただろう。その反面、自分は兄のおかげで学校に通い、幸せな生活を送れていた。
あの子に、幸せになってほしい。
ボリスは、ナイフを力強く握った。刃に映るその顔は、微笑んでいた。
首の真ん中に、まっすぐ狙いを定める。
老婆は、濁った眼を、やはり濁ったまま、その様子を読めない表情で見つめていた。
そしてボリスは、祈りの言葉を一言口にすると、ためらう事なく刃を喉に突き立てた。壊れた笛のような息を何度かし、口にあふれてくる真っ赤な鮮血を吐き出す力もなく、薄く開かれた唇の間から、垂れ流していた。
もはや、咳き込む力もない。しかし、その碧眼はまっすぐ老婆を見つめ続ける。
冷たい土の上に倒れ込んだのは、刃を突き立ててからほんの十数秒後だった。
「お前の願いは届いた、お前は死に、少女は生きる——」
- Re: ゆめたがい物語 ( No.73 )
- 日時: 2014/02/20 20:02
- 名前: 梅雨前線 ◆j5KZfkTVqc (ID: gF4d7gY7)
とても読みやすい綺麗な小説ですね!
丁寧でスイスイ一気読みしちゃいました!!
これからも更新頑張ってくださいね(*^^*)
影ながら(電柱とか)応援してます。+゜|ω・`o)ノ
- Re: ゆめたがい物語 ( No.74 )
- 日時: 2014/02/20 20:16
- 名前: ヒント (ID: jFPmKbnp)
はじめまして、ヒントと申します
異能とか、軍隊とか、ハッキリ書かれた生死観とか……何から何まで直球ど真ん中にきました
文章も読みやすいうえに、表現のバリエーションにも富んでいてプロの作家さんとくらべても遜色ないと思います
続きがヤバイほど気になりますw
これからも更新頑張ってください
- Re: ゆめたがい物語 ( No.75 )
- 日時: 2014/02/21 20:56
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: SsRumGYI)
コメントのない事に定評(?)のある私の小説に二人もお客様が……!
梅雨前線さん
はじめまして、紫というものです。
文章をどう書けば一番伝わりやすいか、その辺りに頭を抱えつつかいていますので、そう言っていただけるとすごくありがたいです^^
これからも読みやすい、でも表現等の必要なところは省かないをモットーに頑張っていきますので、よりしければ今後ともお付き合いください
……私も反対側の電柱の影からまた来られる日を待っておりますぞ(^し^)
ヒントさん
はじめまして、紫という何かです。
異能は考えていると楽しいですよね、私も楽しく考えつつ、そのうち矛盾が出てきて、ちょこちょこ修正したりしてあばばばば、という日々を送っております。
軍隊も、本当はもう少し勉強して書きたいところですが、そこも補い補いで書いている感じです。軍服萌えの紫です、こんばんは。第二部ではもう少し軍とかその辺りを掘り下げていきたいなーと
この物語は三部構成予定で、その一部が佳境になっている感じです。そんなわけで、まだまだ続きますが、これからもお付き合いいただければ幸いです^^
- Re: ゆめたがい物語 ( No.76 )
- 日時: 2014/02/28 20:52
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: SsRumGYI)
抑揚のない声色。窓のない、燭台頼りの薄暗い部屋で冷たく響く。
老婆は片手を高く上げた。
そして、やはりしゃがれた声でつぶやく。
「——奇跡の軍医、イヴァン=ボルフスキーがここにいなければな」
老婆の合図とともに、どこに隠れていたのか、血相を変えて黄緑色の髪の青年が、薄暗い部屋に飛び込んできた。ぐったりする弟を仰向けにして、喉に突き立てられたナイフを抜き、即座に治療を開始する。
生きてボルフスキー大尉の元に辿り着ければ、決して死なない。
そう世界各国の軍隊でささやかれるように、たとえ数分で死んでしまうような状態でも、生きてさえいれば、イヴァンは助ける事ができるのだ。
「なんて弟だい、本当に死のうとするなんてね」
薄暗い部屋が、一瞬だけ、目映い光に包まれた。妖しげな薬瓶に乱反射して、ステージかなにかのように、色とりどりの光が満ちる。
ナイフを拾い上げてつぶやいた姿は、老婆のそれではなかった。
背筋は伸び、白髪はつややかな黒髪に変わっている。燭台に輝く髪。赤いリボンが、その魅力をいっそう引き立てる。濁った瞳は冷めた碧眼となり、声は生娘のように初々しかった。
イヴァンの師匠、老婆だったその女性は、どう見ても二十歳そこそこのうら若き女性へと姿を変えていたのだ。
「弟の性格を知って、それでもわしのところに寄越したお前もお前だがね、弟思いのお前とは思えない行動じゃ」
口調は、老婆のままだったが、声の若々しさと相成って、不思議な魅力があった。
「ほっといても、ボリスは前線に志願しまくって、死んでたでしょうからね。弟の性格は、よく知っています」
治療の手を緩めず、イヴァンは言った。アントンからの電話を受けた時から、解決策が一つしか、ボリスの願いを叶える事しかないのは、よく分かっていたのだ。
手のひらから出す光を微調整しながら、イヴァンはため息をついた。治療には自分の力よりも、弟に残っている力を優先して使っているようだ。しばらくは起きたくても起きられまい。兄なりの、戒めのつもりだった。
治療が終わった頃、老婆だった若い女性は、イヴァンの目の前だというのに気にする事なく着替えをはじめた。服を脱ぎ、下着を脱ぎ捨て、そして若い女性らしい余所行きの格好へと変わっていく。
一方、青年も青年で、全く気にする様子はない。顔を背ける事もなく、何事もなかったかのように一度大きくあくびをすると、ボリスのために部屋中から布を集めて寝床を作り、そこに寝かせた。
「毎度思うが、ボルフスキー、若い姿のわしが目の前で裸になっても、お前は何とも思わないんじゃな、若い男として大丈夫かえ?」
「この世の半分は女性ですよ、師匠。それくらいで赤くなってちゃ、医者なんかできませんって」
師匠のからかいを上手い具合にかわし、イヴァンも治療道具を片付けた。その頃には、すっかり美しい女性へと化けた老婆が、出入り口の穴の前でさっさと来いと催促していた。
「東郷三笠に連絡を入れろ、至急、海岸病院に来いとな。抜け道を使えば、ここから二時間程でわしらも着くじゃろう」
「ボリスは?」
「三日は起きんようにしたろ? 二日で帰ってくれば、問題あるまい」
若い姿の師匠は、そう言うとさっさと先に進んでいってしまった。
早く後を追わないと、その抜け道とやらが分からなくなる。
イヴァンは眠る弟を一度心配そうに見ると、すぐに気持ちを入れ替えて、師匠の後を追っていった。
地中深く深くを降りていき、時には根の上を滑り落ち、服がぼろぼろになった頃、遠くに光が見えた。人一人通れるくらいのトンネルは、最初のころは太い根が形作り、だんだんと土のみとなっていく。息づかいさえ反響する道であった。
その最中に、イヴァンはダメ元で携帯電話の電波状態を確かめる。地中はさすがに繋がらないだろうと思っていたが、なんと、電波状態は最高状態であった。おかしい、と思うが、全てはこの師匠のなせる技なのだろうと、無理に納得する。
そして、アドレス帳の最後から二番目、親友、東郷三笠に電話をかけ、出るのを今か今かと待ちながら、光を目指して歩み続けた。
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