ダーク・ファンタジー小説
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- ゆめたがい物語
- 日時: 2017/06/03 23:50
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: ZpTcs73J)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=10136
お久しぶりの方はいらっしゃるのでしょうか。
社会人になり、二年目になってやっと余裕が出始めました。
物語の事はずっと頭から離れず、書きたい書きたいと思い続けてやっと手を出す事ができました。
ほとんどの方が初めましてだと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
描写を省きつつ、大切な事はしっかり書いて、一つの文章で、後々に繋がる描写がいくつできるか、精進していきたい今日のこの頃。
と言うわけで、構成ぐちゃぐちゃ、文章ボロボロ、誤字脱字がザックザク……と、まあ、相変わらずそんな感じですが、よろしくお願いします。
二部開始
芙蓉と三笠、兄妹水入らずの旅行。一方で動き出す福井中佐と西郷隆。そしてシベルからは修学旅行でボリスが訪れていて……
——春の夜の、儚い夢も、いつの日か、願いとなって、色を持つ。色は互いに、集まって、悪夢を違える、力となる。
アドバイス、コメント等、大募集中です!
お客様(ありがたや、ありがたや^^
風猫さん
春風来朝さん
夕暮れ宿さん
沙由さん
梅雨前線さん
ヒントさん
彼岸さん
夢羊さん
- Re: ゆめたがい物語 ( No.67 )
- 日時: 2014/01/25 14:48
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: SsRumGYI)
約二年ぶりのコメントや!
はじめまして、こんにちは、コメントありがとうございます^^
実は上記の通り二年間感想がなかったもので、果たして自分はしっかり書けているのか、これで良いのか、どうしようと、悶々と考えていましたので、そう言っていただけるとすごくありがたいです
とても思い入れのある物語なので、これからも精進しつつ、楽しく書いていく所存なので、今後もよろしくお願いします!
……イラスト描いてくださるんですか!
うわわわわ、どうしよう、何せ美術の成績偏差値30なかった紫なので、描いていただければすごくうれしいです!
読んでいただき、さらにコメントまで残してもらった上に、イラストまで……!
もしよろしければよろしくお願いします^^
- Re: ゆめたがい物語 ( No.68 )
- 日時: 2014/02/03 18:29
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: SsRumGYI)
打ち付ける滝の冷たさは、もはや感じなくなっていた。
だが、忘れた頃に打ち付けられる痛みが身体を襲い、少年はわずかに顔をしかめる。滝に叩かれ続けた肩は、痛々しく変色していた。
——俺に、何ができる? どうしたら、芙蓉を守れる?
つむったまぶたの裏側が、急に照らされたように感じ、その遥か向こうから、一人の男が歩いてきた。広い歩幅に、背は高く、背広の上からでも分かる、がっしりとした筋肉質の体格。
生前の、父の姿だった。
——考えろ、動け、止まるな、だろ、父さん。
父の姿はどんどん大きくなる。
だが表情は見えず、さらに一言も発しなかった。性格を表すかのような規則正しい足音のみが、ただただ、真っ白の空間で響き渡る。
——でも、でもさ、父さん、本当は、もう、俺、何にもできないんじゃ。
途端に、肩に鋭い痛みを感じた。でも、というのは、父の嫌いな言葉だった。
懐かしい姿は消え、再び、目をつむった真っ暗な世界が広がる。白滝の冷たさも、突然全身を襲い、奥歯が痛みと寒さでがたがたと震えた。
——考えるな、動け、止まるな。
いくら今までのようにそう思っても、痛みと冷たさが消える事なかった。
顔を、滝の冷たい水が伝う。目からも、鼻からも、水が伝っていた。
まぶたの裏には、何もない。誰もいない。
そんな中で、眠りにつく前の愛する妹の姿だけがわずかに見えて、そして消えていった。
——芙蓉。
姿を追い、三笠は目を開けた。
妹の姿は、もちろんない。
だが、そこには、いつからいたのか、安倍ほたるが、心配そうな顔をして、腹まで水につかりながら、三笠を見つめていた。
「東郷君、帰ろう?」
自身も水の中でかすかに震えながら、それを悟られまいと賢明に微笑んでいた。
似ている、と思った。
芙蓉というより、どこまでもお人好しで優しかった、母に似ていると思った。
差し出された手を思わず取ってしまったのは、そのためだろう。三笠は一度だけ、滝を肩越しに見る。父に、呼ばれた気がした。
だがそこには、やはり誰もいなかった。
「ボリス、お前……」
と言って、イヴァンは押し黙ってしまった。
九月末だと言うのに、冷たい雨が、体に突き刺さる。軍服姿で、体のあちこちに包帯を巻いている弟も、兄を見つめたまま何も言わなかった。
フラッシュバックによる吐き気も、その記憶すらも、彼の頭にはない。幻覚ではあるまいかとも思うが、しかし現に目の前にいる弟を疑う気にもなれなかった。
「兄さ——」
「——怪我か? 怪我、してるな、ボリス。後頭部と首の後ろと左腕、それから、腰も打ったか? アントンの野郎シベルに帰らせるって、怪我の手当もろくにできないのか、呆れた軍曹様だ」
弟が何か言おうとするのを遮って、イヴァンは勝手にまくしたてながら、ボロボロの鞄から簡易医療セットを取り出し、しっかりと巻かれた弟の包帯を取り始めた。
「兄——」
「——まあ、そんな大した怪我じゃないな、ちゃんと手当てしてしっかり休めばすぐに良くなる」
なおも、イヴァンは弟の話を聞こうとしない。大粒の雨が、大きな木々に降り注ぎ、雫は四方八方へ飛び散っていく。風も出てきていた。
弟の言葉を、聞きたくなかった。
雨のみが、現実のものとして、兄弟の体を冷やしていた。
「兄さん!」
「分かってる! 分かってるさ、分かってるよ、お前がここにいるはずがない、来れるはずがない……チカラ、だな」
叫んでから、イヴァンは力が抜けたように、治療の手を止めてしまった。
無言でうなずく弟を、兄は見ていたか、それとも見ていなかったか。
チカラ、強い願い、それこそ命を投げ打てるほどの強い思いによって与えられる、どうしようもない運命を変える能力。彼自身がそうであり、また、東郷三笠や福井竹丸と言った、同類たちのたどってきた人生とその後の過酷な道を知っているからこそ、イヴァンは弟の言葉を信じたくなかった。
「兄さん、兄さんはいつも、僕の相談を聞いてくれた、僕のチカラは僕の願いを叶えてくれないけれど、一刻も早く兄さんの所に辿り着けた。兄さん、僕の話を聞いて」
弟は今まで、どこか自分の居場所がないように、迷った視線を向け、また、出来の良い兄に対しては引け目を感じているように、面と向かってイヴァンに頼み事をしたことがほとんどなかった。
そんな弟が、今回は何にも変えられない願いを抱えて、自分を頼ってきた。
雨の降る中、濡れた黄緑色の髪を耳の後ろにかけながら、イヴァンは弟と正面から向き合った。
「僕は、誰かに頼られたことがなかった。兄さんみたいに、必要とされたことがなかった」
ボリスは静かに語りだした。
雨の音が、神聖な楽器のように、物寂しげな音色を作る。
兄は、一言も口を挟まなかった。
「でも、僕に、僕だけに助けを求めてきた子がいる。何故か分からないけれど、僕だけに聞こえる声で、その子は助けてって言ってきたんだ」
嘘をつく弟ではないと言うことは、分かっている。信心深いボリスは、何よりも嘘と言うものが嫌いなのだ。
だから、ボリスの言っていることがどんなに説明がつかないことでも、イヴァンはただ純粋に信じようと思った。
「体中に機械を付けている子で、ずっと病室で、一人で寝ている」
その言葉に、イヴァンは口をだらりと開き、そのまま塞がることはなかった。
息が不規則になり、唇は震えてくる。雨の冷たさ故では、ないだろう。
そんな兄の様子に、ボリスは気付かない。ただただ、大和に行った時に出会った少女の白い手の温もりのみが、純粋な心を支配する。
「兄さん、僕にできることを知りたい、兄さんに、何とかしてくれとは言わない、僕はあの子を、助けたい」
「ボリス」
イヴァンは、そこで初めて口を挟んだ。
雨が、若干弱まってきた。弟も、思い出の世界から、現実の世界へと帰ってくる。
そして、やっと気付いた。目の前の兄の表情にはっとする。
「その子、今どこにいる?」
「……大和の海岸病院の、七階」
弟の答えを聞き、イヴァンは溜まらず天を仰いだ。弱まった雨雲の隙間から本のわずかに太陽が見える。
「ボリス、俺は、俺は“あの時”以来初めて、神様ってのを信じてやっても良いかなって思えたよ」
「兄さん?」
顔を隠すように空を見上げた兄の首筋を、止めどなく雫が伝う。雨ではない。ただ降り続くだけの雨とは輝きが違った。
兄が泣いている。
ボリスは、イヴァンの泣いている所など、生まれてから一回しか見たことがなかった。しかも、その時のようなどす黒い感情が入り交じった涙ではなく、美しい滝のように透き通った、大粒の雫であった。
「お前なら、純粋にあの子を助けたいお前なら、もしかしたらあの子を助けられるかもしれない」
「本当に? 僕が役に立つのか?」
泣きながら笑顔を向ける兄に、ボリスは顔を輝かせてにじり寄った。
イヴァンは力強くうなずく。そして、そのまま山道を再び登り始めた。
「俺とお前のチカラが、願いが、悪夢を違える力となる」
- Re: ゆめたがい物語 ( No.69 )
- 日時: 2014/02/03 20:48
- 名前: 沙由 (ID: gcTkfQD.)
- 参照: http://galleria.emotionflow.com/30422/1/
二年ぶり! コメントなしに書き続けられるなんて、すごいです! 尊敬しちゃいます。
多分皆さん気後れしてるのですよ。前のコメントが古くなればなるほど、何を気軽に話しかけづらくなっていくんですよ。
私も勇気を振り絞り、コメントした後何度自分のコメントを削除しようとしたか……。
さて、例のイメイラを描きました。
紫さんのイメージをひどく崩壊させているところがあったら、言ってくださいな。直します。
そして、タイトルを見ればわかると思いますが……どうでしょう、元気がある限り暴走し続けますが、さぁ、止めるなら今です!
- Re: ゆめたがい物語 ( No.70 )
- 日時: 2014/02/04 22:35
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: SsRumGYI)
もう、コメントを気にせずに数少ない娯楽として小説が中高大と残ったからでしょうか、小説、もしかしたらイラストもかもしれませんが、いろいろな趣味の中で、比較的お金のかからない部類だと思うんです(あ、絵は画材とかソフトとかいろいろあるか……
華道とか旅とかも好きなんですが、いかんせんお金がかかるので、ここのところ趣味と言えば小説か相撲か帰省か……女子大生って何だろう
でも、コメントをいただくとまた欲も出てきてしまいましたね、やっぱり何かを作っている以上、それに対する反応というのも得たいものですし
そういうわけで、コメントのみならずイラストまで、ありがとうございました!
止めるどころか巨大団扇で追い風バンバン送ります、待ってます!
- Re: ゆめたがい物語 ( No.71 )
- 日時: 2014/02/14 00:05
- 名前: 紫 ◆2hCQ1EL5cc (ID: SsRumGYI)
二人してずぶ濡れになってしまった。
家の裏手にある物置から薪を取ってきた三笠は、暖炉にくべると、そのままリビングから出ていった。大きなバスタオルを何枚か渡されたほたるは、それにくるまって火が大きくなるのを待つ。その下は何も身に付けていないため、動こうにも動けなかった。
三笠はしばらくすると戻ってきて、ほたるに服やら下着やらを、目をそらしながら差し出した。
「母さんのだ、ないよりはマシだと思うけど、良ければ使ってくれ」
「ありがとう」
そう言って服を受け取ると、三笠は再びどこかへ行ってしまった。国防軍という大人の世界で生きているわけだが、こういう時折見せる少年らしさがまた可愛らしい。着替え中は居場所を失ったかのように、玄関辺りをうろうろしている。要するにまだまだお子様なのだ。
暖炉の火は、いよいよ強くなってきた。
三笠とほたるは、無言で何杯も茶を飲みながら、向かい合っている。目は合わせない。というより、三笠が、合わせようとはしなかった。
「……滝に打たれるとさ」
口を開いたのは三笠だった。目はやはり少し逸らしている。無理にあわせようとは、ほたるもしなかった。
「父さんに怒ってもらえる気がするんだ。お前は何やってんだってさ。でも、だめだな、怒られても、どんなに怒られても、俺が今どうするべきなのかは、一向に見えてこない、このままじゃダメなのは、分かってんのにな」
そう言って、三笠は微笑んだ。
また、あの微笑みだ。アパートで見せた、壊れそうなくらい澄んだ、あの笑顔だった。
三笠はすっかり薄くなった出がらしの茶を口に含む。やりきれない思いを、押さえ込むかのように、何杯も茶を飲み続けた。
「ねえ、東郷君」
ほたるの声に、三笠は茶を飲む手を止めた。壊れそうな微笑みに、だんだんとひびが入っていくのは、火を見るよりも明らかだった。
そんな脆い笑顔なら、いっその事粉々にしてしまおうと、ほたるは思った。
「ここには、私しかいない。世間の目も、何もない。泣いてよ、泣いて愚痴言って、弱音吐いて、気持ちを押さえ込んじゃ、東郷君がつぶれちゃう」
そう言うほたるも、泣いていたかもしれない。
暖炉の火が大きく燃え上がる。薄暗い室内を、暖炉の火が明るく照らす。三笠の顔も、その変化も、よく見えた。
「……俺は、情けない兄貴だ。芙蓉のために何ができた。芙蓉が何したってんだ、キツネ面に対する罪か、それなら、父さんと俺だけで十分じゃないか。俺は無力だ、このチカラが何になるってんだ、俺がどんなに何をやっても、芙蓉は遠くに行っちまう」
くしゃくしゃに表情を歪めながら、三笠は絞り出すように言った。はらはらと落ちる涙は、赤く照らされた床の上に止めどなく落ちる。
ほたるは黙って、その様子を見守っていた。
「孤児院の連中も、政府機関もくそくらえってんだ! 芙蓉は治る事はないから金は払わないだ? そのかわり、俺にご両親と妹さんの分までしっかり生きるんだよだってか? 偽善者どもめ。守銭奴三笠、ああそうさ、言わせておけば良い、あいつらに何が分かる、金がなきゃ、芙蓉は生きていけないんだ」
泣き言は、獣のようなうなり声に、そして吠えるような勢いに変わっていった。
ほたるは、三笠の事を調べたとはいえ、やはりまだ何も知らなかった。だが、この泣き言の一つ一つから、東郷三笠という少年の辿ってきた道が、見え隠れする。
無慈悲なのは運命の女神と世間の人たち。
そう言った憲兵隊の西郷隆の言葉が、今になって再び心の中によみがえる。おそらく、彼は三笠の辿ってきた道のりをかなりのところまで理解していて、その上で放った言葉だったのだろう。
「神がいるなら、何でこんな目に遭わせる、チカラを与えるだけ与えて希望を持たせておいて、結局俺は、このチカラで芙蓉を救えやしない」
目からは涙が滝のように流れ、鼻水を拭うこともなく、その顔は、国防軍エースにはとても見えないほど、情けないものであった。それを、ただの一般人である帰宅部エースの少女は、慰めるでもなく、励ますでもなく、ただ聞いていた。
三笠は、それからも泣きわめき続ける。
弱音は堂々巡りになり、時には懺悔、時には悪態、そして時には諦め。おそらく、両親の死以来、ここまで長く、心のうちを吐き出した事はなかったのではないだろうか。
「知ってる、知ってるさ、いくら言っても、考えても、芙蓉を救えないのは俺に力がないからだよ、知ってるさ、芙蓉……」
どのくらい時間が経ったか。
弱音が懺悔のみになってきた辺りで、ほたるははじめて三笠の頭を胸に抱き寄せた。
少女のぬくもりと、服に残る母の香りが、少年の胸を満たす。
拭く事も、乾かす事もしなかった三笠の髪は時折雫を落とし、その様子は、まるで雨に濡れた子狐のように、か弱く儚げであった。
雷鳴が鳴り響き、古びた家を、柱ごと揺るがす。
しばらく震える背中をさすっていると、いつの間にか三笠は深い眠りに落ちていた。
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