二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——完結——
- 日時: 2013/04/14 15:29
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=21394
今作品は前作である『ポケットモンスターBW 真実と理想の英雄』の続きです。時間としては前作の一年後となっておりまして、舞台はイッシュの東側がメインとなります。なお、前作は原作通りの進行でしたが、今作は原作でいうクリア後なので、オリジナリティを重視しようと思います。
今作品ではイッシュ以外のポケモンも登場し、また非公式のポケモンも登場します。
参照をクリックすれば前作に飛びます。
では、英雄達の新しい冒険が始まります……
皆様にお知らせです。
以前企画した本小説の人気投票の集計が終わったので、早速発表したいと思います。
投票結果は、
総合部門>>819
味方サイド部門>>820
プラズマ団部門>>821
ポケモン部門>>822
となっています。
皆様、投票ありがとうございました。残り僅かですが、これからも本小説をよろしくお願いします。
登場人物紹介等
味方side>>28
敵対side>>29
PDOside>>51
他軍勢side>>52
オリ技>>30
用語集>>624
目次
プロローグ
>>1
第一幕 旅路
>>8 >>11 >>15 >>17
第二幕 帰還
>>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
第三幕 組織
>>32 >>36 >>39 >>40 >>42 >>43 >>46 >>49 >>50 >>55 >>56 >>59 >>60
第四幕 勝負
>>61 >>62 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>72 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80
第五幕 迷宮
>>81 >>82 >>83 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>92 >>93 >>95 >>97 >>100 >>101
第六幕 師弟
>>102 >>103 >>106 >>107 >>110 >>111 >>114 >>116 >>121 >>123 >>124 >>125 >>126 >>129
第七幕 攻防
>>131 >>135 >>136 >>139 >>143 >>144 >>149 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>157 >>158 >>159 >>161 >>164 >>165 >>168 >>169 >>170 >>171
第八幕 本気
>>174 >>177 >>178 >>180 >>184 >>185 >>188 >>189 >>190 >>191 >>194 >>195 >>196 >>197 >>204 >>205 >>206 >>207 >>211 >>213 >>219 >>223 >>225 >>228
第九幕 感情
>>229 >>233 >>234 >>239 >>244 >>247 >>252 >>256 >>259 >>262 >>263 >>264 >>265 >>266 >>269 >>270 >>281 >>284 >>289 >>290 >>291 >>292 >>293 >>296 >>298
第十幕 強襲
>>302 >>304 >>306 >>307 >>311 >>316 >>319 >>320 >>321 >>324 >>325 >>326 >>328 >>329 >>332 >>334 >>336 >>338 >>340 >>341 >>342 >>343 >>344 >>345 >>346
弟十一幕 奪還
>>348 >>353 >>354 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>376 >>377 >>378 >>379 >>380 >>381 >>382 >>383 >>391 >>393 >>394 >>397 >>398 >>399 >>400
第十二幕 救世
>>401 >>402 >>403 >>404 >>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>412 >>413 >>414 >>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>433 >>436 >>439 >>440 >>441 >>442 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447 >>450 >>451 >>452 >>453 >>454
第十三幕 救出
>>458 >>461 >>462 >>465 >>466 >>467 >>468 >>469 >>472 >>473 >>474 >>480 >>481 >>484 >>490 >>491 >>494 >>498 >>499 >>500 >>501 >>502
第十四幕 挑戦
>>506 >>511 >>513 >>514 >>517 >>520 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>534 >>535 >>536 >>540 >>541 >>542 >>545 >>548 >>549 >>550 >>551 >>552 >>553 >>556 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>568
第十五幕 依存
>>569 >>572 >>575 >>576 >>577 >>578 >>585 >>587 >>590 >>593 >>597 >>598 >>599 >>600 >>603 >>604 >>609 >>610 >>611 >>614 >>618 >>619 >>623 >>626 >>628 >>629 >>632 >>638 >>642 >>645 >>648 >>649 >>654
>>657 >>658 >>659 >>662 >>663 >>664 >>665 >>666 >>667 >>668 >>671 >>672 >>673 >>676 >>679 >>680 >>683 >>684 >>685 >>690 >>691 >>695
第十六幕 錯綜
一節 英雄
>>696 >>697 >>698 >>699 >>700 >>703 >>704 >>705 >>706 >>707 >>710 >>711
二節 苦難
>>716 >>719 >>720 >>723
三節 忠義
>>728 >>731 >>732 >>733
四節 思慕
>>734 >>735 >>736 >>739
五節 探究
>>742 >>743 >>744 >>747 >>748
六節 継承
>>749 >>750 >>753 >>754 >>755
七節 浮上
>>756
第十七幕 決戦
零節 都市
>>759 >>760 >>761 >>762
一節 毒邪
>>765 >>775 >>781 >>787
二節 焦炎
>>766 >>776 >>782 >>784 >>791 >>794 >>799 >>806
三節 森樹
>>767 >>777 >>783 >>785 >>793 >>807
四節 氷霧
>>768 >>778 >>786 >>790 >>792 >>800 >>808
五節 聖電
>>769 >>779 >>795 >>801 >>804 >>809
六節 神龍
>>772 >>798 >>811
七節 地縛
>>773 >>780 >>805 >>810 >>813 >>814 >>817
八節 黒幕
>>774 >>812 >>818
最終幕 混濁
>>826 >>827 >>828 >>832 >>833 >>834 >>835 >>836 >>837 >>838 >>839 >>840 >>841 >>842 >>845 >>846 >>847 >>849 >>850 >>851
エピローグ
>>851
2012年冬の小説大会金賞受賞人気投票記念番外
『夢のドリームマッチ ver混濁 イリスvsリオvsフレイ 三者同時バトル』>>825
あとがき
>>852
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171
- Re: 554章 神鳥 ( No.810 )
- 日時: 2013/03/27 17:30
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「退け、トノッパー」
ザートは戦闘不能となったトノッパーをボールに戻し、
「我としたことが油断したか。まさかトノッパーの身体的特徴を逆手に取られるとはな」
そんなことを言いながら次のボールを構えた。
「だが次はこうは行かんぞ。出撃! ガルラーダ!」
ザートの三番手は、ガルダポケモン、ガルラーダ。
鳥の姿に手足が生えたようなポケモンだ。真っ赤な体は光を発しており、背中には卵の殻がある。
「やっぱりガルラーダか。でもこっちは龍の舞で攻撃も素早さも最大、一気に決める。ズルズキン、跳び膝蹴り!」
ズルズキンは勢いよく地面を蹴り、凄まじいスピードと勢いで強烈な膝蹴りを繰り出すが、
「ガルラーダ、殻を破る!」
パキンッ、とガルラーダの背中の殻が砕け散る。そして直後、ガルラーダは急上昇してズルズキンの飛び膝蹴りを回避した。
跳び膝蹴りはかわされると自分がダメージを受けてしまう技。ズルズキンは勢い余って地面に激突し、ダメージを受けてしまった。
「こいつも殻を破るか……!」
歯噛みするイリス。カモドック、トノッパーときて、ガルラーダも殻を破るで上げてきた。
「ガルラーダ、ブレイブバードだ!」
ガルラーダは空中で旋回すると、そのまま炎の如きエネルギーを纏い、倒れたズルズキンに突貫。凄まじい勢いで激突する。
「ズルズキン!」
跳び膝蹴りのダメージもあり、効果抜群の一撃を喰らったズルズキンは戦闘不能となった。
「くっ……戻って、ズルズキン」
イリスは悔しげにズルズキンをボールに戻す。龍の舞でかなり強化されていたので、せめて一撃喰らいは入れたかったが、それも叶わなかった。
だがイリスはすぐに切り替えて、ガルラーダに対して繰り出すポケモンを選ぶ。
「相手は飛行タイプのガルラーダ。空中戦になるならウォーグルが戦いやすいけど……」
イリスはザートの最後に待つであろうポケモンを思い浮かべ、ボールを掴んだ。
「今回は君に任せる。頼んだよ、フローゼル!」
イリスが繰り出したのは、海イタチポケモン、フローゼル。
オレンジ色の川獺のようなポケモンで、両腕には水色のヒレ。尻尾は二又で、首には黄色い浮き袋が付いている。
「フローゼルか。飛行タイプのウォーグルや、電気タイプのデンリュウではないのだな」
「まあね。でも、だからってガルラーダに対して不利なわけじゃない。フローゼル、スターフリーズ!」
フローゼルは巨大な星型の氷塊を生成すると、それをガルラーダへと投げ飛ばすように放つ。
「氷技……ガルラーダ、鋼の翼!」
ガルラーダは翼を鋼鉄の如く硬化させ、飛来する氷塊を粉砕する。その際、砕けた氷の欠片が一瞬だけガルラーダの視界を塞ぐ。そして、
「アクアジェット!」
次の瞬間、正に瞬間的に距離を詰めたフローゼルが水を纏って突撃し、ガルラーダを吹っ飛ばした。
「っ! ガルラーダ!」
ガルラーダは防御力が下がっているのでわりとダメージは受けたが、アクアジェット自体威力があまり高くないので、致命傷にはならない。
「だが、今のアクアジェット、かなりの速度だな。我がトノッパーの攪乱飛行にも匹敵するぞ」
ザートは素直にフローゼルのスピードを称賛した。それほど、今のアクアジェットは速かったのだ。
「僕のフローゼルは、火力よりもスピードを重視したからね。父さんの晴天時のリーフィアには、まだ追いつけないけど」
言って、イリスはフローゼルに次の指示を出す。
「フローゼル、スターフリーズだ!」
フローゼルは巨大な星型の氷塊を生成すると、ガルラーダへと飛ばす。
「またか。鋼の翼!」
ガルラーダも鋼の翼を叩き付け、氷塊を破壊する。氷の欠片が一瞬だけガルラーダの視界を塞ぎ、
「アクアジェット!」
そこにフローゼルが水を纏って突っ込んで来る。しかし、
「同じ手は喰らわんぞ! 鋼の翼だ!」
いくら速くても攻撃が来ると分かり、しかも一直線に突っ込んで来るのなら対応は簡単だ。ガルラーダはもう一度鋼の翼を振るい、フローゼルを吹っ飛ばした。
「卵爆弾!」
ガルラーダは羽ばたき、上空から無数の卵を降り注ぐ。卵はフローゼルに当たると爆発した。
「くっ、フローゼル、アクアジェット!」
フローゼルは水を纏ってガルラーダへと突っ込む。だが今度は一直線ではなく、大きく迂回するような軌道だ。スピードは落ちるものの、真正面からしか突っ込めないわけではないので、完全な対応は簡単ではないだろう。
「むぅ、ガルラーダ、鋼の翼!」
ガルラーダは鋼のように硬化させた翼を振るうが、フローゼルは寸前で軌道を変え、下から突き上げるようにガルラーダに突っ込む。
「アイアンテール!」
さらに空中で一回転し、こちらは鋼鉄の如く硬化させた尻尾をガルラーダの脳天に叩き込む。その一撃で、ガルラーダは地面に叩き落とされた。
「攻めるよフローゼル。瓦割り!」
攻撃は止まらず、フローゼルは落下しながらも拳を固め、ガルラーダへと振り下ろすが、
「回避だ!」
ギリギリのところで、ガルラーダは転がるように瓦割りを回避。そのまま飛び立った。
「喰らうがいい! 卵爆弾!」
そして上空から無数の卵を投げつけ、フローゼルを爆撃する。命中精度はあまり良くないが、威力は高い。
「ブレイブバード!」
続いてガルラーダは燃え盛る炎の如きエネルギーを身に纏い、勇猛果敢にフローゼルへと特攻する。
「あれはまずい……フローゼル、アクアジェット! ガルラーダを振り切れ!」
フローゼルは水流を身に纏うが、ガルラーダには向かわず、むしろ逆方向へと飛び出した。
「逃がさん! 追え、ガルラーダ!」
ガルラーダも全身を光らせながら逃げるフローゼルを追いかける。
アクアジェットは確かに速いが、それは瞬間的な速さだ。このように追いかけっことなると、どうしても素早さで勝るガルラーダに分がある。
結局フローゼルはガルラーダに追いつかれ、地面に突き落とされてしまった。
「まだ終わらんぞ! 卵爆弾!」
ガルラーダは突き落とされて濛々と砂煙を上げるフローゼルに向けて無数の卵爆弾を放つ。
「くっ、これ以上は致命的か……スターフリーズ!」
だがフローゼルも星型の氷塊を飛ばし、襲い掛かる卵爆弾を破壊。氷塊はそのままガルラーダへと迫る。
「鋼の翼だ!」
ガルラーダはなんとか切り替えし、鋼の翼で氷塊を粉々に粉砕する。しかし、
「アクアジェットだ!」
すぐさまフローゼルが飛び出し、ガルラーダに激突。この攻撃は流石に対応しきれず、ガルラーダは態勢を崩してしまう。
「続けて行くぞ! 瓦割り!」
「させん! 鋼の翼!」
フローゼルは拳を握り、そのままガルラーダに突き出すが、ガルラーダも強引に硬化させた翼を振るう。
拳と翼がぶつかり合うが、攻撃力は殻を破るを使用しているガルラーダの方が高い。よってガルラーダが押し切り、今度はフローゼルが態勢を崩してしまう。
「もらった! ガルラーダ、鋼の翼!」
「させない! フローゼル、アイアンテール!」
ガルラーダは追撃にもう一度鋼の翼を振るうが、フローゼルも尻尾を硬化させて身を捻り、ガルラーダの胴体に尻尾を叩き込んだ。
ガルラーダの翼はフローゼルには届かず、ガルラーダは吹っ飛ばされる。
「スターフリーズ!」
これで決めるつもりか、フローゼルは巨大な星型の氷塊を生成。それを投げ飛ばすように、ガルラーダへと放つが、
「ガルラーダ、ブレイブバード!」
突如ガルラーダは光り輝き、燃え盛る炎の如きエネルギーを身に纏って勇猛果敢に突貫する。
今のガルラーダにとって、氷塊などは障害にもならない。軽く突き破って粉砕し、フローゼルへと迫る。
「くっ、フローゼル、アクアジェット!」
ガルラーダが激突する寸前でフローゼルは水流を纏い、真上に飛び上がる。しかし当然、ガルラーダもそれを追いかける。
(逃げ切るのは無理。なら、追いつかれる前にガルラーダを倒すしかないけど……できるかな)
一か八か。失敗すればブレイブバードの餌食となり、フローゼルはやられるだろう。
ならば出来る限りにことをしようと、フローゼルは身を翻し、ガルラーダへと突っ込む。
「血迷ったか、英雄! 我がガルラーダと正面からやり合う気か!」
「違うよ。フローゼルに、そんな戦い方は似合わない」
フローゼルとガルラーダの距離はすぐに縮まる。もう少しでお互いがぶつかり合う、その瞬間。
「今だフローゼル、アイアンテール!」
フローゼルは纏った水を消し、回転しつつ鋼鉄の尻尾をガルラーダの背中に叩き込む。すると、ガルラーダは絶叫を上げて墜落した。
「っ、ガルラーダ!」
ガルラーダの弱点は背中の殻。それが破られたとしても、弱点そのものを消すことは出来ない。背中を強打されたガルラーダは、力なく地面に横たわる。
「これでとどめだ! スターフリーズ!」
最後にフローゼルは星型の氷塊を落とし、ガルラーダを押し潰す。
効果抜群の一撃を受け、遂にガルラーダは戦闘不能となった。
「撤退だ、ガルラーダ」
ザートはガルラーダを戻し、最後のボールを手に取った。
「……まだ、負けられぬ。我は、伝説の力を示さねばならないのだ……!」
力強くボールを握り、ザートは憂いの念を募らせる。
今の自分の原動力。伝説のポケモンへの信仰を忘れた、民衆、そして世界を——
- Re: 555章 自由 ( No.811 )
- 日時: 2013/03/27 18:58
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
異形の7P、ドラン。多くの者は薄々感づいているだろうが、彼は人間ではない。彼は元々、かつて龍の里と呼ばれていた場所で奉られていた、龍を象った一つの石像だった。
九十九神、八百万神などと呼ばれる概念があるように、彼も石像でいた時には魂が宿っていた。生命というには些か曖昧模糊としたものではあったが、彼は石像として生き、長い年月をかけて龍の里を見守っていた。
しかしこの世界には時代の流れというものが存在する。逆らうことのできない流れは、やがて龍の里という存在を別の存在へと変貌させた。
だがそれでも、彼は別段なんとも思わなかった。時代の流れは仕方のないことだし、だからといって龍の存在が消えてなくなるわけではない。龍に対する信仰も、まだ残っている。
ただ惜しむべくは、自分の存在だ。時代の流れと共に、龍像としての自分は忘れられていった。龍の里が存在していた時代には、それなりに信仰され、崇められていたが、いまでは存在そのものがあやふやになってしまい、彼の存在を知る者はいなくなった。
そんな時、彼のものとを訪れる者がいた。とある組織の総統、と、その組織が抱える科学者の二人だ。
どういうつもりで二人が彼のもとを訪れたのかは分からない。しかし、信仰や崇拝のためではなさそうだ。彼が二人の目的を知るのは、このすぐ後。
彼が、人間の姿へと変わり果ててからだった。
彼は驚愕した。不完全ながらも、自分が人の姿をしていることに。
最初はその変化に戸惑ったが、やがて嬉しくなった。自由に動けるというのは、石像であった彼にとっては未知なる体験だった。
だがそんな感慨も束の間。彼はすぐに自由を奪われる。
彼はドランという名を与えられ、7Pという称号を得た。それだけならまだよかった。しかし、恐ろしき地上最強の龍、真実と理想の英雄から生まれた虚無の刻印を刻まれ、自分は龍や他の生物を使役して戦わなくてはならない。その事実が、彼を苦悩させた。
そもそも彼は、彼の属する組織——プラズマ団の戦力増強を図るための被験者だった。プラズマ団の科学力で、長い年月を経て魂を宿した物体に人間の体を与える。そのような邪道とも言える試みの結果、彼は生まれた。
だがその試みは失敗だそうだ。人間として転生した彼は、不完全であった。しかも、他にも試したようだがすべて失敗し、成功したのは彼だけ。結局プラズマ団の戦力増強は一つ、失敗に終わった。
かつて自分が龍を象った存在であったがゆえに、龍という存在を誰よりも知る者、ドラン。彼は伝説で語られる氷の龍の恐ろしさを、誰よりもよく知っている。だからこそ、プラズマ団の意向には賛同できない。本来なら、抵抗したいところだ。
だが人間世界での生き方を知らない彼は、プラズマ団に付き従うしかなかった。
その過程で英雄たちと戦い、彼は一人の青年に目を付けた。自分が最もよく知る、龍の匂いのする青年。
人間という器に縛り付けられた彼は、その青年の存在に賭けた。かの青年ならば、英雄と共にキュレムの復活を止められるかもしれない。
そして自分を、人間という名の束縛から、解放してくれるかもしれない——
「……いいよ、その調子だよ。でも、ごめんね。ドランは手加減できないんだ。全力を出し切らないと、ダメなんだ」
「……? 何を言っている」
ぶつぶつと一人で呟くドランに、ムントは疑問符を浮かべる。
「でも、ちょっとびっくりしたよ。ドランはポケモンを使役して戦うなんて、どうかしてると思ってた。でも、君と戦ってると、どうしてか胸が熱くなる。ドキドキするって言うのかな? よく分かんないけど、楽しくなってくるんだ……ドラドーン、ハリケーン!」
ドラドーンは災害にも匹敵する突風を放ってオノノクスを吹き飛ばそうとする。足場はまだ凍り付いているので、まともに受ければまた場外に落とされるだけだが、
「オノノクス、地震!」
オノノクスはハリケーンが放たれる直前に地面を思い切り踏みつけて衝撃波を放つ。衝撃波は地面全体に伝わり、表面を覆っていた氷を粉々に砕く。
氷さえなくなれば、踏ん張りは利く。オノノクスは地面に爪を喰い込ませ、ハリケーンの直撃を喰らっても塔から弾き出されないようにしっかりと体を支える。
そして、突風が止む。
「オノノクス、龍の舞!」
オノノクスは龍の力を宿し、舞い踊る。これでオノノクスの攻撃力と素早さは四倍。最大まで跳ね上がった。
「最後までパワーアップか、凄いね……ドラドーン、アイスバーン!」
ドラドーンは凍てつく爆発を起こし、氷の衝撃波を放つが、オノノクスは両腕を交差させて衝撃波を耐え切る。
「だったらこれだよ! ハイドロポンプ!」
ドラドーンは大きく息を吸い、オノノクスに狙いを定めて大量の水を噴射する。オノノクスを狙い撃ちして場外へと落とそうとするドラドーンの水流を、オノノクスは、
「瓦割りだ!」
手刀を振り下ろし、容易く断ち切った。
龍の舞で最大まで攻撃力の上がったオノノクスにとって、相手がドランのドラドーンでも、ハイドロポンプなどは取るに足らない攻撃だ。
「やっぱダメか。だったら仕方ない、もう少し戦っていたかったけど、もう終わりにしようか。もしこの攻撃に耐えられれば、君の勝ちだよ、ムント君。だけど」
ドランは一旦言葉を区切った。名残惜しそうなドランだったが、すぐに次の言葉を紡ぐ。
「もし耐えられなければ、その時はドランの勝ちだ! ドラドーン!」
ドラドーンは急上昇する。姿が見えなくなるほど空高く上り、ドラドーンは天を衝くような咆哮を放つ。
そして天空に座する龍は、遥か空の先、宇宙の果てから力を呼び起こす。
「流星群!」
刹那、大空から空気を貫くような轟音が響き渡る。雲を突き抜けて降り注がれるのは、無数の星々、流星の数々だ。
流星群は塔を震撼させるほどの破壊力を持ってオノノクスに襲い掛かる。効果抜群の攻撃、そうでなくとも、破格の特攻を誇るドラドーンがドラゴンタイプ最強の技を放つのだ。たとえ鋼タイプであろうと、これだけの流星を耐え切るのは不可能に近い。それはドランもムントも分かっている。
「さあ、ムント君、ドランに見せてよ! 君と、君の龍の力を!」
決め手となる技を直撃させておいて、ドランはそんなことを叫ぶ。ドランの言葉を受け、その意味を汲み取り、ムントも言葉を紡ぐ。
「……分かった」
短い言葉だった。しかし、それだけでドランは、安心したように息を吐く。
そして、
「オノノクス、ドラゴンクロー!」
舞い上がる砂煙の中から、オノノクスが飛び出す。かつてないほどの凄まじい気迫で、今までにないほどの力を爪に宿して、オノノクスはドラドーンに、龍の一撃を刻む。
龍の爪痕を刻まれたドラドーンは力尽きた。ドラドーンは、役目を終えたと言わんばかりに、地上へと落ちていく。
「……ありがとう、ドラドーン。ドランがドランとして生きてきた中では、君がドランの最高のパートナーだったよ」
ドランは静かに呟く。それと同時に、自分の体が解き放たれる感覚を覚えた。
「ムント君、ありがとう。君のお陰で、ドランは解放されるよ」
「お前……」
サラサラと、ドランの体が崩れていく。少しずつ、ドランの体はこの世界から散っていく。しかしドランは、後悔も悲哀もなく、むしろ喜び勇んでいた。彼が待ち望んだ、自由への解放が訪れるのだから。
「ムント君、ドランはもうすぐこの世界から消えてなくなると思うんだ。だから残り少ない時間の間、君に伝えるべきことだけを伝えておくよ」
灰の如く体が消滅していくドランは、口調を崩さず、ムントに最後の言葉を告げた。
「キュレムの復活は、絶対に止めてね。ドランは知ってるんだ、キュレムの恐ろしさを。キュレムは自分を埋めてくれる真実か理想を求めてるんだ。だから英雄ちゃんが無理にキュレムと戦おうとしても、勝てるはずがない。キュレムを止めるには、復活を阻止するしか方法がないんだ」
残り僅かな時間で、ドランは精一杯、自分の願いを届けようとする。もうドランが存在できるのは、ごくごく僅かだ。
「ドランはこの姿になって、身を持って知ったんだよ。この世界の人間とポケモンは、楽しく生きている。それを壊しちゃいけないって。だから、キュレムの力を利用して、世界を征服するなんて、ドランは許せない。だからお願い、ムント君。なんとしてでも、ゲーチスを、止めて——」
バサッ
刹那、こだましていた言葉が消えた。今までドランが立っていた場所には、ローブのような黒い服が落ちているだけだ。
「…………」
オノノクスをボールに戻し、ムントはローブと、そのローブに包まれた石の牙を拾い上げる。
硬く流麗で、立派な牙だ。しかし獣の牙ではなく、もっと巨大な、龍のような牙だった。
「プラズマ団と、ゲーチスを止める、か。当然だ、そのために俺は今ここにいる」
サラサラと灰のようなものが零れ落ちるローブと牙を抱え、ムントは歩き出す。
「……任せろ。キュレムの復活は、俺が絶対に止めてみせる」
そして、ムントは螺旋階段を降り、塔から出ていった。
一本の、龍の牙を抱きながら——
- Re: 556章 他力 ( No.812 )
- 日時: 2013/03/27 20:11
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「戻りなさい、バッフロン」
ゲーチスは戦闘不能となったバッフロンをボールに戻す。
「ふむ、まさかワタクシが先手を取られるとは。少し油断してしまいましたかな」
先手を取られても、余裕を崩さないゲーチス対照的に、Nは厳しい眼差しでゲーチスを見据えている。
「まあよいでしょう。次で取り返せばいい話です」
ゲーチスはそう言って、次のボールを取り出し、放り投げる。
「罪なる民に罰の刃を! キリキザン!」
ゲーチスの二番手は、刀刃ポケモン、キリキザン。
非常に人型に近く、全身スーツ風で各部にはプロテクター。腹、腕、頭にはそれぞれ鋭い刃が鈍く煌めいており、怪人のような姿をしている。
「キリキザンか。だったらまずは、カクレオン、ドレインパンチ!」
カクレオンは淡く発光する拳を握り、地面を蹴って一直線にキリキザンへと突っ込んでいくが、
「キリキザン、瓦割りです!」
ギリギリまでカクレオンを引きつけ、キリキザンは手刀を勢いよく振り下ろす。カクレオンは効果抜群の一撃を喰らい、地面に思い切り叩き付けられ、戦闘不能となった。
「……ありがとう、カクレオン。戻っていてくれ」
Nは申し訳なさそうに、戦闘不能となったカクレオンをボールに戻す。
「キリキザンは悪と鋼タイプ……なら、次は君だ。コーシャン!」
Nが次に繰り出すのは、吉凶ポケモン、コーシャン。
暗い紫色の体毛に覆われた猫のような姿のポケモンで、尻尾は二又に分かれている。
コーシャンは炎と悪タイプを併せ持つポケモンだ。キリキザンは瓦割りを覚えているものの、鋼技も悪技も半減し、コーシャンは炎技で弱点を突ける。全体的なタイプ相性ではこちらが有利だ。
「コーシャン、まずは瞑想だ!」
コーシャンはすぐに攻撃せず、目を瞑り、精神を集中させて特攻と特防を強化する。
「小賢しいですね。キリキザン、瓦割り!」
キリキザンは手刀を構え、コーシャンへと突っ込んでいく。
「コーシャン、猫の手!」
対するコーシャンは光る手をかざす。すると手からは灼熱の熱風が放たれた。
「ぬぅ、熱風ですか……かわしなさい、キリキザン」
「もう一度。猫の手だ!」
再び光る手をかざすコーシャン。今度は電撃が放たれ、四方八方に撒き散らされる。
「キリキザン、退避」
キリキザンは大きく飛び退り、襲い来る電撃をかわす。
「今度こそ、瓦割りです!」
そして手刀を構え、再びコーシャンへと突っ込んでいった。
「猫の手!」
三度猫の手を使用するコーシャン。次に手から出て来たのは、一発の影の球だった。
「シャドーボールですか、温いですね。キリキザン、弾きなさい!」
キリキザンは飛来するシャドーボールを弾き飛ばし、打ち消す。そしてそのままコーシャンに接近し、手刀を振り下ろした。
「かわすんだ!」
寸でのところでコーシャンは転がるように手刀を回避。キリキザンと距離を取る。
「猫の手だ!」
そしてまたしても猫の手。手から出て来たのは、四方八方に飛び散る電撃だ。
キリキザンこの電撃を、さっきと同じように身を退いて回避する。
「放電……これじゃない。コーシャン、もう一度!」
どうやら何か一つの技を狙っているらしいNは、執拗に猫の手を指示。コーシャンも手を光らせ、虚空から無数の岩を落下させる。
「岩雪崩など、恐れることはありません。キリキザン、辻斬り!」
降り注ぐ岩石を、キリキザンは両腕の刃を切り刻んでしまう。
「さて、どのような技を狙っているかは分かりませんが、それが出る前に決めますよ。キリキザン、瓦割り!」
「コーシャン、猫の手!」
駆け出すキリキザンに対し、コーシャンが手から放ったのは波状の電撃だった。電撃は高速かつまっすぐにキリキザンへと向かっていき、キリキザンに直撃する。
「電撃波……これでもない。コーシャン、もう一度!」
コーシャンはまたしても手を光らせると、尻尾に水を纏い、キリキザンに接近。尻尾を叩き付けた。
「アクアテールですか。炎タイプの癖に味な技を使うではありませんか。キリキザン、シザークロス!」
キリキザンは交差させた腕を振るい、コーシャンを十字に切り裂く。
「瓦割りです!」
「っ、かわして猫の手!」
振り下ろされる手刀をかわし、コーシャンは手を光らせる。そして今度は足に炎を灯して跳躍し、キリキザンの顔面にドロップキックのような蹴りを浴びせ、身を捻りながら後退。静かに着地する。
今のブレイズキックで、キリキザンには大きなダメージを与えられだろう。しかし一撃で倒せなかったのは、コーシャンにとってはあまり良いことではなかった。なぜなら、
「キリキザン、メタルバースト!」
次の瞬間、キリキザンは鋼の光線を発射する。
「やばい……コーシャン、ダークリゾルブ!」
コーシャンも急いで闇のオーラをドーム状に放つ。
メタルバーストは直前に受けたダメージを1.5倍にして反射する技。ブレイズキックで大きなダメージを与えたのはいいが、中途半端に体力を残してしまったがゆえに、かなり強力な光線を発射されてしまった。
鋼の光線と闇のオーラがぶつかり合う。ダークリゾルブも瞑想で強化されているのだが、少しずつ光線がオーラを押していき、やがて突き破った。
「コーシャン!」
光線の直撃を受けて吹っ飛ばされるコーシャン。ダメージは大きいだろう。
「くっ、コーシャン、猫の手だ!」
立ち上がってコーシャンは手を光らせる。が、またNの目当ての技は出ず、コーシャンは宇宙の力を見に宿すだけだった。
「キリキザン、シザークロスです!」
「かわせ!」
キリキザンが交差した腕でコーシャンに斬りかかるが、コーシャンはバックステップで回避。さらに後ろに下がり、キリキザンと距離を取った。
「コーシャン、猫の手!」
コーシャンはまたしても手を光らせる。そして、コーシャンの手からは青白い火の玉が無数に飛び出した。
「来た……!」
Nの表情が少し明るくなる。どうやらこの技——鬼火を狙っていたようだ。
鬼火はゆらゆらとした不規則な動きでキリキザンを取り囲むと、少しずつキリキザンの体を焼いていき、火傷状態にする。
「小癪な。キリキザン、瓦割り!」
手刀を構え、キリキザンは地面を蹴って飛び出す。が、しかし、
「コーシャン、猫の手だ!」
コーシャンは手を光らせ、その手を地面に叩きつける。すると地面は大きく揺れ、動き、キリキザンも足を止めてしまった。
「地震……キリキザン!」
「まだだ! 猫の手!」
キリキザンは立ち上がろうとするが、そこにコーシャンの追い打ちが放たれる。光る手から飛び出したのは、波動の球体だった。
「今度は波動弾……キリキザン、辻斬り!」
膝立ちのまま、キリキザンは腕を振るって高速で飛来する波動弾を切り捨てる。もし喰らってれば一発で戦闘不能なっていただろう。
「シザークロス!」
すぐさま駆け出してキリキザンはコーシャンに接近。コーシャンを十文字に切り裂き、
「瓦割りです!」
続け様に手刀を振り下ろす。
効果抜群を含むこの二連続攻撃はコーシャンも堪えたと思ったが、キリキザンは火傷で攻撃力が下がっており、コーシャンはコスモパワーで防御が上がっている。コーシャンの受けたダメージはさほど大きくないだろう。
「キリキザン、辻斬り!」
「コーシャン、かわして猫の手だ!」
キリキザンの斬撃を転がるようにかわし、コーシャン手を光らせる。そこから飛び出したのは、一発の波動弾だ。
「ぬぅ、辻斬り!」
高速で飛来する波動弾を、キリキザンは腕の刃を一閃して切り裂き、消滅させる。
「キリキザン、瓦割りです!」
そしてキリキザンは、コーシャンを仕留めるべくさらに追撃しようと、再度地面を蹴って勢いよく飛び出し、手刀をコーシャンへと振りかざすが、
「猫の手!」
コーシャンがかざした光る手から空気の刃が飛ばされ、キリキザンは切り裂かれた。
「ぬぅ、キリキザン!」
その攻撃にキリキザンは怯んでしまい、また動きを止めてしまう。
「コーシャン、フレアドライブ!」
その隙にコーシャンは燃え盛る爆炎を纏い、突貫。怯んだキリキザンに激突して吹っ飛ばした。
キリキザンはゴロゴロと地面を転がり、壁に激突。火傷やその他諸々のダメージが溜まっていたため、体の各所は焼け焦げ、完全に戦闘不能となっていた。
「戻りなさい、キリキザン」
ゲーチスはキリキザンをボールに戻す。
「下手な鉄砲も数撃てば当たるということでしょうか。あれだけ猫の手を使えば、一発くらいは目当ての攻撃も出るでしょう。あなたは運が良かったにすぎません」
しかし、とゲーチスは続ける。
「その幸運は、そう何度も続きませんよ」
そしてゲーチスは、三体目のポケモン——即ち、最後のポケモンが入ったボールを、手に取る。
「正直、ワタクシはこの戦いにさほど意味があるとは思えないのですがねぇ……最初はああ言いましたが、キュレムさえ復活すれば我々の勝利は確定。ワタクシがポケモンバトルで負けた程度で、それを諦めるでしょうか?」
「…………」
Nは黙ったまま答えない。
「答えは否です。なので、こんなお遊びのような前哨戦に意味はありません——が、まあ、最後まで戦うのも一興でしょう」
と、何が言いたいのか分からないまま、ゲーチスは最後のボールを放る。
「さぁ、出て来るのです。深淵の化身よ——」
- Re: 557章 信仰 ( No.813 )
- 日時: 2013/03/28 06:12
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
プラズマ団——特に7Pの面々は、各々違う目的の下に動いている。
アシドは研究のための環境を求めて、フレイは大切な人と一緒にいたいゆえ、フォレスは一人の女性に幸福を教えるため、レイは自分の道を探すべく、エレクトロは記憶を失いどうにもならなかったから、ドランは強制され——そしてザートは、伝説ポケモンの力を、世界に示すべく7Pとなった。
ゲーチスの野望は、キュレムの力を持って世界を制圧し、支配すること。ザートの目的は、キュレムの力で世界を制圧し、伝説の力を世界に知らしめること。
一見似たような二人の目的だが、決定的に違うところは、ゲーチスの最大目標が支配であることに対し、ザートの最大目標はキュレムの力の誇示である。
ザート——彼女はとある北の地方の巫女だった。
巫女、即ち神に仕える者、この世界で言えば、伝説のポケモンを崇める者だ。
彼女には、その地方の巫女としての才能があった。神の声を聞き、思いに触れ、啓示を受けた、それを民衆に伝えた。
彼女もまた、アシドやフレイなどとは違う方面での天才だったのだ。そのため彼女はいつしか大地の巫女——ガイアと呼ばれ、その才能を如何なく発揮した。
だが、技術力、科学力、情報力の発達していく世界では、神などというものの信仰は薄れていく。もはやその事実が、流布されるように人々へと移っていった。
誰も伝説のポケモンの力などは信じない。彼女はそれを許せなかった。
あるとき彼女は、神の声を聞き、一つの物事を予言した。それは、遠くない未来、彼女の街が災害に見舞われることだった。
彼女は使命としてその事実をすぐに民衆へと伝えたが、それを信じる者は一人もいない。彼女の力も、伝説のポケモンも、誰も信仰しない。
伝説は、伝説のまま。いつしか歴史の陰に埋もれていく。
彼女は考えた。どうすれば皆、神——伝説のポケモンに対する信仰を取り戻すのか。そして行き着いたのが、力を示すことだった。
伝説のポケモンが如何に強大なものであるかをこの世界に示す。その事実を知れば、信仰を失ったものと言えども、伝説という存在を受け入れずにはいられないだろう。
だから、彼女はゲーチスに付き従った。キュレムという伝説の龍を復活させ、その力を世界に知らしめる。そうすれば、信仰心が消えた民衆は、その怒りに触れたくないがゆえに伝説のポケモンを信仰せざるをえなくなる。
そのため、ザートとゲーチスは利害が一致し、手を組んだ。
余談だが、彼女の存在があったからこそゲーチスは7Pの設立を思いたのだ。
ゲーチスに最も近く、伝説のポケモンであるキュレムに対して最も切実で、7Pの始祖とも言える彼女だからこそ、彼女は7Pの頂点に君臨している。
ゲーチスに服従している彼女だが、決して彼の傀儡というわけではない。
キュレムの刻印をその身に刻んだ彼女は、かつての巫女としての諱、ガイアを名乗ることで、自分が巫女であることを忘れないようにしている。
伝説のポケモンに対する真摯な思い。そのたった一つの信念だけが、彼女の生きる意味なのだ——
「我は……こんなところで負けるわけにはいかないのだ! 必ずやキュレムを復活させ、この世界に伝説の信仰を取り戻す! それが我の役目だ!」
ザートは叫ぶと、握った最後のボールを放る。
「出撃! ハサーガ!」
ガイアの最後のポケモン、ナーガポケモン、ハサーガ。
黄土色の体を持つ異形の大蛇だ。一歩足の人型に見えなくもないが、足、両手、胸、頭——計五つの頭を持ち、その一つには殻が被さっている。
ハサーガは五つの頭で激しく威嚇する。しかも大きさが異常とも言えるほど巨体で、ドランのドラドーンに匹敵するほどの巨躯を誇る。その姿は、正に砂漠の怪物だ。
「遂に来たか……!」
ハサーガの登場で、イリスに緊張が走る。
未解放ならプラズマ団最弱であるザート——否、ガイア。そんな彼でもこのハサーガだけは別格で、解放せずともイリスのリーテイルを追い詰めるほどの力を発揮していた。
以前戦った時は未解放。だが今回は解放状態だ。あの時点で相当な強さであったハサーガが、さらに強力になると思えば、確かに7Pでは最強かもしれない。
「でも、僕らだって強くなってる。負けるわけにはいかないんだ! フローゼル、アクアジェット!」
フローゼルは水流をその身に纏い、超高速でハサーガに突っ込んでいくが、
「ハサーガ、ドラゴンバイト!」
腕のような部位の頭が牙を剥き、フローゼルの突撃は止められてしまう。
「潜る!」
そして次の瞬間、ハサーガは砂の中へと潜ってしまう。
「っ、どこから……?」
気を張って、周囲を注視するイリス。あれほどの巨体が動けば、地面にも異常が起こるはずだと考えていたが、
「やれ、ハサーガ!」
直後、地面からハサーガの頭が一つだけ飛び出し、フローゼルを突き上げた。
「! フローゼル!」
空中に放り出されたフローゼルはあえなく落下し、地面に叩きつけられる。ガルラーダ戦でのダメージもあり、フローゼルはそこで戦闘不能となった。
「戻って、フローゼル。ガルラーダを倒しただけでも十分だ。よくやってくれた」
イリスはそう言葉をかけ、フローゼルをボールに戻す。これで、イリスの手持ちも残り一体。
「相手はハサーガ。それならやっぱり、君しかいないよね」
イリスはボールを握り締め、最後のポケモンを繰り出す。
「行くよ、リーテイル!」
イリス最後のポケモンは、発芽ポケモン、リーテイル。
獣のような雄々しくも凛々しい顔つきに、しっかりとした体格。背中と尻尾には深緑の葉っぱがあり、首元は赤紫色の体毛で覆われている。
イリスの第二期エース称され、その実力は第一期エースのダイケンキと双肩を成すほど。
加えて相手はハサーガだ。リーテイルは草技で弱点を突け、逆にハサーガの地面技はリーテイルには届かない。タイプ相性を考えても、圧倒的にリーテイルが有利。
とはいえ前回も同じ条件でかなり苦戦したため、油断はできない。絶対に勝つと心の中で呟き、イリスは気を引き締めるが、
「……あれ?」
思わず声が漏れてしまう。
だが無理もないだろう。今からハサーガを倒そうと意気込んだ矢先、そのハサーガの姿がないのだから。
「どこに行った……って、まさか」
イリスは視線を周囲に巡らせた瞬間に既視感を覚え、ハサーガの所在を察知する。そして、視線を砂漠の地面へと向け、
「ハサーガ、ドラゴンバイト!」
次の瞬間、地面からハサーガの頭が飛び出す。今度は二つだ。
ハサーガは牙を剥き、リーテイルに襲い掛かる。
「まだ地中にいたのか! リーテイル、かわせ!」
リーテイルは羽ばたいて上昇し、間一髪のところでハサーガの牙を回避する。もしイリスの察知があの一秒でも遅ければ、ハサーガの牙はリーテイルに突き刺さっていただろう。
ハサーガは攻撃を回避され、ゆっくりと地中に沈んでいく。それから地上へと姿を現す気配はない。
「まさか、ずっと潜っているつもりか……!」
砂漠の地面を見つめ、イリスは唸る。それに対しザートは、あっさりと肯定した。
「そのまさかだ。我がハサーガは地中に身を潜めてからが本領を発揮する。そのために、潜るの技も永久に地中へと潜れるよう鍛えた。貴様もすぐに砂漠の底へと引きずり込んでやろう! ハサーガ、ドラゴンバイト!」
またしても地中からハサーガの頭が三つ飛び出す。
「くっ、リーテイル、かわしてリーフブレードだ!」
襲い掛かる牙を潜り抜け、リーテイルは尻尾の葉っぱでハサーガを切り裂いていく。
効果抜群のはずだが、ハサーガは怯むことなくリーテイルへと牙を剥く。
「やっぱり殻を被った頭に攻撃しないと効果は薄いのか……」
ハサーガは殻を被っている頭だけが思考することができ、その頭が司令塔となって指示を出している。そのため、ガルラーダとは方向性が違うものの、ハサーガの弱点も頭の殻ということになる。
以前もその弱点を突いて勝利を収めたリーテイルだが、今のハサーガのように地中に潜られてはその弱点を突くこともできない。地上に飛び出しているのは全て殻のない頭なので、恐らく弱点を隠し続けるつもりだろう。
「ハサーガ、ドラゴンバイトだ!」
ハサーガの攻撃は止まらず、三つの頭が牙を剥いてリーテイルに襲い掛かる。三つの頭が同時に襲い掛かってくるのは脅威だが、攻撃自体は単調なので、リーテイルの機動力があればかわすのは難しくない。
だが、
「怒りの炎!」
ハサーガの頭の一つが炎を吐き出した。発生させるのではなく火炎放射のように口から放たれた業火は、まっすぐにリーテイルへと襲い掛かる。
「っ、かわせ!」
ギリギリ業火を回避するリーテイル。いきなりだったので少々焦ったが、やはり攻撃は単調だ。
などと思っていたら、
「ぶち壊す!」
残り二つの頭が同時にリーテイルへと突っ込んできた。
「なっ……リーテイル!」
片方は咄嗟にかわしたが、もう片方は直撃を喰らい、リーテイルは吹っ飛ばされた。
「リーテイル、大丈夫?」
吹っ飛ばされたリーテイルはむくりと起き上がる。リーテイルはイリスの二代目のエースだ。一発や二発の直撃程度ではやられはしない。
なにはともあれ、イリスとザート、二人の最後の戦いは、まだまだ続く。
- Re: 558章 離断 ( No.814 )
- 日時: 2013/03/28 16:25
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「ハサーガ、ドラゴンバイト!」
「リーテイル、エアスラッシュ!」
地中からハサーガの頭が三つ飛び出し、リーテイルに襲い掛かる。リーテイルも高速で空中を飛びまわり、牙を回避しつつ空気の刃を飛ばしてハサーガを切り裂いていく。
「怒りの炎だ!」
だがハサーガも、弱点である殻を被った頭を攻撃されなければ怯んだりはしない。三つのうち二つの頭は口から怒りの業火を吐き出す。
「流石に効果抜群の技は喰らえないな……リーテイル、急上昇!」
リーテイルは一気に上昇し、ハサーガの炎をかわしつつ牙の届かないところまで飛ぶ。そして、
「出て来ないっていうのなら、こっちから引きずり出してやる。リーテイル、ありったけの力を込めてドラゴンビート!」
リーテイルは大きく息を吸い込む。リーテイルの胸が大きく膨らむほど、肺活量の限界まで空気を吸い込み、一気に吐き出す。
次の瞬間、空気を震わせる龍の音波が砂漠に響き渡った。耳をつんざき、鼓膜を破るほど大音量の咆哮は一直線に砂漠の地面へと発射され、思い切り砂を舞い上げる。
大量の砂が吹き飛び、身を隠していたハサーガの姿が露わになった。
「今だリーテイル! リーフブレード!」
ハサーガが姿を現したことで、リーテイルは一直線にハサーガへと向かう。狙うのは唯一殻を被った頭だ。
「させん! ハサーガ、怒りの炎!」
ハサーガは三つの頭から憤怒の業火を吐き出すが、リーテイルは次々とそれらをかわしていく。
「ドラゴンバイト!」
最後に残った殻を被っていない頭が牙を剥いてリーテイルに襲い掛かるが、直線的に向かってくる攻撃などリーテイルには通用しない。少し高度下げ、リーテイルは潜り抜けるように回避する。
そして、遂にハサーガの殻を被った頭へと接近した。
「もらった!」
飛行時の加速に合わせて一回転し、リーテイルはスピードを上乗せした尻尾の葉っぱを振り下ろす。
が、しかし、
「掛かったな! ハサーガ、ぶち壊す!」
リーテイルが葉っぱを振り下ろす寸前でハサーガは動き出した。最後の頭で凄まじい勢いの頭突きを繰り出し、リーテイルを吹っ飛ばす。
「なっ、しまった……リーテイル!」
思わぬ一撃を受け、大きく吹っ飛ばされるリーテイル。空中でなんとか態勢を立て直すが、不意を突かれたこともあってダメージは大きい。
「そうだよね……殻を被ってる頭が弱点だからって、攻撃できないわけじゃない。失念してたよ」
イリスは反省し、再びハサーガ、ザートと相対する。
「次こそは決める。リーテイル、エアスラッシュ!」
「ハサーガ、潜る!」
リーテイルは背中の葉っぱを羽ばたかせて空気の刃を無数に飛ばすが、ハサーガは一瞬のうちに地中に潜り、飛来する刃を全てかわしてしまう。
「ドラゴンバイトだ!」
そして地中から三つの頭が飛び出し、牙を剥いてリーテイルへと襲い掛かる。
「リーテイル、かわしてリーフブレードだ!」
一直線に襲い掛かるハサーガの牙をかわし、リーテイルは尻尾の葉っぱで首元などを切り裂いていく。
弱点は殻のある頭だが、他の頭や体に攻撃してもダメージがないわけではない。弱点を攻撃して一撃で倒せる保証があるわけでもないので、今のうちにハサーガへのダメージを稼いでおく。
「エアスラッシュ!」
執拗に襲ってくるハサーガから一旦離れ、リーテイルは背中の葉っぱを羽ばたかせて空気の刃を無数に飛ばし、ハサーガを切り刻む。
「続けてリーフブレード!」
今度はエアスラッシュを受けて怯んだハサーガ接近し、尻尾の葉っぱで切り裂いていく。
「小癪な。ならばこれはどうだ? ハサーガ、怒りの炎!」
三つの頭は口から憤怒の業火を吐き出す。このハサーガが吐き出す怒りの炎は通常の怒りの炎と比べて軌道が直線的だ。なのでリーテイルなら難なく回避できる。
しかし、今回の怒りの炎は、それだけでは終わらなかった。
突如、地中から火柱が噴き出す。
「っ!? リーテイル、ドラゴンビート!」
三つの頭から放たれる炎をかわした直後、火柱がリーテイルに襲い掛かる。リーテイルは咄嗟に龍の鼓動の如き音波を発射して相殺したが、他の頭が続けて放った炎をかわし切れず、掠めるように受けてしまった。
「ぐっ、リーテイル!」
姿勢を崩しかけるが、なんとか立て直すリーテイル。これ以上追撃されては困るので、一度距離を取る。
「今の火柱は、怒りの炎か……?」
恐らく、地中から真上に向けて怒りの炎を発射したのだろう。まっすぐに放つ炎ならでは攻撃方法と言えるが、地中から撃てるのは視界が他の頭とリンクしているハサーガくらいなものだろう。
「今の攻撃も避けるか。流石は英雄、侮れん。ならば、次はこれだ! 怒りの炎!」
次の瞬間、またしても地中から火柱が噴き出される。だが今回は一発ではなく、四本の火柱がリーテイルを取り囲む。
「ラストだ、怒りの炎!」
そして最後に放たれた炎は、リーテイルの真下から噴出された。取り囲まれているリーテイルには、逃げ道が真上しかない。
「リーテイル、とにかく上昇だ! 逃げ切れ!」
リーテイルは真上に向かって上昇し、迫り来る火柱から逃げる。だが一直線に上がってくる炎は意外と速く、少しずつリーテイルとの距離も詰められていく。
「振り切れないか……だったら打ち消す! ドラゴンビート!」
逃げ切れないと見るや否や、リーテイルはすぐさま振り向き、龍の咆哮を放つ。
咆哮は火柱に直撃し、火柱は消滅したが、
「捕えろ! ドラゴンバイト!」
地中から四つ頭が飛び出し、リーテイルに襲い掛かる。火柱に囲まれていたので避けきれず、リーテイルの体には何本もの牙が突き刺さる。
「引きずり込め!」
そしてハサーガはリーテイルに牙を突き立てたまま、地面へと叩き落とし、地中へと引きずり込もうとする。途轍もない圧力をかけられたリーテイルは、酷く苦しそうな表情をしている。
「まずい……リーテイル、脱出するんだ! ドラゴンビート!」
うつ伏せで捕えられたことが幸いし、リーテイルは真下に向けて龍の音波を放つ。その衝撃で砂が吹き飛び、ハサーガの姿が全貌ではないものの露わになった。
「もう一発! ドラゴンビート!」
再び咆哮し、リーテイルは音波をハサーガの、殻を被った頭に直撃させる。
弱点を攻撃されたハサーガは思わず牙を離してしまい、その隙にリーテイルはハサーガと距離を取る。
「危なかった、あのまま地中に引きずり込まれてたら終わってたな……」
戦慄するイリスは、バトルが長引くのは不利だと判断し、リーテイルに攻撃を指示する。
「リーテイル、エアスラッシュ!」
「潜る!」
だが、リーテイルの攻撃は地中に潜ったハサーガには届かない。
「ドラゴンバイトだ!」
直後に頭が四つ飛び出し、リーテイルに襲い掛かる。
「かわしてリーフブレード!」
次々と向けられる牙を避け、リーテイルは尻尾の葉っぱを振るうが、ハサーガは止まらない。
(まずい……このままじゃリーテイルのスタミナがもたない)
リーテイルはイリゼとの特訓で防御力が強化された。そのため、まだハサーガの攻撃を受けても耐えることは十分可能だろう。
だがこの暑い気候に加え、ハサーガの猛撃を避け続けていればスタミナが切れるのは当然だ。もしリーテイルが動けなくなれば、その時こそ一巻の終わり。その前に何とかしなければならない。
「賭けてみるか……リーテイル、リーフストーム!」
リーテイルは背中の葉っぱを羽ばたかせ、葉っぱの渦を発生させる。渦は次第に大きくなり、やがて嵐の如く強大となり砂漠の砂を舞い上げた。
「むっ……!」
ドラゴンビートのように嵐は砂を吹き飛ばしていき、少しずつハサーガが姿を現す。同時に葉っぱもハサーガを切り刻み、ダメージを与えていく。
「行けるか……?」
ハサーガが動かないこともあり、このまま押し切れるかかもしれないと期待するイリスだったが、その考えは甘かった。
「ハサーガ、ドラゴンバイト!」
次の瞬間、ハサーガは嵐を突っ切ってリーテイルに突っ込む。そして四つの頭すべてが牙を剥き、リーテイルに突き立てた。
「しまっ……!」
嵐の中では流石のハサーガも動けないと思ったが、そんなことはなかった。ハサーガはリーテイルを捕えると、今度はドラゴンビート対策にと仰向けにして地面に引き込む。
「ハサーガ! そのままリーテイルを砂漠の底へと引きずり込め!」
背中の葉っぱに噛みついたハサーガは、ギリギリとリーテイルを引っ張り、地中へと引きずり込もうとする。
地中に引き込まれれば、リーテイルはハサーガに一方的にやられるだろう。そのためリーテイルも必死で抵抗し、引き込まれまいとするが——
——ブチッ
そんな音が二回、リーテイルから鳴り響いた。
「——!」
その光景を目の当たりにし、イリスは目を見開く。ありえない、とでも言うように。しかし、目の前の光景こそが真実であることは明らかだった。
言葉が出ない、声が出せない。それでもイリスは、仲間の名前を呼んだ。
「リーテイル——!」
リーテイルの背中に生えた新緑の葉。リーテイルの二枚の翼は——砂漠の大蛇の牙に、喰い千切られた。
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