二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——完結——
- 日時: 2013/04/14 15:29
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=21394
今作品は前作である『ポケットモンスターBW 真実と理想の英雄』の続きです。時間としては前作の一年後となっておりまして、舞台はイッシュの東側がメインとなります。なお、前作は原作通りの進行でしたが、今作は原作でいうクリア後なので、オリジナリティを重視しようと思います。
今作品ではイッシュ以外のポケモンも登場し、また非公式のポケモンも登場します。
参照をクリックすれば前作に飛びます。
では、英雄達の新しい冒険が始まります……
皆様にお知らせです。
以前企画した本小説の人気投票の集計が終わったので、早速発表したいと思います。
投票結果は、
総合部門>>819
味方サイド部門>>820
プラズマ団部門>>821
ポケモン部門>>822
となっています。
皆様、投票ありがとうございました。残り僅かですが、これからも本小説をよろしくお願いします。
登場人物紹介等
味方side>>28
敵対side>>29
PDOside>>51
他軍勢side>>52
オリ技>>30
用語集>>624
目次
プロローグ
>>1
第一幕 旅路
>>8 >>11 >>15 >>17
第二幕 帰還
>>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
第三幕 組織
>>32 >>36 >>39 >>40 >>42 >>43 >>46 >>49 >>50 >>55 >>56 >>59 >>60
第四幕 勝負
>>61 >>62 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>72 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80
第五幕 迷宮
>>81 >>82 >>83 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>92 >>93 >>95 >>97 >>100 >>101
第六幕 師弟
>>102 >>103 >>106 >>107 >>110 >>111 >>114 >>116 >>121 >>123 >>124 >>125 >>126 >>129
第七幕 攻防
>>131 >>135 >>136 >>139 >>143 >>144 >>149 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>157 >>158 >>159 >>161 >>164 >>165 >>168 >>169 >>170 >>171
第八幕 本気
>>174 >>177 >>178 >>180 >>184 >>185 >>188 >>189 >>190 >>191 >>194 >>195 >>196 >>197 >>204 >>205 >>206 >>207 >>211 >>213 >>219 >>223 >>225 >>228
第九幕 感情
>>229 >>233 >>234 >>239 >>244 >>247 >>252 >>256 >>259 >>262 >>263 >>264 >>265 >>266 >>269 >>270 >>281 >>284 >>289 >>290 >>291 >>292 >>293 >>296 >>298
第十幕 強襲
>>302 >>304 >>306 >>307 >>311 >>316 >>319 >>320 >>321 >>324 >>325 >>326 >>328 >>329 >>332 >>334 >>336 >>338 >>340 >>341 >>342 >>343 >>344 >>345 >>346
弟十一幕 奪還
>>348 >>353 >>354 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>376 >>377 >>378 >>379 >>380 >>381 >>382 >>383 >>391 >>393 >>394 >>397 >>398 >>399 >>400
第十二幕 救世
>>401 >>402 >>403 >>404 >>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>412 >>413 >>414 >>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>433 >>436 >>439 >>440 >>441 >>442 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447 >>450 >>451 >>452 >>453 >>454
第十三幕 救出
>>458 >>461 >>462 >>465 >>466 >>467 >>468 >>469 >>472 >>473 >>474 >>480 >>481 >>484 >>490 >>491 >>494 >>498 >>499 >>500 >>501 >>502
第十四幕 挑戦
>>506 >>511 >>513 >>514 >>517 >>520 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>534 >>535 >>536 >>540 >>541 >>542 >>545 >>548 >>549 >>550 >>551 >>552 >>553 >>556 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>568
第十五幕 依存
>>569 >>572 >>575 >>576 >>577 >>578 >>585 >>587 >>590 >>593 >>597 >>598 >>599 >>600 >>603 >>604 >>609 >>610 >>611 >>614 >>618 >>619 >>623 >>626 >>628 >>629 >>632 >>638 >>642 >>645 >>648 >>649 >>654
>>657 >>658 >>659 >>662 >>663 >>664 >>665 >>666 >>667 >>668 >>671 >>672 >>673 >>676 >>679 >>680 >>683 >>684 >>685 >>690 >>691 >>695
第十六幕 錯綜
一節 英雄
>>696 >>697 >>698 >>699 >>700 >>703 >>704 >>705 >>706 >>707 >>710 >>711
二節 苦難
>>716 >>719 >>720 >>723
三節 忠義
>>728 >>731 >>732 >>733
四節 思慕
>>734 >>735 >>736 >>739
五節 探究
>>742 >>743 >>744 >>747 >>748
六節 継承
>>749 >>750 >>753 >>754 >>755
七節 浮上
>>756
第十七幕 決戦
零節 都市
>>759 >>760 >>761 >>762
一節 毒邪
>>765 >>775 >>781 >>787
二節 焦炎
>>766 >>776 >>782 >>784 >>791 >>794 >>799 >>806
三節 森樹
>>767 >>777 >>783 >>785 >>793 >>807
四節 氷霧
>>768 >>778 >>786 >>790 >>792 >>800 >>808
五節 聖電
>>769 >>779 >>795 >>801 >>804 >>809
六節 神龍
>>772 >>798 >>811
七節 地縛
>>773 >>780 >>805 >>810 >>813 >>814 >>817
八節 黒幕
>>774 >>812 >>818
最終幕 混濁
>>826 >>827 >>828 >>832 >>833 >>834 >>835 >>836 >>837 >>838 >>839 >>840 >>841 >>842 >>845 >>846 >>847 >>849 >>850 >>851
エピローグ
>>851
2012年冬の小説大会金賞受賞人気投票記念番外
『夢のドリームマッチ ver混濁 イリスvsリオvsフレイ 三者同時バトル』>>825
あとがき
>>852
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171
- Re: 546章 暴走 ( No.800 )
- 日時: 2013/03/24 23:15
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
ギリッ、と。
レイは、歯軋りした。
「あなた如きに……あなた如きに、わたしが敗れることなどありません。あなたのような幸せ者に、わたしの痛みが分かるはずありません」
「……なに言ってんだ、お前」
端正な顔を怒りに歪めるレイ。ザキはその怒気に気圧されることなく、敢然と立ち向かう。
「おいでなさい、レジュリア!」
レイの握りしめたボールから出て来たのは、人型ポケモン、レジュリア。
細身で美麗な女性型のポケモン。ドレスのような赤い衣装と長く煌めく金髪が特徴だ。
怒りの形相で睨み付けるレイに睨み返しながら、ザキもボールを握り込む。
「急にキレ始めて意味分かんねえけど、なんにせよ俺もこいつが最後だ。負けるわけにはいかねえ」
そして、ザキは最後のボールを放り投げる。
「今度こそあいつをぶっ飛ばすぞ、テペトラー!」
ザキの最後のポケモン、河童ポケモン、テペトラー。
レジュリアとは対照的に、若干ずんぐりした体格。河童のような意匠で腹には赤い×印、頭には皿のようなもの。そして腕も足もがっしりとしており、非常に逞しい体つきをしている。
「行くぞ! テペトラー、スプラッシュ!」
テペトラーは全身に水流を纏い、水飛沫を散らしながらレジュリアへと突っ込んでいく。しかし、
「レジュリア、サイコバーン!」
レジュリアはテペトラーが突撃する直前に念力で爆発を引き起こし、衝撃波でテペトラーを吹き飛ばした。
「放電!」
そしてすぐに掌から電撃を放つ。広範囲に放つのではなく、テペトラーを狙って電撃を集束させた威力重視の放電だ。
「ちぃ、氷柱落とし!」
電気技はテペトラーに効果抜群なので、テペトラーとしてはこの攻撃は受けたくない。虚空から何本もの巨大な氷柱を落として地面に突き刺し、壁にして放電をシャットアウトする。
「突っ込め! スプラッシュ!」
「吹き飛ばしなさい! サイコバーン!」
テペトラーは再度、水流を纏ってレジュリアに突貫。レジュリアも同じように念力の爆発でテペトラーを迎撃しようとするが、
「同じ手は効かねえよ! テペトラー、跳べ!」
テペトラーは衝撃波が放たれる直前に跳躍し、背後からレジュリアにぶつかっていく。
「シャドーパンチだ!」
さらに影を纏った拳でレジュリアを殴って追撃。効果抜群なので、ダメージはそれなりに大きいはずだ。
「やってくれますね……! レジュリア、アイスバーンです!」
「かわしてシャドーパンチだ!」
レジュリアは振り返って氷の衝撃波を飛ばすも、既にそこにテペトラーはいない。テペトラーは再びレジュリアの背後に回ると、影の拳を突き出してレジュリアを殴り飛ばす。
「氷柱落としだ!」
吹っ飛ばされるレジュリアに、テペトラーはすかさず氷柱を落として動きを止める。そこ隙にレジュリアに接近し、
「インファイト!」
氷柱を砕き、拳による乱打を叩き込む。技術なんて必要ない。ただただ力だけを求めた拳を凄まじい勢いで何度も繰り出し、最後に放つ渾身の正拳突きでレジュリアを吹っ飛ばす。
「くぅ、放電!」
レジュリアはテペトラーがいる前方方向に向けて電撃を放とうとするが、
「氷柱落とし!」
その前にテペトラーが虚空から氷柱を落とし、レジュリアの電撃はシャットアウトされてしまう。
「スプラッシュだ!」
テペトラーは水流を纏って氷柱に囲まれたレジュリアに突貫。氷柱を砕き、水飛沫を散らしながらレジュリアを吹っ飛ばした。
「この……サイコバーン!」
「当たらねえよ! シャドーパンチ!」
レジュリアは態勢を立て直すと、念力の爆発を起こして衝撃を放つが、衝撃波はかわされ、テペトラーのシャドーパンチがレジュリアを捉える。
「どうした? さっきから攻撃が単調だぜ。そんなんじゃ俺は止められねえぞ! テペトラー、インファイト!」
影の拳を叩き込んだ直後、テペトラーは再び力ずくの猛撃を繰り出す。ひたすらレジュリアを殴り続け、最後にテペトラーはハイキックでレジュリアを蹴り飛ばした。
「っ……レジュリア、アイスバーン!」
空中で姿勢が整わないまま、レジュリアは氷の衝撃波を放ち、テペトラーに直撃させる。
しかし氷技はテペトラーには効果いまひとつ。大きなダメージを与えるには至らない。
「それで終わりか? なら次も行かせてもらうぞ! テペトラー、スプラッシュ!」
テペトラーは全身に水流を纏い、水飛沫を散らしながらレジュリアへと突っ込むが、
「レジュリア、ハイドロポンプ!」
レジュリアも同時に激しい水流を発射して、テペトラーを押し返す。だが、
「氷柱落とし!」
テペトラーは虚空から氷柱を落とし、またしてもレジュリアの動きを止めてしまう。
「またですか……! レジュリア、サイコバーンで吹き飛ばしなさい!」
「遅せえんだよ! テペトラー、スプラッシュ!」
レジュリアが念力の爆発を起こすよりも早く、テペトラーは水飛沫を散らしてレジュリアに激突した。
「ぐぅ、レジュリア、反撃です! アイスバーン!」
「シャドーパンチだ!」
レジュリアはすぐさま氷の衝撃波を放つが、それを突き破ってテペトラーの拳がレジュリアを捉え、殴り飛ばす。
ドサッと地面に落ちるレジュリア。バトルが始まってからまだそれほど長い時間は経っていないが、レジュリアは既にかなりのダメージを受けていた。逆に、テペトラーの負った傷は微々たるものである。
「……なにをそんなにキレてんのかは知らねえけどよ、そんな頭に血が上った状態じゃ、俺には勝てねえ。俺だって、伊達に親父がいない間、セッカ支部を仕切ってきたわけじゃねえ。昔でこそ忌み名だった暴君は、いまや俺の二つ名であり、俺のバトルスタイルの象徴みてえなもんだ。力押しで、俺に勝てると思うな」
ザキは非常に高圧的で、叱咤するようにレイに言葉をぶつける。しかもそれだけにとどまらず、さらに続けた。
「それに、俺はこんなことを言うタチでもねえんだが、俺には仲間がいる。ムカつく英雄やら、女らしくない同僚やら、お節介な大親友やら……それと、俺より強くなりやがる妹に、ムカつく上にウザい親父。それだけじゃねえ」
睨むような鋭い眼光。しかしその瞳の奥には、確かな決意と信念が感じられる。
「ミキと親父、三人で約束したんだ。てめえらをぶっ飛ばして、母さんを見つける。そして、また家族四人で暮らすってな。その標がある限り、俺は負けねえ」
静かに、しかし途轍もない威圧感をもって発せられるザキの言葉。同時に、テペトラーの気迫も増した。
対するレイは、拳を握り、ギリギリと歯軋りし、整った顔立ちが崩れるほどの怒りを露わにしてザキを睨み付けている。
「なにが……なにが妹ですか、父親ですか、母親ですか……そんなに、家族が大事なんですか」
「たりめーだ。家族はかけがえのないもので、助け合い、一緒に暮らすものだ。百人が百人、そう答える」
「だったら!」
レイは叫ぶ。内に秘めた感情をありったけ垂れ流して、叫ぶ。
「だったらわたしを売ったあの男はなんなんですか!? わたしを捨てて逃げたあの女はなんなんですか!? そんな人間でも、あなたは家族と言えるんですか!?」
支離滅裂に、自我が崩壊寸前となっているレイの剣幕に気圧されそうになるが、ザキはそれ以上に困惑していた。
「さっきからわけのわからないことを……一体、お前に何があったっつーんだよ」
「そんなことをあなたに言って何になるんですか! もうあんなものは思い出したくもない……ああ!」
頭を抱え、発狂したようにレイは叫び散らす。そして、
「レジュリア、サイコバーン!」
直後、レジュリアは念力の爆発を引き起こし、衝撃波を放った。
「っ! やばっ——」
発狂したような振る舞いのレイに気が向いていたというのもあったが、それ以上にレジュリアから放たれたサイコバーンの威力は凄まじかった。アイスバーンで特攻が上がっているということを考慮しても、その一撃は大きい。
(これがあの野郎の言ってた暴走か……だが、話に聞いてたよりも随分と様変わりしてるじゃねえか)
襲い掛かる念力の衝撃波。かわすことは不可能だと、ザキは一瞬のうちに判断する。
「耐えろテペトラー! スプラッシュ!」
全身に水流を纏い、テペトラーは衝撃波を防御する。一瞬で水流と共にテペトラーは吹き飛ばされたが、すぐに立ち上がる。
しかし、
「放電!」
すぐさまレジュリアは電撃を放出する。その出力が尋常ではない。とてもじゃないが、氷柱落とし程度では防ぎきれそうにはない。
「だが、とりあえず防げるだけ防ぐぞ! 氷柱落とし!」
テペトラーは虚空から何本もの太い氷柱を落とし、襲い来る電撃をシャットアウトしようとする。だが氷柱は電撃に突き破られ、テペトラーは電流を浴びてしまう。
「ぐぅ……!」
効果抜群の攻撃に、テペトラーは呻き声を上げる。だがレイとレジュリアの猛攻は止まらない。
「ハイドロポンプ!」
もはやタイプ相性すら無視したレジュリアの攻撃。しかしその水流は相当な勢いで放たれている。スピードも威力も段違いだ。
「そろそろなんとかしねえとな……! テペトラー、かわせ!」
大きく横っ飛びして、テペトラーは水流を回避する。
(なんなんだこいつ……! わけわかんねえ……!)
レイの変貌ぶりを見て、ザキもまた、胸中で感情を募らせていた。
- Re: 547章 箍 ( No.801 )
- 日時: 2013/03/29 04:33
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
7Pエレクトロは、テロリストであり記憶喪失者だ。
より詳細に記すなら、彼はテロリストであり、逃亡中に海難事故に見舞われて記憶を喪失した。
彼は自分の目的というものを明確にはもたず、だからこそ純粋にゲーチスの意向に賛同している。もっとも、記憶を失う前はテロリストだったことを考えれば、世界を支配しようとするゲーチスと根本的に通ずるところがあったのかもしれないが。
なにはともあれ、彼は難破した船から投げ出され、運良く命は助かったものの、記憶を失ってしまった。
見知らぬ地で、自分の名前も素性も分からない。人間は得体の知れないものを恐れる生き物だ。記憶がないという事態は、彼を酷く困惑させた。
たった一人で、思い返すものもなく孤独に生き延びた彼だったが、やがて限界が訪れた。
ただでさえ右も左も分からない、その時を生きるだけで精一杯という状況で、記憶喪失という事実は彼の身も心も憔悴させ、衰弱させていった。
心身ともに限界を迎えた彼は、人知れず潰れかけていた。精神が崩壊するのが先か、肉体が力尽きるのが先か。彼はそんな状態で終わりを迎えそうになった時、あの男と出会った。
それが、プラズマ団の頭領、ゲーチスだ。
ゲーチスは彼を自分の組織に勧誘したいのだと言う。孤独のまま一生を終えかけていた彼は、迷わずその申し出を受けた。それが、彼が生き残るための唯一の術なのだから。
その後エレクトロという名を与えられ、プラズマ団の上位に着いた彼は、7Pなる幹部的な者たちのまとめ役となった。彼には人の上に立つ器と、大衆を統率するだけの手腕があったのだろう。
プラズマ団としての行動に異議を唱えず、かといって言われるがままに従事するわけでもなく、その場に適した対応、判断を下し、時には仲間を退かせ、時には敵を討つ。プラズマ団でなくとも、組織に属する者としては八面六臂の活躍を見せた。
そんな彼が着目したのは、プラズマ団の対抗勢力となる組織。その中でも指折りの実力者である一人の少女だった。
正確に言えば彼女ではなく、彼女の有するポケモン。その炎に目を奪われた。目を奪われたというよりは、何かを思い出させるような感覚を抱いた。
すべてを焼き焦がす紫色の炎。同時に網膜に映し出されるのは、炎上する都市。これが、記憶を失う前の自分を思い出させる鍵となるだろうと、彼は理解した。
あの炎から、昔の自分が取り戻せるかもしれない。一度は失った記憶を再び蘇らせることかもしれない。そんな淡い希望を持ち、彼は、英雄たちとの戦いに身を投じるのだった——
プツン
と、エレクトロの中で、何かが切れるような音がした。
それと同時に、カチリ、という何かが繋がったような音もした。
「……ふふふ」
腕をだらんと垂らし、姿勢も若干前屈みとなって、頭を下げる。いつもは理性的で理知的なエレクトロだが、今の彼から感じられるのは獰猛な獣のような気配だった。
「そう、そうですか……そうでしたね。ええ、そうでしたとも」
「な、なに……なんか、怖い……」
ゆらゆらと体を揺らし始めたエレクトロを見て、リオは恐怖心を煽られ、数歩後ろに下がった。
「そうです、遠慮することなどありません。加減する必要などありません。私はいつも、そうやってきたではないですか。目的のために、あらゆるものを破壊してきたではないですか」
奇妙な姿勢と動きのまま、エレクトロはトロピウスをボールに戻し、次のボールを取り出す。エレクトロの最後のポケモンが内包されたボールだ。
「全て壊してしまいましょう、燃やし尽くしてしまいましょう……まずは、貴女からです」
そう言ってリオを見据え、エレクトロは手にしたボールから、最後のポケモンを繰り出す。
「終焉の時です、ドルマイン!」
エレクトロの最後のポケモン、ボールポケモン、ドルマイン。
マスターボールに酷似した球状の体を持つポケモン。球を囲む鋭い刃が連なり、円錐状の二本の突起と、稲妻型の一本の突起がある。
「ドルマイン、まずは邪魔なものを片付けましょう。マインブラスト!」
ドルマインは周囲に地雷の如き爆発を連続して引き起こす。爆発によって散乱しているテーブルや椅子は吹き飛び、粉々に粉砕され、爆炎で燃え尽き、ほとんどのテーブルと椅子は原型がなくなるほどに破壊された。
「なんなの、どうしたの、一体……!?」
急に変貌してしまったエレクトロに狼狽するリオ。エレクトロから感じるのは静かな闘志ではなく、破壊の衝動と獰猛な威圧感だけだった。
エレクトロはテーブルと椅子を破壊し終え、視線をうろたえるリオにへと向ける。次はお前だと言わんばかりに、狂った眼差しでリオを見つめている。
「……ドルマイン、雷です!」
直後、ドルマインは轟く稲妻を放つ。稲妻は一直線にドラドーンへと向かっていき、その身を貫いた。
「っ、ドラドーン!?」
その一撃でドラドーンは地に落ち、戦闘不能となる。
「まさか、ドラドーンが一撃なんて……」
リオは呟きつつドラドーンをボールに戻し、最後のボールを手に取った。
「最後は任せたよ、シャンデラ!」
リオの最後のポケモンは、誘いポケモン、シャンデラ。
紫色の炎を灯したシャンデリアのような姿のポケモンだ。
「何が来ようと、全て壊すだけですよ。雷!」
「シャンデラ、大文字!」
ドルマインは頭頂部にある稲妻型の突起から激しい雷を放つ。シャンデラも咄嗟に大の字の炎を放ち、雷を相殺した。
(何があったの、この人。バトルになったり、追い詰められたりすると人が変わるトレーナーは確かに存在するけど、この人のはそれとは何か違う気がする。そう)
タガが外れたみたい。
と、リオは胸中で呟いた。
エレクトロの豹変ぶりに、いつもの冷静さを取り戻せないでいるリオ。だがエレクトロはそんなリオには構わず、攻撃を続ける。
「アクアボルト!」
ドルマインは電気を帯びた水流を発射する。その水流も、どこか荒々しさを感じた。
「くっ、シャンデラ、サイコキネシス!」
シャンデラは念動力で水流の軌道をずらし、回避する。
「シャドーボム!」
続けて影の爆弾を発射し、ドルマインにぶつけて爆発させる。が、どういうわけかドルマインにはあまり効果がないように見える。
「爆弾の使い方が、なってませんねぇ。その程度の爆発で私を倒せるとでも、思っていたのでしょうか。だとすれば片腹痛い……本当の爆発は、こうやってするものですよ。ドルマイン、マインブラスト!」
次の瞬間、ドルマインの周囲で激しい爆発が連続して発生する。しかも爆発のたびに攻撃範囲はどんどん広がっていき、床を炎上させ、広間を震撼させる。
「なんて威力……部屋を破壊するつもり……?」
「それもいいですが、まずは貴女ですよ。ドルマイン、雷!」
ドルマインは壁のように燃え盛る炎を突き破って激しい稲妻を撃つ。
「シャンデラ、大文字で迎え撃って!」
シャンデラも大の字の炎を放って雷を相殺。
「スタープリズム!」
そして直後、虚空から冷気を内包したガラス球を無数に降らし、ドルマインへと攻撃。それと炎の鎮火を促進させようとするが、
「無駄です! マインブラスト!」
ドルマインが周囲に爆炎を巻き起こし、降り注ぐガラス球は全て溶かされてしまった。鎮火させるはずの炎も、むしろその勢いを増すばかり。
気付けば大広間は炎に飲み込まれていた。崩れかけた壁や天井にも炎が燃え移り、辛うじてリオとエレクトロのいる場所が、まだ炎に包まれていないだけ。それ以外の場所は、ドルマインのマインブラストで火の海と化している。
「ドルマイン、アクアボルト!」
「シャンデラ、サイコキネシス!」
ドルマインが放つ電気を帯びた水流を、シャンデラは念動力で散らす。ただそれだけなのに、やたら気力の消耗が激しい。
(このままじゃシャンデラのスタミナが切れて、ドルマインに嬲られるのが関の山……なんとかしないと)
徐々に冷静さを取り戻してきたリオは、ここから本格的に攻め始める。
「シャンデラ、シャドーボム連発!」
シャンデラは影の爆弾をいくつも生成し、それらを一斉にドルマインに向けて発射する。回避するのも相殺するのも困難なほど大量のシャドーボムが、ドルマインへと襲い掛かるが、
「言いませんでしたか、爆弾の使い方がなっていないと。ドルマイン、磁力線!」
ドルマインが磁力の波を放ち、襲い掛かる影の爆弾を全て破壊してしまう。しかも残った波がそのままシャンデラに直撃し、シャンデラは態勢を崩してしまった。
「アクアボルトです!」
その隙に、ドルマインは電気を帯びた荒々しい水流を発射する。
「しまっ……サイコキネシス!」
水流が直撃する寸前で、シャンデラは念動力を放ち軌道を逸らそうとするが間に合わず、直撃は避けたものの効果抜群の水流を受けてしまう。
「雷!」
シャンデラは態勢を立て直したいのだが、間髪入れずにドルマインの雷が飛ぶ。大文字を放つ余裕がなく、避けるのも難しい状況だ。シャンデラは襲い来る稲妻をかわし切れずに喰らってしまう。
「まだ終わりませんよ。磁力線!」
「サイコキネシス!」
ドルマインの猛攻は止まらず、今度は磁力の波を放ってくるが、今度こそ念動力でそれを打ち消し、シャンデラは態勢を立て直す。
「大文字!」
そして大の字の巨大な炎を放ち、攻撃に出る。しかし、
「ドルマイン、雷です!」
ドルマインは雷を放ち、大文字にぶつけた。だがどういうわけか、その威力が今までの雷よりも遥かに大きい。
結果、ドルマインの稲妻は大の字の炎を突き破り、そのままシャンデラをも貫いた。
効果抜群や大技を連続で喰らってシャンデラの体力もかなり削られている。もう長くはもたないだろう。
「シャンデラ……」
そんなシャンデラの炎が橙色に揺らめいているのに気付くのは、リオだけだった——
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 ( No.802 )
- 日時: 2013/03/25 20:45
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
ザキ・男・18歳
容姿:無造作に跳ねた赤い髪に、鋭い赤い眼。黒い半袖Tシャツに、黒と赤を基調としたジャケットを羽織っている。
性格:ぶっきらぼうで口が悪く、短気で怒りっぽい。頭に血が上りやすい上に周りの状況が見えなくなる時もあるが、彼なりに考えて行動し仲間意識もある。シスコンだったが最近は落ち着いてきている。PDOセッカ支部統括代理でかなりの実力者であり、セッカの次期ジムリーダー候補としても囁かれているほど。昔、母親と離ればなれになってしまってから素行が荒くなり、その荒れっぷりはセッカの暴君とまで言われた。その更正に携わったキリハとは親友同士。バトルは大技や高火力の技で一気に攻めるスタイル。
手持ちポケモン
ヘルガー・♂
技::ダークロアー、火炎放射、放電、悪巧み
特性:貰い火
ブーバーン・♂
技:オーバーヒート、ジオインパクト、ダイヤブラスト、大地の怒り
特性:炎の体
エレキブル・♂
技:ワイルドボルト、ウッドハンマー、グランボールダ、地震
特性:電気エンジン
テペトラー・♂
技:インファイト、スプラッシュ、シャドーパンチ、氷柱落とし
特性:すいすい
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 ( No.803 )
- 日時: 2013/03/26 01:50
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
ロキ・男・39歳
容姿:血のように赤黒い髪。若いように見えて年齢を感じさせず、思考の読み取れないポーカーフェイス。糸目で眼鏡を掛けている。服装は様々だが、カジュアルな格好が多い。
性格:自由奔放で掴みどころがなく、飄々としており、発言自体がふざけているように感じられ、相手を不愉快にさせたり困惑させたりすることもしばしば。口調もどこか胡散臭く、態度もどこか気取っており、よく文の初めにふふ、ふふふなどと付けることがそれを助長している。イリゼ同様に今回の戦いの深い部分まで知っているが、プラズマ団との関係が激化し、終わりを迎える直前に姿を現すなど、イリゼ以上に行動が読めない。主義として使用ポケモンは全て♀で、それぞれ異なる意味を持つ女性名詞で呼んでおり、その中の一体には妻であるユキのポケモンも含まれている。ヤマジタウン出身でイリゼとは幼馴染。ミキ、ザキの父親であり、PDOセッカ支部統括。ただしセッカ支部統括としての仕事は他地方に姿をくらませていたこともあり、ほぼザキが仕切っている。性格に加えてそのこともあってか、ザキにはあまり良い態度を取られていない。しかし実際は家族のことをかなり大切に思っており、自分の理想を実現するための意志は相当なもの。前世代の理想の英雄。
手持ちポケモン
クレセリア・♀
技:三日月の舞、瞑想、サイコキネシス、シグナルビーム
特性:浮遊
キングドラ・♀
技:流星群、ハイドロポンプ、吹雪、クリアスモッグ
特性:すいすい
ランターン・♀
技:ハイドロポンプ、雷、吹雪、怪しい光
特性:蓄電
ロズレイド・♀
技:リーフストーム、危険な毒素、神通力、ウェザーボール
特性:自然回復
シャワーズ・♀
技:ハイドロポンプ、溶ける、眠る、バトンタッチ
特性:潤いボディ
アメリシア・♀
技:潮吹き、雷、自己再生、守る
特性:雨降らし
- Re: 548章 覚悟 ( No.804 )
- 日時: 2013/03/26 16:13
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
シャンデラの炎が橙——鮮やかなオレンジ色に揺らめいている。
この橙の炎はシャンデラの本気の炎。即ち全力の炎だ。しかしリオは、その炎を見て、勇むどころか浮かない顔をする。
(やっぱり、本当の本気を出すしか、ないんだ……)
以前シャンデラが本気の炎を出した時——それは今の7Pの前身、プラズマ団7幹部のトップと戦っている時だった。
あの時は途中でアクシデントがあり、バトルは流れたようなものだったが——それを差し引いたとしても、当時のシャンデラはまだ本気とは言えなかった。
(いや、シャンデラは本気なんだろうけど、なんだろう……どうしてもフルパワーが出ない感じがする)
胸中で呟きながら、リオはエレクトロを見遣る。タガが外れたように、急に攻撃的になったエレクトロ。今までは全力が出せない、八割だと九割だのと言っていたが、今の彼は確実に十割以上の力を叩き出している。
それが彼の豹変ぶりと関わる事なのかは分からないが、それでも向こうは全力以上なのに、こちらは全力が出せないというのは、苦しい。戦況的にも、トレーナーとしても、全力で戦いたい。
なのに、シャンデラの火力は最大まで達していない。もっと大きな炎が出せるはずなのに。
「……考えてもしょうがないか。今は、今の全力でやるしかない。シャンデラ、大文字!」
シャンデラは大の字の巨大な炎を放つ。回避も相殺も困難に思えるほどの火力で迫る炎だ。
「ドルマイン、雷です!」
なんとドルマインは、頭頂部の突起から放つ稲妻を貫通させ、そのままシャンデラに直撃させた。相殺ではなく貫いただけなので、炎はそのままドルマインを襲う。
「くっ、シャンデラ!」
肉を切らせて骨を断つ——と言うほどではないが、互いの身を削ぐような攻撃。いつものエレクトロなら回避からの反撃か、ドルマインの火力を信じて相殺しようとするだろう。だがそのどちらも取らず、今のエレクトロは確実の自分の攻撃を当てるようにした。ドルマインが攻撃を受けるにもかかわらず、だ。
(攻撃的どころじゃない……こっちを攻撃することが全てみたいなスタイル……!)
そのスタイル自体はさして脅威でもないが、エレクトロとドルマインの気迫が合わさると、どうしても怯んでしまいそうになる。
だがリオはなんとか自身を奮い立たせ、シャンデラに指示を飛ばす。
「シャンデラ、シャドーボム!」
「磁力線!」
シャンデラが放つ影の爆弾は、またしても磁力の波で相殺され、残った波がそのままシャンデラを襲う。効果はいまひとつだが、シャンデラもダメージが溜まってきている。
「スタープリズム!」
シャンデラは虚空から冷気を内包した無数のガラス球を降らせるが、
「ドルマイン、動き回ってマインブラストです! 全て壊しなさい!」
ドルマインはその場で高速回転しながら爆発を起こし、そのまま地面や壁を走り回っていたるところを爆撃していく。その過程でスタープリズムも全て相殺された。
「そうです、この光景、この感触です……すべて思い出しましたよ……!」
理性を失っているのか、血走った眼で炎上し、崩壊しかけている部屋を見回すエレクトロ。もはや別人だ。
「ドルマイン、雷です!」
ドルマインは突起から稲妻を放つ。だがその放ち方は今までとは違い、頭頂部だけでなく両サイドの突起からも、何本もの稲妻を発射する。
放電にも似た攻撃だが、一撃一撃の重さは雷と同等。下手に喰らえば致命傷になってしまう電撃だ。
ここに来て、エレクトロとドルマインの力も上昇している。
「これは、相殺できるかな……シャンデラ、連続で大文字!」
シャンデラは襲い掛かる稲妻に向かって、数発の大文字を重ねながら放つ。大文字は炎の壁となり、稲妻をシャットアウトしたため、最終的にシャンデラに雷は届かなかった。
(けど、あんな攻撃を連発されたらもたない……どうしよう)
必死に思考を巡らせるリオだが、燃え上がった炎による熱気がそれを邪魔し、エレクトロとドルマインは怒涛の攻めで考えることを許してはくれない。
「アクアボルト!」
電気を纏った激流を発射するドルマイン。同時に地面を這う炎が幾分か消えたが、それはドルマインの視界を明瞭にするだけだった。
「とにかく軌道を逸らして、サイコキネシス!」
アクアボルトの軌道を僅かに逸らし、紙一重でかわすシャンデラ。しかし、
「マインブラストです!」
直後、爆発音とともに激しい衝撃波が飛来する。衝撃波はシャンデラへと直撃し、吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられた。
「っ!? シャンデラ!」
効果はいまひとつだが、それでも予想以上のダメージだ。ドルマインも消耗しているはずだが、向こうは疲れた様子が伺えない。体力的にも、精神的にもリオとシャンデラが劣勢だった。
弱々しくオレンジ色の炎を揺らめかせ、シャンデラは浮かび上がる。
「まだ起き上がれるのですね……ならばもっと攻めてみましょうか! ドルマイン、磁力線!」
刹那、ドルマインから強力な磁力の波が放たれる。高速かつ不可視の攻撃は、確実にシャンデラを捉えた。
「くぅ、シャンデラ、シャドーボム!」
「磁力線です!」
シャンデラは影の爆弾で反撃するが、またしても磁力線で相殺され、そのまま攻撃される。どうやら、どうあってもシャドーボムはドルマインには通じないようだ。
「ドルマイン、雷です!」
「っ、大文字!」
ドルマインは頭頂部から、溜めに溜めた稲妻を発射する。シャンデラも同時に大の字の炎を放って相殺しようとする、が、
雷は大文字を打ち消し、そのままシャンデラを貫いた。
「……っ! シャンデラ!」
その一撃を喰らって、シャンデラはまた地面に体を着く。オレンジ色に燃える炎も、弱ってきている。
そして何より、シャンデラの大文字が、ドルマインの雷に打ち破られてしまった。
今まで曖昧になっていたが、ここに来てはっきりしてしまった。今のドルマインの火力は、シャンデラを上回る。その事実は、リオに追い打ちをかける。
(どうしよう、このままじゃシャンデラがもたない……でも、どうすればいいの)
焦るリオ。シャンデラは限界寸前で、ドルマインは圧倒的な火力と収まることのない怒涛の攻撃で攻め続けてくる。火力では負け、体力的にも精神的にも押され、打開策は見当たらない。
そんな絶望の淵で、リオは一つの音を聞いた。
(水の、音……?)
雫のような音が、リオの中に響き渡る。その発信源は、首元——赤と水色の毛からだ。
(これって、ケルディオ……?)
“そうだよ”
リオの目の前に、暗いビジョンが浮かぶ。真っ暗な空間に、地面は水面。正面には、若駒ポケモン、ケルディオ。だがその姿は、いつもの姿ではない。
角は青い刃のようになり、赤い鬣も長い。側頭部には青、黄、緑の師の力を受け継いだ印である、三色の毛が立っている。その姿hはまるで、戦いに身を投じる覚悟を決めたかのようであった。
(なんで、ケルディオがここに? ダークトリニティと戦っているんじゃ……)
“そうなんだけど、こっちの心配は必要ないよ。師匠たちと一緒なんだ、負けるはずがない”
非常に強気で自信に満ちたケルディオ。ケルディオは、ゆっくりと口を開いた。
“リオ、まずは落ち着いて。確かに、君が戦っている爆雷の化身は強い。でも、君が本当の力を発揮すれば、必ず勝てるはずだ”
(でも……)
実際、今はドルマインに押され、敗北寸前だ。本当の力とやらも、出せるなら出したい。全力が出せないのであれば、どうしようもないのだ。
“思い出すんだ、リオ。君は今まで一人で戦ってきたわけじゃないだろう。君には仲間がいるはずだ。仲間が戦っているのに、君が弱気になってどうするんだ”
(仲間……)
次の瞬間、暗い空間に次々と人物像が浮かび上がってくる。
英雄としてこの戦いに最も全力を注いでいるイリス。そのイリスに負けまいと幼いながらも奮起するミキ。ミキの兄でかつての自分とも戦っているザキ。現状の主戦力となるPDO年長者として皆をサポートするキリハ。そして、リオと共に戦い続ける、アキラ。
それぞれ、違う夢を持ちながらも一つの目標向かって戦う仲間。全員が皆の思いを背負って、戦っている。
“そうだよ、リオ。だから君も負けるわけにはいかない。そうだろう? 誰にも負けないトレーナーに、なるんでしょ?”
ケルディオの言葉と、その思い。イッシュを救うという願いが、リオの中で染み渡る。
(……そうだったね)
リオは静かに目を閉じた。
(私はトレーナーとして、あの人には負けない。それと、まだあの人が悪い人なのかは分かんないけど、悪いプラズマ団は捕まえる。そのためには、やっぱり負けられない)
“そうだよ、それでこそリオだ。それじゃあ、僕はもう行くよ。師匠たちにばかり、戦わせてはいられないからね”
(うん、ありがとう、ケルディオ。貴方のお陰で、自分のこと、ちゃんと自覚できた)
お互い、絶対に勝つという言葉のない約束を交わし、暗い空間は晴れていく。
(もう負けない。あの人にも、プラズマ団にも、そして——自分自身にも!)
絶対に負けない。たったそれだけの信念を持って、リオは再び戦いに臨む。
(覚悟は、出来た——!)
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171
この掲示板は過去ログ化されています。