二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——完結——
日時: 2013/04/14 15:29
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=21394

 今作品は前作である『ポケットモンスターBW 真実と理想の英雄』の続きです。時間としては前作の一年後となっておりまして、舞台はイッシュの東側がメインとなります。なお、前作は原作通りの進行でしたが、今作は原作でいうクリア後なので、オリジナリティを重視しようと思います。
 今作品ではイッシュ以外のポケモンも登場し、また非公式のポケモンも登場します。

 参照をクリックすれば前作に飛びます。

 では、英雄達の新しい冒険が始まります……

 皆様にお知らせです。
 以前企画した本小説の人気投票の集計が終わったので、早速発表したいと思います。
 投票結果は、
総合部門>>819
味方サイド部門>>820
プラズマ団部門>>821
ポケモン部門>>822
 となっています。
 皆様、投票ありがとうございました。残り僅かですが、これからも本小説をよろしくお願いします。

登場人物紹介等  
味方side>>28  
敵対side>>29
PDOside>>51
他軍勢side>>52
オリ技>>30
用語集>>624

目次

プロローグ
>>1
第一幕 旅路
>>8 >>11 >>15 >>17
第二幕 帰還
>>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
第三幕 組織
>>32 >>36 >>39 >>40 >>42 >>43 >>46 >>49 >>50 >>55 >>56 >>59 >>60
第四幕 勝負
>>61 >>62 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>72 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80
第五幕 迷宮
>>81 >>82 >>83 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>92 >>93 >>95 >>97 >>100 >>101
第六幕 師弟
>>102 >>103 >>106 >>107 >>110 >>111 >>114 >>116 >>121 >>123 >>124 >>125 >>126 >>129
第七幕 攻防
>>131 >>135 >>136 >>139 >>143 >>144 >>149 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>157 >>158 >>159 >>161 >>164 >>165 >>168 >>169 >>170 >>171
第八幕 本気
>>174 >>177 >>178 >>180 >>184 >>185 >>188 >>189 >>190 >>191 >>194 >>195 >>196 >>197 >>204 >>205 >>206 >>207 >>211 >>213 >>219 >>223 >>225 >>228
第九幕 感情
>>229 >>233 >>234 >>239 >>244 >>247 >>252 >>256 >>259 >>262 >>263 >>264 >>265 >>266 >>269 >>270 >>281 >>284 >>289 >>290 >>291 >>292 >>293 >>296 >>298
第十幕 強襲
>>302 >>304 >>306 >>307 >>311 >>316 >>319 >>320 >>321 >>324 >>325 >>326 >>328 >>329 >>332 >>334 >>336 >>338 >>340 >>341 >>342 >>343 >>344 >>345 >>346
弟十一幕 奪還
>>348 >>353 >>354 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>376 >>377 >>378 >>379 >>380 >>381 >>382 >>383 >>391 >>393 >>394 >>397 >>398 >>399 >>400
第十二幕 救世
>>401 >>402 >>403 >>404 >>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>412 >>413 >>414 >>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>433 >>436 >>439 >>440 >>441 >>442 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447 >>450 >>451 >>452 >>453 >>454
第十三幕 救出
>>458 >>461 >>462 >>465 >>466 >>467 >>468 >>469 >>472 >>473 >>474 >>480 >>481 >>484 >>490 >>491 >>494 >>498 >>499 >>500 >>501 >>502
第十四幕 挑戦
>>506 >>511 >>513 >>514 >>517 >>520 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>534 >>535 >>536 >>540 >>541 >>542 >>545 >>548 >>549 >>550 >>551 >>552 >>553 >>556 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>568
第十五幕 依存
>>569 >>572 >>575 >>576 >>577 >>578 >>585 >>587 >>590 >>593 >>597 >>598 >>599 >>600 >>603 >>604 >>609 >>610 >>611 >>614 >>618 >>619 >>623 >>626 >>628 >>629 >>632 >>638 >>642 >>645 >>648 >>649 >>654
>>657 >>658 >>659 >>662 >>663 >>664 >>665 >>666 >>667 >>668 >>671 >>672 >>673 >>676 >>679 >>680 >>683 >>684 >>685 >>690 >>691 >>695

第十六幕 錯綜

一節 英雄
>>696 >>697 >>698 >>699 >>700 >>703 >>704 >>705 >>706 >>707 >>710 >>711
二節 苦難
>>716 >>719 >>720 >>723
三節 忠義
>>728 >>731 >>732 >>733
四節 思慕
>>734 >>735 >>736 >>739
五節 探究
>>742 >>743 >>744 >>747 >>748
六節 継承
>>749 >>750 >>753 >>754 >>755
七節 浮上
>>756

第十七幕 決戦

零節 都市
>>759 >>760 >>761 >>762
一節 毒邪
>>765 >>775 >>781 >>787
二節 焦炎
>>766 >>776 >>782 >>784 >>791 >>794 >>799 >>806
三節 森樹
>>767 >>777 >>783 >>785 >>793 >>807
四節 氷霧
>>768 >>778 >>786 >>790 >>792 >>800 >>808
五節 聖電
>>769 >>779 >>795 >>801 >>804 >>809
六節 神龍
>>772 >>798 >>811
七節 地縛
>>773 >>780 >>805 >>810 >>813 >>814 >>817
八節 黒幕 
>>774 >>812 >>818

最終幕 混濁
>>826 >>827 >>828 >>832 >>833 >>834 >>835 >>836 >>837 >>838 >>839 >>840 >>841 >>842 >>845 >>846 >>847 >>849 >>850 >>851
エピローグ
>>851

2012年冬の小説大会金賞受賞人気投票記念番外
『夢のドリームマッチ ver混濁 イリスvsリオvsフレイ 三者同時バトル』>>825



あとがき
>>852

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171



Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 最終幕 始動——の前に ( No.825 )
日時: 2013/03/29 04:38
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「やっほーみんなー。『ポケットモンスターBW 混濁の使者』夢のドリームマッチ、はっじまるよー」
「……なにこれ」
「さあ……?」
 妙に広いバトルフィールド。そこには、三人の少年少女がいた。
 一人は背格好も普通で帽子ぐらいしか特徴のない少年、イリス。
 一人は金髪を三つ編みにした少女、リオ。
 一人は簡素な浴衣で地べたに寝転がった少女、フレイ。
 フレイは一人だけノリノリだが、イリスとリオは何が何だか分からないというような表情をしている。
「ていうか、僕らさっきまで7Pと戦ってた気がするんだけど……あれ? これ、どうなってるの? それ以前にここはどこ?」
「バトルフィールドっぽいけど……広さが中途半端ね。こんな場所、イッシュにはなかった気がするけど……」
「まーまーイリスンもりおっちも細かいこと気にしないのー」
「なんだよイリスンて……お前、僕のことそんな風に呼んでたっけ?」
 そんなイリスの発言を無視して、フレイはずるずるとバトルフィールドの一角に匍匐前進で移動する。
 よく見れば、このフィールドは三角形に近い。面積だけで見れば普通のバトルフィールドの1.5倍ほどであろうか。
「なんだかまるで、三人でバトルをするために作られたみたいなフィールドね……」
「三人でバトル? まさか。そんな変なルール、聞いた事ないですよ」
 リオが憶測で言ったことを、イリスは一笑に付すが、
「ところがどっこい、そのまさかなんだなー。あたしとイリスンとりおっちの三人で、同時にバトルをする。このフィールドは、そのために特別に用意されたものなんだよー」
「……マジかよ」
 頭を押さえるイリス。まだ現状がどうなっているのかは分からないが、どうやらここはバトルをしなければいけない流れのようだ。
「そんじゃー二人とも位置についてー。ルールはポケモン一体でー、最後まで生き残ってれば勝ちー。普通のバトルと同じルールだよー」
「でも、相手が一人増える分、脇からの攻撃も考慮しなきゃいけなくなる、か……」
 すぐに場に適応したらしいリオは、そんな風にバトルを分析する。まだついて来れていないイリスだけが、やや置いて行かれ気味だ。
「はぁ……なんかよく分かんないことに巻き込まれたけど、さっさと終わらせて帰るか。行くよ、ダイケ——」
 イリスはダイケンキの入ったボールを取ろうとするが、その手が空振る。確認してみれば、いつもはそこにあるはずのボールがなくなっており、あるのはディザソルのボールだけだった。
「え……なんで……!?」
「あー、言い忘れてたけどー、イリスンとりおっちはポケモンも一位になったから、使用ポケモン制限されてるからねー」
「一位ってなに……?」
 そう言うリオも、現在所持しているボールは一つだけのようだ。使用ポケモンは一体ということなので、一体でもいればバトルは出来るが。
「……しょうがない。別に負けてもデメリットがあるわけでもなし、やるだけやるか。行くよ、ディザソル」
「出て来て、シャンデラ」
「ストータス、出番だよー」
 三者三様にポケモンを繰り出す。
 イリスは流線型のなめらかな肢体を持つ災害ポケモン、ディザソル。
 リオは灯火を燃やすシャンデリアのような姿をした誘いポケモン、シャンデラ。
 フレイは巨大な陸亀のような石炭ポケモン、ストータス。
「……二人がエースポケモンなのに対して、僕だけディザソルか」
 一人そんなことを呟き、バトルは開始される。
「んじゃーあたしから行くねー。ストータス、地震だよー」
 ストータスは前足を思い切り地面に叩きつけ、フィールド全体に激しい地震を引き起こす。
「ディザソル、かわして氷柱落としだ!」
 ディザソルは跳躍して自身を回避し、虚空から無数の氷柱を落下させ、ストータスに突き刺す。
「あれ? 効いてる……?」
 フレイのストータスは圧倒的な防御力を誇るポケモンだったはずだが、タイプ不一致で弱点も突けない氷柱落としが効いている大ダメージでこそないが、イリスは軽く驚く。
「ここではそういう仕様だからねー。チートが利かないんだー。ストータス、怒りの炎だー」
「意味分かんないけど、攻撃は通るってことだよね。ディザソル、こっちも怒りの炎!」
 ストータスとディザソルと炎が同時に放たれ、ぶつかり合う。その時だった。
「シャンデラ、スタープリズム!」
 いつの間にか——恐らく初撃の地震の時——空高くまで浮遊していたシャンデラは、虚空から冷気を内包したガラス球を無数に降り注ぐ。
 ガラス球は冷気で怒りの炎を鎮火させ、そのまま二体を攻撃する。
「シャドーボム!」
 そしてその隙に影の爆弾を発射。空中で身動きも取れないため、爆弾はディザソルに直撃し、ディザソルは撃墜された。
「おおー、りおっちさんきゅー。ストータス、ジャイロボールだよー」
 落下するディザソルに向かって、ストータスは高速回転しながら突っ込み、弾き飛ばす。
「僕だけ集中攻撃……!?」
「一時的な共闘ってやつかなー。ストータス、ストーンエッジだー」
 ストータスは鋭く尖った岩を広範囲に向けて発射する。その攻撃先は、ディザソルとシャンデラの両方だ。
「っ、ディザソル、神速!」
「シャンデラ、サイコキネシス!」
 ディザソルは神がかったスピードで鋭い岩を回避し、ストータスに突撃。シャンデラは強力な念動力で襲い掛かる岩を全て粉砕してしまった。
「辻斬りだ!」
 ストータスに突っ込んだディザソルは続けて鋭い鎌を振るい、ストータスを切り裂くが、
「甘い甘い、ジャイロボールだよー」
 ストータスはその場で高速回転し、ディザソルを弾き飛ばした。
「……イリスンつーかディザソルが中、近距離からの技しか持ってないのは仕方ないにしてもさー、ちょっとあからさまに距離を置きすぎじゃないかなー、りおっちー?」
「…………」
 フレイの指摘に、リオは黙り込む。
 この三つ巴戦、三体の中で最も不利なのはディザソルだ。タイプ相性どうこうではなく、技の相性が悪い。
 まずディザソルは接近して攻撃する技が多く、氷柱落としや怒りの炎にしても、遠距離攻撃とは言い難い。精々中距離だ。
 次にストータスは、近距離、中距離、遠距離と、全ての距離に対応した技を覚え、加えてディザソルとシャンデラを同時に攻撃する技まである。
 最後にシャンデラは、基本的には単体攻撃だが、スタープリズムなら二体に攻撃可能。そして遠距離からの技が多い。
 接近しないと戦えないディザソルに、遠距離からでも攻撃できるシャンデラ。どちらでも戦えるストータス。この中では、行動が制限されるディザソルが一番不利だ。
「……なら、矛先を変えるまでだ」
 イリスは視線をリオとシャンデラに向ける。彼女も容赦なくディザソルを攻撃してきたので、加減する必要はないだろう。
「ディザソル、辻斬り!」
「シャンデラ、大文字!」
 ディザソルは素早く地面を駆け、シャンデラが放つ大文字を潜り抜けてシャンデラを切り裂く。効果抜群なので、ダメージは大きいだろう。
「っ、シャドーボム!」
「氷柱落とし!」
 シャンデラはすぐさま影の爆弾で切り替えし、ディザソルも氷柱を落として防壁を張ろうとするが、そこに襲い掛かる影が一つ。
「ストータス、地震だよー」
「っ!?」
「しまっ——!」
 唐突にストータスは地面を揺らし、衝撃波を放ってディザソルとシャンデラを同時に吹っ飛ばす。
「続いてー、ストーンエッジだー」
 さらに続けて鋭く尖った岩を連射。ディザソルとシャンデラに突き刺す。
 この時点でシャンデラは効果抜群の攻撃を連続で受け、戦闘不能。ディザソルの体力も残り僅かだ。
「くぅ、ディザソル、神速!」
 遠くからの連続攻撃を止めるべく、ディザソルは超高速で駆け、ストータスに突撃。しかし、
「怒りの炎だよー」
 直後、ストータスは怒り狂うような業火を放つ。攻撃直後で反応が遅れ、ディザソルはあえなく業火に飲み込まれた。
「っ、ディザソル!」
 炎が鎮火すると、そこには戦闘不能となったディザソルが横たわっていた。
 つまり、
「いえー、あたしの勝ちー」
 ディザソルが動かないのを見て、フレイは気の抜けた歓声を上げる。イリスとリオはそれぞれのポケモンをボールに戻すが、どこか腑に落ちない表情をしている。
「……なんか納得いかない」
「そうね、アウェーで何も知らずに負けたって感じ」
 苦言を呈する二人だが、フレイはどこ吹く風で、
「誰が何と言おうとあたしの勝ちだもんねー」
 とのたまう。
 そのままゴロゴロと蠢くフレイは、唐突に顔を上げると、
「そろそろ時間かなー。それじゃーみんなー、番外編はこれでお終い、次回からは本編再開だよー。英雄君たちとゲーチスの最終決戦、楽しみにしててねー」
 ふるふると手を振るフレイ。後ろではイリスとリオが何か言っているが、それが耳に届く前に——世界は暗転した。



久々、というか今作では初めての番外編です。一話にまとめようと色々詰め込んでいるので、クオリティは保証しません。それと今回シャンデラを書いていて違和感を感じたのですが、読み返してみると十七節の五節でエレクトロの過去の直後、ドラドーンがまだやられていないのにすぐにシャンデラが出ていますね。後で修正しておきます。さて、三人同時という初めての形式のバトルでしたが、非常に書き難かったです。僕の考えているものは四人同時に戦うので、これにさらに一人追加されると思うと、気が滅入ります。この案は没ですかね……それでは次回からは本編再開。この小説のクライマックス、最終章 混濁、始動です。お楽しみに。

Re: 561章 大穴 ( No.826 )
日時: 2013/03/29 14:42
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「! これは……!」
 ザートとのバトルを終えたイリスは、突如起こった揺れに違和感を感じ、大急ぎで外へと出た。
 すると、そこには広大な樹海が広がっている。周囲を見渡す限り、空中都市が着陸したのは岩山のようだ。
「まだ半日経ってないはずなのに……どこかで気付かれないように加速されたのか……!?」
 なんにせよ、これは由々しき事態だ。
 イリスたちのタイムリミットはキュレムが復活するまで。それは言い換えれば、プラズマ団がジャイアントホールに到着するまでということだ。
 だが現在、プラズマ団はジャイアントホールへと足を踏み入れた。まだキュレムの復活まではタイムラグがあるが、それまでに果たしてゲーチスを止められるだろうか。
「……!」
 ふと、イリスの目に黒い影が映る。巨大な三つ首ポケモン、サザンドラだ。それも、通常個体よりもかなり大きい。
 あのサザンドラは、かつてイリスも目にしたことがある。あれは、プラズマ団の大総統、ゲーチスのサザンドラだ。
「ゲーチス……出て来い、ウォーグル!」
 岩山の一角に向かうゲーチス。それをイリスが黙っている見ているわけもない。イリスは素早くウォーグルに乗り、ゲーチスを追いかける。
「キュレムは復活させない、絶対に……!」



「…………」
 Nは壁に空いた大穴を見つめていた。ついさっき、ゲーチスが飛び立った跡だ。
 Nはゲーチスに敗北した。しかも、ジャイアントホールへと向かうゲーチスを、足止めすることすらできなかった。結局、何もできなかった。
「……いや、まだ。まだなんとかなるはずだ。諦めなければ、まだ……!」
 少なくとも、もう一人の英雄は、今まで諦めてこなかった。だからこそ二年前、Nは彼に敗北した。
 あの時は敵同士だったが、今は同じ英雄として、イッシュに害悪をまたらす者を倒す。そのためにも、英雄である自分が諦めてはいけない。Nはそう言い聞かせる。
「……? あれは……」
 そんな時、部屋の一角でNはあるものを見つけた。
 パソコンだ。ポケモンセンターなどに備え付けられているような、台と一体化したパソコン。しかもこれは、プラズマ団によるハッキングでポケモン預かりシステムにまで侵入できるという代物だ。
 とはいえ、最近の預かりシステムは個人証明のためのパスワードや個人認証のシステムを導入しているため、他者の預かりシステムを利用することは出来ない。
 だが逆に言えば、パスワードを知っていたり個人認証のできる預かりシステム——自分のボックスになら、普通に接続可能である。
「……まだ、僕のもできることがある。次こそ、ゲーチスを、父さんを……だからもう一度だけ力を貸してくれ、僕のトモダチ——」
 Nは、静かにパソコンの電源を入れた。



「——ここか」
 岩山の一角——不自然に一ヶ所だけ道のような坂ができ、その坂の上に穴の開いた場所。そこに、イリスは降り立った。
「急がないと」
 ウォーグルをボールに戻すと、イリスは速足で穴に入り、洞窟を駆け抜ける。
 洞窟と言っても、その穴は大した深さはない。すぐに最深部へと到達してしまった。
 すると、そこには、
「……! なんだよ、これ……!」

 巨大な氷塊が、途轍もない冷気を放っていた。

 思わずイリスも身を固める。この場所だけ異様に寒い。
 目の前の氷塊が、おそらくキュレムなのだろう。だが完全に凍りついており、氷自体も非常に分厚く、どのようなポケモンなのかは分からない。
「来ましたね、真実の英雄——イリス」
 カンッ、と手にした杖を地面に叩き付け、ゲーチスは振り向く。
「……久しぶりだな、ゲーチス」
「あなたとは、そうですね」
 実に二年振りの再会だ。ただ、イリスとしては二度と会いたくない人物ではあったが。
「前の戦いから一年。僕が新しく旅立ってから一年。合わせて二年……たった二年間で、随分と老いたね」
 以前イリスが見たゲーチスは、もっと恰幅がよく、大柄な印象を抱かせる体型だった。しかし今のゲーチスは、頬は痩せこけ、目玉模様のある黒いコートに包まれた体も細身となっている。背丈は2mほどあるのだが、以前のような威圧感は感じない。
 ただし、非常に強い、ギラギラと暗く輝く野望だけは、その目からありありと感じ取れる。
「ワタクシはあなたたちと違い、気苦労が多いのですよ。7Pは7幹部以上に従わせるのが難しいもので。その分、よく役目を果たしてくれましたがね」
「役目を果たす? なに言ってるのさ。お前は知らないかもしれないけど、7Pのトップ——ザートだっけ? あいつならもう倒した。他の連中にしたって、父さんやミキちゃん、皆がもう倒してるんじゃないかな?」
 半分ほどはただのはったりで、イリスは他の7Pがやられているかなんて知らない。だが、自分が信じた仲間たちなら、きっとやってくれるだろうと思っているだけだ。
 そんなイリスの言葉に対し、ゲーチスは、
「いえいえ、彼らは本当によい仕事をしてくれました。お陰で、キュレム復活のエネルギーは、十分すぎるほど溜まりましたからね」
「? なに言ってるの……?」
 ゲーチスの言葉の真意を読み取れないイリスは疑問符を浮かべる。それを見たゲーチスが取り出したのは、一つの水晶だった。
 傷一つないなめらかな水晶玉だが、中は灰色に濁っており、どこか不安にさせる気を発している。
「これがなんなのかはお分かりですよね。そう、これこそが境界の水晶、キュレムを復活させる鍵です!」
 声高らかに叫ぶゲーチスに対し、イリスは静かにボールを握り、呟く。
「……復活なんて、させないよ。ディザソル」
 イリスはディザソルを出し、構えさせる。ゲーチスが動きを見せた瞬間に、キュレムの復活を止める——



 イリスとゲーチスが相対している時、一人の青年がジャイアントホールの岩山の一角、キュレムが封じられている穴へと足を踏み入れていた。
「ここだね……今からそっちに行くよ。だから待ってて、イリス。それと——ゲーチス」
 青年は小さく呟いて、その場から駆け出す。
 やがて青年は、洞窟の奥へと消えていった。

Re: 562章 復活 ( No.827 )
日時: 2013/03/29 16:51
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「英雄、そもそもあなたはキュレムの復活にどのくらいのエネルギーを要すると思いますか?」
 唐突に、ゲーチスはそう訪ねてきた。
 だがそんなことを言われてもイリスには分からない。なのでイリスが黙っていると、ゲーチスは口を開く。
「キュレムの封印は本当に強固なものでしてね。生半可なエネルギー量ではびくともしません。軽く世界のエネルギー不足を解消できるほど莫大な、それでいて良質なエネルギーを注ぎこまなければ、この氷塊が溶けることはないのですよ」
 氷漬けにされたキュレムを一瞥し、ゲーチスは続ける。
「ワタクシは色々考えました。それと同時に境界の水晶についても、アクロマというアシドに次ぐ科学者の手を借りて調べ尽くしました。そして、分かったのです。境界の水晶に最大までエネルギーを溜めこんだとしても、キュレムの復活は不可能だと」
「っ……?」
 ゲーチスの言葉を受けてイリスは反応を示すが、次の言葉を紡ぐ前にゲーチスが発声した。
「正確に言えば、境界の水晶に最大までエネルギーを溜め、それをこの氷塊に流し込む。その作業を延々と続けて行けば、いずれキュレムは復活するそうですが……流石にそこまで悠長にやっている暇はありません。なにせ、あなた方がことごとく邪魔をするのですからね」
 ですから、とゲーチスは続ける。
「ワタクシは短期間でキュレムの封印を解く、莫大かつ良質なエネルギーを蓄える術を探したのです。これは7Pでも知らない話ですよ。知るのはワタクシとアクロマだけです」
 そのアクロマという人物が誰なのかイリスは知らないが、どうやらゲーチスが信頼を置いている——というより、信用して利用しても支障ないと判断している人物のようだ。それでいて、7Pとは違う立場ではあるものの、高い地位にいる人物であることも窺い知れる。
「アクロマの研究結果により、ワタクシはキュレムの氷塊——そこから削り出した氷で刻む刻印、我々がキュレムの刻印と名付けるものに注目しました。この刻印は、刻むと同時にその者の核となる物事——例えば、ザートなら巫女としての自分、ドランなら自らの本性、レイなら溢れ出る感情——を一時的に封印するのです」
 それを聞いて、イリスは納得したような表情を浮かべる。
 だが、まだゲーチスの説明は終わらない。
「そして、この時キュレムの刻印は面白い力を発揮ましてね。刻印を刻むと、刻まれた者は時間の経過や感情の高ぶり、戦闘行為などを経ることで人間から発せられる波動の力——その余剰エネルギーを吸収し、さらなる時間の経過で増幅する特質を持っているのです。その蓄えた力の一部を行使するのが、7Pの解放状態です」
 つまり、7Pは基本的に何もしなくても、というより普通に生活しているだけでもエネルギーを蓄えてそれを増幅しており、解放状態というのはその増幅された余りの力を受けることで強くなる、ということだろうか。
 ならば解放率や解放時の強さの違いがあるのは、蓄えたエネルギーを引き出せる量が人によって違うから。
 と、ここまでイリスは推理し、整理した。恐らく、概ね当たっているだろう。
 それと同時に、もう一つ、イリスの頭の中に何かがよぎった。
「あれ……? ていうことは、今の7Pって、相当なエネルギーを溜めこんでて……エネルギー? ……っ!」
「お分かりですか」
 ゲーチスは勝ち誇ったような表情を浮かべる。
「お察しの通り、キュレムの刻印はキュレムを復活させるためのエネルギーを集めるためのもの。7Pの面々は本当によくやってくれました。お陰で、一、二年程度の期間でキュレムを復活させることができるのですから」
 つまり、7Pとはキュレムを復活させるためにエネルギーを蓄えさせられた、いわば発電機。
 そのためだけに、ゲーチスは七人の7Pを、世界中からかき集めた。
「なんて、奴だ……!」
 しかもゲーチス自身、今の話は7Pも知らないと言っていた。つまり結局、ゲーチスは7Pを利用しただけなのだ。
 険しい眼差しで睨み付けられるゲーチスだが、動じた様子もなく、むしろ不敵な笑みを浮かべている。
「さて、ワタクシからの演説はこれで終わりです。そしていよいろ、キュレムが復活する時です——!」
 刹那、キュレムを覆う氷塊が七色に光る。しかしその光は暗く、濁ったように輝いている。
「くっ、ディザソル!」
 咄嗟にディザソルに指示を出すが、氷塊が発する言いようもない威圧感で、ディザソルも動けないようだ。
 そうしている間にも、氷塊——そしてキュレムに変化が起こる。
 イリスは氷塊が光を発しているものだと思ったが、光が収束されていくにつれ、実際は氷塊の中に幽閉されたキュレムが光っていることを知る。
 腹は紫、右翼は赤、左翼は緑、両脚は青、両手は黄、顔面は藍、首は橙——それぞれの部位が、七色に光っている。



「ガッ……!?」
 ジバコイルに乗って飛行している途中、アシドは腹部に疼きを感じ、ジバコイルを止めさせる。
「んだぁ、こりゃ……?」
 Tシャツを捲って腹を確認すると、そこには先ほどまであったはずの、キュレムの腹を模した刻印が消えていた。
「なんかあったか……僕の設定通りに進めば、今頃はジャイアントホールに着いてるか。ケヒャッ、どうやら僕は、まだ退場が認められないらしいな。おい、ジバコイル!」
 アシドは叫び、ジバコイルに指示を飛ばす。
「進路変更だ。今すぐジャイアントホールに向かえ」



「ん……っ」
「ぐっ、んだ……?」
 フレイは右腕、フォレスは左腕に疼きを感じ、それぞれ袖を捲って腕の状態を見る。
 するとそこには、フレイは右翼、フォレスは左翼。それぞれ刻まれていたはずのキュレムの刻印がなくなっていた。
「刻印がないよー……? なんでー?」
「さあな。だが、どうやら俺たちは、ゲーチスに利用されていたっぽい」
 フォレスはずっと先にある樹海を一瞥し、言った。
「俺たちも行くぞ。このまま、何が起こったか分からず仕舞いで終わらせたくはねえ」
「おっけー、了解だよー」



「うっ……!」
「おい、どうしたっ?」
 突然、両脚に疼きを感じ、レイはしゃがみ込んでしまう。ザキも何事かとレイに声をかけ、同じ姿勢になった。
「これは……」
 レイはワンピースの裾を捲り、白い太腿を露出させる。そこには、レイの体で唯一残っている傷であった、キュレムの両脚を模した刻印が消滅している。
「ジャイアントホールで、何かあったのかもしれません……あの、ザキさん」
「言わなくても分かってるつーの。行くぞ、俺もゲーチスの野郎を止めなくちゃならねえしな」



「っ……!」
 キリハ、アキラ、そしてアキラに背負われたリオと共に歩んでいる途中、エレクトロは両手の甲に疼きを感じ、立ち止まった。
「? どうした?」
「……両手が」
 エレクトロが急に止まったため、キリハとアキラも同時に足を止める。
 エレクトロは手袋を外し、手の甲を確認するが、
「刻印が、なくなっている……?」
 両手刻まれたキュレムの両手の刻印が、跡形もなく消えていた。左右どちらもだ。
「……何があったのかは分かりませんが、嫌な予感がします。急いだ方がいいかもしれません」
「そうだね。この都市ももう止まったみたいだ、急ごうか」
「了解でっす」



「……?」
 ムントは手にした牙に、言いようもない疼くような感覚を覚えた。何事かとそれを顔の前まで持ってくると、突然その牙から光が放射された。
「っ、なんだ……?」
 光は一瞬だけ、虚空に龍の顔のようなものを映したが、すぐに消えてしまう。それっきり、疼くような感覚もない。
「……何かあったみたいだな。急ぐか」



「ぐぅ……!?」
 ザート——否、ガイアは、自身の首に激しい疼きを感じる。
 しばらく首を押さえて蹲っていると、やがて疼きも止まる。しかし同時に、自分の体に変化が起こっていることに気付いた。
「これは……ガイアではない……!? まさか、刻印が……!?」
 咄嗟に首をなぞるガイア——否、ザートは、そこに刻まれていた刻印がなくなっていることにも気付く。
 突如消え去った刻印。その事実に戸惑うも、ザートはキュレム復活の兆しを感じ、憔悴しながらも微笑む。
「ゲーチス様……!」



 七色の濁った光を受け、氷塊にひびが入る。
「刻印に充填された力は、キュレムの各部に注がれたようですね。では、これで最後です」
 ゲーチスは手にした境界の水晶を掲げる。すると、水晶からも濁った灰色の光が発せられた。
「まさか、本当に復活するのか……!?」
 八つの光を受け、氷塊はピキピキとひび割れていく。
 そして、

 ——パキンッ

「————」

 地上最強のドラゴン、真実と理想の抜殻、虚無の龍、混濁の使者——数々の名を持つジャイアントホールの主。
 境界ポケモン——キュレムが、復活した。

Re: 563章 境界 ( No.828 )
日時: 2013/03/29 22:48
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 境界ポケモン、キュレム。
 首は長いが前傾姿勢で二足歩行、両手は小さな二本指のようになっており、背中には左右非対称の一対の翼と、非常にアンバランスなシルエット。
 体色は灰色で、頭部、尾、両翼などは氷塊のプロテクターのようなものが覆い、尾の装甲はプラグのような形状をしている。また、翼の先端には透明な突起が二つあり、そこからは穴のようなものが覗いている
「これが……キュレム……」
 イリスは呆然としていた。驚愕でも驚嘆でも後悔でもなく、呆然としている。
 遂にキュレムの復活を止められなかったのは遺憾なのだが……どうしても、このキュレムからは覇気を感じない。
 はっきり言って、弱そうに見える。
 伝説のポケモンには伝説らしい威圧感のようなものがある。オーラと言い換えてもいいだろう。直に伝説のポケモンと触れ、共に戦ったイリスにはそれが実感としてあるのだが、キュレムからは何も感じないのだ。
 どころか、前へ動くだけでも不安定な体格が災いし、よろめく始末。イリスは目の前の龍が伝説のポケモンであることを疑ってしまう。
「でも、不気味だ……」
 覇気やオーラは感じないが、直感としてイリスは感じる。なにか、嫌な感じがする。ただの漠然とした予想のようなものであるのだが、この感覚は外れていない気がする。
 遂に復活してしまったキュレムを前にして、イリスはディザソルをボールに戻し、ジッと瞳のない眼と睨み合う。すると、その時。
「イリス!」
 洞窟の入り口から、誰かが駆け寄って来る。
「N!」
 その人物は、Nだった。
「……キュレムは、復活してしまったのか」
「うん、ゴメン。止められなかった……」
「いや、いいんだ。僕もゲーチスに、敗れてしまったからね……」
 互いに非を言い合う二人であったが、復活してしまったものは仕方ない。いや、仕方ないなどという簡単な言葉で片付けてはいけないことは分かっているが、今重要なのは、復活したキュレムをどうするかだ。
 二人は同時にキュレムを見遣る。そして、
「っ、なに——?」
「これは……!」
 突如、二人の目の前にあるものが飛び出す。イリスの前には白い球体が、Nの前には黒い球体が、それぞれ姿を現す。
「ライトストーン……と、ダークストーン……!? 今まで反応がなかったのに……」
「もしかして、キュレムの力に当てられて、この二体も復活を……?」
 二つの球体——ライトストーンとダークストーンは宙に浮いたまま自転し、周囲のエネルギーを吸収する。必要なだけの力を取り込むと、今度は瘴気を発しながら、ライトストーンは熱気を、ダークストーンは電気を帯びる。
 そして——

 ——双子の英雄は、再び覚醒した。



 ライトストーンから火柱が吹き上がり、真実の白龍が呼び起される。
 純白の身体、腕と一体化した翼を持つ龍。尾部はジェットエンジンの如く燃え上がり、紅色の炎を発生させる。
「レシラム……!」
 白陽ポケモン、レシラム。真実の英雄に付き従うドラゴンポケモン。



 ダークストーンへと稲妻が落とされ、理想の黒龍が呼び起される。
 漆黒の身体、強靭な腕と翼と巨躯。尾部はタービンの如く激しく大回転しながら弾け、蒼色の雷を発生させる。
「ゼクロム……!」
 黒陰ポケモン、ゼクロム。理想の英雄に付き従うドラゴンポケモン。



 イッシュの創世に関与する二体の龍、レシラムとゼクロムが、二年前のように、その姿を顕現する。
 ただ、二年前と違うのは一点。昔はどちらが正しいかを決めるために現れ、争いあった。しかし今回は、再び訪れたイッシュの——果ては世界を危機から救うために、共闘する。
 それはさながら、イッシュ建国の時の様を呈していた。
「……遂に姿を現しましたか、レシラム、ゼクロム」
 ゲーチスは余裕の笑みを浮かべたまま、レシラムとゼクロムを見つめる。
「キュレムが復活すれば、いずれ現れるとは思っていましたよ。あなた方を抑えてこそ、我々の目的は完遂される——いえ、あなた方がいなければ、何も始まらない、と言うべきでしょうか」
 カンッ、とゲーチスは手にした杖を地面に叩きつけた。
「場所を移しましょうか。今ここでキュレムの力を見せてもいいですが、キュレムそのものの力を知るのがあなた方だけというのも、つまらない話です。せっかくですから、キュレムは虚無のままであってもどれほど強大であるか、お見せしましょう」
 ゲーチスはボールを取り出し、サザンドラを出した。そして再び杖を地面に叩きつける。
 次の瞬間、キュレムは意外なほどの跳躍力で跳び上がり、洞窟の天井を突き破って姿を消してしまった。
『っ!』
 あまりに唐突過ぎる光景に、イリスとNは呆気に取られてしまう。その間にゲーチスはサザンドラに乗り込み、キュレムが突き破った天井から外へと出る。
「それでは、一足先に外で待っていますよ、英雄諸君」
 最後には、ゲーチスの言葉だけがこだまする。
 残されたイリス、N、そしてレシラムとゼクロムは、崩れた天井を見つめていた。
「……来てくれたんだね、レシラム」
 視線をレシラムへと移し、イリスは歩み寄った。
「そういえば、君には謝らないといけないことがあったね。僕の父さんのこと。あの人、ハードマウンテンの溶岩に君を捨てたんでしょ? あの人はもう謝る気なんてないと思うし、僕から謝らせてもらうよ」
 そう言って、イリスは頭を下げた。レシラムは軽く声を上げ、このやり取りは終わりとなった。
「ゼクロム、また戻って来てくれたんだね」
 Nもゼクロムにそう声をかける。
「あの頃の僕は、自分の理想を押しつけ過ぎていた。でも今は、その折り合いもついたつもりだよ……昔よりも、君の力を引き出せると思う」
 Nの言葉に、ゼクロムは鈍く唸るような声を上げる。
「……N、行こう。ゲーチスと、キュレムを止めないと」
「うん、分かってるよ、イリス。今の僕らには、彼らがいる。絶対止めてみせるさ」
 そして、二人はそれぞれの龍を従え、キュレムの下へと進む。



「うわっ、寒……!」
「まさか、これをキュレムが……?」
 洞窟から出ると、樹海が凍り付いていた。掛け値なく広大な樹海全ては、完全に凍てついており、一面が氷の世界と化している。
「確かに、こんな力があるんじゃ世界も滅ぶな……何としでも止めないと」
 洞窟の入り口から樹海を見渡すと、キュレムはすぐに見つかった。分かっていた事ではあるが、やはりかなりの巨体だ。
「……レシラム、お願い」
「僕もだ、ゼクロム」
 イリスとNの言葉に、レシラムとゼクロムは即座に頷く。それを受けて二人は、それぞれが従える龍に乗り込んだ。
 そして、二体の龍は飛び立つ。
 ジェットエンジンは紅の炎を燃やしながら、タービンは蒼の雷を弾きながら、それぞれ英雄を乗せ、キュレムの下へ飛んで行く。
「——ゲーチス!」
 キュレムとゲーチスの真正面へ降り立った二人。見れば、この周辺だけ木々がなぎ倒され、妙に広い空間となっていた。
「ここに来たということは、やはり最後までワタクシたちの邪魔をするということですね……後で逃げておけば良かったと、後悔のなきよう」
「後悔なんてしないさ。僕たちは、あなたの野望を止めてみせる——ゲーチス!」

 かくして、真実と理想の英雄、そして混濁の使者、イッシュ創生に関わる三体の龍が出揃った。
 イッシュ、そして世界の命運を賭けた戦いが、遂に始まる——

Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 最終幕 始動——の前に ( No.829 )
日時: 2013/03/29 22:09
名前: 大光 ◆HynV8xBjBc (ID: zjmgeTG7)

ついに.......復活してしまいましたね.......。しかも!あのポケモン史上最大の下衆野郎と称されるゲーチスの手によって.......!あらゆる異名を持つキュレムも、ゲーチスが利用しれば破滅と絶望の竜と化してしまうでしょう。
それとキュレムの刻印について新たに明かされた事実、キュレムの復活のためのエネルギーを生みだすですが。しかしゲーチス、どれだけの人を自分の野望の達成のための駒にすれば気が済むのでしょう。まったく、目的が私利私欲なだけで少女に契約を迫る某白い悪魔となにも変わりませんね。
さりげなくアクロマが名前だけ登場しましたね。まあ、あいつはキュレムの刻印ことを聞いたら、喜んで研究しそうですね。


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