二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ポケットモンスターBW 混濁の使者 ——完結——
- 日時: 2013/04/14 15:29
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=21394
今作品は前作である『ポケットモンスターBW 真実と理想の英雄』の続きです。時間としては前作の一年後となっておりまして、舞台はイッシュの東側がメインとなります。なお、前作は原作通りの進行でしたが、今作は原作でいうクリア後なので、オリジナリティを重視しようと思います。
今作品ではイッシュ以外のポケモンも登場し、また非公式のポケモンも登場します。
参照をクリックすれば前作に飛びます。
では、英雄達の新しい冒険が始まります……
皆様にお知らせです。
以前企画した本小説の人気投票の集計が終わったので、早速発表したいと思います。
投票結果は、
総合部門>>819
味方サイド部門>>820
プラズマ団部門>>821
ポケモン部門>>822
となっています。
皆様、投票ありがとうございました。残り僅かですが、これからも本小説をよろしくお願いします。
登場人物紹介等
味方side>>28
敵対side>>29
PDOside>>51
他軍勢side>>52
オリ技>>30
用語集>>624
目次
プロローグ
>>1
第一幕 旅路
>>8 >>11 >>15 >>17
第二幕 帰還
>>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
第三幕 組織
>>32 >>36 >>39 >>40 >>42 >>43 >>46 >>49 >>50 >>55 >>56 >>59 >>60
第四幕 勝負
>>61 >>62 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>72 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80
第五幕 迷宮
>>81 >>82 >>83 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>92 >>93 >>95 >>97 >>100 >>101
第六幕 師弟
>>102 >>103 >>106 >>107 >>110 >>111 >>114 >>116 >>121 >>123 >>124 >>125 >>126 >>129
第七幕 攻防
>>131 >>135 >>136 >>139 >>143 >>144 >>149 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>157 >>158 >>159 >>161 >>164 >>165 >>168 >>169 >>170 >>171
第八幕 本気
>>174 >>177 >>178 >>180 >>184 >>185 >>188 >>189 >>190 >>191 >>194 >>195 >>196 >>197 >>204 >>205 >>206 >>207 >>211 >>213 >>219 >>223 >>225 >>228
第九幕 感情
>>229 >>233 >>234 >>239 >>244 >>247 >>252 >>256 >>259 >>262 >>263 >>264 >>265 >>266 >>269 >>270 >>281 >>284 >>289 >>290 >>291 >>292 >>293 >>296 >>298
第十幕 強襲
>>302 >>304 >>306 >>307 >>311 >>316 >>319 >>320 >>321 >>324 >>325 >>326 >>328 >>329 >>332 >>334 >>336 >>338 >>340 >>341 >>342 >>343 >>344 >>345 >>346
弟十一幕 奪還
>>348 >>353 >>354 >>357 >>358 >>359 >>360 >>361 >>362 >>363 >>364 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>376 >>377 >>378 >>379 >>380 >>381 >>382 >>383 >>391 >>393 >>394 >>397 >>398 >>399 >>400
第十二幕 救世
>>401 >>402 >>403 >>404 >>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>412 >>413 >>414 >>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422 >>433 >>436 >>439 >>440 >>441 >>442 >>443 >>444 >>445 >>446 >>447 >>450 >>451 >>452 >>453 >>454
第十三幕 救出
>>458 >>461 >>462 >>465 >>466 >>467 >>468 >>469 >>472 >>473 >>474 >>480 >>481 >>484 >>490 >>491 >>494 >>498 >>499 >>500 >>501 >>502
第十四幕 挑戦
>>506 >>511 >>513 >>514 >>517 >>520 >>523 >>524 >>525 >>526 >>527 >>528 >>529 >>534 >>535 >>536 >>540 >>541 >>542 >>545 >>548 >>549 >>550 >>551 >>552 >>553 >>556 >>560 >>561 >>562 >>563 >>564 >>565 >>568
第十五幕 依存
>>569 >>572 >>575 >>576 >>577 >>578 >>585 >>587 >>590 >>593 >>597 >>598 >>599 >>600 >>603 >>604 >>609 >>610 >>611 >>614 >>618 >>619 >>623 >>626 >>628 >>629 >>632 >>638 >>642 >>645 >>648 >>649 >>654
>>657 >>658 >>659 >>662 >>663 >>664 >>665 >>666 >>667 >>668 >>671 >>672 >>673 >>676 >>679 >>680 >>683 >>684 >>685 >>690 >>691 >>695
第十六幕 錯綜
一節 英雄
>>696 >>697 >>698 >>699 >>700 >>703 >>704 >>705 >>706 >>707 >>710 >>711
二節 苦難
>>716 >>719 >>720 >>723
三節 忠義
>>728 >>731 >>732 >>733
四節 思慕
>>734 >>735 >>736 >>739
五節 探究
>>742 >>743 >>744 >>747 >>748
六節 継承
>>749 >>750 >>753 >>754 >>755
七節 浮上
>>756
第十七幕 決戦
零節 都市
>>759 >>760 >>761 >>762
一節 毒邪
>>765 >>775 >>781 >>787
二節 焦炎
>>766 >>776 >>782 >>784 >>791 >>794 >>799 >>806
三節 森樹
>>767 >>777 >>783 >>785 >>793 >>807
四節 氷霧
>>768 >>778 >>786 >>790 >>792 >>800 >>808
五節 聖電
>>769 >>779 >>795 >>801 >>804 >>809
六節 神龍
>>772 >>798 >>811
七節 地縛
>>773 >>780 >>805 >>810 >>813 >>814 >>817
八節 黒幕
>>774 >>812 >>818
最終幕 混濁
>>826 >>827 >>828 >>832 >>833 >>834 >>835 >>836 >>837 >>838 >>839 >>840 >>841 >>842 >>845 >>846 >>847 >>849 >>850 >>851
エピローグ
>>851
2012年冬の小説大会金賞受賞人気投票記念番外
『夢のドリームマッチ ver混濁 イリスvsリオvsフレイ 三者同時バトル』>>825
あとがき
>>852
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171
- Re: 572章 撃墜 ( No.840 )
- 日時: 2013/04/02 13:06
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
特性、激流によって強化されたダイケンキのハイドロカノンを喰らったサザンドラ。ダイケンキは今まで、この技で幾多もの強敵を倒してきた。それはジムリーダーだったり、四天王だったり、7Pだったり……二年前のゲーチス、そしてサザンドラを倒したのも、この技だ。
だからこそこの時、Nはほぼ勝利を確信していた。自分の仲間が持てる限りの力を解き放ったのだから、ゲーチスのサザンドラも倒れるだろうと、そう思っていた。
しかし、ゲーチスが抱く混沌の如く渦巻く野望は、止まらなかった。
「サザンドラ、流星群!」
刹那、サザンドラを包む爆発の煙が吹き飛んだ。同時にサザンドラは、天地を崩すかのような荒々しく激しい咆哮を放つ。
その咆哮は天地を超え、宇宙まで響き渡り、大気を貫いて無数の流星を呼び寄せる。
「——ダイケンキ!」
数多の星が降り注ぎ、ダイケンキは流星群に飲み込まれる。
流星群が止むと、辺り一面は木々が跡形もなく消し飛び、地面は抉れ、無数のクレーターが出来ていた。
そしてその中央には、地面に横たわるダイケンキの姿。
「……ありがとう、ダイケンキ。僕のために、戦ってくれて」
Nは倒れたダイケンキの側まで歩み寄り、優しい手つきでボールに戻す。結局、自分はダイケンキの力を引き出せず敗れてしまった。
だが、まだ終わっていない。ダイケンキはNの五番目のポケモン。まだ、最後のポケモンが残っている。
Nは元の位置まで戻ると、最後のボールを手にした。
「これで最後……二年前、君はダイケンキに敗れた。はっきり言って、ダイケンキは君よりも強い。でも、僕なら君の力の全てを引き出すことができる。だから、勝とう。サザンドラを倒してダイケンキの仇を討つ。そして、ゲーチスの野望を止めるんだ——!」
Nは手にしたボールを放る。
そして、幻影の覇者が姿を現す。
「僕に力を貸してくれ! ゾロアーク!」
Nの最後のポケモン、化け狐ポケモン、ゾロアーク。
漆黒のしなやかな四肢を持ち、鋭い爪が伸びた攻撃的で狐のような風貌。黒混じりの赤い鬣は、末端部がリング状の物体で束ねられている。
Nのエースにして、Nの出会った最初のトモダチ。かつて刃を交えた好敵手の仇を取るべく、そして主人の意志を受け、三つ首の龍を倒すために、その姿を幻影に隠すことなく、ゾロアークは戦場へと赴く。
「ふん、なにが出るかと思えば、ゾロアークですか。そのような虚弱なポケモンで、ワタクシのサザンドラに勝てるとでも?」
「勝つさ。それが僕のすべきこと。イッシュのため、世界のため、そして——トモダチのために、絶対に勝つんだ!」
次の瞬間、ゾロアークの姿が消える。
「ゾロアーク、気合球!」
いつの間にかゾロアークはサザンドラに接近しており、至近距離から気合を凝縮した球体を叩き込まれる。
「ぬぅ、怯むな、サザンドラ!」
いきなり効果抜群の攻撃を喰らい、大ダメージを負ってしまったサザンドラが反撃に出る。
「悪の波動!」
サザンドラは悪意に満ちた波動を放つが、ゾロアークには当たらない。当たったと思っても次の瞬間、そのゾロアークは揺らめいて消えてしまう。
「幻影か……! 小賢しい! サザンドラ、火炎放射で焼き払え!」
サザンドラは三つ首から炎を吹いて広範囲を焼き払うが、流星群で特攻が半減しているため、火力は落ちている。
「ゾロアーク、こっちも火炎放射だ!」
サザンドラが炎を吐いているうちに、どこからか別の炎がサザンドラを襲う。
「そこか! サザンドラ、大地の力!」
ゾロアークの場所を特定したサザンドラは、地面から土砂を噴射して攻撃しようとするが、
「神通力!」
ゾロアークが神々しい念力を発し、大地の力を止めてしまう。その隙に幻影に隠れ、ゾロアークはサザンドラから距離を取る。
「気合球だ!」
「悪の波動!」
ゾロアークは真正面から気合を込めた球体を投げるように放つが、三つの頭から同時に放たれる悪の波動で相殺されてしまう。
「火炎放射です!」
「神通力で振り払うんだ!」
反撃にサザンドラが放った火炎放射も、ゾロアークの神通力で簡単に散らされる。
「大地の力!」
続けて地面から土砂を噴射するサザンドラだが、土砂がゾロアークに当たった瞬間、そのゾロアークは揺らめいて消えてしまった。
「また幻影か……! ええい! 本物はどこだ!?」
叫びながら辺りを見回すゲーチス。すると、サザンドラの背後から灼熱の炎が襲い掛かる。
「っ、そこか! サザンドラ、大地の力!」
サザンドラは炎が放たれた方を向き、位置を特定。地面から土砂を噴出させるが、
「こっちだ。ゾロアーク、火炎放射!」
すぐにまた別方向から炎が放たれる。効果いまひとつだが、サザンドラはダイケンキとのバトルでかなり消耗しているため、小さなダメージでも馬鹿にはならない。なので——
「こうなれば……サザンドラ! 奴らを根絶やしにするぞ!」
——ゲーチスは最大の一撃で、勝負を決めにかかる。
「流星群!」
サザンドラは再び咆哮する。大宇宙の果てより流星を呼び寄せ、ゾロアークへと降り注ぐ。
だが、今回の流星群は特異だった。流星群という名の通り、数多の流星を降り注ぐのがこの技だが、今サザンドラが呼び寄せた流星は一発のみ。代わりにその流星は、非常に巨大だった。
「数多の流星を一つにまとめた一撃だ! 消えろ、N!」
総合ダメージでは一撃目より、特攻の下がっている今の二撃目の方が低い。しかし流星一発分のダメージなら、小さな流星より、巨大な流星の方が威力が高いのは道理。数にものを言わせるのではなく、サザンドラの特攻が下がったことにより、ゲーチスは最後の一撃に賭けたようだ。
「……それなら、僕らも最大の攻撃で迎え撃つまでだ。行こう、ゾロアーク!」
ゾロアークも咆哮し、両腕に漆黒のエネルギーを纏う。ゾロアークはその両手を振り上げると、次の瞬間、思い切り振り下ろした。
「ナイトバースト!」
刹那、夜の如き漆黒の衝撃波が同心円状に放たれる。衝撃波はゾロアークを守るように、そして流星を砕くように、凍てつく空に広がっていく。
サザンドラの流星とゾロアークの衝撃波がぶつかり合う。流星群とナイトバースト、普通なら素の威力が圧倒的に高い流星群に軍配が上がるが、威力を収束させているとはいえ今のサザンドラは特攻が半減している。そのため、流星と衝撃波は激しくせめぎ合っている。
「ゾロアーク! 負けるな!」
「サザンドラ! 全て潰してしまえ!」
しばらくして、ほんの少しだけ、流星が衝撃波を押し始めた。それを機に、少しずつ少しずつ、流星は衝撃波を押し、ゾロアークへと迫っていく。
Nは焦燥感に駆られる。このまま押し切られれば、ゾロアークもただでは済まない。まだ攻撃を受けていなくても、この流星の破壊力は相当なもの。下手に喰らえば、一撃で戦闘不能になりかねない。
そんな時、ふとNの頭の中に声が響いて来た。一つではなく、複数の声。その声は、Nの持つモンスターボールから聞こえてくる。
「みんな……そうか」
ゲーチスに倒されたポケモンたち。しかし彼らも信じていた。最後に、自分たちが繋いだ意志を受け取り、この戦いを終結させる覇者を。
Nが出来るのは、その声を、思いを届けることだけ。たったそれだけでも、Nは、叫ぶ——
「——ゾロアーク!」
Nの声を聞き、ゾロアークは咆哮する。
そして、漆黒の衝撃波は巨大な流星にひびを入れる。ピキピキと軋む音をたて、流星は綻びていく。
「っ!? 馬鹿な、サザンドラの収束した流星群が、破られるなど——!」
綻びは大きくなり、やがて崩壊へと変わった。流星は崩れ去り、壊れる。欠片も残さず消滅し、漆黒の衝撃波が、サザンドラに向かっていく。
「サザンドラ!」
そして遂に、三つ首の龍は——地に落ちた。
「なんたることだ! このワタクシが、不完全な人間如きに敗北を喫するなど!」
杖を何度も地面に叩きつけ、ゲーチスは叫び散らす。完全に逆上しており、まともに会話できるとも思えない。
しかしそれでも、Nは言葉をかける。
「……あえてこう呼びます、父さん。あなたが負けた理由は、ポケモンを道具としてしか見ていないことです。ポケモンは、トレーナーと共に生き、それぞれを高みへと導くパートナー。あなたが集めた7Pという人たちだって、それは分かっていた。だから、あなたも——」
「うるさい黙れ! 貴様のような化け物が人間の言葉で語るな!」
まるで聞く耳を持たないゲーチス。息を荒げ、殺気立ち、凄まじい眼光でNを睨み付けている。
パキンッ
ふと、どこかでそんな音が鳴った。その音の方を向き、ゲーチスは今までの憤怒の形相が嘘のように、憔悴した顔に邪悪な笑みを浮かべる。
「フ……フフフ、フハハハハ! そう、そうですよ! ワタクシはまだ終わっていない! ワタクシの野望はまだ潰えていない! たかだか一度敗北を喫した程度で、ワタクシは止まらない! ワタクシにはまだ、キュレムがいるのだ!」
突然、天を仰ぐように顔を上げ、高笑いするゲーチス。その視線の先には、キュレムとレシラム、そしてゼクロムの姿があった。
「……!」
次の瞬間、凍てつく空に雷鳴が轟く——
- Re: 573章 分離 ( No.841 )
- 日時: 2013/04/02 17:49
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「っ、ウォーグル!」
ホワイトキュレムが繰り出す龍の波動を避けきれず、ウォーグルは吹っ飛ばされた。クロスフレイムで既に相当なダメージを負っていたため、この一撃でウォーグルは戦闘不能だ。
「くっ……これで、残るはデスカーンとチラチーノだけか」
しかもデスカーンはウォーグルと同じようにクロスフレイムで致命傷を受け、チラチーノもずっと攻撃し続けていたために疲弊している。
「でも、もう少しなんだ。もう少しで、レシラムは……」
なんとなく、イリスには伝わってくる。キュレムとレシラムは分離しかかっていることが分かる。あと少し乗り切って、二体が分離すれば、そこでキュレムを捕獲する。
イリスはイリゼに手渡されたマスターボールを強く握り込み、残る二体のポケモンに指示を出す。
「デスカーン、鬼火! チラチーノ、ロックブラスト!」
デスカーンは青白い火の玉を、チラチーノは無数の岩石をそれぞれ放つが、ホワイトキュレムの大地の力で阻まれてしまう。
「まだだ! デスカーン、サイコキネシス! チラチーノは横からロックブラスト!」
デスカーンはそのまま念波を放ち、チラチーノは角度を変えて岩を連射する。相殺はしても攻撃を避けないホワイトキュレムには、どちらの攻撃も直撃した。
「おい、イリス」
とその時、イリゼから声がかかる。
「どうしたの? 父さん」
「お前も気付いてるだろうが、キュレムがレシラムと剥がれかかってる。そろそろ攻め時だ」
どうやらイリゼも気付いていたらしい。攻め時ということは、今まで力を温存していたゼクロムにも攻撃させるということだ。
「俺たちが一斉攻撃で奴を叩き、直後にゼクロムがでかい一撃をぶち込む。そうすりゃたぶん、奴とレシラムは分離するはずだ」
「もし……分離しなかったら?」
「そん時になったら考えろ。行くぞ!」
イリゼは残ったポケモンたちに指示を出し、一斉にホワイトキュレムを攻撃する。どの攻撃も高火力だが、特にヒードランのマグマストームが凄まじかった。以前戦った時よりも強化されているように感じる。
「よし、僕らも……デスカーン、シャドーボール! チラチーノ、スイープビンタ!」
デスカーンは四つの腕から影の球を発射し、チラチーノはホワイトキュレムに急接近して連続で尻尾を叩き付ける。
この攻撃が止んだら、すぐにゼクロムの雷撃を叩き込む。イリスがゼクロムとそう目配せをした瞬間——ホワイトキュレムの頭上に、いくつもの火球が現れた。
「っ、クロスフレイム!? しかも、なんて量だ……!」
レシラムでも一度に一発しか放てないクロスフレイム、それをホワイトキュレムは、十発近く同時に生成している。
「これはまずいねぇ。ただでさえ残存戦力が少ないのに、ここでそんな大技を連発されると、僕が困っちゃうよ」
「ぼさっとしてんな! さっさと避けろ!」
とイリゼが叫ぶが、もう遅かった。
直後、無数の火球がホワイトキュレムを包囲していたポケモンたちに、降り注ぐ。
「——!」
そのあまりの熱気に、思わず腕で顔を覆うイリス。熱気が収まってきた頃に、なんとか前方を確認するが、
「デスカーン! チラチーノ!」
そこには戦闘不能となったデスカーンとチラチーノの姿があった。いや、この二体だけでなく、他の者たちのポケモンも全滅だ。イリゼのヒードランも、ターボブレイズの特性で貰い火を貫通され、等倍のクロスフレイムを喰らってしまっている。
さらに、イリスたちの不運は続く。
ホワイトキュレムが冷気を吸収し、周囲に熱気を放出し始めたのだ。
「コールドフレア!? 金縛りが解けたのか……!」
よりによってデスカーンが倒された直後に金縛りが解かれ、金縛りが解けた直後にコールドフレアを放つホワイトキュレム。あんな攻撃、ポケモンでも回避が難しいというのに、生身の人間が避けられるわけがない。
絶対絶の命の危機に瀕した一同。しかし、その危機を救うのが、英雄の役目だ。
「っ、ゼクロム!」
今まで後方で待機していたゼクロムが飛び立ち、激しい雷撃をぶつけてホワイトキュレムを攻撃する。その際、ホワイトキュレムは体が麻痺してしまったようで、コールドフレアも不発に終わった。
「そうだ、まだ全滅じゃない。ゼクロムがいる……!」
Nから借り受けたポケモン、真実を司る黒龍、ゼクロム。レシラムをキュレムから引き剥がすのに、これ以上の適任はいないだろう。
「ゼクロム、思念の頭突きだ!」
ゼクロムは一旦ホワイトキュレムから離れ、頭に思念を集めて突貫。ホワイトキュレムに強烈な頭突きをかます。
「ドラゴンクロー!」
続けて龍の力を宿した爪で引き裂く。普通のポケモンでは動じなかったホワイトキュレムでも、ゼクロムの攻撃なら効くようで、態勢が少し崩れた。
だがホワイトキュレムも負けてはいない。地面から土砂を噴出し、ゼクロムを引き剥がす。そして直後、頭上に巨大な火球を生成する。
「ゼクロム!」
生み出された火球は一直線にゼクロムへと向かっていき、レシラムのものよりも圧倒的に強い炎は黒い体を焼き焦がしていく。
だがしかし、その炎は、ゼクロムに力を与えるものでもあった。
「ゼクロム、クロスサンダー!」
ゼクロムは全身に弾ける雷を纏う。雷はゼクロムを襲う炎を吸収し、その力を肥大化させていく。
「デュアルクロス……ゼクロム、頼んだ!」
ゼクロムは急上昇し、ホワイトキュレムの頭上まで飛ぶ。そして自身が巨大な雷球となり、ホワイトキュレムへと突撃した。
「ゼクロム!」
雷が弾け、ホワイトキュレムは甲高い叫び声を上げる。ジェットエンジンに接続されていたコードは外れ、氷塊のプロテクターも砕け、体の白い部分は灰色に染まっていく。
「分離してる、のか……?」
灰色の体は地面に這いつくばるような姿勢となり、背中からは純白の体が飛び出していた。間違いない、レシラムだ。
ゼクロムの雷を受け、キュレムとレシラムが分離している。
チャンスはレシラムとキュレムが完全に分離した一瞬。その一瞬で、全てのポケモンを捕まえられるマスターボールで、キュレムを捕獲する。
イリスは確実にボールをぶつけるため、距離を調整しつつキュレムに近づく。レシラムの体はもうほとんど出ており、あと少しで完全に分離するだろう。
イリスはいつでも投げられるように、握り込んだマスターボールを構えた。その時、
レシラムが火の粉を散らし、大空に飛び立った。
「今だ! イリス!」
イリゼが叫ぶ。
キュレムとレシラムが完全に分離した。あとは手にしたボールを投げるだけで、長かったこの戦いも終結する。
「行け——!」
小さく呟きながら、イリスは力いっぱい、それでいて的確にキュレムを狙って、マスターボールを投げつける。
キュレムにボールが直撃し、カプセルが開いてキュレムをその中に封じ込める。
カチ
思えばこの戦いも本当に長かった。始まりは三年前、7幹部といった者たちとの戦いからだった。
カチ
一年経って、遂に戦いが終わるかと思えば、そこからが本当の戦いだった。7Pという、途轍もない力を持つ者たちと争い、時には敗れ、ポケモンと成長しながらここまで戦ってきた。
カチ
そして今、最後の敵、ゲーチスをNが倒し、自分は世界を滅ぼしかねない龍、キュレムを捕獲する。そうして、イッシュの危機は去り、この長かった戦いも終結する。
次の一音で、キュレムは捕獲される——世界が、救われる。
そして、
カチン
最後の音が鳴る——
——パキンッ
刹那、マスターボールが、砕け散った。
- Re: 574章 失敗 ( No.842 )
- 日時: 2013/04/03 21:47
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「マスターボールが……砕けた……!?」
愕然とするイリスたち。遂にキュレムを捕獲し、戦いが終結すると思った矢先に、場を引っくり返される事態。
マスターボールから解放されたキュレムは、砕け散ったマスタボールの残骸を踏みつけ、低く唸っている。
「ど、どういうことだ……! 奴の作ったモンに、欠陥があるとも思えねぇが……」
流石のイリゼも困惑した表情だ。当然だろう、全てのポケモンを確実に捕まえられるマスターボールで、キュレムは捕まらなかった。ある意味では、この世の真理を覆したようなものだ。
そんなイリスたちに対して、Nとのバトルを終えたらしい——そして負けたらしい——ゲーチスは高笑いする。
「フ、フハハハハ! 愚か者どもめ! もっとワタクシに対して警戒していれば、そのボールも無駄にはならなかっただろうに。なんと無意味なことをしたのか!」
嘲るように笑いながら、ゲーチスは手にした境界の水晶を杖に乗せ、固定してしまう。Nは隙を見計らって境界の水晶を奪うつもりだったが、こうなるとそれも難しくなってくる。
そんなNの思惑に気付いているのかいないのか、杖を掲げるように見せつけ、ゲーチスは続けた。
「この杖は、あらゆるモンスターボールの力を封じる力があります。正確に言えば、モンスターボールのエネルギーを逆流させ、さっきのように破壊するものですが……この杖がある限り、キュレムを捕まえるなど不可能です!」
「っ、そんな……!」
ならば結局、イリスたちがホワイトキュレムに攻撃していたのは、それこそ無駄ということになる。全滅寸前になりながらもキュレムとレシラムを分離させたのが、無意味になってしまう。
「自分で言うのもなんですが、ワタクシは用心深い性格でしてねぇ、こんなこともあろうかと、アクロマに作らせておきました。お前たちは異端で異常な連中だが、それでも根本はトレーナー、ポケモンをモンスターボールで捕獲する者たちです。諦めが悪ければ、キュレムを捕獲しようなどと愚かな考えを持つだろうことは分かっていましたとも」
アシドも妙なものを作っていましたしね、と付け加え、ゲーチスはキュレムに向き直った。
「さあキュレム! 虚無に戻ったお前の魂に、新たな真理を埋めようぞ!」
カンッ、と杖を地面に叩きつけ、ゲーチスはキュレムにそう叫ぶ。すると次の瞬間、キュレムの両翼の先端から、レシラムを捕縛し吸収した光線が再び発射される。
「! レシラム! 捕まったら終わりだ! 今度こそは逃げ切れ!」
「ゼクロム、君もキュレムに取り込まれてはいけない! 逃げろ!」
イリスとNはそれぞれ必至に叫び、指示を飛ばす。ホワイトキュレムの力は嫌というほど見せつけられているので、ここでまた捕まって吸収されるわけにはいかない。二体ともそれは分かっているようで、襲ってくる光線を消しながら、避けることを優先している。そのためか、今回はなかなか捕まらない。
「むぅ、小賢しい。しかし二体を同時に狙うのは少々非効率的かもしれませんね……キュレム! レシラムを狙うのです!」
ゲーチスの指示を受け、キュレムは狙いをレシラムに定め、集中的に光線を発射する。
「なっ……! くっ、レシラム!」
光線がレシラムだけに集中し、振り切るのが難しくなってきた。炎を放ち、なんとか凌いでいるものの、このままでは捕縛されてしまう。
「まずい……ゼクロム! レシラムを放っておけない! 雷撃だ!」
光線が来なくなったことで、ゼクロムは激しい雷撃を身に纏い、キュレムに向かって突っ込む。
「っ、待て! N!」
イリスはそれを制そうとするが、遅かった。
「キュレム、ゼクロムを捕えろ!」
キュレムは翼の向きを急激に変え、ゼクロムに何発もの光線を撃ち込んだ。いくつかは雷撃の雷で打ち消したものの、最終的に光線はゼクロムを取り囲み、捕縛してしまう。
「ゼクロム!」
最初にレシラムを集中的に狙い、ゼクロムがフォローのためにキュレムに接近したところを捕縛する。単純だが、追い詰められた精神状態の彼らには、有効な作戦ではあった。
なんにせよ、今度はゼクロムがキュレムに捕まってしまう。ゼクロムはダークストーンの姿になってしまい、光線を浴びて少しずつ小さくなり、やがて消える。
「キュレム、吸収合体です!」
ゲーチスの叫びと共に、キュレムは体内に取り込んだゼクロムの力を顕現する。
直後、激しい電気と冷気が暴れ回る。空気は凍てつき地面は抉れ、イリスたちにもその余波が襲い掛かった。
同時に、キュレムの姿も氷塊に覆われる——かと思えば、今度は蒼色の雷に包まれる。凄まじい覇気と共に、キュレムは雷の氷塊の中で、虚無の魂を理想で埋めていく。
雷が消え、氷塊が砕けると、そこにキュレムとゼクロムはいなかった。いや、キュレムとゼクロムのどちらもが存在していた。
そこにいたのは、キュレムのようなポケモンだが、ゼクロムの意匠も感じ取れる。全体的に灰色をした体は、右腕と右翼、尻尾の先端などの各所だけが漆黒となっており、左腕、左肩、左側頭部、など、左右非対称に氷塊のプロテクターがある。
そのキュレムに似たポケモンは、背中から何本ものコードのようなものを伸ばし、ゼクロムのものと酷似した尾部のタービンに接続する。すると次の瞬間、タービンは激しく大回転し、蒼色の雷を解き放つ。
その雷を見て、Nはこれ以上ないくらいの驚愕を見せる。
「ゼクロムが……取り込まれてしまった……!」
このポケモンから発せられる雷や電気は、ゼクロムのそれとよく似ている。そのため否定したくとも、現時点でゼクロムに最も近いNには否定できない。
そんなNの言葉を受け、ゲーチスは邪悪な笑みを浮かべる。
「どうでしょう。これこそが、キュレムの虚無の魂を、理想で埋めた姿。混濁した、理想の使者。さあ、今度こそ奴らを消し去るのだ——」
荒々しく弾ける蒼色の雷を背に、ゲーチスは声高らかに宣言する。理想によって魂が埋められた、混濁の使者の名を——
「——ブラックキュレム!」
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 最終幕 始動——の前に ( No.843 )
- 日時: 2013/04/04 02:04
- 名前: プツ男 (ID: DN0pvQeX)
どうも、またリアルヒードランが家に出没して大パニックだったプツ男です・・・・チャバネヒードランとか、クロヒードランとか、本当に勘弁ですよ・・・・
ゲーチスを倒して、キュレム捕獲して、ハッピーエンドかと思いきや、まさかのマスターボールをゲーチスが破壊し、捕獲失敗という事態となってしまい、今度はゼクロムが吸収されてしまい、一気にピンチですね・・・・・
境界の結晶を取り返さないことには・・・・それか、エネルギー切れを狙う・・・・うーん、そんな悠長な事もやっていられないでしょうし、増援が来るまで、耐え凌ぐくらいしか、打開策が・・・・・
ゲーチスにはまだネメアが残っていますしね・・・・・ああいうゲスい奴の最期って、最後の希望に裏切られるパターンが結構ありますよね・・・・
でも、ゲーチスはなんか、ゲスというよりも、狂人みたいになってしまいましたね・・・・アンタの方がバケモノじみているとツッコんでしまいました。
- Re: ポケットモンスターBW 混濁の使者 最終幕 始動——の前に ( No.844 )
- 日時: 2013/04/04 16:21
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
プツ男さん
白黒は最近、リアルヒードランを見かけたことはないですね……小学生の時とかはよく見かけてた気がするんですが。
ただ白黒の場合はパラセクトが出没しそうで怖いです。
まだホワイトキュレムしか出てない状況では、そう簡単には終わらせません。きっちりブラックキュレムにも暴れてもらいます。
一応、増援もほとんど来てて、それでも全滅寸前という状況でしたが……やっぱり描写が足りなかったですか。もうちょっとちゃんと書かないとな……
ゲーチスがどんな最後を迎えるか……というより、この状況をどう打開するかは、次回のお楽しみです。
ゲーチスは確かに、かなり狂った感じになりましたね。BW2のゲーチスをイメージしたつもりなのですが、あの時のゲーチスってこんな感じでしたっけ?
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