二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 薄桜鬼 沖田総司
- 日時: 2011/01/30 17:20
- 名前: さくら (ID: w/qk2kZO)
初めて書きます。
下手ですがどうぞ読んでやってください。
こういう方はお断り。
荒らし目当て
沖田好きな方はぜひどうぞ。
基本的沖田ですが、時々他のメンバーも出てくるかも…?
温かい目で読んでやってください。
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- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.15 )
- 日時: 2011/03/26 12:09
- 名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)
少し体が軽くなった気がした。
今朝から松本先生からの診察を受けて、処方箋を服用したらいつもの体の気だるさも軽減された。
今は大人しく布団の中にいる。
総司はずっと同じことを考えていた。
松本先生の診察結果は予想していた病名だった。
『安静にするため、新選組から離れて暮らした方が良い』と忠告を受けたが、総司はそれに従う気などない。新選組を脱退するということは自分の腕が立たなくなったとき。
「僕は…まだ闘える…まだ……っ、げほっげほっ!!」
喉に競り上がる衝動を覚え、むせる。息が苦しい。喉から空気を吸えない。口元を押さえてむせていると、喉が不吉な音を立てる。
「…まだ、闘える…」
自分に言い聞かせるように、総司は手元に視線を落とす。赤い鮮血が手のひらに滴り落ちた。
懐紙で口元をぬぐい、布団に顔をうずめる。
わかっていた。自分の体を蝕むものが何なのか。はっきりとした病名———結核———だとわかったとき、怖いとは思わなかった。
例え不治の病と言われていても、己の選択するものはただ一つ。
「新選組の、近藤さんの剣となること…」
ほっと息をつく。
まだ時間はある。ただ願うのは神が死期を遅らせてくれること。
総司は眠ろうと思い、そっとまぶたを閉じた。
辺りに静寂が訪れる。気温が高くなり、少し開いた障子の隙間から小さな音が聞こえてきた。それは次第に大きくなり、眠りにつこうとした総司の目を覚まさせた。
雨が降っている。雨音は大きくなり、屋根や地面を打つ音が激しくなる。
ふとあることが頭をよぎった。
久しぶりに少女の身になれた彼女はどうしているだろうか。
脳裏に鮮やかな着物に身を包み喜んでいた千鶴の姿を思い出す。
今日は町へと足を伸ばして自由に過ごしていることだろう。彼女には幹部である原田がついている。万が一を考えても安心できる逸材だ。
その上、原田なら女の扱いに慣れている。町の案内も上手くやるはずだ。楽しそうに二人が肩を並べて歩く姿を思い描く。
閉ざしていたまぶたを上げる。
自分が何故か寂しいと思っていることに気付く。二人が仲良くしている姿を思うと、何故か眠れなかった。逆に目が覚めてくる。
千鶴が楽しそうに笑う姿が頭に浮かぶ。こんなことを思う自分を不審を抱き、苦笑が口から漏れた。
「どうして気になるのかな…」
誰と彼女が過ごそうが、関係がない。関係がないはずだ。もう一度目を閉じる。眠ろうとして何度も寝返りをうつ。
けれどいっこうに眠気がやってこない。彼女の姿が頭から離れない。
ぎゅっと目を閉じて、布団を頭までかぶる。こうしていればいつかは眠れるだろう。激しい雨音を耳にしながら、身を丸くした。
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.16 )
- 日時: 2011/03/26 13:13
- 名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)
どれくらい経っただろう。誰かが自分の名を呼んだ。
これが夢なのか現実なのか判別がつかないほど、曖昧な眠りについていたため、総司は勝手に夢だと思い込んだ。
そっと障子が開く音がした。障子に背をむける形で横になっている総司は、背中越しに誰かがその場に座る気配を感じる。
誰だろうと熱を帯び始めた体を叱咤して、布団から顔を出す。
夢だと思っている。だから目の前にいる人も夢の中の人物。現実ではここにいない。
「沖田さん。お身体、大丈夫ですか?」
眠りについていた総司はまだ覚醒しきれない。まどろむ頭は勝手にこれは夢だと判断した。
なぜなら彼女はここにはいない。今頃原田と町をめぐり歩いているはずだからだ。
目の前に座る少女を見て、総司は自分が嫌になった。
きと眠りに着く前に彼女を思い浮かべていたから、こうして執拗に夢にまで出てきた。それも昨日身を包んでいたきらびやかな着物を着て。
「どうしたの?」と聞こうとした。けれど意に反して、喉から声が出ない。
何となく総司が言いたいことを察したかのように、彼女は口を開く。
「松本先生と話し合っているのを聞いてしまいました…すみません」
夢の中だからだろうか。彼女の声がくぐもって聞こえる。なんのことだとうと総司はぼんやりと考えた。彼女はどうしてこんなつらそうな顔をしているのか検討がつかない。
「盗み聞きするつもりはなかったんです…でも、私聞いてしまって…誰にも言いません。絶対に」
彼女が膝の上で白くなるまで手を握っているのが見えた。肩は小刻みに震えている。総司はまどろむ意識の中で言葉をつむいだ。
夢の中のため、自分が何を言ったのかはっきりとはわからない。
「…沖田さんは、ずるい人です」
彼女が首を横に振る。総司の言葉を聞いて、拒絶を示すように。
何か彼女を悲しませるようなことを言ったのかな。総司はぼんやりする意識の中首を傾げた。
「そうやって自分で悲しいことも…病気のことも一人で抱え込んで…」
声が震えている。顔を背けた彼女はしばらく黙り込んだ。不思議に思って総司は寝ぼけ半分、口を開く。
その言葉を聞いて彼女は弾かれたように顔を上げた。
「えぇ…構いません。勝手にしますとも。沖田さんがなんと言おうと、私は…私の意志で動きますから」
涙が見えた。雫は布団へと吸い込まれていく。泣いている彼女は無理に笑っているように見えた。胸に手を当て、苦しみを耐えるように。
彼女が泣く理由がわからなくなって、総司は自分が何を言ったのかと頭で考える。しかし霧がかかったようにぼんやりとした思考では、思い出せなかった。
「そばに居ても…いいですか?」
総司は夢の中で心底驚いた。聞こえてきた言葉はもちろんだが、それだけではない。彼女の気持ちをこんなに耳にしたのは初めてだからだ。いつも自分がいたずらで彼女が伝えようとした気持ちを遮ってきた。
どうしてそんなことをしたんだろうと考えた。
彼女はいつだって真っ直ぐで、純粋で。その姿勢に惹かれていた反面、心のどこかでは逃げていた。全てを見透かすような瞳で見つめられれば、自分の醜い部分まで見られてしましそうで。
「怖かったんだ…」
次第に意識がはっきりする。自分の声がようやく聞こえた。これが夢なのか現実なののか、今はどうでもよくなった。彼女の気持ちが知りたい。心の底までさらせば、彼女の気持ちが聞ける気がした。
「僕は…きっと怖かった。君が真っ直ぐすぎて…いつも自分の意思を貫き通す君が…」
「沖田さん…?」
千鶴は天井をぼんやりと見つめる総司を見つめた。
「君がいつか僕の醜い心の奥底まで見ているような気がして…意地悪するつもりはなかったんだけど…つい逃げるために悪態ついてたのかもね…」
泣き止んだ千鶴を見て、ほっと胸を撫で下ろす。頭の中にかかった霧が消えていく感覚を覚えた。
「そばに…居て欲しい」
彼女を真っ直ぐに見つめて言った。一瞬目を丸くした千鶴はすぐに顔をほころばせた。
「はい」
やっと。やっと見れた。彼女の微笑む顔。ずっと待ち望んでいたもの。
総司がつられて微笑むと、冷たい何かが額に当たる。
「眠ってください。私、ずっとおそばにいますから…」
それが彼女の手だとわかった途端、急に眠気に襲われた。覚醒しかけていた意識は次第に沈み、眠りの深淵へと誘われる。心が安らぐ。
重かった体から自然と力が抜け、安堵の息をついて意識が薄らぐのを感じた。そこからはもう何も覚えていない。
夢を見ないほどに、その日は久しぶりに深い眠りへと落ちた。
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.17 )
- 日時: 2011/03/26 16:31
- 名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)
清々しい朝だった。
ひどかった昨日までの雨は嘘のようだ。空は晴れ渡り、眩しい朝日が障子の隙間から覗く。
上体を起こすと、あれほど重かった体が羽根のように軽かった。目をこすって部屋を見渡すが、彼女の姿はなかった。
「夢か…」
そうだ、あれは夢だ。都合の良い夢を見ていたんだ。そうに違いないと頷き、勢い良く立ち上がった。
着物を着替え、軽い足取りで広間へ足を向ける。
開け放たれた広間に顔を出すと、席に着いていた幹部が目を丸くした。
「おぉ、総司。もう起き上がって平気なのか?」
近藤が気を取り直して総司に問うた。なにそんなに驚いているのかわからず、総司は首を傾げた。
「えぇ、今日は体の調子が良いみたいです」
近藤の気遣いがくすぐったい。微笑しながら席に着くと、隣で朝餉を口に運んでいた一が口を開く。
「今日はいつになく顔色が良いな」
「そう?いつも通りじゃない?」
朝餉に目を移すと急に空腹感を覚えた。腹の底が音を立てる。
「お?何だ総司、腹減ってんのか?俺の煮物はやれねぇが、たくあんならやるぜ?」
新八が口に含んだ飯を飛ばしながら遠慮無しにたくあんを押し付けてくる。それが彼なりの気遣いだと知っている総司は、肩をすくめた。
「いらないよ。それ新八さんの食べかけでしょ」
「そーだぜ、新八っつぁん。食いかけは失礼だって」
その場が笑いに包まれる。
ふと視線を巡らすと静かに微笑む土方が居た。
「いやぁ、松本先生に来てもらって正解だったな。なぁ、土方」
「あぁ」
「心配なら心配だと総司に言ってやればいいんだ。こんな回りくどいことしなくても良かっただろう」
「近藤さん、総司に聞こえる———」
「何だ、土方さん。僕のこと心配してたの?へぇ、そうなんだ。ふーん?」
「うるせぇぞ、総司!ったく余計な心配かけさせんじゃねぇ!!」
顔を真っ赤にして激怒する土方を総司は怖いとは思わない。昔から素直になれないときは、決まって照れ隠しのつもりか怒号を散らす。
それが土方なりの心配の仕方なのだと、ようやく気付くと総司はぺこりと頭を下げる。
「ありがとう、土方さん」
「な、あ、あぁ…?」
珍しく総司が引き下がったことに土方はひどく狼狽したが、一同は目を剥くほど目を丸くした。
「あの総司が謝った!?」
「おいおい、明日は嵐じゃね!?」
「新八、平助、少し黙ってろよ」
二人をなだめて左之助は総司を見る。昨日までいつ倒れてもおかしくないほど、蒼白だった顔色は以前の総司に戻っていた。
「けど、今度からは素直に言ってもらわなくちゃ、僕わかりませんから。その歳で照れ隠しなんて全然可愛くないですよ」
飄々とした口調でおかずに手を伸ばし口へと運ぶ総司を見て、土方の怒りは沸点を超えた。
「何だと、総司!!!もういっぺん言ってみやがれっ!!!」
「土方さん、暴れると飯がこぼれるから!」
「平助は黙ってろっ!!」
いらぬとばっちりを食らった平助は渋面を作る。暴れだそうとする土方の肩を近藤がつかむ。
「まぁまぁ、落ち着けトシ。総司も元気になったことだし、良しとしようじゃないか」
そんな喧騒を尻目に、総司は目の前で笑っている左之助に声をかけた。
「そういえば、左之さん。昨日千鶴ちゃんと出かけたんだよね。どうだったの?」
眠りに着く前、彼女のことを気にしてばかりで夢にまで出てきてしまうほどだった。どこかでひっかかっていたもやを晴らすため、総司は聞かずにはいられなかった。
茶をすすっていた左之助は、湯飲みを置くと曖昧に微笑んだ。
「あー…昨日な。昨日はあの雨だっただろ?せっかく綺麗な着物あつらえたのに、濡れちゃもったいないし、昨日は町へは行かなかったんだよ」
思いもよらぬ話の展開に、一瞬思考が止まる。
ということは昨日夢に出てきた彼女は———。
「どうした、総司。箸が止まっているぞ」
急に動かなくなった総司を見て、一は小首を傾げた。
総司は目だけをあたりに視線を散らす。彼女の姿がないことにほっと息をついたその刹那。
「お茶のおかわりを持ってきました」
凛とした声が広間に響く。盆を抱えた千鶴は総司の姿を見て顔をほころばせた。その笑顔は昨日夢で見たものとまったく同じ。
「夢じゃなかったってわけ…?」
夢だと思った。あのとき。目の前にいた彼女が信じられなかった。女の子の姿をした彼女がここにいるはずがない。そう思ったから。
茶を配り歩いていた千鶴が最後に総司へ湯飲みを渡す。
「おはようございます。沖田さん。お体は大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫だけど…君、昨日さ…」
はい?と微笑んでくる彼女を前にして、総司はその続きの言葉を飲み込んだ。言わなくてもその笑顔でわかる。夢と同じ。ほめられて喜ぶ子供のような無邪気な笑みだ。
「…ありがとう」
彼女だけに聞こえる程度、そっと唇を動かす。
すると千鶴は耳まで赤くなる。その理由はわからなくても、けれど総司は思った。この笑顔をもっと見たい。
総司の胸に占めたのはそんな願いだった。
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.18 )
- 日時: 2011/03/27 17:22
- 名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)
とりあえずここで一区切り。
やれやれ(^^;)
ここからの話の展開に少々悩みます
がんばって続けていきます
新しい話 スタートです
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.19 )
- 日時: 2011/03/27 18:36
- 名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)
「そうじ、おまえ最近とんしょにずっといるな」
空が高くなりはじめた秋。夏の風の熱はおさまり、涼しく屯所内を吹き抜ける。日差しも柔らかくなり、過ごしやすい日々が続いていた。
そんなある日。
新選組屯所から少し離れた空き地で子供たちと戯れていた総司は、草を編む手を止めた。
「んー?それが何?」
「おれたちが遊びにいったら、おまえいつもとんしょに居るから。暇なのか?」
木の枝でちゃんばらごっこをしていた男の子たちが、飽きてしまったのか総司の周りに集まり始めた。
そのあたりの適当な土手の上に腰を下ろしていた総司は、立っている子供を見上げるかたちで口を開いた。
「暇と言えば暇かな。でも暇じゃない」
「どっちだよ」
「どっちも言えるってこと」
「わかんねーよ。どっちだよ。もう闘ったりしないのか?」
飾らない子供の言葉に、総司はふぅっと息を吐く。率直過ぎると返答に悩む。総司ははぐらかすように、その問いに答えなかった。
「おれ母ちゃんにきいたぞ。そうじがいる【しんせんぐみ】ってやばんなんだろ?おいはぎしたり、町の人からおかねとりあげてるんだろ?」
「野蛮、ね」」
「おれもきいた。町の人おどして、お店あらして帰るんだって。皆こわいって言ってた」
「怖い、か。確かにそうかもね」
矢継ぎ早に繰り出される子供の無垢な質問に、総司はうっそりと笑って見せた。
離れたところで遊んでいる女の子達も、会話が気になり始めてそろそろと輪に入ってくる。
「野蛮な新撰組にいる僕は怖くないの?親によく遊ぶなって言われないね?」
「そうじはいいの。こわくないから」
「おやに話したら『あそんでくれるいいお兄さんだね』っていってた」
腰を下ろした女の子が無邪気に笑いながら言った。
総司が編んでいた草を女の子たちがそれに習って、辺りに生えている草を抜いて編み始める。
新選組が悪く言われるのは仕方がないと思う。
現にほんの少し前は町に暴虐を振るう者も、新選組を名乗る前にいた。
京に住む人々はその時新選組に対する恐怖を埋め込まれた。
芹沢鴨をはしめとする一派のせいだったが、今は名を改め悪行を重ねる隊士は排除した。それでも人々からすれば新選組は野蛮な組織でしかないのだ。
時間をかけてその恐怖を打ち消していくしかない。
「ふーん。そっか」
ふけっていた総司は遊びを再開する子供たちを眺めて、そっと呟いた。
草編みで冠を作り上げた子が、総司の前に立つ。
「はい、そうじにあげるー」
そう言って総司の頭の上にそれを乗っけた。
「ありがとう。これどうやって編むの?教えてよ」
女の子たちが総司を取り巻いて草編みの仕方をこと細かく説明する。
穏やかな時間。秋風が草木を揺らして心地よい歌を奏でる。
そんな中総司はさきほど子供たちの何気ない言葉に、胸が痛んでいた。
確かに子供の言っていることは正しい。
暇を出された。土方に。
どれほど頼んでも“結核”が判明してから、土方は異常なまでに総司を外から出そうとしない。外に出る機会はこうやって土方の目を盗み、子供たちと遊ぶことくらいだ。
子供の発言が率直で、返答できなかったのが正しいといえるだろう。
もう、闘えないのかもしれない。一抹の不安に駆られる。
最近は咳も出なくなったが、それは体を動かしていないから。なりを潜ませている病は、いつ暴発するかわからない。
治るかわからない病。もう剣も震えないのかと、日々不安が蓄積されていく。
日が傾き始めて、その場はお開きとなった。
赤く染まり始めた空を見上げて総司は、うんと背伸びをした。
どうして自分だけがこんな病にかかったんだろう。どうして自分だったんだろう。自分でなければよかったのに。そう悔やまずにはいられなかった。
「そうじ、かえろー」
「はいはい。今行くよ」
帰路に着いた子供たちが、手招きをする。帰り道が同じ子供たちが総司の手を握って、飽きることなく喋り続ける。適当に相槌をうっていた総司の目に、ある光景が映り足を止めた。子供たちもそれにならって立ち止まる。
家々が並ぶ一角から喪服に身を包んだ人々が、家の門から出てきた。
すると棺を担いだ男たちが現れた。目元を押さえて泣き崩れている婦人は、棺に向かって嗚咽を漏らす。
近所の人々も見守っているのか、秋風に乗って会話が聞こえてきた。
「可愛そうに。あそこの旦那はん、まだ若かったんでしゃろ?奥さんを残してしまうやなんて…小さい子供もいるって聞きましたえ」
「ほら大変やなぁ…なんや病気か?」
「今流行っとる、結核らしいどすえ?不治の病やさかい、とうとう逝ってしまわれたんどすなぁ」
しみじみと語る近所の人の会話に耳を傾けていた総司は、そこから動けなかった。棺は墓場に向かってどんどん遠くへ行く。それを総司は見えなくなるまで見送っていた。
「そうじー?どうしたの?かえろうよー」
待ちかねたのか、子供たちが唇を尖らせる。その声に我に返った総司は見上げてくる瞳に微笑んだ。
「ごめん。帰ろうか」
子供たちに引っ張られるかたちで帰路に戻った総司は、子供たちの会話に耳を傾けることも忘れ、さきほど光景を何度も思い浮かべた。
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