二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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薄桜鬼  沖田総司
日時: 2011/01/30 17:20
名前: さくら (ID: w/qk2kZO)


初めて書きます。
下手ですがどうぞ読んでやってください。


こういう方はお断り。
荒らし目当て


沖田好きな方はぜひどうぞ。
基本的沖田ですが、時々他のメンバーも出てくるかも…?


温かい目で読んでやってください。

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Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.10 )
日時: 2011/03/05 11:03
名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)

あいさん

タメで全然構いません!
はじめまして^^

えっと今書かせてもらってる総司は
乙女ゲームの「薄桜鬼」というゲームのキャラクターです

銀魂の沖田総語ではありません(汗
銀魂の沖田も大好きですけど

良かったらまた読んでくださいね^^

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.11 )
日時: 2011/03/05 11:47
名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)

長い帰り道だった。
袴では歩幅が制限されないが、着物はそうはいかない。
小股で早く歩くしかないのだ。それに合わせて歩調を緩めて歩いていたから、日は頂点に昇りかけていた。
総司は後ろから小走りでついてくる少女をふり返った。

「大丈夫?もう少しゆっくり歩こうか?」
「だ、だいじょうぶです。ただ久しぶりに着物に袖を通したので感覚が…」

千鶴は息を上げて総司の背を追っていた。だが着物の都合上、大股で歩くことはかなわないため、歩幅が大きい総司についていこうとすると、自然に小走りになってしまうのだ。
そんな一生懸命に歩を進める彼女を気遣って、総司はさらに歩調を緩める。彼女の隣で歩けるほどに。
そうやって二人が並んで歩くと、町の行く人々が一度は振り向く。
井戸端会議をしていた奥様方はこちらを見て、こそこそと言い合っている。花を売り歩いている若い娘が、つい見とれてかごに入っている花を落としそうになった。商家の若い男がぽかんっと口をあけて去り行く二人を、魂を抜かれたように見送った。

「あ、あの。沖田さん。何だかすごく視線を感じるんですけど…」
「そうだね。きっと君が綺麗に着飾ってるからじゃない?」
「ええっ!」

並んで歩く二人は、まるで浮世絵から飛び出してきたようにも見える。
総司はそれなりに容姿も整っているし、体躯も大きい。隊服を着ていなかったら、町の若い娘は思わず頬を赤く染めるくらいだ。

「わ、わたしなんて、そんな…っ」
「照れなくてもいいのに…ケホッ!ケホッ!!」

突然その場に足を止めて、総司は背を丸めた。口元を押さえて大きな咳を繰り返す。息苦しそうに胸を抑える。

「沖田さん!?」
「ケホケホッ…ケホッ!!…だい、じょうぶ…」

駆け寄る少女を手で制す。喉まで競りあがってくるものをどうにかやり過ごし、ゆっくりと息を吐いた。

「大丈夫。ほら、治まった」
「でも、やっぱり風が治ってないんじゃ…」
「さ、行こう。だいぶ時間がかかってるし。土方さんが怒ってるかもよ」

何もなかったように立ち上がる総司を、千鶴は不安げに表情を曇らせる。再び歩き始めた総司は体に残る違和感に、顔を歪めていた。
千鶴は先を行く大きな背を、胸に不安を抱えてついて歩くのだった。



屯所に着いた時にはもう、真昼になっていた。
門をくぐろうとしたとき、雄叫びによって足を止めることになる。

「総司誰それっ!!!女の子屯所に入れて———って、あれ?」

巡察の帰りだろう。平助は平隊士に解散を告げた後、すぐさま二人に駆け寄ってきた。そうして着物を着た少女が千鶴であることに気づくと、急に押し黙った。
じっと千鶴の顔を見つめて、平助はしばらく口を開かなかった。きっと目の前の少女に違和感を感じているのだろう。髪型は男装のままで、見慣れた少女なのに、まとう衣は少女のものだった。不思議な光景に絶句している。

「千鶴…?」

ぽそっと、確かめるように彼にしては珍しく小声で訊ねた。
それまで観察されるような視線を向けられていた千鶴は、困った様子で頷いた。

「うん、おかえり平助君」
「お、おう…やっぱ千鶴か。誰かと思った」
「変、かな?」
「そんなことねぇって!!すっごく綺麗だ!…っと俺は思う」

全面否定する平助は、途中から小声になった。自分の発言に恥じらいを感じたからだろう。

「初々しい反応はそこまでにしてくれるいかな?平助は早く土方さんのところに行って、巡察の報告してきたら?」
「お、おぉ。じゃぁ行ってこようかな」

千鶴に軽く手を振ってから平助は先に門をくぐって行った。

「ね、言ったでしょ?皆びっくりするって」

そう言って意地悪い笑みを浮かべて、総司は先に屯所の門をくぐった。

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.12 )
日時: 2011/03/19 14:10
名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)

玄関に入ると、満面の笑みを浮かべる源三郎がいた。
千鶴を目にするとさらに目元の皺を深くした。

「あれ、珍しい。源さんが迎えてくれるなんて」
「そろそろ帰ってくる時分だと思ってね。土方さんの伝言で、副長室に来るように、だそうだよ」

土方、と聞いただけで総司は自然と膨れ面になった。不機嫌そうに草鞋を脱いで、玄関へと上がる。千鶴も下駄を脱ごうとして、ふと足元に目を留めた。

「見慣れない下駄がある…どなたか来てるんですか?」

玄関には女物の下駄が二足並んでいる。千鶴は首を傾げると源三郎に尋ねた。

「あぁ、雪村君。君にお客さんだよ。二人とも副長室で待っているから、総司と二人で行っておいで」
「私にお客さん…?」

総司と千鶴は満面の笑みを浮かべる源三郎に見送られて、副長室へと足を向けた。
険しい表情を崩さない総司の剣呑な雰囲気に、千鶴は少々気圧されていた。不機嫌になると手をつけられない子供のようで、むすっと口を閉ざしたまま、千鶴の前を歩く。
お使いの間は千鶴は独占できたようで、この上なく嬉しかった。おまけに普段見れない、千鶴の元の姿を拝めて得した気分にもなっていた。が、しかし。屯所に戻るとその気分も一転。くしくも土方の命によって使いに行ってきたことを嫌でも思い出す。
二人で出かけられたのは土方の命あってこそなのだ。それを思い出すとどうにも腹の奥底がむずがゆかった。

「あの、沖田さん」
「んー?」

空気の重さに堪えきれず、千鶴は声を上げた。
口元に笑みは浮かべたものの、それを持続させることは難しく、すぐに真顔に戻ってしまった。おろおろと千鶴は視線を泳がせて必死に言葉をつむぐ。

「あの、お付き合いいただいて有難うございました。あの、それで…」
「別に。土方さんのお使いだからね。気にしなくていいよ」

突き放すような物言いに、千鶴はとうとう言葉を失った。
あぁ。と総司は心の中でため息をついた。いけないとは思うものの口から出るのは彼女を傷つける言葉ばかり。こうも自制がきかない自分の感情に嫌気がさす。
足を止めてうつむく彼女に目をやる。つられて彼女も足を止める。千鶴はそろそろと顔を上げて総司の顔を見た。総司の胸に突き刺さるような痛々しい瞳に、後悔の念を抱かずにはいられなかった。

「ごめん、そうじゃない。そうじゃなくて…僕は…」
「千鶴ちゃん!!」

はっと弾かれたように二人が横を向くと、いつの間にか副長室の前まで来ていたことに気づく。最近温度が上がり、風を通すためにどの部屋でも障子や襖を全開にしている。副長室も障子が開け放たれ、部屋の全貌がよく見えた。
副長室には、土方と向き合うように長い髪をなびかせ、高価な着物を身にまとっている少女と、忍装束を色っぽく着こなす女性が座っていた。

「お千ちゃん?」
「久しぶり!元気だった?」

にこやかに手を振る少女は、町で知り合ったお千という少女だった。そのとなりで微笑む美人にも見覚えがあった。

「君菊さんも。どうしたんですか?」
「お邪魔しています。その着物。よく似合っていますね」

君菊が礼儀正しく挨拶をした後に、総司は間髪入れずに土方に尋ねた。

「どういうことか、説明してもらえますよね?土方さん。どうして千鶴ちゃんの着物を作らせたのか。どうしてここにこの二人がいるのか。そういう約束だったでしょ?」

機嫌が直らない総司は一気にまくしたてた。鋭い眼光を向けられた土方は面倒くさそうにため息をつくと、床を指差す。

「まぁ、座れ。そう噛み付くんじゃねぇよ」

総司は渋々土方から離れたところへ腰を下ろす。千鶴も隣に膝を折った。
総司と千鶴の雰囲気を見て、お千は納得がいったようにふんふんと満足げに頷いていた。千鶴はお千の笑みの意味が分からず、そして隣で苛立ちを隠せない様子の総司に困惑しきっていた。

「実はその着物をあつらえたのは私たちです。勝手なことをして申し訳ありません」

口火を切ったのは君菊で、畳に手をつき頭を下げた。

「あの?」

頭を下げる君菊に意味が分からないというように、千鶴は小首を傾げた。君菊のあとに続けてお千が千鶴に向きなおす。

「この間こっそりここに来てね。それで土方さんとお話させてもらった時に、あなたのことをちょっと聞いてみたの」
「私のこと?」

お千が大きく頷くと、土方はわざとらしく咳払いした。

「お前はずっと屯所にこもりっきりで、外に出られるのは巡察の時だけだろ?そのうえ性別を偽って家事やら雑用をさせちまってる」
「でもそれは私が勝手にやってることで、男装もここの風紀を乱さないためで…」
「それ、それよ!」

お千は急に大声を上げた。千鶴は驚いた様子で目を瞬いた。

「女の子一人で男装して、こもりっきりじゃ息も詰まるでしょ?」

だからね。とお千は言葉を続けた。

「女物の着物も持ってなさそうだから、私たちが勝手にあつらえて、土方さんに相談したの。一日だけでいいから彼女を自由にさせてあげてって。だってたまには羽目をはずさないと、いつか倒れちゃうもの」

やっと話が見えてきた総司は何だ、と肩を落とした。どんな理由で使いに出されたかと思うとあっさりしたものだったからだ。

「まぁ、確かに。綱道さんの情報も掴めてねぇし。お前を監禁してるって言ってもおかしくねぇ。頼んでねぇ雑用も進んでやってるし、一日だけなら、お前に時間をやることもできる」

土方なりに言葉は雑でも裏を読めば心遣いがひしひしと伝わってきた。

「だが、お前一人外に出す訳にはいかねぇからな。ここにいる二人でも構わねぇが、隊士を連れて行くほうが安心できるからな」
「どなたか同行して下さるんですか?」
「あぁ」

土方は横目で総司に視線をやる。総司はそれを無言で受け止めた。

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.13 )
日時: 2011/03/25 18:41
名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)

「ま、待って下さい!」

千鶴は突然声を上げた。

「皆さんにそこまで気を使ってもらうのは…私はここに来て、大変なこともありましたけど、息が詰まるようなことはありません。それに、何だか申し訳なくて…」

土方の使いの意味も、お千が訪ねた理由も理解できたが、休養をもらうのは気が引けた。

「それに、こんな高価な着物…やっぱりもらえない。お千ちゃんにはすごく感謝してるけど、やっぱり…」
「近藤さんからも許可は出てる。お前が気負うことねぇ。屯所内でその姿でいられると風紀に関わる。悪いが町で自由に行動させてやることしかできねぇが」

逡巡する千鶴に土方は外出を勧めた。戸惑う彼女を見てお千が口を開く。

「風間のこともあるから、一人では無理だけど。隊士の人に同行してもらえれば安心でしょ?着物のことは気にしないで。私のほんの気持ちだから」

口をつぐんで押し黙る千鶴を見た土方はこめかみのあたりを掻く。

「誰もお前が一日休んだって怒りゃしねぇよ。たまには町に行って、羽伸ばして来い」

ぶっきら棒で荒い物言いだが、千鶴を気遣う気持ちが垣間見える。千鶴はそんな土方にようやく心を決めたのか、渋々ながら頷いた。

「…それじゃぁ、お言葉に甘えて。一日だけ」

深々と頭を下げる千鶴を見て、お千と君菊は互いに微笑んだ。

「おう、そうしろ。明日にでも行って来い」
「その同行する人って、誰なんですか?土方さん」

それまで黙っていた総司が唐突に疑問を土方へぶつけた。怒気を孕んだその声に、その場の温度が下がったようだった。総司はひたと土方を見据えた。

「明日暇な奴らに頼むつもりだ。そう言ってたら来たな…」

張り詰めた空気を砕くような、いくつもの足音が近づいてきた。床板が軋む音と共に、喧騒も聞こえてくる。
開け放たれた障子から顔を覗かせたのは。

「何だい、土方さん。皆に集合かけやがって」
「副長室に呼び出されるなんて、珍しいよなぁ」
「いつもなら広場で話し合いだもんな」
「失礼します、副長」

新八、平助、左之助、一が続々と部屋に入ろうとして、一同は石のように固まった。彼らの目にはただ一点。千鶴に視線が注がれた。一瞬にしてその場に妙な空気が漂う。
痛いほど視線を感じた千鶴は困惑した。大の大人たちが魂を抜かれたように突っ立ていれば、無理もない。静まり返った部屋の静寂を打ち破ったのは、膨れっ面だった総司だった。

「あはははっ。皆驚きすぎでしょ」

腹を抱えて笑う総司の笑い声に、我に返った一同は一斉に千鶴の元へ駆け寄る。

「平助が千鶴が可愛い着物着てたって言ってたのは本当だったか!」
「だーから言っただろ?新八っつぁん。綺麗だろ?」
「驚いたな…綺麗だぜ。千鶴」
「…本当に千鶴なのか?」

それぞれの反応を受け止めて、千鶴は返事に窮した。おろおろと視線を泳がせ、総司のもとへとたどり着く。目が合った総司は、ほっと息をつく。

「怖がってるから。それくらいにしてあげないと、千鶴ちゃんが困るでしょ」

総司に宥められ、渋々千鶴と距離を置くと今度は土方へと視線を注ぐ。

「土方さん、これどういうことだよ?千鶴にこんな格好させて」

その場に召集された幹部達の疑問を代表して、平助が問うた。
答えを待つ幹部達の視線に少々たじろいだが、土方は咳払いをして本題を切り出す。

「千鶴にはいつも世話になってる。加えて、そこの千姫さんが千鶴の休暇を提案してきてな。せっかくの機会だし、明日町にでも繰り出すつもりだ。そこで…」

ちらりと視線を総司に向ける。先ほどと同じ、試すような視線だった。総司は眉根を寄せて、土方の目を見据えた。

「こいつ一人じゃ町の形状は知らねぇし、誰か明日時間がある奴が案内してやって欲しい」

左之助、平助、新八がざわめき立つ。相対して黙って聞いていた一が口を開いた。

「だから、着物を着ているのですか?」
「そうです。でも、彼女女物の着物、今持ってなさそうだったので。私達が用意しました」

一の問いに答えたのはお千だった。

「ただし、同行するのは一人だけだ。明日時間がある奴は誰だ?」

浮き足立つ三人を鎮めるように土方は声を張った。すると一同は互いの顔を見合わせる。

「あー…俺は明日の朝から巡察だな」

平助は残念そうに唸った。同じく新八も渋面になる。

「俺も巡察の当番がっ…!!」
「自分も明日は稽古がありますので…」

一はいつもより低い語調で、沈んだような声を出す。そして明日の予定を口にしない左之助に視線が集まる。

「俺は明日は非番だぜ?巡察も稽古もないな」
「じゃぁ、原田に———」
「待って下さいよ、土方さん」

開きかけた口を閉ざすと、土方は総司に目をやる。さっきまで笑っていた総司の表情は、何があったのか険しくなっていた。
先ほどと同様、苛立ちを抑えるような声音にその場が静まり返る。

「僕も明日は非番ですよ?」
「お前は明日松本先生の診察を受けろ。今日松本先生に使いをよこしたから来てくれるだろ」

二人の視線が絡み合う。一触即発な空気に、千鶴はどこかで同じような展開を迎えたと、記憶を手繰る。
空気が張り詰める。沖田は口元に笑みを浮かべた。その表情は今にも泣き出しそうな悲しみをたたえていた。

「…わかりましたよ。そういうことですか…」

珍しく沖田が引き下がったことに、千鶴はもちろん、他の者も目を丸くした。悲しそうに、けれど苛立っているのか勢い良く立ち上がると、出口へと足を足を向ける。

「あ、あの、おき———」
「放っておけ。明日は原田に同行を命じる。いいだろう、原田」
「あ、あぁ…」

総司は唇を噛むと、静かに副長室を後にした。

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.14 )
日時: 2011/03/25 19:43
名前: さくら (ID: Tzn/2JVm)

「少し、言いすぎじゃぁねぇのか?土方さん」

お千と君菊を見送った後、その場は解散となった。副長室には筆を走らせる土方と、背中を壁に預けて苦笑する左之助だけとなった。

「何がだ?」

顔色一つ変えずに、土方は筆に墨を含ませる。左之助はため息混じりに、また苦笑した。

「総司だよ。【あんな言い方】すりゃ、あいつだって拗ねるに決まってるだろ」
「言ってる意味がわからねぇな」
「…あのやり方だと、千鶴が心配するってことくらいあんただってわかってるくせに」

悲しい背中を見せて立ち去った総司を、千鶴はじっと見つめていた。心配と不安と、少しの動揺を瞳に映して。捨てられた子犬のような表情をした少女を脳裏に思い出すと、左之助は口元の笑みを消した。

「そこまで総司に意地悪して、あんたも大人気ないな」
「意地悪じゃねぇ。教育だ」
「どっちも一緒だよ。総司にとったら。まわりくどいことしねぇで、ちゃんと話し合えばいいじゃねぇか」
「…それができりゃ苦労しねぇよ」

ため息混じりに土方がぼやいた。つっと総司がいる部屋の方角へ視線をやると、左之助はうんと伸びをした。

「素直に言えばいいだけじゃねぇか。『お前が心配なんだ』って」
「ふんっ…」

顔をしかめる副長を見て、左之助は頬を緩ませる。
開け放たれた障子からは、赤い日差しと、夏の訪れを知らせるような乾いた風が入ってきた。文机の上の紙がかさかさと音を立てる。

「…あいつが今患ってるのは、風邪じゃねぇ」
「…だろうな」

静かな大気に虚しく言葉が消えていく。土方は手を動かしたまま続けた。

「医者じゃねぇ俺でも薄々わかる。ただの風邪だったらこうも長引かねぇだろ」
「夜になるとひとりでに外でいたこともあった。青い顔してたな。朝になると、日に日に疲れが溜まっているようだったし。ありゃ寝てねぇ証拠だな」

はぁっと土方は大きくため息をついた。筆を置くと、夕日を眺めていた左之助に体を向ける。その表情には険しさが混じっていた。

「何度休めと言っても聞きやしねぇ。この間巡察を控えろって言ったら笑いやがって…人の気も知らねぇで」

その時のことを思い出したのか、土方の額に青筋が浮かぶ。
おかしな咳ばかり繰り返し、食事もろくに摂ろうとしない。長年付き合ってきた彼らにとって、最近の総司は異常でしかなかった。
心配して声をかけても、なんでもないと笑い飛ばされる。不安が募るのは、土方だけではないようだった。近藤も総司を気遣って食事を積極的に勧め、夜は何度も総司の部屋へ足を運び、眠るように声をかける。
その近藤の行動もあってか、幹部の者たちも気づく。総司はただの風邪ではないと。
総司の疲労しきった顔をここ数日見るたびに、胸が痛んだ。
眠れないのだろう。目の下にクマもくっきりできている。食事もろくに摂らないためか、少し痩せた気もする。

「自分の体は…あいつが一番よくわかってんだろうけど…」

左之助は寂しげに呟く。
衰弱するのが目に見える。日を追うごとに覇気をなくしていく仲間を見て、心配せずにはいられなかった。
しかしその心配がかえって総司の神経を逆撫でるのだろう。
剣を振るうことでしか新選組にいる存在意義を見出せない今の総司にとって、病気が判明すれば失墜するだろう。
病にかかると剣を振るうことが難しくなる可能性が高い。それを薄々気付いているのだろう。総司は無理に元気に振舞っているのだ。

「…わかってるなら、なおさら早く治すべきだ。見ているこっちがつらいんだよ」
「それを本人に素直に言えば…」
「うるせぇ。言ったって聞く相手じゃねぇ。強制的に大人しくさせるしかねぇだろ」
「だから。それじゃぁ余計に総司は苛立つし、何より千鶴が可愛そうだろう」

やれやれと肩をすくめると、土方は鼻を鳴らして沈み行く太陽を見つめた。

「千鶴なら…あいつならできる気がするんだ」
「何をだ?」
「総司と共に歩くことが…理解してやることが」
「何だ。気付いてるんじゃねぇか。あの二人のことに」

少し居心地が悪そうに土方は咳払いをする。左之助は夕日に視線を投じる。二人はしばらく口を閉ざした。聞こえるのは風に揺れる草木の音。

「だったらなおさら、あの二人を引き離すような真似、しなくてもいいじゃねぇか」

口元笑みを含むと、土方に視線を戻す。はぁっと息をつくとさらに眉間の皺を深くする土方は、左之助に言葉を返した。

「あいつへの"仕返し"だ。さんざん人に迷惑かけたからな」
「それが大人げねぇって言うんだよ」

太陽が山へと還る。闇の帳が早々にやってきた。室内の温度が下がっていくようだった。灯籠に火を点すと、土方はまた筆を手に取る。
左之助は立ち上がると仕事を再開した副長の背中を見つめた。

「明日、本当に俺が行ってきてもいいんだな?」
「…あぁ…悪いな、原田」
「ったく…苦労の耐えない人だな。あんたは」
「つき合わせて悪かったな」
「いいぜ。あんたはやっぱり…」
「何だ?」

一瞬だけ文から視線を剥がした土方に、原田は口にしかけた言葉を飲み込んだ。

「いいや。何でもねぇ。夕飯もうできてるだろうから、土方さんも来いよ」

無言で頷く土方を見て、そっと障子を閉めて退室した。
闇に浮かぶ月を見上げて左之助は誰ともなく呟いた。

「優しい人だよ、土方さん」


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