複雑・ファジー小説

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獣妖過伝録(7過完結)
日時: 2012/09/08 14:53
名前: コーダ (ID: hF19FRKd)

 どうも〜!私、コーダと申します!

 初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!

 え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
 
 そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。

 只今、超ゆっくり更新中……。

 コメントもどしどし待っています。

 では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。


※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。

※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。

 秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!

————————————————————————

「お腹すいたなぁ……」
 輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。

「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
 ただひとつ。
 狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。


 100本の蝋燭。
 大量の青い紙。
 そして、青い光に二本の角。
  ————青の光と狐火


 恵み豊かな海。
 手漕ぎ船。
 蛇のような大きな体と、重い油。
  ————船上の油狐


 それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
 星空の下、男女の狐が出会う。
  ————霊術狐と体術狐


 そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」


 獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
     不思議な放浪記が幕をあげる。
       【獣妖記伝録】
 現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!


 竿が反れる。
 妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
 すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」

————————————————————————



・参照突記伝録
 「1800突破しましたね。嬉しいことです」

・読者様記伝録
 ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
 玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
 王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
 水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
 誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
 ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
 ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
 Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
 猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
 アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
 水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
 狒牙さん(IFを執筆している方です。)
 木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
 瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)

・感鑑文記伝録
 水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
 秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
 王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
 紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
 猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
 夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
 七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
 瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
 野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
 狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
 及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
 peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)

・宣伝文記伝録
 秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)

・絵描様記伝録
 王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
 >>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
 ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
 >>20 >>48 >>99

・作成人記伝録
 講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
 葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
 淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
 乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
 軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)

・異作出記伝録
 ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)

・妖出現記伝録
 青行燈(あおあんどん)
 小豆洗い(あずきあらい)
 アヤカシ(”イクチ”とも言う)
 磯撫(いそなで)
 一本ダタラ(いっぽんダタラ)
 犬神(いぬがみ)
 茨木童子(いばらぎどうじ)
 後神(うしろがみ)
 産女(うぶめ)
 雲外鏡(うんがいきょう)
 煙々羅(えんえんら)
 大蝦蟇(おおがま)
 大天狗(おおてんぐ)
 骸骨(がいこつ)
 貝児(かいちご)
 烏天狗(からすてんぐ)
 九尾の狐(きゅうびのきつね)
 葛の葉(くずのは)
 管狐(くだぎつね)
 懸衣翁(けんえおう)
 牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
 酒呑童子(しゅてんどうじ)
 女郎蜘蛛(じょろうぐも)
 ダイダラボッチ
 奪衣婆(だつえば)
 土蜘蛛(つちぐも)
 鵺(ぬえ)
 猫又(ねこまた)
 野鎚(のづち)
 波山(ばさん)
 雪女(ゆきおんな)
 雪ん子(ゆきんこ)
 妖刀村正(ようとうむらまさ)
 雷獣(らいじゅう)
 笑般若(わらいはんにゃ)

・獣妖記伝録
 1記:青の光と狐火    >>1
 2記:船上の油狐     >>5 
例1記:逢魔が時      >>10 
 3記:霊術狐と体術狐    >>11
 4記:蝦蟇と狐と笑般若  >>15
例2記:貝児        >>27
 5記:牛馬と犬狼     >>30
 6記:産女と雌狐     >>34
例3記:ダイダラボッチ   >>38
 7記:蜘蛛と獣たち 前  >>43
 8記:蜘蛛と獣たち 後   >>51
例4記:小豆洗い      >>52
 9記:雪の美女と白狐   >>53
10記:墓場の鳥兎     >>55
例5記:葛の葉       >>58
11記:天狗と犬狼     >>64
12記:狐狸と憑依妖    >>74
例6記:日の出       >>75 
13記:雷鳥兎犬      >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐   >>84
例7記:煙々羅       >>87
15記:櫻月と村汰     >>93
16記:神麗 琶狐     >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁   >>100
17記:天狗と鳥獣 前   >>104
18記:天狗と鳥獣 中   >>105
19記:天狗と鳥獣 後   >>112
例9記:九尾の狐 狐編   >>106
20記:温泉と鼠狐     >>113
21記:犬神 琥市     >>121
例10記:九尾の狐 犬編  >>120
22記:天鳥船 楠崎    >>128
例11記:九尾の狐 鳥編  >>133
23記:鬼と鳥獣 前    >>136
24記:鬼と鳥獣 後    >>140
例最終記:九尾の狐 獣編  >>141
25記:鳥獣と真実     >>151


・獣妖過伝録
 1過:8人の鳥獣     >>159
例1現:不埒な者たち    >>164
 2過:2人の狐      >>163
例2現:禁断の境界線    >>166
 3過:修行する者     >>165
例3現:帰りと歴史     >>167
 4過:戦闘狼と冷血兎   >>168
例4現:過去の過ち     >>169
 5過:鳥の監視 前    >>170
例5現:起源、始原、発祥  >>171
 6過:鳥の監視 中    >>172
例6現:探し物       >>173
 7過:鳥の監視 後    >>174
例7現:箒に掃かれる思い  >>175


・獣妖画伝録
 >>76
 >>119

Re: 獣妖記伝録(例8記完結)(アンケート実施中) ( No.101 )
日時: 2011/08/09 22:27
名前: コーダ (ID: 68i0zNNK)

 はい、絶賛夏バテ中の作者です。
 突然ですが、ここで皆さまの好きなキャラなどを教えて欲しいです!
 記念とかそういうものがなくて、中途半端ですけど行います(笑)
 この結果をもとに、私のこれからの小説を書くにあたって参考になればと思っています。
 人気だったキャラが居たら……何かするかもしれませんけど(笑)
 早速ですが、下記に記入用紙を置いておきます。

————————記入用紙————————

1番好きなキャラは?:『』
理由を教えてください:『』

2番目に好きなキャラは?:『』
理由を教えてください:『』

面白かった話は何記ですか?:『』

————————————————————

 記入ありがとうございました。
 これからも、獣妖記伝録をよろしくお願いいたします!

Re: 獣妖記伝録(例8記完結)(アンケート実施中) ( No.102 )
日時: 2011/08/09 22:35
名前: 王翔 (ID: aU0XF0c4)

はい、王翔です。
いまだに読ませてもらってます(^^)


————————記入用紙————————

1番好きなキャラは?:『村潟』
理由を教えてください:『冷静な感じが好き』

2番目に好きなキャラは?:『琶狐』
理由を教えてください:『すごく可愛いから』

面白かった話は何記ですか?:『七記』

————————————————————

Re: 獣妖記伝録(例8記完結)(アンケート実施中) ( No.103 )
日時: 2011/08/10 17:02
名前: コーダ (ID: NvOMCXyZ)

王翔さん>

 アンケート記入ありがとうございます!
 村潟と琶狐がランクイン!嬉しい限りです!
 7記……土蜘蛛の話ですね。あの話は少々力を入れたので(こんなこと言ったら他の話が手抜きしているように聞こえるけど、そんなことありません)嬉しいですね〜
 只今、本当に夏バテで気味なので更新は遅くなりますがよろしくお願いいたします!

Re: 獣妖記伝録 ( No.104 )
日時: 2011/08/21 10:14
名前: コーダ (ID: qJIEpq4P)

 日光を遮る程の曇り空。
 とても強い風も吹いていた。
 山の中は、葉と葉の触れ合う音がうるさいくらい聞こえる。
 そんな中、1人の男が歩いていた。
 和服を着て、背中には登山用の鞄(かばん)を背負っていた。
 頭にはふさふさした2つの耳と1本の細い尻尾が、ふりふり動いていた。
 幾度(いくたび)も険しい山の中を登った。そんな雰囲気を漂わせる力強い歩き方。
 表情も、どこか余裕そうだ。
 ——————不意に、変な光景が目に入る。
 大量の木々がなぎ倒されているのだ。
 おかしいことに、それは本当に一部の場所だけだったのだ。
 人工的にやった。そう思うのが自然。
 しかし折れた木の幹の状態が非常に雑で、人が斬ったような感じではなかった。
 つまり、風で倒された——————
 一部の場所で、風で倒された木々。
 猫男は、口元を上げ急いでこの山から下山する。
 大量の汗を流しながら、山の麓(ふもと)へたどり着く。
 近くにあった看板を引っこ抜いて、くるっと180度回し挿す。
 鞄の中から、炭みたいな物を出して思いっきり看板に押し付けて何かを書く。
 炭は使い物にならなくなるぐらい削れる。だが、看板には字が書けた。
 猫男は満足そうな表情をして、この場を後にする。
 この山。登山するべからず。


        〜天狗と鳥獣 前〜


 雲と青空が丁度良い感じに広がる昼。
 風はとても強くて、肉眼で雲の動く所が分かるくらいだった。
 街道の左右にある草原も、荒々しく揺れる。
 そんな街道を、力強く歩く2人の男女の姿があった。

「大丈夫ですか?」

 そう言葉を言ったのは、女性だった。
 頭の上に兎のように長くて白い、ふさふさした耳が2本あり、女性用の和服を着ていた。
 髪の毛も白く、長い。とても赤い瞳が印象的で、右目にはモノクルをつけていた。
 右手には、とても大きな弓をもっていた。猪くらいなら、即死させてしまう威圧感である。
 左肩には、矢を入れる箙(えびら)というものもつけていた。
 極めつけに、首にはお守りかお札か分からない物が、紐で繋がっている。

「まぁ、なんとかね……」

 眉間にしわを寄せながら、言葉を返す男性。いや、少年と言った方が良いだろう。
 背中に、灰色の大きな翼をつけており、男性用の和服を着ていた。
 黒い髪の毛は、肩までかかるくらい長かった。ぱっと見た感じ少女にも見える顔立ちだった。
 右目は、深海をイメージさせるような青色で、左目は、血を連想させるように赤かった。
 そして、女性と対照的に左目にモノクルをつけていた。
 錫杖(しゃくじょう)を持ち、鉄で出来た、遊環(ゆかん)をしゃかしゃか鳴らしながら歩く姿は、妙な雰囲気を漂わせていた。

「参りましたね……まさか、こんなに強い風が吹くなんて」

 兎女は長い耳を揺らしながら、この風に辟易(へきえき)する。

「空は晴れ……そして、この強い風……何かあるね」

 鳥少年はモノクルを光らせて小さく呟く。
 すると、女性はモノクルを触りながら尋ねる。

「もしかして、これは自然に起こっていることではないと言いたいのですか?」

 自然に起こっていない。つまり、誰かがこの強い風を起こしている。
 兎女の言葉に、少年は口元を上げて、

「へぇ〜……琴葉(ことは)にしては鋭いね。この風は不自然すぎる。きっと、誰かが起こしているに違いない」

 錫杖の遊環を鳴らして、なぜか偉そうに言う。
 だが、琴葉と呼ばれた女性は満足そうに微笑んでいた。

「楠崎(くすざき)がそう言うなんて、明日は雪ですね」

 楠崎と呼ばれた少年は微笑しながら、街道を歩く。
 琴葉もその後をついて行く。


            ○


 街道を歩く2人の目には、小さな村が映った。
 周りにある田畑の農作物は全て収穫されていたので、風による被害は全くなかった。
 しかし、村人が外を歩く姿は全くなかった。
 やはり、この風だから下手に外へ出ないのだろうと判断する2人。

「さすがに、この風には参っているようですね」

 兎女がそう呟くと、鳥少年は辺りを見回す。
 耳をすませると聞こえてくるのは、人々の会話。
 この風に対する不満。ただの雑談——————
 色々聞こえてきた。

「それでも、人は楽しく家の中で会話をしているね。まぁ、無言よりは良いかな?」

 楠崎は遊環を鳴らす。
 まるで、自分たちがこの村に居ることを示すように。
 不意に人の気配を感じる——————
 2人は鋭い表情をしながら辺りを見回す。

「いやぁ〜……そんな怖い顔しないで欲しいな〜」

 背後から陽気な声が響く。
 まず琴葉が、最初に体ごと後ろへ振り向かせる。
 そこには、和服を着て微笑んでいた男が立っていた。
 頭にはふさふさした2つの耳と1本の細い尻尾が、ふりふり動いていた。

「あなたは、見たところ猫ですね」

 モノクルを触りながら、琴葉は冷静に言葉を言う。
 遅れて楠崎も、猫男の姿を見るために体を180度振り向かせる。

「そっちは兎と鳥ねぇ〜……団体行動を好む2種族が集まってどうしたんだい?」

 猫男はそう言いながら、2人との距離をだんだん縮めていく。

「琴葉。あまり猫とは関わらない方が良いよ」

 楠崎の言葉に、琴葉は苦笑する。
 どうやらこの少年、猫が苦手なようである。

「そんなこと言わないで欲しいなぁ〜」

 こんなことを言われたのに、猫男は陽気に言葉を呟く。
 すると、楠崎は嘲笑うかのような表情をして、

「その狐と狸並みに怪しい表情。本当に嫌になるね」

 何か深い意味がありそうな言葉。
 琴葉は咀嚼(そしゃく)するが、これといった考えは生まれなかった。
 この国で1番胡散臭い種族は狐と狸である。次いで猫と鼠。
 楠崎がそう言うのも少し納得いく。

「わっちはそこら辺の猫と違って、自分に正直なんだけどなぁ〜」

 両手を頭の後ろに持ってきて、笑顔で言葉を飛ばす。
 それでも、少年の表情は変わらなかった。

「君がいくらそう言っても、こっちはまだ信用できないね」

 琴葉と猫男は苦笑する。
 しばらく少年の事は放っておいて、2人で話を進めることにした。

「私は箕兎 琴葉(みと ことは)。こちらは天鳥船 楠崎(あめのとりふね くすざき)と言います」

 女性は慇懃(いんぎん)に自分たちの名前を言う。
 猫男は、眉を上げてどこか遠くを見つめる。

「わっちは名を名乗るほどの者じゃないからなぁ〜……野良猫でかまわん」

 野良猫。
 果たして本当に名前を名乗る程じゃない者なのか、はたまた名前を隠したいのか分からない一言。
 楠崎は、この言葉に嫌気がさした。

「名前を名乗らない。君、なおさら怪しいね」

 しかし、この言葉に琴葉は追い打ちをかける。

「楠崎が自分から名前を言った時はありましたか?」

 少年はうっとした表情をする。
 錫杖を鳴らして、2人との距離を少し離す楠崎。
 これには野良猫は大きく笑う。

「あはは!なんだ、楠崎もそんなに変わらないのか」

 琴葉は浅い溜息をする。
 ——————ふと、どこかを見つめる。
 そこには険しい山が目に映った。

「(こんな日に、あの山へ足を踏み入れる人は居ないだろうな……)」

 モノクルを触りながら、心の中で呟く。
 3人はこの場を後にして、野良猫がすんでいる家へ向かう。


            ○


 同時刻。
 ここは先程の村の近くにある山。
 木々は大きく揺れて、葉と葉の触れ合う音がうるさいくらい聞こえる。
 ——————なぜか、その音と一緒に鉄と鉄が触れ合う音も聞こえてくる。
 山の中には、4人の姿があった。
 そのうち3人が両手に刀が握られていた。

「そなたら、不意打ちをするとはいただけない。刀を持っているなら正々堂々と勝負せよ」

 勇ましい眼光で、刀を持つ2人へ言葉を飛ばすのは狼みたいな男だった。
 灰色で、とてもさっぱりするくらい短い髪の毛。前髪は、目にかかっていなかった。
 頭には、ふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、瞳は青緑色をしていた。
 男性用の和服を着て、腰の鞘にはお札かお守りか分からない物が、紐で繋がれている。

「(しかし、最近烏天狗(からすてんぐ)が拙者ら襲ってくることが多くなってきたな……そろそろ、大将が現れるか……?)」

 狼男は、颯爽と刀を持っている2人の元へ向かう。
 持っている刀を思いっきり横へ振り、2人一緒に左下へ一閃する。
 この速さに、1人は対応できず持っている刀を弾かれる。
 その隙に、狼男は持っている刀の刃を逆にして右上に一閃する。
 もちろん、刀を弾かれた1人は即死だった。

「1人逃がしたか……」

 刀を鞘に入れて、どこか悔しそうな表情をする。
 そして、その場からくるっと180度体を振り向かせる。
 そこには子犬のような少女が立っていた。
 灰色の髪の毛で、肩にかかるくらいの長さだった。前髪は、非常に目にかかっており、四角いメガネをかけていた。
 頭には、男性と同じふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、瞳は闇のように黒かった。
 巫女服みたいな神々しい服装で身を包み、とても可愛らしかった。
 どことなく、不思議な雰囲気を出す。しかし、獣のような鋭い眼光は全くなかった少女。

「では、行こうか」

 狼男の言葉に小さく頷く犬少女。
 とても警戒しながら下山する2人。
 ——————その姿を、上空から見つめる者が居た。


            ○


 畳の上には何も置かれていない殺風景な部屋。
 そこに座って雑談している琴葉、楠崎、野良猫。

「へぇ〜……悪い妖(あやかし)を退治するために放浪かぁ」

 野良猫は目元を上げて、どこか楽しそうに言葉を言う。
 相変わらず、楠崎は敵意むき出しの雰囲気を漂わせていた。

「はい。この世に悪い妖は存在してはいけないと楠崎が言っているので、私はその手伝いをしています」

 琴葉の言葉に、野良猫は口元を上げる。

「偉そうにしている割には、けっこう良いことしてるねぇ」

 少々小馬鹿にしたような言葉。
 楠崎はモノクルを光らせ、鳥のような鋭い眼光で見つめる。

「君みたいに、のんびり世の中を暮らしている輩とは違うんでね。こっちは毎日大変だって言うのに……」

 どこか、重たく言葉を呟く。
 琴葉は浅い溜息をする。

「楠崎は、生まれながらにして妖退治の能力が備わっている天鳥船家の者。悪い妖を退治するのは先祖代々続けているからです」

 簡単に、天鳥船家について説明する女性。
 天鳥船家。
 先祖代々から悪い妖を退治する家で、その歴史はかなり古い。
 当然、書庫には歴史ある本などが大量に保管されている。
 噂によると、この世界に妖が現れた原因も書かれている本もあるらしい。
 だが、この本を読めるのは天鳥船家を引き継ぐ者だけ。
 つまり、楠崎はその本を読める唯一の鳥人——————いや、もう読んでいると言ったほうが良い。
 妖に関する多量な知識、妖を退治する膨大な力を身につけている者は、天鳥船家の者しか居ないと言っても過言ではない。
 そんな楠崎の傍で手伝いをする琴葉は、ある意味責任重大であることが伺える。

「う〜ん……わっちはそこら辺に詳しくないからなぁ〜」
「君みたいな輩にこっちのことを知ってもらおうなんて、思ってもいないから」

 かなりきつい一言を飛ばす楠崎。
 それでも怯まず、野良猫は言葉を言い続ける。

「だけど、そんなに慌てて妖退治しなくても良いんじゃないのか?楠崎は、まだ若いのに」

 この言葉に、楠崎は舌打ちをする。
 野良猫は尻尾をびくっと動かして、少し怯える。

「こっちは常に責任がのしかかっているからね。どっかの愚か者があんなことをしなければ……」

 声を低くして威圧感をたっぷり出して呟く。
 さすがの琴葉も、横から口をはさむ。

「まぁまぁ、あまり熱くなってはいけませんよ?とりあえず、本を読んで心を落ち着かせてみてはいかがでしょうか?」

 懐から本を出して、楠崎に勧める琴葉。
 それを黙って受け取り、本を読む少年。
 ひとまず、重たい空気が少し和らいだ。

「ひゅ〜……すごいな琴葉」
「これくらい慣れていますから」

 モノクルを触りながら、微笑する琴葉。
 確かに、慣れていないとできない行為だ。
 つまり、こんな状況が過去に何度もあったことが伺える。

「こんな楠崎ですけど、根は優しい人です。何かあるたびに、私のことを心配してくれます」
「それは、君が頼りないからさ」

 本を読みながら、楠崎は言葉を飛ばす。
 すると、野良猫は口元を上げて、

「なら、わっちみたいに1人で行動すれば良いのになぁ〜」

 痛い一言を呟く。
 なぜか楠崎は何も言わず、無言を貫き通す。
 ——————不意に、外から刀を鞘に入れた時に鳴る独特な音が響いた。
 3人は一斉に玄関を見つめる。

「誰か居ますね」
「わっちが見てくる」

 野良猫は颯爽と立ち上がり、風の強い外へ出ていく。
 すると、楠崎は小さく琴葉へ言葉を飛ばす。

「先の言葉は撤回ね」

 野良猫が居なくなった瞬間の一言。
 琴葉は微笑みながら、

「分かりました」

 本当に、この少年は素直じゃない。そんな表情をしながら女性は楠崎を見守る。


            ○


 時は少し遡り山の麓。
 そこでは先程山の中に居た狼男と犬少女が歩いていた。
 強い風に苦戦する少女は、ずっと男の後ろをちょこちょこついてくる。

「拙者らが居る所は、常に強風になる……これは、大将がもうじきくるのか……?」

 足を止めて後ろに居る犬少女に尋ねる。
 すると、幼く透き通った声が辺りに響く。

「きっと……大天狗(おおてんぐ)がわたくしたちを見ている……」

 この言葉を言い終わった後に、犬少女は狼男の右袖をきゅっと掴む。
 若干耳が震えていた。

「覚悟は……決めたのに……怖い……」

 その姿は、かよわい少女にしか見えなかった。
 狼男は、そんな犬少女の頭を撫でる。

「心配することはない琥市(くいち)。なにかあれば拙者が守る……そう、約束しただろう?」

 琥市と呼ばれた少女は、少し微笑む。
 何かあれば守る。そう約束した—————
 どこか、強い思いを感じる言葉だった。
 2人はまた、足を進める。
 気がつくと、山の近くにある村へたどり着いていた。
 この強風が原因なのか、外を歩く者は居ない。
 だが、家の中には人の気配を感じる。
 少女は、どこかほっと一息する。

「拙者らが、ここから離れればこの村も強風で困ることはないか……」

 狼男は小さくそう呟くと、左手で刀の根元を持つ。
 そして、親指を刀の鍔(つば)のところへ持っていき少し前へ出す。
 そこから今度は、すぐに戻す。これにより、刀を鞘に入れた時響くあの独特な音が鳴る。

「村潟(むらかた)……」

 弱々しく、琥市は一言狼男の名前を呟く。
 そんなに自分を積めないで欲しい。そんな雰囲気を漂わせる科白(せりふ)だった。

「さて、行くか琥市」

 村潟と呼ばれた狼男は、琥市へそう一言呟き足を進める——————

「おっ〜?やっぱりその刀の音は村潟と琥市だったか〜」

 ふと、背後から明るい声が聞こえてきた。
 2人はびっくりしながら振り向く。

「そ、そなたは……野良猫ではないか?」
「覚えていてくれたありがとねぇ〜。わっちは嬉しいよ」

 まさかの再開に驚く村潟と野良猫。
 琥市はなぜか、尻尾を大きく振っていた。

「相変わらず、琥市も可愛いなぁ〜。そういえばわっち、良いお菓子持っているけど?」

 この言葉に、野良猫の傍へ向かう琥市。
 その表情は非常に、いやしかった。

「く、琥市……今はそのようなことをしている場合では……」
「はは、村潟は全く変わらないなぁ〜。こんなに可愛い琥市の願いを叶えたいと思わないのかい?」

 野良猫の言葉に、腕組をして大きく唸る村潟。

「(今はいつ天狗の大将に襲われるか分からない状況……できれば、関係ない者を巻きこませたくない……しかし、琥市は最近甘い物を食べていない……札呪術(ふだじゅじゅつ)は糖分も若干使うと言っていたからな……ううむ……)」

 眉間にしわを寄せて、深く考える。
 そして、何かを決心したのか村潟は顔を上げる——————
 だが、野良猫と琥市はもう20m先くらいで仲良く歩いていた。

「………………」

 自分は、先程まで深く考えたのはなぜだろう。そんな気持ちになる。
 とりあえず、2人の後を追う村潟だった。


            ○


「おや?新たなお客さんですか?」
「まぁ、そんな感じ」

 野良猫が村潟と琥市を家へ連れていくと、途端に琴葉が声をかける。
 楠崎は、そんなのお構いなしに本を読んでいた。

「まぁ、狭いけど適当に座ってくれ」

 野良猫はそう言って、押し入れに入っている自分の鞄の中をあさる。
 琥市は尻尾を大きく振りながら、畳の上で座っていた。
 一方、村潟は兎の女性琴葉の傍へ座る。

「とても、可愛い女の子ですね」

 笑顔で話しかけるのは琴葉。村潟もぎこちない笑顔で言葉を返す。

「拙者は正狼 村潟。あっちに居るのは犬神 琥市。ただ放浪する主と従者である。そちらの少年は……どこか、不思議な雰囲気を出しているな」
「私は箕兎 琴葉。こちらに居るのは天鳥船 楠崎と言います。独特な雰囲気は生まれつきなので気にしないでください」

 お互い慇懃(いんぎん)に自分たちの名前を言う。
 すると楠崎は、読んでいる本を閉じて、眉を動かしながらある者を見つめる。
 ——————琥市だ。
 見た目は幼い犬少女。特に、変わったような感じではない。
 しかし、少年は鋭い目つき睨みつける。
 それはまるで、敵を見つけた鷲みたいだった。

「あった、あった。ほら琥市。饅頭(まんじゅう)だ!」

 野良猫は箱の中に入った饅頭を、琥市の元へ優しく投げ渡す。
 当然少女は、箱の原型を留(とど)めないくらい急いで開けて、中に入っていた1つ目の饅頭をかぶりつく。
 白い生地は薄く、中にはたっぷりの餡子が入っていた。一口かじっただけで口の中で広がる餡子の程良い甘さ。琥市は両頬を膨らませ、可愛い犬歯を見せながらひたすら食べ進める。
 あっという間に1つ目の饅頭を食べ、2つ目の饅頭も頬張る。
 尻尾も大きく動かして、とても満足していた。
 この姿を見ていた琴葉と野良猫は微笑み、村潟は浅い溜息をする。
 ——————楠崎は、相変わらず鋭く睨みつけていた。

「こんなに可愛い子と一緒に放浪しているなんて、羨ましいです」
「拙者は、そこの鳥少年みたいに静かな者と一緒に放浪したかった……」

 この2人の言葉に、琥市はむっとした表情で村潟を見つめ、楠崎は嘲笑うかのような表情で琴葉を見つめる。
 野良猫は思わず大声で笑う。

「ははは!苦労しているんだねぇ〜。村潟も琴葉も……まぁ、わっちはずっと1人で放浪しているから羨ましいけど」

 両手を頭の後ろで組みながら、寂しげに言葉を言う。
 これには思わず、村潟と琴葉は慌てて、

「いや、拙者は冗談で言っただけであって……決して琥市が嫌とは言っておらん」
「そうですよ。私には楠崎しか居ません」

 先程の言葉を訂正する。
 すると、琥市は饅頭を食べる作業に戻り、楠崎は本を読む作業に戻る。
 村潟と琴葉は深い溜息をする。
 ——————外の風の勢いが弱まっていく。
 耳と翼を動かして、この些細な変化に気がつく5人。
 不意に、村潟は小さく言葉を呟く。

「大将は、拙者らに時間を与えたか……」

 もちろん耳の良い兎女。琴葉は、この言葉を一言一句聞き逃さなかった。

「大将?一体、なんのことですか?」

 モノクルを触りながら、大将について質問する。
 村潟は腕組をしながら、

「うむ。拙者らは少々事情があって天狗の大将に狙われている」

 さらっと、とんでもないことを言う。
 その途端、楠崎はモノクルを光らせて畳の上に置いてあった錫杖を持つ。

「へぇ〜……それはまた、面白いことになってきたね……烏天狗の大将。大天狗(おおてんぐ)の報復……君たちは、ずいぶん重たい荷物を背負っているんだね」

 大天狗。
 全ての烏天狗へ命令できる天狗の中でもかなり偉い立場。
 背中には黒くて大きな翼を持ち、顔は真っ赤で、鼻はとても長い。
 当然部下よりも風を操ること、刀の扱いはとても上手い。
 下手すれば、その風は風神(ふうじん)と対等とも言われる。
 そんな神並みの妖に命を狙われている2人。
 楠崎は、非常に興味があった。

「これは、こちらとしても放っておけないことだね、琴葉」
「そうですね」

 気がつくと、2人の士気は上がっていた。
 だが、村潟はそれを抑制する。

「いや、これは拙者らの問題である。あまり関係ない者を巻きこみたくない」

 しかし、この言葉に楠崎はモノクルを光らせてこれでもないくらい嘲笑うような表情をして、

「関係ない?それは、君たちの考えでしょ?こっちは悪い妖を退治するために放浪している。大天狗もいつか退治しないといけない存在。勝手にそっちの都合を押し付けないでくれる?」

 偉そうに言葉を飛ばす。
 すると、琴葉は浅い溜息をして、

「はぁ……楠崎はこんなことを言っていますけど、ただ一緒に退治しましょうと言っているだけなので気にしないでください」

 少年のきつい言葉を、柔らかく訂正する。
 村潟は腕組をして、どこか申し訳なさそうに一言呟く。

「すまぬ、そしてかたじけない」
「いえいえ、そんなことないですよ」

 この言葉を境に、5人は静かになる。
 外はだんだん暗くなっていく。
 いつ、大天狗が来てもおかしくない状況。
 
 家の中でも、警戒する鳥獣たちだった——————

Re: 獣妖記伝録 ( No.105 )
日時: 2011/08/18 17:52
名前: コーダ (ID: 278bD7xE)

        〜天狗と鳥獣 中〜


 外は暗くなり、そろそろ村人が夕飯を食べている時間になった。
 風はだんだん弱くなり、昼間の強さが嘘のような状態である。
 そんな中、村の一角にある家で雑談が繰り広げられていた。

「嵐の前の静けさ……と言ったところか……?」

 腕組みをして外の様子を見ていたのは狼武士の村潟だった。

「不気味ですね」

 その後ろから声をかけるのは、長くて白い耳が印象的な兎女性、琴葉。
 2人はずっと外の様子を眺めていた。
 ——————いつ、天狗が襲ってきても良いように。

「いや〜……この村の住民は器が広くていいねぇ〜」

 そんな2人の後ろで、陽気に何かを作っている猫男。野良猫。
 居間の中央にある囲炉裏鍋(いろりなべ)に色々な材料を入れ、火で煮こむ。
 先程の野良猫の言葉で、材料などは住民から分けて貰ったことが分かる。
 しゃもじみたいな物で中をかき混ぜ、全体に火が通るようにする。

「ん〜……いい感じだなぁ」

 野良猫は、鍋の中を見て満足そうな表情を浮かべる。

「お〜い。夕飯出来たぞ〜」

 この言葉に、村潟と琴葉は外を眺める作業を中断する。
 そして、家の角で黙って本読む鳥少年。楠崎も鍋のある場所まで向かう。
 同時に、尻尾を大きく振って嬉しそうに鍋の前で待つ犬少女。琥市。
 それぞれ、囲炉裏鍋を囲むように座る。

「まぁ、大したものじゃないけどわっちの自信作だぁ」

 野良猫はそう言って、鍋の中にある料理を手ごろなお椀に入れて、皆へ回す。

「これは……?」

 村潟は、不思議そうにお椀の中に入っている食べ物を見つめる。
 すると、楠崎はモノクルを光らせて、

「長くて太いうどん。味噌を中心とした汁……そして、たくさんの南瓜(かぼちゃ)……ほうとうだね」

 簡単な説明をする。
 そして、楠崎はほうとうを啜(すす)る。
 非常にこしの強いうどんは歯ごたえが良く、味噌を基調とした汁はとても美味しかった。だが、なによりもほうとうの主役である南瓜はうどんや味噌の味をかき消すくらい甘かった。
 ほうとうは甲斐国(かいのくに)を中心とした料理で、あまり世の中には普及していない。なので、郷土料理と言った方が分かりやすい。
 人によっては、南瓜がはいっていなければそれはほうとうではないと言う人も居るくらい、南瓜は大事である。

「うん。さすがはほうとうだね」

 楠崎は、満足そうに言葉を言う。
 村潟も初めて食べる料理だったが、すぐに気に入った。

「うむ……こんなに美味しい料理が世の中に眠っているとは……不覚だった」

 白旗を上げる村潟の横で、琴葉は微笑みながらほうとうを食べ進める。

「たくさんあるから、どんどん食べてくれなぁ〜」

 野良猫がそう言った瞬間、1つのお椀が出された。
 尻尾を大きく振って、おかわりを催促する琥市が目に映った。

「おっ?琥市は本当に食べるなぁ〜」

 そう言って、琥市のお椀を取り、鍋の中にあるほうとうを入れる。
 村潟は眉を少し動かして、恐る恐る尋ねる。

「く、琥市……それは何杯目だ?」

 この言葉に、少女は右手の人差し指、中指、薬指を上げて答える。
 ——————もう、そんなに食べたのか。そんな表情を露骨に出す狼男だった。

「まぁ、良いじゃないですか。よく食べる子は育ちますよ?この少女は、いつか綺麗になりそうですし」

 横に居た琴葉は、村潟へ言葉を飛ばす。
 すると、腕組みをして、

「だが、それで肥えたら意味がないぞ?」

 この言葉に、琥市はむっとした表情で狼男を見つめる。
 そんなことない。そう言いたげな感じだった。
 村潟は深い溜息をして、ほうとうを食べ進める。

「楠崎も、これくらい食べてくれれば良いんですけどね」

 兎女は小さく呟くと、楠崎の翼はピクリと動く。

「こっちはそんなに食べなくて良い体をしているからね。それに、食べ過ぎると空を飛べなくなるし」

 鳥人の背中についている大きな翼は、ただの飾りではなく飛ぼうと思えば飛べる。
 実は歩くよりも、体力消費が少なく快適である。しかし、楠崎はあまり飛ぼうとはしない。
 翼を使わないでいると、だんだん衰えていき本当に飛べなくなることがある。
 それを覚悟で歩く楠崎。なぜ、飛ばないのだろうか。

「でも、楠崎が飛んでいる姿1度も私見たことないですけどね」

 この言葉に、楠崎は箸を止めてどこか遠くの方を見つめながら、

「まぁ、飛べない君の横で飛ぶわけにはいかないでしょ?」

 やや恥ずかしそうに、言葉を飛ばす。
 楠崎が飛ばない理由。それは、常に一緒に居る琴葉のことを思っているからだ。
 飛べない彼女を置いて、自分だけ飛ぶことはしたくない。
 それなら、自分が地面を歩いて琴葉と同じ苦労をする。
 山の中でも、坂が急な街道でも、萌えている草むらの中でも——————

「ふふっ……」

 琴葉は、唐突に微笑む。
 どうやら、彼女はそんな少年の気難しい思いを理解したようだ。

「何かおかしいことを言ったかな?」

 当然、楠崎は微笑む彼女へ言葉を飛ばす。

「いえ、嬉しくて……」

 琴葉が小さく言葉を呟くと、少年はぎょっとする。
 そして、お椀の中に入っているほうとうを思いっきり啜り、なんとかその場をしのごうとする。
 ——————味噌の汁が、楠崎の気管に入る。

「うっ……ごほっ、げほっ……」

 咄嗟にお椀を畳の上に置いて、激しくむせる少年。
 これには慌てて琴葉は楠崎の傍へ寄り、背中を優しく擦る。

「だ、大丈夫ですか!?」
「い、一応……ごほっ、げほっ……」
「慌てて食べるからですよ」

 琴葉は、やれやれと言った表情を浮かべる。
 村潟も、少し心配したのか琥市の様子を見る。
 ——————可愛い犬歯を出しながら、黙々とほうとうを食べていた。

「はぁ……」

 心配した自分が馬鹿だった。そんな気持ちを露骨に出す溜息をする。

「いやぁ〜……楽しい雰囲気だなぁ〜」

 野良猫は、この雰囲気をのんきに楽しんでいた。
 気が付くと、鍋の中に入っているほうとうは全てなくなっていた——————


            ○


 5人は夕飯を食べ終わり、それぞれの持ち場に居た。
 鞄の中をあさる野良猫、天狗のことについて話す村潟と琴葉、黙って本を読む楠崎、眠そうな表情を浮かべてこっくりする琥市。
 ——————鳥少年は、本を閉じてその場で立ち上がる。
 右手に錫杖を持ち、鋭い目つきをして、

「君、ちょっと良いかな?」

 眠そうな琥市に言葉を飛ばす。
 少女は、両手でメガネをくいっと上げてこくりと頷く。
 そして、2人は外へ出て行ってしまった。

「むっ……?一体なんだ?」

 村潟は、この一連の流れに疑問を浮かべる。
 すると、琴葉は微笑みながら、

「同じくらいの歳の人と話したいんですよ。楠崎もなんだかんだ言って、まだまだ子供です」
「そうか……まぁ、それもよかろう」

 村潟は、納得して疑問を失くす。

「そういえば、琥市って何歳なんだ?」

 その横から、野良猫が入って来る。
 村潟は腕組みをして、

「琥市は……120歳くらいだったな」
「120歳ですか!?お、幼いですね……」

 この言葉に琴葉はとても驚く。
 ちなみに、この国の120歳は12歳くらいの子供と同等である。

「そちらの少年は?」
「楠崎は160歳くらいです」

 次は、この言葉に村潟は驚く。

「なんと……あの落ち着きで、まだ大人としての階段をのぼっている途中なのか……」
「少しおませな少年という解釈もできますけど?」

 琴葉の言葉に、野良猫は大きく笑う。

「どうしましたか?」
「いや〜……琴葉って、あんな気難しそうな楠崎のことを普通にそう言えるなんて、相当一緒に居るんだなって……」
「まぁ……もうかれこれ、30年以上経ちますからね……楠崎と一緒に居るのは」

 そんなに一緒に居るのか。そんな表情をする村潟と野良猫。
 確かに、そんなにいればお互いのことも分かる。
 村潟は、大きく唸り、

「う〜む……拙者と琥市は10年くらい一緒に居るだけだ。そなたら以上の絆はないな」

 白旗を上げる。
 しかし、野良猫は驚いた表情を浮かべながら村潟へ言葉を飛ばす。

「いや、10年も居れば十分じゃないか!?」

 耳をピクリと動かして、村潟は腕組みをして黙る。

「10年も30年もそんなに変わらんって、それにお互いのことを知り尽くして嫌になる時じゃないのか?」

 この言葉に、村潟と琴葉は同時に耳を動かして、

「拙者は、琥市を守らなければならないからな、今更嫌になることはない」

「私は、楠崎と約束しましたから……離れたくないです」

 見事に、2人言葉が合わさる。
 野良猫は、尻尾をふりふり動かして深く考える。
 ——————この村潟と琥市、琴葉と楠崎。
 この2人組には、きっと過去に何かあった。
 そう思わせる言葉だったからだ。

「野暮な質問だけど、琥市と楠崎の出会いって何がきっかけだったんだ?」

 しかし、2人は黙ってしまう。
 まるで、聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような感じ。

「あっ、先の言葉なしね」

 野良猫は、慌てて先程の言葉を撤回する。

「まぁ……拙者と琥市の出会いは……う〜む……いや、言わないことにする」
「私もそうします。大したことないというか、どうでもいいというか……」

 何か隠している。そんな表情をする2人。
 だが、深く問い詰めなかった野良猫だった。

「放浪していたら、偶然出会った。そういうことにしてくれ」
「私も、そういう風にしておいてください」

 放浪しているときに出会った琥市と楠崎。
 そこから、どういう発展があったのか気になる野良猫。

「へぇ〜……そっか、わっちもそういう出会いがあったらいいなぁ〜」

 両手を頭の裏で組んで、羨ましそうに言葉を呟く野良猫。

「いい出会いがあれば良いですね」

 琴葉は、微笑しながら野良猫はそう言う。
 一方、村潟は腕組みをしながら外の方向を見ていた。
 ——————琥市と楠崎はまだ話しているのか。そんな表情で。


             ○


「さて、ここなら邪魔が入らないね」

 時は少し遡る。
 琥市と楠崎は家から少し離れて、山のふもとへ移動していた。
 錫杖の遊環を鳴らし、琥市と対面するように身体を向かせる。
 微妙に変な威圧感も出す。これには少女は少しびくっと尻尾を動かす。

「君をこんな所へ呼んだ理由……わかるかい?」

 突然の質問。琥市は、顔を横に振って答える。
 すると、楠崎は嘲笑うかのような表情をして、

「ふ〜ん……本当にわかんないのかい?こっちは、妖退治をする者って言わなかったけ?」

 この言葉で、ようやく理解する琥市。
 そして、どこか禍々しい雰囲気を出しながらメガネ越しから少年を見つめる。

「わたくしが……村潟と行動している……理由ですか?」

 幼さが残り、透き通るような言葉が辺りに響く。
 楠崎は大きな翼をゆっくり動かして、錫杖を少女の目の前まで構える。

「いや、全てだよ。犬神(いぬがみ)」

 少年の言葉に、少女は耳と尻尾をびくっとさせる。
 しかし、特に慌てた素振りはせず黙っていた。

「そんじゃそこらの妖よりも、妖力を持っている犬神……なんで、こんな所でうろついてるんだい?何か、良からぬことを企んでいるの?」

 楠崎は、琥市と出会った瞬間に彼女が妖の犬神だということを見破っていたのだ。
 人にはない禍々しい雰囲気。妖退治をする楠崎にとってはこれくらい普通に感じ取れる。
 普通の人はそういう意味で敏感ではないので気が付かず、ただの犬少女としか見られない。

「悪いことは一切……企んでいません……わたくしは、ただ村潟と共に放浪しているだけ……」
「ふ〜ん……でも、それでこっちは納得しないよ。犬神は大量の呪術を使いこなす妖だからね。下手したら、この世の人たちを殺してしまう力もある……詳しい話を言わないなら、今から退治してもいいくらいだからね」

 楠崎の言葉は冗談ではなかった。実際に、琥市へ言葉を言っているときに若干の霊力を出していたからだ。
 だが、少女はそれでも落ち着いて話す。

「確かに……犬神は、人々から恐れられる妖の象徴です……わたくしも、前までは呪術を使って人々を呪っていました……ですが、今はそんなことしたくないです……それなら、この呪術を使って……妖退治した方がいいです……」

 琥市の言葉に、楠崎は遊環を鳴らして、

「妖が妖を退治する?一体何を企んでいるんだい?どんどん疑問がわいてくるよ?」

 疑問を飛ばす。

「わたくしは……何も企んでいません……わたくしは、この世の中は平和にしたい……そのために、悪い妖を退治する……それだけ……です」

 この言葉を境にしばらく黙る2人。
 妖が妖を退治する理由——————
 それは、この世の中を平和にしたい。
 ただ、それだけの理由だった。
 すると、楠崎は錫杖を琥市の元から離す。

「君の考えとこっちの考えが同じだなんて、非常に嬉しくないね。でも、同業者は多い方がいい。ただ、君が本当にこの世の中から悪い妖を退治したいという気持ちがあるのか、まだ信じられないけどね」

 大きな翼をゆっくり動かして、嘲笑うかのように言葉を呟く。
 琥市は両手でメガネをくいっと上げて、

「今は……そうかもしれませんけど、いつか……あなたを納得させます……わたくしは、もう悪い妖と居るのは……こりごりです……」

 最後の言葉に、計り知れない思いがある。そう察した楠崎はモノクルを光らせて、この場を黙って後にする。
 1人残された琥市は、山の方向を見つめる。

「(大天狗……退治しないと……)」

 大きく頷き、この場を後にする少女。
 妖が妖を退治する理由——————
 それが語られるのは、きっともうしばらく後だろう。


            ○


 人々が寝静まる時間。
 野良猫の家でも、当然眠る人は居る。
 ——————ただし、この2人は除いて。

「そなた、その首にあるお札かお守りみたいなものは一体……?」
「あぁ、これですか?」

 狼男の村形。兎女の琴葉は、皆が寝てい居る中静かに雑談をしていた。
 畳の上で大の字に寝る野良猫。自分の尻尾に抱き着いて可愛く眠る琥市。琴葉に密着して、どこか落ち着いて眠る楠崎。
 2人は、3人を起こさないようにずっと話す。

「拙者の鞘にも、同じような物があるのだが……」
「そうみたいですね。ですが……これは、気が付いた時にあったんですよね……」

 村潟と琴葉は眉間にしわを寄せて呟く。
 このお札かお守りみたいな物は、どうやって手に入れたのか全く見当つかいのだ。

「拙者もだ……気が付いた時には鞘にあって……どこか手放したくない……」
「私もです。手放したくない……もし手放したら、恐ろしいことになりそう……そんな気持ちになります」

 同じ悩みを持つ狼男と兎女。
 気が付いた時には持っていて、なぜか手放したくない。
 深い思い入れもないのに、なぜこのような気持ちになるのか非常に疑問を呼ぶ。

「そういえば、拙者はそのような者を1人見たことある……確か、狐の詐狐 妖天(さぎつね ようてん)と言ったか……?」

 腕組みをして、同じ悩みを持つ人が居たことを伝える。
 琴葉も腕組みをして、もっと考える。

「詐狐……妖天……?どこかで……聞いたような……?いえ……そんなことないですよね……?あれ……詐狐……?」
「はて、拙者も今思ったが……あの妖天という者とは、もっと昔に会ったことがあるような……いや、そんなことない……拙者は……詐狐など聞いたことないぞ……?むっ……?それは真(まこと)か……?」

 2人は、気が付くと額(ひたい)から汗を出して考えていた。
 呼吸もだんだん荒くなり、どこか危ない雰囲気も出す。

「詐狐……詐狐……?考えれば考える程……どこかで会ったような気がします……ですが、どこで……?どうやって……?いえいえ、私はやっぱりそのような方とは会っていない……会っていない……?」
「むっ……詐狐……むっ?そういえば、詐狐の傍に他の狐も居たような……?気のせいか?9本の尻尾を持っていて……神々しく……むっ……?なぜ、そのような者を拙者が知っている……?」

 頭を抱えて、必死に思い出そうとする2人。
 苦悶な表情を浮かべ、苦しそうな声を出す。
 ——————当然、眠っていた3人は起き上がる。

「う〜ん……?どうしたぁ?なんかあったかぁ?……ん!?」
「………………!?」
「琴葉……話すなら、少し音量を……!?」

 寝起きで意識がもうろうとしている3人。
 しかし、村潟と琴葉の様子を見て一気に眠気が覚める。

「な、なんだ!?どうした!」
「村潟……!」
「もしかして、また……!?」

 3人は慌てて2人の傍へ行く。
 荒い呼吸、大量の汗、苦悶そうな表情、身体も若干痙攣(けいれん)していた。
 これは危ない。3人はそう察する。

「詐狐の傍に居た……狐……9本の尻尾を持った狐……私も、なんか見覚えがあるような気がします……でも、でも……どこで見たのか……きゅ、九狐(きゅうこ)……?あぁ……だ、誰です……か……?」
「ぬっ……思い出せん、思い出せん……なぜ、拙者は知っている……きゅ、九狐……だと?一体……そなたは……だ、誰……だ……?」

 村潟と琴葉はその場で意識を失ってしまった。
 あまりの出来事に、琥市と楠崎は大きく、

「村潟……!」
「琴葉!」

 自分を支えてくれる人の名前を叫ぶ。
 野良猫はどうしていいかわからず、ただただ尻尾を共同不審に動かしていた。
 ——————2人がつけているお札かお守りみたいなものは、今だけ変な雰囲気を出していた。


            ○


「全く……あの2人は本当に熱いな」
「こんな時に色恋沙汰などしている場合ではない」

 2人は呆れた表情で言葉を呟く。
 1人は頭の上に長くて白い耳があり、腰まで長い白い髪の毛が印象的だった。
 左肩には箙(えびら)もつけており、右手には大きな弓を持っていた。
 そして、非常に冷たい雰囲気を出していた。
 もう1人は、頭の上にふさふさした2つの耳と1本の尻尾があった。
 髪の毛は短く、とても邪魔にならない感じだった。
 腰には立派な刀をつけていて、どんなものでも斬りそうな雰囲気を出す。

「一体、なにがあったんだあの2人に?」
「拙者は知らん。ただ、あの2人は拙者らより共に居た期間が長いだけしかわからん」

 腕組みをしながら、会話をする。その雰囲気は、どこか近寄りがたかった。

「だが、こうやっている間に私たちは黙って外を出られる」
「そうだな。さて、拙者はまた血でも見てこよう……」
「ちょっと待て、私もついて行く」

 2人は颯爽とこの場を後にする。
 その表情は嬉しそうだったが、どこか恐ろしい雰囲気を出していた——————


             ○


 翌朝。
 1番最初に目が覚めたのは、気を失った村潟と琴葉だった。

「むっ……」
「う〜ん……」

 それぞれ、寝起き後の第一声を呟く。
 そして、自分の身に起こっていることを確認して驚く2人。

「く、琥市……?」
「く、楠崎?」

 村潟はどうやら琥市に膝枕をされていたのだ。
 少女の小さな太ももは、非常に頼りがいがなかったどこか、安心できる。
 琴葉の隣には、楠崎はこれでもかというくらい密着していた。
 いつも偉そうな少年が、彼女の左袖をぎゅっと握っている所は、なぜか微笑ましかった。

「さて、拙者はどうすれば……?」
「このまま、寝たふりでもしましょう」

 この状態から下手に起き上れば、なんか失礼だと感じる2人。
 とりあえず、琴葉の提案を採用して寝たふりをする。
 しばらく時間が経つと、誰かが起きた。
 声を聞く限り、楠崎だった。

「……まだ、皆寝ているんだね」

 2人が寝たふりをしていることに気が付かない少年。

「琴葉……あまり、こちらのことを……心配させないで欲しい……君が居ないとね……出来ることも出来なくなってしまう……まだまだこっちは、天鳥船家で見たら半人前の力しかない……だから、君が支えてくれないと……いつ、死んでもおかしくない……」

 自分しか起きてないことを良いことに、楠崎は琴葉に対する思いを暴露する。
 彼女が居ないと、自分は生きていけない。そう解釈できる言葉だった。
 もちろん、寝ているふりをしている村潟と琴葉は、この言葉を一言一句聞いていた。
 だが、ここで起き上ってしまうと、何を言われるかわからなかった。
 しかし、このまま寝ているふりをすると、もっと少年の深い思いを聞いてしまう。
 変な葛藤が2人を襲っていた。

「悪い妖を退治する。もちろん、恐ろしい妖にだって会う可能性がある。それでも君は、ついてくるって言ったね……あの時は、本当に嬉しかった……」

 おそらく、村潟は何も思わず寝たふりをしているが、琴葉はそんな状況じゃないと思う。
 いつも偉そうな態度と言葉を言う楠崎が、今だけ本当に“少年”だったからだ。
 自分が寝ているときに、そんなことを思ってくれる。それを知ってしまって胸が躍る琴葉。

「でも、今の琴葉は……琴葉……じゃない……だからこそ、こちらが見守らな……」
「ふわぁ〜……」

 楠崎が何かを言おうとした瞬間、大きなあくびが聞こえてきた。
 ——————野良猫が、目を覚ましたようだ。
 少年は、先程までの態度から一気にいつもの態度に戻す。

「おや、君は意外と早起きなんだね」

 鋭い眼光で睨みつけ、さらに馬鹿にしたような口調で野良猫へ言葉を飛ばす楠崎。

「う〜ん……わっちは、猫なのに昼夜逆転してなぁ……それに、いつまでわっちのことを怪しんでいるんだ楠崎?」

 野良猫は頭をかきながら、楠崎へ言葉を言う。
 未だに、信用して貰えないのに納得いかないらしい。

「どうも、猫は好きなれないんだよね」

 楠崎はその場で立ち上がり、遊環を鳴らして錫杖を野良猫へ構える。
 この遊環の音で、村潟と琴葉は目を覚ます。

「むっ……?」
「ど、どうしましたか……?」

 出来るだけ、寝起き口調で言葉を呟く2人。
 意外にも、誰も疑問に思わなかった。

「起こしたようだね。ちょっと、ごたごたがあって……」
「そ、そうですか……」

 とりあえず、これでこの場はなんとかなったと心の中で思う琴葉だった。
 一方、村潟もその場で起き上り琥市を起こす。
 ——————外は、若干風が吹いていた。


            ○


 5人が家から出ると、いきなり強風が襲ってくる。
 まるで、天狗たちが待ち伏せしているかのように——————

「さて、行こうか……」

 村潟の合図で、5人は山へ向かう。
 これから、生きて帰って来れるかわからない戦いになるだろう。
 だけど、それでも大天狗を退治する。

 そんな気持ちで1歩1歩足を進める5人だった——————


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