複雑・ファジー小説
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- 獣妖過伝録(7過完結)
- 日時: 2012/09/08 14:53
- 名前: コーダ (ID: hF19FRKd)
どうも〜!私、コーダと申します!
初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!
え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。
只今、超ゆっくり更新中……。
コメントもどしどし待っています。
では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。
※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!
————————————————————————
「お腹すいたなぁ……」
輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。
「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
ただひとつ。
狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。
100本の蝋燭。
大量の青い紙。
そして、青い光に二本の角。
————青の光と狐火
恵み豊かな海。
手漕ぎ船。
蛇のような大きな体と、重い油。
————船上の油狐
それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
星空の下、男女の狐が出会う。
————霊術狐と体術狐
そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」
獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
不思議な放浪記が幕をあげる。
【獣妖記伝録】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
竿が反れる。
妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」
————————————————————————
・参照突記伝録
「1800突破しましたね。嬉しいことです」
・読者様記伝録
ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
狒牙さん(IFを執筆している方です。)
木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)
・感鑑文記伝録
水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)
・宣伝文記伝録
秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)
・絵描様記伝録
王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>20 >>48 >>99
・作成人記伝録
講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)
・異作出記伝録
ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)
・妖出現記伝録
青行燈(あおあんどん)
小豆洗い(あずきあらい)
アヤカシ(”イクチ”とも言う)
磯撫(いそなで)
一本ダタラ(いっぽんダタラ)
犬神(いぬがみ)
茨木童子(いばらぎどうじ)
後神(うしろがみ)
産女(うぶめ)
雲外鏡(うんがいきょう)
煙々羅(えんえんら)
大蝦蟇(おおがま)
大天狗(おおてんぐ)
骸骨(がいこつ)
貝児(かいちご)
烏天狗(からすてんぐ)
九尾の狐(きゅうびのきつね)
葛の葉(くずのは)
管狐(くだぎつね)
懸衣翁(けんえおう)
牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
酒呑童子(しゅてんどうじ)
女郎蜘蛛(じょろうぐも)
ダイダラボッチ
奪衣婆(だつえば)
土蜘蛛(つちぐも)
鵺(ぬえ)
猫又(ねこまた)
野鎚(のづち)
波山(ばさん)
雪女(ゆきおんな)
雪ん子(ゆきんこ)
妖刀村正(ようとうむらまさ)
雷獣(らいじゅう)
笑般若(わらいはんにゃ)
・獣妖記伝録
1記:青の光と狐火 >>1
2記:船上の油狐 >>5
例1記:逢魔が時 >>10
3記:霊術狐と体術狐 >>11
4記:蝦蟇と狐と笑般若 >>15
例2記:貝児 >>27
5記:牛馬と犬狼 >>30
6記:産女と雌狐 >>34
例3記:ダイダラボッチ >>38
7記:蜘蛛と獣たち 前 >>43
8記:蜘蛛と獣たち 後 >>51
例4記:小豆洗い >>52
9記:雪の美女と白狐 >>53
10記:墓場の鳥兎 >>55
例5記:葛の葉 >>58
11記:天狗と犬狼 >>64
12記:狐狸と憑依妖 >>74
例6記:日の出 >>75
13記:雷鳥兎犬 >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐 >>84
例7記:煙々羅 >>87
15記:櫻月と村汰 >>93
16記:神麗 琶狐 >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁 >>100
17記:天狗と鳥獣 前 >>104
18記:天狗と鳥獣 中 >>105
19記:天狗と鳥獣 後 >>112
例9記:九尾の狐 狐編 >>106
20記:温泉と鼠狐 >>113
21記:犬神 琥市 >>121
例10記:九尾の狐 犬編 >>120
22記:天鳥船 楠崎 >>128
例11記:九尾の狐 鳥編 >>133
23記:鬼と鳥獣 前 >>136
24記:鬼と鳥獣 後 >>140
例最終記:九尾の狐 獣編 >>141
25記:鳥獣と真実 >>151
・獣妖過伝録
1過:8人の鳥獣 >>159
例1現:不埒な者たち >>164
2過:2人の狐 >>163
例2現:禁断の境界線 >>166
3過:修行する者 >>165
例3現:帰りと歴史 >>167
4過:戦闘狼と冷血兎 >>168
例4現:過去の過ち >>169
5過:鳥の監視 前 >>170
例5現:起源、始原、発祥 >>171
6過:鳥の監視 中 >>172
例6現:探し物 >>173
7過:鳥の監視 後 >>174
例7現:箒に掃かれる思い >>175
・獣妖画伝録
>>76
>>119
- Re: 獣妖記伝録(妖異伝より、ゲストキャラ出演) ( No.26 )
- 日時: 2011/07/10 19:14
- 名前: コーダ (ID: iEydDqYB)
王翔さん>
いえいえ、宣伝は私、大丈夫ですよ!むしろ、もっと依頼してしまいますが?(笑)
これからも、描いて欲しい絵を依頼すると思いますので、その時は是非よろしくお願いいたします!
- Re: 獣妖記伝録 ( No.27 )
- 日時: 2011/08/02 21:40
- 名前: コーダ (ID: LcKa6YM1)
〜貝児〜
太陽が、頂点に昇る時間帯。
雲ひとつない快晴の空。
辺りには、木でできた昔懐かしの家が並んでいた。
のどかで静かな雰囲気。事件など起きそうになかった。
そんな村の空き地で、4人くらいの子供が遊んでいた。
頭には多種多様な、動物みたいなふさふさした2つの耳があり、尻尾も多種多様な種類のものがついていた。
不思議な事に、4人の子供たちは、空き地で走りまわったりなどと、激しい運動はしていなかったのだ。
そのかわり、地面にたくさんの貝殻が置いてあった。
1人の子供が、地面に置かれている貝殻を2枚めくる。
すると、貝殻の裏には、綺麗な絵が描かれていたのだ。
1枚目の貝殻には、九尾の狐みたいな神々しい絵。
2枚目の貝殻には、神々しい犬のような絵。
子供は、ちょっと悔しそうに、めくった貝殻を元に戻す。
そして、違う子供が2枚の貝殻をめくる。
両方とも、九尾の狐みたいな神々しい絵が、描かれた貝殻だった。
子供は、喜びながら、2枚の貝殻を手に取る。
3人の子供は悔しそうな表情をして、色々な言葉を発する。
——————すると、どこからともかく、誰かがやってきた。
子供は、尻尾をびくっと立たせて、人が居る方向を見つめる。
そこには、黒くて、首くらいまでの長さがある髪の毛を持ち、前髪は、目にけっこうかかっている。
頭には、ふさふさした2つの耳があり、瞳は黒紫色をしていた。
男性用の和服を着て、輝くような黄色い2本の尻尾を、神々しく揺らす。
そして、首にはお札か、お守りか分からない物が、紐で繋がれている。
極めつけに、眠そうな表情と、頼りなさそうな雰囲気を漂わせていた獣男。
この雰囲気を一瞬で感じたのか、子供たちはすぐに警戒心を解く。
獣男は拱手をしながら、子供たちが居る場所へ向かう。
そして、地面にある貝殻を見て呟く。
「ん〜……君たちぃ……貝合わせをしていたのかぁ?」
この言葉に、子供たちは大きくこくりと頷く。
貝合わせというのは、今で言う神経衰弱。
2枚の貝殻をめくって、裏に書かれた同じ絵を見つけ出せば、その貝殻を手にすることが出来る。最終的に、1番貝殻を持っていた人が、勝つというルール。
子供の暗記力を鍛えるには、とても良い遊びである。
すると、獣男は地面に置かれている貝殻を、突然2枚めくる。
神々しい犬のような絵と、閻魔のような恐ろしい絵が描かれた貝殻が目に映った。
子供たちは、一斉に笑い始める。
「むぅ……」
どこか、悔しそうに獣男は、めくった貝殻を元に戻す。
そして、拱手をしながらこの場を後にした。
子供たちは、そんなことを気にせず、夢中になって貝合わせをする。
○
夕方になって、空き地を後にする4人の子供たち。
その中に、貝殻を大量に入れている貝桶(かいおけ)を持つ、女の子が居た。
大事そうに、両手で抱き締めるように持つ姿は、どこか可愛げがあった。
貝桶をよく見ると、傷が大量についており、長い間使い込んだ、雰囲気を漂わせていた。
おそらく、大昔に作られたものが、大事に大事に、今の時代に受け継がれていったのだろう。
——————貝桶は、突然震えだした。
女の子は、思わず貝桶を地面に思いっきり落としてしまった。
その際に、中に入っていた貝殻が、何枚か外に出る。
尻尾をびくびくさせて、涙目になりながらその場で腰を抜かしている女の子。
すると、貝桶の中から小さな女の子が出てくる——————
和服を着て、長い黒髪が印象的で、人間とは思えないくらい、体が薄かった。
その表情は、何かを伝えたいような雰囲気を出していた。
だが、女の子は声を出さずに、ずっと泣いていた。
——————すると、透き通った女の子は、ゆっくり手を伸ばす。
透き通った手が、泣いている女の子の、柔らかい頬に触れそうになる——————
「むぅ……どうしたぁ?」
突然、聞こえてきた言葉。
貝桶から出てきた薄い女の子は、声が聞こえた方向をゆっくり振り向く。
そこには、拱手をしながら立っていた獣男が居た。
頼りなさそうな雰囲気と眠そうな表情。
すると、貝桶から出てきた女の子は、ゆっくり消える。
「………………」
獣男は、下駄を鳴らしながら、泣いている女の子に近づく。
そして、頭を優しく撫でる。
艶やかな髪の毛、ふさふさした2つの耳が手に感じる。
しばらく時間が経ち、女の子は落ち着いたようだ。
獣男は、その様子を見て、地面に落ちている貝殻を丁寧に拾う。
全部拾い終わると、それを貝桶に入れる。
それを、女の子の元へ渡そうとするが、もちろん、顔を左右に大きく振って拒む。
——————あんな、怖い目にあったのだから。
すると、獣男はなぜか、優しく微笑(ほほえ)む。
慣れていないのか、その表情はどこかぎこちなかった。
「大丈夫だぁ……先の女の子は、貝児(かいちご)という付喪神(つくもがみ)さ。この桶は、昔非常に高価な物だったんだ……色あせて、傷がついても、大切に大切に、扱われていった。すると、そのうちその桶には、神様が宿った。それが、貝児さぁ……きっと、女の子は君に感謝したくて現れたのだろう……そして、これからも……大事に扱って欲しいと、伝えたかったのだろねぇ。」
この話を聞いた女の子は、尻尾をふりふりさせていた。
そして、拒んでいたはずなのに、その貝桶を大事そうに持つ。
獣男にお礼を言って、女の子はこの場を後にした。
その姿を見た獣男は、拱手をしながら、女の子と逆方向へ足を進める。
——————「優しい子に所有されて、良かったねぇ……貝児」
- Re: 獣妖記伝録(妖異伝より、ゲストキャラ出演) ( No.28 )
- 日時: 2011/07/17 14:06
- 名前: 王翔 (ID: vGmb.hg1)
嬉しい返事、ありがとうございます!
もっとうまくならないと……
- Re: 獣妖記伝録(妖異伝より、ゲストキャラ出演) ( No.29 )
- 日時: 2011/07/11 07:09
- 名前: コーダ (ID: ZmI7gUQR)
王翔さん>
早速、2度目の依頼をしました!詳しい情報は、スレッドにてご確認ください!
なにかございましたら、遠慮なくおっしゃってください!
- Re: 獣妖記伝録 ( No.30 )
- 日時: 2011/08/02 21:51
- 名前: コーダ (ID: LcKa6YM1)
闇のように暗い時間。
空全体が曇っていて、綺麗な星空は全く見えない天気。
つまり、月明かりがない本当に真っ暗な夜。
こんな時に、1人でどこかへ歩いていたら、危ない輩に絡まれるだろう。
——————案の定、誰かが絡まれていた。
町からちょっと離れた街道(かいどう)。
6人くらいの若い男性たちが、少々歳をとった老人に、暴行をしていた。
若い男性たちの頭には、多種多様な動物の耳が2つあり、尻尾も同様についていた。
そして、老人の尻尾は神々しい金色のふさふさした1本の尻尾。狐だった。
縁起の良い種族の狐を暴行するのは、少々いただけない行為。
殴る、蹴るといった暴行で、老人の体からはどんどん赤い液体が流れる。
お金目的に、恐喝しているとは思えない光景——————
もしかすると、若い男性たちは、老人を殺そうとしているのだろうか。
悲痛な叫び声を出すが、そんなものお構いなしに、どんどん暴行は酷くなっていく。
——————老人は、とうとう息を引き取る。
それでもなお、若い男性たちは暴行を続ける。
最終的には、刃物や鈍器も出して傷をつけた。
見るも無残な姿となった老人。もう、面影など残ってはいなかった。
すると、若い男性たちは返り血をあびながら不気味に笑い始める。
——————やはり、そういう性癖(せいへき)だったのだろう。
気に入らないことがあれば、人を殺して気分転換をする、とても酷い輩。
このような人は、この世から消えてしまえと、誰もが思う。
しかし、消そうとすれば、自分はそういう輩の仲間入り。
——————つまり、どうしようもできないのだ。
若い男性たちは、懲りずに、老人の懐から金目のものが入っているだろうと思われる、巾着袋(きんちゃくぶくろ)を取りだす。
しかし、中身を見た途端、不満そうな表情をする。
どうやら、この老人はそんなに持ち合わせていなかったようである。
とりあえず、この場を後にする若い男性たち。
——————誰かに見つかったら、後が大変だからだ。
しばらく街道を歩き、若い男性たちは、人気のない林に姿を隠す。
そして、今日の殺し方について話したり、巾着袋の中身を山分けにする。
もう、この若い男性たちが、普通の生活に戻ることはありえないだろう——————
このままずっと、弱い人々を殺し、闇に隠れて生きて行く。
そんなこと、絶対に許されるはずがない。誰もがそう思うだろう。
——————ふと、謎の気配がする。
若い男性たちは、気配をすぐに察知して、その方向へ足を進める。
警戒しないで、瞬時に足を進めるあたり、もう末期である。
刃物と鈍器を握りながら、不気味な表情をして、足をどんどん進める。
——————だが、その表情は突然、なくなった。
若い男性たちの目には、牛の姿と顔をした、巨漢な男みたいな体つきをした、生き物が居た。
とんでもなく、大きい斧を持ち、とても荒い鼻息を出していた。
この姿から、すぐに理解できたことがある。
——————どう考えても、人ではない。
若い男性たちは、大きな悲鳴を上げる。
すると、その中に居た1人が恐怖のあまり、その場で転んでしまった。
もちろん、牛男はそのチャンスを見逃さなかった。
とんでもなく大きな斧を、両手で持ち、そのまま転んだ男性に振り落とす——————
何かが切れた音よりも、つぶしたような音の方が、大きく響き渡った。
斧の下からは、大量の赤い液体が出てきた。
即死だった。
だが、牛男は何度も何度も、つぶした男性に斧を振り下ろす。
牛のような顔をしていたのに、その表情はどこか嬉しそうだった。
その光景を見た瞬間、残った若い男性たちは、一目散に逃げて行く。
——————だが、足は止まる。
なんと、若い男性たちの目には、馬の姿と顔をした、巨漢な男みたいな体つきをした、生き物が居た。
とんでもなく、長い槍を持ち、牛男と同じく、とても荒い鼻息を出していた。
——————やっぱり、人ではなかった。
若い男性たちは、その場で腰を抜かしてしまった。
後ろからは、牛男、前からは馬男。
とんでもなく大きな斧、とんでもなく長い槍を、鼻息を荒くしながら構える。
強い風で木が揺れて、葉と葉が触れ合う音が響く林。
そんな音に紛れて、断末魔が聞こえた——————
〜牛馬と犬狼〜
人々が、とても歩き回る城下町。
たくさんの商人が、自分の店を開いて食品、嗜好品(しこうひん)、骨董品(こっとうひん)、日用品といった、商品を売る。
そして、それを買う主婦、若者、マニアなどが大量に居る。
やはり、城下町というだけあって、非常に盛り上がっていた。
だが、ここに建っている城は、この国を動かす力を全く持っていない。
いわば、ただのデカイ置物。
どうやら、金儲けに成功した商人が趣味で建てたらしい。
それなのに、大量の武士や、使用人を雇える程の財力があるというのは、相当なものだ。
城下町に居る人の中には、どんな商売で成功したのかを、調査している者も居るほど。
一方、国を動かす程の力を持っている城では、この城下町について、何も思っていない。
ずいぶんと、放任主義なお偉いさんである。
そんな城下町に、1人の男性と、1人の少女が歩いていた。
灰色で、とてもさっぱりするくらい短い髪の毛。前髪は、目にかかっていなかった。
頭には、ふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、瞳は青緑色をしていた。
男性用の和服を着て、腰には、立派な刀をつけていた。
そして、鞘にはお札か、お守りか分からない物が、紐で繋がれている。
辺りを警戒するように、瞳を動かし、とても真剣な表情をする。パッと見たイメージは武士みたいな獣男。
その男性の後ろを、ちょこちょこと子犬のように後をつける少女。
灰色の髪の毛で、肩にかかるくらいの長さだった。前髪は、非常に目にかかっており、四角いメガネをかけていた。
頭には、男性と同じふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、瞳は闇のように黒かった。
巫女服みたいな、神々しい服装で身を包み、とても可愛らしかった。
どことなく、不思議な雰囲気を出す。しかし、獣のような鋭い眼光は全くなかった獣少女。
左手で鞘の根元部分を握り、親指で刀の鍔(つば)を押さえて、歩く獣男。
時たま、親指を前に出し、鞘から刀を出して、親指を戻して、刀を鞘に戻す行為をする。
これにより、刀を鞘に戻したときに響く、あの独特な音が鳴る。
この音を聞いただけで、大抵の人が少し距離を置くようになる。
獣男は、怪しい者が居ないか常に、鋭い眼光で辺りを見回しながら歩く。
——————すると、その足が突然止められた。
ふと、後ろを振り向くと、獣少女が、獣男の左袖をきゅっと握っていた。
「むっ……どうした」
低い声で、獣少女に尋ねる。
すると、右手である店を指した。
獣男は、指の方向にある店を凝視する。
団子屋だった。
どうやら、獣少女は団子を食べたかったらしい。
「それは、今すぐでないとだめか?」
辺りを見回しながら、獣男は、相変わらず低い声で尋ねる。
獣少女は、団子屋をじっと見つめながらこくりと、小さく頷く。
「……御意(ぎょい)」
2人は、団子屋へ向かう。
だが、相変わらず獣男は、辺りを警戒して歩いていた。
○
団子屋の傍に置かれた、赤いシートがかけられている長い椅子に、獣男と獣少女は密着するように座る。
長い椅子の端には、和傘が刺さっており、その部分だけ日陰になっていた。
もちろん、獣男は、その日陰部分に、獣少女を座らせた。
店から、狼の売り子さんが出てくるが、雇われて間もない雰囲気を出していた。
慣れない手つきで、湯のみに入った熱いお茶を椅子の上に置く。
「かたじけない」
獣男は、売り子さんに目を合わせないで礼を言う。
座っていても、左手で鞘の根元を握る。
余程、隣に居る獣少女を、護衛する精神が強いのだろう。
そして、獣男は売り子さんに低い声で呟く。
「拙者(せっしゃ)は、胡麻(ごま)団子を3本程頂こう……そなたは……」
獣少女を見つめる。
——————可愛らしい頬笑みをしていた。
「では、みたらし団子を、10本こちらへ」
売り子さんは、店の中へ入っていく。
獣男は、表情だけで、何を欲しいのかを理解できた。
つまり、この2人は長年共に居る仲なのだろうと、すぐに考えがついた。
運ばれてくる3本の胡麻団子と、10本のみたらし団子。
獣少女は、メガネを両手でくいっと上げ、目を輝かせながら、みたらし団子を見つめていた。
右手に1本持つと、とても美味しそうな表情をして頬張る。
口元には、みたらしが大量についていて、巫女服にもつきそうな勢いだった。
非常にもちもちしていたのか、獣少女の口はとても動いていた。
あっという間に1本食べると、口元についているみたらしを気にせず、2本目を頬張る。
その姿はとても可愛らしかった。
獣男は、少し柔らかい表情をしながら、獣少女を見つめる。
すると、獣少女の口が止まる。どうやら、この姿を見られたのが恥ずかしかったらしい。
その証拠に、頬がどんどん赤くなり、尻尾は挙動不審に動いていた。
「拙者のことは気にするな。好きなように食べてくれ」
獣男なりの気遣いなのだろうが、獣少女はそれを無視して、みたらし団子をゆっくり食べ始めた。
まるで、大和撫子のように清楚と。
——————口元には、みたらしはついていたが。
「はは、そなたはまだ若い。無理強(むりじ)いをしても、損をするだけだぞ」
この言葉に、耳をピクリと動かす獣少女。
すると、突然みたらし団子を頬張り始める。
「(歳頃の娘は難しいな)」
獣男は、心の中で呟く。
そして、自分の胡麻団子を1本手に取り、口に入れる。
口の中に広がる胡麻の風味と、程良い甘さの団子。
これには思わず目を見開き、こんなことを呟く。
「この胡麻は……そんじゃそこらで採れる胡麻ではない……大事に育てられた高級な胡麻か……そして、この団子……和三盆糖(わさんぼんとう)をふんだんに使い、厳選された葛葉(くずのは)で作ったな……」
先まで、真剣そうな表情をしていた獣男が、とても熱弁していた。
すると、何を思ったのか、獣少女のみたらし団子を1本取り上げて、口に入れる。
「むっ……このみたらし……醤油を作る段階から、団子に合うように作られている……濃い醤油を和三盆糖で中和し、その上、団子の味をかき消せない絶妙な配合……見事だ」
思わず、1本取られたような表情をする獣男。
——————突然、右袖が引っ張られる。
そこには、みたらし団子を取られて涙目の獣少女が居た。
尻尾を、ぶんぶん振りまわし、その気持ちをあらわにしていた。
「す、すまぬ!拙者、団子となるとつい……」
獣男は、慌てて頭を下げる。
そして、自分の胡麻団子を詫びとして、1本獣少女に渡す。
すると、先まで怒りをあらわにしていたのに、人が変わったようににっこり笑う。
獣男から貰った胡麻団子を勢いよく頬張る。口元には、みたらしに加えて胡麻がついた。
この姿を見て、思わず笑ってしまう獣男。
「嬉しいですね。わたくしの作ったお団子を、こんなに褒めて頂いて……」
突然、獣男の横には背中に大きな翼を持った、鳥人の店員が居た。
ややお歳を召していて、顔の小じわが肉眼で確認できる。
獣男は、会釈をする。
獣少女は、構わず自分のみたらし団子を頬張り続ける。
鳥人の店員は、おしとやかに獣男の隣に座る。
そして、口に手を当てて、笑う。
「むっ?」
当然獣男は、頭の中に疑問符を浮かべる。
鳥人店員は、ゆっくり両手を膝の上に置いて、言葉を言う。
「いえ……そこの娘さんは、非常にお団子がお好きなようで……」
この言葉に、獣少女の手が止まる。
すると、獣男は大げさに咳払いをして一言呟く。
「拙者は正狼 村潟(せいろう むらかた)。こちらに居る少女は犬神 琥市(いぬがみ くいち)。すまぬが、拙者らは親子ではない。主と従者のような関係だ」
ご丁寧に説明をする村潟。
その途端に、琥市はみたらし団子を頬張る作業に戻る。
その頬は、少々赤くなっていた——————
鳥人店員は、小さく笑い、浅く頭を下げる。
「それはそれは、ずいぶんとお美しい少女を、護衛しているのですね」
琥市は、尻尾をびくっと立てる。
どうやら、お美しい。という言葉に反応したらしい。
「いやいや、琥市はまだ幼い……そのような言葉は勿体なさすぎる」
村潟の言った言葉に、琥市はむっとした表情で見つめる。
まるで、自分はもう幼い少女ではないと、言わんばかりに。
「ほほ、わたくしには分かりますよ。そこの少女は50年後くらいには、人々を魅了させるお方になるかと……」
鳥人店員の言葉に、村潟は眉間にしわを寄せて深く考える。
この少女が人々に魅了される姿を、想像しているらしい。
しかし、口元にみたらしと胡麻をつけている琥市が、立派に成長している姿を思い浮かべるのは至難の技だった。
小さな唸り声も出して、ずっと考える。
この姿を見た琥市は、耳をピクピクさせながら、村潟の右腕をぺしぺしと叩く。
なんで想像できないの。と言わんばかりに。
しばらく、こんなやりとりが続いた。
団子を全て食べ終えた村潟と琥市は、この場を後にしようとする——————
「おや、これからどこへ行くのですか?」
鳥人店員は、2人を引き止める。
すると、村潟は鞘の根元を左手で握り、親指を鍔に乗せて呟く。
「拙者らは、このまま城下町で1泊する予定だ」
鍔に乗せた親指を少し前に出して、すぐに戻す。
刀を鞘に戻した時に出る、あの独特な音が団子屋から響く。
鳥人店員は、なぜかほっと一息をする。
「それなら良いですけど……変な気を起して、夜に城下町から出るような行為はしないでくださいね」
この言葉に、琥市は耳をピクリと動かす。
両手でくいっとメガネを上げ、やや真剣そうな表情で村潟を見つめる。
ちょっと詳しい話を聞こう。そんな眼差し。
「なぜ、夜に城下町から出てはいけないのだ」
鋭い眼光で、鳥人店員を見つめる村潟。
すると、少々抑揚のない声が響き渡る。
「いえ、実は昨日……この城下町から離れた林に、見るも無残な若い男性のような死体が転がっていたのです。その若い男性たちを調べたら、最近街道で、老人などを残虐に殺していた集団だったのです。もちろん、ここに居る人たちは悲しむどころか、喜びましたよ。わたくしもその一員です。ただ……若い男性たちの殺され方が異常だったのです……とても、人には出来ない殺し方……もしかすると……妖(あやかし)が居るのではないか。と、言われています」
この瞬間、2人の耳と尻尾はびくっと反応する。
お互いの顔を見つめ合う。
そして、ほぼ同時のタイミングで、大きくこくりと頷く。
「興味深い情報……非常に、ありがたい」
村潟は、鳥人店員にそう呟くと、懐からお金を出し、黙って渡す。
——————団子代金と、情報料金を。
「あ、あの……」
気がつくと、2人は50mくらい離れた先で歩いていた。
○
夜の町。
人気は少なく、空は非常に曇っていて、月明かりに頼って歩けなかった。
こんな時に、女性や老人が1人で歩くのは、カモがネギをしょってやってくるようなもの。
常に、物陰から、泥棒や危ない輩が見ているのだから——————
そんな状況で、1人の男性と1人の少女が歩いていた。村潟と琥市だ。
相変わらず、鞘の根元を左手で握り、親指を鍔に乗せて、鋭い眼光で辺りを見回していた。
琥市は、村潟の右袖をきゅっと握りながら、子犬のようにちょこちょこと後をついてくる。
——————「泥棒————!」
突然聞こえてきた叫び声、村潟は右手で、琥市を荷物のように持ち上げ、声の聞こえた方向へ颯爽と走る。
なお、この時の琥市の表情が、むっとしていたのは言うまでもない。
村潟が、声の聞こえた場所へ行くと、そこには狸のような尻尾を持った、老人が居た。
「そなた、何があった?」
「わしの、巾着袋を盗まれたのじゃ」
慌てふためいた口調で、村潟に言葉を言う老人。
すると、琥市は抱えられた状態で、とある方向に指を懸命に指す。
そこには、この場から逃げるように走る男の姿——————
村潟は、狼のような鋭い眼光で睨みつけ、そのまま颯爽と男を追う。
○
町からちょっと離れた街道。
そこには、急いで逃げる男が居た。
猫のような尻尾と耳が特徴的で、手には巾着袋が握られていた。
その後ろ、200mくらいには、琥市を抱えながら、狼のように力強く走る村潟が居た。
重たそうな“荷物”を持っていたのに、その走りに疲れを全く感じさせない。
猫男が、人気のない林の中に入っていくのを、確認できた。
少々、面倒な所に逃げられたなと、心の中で呟く村潟。
同じく、林に入る2人だが、猫男の姿を見失ってしまった。
眉間にしわを寄せて、鋭い眼光で辺りを見回す村潟。
すると、右手で荷物のように抱えられていた琥市が、じたばたと暴れる。
自分は荷物じゃない、早く降ろして。と、訴えるように。
村潟は、慌てて琥市を降ろす。
ずれたメガネを、両手でくいっと上げながら、辺りを見回す琥市。
その間、村潟は刀の鍔に親指を乗せて、例の行動を3回くらい行う。
林の中に響く、刀が鞘に閉まる音。
耳をピクピク動かしながら、琥市は林の奥を右手で強く指す。
村潟は小さく頷き、その林の方へ足を進める。その後ろから、琥市はちょこちょこと追う。
○
暗い林の中。
猫男は、草むらに隠れながら、巾着袋の中身を確認していたという。
中には、かなりのお金。
思わず、口元上げて胡散臭い頬笑みをする。
——————ふと、謎の気配がする。
猫男は、気配をすぐに察知して、懐に巾着袋をしまう。
もしかすると、この林に誰かいるのだろう。と、すぐに判断する。
気配を消して、ゆっくりとこの場から離れようとする猫男。
——————すると、何かが背中に当たったという。
猫男は焦りながら、後ろを振り向く——————
なんとそこには、牛の姿と顔をした、巨漢な男みたいな体つきをした、生き物が居た。
とんでもなく、大きい斧を持ち、とても荒い鼻息を出していた。
この姿から、すぐに理解できたことがある。
——————どう考えても、人ではない。
猫男は、大きな悲鳴を上げて、その場で腰を抜かす。
牛男は、とんでもなく大きな斧を、両手で持ち、そのまま腰を抜かしている猫男に、振り落とす——————
何かが切れた音よりも、つぶしたような音の方が、大きく響き渡った。
斧の下からは、大量の赤い液体が出てきた。
即死だった。
だが、牛男は何度も何度も、つぶした猫男に斧を振り下ろす。
牛のような顔をしていたのに、その表情はどこか嬉しそうだった。
すると、どこからともかく、馬の姿と顔をした、巨漢な男みたいな体つきをした、生き物が現れた。
とんでもなく、長い槍を持ち、牛男と同じく、とても荒い鼻息を出していた。
——————やっぱり、人ではなかった。
牛男は、ややすまなそうな表情をして、自分がつぶした猫男を見つめる。
馬男は、そんなのお構いなく、つぶれた猫男に槍を突き刺す。
つぶされたうえ、蜂の巣だらけにされる猫男。
牛男と馬男は、鼻息を荒くする。
——————「そなたたち、一体何をしている?」
突然、どこからともかく、低い男性のような声が響く。
牛男と馬男は、声が聞こえた方向を、おぞましい瞳で凝視する。
そこには、鞘から刀を抜いた狼。村潟が居た。
両手で柄を握り、構えの態勢になっていた。
その後ろには、小さな犬少女。琥市が居た。
「そなたたちが、最近残虐な殺し方をしている者か……」
狼みたいな眼光な瞳で牛男と馬男を凝視する村潟。
そして、素早い動きで牛男の懐へ向かう——————
だが、牛男の前に、突然馬男が現れ、槍を横にして刀を受ける。
「ふんっ……」
村潟は、刀を押す力をとんでもなく強くする。
すると、馬男の持っていた槍は真っ二つに斬れた。
これには、思わず口元を上げる——————
その瞬間、後ろに居た牛男が、思いっきり右手で村潟を押し出したのだ。
とんでもない力で、10mくらい真っすぐに跳ばされ、林に背中を思いっきり打つ。
この隙をついて、牛男と馬男は、なぜかこの場から逃げるように、どこかへ行こうとする——————
「待て……勝負は、まだ決まっておらん……」
低い声。どうやら、村潟は背中を強打しても、怯むことなく刀を構えていた。
そして、今度は馬男の懐へ向かう——————
「待って……」
透き通るような美しい声と、幼さが残る声が林の中で響く。
村潟は、思わず足止める。
「その子たちは……殺したら……だめ……」
なんと、声の正体はいままでこの様子を見ていた琥市だったのだ。
いつも、身振り手振りばかりで、会話を成り立たせる少女が、今だけ綺麗な声を出していた。
その姿は、どことなく神々しかった。
「なぜだ?琥市……」
当然、村潟は殺してはいけない理由を尋ねる。
しかし、琥市はその質問を無視して、ゆっくり牛男と馬男の傍へ寄る。
「お仕事……御苦労さま……牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)……さぁ、お帰り……」
琥市がそう言うと、牛頭鬼と馬頭鬼は頭を下げる。
そして、林の中へ消えて行った。
この時、村潟は眉間にしわを寄せて、何かを考えていた。
「牛頭鬼……馬頭鬼……?はて、どこかで聞いたような……」
刀を鞘に戻して、村潟は耳をピクピクさせる。
すると、琥市は黙って振り向き、懐からある物を出した。
——————巻物だ。
その巻物を、村潟に渡す。
「むっ!?」
巻物を読んだ瞬間、村潟は驚いた表情をする。
そして、なるほど。と納得して、巻物を琥市に返す。
懐にしまい、村潟の右袖をきゅっと握る琥市。
そして、2人はのんびり林から城下町へ向かった。
その昔、人々から恐れられる人が居た。
その人は、幾度(いくたび)も残虐な行動をしていた。
仲間を裏切り、金を奪い、命も奪う。人とは思えなかった。
人々は、その人をこの世から消そうとする。しかし、それを行ってしまえば、自分も恐れられる存在になってしまう。
だから、何も出来なかった。このまま、残虐な行動をただじっと見ているしかなかった。
——————すると、救世主が現れた。
とんでもなく、大きな斧を持った牛のような男と、とんでもなく、長い槍を持った馬のような男。
一目見て、人ではなかった。
牛男と、馬男は人々から恐れられる人を殺した。
そして、途端に姿を消す。
人々は歓声を上げて喜ぶ。
恐ろしい外見に似合わず、悪い人をお仕置きする精神がお気にいったのだ。
後に、その牛男と馬男は牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)と名付けられた。
悪い者が現れたら、途端に姿を出して、お仕置きをする。
そして、仕事が終わったら帰る。
つまり、牛頭鬼と馬頭鬼は世の中の秩序を正してくれる妖(あやかし)なのだ——————
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