複雑・ファジー小説

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獣妖過伝録(7過完結)
日時: 2012/09/08 14:53
名前: コーダ (ID: hF19FRKd)

 どうも〜!私、コーダと申します!

 初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!

 え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
 
 そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。

 只今、超ゆっくり更新中……。

 コメントもどしどし待っています。

 では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。


※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。

※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。

 秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!

————————————————————————

「お腹すいたなぁ……」
 輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。

「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
 ただひとつ。
 狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。


 100本の蝋燭。
 大量の青い紙。
 そして、青い光に二本の角。
  ————青の光と狐火


 恵み豊かな海。
 手漕ぎ船。
 蛇のような大きな体と、重い油。
  ————船上の油狐


 それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
 星空の下、男女の狐が出会う。
  ————霊術狐と体術狐


 そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」


 獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
     不思議な放浪記が幕をあげる。
       【獣妖記伝録】
 現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!


 竿が反れる。
 妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
 すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」

————————————————————————



・参照突記伝録
 「1800突破しましたね。嬉しいことです」

・読者様記伝録
 ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
 玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
 王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
 水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
 誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
 ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
 ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
 Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
 猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
 アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
 水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
 狒牙さん(IFを執筆している方です。)
 木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
 瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)

・感鑑文記伝録
 水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
 秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
 王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
 紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
 猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
 夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
 七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
 瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
 野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
 狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
 及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
 peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)

・宣伝文記伝録
 秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)

・絵描様記伝録
 王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
 >>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
 ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
 >>20 >>48 >>99

・作成人記伝録
 講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
 葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
 淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
 乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
 軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)

・異作出記伝録
 ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)

・妖出現記伝録
 青行燈(あおあんどん)
 小豆洗い(あずきあらい)
 アヤカシ(”イクチ”とも言う)
 磯撫(いそなで)
 一本ダタラ(いっぽんダタラ)
 犬神(いぬがみ)
 茨木童子(いばらぎどうじ)
 後神(うしろがみ)
 産女(うぶめ)
 雲外鏡(うんがいきょう)
 煙々羅(えんえんら)
 大蝦蟇(おおがま)
 大天狗(おおてんぐ)
 骸骨(がいこつ)
 貝児(かいちご)
 烏天狗(からすてんぐ)
 九尾の狐(きゅうびのきつね)
 葛の葉(くずのは)
 管狐(くだぎつね)
 懸衣翁(けんえおう)
 牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
 酒呑童子(しゅてんどうじ)
 女郎蜘蛛(じょろうぐも)
 ダイダラボッチ
 奪衣婆(だつえば)
 土蜘蛛(つちぐも)
 鵺(ぬえ)
 猫又(ねこまた)
 野鎚(のづち)
 波山(ばさん)
 雪女(ゆきおんな)
 雪ん子(ゆきんこ)
 妖刀村正(ようとうむらまさ)
 雷獣(らいじゅう)
 笑般若(わらいはんにゃ)

・獣妖記伝録
 1記:青の光と狐火    >>1
 2記:船上の油狐     >>5 
例1記:逢魔が時      >>10 
 3記:霊術狐と体術狐    >>11
 4記:蝦蟇と狐と笑般若  >>15
例2記:貝児        >>27
 5記:牛馬と犬狼     >>30
 6記:産女と雌狐     >>34
例3記:ダイダラボッチ   >>38
 7記:蜘蛛と獣たち 前  >>43
 8記:蜘蛛と獣たち 後   >>51
例4記:小豆洗い      >>52
 9記:雪の美女と白狐   >>53
10記:墓場の鳥兎     >>55
例5記:葛の葉       >>58
11記:天狗と犬狼     >>64
12記:狐狸と憑依妖    >>74
例6記:日の出       >>75 
13記:雷鳥兎犬      >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐   >>84
例7記:煙々羅       >>87
15記:櫻月と村汰     >>93
16記:神麗 琶狐     >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁   >>100
17記:天狗と鳥獣 前   >>104
18記:天狗と鳥獣 中   >>105
19記:天狗と鳥獣 後   >>112
例9記:九尾の狐 狐編   >>106
20記:温泉と鼠狐     >>113
21記:犬神 琥市     >>121
例10記:九尾の狐 犬編  >>120
22記:天鳥船 楠崎    >>128
例11記:九尾の狐 鳥編  >>133
23記:鬼と鳥獣 前    >>136
24記:鬼と鳥獣 後    >>140
例最終記:九尾の狐 獣編  >>141
25記:鳥獣と真実     >>151


・獣妖過伝録
 1過:8人の鳥獣     >>159
例1現:不埒な者たち    >>164
 2過:2人の狐      >>163
例2現:禁断の境界線    >>166
 3過:修行する者     >>165
例3現:帰りと歴史     >>167
 4過:戦闘狼と冷血兎   >>168
例4現:過去の過ち     >>169
 5過:鳥の監視 前    >>170
例5現:起源、始原、発祥  >>171
 6過:鳥の監視 中    >>172
例6現:探し物       >>173
 7過:鳥の監視 後    >>174
例7現:箒に掃かれる思い  >>175


・獣妖画伝録
 >>76
 >>119

Re: 獣妖過伝録(1過完結) ( No.161 )
日時: 2011/09/29 16:56
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: ybb2RaRu)

耳の無い人間ってそういうことだったんですか。
名前からして先祖かな?楠崎みたいな人がいらっしゃる・・・
妖天は最初は大分年齢差があったんですね。
犬浪さんかな?物凄い怖いんですけど・・・
キレ味鋭すぎてって・・・

Re: 獣妖過伝録(1過完結) ( No.162 )
日時: 2011/09/29 23:08
名前: コーダ (ID: O.IpBlJV)

王翔さん>

 はい、2部に行ったのでタイトルをほんのちょっと変えました。
 獣妖過伝録……その名の通り、過去の伝録……
 今回のキーポイントは人間……さて、これからを楽しみにしてください!
 妖天と九狐……この2人の出会いから、どうしてあのようになったのか……とても、気になりますね。
 さて、これからも地道に執筆していきますのでよろしくです!

狒牙さん>

 そうなんです。耳のない人は人間だったのです!
 そして、今回のキーポイントは人間……
 天鳥船 須崎と天鳥船 楠崎との関係性も気になりますね。
 妖天が九狐に出会った時は、まだ少年……けっこう年齢差があります。
 犬浪 東花は個人的にけっこうお気に入りです。まぁ、神楽も捨てがたいですけど(笑)
 さて、これからも執筆していきますのでよろしくです!

Re: 獣妖過伝録 ( No.163 )
日時: 2011/10/07 22:09
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: pD1ETejM)

         〜2人の狐〜

 この世には人間しか居ない。そんなのが当たり前。
 頭に耳なんてない、尻尾も一切生えていない純粋な人間。
 もちろん、人々は平和に暮らしている。

 ——————それを、憎みながら見つめる者。獣人と鳥人だ。
 彼らは人間を恐れて山や森に隠れてすごしている。
 もし、人間に見つかれば殺される。謎の生き物という理由で。
 各地にひっそりとすごしている獣人と鳥人。その数はかなり存在する。
 いつか、人間が居ない世界になって欲しい。そう思う毎日。
 人間が居なくなれば山と森を捨てられる。人間が居なければ平和に暮らせる。
 しかし、人間は着実に数を増やしている。居なくなる方がおかしいくらいに。
 そして、そこから生まれた思いもある。一部の獣人と鳥人は武器を持ち。

 ——————居なくならないなら、消せばいい。
 人間を殺すことにした。だが、その活動は極めて控えめである。
 あまりにも活動しすぎると、自分たちの所在が知られてしまうからだ。
 結局、殺しても人は地道に増え続けている。
 だが、獣人と鳥人は諦めることは知らなかった。
 何千年も何万年もかけて、人間を消すと心に刻む。
 幸か不幸か、獣人と鳥人の寿命は人間の10倍くらい。

 この生命力で、いつか人間が居なくなる日を目指して、今日も人を殺す——————


            ○


 深い森に覆われた山の中に、古い建物が建っている。
 見た目からして、鳥居のない神社のようにも見える。
 その周りには雑草などは生えておらず、やけに整備されている。

「ここは……?」

 そんな神社を見つめる1人の少年狐——————詐狐 妖天(さぎつね ようてん)。
 1本の尻尾を揺らし、恐怖と好奇心が心の中を弄(まさぐ)る。

「わらわの隠れ家じゃ」

 拱手(きょうしゅ)をしながら妖天へ言葉をかける女性狐——————宮神 九狐(ぐうじん きゅうこ)。
 9本の尻尾を優雅に揺らし、その姿は正に九尾の狐を連想させる。
 当然、妖艶(ようえん)な雰囲気と力強い雰囲気も醸し出している。

「九狐は……ここにすんでいるのか」
「そうじゃ、人間たちから姿を消すには良い場所だからのぉ……それに、汝はいきなりわらわの下の名を呼ぶとは……」

 出会って間もないのに、妖天は普通に九狐のことを呼び捨てする。
 これには少し驚く九尾の狐だったが、微妙に心が躍っていた。

「じゃが、こんな若い狐に名を呼ばれるのは嬉しいのぉ……」

 9本の尻尾を動かして、嬉しさを表現する九狐。

 ——————まだ、女性らしい一面が残っていた。

「若い狐……?九狐は、若い狐と話さないのか?」

 九狐がなぜ嬉しい思いをしているのか、全く分からない妖天。
 思わず眉を動かして、耳をピクピクさせる九尾の狐。

「むっ……言葉が足らなかったようじゃな。わらわは若い雌狐とはよく話す。じゃが、若い雄狐は……何十年ぶりじゃ」

 ここまで言われてようやく納得する妖天。

「何十年ぶり……?」
「……あまり深く問い詰めないで欲しいのぉ」

 9本の尻尾を揺らし、九狐は妖天の額を右人差し指で押す。
 その表情はどこか嬉しそうだった。

「……?」

 なぜ、こんなことをされたのか理解できない少年狐。
 頭に疑問符を浮かべながら、自分の額を触る。

「(九狐の手はすべすべしているんだな……)」

 心の中で変なことを呟く妖天。少年らしいといえば少年らしい考えである。

「さて、こんな所で立ち話も苦じゃ。とっとと——」

 九狐は途端に目を鋭くして沈黙する。
 妖天はこの豹変ぶりに少々驚き、九尾の狐と同じく沈黙を貫く。

「……汝は先に隠れ家に入ってくれ。わらわは急用が出来た」

 そう呟き、九狐は生い茂る森の中へ姿を消す。
 その後ろ姿はとても神々しく、妖天は思わず頭を下げないといけない気持ちになる。

「……九狐の言うとおりにしよう」

 後をつけたい好奇心を抑えて、妖天は言われた通り隠れ家へ向かう。


            ○


「……なんじゃ?汝にしては、らしくない行動じゃのぉ〜」

 生い茂る森の中、九狐は拱手(きょうしゅ)をしながら言葉を飛ばす。

 ——————近くの雑草が揺れて、音を立てる。

「あたいもそう思うさぁ。だけど、あんなところでいきなり出てくるわけにはいかないでしょ?」

 陽気な声を辺りに響かせて、雑草を歩く女性——————

 頭にはふさふさした2つの耳と1本の尻尾を持っている。
 灰色の髪の毛は首くらいまでの長さで、前髪は目にかかる程度の長さ。
 上半身は羽織だけを着用しているだけで、あとは胸にサラシというかなり露出の激しい姿。
 下半身は巫女が履きそうな赤い袴を着ている。
 極めつけに、その鋭い眼光は正に獲物を狙う狼を連想させる。

「まぁ、汝にしては考えているほうじゃな……すまない、すまない」

 九狐は両頬を上げて、言葉を呟く。
 狼女は羽織を翻(ひるがえ)しながら、右手で頭を押さえる。

「所で、なんだい?あの狐は」
「あの狐は、弱っているところをわらわが助けただけじゃ。そういう神楽(かぐら)も何の用じゃ?」

 神楽と呼ばれた狼女は少々面倒そうな表情を浮かべる。

「いやぁ〜……ちょっと、お前さんが気になっただけさぁ」

 表情と言っている言葉が一致しない。
 そう思った九狐は、少々胡散臭い表情を浮かべて、

「そうか、そうか……わらわのことが気になるのか?じゃが、汝はわらわよりも東花(とうか)の方が気になっていると思うがのぉ……」

 神楽は耳をピクリと動かし、無言を貫く。

 ——————どうやら、嘘をついていることがすぐに知られてしまったようである。

「なんじゃ?弟子を思うのは当然のことじゃぞ、神楽」

 あえて、追求せず話をそらす九狐。
 神楽は尻尾を激しく動かし、

「……聞きたいことがあったら遠慮なく聞きなよ」

 この言葉に、九狐は口元を上げる。

「わらわに伝えるべき言葉があるのだろ?」

 神楽は正にその通りという表情を浮かべる。
 狼は正直者が多いため、すぐに表情と尻尾、耳で今の気持ちが現れる。
 このため、本当に神楽は九狐に伝えるべき言葉があるということが、これで分かるのだ。

「近々、お前さんの妖力を使いたいってあいつが言っていたよ。ただ、それだけさぁ」

 両手を頭の後ろで組みながら、面倒そうに言葉を呟く。
 九狐は1回だけ浅い溜息をする。

「じゃ、言う事は言ったからあたいはここから消えるよ。早く戻らないと、佳鼠(かそ)がしつこくてねぇ〜」

 狼らしい牙を見せながら、神楽はこの場を後にする。
 九狐はその後ろ姿を、ただただじっと見つめる。


            ○


 九狐の隠れ家をうろつく少年狐。
 木で出来た床はとても古く、1歩進んだだけで木の軋(きし)む音が聞こえる。
 腐敗した場所もかなりあり、そこに足を入れて床から抜け落ちないように慎重に歩く。

「ここは……不思議な雰囲気を感じるな……」

 尻尾を動かして、不思議な雰囲気を味わう。
 ふと、変な気配も感じる。

「……誰か居るのか?」

 妖天は辺りを警戒するように、見回す。
 だが、その気配は自分を狙っているような感じは全くしなかったのだ。
 これを感じた少年狐は、ひとまず安心する。

「だが、ここに誰かが居るのは事実……探してみようか……?」

 そう呟き、1歩足を進める。

 ——————だが、すぐにその足は止まってしまった。

「気配は安心しても、姿が分からない……」

 つまり、どんな者が居るか全く分からない状況。
 好奇心で探して、また痛い目にあうかもしれないと恐れる妖天。
 生唾を1回飲み、胸を激しく動かす。

「こ、ここから出た方が……良いのか……?」

 耳と尻尾を動かし、除所にここから離れる妖天。

 ——————「あの、誰ですか?」
 不意に背後から声をかけられる。
 少年狐は尻尾を逆立て、叫びながらその場で尻餅をつく。

「お、驚かせてすみません!何分、久しぶりのお客様でしたから」

 そう言うが、肝心の妖天は身体を震わせる。
 背後から声をかけたのは女性。

 腰まで長い灰色の髪の毛で、頭の上にはふさふさした2つの耳と1本の白い尻尾。
 前髪は目にかかっており、その瞳で見つめられると思わず胸が躍ってしまう。
 普通の和服を着ているだけなのに、その姿はとても艶めかしい。
 正直、大和撫子という言葉が似合っている。

「き、き、君は……!?」

 妖天は美しい姿を見る暇がないのか、身体を震わせながら女性に尋ねる。

「安心してください。私はあなたを襲うことはしません。九狐様の大事なお客様なら、なおさらです」

 優しい微笑みを浮かべながら、女性は妖天へ言葉をかける。
 だが、いつまで経っても少年狐は身体を震わせていた。

「……どうしましょう。これ」

 白い尻尾を揺らしながら、困り果てる女性。

 ——————「すまん、すまん。所で、先の叫び声はなんじゃ?」
 女性の背後から現れたのは、9本の尻尾を優雅に揺らす九狐。

「きゅ、九狐……この女性はなんだ……?」

 身体を震わせながら九狐に尋ねる妖天。
 この姿に、眉を動かして浅い溜息をする。

「はぁ……汝は何をやっているのじゃ。こんなに美しい女性に怯えるとはのぉ……失礼極まりないぞ?」

 九狐は女性の背中を押して、妖天との距離を近づかせる。

「よく見るのじゃ……ほ〜ら、可愛いじゃろ?」

 妖天は九狐の言われた通り、落ち着いて女性を見つめる。

 ——————確かに、とても整った顔立ちで美しい。
 だんだん、こんなに美しい女性に怯えていた自分が情けなくなる少年狐。

「……それなりに」

 妖天から出た言葉に、九狐は眉を動かす。

「むっ……汝は、この女性を見てもそんなに胸が躍らないのじゃな」
「やはり、九狐様の方が良いのですよ」

 女性は微笑みながら、九尾の狐へ言葉を飛ばす。

「や、やめんか……わらわは、もう良い歳じゃ……」

 こめかみを触りながら、どこか遠くを見つめる九狐。

「所で……この女性は……?」

 妖天の問いかけに、耳をピクリと動かす九狐。

「おっと、そうじゃったな……この女性はわらわの世話人。名前は……葛の葉(くずのは)じゃ」
「葛の葉です。しばらくよろしくお願いしますね。あっ、言わなくても分かると思いますけど私は白狐(しろぎつね)ですから」

 葛の葉の言葉に、妖天はほっとする。

 ——————やはり、同族は安心する。そういう表情だった。
 一方、九狐はなぜか顔を赤面させていた。


            ○


「所で、なぜ葛の葉はすぐに九狐の客だと分かったのだ?」

 隠れ家のとある一角。
 葛の葉が毎日掃除しているのか他の場所よりは綺麗な部屋。とは言っても、その差はどんぐりの背比べくらいである。
 3人は座りながら雑談をしていた。

「それは、九狐様が教えてくれたからですよ」
「九狐が……?いつ?」

 葛の葉の言葉に、妖天は頭に疑問符を浮かべる。
 少年狐の傍に居た九狐は、懐から竹筒を取り出す。

「これじゃ」

 そして、それを妖天へ渡す。

「……?」

 妖天はもっと頭に疑問符を浮かべる。
 突然、竹筒を渡されて理解できる人は居ない。
 すると、九尾の狐は口元を上げて、

「起きるのじゃ。管狐(くだぎつね)」

 ——————竹筒は九狐の言葉を理解したかのように、震える。
 当然、妖天は尻尾を激しく動かして驚き、竹筒を床に落とす。

「こらこら、大切に扱って欲しいのぉ……」

 九狐は竹筒を拾う。

「お〜い。早く出てくるのじゃ」

 竹筒を叩いたり、揺らしたりする九尾の狐。
 2人は先程の言葉を思い出して、少し苦笑する。

「むぅ……仕方ないなぁ……」

 眉をピクピク動かしながら、竹筒を懐にしまう九狐。

「寝ているのですか?」
「それはもう、ぐっすりじゃ」

 葛の葉はこの言葉に微笑む。

「九狐……管狐とはなんだ……?」
「そうじゃなぁ……わらわの式神(しきがみ)じゃ」
「式神……?」

 管狐という名前だけで疑問に思っていたのに、新たに式神という言葉でもっと悩む妖天。
 すると、葛の葉は丁寧に説明する。

「式神というのは、その人のお手伝いをする者です。優れた力を持った者……つまり、九狐様の命令に忠実に動く……ただ、命令されないと動かないのでそこは私と違います」
「まぁ、汝はわらわの世話人じゃ。式神にすることはしない」

 なんとなく理解する妖天。

 命令されれば動く式神を使える九狐——————つまり、本当に力を持っている。
 少年狐は、尻尾を激しく動かして瞳を輝かせて九狐を見つめる。

「なんじゃ?その目は……」
「やはり九狐は力を持っている……頼む……わ、我に力を……」

 力が欲しい。妖天は切実に願う。
 しかし、九狐は拱手をしながらどこか凛々しい表情で、

「なぜ、そこまでして力が欲しいのじゃ?」

 威圧感も出して、妖天へ尋ねる。
 一瞬尻尾を逆立てさせるが、少年狐は目を見開き、

「人間が憎い……憎い人間を消すためだ……」
「まぁ……」

 葛の葉は思わず一言呟く。
 だが、九狐は突然恐ろしい表情を浮かべる。

「汝、それは本気で言っているのか?」
「我が、冗談で言葉を言っていると思うか?」

 しばらくこの場は沈黙になる。
 重たい威圧感、正直居るだけでも苦痛だった。
 すると、九狐の口が開く。

「……汝に、1日だけ猶予を与えよう。本当にその決断は正しいのか、こめかみを触りながらじっくり考えるのじゃ。葛の葉、妖天を頼む」

 拱手をして、この場を後にする九狐。
 その後ろ姿はとても威圧感に溢れていて、見つめることもできなかった。

「1日……なぜ、猶予を与える……?」

 妖天はこめかみを触りながら、自分に1日猶予を与えたことについて考える。

「(九狐様……どうするのでしょうか?)」

 葛の葉も、こめかみを触りながら九狐が何を考えているのかを考える。


            ○


「冗談ではない……か……」

 隠れ家の中で2人が考えている中、九狐も外で何かを考えていた。

「妖天の目……あれは、憎しみの塊にしか見えなかった……なんじゃ?あそこまで人間に恨みを持つとは、相当な思いが必要……」

 眉間にしわを寄せて、妖天の瞳を思い出す。

 ——————若者とは思えない、憎しみの感情しかない瞳。
 九狐は大きな唸り声を出す。

「あの目は……怪猫(かいねこ)と似ている……あのまま憎しみの感情ばかりで生きられると色々困るのぉ……」

 そして、深い溜息をする。

「すまない。わらわはしばらくそっちに参加できんようじゃ……妖天をなんとかしなければ……」

 誰に言っているのか分からない言葉。
 九狐は2人に見つからないように隠れ家に入る。

 ——————気がつくと、外は少しずつ明るくなっていた。


            ○


「大変です。朝日が昇ってきたのです」

 一方、とある森林の中で朝日を嫌そうに見つめる鼠女——————知野宮 佳鼠(ちのみや かそ)が居た。

 頭には灰色の2つの耳ととても細い1本の尻尾を生やしている。
 灰色の髪の毛は二の腕につくくらいの長さで、前髪は目にかかっていない。
 目が悪いのか四角いメガネをかけていて、その瞳は灰色に輝いている。
 これといった特徴のない和服を着ているが、右手にはなぜか巻物を持っているのが印象的である。

「落ち着いてください、佳鼠。これくらい慌てていたら死にますよ?」

 深く萌える雑草に身を隠しながら言葉を飛ばす犬女——————犬浪 東花(けんろう とうか)。

 頭にはふさふさした2つの耳と1本の尻尾を持つ。
 灰色の髪の毛は腰まで長かったが、紐かなんかで総髪(そうがみ)にしている。
 前髪は目にかかっておらず、瞳は灰色に輝いている。
 和服を着て、さらにそのうえに羽織を着用するというかなり動きにくそうな姿。
 極めつけに、腰には1本の刀をつけている。

「東花!佳鼠は朝日が苦手なのです!あの眩しい太陽光線は、佳鼠の目をどんどん……あぁ、考えるだけで恐ろしいです。ということで、寝ます!」

 佳鼠はそう言って雑草の上に倒れて、眠る。
 それを見ていた東花は浅い溜息をする。

「結局、いつも見張りは私なんですよね……まぁ、慣れていますけど……」

 獣人、鳥人が落ち着いて行動ができるのは、人が寝ていて辺りが暗い深夜。
 逆に朝と昼は全く行動できないのである。
 つまり、こうやって深い雑草や森林に身を隠して深夜になるのを待つしかないのだ。

 ——————佳鼠はそんなことを気にせず、完全に東花に見張りを任せてぐっすり寝ていた。

「はぁ……」

 今度は深い溜息をする東花。
 いざとなったら、自分の刀で人間を斬りつけることも出来るが、やはり佳鼠と同じく寝たい犬女。

「いやぁ〜……遅くなって悪いねぇ〜」

 ふと、どこからともかく陽気な声が聞こえてくる。
 東花は耳をピクリと動かし、まるで仕事から帰ってきた御主人を待っていた犬のようにはしゃぐ。

「神楽お姉さま!ようやく帰ってきてくれましたか!」
「なんだい?そんなに大きな声を上げてさぁ」

 右手で頭をかきながら、東花へ言葉を飛ばす狼女——————狼討 神楽(ろうとう かぐら)。
 来ている羽織を翻す姿は、とても格好よく。色気などは感じさせなかった。

「帰ってくるのが遅くて、心配していたんですよ?神楽お姉さまに何かあったら私……」
「お前さんは心配性だねぇ……あたいが傷だらけで帰ってきたことがあるかい?」

 神楽は鋭い爪を見せながら、東花へ言葉を飛ばす。

 ——————その爪は若干赤く染まっており、妙に鉄の臭いがしていた。
 そう、神楽は何かあるたびに自分の爪で人間を斬り裂いているのだ。

「確かに……神楽お姉さまは1度も傷だらけで帰ってきたことはないです。ですが、万が一ということもあります!」
「万が一ねぇ……そうなったときは、あれを使うよ」
「ですが、普段から持ち歩いていないですよね?」
「いやぁ……邪魔でねぇ〜、あはは」

 狼独特の犬歯を見せながら、笑う神楽。
 総髪を揺らし、東花は頭を下げて溜息をする。

「神楽お姉さま……もう少し、緊張感を持ちませんか?」
「緊張感?嫌だね、あたいはそんな感情を持っていたら普段の力が発揮できない。思うがままに生きるのが1番さぁ」

 両手を頭の裏で組み、陽気に言葉を飛ばす。
 東花はそんな神楽を呆れながら、羨ましくも思っていた。

「そういう所、嫌いじゃないですよ。神楽お姉さま」
「ありがとさん」

 なんだかんだ言って、神楽のことを尊敬している東花。
 それは表情にも出ていたし、尻尾にも出ていた。

「所で、九狐と接触してどうでしたか?」
「あぁ〜……特に変わった様子もなかったよ。しばらくしたら須崎(すざき)辺りが様子を見に来るんじゃない?」
「珍しいですよね。神楽お姉さまが九狐と接触するなんて」
「怪猫に伝言を頼まれたからねぇ。それに、あたいはなんだかんだ言って九狐のことも気になるし」

 この言葉に東花は耳を動かして、考える。

「伝言ですか……怪猫は一体何を考えているのでしょうね」
「さぁね」

 しばらくこの場は沈黙になる。
 怪猫の思惑。2人は少し気になった。
 ふと、そこら辺で寝ていた佳鼠を見つめる。

 ——————もしかすると、この鼠女なら何か知っているかもしれない。そう思う2人だった。


            ○


 時は深夜。
 隠れ家の縁側を歩く九狐はとある部屋へ向かう。
 その部屋には白狐の葛の葉と少年狐の妖天が居た。

「やはり、考えは変わらんようじゃな」

 九尾の狐は半ば諦めたような口調で、言葉を飛ばす。

「我は力が欲しい……力が手に入るなら手段は選ばない」

 妖天の強い意思。九狐はその憎しみしかない瞳に深い溜息をする。

「汝に何があったのか、今は深く問い詰めない。それに、力なぞそう簡単にはつかん……覚悟は出来ているのか?」

 この言葉に力強く頷く妖天。
 葛の葉は尻尾を大きく動かして、その様子を見守っていた。

「その頷き。わらわは忘れんぞ?」

 口元を上げて、九狐は妖天へ言葉を飛ばし、この場を後にする。

 ——————その後ろ姿は、やけに困ったような雰囲気を漂わせていたが。

Re: 獣妖過伝録 ( No.164 )
日時: 2011/11/30 07:36
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: dCkmB5Zo)

            〜不埒な者たち〜

「あ〜……なんだい?これは……」

 深い溜息をして、とても呆れた表情を浮かべる女性。

 頭には灰色の2つの耳が生えており、とても細い1本の尻尾も生えて
いる。
 黒色の髪の毛は、肩までかかるくらいの長さで、前髪は右目を隠すくらい長い。
 だが、左目の輝く灰色の瞳はとても力強い印象を与える。
 やや暗い赤色の着物を着用していて、右手には十手(じって)を持っている。
 陽気そうな歩き方の中に、どこか争いごとを何度も経験している雰囲気を漂わせる。

「こんなに不正をやられると、ちょっと面倒だなぁ」

 彼女が見たもの——————
 犬と狼以外の種族が刀を持っている光景。
 1人ならまだしも、それはなんと20人も居た。
 この世は、武士しか刀を持つことが許されない。それ以外が持つと、重たい罰が下される。
 しかし、このように大量の人が刀を持っていることは前代未聞である。

「さすがに、これはあたい1人だけじゃ止められなさそうだなぁ……」

 女性は持っている十手を懐にしまう。

 ——————敵として見られたら、後々困るからだ。

「最近、刀を持ちたがる輩が多い気がする……まさか、ねぇ……」

 細い尻尾を動かしながら、女性はこの場を後にする。
 刀を持った大量の者たちは、奇声をあげながら自身の刀を振っていた。


                ○


「思ったけど、なんで武士しか刀を持ってはいけないんだ?」

 街道を歩きながら、一言呟く先程の女性。
 どうやら、武士しか刀を持ってはいけないことに、やや疑問を持っていた。

「まぁ、決まりと言ってしまえばそれまでだけどさぁ……かならず、根っことなる理由があるはず」

 耳を動かして考える、鼠女。その表情はとても真剣そのものだった。

 武士と刀の関係。その起源——————
 改めて、考える時がきたかもしれない。

「古い書物とか読みたくないけど……気になるし、良いかな」

 鼠女は懐から小さな巻物を取り出す。
 その紙には、大量の名前が書いてあった。

「古い書物を扱っていると言えば……やっぱり、あそこなんだよねぇ」

 彼女は口元を上げて、軽快に街道を歩く。

 鼠女の目線には、——————という文字が映る。

Re: 獣妖過伝録 ( No.165 )
日時: 2011/10/27 18:30
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: hpZBxX8P)

            〜修行をする者〜

 獣人と鳥人。実は人間が誕生したと同時に誕生されている。
 しかし、人間は自分たちにはない耳と尻尾を持つ者を偏見した。
 そして、偏見から差別へと移り獣人と鳥人は、森や山の中で隠れてすごすしかなくなった。
 非常に悲しい出来事である。同じ時に生まれた者同士なのに——————

 なら、今度は自分たちが人間を差別すれば良い。そう考える者が生まれる。
 だが、獣人と鳥人には多種多様な種族が居るためなかなか考えが一致しない。
 犬や狼は積極的だが、兎や鳥は否定的。猫と鼠は無関心で狐と狸はどこか胡散臭い。

 ——————非常に団結力はかけていた。
 当然この状態は何年も続き、気がつくと人間は数を増やして手に負えない状況となる。
 そんな中、1人の狐が現れた。
 妖艶な容姿、9本の尻尾が特徴的な女性。とてもこの世に居る獣人とは思えない雰囲気。

 彼女は言う。“わらわは妖(あやかし)”と——————


            ○


「あの……これで3日間くらい経ちますが……?」

 空から降る雨の音を聞きながら、古めかしい建物で会話をする白狐——————葛の葉(くずのは)。

 傍に居たのは、とても神々しい雰囲気を妖艶な容姿を持つ女性狐——————宮神 九狐(ぐうじん きゅうこ)。

「妖力と霊力をつけるには、あの空間でじっとしていることしか方法はないからのぉ……」

 拱手をしながら、葛の葉へ言葉を飛ばす九狐。
 その表情は、とても面倒という言葉が現れている。

「霊力ならともかく……妖力もですか?」
「力が欲しいと言ったのは本人じゃ。わらわはただ望みを叶える狐にすぎん」

 九狐は部屋の中を歩き、縁側へと向かう。
 葛の葉は黙ってその後をついてくる。

「じゃが、あんなに霊力を持たない狐は初めてじゃ……狐ともなれば、霊力くらいあるものだがのぉ……」

 こめかみを触りながら、空から降る雨を見つめる九狐。

「そんなに……ないのですか?」
「全くと言っていいほどじゃ……あれは、相当時間がかかるぞ……もしかすると、直接的にやる必要もあるかもしれん……」

 直接的という言葉をやけに強調する九狐。
 葛の葉は浅い溜息をして、

「何があったのでしょうね。妖天さん」

 白い尻尾を落としながら、小さく呟く。

「わらわはあまり深く追求しない。本人が言ってくれるのを待つだけじゃ」

 眉を動かして、9本の尻尾を動かす九狐。

 ——————その表情は、どことなく違和感があった。

「……たまには、九狐様が様子を見に行ってあげたらどうでしょうか?」

 葛の葉は優しい微笑みで、九尾の狐へ言葉をかける。

「う、うむ……そうじゃな……」
「では、早速いきましょうか?」

 九狐の背中を押す葛の葉、当の本人は非常に困った表情を浮かべていた。


             ○


 同時刻、とある森。
 草木が萌える森は、空から降ってくる雨さえも遮るほど。
 そんな中、1人の翼を持った男が巻物に何かを執筆していた。

「……まぁ、これくらいで良いでしょうか」

 真剣な顔つきから、一気に優しそうな表情を浮かべる男性。
 どうやら、満足な執筆ができたようである。

「やはり、執筆は良いですね……」

 巻物を懐に入れて、翼をゆっくり動かす。

 一体、何を執筆しているのかは不明だったが——————

「須崎(すざき)。また執筆をしていたのか……」

 不意に、背後から低い声で言葉をかけられる。
 須崎と呼ばれた男性は、モノクルを光らせながら身体を振り向かせる。

「おや?もう終わったのですか、怪猫(かいねこ)」
「くっくっく……いや、もういい……十分だ……」

 どこか不気味な笑い声を出す、怪猫という男。
 須崎は赤色の瞳と青色の瞳を輝かせながら、見つめる。

「さすがは、尻尾を2本持つ猫ですね。尊敬します」

 怪猫は2本の尻尾を動かし、胡散臭い微笑みを浮かべる。

「これも全部……九狐の知恵……有効に使わせてもらっただけだ」
「九狐の知恵……?」
「忘れたとは言わせないぞ……九狐は、我々と違う存在ということを」

 須崎はモノクルを光らせて、真剣な顔つきをする。
 しかし、特に言葉を漏らさず無言を貫く。

「くっくっく……言葉にするのが嫌なのは分かる……だが、これは現実。九狐はこの世の裏側に住んでいる妖怪なのだからな」

 怪猫はどこか不思議な雰囲気を醸し出しながら、言葉を飛ばす。

「……怪猫はこれからどうするつもりでしょうか?」

 少々話題と離れた言葉。怪猫は口元を上げ、

「なぜ、その質問をする?須崎」
「いえ、深い意味はありませんよ」

 持っている錫杖(しゃくじょう)の遊環(ゆかん)を鳴らし、言葉を呟く須崎。

「……その何を考えているか分からない表情と言葉、未だに慣れん。須崎から生まれる子供たちが不安だ」
「おや?こちらはいたって正直にしているつもりですけどね」

 須崎の言葉に辟易(へきえき)する怪猫。わずかな溜息をして、

「私はまだ本格的に動こうとは思わない。九狐の件があるからな……」
「……そうですか、その言葉が聞けて嬉しいですよ」

 須崎は怪猫に背中を見せる。そして、大きな翼を羽ばたかせながら、

「では、こちらも少々用事があるのでこれで失礼しますよ」
「そのうち集合する。その時まで勝手に行動してくれ」

 怪猫と須崎はお互いこの場を後にする。

 ——————2本の尻尾を持った猫男の表情は、とても胡散臭かった。


            ○


「さて、どれほど霊力が宿ったか気になる所じゃな」

 隠れ家の縁側で、9本の尻尾を持った九狐が隣に居る葛の葉へ言葉を飛ばす。

「どうでしょうね。わたくしは霊力を感じるのが苦手なので、どれくらい宿っているか分からなかったですけど」

 白い尻尾を動かし、葛の葉は九狐へ言葉を返す。
 九尾の狐はこめかみを触りながら、深く考える。

「(霊力を感じるのが苦手な葛の葉が感じられないか……つまり、それほど霊力は宿っていないことじゃな……)」

 そして、浅い溜息をする。

「九狐……様?」

 溜息に気付いた葛の葉は、九狐を心配する。

「いや、これは相当覚悟する必要があるようじゃ……一応、わらわが責任持たないといかんしな……」
「はい……?」

 いまいち理解できない葛の葉。九狐の頭の中は、これからの苦労が浮かんでいた。
 2人はとある部屋の前にたどり着く。
 襖が完全に閉まっていたが、どこか独特な力が漏れているのが分かる。

「ここは、九狐様が自ら開ける方が良いですわ」
「うむ……そうじゃな」

 九狐は葛の葉に催促されながら、襖を開ける。
 そして、拱手(きょうしゅ)をしながら一言呟く。

「どうじゃ?少しは身体に変化が出ただろう?妖天」

 部屋の中には苦しそうな表情を浮かべる少年狐——————詐狐 妖天(さぎつね ようてん)が座っていた。
 よく見ると、床には大量のお札が貼られており、そこから独特な力が出ているのが分かる。

「きゅ、九狐か……我にはよく分からないが、身体に違和感があるのは確かだ……」
「九狐様の結界はとても強力ですからね。当然効果が出ていますね」

 妖天と葛の葉がそう言うが、九狐は眉間にしわを寄せてどこか深刻そうな表情を浮かべる。

「わらわの宮神能動霊力結界(ぐうじんのうどうれいりょくけっかい)に居て、霊力を全く感じないとはどういうことじゃ……?」

 こめかみを触りながら、九狐は2人に聞こえないように言葉を呟く。
 そして、徐々に妖天との距離を縮めていく。

「九狐……?」

 九狐は黙って妖天の右腕を、思いっきり握る。

「なんじゃと……?全く霊力を感じない……」

 驚く九尾の狐。9本の尻尾が激しく動いている所を見ると、冗談ではないことが分かる。
 妖天と葛の葉はこの言葉に、唖然としてしまう。

「きゅ、九狐様の結界で霊力がつかないのですか!?」
「ど、どういうことだ?なぜ、我の身体に霊力が……」

 こめかみを触りながら、考える九狐。

 ——————そして、恐ろしい状況が脳内に思い浮かぶ。

「……最悪じゃ」

 突然の一言。妖天と葛の葉は言葉が出なかった。

「妖天。汝は非常に恐ろしい身体をしているようじゃ……わらわの結界がこんなに効かないのは、汝を入れて2人目じゃ」

 宮神能動霊力結界。
 この世の空気には霊力が微量に漂っており、それが人の身体に入ることがある。
 呼吸をして空気を吸うのと同時に、霊力を吸っていると説明すると分かりは良い。
 霊力側から見れば、人間の呼吸で体内に入る。つまり受動的に人の身体に宿っていく。
 だが、九狐はそれを逆に霊力側が積極的に人の身体に入っていこうとする空間を作ることに成功した。
 その空間を結界で作り、その中に人を入れれば霊力が自然と入っていく仕組み——————

「これは……わらわが直接的に指導する必要があるようじゃな」

 拱手をして、九狐は妖天を見つめる。

「九狐様?それは特別訓練ですか?」

 横から葛の葉が言葉を飛ばす。九狐は狐目になって、

「そうじゃ。わらわの結界がだめなら直接わらわが手を差し伸べるしかない……大丈夫じゃ。これは“あやつ”で成功している」

 なにやら自信がある表情を浮かべる九狐。妖天はこの表情を見て、

「なら、早速我に教えてくれ」

 力を手に入れるためなら手段を選ばない妖天。
 九狐はこの積極性に心の中で深い溜息をする。

「……分かった。では、外へ行くぞ」

 了承したものの、その表情は少々暗かった。
 葛の葉は耳を動かして、2人の背中を見つめていた。


             ○


「我の身体に霊力を宿らせる方法とはなんだ?」

 隠れ家の外。妖天は1本の尻尾を動かして、九狐に催促する。

「そう焦るな。ちゃ〜んとわらわが力を与える」

 拱手をして、いたって普段通りに喋る九狐。
 すると、妖天の背中へ回り込み懐から1枚のお札を取り出す。

「少々きついかも知れんが……汝が望んだのじゃ。耐えられるだろう?」
「……!?」

 九狐はお札を妖天の背中へ張り付ける。

 ——————突如、狐の少年は恐ろしい奇声を上げ始める。
 その声の大きさは、木々に止まっている烏たちが逃げ出すほどだった。

「もう容赦せんぞ。その身体に、無理矢理霊力を叩きこんでやるのじゃ……この、九尾霊力札(きゅうびれいりょくふだ)で」

 九尾霊力札。
 九尾の狐ともなれば、かなり霊力を持っておりその霊力は、並みの人では身体に蓄積するだけで負担が大きい。
 下手すれば、霊力が身体の中で暴走して死に至ることもある。
 九尾霊力札は、お札の中に九尾の狐と同等の霊力を封じ込めた物。
 それを妖天の背中に貼り付けた。つまり、狐の少年の身体は——————

「ここで倒れたら、そこまでの覚悟しかないとわらわは判断する。力が欲しいなら、莫大な霊力くらい制御するのじゃ」

 しかし、妖天は身体の中に入ってくる霊力に集中していたのか、返す言葉はなかった。
 九狐はどこか人とは思えない表情をする。

「(しかし、あの時の妖力の循環は異常だったからのぉ……もしかしたら、何かあるかもしれん……希望はありそうじゃな……)」


            ○


「うむむぅ……これは一体どういうことなのですか!?佳鼠の計画ならこの山から離れるのは2時間前なのです!」
「予想外の出来事が起きましたからね。仕方ありません」

 一方、とある山の中では犬みたいな女性と鼠みたいな女性が会話をしていた。

 どこか苛立ちながら声を飛ばす鼠の女性——————知野宮 佳鼠(ちのみや かそ)。

 落ち着いた声で話す犬の女性——————犬浪 東花(けんろう とうか)。

「こんな一通りの少ない道に、なぜ人間が大量に歩いているのですか?全く持って理解不能です」
「何かあったのでしょうかね……」
「それを確認している神楽(かぐら)の帰りも遅いです!なにをやっているのですか!?」

 どうやら、普段は人が通らない道に今日だけは人が大量に歩いていて、迂闊に外に出られない状況に陥っていたのだ。

「東花!佳鼠が許すのです!あの人間どもを全員叩斬ってやるのです!」
「やろうと思えばやれますが、その後の状況が大変になりますよ?」

 冷静に言葉を返す東花。
 犬にしてはかなり状況を判断できる方で、むしろ冷静な考えを持つ鼠が犬らしい佳鼠。

「東花が斬った人間を1人残さず始末してしまえば誰も報告しないのです!だから、心配無用!」
「……そうなりますね。ですが、せっかくやるのでしたら神楽お姉さまも居た方が楽しいですよ?」

 上手い具合に、佳鼠の口車に乗せられる東花。先程の判断はどこへ行ったのか。

「今の神楽はつまらないのです!やはり、あれがないと神楽ではないのです!」
「それは同意です。神楽お姉さまは牙狼(がろう)がないとだめです」
「あたいのどこが、つまらないだって?」

 2人の背後から、突然陽気な声が響く。
 すると、東花は耳を動かし嬉しそうな表情を浮かべる。

「神楽お姉さま!怪我はないですか!?」
「偵察しただけじゃ、怪我なんてしないさ。本当に心配性だねぇ……東花は」

 余裕そうな表情を浮かべる露出の激しい狼みたいな女性——————狼討 神楽(ろうとう かぐら)。
 その顔つきは、正に姉御と言って良いものだった。

「神楽!佳鼠に状況を報告するのです!さぁ、とっととするのです!」

 鼠女はかけているメガネを光らせながら、神楽に説明を催促する。
 東花はこのやりとりに、浅い溜息をする。

「結論から言うと、分からなかった」

 両手を頭の後ろで組み、笑顔で答える神楽。
 佳鼠は開いた口が塞がらなかった。

「な……なんのために偵察に行ったのです!?」
「いやぁ〜……人間が多すぎて、近づけなくてさぁ」
「それでも狼ですか!?狼なら人間に負けないはずです!」
「狼だって無謀な行動はしないさ」

 佳鼠はむっとした表情を浮かべて、懐から巻物を取り出しそれを黙って読む。

「佳鼠が戦えなくて本当に良かった瞬間だねぇ……あれは、犬と狼以上に無茶をしそうだよ」
「そうですね」

 神楽と東花は佳鼠を見つめながら言葉を呟く。
 同時に、犬女は刀を強調させ狼女は爪を強調させる。

「(まぁ……実際の所はちゃ〜んと偵察したんだけどねぇ……)」
「神楽お姉さま?何か言いました?」
「ん?いや、佳鼠は鼠らしくないなってねぇ」

 狼独特な犬歯を出しながら、神楽は言葉を呟く。
 微妙にぎこちない雰囲気に違和感があったが、深くは追求しなかった東花だった。

「(たまには、あたい1人だけで色々やってみようかねぇ……)」

 2人に背中を見せ、羽織を翻(ひるがえ)しながら神楽は胡散臭い表情をしていた。


            ○


「はぁ……はぁ……」
「ふむ……霊力もちゃんと身体に宿っているようじゃ……とりあえず、第1段階は終了……」

 額から汗を大量に流し、膝まつく妖天。その様子を拱手して見つめる九狐。
 どうやら、少年狐の身体にようやく霊力が宿ったらしい。
 しかし、九尾の狐はまだまだ深刻そうな表情を浮かべる。

「じゃが、霊力を宿しても使わなければ宝の持ち腐れじゃ。早速、霊力を有効に使って術を身につけるのじゃ」
「術……まずは、なんだ……?」
「超初歩的で、覚えるのも簡単な狐火じゃ」

 九狐は拱手を解き、右手で指を鳴らす——————

 妖天の目の前にある地面から、突然火が噴き上がったのだ。

「!?……これが、狐火」
「別に指を鳴らさなくても出せるのじゃが……どうせなら、かっこよく決めたいじゃろ?」

 この言葉に、妖天は目を見開く。
 そして、背筋を伸ばし立ち上がる。

「むっ……」

 だが、妖天は途端にその場で膝まつく。
 苦痛な表情をしながら、1本の尻尾を揺らしていた。
 九狐は一瞬驚くが、すぐにどういう状況になっているのか判断して、優しそうな表情で少年狐を見つめる。

「なんじゃ……仕方ないのぉ……」

 九狐はそう言って、懐から鋭利な刃物を取りだす。
 そして、それを自分の腕に当てる——————
 赤く、鮮やかな血液が流れ始めた。

「きゅ、九狐……?」
「さぁ、飲むが良い……」

 九狐の腕から出る血液を飲む。
 途端に、妖天の苦痛な表情が消えていく。

「ふふ……これで、修行は続行じゃ」

 狐目になって、九狐は優しく呟く。

 妖天は立ち上がり、礼を言う——————


             ○


「(どうやら、九狐は九狐で少年狐を見ているようですね……)」

 九狐と妖天が修行する光景を、深い森の中から見つめる鳥——————天鳥船 須崎(あめのとりふね すざき)。
 モノクルを光らせて、どこか監視しているような雰囲気を醸し出していた。

「(しばらくは、こちらで九狐のことを見ていますか……やることもないですし、時間ならたくさんあります)」

 薄く笑う須崎。

 そして、しばらく黙って瞬きもせずに2人を見つめていた。


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