複雑・ファジー小説
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- 獣妖過伝録(7過完結)
- 日時: 2012/09/08 14:53
- 名前: コーダ (ID: hF19FRKd)
どうも〜!私、コーダと申します!
初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!
え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。
只今、超ゆっくり更新中……。
コメントもどしどし待っています。
では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。
※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!
————————————————————————
「お腹すいたなぁ……」
輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。
「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
ただひとつ。
狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。
100本の蝋燭。
大量の青い紙。
そして、青い光に二本の角。
————青の光と狐火
恵み豊かな海。
手漕ぎ船。
蛇のような大きな体と、重い油。
————船上の油狐
それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
星空の下、男女の狐が出会う。
————霊術狐と体術狐
そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」
獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
不思議な放浪記が幕をあげる。
【獣妖記伝録】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
竿が反れる。
妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」
————————————————————————
・参照突記伝録
「1800突破しましたね。嬉しいことです」
・読者様記伝録
ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
狒牙さん(IFを執筆している方です。)
木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)
・感鑑文記伝録
水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)
・宣伝文記伝録
秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)
・絵描様記伝録
王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>20 >>48 >>99
・作成人記伝録
講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)
・異作出記伝録
ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)
・妖出現記伝録
青行燈(あおあんどん)
小豆洗い(あずきあらい)
アヤカシ(”イクチ”とも言う)
磯撫(いそなで)
一本ダタラ(いっぽんダタラ)
犬神(いぬがみ)
茨木童子(いばらぎどうじ)
後神(うしろがみ)
産女(うぶめ)
雲外鏡(うんがいきょう)
煙々羅(えんえんら)
大蝦蟇(おおがま)
大天狗(おおてんぐ)
骸骨(がいこつ)
貝児(かいちご)
烏天狗(からすてんぐ)
九尾の狐(きゅうびのきつね)
葛の葉(くずのは)
管狐(くだぎつね)
懸衣翁(けんえおう)
牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
酒呑童子(しゅてんどうじ)
女郎蜘蛛(じょろうぐも)
ダイダラボッチ
奪衣婆(だつえば)
土蜘蛛(つちぐも)
鵺(ぬえ)
猫又(ねこまた)
野鎚(のづち)
波山(ばさん)
雪女(ゆきおんな)
雪ん子(ゆきんこ)
妖刀村正(ようとうむらまさ)
雷獣(らいじゅう)
笑般若(わらいはんにゃ)
・獣妖記伝録
1記:青の光と狐火 >>1
2記:船上の油狐 >>5
例1記:逢魔が時 >>10
3記:霊術狐と体術狐 >>11
4記:蝦蟇と狐と笑般若 >>15
例2記:貝児 >>27
5記:牛馬と犬狼 >>30
6記:産女と雌狐 >>34
例3記:ダイダラボッチ >>38
7記:蜘蛛と獣たち 前 >>43
8記:蜘蛛と獣たち 後 >>51
例4記:小豆洗い >>52
9記:雪の美女と白狐 >>53
10記:墓場の鳥兎 >>55
例5記:葛の葉 >>58
11記:天狗と犬狼 >>64
12記:狐狸と憑依妖 >>74
例6記:日の出 >>75
13記:雷鳥兎犬 >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐 >>84
例7記:煙々羅 >>87
15記:櫻月と村汰 >>93
16記:神麗 琶狐 >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁 >>100
17記:天狗と鳥獣 前 >>104
18記:天狗と鳥獣 中 >>105
19記:天狗と鳥獣 後 >>112
例9記:九尾の狐 狐編 >>106
20記:温泉と鼠狐 >>113
21記:犬神 琥市 >>121
例10記:九尾の狐 犬編 >>120
22記:天鳥船 楠崎 >>128
例11記:九尾の狐 鳥編 >>133
23記:鬼と鳥獣 前 >>136
24記:鬼と鳥獣 後 >>140
例最終記:九尾の狐 獣編 >>141
25記:鳥獣と真実 >>151
・獣妖過伝録
1過:8人の鳥獣 >>159
例1現:不埒な者たち >>164
2過:2人の狐 >>163
例2現:禁断の境界線 >>166
3過:修行する者 >>165
例3現:帰りと歴史 >>167
4過:戦闘狼と冷血兎 >>168
例4現:過去の過ち >>169
5過:鳥の監視 前 >>170
例5現:起源、始原、発祥 >>171
6過:鳥の監視 中 >>172
例6現:探し物 >>173
7過:鳥の監視 後 >>174
例7現:箒に掃かれる思い >>175
・獣妖画伝録
>>76
>>119
- Re: 獣妖記伝録(例7記完結) ( No.91 )
- 日時: 2011/08/02 13:22
- 名前: 水月 (ID: SuDcL78Z)
来ました!水月です!
獣もの・・・。なんか読んでると神秘的な感じで面白いです!
執筆頑張ってください!ではでは。
- Re: 獣妖記伝録(例7記完結) ( No.92 )
- 日時: 2011/08/02 16:25
- 名前: コーダ (ID: LcKa6YM1)
水月さん>
こんにちは!コメントありがとうございます!
獣人は私の趣味です(笑)ケモミミ、尻尾、もふもふ……これは、読者様に伝えたい!
という思いで、この小説を執筆しました(笑)
鳥人も何気に好きなので、異端ですが入れさせて頂きました。
はい!応援のお言葉ありがとうございます!ぼちぼち更新していきますね!
- Re: 獣妖記伝録 ( No.93 )
- 日時: 2011/08/04 03:56
- 名前: コーダ (ID: 2DX70hz7)
この国は、犬か狼しか武士にはなれない。
その獰猛(どうもう)で勇ましい性格は、非常に武士として必要な精神だから。
と、どっかのお偉い人が言ったからである。
これは鉄の掟であり、犬か狼以外が武士と名乗ってしまうと、国からずっと目をつけられる。
だが、それでも武士に憧れる者は少なからず居る。
人を守って、感謝される存在だからだ。
——————おそらく、ここに居る彼女もそうなのだろう。
大量の木で覆い尽くされている山の中で、刀を華麗に振る巫女服を着た女性。
その姿は、神楽(かぐら)を連想させる。
しかし、どこか変則的な使い方であった。
刀というのは、斜め45度に斬りつけるのが1番良いとされているのに、彼女はそれを一切行っていなかった。
刀を突き刺すような動き、真下から刀を垂直に上げる動き——————
おかしいのはそれだけじゃなかった。
女性の尻尾は、黄金に輝いていたのだ。
つまり狐——————
武士の象徴ともいえる刀も、犬か狼以外が使うのは許されない。
彼女は、この時点で国から目をつけられる存在である。
山で刀を振っているのは、人の目がいかないと思っているからだと思う。
確かに、国も山の中に入ってまで監視をしない。
さすがは、狡猾な狐である。
女性は、刀を背中に挿す。
どうやら、1人稽古が終わったようだ。
そして、彼女はとある方向を見つめる。
目に映ったのは、鮮やかな朱色が完全に色落ちした鳥居と草や苔(こけ)が生えている、かなり廃れた神社だった。
周りの木々が太陽を遮っていたので、非常に不気味に感じる。
——————明らかに、何かが出そうな雰囲気を漂わせていた。
すると、女性は口元を上げて一言呟く。
「我輩を、楽しませてくれる妖(あやかし)だったら嬉しいな」
低く、澄んだ声が山の中に響く。
その瞬間、木々に居た烏(からす)が一斉に空へ飛び始める。
——————まるで、この場から逃げるかのように。
〜櫻月と村汰〜
空一面が雲で覆われている昼間。
風もなく、非常に蒸していた。
少し外を歩くだけで、大量の汗をかいてしまう。だからといって、家の中に居ても汗をかく。
逃げ場のない1日。
そんな時に、大量の木々で空を遮り、至る所に苔が生えている山の中を歩く男女の姿があった。
灰色で、とてもさっぱりするくらい短い髪の毛。前髪は、目にかかっていなかった。
頭には、ふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、瞳は青緑色をしていた。
男性用の和服を着て、腰には、立派な刀をつけていた。
そして、鞘にはお札か、お守りか分からない物が、紐で繋がれている。
辺りを警戒するように、瞳を動かし、とても真剣な表情をする。パッと見たイメージは武士みたいな男。
その男性の後ろを、ちょこちょこと子犬のように後をつける少女。
灰色の髪の毛で、肩にかかるくらいの長さだった。前髪は、非常に目にかかっており、四角いメガネをかけていた。
頭には、男性と同じふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、瞳は闇のように黒かった。
巫女服みたいな、神々しい服装で身を包み、とても可愛らしかった。
どことなく、不思議な雰囲気を出す。しかし、獣のような鋭い眼光は全くなかった少女。
左手で鞘の根元部分を握り、親指で刀の鍔(つば)を押さえて、歩く男。
時たま、親指を前に出し、鞘から刀を出して、親指を戻して、刀を鞘に戻す行為をする。
これにより、刀を鞘に戻したときに響く、あの独特な音が鳴る。
その瞬間、殺気を感じる——————
男は、鞘から刀を出して辺りを見回す。
少女は、若干体を震わせて男の傍へ寄る。
「隠れていないで、出てきたらどうだ?」
その瞬間、どこかの木がささっと音を出す。
すぐに、音が出た方向へ体を向かせる男——————
「はぁ——!」
鉄と鉄が触れあう音が山の中に響き渡る。
男は、少し苦悶(くもん)そうな表情を浮かべていた。
音を出した木からは、刀を持った女性が現れ、突然男を斬りつけようとしたのだ。
不安な体勢だが、間一髪それを受け止めることが出来た男。
「ほう。少しは骨のある奴だな」
低く澄んだ声を出す女性。
そして、刀を思いっきり前へ押して地面から足を離し、後ろに2mくらい跳ぶ。
この独特な距離の置き方に、男は少し眉間にしわを寄せる。
「そなたは、なかなか面白い刀の使い方をするな……そして、本来刀を持つべき者ではないと来たか……」
目の前に居る女性を見ながら、男は小さく呟く。
亜麻色の髪の毛は艶やかで、腰くらい長く、前髪も目にかかるくらいあった。
頭には、ふさふさした2つの耳と黄金に輝く1本の尻尾があった。
静脈血を連想させる真紅の瞳は、睨まれただけで怯んでしまうくらいの恐怖を感じさせる。
美しい巫女服を着用しているのに、両手には刀が握られていて少し違和感があった。
彼女は、狐だった——————
この国は、犬か狼しか武士にはなれない。
武士の象徴とされる刀も、犬か狼しか持ってはいけない。
つまり、この女性は不埒(ふらち)な行為をしていることになる。
「我輩、軒先 風鈴(のきさき ふうりん)なる者だ。突然だが、手合わせを所望(しょもう)する」
「拙者は正狼 村潟(せいろう むらかた)。こちらに居るのは犬神 琥市(いぬがみ くいち)。そなたがなぜ、狐なのに刀を持っているか少々問わせてもらおう」
村潟は、後ろにいる琥市に目で少し離れるように合図をする。
少女は、素直に頷き男から3mくらい離れた。
「貴様が我輩に勝てば、話そう」
「ふむ、興味深い……拙者もそなたと手合わせをしたくなってきた」
すると、お互いの口元が上がる。
刀の柄を両手で握り、鋭い眼光で睨み合う。
琥市は、その光景を黙って見つめる。
最初に動いたのは風鈴だった。
村潟の懐へ颯爽と向かい、自分の刀を真っすぐ突き刺すように前へ出す。
意表を突かれた攻撃方法に、村潟は思わず回避を遅らせる。
右頬に、彼女の刀がかする。
苦虫を噛んだかのような表情を浮かべて、風鈴との距離を離す村潟。
右手で、自分の右頬を触る。若干、血が流れていた。
「早速、我輩の攻撃が入ったようだな」
風鈴は右手で刀を持ちながら、左手を手ぶらにさせる。
「そなたの刀捌きは、奇想天外と言うべきか……少々、苦しい手合わせになりそうだ」
村潟は、どこか楽しそうに言葉を呟く。
すると、また風鈴が颯爽と向かってくる。
先は、刀で突かれた。
次も突いてくるか、または違う攻め方をするか——————
非常に頭を悩ます村潟。
相手の戦法が完全に理解できるまで、むやみ動くのは賢明ではない。
それに、今日はとても蒸していて体力が奪われるので、なおさら無駄な動きは負けにつながる。
女性は、鋭角上に跳ぶ。
このまま刀を振り下ろしてくるのだろうと予想できた。
村潟は、少し早めに刀を横に構える——————
だが、その予想は見事に裏切られる。
なんと風鈴は、村潟が横に構えた刀を足で踏み、次は垂直に跳ぶ。
自分の刀が土台にされて、大きく唸る村潟。
男の真上に居る風鈴は、刀を思いっきり真下へ投げる。
また意表を突く戦法に、村潟はただただ距離を置くことしかできなかった。
女性の刀は、地面に深く刺さる。
遅れて風鈴も地面へ着地し、刀を勢いよく抜く。
「退屈だ」
先から攻撃せず、ずっと回避行動しかしない村潟に、女性は思わずこんな言葉を漏らす。
すると、男は狼みたいな恐ろしい眼光で風鈴を睨みつけて、言葉を飛ばす。
「拙者は、様子見をして相手の戦法を把握してから攻める。最初から本気を出したら、後できつくなるからな」
女性はこの言葉に鼻で笑う。
「ふんっ、我輩の刀捌きを全て把握するのは困難だぞ?」
無表情な顔つきで、かなり自信満々に言葉を言う風鈴。
村潟は耳をピクリと動かし、眉を少し動かす。
「我輩の刀捌きは、全て思い付きだからな」
そう。風鈴の刀捌きは全て思い付きで、かなりいい加減なのだ。
確かに、彼女の言うとおりこれでは戦法を把握できない。
村潟は大きく深呼吸をする。
——————戦法が把握できないなら。
「では、拙者もいい加減に刀を振ってみるか」
いい加減に戦うなら、自分もいい加減になる。
同じ考え方で戦えば、天秤はつりあった状態。
どちらかに傾かせるためには、実力だけだ——————
「面白い。我輩と貴様、どちらが臨機応変に戦えるか勝負だ」
風鈴は右手で刀を持ち、村潟との距離を縮ませるために颯爽と向かう。
一方、村潟も風鈴との距離を縮ませるために狼の如く向かう。
——————刀と刀がぶつかり合う音が響く。
どうやら、お互い特に変わったことをせず普通に押し合いへ持ってきた。
「くっ……」
「ぬっ……」
村潟と風鈴は、力強く刀を押す。
だが、男で狼の村潟の方が力はあり、だんだん女性の方は押されていく。
このままでは、自分の腕が持たない。
風鈴は、体全体を使って前へ勢いよく刀を押す。そして、地面から足を離して後ろへ3mくらい跳ぶ。
また、独特な距離の置き方。
すると、それを見ていた琥市が一言呟く。
「作用反作用の法則……」
幼さが残り、透き通る声が村潟の耳に響く。
目の前の壁を思いっきり手で押したら、体は後ろへ倒れてしまう。
もしこの時、足を地面から浮かせていたら若干体ごと後ろへ行く。
風鈴は、この作用反作用の法則を上手く使って距離を離していた。
村潟は、思わず言葉を呟く。
「狐らしい戦い方だ。力で勝てないなら知力で勝つ。拙者も見習わなければ……」
狡猾な狐。もちろん、頭の方はそれなりに良い。
いい加減に戦っているとはいえ、頭の方はきちんと働いている。いや、頭が働いているから、いい加減に戦えるのだ。
獰猛で力が全ての狼には、とてもじゃないが出来ない戦法。
「我輩は、どんなに鍛えても限度がある。狐だからだ……なら、いい加減に戦って相手を困惑させ、足りない力を補うのみ」
低く澄んだ声で、風鈴がそう言った瞬間、村潟の懐へ颯爽と向かう。
すると、男はなぜか刀を鞘に入れて腰を落とす。
——————風鈴の鋭い一閃。
——————村潟の素早い居合抜き。
先よりも大きな音で、刀と刀が触れあう音が響く。
木々に居た烏は、この音を聞いて一斉に空へ飛び交う。
大量の羽音。それに負けないくらい大きな声で2人は叫ぶ。
「櫻月(おうづき)!?」
「村汰(むらた)!?」
村潟と風鈴は、自分の手元に刀がないことに気が付く。
どうやら刀と刀が触れ合った時に、強い衝撃で手から離れてしまったのだ。
空中に舞う刀。
1本は苔が生えている地面に刺さり、もう1本は琥市の目の前に刺さる。
尻尾をびくっと動かして驚く少女。
すると、風鈴と村潟は口元を上げて、
「貴様。やるな」
「そなたこそ」
お互い白旗を上げる。
そして、自分の刀を拾いに行く。
琥市はその様子を、どこか羨ましそうに見ていた。
○
村潟、琥市、風鈴は山の中を歩きながら雑談していた。
空はもう茜色になっていたが、その明るさも遮るほど木々があったので、3人の周りはほぼ暗い状態と言っても良い。
「櫻月……そなたの持っている刀の名前か」
「貴様の刀は、村汰か……」
櫻月、村汰。2人が愛用している刀の名前である。
この国の武士が持っている刀は、一般的な刀屋で買った物が多い。
正宗(まさむね)、虎鉄(こてつ)、備前長船(びぜんおさふね)、安綱(やすつな)等の有名な刀を似せて作成した物である。
だが、腕の立つ武士は売られている刀では満足しない者も居る。
造り込み、反り、鑢目(やすりめ)、切先などを全て自分好みの刀にしたい。
その望みを叶えるために腕の立つ鍛冶屋へ頼む。
材料等の費用は、全て自己負担という条件付きで、鍛冶屋は引き受ける。
そして、出来あがった刀を手に持つ武士は、最後に刀の名前をつける。
村潟と風鈴も、自分専用の刀を持っていることになる。
「さて、すまぬがそなたのことを詳しく聞きたいのだが?」
村潟は、真剣な顔つきで風鈴に尋ねる。
なぜ、狐なのに刀を持っているのか——————
「我輩はただ刀に魅了されただけだ。だが、この国は犬か狼しか刀を持ってはいけないと聞く。なぜだ?」
彼女はなぜか、村潟に疑問をぶつける。
この疑問に答えたのは、後ろに居た琥市だった。
「大昔の……お偉いさんがそう言ったから……その名残で続い……」
「そんな理由。我輩は耳にたこが出来るくらい聞いたぞ」
琥市が丁寧に説明しているのに、風鈴は乱暴に口出しする。
これには思わず、尻尾を大きく振ってむっとする少女。
「しかし、それ以外の理由はない」
「その理由は武士にしか適用しないはず。刀は適用しないぞ」
確かに、風鈴の言葉には一理ある。
村潟と琥市は大きく唸り、返すことが見つからなかった。
なぜ、武士=刀となったのか。
「我輩は、そこに納得いかない。武士はだめでも、刀は認めてほしいものだ……そうすれば、もっと我輩は色々な人と手合わせ出来るのに」
この言葉に、琥市はどこか引っかかる。
「色々な人……?」
「か、刀を持ちたいのは我輩以外に居るだろ?」
今まで無表情で話していて風鈴が、今だけ少し戸惑っていた。
琥市は小さく頷き理解する。
一方、村潟は遠い目でどこかを見つめていた。
「(拙者は、何も考えずに刀を振っていたが……世の中には、それを持ちたいのに持てない者が居るのか……)」
自分の刀には、そういう思いが詰まっていたことをいま自覚する。
せめて、刀だけでも握らせてやりたい。
だんだんそんな気持ちになっていき、思わず、
「歴史を……変える時か?」
この言葉に、琥市は耳をピクリと動かす。
そして、村潟の右袖をきゅっと握る。
「むっ……どうした、琥市?」
村潟は、少女を見る。
メガネ越しから可愛い瞳で見つめて、とても微笑んでいた。
その時は、自分も協力する。そんな感じ。
「すまぬ。そして、かたじけない」
謝った後に、お礼を言う村潟。
風鈴は、この2人はじっと見つめていた。
○
空は途端に暗くなる。
もちろん、山の中はもっと暗かった。
風も吹き始め、周りの木々が大きく揺れる。葉と葉が触れ合う音はとても不気味だった。
村潟、琥市、風鈴は黙って足を進める。
時折、刀を鞘に入れた時に鳴る音が響く。その正体は、村潟である。
刀の根元を左手で持ち、親指を刀の鍔に乗せる。
少し親指を前に出して、すぐに戻す。
癖なのか、何度も音を鳴らしていた。
風鈴は刀を自分の背中に挿していたので、このような行動はしなかった。
ふと、3人の目の前にある物が映る
鮮やかな朱色が完全に色落ちした鳥居と草や苔(こけ)が生えている、かなり廃れた神社だった。
周りの木々が神社を囲むように生えていて、非常に不気味に感じる。
——————明らかに、何かが出そうな雰囲気を漂わせていた。
いち早く、その雰囲気を感じたのは琥市だった。
尻尾を逆立てて、耳を震わせている。
そして、村潟の右袖をきゅっと握る。
「ここは……」
琥市の様子を見ながら、村潟は風鈴に尋ねる。
すると、背中に挿していた刀を出して、口元を上げる。
「強い妖が出ると、我輩が睨んでいる場所だ」
これにつられて、村潟も刀を鞘から出す。
琥市は、とても震えていた。
「確かに……風鈴さんの言うとおり……あの神社には、妖が居る……どこか禍々しい……危ないかも……」
幼くて、透き通った声も非常に震えていた。
一応、少女も妖の犬神(いぬがみ)である。
妖が妖を恐れる。
つまり、本当に危険なのだ。
すると、風鈴はどこか楽しげに言葉を飛ばす。
「我輩は、それでも戦う。この櫻月と共に」
「では、拙者も村汰と共に戦おう」
2人は、お互いの事を見つめ合って大きく頷く。
そして、廃れた神社の中へ颯爽と向かう——————
残された琥市は、両手でメガネをくいっと上げ、神々しい中に禍々しい雰囲気を出しながら、2人の後を追う。
○
廃れた神社の縁側を歩く3人。
足を進めると、時折木が軋(きし)む音が鳴る。
右目には、苔が生えた地面が広がる境内(けいだい)。左目には、破れた襖と部屋の中が映る。
縁側の天井には、たくさんの蜘蛛の巣があった。
村潟と風鈴は刀を構え、琥市は右手に3枚くらいお札を持ち、黙って歩く。
不意に禍々しい気配を感じる——————
3人は、気配を感じた場所へ体を振り向かせる。
闇のように暗い部屋が目に映った。
村潟と風鈴は、大きく頷き部屋の中へ足を踏み入れる。
遅れて、琥市も2人の後を追う。
じめじめした畳の上を歩く3人、神社の中へどんどん入っていく——————
「むっ……?」
突然村潟は、刀を構えてその場で辺りを見回す。
風鈴もつられて刀を構える。
その刹那——————
「……後ろか!?」
「何!?」
2人が後ろへ振り向いた時、神社の中から鉄と鉄が合わさる音が響く。
村潟と風鈴を突然襲ったのは、なんと刀だった。
驚くことにその刀は持ち主が居なかったのだ。
そう、不自然に宙に浮いていたのだ。
村潟はその刀を思いっきり押す。
これにより、少し距離が置かれる。
風鈴は、頭の中に疑問符を浮かべて浮いている刀を見つめる。
「あれはなんだ?」
この言葉に、後ろに居た琥市が眉間にしわを寄せて答える。
「あれは……妖刀村正(ようとうむらまさ)……」
妖刀村正。
とある時代に、刀を作る職人が居た。
その職人はどんなものでも斬れる刀を作成するため、日々研究をする。
材料、作り方を全て拘り、およそ20年もかけて作り上げた1本。
それが、村正だ。
作ったのは良かったが、肝心の刀を職人は扱えなかった。
そして、武士に試しにと村正を貸してみた。
驚くことに、村正は大抵の物を斬ることができた。
細い鉄だって真っ二つ。大きな木も一刀両断。
人も綺麗に斬れる——————
あまりの斬れ味に、武士は村正を気にいってしまった。
作った職人へ、村正を譲って欲しいと相談するが、やはり厳しいと言われる。
20年間もかけて作り上げた刀だからだ。
すると、武士は何を思ったのか村正で職人を斬りつけた。
もちろん、即死である。
この刀は、自分が持つべき物。という表情を浮かべる。
武士は、悪い人を村正で斬りつける。
何度斬っても、綺麗に斬れて爽快な気分になる。
だが、この爽快な気分を味わおうと、関係ない者も斬りつけ始めた。
人々の血が、村正につく。
いつしか、刃は赤く染まる——————
武士は、呪われたかのように人々を斬り続ける。
そして、武士は寿命で息を引き取った。
だが、村正は血が欲しかった。すると、武士の手から離れて意思を持ったかのように行動する。
当然、刀は人々を斬りつけ始める。
いつしか、妖刀村正とも言われる。
今もなお、この妖は世の中を放浪している——————
「本当に……危険な妖……逃げた方が良い……」
声を震わせて、琥市は2人へ言葉を飛ばす。
だが、村潟と風鈴はそんな言葉を払いのけるかのように、
「刀から逃げるのは、拙者のプライドが許さない」
「我輩もだ。危険という言葉は知らぬ。ただ、立ち向かうのみ」
村汰と櫻月を構える。
今は目の前に居る、妖刀村正を退治するのみ——————
2人の足は動く。
最初に村潟が、村正へ一閃をする。
刀と刀が触れあう音が響く。
村汰と村正が押し合うなか、風鈴は村正の後ろへ回り、そこから櫻月で一閃をする。
村正は弾かれる。
情けなく、畳の上に落ちる。
だが、すぐに宙へ浮く。
余程血が欲しいみたいである。
「この妖……できる」
村潟は思わず、村正へこんな言葉を呟く。
風鈴も右手で刀を持ちながら、どこか難しい表情をする。
「折るしかないのか……?」
弾いてだめなら、折るしか方法はない。
その光景を見ていた琥市は、懐からお札を取り出す。
右手に5枚、左手に5枚持つ。
そのお札は、どこか禍々しい雰囲気を出していて、とても恐ろしい文字が書かれていた。
「この妖を退治するには……破壊か消滅しかない……わたくしの力で……なんとか……」
禍々しい雰囲気を出しながら、言葉を呟く。
琥市は、手に持っているお札を、自分を囲むように地面へ張り付ける。
「しばらく……時間を稼いで……」
この言葉に、村潟は刀を構えて、
「御意(ぎょい)」
颯爽と村正の元へ向かう。
刀と刀が触れあう音。
村汰と村正は激しく押し合う。
その間、琥市は瞳を閉じて体に妖力を溜めていた。
だんだん、空気が禍々しくなり重たくなる——————
この異変に気付いた村正は、村潟を思いっきり横へ弾く。
その拍子に、村汰が手から抜ける。
そして村正は、そのまま斜め45度に村潟を斬りつける——————
「ぬっ……」
間一髪、後ろへ少し下がったので傷は浅かった。
だが、それでも上半身から大量の血が出てくる。
その場に膝をつく村潟。
この隙に、村正は琥市の元へ颯爽と向かう——————
また、刀と刀が触れ合う音が響く。
今度は、風鈴の櫻月とぶつかり合う。
「貴様の行為は、死に値する」
力はないが、精一杯刀を押す。
少しでも時間を稼げるように。
その刹那。琥市の瞳がゆっくり開く——————
「やっと溜まった……風鈴さん……離れて……!」
風鈴は作用反作用の法則を使って2mくらい後ろへ下がる。
これを確認した琥市は、禍々しい雰囲気を出しながら、
「暗・炎・病・黒・殺・魔・死・獄・呪(あん・えん・びょう・こく・さつ・ま・し・ごく・じゅ)……汝に憑かれる呪いの術……二字目、炎の術……!」
とても長い呪文詠唱する。それは、九字切りを連想させた。
すると、村正の刃は突然溶けだした。
畳の上に落ちる、溶けた鉄。それは、とても赤かった。
「体が燃えて溶ける呪い……それは……有機物、無機物関係なく……」
琥市は、両手でメガネをくいっとあげながら呟く。
この姿に風鈴は、尻尾をびくっと動かす。
気が付くと、村正は完全に溶けていた。
妖刀と呼ばれて恐れられていた物が、1人の少女によって幕を閉じる。
「………………」
琥市は、うつ伏せに倒れる。
そして次に聞こえたのは少女の寝息。
妖力を使いすぎて疲れてしまったのだ。
風鈴は、口元を上げて琥市を見つめる。
○
翌朝。
山の中はとても涼しかった。
風も吹いて、昨日の蒸し暑さが嘘のようだった。
そんな中、2人の男女が山の中を歩いていた。村潟と風鈴だ。
村潟は眠っている琥市を、荷物のように小脇へ挟んで歩く。
「そんな乱暴な持ち方で良いのか?」
「拙者は、なにかあったら琥市をこのように連れていっている。心配することはない」
そういう意味で言ったのではない。風鈴は、心の中で突っ込む。
「もう少し、優しい持ち方はないのか?」
村潟は、突然大きく唸る。
小脇に挟む以外で、どうやって琥市を持てばいいのか、本気で分からなかった。
風鈴は、浅い溜息をする。
「両手で抱えてみたらどうだ」
この言葉に、村潟は琥市を両手で抱えてみる。
傍から見て違和感はなくなった。
「むっ……確かにこれは楽だな」
驚いた表情をしながら、言葉を呟く。
両手で抱えたことによって、琥市の可愛らしい寝顔も見えるようになる。
「そっちの方が良いな」
風鈴は、腕組をしながら大きく頷く。
「うむ。助言に感謝する……何かお返しをしなければな……」
村潟は、風鈴にお返しをしようとするが、何をした良いのか思い浮かばず、また大きく唸る。
その瞬間、女性は小さく呟く——————
「我輩と手合わせ出来る相手を、増やしてくれ」
耳をピクリと動かして、村潟は風鈴を見つめる。
手合わせ出来る相手を増やす。つまり、全種族刀を持つことが許されるようにして欲しい。
そんな切実な願いがこもった言葉——————
村潟は、狼のように鋭い眼光で、
「御意」
強く約束する。
そして、2人はこの場で別れる。
風鈴の願い。いや、刀を持ちたい者の願いを叶えるために、村潟は山の中を歩く。
——————「頼んだ……ぞ」
○
琥市を両手で抱えながら歩く村潟。
すると、少女の目がゆっくり開く。
いつもと違う持ち方。
琥市は、少々慌てる。
「むっ、起きたか?」
村潟がそう言うと、少女の耳はピクピク動いていた。
ちょっと心地いい。そんな感じ。
「この持ち方は、非常に楽である。風鈴に感謝せねば」
この言葉に、大きく頷く琥市。
——————突然、強風が2人を襲う。
足をしっかり踏ん張らせないと、思わず飛んで行ってしまうくらいだった。
だが、途端に風は止む。
2人は、眉間にしわを寄せる。
「約束を果たす前に、また妖退治をしないとな」
「そろそろ……やってくる……」
真剣な顔つきで、再び足を動かす村潟。
抱えられていた少女も、ずっと真剣そうにしていた。
空で、そんな2人を真剣に見つめる者も居たが——————
- Re: 獣妖記伝録(15記完結) ( No.94 )
- 日時: 2011/08/04 16:52
- 名前: 水月 (ID: SuDcL78Z)
風鈴と村潟が一緒に歩くシーンがwww。
カップルみたいで最高!
虎市たちに新たな敵が!?
どうなるんだろう・・・。
執筆頑張ってください!ではでは。
- Re: 獣妖記伝録(15記完結) ( No.95 )
- 日時: 2011/08/04 21:03
- 名前: コーダ (ID: 8cbAvaGA)
水月さん>
村潟と風鈴がカップルみたいですと!?
さすがは、刀を持つ同士ですね。なんか独特な雰囲気を醸し出しています。
頑張れ琥市!負けるな琥市!(笑)
ふふふ……とうとう来ますよ……あいつらが!
でも、その前にちょっとシリアスな話でも執筆しようと企画中……
はい!執筆頑張ります!
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