複雑・ファジー小説
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- 獣妖過伝録(7過完結)
- 日時: 2012/09/08 14:53
- 名前: コーダ (ID: hF19FRKd)
どうも〜!私、コーダと申します!
初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!
え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。
只今、超ゆっくり更新中……。
コメントもどしどし待っています。
では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。
※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!
————————————————————————
「お腹すいたなぁ……」
輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。
「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
ただひとつ。
狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。
100本の蝋燭。
大量の青い紙。
そして、青い光に二本の角。
————青の光と狐火
恵み豊かな海。
手漕ぎ船。
蛇のような大きな体と、重い油。
————船上の油狐
それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
星空の下、男女の狐が出会う。
————霊術狐と体術狐
そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」
獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
不思議な放浪記が幕をあげる。
【獣妖記伝録】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
竿が反れる。
妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」
————————————————————————
・参照突記伝録
「1800突破しましたね。嬉しいことです」
・読者様記伝録
ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
狒牙さん(IFを執筆している方です。)
木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)
・感鑑文記伝録
水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)
・宣伝文記伝録
秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)
・絵描様記伝録
王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>20 >>48 >>99
・作成人記伝録
講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)
・異作出記伝録
ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)
・妖出現記伝録
青行燈(あおあんどん)
小豆洗い(あずきあらい)
アヤカシ(”イクチ”とも言う)
磯撫(いそなで)
一本ダタラ(いっぽんダタラ)
犬神(いぬがみ)
茨木童子(いばらぎどうじ)
後神(うしろがみ)
産女(うぶめ)
雲外鏡(うんがいきょう)
煙々羅(えんえんら)
大蝦蟇(おおがま)
大天狗(おおてんぐ)
骸骨(がいこつ)
貝児(かいちご)
烏天狗(からすてんぐ)
九尾の狐(きゅうびのきつね)
葛の葉(くずのは)
管狐(くだぎつね)
懸衣翁(けんえおう)
牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
酒呑童子(しゅてんどうじ)
女郎蜘蛛(じょろうぐも)
ダイダラボッチ
奪衣婆(だつえば)
土蜘蛛(つちぐも)
鵺(ぬえ)
猫又(ねこまた)
野鎚(のづち)
波山(ばさん)
雪女(ゆきおんな)
雪ん子(ゆきんこ)
妖刀村正(ようとうむらまさ)
雷獣(らいじゅう)
笑般若(わらいはんにゃ)
・獣妖記伝録
1記:青の光と狐火 >>1
2記:船上の油狐 >>5
例1記:逢魔が時 >>10
3記:霊術狐と体術狐 >>11
4記:蝦蟇と狐と笑般若 >>15
例2記:貝児 >>27
5記:牛馬と犬狼 >>30
6記:産女と雌狐 >>34
例3記:ダイダラボッチ >>38
7記:蜘蛛と獣たち 前 >>43
8記:蜘蛛と獣たち 後 >>51
例4記:小豆洗い >>52
9記:雪の美女と白狐 >>53
10記:墓場の鳥兎 >>55
例5記:葛の葉 >>58
11記:天狗と犬狼 >>64
12記:狐狸と憑依妖 >>74
例6記:日の出 >>75
13記:雷鳥兎犬 >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐 >>84
例7記:煙々羅 >>87
15記:櫻月と村汰 >>93
16記:神麗 琶狐 >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁 >>100
17記:天狗と鳥獣 前 >>104
18記:天狗と鳥獣 中 >>105
19記:天狗と鳥獣 後 >>112
例9記:九尾の狐 狐編 >>106
20記:温泉と鼠狐 >>113
21記:犬神 琥市 >>121
例10記:九尾の狐 犬編 >>120
22記:天鳥船 楠崎 >>128
例11記:九尾の狐 鳥編 >>133
23記:鬼と鳥獣 前 >>136
24記:鬼と鳥獣 後 >>140
例最終記:九尾の狐 獣編 >>141
25記:鳥獣と真実 >>151
・獣妖過伝録
1過:8人の鳥獣 >>159
例1現:不埒な者たち >>164
2過:2人の狐 >>163
例2現:禁断の境界線 >>166
3過:修行する者 >>165
例3現:帰りと歴史 >>167
4過:戦闘狼と冷血兎 >>168
例4現:過去の過ち >>169
5過:鳥の監視 前 >>170
例5現:起源、始原、発祥 >>171
6過:鳥の監視 中 >>172
例6現:探し物 >>173
7過:鳥の監視 後 >>174
例7現:箒に掃かれる思い >>175
・獣妖画伝録
>>76
>>119
- Re: 獣妖記伝録(妖異伝より、ゲストキャラ出演) ( No.31 )
- 日時: 2011/07/11 14:59
- 名前: コーダ (ID: QRCk5boE)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id=673
え〜……↑に王翔様が描いていただいたイラストがあります!
非常に可愛いですね……特に、メガネの犬少女は……
2度目もありがとうございます!
- Re: 獣妖記伝録(妖異伝より、ゲストキャラ出演) ( No.32 )
- 日時: 2011/07/11 16:03
- 名前: 王翔 (ID: 6QQsLeeZ)
またまた、依頼ありがとうございました!
それにしても、獣耳キャラ多いですね。
私、獣耳キャラは大好きです。
- Re: 獣妖記伝録(5記完結) ( No.33 )
- 日時: 2011/07/11 19:37
- 名前: コーダ (ID: QRCk5boE)
王翔さん>
獣キャラ……はい。完璧に私の趣味です。
犬、猫、狼、狐、鼠、狸、兎、鳥……作れば大量に居ますよ。
獣耳大好きと言ってくれてありがとうございます!
これからも、この小説をよろしくおねがいします!
- Re: 獣妖記伝録 ( No.34 )
- 日時: 2011/08/02 22:19
- 名前: コーダ (ID: LcKa6YM1)
人々が酒を呑んで盛り上がる時間。
町の外には、人気は全くなかった。
昼間は、人々が慌ただしく、縦横無尽に歩き回っているのが嘘のような光景である。
それほど、酒を呑みたい輩が多いのだろう。
提灯(ちょうちん)の光が、町の中を明るく照らす。
1人で歩いてもまだ、大丈夫な雰囲気。
そんな、町の外に1人の男が歩いていた。
頭にはふさふさした2つの耳と、1本の尻尾があった。
腰には、立派な刀が2本もかけられており、どこか、普通の人とは違う雰囲気を持っていた。
そう、この男は武士である。
その刀は悪を断ち、人々に感謝される存在。子供たちの憧れである。
だが、武士になっている人はほとんどの人が、狼らしい眼光を持っている。
この国では、女性の武士も少なくない。
武士道精神があれば、性別は問わないらしい。
だが、種族は問うとのこと。
人々に感謝され、憧れる武士は、犬、もしくは狼ではないとなれない。
これは、昔からの言い伝えで、獰猛(どうもう)で勇ましく、正直な犬や狼は、武士としての資格がある。と、どっかのお偉いさんが言った。
今でもそれは残っている。
確かに、狡猾(こうかつ)な狐や狸に、武士は向いていない。
目立ちたがりで、好奇心旺盛な猫や鼠にも、向いていない。
集団で生きて、皆と力を合わせて生きていく、兎や鳥にも向いていない。
つまり、必然的に武士というのは、犬と狼しかなれないのだ。
面白いことに、人々はそれを、差別だとは思っていない。
むしろ、区別だと思っている。
合理的な理由も存在するし、まず、犬と狼以外は、武士としての力はないだろうと、初めから自覚しているからだ。
狐と狸は、その狡猾な頭で、値引き、交渉をする商人となる。
猫と鼠は、その好奇心と目立ちたがりで、お店の売り子となる。
兎と鳥は、その団結力で、色々な物を作り、建てる。
犬と狼は、勇ましく獰猛で、人々を守る武士となる。
この関係が、今の国を築いていると言っても、過言ではない。
しかし、狼だって売り子さんになる人も居る。猫だって商人になる人も居る。
必ず、こうなるということはないのだ。
ただ、武士が特別にされているだけだ。
そのうち、狐の武士も現れるかもしれない。
——————歴史というのは、そんなものだ。
話は変わるが、町を歩いていた武士は、非常に頬を赤く染めていた。
どうやら、呑みすぎたらしい。
酔い覚ましに、冷たい風を浴びているのだろう。
狼のように鋭い眼光は、虚ろな瞳になっている。これでは、威厳がない。
すると、武士の目には、和服を着た美人な女性が立っていた。
艶やかな髪の毛、背中には大きな翼が生えていた。
鳥人だった。
よく見ると、鳥人女性は優しく、小さな赤子を抱いていた。
こんな夜に、明るいとはいえ、人妻が1人で歩いているのは、少々危険である。
武士は、危ない目に合わせないよう、鳥人女性に声をかける。
酔っていても、武士という雰囲気は残っているらしく、鳥人女性は警戒しないで、振り向く。
とても、整った顔立ち。絶世の美女であった。
武士は、思わず生唾を飲む。
こんなに綺麗な人と結婚出来た夫は、幸せ者だろう。と、心の中で思いながら。
「こんな時間に、何をしている?」
武士は、鳥人女性に尋ねる。
すると、とてもおしとやかな口調で呟く。
「いえ、夫を探している所です」
この返答に武士は、なんで放ったらかしにするんだ。と、心の中で夫の事を怒鳴っていた。
「夫は……毎日、毎日……酒に溺れる方……これから、居酒屋から引っ張り出そうと思うのですが……」
鳥人女性は、優しく抱いている赤子を見つめる。
この行動を見て、すぐに察する武士。
赤子を抱いたまま、居酒屋に入りたくないのだろう。
周りには、うるさい、のんべぇたちがたくさん居る。そんな所で赤子が、心地よさそうに寝られるわけがない。
武士は、大きく頷く。
「では、拙者がしばらく、赤子を持とう。その間、夫さんを引っ張り出してくれるか?」
この言葉に、鳥人女性はにっこりと笑う。
そして、優しく抱きかかえている赤子を、武士に託し、一言言う。
「では、しばらくお願いします……後、絶対にこの子を、落としては……いけませんよ?」
最後の言葉を、強く言った鳥人女性は、その場を後にする。
絶対に落としてはいけない。そんなこと当たり前だ。
それに、こんなに軽い赤子を落とすような、男は居ない。
武士は、あくびをしながら余裕そうに持つ——————
「むっ……?」
突然、赤子を見つめる武士。
手に変な違和感があった。
先まで、あんなに軽かった赤子が、少し重く感じる。
——————小さな石ころから、大きくて丸い石へ変わったかのように。
だが、そんなことを気にせず、鳥人女性が戻ってくるのをずっと待つ武士——————
「んっ!?」
今度は、大きく声を上げて、赤子を見つめる武士。
手の上に何かが、ずっしりと乗っかるような感覚。
例えるなら、石ころから岩に変わったような感じ。
思わず、力を出して赤子を抱く。
しかし、赤子はどんどん重くなっていく。
岩がどんどん大きくなっていくような感じ——————
「うっ……くっ……」
武士は汗を垂らしながら、赤子を抱く。
決して、落としてはいけない。あの鳥人女性の言葉を、考えながら持つ。
だが、赤子はそれでも重くなっていく——————
そして、武士はとうとう、赤子を地面に落としてしまった。
当然、眠りから覚めて泣きわめく。
——————「どうして……落としたのですか?」
ふと、背後から恐ろしい声が聞こえてきた。
武士は、恐る恐る、後ろへ振り向く。
そこには、先程の美人で鳥人女性が立っていた。
しかし、その表情は、とても人とは思えないくらい恐ろしかった。
「言いましたよね……絶対にこの子を、落としては……いけませんよ……と。可愛い、可愛い……わたくしの赤ん坊を……落とした罪は……重いですよ?」
居酒屋で、のんべぇたちが騒ぐ町の中。
とてもうるさく、近隣に迷惑がかかるくらいである。
そんな、騒音の中に、誰かの断末魔が聞こえた——————
〜産女と雌狐〜
人、馬車が縦横無尽に行きかう町。
あまりの忙(せわ)しなさに、砂埃が上がるくらいだった。
なぜ、人々は焦るのか、それを完璧に答えられる人は居ない。
というか、そんな事を考えるのは、時間の無駄である。
生きるために、少しでも時間を作り、お金を増やしたいから人は焦る。
もちろん、焦った分は、ちゃんと自分に返ってくる。
つまり、焦るというのは、悪いことではない。
——————この町に居る、1人の男を除いては。
黒くて、首くらいまでの長さがある髪の毛は、とても艶やかで、前髪は、目にけっこうかかっている。
頭には、ふさふさした2つの耳があり、瞳は黒紫色をしていた。
男性用の和服を着て、輝くような黄色い2本の尻尾を、神々しく揺らす。
そして、首にはお札か、お守りか分からない物が、紐で繋がれている。
なぜか、右手には大量の巻物を持っていた。
極めつけに、眠そうな表情と、頼りなさそうな雰囲気を漂わせていた獣男。
「ふわぁ〜……」
大きなあくびをして、左手で頭をかく獣男。
時間は、太陽が頂点に昇る真昼間。
明らかに、眠たくなるような時間帯ではない。
獣男は、目の端に涙を溜めながら、一言呟く。
「質屋はぁ……どこだぁ〜?」
どうやら、右手に持っていた大量の巻物を、質屋に入れようとしていたらしい。
しかし、肝心の質屋がどこにあるのか、分かっていなかった。
情けない言葉は辺りに響くが、誰も獣男に手助けしない。
むしろ、避けられていた。
「むぅ……面倒だけど……聞きこむかぁ……」
獣男は、質屋はどこにあるのかを、周りに居る人へ聞きこむ。
親切に教えてくれる人もいれば、逃げる人も居る。
何回か、巻物を落として、それを拾う姿も、非常に情けなかった。
質屋にたどり着いた時には、巻物はボロボロだった。
店の中には行って、獣男は大量の巻物を、狸の店員に渡す。
しかし、店員はどこか苦虫を噛んだかのような表情をする。
「ん〜?どうしたぁ?」
獣男は、拱手をしながら店員に尋ねる。
すると、どこか怒ったような口調で言う。
「兄ちゃん。あんまりゴミを持ってこないでくれねぇか?なんだ、この巻物?」
この言葉に、獣男はこめかみを触りながら小さく唸る。
「おかしいなぁ……我は、ゴミなど持ってきたかぁ〜?」
決して、自分の出した巻物は、ゴミだと思いたくなかった獣男だった。
ずいぶんと、タチの悪いお客さんが来てしまった。と、店員は心の中で思う。
「まぁ……腐っても紙だからなぁ……ったく……」
巻物を全て、手に取る店員。
獣男は、眉を動かしてその様子を見守る。
そして、巻物と引き換えにお金が渡された。
1本の団子を、食べられるか、食べられないかくらいのお金。
あまりの少なさに、獣男は耳と尻尾を落とす。
やっぱり、所詮はゴミだということだ。
だが、その瞬間店員は、人が変わったように態度を変えた。
「ん?兄ちゃん……その、お守りみたいなもんはなんだ?」
店員は、獣男が首につけている、お守りみたいな物を見つめながら呟く。
こめかみを触りながら、どこか嫌そうな表情をする獣男。
「ん〜……これは、渡せないねぇ……なぜかは、分からないけど……」
どうやら、このお守りみたいな物をつけている本人は、なぜそれをつけているのか、分かっていないらしい。
お洒落として、お守りをつける馬鹿は居ない。
考えられる事は1つ、何か御利益(ごりやく)があるからだ。
すると、店員はとんでもない大金を出して呟く。
「俺、実はお守り収集マニアなんだぜ。それは、見たことねぇ……超貴重品かもなぁ……」
こんなにボロボロなお守りが、家を建てられるくらいの大金と交換できる。
それは、とても美味しい話だ。
普通の人なら、二度返事で渡す。
だが、獣男は眉を動かして唸る。
何か思い入れがあるのか、お守りを手放したくないことが伺える。
しかし、店員も引き下がらなかったという。
「んだよ……じゃ、もっと増やしてやるよ」
もう1個、家が建てられるくらいのお金を出す。
大量のお金を、じゃらじゃらと鳴らしながら誘惑する店員。
それなのに、獣男はずっと唸っていた。
家2つよりも、大事なお守り——————
一体、どれほどの思いが詰まっているのだろうか。
「このお守りはぁ……いくらお金を出そうが、我は手放したくない……なんでだろうなぁ……?」
獣男は、頭をかきながら店内を後にした。
店員は、とても珍しそうな表情で見送った。
○
空が若干、茜色に染まる。
町の中では、たくさんの主婦たちが、お店で食品を買う時間。
今夜の晩御飯、夫の酒、珍味など、求める物は色々である。
そんな時に、明らかにおかしい人が居た。
桟橋の中央で座りながら、釣りをする獣男。
大きなおくびをしながら、ただただじっと釣れるのを待つ。
たまに、こめかみを触りながら辺りを見回したりするが、これといって、何かを警戒してはいなかった。
——————竿が反れる。
獣男は、目を見開き、その場から立ち上がり、手と足に力を入れる。
しかし、そう簡単に釣り上がらないところを見ると、これはかなりの大物だ。
だが、焦ったら獲物は逃げる。こう言う時こそ、落ち着いて物ごとを行う。
慎重に竿を上げる獣男、すると、水の中からは大きな影が見えたという。
もう少しで、大物が釣れる。獣男はとても目を輝かせていた。
——————「こんの、ボケナ————ス!」
突然の罵声。それを聞いた瞬間、獣男の背中にとんでもない衝撃が走る。
気がつくと、桟橋からは足が離れていて、空中に浮かんでいた。
手に持っていた竿も手放して、そのまま水の中に真っ逆さまに落ちる獣男。
高い水しぶきを上げる。すると、桟橋の方には誰かの姿があった。
金髪で、腰まで長い艶やかな髪の長さ。頭には、ふさふさした2つの耳がある。
瞳は金色で、見つめられたら、思わず魅了されてしまうような眼光。
上半身には、女性用の和服を着て、下半身には、よく巫女がつけていそうな袴を着ていた。
そして、輝くような黄色い1本の尻尾を、神々しく揺らしていた。
もっと言ってしまえば、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花という言葉が非常に似合っていた獣女。
「貴様は……あたしが、汗水流して稼いでいた時に、のんびり釣りでもしていたのか!?この、ボケナス!」
橋の上から聞こえる、とんでもなく大きな声と罵声。
獣女性は、腕組をしながら、仁王立ちの態勢でずっと水の中を凝視する。
すると、少し時間が経った頃に、水の中から仰向けの状態で、獣男がゆっくり浮いてきた。
その姿は、非常に情けなかった。
なぜか、目の端には涙を溜めていたという。そして、とても悲しそうに呟く。
「わ、我の……魚がぁ……お、大物ぉ……食糧〜……」
この言葉に、獣女は少し罪悪感を持つ。
まさか、あんなに悔しそうな獣男を、見たのは初めてだからだ。
「あっ、いや……その、なんだ!?あたし、悪いことしたのか!?」
桟橋の上でパニックになる獣女。
しばらく、このやりとりが行われた。
○
獣女が、太股くらい深い、水の中に入り、獣男の尻尾を握り、地上へ向かって歩く。
その光景は、非常に珍妙である。
獣女が歩き進めると、獣男は水の上で、ゆっくり引きずられる。
桟橋の上に人がいれば、ちょっとした見世物になっただろう。
「魚ぁ……」
獣男は、引きずられながら、まだ逃がした獲物の事を考えていた。
すると、獣女は握っていた尻尾をぎゅっと握り怒鳴る。
「ええい、貴様!男なら、過ぎたことをくよくよ言ってんじゃねぇ!」
尻尾を握る力は、どんどん強くなる。
すると、獣男の体は微妙に痙攣(けいれん)していた。
さらに、どこか荒い呼吸をしていた。
はっとした表情になる獣女。そして、慌てて握っていた尻尾を離す。
体の痙攣は一瞬で治まり、荒い呼吸もなくなった。
——————尻尾というのは、かなり敏感である。
そのことを忘れていた獣女は、とりあえず頭を下げて謝る。
獣男は、小さな唸り声を上げながら、水底に足をつける。
こめかみを触りながら、黙って地上へ、足を進める。
——————ついでに、獣女の尻尾を握る。
「ぎゃぁ!」
美女とは思えない声を出しながら、水の中に後ろから倒れる獣女。
獣男は、大きなあくびをしながらその様子を見ていた。
「我だって……たまには、反抗するさぁ……琶狐(わこ)」
そう呟きながら、獣男はゆっくり歩く。
すると、琶狐と呼ばれた獣女は、すぐさま水底に足をつけて、獣男に向かって走る。
——————見事な、ドロップキックが炸裂した。
獣男は、真正面に倒れる。
その際、体と水が平行になっていたので、飛びこみでいう、腹打ち状態になっていた。
その姿を見た琶狐は腕組をしながら、
「良い気味だな!あたしの尻尾を触ろうなんて、600年早いんだよ!この、ボケナス妖天(ようてん)!」
酷い罵声を言う。
妖天と呼ばれた獣男は、うつ伏せの状態で浮かんでくる。
そして、琶狐は妖天の右手を握って地上へ向かう。
○
びしょ濡れの状態で、2人は、地上へ上がる。
すると、琶狐は突然、上半身に着ていた着物を勢いよく脱ぐ。
一瞬、妖天は慌てるが、すぐに落ち着いた表情になる。
どうやら、琶狐は胸にサラシを巻いていたのだ。
やはり、胸が体を動かす時に、邪魔になるのだろう。
鍛えられた上半身は、とてもすらっとしていて、無駄な脂肪は胸を除いて、全くなかった。
おまけに、肌は綺麗で、触ると、すべすべしていそうな雰囲気を全面的に出していた。
背中に至っては、長い金髪で大半は隠れていたが、それがまた艶(なま)めかしい。
改めて、自分の近くに居るのは、美人な狐女性だと思う妖天。
「ったく……ずぶ濡れだ!」
しかし、言葉を聞いた瞬間、その考えはなくなる。
だが、これにより変な気を起さないで済むのは、少し助かった。
「むぅ……乾くにはぁ……相当、時間がかかりそうだねぇ……」
水滴を、和服から落としながら、妖天はこめかみを触って呟く。
琶狐は、自分の着物を思いっきり、雑巾のように絞っていた。
その姿は、非常に男らしかった。
「貴様も、脱いで絞ったらどうだ!?」
琶狐の言葉に、妖天は耳と眉を動かす。
その表情は、どこか嫌そうだった。
「いやぁ……我は、自然乾燥を待とうと思う……」
拱手をしながら、妖天は言うが、琶狐はその言葉に堪忍袋が切れる。
「はぁ!?貴様は女か!?上くらい、別に恥ずかしくねぇだろ!」
そう言って、琶狐は妖天が来ていた和服を強引に脱がす。
立場が逆だろうと思うが、今は誰も居なかったので、特に違和感はなかった。
「むぅ……」
妖天は、頭を右手でかきながら小さく唸る。
その体は、特に鍛えたような雰囲気は漂わせておらず、ごくごく普通の、若者らしい体つきだった。
琶狐は、その体を見て鼻で笑ったという。
「ふんっ、予想通りの体だな!いままで、どんな生活していたか、すぐに分かる!」
妖天の和服を絞りながら、馬鹿にしたような口調で言う。
——————和服の中に、固い感触があった。
琶子は、思わずその固い物体が、入っているだろうと思う場所へ手を突っ込む。
すると、団子が1本食べられるか、食べられないかくらいの銭が出てきた。
しばらく、無言になる。
そして、琶狐は銭をぎゅっと握り、恐ろしい表情で妖天を睨む。
「貴様、まさかとは思うが……巻物を質屋に入れた成果が、これだとは言わないよな!?」
妖天は、目をそらして、大きなあくびをしていた。
琶狐は、耳をピクピクさせる——————
水が静かに流れる音が、響き渡る桟橋。
その音をかき消すかのように、ぱちんと、とても痛そうな音が響いたという。
○
黄昏時(たそがれどき)。
そろそろ、日が沈んで、人々が酒に酔いしれて、騒ぎ始める時間が近づいていた。
その町の中を、妖天と琶狐は歩いていた。
妖天の右手には、自分が質屋で手に入れた銭と、琶狐が昼間、稼いでくれた銭が乗っていた。
明らかに、琶狐が稼いだ銭の方が多かった。
だが、この銭では団子が10本くらいしか買えなかった。
美味しいご飯を食べるには、程遠い夢である。
2人が突然、金欠になったのには理由がある。
——————妖天が、森の中でお金を落としたからだ。
一応、明日から森に戻って探すことになったが、今日をどう乗り切るか問題だったという。
「貴様のせいで、慣れない売り子を、やるハメになったんだぞ!?」
確かに、こんなに綺麗で美人な女性が売り子になれば、あっという間に客は入ってくるだろう。
しかし、問題は言葉だった。
妖天は、恐る恐る、琶狐に尋ねる。
「君ぃ……大丈夫だったのかぁ……?」
琶狐が、お客さんに罵声を浴びせながら、売り子をしている光景を、想像する妖天。
すると、案の定、こんな言葉が返ってきた。
「んなもん、パッとやってピッだ!」
よく、お金を貰えたな。と、心の中で呟く妖天。
とりあえず、2人のお腹はとても空腹状態だったので、近くのお店に売っていた油揚げを、買えるだけ購入する。
そして、それを口に咥えながら歩く。
油揚げの、独特な甘みが、2人の体と心を癒す。
朝、昼と、ご飯を食べていなかったので、こんな油揚げでも、御馳走だった。
油揚げは、均等に分けられたが、ここで問題が発生する。
1個余ったのだ。
どうやら、買えるだけ買った油揚げの総計が、奇数だったことにここで、発覚する。
もちろん、取り合いになる。
「これはぁ……我の油揚げだぁ……」
「ふざけんな!これは、あたしの油揚げだ!」
こめかみを触りながら、言葉を言う妖天と、歯をぎりぎりと鳴らしながら、言葉を言う琶狐。
とても、醜い争いだ。
この2人の頭には、半分にするという考えは全くないらしい。
あくまで、1つの油揚げを食べたい。そんな、欲が強かった。
すると、妖天は目を見開いて、どこかを見つめて呟く。
「むっ……あそこに、美男が居るぞぉ……」
途端に、琶狐は妖天が見つめていた場所を見る。
その隙に、最後の油揚げを口に咥える妖天。
この獣女。とても、騙されやすい性格をしていた。
当然、こんなことをされた琶狐は耳をピクピクさせながら、怒鳴る。
「貴様ぁ——!よくも、あたしを騙してくれたな!?美男かと思えば、美女が居ただけじゃないか!」
この言葉に、妖天ははっとした表情をする。
確かに、そこには美女が居たのだ——————
背中には、大きな翼を持っており、よく見ると、両手には赤子を優しく抱いていた。
とりあえず、油揚げを食べるために、でたらめなことを言ったはずが、まさかの結果。
妖天は、頭をかきながら、なぜか、美女の居る場所へ向かう。
「貴様!美女が居ると聞いたら、目の色を変えてそっちへ行くのか!?」
琶狐も、怒鳴りながら妖天の後をついて行く。
その表情は、どこか悔しそうだった。
○
妖天と琶狐が美女の近くへ行くと、思わず目を見開いて、凝視してしまった。
整った顔立ち、白くて柔らかそうな頬、艶やかでさらさらの髪の毛、大きくてふわふわしていた翼。全てが、魅力的だった。
琶狐は、耳をピクピクさせ、尻尾を挙動不審に動かしていた。
「あなたたちは……どちら様でしょうか?」
鳥人女性は、突然現れた2人に尋ねる。
妖天は、大きなあくびをして、お得意ののんびりした口調で呟く。
「我はぁ……詐狐 妖天(さぎつね ようてん)。こちらは、神麗 琶狐(こうれい わこ)という。ずいぶんと……可愛い、お子さんをお持ちでぇ……」
鳥人女性が抱きかかえている赤子を、見つめながら言葉を呟く。
生まれて間もないのか、ぱっと見ただけで男の子か女の子か分からなかった。
なので、どっちの性別に言っても、違和感のない“可愛い”と、言った妖天。
「あら……可愛いだなんて、嬉しいお言葉ですわ」
鳥人女性は、にっこりほほ笑む。
その表情を見て、胸の鼓動を激しくさせる琶狐。
妖天は、大きなあくびをしていた。
「わたくし、今、夫を探している所なのです……たぶん、居酒屋に居ると思うのですが、何分(なにぶん)この状態です。赤ん坊を起こさせないように、連れ戻したいのですが……おそらく、無理でしょう……あなたは、心優しそうなお人ですし……この、赤ん坊をしばらく預かってくれませんか?」
鳥人女性は、美しく頬笑みながら、妖天に言う。
すると、また大きなあくびをして、こめかみを触りながら、
「ん〜……我は、断る……面倒だぁ……」
と、だるそうに呟く。
この発言に、琶狐は思いっきり妖天を蹴った。
弧を描くように、5mくらい跳ばされる。
そして、琶狐は鳥人女性から赤子を取り上げるように、預かった。
「ほら!とっとと行ってこい!」
琶狐は、鳥人女性の肩を叩きながら、夫を探すように勧める。
「はい、ありがとうございます……後、お願いですから……絶対に、赤ん坊を落とさないでくださいね」
そう言って、鳥人女性は、この場を後にする。
——————その表情は、胡散臭い微笑みをしていた。
琶狐は、赤子をじっと見つめながら持っていた。
「へぇ……赤ん坊って、けっこう可愛いんだな!」
赤子の寝顔を見て、思わず言葉を言う。
一応、琶狐にも母性心は、あった。
ちなみに、妖天は気絶をしていたので、こんな状況になっていることは、知らなかった。
「なんか、あたしも欲しくなってくるなぁ〜!可愛い、赤ん坊!」
意外と、心の奥は女性らしかった琶狐である。
「ん?」
突然、赤子を見つめる琶狐。
手に変な違和感があった。
先まで、持っていた赤子が、少し重く感じた。
——————小さな石ころから、大きくて丸い石へ変わったかのように。
だが、そんなことを気にせず、ずっと待つ琶狐——————
「ん!?」
今度は、大きく声を上げて、赤子を見つめる琶狐。
手の上に何かが、ずっしりと乗っかるような感覚。
例えるなら、石ころから岩に変わったような感じ。
思わず、力を出して赤子を抱く。
しかし、赤子はどんどん重くなっていく。
岩がどんどん大きくなっていくような感じ——————
「うっ……な、なんだこれは……」
琶狐は汗を垂らしながら、赤子を抱く。
決して、絶対に落としてはいけない。あの鳥人女性の言葉を、考えながら持つ。
だが、赤子はそれでも重くなっていく——————
そして、琶狐はとうとう、赤子を地面に落としてしまった。
当然、眠りから覚めて泣きわめく。
——————「どうして……落としたのですか?」
ふと、背後から恐ろしい声が聞こえてきた。
琶狐は、思い切り、後ろへ振り向く。
そこには、先程の美人で鳥人女性が立っていた。
しかし、その表情は、とても人とは思えないくらい恐ろしかった。
「言いましたよね……絶対にこの子を、落としては……いけませんよ……と。可愛い、可愛い……わたくしの赤ん坊を……落とした罪は……重いですよ?」
鳥人女性は、懐から鋭利な刃物を出す。
銀色に輝く刃の一部に、赤黒い色がついていた。
「赤ん坊は……財宝ですよ……」
そう小さく呟く、鳥人女性。
そして、刃物を琶狐の体に刺す——————
「待てぃ……産女(うぶめ)……」
突如、鳥人女性の後ろから声が聞こえる。
そこには、拱手をしながら、どこか痛そうな表情をして立っていた妖天。
産女と呼ばれた鳥人女性は、すぐ、こちらへ振り向く。
その表情は、とても恐ろしかった。
「あら……正体が、バレてしまいましたね」
くすくすと、笑う鳥人女性。
妖天は、こめかみを触りながら、深い溜息をする。
「はぁ〜……面倒なことになってきたなぁ……こんな、村の中で妖(あやかし)に会うなんてねぇ……」
産女。
それは、立派な妖の名前である。突如、赤子を持って現れ、人々に自分の赤子を預けさせる行動を繰り返す。
もちろん、その赤子も妖である。
赤子は、産女以外の者に持たれると、だんだん体が重くなるのが特徴だ。
いずれ、人の力では持てないくらいに重くなり、落とされる。
そして、その様子を影から見ている産女は、突如現れて、赤子を持っていた人を殺す。
この妖が生まれたのは、女性の未練によるものである。
昔、とある村に、赤子が欲しくて、欲しくてたまらない女性が居た。
しかし、その女性は赤子を授かることなく、死んでしまった。
だが、女性の魂は成仏しなかったのだ。
——————赤子が欲しい。そして、その赤子を誰かに抱いて欲しい。
そんな、強い思いが、女性の魂を産女に変えた。
怨念の塊で出来た赤子を持ち、心優しそうな人に抱かせる。
それは、自分の大切な財宝を託すということ——————
もちろん、託した財宝を雑に扱われるのは嫌う。落とすなんて、もってのほか。
だから、産女は自分の赤子を落とした人を殺す。
産女は、どうして自分の託した赤子を落とされるのかは、未だに理解出来ていない。
——————自分が持っている時は、赤子は重くならないからだ。
「あなた、ただの狐じゃないですね……」
鳥人女性の言葉に、妖天は眉を動かす。
「我は……ただの狐だぁ……それ以上、言葉を言うなぁ……」
やけに低い声を出す。
頼りなさそうな口調が、嘘のように——————
「わたくし、知っていますよ……?あなたのこと……あなたは、狐の……」
パチン——————
妖天は、突然、指を鳴らす。
すると、鳥人女性の足元からは、燃え盛る炎が出てきた。
狐火にしては、やけに火力がある。
そもそも、狐火は戦闘に全く使えない術。
せいぜい、明りを灯すくらいのものなのに、妖天は普通に妖に使っている。
「我はぁ……ただの、狐だぁ……黙って、成仏せい……産女……!」
眉間にしわを寄せて、とても恐ろしい表情をする。
これを見た琶狐は、少し尻尾をびくっとさせていた。
産女は、最後に胡散臭い頬笑みをしながら、焼かれた。
狐火を地面から消して、妖天はこめかみを触りながら、この場を後にする。
とりあえず、琶狐はその後ろを黙ってついていく。
——————今は、そっとした方が身のためだろう。そう、本能が悟る。
一方、妖天は頭を右手で、がんがんと叩いていた。
——————「(この感じはぁ……なんだぁ……)」
- Re: 獣妖記伝録(6記執筆中) ( No.35 )
- 日時: 2011/07/12 20:20
- 名前: 王翔 (ID: gT4Hbmrj)
はい、王翔です!
六記まだ完結してないようですが、読みました!
赤子は一体、何者…何でしょうか?
母親が怖いですね。
続きが気になります……
個人的に村潟が好きです!
獣耳キャラの絵を描くのは楽しいです。
更新頑張ってください!
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