複雑・ファジー小説
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- 獣妖過伝録(7過完結)
- 日時: 2012/09/08 14:53
- 名前: コーダ (ID: hF19FRKd)
どうも〜!私、コーダと申します!
初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!
え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。
只今、超ゆっくり更新中……。
コメントもどしどし待っています。
では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。
※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!
————————————————————————
「お腹すいたなぁ……」
輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。
「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
ただひとつ。
狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。
100本の蝋燭。
大量の青い紙。
そして、青い光に二本の角。
————青の光と狐火
恵み豊かな海。
手漕ぎ船。
蛇のような大きな体と、重い油。
————船上の油狐
それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
星空の下、男女の狐が出会う。
————霊術狐と体術狐
そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」
獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
不思議な放浪記が幕をあげる。
【獣妖記伝録】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
竿が反れる。
妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」
————————————————————————
・参照突記伝録
「1800突破しましたね。嬉しいことです」
・読者様記伝録
ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
狒牙さん(IFを執筆している方です。)
木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)
・感鑑文記伝録
水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)
・宣伝文記伝録
秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)
・絵描様記伝録
王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>20 >>48 >>99
・作成人記伝録
講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)
・異作出記伝録
ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)
・妖出現記伝録
青行燈(あおあんどん)
小豆洗い(あずきあらい)
アヤカシ(”イクチ”とも言う)
磯撫(いそなで)
一本ダタラ(いっぽんダタラ)
犬神(いぬがみ)
茨木童子(いばらぎどうじ)
後神(うしろがみ)
産女(うぶめ)
雲外鏡(うんがいきょう)
煙々羅(えんえんら)
大蝦蟇(おおがま)
大天狗(おおてんぐ)
骸骨(がいこつ)
貝児(かいちご)
烏天狗(からすてんぐ)
九尾の狐(きゅうびのきつね)
葛の葉(くずのは)
管狐(くだぎつね)
懸衣翁(けんえおう)
牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
酒呑童子(しゅてんどうじ)
女郎蜘蛛(じょろうぐも)
ダイダラボッチ
奪衣婆(だつえば)
土蜘蛛(つちぐも)
鵺(ぬえ)
猫又(ねこまた)
野鎚(のづち)
波山(ばさん)
雪女(ゆきおんな)
雪ん子(ゆきんこ)
妖刀村正(ようとうむらまさ)
雷獣(らいじゅう)
笑般若(わらいはんにゃ)
・獣妖記伝録
1記:青の光と狐火 >>1
2記:船上の油狐 >>5
例1記:逢魔が時 >>10
3記:霊術狐と体術狐 >>11
4記:蝦蟇と狐と笑般若 >>15
例2記:貝児 >>27
5記:牛馬と犬狼 >>30
6記:産女と雌狐 >>34
例3記:ダイダラボッチ >>38
7記:蜘蛛と獣たち 前 >>43
8記:蜘蛛と獣たち 後 >>51
例4記:小豆洗い >>52
9記:雪の美女と白狐 >>53
10記:墓場の鳥兎 >>55
例5記:葛の葉 >>58
11記:天狗と犬狼 >>64
12記:狐狸と憑依妖 >>74
例6記:日の出 >>75
13記:雷鳥兎犬 >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐 >>84
例7記:煙々羅 >>87
15記:櫻月と村汰 >>93
16記:神麗 琶狐 >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁 >>100
17記:天狗と鳥獣 前 >>104
18記:天狗と鳥獣 中 >>105
19記:天狗と鳥獣 後 >>112
例9記:九尾の狐 狐編 >>106
20記:温泉と鼠狐 >>113
21記:犬神 琥市 >>121
例10記:九尾の狐 犬編 >>120
22記:天鳥船 楠崎 >>128
例11記:九尾の狐 鳥編 >>133
23記:鬼と鳥獣 前 >>136
24記:鬼と鳥獣 後 >>140
例最終記:九尾の狐 獣編 >>141
25記:鳥獣と真実 >>151
・獣妖過伝録
1過:8人の鳥獣 >>159
例1現:不埒な者たち >>164
2過:2人の狐 >>163
例2現:禁断の境界線 >>166
3過:修行する者 >>165
例3現:帰りと歴史 >>167
4過:戦闘狼と冷血兎 >>168
例4現:過去の過ち >>169
5過:鳥の監視 前 >>170
例5現:起源、始原、発祥 >>171
6過:鳥の監視 中 >>172
例6現:探し物 >>173
7過:鳥の監視 後 >>174
例7現:箒に掃かれる思い >>175
・獣妖画伝録
>>76
>>119
- Re: 獣妖記伝録(11記完結)(オリキャラ募集終了) ( No.71 )
- 日時: 2011/07/26 16:39
- 名前: コーダ (ID: uCV9N75p)
Neonさん>
ここでは、初めまして!そして、オリキャラ投稿ありがとうございます!
なんと!?狐の女性で、巫女服を着ているのに、刀を持っているですと!?
さらに、一人称が我輩……度肝を抜かれました……!
これは……良い意味で、恐ろしいことになりそうです……!
登場まで、気長にお待ちください!
- Re: 獣妖記伝録(11記完結)(オリキャラ募集終了) ( No.72 )
- 日時: 2011/07/26 17:40
- 名前: ナナセ (ID: ckqt968m)
- 参照: http://loda.jp/kakiko/?id
すみません、読み仮名忘れてました。
はづきで合ってます!
変化も人に化ける類です!
- Re: 獣妖記伝録(11記完結)(オリキャラ募集終了) ( No.73 )
- 日時: 2011/07/26 18:09
- 名前: コーダ (ID: uCV9N75p)
ナナセさん>
はい!確かに確認しました!
人に化ける……これも、楽しい展開になりそうですね……
どうぞ、気長にお待ちください!
玲さん、ナナセさん、水瀬 うららさん、Neonさんへ>
くどいようですが、オリキャラ投稿ありがとうございます!
え〜……これからの、執筆予定を発表いたします!
12記:妖天&琶狐と葉月
例6記:???
13記:琴葉&楠崎と淋蘭
14記:妖天&琶狐と乘亞
例7記:???
15記:村潟&琥市と軒先 風鈴
あくまで、予定ですので、突然変更することがございますので、そこはご了承ください。
- Re: 獣妖記伝録 ( No.74 )
- 日時: 2011/09/04 13:56
- 名前: コーダ (ID: uoVGc0lB)
まだ、提灯(ちょうちん)が辺りを照らす時間帯。
空は、雲1つない快晴の星空で、かなり綺麗だった。
しかし、そんな星空を見る者は誰1人も居なかった。
町に居る人たちは、そこら辺の居酒屋で酒を呑んで、騒ぐ。
正直、近所迷惑になるくらいの騒音である。
そんな町に、男女の狐と、1人の少年が居た。
だが、様子はおかしかった。
苦悶(くもん)そうな表情をする少年。
大きなうめき声もあげ、非常に恐ろしかった。
汗をたらしながら、その場に倒れる。
狐の女性は、慌てて少年を抱き寄せる。
「お、おい!?しっかりしろ————!」
回りの騒音に、負けないくらいの大声で叫ぶ。
少年の様態は、どんどん悪化する。
荒い呼吸、若干の痙攣(けいれん)。
最悪だった——————
「な、なんとかしてくれ!このスカポンタン!」
狐の女性は、拱手をしながらじっとしている、狐の男性へ言葉をぶつける。
だが、どこかのんびりしたような雰囲気で返す。
「慌てるなぁ……すぐには死なない……」
こめかみを触りながら、少年の傍へ寄る。
そして、優しく右手を握る——————
「き、貴様……」
少年は、声を震わせて狐の男性へ言う。
すると、柔和な表情をして、
「大丈夫さぁ……君はぁ……我が、助ける……」
瞳を閉じて、狐の男性は念じる。
その姿は、とても頼りがいがあった。
「……憑依(ひょうい)」
この瞬間、少年の表情は柔らかくなる。
狐の女性は、目に涙を浮かべていた——————
〜狐狸と憑依妖〜
慌ただしい町。
朝だというのに、人々は忙(せわ)しない様子で走り回る。
怪しい者が居ないか、鋭い眼光で辺りを見回す武士。
商品の仕入れの為に、他店と交渉をする商人。
色々な手法で、お客さんを店に引き寄せる、売り子。
いち早く、手紙を送るために、休みことなく走る飛脚。
単純に、のんびり買い物を楽しんでいる、主婦。
本当に、たくさんの人々が居た。
金の流れ、人の流れ、全てが円滑に循環していた。
発展している町は、この循環があるからこそ存在する。
もし、1つでも動きを止めてみよう。たちまち、町は崩れる。
血液と同じだ。循環を止めれば人は死ぬ。
慌ただしくしていかないと、だめな理由はこれなのだ——————
そんな町の中、1人で歩く人物が居た。
こげ茶色の髪の毛は、首にいかないくらい短く、とてもさっぱりしていた。もちろん、前髪も目にかかっていなかった。
頭には、ふさふさした2つの耳と1本の尻尾があり、瞳も髪の毛と同じ、こげ茶色だった。
和服を着た男性。いや、少年と言った方が良いだろう。非常に、幼さの残る雰囲気に、どこか狡猾(こうかつ)な雰囲気が混じっていた。
それは、狐か狸を連想させる。
少年は、無言で町を眺めながら歩き進める。
ふと、果物を陳列している商店が目に入る。
真っ赤に実るリンゴ。まず、少年は商品を見る。
そして、店員を見る。お歳を召した、狐の男性だった。
とても、優しそうな雰囲気を漂わせる店員。
不意に、少年は胡散臭い頬笑みをする。
とりあえず、この場を後にして、人気のない場所。桟橋の下へ来る。
1回だけ、大きな深呼吸をして、懐から、手のひらで握れるくらい、小さな和紙を取り出す。
それを、なぜか頭の上に乗せ、瞳を閉じる——————
少年の、ふさふさした2つの耳と、1本の尻尾は、どんどん黄金に輝く金色になる。
顔も少々小柄になり、体つきも女々しい雰囲気を漂わせていた。
気が付いた時には、この場に少年は居なくなって、狐の少女が居た。
とても可愛くて、その笑顔は凶器だった。
桟橋の下を後にして、再び先程の商店へ出向く少女。
——————この時、誰かが居る気配を感じるが、特に気にはしなかった。
ちょこちょこと足を進めて、接近する。
そして、真っ赤に実るリンゴをじっと見つめる。
しばらくすると、お歳を召した狐の店員が声をかける。
「おや、お嬢ちゃん……もしかして、それが欲しいのかい?」
大きく頷く少女。
だけど、その表情はどこか悲しげだった。
もちろん、狐の店員は何を言いたいのか察する。
「無一文かい?」
この言葉にも、大きく頷く。
すると、店員は優しそうな表情でリンゴを1個渡す。
少女は、とても可愛らしい笑顔になる。
「お嬢ちゃんは、可愛いからおまけで、もう1個あげよう」
大きく実るリンゴを、もう1個渡す店員。
少女は、ペコリとお辞儀をして、この場を後にする。
大きくて真っ赤なリンゴ。あの独特な良い香りを嗅ぎながら、少女は胡散臭い頬笑みをする。
「大成功!」
○
桟橋の下、そこにはリンゴを頬張る少年が居た。
真っ赤に実る大きなリンゴ。先程の商店の商品だと判別できた。
だが、おかしいのはそれを食べている者。
少女が受け取ったリンゴは、少年が食べている。
非常に、おかしな光景だった。
もしかすると、少女が少年にリンゴを上げたのかもしれない。
そう考える他がなかった。
——————少年の足元には、和紙が落ちている。
リンゴは、芯しか残っていない状態になる。
無意識に食べていたのか、少年はびっくりする。
お腹を満腹にさせ、リンゴの芯をそこら辺に捨てる。
——————ふと、誰かが居る気配を感じる。
辺りを見回して、誰かが居ないかを探す少年。
案の定、誰かが居た。
黒くて、首くらいまでの長さがある髪の毛。それはとても艶やかであった。前髪は、目にけっこうかかっている。
頭には、ふさふさした2つの耳があり、瞳は黒紫色をしていた。
男性用の和服を、微妙に崩して着用していた。
輝くような黄色い2本の尻尾を、神々しく揺らす。
そして、首にはお札か、お守りか分からない物が、紐で繋がれている。
極めつけに、眠そうな表情と、頼りなさそうな雰囲気を漂わせていた狐男。
のんびり、座りながら釣りをしていた。
少年は、気配を消して、その様子を見つめる。
狐男の竿が反れる——————
その場で立ち上がり、足と手に力を入れる。
どこか楽しげに、竿を操る狐男。
「この重さぁ……大物かぁ〜?」
のんびりした口調で、言葉を言う。
確かに、狐男の言うとおり竿は、かなり反れていた。
少年は、なぜか生唾を飲み込み、一緒に緊張していた。
左右に暴れまわる竿。それを制御する狐男。
——————だが、竿はあまりの重さに折れてしまった。
しばらくの間。空気は冬のように冷えきった。
無残に、水の上で漂う折れた竿。
狐男は、耳をピクピクさせる——————
「わ、我の……竿と大物がぁ……」
目の端に、涙を浮かべながら、悲しそうに叫ぶ。
耳と尻尾も垂れ下がっており、その気持ちがよく感じ取れる。
少年は、思わず笑ってしまった。
当然、狐男は声が聞こえた方向を見つめる。
「貴様!非常に、情けない!」
偉そうに、罵声を浴びせる。
狐男は、もっと耳と尻尾を落胆させる。
しかし、完全に立ち直れない状態ではなかった。
罵声を浴びるのは、慣れている。そんな雰囲気。
少年は、さらに追い打ちをかけるような言葉を飛ばす。
「良い歳した大人が、こんな時間に釣りをしているのもおかしい!そんなに暇なんだね!羨ましいよ!」
この言葉に、狐男の体へ何かが、3本くらい刺さる。
だが、それでも怯まなかった。
「君ぃ……我に罵声を浴びせるのは一向に構わんがぁ……まず、君自身……どうかした方が良いと思うぞぉ〜?」
何を言っているのかさっぱりだった。
突然、自分自身をどうにかした方が良いと言われる。
ここで、はい。分かりました。と、素直に応じる人は居ないだろう。
少年は、嘲笑うかのような表情で、言葉を叫ぶ。
「貴様!訳が分からないな!最近の大人は、言葉も上手く使えないんだな!」
しばらく、無言の空間が流れる。
狐男は、こめかみを触りながら、どこか凛々しい表情で、
「そうかぁ……気付かないならぁ……我が直接言うしかないのかな……君ぃ、そのリンゴ……盗んだだろぉ?」
耳をピクリと動かす少年。
しかし、特に動揺した雰囲気は漂わせていなかった。
「盗んだ?証拠はあるの!?」
少年がそう叫ぶと、狐男は無言で接近してくる。
凛々しい表情と大きな体に、凄まじい威圧感が襲う。
ひっと、言葉を洩(も)らしながら、後ずさりする少年。
「君ぃ……古典的な……たぬ……」
拱手をしながら、狐男は言葉を言う。
その刹那——————
「貴様——!何をしてるんだぁ——!?この、スカポンタン!」
桟橋の上から、大きな罵声が聞こえる。
狐男は、少々嫌そうな表情をしながら、桟橋の方へ首を向ける。
そこには、金髪で、腰まで長い艶やかな髪。頭には、ふさふさした2つの耳がある。
瞳は金色で、見つめられたら、思わず魅了されてしまうような眼光の中に、なぜか力強い威圧感もあった。
肌は、けっこう白く、すべすべしていそうな雰囲気を漂わせていた。
女性用の和服の上に着用して、下半身には、よく巫女がつけていそうな袴を着ていた。
しかし、巫女らしい女々しさも感じられない。
輝くような黄色い1本の尻尾を、神々しく揺らしていた。
もっと言ってしまえば、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花という言葉が非常に似合っていた狐女。
桟橋の上で、腕組をしながら、とても恐ろしい表情をしていた。
「子供を脅すとはぁ……貴様も落ちぶれたな!?あたしが、来なければどうなっていたことか……!」
どうやら、狐女は2人の様子をそう解釈したらしい。
狐男は、慌てる素振りはせず、ゆっくり訂正する。
「琶狐(わこ)……これは、違うんだぁ……我はただぁ……」
「うっせぇ!言い訳すんな!」
琶狐と呼ばれた狐女は、桟橋の上から華麗に跳ぶ。
そして、空中でくるっと360度回り、右足を出して、狐男が居る場所へ向かう——————
見事に、足は狐男の腹に当たる。
苦悶そうな表情をしながら、20mくらい弧を描きながら跳んでいく。
高い、水しぶきを上げながら水の中へ落ちる。
少年は、開いた口が塞がらなかった。
こんなに、美人で綺麗な女性が、あんな技をするとは思わなかったからだ。
人は見た目で判断してはいけない。少年は、心の中でそう誓う。
一方、狐女は腕組をして、満足そうな表情をして鼻で笑う。
「ったく、あのスカポンタンは……本当に、世話が焼ける!貴様!大丈夫だったか!?」
狐女の問いかけに、少年は大きく頷く。
この瞬間、どこか安堵な表情を浮かべる彼女。
「あのスカポンタンには、あたしがきつく言っておく。だから、気にすんな!所で、貴様……よく見れば、けっこう可愛いなぁ!」
突然、少年の頭を力強く撫でる狐女。
すべすべした手が、自分の頭の上にある。なぜか、胸の鼓動が少し激しくなっていた。
すると、狐女はとても明るい表情で、
「あたしは、神麗 琶狐(こうれい わこ)だ。各地を、放浪している狐さ!」
と、独特な犬歯を出しながら言う。
すると、少年はやや赤面しながら呟く。
「葉月(はづき)……」
葉月。おそらく、少年の名前だろう。
琶狐は、口元を上げて、懐から箱のような物を出す。
「葉月。菓子でも食うか?こいつは、美味いぞ!」
「お菓子くれるの?」
少年の問いかけに、琶狐はこくりと大きく頷く。
箱を開けてみると、長方形の薄い煎餅(せんべい)みたいなものが大量にあった。
ニッキの良い香りが、少年の鼻をくすぐる。
そう、彼女の持っていたお菓子は、八ツ橋(やつはし)だった。
恐る恐る、それを1個取って、口に入れる。
ばりっと、音を鳴らす程硬く、少年はなんども力強く噛んでいた。
そのたびに、ニッキの香ばしい風味が、口の中に広がる。
琶狐は、そんな八ツ橋を男らしく、3枚くらい口に入れる。
顎(あご)が非常に強いのか、あの硬さをものともせずに、口を動かす。
「こいつは、美味くて顎も鍛えられる最高の菓子だ!あ〜!茶が欲しくなってきた!」
彼女の言う言葉に、なぜか同意する葉月。
香ばしいニッキの風味を、お茶でさっぱり流す。
最高の組み合わせである。
気が付くと、箱の中にあった八ツ橋は全部なくなる。
8割ぐらい、琶狐のお腹の中に入ったが。
「ふ〜……食った、食った……」
とても、女性らしくない言葉で、自分のお腹を擦る琶狐。
一体、どう生活したらこうなるのだろうか。少年は、非常に頭の中に疑問符を浮かべていた。
「所で、こんなに可愛い葉月が、1人でなにをやっているんだ?父さんと母さんから、はぐれたのか?」
腕組をしながら、そう尋ねる琶狐。
少年は、少し暗い表情をして、呟く。
「俺のお父さんとお母さんは、今頃働いている。昼間は、ずっと1人……なんだ」
葉月の両親は、共働きで稼いでいるので、昼間はずっと1人。
琶狐は、両手を頭の後ろで組んで、小さく唸る。
「そっか。まぁ、そういう家も珍しくないか……共働きしないと、生活していけない家……ったく、貧富の差が激しい国だよなぁ……」
拳をぐっと握り、琶狐はどこか怒りをあらわにして呟く。
彼女も、貧乏な生活をしていた。そういう雰囲気を漂わせる。
気になった少年は、恐る恐る尋ねる。
「琶狐のお父さんとお母さんも、共働き?」
だが、琶狐は突然黙ってしまう。
その表情は、怒り、憎しみという感情が、全面的に出ていた。
耳をびくっと動かして、葉月は自分の言った言葉を撤回する。
「今のは、聞かなかったことにして」
すると、琶狐は浅い溜息をして、
「あたしの父さんと母さんは、40年前にくたばっちまったよ。本当、情けないねぇ……」
強く、言葉を言うが、琶狐の表情はとても悲しみに溢れていた。
これ以上、聞いてはいけない。葉月の本能がそう悟った瞬間——————
「ん〜……そうかぁ……まぁ、仕方ないとは思うぞぉ?」
不意に、背後から声が聞こえてくる。
そこには、先程琶狐に蹴られた狐男が、ずぶぬれで立っていた。
拱手をしながら、どこか凛々しい表情をしていた。
琶狐は、独特な犬歯を出しながら、声を低くして言葉を飛ばす。
「仕方ないだと……貴様に、何が分かるってんだ……!」
今にも殴りかかってきそうな勢い。
しかし、狐男はこめかみを触りながら、だるそうに呟く。
「う〜ん……いやぁ、今は良いかぁ……あまり、他人の過去を掘り下げるようなことは……面倒だしねぇ……」
何かを知っていそうな言葉。
琶狐は、舌打ちをして、逃げるようにこの場を後にする。
葉月も、なぜか彼女の後を追う。
残された狐男は、深い溜息をして、のんびり2人の後ろをついて行く。
○
人々が、1番歩き回る時間帯。
空は、若干茜色になっていた。
ここぞとばかりに、商人と売り子は大声を出して、お客を自分の店に引き寄せようとする。
そんな中、町を歩く琶狐と葉月、そして狐男。
手をつないで、まるで親子みたいな雰囲気を漂わせる2人と、その姿を黙って見つめ、後をついてくるストーカー。
もちろん、ストーカーは、狐男を指す。
「父さんと母さんが帰ってくるまで、あたしと一緒に居ような。葉月」
琶狐は、明るい表情で葉月に言葉を言う。
もちろん、少年は楽しげに頷く。
「(うぅむ……面倒なことになったなぁ……)」
一方、狐男はこめかみを触りながら、2人の様子を見て、どこかだるそうにしていた。
少年の両親が帰ってくるまで、この町に居なければならない。
非常に、時間が惜しかった。
「本当に、葉月は可愛いな〜!よし!なんか、好きな物買ってやる!」
「えっ?良いの?」
——————「汝は、本当に可愛いのぉ……そうじゃ、何か好きな物を買ってやろうか?」
——————「むっ?良いのか……?」
「(……!?)」
狐男は眉間にしわを寄せる。
不意に、脳内で流れる会話。
とても、綺麗な声——————
「ああ!ほら、早く言え!」
「じゃ……お菓子……欲しい」
——————「遠慮するでない。ほら、はよう言ってくれ」
——————「では……油揚げが欲しい……」
「(なんだぁ……我の脳内に……!?)」
汗を流しながら、こめかみを触る。
息も荒くなってきて、少々危ない狐男。
「菓子!?なんだ?もうちょっと、良い物ねだっても良いんじゃないのか!?」
「いや、お菓子が良い」
——————「なんじゃ?汝は、安い男じゃのぉ〜」
——————「我は、それで良い」
「よさんか……君たちぃ、よさんか!」
低く鋭い声が、町の中に響く。
狐男が居た場所だけは、非常に空気が冷めた。
当然、琶狐と葉月は、何がなんだか分からない表情をする。
「我はぁ……油揚げで良いと言っているではないか……九狐(きゅうこ)……」
狐男は、その場にうつ伏せで倒れる。
荒い呼吸、大量の汗、琶狐は慌てて傍へ寄る。
葉月は、その様子をどこか妬ましそうに見ていた。
あんな狐男に、琶狐が動くのは納得いかない。そんな、表情。
くるっと、180度体を回し、この場を逃げるように後にする。
「お、おい!?待て葉月!ちっ……本当に、こいつは世話が焼けるな!」
琶狐は、去りゆく葉月にそう言って、傍に居た狐男を、自分の背中におんぶする。
意外と軽く、行動に支障が全く出なかった。
少年の姿は、もう見えなくなっていた。琶狐は、とりあえず辺りを探し回る。
——————狐男の、お札かお守り見たいな物は、今だけ不思議な感じがした。
○
葉月は、無言で歩く。
たくさんの商店が、左右の目に映る。
骨董品(こっとうひん)、嗜好品(しこうひん)、日常品、食品など、さまざまな物が陳列されていた。
ふと、ある店に置かれている物が、気になった。
金属で、細い棒状な物。そう、簪(かんざし)だ。
かなり、値段の方も高い。
店員は、猫男だった。
すると、葉月は口元を上げて、人気のない商店の影に身をひそめる。
1回だけ、大きな深呼吸をして、懐から、手のひらで握れるくらい、小さな和紙を取り出す。
それを、なぜか頭の上に乗せ、瞳を閉じる——————
葉月の髪の毛は、どんどん伸びる。そして、腰くらいまで長く、艶やかな黒髪になった。
尻尾も、猫みたいにやや細くなり。とても可愛らしかった。
その姿は、完璧に猫少女である。
一瞬のうちに、自分の姿を変える。
そう、葉月は変化(へんげ)が使えたのだ。
そもそも、変化というのは、一部の狸にしか出来ない。
あの狐でさえ、出来ない術である。
犬、猫、狼、兎、鼠、狐、鳥の全てになることができ、さまざまな体型、顔つきまで変えられる。
巨漢な犬。天真爛漫な猫。勇ましい狼。艶めかしい狐——————
ただ欠点として、術者の年齢以上の人にはなれないことだ。
葉月の年齢は、142歳(人間で見ると14歳)くらいなので、143歳以上の人には変化できない。
だから、常に可愛らしい少女に化けている。
それしか、自分が有利になれないから。
ちなみに、懐からだした和紙には、微量ながらの霊力が詰まっているので、変化の術が成功しやすくなる。
可愛らしい猫少女になった葉月は、先程、簪が置いてあった商店へ出向く。
そして、可愛らしく簪をじっと見つめる。
無駄に、自分の艶やかな長い髪の毛もアピールする。
すると、店員の猫男が陽気に声をかけてきた。
「おっ?可愛い子猫ちゃんだな!もしかして、その簪が欲しいのかい?」
こくりと、大きく頷く葉月。
猫男は、この素振りに思わず心が躍(おど)ってしまった。
「その長い髪の毛に、簪は似合いそうだなぁ〜……よし!それ、やるよ!持ってけ泥棒!」
簪を、葉月に手渡して、楽しげに言葉を叫ぶ。
ペコリとお礼をして、その場を後にする猫少女。
——————その表情は、どこか胡散臭かった。
また、人気のない商店の影に行く。
持っている簪を見て、満足そうな表情を浮かべる。
その瞬間、葉月の体は元の姿に戻った。
「これを……あげれば……」
小さく、そう呟いて、簪を懐にしまう。
この場を後にするため、足を進めた瞬間——————
「うっ……」
突然、体に変な違和感があった。
何かが、入っていくような感覚、体を蝕(むしば)むような気持ち悪さ。
しばらく、葉月はその場で膝まつく。
——————だが、5分くらい経つと、それは一瞬でなくなった。
とりあえず、安堵の表情を浮かべて、再び足を動かす。
○
「あ〜……葉月は、どこに行ったんだい!?」
一方、狐男をおんぶしながら、葉月を探していた琶狐。
傍から見ると、非常に珍妙だった。
美人な女性の背中に、1人の男。
情けないという言葉しか、出てこなかった。
「このスカポンタンも放っておけねぇしな……」
琶狐は、深い溜息をする。
自分の背中には、気絶しているか、寝ているか分からない狐男。
しかし、怒りという感情は生まれてこなかった。
「ったく……本当、あたしが居ないとだめだよなぁ……」
この狐男には、自分が居ないとだめ。そんな表情をする琶狐は、どこか優しかった。
ふと、彼女の眼中にある人物が映った。
こげ茶色の髪の毛と瞳。葉月だった。
その表情は、やはりどこか妬ましそうに見える。
琶狐は、そんなことを気にせず、笑顔になって傍に寄る。
「葉月!全くこいつは!可愛いくせして、ずいぶんやんちゃなんだな!」
独特な犬歯を見せて、葉月へ言葉を飛ばす。
すると、少年は無言で懐からある物を出してきた。
金属で棒状の物体。簪だった。
まさかのサプライズに、琶狐は少々驚く。
「なんだい?もしかして、あたしにくれるのかい!?」
輝く簪に、琶狐の表情も輝く。
葉月は、その姿をみて笑顔になる。
「うん。似合うかなと思って……」
この言葉に、琶狐はさらに感激する。
女性として、簪を貰えるのは、とても嬉しい事。
少年の、手に置いてある簪を取ろうとする琶狐——————
「待てぃ……それを、受け取るな琶狐ぉ……」
不意に、背後から声が聞こえた。
どうやら、琶狐の背中に居た狐男が、やっと目覚めた。
葉月は、怒りの表情で言葉を飛ばす。
「貴様!受け取るなとか、何様のつもりだ!?これは、俺が琶狐に渡すために……」
「盗んだ物をぉ……渡すのはどうかと思うぞぉ?」
狐男の言葉に、葉月は思わず黙る。
先まで、偉そうにしていたのに、痛いところを突かれたら黙る。
まだ、幼い証拠だった。
もちろん、琶狐は恐る恐る尋ねる。
「は、葉月?それは、盗んだのか!?」
すると、少年はこの場から、逃げるように後にする。
「お、おい!本当に盗んだのか!?葉月!」
琶狐の必死な問いかけ。しかし、一切振り向かずに足を進める。
「むぅ……琶狐、追えぇ〜……」
背中から、指示をする狐男。
当然、琶狐は葉月の後を追う。
○
気が付くと、提灯(ちょうちん)が辺りを照らす時間帯になっていた。
空は、雲1つない快晴の星空で、かなり綺麗だった。
しかし、そんな星空を見る者は誰1人も居なかった。
町に居る人たちは、そこら辺の居酒屋で酒を呑んで、騒ぐ。
正直、近所迷惑になるくらいの騒音である。
そんな町に、葉月と琶狐、狐男が居た。
「葉月!なぁ……あたしに正直に言ってくれ!」
どうやら、いままでずっと、少年の後を追っていたというのが、ここで理解できる。
簪を盗んだかどうか、否か。
それを、言ってくれるまで、琶狐はずっと追いかけるだろう。
「………………」
だが、無言を貫き通す葉月。
すると、琶狐の背中の上に乗っていた狐男が、こめかみを触りながらだるそうに、
「君ぃ……変化の術で、人を騙す狸だろう?それくらい、我には分かるんだぞぉ……」
この言葉に、少年は耳をピクリと動かす。
実は、耳というのは心以上に、正直な気持ちを表す部分である。
動いた。つまり、人を騙す狸であると自分から白状したことになる。
琶狐は、独特な犬歯を出して、途端に怒鳴る。
「だめじゃないか!人の物を盗むなんて!あたしは、そういう奴は大嫌いなんだ!ほら、早く返しに行くんだ!」
傍から見ると、母とその子供に見えた。
琶狐の怒鳴る表情の中に、どこか母親らしい優しさもある。
狐男は、耳をピクピクさせながら、その様子を見ていた。
すると、葉月は目から大量の涙を流し始める。
「お、俺……こんなに、構ってくれた人……うっ……初めてだったんだ……ひっく……だから……お礼がしたくて……でも、お金がないから……ひっく……」
盗んだ理由を切実に語る。
すると、琶狐は葉月の頭を力強く撫でる。
「ったく、その気持ちはあたし嬉しいよ!だけどなぁ、盗んだ物を渡して喜ばせるのは、だめだろ?ほら、あたしたちが付いて行ってやるから、返しに行くぞ!」
この言葉を聞いた狐男は、どこか柔和な表情をしていた。
琶狐の新たな魅力。子供思いの優しい心。いつも、罵声を飛ばしている彼女も、ちゃんと女性らしい所がある。
「(ふむ……)」
なぜか、こめかみを触りながら、狐男は小さく頷いた。
——————その刹那。
葉月は、突然苦悶そうな表情を浮かべる。
大量の汗をかき、荒い呼吸。
どこか、体を蝕むような感覚——————
ちょっと前にも、そんなことがあった。
琶狐は、目を見開き思いっきり叫ぶ。
「お、おい!?どうした!?」
背中の狐男を放り投げて、葉月を抱く琶狐。
少年は苦しそうに、ある言葉を連呼する。
「簪を返す……嫌だ、怖い……怖い……やらない方が良い……怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……!」
怖い。
簪を返すことが怖いと、少年は言う。
きっと、店の人に怒られることを恐れて、そう言っているのだろう——————
だが、普通の子供が駄々をこねるには、尋常ではない雰囲気。
気が付くと、葉月の体は大きく痙攣(けいれん)もしている。
最悪だった——————
狐男は、拱手をしながらその場に立ち上がる。
「な、なんとかしてくれ!このスカポンタン!」
琶狐は、拱手をしながらじっとしている、狐の男へ言葉をぶつける。
だが、どこかのんびりしたような雰囲気で返す。
「慌てるなぁ……すぐには死なない……」
こめかみを触りながら、葉月の傍へ寄る。
そして、優しく右手を握る——————
「き、貴様……」
葉月は、声を震わせて狐の男性へ言う。
すると、柔和な表情をして、
「大丈夫さぁ……君はぁ……我が、助ける……」
瞳を閉じて、狐の男は念じる。
その姿は、とても頼りがいがあった。
「……憑依」
この瞬間、葉月の表情は柔らかくなる。
琶狐は、目に涙を浮かべていた——————
○
葉月は、琶狐に抱きかかえられて、ゆっくり眠っている。
狐男は、どこか疲れた様子で、あくびをしていた。
「なぁ、葉月に何が起こっていたんだ?」
琶狐は、頭に疑問符を浮かべながら尋ねる。
すると、こめかみを触りながら、
「いやぁ……ちょっと、妖(あやかし)に憑かれていただけさぁ……」
狐男の口から、突然妖という言葉が出てくる。
これには、琶狐は尻尾をびくっとさせた。
「なんだって!?妖には、人の体に憑く奴も居るのか!?」
妖には、実態を持つ者もいれば、姿形が無い者も居る。
実態を持つ者は、人を傷つけることをする。
姿形の無い者は、人に憑くことをする。
葉月を襲ったのは、紛れもなく人に憑くタイプだったのだ。
「まぁ……そういう妖は少ないのだがねぇ……この少年は、ある意味運が良かったのかもなぁ……」
「で、その妖はなんだったんだ!?」
琶狐は、狐男に催促するように言葉を飛ばす。
「むぅ……この少年に憑いていた妖は……後神(うしろがみ)さぁ……」
後神。
人は、何かをやろうとした時に、突然怖くなり、やめよう。と思う時が多々ある。
それは、不安や恐怖によって生まれるもので、人として当たり前の気持ちだ。
しかし、その気持ちがたまに自分の意思と、関係なく起こることがある。
そう。後神の仕業だ——————
葉月は、簪を店に返そうとした。だけど、後神の影響でそれを拒む。
おそらく、本人は返そうという気持ちが強かったと思われる。
——————気持ちが強ければ、妖もそれに対応するくらい力を強くするから。
大量の汗、荒い呼吸、酷い痙攣。全て、後神の影響だ。
狐男は、葉月の体に憑依して、原因を探るとともに、強い霊力で追いだしたのだ。
「人に憑く妖の退治はぁ……非常に難しいからなぁ……」
琶狐は、この言葉に大きく頷く。
今回の件は、完全に狐男が居ないと解決できなかった。
ふと、葉月の目が覚める。
頭を押さえて、周りを見回す。
「おっ!?やっと起きたか!」
琶狐の声が耳に響く。
そして、自分は彼女に抱きかかえられていることに、気が付く。
顔を赤面させて、小さく、
「ありがとう……」
と、呟く。
だが、琶狐は独特な犬歯を出して、申し訳なさそうに言葉を言う。
「その言葉は、そこに居るスカポンタンに言ってくれ!」
葉月の目には、のんびりと大きなあくびをする狐男が映る。
こんな奴が、自分を助けた?と、心の中で思う。
顔をむっとさせて、琶狐に小さく呟く。
「こんな奴が……俺を、助けた?本当なのか!?」
すると、琶狐はどこか苦虫を噛んだかのような表情をして、
「まぁ、信じられないだろ!?たけどなぁ、こいつはやる時はやるんだよ!」
もしかすると、この狐男も琶狐と同じで、見かけ以上の存在なのかもしれない。
そう思い込み始める葉月。
そして、恐る恐る言葉を呟く。
「……あ、ありがとう……その……」
「我は詐狐 妖天(さぎつね ようてん)……さてぇ、簪を返しに行くぞぉ〜」
妖天はそう言って、先頭を歩く。
やれやれと言った表情を浮かべながら、琶狐はその後をついて行く。
店へ向かうまでの道のり、3人はとても楽しそうな雰囲気で歩いていた——————
- Re: 獣妖記伝録 ( No.75 )
- 日時: 2011/07/28 17:52
- 名前: コーダ (ID: n/BgqmGu)
〜日の出〜
胸騒ぎがする。
私は、真夜中に突然起き上がった。
大量の汗をかいていて、荒い呼吸もしていた。
胸がはちきれんばかりの激しい鼓動。ドクドク、ドクドクと、非常に気持ちが悪かった。
辺りを見回しても、真っ暗な部屋しか映っていない。
外からは、梟(ふくろう)の鳴き声が聞こえる。
なぜか、それは恐怖に感じる私。
ギシッと。部屋の中から不気味な音も聞こえてくる。
耳をふさいで、布団に体を包む私。
このまま寝てしまえば、恐怖心に駆られる心配はなくなる。
だが、眠れなかった。
むしろ、どんどん眠気が覚めていく。
体も震えていた。早く、早く朝になってくれと、私は心の中で叫ぶ。
熱い。布団の中に入っているからか、尋常じゃない程の汗が出てくる。
だけど、なぜか布団から出たくなかった。
もしかすると、部屋の中に何かが居るかもしれない。
恐怖心につぶれる私。
声を出しながら、呼吸もしていた。
寝よう、寝ようと考えれば考えるほど、私は眠れなくなる。
なぜだ。なぜなんだ。私は、妖を退治する兎だぞ。
これくらいで、怯んでいたらだめだ。
でも、やっぱり怖かった。
早く、早く、早く、早く朝になってくれ!
切実に願う私。
そして、気が付くと目の前が真っ暗になった——————
○
胸が清々しい。
私はとても気持ち良く起き上がる。
明るい日差しに、思わず目をつむる。
真夜中の、恐怖心が嘘のようだった。
だけど、大量に汗をかいたのは真実だ。
その証拠に、布団がやけに濡れていたからだ。
不思議だ。どうして、同じ部屋なのに、時間が変わると人の心はおかしくなるのだろう。
「おや。やっと起きたようだね」
不意に、私は誰かに声をかけられる。
大きな翼を持った少年。私のパートナー的な存在だ。
とても偉そうで、無茶ぶりもよくするけど、妖退治はとても出来る。
「はい……ちょっと、怖い思いをしました」
私は、真夜中の出来事について、少々恥ずかしかったが、少年に言った。
怖くて眠れなかった。気が付くと、汗も大量に出てきて呼吸も荒くなった。
だいの大人が、何を言っているんだ。と、私は思った。
だけど、少年は私を馬鹿にしなかった。
「そう。まぁ、それは仕方ないよ。だって、妖(あやかし)は逢魔が時(おうまがとき)以降から活発に動くんだからね。真夜中は1番活発の時間……人が、恐怖に陥るのは仕方ないよ。だけど、日の出(ひので)と同時に、妖は居なくなってくる。朝になったら、恐怖心がなくなるのはそのためなんだよね」
なるほど、真夜中で恐怖になることは普通なのか。
逢魔が時と日の出は、対照的な存在。
やっぱり、この少年はすごい。私の頭は上がらない。
「それに……そんなに怖かったなら、こちらを起こしてくれれば良かったのにね」
「もし、起こしたら何をしてくれたのでしょうか?」
私は、意地悪にそう尋ねた。
いつも意地悪な質問をされているので、たまには仕返しも良いだろう。
「君の手くらいなら、握ってあげるよ」
えっ?私の手を握る?
まさか、こんな言葉が返ってくるなんて予想もしなかった。
私は、少々慌てた。
少年は、その姿を見て笑っていた。
「さて、放浪の旅を続けよう」
やっぱり、この少年はすごい。
将来、大物になりそうだな——————
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