複雑・ファジー小説
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- 獣妖過伝録(7過完結)
- 日時: 2012/09/08 14:53
- 名前: コーダ (ID: hF19FRKd)
どうも〜!私、コーダと申します!
初めましての方は、初めまして!知っている方は、毎度ありがとうございます!
え〜……一応、ここに私の執筆作品がありますが、最近、新しい閃きがありましたので、それを形に表してみようと思って、突然、掛け持ちすることになりました。
そして、このたびは2部になりましたのでタイトルも変えて獣妖過伝録(じゅうようかでんろく)としました。
只今、超ゆっくり更新中……。
コメントもどしどし待っています。
では、長い話をばかりではつまらないと思いますので、これで終わりたいと思います。
※今更すぎますけど、この小説はけっこう、人が死にます。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
※この小説は、かなりもふもふでケモケモしています。そういったものが苦手な方は、戻るを推奨します。
秋原かざや様より、素敵な宣伝をさせていただきました!下記に、宣伝文章を載せたいと思います!
————————————————————————
「お腹すいたなぁ……」
輝くような二本の尻尾を揺らし、狐人、詐狐 妖天(さぎつね ようてん)は、今日もまた、腹を空かせて放浪し続ける。
「お狐さん?」
「我は……用事を思い出した……」
ただひとつ。
狐が現れた場所では、奇奇怪怪(ききかいかい)な現象がなくなると言い伝えられていた。
100本の蝋燭。
大量の青い紙。
そして、青い光に二本の角。
————青の光と狐火
恵み豊かな海。
手漕ぎ船。
蛇のような大きな体と、重い油。
————船上の油狐
それは偶然? それとも……。
「我は……鶏ではない……狐だぁ……」
「貴様……あたしをなめてんのかい!?」
星空の下、男女の狐が出会う。
————霊術狐と体術狐
そして、逢魔が時を迎える。
「だから言ったでしょ……早く、帰った方が良いと」
獣人達が暮らす和の世界を舞台に、妖天とアヤカシが織り成す
不思議な放浪記が幕をあげる。
【獣妖記伝録】
現在、複雑・ファジースレッドにて、好評連載中!
竿が反れる。
妖天は突然、その場から立ちあがり、足と手に力を入れて一気に竿を引く。
すると、水の中から出てきたのは四角形の物体。
「むぅ……」
「釣れたかと思えば下駄か! 鶏野郎にお似合いだな!」
————————————————————————
・参照突記伝録
「1800突破しましたね。嬉しいことです」
・読者様記伝録
ステッドラーさん(【★】アーマード・フェアリーズ【★】を執筆している方です。)
玲さん(妖異伝を執筆している方です。)
王翔さん(妖怪を払えない道士を執筆している方です。)
水瀬 うららさん(Quiet Down!!を執筆している方です。)
誰かさん(忘れ者を届けにを執筆している方です。)
ベクトルさん(スピリッツを執筆している方です。)
ナナセさん(現代退魔師を執筆している方です。)
Neonさん(ヒトクイジンシュ!を執筆している方です。)
猫未さん(私の小説を鑑定してくれた方です。)
アゲハさん(黒蝶〜月夜に蝶は飛ぶ〜を執筆している方です。)
水月さん(光の堕天使を執筆している方です。)
狒牙さん(IFを執筆している方です。)
木塚さん(SM不良武士集団を執筆している方です。)
瑠々さん(不思議な放浪記を読む読者様です。)
・感鑑文記伝録
水瀬 うららさん(ご丁寧な評価と嬉しい感想をありがとうございます!)
秋原かざやさん(非常に糧になる鑑定ありがとうございます!)
王翔さん(キャラが個性的と言ってくださり、ありがとうございます!)
紅蓮の流星さん(私の足りない部分を、教えていただきありがとうございます!)
猫未さん(私が夢中になってしまうところを、的確に抑制してくれました!ありがとうございます!)
夜兎さん(私の致命的なミスをズバリ言ってくれました。精進します!そして、ありがとうございます!)
七星 空★さん(新たなる改善点を教えていただきました。楽しいストーリーと言っていただきありがとうございました!)
瑚雲さん(改善する場所を新たに教えてくれました。高評価、ありがとうございました!)
野宮詩織さん(事細かい鑑定をしてくれました!ありがとうございました!)
狒牙さん(とてもうれしい感想をくださり、私が執筆する糧になりました!ありがとうございます!)
及川相木さん(面白い、そしてアドバイスを貰いました!ありがとうございます!)
peachさん(たくさんの意見と、私の課題を見つけてくれました。ありがとうございます!)
・宣伝文記伝録
秋原かざやさん(ドキドキするような宣伝をしてくれました!本当にありがとうございます!)
・絵描様記伝録
王翔さん(とても、可愛い絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>12 >>31 >>37 >>54 >>116 >>132
ナナセさん(リアルタイムで、叫んでしまう絵を描いてくれました!本当にありがとうございます!)
>>20 >>48 >>99
・作成人記伝録
講元(王翔さん投稿!11記にて、登場!「次は、そなたたちである」)
葉月(ナナセさん投稿!12記にて、登場!「大成功!」)
淋蘭(玲さん投稿!13記にて、登場!「ふ〜ん。君、けっこうやるね」)
乘亞(水瀬 うららさん投稿!14記にて、登場!「大嫌いです」)
軒先 風鈴(Neonさん投稿!15記にて、登場!「退屈だ」)
・異作出記伝録
ジュン(玲さんが執筆している小説、妖異伝からゲスト参加しました。本当に、ありがとうございます!)
・妖出現記伝録
青行燈(あおあんどん)
小豆洗い(あずきあらい)
アヤカシ(”イクチ”とも言う)
磯撫(いそなで)
一本ダタラ(いっぽんダタラ)
犬神(いぬがみ)
茨木童子(いばらぎどうじ)
後神(うしろがみ)
産女(うぶめ)
雲外鏡(うんがいきょう)
煙々羅(えんえんら)
大蝦蟇(おおがま)
大天狗(おおてんぐ)
骸骨(がいこつ)
貝児(かいちご)
烏天狗(からすてんぐ)
九尾の狐(きゅうびのきつね)
葛の葉(くずのは)
管狐(くだぎつね)
懸衣翁(けんえおう)
牛頭鬼(ごずき)、馬頭鬼(めずき)
酒呑童子(しゅてんどうじ)
女郎蜘蛛(じょろうぐも)
ダイダラボッチ
奪衣婆(だつえば)
土蜘蛛(つちぐも)
鵺(ぬえ)
猫又(ねこまた)
野鎚(のづち)
波山(ばさん)
雪女(ゆきおんな)
雪ん子(ゆきんこ)
妖刀村正(ようとうむらまさ)
雷獣(らいじゅう)
笑般若(わらいはんにゃ)
・獣妖記伝録
1記:青の光と狐火 >>1
2記:船上の油狐 >>5
例1記:逢魔が時 >>10
3記:霊術狐と体術狐 >>11
4記:蝦蟇と狐と笑般若 >>15
例2記:貝児 >>27
5記:牛馬と犬狼 >>30
6記:産女と雌狐 >>34
例3記:ダイダラボッチ >>38
7記:蜘蛛と獣たち 前 >>43
8記:蜘蛛と獣たち 後 >>51
例4記:小豆洗い >>52
9記:雪の美女と白狐 >>53
10記:墓場の鳥兎 >>55
例5記:葛の葉 >>58
11記:天狗と犬狼 >>64
12記:狐狸と憑依妖 >>74
例6記:日の出 >>75
13記:雷鳥兎犬 >>78
14記:鏡の兎と雌雄狐 >>84
例7記:煙々羅 >>87
15記:櫻月と村汰 >>93
16記:神麗 琶狐 >>96
例8記:奪衣婆と懸衣翁 >>100
17記:天狗と鳥獣 前 >>104
18記:天狗と鳥獣 中 >>105
19記:天狗と鳥獣 後 >>112
例9記:九尾の狐 狐編 >>106
20記:温泉と鼠狐 >>113
21記:犬神 琥市 >>121
例10記:九尾の狐 犬編 >>120
22記:天鳥船 楠崎 >>128
例11記:九尾の狐 鳥編 >>133
23記:鬼と鳥獣 前 >>136
24記:鬼と鳥獣 後 >>140
例最終記:九尾の狐 獣編 >>141
25記:鳥獣と真実 >>151
・獣妖過伝録
1過:8人の鳥獣 >>159
例1現:不埒な者たち >>164
2過:2人の狐 >>163
例2現:禁断の境界線 >>166
3過:修行する者 >>165
例3現:帰りと歴史 >>167
4過:戦闘狼と冷血兎 >>168
例4現:過去の過ち >>169
5過:鳥の監視 前 >>170
例5現:起源、始原、発祥 >>171
6過:鳥の監視 中 >>172
例6現:探し物 >>173
7過:鳥の監視 後 >>174
例7現:箒に掃かれる思い >>175
・獣妖画伝録
>>76
>>119
- Re: 獣妖過伝録 ( No.166 )
- 日時: 2011/11/06 11:05
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: OROHjpgn)
〜禁断の境界線〜
ある猫男は村の中で見た。
犬の男性と鳥の女性が一緒に仲良く歩いている所を。
それは、誰がどう見ても友という文字を超えているような雰囲気。
お互いの手を握り合い、それは決して離れることはなかった。
猫男は口元を動かして、唸る。
この世は異種族同士の恋は認められない。生まれてくる子供がおかしくなるから。
必ず同種族でしか、愛を実らせることはできない。
とても、肩身が狭い恋だ。
だが、人々はそれを了承する者は多い。生まれてくる子供を思うと自然とそうなるからだ。
自分の子供が、自分の孫が変な種族の血が入っていたら当然嫌な気持ちになる。
猫男はそんな犬と鳥から目を離す。
すると、今度は狐の男性と鼠の女性が歩いているのを見た。
また、異種族同士の関係。猫男は思わず口を開けてしまった。
この光景を国のお偉いさんが見たらどう思うのか、そう頭の中で考える。
おそらく、問答無用で死刑。良くて島流し。
下手すると、放火や殺人よりも重たい罪。
——————いくらなんでも、それはおかしい。
そう思うのはごく少数の人々。異種族に魅了された人々の意見。
周りからは冷たい目線。中には刀を抜く者も居る。
それでも、強く愛を貫く2人。猫男は自嘲(じちょう)した表情を浮かべる。
だが、その表情はすぐに柔らかくなる。
頭の中にある人物が思い浮かんだ。
とても美人で黙っていれば男が寄ってくる狐の女性。しかし、口を開ければ罵声ばかり飛ばす。
その口には狼独特な犬歯。見た目は完璧狐だが、一部は狼。
そう、自分はある狐狼(ころう)女と仲が良い。
猫男は再度、異種族の男女を見つめる。
この2人から生まれる子供はどんな子供なのだろうか。将来はどうなるのか——————
そして、同時になぜ異種族の恋が許されないのかという疑問が生まれる。
本当に、男女は同種族にしか想いを寄せないのか。
人生で1度は必ずあるはず。違う種族の魅力に胸が躍るのを。
猫男もそうだった。犬の少女、兎の女性、狐狼の女性——————
むしろ、同じ種族の女性の印象が弱く感じる。
猫男は尻尾をふりふりさせながら、変な気持ちに身を任せてこの場を後にする。
- Re: 獣妖過伝録(例3現完結) ( No.167 )
- 日時: 2011/11/08 22:38
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: 9nM5qdCg)
〜帰りと歴史〜
たくさんの木々で覆われた山の中。
太陽の光を遮り、その中は上空から把握できない。
だからと言って、山の中を散策する者は1人も居ない。あまりにも多い木々に気持ちが辟易(へきえき)するからだ。
そんな山の中に1つの神々しい建物——————神社が建っている。
正面の朱色の鳥居が最初に出迎え、その後は神々しい建物が目を奪う。
——————鳥居の真下で、1人の鳥少女が箒で辺りを掃いていた。
背中に灰色の大きな翼をつけて、巫女服を着ている。
黒色の髪の毛は、腰にかかるくらい長く、可愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿をしていた。
前髪もけっこう目にかかっており、その瞳は藍色に輝いている。
おしとやかな雰囲気とどこか清らからで、安心する雰囲気も同時に漂わせている。
巫女服を着用にするにはとても良い体つきで、無駄な胸は一切ない。正に巫女の中の巫女である。
鳥少女の目はどこか悲しく、それは生気を感じさせない。
箒で掃いている場所を見ないで、時には明後日の方向を見つめる。
そして、深い溜息をする。
こんなに美しい鳥少女が悲しんでいる所を、他の鳥人が見ていたら思わず声をかける。
しかし、ここは山の中。それは一切ない。
巫女は背中の翼を動かして、目から涙を流す。
箒を手から離して、それは無残に地面へ倒れる。
鳥少女は弱々しく、口を開く。
「くす……ざき……」
誰かの名前と推測できる言葉。しかし、何を言っているのかは分からなかった。
巫女はどんどん目から涙を流す。気がつくと、鳥少女が立っている場所だけ雨が降った後のような色をしていた。
「……ちょっと、悪い時にきちゃったみたいだねぇ」
どこからともかく聞こえてくる陽気な声。
巫女は右袖で涙を拭き、声が聞こえた場所を見つめる。
そこには、1人の女性が居た。
頭には灰色の2つの耳が生えており、とても細い1本の尻尾も生えている。
黒色の髪の毛は、肩までかかるくらいの長さで、前髪は右目を隠すくらい長い。
だが、左目の輝く灰色の瞳はとても力強い印象を与える。
やや暗い赤色の着物を着用していて、右手には十手(じって)を持っている。
陽気そうな歩き方の中に、どこか争いごとを何度も経験している雰囲気を漂わせる。
「あなたは……?」
「久しぶりだねぇ。前に会った時よりもずいぶんと綺麗になっているとはねぇ。さすがは巫女さんだよ」
どうやらこの女性とは前に会ったことがあるようである。
巫女は頭の中で古い記憶をあさる。
「——————と言えば分かるかい?」
「……!?」
鳥少女はようやく思い出した。
そして、慇懃(いんぎん)に礼をする。
「良いよ。そんな改まらなくて……無礼講で構わないよ」
女性は持っている十手で右肩を叩きながら、神社の中へ向かう。
「書庫ですか……?」
「まぁね。あたいの柄じゃないけどちょっと調べ物をしたくてね」
妙な微笑みを浮かべながら言葉を飛ばす。
巫女は頭の中に疑問符を浮かべる。
「どういう目的ですか……?」
「……歴史を見直すって感じ。もしくは、歴史を修正する?」
白い歯を出しながら、冗談交じりに言葉を言う女性。
鳥少女は地面の箒を拾い上げて、
「それなら……私も書庫へ行きます」
「……悪いねぇ」
こうして2人は神社の中へ向かう。
歴史を見直して、修正をする。
いまいち女性の言っている言葉が理解できなかった——————
- Re: 獣妖過伝録 ( No.168 )
- 日時: 2011/11/14 22:58
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: e7NtKjBm)
〜戦闘狼と冷血兎〜
とある九尾の狐が言った言葉。
それはとても理解ができないと言って良かった。
突然“わらわは妖(あやかし)”など言われても、どう反応して良いのか分からない。
しかし、それに興味を示した者は尋ねる。
“妖とは何か”と。
すると、九尾の狐は呟く。
——————“この世のどこかに存在し、常に人間と獣人を見つめる妖世界(あやかしせかい)の住民”と。
尋ねた者は腰を抜かす。そして、また興味がわいてくる。
九尾の狐は尻尾を優雅に動かして、辺りを見渡す。
眉間にしわを寄せて、深刻そうな表情を浮かべる。
そして、九尾の狐——————いや、彼女はどこかへ足を進める。
あてもなくふらつく。それは放浪という言葉が1番似合っていた。
○
人間が住む村の中。
時間は太陽が頂点に昇る時で、一通りはかなり激しかった。
「あぁ……それか?それならただでやる」
そんな中、通りにある店から声が聞こえてくる。
古い壺や風化した巻物を陳列している所を見ると、骨董品を扱っている店なのが分かる。
来る客は少ないが、一部の者にはたまらない品ぞろえ。
「ただで良いんですか?」
「そんなもん売り物になりゃしねぇからな……」
店の中で会話をする店員と客。
売り物にならないからただでやる。ある意味、商売人みたいな性格している。
「では、ありがたく貰って行きますね」
客は笑顔で古い壺を持ち、店を後にする。
店員は薄く笑いながら、商品棚を見つめる。
「壊れすぎた物は正直売り物にならねぇ……全く、難しい所だぜ」
浅い溜息をしながら、商品へ言葉飛ばす店員。
客が居ないことを良いことに、店番をすっぽかして店の奥へ姿を消す店員。
——————それを見つめる誰かが居るのを知らずに。
○
店の奥にある居間に座り、のんびりお金を勘定(かんじょう)する店員。
「ったく……いつまでこんなことしなければならねぇんだよ……」
どこか不機嫌そうな店員。この仕事が嫌いなのかもしれない。
勘定を終えたお金を乱暴に机の上に置く店員。
「……なんだ?居るなら出て来い。影智(かげさと)の旦那」
不意に謎の気配を感じた店員は、天井を見つめながら言葉を飛ばす。
「それはできん……」
すると、屋根裏から誰かの声が聞こえてきた。
おそらく、店員が言っていた影智という人物なのだろう。
この出来事が当たり前かのように、店員は口元を上げて会話をする。
普通なら驚いて逃げ出す状況だが。
「んだよぉ……まぁ、今は昼間だし仕方ねぇか……あっしみたいに、変化の術(へんげのじゅつ)を使えば昼までも行動できるのになぁ……」
偉そうに屋根裏へ言葉を飛ばす店員。
傍から見ればとてもおかしな人にみられる。
「……調子に乗るな。堪狸(たんり)」
さすがに少し堪忍袋が切れた屋根裏に居る影智は、低い声で堪狸という店員へ言葉を飛ばす。
「おっとぉ……少し怒らせちまったか……悪りぃ、悪りぃ……」
反省をしているのか分からない言葉使い。
屋根裏居に居る影智は、少し無言を貫く。
「どうした?影智の旦那?」
違和感を覚えた堪狸は、影智に言葉を飛ばす。
「殺気を感じる……」
「はぁ……?」
不思議な言葉に、堪狸は眉間にしわを寄せる——————
居間に置いてある箪笥(たんす)に1本の矢が刺さった。
「……狙われているな」
屋根裏から言葉を飛ばす影智。どうやら、矢が刺さったのを音で感知したようだ。
「ちっ……なんだってんだ……」
堪狸は立ち上がり、箪笥に刺さった矢を抜く。
すると、矢に紙がくくりつけられていることに気がつく。
「おい……なんだこれは……」
面倒そうに、堪狸は矢にくくりつけられた紙を取る。
そして、紙に書かれている言葉を見つめる。
——————“次は本気だ”。
「……影智の旦那。久しぶりの出番かもしれねぇぜ?」
しかし、屋根裏からの返答はなかった。
「けっ……相変わらず、仕事だけはやる奴だぜぇ……」
堪狸は持っている紙を乱暴に破り、そこら辺に捨てる。
○
同時刻、森の中。
とても軽快に歩く1人の女性が居た。
頭にはふさふさした2つの耳と1本の尻尾を持っている。
灰色の髪の毛は首くらいまでの長さで、前髪は目にかかる程度の長さ。
上半身は羽織だけを着用しているだけで、あとは胸にサラシというかなり露出の激しい姿。
下半身は巫女が履きそうな赤い袴を着ている。
極めつけに、その鋭い眼光は正に獲物を狙う狼を連想させる。
辺りを見回し、独特な犬歯を見せる。
「ふ〜ん……けっこうやらかしているんだねぇ……」
両手を頭の裏へ持っていき、尻尾を動かす狼女。
彼女が見たのは、たくさんの死体。
深い草によって一見何もないように見えるが、よく見ると人の死体が大量に転がっている。
とても不気味な光景。だが、狼女は特に表情を変えなかった。
「へぇ〜……斬る所を拘らないなんてねぇ……少し、仲良くできそうじゃん」
死体を見つめて、笑顔になる狼女。
たくさんの死体に共通したこと。それは身体の至る所が斬られているのだ。
もっと付け足して言えば、斬られた所は1人1人違うということ。
急所を狙われて斬られた者、狙われずに斬られた者。
明らかに、乱暴な人が斬ったということが分かった。
「荒々しい斬り方……相手は狼だねぇ……まぁ、あたいも斬る場所に拘りはないし、気持ちは分かるけど……」
狼女はとある場所を見つめ、
「同族を巻きこむのは、ちょっといただけないねぇ……」
途端に真面目な表情を浮かべて、彼女は言葉を飛ばす。
そう、この辺りの死体は基本的に人間だがほんの一部は狼の獣人などの死体があった。
邪魔な人間を殺すのはとても嬉しいが、同族を巻きこむのは許せなかった狼女。
「ちょっと、あたいがこらしめてあげないとねぇ……」
右手の長い爪を強調させながら、狼女はこの場を後にする。
○
時は少し経過し、逢魔が時(おうまがとき)。
人々は自分の家の中へ入り、不気味な夜を待つ。
当然、それはこの店の店員も同じだった。
「……今日はのんびりできなさそうだぜぇ」
店の居間に座りながら、店員の堪狸はにやけた表情を浮かべる。
なぜか、堪狸の頭の上にはふさふさした2つの耳が生えていたが。
「……堪狸。不用意に耳を出すな」
屋根裏から聞こえてくる声。おそらく、昼間と同じ人物の影智。
堪狸は胡散臭い表情を浮かべながら、
「1日中、変化の術をして疲れてんだよ……少しくらい、正体を明かしても良いだろ?」
昼間もそうだが、堪狸の口から出てくる“変化の術”。
そう、堪狸は古典的な狸だったのだ。昼間は人間に化けて情報を収集する男。
完成度の高い変化の術で、人間は彼を1回も見破ったことはない。
津川 怪猫(つがわ かいねこ)と共に何かを企んでいる——————それが、欺 堪狸(あざむ たんり)。
「………………」
同時に、屋根裏に居るのは堪狸の仲間——————忍兎 影智(にんと かげさと)。
彼は常に影に隠れて、必要な時にしか姿を現さない。いわば忍者みたいな存在。
特に、影智の種族は兎なので聴力は天下一品。
堪狸が情報収集する所を、護衛する存在。
「それによぉ……今のあっしは、命を狙われているんだぜ?人間に化けながら戦うのはちょっと辛いんだよ……」
変化の術は意外と霊力を使う。
だが、堪狸は耳だけの術を解いていた。つまり、尻尾はまだ解いていない。
——————それほど、霊力に自信があるのだろう。
「……戦いなら俺に任せろ」
屋根裏から刃物を取り出すような音が響く。堪狸は耳を動かしながら、
「まぁ、あっしは正直相手を惑わすくらいしかできねぇからな……」
そう呟いた瞬間。昼間と同じく、突然箪笥に矢が刺さる。しかも、今度は3本も。
堪狸は急いで矢が飛んできた方角を見つめる。
——————何者かが、逃げる所を確認できた。
「影智の旦那ぁ!ありゃぁ、兎ですぜ!」
堪狸がそう言った瞬間、天井をぶち抜いて影智は畳の上に着地する。
屋根裏の大量の埃に身を宿しながら、真っ黒な着物。正に忍者を連想させる姿の影智。
「行くぞ……」
「旦那ぁ!降りるなら、後始末のことを考えてくれぇ!」
堪狸がそう嘆いている間に、影智はこの場に居なかった。
「だ、旦那ぁ〜!」
堪狸も店から出て、影智の後を懸命に追う。
時間的に、もう外は暗かったので人間にみられることはなかったのが唯一の救いであった。
○
2人が兎を追っている時、森の中で狼女も深い草むらを走っていた。
風によって羽織は激しく翻(ひるがえ)しており、正に懸命に走っているのが伺える。
「声が聞こえた方向はあっちだから……」
どうやら、遠くの方から声が聞こえたらしい。
それは普通の声ではなく、怯えるような声。
明らかに、異常な事態。狼女は何がどうなっているか興味津津だった。
「血生臭いねぇ……」
鼻を動かし、尻尾を動かす狼女。そして、独特な犬歯を出して口元を上げる。
「久しぶりに楽しくなってきたよ……あたい」
この先何があるのか分からない。だけど、彼女の心は楽しさでいっぱいだった。
狼らしい余裕なのか、はたまた生まれつき恐怖心がないのか。
怯えるような声はだんだんと近くなり、大きくなる。
そして、狼女は深い草むらを抜けて見渡しの良い街道に跳び出る。
「へぇ〜」
街道に足をつけて、思わず出た言葉。
彼女が見た物。それはたくさんの人間と獣人が血を出して倒れている光景。
倒れて間もないのか、身体からはまだ血が出ている死体もある。
狼女は自分の爪を強調させて、辺りを見渡す。
「た、助けてくれぇ——!」
突如聞こえてくる助けを求める声。
狼女は2つの耳をピクリと動かし、声の方向に身体ごとを向かせる。
——————しかし、彼女が振り向いた瞬間。助けを求めた獣人は上半身から大量の血を出して倒れる。
「まだだ……まだ、血が足りん……拙者を満足させる血……血はどこだ……」
倒れた獣人の傍には、大量の返り血を浴びた獣人が居た。
右手に刀を持っていたが、刃は血で染まり非常に恐ろしかった。
狼女はごくりと唾液を飲み込み、いつもの口調で、
「いやぁ〜……ずいぶん、派手にやってくれたねぇ……お前さん」
両手を頭の裏で組み、陽気に言葉を飛ばす。
すると、大量の返り血を浴びた獣人は狼女を見つめる。
その瞳は狂気に満ちていて、人としてありえない雰囲気を醸し出していた。
「次の獲物は……そなたか……」
獣人は刀を構えて、今にも狼女を斬りつけようとする。
「お前さん……完全に戦闘狂となっているねぇ。こういう奴は、東花(とうか)が1番なんだけど……仕方ないかぁ……」
刀を向けられても、相変わらずの口調。
それほど、余裕があるのだろう。
ふと、狼女は辺りを見回し、
「(とりあえず……っと、あれはあるようだねぇ……)」
何かを確認する。
そして、再度刀を持った獣人へ目を移す。
「見たところ、あたいと同じ種族だねぇ……それに免じて、殺さないでおくよ」
どうやら、刀を持った獣人も自分と同じ狼。
これほどまでの戦闘力を出せるのは、犬か狼しかありえないが。
「ぐだぐだとうるさい……拙者は血を見たい……もっと、血を見たい……!」
狂気に満ちた瞳で刀を構え、狼女の懐へ向かう獣人。
——————そして、辺りから鉄と鉄が合わさった音が響く。
○
村から離れた街道。ここでも険悪な雰囲気を漂わせていた。
堪狸に矢を放ったと思われる人物。それを見つめる影智。
「……兎の女か」
大きな弓を持ち、それはどんな獲物でも仕留めるような雰囲気を醸し出す。
そして、兎女の冷たい瞳がまた恐ろしかった。
「あなたも兎か……あの連れの関係者か?」
冷たい瞳と同様に、冷たい口調。
兎というのは基本的に温和で、人と接するのが大好きな種族。
だが、この女性からは兎らしい姿は微塵も感じない。
「関係者というより、同業者だ……」
影智は腰につけている片手刀を構えながら言葉を呟く。
同時に兎女も箙(えびら)から1本の矢を取り出し、弓を構える。
「影智の旦那ぁ!待ってくだせぇ!」
影智の後ろから情けなく走ってくる堪狸。
その様子を見ていた兎女は影智から目を離し、狸男に矢を放つ。
しかし、その瞬間影智の懐から3個くらいの手裏剣を取り出し矢に向けて投げる。
矢の軌道は大幅にずれて、深い草むらへ飛んで行く。
「堪狸……命を狙われていることを忘れるな」
「助かったぜぇ……影智の旦那ぁ……」
冷や汗をかいた堪狸は影智に礼を言う。そして、弓を構える兎女に、
「おいおい……あっしは見ての通り獣人だぜ?なんで命を狙うんだぁ?」
疑問をぶつける。確かに、獣人は人間が憎いので人間を殺すのは当たり前だが、獣人が獣人を殺すのは正直おかしい。
すると、兎女は冷たい瞳で睨みつけながら、
「人間と交流する獣人が何を言う……私は、それが気にくわないだけだ」
影智はこの言葉になぜか小さく頷く。
「だ、旦那ぁ!?そりゃねぇぜ!」
堪狸は焦りながら影智に言葉を飛ばす。
「冗談だ……」
冗談を言った割には、かなり目は本気だった影智。
やはり、忍者ということもあり素顔を明かさないのである。
「戯言は終わりだ……早いところ始末でもして……」
兎女は箙から矢を1本取り出し、素早く堪狸へ矢を放つ。
今度放った矢は独特な風切り音が鳴り響いた。それは合戦の開始を合図するかのようである。
彼女が放ったのは鏑矢(かぶらや)というものだった。主な使い方は音で味方に合図をするためだけにあるのだが、兎女はそれを戦闘に使っている。
ある意味、腕の立つ狩人なのかもしれない。
堪狸は、右袖をかすらせながら矢を回避する。
「ちっ……こりゃ、あっしが囮になって旦那があの女をなんとかすれば良いのか?」
「では、任せる」
影智は一言呟くと、この場から颯爽と居なくなる。
まるで闇の中に隠れたような姿の消し方。さすがは忍者である。
「囮だと?私の狙いから逃げられると思うのか?」
囮をすると発言した堪狸に、薄く笑いながら馬鹿にする兎女。
すると、狸男は懐から不思議な札を取り出す。
「あっしが本気を出せば最高の囮になれるんだぜ?狸をなめんじゃねぇ……」
札を頭の上に乗せて、手を合わせる堪狸。
「人を化かし、それを生きる糧にする狸……化かすためなら手段は選らばねぇ……」
「化かされる前に私が殺す……」
冷たい口調弓を構える兎女。
その瞬間、堪狸は口元上げて、
「幻狂(げんきょう)」
とある術を詠唱する。
すると、辺りは白い靄(もや)に包まれた。
「なんだ?」
特に驚かない兎女。
少々視界が悪くなっただけで、後は支障がない程度。
「あなたの位置は把握している。無駄なあがきだったな……」
弓を構え、力強く矢を射る兎女。
白い靄を突きぬけ、堪狸が居るであろう所へ向かう矢——————
だが、その矢はなぜか兎女の元へ戻ってきたのだ。
「何!?」
突然の出来事に、彼女は弓をその辺に捨てて矢を回避する。
しかし、その瞬間背後から3本くらい矢が飛んでくる。
「くっ……」
不安な態勢でも、矢を回避する兎女。
——————今度は10本くらいの矢が彼女の元へ襲ってくる。
「なっ……」
もう回避をすることができなかった兎女は、飛んでくる矢を身体中に受ける——————
しかし、身体に矢が刺さったような感覚はなかった。
「な、なんだ……?」
あまりの出来事に、不思議な気持ちになる兎女。
そして、その気持ちはだんだん恐怖心に変わっていく。
「この空間は……なんだ?何が起こっている!?」
冷たい口調が一気に焦りに変わる。
ここまで豹変するのは、よっぽどこの空間が怖いのだろう。
「へへっ……これが狸の術だ」
どこからか聞こえてくる堪狸の声。
そう、この白い靄は色々な物が複数に見えてしまう空間なのだ。
兎女が放った矢を、打った本人へ飛んでくるように細工もする。
そして、大量に戻ってくるように矢を操作する。とんでもなく霊力を使う作業。
見た目に似合わない狡猾な戦い方。まぁ、狸と言えば狡猾であるが。
「旦那ぁ!締めは任せまっせ!」
「何?」
堪狸の言葉に疑問符を浮かべる兎女——————
「うぐっ……」
突如、自分の腹に強い衝撃が襲われる。
「俺は忍者のはしくれ……隠密行動くらいお手の物だ……」
兎女を殴ったのは影智だった。
白い靄で目を奪い、その隙に接近する狸と兎の見事な戦法。
「私が……こんな所で……」
兎女はうずくまってその場に倒れる。
影智はすぐさま懐から縄を出して、彼女の身体にそれを巻きつける。
「一応、暴れても良いように縛っておいた。後はお前の好きにしてくれ、堪狸」
仕事を終えたという表情を浮かべて、この場を颯爽と後にする影智。
堪狸は白い靄を消して、頭の上の耳を動かしながら、
「結局あっしは、この女の処理か……とりあえず、倉庫にぶちこんでおくか」
乱暴に兎女を持ちあげて、とっととこの場を後にする堪狸。
果たして、彼女は一体——————
○
「むっ……そなたも、刀を使うのか……」
「まぁねぇ。だけど、こんなちっぽけな刀じゃ本来の力を発揮できないんだよねぇ〜」
獣男が颯爽と狼女の懐へ向かった瞬間、近くにあった刀を拾い上げて対抗する。
おそらく、人間が持っていた物だろう。狼女が辺りを見回してあることを確認したのはこれだったのだ。
「面白い……刀を持つ同士手合わせをして……負けた者の血を見るとしようか……」
「お前さんはとりあえず、血を見たいんだねぇ……だけど、あたいの血はそう簡単には見せないよ……」
狼女は右足で思いっきり獣男の足を払う。
これにより、少し体勢が崩れた所を狙い少し距離を置く。
「人間が使っていた刀じゃ、ちょっと心細いけどないよりはましだねぇ……」
眉間にしわを寄せて、どこか不満そうに刀を見つめる狼女。
「あたいに喧嘩を売ったこと。後悔するんだねぇ……狼男」
尻尾を動かし、独特な犬歯を見せて今度は彼女の方から狼男の懐へ颯爽と向かう。
持っている刀を両手に持ち、殺すと言わんばかりの雰囲気で斬りつける。
当然、狼男も持っている刀で対抗する。
しかし、狼女は口元上げて刀を途端に右手に持ち替える。
これにより、本来とは全く違う場所から刀が来ることになる。
狼男はこの突然の出来事に反応出来ず、右頬を斬られる。
「くっ……拙者の血だと……」
「真正面からくると思ったら困るねぇ……やっぱり、刀は小回りが効いて融通が効くかぁ……でも、やっぱりやだねぇ〜」
狼女は2つの耳を動かし、どこかつまらなそうに言葉を呟く。
大量の人間と獣人を殺す狼男の腕に失望したのだろう。
「短期決戦と行こうかねぇ……」
狼女は両手で刀を持ち獣男の懐へ向かう。
そして、今度は無我夢中に刀を振った。
だが、それは狼男にとっては連撃にしか見えず、耐えることで精一杯だったのだ。
一方、狼女は刀を振るのをやめない。その姿は巫女が踊る神楽(かぐら)のようだった。
荒々しくも繊細な動き。狼だからこそ出来る行為である。
「どうしたんだい?もしかして、お前さんの本気はそこまでなのかい?たくさんの人を殺したのに、そんな腕前じゃ情けないねぇ〜……!」
狼女は最後に思いっきり勢いをつけた一閃をする——————
狼男が持っていた刀は見事に宙を舞う。
「む、村汰(むらた)が……」
自分の刀が飛ばされ、それを目で追う狼男——————
「戦い中に余所見をするなんて、まだまだだねぇ〜……!」
狼女が刀を振り下ろすと、狼男の背中から大量の血が噴き出す。
刀を目で追ってしまい、背後に隙が出来たからだ。
言葉も残さず、その場でうつ伏せに倒れる獣男。
「お前さんは殺すにも値しないねぇ……こんなに弱いのに、血を求めるなんて100年早いのさ」
独特な犬歯を出しながら、狼女は持っている刀をそこら辺に投げ捨てる。
そして、狼男が持っていた刀を拾いさらには狼男を持ちあげて右肩に置く。
「しばらく、お前さんの事を聞こうとしようかねぇ……」
尻尾を動かしながら、深い草むらに消えていく狼女。
この男は一体——————
- Re: 獣妖過伝録 ( No.169 )
- 日時: 2011/11/19 05:17
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: dAt4xoZB)
〜過去の過ち〜
頭にはふさふさした2つの耳が生えており、猫のように細い尻尾をふりふり動かしている。
灰色の髪の毛は肩までかかるくらい長く、前髪は目にかかっていない。
橙(だいだい)色の瞳は、いままで楽しく生きていたのが分かるくらい明るく輝いており、見つめられると思わず眩しく感じるくらい。
さらに、非常に力強い歩き方をする。それは色々な所を放浪していると伺わせる。
登山用の鞄(かばん)を持ち、陽気で話しかけやすい雰囲気を醸し出す。
そんな猫男——————とある街道を歩いていた。
右手には田畑が広がり、左手には一部が山火事で燃えたような山がある。
猫男は少々懐かしそうな表情を浮かべる。
そして、後悔もしていた。
「どうして、わっちはあんなことをしたんだろうなぁ……」
山を見つめながら、言葉を呟く。
その瞳の先には、周りと背丈が合わない木々。
過去に山火事が起きて、そこからまた伸びる木々だった。
「……過去を振り返ってもしょうがないけど、わっちは馬鹿だった」
尻尾を動かして、深い溜息をする。
山から目を離し、また街道を歩き始める。
あの陽気な歩き方は、今だけはなかった。
「今のわっちは、色々な種族に好意を持てる自信がある。犬、狼、兎、狐、鼠、狸、鳥……猫にしか眼中がなかったあの時が懐かしいなぁ……」
猫男の脳内には色々な種族が思い浮かぶ。
どれもこれも魅力的で、思わず胸が躍ってしまう。
自分にはない個性。そこに気付いてしまったのである。
「……これは、わっちだけなのか?」
同種族以外の者に好意を持つ。それは自分だけなのか考える猫男。
否、そんなことない。人は誰しも自分と違う種族に憧れている。
力強く、真っすぐな生き方をする犬と狼。
人懐っこく、色々な人に可愛がられる猫と鼠。
集団行動を好み、協力して生きていく兎と鳥。
狡猾に生きて、知的に生きていく狐と狸。
しかし、それを認めて恋をしてしまえば途端に犯罪者——————
「いや、わっちだけじゃない……ここに住む者、全員そう思っている……」
国の変な決まりで、人々は自由にできない。
そして、猫男はとんでもないことを呟く。
「同種族しか恋ができない決まりなんておかしい。あんなの人々の心を殺している……」
いつにもなく真剣な表情を浮かべる。
同種族しか相手が作れない。そんなのおかしい。
「……変えてみせる」
目を見開き、なにか意味深な一言を呟く。
——————今の猫男の歩き方は、とても力強かった。
- Re: 獣妖過伝録 ( No.170 )
- 日時: 2011/11/29 07:49
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: we6cvIg7)
〜鳥の監視 前〜
彼女。そう、九尾の狐はある猫を見つめていた。
同時に、猫も九尾の狐を見つめる。
何かを訴えるような瞳、それをひしひしと感じ取る九尾の狐。
猫には2本の尻尾があった。彼女はそれに気づき思わず自分のこめかみを触る。
尻尾の数が多ければ多いほど、霊力があると言われる獣人。
自分もそうだが、一般の獣人が2本以上の尻尾をつけることは稀である。
あまり、関わりたくなかった——————
変な入れ知恵をして、無駄に力をつけてもらったら困る。
九尾の狐は、猫から目を離しその場を去る。
だが、猫は彼女を追う。その瞳は何かを訴える。
あまりのしつこさに、九尾の狐は深い溜息をして猫の話を聞く。
——————“人が邪魔だ”。
○
空は全面的に曇っており、あまり気持ちのいい日ではなかった。
生ぬるい風も吹いており、近いうちに雨がふりそうな空気。
正直、外で長いはしたくなかった。
「参りましたね……」
そんな中、とある森の中で巻物を見つめながら歩く男性が居た。
肩までかかるくらい長い黒い髪の毛で、前髪は目にかかっており、ぱっと見た感じ女性に見える顔立ち。
左目には片メガネのモノクルをつけていて、少々知的な感じを受ける。
背中には灰色の大きな翼をつけていて、今にでも大空へ羽ばたくような雰囲気を漂わせる。
右目の瞳は深海みたいに青色で、左目は血を連想させるように赤かった。
男性用の和服の上に羽織を着ていて、その姿は思わず拝みたくなってしまうくらい。
極めつけに錫杖(しゃくじょう)を持ち、遊環(ゆかん)を鳴らして妙な雰囲気を漂わせる。
「物事の進み具合が最近乱れているような気がしますね。ちょっと、監視が大変……」
モノクルを光らせて、眉間にしわを寄せる鳥男。
懐から筆を出して、器用に歩きながら巻物に執筆する。
「神楽(かぐら)たち、堪狸(たんり)たち、九狐(きゅうこ)、怪猫(かいねこ)……それぞれ動きがあるとそこまで足を運ばないと……」
この鳥男は、いわゆる情報伝達屋みたいな仕事をしている。
各場所に居る仲間たちの行動を監視(この表現は少々おかしいが)して、全員に伝える。
かなり面倒な仕事だが、常に執筆して何かを残す癖がある鳥男が適任だと判断されたので、拒否権がなかったらしい。
「風の噂で、変な人も捕まえた班も居ると聞きましたし……」
苦虫を潰したような表情を浮かべる鳥男。
——————ふと、正面に誰かの姿が見えた。
持ち前の鋭い眼光で見るが、やはり遠すぎて誰なのか分からなかった。
鳥男は持っている錫杖の遊環を鳴らし、不気味に辺りに響かせる。
普通の人なら、この音を聴いて逃げてしまう。そして、逃げなかった時は——————
何度か鳴らして、様子を見る鳥男。すると、遠くに居た人は逃げるどころかどんどん距離を縮めていく。
口元を上げる鳥男。その表情はどこか微笑んでいた。
「久しぶりですね」
自分の元へ向かってくる誰かに、一言飛ばす鳥男。
そう、遊環の音を鳴らして逃げなかった時は自分の仲間である可能性が高い。
いわば、仲間同士の秘密の合図である。
「……どうした?須崎(すざき)」
鳥男の元へ向かってきたのは妙に耳の長い男だった。
頭には白くて長い耳を2つつけており、それは兎を連想させる。
白色の髪の毛は首くらいまでの長さで、前髪は目にかかる程度の長さ。
瞳は闇のように黒く、常に影で何かをやっているような雰囲気を漂わせる。
さらに、全身を黒い着物みたいなもので覆い、その姿は正に忍者みたいだった。
懐には色々な物が入っているような音を出して、腰には片手刀をつけている。
須崎と呼ばれた鳥男は、頬を緩ませて兎男へ言葉を呟く。
「いえ、そちらの方で何か変わった出来事がないかと……」
「変わったこと……兎を捕まえたことだな」
この言葉に、須崎は翼をピクリと動かす。
やはり、何かあった。遥々(はるばる)ここへ来て良かったと心の中で呟く。
「兎ですか……では、その兎に会わせてくれます?影智(かげさと)」
「かまわん。ただし、兎を捕まえている場所は人里……行動は隠密に頼む」
こくりと頷く須崎。
そして、2人は兎が居る場所へ静かに向かう。
○
「くっくっく……なんだ、意外とたやすいな……」
一方、深い草むらで覆われている森の中で1人の男が不気味に笑っていた。
頭にはふさふさした2つの耳と猫のように細い尻尾が2本生えている。
腰まで長い髪の毛は黒く、前髪も目にかかるくらい長かった。
黒色の瞳を輝かせていたが、その目は妙に変な雰囲気を漂わせる。
男性用の和服を着用していたが、日頃から激しい動きをしているのかやや乱れている。
右手と左手に生えている爪はとても鋭く、引っ掻かれるだけでかなり傷ができるくらいだ。
極めつけに、猫とは思えない冷静な雰囲気を感じる。
「悪いが……私の計画はそんな生易しい物で終わらせる気はない……」
懐からメガネを取り出し、それをかける猫男。
そして、2本の尻尾を動かして精神統一する——————
猫男の目の前に、禍々しい謎の空間が現れる。
直径10cmくらいの穴、その先は真っ暗で良く見えなかった。
しかし、これだけは言える。その空間はこの世の次元を無視してどこかへ繋がっているのを。
「まずは……実験……」
猫男は右手を禍々しい空間に突っ込む。
見た目通り、気持ち悪い感じ。その中で何かを探す。
そして、猫男はゆっくり右手をこの世の空間へ戻す——————
「くっくっく……見事だ……まずは、第1段階終了としよう……」
不気味な笑い声を上げながら、自分の右手を見つめる猫男。
その手に握られていたのは、この世に居る生物とはかけ離れた奴だった——————
見た感じは魚だったが、口には鋭い牙が生えておりそれはやけに長かった。
鱗は紫色に輝いており、その色だけで禍々しい雰囲気を漂わせる。
一言で説明すれば怪魚——————
「妖(あやかし)……磯撫(いそなで)……この怪魚が現れる時は、嵐が起きると言われる……だが、突然私の手によって呼ばれたから混乱しているようだな」
磯撫という妖は、自分の頭が混乱していることを主張するように猫男の右手で、激しく動く。
「………………」
猫男は口元をゆっくり上げて、左手で思いっきり磯撫を引っ掻く——————
当然、磯撫の返り血を受ける。顔と和服にかかった血は猫男をさらに不気味にさせた。
「九狐(きゅうこ)……私は、この世を変える……」
息絶えた磯撫を禍々しい空間に戻す猫男。同時に、その空間を閉ざす。
そして、磯撫の血を口に入れる——————
○
「この倉庫の中に居る」
例の兎が捕まっている倉庫の傍に居る須崎と影智。
あまり人目のつかない場所にあるため、案外2人の姿を見つける者は居なかった。
「……一応、縄できつく縛ってある。俺は堪狸の様子を見てくる」
「分かりました」
影智はこの場を後にする。
1人残った須崎は、倉庫の扉をゆっくり開ける——————
「誰だ?」
扉を開けたと同時に聞こえてくる声。
須崎は、モノクルを光らせて意外そうな表情を浮かべる。
「なんと……影智が捕まえたのは女性の兎でしたか……」
自分たちの仲間が捕まえるくらいの兎だから、とても乱暴な男かと予想していた須崎。
しかし、ここに居るのはその場に座っている女性の兎だった。
腰にかかるくらい長い白い髪の毛で、前髪は若干目にかかっていた。
右目には片メガネのモノクルをつけて、瞳はとても真っ赤だった。
兎のように長くて白いふさふさした耳は、辺りの気配を察知するために常に動いていた。
かなり激しい動きをしているのか、女性用の和服をかなり崩して着用している。
極めつけに、人とは思えない冷たい雰囲気が印象的である。
「私を捕らえた男たちじゃないだと?本当に誰だ?」
女性の兎は眉間にしわを寄せて、本当に頭の中に疑問符を浮かべる。
すると、須崎は笑顔で、
「こちらは天鳥船 須崎(あめのとりふね すざき)と言います。あなたを捕らえた男たちの仲間と思ってかまいませんよ?」
この言葉で、兎の女性の表情が変わる。
殺意を持った瞳をモノクルの先から漂わせる。
「命拾いしたな。私がこの状態じゃなかったらあなたはもう死んでいる」
「おや?ずいぶん自分の力に自信があるようですね……」
須崎は兎の女性の近くに置かれた大きな弓矢を見つめる。
それは猪くらいなら簡単に仕留めてしまいそうな雰囲気を漂わせていた。
「その翼を射抜き、2度と空を飛ばせないようにしてやろうか?」
「それは困りますね……鳥人にとって、翼を使えないのは致命的ですから」
一応脅されているが、それでも余裕な表情を浮かべる須崎。
錫杖の遊環を鳴らし、じっと兎の女性を見つめる。
「所で、あなたのお名前は?」
「なぜ名前を尋ねる?」
当然の反応。そう簡単に自分の名前を怪しい男に言うはずがない。
しかし、これも想定の範囲内なのか須崎は表情を変えず、
「いえいえ、ただ単に気になっただけですよ。それに、あなたはけっこう美人ですしね」
笑顔で言葉を飛ばす須崎。しかし、兎の女性は表情を変えずさらに冷たい口調で、
「この状況で冗談を言うとはな……その腐った根性どこかで使えないのか?」
「さぁ……こちらはいたって普通に接しているのですがね……」
「それが普通だと?つまり、中身は完全に腐っているのか?」
酷い言われようだった。しかし、須崎は全く表情を変えなかった。
「そちらがそう思うならそれでかまいませんよ」
「……食えない鳥だ。あなたから生まれる子供も期待できなさそうだ」
まさかの言葉に、須崎は苦笑する。
「こちらから生まれる子供ですか……確かに、ひねくれていそうですね。偉そうで、人を嘲笑うかのような表情を浮かべて……敵をかなり作りそうですね」
「……意外と容赦ないな」
兎の女性は、須崎の言葉に眉を動かす。
「ですが、そんな鳥人でも後をつけてくれる優しい人が居そうですけどね」
「ふんっ……その人は、ずいぶん物好きだな。私はごめんだな」
長い耳を動かして、兎の女性は言葉を飛ばす。
須崎は、翼を動かして唸る。
「話がかなり横道にそれていますね……なぜ、そちらのような女性が影智に捕まっているのですか?」
話を真っすぐに戻す須崎。横道にそらしたのも自分だったが。
「何、ちょっと兎と狸を襲ってな」
「はぁ……影智と堪狸をですか……」
遊環を鳴らし、須崎もその場に座る。
「特にあの狸……人間と交流している所を見て腹が立った。いつか、その弓矢で射抜いてやる……」
「まぁ、彼は情報収集するためには貴重な人材ですからね」
「……人間なんてこの世から消え去れば良い」
「その台詞。どこかで聞いたことがありますね……」
須崎は何かを思い出すような素振りをする。
けっこう身近にそんな台詞を呟いている人が居た気がするが、明確には判断できなかった。
——————自分の仲間は、ほとんどそういう思いを持っていたから。
「須崎と言ったか?あなたも、人間は邪魔だと思うだろ?」
「……さぁ、どうでしょう?」
兎の女性の問いかけに、微妙な反応をする須崎。
邪魔と思っているのか、邪魔だとは思っていないのかはっきりしない感じ。
長い耳をピクリと動かし、頭を捻る兎の女性。
「本当に食えない鳥だ。何を考えているのかさっぱり分からん」
「よく言われますよ。まぁ、こちらの思惑を簡単に察しられずに済みますがね」
薄く笑う須崎。兎の女性は苦虫をつぶしたような表情を浮かべる。
「……能ある鷹は爪を隠すか」
「こちらは鷹みたいに立派な鳥ではないですよ。例えるなら雀(すずめ)程度の存在でしょう」
「前言撤回(ぜんげんてっかい)する。能ある鷹は身を隠すだな」
この掛け合いに、2人は同時に笑う。
意外と互いのことを気にいっているのかもしれない。
「さて、こちらはあまり長居できませんからね……色々な場所へ行かなければ……」
その場で立ち上がる須崎。どうやら他の場所へ行く時間だった。
兎の女性に会釈をして、体を後ろに180度回す。
「待て」
この場を後にしようとする須崎を引き止める兎の女性。
思わず首だけ後ろに振り向かせる鳥男。
「なんでしょうか?」
「私は箕兎 琴葉(みと ことは)。今日は久しぶりに面白い会話が出来た……次に会う時は、その翼を射抜いてやる」
なんと反応して良いのか分からない言葉。
しかし、これで兎の女性の名前を聞けた須崎は、
「琴葉ですか……良いお名前ですね。では、次に会う時は常に警戒しておきますね」
薄く笑って倉庫を後にする須崎。
琴葉は長い耳を動かして、獲物を狙うかのように鳥男の後ろ姿見つめていた。
○
「さて、風の噂は本当でしたし……次は神楽たちの所へ向かいますか……」
須崎はぶつぶつ言葉を呟きながら、森の中を歩いていた。
さらに、右手で筆を持ち巻物に何かを執筆していた。
相変わらず、器用な鳥男である。
「箕兎 琴葉……彼女が、あんなに冷たい兎になったのはどういう理由があるのでしょうね」
頭に疑問符を浮かべながら、懐から新しい巻物を取り出す須崎。
そして、真っ白な紙に文字を書き始める。
——————箕兎 琴葉(みと ことは)。
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