複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.90 )
日時: 2023/03/20 21:10
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 住宅街を抜け、3人は教会の麓で無事に合流する。
ディヴイットは遠くの標的を狙ったハンティングに夢中で足元の脅威に気づいていない。
ステラは地面を指差し、サクラとメルトと共に低い姿勢で移動する。
教会の窓から敵の有無を確認し、内側に侵入した。

「クソ!クソ!クソ!!雑魚相手にいつまで手こずってんだよ役立たずの銀バエ共!!俺が前線に立たなきゃ、ろくに糞拾いもできねえのか!!」

 高台にてディヴイットはかなり苛立った様子で狙撃していた。
品のない暴言を好き放題に吐き散らし、部下を罵る。

 高台によじ登ったステラはガラドボルグを手にゆっくりと距離を縮めていく。
息を殺し後ろから喉を掻き切ろうと、頭部を押さえつけようとした瞬間、狙撃手は横顔をこちらに向けた。

 両者がはっ!と目を丸くしたのは一瞬だけ。
ディヴイットは即座に体をさせ、近距離でライフルを撃とうとした。
ステラは反射的に手の甲を扇いで銃身を弾き、発砲された弾丸がレンガの柱に大きな窪みを作る。  
ディヴイットはギリリと歯を剥き出しにし、右腿のホルスターに手を伸ばすが

「後ろ!がら空きだよ!!」

 今度はメルトが背後を取り、斧を振りかざして襲い掛かった。
ディヴイットは舌打ちし、斧より先に足をメルトの腹部に当て、彼女を塔から蹴り落とす。  
ふいにサクラが放った魔弾がディヴイットの真上に直撃し、教会の鐘が鼓膜に痛い騒音を鳴らして崩れて真下を押し潰した。
下敷きを免れた2人は取っ組み合いになりながら、墓地が並ぶ裏庭に転げ落ちる。


 サクラとメルトが裏庭に回り込むと標的に馬乗りになり、ガラドボルグを突き刺そうとしているステラの姿だった。
ディヴイットも短剣を押さえつけ、刃先を遠ざけている。

「ぐっ!くぅぅ・・・・・・!この俺を・・・・・・殺れると思ってんのかよ・・・・・・!」

 ディヴイットは片手を右腿に回し、手にしたナイフでステラの脇腹に突き刺した。

「・・・・・・があ!!」

 思いがけない痛感に口から短いあげき声を飛ばすステラ。
力が緩んだ隙に胸を蹴って強引に退かし、拘束を解く。

「ステラさん!!」

 不利な状況から脱したディヴイットは自動拳銃を乱射し、その数発が加勢しようとしていたサクラとメルトの体を貫通した。
悲鳴を上げてながら脚と脇腹を押さえ、倒れる2人。
空弾倉を全弾が詰まった新品へと取り換え、返り討ちにした3人に止めを刺すとした。
しかし、そこへ加勢に駆けつけて来たクリスによって悪企みが妨げられる。

「・・・・・・ちっ!」

 一難が連鎖する戦況にディヴイットは敵に背を向けて走った。
逃げ去るのと思いきや、教会裏にあった小屋の中から予め閉じ込めていたのであろう幼い修道女の髪を掴んで強引に引っ張り出す。
泣きじゃくる子供を跪かせるとこめかみに銃口を突きつけ、実質的な人質にした。

「そんな手段は僕には無意味だ。その子を放せ」

 クリスは怒りを抱くも動揺は皆無のまま、冷静に命令した。 

「るせぇ!銃を捨てて下がれ野糞野郎がっ!じゃねえと、このガキの脳天ぶち抜くぞっ!!」

 クリスは脅迫に屈さず、銃の狙いをディヴイットに定める。
ハンマーを倒し、急所を正確に撃ち抜こうとした。

「ごほっ!ぐへぉ!げっ・・・・・・!」

 しかし、不運は肝心な時に回るもの。
タイミングが悪く、原因不明の咳に見舞われたクリスは構えを崩し、銃口と視線を逸らしてしまう。
その失態が自身が殺される直前に至った事を理解した。 

 予想通り、ディヴイットは反撃の機会を与えた相手に対し、喜んで銃を向けていた。
無様な終焉を迎えさせるつもりで遠慮なしに引き金を引く。
1発の弾丸が放たれ、小さなトマトを指で押し潰したような音がした。
血飛沫がピッと跳ねて、クリスが跪く。

「・・・・・・あ?」

 ディヴイットは気の抜けた声を漏らし、視界の半分が黒く染まった事に違和感を覚える。
生温かい涙液が大量に零れ落ちる感覚に合わせ、神経が激痛を発した。

「が・・・・・・あくっ!・・・・・・あぐああああああああああっ!!」

 自身の身に起きた事を自覚し、絶叫した。
誰かが放った銃弾はディヴイットの左目を射抜いたのだ。
彼は失明した眼球を手で覆い、苦痛と恐怖に精神を蝕まれる。
最早、悪意に満ちた加害者の面影はなく、暴力を振るい合った末に平常を殺された哀れな少年だった。

 相手が突然に発狂を始めた事にクリスは何が起きたのか理解に辿るつけなかったが、霞む視界を頼りに再びリボルバーを突きつけ、銃声を響かせた。
大口径の光線が1人のルシェフェルとすれ違い、第一関節の先を繋いでいた右腕が宙を舞う。
ディヴイットは2回目の絶叫を集落の大半に響き渡った。

「ああああああ!!・・・・・・いてぇ!!いてぇよぉぉぉ!!ひっ・・・・・・ひぃああああ!!ああああああ!!」

 卑劣な凶行でデズモンドを殺した張本人は切断面から流れ出た赤黒い溜め池の上でのたうち回る。
だが、しばらくしないうちに動きが鈍くなって最後は大人しくなった。

 敵の殲滅を認識すると、馴染みのある気配を感じる左に視線を移した。
僅かに間隔を開けた隣に幼馴染のフィオナがいた。
22口径の消音器付きのピストルを撃ったばかりの姿勢で、その表情は凍りついて目は瞳孔を細めている。
クリスは急いで、崩れかける彼女を抱いて受け止め、そのまま、体を包んで額に額を触れさせた。

「ぐすっ・・・・・・ううっ・・・・・・クリス・・・・・・私・・・・・・!」

「何も言わなくていい。喋らなくていいから・・・・・・また君に怖い思いをさせてしまったね・・・・・・」

Re: エターナルウィルダネス ( No.91 )
日時: 2023/03/29 19:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・ああ、ありがとうございます!あなた方に神の御加護があらん事をっ!」

 ローブをまくり上げた修道女が謝意を示してこちらへ駆けつける。
クリスは無事を喜ぶ言葉もなく、ただ、一度だけ頷いた。
すぐにフィオナに関心を戻し、幼馴染の身を案じようとした時、ピキンと甲高い音が鳴る。
金属音が耳に届き、嫌な予感が一気に膨れ上がった。

 さっきまで泣きじゃくっていた修道女はもういなかった。
涙で湿った小さな顔には殺意の形相を描いている。
差し出された手はピンが抜かれた手榴弾を包んで・・・・・・

 如何なる苦境においても冷静沈着でいられるクリスも大口を開けて泣き叫ぶ顔となった。
危険を冒して助けた人質さえも敵の手駒だという発想には及ばなかったのだ。  

 生存を諦めかけた時、風を切る音がして修道女の頭部が一度だけ斜めに傾く。
こめかみに矢が突き刺さり、悪意しかない表情を固めたまま絶命する。


「伏せろっ!!」


 どこからか聞こえた女性の怒鳴り声。
クリスは言われるがままにフィオナに覆い被さる形で地べたに寝転んで、その誰かが転がり落ちた手榴弾を拾い上げて空高く放り投げた。
自身も伏せた直後、火薬が詰まった鉄球が破裂し轟音と爆風が広がった。
熱気と共に燃えカスや細かい破片が降りかかる。

 止まらない震えに苛まれながら、クリスはおそるおそる顔だけを浮かせて命の恩人を見上げた。
視線の先には長く白い髪を生やしたルシェフェルの少女。
血珀の瞳が印象的で強気な性格をしてそうな精悍な顔つきだ。
背が高く、ハイペシアの正規兵とは異なる軍服の上半身にいくつものポーチを取り付けている。
持ち主の身長の半分くらいの長さを誇る弓を手に立ち尽くし、こちらをじっと見下ろしていた。

「ディヴイットが殺されるとはな・・・・・・ルフェーブル・ファミリーをここまで叩きのめすなんて、お前らは一体・・・・・・」

 と冒頭の台詞をわざと聞こえないトーンで呟き、すっきりとしないため息をついた。
彼女はニューエデンズで遭遇したルフェーブル・ファミリーの幹部だった。
ステラとは昔から面識あり、彼からはヒューイと呼ばれている。

「あなたは・・・・・・?」

 今にも事切れそうな細い声でクリスが問いかける。

「私の詮索をしてる暇があったら、撃たれた友人達の心配でもしたらどうだ?」

 と冷たい返事をすると、彼女は一直線にステラのいる方へ場所を移した。

「あ・・・・・・ぐ・・・・・・え?ヒ、ヒューイ・・・・・・?どうして、君が・・・・・・?」

 ヒューイは彼の質問にも答えず、刺しっぱなしのナイフを躊躇いなく抜き取った。

「いぎっ・・・・・・!ぎぅ・・・・・・」

「思ったより、傷が深いな。縫合は面倒だ。気が進まないが、シリカ(霊石)を頼る他ないか」

 ヒューイはやむを得ず、ポーチの1つから光る石を取り出す。
シリカは輝きを発し、完治に時間がかかる傷口を瞬く間に修復した。
一命を取り留めさせたのも束の間、唐突にステラの頬を加減なしに引っ叩き

「ったく!お前がファミリーに楯突いていたバカの1人だったとはな!たった十数人で10万の軍隊にケンカ売るなんて無謀もいいとこだぞ!・・・・・・って何、目を黄色くしてんだよ?少しは場の空気や人の気持ちを読んだらどうなんだ?次は絶対に助けてやんないからな!」

 説教を垂れた本人もちょっとは嬉しそうに手を引いて、ステラを立たせた。
そこへフィオナを支えるクリスとメルトを支えるサクラが2人の元へ。

「僕達を救ってくれた事、改めて感謝します。もし、嫌じゃなければ、せめてお名前だけでも聞かせてもらえませんか?」

 焦ったステラは敵組織の一員であるヒューイの素性を誤魔化すために横やりを入れようとした。
しかし、ヒューイは余計な発言は控え、詮索を許さない対応を貫く。

「一応は味方だ。今この時に限っての事だが。直に奴らの増援が集まって来る。早く、怪我人を連れてこの街から逃げろ。(ステラ、次に会う時は敵同士にならなきゃいいけどな・・・・・・)」


 集落に戻ると、デズモンドの遺体の傍でヴェロニカに簡単な手当てを施すアシュレイがいた。
クリス達の足音を察した彼は背を向けたまま、問いかける。

「狙撃手を殺ったのか?」

「ああ。デズモンドの復讐は果たせた。これで彼も浮かばれるだろうね」

 クリスは後味の悪い吉報を淡々と述べた。

「そうか。ご苦労なこったな・・・・・・」

 アシュレイは台詞を吐息みたいに吐きだし、幾分は心が晴れたかに思えた。
その刹那、急に立ち上がって涙ぐんだ顔を仲間に晒し、物静かな態度を豹変させた。

「・・・・・・どういう事だよ!?何でデズモンドが死ななきゃなんねぇんだ!!?」

「はあ!?何でキレるわけ!?私達に言われても答えられる訳ないじゃん!!あんたってホントバカじゃないの!?むしろ、こっちが聞きたくらいだよ!!」

 メルトも必死に涙を堪えながら、怒鳴り返す。

「ディヴイット・バルザリー・・・・・・奴だけは僕達の顔をはっきりと覚えている。部下全員を把握する優れた記憶力を頼りに組織に楯突く犯人を突き止めたのでしょう。組織への潜入がバレそうになった時、息の根を止めておくべきでした!」

 ステラは過去に犯したミスに腹が立つあまり、木箱を蹴って行き場のない怒りをぶつける。

「ア、アシュレイ・・・・・・クリス・・・・・・」

 ヴェロニカが力のない声で2人の名前を呼んだ。
負傷した腕はまともに銃弾を受けており、流れ出る赤黒い血が白い包帯を染め上げる。

「とにかく!今は怪我をしたヴェロニカさんにまともな医療処置を!」

 サクラが仲間割れをやめさせ、ヴェロニカの治療を優先させる。
クリスは"ああ"と肯定した直後、絶望しかない顔を横に振って、はっきりと告げた。

「大幹部が知っているなら僕達の存在は当然、カトリーヌの耳にも届いている。安全な場所なんてもうどこにもない。ここで起きた事をリチャード達に伝えなくちゃ。一刻も早く、この地域を離れる必要がある」

「デズモンドさんはどうします?彼はもう、"審判の園(オリウェール宗教で信じられている天国と地獄の狭間)"へと旅立ちました。ここに置いて行きますか?」

 ステラの冷たい言葉にアシュレイは彼の肩を強く突き飛ばし、涙塗れの物凄い剣幕で怒鳴った。 

「バカ野郎!!くたばってもデズモンドは俺らの家族だろ!!こんな汚ぇ地面の上で安らかに眠れるわけねえだろうが!!冗談じゃねえ!!一緒によ・・・・・・えぐっ!ぐすっ!全員で帰んだ!!」

Re: エターナルウィルダネス ( No.92 )
日時: 2023/04/09 17:14
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「おい!街の方から銃声がしたぞ!何があったんだ!?」

 リチャードが怒り混じりに事情を問いただそうとしたがメルトに泣きつかれ、これ以上は前に進めなかった。
その横をクリス達が普段より早い歩行で通過していく。

「・・・・・・って!おい!?」

「デズモンドが・・・・・・デズモンドがぁぁ・・・・・・!」

「クリスさん!この騒ぎは一体、何事ですか!?」

 野営地に足を踏み入れたクリスを次に出迎えたのはルイスだった。
神父の後を追って、他のギャング達も血相を変えながら1ヶ所に集まって来る。

「え・・・・・・デズモンドさん?」

「デズモンドさんが撃たれました。近くの街でルフェーブル・ファミリーに襲撃されたんです」

 ダラリと干された毛皮ように動かないデズモンドを同胞達は血の気が引いた凝視を逸らせなかった。
衝撃に静まり返って数秒ほど経過して、ローズが最初に口を開く。

「う、撃たれたって・・・・・・早く、医療処置を施しなさい!何をボサッとしてるの!?ヴェロニカは!?ヴェロニカはどうしたの!?」

「無駄だよ・・・・・・デズモンドは死んだ。死んでしまったんだ。頭を撃ち抜かれてね・・・・・・」

 クリスは口にしたくない恐怖に抗い、はっきりと仲間の死を告げる。

「ああ、神よ・・・・・・」

 ルイスは涙液を滲ませ、祈る姿勢を取った。
ユーリも愕然とし、ふらつきながら膝を崩す。

「やめて・・・・・・ふざけないでよ・・・・・・ふざんけんなクソガキ!!全部、あんたのせいだ!!あんたが余計な事ばっかりするから、デズモンドが死んだのよ!!この死神!!」

 怒り狂ったリリアが怒鳴って、頬への殴打を目的にクリスに掴みかかろうとした。
同じ人間をギリリと睨むローズに取り押さえられ、距離を置かされても彼女の罵声が止む事はなかった。
罪悪感に駆られたクリスにとって、誹謗中傷の痛みなど少しも感じられない。

「嫌だぁ!!デズモンドは死んでなんかない!!クリス!!お願い!!ヴェロニカに怪我の手当てをするように頼んでよ!ねえってば!!」

 仲間の死を受け入れ切れないミシェルはしがみついて、"うん"と言ってくれるまで放そうとはしなかった。
悔しそうに黙って、俯く事しかできないクリス。
リチャードは耳鳴りがしそうなほど喚き散らす小柄な少女を無理に引き離すと

「全員!モタモタしてないで荷物をまとめろ!死にたくなかったら、とにかく急いで支度を済ませるんだ!」

「デズモンドはどうするの・・・・・・?」

 クリスが余命僅かの病人のような気力のない声で問いかけた。

「葬儀をやってる暇なんてないから、ここに置いて行け・・・・・・と言いたいところだが、あいつは俺の人生においてかけがえのない相棒だった。遺体はお前が運べ。お前のために犠牲になったんだから、責任を持って安息に相応しい場所を探してやるんだ」



 翌日・・・・・・

 ルフェーブル・ファミリーの本拠地 ミネルヴァ・デン

 冬の訪れに似た寒い日の午後。
城の庭園にて、カトリーヌは甘い茶菓子とハーブティーを堪能しながら静かな一時を満喫する。
麓に広がる豊かな自然の園を愛おしそうに黄昏れる穏やかな赤い瞳は生命と心を通わせているかのようだ。

「カトリーヌ様」

 そこへ組織の幹部らしき配下が現れ、しっかりとした敬礼を行う。
主を呼んだ生真面目な声はどこか悲しく落ち込んでいた

「ルミエール・ド・フロイラック少尉。どうされたのですか?顔色が良くありませんよ?」

「実は・・・・・・」

 ルミエールの報告を聞き、カトリーヌはしばらく沈黙を保った。
細めた目蓋を太く開いて間もなく口を開く。

「・・・・・・なるほど。ここにエリーゼ・フランゲル中佐とアルバート・ダルニシアン大尉を呼んで来てはもらえないでしょうか?それとヒューイット・マーシャル大尉、レティシア・ダルク大佐・・・・・・そして、ロア・・・・・・いえ、ロアーノ・アシュベリー大将も」

 ルミエールは肯定し、速やかにその場を立ち去った。
数分も経たないうちに指名された幹部達が庭園に集まる。

「カトリーヌ様。如何なされましたか?」

 鬼将のエリーゼがしなやかに問いかける。
カトリーヌは白い椅子から立ち上がると、テーブルに添えてあった年代物のウィスキーのコルクを抜く。
茶色い液体をここにいる人数分のグラスに注ぎ込んだ。
その1つを手に取り、静かに告げる。

「昨日、ディヴイット・バルザリー大尉が殉職しました。名誉ある戦死だとの事です」

 ディヴイットの死を聞いて、エリーゼとその他の幹部も意外と驚愕が入り混じった反応を示した。
現場を訪れ、犯人の逃亡に加担したヒューイも周囲と素振りを合わせる。

「ディヴイット・・・・・・彼はかけがえのない弟とも言える存在でした。ルシェフェル迫害の痛みを知る彼は黒死猫の軍服を着せて以来、幼くも忠実な剣の1つとして、組織に大きな貢献をしてくれました。その偉業は私や同胞の胸に永遠に刻まれる事でしょう」

(あいつが死んだのか・・・・・・バカ野郎。俺より早く死ぬ奴があるか)

 アルバートは哀しみと憎しみを抱き、拳に食い込ませた涙を堪えた。

「英雄を殺めた罪は重い。秩序を意に介さぬ罪人達は神の裁きに命を乞う事でしょう」

「それは違う」

 ルミエールの言葉を上官のエリーゼは即座に否定した。
主君が目の前にいる事を考慮し、この場での怒りを抑えているものの猛烈な怒りに震えた口調で更に台詞を付け足す。

「私達の手で裁きを受けさせるのだ。カトリーヌ様やこの御方に従う忠実な聖騎士である我々1人1人がオリウェールの腐敗を正す法そのものだ。この国に真の栄光をもたらす事は我々意外に成し遂げられぬ使命である事を肝に銘じておけ」

 先程から考え事をする姿勢を保ったまま、ロアーノがふいに敬語を使わない口ぶりで台詞を言い放った。

「カトリーヌ?敵の正体は既に把握しているのよね?存在を知っているなら、単純に排除に動けばいいだけの事。ただ、最近のあなたは敵を侮る傾向が目立つわ。指導者が慢心を許せば、有能な兵士がいくらいても敗北に至るものよ。ディヴイットの死に関しても一部はあなたにも責任がある」

 配下に反抗と皮肉が入り混じったような忠告を受けてもカトリーヌは反論しなかった。
むしろ、短い沈黙の間に反省を済ませ、直ちに判断を幹部達に下す。

「ええ。私とした事が少々ハエを好き勝手に飛び回らせてしまったようです。リチャードギャングと名乗る英雄気取りの下衆には己の愚行と屈辱を学ばせる必要があるようですね。組織の全兵力の3割を彼らの追撃に回します。あなた方にもその役目の一員として動いてもらいます」

「・・・・・・お言葉ですが、カトリーヌ様。リンカーン大統領率いるハイペシア正規軍がファミリーの一掃に動いております。ただの無法者集団のために大量の兵員を動員してしまっては、政府に対抗する術を失ってしまうのでは?」

 エリーゼよりも高い階級であるにも関わらず、物柔らかな態度を示すレティシアが不満そうに異議を唱えるが

「心配はいりません。政府をねじ伏せる切り札ならいくらでも用意してあります。ダルク大佐。あなたも例外なく私の命令に従ってもらいます。組織に楯突く無法者集団の排除を優先して下さい。特にクリス・ヴァレンタイン・・・・・・奴だけは絶対に生かすな。手段は問いません。奴の首を献上した者にはハイペシアの一部が買えるだけのウォールを与えましょう」

Re: エターナルウィルダネス ( No.93 )
日時: 2023/04/19 19:40
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 優秀な味方を失ったギャングは安全な場所を目指してひたすら馬を走らせた。
荒れ地も草原も集落もあらゆる場所を幾度も越えていく。
春が近い季節であるのにも関わらず、真冬を迎えるような寒さが肌に突き刺さるのだ。
デズモンドの死に心が凍てついているからであると、全員が言わずと理解していた。

「デズモンド・・・・・・彼はギャングにとって"砦"のような一員だったわ」

「砦?いえ、"動く要塞"と言うべきかしらね。彼に先立たれてしまった今、大部分の主戦力を失ってしまったわ・・・・・・」

「何もかも全部!クリスが悪いのよ!後先考えない衝動的なやり方が仇となって・・・・・・!いつかこうなると予想できたなら、手荒な真似をしてでも止めるべきだった!」

 最も心許しているローズに対し、クリスへの罵声を吐き捨てるリリア。
ユーリとルイスが怒りと悔しさで我を忘れた彼女を宥めさせる。

「どうか、落ち着いて下さい。いくら誰かを非難しても、道は開けません。重要なのは、この不幸を乗り越えた先をどう生きるかです」

「ユーリさんの仰る通り。家族の死を嘆くのは後回しにしても天使は咎めはしない。今は私達が明日へと生き永らえるか試されている試練の時なのです」

 しがみついて泣きじゃくるメルトの重苦しさを背負い、サクラが独り言を呟く。

「ファミリーは私達の存在を把握していないはず・・・・・・これまでだってずっと、隠密に行動していたのにどうして・・・・・・?」

「唯一の目撃者だったデイヴイットも僕達の顔などすっかり忘れていた。恐らく、知らない"何者か"がギャングの存在を突き止め、ファミリーに密告したのでしょう」

 ステラは単純な推測を行い、明確ではない1つの結論を述べる。

「一体、誰が・・・・・・」

「それが特定できれば・・・・・・僕はそいつを絶対に生かしてはおきませんよ」

 クリスは先頭でフリューゲルを走らせていた。
背後の冷たい視線とまだ体温が残ったデズモンドの遺体の感触に後悔が膨らんでいく。
そこへ馬の位置をずらしたアシュレイとフィオナが横へ並ぶ。

「デズモンドの事は気にすんな。こいつもこうなる事は覚悟の上だったんだ。お前やリチャードのおっさんのために最期まで命捧げられて本望だっただろうよ」

「アシュレイ・・・・・・僕を殴ってくれ・・・・・・」

 クリスの自暴自棄に陥った台詞をアシュレイは実にくだらなそうに笑い飛ばして、腕に軽い1発をお見舞いした。

「ははっ!バーカ。俺はお前が悪いなんざ、これっぽっちも思ってねえ。カトリーヌを敵に回す恐ろしさを全員が知り尽くしてた上で奴の靴に唾を吐き捨ててたんだ。お前個人を責める権利がある奴なんかがいると思うか?」

「私もクリスだけが責められる筋合いなんてないと思うよ。クリスは皆を不幸を招いたどころか、ハイペシアそのものを救うんだから。戦争に勝てば、きっと大勢のルシェフェルが救われる。卑劣な戦争や犯罪組織に終止符を打つきっかけを作ったあなたはこの国の英雄である事を忘れないで?」

 フィオナも同情や偉業を言い聞かせ、幼馴染の肩を持つ。
クリスは左側を向いて、無理に微笑み返した。

「ありがとう。フィオナ。君の言葉が1番心を温めてくれるよ。うっ!げほっ・・・・・・!げふっ!げっ!」

「ったく・・・・・・末期の病人みてぇな咳しやがって。ニューエデンズに行った時から、無理し過ぎなんだよ。身を隠せるとこが見つかったら、少しは体を休ませとけ」



 ギャング達は馴染みのある地を去って遥か遠い地へと身を移した。
向かった先はハイペシア州の南東に位置するエリーヌ。
ルフェーブル・ファミリーの被害が最も少ないとされている比較的安全な地域だった。

 彼らが踏み入れたのは、滅多に人が近づこうとはしない未開拓地の更に奥の沼地。
ちょっとした森林に囲まれる形で豪邸に似た屋敷ポツリと建っていた。
かつては別荘として利用されていたのか、屋敷の裏は海原のように広大な湖が広がる。

「慣れない引っ越し先で野営の支度に不安を隠せなかったが、まともに寝泊まりできそうな建物があったのが不幸中の幸いだったな」

「有難いというのが正直な感想だけど、まさか誰かが住んでる・・・・・・わけないわよね?」

 やや心配性になるリリアにリチャードは軽く笑って

「材質の劣化具合からして、この屋敷は何年も放棄されてる。今更、まともな住まいにしようとは誰も思わないはずだ」

「人はいないけど幽霊さんが出たりして・・・・・・」

 メルトの冗談を本気に真に受けたミシェルが恐がって、リリアの後ろに身を潜めた。

「その時はルイス。お前が死者を弔ってやってくれ。だがまあ、念には念を入れるべきだな。ステラ。建物内部を調べて来てくれないか?援護はユーリに任せよう」

 建物にはやはり誰もいなかった。
安全を確保したギャング達は早速、二手に別れて野営地の開拓に取り掛かる。
建物の1階はサクラ、ステラ、メルト。2階はアシュレイとヴェロニカ。それ以外は外での作業を担当した。

「古いですが、家具一式は十分に使えますね。調理器具が残されていた事は幸運でした」

 ステラが埃を取り除いた食器を棚に戻しながら言った。

「今まで通り、ユーリの美味しい料理が食べられるね♪住んでる環境も変わるから、ひょっとして、メニューも変わるのかな?」

 期待が膨らむメルトにサクラも嬉しそうな言い方で

「より豪華な料理がテーブルに並ぶかも知れませんね。ここは以前より自然豊かな土地ですから」

Re: エターナルウィルダネス ( No.94 )
日時: 2023/05/05 20:07
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「ずいぶん遠くからこの地に移ったけど。何だか、前と似たような所だね?引っ越した気がしない」

 2階の窓から湖の水平線を眺めながら、ヴェロニカが正直な感想を述べる。
アシュレイは黴臭いベッドに広げたシーツを被せ、彼女の腕に巻かれた包帯をチラチラと気にしながら穏やかに台詞を述べる。

「だから、いいんだよ。水がある所に留まりゃ、少なくとも飢えや渇きに不自由する事はねえからな。魚も食い放題だぞ。んな事よりもお前、傷はもう大丈夫なのか?」

「うん。少し痛みは残ってるけど、平気。医者の私がいつまでも患者の立場じゃ、皆の迷惑になっちゃうからね」


「先に死なれて文句を言われるのも嫌だから、最初に忠告しておくけど。この辺は"ワニ"とかがいるから無暗に出歩かない方が身のためよ?特にフィオナ。あんたは都会暮らしで自然の恐ろしさを知らないから尚更、注意が必要ね。一応、湖方面は安全だと思うけど下手に近づかない方がいいわ」

 手綱を繋ぎ止める馬用の柵を作っている最中に言い放ったリリアの忠告にフィオナは震え上がった。

「クリス。本当にワニなんているの・・・・・・?」

 クリスは嘘をつかなかった。

「ああ。いるよ。大きくて凶暴で食欲旺盛な獰猛な肉食動物さ。噛みつかれたら最後。ズタズタに食い千切られる」

 恐怖を煽られる発言の反面、ユーリはポジティブに物事を捉える。 

「凶暴とは言っても、ある程度の距離を置けば無害です。獰猛な獣でさえも自然の恵みだと考えればいいんです。ワニの肉は栄養があって美味ですし、皮は高く売れます。卵には薬の材料にも扱われ、高価な代物です。獰猛な獣でさえも自然の恵みだと考えれば好感が持てますよ」

「ワニなんてスープの具として使った時以来ね。味はまあまあだけど、私としては鹿肉や馬肉の方が舌が喜ぶわ」

 ローズが個人の好みを語り、丸太に腰かけると愛銃であるショットガンを膝の隣に置いた。 
他のメンバーが黙々と作業に明け暮れる中、1人だけ呑気に煙草を吸い始める。

 そこへリチャードが2人の分のシャベルを手に歩いてやって来た。

「無駄話は後の楽しみにしてやるべき事をやれ。クリス。お前は俺と来い。デズモンドの埋葬を手伝ってくれ」

 デズモンドの遺体は掘った穴に仰向けに寝かせられ、全身に土を被せられる。
石と枝で作った簡単な墓石を頭上部分に差し、周囲に生えた花をたくさん摘んで塚を取り囲む形で添えた。
葬儀の喪主はルイスが担当し、参列者に聖書を読み聞かせる。
1人1人が別れの言葉や祈りを捧げ、全員が嘆き悲しんだ。


 永久の別れが済んでも、墓にはクリスとリチャードが留まっていた。
そこへ影が伸びて、2人を覆い隠す。
正体は馬に跨ったステラで高い位置から2人を見下ろしている。

「ステラか。どこに行くつもりだ?」

「僕とサクラさんとメルトさんでこれから狩りに出かけようかと。ミシェルも連れて行く予定です」

「食料の調達なら、是非とも頼む。あのちびっ子にとってもいい教訓になるかもな。ワニの餌食になりたくなかったら、絶対に沼地には近づくんじゃないぞ?」

 再び2人きりになったクリスとリチャードはジンのボトルを開けた。
古くからの付き合いだった親友に酒瓶を低く掲げ、献杯する。

「・・・・・・こいつが死んだなんて、未だに信じられないな」

「このお墓に眠っているのが実は別の誰かで何日かしたら、本物のデズモンドが現れるんじゃないかって本気で考えてるよ」

「俺だってそう望みたい。だが実際、こいつは間違いなく逝ってしまった。勇敢に戦った末にな・・・・・・」

 言葉の交わし合いはそこで途切れ、酒だけが飲まれ続けた。
本来の味を感じず酔いが回らないまま、しばらくして再び会話が始まる。

「リチャードも僕のせいだと思ってる?」

 リチャードは"ん?"を閉じた口から漏らし、物可笑しそうな顔で言った。

「お前がデズモンドを死なせるきっかけを作ったのは事実だ。だが、こいつを死なせた責任は俺達にもある。リリアは一方的にお前に非があると決めつけているが、本当は自分のせいであると知っていて、それを素直に認めたくないんだ」

「リリアは僕に対してあんなだけど、別に嫌いじゃないよ。いつだって、判断を誤った事がない優秀な人材だからね」

「めでたくカトリーヌの始末をやり遂げてのんびりとできる暇ができたら、お前とあいつが仲良くなるための時間を作ってやりたいもんだ」

 クリスは切ない笑みを浮かべ、少し間を開けてから口を聞いた。

「だね。それまでに僕達が生きてればいいけど・・・・・・うっ・・・・・・うぷっ!げほっ!」

「・・・・・・大丈夫か?」

「うん・・・・・・う、ごほっ・・・・・・」

 クリスはむせたように咳き込んで、僅かに残ったジンを飲み干した。

「これをお前に渡しておこう」

 またしばらく経って、リチャードが吸おうとしていた煙草に手を触れず、代わりに小型のボトルをクリスに手渡した。
デズモンドが生前に肌身離さず持ち歩いていた純銀製の古いスキットルだ。
彼は切ない笑みを浮かべ、相棒が眠る墓を眺めながら

「他の所有物は故郷にいるカリスタに送り届ける予定だ。この形見はあいつの化身。また共に旅をさせてやろう」

「これ。カリスタからオリウェールに行く際に故郷で待つ恋人から貰った物だと一度だけ自慢してたっけ。手に持つと不思議とデズモンドが隣にいる気がするよ。彼の生きた証だから一生大切にする・・・・・・ありがとう」


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