複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.93 )
日時: 2023/04/19 19:40
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 優秀な味方を失ったギャングは安全な場所を目指してひたすら馬を走らせた。
荒れ地も草原も集落もあらゆる場所を幾度も越えていく。
春が近い季節であるのにも関わらず、真冬を迎えるような寒さが肌に突き刺さるのだ。
デズモンドの死に心が凍てついているからであると、全員が言わずと理解していた。

「デズモンド・・・・・・彼はギャングにとって"砦"のような一員だったわ」

「砦?いえ、"動く要塞"と言うべきかしらね。彼に先立たれてしまった今、大部分の主戦力を失ってしまったわ・・・・・・」

「何もかも全部!クリスが悪いのよ!後先考えない衝動的なやり方が仇となって・・・・・・!いつかこうなると予想できたなら、手荒な真似をしてでも止めるべきだった!」

 最も心許しているローズに対し、クリスへの罵声を吐き捨てるリリア。
ユーリとルイスが怒りと悔しさで我を忘れた彼女を宥めさせる。

「どうか、落ち着いて下さい。いくら誰かを非難しても、道は開けません。重要なのは、この不幸を乗り越えた先をどう生きるかです」

「ユーリさんの仰る通り。家族の死を嘆くのは後回しにしても天使は咎めはしない。今は私達が明日へと生き永らえるか試されている試練の時なのです」

 しがみついて泣きじゃくるメルトの重苦しさを背負い、サクラが独り言を呟く。

「ファミリーは私達の存在を把握していないはず・・・・・・これまでだってずっと、隠密に行動していたのにどうして・・・・・・?」

「唯一の目撃者だったデイヴイットも僕達の顔などすっかり忘れていた。恐らく、知らない"何者か"がギャングの存在を突き止め、ファミリーに密告したのでしょう」

 ステラは単純な推測を行い、明確ではない1つの結論を述べる。

「一体、誰が・・・・・・」

「それが特定できれば・・・・・・僕はそいつを絶対に生かしてはおきませんよ」

 クリスは先頭でフリューゲルを走らせていた。
背後の冷たい視線とまだ体温が残ったデズモンドの遺体の感触に後悔が膨らんでいく。
そこへ馬の位置をずらしたアシュレイとフィオナが横へ並ぶ。

「デズモンドの事は気にすんな。こいつもこうなる事は覚悟の上だったんだ。お前やリチャードのおっさんのために最期まで命捧げられて本望だっただろうよ」

「アシュレイ・・・・・・僕を殴ってくれ・・・・・・」

 クリスの自暴自棄に陥った台詞をアシュレイは実にくだらなそうに笑い飛ばして、腕に軽い1発をお見舞いした。

「ははっ!バーカ。俺はお前が悪いなんざ、これっぽっちも思ってねえ。カトリーヌを敵に回す恐ろしさを全員が知り尽くしてた上で奴の靴に唾を吐き捨ててたんだ。お前個人を責める権利がある奴なんかがいると思うか?」

「私もクリスだけが責められる筋合いなんてないと思うよ。クリスは皆を不幸を招いたどころか、ハイペシアそのものを救うんだから。戦争に勝てば、きっと大勢のルシェフェルが救われる。卑劣な戦争や犯罪組織に終止符を打つきっかけを作ったあなたはこの国の英雄である事を忘れないで?」

 フィオナも同情や偉業を言い聞かせ、幼馴染の肩を持つ。
クリスは左側を向いて、無理に微笑み返した。

「ありがとう。フィオナ。君の言葉が1番心を温めてくれるよ。うっ!げほっ・・・・・・!げふっ!げっ!」

「ったく・・・・・・末期の病人みてぇな咳しやがって。ニューエデンズに行った時から、無理し過ぎなんだよ。身を隠せるとこが見つかったら、少しは体を休ませとけ」



 ギャング達は馴染みのある地を去って遥か遠い地へと身を移した。
向かった先はハイペシア州の南東に位置するエリーヌ。
ルフェーブル・ファミリーの被害が最も少ないとされている比較的安全な地域だった。

 彼らが踏み入れたのは、滅多に人が近づこうとはしない未開拓地の更に奥の沼地。
ちょっとした森林に囲まれる形で豪邸に似た屋敷ポツリと建っていた。
かつては別荘として利用されていたのか、屋敷の裏は海原のように広大な湖が広がる。

「慣れない引っ越し先で野営の支度に不安を隠せなかったが、まともに寝泊まりできそうな建物があったのが不幸中の幸いだったな」

「有難いというのが正直な感想だけど、まさか誰かが住んでる・・・・・・わけないわよね?」

 やや心配性になるリリアにリチャードは軽く笑って

「材質の劣化具合からして、この屋敷は何年も放棄されてる。今更、まともな住まいにしようとは誰も思わないはずだ」

「人はいないけど幽霊さんが出たりして・・・・・・」

 メルトの冗談を本気に真に受けたミシェルが恐がって、リリアの後ろに身を潜めた。

「その時はルイス。お前が死者を弔ってやってくれ。だがまあ、念には念を入れるべきだな。ステラ。建物内部を調べて来てくれないか?援護はユーリに任せよう」

 建物にはやはり誰もいなかった。
安全を確保したギャング達は早速、二手に別れて野営地の開拓に取り掛かる。
建物の1階はサクラ、ステラ、メルト。2階はアシュレイとヴェロニカ。それ以外は外での作業を担当した。

「古いですが、家具一式は十分に使えますね。調理器具が残されていた事は幸運でした」

 ステラが埃を取り除いた食器を棚に戻しながら言った。

「今まで通り、ユーリの美味しい料理が食べられるね♪住んでる環境も変わるから、ひょっとして、メニューも変わるのかな?」

 期待が膨らむメルトにサクラも嬉しそうな言い方で

「より豪華な料理がテーブルに並ぶかも知れませんね。ここは以前より自然豊かな土地ですから」

Re: エターナルウィルダネス ( No.94 )
日時: 2023/05/05 20:07
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「ずいぶん遠くからこの地に移ったけど。何だか、前と似たような所だね?引っ越した気がしない」

 2階の窓から湖の水平線を眺めながら、ヴェロニカが正直な感想を述べる。
アシュレイは黴臭いベッドに広げたシーツを被せ、彼女の腕に巻かれた包帯をチラチラと気にしながら穏やかに台詞を述べる。

「だから、いいんだよ。水がある所に留まりゃ、少なくとも飢えや渇きに不自由する事はねえからな。魚も食い放題だぞ。んな事よりもお前、傷はもう大丈夫なのか?」

「うん。少し痛みは残ってるけど、平気。医者の私がいつまでも患者の立場じゃ、皆の迷惑になっちゃうからね」


「先に死なれて文句を言われるのも嫌だから、最初に忠告しておくけど。この辺は"ワニ"とかがいるから無暗に出歩かない方が身のためよ?特にフィオナ。あんたは都会暮らしで自然の恐ろしさを知らないから尚更、注意が必要ね。一応、湖方面は安全だと思うけど下手に近づかない方がいいわ」

 手綱を繋ぎ止める馬用の柵を作っている最中に言い放ったリリアの忠告にフィオナは震え上がった。

「クリス。本当にワニなんているの・・・・・・?」

 クリスは嘘をつかなかった。

「ああ。いるよ。大きくて凶暴で食欲旺盛な獰猛な肉食動物さ。噛みつかれたら最後。ズタズタに食い千切られる」

 恐怖を煽られる発言の反面、ユーリはポジティブに物事を捉える。 

「凶暴とは言っても、ある程度の距離を置けば無害です。獰猛な獣でさえも自然の恵みだと考えればいいんです。ワニの肉は栄養があって美味ですし、皮は高く売れます。卵には薬の材料にも扱われ、高価な代物です。獰猛な獣でさえも自然の恵みだと考えれば好感が持てますよ」

「ワニなんてスープの具として使った時以来ね。味はまあまあだけど、私としては鹿肉や馬肉の方が舌が喜ぶわ」

 ローズが個人の好みを語り、丸太に腰かけると愛銃であるショットガンを膝の隣に置いた。 
他のメンバーが黙々と作業に明け暮れる中、1人だけ呑気に煙草を吸い始める。

 そこへリチャードが2人の分のシャベルを手に歩いてやって来た。

「無駄話は後の楽しみにしてやるべき事をやれ。クリス。お前は俺と来い。デズモンドの埋葬を手伝ってくれ」

 デズモンドの遺体は掘った穴に仰向けに寝かせられ、全身に土を被せられる。
石と枝で作った簡単な墓石を頭上部分に差し、周囲に生えた花をたくさん摘んで塚を取り囲む形で添えた。
葬儀の喪主はルイスが担当し、参列者に聖書を読み聞かせる。
1人1人が別れの言葉や祈りを捧げ、全員が嘆き悲しんだ。


 永久の別れが済んでも、墓にはクリスとリチャードが留まっていた。
そこへ影が伸びて、2人を覆い隠す。
正体は馬に跨ったステラで高い位置から2人を見下ろしている。

「ステラか。どこに行くつもりだ?」

「僕とサクラさんとメルトさんでこれから狩りに出かけようかと。ミシェルも連れて行く予定です」

「食料の調達なら、是非とも頼む。あのちびっ子にとってもいい教訓になるかもな。ワニの餌食になりたくなかったら、絶対に沼地には近づくんじゃないぞ?」

 再び2人きりになったクリスとリチャードはジンのボトルを開けた。
古くからの付き合いだった親友に酒瓶を低く掲げ、献杯する。

「・・・・・・こいつが死んだなんて、未だに信じられないな」

「このお墓に眠っているのが実は別の誰かで何日かしたら、本物のデズモンドが現れるんじゃないかって本気で考えてるよ」

「俺だってそう望みたい。だが実際、こいつは間違いなく逝ってしまった。勇敢に戦った末にな・・・・・・」

 言葉の交わし合いはそこで途切れ、酒だけが飲まれ続けた。
本来の味を感じず酔いが回らないまま、しばらくして再び会話が始まる。

「リチャードも僕のせいだと思ってる?」

 リチャードは"ん?"を閉じた口から漏らし、物可笑しそうな顔で言った。

「お前がデズモンドを死なせるきっかけを作ったのは事実だ。だが、こいつを死なせた責任は俺達にもある。リリアは一方的にお前に非があると決めつけているが、本当は自分のせいであると知っていて、それを素直に認めたくないんだ」

「リリアは僕に対してあんなだけど、別に嫌いじゃないよ。いつだって、判断を誤った事がない優秀な人材だからね」

「めでたくカトリーヌの始末をやり遂げてのんびりとできる暇ができたら、お前とあいつが仲良くなるための時間を作ってやりたいもんだ」

 クリスは切ない笑みを浮かべ、少し間を開けてから口を聞いた。

「だね。それまでに僕達が生きてればいいけど・・・・・・うっ・・・・・・うぷっ!げほっ!」

「・・・・・・大丈夫か?」

「うん・・・・・・う、ごほっ・・・・・・」

 クリスはむせたように咳き込んで、僅かに残ったジンを飲み干した。

「これをお前に渡しておこう」

 またしばらく経って、リチャードが吸おうとしていた煙草に手を触れず、代わりに小型のボトルをクリスに手渡した。
デズモンドが生前に肌身離さず持ち歩いていた純銀製の古いスキットルだ。
彼は切ない笑みを浮かべ、相棒が眠る墓を眺めながら

「他の所有物は故郷にいるカリスタに送り届ける予定だ。この形見はあいつの化身。また共に旅をさせてやろう」

「これ。カリスタからオリウェールに行く際に故郷で待つ恋人から貰った物だと一度だけ自慢してたっけ。手に持つと不思議とデズモンドが隣にいる気がするよ。彼の生きた証だから一生大切にする・・・・・・ありがとう」

Re: エターナルウィルダネス ( No.95 )
日時: 2023/06/13 19:48
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 慣れない地に野営地を移してから5日間の時が流れた。
仲間の死で負わされた心身の傷を癒すため一旦は復讐を忘れ、優雅な一時を過ごす。
ここ数日間のギャング達の暮らしは平凡な日常生活に等しかった。

「誰かを撃たなくて済むのは別に嫌じゃないし、平和なのはいいんだけど。何か物足りなく感じてくるのよね」

 リチャードとチェスを楽しむ事が新たな日課となったローズが不満足そうにぼやいた。

「いいじゃないか。暇な毎日のお陰で新たな退屈しのぎを見出せたんだ。俺はまだまだ、今の暮らしに酔いしれていたい気分だな」

「おっさん。家ん中で頭を使うのはいいが、たまには真剣な空気でも吸いに外に出ろよ?狩りに出てねぇだろ?」

「はっ。老体に無理をさせるんじゃない。父親と手を繋いでお散歩する年じゃないだろ?」

「その内、寝た切り爺さんになっちまうぞ?」

 手で追っ払う仕草をするリチャードにアシュレイは半笑いしながら去って行く。

「ところでユーリはどこ?」

「ユーリさん?彼女でしたら、30分程前に野営地周辺の偵察に向かわれました。いつもの事です」

 ルイスから事情を聞き、ローズは呆れた苦笑で生真面目さを笑う。

「あの子はちょっと、神経質過ぎるのよ。こんなワニの楽園と言える最果ての沼地までファミリーが追って来るとは思えないわ」

「オリウェールを隅々まで探索しない限り、俺達の居場所を把握するのは難しいだろう。まあ、慎重な性格じゃなきゃ狙撃兵は務まらん。その神経質な性格で実際に俺達の安全が保たれてるのも事実だと言える」

 長い台詞を述べたリチャードが勝ち誇った顔でマスに駒を置く。

「そこ。置けない場所よ」

「ん?あ・・・・・・」

「お!正に"上履きを擦れば"・・・・・・ですね」

 ステラが瞳を黄色に変色させ、ユーリの帰りを知らせる。

「ステラ。"噂をすれば"だよ?僕が出迎えて来るよ」

「私もお供致しましょう。」

 クリスが玄関のドアを開け、ルイスも相好を崩してついていく。

「ちょっと待て!・・・・・・あいつ、何か様子がおかしくないか?」

 2人を追い越したアシュレイが妙な発言をして、こちらと距離を縮めるユーリを不自然に凝視する。

「アシュレイ?ユーリがどうかしたの?」

 ヴェロニカが彼の隣に行き、同じ方向を眺めた途端、白く透き通った肌は青ざめる。
苦しそうに腹部を押さえ、頬が膨らんだ。

「うぅ・・・・・・おえぇぇ・・・・・・!」

 ヴェロニカが嘔吐し、その上に蹲った。
汚らしい咳を吐きだし、胃に残った消化物を吐き戻し続ける。
その出来事に驚いた全員がざわめき、その内の数人が窓や扉から外を覗いた。

「嫌。やめて・・・・・・嘘に決まってるわ・・・・・・」

「あ・・・・・・ひぁ・・・・・・ああああああ!!」

 リリアが目に飛び込んだ現実を拒んだ一方でフィオナが彼女らしからぬ絶叫を響かせた。

 野営地に戻って来たのはクリス達の知るユーリではなかった。
彼女の片腕片脚はもがれ、代わりに椅子の脚が粗末に縫い付けられている。
片目をくり抜かれた顔もツギハギに縫い付けられ、元の形の原型は大方留めていない。

「ユーリッ!!」 「ユーリさん!!」

 クリスとアシュレイ、ルイスが家を飛び出し彼女の元へ急いだ。
無惨に変わり果てたユーリを馬から下ろし、腕に抱く。

「おい!しっかりしろ!ちくしょう!何があったんだ!?」

「ああ!神よ!あなたは何故、このような仕打ちを赦し・・・・・・!どなたかっ!直ちに医療品をここへ!」

 ユーリがブツブツと何かを呟いており、クリスが沈黙を促す。

「喋るな!出血が酷くなる!」

「だめ・・・・・・わた・・・・・・しからは・・・・・・はなれ・・・・・・うぶっ!げぼぉっ!」

 ユーリが残った力を振り絞り、警告を告げる途中で血の泡を吐き洩らした。
その台詞に違和感を覚えたアシュレイが彼女の腹部をめくる。
彼女の腹部はつぎはぎに縫い合わされ、微妙に膨らんでいた。
明らかに何かが詰め込まれている痕跡が窺える。

「伏せろぉぉっ!!」

 アシュレイがとっさにユーリを投げ捨て、クリスを突き飛ばした。
自身もルイスに覆い被さり地面に伏せる。
1秒も経たずユーリが大爆発を引き起こし、人の原形が粉々になる。
彼女の肉片と血の雨が降りかかり、クリス達の背後が赤く塗り潰された。

「ユーリィィ!!やだああああ!!」

「バカ!行くんじゃない!あいつはもう・・・・・・!」

 ユーリのあまりにも悲惨な最期にメルトが泣き叫んだ。
彼女を強引に引き留めるリチャードも死を自覚させるのに必死だった。

 クリス達がいる付近で激しい爆発の連鎖が引き起った。
それから間もなくして、集団で走る馬の足音が耳に伝わる。  

「ちっ!くそ!襲撃だぁ!!」

「襲撃ってルフェーブル・ファミリーが!?こんな沼地の奥にまでどうして!?」

「ユーリさんと共に偵察に出向いていましたが、尾行はされてなかったはず・・・・・・何故、奴らは僕達の居場所を突き止められたんだ!?」

 瞳を橙色にしたステラが野営地を特定された原因を推理しようにも、そんな些細な悠長さえも与えられなかった。

「余計な考えはするな!全員、武器を持って交戦に備えろ!戦えない奴は部屋の奥に避難するんだ!誰かバルコニーに行ってクリス達を援護してくれ!」

「狙撃なら私がやる!リリア!あんたはヴェロニカをお願い!」

「心得たわ!サクラ!あんたはここでリチャードと応戦して!」

 リリアは立てそうにないヴェロニカを抱き上げ、銃弾が届かない安全な場所へ運ぶ。

「わ、私も共に戦わせて下さい!」

 フィオナも小口径の自動拳銃を手にして行った。
病弱な雰囲気を感じさせない勇ましい勢いで加勢に加わろうとするが

「ふざけるな!病人は足手まといだ!犬死した死体をデズモンドの隣に埋めるなんて御免だぞ!」

「私はクリスのために戦う道を選びました!守られてばかりのお荷物でいるくらいなら、惨めに殺された方がマシです!」

 フィオナは引こうとはしなかった。
貴重な時間を削る余裕がない中、リチャードは一旦は興奮を鎮め、"やれやれ"と鼻で溜息をつく。
一応、信用する気になったのか、真顔を繕い優しく頼み込んだ。

「なら、ヴェロニカの傍にいろ。俺達ギャングが死滅を迎える最後の時まで仲間を守ってやってくれ」

Re: エターナルウィルダネス ( No.96 )
日時: 2023/07/15 17:05
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 兵士を乗せた馬の群れが盛り上がった地平線からなだれ込む。
奇襲部隊として押し寄せたのはルフェーブル・ファミリーの騎兵連隊だった。
高性能のライフルや自動小銃で武装し、装備品をいくつも軍服に取り付けた熟練の正規兵である事が伺える。

 クリスは走り去る途中で後方にリボルバーを発砲し、被弾した歩兵が2人が血を吹き出しながら軍馬から落下した。
アシュレイもルイスに肩を貸し、屋敷への避難を急ぐ。
3人が中に入ると、即座にメルトが扉を閉ざしてキャビネットを押して出入口を塞いだ。

「クリス!無事か!?」

「僕は平気!アシュレイもルイスも撃たれてない!他の皆は!?」

「戦えない奴は地下倉庫へ避難させた!お前の幼馴染がヴェロニカの 護衛についてる!」

「弾が出るもんはとにかく撃ちまくれ!包囲されちまった時点で俺らの負けだ!」

 アシュレイは自動小銃をルイスに投げ渡すと、ヴォルカニックピストルを抜いて装弾を確認する。
外側で再び爆発が引き起り、クリス達は吹き飛ぶように床に倒れこむ。

「ちっ!奴ら、"手榴弾"を使ってるわ!ダイナマイトよりやばい代物をわざわざ用意してくるなんて、ご苦労様な事だわ!」

 敵の装備を把握するローズの表情が事態の厄介さを物語る。
そこへ約束通り、リリアが低い姿勢を取り、ローズの元へやって来た。
手には愛用のリボルバーの代わりにボルトアクション式のライフルを握っている。

「あれだけの重武装の大軍を差し向けて来るなんて・・・・・・奴ら、相当本気だわ!」

「何度も尻を蹴られた事で敵さんも遂に腸が煮えくり返ったようね。今回ばかりは流石にだめかも知れないわ。ローズ。気が早過ぎて笑っちゃうかもしれないけど、あなたと一緒に過ごした日々は最高に楽しかった」

「勝手に人様の命日を決めないでよ。ふふっ、私もよ。ねえ?リリア?もし、ここが人生の終着点だったら、地獄で乾杯しましょう」

 ギャング達は敵側の猛攻が激しいあまり、まともに応戦ができない状態に追い込まれてしまう。
銃弾と爆撃の嵐に反撃の機会すら恵まれなかった。

「ひぃあっ・・・・・・!」

「伏せていろ!脳みそに穴を開けられたくなかったら、下手に頭を上げるな!」

 リチャードは銃弾が頭上擦れ擦れに通過したサクラを強引に伏せさせた。
さっきまで原形を保っていた家具が破壊され、部屋中に木屑や割れた食器の破片が飛び散る。
クリスとアシュレイも銃で応戦するものの敵勢の勢いは鈍らず、大した足止めにもならない。

「正面からの太刀打ちは自殺行為!こちらがいい的になるだけです!」

「私達!ほぼ無抵抗じゃん!この最悪な状況、どうにかならないの~!?」

 ルイスとメルトも地べたに横たわり、叫ぶだけで精いっぱいだった。

「反撃しなければ俺達に明日はないのは確実だが・・・・・・まともな武器もなく、満足に抗えないのも事実か・・・・・・おい!誰でもいい!地下に行って役立つ物がないか見てきてくれないか!?あそこだけはまだ、ろくに調べてないんだ!」

「それなら、僕に任せてほしい!リチャード達は敵の銃撃を凌いでいてくれ!」

「僕も同行させてもらっても異論はないかと。銃を使わない味方が減ったところで戦力に支障はきたさないでしょう」

 クリスとステラは一時、前線を離脱して地下室へと降りて行く。
薄暗く窓のない物置の一室でフィオナが銃のグリップを強く握り、心配そうに上階を見上げていた。
彼女は勢いよく開いた扉に対し、とっさに銃口を向けるも引き金は引かず、むしろ、強張っていた表情が緩んだ。

「フィオナ!大丈夫!?」

「・・・・・・クリス!」

 フィオナがクリスを抱きしめ、目の当たりにした惨劇を嘆き悲しむ。

「クリス・・・・・・ユーリさんが・・・・・・!」

「悲しむのは後だ。今は生き延びる術を探し出さないと!ヴェロニカは大丈夫?」

「少し落ち着きを取り戻してるみたいだけど、ユーリさんがあんな目に遭わされたショックが大きかったみたい」

「クリスさん!僕達はすぐにでも加勢に戻らなければいけません!早く役に立ちそうな物を探しましょう!」

 クリスとステラは二手に分かれて、念入りな探索を怠っていた地下室のあらゆる棚や箱を漁って回った。
しかし、入っていたのはガラクタを含む生活用品くらいで武器に使えそうな物は何一つ見つからない。

 期待を裏切られる連鎖に失望が膨らんでいく最中、ある物がステラの目に留まった。 
束になった酒樽だと思い込んで、埃が被った布を退かすと自然と言葉にならない声を漏らす。

 大方が錆びついた古びた銃器が粗末に保管されていたのだ。
三脚架が取り付けられ、木製のストックに短い銃身の先にはラッパ型のマズルブレーキ。
歯車のような円形のドラムマガジンを上部にはめ込む珍しいタイプですぐ横にいくつかの予備弾倉が重ねて置かれていた。

「・・・・・・これって機関銃?」

 喜ばしいと言わんばかりにクリスが駆けつけるが、ステラの目は橙色で抱いた感情は決して前向きとは言い難かった。

「M1806。通称"ラスティドアイアン(錆びた鉄)"。オリウェールとローク帝国の間でシリカをめぐって勃発した"第三次大陸戦争"の際に使用された固定式機関銃です。ただ、30口径で装弾数も少なく、現代のタイプよりも重い。こう言ってなんですが、性能は保証できませんよ?事実、何年も手入れされていないようですし、肝心の弾薬も使い物になるか怪しいです」

「ようするに、半世紀前の旧式だね。だけど、少しでも上手くいく可能性があるなら僕はこれに賭けたい。それにアシュレイならこの"老兵"を修理できるかも!」

「僕だったら、悪い方の結果に金貨3枚のウォールを賭けますが、物は試しか・・・・・・上に運ぶのを手伝って下さい。単身で抱えられる代物ではないですから」

「私も手伝う!」

「ありがとう。でも、君はここに残ってヴェロニカを守ってあげてくれ。この子を頼んだよ?」

 フィオナが無理に笑みを繕って頷く。
だが、その刹那にクリスの温和な表情が1秒の内に一変する。

「待って?ミシェルがいない・・・・・・!あの子はどこ!?」

「・・・・・・え?」

 フィオナも怪訝になって同じように部屋中を見渡すが、ミシェルの姿がない事に今になって気づいた様子だった。

「私・・・・・・知らない・・・・・・2階にい、いるんじゃ・・・・・・?」

 ヴェロニカは毛布に包まって縮こまりながら証言する。

「まずい・・・・・・!」

Re: エターナルウィルダネス ( No.97 )
日時: 2023/10/09 15:56
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「うぉっ!?クリス!んだよ!?んな錆びた塊、どっから引っ張り出して来やがった!?」

「見たところ機関銃とお見受けしましたが・・・・・・うぉわ!くっ!」

 予想だにしなかった代物を連れて来られ、アシュレイ達は味方に対しても実に厄介そうな表情を揃えた。
じっくりと観察しようにも鬱陶しい銃弾の嵐がルイスの行為を卑劣に阻まれてしまう。

「アシュレイ!可能ならこれを修理してほしい!今すぐに頼む!」

「はぁっ!?バカかてめぇは!?いくら何でも唐突過ぎんだろ!?少しは現況ってもんを考え・・・・・・っておい!」

 藪から棒としか言えない役目を押し付けられ、対応に困るアシュレイに構わずにクリスは次にリチャードに詰め寄った。

「リチャード!ミシェルはどこ!?あの子がいないんだ!」

「・・・・・・な!?ちびっ子がいないだと!?・・・・・・ったく!なんでいつもお前はこう!厄介事をデートみたいに誘ってしまうんだ!?なんてこった!俺は知らんぞ!?ヴェロニカと同じ部屋にいるんじゃなかったのか!?」

「そういえば!確かに、あの子だけ姿がありませんでした!2階にも居なかった気がします!建物の中にいないとだとすれば・・・・・・あっ!も、もしかして、裏庭に!」

 サクラが曖昧な記憶を辿って、敵が陣取っている位置とは真逆の方向を指差した。

「そこに行ってミシェルを探して連れて帰る!リチャードやサクラは少しでも奴らを食い止めて時間を稼いでいてくれ!」

「私も探すのを手伝う!1人で行くより誰かと一緒の方が絶対にいいって!」

 聞く耳を持たないまま、クリスは今度はメルトを連れて矢のように持ち場を飛び出して行った。
追いかける意欲さえも消え失せたアシュレイは遂にヤケクソになって

「クソクソクソがっ!しゃあねぇ!一か八か、使い物になるか試してみるか!だが、ここじゃ無理だ!ステラ!このオンボロ野郎を2階に運ぶのを手伝え!」

「やれやれ。ここに来てから荷物運びしかしてない気がするのは僕だけですかね~?」

 苦笑するステラがジョークと溜め息を漏らし、今度はアシュレイの手を借りて機関銃を持ち上げた。


 クリスはリボルバーを片手に窓から顔を出し、左右を確認してから外に飛び出した。
メルトも斧をしっかりと握り、いつもになく慎重になって後に続く。

 銃声や爆音が絶え間なく響き渡る表側よりマシに静かな場所で少女の泣きじゃくる声が聞こえた。
積まれた薪の日陰に顔を覗かせるとミシェルが体を丸めて震えている。
背後に迫った気配に"ひぃ・・・・・・!"と声を上げて振り返ると、恐れおののいた表情で息を切らした。

「ク、クリス・・・・・・!うわあああん!」

 腹部に抱きつくミシェルの髪を撫で下ろし、クリスは切ない笑みで見下ろした。

「怖かったね?もう、大丈夫だから家に帰ろう?」

「ぐすっ!えぐっ・・・・・・!いきなり爆発する音が聞こえたから、ここに隠れてたの!何が起こって・・・・・・?」

「ルフェーブル・ファミリーがここを襲撃して来た。そのせいでユー・・・・・・いや。とにかく!ここに居てはまずい!早く安全な場所に・・・・・・!」

「・・・・・・クリスッ!危ない!」

 台詞の途中で発せられたメルトの警告に温情を捨てたクリスは殺気がした方向へ引き金を引いた。
大口径の1発が兵士の胸部を貫通し、銃弾の的を外した遺体が仰向けに横たわる。

 反対側からも2人の騎兵が突進して来たが、片方はクリスによって顔上半分を吹き飛ばされ、呆気なく仕留められた。
メルトは正面から堂々と迎え撃ち、振るった斧で馬の前胸を裂く。
甲高い悲鳴を上げた愛馬の下敷きとなり、身動きの自由が奪われた騎兵の顔面に分厚い刀身が突き刺さる。 

「裏にも敵の手が!僕達は囲まれている!早く中へ!」


 バルコニーからスコープのないライフルの銃口が標的を追い、尖った鉛を撃ち放った。
胸元から血飛沫を飛ばした騎兵がライフルを投げ捨て、馬から転げ落ちる。
何倍もの報復射撃がこちらへ向けられ、狙撃手はサッと素早く身を潜めた。

「・・・・・・ちっ!1人でも仕留められたら、勲章ものってとこかしら?」

 ボルトを引き、空薬莢を弾き出したリリアが小声で言った。

「悪ぃ年増共!ちょっと、邪魔すんぞ!」

 そこへ女性2人に無作法な呼び方をしたアシュレイが寝室に押し入る。
文句を言い返そうとキッと不機嫌な顔を振り向かせたリリアは瞬時に機関銃に気を取られた。

「は?何それ?半世紀前の機関銃じゃない!展示会なんか開いてる場合!?ほぼ、ガラクタじゃない!」

 ローズの文句の数々を無視し、彼は寝室に機関銃を置いた。

「だから、今こいつを直そうとしてんじゃねえか!とにかく、黙って撃ち返してろ!」

 アシュレイとステラがアンティーク兵器の至る部分を確かめ、どこに問題があるか1つ1つ把握する。

「トリガーが重くて、スライドも引けない・・・・・・弾詰まりでも起こしてるのでしょうか?」

「弾倉と弾薬自体には問題ねぇが・・・・・・肝心の機銃本体の錆が酷過ぎるな。こりゃ、中も怪しいぞ。 ありったけのガンオイルがいるか・・・・・・おい!ステラ!俺の商売道具を持って来い!あの棚の上に置いてある箱だ!急げ!」


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