複雑・ファジー小説

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エターナルウィルダネス
日時: 2020/02/13 17:55
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 乾いた土、枯れた草木、その上に零れ落ちた血の跡・・・・・・復讐の荒野は果てしなく、そして永遠に続いていく・・・・・・

 ディセンバー歴1863年のオリウェール大陸。
西部諸州グリストルと東部諸州ハイペシアとの内戦が勃発。
かつて全盛期だった大陸は平穏の面影を失い、暗黒時代への一途を辿っていた。

 王政派の勢力に従軍し、少尉として小隊を率いていたクリス・ヴァレンタイン。
戦争終結の後、退役軍人となり、両親が残した農場で妹であるリーナと平穏に暮らしていた。
しかし、突如として現れた無法者の集団による略奪に遭い、家は焼かれ、リーナを失ってしまう。
運よく生き残ったクリスは妹を殺した復讐を決意し、再び銃を手にするのだった。

 彼女は頼れる仲間達と共に"ルフェーブル・ファミリー"の最高指導者"カトリーヌ"を追う。


・・・・・・・・・・・・


 初めまして!ある理由でカキコへとやって来ました。"死告少女"と申します(^_^)
本作品は"異世界"を舞台としたギャングの復讐劇及び、その生き様が物語の内容となっております。
私自身、ノベルに関しては素人ですので、温かな目でご覧になって頂けたら幸いです。


・・・・・・・・・・・・

イラストは道化ウサギ様から描いて頂きました!心から感謝いたします!

・・・・・・・・・・・・


・・・・・・お客様・・・・・・

桜木霊歌様

アスカ様

ピノ様

黒猫イズモ様

コッコ様

Re: エターナルウィルダネス ( No.70 )
日時: 2022/03/27 19:01
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 酒場を出たクリスとフィオナはニューエデンズの街外れ近くに位置する工業地帯周辺の街道を歩いていた。
人ごみが絶えなかった先ほどの商店街と比べて、随分と人気は少ない。
近くに工場があるだけに煙突から昇った黒煙が空の一部を塗り替え、気が不安定になりそうな異臭が漂う。 

「ブローチを奪われたって・・・・・・?まさか、それを取り返してほしいためだけに、手紙を書いたのかい?」

「ごめんなさい・・・・・・あれは私の両親が残した大切な形見なの・・・・・・街の警備隊に助けを求めても、私みたいなルシェフェルの事なんか相手にしてくれないし・・・・・・クリスしか、頼める人がいなくて・・・・・・」

 手紙で呼び出された理由が小さな悩みの解決の依頼である事を知って、クリスの表情が微妙に歪む。
チラリと隣に視線をやると、酷く落ち込んだフィオナが俯きながら歩いている。

「ちなみに、ブローチは誰に奪われたの?」

「"ルード・コロッサス"・・・・・・この辺りに巣食うギャング集団のリーダーだよ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 クリスは哀れみを通り越し、呆れてものが言えなかった。
幼馴染に気を遣おうと溜め息は控え、とりあえず、そいつと交流を持った経緯を聞き出す。

「そいつとは、いつどこで知り合ったんだい?」

「仕立て屋の手伝いを終えて家に帰ろうとしたら、急に後ろから声をかけられたて・・・・・・凄く恐かったけど、彼は理不尽な環境の中で生きてる私に深く同情してくれた。それからというもの、私とルードは何度も会うようになって、その度に楽しい一時を過ごした。気がつけば 私は既に恋仲のつもりで付き合っていた・・・・・・最初は優しくて、理想の人と出逢えたんだと・・・・・・でも、ルードはだんだんと凶悪な本性が露になって、盗みや暴力を躊躇わなくなって・・・・・・凄く恐かったけど、私は耐えられなくなって別れたいとはっきり伝えたの。そうしたら、彼は私を殴って銃を突きつけた。そして、命乞いを受け入れる代わりに形見のブローチを・・・・・・」

 気弱なフィオナは涙を滲ませ、激しい絶望を抱く。
いい様に騙され、利用されて、挙句に形見を奪われてしまった傷は相当深いだろう。
誠実さを踏みにじられた幼馴染を胸が苦しそうに眺めていたクリスだったが、かけた言葉は非情な教訓だった。

「命が助かっただけでも奇跡と言ってもいい。下手をすれば、君の命はとっくになかった。こんな不公平が当たり前となってる世の中じゃ、紳士の仮面を被った悪党はそこら中にいる。優しい言葉に甘えて、簡単に人を信用するもんじゃない。久々の再会という事もあって、今回ばかりは君の用心棒になってあげる。だけど、個人的な悩みを解決するためにわざわざ呼び出すのは、これっきりにしてくれないか?次に同じ失敗を繰り返しても、僕は君に二度と手を差し伸べる事はないだろうね」

「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 フィオナは後悔と罪悪感が入り混じった謝罪の言葉を口癖のように何度も繰り返すばかりだった。


 やがて、2人は工業地帯の一角へと行き着く。
そこは作業場を隣に控え、生産された製品を保管するための倉庫エリア。
煙突に煙がなく、恐ろしいほどに静寂な様子からして、ここで働く作業員達は全員退社している事が窺える。 
現にクリスとフィオナも互いの気配しか感じ取れなかった。

「ここ・・・・・・多分、この先に彼がいる・・・・・・」

 フィオナは自信がなさそうに、真っ直ぐに伸びる道の遠くを指差す。
クリスは幼馴染との距離の幅を広げ、自分だけが先に進むと、最初は上手く聞き取れなかった下品な笑い声がはっきりと聞こえてきた。
声の主は複数いて、大勢の男がいるようだ。
気紛れに後ろを振り返ると、フィオナが体を震え上がらせ、歩行の速度が錆びついている。

「それでよ~」

「ぎゃはははは!!傑作だぜ!流石はルーズの兄貴!」

「・・・・・・んで!?んで!?その後、どうなったんです!?」

 ルーズと言う名前が耳を通り、フィオナを傷つけ弄んだ本人がいる事を確信する。
どうなら、非行に関した良からぬ会話で盛り上がっている最中のようだ。

「ナンパした女をホテルに連れ込んで睡眠薬入りの酒で眠らせてよ!ヤリまくったんだよ。淑女が嫌がらないように、ちゃんと気を遣ってな!そうすりゃ、強引に犯した事にはなんねえだろ!?」

「ひゃはははー!!マジか!ルーズの兄貴!どんだけ紳士なんですか!?道理で街中の女が寄り付くわけだ!」

「正に合法的に100人の女を抱ける最高の方法っすね!」

「後は金目の物を奪っておさらばしたってわけだ。女も晴れておめでただ。来年の今頃は"ルーズ・ジュニア"の生誕記念日になるだろうな」

 まともなら吐き気を及ぼすジョークに騒々しく響き渡る悪意に満ちた笑い声。
卑劣極まりない犯罪行為の全容にクリスの中でワナワナと抑えがたい怒りが込み上げてくる。
表情がだんだんと沈着さを失い、強い殺意を覚えかけた。

「あと、こんな話はどうだ?これは最近、ウォールを払う価値もねえくだらん芝居を見に行った際によ・・・・・・」

 すっかり調子に乗ったルーズが別の穢れた話題を持ち込み、期待を煽ろうとした時


「可哀想に・・・・・・奇形した脳みそは救いようがないな」


 そこへクリスが誹謗中傷を挨拶代わりにギャングに溜まり場に踏み込む。
ルーズやその取り巻き達は笑話を打ち切り、機嫌を損ねたような睨んだ視線で注目する。

「ああん!?んだてめえは!?」

 ルーズが好戦的に声を荒げて邪魔者を怒鳴りつけた。 
クリスは名乗る事なく、黙ったままギャング達に鋭い視線を送り返す。

(如何にも、更生しようがない異端児って感じの青年だな。歪んだ快楽を覚え過ぎた典型的な底辺ってところか・・・・・・)

「おい!聞いてんのかクソガキ!この俺を誰だと思ってんやがんだっ!?」

 クリスは凶暴な発狂を物ともせず、二度目の中傷を吐き捨てる。

「ええっと・・・・・・肥溜めに住む蛆虫・・・・・・もしくは、誠実な社会に寄生する性病菌かな?」

Re: エターナルウィルダネス ( No.71 )
日時: 2022/04/11 21:12
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「んだとぉ!?死にてぇのか!」 「このガキャア!」 「いい度胸じゃねえかコラァ!!」

 逆上したルーズの取り巻き達は吸いかけの煙草を投げ捨て、勢いよく立ち上がった。
腰や右腿に忍ばせたナイフを手に取っては白刃をぎらつかせ、ジリジリと間合いを詰める。

「ちょっと、待て!まだ、そいつを八つ裂きにするな!」

 すると、何を思ったのか、ルーズはついさっきまで興奮が鎮まらなかった態度を急に冷静なものへと一変させ、手下の凶行に歯止めをかける。  
彼はやや真剣な表情を繕うと、物珍しそうな視線で相手を凝視し、問いかけた。

「おいおい。マジでお前、誰なんだ?一応、俺達を知ってるような口ぶりだが?こっちは、てめーと会った覚えがねーんだがな?見た感じ、お巡りでもねえし・・・・・・何もんだ?」

 それでもクリスは自身の詳細を素直に明かさなかった。代わりに被害者の名を台詞に入れ、逆に聞き返す。

「フィオナ・ベリーシャを覚えてるか?最近まで、お前と交際していたルシェフェルだ」

「フィオナだぁ?そんな奴、覚えてねえよ。俺の腕に抱かれたルシェフェルの女なんざ、100人は下らねえからなぁ!んで?お前はそのフィオナの何だ?彼氏か?」

 クリスは一層、目つきを鋭く、声を低くする。

「フィオナは幼馴染だ。お前は無抵抗な彼女を殴っては銃で脅し、挙句に形見のブローチを奪い取った。随分と丁重な扱いをしてくれたそうじゃないか。その礼をしに来たんだ」

 復讐を宣告され、ルーズの顔に悪意の笑みが再び宿り始める。

「ブローチだぁ?ひゃっはっは!こいつは驚きだぜ!まさか、あんな白髪ババアを慕う奴がいたとはな!幼馴染なんかじゃねえ!こいつ、ぜってぇあのババアの孫だって!」

 その人を見下した台詞に手下達も腹を抱えて大勢でせせら笑う。
下劣な喜劇の観客席と向かい合うような形でクリスは黙って聞き続けていた。
足元に叩きつけられた酒瓶が砕け散った時、ルーズが本格的に獣の本性を露にする。

「・・・・・・調子乗んなよガキ。あんまり、生意気な口利いてやがると・・・・・・マジでぶっ殺すぞ!!」

 手下の1人も人とは思えぬ、凶悪そのものの目つきで

「俺達が、ただの悪ガキだと思ったら、大間違いだぞ?この間だってな、1人海に沈めてんだよ。ちゃんと、血の味に飢えてんだ」

 と殺害の前科を自慢話のように打ち明け、脅しをかける。

「ふ~ん・・・・・・だったら、何なの?人を殺した事がそんなに誇らしいのかい?実にくだらないな。君達にも黄泉で懺悔する順番が回って来たんだ。命乞いでもしたらいいんじゃない?」

 だが、クリスが恐れ戦く事はなかった。
殺害宣告の意味が込められた台詞を鋭く言い放ち、脅しには脅しで応える。
その刹那、温和だった表情が殺気で強張った。

「はっ!くたばるのはてめぇだボケェ!!」

 理性が効かなくなったルーズの手下が勢いよく突っ走り、体にナイフを突き立てようとした。
クリスは立ち位置を少しずらすと、間近に迫った腕を取り押さえ、肘をチンピラの顔面に喰らわせる。
相手は硬い打撃で鼻が折れ、鼻血を大量に噴き出す。
そして、痛い箇所を押さえ、女々しい悲鳴を上げながら地べたを転げ回った。

「・・・・・・て、てめえ!!」

 仲間の被害に逆上したもう1人が凝りもせず、同じ凶器で襲い掛かった。
クリスは手首に忍ばせていたブレードを使い、凶刃を受け流す。
勢い任せの暴挙を外し、バランスを崩すチンピラに頭突きで怯ませ、股間を加減なしに蹴り上げた。

 すかさず襲って来た残りの1人に取り押さえられるが、肘打ちを脇腹に打ち、拘束を振り払う。
反撃の機会を与えず、胸倉を掴んで豪快に背負い投げた。

「くそっ・・・・・・!」

 手下がいとも容易く返り討ちに遭う様を見て、ルーズはホルスターから銃を抜きかける。
その時点でクリスは既にリボルバーを抜いていた。
放たれた銃弾に当たったルーズの切り札は手が届かないほどの距離まで弾き飛ばされ、呆気なく反撃の術を奪われた。

「がああ!!」

 骨が砕けるほどの衝撃が走った腕を押さえ、ルーズは痛そうに蹲る。

「こっちはお前達より何倍もの命を奪ってきたんだ。お前らみたいなクズ連中は、ここで殺してやりたいところだが、僕は死神の代行者にはなりたくはない。命だけは奪わないでおいてやる・・・・・・だが、お前だけは例外だ」

 クリスは銃弾が当たる先を涙目で青ざめるルーズの額に重ね合わせた。
そのまま、ためらいもなく引き金を引く。

「・・・・・・クリスッ!!」

 突然の叫びに指の動きが止まり、ハンマーが雷管を叩き損ねた。
倉庫の影に身を潜め、今までの出来事を窺っていたフィオナが飛び出して来た。
真っ直ぐに伸びたクリスの腕を押さえつけ、銃口の向きをルーズから、強引にずらそうと力を込める。

「クリスッ!!やめて!もういいよ!私なんかのためにこれ以上、自分を穢さないで!」

「だけど、こいつは・・・・・・」

「もう、いいの!クリスは十分過ぎるくらいに懲らしめた!この人だって、傷つけられる側の怖さを思い知ったから、自分がして来た悪事を反省するよ!」

 涙液が潤った幼馴染を視界に入れた時、クリスの表情に再び、落ち着いた兆しが芽生える。
短い時間、彼女を睨み返した末、やがて眉を下げると、ゆっくりと銃口を下に下ろした。
想いが伝わり、安堵するフィオナに優しい笑みを向ける。
しかし、それも束の間。今にも慈悲を無に帰してしまいそうな殺気を放ち、ルーズに詰め寄る。

「ひっ・・・・・・!ひぃぃ!!」

 すっかり怖気づいたルーズはさっきまでの下劣な人格とは、まるで別人のように身を縮こませ、顔を両腕で覆った。

「3秒だけ数える。ブローチを渡せ」

「わ!わわわ・・・・・・分かった!ブローチか!?返すよ!ほら、これだっ!言う通りにしただろ!?たた、頼むからこ、殺さないでくれ・・・・・・!」

 クリスは差し出された手から奪った物を掌に乗せて眺める。
フィオナの形見は見事な金細工が施され、中心に大きなエメラルドが埋め込まれた高価な代物だった。

「二度とこの子に近づくな。もし、その忠告を忘れれば・・・・・・分かっているな?」

「ああっ!・・・・・・ああ!分かった!そいつ・・・・・・!い、いや!フィオナには手を出さねぇ!ち、誓うよ!」

 クリスはより一層、眼光を鋭くしたまま、ブローチをフィオナに渡す。

「これで君の望みを叶えてやった。帰ろう」

 幼馴染の背中を抱き、2人は倉庫から立ち去る。
来た道を戻ろうとしている最中、フィオナは気紛れに横顔を振り返らせた。
その瞬間、表情が凍りつき、黒い瞳孔が狭まる。

「クリスッ!!」

 悲鳴に近い叫びを聞き、クリスも直接目にせずとも意味を察して振り返った。
目に飛び込んだのは、会った時と同じ凶悪な人相で銃口をこちらに向けるルーズの姿だ。

「うっひゃひゃひゃ!!バカがっ!死んどけぇ!!」

 慢心が仇となり、クリスは銃を抜くという判断ができなかった。
代わりフィオナを抱きしめ、全身を覆い生身の盾となる。

 直後に1発の銃声が響き渡った・・・・・・

Re: エターナルウィルダネス ( No.72 )
日時: 2022/04/23 21:26
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

「あ・・・・・・ああ・・・・・・」

 轟音が止んだ頃、撃たれた者が途切れ途切れのあげき声を漏らす。
しかし、その声の主はクリスのものではなかった。
自信の身に痛みがない事に気づき、まさかと言わんばかりに素早く背後を振り返る。

 不思議な事に銃を持っていたはずのルーズの服が何故か、血で染まっていた。
彼は銃弾を受けた箇所に触れ、赤い体液がべっとり付着した震える手を顔の近くで眺める。
起きた状況を理解できぬまま、白目をむいて崩れ落ち、息絶えた。

 クリスは、またも敏速に今度はフィオナがいる方向を向き直った。
すると、そう遠くない場所で1人のルシェフェルが銃を向けた姿勢で立ち尽くしている。

「俺のお陰で命拾いしたな?」

 ルーズを狙撃したルシェフェルはそう言って、銃口の煙を吹き消し、リボルバーをホルスターに収めた。
決して、友好的な面影がない様子で、こちらへ間合いを寄せてくる。

 クリスは彼の正体に思わず、動揺を露にしそうになる。
灰色のローブに似た服装と黒猫の記章。ルフェーブル・ファミリーの正規兵だ。
更に悪い事に現れた人物はアドニスで襲撃をしかけてきた組織の幹部の1人である"アルバート=ダルニシアン"だった。

(こいつは前にアドニスで僕達を殺そうとしたルフェーブル・ファミリーの幹部だ!命を救ってくれた奴がよりにもよって・・・・・・だけど、何でこんな所に・・・・・・!?)

「怪我はないか?」

 アルバートは再び、言葉を発する。
クリスは庇う姿勢をやめ、警戒を裏に隠しながら彼と向き合う。
下手に相手を刺激しないよう、とりあえず純粋な対応を取る事にした。

「ありがとう。危うく、命を落とすところだった」

「お前には聞いてない。お前のガールフレンドのルシェフェルに聞いているんだ」

 しかし、アルバートは冷たく礼を打ち消し、フィオナに対しては微小に破顔した。

「あ、あの・・・・・・助けてくれて、ありがとうございました」

 フィオナも続いて、礼を述べる。 
美顔と紳士的な対応に魅了され、頬を赤く染めながら。

「気にしなくていい。罪のないルシェフェルが無事で済んだだけでも、十分満足だ。ここを散歩のコースに選んで正解だったよ」

 しかし、話の矛先が再びクリスに変わった時、アルバートの性格は一変する。

「ガールフレンドを危険に晒すとは・・・・・・この上ないほどに無様だな。お人好しのお前に1つだけ助言をくれてやる。一度、勝負を挑んだ相手は必ず殺せ。例え、丸腰の格好で女々しく命乞いしていてでもだ。一度はやられたふりをして、隠し持った凶器で不意を突こうとする下衆な輩は少なからずいる・・・・・・さてと」

 アルバートは横たわるギャングに関心を移し、1人の死体と3人の負傷者を見て回る。

「大して、ウォールを持っていなさそうだが、一応、懐でも漁ってみるか・・・・・・生きてる奴らは部下の射撃訓練の的に使えそうだな・・・・・・ん?何だ?まだ、いたのか?いい加減、どこかへ行ってくれ。こっちは1人の時間を大切にしたい気分なんだ」

 クリスにとっても、ルフェーブル・ファミリーの幹部は傍にいてほしくない存在である事は変わりない。
しかし、言われて素直に去ろうとはせず、どうしても知りたい理由があった。

「どうして、見ず知らずの僕達を助けてくれたんだ?そっちにとって、有益なんてないだろ?」

 アルバートは呆れてものも言えないような蔑んだ目で

「勘違いするな。生き残る術を知らない愚かなシャドーフォルクのせいでルシェフェルが傷つくのを見たくなかっただけだ」

 クリスは何も言い返さなかった・・・・・・いや、言い返せなかった。
甘さを捨てられなかったせいで、自分だけではなく幼馴染さえも殺しかけてしまったのだから。
アルバートが助けに入らなかったら、確実に2人の命はなかっただろう。   
その事実が、自分への怒りや罪悪感を生み、胸の奥底に苦痛を走らせるのだった。


 街の通路に出た2人は適当に休めそうな場所を探し、壁に背を預ける。
互いに無言のまま、夕暮の空を眺め、しばらく何も考えなかった。
しかし、脳裏に焼きついたやりきれない思いだけは拭い切れず、頭の中を埋め尽くす。

「クリス・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 半時ほどの時間が流れた後、フィオナが謝罪する。
クリスは幼馴染がいる隣に視線を動かさず、虚ろになったまま言い返した。

「謝らなければいけないのは僕の方だ。君を守ってあげるどころか、危うく死なせてしまうところだった・・・・・・」

「ううん・・・・・・!間違ってるのは私の方だよ・・・・・・!」

 フィオナはクリスの失態を認めようとせず、むしろ、自分の責任を主張した。

「クリスの言う通りだった。世の中には正しさが通用しない悪い人がいっぱいいるんだって事。確かに今までクリスがしてきた事は正義なんかじゃない。でも、あなたの暴力は弱い人を虐めるためのものじゃなくて、大切な仲間や信念を守るためのもので・・・・・・私の方こそ、綺麗事を並べるだけ並べて、ただ幼馴染に甘えてるだけの存在なんだって知った・・・・・・」

「・・・・・・」

「間違っていたのはクリスなんかじゃない・・・・・・!全部、私が悪いの・・・・・・!」

 卑屈の果てに、フィオナはついに声を上げて泣き出した。
過ちが招いた悔しさをぶつけられる場所などどこにもなく、悲しい叫びと沈黙がただただ長引く。

 幼馴染の哀しみが鎮まった頃、クリスはようやく寄り添った。
白い髪をそっと撫で下ろし、指で涙液が残った目蓋を擦る。

「過ぎた事をずっと気にしていても、どうにもならないよ。二度とこんな事にならないよう、次からは気をつければいい。お互いに・・・・・・ね?」

「ぐすっ・・・・・・でも・・・・・・!」

「過去は過去。そして、僕達は健全に生きてる・・・・・・その奇跡に感謝しなきゃ・・・・・・」

 クリスは壁から背中を遠ざけ、ん~!と大きく背伸びをした。
無理にでも余裕の笑みを繕い、普段の落ち着いた性格を演じる。

「晴れて君の悩みは解決したね?さて、そろそろ僕は皆がいる所へ戻らなくちゃ。寂しいけど、君とはここでお別れだ。家には・・・・・・1人で帰れるかい?」

 フィオナはすぐさま頭を横に振り、正直な気持ちを伝えた。

「私・・・・・・まだ、クリスと一緒にいたい・・・・・・」

「いつもなら、本心を押し殺すところだけど・・・・・・今日だけは正直になろう。僕も君と同じ事を考えていた」

 クリスは幼馴染の手を引くと、腕に腕を絡ませ街道を歩き始める。
予想外の肯定に目を丸くするフィオナに温和な眼差しを送り

「せっかく、数年ぶりに再会したんだ。僕も君との2人だけの時間を作りたい。今度は銃も暴力も必要としない、幸せな一時のために・・・・・・」

Re: エターナルウィルダネス ( No.73 )
日時: 2022/05/05 19:31
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 クリスとフィオナはニューエデンズで優雅な一時を過ごす。
高級レストランで食事を堪能し、様々なショーが開かれる劇場に足を運んだりと、2人だけの時間は夜になっても続いた。

「素敵な演奏だったね。特にピアノとヴァイオリンが主に音色を奏でる"永遠の夜"は心から感動した」

「ああ。ショーも最高だった。劇場に足を運んだのは、凄く久しぶりだよ。飽きる暇なんてなかった」

 劇場から出た2人はクリスとフィオナは火が灯された街灯の1つに差し掛かった時、足を止めて向かい合う。

「今日は本当に楽しかったよ。君との再会は決して、間違いなんかじゃなかった。後悔なんて微塵もない」

「私もだよ。嫌な事ばかりの毎日だったけど、あなたがいた今日だけは違った。一生忘れられない素敵な1日をありがとう」

 フィオナが感謝を込めた直後、積りに積もっていたであろう会話は途切れてしまう。
やがて、先にクリスが言いにくそうに言わざるを得ない台詞を言った。

「・・・・・・そろそろ、お別れの時間だね。もっと君と一緒にいたいけど、行かなくちゃ・・・・・・」

「行ってしまうの・・・・・・?せっかく会えたのに、また、離れ離れになってしまうんだね・・・・・・」

「僕もできる事なら、いつまでも君と一緒にいたい。でも、僕は妹に誓った信念を曲げる気はない。途中で逃げ出すわけにはいかないんだ」

「私は構わない。どんなに遠くにいても自分の事が好きな人がいる。それだけで私は生きて行けるから・・・・・・」

 クリスは少し心配になって尋ねる。

「僕がいなくなった後、君はどうするの?」

「私?私はいつも通り、貧しい生活に戻るだけ。ルシェフェルとしてまわりから蔑まれるいつもの暮らしにね・・・・・・」

 幸福だとはお世辞にも言えない答えにクリスは、哀れな視線を幼馴染に送る。
胸を痛め、数秒が経過した頃、何かを決意したように真面目な表情を繕い

「ねえ?もしも・・・・・・もしもだよ?君が嫌じゃなかったら、僕と一緒に来ないかい?」

 フィオナは、はっ!と顔を上げ、冗談を思わせないクリスを黙視した。
少しの間、絶句した後、告げられた事を聞き返す。

「私が・・・・・・クリスと?」

「どんな苦境に直面しても、僕が君を守るから。絶対に傷一つ負わせないって約束する!」

 フィオナは胸の奥底から歓喜を溢れさせるが

「だけど、私はあなたのように戦えない。体だって弱いし・・・・・・いても、足手まといになるだけじゃ・・・・・・」

「当然、皆は大いに反対にすると思う。でも、君が僕達の一員に加えてもらうよう、必ず説得してみせる」

貧民街の隠れ家にて・・・・・・

 アシュレイは、もう何杯目かも数え切れないほどにアドニスで拾ったテキーラを喉の先へ流し込んでいた。
顔は真っ赤に染まり、普段はきっちりとした面持ちもだらしないものへと堕落している。

「ちょっと、アシュレイ!お酒飲み過ぎ!」

 ヴェロニカが健康に気を遣い、これ以上の飲酒を控えさせる。

「・・・・・・あん?ああ、わりぃわりぃ・・・・・・ヒック!暇だとよ・・・・・・どうしても、酒に手が出ちまうんだよ・・・・・・ウック!」

「アシュレイお兄ちゃん!お酒臭いよ!」

 ミシェルが鼻を塞ぎ、言いたい事を率直に伝え、メルトも連射銃のように文句を浴びせる。

「いい加減にしてよね!アルコールの臭いが部屋に充満して気持ち悪いったらありゃしない!ここで吐いたら、殺すから!」

「へへっ・・・・・・!どうだガキ共?一緒に飲むか・・・・・・?大人のジュースはうめえぞ?・・・・・・ヒック!」

「飲むわけないでしょ!この酔っ払いのオタンコナス!」

 そこへルイスが今にも転んでしまいそうな勢いで駆け込んで来る。

「どうしたんだ神父さん?ファミリーの連中が来たのか?」

 リチャードは冷静なれど、いつでも戦えそうな真剣な面構えで言った。

「ク、クリスさんが!クリスさんが帰って来られました!・・・・・・見知らぬ少女を隣に置いているのです!」

「は?・・・・・・はあ!?」

 アシュレイが高い声でに叫んで、同時に酔いを醒ました。
全員が一斉に席を立ち、真実を確かめようと大勢が我先にと向かい、建物の出入り口はぎゅぎゅうに狭まった。

「ホントだ・・・・・・あのルシェフェルの女の子は誰・・・・・・!?」

 メルトが誰にでもなく聞いて、ミシェルがここに来たばかりの記憶を鮮明に思い出す。

「ひょっとして、あの人がクリスが言っていた知人?」

 リチャードも怒りを通り越し、呆れをも通り越していた。

「あのバカ・・・・・・!本当に危険というものを視野に入れない奴だ!」

「ただいま。遅くなってごめん」

 クリスは深刻に睨んだり、驚いたりしている仲間に対して、怖いほど冷静に帰宅の挨拶を告げた。
リチャードはクリスの肩を掴み、強引に建物の内側へと引きずり込む。

「一体、どういうつもりだ!?このルシェフェルの女は誰だっ!?」

 リリアも今にも殴りかかって来そうな物凄い剣幕で事情を問いただす。

「勝手に部外者を連れて来るなんて、正気の沙汰じゃないわ!こういう軽はずみな行為が命取りに繋がるって、まだ分かんないの!?あなたの頭には脳みそってものがないの!?」

 それでもクリスは沈着な態度を崩さず、一応は反省の意を示した。

「皆が激怒するのは、もっともだ。実際、僕は掟破りよりもたちの悪い事を幾度も繰り返してしまってるんだからね。だけど、この子が決して、組織の迷惑にはならないと保証する」

「・・・・・・して、クリスさん!その方は誰なんですか!?」

 サクラが3人の刺々しい会話に申し訳なさそうに口を挟んだ。

「彼女はフィオナ・ベリーシャ。僕の幼馴染でニューエデンズで暮らしている。妹が生きていた頃は、同じ集落に住んでいた」

 フィオナは沈黙したまま、ただ、一礼の仕草だけをする。
ぶつけようが怒りに更に苛立ちを募らせたリチャードは一度だけ言葉にならない尖った声を上げた。
興奮を鎮めると他の仲間に指図する。

「とりあえず、このルシェフェルを招き入れろ。敵じゃないなら一応、丁重に扱っておけ。クリス!お前は俺と2階に来い!」

 クリスは素直に頷くと階段を上がる前に質問を2つ投げかける。

「そういえば、ステラは?姿が見当たらないんだけど?」

「あいつか!?あいつなら、帰りが遅いお前を探しに行くと言って出て行ったばかりだ!人様に迷惑をかける才能を発揮するのも大概にしてほしいもんだな!」

「なるほど。ちなみにローズの容態はどう?」

 その質問にはリリアが答えた。

「あんたのせいで安静にしているわ!まったく!あんたが持ち帰って来た"お土産"の事を知ったら、きっとローズは失神してしまうでしょうね!」

Re: エターナルウィルダネス ( No.74 )
日時: 2022/05/16 20:48
名前: 死告少女 (ID: FWNZhYRN)

 暗く静寂な夜。ステラは孤独に街中を歩く。
彼はやたらと背後など、あやゆる方向に自然を向けながら、道を進む。
どうやら、尾行されていないかを気にしているようだ。

 やがて、彼は都市部の別々の地区を繋ぐ橋へと差し掛かった。
橋の上には他にも人がいて、ちょうど通路の中心辺りにルシェフェルがいた。
しかし、彼女はルフェーブル・ファミリーの幹部であり、ホテルのバルコニーにいた際、ステラと目が合った少女だ。

 ステラは武器には触れず、声を殺して、ゆっくりと少女に歩み寄る。
もう少しで背中に手が届く範囲まで来て、声をかけようとした矢先

「そんなに恥ずかしがるなよ。後ろにいるのバレバレだぞ?」

 ルシェフェルの少女が先に声を出した。

「・・・・・・ホテルで目が合った時から、どうしても、君に逢いたくなってね」

 そこで少女は初めて振り返る。
唇の端を上へと引きつり、血珀色の目でこちらを見た。そして、言いたかった事を素直に告げた。

「久しぶりだな。ステラ」

 敵であるはずの少女に名を呼ばれ、ステラは恥ずかしそうに頬を赤く染める。
照れた時に表れる紫色の瞳を隠そうとするが、少女には誤魔化しは効かず、薄笑いをさせてしまう。

「相変わらずだな。お前の瞳はどんな時でも嘘がつけない」

「"ヒューイ"こそ、強気な性格もちっとも変わってない。可愛い顔も精悍な目つきも、あの時の頃と全く一緒だ」

「ありがとうな。この広い大陸で私を褒めてくれるのは、お前だけだ」

 ステラはヒューイと呼んだ少女を隣に橋の柵に寄りかかる。
それからはしばらく、2人で夜の都会の景色を黄昏た。

「君との再会は何年ぶりだろう?僕がいなくて、寂しかった?」

 ステラが聞いて、ヒューイが過去を懐かしむ。

「ああ、私とお前はいつも一緒だった。そんなある日、お前が突然、軍に入るんだとか言い出して私の前から姿を消した。だから、私も故郷を離れて後を追ったんだ」

「あれから随分と月日が流れた今でも、まだ、怒ってる?僕が君を置き去りにしてしまった事・・・・・・」

「まあな。お前がいない日常を受け入れ切れなくて、いつも泣きじゃくってたんだぞ?毎日が苦しかったんだからな?"ごめんなさい"くらい言えよな?」

 ステラに反論の余地はなかった。罪の意識に苛まれた表情を俯かせ、過ちを悔いる。

「その・・・・・・ごめんね?ずっと、1人ぼっちにさせてしまって・・・・・・」

「へへん。そういうとこもだ。昔から私の困った顔には、めっぽう弱いなんだな。いいだろう。許してやるよ」

 ヒューイはにっかりと微笑むと、拳を軽くステラの肩にぶつけた。
途切れる事なく、2人の会話は続く。

「奇跡と言えるくらいの再会だよな?ていうかさ?何で、この街にいたんだ?お仲間も何人か連れてたみたいだが?」

「僕?ああ・・・・・・僕は傭兵関連の仕事でニューエデンズ来たんだ。報酬の額がかなりよかったからね」

 ステラの瞳が緑色に染まり、嫌でも偽証を証明してしまう。

「目は違うと言ってるぞ?まあいい。私も知られたくない秘密を余計に詮索する気はない。まあとにかく、お前の元気にやってるって知って安心した」

「僕も逞しく成長したヒューイを誇りに思うよ。でも、君こそどうしてルフェーブル・ファミリーの幹部に?」

「こっちも秘密だ。お前が隠し事の中身を明かすなら、教えてやってもいいんだけどな?」

「あはは・・・・・・こりゃ、まいった。君には敵わないな」

 完全なまでにお手上げ状態のステラが苦笑し、彼自身も理由を追求する事はなかった。

「なあ?」

「ん?」

「お前も私達に加わる気はないか?こっちは快適だぞ?金も仲間も好きなだけ手に入るし、差別や迫害に苦しむ事もないんだ。お前なら、きっと有能な兵士になれる」

 ヒューイはステラを勧誘し、ルフェーブル・ファミリーの一員になる事を提案した。
彼女は思い通りに事が運ぶのだろうと期待していたが、その願望はことごとく裏切られる。

「僕もできる事なら君と一緒にいたいし、今まで会えなかった分、色々と関わり合いたい・・・・・・でも、その誘いには頷けない」

「はあ!?何でだよ!?私の事が嫌いになったとか・・・・・・!?」

「ち、違うよ!誓って、それはない!・・・・・・ただ、僕には今の仲間達と一緒に成し遂げなければいけない大仕事があるんだ・・・・・・だから、一緒にはいけない・・・・・・」

「どうしても・・・・・・か?」

「本音を言えば、嬉しくてたまらないよ。だけど、僕だって絶対に背く事ができない使命と向き合ってるんだ」

 否定が覆されない返答の連続にヒューイ実に残念そうな面持ちを繕っていたが、やがては無理に納得の意を示した。

「また、私の前からいなくなってしまうんだな?あの時と同じように・・・・・・仕方ないか・・・・・・私達はもう大人だし、それぞれの人生があるわけだしな・・・・・・」

 ステラは再び謝ろうと、口を開こうとした。
しかし、またしても先を越され、喋る機会を奪われてしまう。

「もし気が変わったら、いつでも会いに来てくれよな?私には、お前しかいないんだ。喜んで出迎えてやるぞ」

 それがヒューイにとっての別れの挨拶だった。
孤独に去って行く寂しそうな背中が遠ざかっていくのをステラは見送る。
発声がままならず、口の動きだけで二度目の謝罪を告げて。


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