二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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{Fate}異端者は槍を構え運命を笑う{短篇集}
日時: 2016/01/13 09:18
名前: 明星陽炎 (ID: RGCZI60V)

初めましてないしはお久しぶりです!
この作品はFateシリーズの二次創作SS集です。Fate好き増えて下さい。

以下、この作品に登場するオリキャラ達。


無銘ムメイ/異端者シリーズ/本作メインシリーズキャラ。
ななし(七紙新)/しにたがりのななしさん/無銘の派生キャラ。
リュムール(噂屋)/腐れ外道と厭世作家/腐れ外道な情報屋。
七紙時雨/人間未満と亡霊/鉄パイプ系微少女。


どのキャラもルーを入れ過ぎて溶け残った塊が浮いているカレー並に濃ゆいです。


>>83 「FGO風ステータステンプレート」 ご自由にお使いください

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Re: 異端者は槍を構え運命を笑う ( No.10 )
日時: 2013/04/29 23:20
名前: 明星陽炎 (ID: EM5V5iBd)

ちょっとした気分転換に、ifストーリーを上げてみる。
無銘の本名募集中です…ww


すれ違った誰かに感じた妙な既視感に、青年は振り返った。視線の先にちらつく少女は何処にでもいそうななんでもない少女だったが、束ねられた長い髪の色は黒く、猫のような瞳は死んでいなくて。何故だろうか、何もおかしなことはないのに、青年—エミヤは違和感を感じた。

【Fate/Another】

「すまない、道を聞きたいんだが」
呼び止めた声に、黒髪の少女は振り返った。
黒いタンクトップの上に羽織った白い上着が揺れる。それが妙に現実離れしていて珍しい/懐かしい。
「道、ですか?」
きょとん、目を見開いて首を傾げる姿は成程、あざとい。普通ならば計算ずくの動きなのだろうが、彼女がやると不思議とそういう風には見えないのだから驚きだ。というか何故だろう、彼女はそんなことに頭を使うくらいなら今日の夕飯に何が出されるのかでも考えていそうな気がしてならない。失礼なのは重々承知で。
…思考が逸れた。義父の手伝いで中東を転々としていたせいか浅黒く焼けた肌と、生まれつき白い髪を珍しそうに見つめる少女に視線を戻す。
「ああ、久し振りに冬木に帰ってきたのだが道に迷ってしまってね…」
苦笑を溢すと、少女は「まあこの辺随分変わりましたしねー」と微笑んで、指し示した住所の方向を指差した。
と、背中から聞こえた懐かしい声。
「□□ー!」
「うおっ、え、衛宮!?」
驚いたような声を上げた少女の視線の先には、赤毛の隙間から琥珀の瞳を覗かせた少年。
衛宮と呼ばれた少年はその琥珀を吊り上げて少女を睨む。
「ったく、何度も呼んでただろ…あれ、兄貴」
「久し振りだな、士郎。相変わらず騒々しい」
見下ろしてやればムッとしたらしくその鋭い視線をエミヤに向ける士郎。
「煩い。帰ってきてたのか」
「先程な。…切嗣もだ」
「じーさんが?」
養父の名を出すと士郎の瞳が微かに輝く。憧れの人でもあるからか、嬉しそうに見えたのは多分気のせいではない。やれやれと肩を竦めながらところで、とエミヤは口を開く。
「お前はその少女に用事があったのではないかね?」
「あっ…そうだった、□□!弁当箱忘れてるぞ」
「えあ、ありがと…ってか衛宮、その人と知り合いなのか?」
きょときょととエミヤと士郎を見比べる少女。確かに、エミヤと士郎は正直あまり似ていない。近頃肌が焼けてきたので余計にだろう。尤も、逆立てた髪を下ろすと途端童顔になり若干似てくるとは知っていたがあえてそれをやって見せるつもりはなかった。
「ああ、俺の兄貴…というか兄貴はどうして□□と一緒にいたんだ?」
少女の問いに答えた士郎が今度はエミヤに問いを投げ掛ける。
「なに、少し道を訊ねただけさ。…士郎の知り合いだとは気付かなかったがね」
「あ、はい。衛宮のクラスメイトの□□といいます」
エミヤが向けた視線に、へらりと笑った少女は自らの名を名乗った。聞き覚えのない名ではあったが、何故か彼女がその名を自分の名だと言ったことが、何の影も潜めない無邪気な微笑みが、エミヤの心のささくれに引っ掛かっていた何かを融かしたのは確かなようで。

「…ああ、宜しく頼む」
自然と、エミヤも微笑んでいた。





(有り得ない筈の、何処にでもある平穏)
(『正義の味方』ではない彼と)
(『無銘の異端者』ではない彼女の)
(望んだ素敵な『夢物語』)

Re: 異端者は槍を構え運命を笑う ( No.11 )
日時: 2013/05/20 17:30
名前: 明星陽炎 (ID: 2PmCSfE.)

キャラ設定をWikipedia風に
無銘
身長:161cm
体重:58kg
スリーサイズ:B85・W60・H80
誕生日:不明
血液型:不明
イメージカラー:銀
好きな物:食事、ゲーム、悪戯、友人
嫌いな物:鬱陶しい相手、恋愛
趣味:料理
属性:混沌・中立
パラメータ
筋力:A
耐久:C
敏捷:A+
魔力:B
幸運:E
宝具:EX
※ステータス、好物などは遠坂凛に召喚された場合のもの。

概容
クラスは『ヘレシー』。イレギュラークラスであり、本来ならばサーヴァントとして召喚されない筈の英霊。人類の守護者として阿耶式(通称アラヤ)の一部を切り離した端末にして文明ひいては人類の象徴である。銀髪に金色の瞳、セミロングヘアを無造作に束ねた色白の美少女の姿を取っている。また能力は総じて高く、白兵戦に持ち込めばほぼ無敵と言っても過言ではないが自他ともに認める不運の為、何かしら失敗をおかしては危機に陥る(その為エミヤからは「死に至る不運」等と評されている)。

性格
マスターや周囲にいる存在によって大幅に性格が変化するスキル『人格偽証』を持つので『本体』と言える性格が存在せず、食事や悪戯が好きな子供じみた性格から猟奇的な快楽殺人者のような狂人的な性格まで様々に変化する。しかしカキコにおける主人格としては対エミヤのものとなっているので此処で上げる性格はそれ。
この性格の場合、気に入った相手に悪戯をしそれにかかった相手の慌てる様を見るのが好きという非常に子供っぽい性格である(被害者はエミヤやクー、ギルガメッシュなど)。また食事が好きで、特にエミヤの作る料理を好む(しかしエミヤの過去存在に相当する士郎の料理は「なんか違う」と切り捨てた)。ちなみにイメージカラーは銀であるが本人の好きな色は紅であったり、悪戯を仕掛けこそするものの本気で困るような事はせず、時に彼を馬鹿にする相手にえげつない攻撃を仕掛ける所などからエミヤが大好きな事が伺える(が、恋愛的な意味ではなくあくまで友人というか身内的な意味である)。しかしそういった言動に反し、一度敵と判断すると容赦なく攻撃を仕掛け、相手を仕留めるまで執拗に狙い続けるなど冷酷な一面もある。

趣味思考
趣味は前述の通り料理。得意料理は麻婆豆腐で腕前は上の中程度らしいが何故か冬木にある中華料理店『泰山』の激辛麻婆豆腐や、ロシアンルーレットチョコレート(一口サイズのチョコの中に一つだけハバネロを練り込んでいる)など罰ゲーム要素の強い料理を作り出しては笑顔で試食させる(被害者はクー、ギルガメッシュで二人からは「悪魔の笑顔」と称されている)。また元になった『誰か』の名残かゲームや漫画が大好きで、ゲームセンターで音ゲーに夢中になっていた(その様子を見た士郎曰く「まるで歴戦の戦士であるかのような堂々としたプレイ姿」)り、漫画のキャラクターが使用していた武器をスキル『武器生成』を活用して作り出していたり(凛には「スキルの無駄遣い此処に極まれりね」と言われている)する。

宝具
宝具は『造り出された幻想』(ファンタズムメイカー)。 自身が思い描いたものを自在に作り出す事が可能。真名『固有結界:幻想風景・総合無意識』を解放する事により『自身の想像する全てを現実化させる空間』を造りだす事ができる。
ちなみに『造り出された幻想』はエミヤシロウの使う投影と良く似ているが能力としては全くの別物。あくまで「想像した物質を現実化」する能力である為、複製品ではなく全く新しいものとして認識される。

Re: 異端者は槍を構え運命を笑う ( No.12 )
日時: 2013/05/24 18:14
名前: 明星陽炎 (ID: 0bGerSqz)

その日何があったかと言えば、いや何か常と変わった事など全くといって遜色ないほどありはせず、ただそれでもその明らかな異常が唐突に訪れた事だけは何を言い訳するでもなく紛れもない事実であるのだ。

光の御子の逞しい体躯を踏みつけ、英雄王の金糸の髪を遠慮など微塵もなく引く一人の幼子。
年の頃は小学生…否、もう少し下か。きゃっきゃっと無邪気に笑いながら、端から見れば邪気に溢れた行為を遂行する彼女に残念ながらエミヤには見覚えがあった。
…いや正確に言うならば、その幼子が成長し女性と呼んで遜色ない存在になった姿をエミヤは知っている。それこそ嫌と云うほど。
「無銘…?」
異端者の名を持ち、某掲示板では銀色と呼ばれる彼女の本来の名を呼ぶとやはりというか反応を示す幼子。きょとんと顔を上げ視界にエミヤを捉えるや否や何処か薄暗く淀んでいた瞳が遠目からでも分かるほどに輝きだし子供特有の高い声がエミヤに投げられる。
「かーちゃんっ!」
とたたたと音だけは可愛らしく、実際はその高い敏捷に偽りなく猛スピードで飛び込んできたその小さな体を受け止めて、発された意味の分からない…と言うか理解したくない発言を聞き流す。
「何があったのかね…」
「わっかんなーい!」
きゃらきゃらと笑いながらエミヤの硬質の白い髪をつんつんとつつくヘレシー…無銘。その笑顔は、もともと作りが整っているだけあり可愛いのだが如何せん後ろで死にそうな表情になっている英霊達を見ると一概に可愛いとだけは言えない。何をしでかしたのか訊けない、訊きたくない。
「やっと…来てくれたかアーチャー…!」
彼らしくもなく、憔悴しきった声でエミヤを呼ぶ光の御子、クー・フーリン。前回会ってから一日も経っていないが何故だろう、一気にやつれた気がする。多分気のせいではない。
「その子雑種…可愛らしいのは外見だけよ…」
項垂れて顔すら上げない英雄王、ギルガメッシュ。普段の剛健不遜も彼方にぶっ飛びもうただただ疲れきったその表情にエミヤは思わず手を合わせたくなった。普段は馬の合わない相手だが今回ばかりは同情したい。
「なさけねーの、だいのおとながー!」とけらけら笑う小悪魔相手ではケルトの英雄も最古の英霊も形無しである。仕方ないと言えば仕方ない(何せ相手は異端と書いてチートと読む能力の持ち主である)のだがなんと言うか、その、哀れだ。

「とりあえず何がどうなってこうなったのか詳しく説明を求めたい」

その一言に終始ニヤニヤしながら遠巻きに眺めていた言峰がゆっくりと立ち上がりながらエミヤに近づいてくる。それを確認しエミヤの腕の中から抜け出した無銘はもぞもぞと言峰の背中を這い上がるとその肩に手をかけてひょっこりと顔を覗かせていたが、それをまるで猫でも構うかのように首根っこを掴み最終的に片手抱きした彼は懐かれているのが満更でもないらしく長い襟足を弄る無銘を一度だけ撫でた。
それを気に入ったのかごろごろと猫のように甘える少女を珍しく優しくあやしつつ、エミヤをその淀みきって沈んだ漆黒を溶かした闇色の瞳で捉える彼の神父。通報物件だな、と思考の隅で考えたエミヤは疲れているのかも知れない。
「時を操る魔術が存在することを知っているか?」
さて、一方の言峰はエミヤのそんな視線に気付いているのかいないのか、うっすらと口許に笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。流石に悪どい表情だが、幼女を片手に抱いた姿ではなんかこう、締まらない。さておき、首を振り否定をしたエミヤに向かい、一種の神の領域、だがしかしそれは実在する…と嫌に愉しげに呟く言峰。エミヤは知らない。彼の養父がその魔術を使用していたことを。
とはいえ今のその騒動のはかのじーさんに関係など一切ない。寧ろあったら怖い。
「いや、正確には違うのだがね。しかし似て非なる魔術、それによって彼女の時は逆行した…そう言えば答えとしては一番近いのだろう」
くつくつと笑う言峰の顔をきょとんと見上げ「まじゅつー?」と首を傾げた無銘を取り敢えず言峰の腕から奪い、エミヤは「回りくどい話はいい、要は誰が何をしてこうなった」と簡潔な解答を要求する。
つまらん、そう言わんばかりの空気を纏いつつそれでも素直に口を開いた言峰。
「キャスターの魔術に巻き込まれたらしい」
エミヤに抱きあげられた無銘がずり落ちないようエミヤの首筋を抱き締めて自分の体を支えている姿を羨ましそうに見やる神父にお前誰だと問いたくなったとは英雄王が後日語ったところによる。

結局そのまま教会を離れた二人。いつまでも其処に居るわけには当然いかない、かつ英霊達のSAN値がマッハだった。精神年齢こそ肉体に引っ張られてか幼くなってはいるが中身は言う迄もなく愉悦覚醒済みのチート異端、何故か被害に合わない言峰以外は御愁傷である。

何故か被害に合わない、はどうやらエミヤにも当てはまっているらしい。
エミヤの腕の中でうつらうつらと船を漕ぐ幼子は彼の私服をぎゅむりと掴み離そうとしない。皺になるのだが、と少し思いはしたが恐らく口にしたところで今の彼女には何ら意味はなかろうと声に出すのは諦めた。
「キャスターの話では明後日には元に戻るようだから今夜から明日は我慢してくれたまえ」
代わりにと言うのも可笑しな話ではあるが寝ぼけ眼でエミヤを見つめる幼子に言い聞かせるようにそう伝えると、ふにゃりとした表情で頷く無銘。これは聞いていないなと肩を竦めたエミヤの首を抱く細くて小さな腕。
「?無銘、眠るのか?」
「んーん、あんね」
ほにゃほにゃと今にも意識を落としそうな甘い声でゆっくりと言葉を紡ぐ。
「エミヤがね、わたしのなかまでよかったなーって」
きゅう、と首に回された腕に力が入ったのが分かる。しかし彼女の意識が今にも落ちそうな事、それでなくてもやはり子供の姿では自慢の筋力も発揮できていないのか、エミヤが苦しいと感じることはない。
「エミヤがともだちでよかった、わたしのあいぼうがエミヤでよかった。あんね、エミヤ」

沈む直前の意識をムリヤリ浮上させながら、異端者は笑うのだ

私、エミヤのこと大好きだわ
(後日、元に戻った無銘は丸一日部屋に引きこもったという)

Re: 異端者は槍を構え運命を笑う ( No.13 )
日時: 2013/06/24 17:46
名前: 明星陽炎 (ID: II6slNHe)

無銘で替歌
『紅蓮の弓矢』

踏まれた命 言葉も知らずに
地に堕ちた鳥は 人を嘲笑う
祈ったところで 誰も答えない
今を生きるのは 誰のためなのか

屍踏み越えて 願う 夢を 嗤う 神よ
架空の安寧 空虚の繁栄 死せる希望の言葉を!

宛がわれたこの絶望 惨劇の恐怖か
絢爛のその裏で 獲物を屠る異端者
降り積もる砂の上 その身を灼きながら
暁天に慟哭する 白銀の槍を

まだCDが発売されてないのでアニメ版歌詞です。

Re: 異端者は槍を構え運命を笑う ( No.14 )
日時: 2013/06/27 15:26
名前: 明星陽炎 (ID: o1hCwV2S)

——それは世界を救った物語。
                     そして、誰も救われない物語。——


「Create—— (創造せよ——)」
「First process——clear(第一工程——完了)」
「Next(次いで)」
「Second process and Third process——(第二工程並びに第三工程——)」
「clear(完了)」
「Final process——(最終工程——)」
「All clear(完了)」
「System,all green(構築、異常なし)」
「Deployment start(展開開始)」 

ごうごうと響く音と焔の中でその詠唱だけがはっきりと誰の耳にも届いた。
男か女かも判別できない、中性的な声でうたうように紡がれる声が、まるでそれだけが脳裏に直接響くかのように聞こえてきた。
「…異端者…!」
「…なっ!?」
声の主の正体に気付いたのは、皮肉にもこの現実を引き起こした張本人、声の主と対のように金の色を纏う王。眉根をひそめ、苦々しく呟かれた名に、紅の弓兵は鋼色の瞳を見開いて。
その存在の名を呼ぼうとして——言葉に詰まる。

「"幻想風景:総合無意識"(ファンタズムメーカー)!!」

聖杯から溢れ出した泥を前に、叫ぶように詠唱を終えた銀の異端者——人類の総合無意識の端末を呼ぶための『名』が無いことに、彼——エミヤシロウは、今更気付いたのだった。


…小聖杯として、聖杯の中に取り込まれた少女の目の前に広がるのは、阿鼻叫喚の町でも焔に包まれる空でもなく、ただひたすらに赤い荒野。
「…これは…固有結界…?」
「ご明察です、マキリの杯」
唐突に響いた声、これだけの固有結界を張り、あまつさえ魔力の奔流である聖杯すら取り込めるだけの強力な英霊。声の主にはすぐに思い当たった。
「十年前の災害は見逃した癖に、どうして私の邪魔をするんですか?『人類の総合無意識』(あらやしき)」
「そりゃあ、『私』(よくしりょく)が動く理由なんてひとつだけですよ」
へらりと笑う銀色が、少女——否、『七天の聖杯』(セブンスフィール・アートグラフ)の前に降り立つ。
「『七天の聖杯』。貴方は『人類の敵』に認定されました。さぞかし不服でしょうが…」

おとなしく、こわれてください。

金色の瞳が少女の形をした聖杯を捉える。
彼女は攻撃を仕掛けようとして——動けないことに気付いた。
砂が、絡み付くように少女の細い足首にまとわりついて離れない。
「無駄ですよ。此処は『私のなか』ですから」
にっこりと笑って、異端者は少女に掌を翳す。
「Structural analysis—(構造分析—)」
「Understanding.(理解)」

「っ、何を…」
抵抗しながら呻くように呟かれた声に、異端者は金色の瞳を細めて寂しそうに応える。
「私の…人類の総合無意識ではない、ただの無銘の、情けです。『間桐桜』」
「…!」
呼ばれた少女自身の名に、何が起きるかを理解して息を呑む。

「Decomposition(分解)」
「Separation(分離)」
「Reconstruction(再構築)」

異端者は微笑む。少女の体内から分断された強大な魔力の塊に手を伸ばして、祝福するように、優しく、『桜』に微笑みかける。

「… Absorption(吸収)」
その声と同時に魔力の塊が地面に溶けて……硝子の割れるような音と共に固有結界が霧散する。
「ヘレシー…っ!」
桜の慟哭が、天を裂いた。


白銀の礼装は今や黒く濁り、銀の髪の隙間から光のない金色の瞳が除く。
「…む、めい」
すがるような震える声で、彼は彼女を呼ぶ。
「何を、しているんだ…」
感情のこもらない冷たい金色が、エミヤを捉えて。うっそりと瞳を細めた。
「何を泣きそうな顔をしているんです?アーチャー…いや、エミヤシロウ」
紡ぎ出された声が余りにもいつも通りで、まるで何もなかったかのようで、エミヤは咆哮する。
「っ、君は!自分が何をしたのか理解しているのか!!」
「馬鹿にしないで下さいよ。そんくらい理解できない訳ないでしょう」
呆れたように呟く目の前の銀色。ああ、その様が酷く…憎らしい。
「だったら!何でそんなに平然としてられるんだ!!」
隣で立ち竦んでいた嘗ての己—衛宮士郎が叫ぶ。それすら意に介してはいないのか、銀の異端者はやれやれと肩を竦めた。
「んじゃあ何ですか?私が我を忘れて暴れでもすりゃあ良いんですか?言っちゃあなんですけど、アンタ等死にますよ??」
「そうは言っていません!!」
セイバー…アルトリアが絶叫する。
「貴女はっ!どうしてそう無茶を!!」
「無茶?違いますよ、これは『最善の策』だ」
アルトリアの言葉を鼻で笑い、異端者はマスター達を見下ろして。
「セイバー、アルトリア。貴女は王でしたよね?だったら最善の策位考えつかない訳がないでしょう?」
「…これが、その『最善』だとでも言うつもり…?」
エミヤを従える赤い少女—遠坂凛が、苛烈にその青い瞳を光らせる。それを愉快そうに視線で射ると、彼女は金色の瞳をぎらりと獰猛に光らせて。

「よもや今更、私を殺さずに全てを救おうだなんて甘い考えをお持ちではありませんよね?」
「今の私は『この世全ての悪』なのですよ?」
「迷うな」
「殺せ」
「それも出来ないで——正義の味方など」
「笑わせるなよ、未熟者どもが」

吐き捨てて。

「死ぬも生きるも最早ありません。私は異端者だ。運悪く英雄という一般人には重すぎる冠を被せられたただの『何処かの誰か』 だ。最早私は誰でもなく、故に誰でもあれるただの名無しだ。理解したら剣を抜け、弓を射ろ。勝ちたいなら、救いたいなら——生きたいなら」

異端者は、泣いた。

「——ヘレシー。それがアンタの願いなのね?」
凛が静かに問い掛ける。
「…はい」
「なら…もう私は何も言わない。全身全霊をもって…アンタを倒すわ」
頷いた彼女を見据えて、彼女は低く言う。
「遠坂!?」
「凛!何を、」
「黙りなさい!」
反発しようと声をあげたエミヤと士郎を一喝し、赤を纏う魔術師はガントを構える。
「…リン、手伝います」
その傍らに立ち、騎士王が自らの宝具を構える。
その段になってようやく、彼等は気付く。赤い少女の瞳に、涙が溜まっていたことに。
「…アーチャー」
「なにも言うな小僧。理解している」
「「Trace on——(投影開始)!」」
少年と正義の味方は立ち上がる。その手に揃いの夫婦剣を手に。

「それで、いい」

異端者は笑う。彼等の決意の刃を向けられて。



その日世界は救われた。
聖杯を汚染していた『この世全ての悪』は完全に消滅し、一人の少女の手によって戦争に終止符が打たれることになった。
誰かであった、誰でもない存在は消えて。
少女の心に後悔を、少年の心に傷を、剣士の魂に痛みを、青年の願いに亀裂を与えて。
結局、この世界は誰も救われなど、しなかった。


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